IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジの特許一覧

<>
  • 特許-多重RNA誘導型ゲノム編集 図1
  • 特許-多重RNA誘導型ゲノム編集 図2
  • 特許-多重RNA誘導型ゲノム編集 図3
  • 特許-多重RNA誘導型ゲノム編集 図4
  • 特許-多重RNA誘導型ゲノム編集 図5A
  • 特許-多重RNA誘導型ゲノム編集 図5B
  • 特許-多重RNA誘導型ゲノム編集 図6A
  • 特許-多重RNA誘導型ゲノム編集 図6B
  • 特許-多重RNA誘導型ゲノム編集 図6C
  • 特許-多重RNA誘導型ゲノム編集 図7
  • 特許-多重RNA誘導型ゲノム編集 図8A
  • 特許-多重RNA誘導型ゲノム編集 図8B
  • 特許-多重RNA誘導型ゲノム編集 図8C
  • 特許-多重RNA誘導型ゲノム編集 図8D
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】多重RNA誘導型ゲノム編集
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20221227BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20221227BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20221227BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/63 Z
【請求項の数】 9
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019238862
(22)【出願日】2019-12-27
(62)【分割の表示】P 2016525411の分割
【原出願日】2014-07-08
(65)【公開番号】P2020062044
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2020-01-21
(31)【優先権主張番号】61/844,168
(32)【優先日】2013-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507044516
【氏名又は名称】プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】チャーチ、 ジョージ、 エム.
(72)【発明者】
【氏名】ディカーロ、 ジェームス
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0052646(US,A1)
【文献】特開2010-131014(JP,A)
【文献】特表2013-520989(JP,A)
【文献】Nucleic Acids Res.,2013年03月04日,Vol.41, No.7,pp.4336-4343
【文献】Science,2013年02月15日,Vol.339,pp.823-826, Supplementary Materials
【文献】Science,Vol.339,2013年02月15日,pp.819-823, Supplementary Materials
【文献】Nature Biotechnol.,2013年01月29日,Vol.31,pp.233-241
【文献】Nature,2009年,Vol.460,pp.894-898,METHODS
【文献】Cell, 2013年5月9日, vol.153, pp.910-918
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的DNAに相補的なガイドRNAと共局在複合体を形成し、且つ前記標的DNAを部位特異的に切断するCas9酵素を発現する細胞においてDNAに外来性核酸配列を多重挿入するインビトロ又はエクスビボの方法であって、
(a)複数種類のガイドRNAおよび複数種類の外来性ドナー核酸配列を前記細胞に導入すること、ここで、前記Cas9酵素により前記DNAが切断されて切断部位が形成され、該切断部位に前記複数種類の外来性ドナー核酸配列のうちの1つが挿入され、前記細胞は真核細胞である、および、
(b)ステップ(a)を繰り返して前記細胞において前記DNAに複数の外来性ドナー核酸配列挿入を生じさせることを含む、方法。
【請求項2】
前記細胞が、酵母細胞、植物細胞、または動物細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ガイドRNAが、tracrRNA-crRNA融合体である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記標的DNAが、ゲノムDNA、ミトコンドリアDNA、ウイルスDNA、または外来性DNAである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記外来性ドナー核酸配列が、組換えにより挿入される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記外来性ドナー核酸配列が、相同組換えにより挿入される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記複数種類のガイドRNA及び前記複数種類の外来性ドナー核酸配列が、1つ又は複数のプラスミド上に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記外来性ドナー核酸配列が前記切断部位の両側に隣接する相同配列またはアームを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記外来性ドナー核酸配列が前記切断部位を除去するための配列を含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願データ
本願は、2013年7月9日に提出された米国仮特許出願第61/844168号に基づく優先権を主張するものであり、あらゆる目的のため、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
【0002】
政府の利益の説明
本発明は、米国エネルギー省助成金番号DE-FG02-02ER63445、全米科学財団助成金番号NSF-SynBERC、および全米科学財団助成金番号SA5283-11210の国庫助成により行われた。米国政府は本発明に関して一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
細菌および古細菌のCRISPR-Casシステムは、Casタンパク質と複合体を形成した短鎖ガイドRNAに依存して、侵入する外来核酸中に存在する相補配列を分解する。Deltcheva, E. et al. CRISPR RNA maturation by trans-encoded small RNA and host factor RNase III. Nature 471, 602-607 (2011); Gasiunas, G., Barrangou, R., Horvath, P. & Siksnys, V. Cas9-crRNA ribonucleoprotein complex mediates specific DNA cleavage for adaptive immunity in bacteria. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 109, E2579-2586 (2012); Jinek, M. et al. A programmable dual-RNA-guided DNA endonuclease in adaptive bacterial immunity. Science 337, 816-821 (2012); Sapranauskas, R. et al. The Streptococcus thermophilus CRISPR/Cas system provides immunity in Escherichia coli. Nucleic acids research 39, 9275-9282 (2011);およびBhaya, D., Davison, M. & Barrangou, R. CRISPR-Cas systems in bacteria and archaea: versatile small RNAs for adaptive defense and regulation. Annual review of genetics 45, 273-297 (2011)を参照されたい。近年、ストレプトコッカス・ピオゲネス(S. pyogenes)のII型CRISPRシステムのインビトロ再構成により、通常はトランスにコードされるtracrRNA(「トランス活性化型CRISPR RNA」)と融合したcrRNA(「CRISPR RNA」)が、そのcrRNAに一致する標的DNA配列をCas9タンパク質に配列特異的に切断させるのに十分であることが実証された。標的部位に相同なgRNAの発現により、Cas9が動員され、標的DNAが分解される。H. Deveau et al, Phage response to CRISPR-encoded resistance in Streptococcus thermophilus. Journal of Bacteriology 190, 1390 (Feb, 2008)を参照されたい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の態様は、ヌクレアーゼ活性を有するDNA結合タンパク質など、細胞によって発現されるヌクレアーゼ活性を有する酵素を、DNA(デオキシリボ核酸)上の標的位置に導くための1種類または複数種類のガイドRNA(リボ核酸)を用いる、細胞におけるDNAの多重改変(multiplex modification)に関し、酵素によりDNAが切断され、相同組換えなどにより外来性ドナー核酸がこのDNAに挿入される。本開示の態様は、細胞についてDNA改変のステップを繰り返して、または反復して、細胞内に複数のDNA改変を有する細胞を作成することを含む。改変には、外来性ドナー核酸の挿入が含まれ得る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
外来性核酸の多重挿入は、複数のRNAをコードする核酸および複数の外来性ドナー核酸を、同時形質転換などにより、酵素を発現する細胞に導入する単一のステップによって達成することができる。このステップにおいて、RNAが発現し、複数種類のRNAのそれぞれにより酵素がDNAの特定部位にガイドされ、酵素によりDNAが切断され、複数種類の外来性核酸のうちの1種類がこのDNAの切断部位に挿入される。この態様によれば、細胞中のDNAに多くの変化または改変が単一サイクルで生じる。
【0006】
外来性核酸の多重挿入は、1種類以上または複数種類のRNAをコードする1種類または複数種類の核酸、および1種類以上または複数種類の外来性核酸を、酵素を発現する細胞に導入する反復ステップまたはサイクルによって細胞において達成することができる。このステップまたはサイクルにおいては、RNAが発現し、酵素がDNAの特定部位にガイドされ、酵素によりDNAが切断され、外来性核酸がこのDNAの切断部位に挿入され、その結果、細胞内のDNA中に変化または外来性DNAの挿入を複数有する細胞が得られる。ある態様によれば、酵素を発現する細胞は、天然に酵素を発現する細胞であってもよく、酵素をコードし且つ細胞によって発現され得る核酸を細胞に導入することなどにより、酵素を発現するように遺伝子的に変化させた細胞であってもよい。このようにして、本開示の態様は、酵素を発現する細胞にRNAを導入し、外来性ドナー核酸をこの細胞に導入し、RNAが発現し、RNA、酵素、およびDNAの共局在複合体が形成され、酵素によりこのDNAが酵素的に切断され、ドナー核酸がこのDNAに挿入されるステップの繰り返しを含む。上記ステップの繰り返しまたは反復により、複数の座位での細胞の多重遺伝子改変をもたらし、すなわち、遺伝子変化を複数有する細胞が得られる。
【0007】
ある態様によれば、上記繰り返し方法により相同組換え率を上昇させる方法が提供される。ある実施形態によれば、Cas9依存性ゲノムDNA切断により、相同組換え率が劇的に上昇して外来性DNAが刺激される。別の態様によれば、外来性ドナー核酸には、切断部位に隣接する相同配列またはアームが含まれる。別の態様によれば、外来性ドナー核酸には、切断配列を除去するための配列が含まれる。別の態様によれば、外来性ドナー核酸には、切断部位に隣接する相同配列またはアーム、および切断部位を除去するための配列が含まれる。このようにして、外来性ドナーDNAを取り込まない細胞に対する負の選択(negative selection)としてCas9を用いることができる。したがって、組換え頻度が高い細胞を同定するための負の選択方法が提供される。
【0008】
ある態様によれば、本開示の範囲に含まれるDNA結合タンパク質または酵素には、ガイドRNAと複合体を形成するタンパク質が含まれ、ガイドRNAは複合体を二本鎖DNA配列にガイドし、ここで複合体はDNA配列に結合する。ある態様によれば、酵素は、DNAに結合し且つRNAにガイドされるII型CRISPRシステムのRNA誘導型DNA結合タンパク質などの、RNA誘導型DNA結合タンパク質(RNA guided DNA binding protein)であってもよい。ある態様によれば、RNA誘導型DNA結合タンパク質はCas9タンパク質である。
【0009】
本開示のこの態様は、RNAおよびDNA結合タンパク質の二本鎖DNAへの共局在、またはRNAおよびDNA結合タンパク質の二本鎖DNAとの共局在と呼ぶことができる。このようにして、DNA結合タンパク質・ガイドRNA複合体を用いて二本鎖DNAの複数部位を切断して、外来性ドナーDNAの多重挿入などの遺伝子の多重改変を有する細胞を作成することができる。
【0010】
ある態様によれば、標的DNAに相補的なRNAと共局在複合体を形成し且つ前記標的DNAを部位特異的に切断する酵素を発現する細胞において標的DNAに複数の変化を生じさせる方法が提供される。この方法には、(a)標的DNAに相補的であり且つ前記酵素を前記標的DNAにガイドする、1種類または複数種類のRNAをコードする第1の外来核酸を細胞に導入すること、ここで、前記1種類または複数種類のRNAおよび前記酵素が、前記標的DNAへの共局在複合体の構成要素である、1種類または複数種類のドナー核酸配列をコードする第2の外来核酸を前記細胞に導入すること、ここで、前記1種類または複数種類のRNAおよび前記1種類または複数種類のドナー核酸配列が発現し、前記1種類または複数種類のRNAおよび前記酵素が前記標的DNAに共局在し、前記酵素により前記標的DNAが切断され、前記ドナー核酸が前記標的DNAに挿入されて、前記細胞中に変化したDNAが生成するステップ、およびステップ(a)を複数回繰り返して前記細胞においてDNAに複数の変化を生じさせることが含まれる。
【0011】
ある態様によれば、細胞は、真核細胞である。ある態様によれば、細胞は、酵母細胞、植物細胞、または動物細胞である。ある態様によれば、細胞は、哺乳動物細胞である。
【0012】
ある態様によれば、RNAは約10~約500ヌクレオチドである。ある態様によれば、RNAは約20~約100ヌクレオチドである。
【0013】
ある態様によれば、1種類または複数種類のRNAは、ガイドRNAである。ある態様によれば、1種類または複数種類のRNAは、tracrRNA-crRNA融合体である。
【0014】
ある態様によれば、DNAは、ゲノムDNA、ミトコンドリアDNA、ウイルスDNA、または外来性DNAである。
【0015】
本実施形態の特定の実施形態のその他の特徴および利点は、以下の実施形態およびその図面の説明において、および特許請求の範囲から、さらに十分に明らかになるであろう。
【0016】
本実施形態の上記および他の特徴および利点は、添付されている図面と併せて、以下の例示的な実施形態の詳細な説明から、より十分に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】Cas9を介したRNA誘導型ゲノム切断の模式図である。
図2】Cas9を用いた酵母中での多重ゲノム改変を示す模式図である。
図3】酵母の熱耐性に重要な4つの座位を標的化するオリゴヌクレオチドを用いたアレル置換を示す模式図である。
図4】1サイクル後および2サイクル後の1細胞あたりの改変数を示すグラフである。
図5A】変異を有する株の表である。
図5B】種々の株についての熱ショックに対する熱耐性を示す図である。
図6A】形質転換頻度についてのグラフデータを示す図である。
図6B】個々の組換え頻度についてのグラフデータを示す。
図6C】can1座位およびKanMX座位における同時組換え頻度についてのグラフデータを示す図である。
図7】2つの座位の多重線状カセットの取り込みについてのグラフデータを示す図である。
図8A】30℃での倍加時間の変化倍率についてのグラフデータを示す図である。
図8B】37℃での倍加時間の変化倍率についてのグラフデータを示す図である。
図8C】定常期後期の培養から細胞を播種した、42℃での倍加時間の変化倍率についてのグラフデータを示す図である。
図8D】対数増殖期後期の培養から細胞を播種した、42℃での倍加時間の変化倍率についてのグラフデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示の実施形態は、DNAに共局在して、DNAを消化または切断して相同組換えなどにより外来性DNAを挿入するための、外来性DNAと、DNA結合タンパク質などのヌクレアーゼ酵素と、ガイドRNAとの反復使用に基づく。当業者には、種々の目的のためにDNAに結合させるそのようなDNA結合タンパク質が容易に理解される。そのようなDNA結合タンパク質は天然のものであってよい。本開示の範囲に含まれるDNA結合タンパク質としては、本明細書中でガイドRNAと呼ぶRNAによってガイドされ得るタンパク質が挙げられる。この態様によれば、ガイドRNAおよびRNA誘導型DNA結合タンパク質は、DNAにおいて共局在複合体を形成する。ヌクレアーゼ活性を有するそのようなDNA結合タンパク質は、当業者に公知であり、例えばII型CRISPRシステム中に存在する、Cas9タンパク質などのヌクレアーゼ活性を有する天然のDNA結合タンパク質が挙げられる。そのようなCas9タンパク質およびII型CRISPRシステムは、当該技術分野で十分に裏付けられている。その全体が参照により援用される、全ての追加情報を含む、Makarova et al., Nature Reviews, Microbiology, Vol. 9, June 2011, pp. 467-477を参照されたい。
【0019】
ヌクレアーゼ活性を有する例示的なDNA結合タンパク質は、二本鎖DNAにニックを形成するか、または二本鎖DNAを切断するように機能する。そのようなヌクレアーゼ活性は、ヌクレアーゼ活性を示す1つまたは複数のポリペプチド配列を有するDNA結合タンパク質から生じ得る。そのような例示的なDNA結合タンパク質は、それぞれが二本鎖DNAの特定のストランドを切断すること、またはニックを形成することに関与する、2つの別個のヌクレアーゼドメインを有していてもよい。当業者に知られているヌクレアーゼ活性を有する例示的なポリペプチド配列としては、McrA-HNHヌクレアーゼ関連ドメインおよびRuvC様ヌクレアーゼドメインが挙げられる。したがって、例示的なDNA結合タンパク質は、McrA-HNHヌクレアーゼ関連ドメインおよびRuvC様ヌクレアーゼドメインのうちの1つまたは複数を含む天然タンパク質である。
【0020】
例示的なDNA結合タンパク質は、II型CRISPRシステムのRNA誘導型DNA結合タンパク質である。例示的なDNA結合タンパク質は、Cas9タンパク質である。
【0021】
ストレプトコッカス・ピオゲネス(S. pyogenes)では、Cas9は、タンパク質中の2つの触媒ドメイン、すなわちDNAの相補鎖を切断するHNHドメインおよび非相補鎖を切断するRuvC様ドメインが仲介するプロセスにより、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の3bp上流に平滑末端の二本鎖切断を形成する。その全体が参照により援用されるJinke et al., Science 337, 816-821 (2012)を参照されたい。Cas9タンパク質は、Makarova et al., Nature Reviews, Microbiology, Vol. 9, June 2011, pp. 467-477の補足情報で確認されている以下のものを含む、多数のII型CRISPRシステム中に存在することが知られている。メタノコッカス・マリパルディス(Methanococcus maripaludis)C7株;コリネバクテリウム・ジフテリアエ(Corynebacterium diphtheriae); コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)YS-314株;コリネバクテリウム・グルタニカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032 Kitasato株;コリネバクテリウム・グルタニカム ATCC13032 Bielefeld株;コリネバクテリウム・グルタニカム R株;コリネバクテリウム・クロッペンステッティイ(Corynebacterium kroppenstedtii)DSM44385株;マイコバクテリウム・アブセサス(Mycobacterium abscessus)ATCC19977株;ノカルディア・ファルシニカ(Nocardia farcinica)IFM10152株;ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)PR4株;ロドコッカス・ジョスティイ(Rhodococcus jostii)RHA1株;ロドコッカス・オパカス(Rhodococcus opacus)B4 uid36573株;アシドサーマス・セルロリティカス(Acidothermus cellulolyticus)11B株;アルスロバクター・クロロフェノリカス(Arthrobacter chlorophenolicus)A6株;クリベラ・フラビダ(Kribbella flavida)DSM17836 uid43465株;サーモモノスポラ・カーバタ(Thermomonospora curvata)DSM43183株;ビフィドバクテリウム・デンティウム(Bifidobacterium dentium)Bd1株;ビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum)DJO10A株;スラッキア・ヘリオトリニレデューセンス(Slackia heliotrinireducens)DSM20476株;パーセフォネラ・マリナ(Persephonella marina)EX H1株;バクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis)NCTC9434株;カプノサイトファガ・オクラセア(Capnocytophaga ochracea)DSM7271株;フラボバクテリウム・サイクロフィルム(Flavobacterium psychrophilum)JIP0286株;アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)ATCC BAA835株;ロゼイフレクサス・キャステンホルツィイ(Roseiflexus castenholzii)DSM13941株;ロゼイフレクサス(Roseiflexus)RS1株;シネコシスティス(Synechocystis)PCC6803株;エルシミクロビウム・ミヌトゥム(Elusimicrobium minutum)Pei191株;未培養細菌Termite group1 phylotype Rs D17;フィブロバクター・サクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes)S85株;バチルス・セレウス(Bacillus cereus)ATCC10987株;リステリア・イノキュア(Listeria innocua); ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei);ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)GG株;ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)UCC118株;ストレプトコッカス・アガラクティアエ(Streptococcus agalactiae)A909株;ストレプトコッカス・アガラクティアエ (NEM316株;(Streptococcus agalactiae 2603株;ストレプトコッカス・ディスガテクティアエ亜種エクイシミリス(Streptococcus dysgalactiae equisimilis)GGS124株;ストレプトコッカス・エクイ亜種ズーエピデミカス(Streptococcus equi zooepidemicus)MGCS10565株;(Streptococcus gallolyticus)UCN34 uid46061株;ストレプトコッカス・ゴルドニイ(Streptococcus gordonii Challis subst)CH1株;ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)N2025 uid46353株;ストレプトコッカス・ミュータンス;ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)M1 GAS株;ストレプトコッカス・ピオゲネス MGAS5005;ストレプトコッカス・ピオゲネス MGAS2096株;ストレプトコッカス・ピオゲネス MGAS9429株;ストレプトコッカス・ピオゲネス MGAS10270株;ストレプトコッカス・ピオゲネス MGAS6180株;ストレプトコッカス・ピオゲネス MGAS315株;ストレプトコッカス・ピオゲネス SSI-1;ストレプトコッカス・ピオゲネス MGAS10750株;ストレプトコッカス・ピオゲネス NZ131株;ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophiles)CNRZ1066株;ストレプトコッカス・サーモフィラス LMD-9株;ストレプトコッカス・サーモフィラス LMG18311株;クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)A3 Loch Maree株;クロストリジウム・ボツリヌム B Eklund 17B株;クロストリジウム・ボツリヌム Ba4 657株;クロストリジウム・ボツリヌム F Langeland株;クロストリジウム・セルロリティカム(Clostridium cellulolyticum)H10株;フィネゴルディア・マグナ(Finegoldia magna)ATCC29328株;ユウバクテリウム・レクターレ(Eubacterium rectale)ATCC33656株;マイコプラズマ・ガリセプティカム(Mycoplasma gallisepticum);マイコプラズマ・モービレ(Mycoplasma mobile)163K株;マイコプラズマ・ペネトランス(Mycoplasma penetrans);マイコプラズマ・シノビアエ(Mycoplasma synoviae)53株;ストレプトバチルス・モニリフォルミス(Streptobacillus moniliformis)DSM12112株;ブラジリゾビウム(Bradyrhizobium)BTAil株;ニトロバクター・ハンブルゲンシス(Nitrobacter hamburgensis)X14株;ロドシュードモナス・パルストリス(Rhodopseudomonas palustris)BisB 18株;ロドシュードモナス・パルストリス BisB5株;パルビバクラム・ラバメンティボランス(Parvibaculum lavamentivorans)DS-1株;ディノロセオバクター・シバエ(Dinoroseobacter shibae)DFL12株;グルコンアセトバクター・ジアゾトロフィクス(Gluconacetobacter diazotrophicus)Pal5 FAPERJ株;グルコンアセトバクター・ジアゾトロフィクス Pal5 JGI株;アゾスピリルム(Azospirillum)B510 uid46085株;ロドスピリラム・ルブラム(Rhodospirillum rubrum)ATCC11170株;ディアフォロバクター(Diaphorobacter)TPSY uid29975株;フェルミネフォロバクター・エイセニアエ(Verminephrobacter eiseniae)EF01-2株;ナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitides)053442株;ナイセリア・メニンジティディス alpha14株;ナイセリア・メニンジティディス Z2491株;デスルホビブリオ・サレキシゲンス(Desulfovibrio salexigens)DSM2638株;キャンピロバクター・ジェジュニ亜種ドイレイ(Campylobacter jejuni doylei)269 97株;キャンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)81116株;キャンピロバクター・ジェジュニ;キャンピロバクター・ラリ(Campylobacter lari)RM2100株;ヘリコバクター・ヘパティカス(Helicobacter hepaticus); ウォリネラ・サクシノゲネス(Wolinella succinogenes);トルモナス・アウエンシス(Tolumonas auensis)DSM9187株;シュードアルテロモナス・アトランティカ(Pseudoalteromonas atlantica)T6c株;シューワネラ・ペアレアナ(Shewanella pealeana)ATCC700345株;レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)Paris株;アクチノバチルス・サクシノゲネス(Actinobacillus succinogenes)130Z株;パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida);フランシセラ・ツラレンシス亜種ノビシダ(Francisella tularensis novicida)U112株;フランシセラ・ツラレンシス亜種ハラークティカ(Francisella tularensis holarctica);フランシセラ・ツラレンシス(Francisella tularensis)FSC198株;フランシセラ・ツラレンシス;フランシセラ・ツラレンシス WY96-3418株;およびトレポネーマ・デンティコラ(Treponema denticola)ATCC35405株。したがって、本開示の態様は、II型CRISPRシステム中に存在するCas9タンパク質に関する。
【0022】
Cas9タンパク質は、文献中で当業者にCsn1と呼ばれることもある。本明細書に記載される実験の対象であるストレプトコッカス・ピオゲネス(S. pyogenes)のCas9タンパク質の配列を以下に示す。その全体が参照により援用されるDeltcheva et al., Nature 471, 602-607 (2011)を参照されたい。
【0023】
【化1】

【0024】
ある態様によれば、RNA誘導型DNA結合タンパク質には、DNAに結合し且つRNAによってガイドされ、DNAを切断する能力を保持している、Cas9のホモログおよびオルソログが含まれる。ある態様によれば、Cas9タンパク質としては、ストレプトコッカス・ピオゲネス(S. pyogenes)由来の天然Cas9について記載した配列、およびその配列に対して少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、または99%の相同性を有し、且つRNA誘導型DNA結合タンパク質などのDNA結合タンパク質である、タンパク質配列が挙げられる。
【0025】
ある態様によれば、必要に応じて部位特異的なRNA誘導型ゲノム切断を可能にし、且つ、外来性ドナー核酸の挿入によるゲノム改変を可能にする、改変Cas9-gRNAシステムが提供される。ガイドRNAは、DNA上の標的部位または標的座位に相補的である。ガイドRNAは、crRNA-tracrRNAキメラであってもよい。Cas9は標的ゲノムDNAに、またはその近傍に結合する。1種類または複数種類のガイドRNAは標的ゲノムDNAに、またはその近傍に結合する。Cas9は標的ゲノムDNAを切断し、外来性ドナーDNAがこの切断部位でDNAに挿入される。
【0026】
したがって、方法は、ガイドRNAをCas9タンパク質および外来性ドナー核酸と共に使用して、RNAをコードする核酸および外来性ドナー核酸の挿入、RNAの発現、DNAを切断するようなRNA、Cas9、およびDNAの共局在化、および外来性ドナー核酸の挿入を繰り返することによって、Cas9発現細胞内のDNAに外来性ドナー核酸を多重挿入する方法に関する。方法ステップを所望の回数繰り返して、任意の数のDNA改変が生じるようにしてもよい。したがって、本開示の方法は、本明細書に記載のCas9タンパク質およびガイドRNAを用いて細胞の多重遺伝子改変および多重エピジェネティック改変をもたらす、標的遺伝子の編集に関する。
【0027】
本開示の別の態様は、ヒト細胞などの細胞のゲノムDNAなどのDNAに外来性ドナー核酸を多重挿入するための、DNA結合タンパク質またはDNA結合システム一般の使用に関する。当業者は、本開示に基づき、例示的なDNA結合システムを容易に特定するであろう。
【0028】
本開示に係る細胞は、本明細書に記載されているように外来核酸を導入および発現させることができる任意の細胞を含む。本明細書に記載されている本開示の基本的概念は細胞型によって限定されないと理解されるべきである。本開示に係る細胞には、真核細胞、原核細胞、動物細胞、植物細胞、真菌細胞、古細菌細胞、真正細菌細胞などが含まれる。細胞には、酵母細胞、植物細胞、および動物細胞などの真核細胞が含まれる。具体的な細胞としては、ヒト細胞などの哺乳動物細胞が挙げられる。さらに、細胞には、DNAの改変が有益であるか、または望ましい、任意の細胞が含まれる。
【0029】
標的核酸としては、本明細書に記載される共局在複合体がニック形成または切断のいずれかに有用であり得る任意の核酸配列が挙げられる。標的核酸としては、遺伝子が挙げられる。本開示の目的のためには、二本鎖DNAなどのDNAは標的核酸を含んでいてもよく、共局在複合体は、その共局在複合体が標的核酸に対する所望の効果を与えられ得るよう、その標的核酸において、またはその標的核酸に隣接して、またはその標的核酸の近傍で、DNAに結合、またはその他の方法でDNAと共局在することができる。そのような標的核酸は、内在性の(または天然の)核酸および外来性の(または外来の)核酸を含んでいてもよい。当業者は、本開示に基づき、標的核酸を含むDNAに共局在するガイドRNAおよびCas9タンパク質を容易に特定またはデザインすることができる。当業者はさらに、標的核酸を含むDNAに同様に共局在する転写制御因子タンパク質または転写制御領域を特定することができる。DNAには、ゲノムDNA、ミトコンドリアDNA、ウイルスDNA、または外来性DNAが含まれる。ある態様によれば、本開示の実施に有用な材料および方法は、例示的な株および培地、プラスミド構築、プラスミドの形質転換、一過性gRNAカセットおよびドナー核酸のエレクトロポレーション、ドナーDNAを有するgRNAプラスミドでのCas9発現細胞の形質転換、Cas9のガラクトース誘導、酵母ゲノム中のCRISPR-Cas標的の特定など、あらゆる目的のため、その全体が参照により援用されるDi Carlo, et al., Nucleic Acids Research, 2013, vol. 41, No. 7 4336-4343に記載のものを含む。本発明の実施において当業者に有用な情報、材料、および方法を含む別の参考文献は、あらゆる目的のため、それぞれその全体が参照により援用されるMali,P., Yang,L., Esvelt,K.M., Aach,J., Guell,M., DiCarlo,J.E., Norville,J.E. and Church,G.M. (2013) RNA-Guided human genome engineering via Cas9. Science, 10.1126fscience. l232033; Storici,F., Durham,C.L., Gordenin,D.A. and Resnick,M.A. (2003) Chromosomal site-specific double-strand breaks are efficiently targeted for repair by oligonucleotides in yeast. PNAS, 100, 14994-14999; およびJinek,M., Chylinski,K., Fonfara,l., Hauer,M., Doudna,J.A. and Charpentier,E. (2012) A programmable dual-RNA-Guided DNA endonuclease in adaptive bacterial immunity. Science, 337, 816-821に記載されている。
【0030】
外来核酸(すなわち、細胞の天然核酸組成物の一部でない核酸)は、当業者に公知の任意の導入方法を用いて細胞に導入されてもよい。そのような方法には、遺伝子導入法、形質導入法、ウイルス形質導入法、マイクロインジェクション法、リポフェクション法、ヌクレオフェクション法、ナノ粒子銃(nanoparticle bombardment)法、形質転換法、結合(conjugation)法などが含まれる。当業者は、容易に特定可能な文献資料を用いてそのような方法を容易に理解し、適用するであろう。
【0031】
以下の実施例は本開示の代表例として記載するものである。本開示、図面、および添付の特許請求を考慮して、これらの実施形態および他の同等の実施形態が明らかになるので、これらの実施例は、本開示の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例
【0032】
実施例I
酵母におけるCRISPR-Cas9を用いた多重遺伝子編集の一般的プロセス
ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcous pyogenes)のCRISPR免疫系由来のCas9を用いて、相同組換えを促進し、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharaomyces cerevisiae)において形質転換DNAを組み換えない細胞以外を選択する。Cas9を用いたRNA誘導型DNA切断の一般的な方法を図1に示す。Cas9、ガイドRNA、および標的DNAの間で共局在複合体が形成される。Cas9により標的DNA中に二本鎖切断が生じる。次に、相同組換えによりドナーDNAがDNAに挿入される。ドナーDNAには、切断部位の両側に隣接配列、およびCas9切断部位を除去する配列が含まれる。その結果、ドナーDNAが、ゲノムDNAであってもよいDNA中に組み込まれる。
【0033】
Cas9を用いた酵母における多重DNA改変による高頻度ドナーDNA組換えの一般的な方法を、図2を参照して以下に記載する。天然のRNA誘導型エンドヌクレアーゼCas9を有さない細胞を、細胞によるRNA誘導型エンドヌクレアーゼCas9の発現を可能にするDNAで形質転換してもよい。RNA誘導型エンドヌクレアーゼCas9を発現する細胞を成長させる。1種類または複数種類のガイドRNAの細胞への導入および発現のために、1種類または複数種類のガイドRNAおよび当業者に公知の選択マーカーをコードする1種類または複数種類の核酸を含むプラスミドを作成する。図2に示するように、細胞のゲノムDNAに異なる遺伝子、すなわち遺伝子A、遺伝子B、遺伝子C、遺伝子D、および遺伝子Eを挿入するために用いられるガイドRNAをコードする核酸をそれぞれが有するプラスミドのプールが示されている。遺伝子A、遺伝子B、遺伝子C、遺伝子D、および遺伝子Eの二本鎖ドナーDNAを含むドナーDNAのプールも提供される。
【0034】
細胞を洗浄し、酢酸リチウムで馴化する。細胞をさらに洗浄してもよく、例えばDNAカセットなど、二本鎖オリゴヌクレオチドなどの外来性ドナー核酸のプール、およびガイドRNAをコードする核酸を含むプラスミドを細胞と混合してもよい。図2に示されているように、PEG3350および酢酸リチウムを用いて、外来性ドナー核酸およびプラスミドで細胞を形質転換する。
【0035】
図2に示されるように、選択マーカーを用いて1種類または複数種類のガイドRNAについて細胞を選択する。選択された細胞は、1種類または複数種類のガイドRNAを発現する。ガイドRNAと、RNA誘導型エンドヌクレアーゼCas9と、DNAとの1種類または複数種類の共局在複合体が細胞中で形成される。エンドヌクレアーゼによりDNAが切断され、ドナー核酸が相同組換えなどの組換えによって細胞に挿入される。次に、細胞のプラスミドを除去(cure)した後、細胞について必要に応じて上記ステップを1回またはさらに繰り返す。複数のサイクルを行ってもよい。複数のサイクルを経た細胞は、高い組換え頻度を示す。または、細胞をプラスミドの維持について非選択(deselect)とするか、あるいはプラスミドを有する細胞以外を選択するための培地中に細胞を入れる。その後、細胞成長ステップで始まるプロセスを繰り返す。したがって、方法は、前のサイクルで既に改変された細胞を繰り返すか、または前のサイクルから改変されなかった細胞を選択し、この非改変細胞をさらに繰り返して本明細書に記載されるDNAの改変を行うことを含む。
【0036】
実施例II
詳細な繰り返しプロトコール
(ウラシル栄養要求株、構成的Cas9発現)細胞を、5mlのSC酵母培地またはSC+FOA(100μg/ml)中で、光学密度0.8~1.0まで成長させる。細胞を2250×gで3分間スピンし、10mlの水で1回洗浄する。細胞をスピンし、1mlの100mM酢酸リチウムに再懸濁する。細胞をペレット化し、500μlの100mM酢酸リチウムに再懸濁する。50μlの細胞;1nmolの二本鎖オリゴヌクレオチドプール、各5μgのガイドRNA(ウラシルマーカーを有するp426ベクター)を含み、70μlまで水を加えて所望の最終体積にしたDNA混合物;240μlの50%PEG3350;および36μlの1M酢酸リチウムをこの順番で添加することにより、形質転換混合物を調製する。混合物を30℃で30分間インキュベートする。次に、混合物をボルテックスし、混合物を42℃で20分間インキュベートすることにより細胞に熱ショックを与える。次に、細胞をペレット化し、上清を除去する。細胞を5mlのSC-ウラシルに播種して、ウラシル遺伝子を含むgRNAプラスミドを選択する。細胞を2日間回復させる。2日後、100μlの細胞培養物を5mlの新たに調製したSCに播種し、12時間成長させてプラスミド維持について非選択とする。次に、100μlのSC培養細胞を5mlのSC+FOA(100μg/mL)培地に播種して、プラスミドを有する細胞以外を選択する。これにより、プロセスの1サイクルが完了する。このプロセスを、所望のサイクル回数分、反復する。プロセス全体は、1サイクル、2サイクル、3サイクル、4サイクル、5サイクル、6サイクル、7サイクル、8サイクル、9サイクル、10サイクル、15サイクル、20サイクル、25サイクルなどを含んでいてもよい。
【0037】
実施例III
選択された変異体における熱ショックに対する熱耐性
本明細書に記載の方法を用いて、選択された変異体における熱ショックに対する熱耐性が示された。ノックアウトまたは点突然変異により酵母の熱耐性を増大させることが示されている遺伝子を、本明細書に記載のガイドRNA-Cas9システムにより標的化した。変異について、4個の遺伝子、すなわちUBC1、SCH9、TFS1、およびRAS2を選択した。SCH9は、浸透圧ストレス(osmostress)、栄養素、および環境ストレスの遺伝子を制御するタンパク質キナーゼである。TFS1は、カルボキシペプチダーゼYおよびIra2pを阻害し、Ras GAP活性を阻害し、DNA複製ストレスに応答する。RAS2は、窒素飢餓を制御するGTP結合タンパク質であり、ストレス応答経路に関与する。SCH9、TFS1、およびRAS2のそれぞれについて、コード領域にセリンからアラニンへの変異を含むアレルであるドナーDNAを作成した。UBC1-E2はユビキチン結合酵素である。リン酸化部位を除去することで熱耐性を生じる点突然変異を含むドナーDNAを作成した。
【0038】
本明細書に記載の方法を用いて、変化を付与する二本鎖オリゴヌクレオチドと共に、遺伝子座位のCas9に切断を誘導するようにデザインされたガイドRNAを用いて、遺伝子を標的化した。図3に示されているように、酵母における熱耐性を担う4つの座位を標的化するオリゴヌクレオチドを用いてアレル置換が実現された。模式図に従い、遺伝子のうちの1つに対するガイドRNAをコードする核酸がそれぞれ組み込まれた4種類のプラスミド、すなわち、UBC1 gRNAプラスミド、TFS1 gRNAプラスミド、SCH9 gRNAプラスミド、およびRAS2 gRNAプラスミドを作成した。各プラスミドは対応する二本鎖ドナーオリゴヌクレオチド、すわなち、ubc1(S97A)二本鎖オリゴヌクレオチド、tfs1(タグ)二本鎖オリゴヌクレオチド、sch9(タグ)二本鎖オリゴヌクレオチド、およびras(タグ)二本鎖オリゴヌクレオチドを有していた。プラスミドおよびそれに対応する二本鎖ドナーオリゴヌクレオチドをプールとして、酵母を同時形質転換した。2サイクルを行い、細胞集団中の細胞の割合の関数として、1細胞あたりの改変数を図4に示す。多数の細胞が、2サイクル後に1個および2個の改変を含んでいた。1個の三重変異体を単離することができた(未掲載データ)。
【0039】
図5Aは、1個のドナーオリゴヌクレオチドで形質転換された株、2個のドナーオリゴヌクレオチドで形質転換された株、および3個のドナーオリゴヌクレオチドで形質転換された株を示す、本明細書に記載の方法から得られた株の表である。図5Bは、インキュベーションしなかった場合と比較した42℃で3時間のインキュベーションの効果、および野生型細胞の数のわずかな減少を示している。図5Bはまた、インキュベーションしなかった場合と比較した55℃で2時間のインキュベーションの効果を示している。55℃での熱ショックに最も耐性のあった変異体はsch9、sch9 tfs1、およびtfs1 ubc1(s97a)であった。
【0040】
図6は概して、2つの座位についての多重オリゴヌクレオチド取り込みの最適化に関するグラフ情報を提供する。図6Aは、形質転換に用いた各プラスミドの量(μg)に対する形質転換の頻度を示す。図6Bは、形質転換に用いた各プラスミドの量(μg)に対する個々の組換え頻度を示す。図6Cは、形質転換に用いた各プラスミドの量(μg)に対するcan1座位およびKanMX座位における同時組換えの頻度を示す。
【0041】
図7は概して、2つの座位での多重線状カセット取り込みに関するグラフ情報を提供する。グラフは、最も左側のバーが、p426 gRNA ADE2+HygRカセットの形質転換頻度、次のバーが、p426 gRNA CAN1+G418Rカセットの形質転換頻度、次の3つのバーが、p426 gRNA+ADE2 p426 gRNA CAN1+HygRカセット+G418Rカセットの形質転換頻度を示す。
【0042】
図8は概して、選択された変異体についての高温における対数増殖中の倍加時間を示す増殖率の分析を示す。図8Aは、野生型および同定された変異体の30℃での倍加時間の変化倍率をグラフ化したものである。図8Bは、野生型および同定された変異体の37℃での倍加時間の変化倍率をグラフ化したものである。図8Cは、野生型および定常期後期の培養から播種されたとして同定された変異体の42℃での倍加時間の変化倍率をグラフ化したものである。図8Dは、野生型および対数増殖期後期の培養から播種されたとして同定された変異体の42℃での倍加時間の変化倍率をグラフ化したものである。グラフデータは、sch9 tfs1およびtfs1 ubc1(S97A)において37℃で倍加時間が短くなっていることを示している。グラフデータは、ras2 tfs1、sch9 ubc1(S97A)、tfs1 ubc1(S97A)、およびras2 tfs1 ubc1(S97A)において42℃で倍加時間が短くなっていることを示している。
本開示に係る態様を以下に例示する。
<1>
標的DNAに相補的なRNAと共局在複合体を形成、且つ前記標的DNAを部位特異的に切断する酵素を発現する細胞において前記標的DNAに複数の変化を生じさせる方法であって、
(a)標的DNAに相補的であり且つ前記酵素を前記標的DNAにガイドする、1種類または複数種類のRNAをコードする第1の外来核酸を前記細胞に導入すること、ここで、前記1種類または複数種類のRNAおよび前記酵素が、前記標的DNAへの共局在複合体の構成要素である、
1種類または複数種類のドナー核酸配列をコードする第2の外来核酸を前記細胞に導入すること、ここで、前記1種類または複数種類のRNAおよび前記1種類または複数種類のドナー核酸の配列が発現し、前記1種類または複数種類のRNAおよび前記酵素が前記標的DNAに共局在し、前記酵素により前記標的DNAが切断され、前記ドナー核酸が前記標的DNAに挿入されて前記細胞中に変化したDNAが生成する、および、
ステップ(a)を複数回繰り返して前記細胞において前記DNAに複数の変化を生じさせることを含む、方法。
<2>
前記酵素が、RNA誘導型DNA結合タンパク質である、<1>に記載の方法。
<3>
前記酵素がCas9である、<1>に記載の方法。
<4>
前記細胞が真核細胞である、<1>に記載の方法。
<5>
前記細胞が、酵母細胞、植物細胞、または動物細胞である、<1>に記載の方法。
<6>
前記RNAが、約10~約500ヌクレオチドである、<1>に記載の方法。
<7>
前記RNAが、約20~約100ヌクレオチドである、<1>に記載の方法。
<8>
前記1種類または複数種類のRNAが、ガイドRNAである、<1>に記載の方法。
<9>
前記1種類または複数種類のRNAが、tracrRNA-crRNA融合体である、<1>に記載の方法。
<10>
前記DNAが、ゲノムDNA、ミトコンドリアDNA、ウイルスDNA、または外来性DNAである、<1>に記載の方法。
<11>
前記1種類または複数種類のドナー核酸配列が、組換えにより挿入される、<1>に記載の方法。
<12>
前記1種類または複数種類のドナー核酸配列が、相同組換えにより挿入される、<1>に記載の方法。
<13>
前記1種類または複数種類のRNAおよび前記1種類または複数種類のドナー核酸配列が、1種類または複数種類のプラスミド上に存在する、<1>に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
【配列表】
0007201294000001.app