(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】位置判定装置および位置判定システム
(51)【国際特許分類】
G01S 5/02 20100101AFI20221227BHJP
【FI】
G01S5/02 Z
(21)【出願番号】P 2018137710
(22)【出願日】2018-07-23
【審査請求日】2021-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】390010308
【氏名又は名称】東芝デベロップメントエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【氏名又は名称】鵜飼 健
(72)【発明者】
【氏名】片岡 渉
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 祐治
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-301704(JP,A)
【文献】特開2018-004609(JP,A)
【文献】特開2017-116389(JP,A)
【文献】特開2017-017491(JP,A)
【文献】特開2016-114529(JP,A)
【文献】特開2016-099217(JP,A)
【文献】特開2014-238315(JP,A)
【文献】特開2014-134387(JP,A)
【文献】特開2014-063250(JP,A)
【文献】特開2013-044169(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0153333(US,A1)
【文献】特開2005-196264(JP,A)
【文献】特開平11-120304(JP,A)
【文献】特開2013-124885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00- 5/14
G01S 1/00- 1/68
G01S 7/00- 7/42
G01S13/00-13/95
G08G 1/00-99/00
G07C 9/00- 9/38
E05B49/00-49/04
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1の位置に設置され
る第1の受信装置に含まれ、対象送信機によって送信された無線信号を受信する複数の第1の受信機から前記無線信号の前記複数の第1の受信機における受信電力を表す第1の受信電力データ群を受信し、(b)第2の位置に設置され
る第2の受信装置に含まれ、前記無線信号を受信する複数の第2の受信機から前記無線信号の前記複数の第2の受信機における受信電力を表す第2の受信電力データ群を受信する受信部と、
前記第1の受信電力データ群に基づいて前記第1の位置における前記無線信号の受信電力を推定して第1の推定値を生成し、前記第2の受信電力データ群に基づいて前記第2の位置における前記無線信号の受信電力を推定して第2の推定値を生成する推定部と、
前記第1の推定値
および前記第2の推定値
と第1の閾値
との比較に基づいて、前記対象送信機が前記第1の位置
を通る直線として定義されるラインよりも前記第2の位置の側に存在するか否かを判定する判定部と
を具備する、位置判定装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記第1の推定値が前記第1の閾値未満であって、かつ前記第2の推定値が前記第1の閾値以上である場合に、前記対象送信機が前記ラインよりも前記第2の位置の側に存在すると判定する、請求項1に記載の位置判定装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記第1の推定値および前記第2の推定値と前記第1の閾値および前記第1の閾値よりも小さい第2の閾値との比較に基づいて、前記対象送信機が前記ラインよりも前記第2の位置の側に存在するか否かを判定する、請求項1に記載の位置判定装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記第1の推定値および前記第2の推定値の両方が前記第1の閾値を下回り、前記第2の推定値が前記第1の推定値以上であって、かつ前記第2の閾値以上である場合に、前記対象送信機が前記ラインよりも前記第2の位置の側に存在すると判定する、請求項
3に記載の位置判定装置。
【請求項5】
前記推定部は、
(a)前記第1の受信電力データ群から前記複数の第1の受信機のそれぞれについて複数時点に亘る受信電力の最大値を探索し、前記複数の第1の受信機のそれぞれに対応するオフセットを加算して第1の候補値群を算出し、前記第1の候補値群における最大値を前記第1の推定値として決定し、
(b)前記第2の受信電力データ群から前記複数の第2の受信機のそれぞれについて複数時点に亘る受信電力の最大値を探索し、前記複数の第2の受信機のそれぞれに対応するオフセットを加算して第2の候補値群を算出し、前記第2の候補値群における最大値を前記第2の推定値として決定する、
請求項1乃至請求項
4のいずれか1項に記載の位置判定装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項
5のいずれか1項に記載の位置判定装置と、
前記複数の第1の受信機と、前記複数の第1の受信機を支持する第1の支持体と、
を含む前記第1の受信装置と、
前記複数の第2の受信機と、前記複数の第2の受信機を支持する第2の支持体と
、を含む前記第2の受信装置と
を具備し、
前記複数の第1の受信機は、互いに前記無線信号の半波長以上の間隔を開けて前記第1の支持体に設置され、
前記複数の第2の受信機は、互いに前記無線信号の半波長以上の間隔を明けて前記第2の支持体に設置される、
位置判定システム。
【請求項7】
前記複数の第1の受信機は、鉛直方向に沿って互いに前記無線信号の半波長以上の間隔を開けて前記第1の支持体に設置され、
前記複数の第1の受信機は、鉛直方向に沿って互いに前記無線信号の半波長以上の間隔を開けて前記第1の支持体に設置される、
請求項
6に記載の位置判定システム。
【請求項8】
前記対象送信機は、ユーザの正面側に身に着けられる、請求項
6または請求項
7に記載の位置判定システム。
【請求項9】
(a)第1の位置に設置され、対象送信機によって送信された無線信号を受信する複数の第1の受信機から前記無線信号の前記複数の第1の受信機における受信電力を表す第1の受信電力データ群を受信し、(b)第2の位置に設置され、前記無線信号を受信する複数の第2の受信機から前記無線信号の前記複数の第2の受信機における受信電力を表す第2の受信電力データ群を受信し、(c)第3の位置に設置され、前記無線信号を受信する複数の第3の受信機から前記無線信号の前記複数の第3の受信機における受信電力を表す第3の受信電力データ群を受信し、(d)第4の位置に設置され、前記無線信号を受信する複数の第4の受信機から前記無線信号の前記複数の第4の受信機における受信電力を表す第4の受信電力データ群を受信する受信部と、
前記第1の受信電力データ群に基づいて前記第1の位置における前記無線信号の受信電力を推定して第1の推定値を生成し、前記第2の受信電力データ群に基づいて前記第2の位置における前記無線信号の受信電力を推定して第2の推定値を生成し、前記第3の受信電力データ群に基づいて前記第3の位置における前記無線信号の受信電力を推定して第3の推定値を生成し、前記第4の受信電力データ群に基づいて前記第4の位置における前記無線信号の受信電力を推定して第4の推定値を生成する推定部と、
前記第1の推定値、前記第2の推定値、前記第3の推定値、
および前記第4の推定値
と第1の閾値
との比較に基づいて、前記対象送信機が前記第1の位置および前記第2の位置
を通る直線として定義されるラインよりも前記第3の位置の側または第4の位置の側に存在するか否かを判定する判定部と
を具備
し、前記第3の位置および前記第4の位置は前記ラインに対して同じ側にある、位置判定装置。
【請求項10】
前記第1の位置は、前記第2の位置、前記第3の位置および前記第4の位置のうち前記第4の位置からの距離が最も大きく、
前記第2の位置は、前記第1の位置、前記
第3の位置および前記第4の位置のうち前記第3の位置からの距離が最も大きく、
前記判定部は、前記第1の推定値および前記第2の推定値の両方が前記第1の閾値未満であって、かつ前記第3の推定値および前記第4の推定値の少なくとも一方が前記第1の閾値以上である場合に、前記対象送信機が前記ラインよりも前記第3の位置の側または前記第4の位置の側に存在すると判定する、
請求項
9に記載の位置判定装置。
【請求項11】
前記判定部は、前記第1の推定値、前記第2の推定値、前記第3の推定値、および前記第4の推定値と第1の閾値との比較に基づいて、前記対象送信機が前記ラインよりも前記第3の位置の側または第4の位置の側に存在するか否かを判定する、請求項9に記載の位置判定装置。
【請求項12】
前記第1の位置は、前記第2の位置、前記第3の位置および前記第4の位置のうち前記第4の位置からの距離が最も大きく、
前記第2の位置は、前記第1の位置、前記
第3の位置および前記第4の位置のうち前記第3の位置からの距離が最も大きく、
前記判定部は、前記第1の推定値、前記第2の推定値、前記第3の推定値および前記第4の推定値の全てが前記第1の閾値を下回り、前記第3の推定値が前記第1の推定値以上であって、前記第4の推定値が前記第2の推定値以上であって、かつ前記第3の推定値および前記第4の推定値の両方が前記第2の閾値以上である場合に、前記対象送信機が前記ラインよりも前記第3の位置の側または前記第4の位置の側に存在すると判定する、
請求項
11に記載の位置判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線信号の受信電力に基づく位置判定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Bluetooth(登録商標)の拡張仕様の1つであるBLE(Bluetooth Low Energy)を利用して、BLE送信機(ビーコンとも呼ばれる)またはBLE受信機の位置検知などが行われている。例えば、BLE送信機によって送信されたBLE信号(ビーコン信号とも呼ばれる)の受信電力に基づいて、BLE送信機が複数のBLE受信機のいずれの近くにいるか、などを判定することが可能である。
【0003】
特許文献1には、RSSI(Received Signal Strength Indication)に基づいてRSSI品質を判断し、当該RSSI品質に基づきモバイル端末の方向特性Dを計算することが記載されている。また、特許文献1には、RSSIの品質が不良な場合、モバイル端末のユーザーはビーコンノードに背中を向けていて、RSSIの品質が良好な場合、モバイル端末のユーザーはビーコンノードに向かっている、との記載もある。さらに、特許文献1では、環境因子Aおよびn、ならびにモバイル端末とビーコンノード間の距離の関数としてRSSIを表しており、環境因子[A,n]が大きいほどRSSIの品質は悪くなり、環境因子[A,n]が小さいほどRSSIの品質は良くなる、との記載もある。そして、特許文献1では、この方向特性Dを含む移動特性情報を抽出し、これに基づいてモバイル端末の制限エリアに対する移動特性確率を計算することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、同じ位置に立っていても、人の体の向きや受信機の持ち方によって受信する電波強度に違いが発生することが記載されている。また、特許文献2には、サーバ4は、各受信機3の人10による受信機3の複数の持ち方、或いは、各受信機3の人10による受信機3の持ち方、或いは、人10と受信機3との向きの組み合わせに応じた電波情報を適切に選択し、受信機3の位置特定を実行する、ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-37076号公報([0052]~[0053]、[0062]、[0064]~[0065]、[0072]、[0096]~[0097])
【文献】特開2017-201240号公報([0007]、[0043]、[0062])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
BLEを利用した位置判定を実際に行う場合には、ビーコン信号の直接波と(例えば地面からの)反射波との干渉によるフェージングが問題となる。具体的には、ビーコン信号の伝搬距離が大きくなるとマルチパスの影響により、RSSIの実測値と距離対RSSIの理論カーブとの乖離が大きくなるため、送信機と受信機との間の距離の推定精度が低下し得る。さらに、理論カーブであっても距離が大きくなるほど距離の変化に対するRSSIの変化は小さくなり、RSSIから正確な距離を推定することは困難となる。
【0007】
これらの問題を鑑みると、従来の位置判定システムにおいて実用的な精度を達成するためには、受信機同士または送信機同士を互いにおよそ3m以下の距離に近接させて密に配置する必要があった。
【0008】
なお、特許文献1および特許文献2には、ビーコンノードおよびグリッドを具体的にどのように配置できるか十分な説明がないものの、フェージング対策への言及がないことを鑑みると同様の制約が課されると予想される。
【0009】
故に、この配置制約により、例えば、従来の位置判定システムを施設出入り口前の道路などに構築する場合に道路の幅がおよそ6mを超えると道路脇に受信機(または送信機)を設置するだけでは、道路中央付近に送信機(または受信機)が位置する場合に実用的な精度で位置判定をすることが困難となる。故に、埋め込み工事またはアーチなどにより道路の中央付近にも受信機(または送信機)を設置しなければならない、などの問題が生じ得る。
【0010】
本発明は、位置判定システムにおいて設置される受信機または送信機の配置制約を緩和することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、位置判定装置は、受信部と、推定部と、判定部とを含む。受信部は、(a)第1の位置に設置され、対象送信機によって送信された無線信号を受信する複数の第1の受信機から前記無線信号の前記複数の第1の受信機における受信電力を表す第1の受信電力データ群を受信し、(b)第2の位置に設置され、前記無線信号を受信する複数の第2の受信機から前記無線信号の前記複数の第2の受信機における受信電力を表す第2の受信電力データ群を受信する。推定部は、前記第1の受信電力データ群に基づいて前記第1の位置における前記無線信号の受信電力を推定して第1の推定値を生成し、前記第2の受信電力データ群に基づいて前記第2の位置における前記無線信号の受信電力を推定して第2の推定値を生成する。判定部は、前記第1の推定値、前記第2の推定値、第1の閾値および前記第1の閾値よりも小さい第2の閾値を用いて、前記対象送信機が前記第1の位置に基づいて定義されるラインよりも前記第2の位置の側に存在するか否かを判定する。
【0012】
本発明の別の態様によれば、位置判定装置は、受信部と、推定部と、判定部とを含む。受信部は、(a)第1の位置に設置され、対象送信機によって送信された無線信号を受信する複数の第1の受信機から前記無線信号の前記複数の第1の受信機における受信電力を表す第1の受信電力データ群を受信し、(b)第2の位置に設置され、前記無線信号を受信する複数の第2の受信機から前記無線信号の前記複数の第2の受信機における受信電力を表す第2の受信電力データ群を受信し、(c)第3の位置に設置され、前記無線信号を受信する複数の第3の受信機から前記無線信号の前記複数の第3の受信機における受信電力を表す第3の受信電力データ群を受信し、(d)第4の位置に設置され、前記無線信号を受信する複数の第4の受信機から前記無線信号の前記複数の第4の受信機における受信電力を表す第4の受信電力データ群を受信する。推定部は、前記第1の受信電力データ群に基づいて前記第1の位置における前記無線信号の受信電力を推定して第1の推定値を生成し、前記第2の受信電力データ群に基づいて前記第2の位置における前記無線信号の受信電力を推定して第2の推定値を生成し、前記第3の受信電力データ群に基づいて前記第3の位置における前記無線信号の受信電力を推定して第3の推定値を生成し、前記第4の受信電力データ群に基づいて前記第4の位置における前記無線信号の受信電力を推定して第4の推定値を生成する。判定部は、前記第1の推定値、前記第2の推定値、前記第3の推定値、前記第4の推定値、第1の閾値および前記第1の閾値よりも小さい第2の閾値を用いて、前記対象送信機が前記第1の位置および前記第2の位置に基づいて定義されるラインよりも前記第3の位置の側または第4の位置の側に存在するか否かを判定する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、位置判定システムにおいて設置される受信機または送信機の配置制約を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係る位置判定装置を例示するブロック図。
【
図2】
図1の位置判定装置を含む位置判定システムを例示する図。
【
図4】ビーコン受信機における受信電力の時間的変動を例示するグラフ。
【
図5】ビーコン送信機からビーコン受信機までの距離と受信電力との関係を例示するグラフ。
【
図7】ビーコンの位置判定に用いられる2つの閾値の説明図。
【
図8】ビーコン送信機を身に着けたユーザが通過判定ラインを通り過ぎる前後に亘る各位置における受信電力の変化を例示するグラフ。
【
図9】
図1の位置判定装置の動作を例示するフローチャート。
【
図10】
図9のステップS410の詳細を例示するフローチャート。
【
図11】
図9のステップS420の一部の詳細を例示するフローチャート。
【
図12】
図9のステップS420の残部の詳細を例示するフローチャート。
【
図13】ビーコン送信機を身に着けたユーザが通過判定ラインを通り過ぎる前後に亘る各位置における受信電力の変化と、各時点における位置判定結果とを例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら実施形態の説明を述べる。なお、以降、説明済みの要素と同一または類似の要素には同一または類似の符号を付し、重複する説明については基本的に省略する。例えば、複数の同一または類似の要素が存在する場合に、各要素を区別せずに説明するために共通の符号を用いることがあるし、各要素を区別して説明するために当該共通の符号に加えて枝番号を用いることもある。
【0016】
(実施形態)
実施形態に係る位置判定装置は、例えば
図2に示す位置判定システムに組み込むことができる。この位置判定システムは、実施形態に係る位置判定装置100と、4つのビーコン受信装置200-A1,200-A2,200-C1および200-C2とを含む。4つのビーコン受信装置200はそれぞれ、後述されるように複数のビーコン受信機を含む。
【0017】
各ビーコン受信装置200の符号の枝番号(サフィックス)は、当該ビーコン受信装置200の設置位置を表す。また、位置A1および位置A2は、後述される通過判定ラインを定義しており、通過判定ラインは例えば位置A1および位置A2を通る直線に定められ得る。
【0018】
図2の例では、位置A1、A2、C1およびC2は、幅10m、奥行き5mの矩形の頂点にそれぞれ対応するように定められている。すなわち、この位置判定システムによれば、幅10m程度までの屋外道路であれば、道路中央付近にビーコン受信装置200を設置する必要はなく、道路脇にビーコン受信装置200を設置するだけでよい。かかる配置例が可能であることは、後述するように本実施形態においておよそ5m付近まではビーコン送信機とビーコン受信装置200との間の距離を高精度に推定することが可能であることによって裏付けられる。
【0019】
ビーコン送信機は、例えばネームプレート型のデバイスであり、当該ビーコン送信機のユーザ300の首に掛けたり、胸に留めたりすることで身に着けられる。以降の説明では、基本的に、ビーコン送信機はユーザ300の正面側に身に着けられていることを前提とする。
【0020】
なお、「ビーコン」、「ビーコン送信機」および「ビーコン受信機」は例示的な名称に過ぎない。「ビーコン」は「無線信号」、「ビーコン送信機」は「無線)送信機」、「ビーコン受信装置(または受信機)」は「(無線)受信装置(または受信機)」などと読み替えられ得る。
【0021】
通過判定ラインを基準に位置C1およびC2の側は、ビーコン送信機の持ち出しが禁止されている。他方、通過判定ラインを基準に位置C1およびC2の反対の側は、ビーコン送信機の持ち歩きが許可されたエリア(以降、許可エリアと称する)である。
【0022】
位置判定装置100は、各ビーコン受信装置200に含まれる複数のビーコン受信機からの受信電力データに基づいて、少なくとも、ビーコン送信機を所持するユーザ300が通過判定ラインを通過したか否か、より具体的には、ビーコン送信機が通過判定ラインよりも位置C1またはC2の側に存在するか否かを判定する。
【0023】
ビーコン受信装置200は、
図3に例示されるように、2つのビーコン受信機210-1,210-2と、ポール220と、ベース230とを含む。
図3の例では、1つのビーコン受信装置200は2つのビーコン受信機210を含んでいるので、かかるビーコン受信装置200を4箇所に設置すれば、位置判定装置100は、合計8個のビーコン受信機210から受信電力データを得ることができる。
【0024】
ビーコン受信機210-1およびビーコン受信機210-2は、互いにビーコン信号の半波長以上の間隔を開けてポール220に取り付けられている。かかる構成と位置判定装置200における後述の受信電力推定処理とにより、空間ダイバーシティ効果を得ることができる。ここで、ビーコン信号の半波長は、例えばBLE信号の場合には、6cm強に相当する。
【0025】
図3の例では、ビーコン受信機210-1およびビーコン受信機210-2は、鉛直方向に沿って、すなわち縦方向に沿って、互いにビーコン信号の半波長以上の間隔を開けてポール220に取り付けられている。かかる配置例は、例えば屋外のように、主に、ビーコン信号の直接波と、主に地面または床からの反射波との干渉によるフェージングが発生する環境に適している。
【0026】
他方、屋内のように壁からの反射波も存在する環境では、ビーコン受信機210-1およびビーコン受信機210-2は、縦方向に加えて横方向、すなわち鉛直方向と直交する方向に間隔を開けて配置されてもよい。或いは、ビーコン受信装置200を壁際に設置することも、直接波と壁からの反射波との干渉により生じるフェージングの軽減に効果的である。
【0027】
なお、1つのビーコン受信装置200に含まれるビーコン受信機210の数は3以上であってもよい。例えば、1辺がビーコン信号の半波長以上である正方形の頂点に対応するように4つのビーコン受信機210がポール220に取り付けられてもよい。
【0028】
ビーコン受信機210は、例えば、BLE受信機と、Sub-GHz帯通信機とを含み得る。かかるBLE受信機およびSub-GHz帯通信機との組み合わせは、BLE~Sub-GHz Gatewayとも呼ばれる。
【0029】
BLE受信機は、ビーコン信号としてのBLE信号を受信して、受信電力データ、例えばRSSIデータを生成する。そして、BLE受信機は、HCI(Host Controller Interface)を介して、受信電力データをSub-GHz帯通信機へ送る。なお、受信電力データは、受信電力の値、例えばRSSIを表すデータに加え、BLE受信機を識別する識別子およびビーコン信号の送信元であるビーコン送信機を識別する識別子を含み得る。
【0030】
Sub-GHz帯通信機は、ホストとして、HCIを介してBLE受信機から受信電力データを取得する。Sub-GHz帯通信機は、これをSub-GHz帯通信向けの無線信号に変換し、位置判定装置100へ送信する。
【0031】
ポール220は、ビーコン受信機210-1およびビーコン受信機210-2が取り付けられ、これらを支持する。また、ベース230は、ポール220を支持する。
【0032】
位置判定装置100は、
図1に例示されるように、受信部101と、受信電力ログ記憶部102と、受信電力推定部103と、位置判定部104と、警報部105とを含む。位置判定装置100は、PC(Personal Computer)またはその他のコンピュータであり得る。
【0033】
位置判定装置100は、ハードウェア要素として、例えば、プロセッサ、メモリ、補助記憶装置、通信インタフェース、入出力インタフェース、入力装置、出力装置などの一部または全部を含み得る。また、各ハードウェア要素は、例えばバス経由で互いに接続され得る。
【0034】
プロセッサは、プログラムを実行することで後述される種々の処理を実現する。プロセッサは、典型的にはCPU(Central Processing Unit)および/またはGPU(Graphics Processing Unit)であるが、マイコン、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはDSP(Digital Signal Processor)、などであってもよい。
【0035】
メモリは、プロセッサによって実行されるプログラムおよびプロセッサによって使用されるデータを一時的に格納し得る。メモリは、かかるプログラム/データが展開されるワークエリアを有するRAM(Random Access Memory)を含み得る。補助記憶装置は、例えば、HDD(Hard Disc Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリなどであり得る。
【0036】
通信インタフェースは、外部装置、例えばビーコン受信装置200に含まれる複数のビーコン受信機と通信をするためのモジュールであって、送受信のための信号処理回路、アンテナ、LAN(Local Area Network)端子などを含み得る。通信インタフェースは、例えばSub-GHz無線用のモジュール、無線LAN用のモジュール、移動通信などの広域通信用のモジュール、などであり得る。
【0037】
入出力インタフェースは、USB(Universal Serial Bus)端子、またはその他のデータ転送用ケーブルのための端子、などである。また、出力装置は、ディスプレイ、スピーカ、などである。
【0038】
受信部101は、前述の通信インタフェースにより実現され得る。受信部101は、ビーコン受信装置200に含まれる複数のビーコン受信機から、受信電力データ群を受信する。受信電力データ群は、ビーコン送信機によって送信されたビーコン信号の、複数のビーコン受信機における受信電力を表す。
【0039】
受信電力ログ記憶部102は、前述のメモリおよび/または補助記憶装置により実現され得る。受信電力ログ記憶部102は、受信部101によって取得された受信電力データ群を保存する。受信電力データ群は、受信電力推定部103によって必要に応じて読み出され得る。
【0040】
ここで、受信電力データ群に含まれるそれぞれの受信電力データは、例えば当該受信電力データのソースとなるビーコン受信機を識別する識別子およびビーコン信号の送信元であるビーコン送信機を識別する識別子(またはユーザ300の識別子)に対応付けて受信電力ログ記憶部102に保存され得る。
【0041】
受信電力推定部103は、前述のプロセッサおよびメモリにより実現され得る。受信電力推定部103は、各ビーコン受信装置200に対応する受信電力データ群を受信電力ログ記憶部102から読み出す。そして、受信電力推定部103は、読み出した受信電力データ群に基づいて、当該受信電力データ群に対応するビーコン受信機210が属するビーコン受信装置200の設置位置における上記ビーコン信号の受信電力を推定し、当該位置におけるビーコン信号の受信電力の推定値を生成する。
図2のようにビーコン受信装置200が4箇所に設置されている場合には、受信電力推定部103は4つの推定値を生成することになる。受信電力推定部103は、各位置におけるビーコン信号の受信電力の推定値を位置判定部104へ送る。
【0042】
以下、受信電力推定部103によって行われる処理の詳細について説明する。
具体的には、受信電力推定部103は、それぞれの位置について、当該位置に設置されたビーコン受信装置200のビーコン受信機210毎に、当該ビーコン受信機210に対応する受信電力データから直近の複数時点に亘る受信電力の最大値を探索し、さらに当該ビーコン受信機210に対応するオフセットを加算し、当該位置におけるビーコン信号の受信電力の候補値の1つを算出する。すなわち、受信電力推定部103は、位置毎に複数の候補値(候補値群)を算出する。ここで、オフセットは、ビーコン受信機210間の特性差分を吸収するための補正値であり、ビーコン受信機210毎に定められる。
【0043】
ビーコン受信機210における受信電力は、当該ビーコン受信機210が静止状態にあったとしても、
図4に例示されるように時間の経過に伴って変動する(ゆらぐ)。故に、かかる揺らぎの1周期よりも長い時間に亘る受信電力の最大値を探索することで、各ビーコン受信機210における受信電力の揺らぎによる影響を抑制することができる。
【0044】
そして、受信電力推定部103は、各位置における候補値群の最大値を当該位置におけるビーコン信号の受信電力の推定値として決定する。換言すれば、受信電力推定部103は、各ビーコン受信装置200に含まれる複数のビーコン受信機210について算出した候補値の最大値を、当該ビーコン受信装置200が設置された位置におけるビーコン信号の受信電力の推定値として決定する。
【0045】
図5に、距離対RSSIの理論カーブと、ビーコン受信機210-1,210-2と同様に配置された2つのビーコン受信機1,2における実測結果と、計測点毎のこれらの実測結果の最大値を結んだ結果とを示す。なお、ビーコン受信機1,2の実測結果は、屋外にて距離1m毎にビーコン信号を送信した場合の当該ビーコン受信機1,2におけるRSSIをプロットしたものである。また、ビーコン受信機1,2の実測結果は、前述の揺らぎ対策を施しているので揺らぎの影響は無視できる。
【0046】
自由空間における距離対RSSIの理論カーブは、フリスの伝達公式により求めることができる。しかしながら実際には、この理論カーブは、マルチパスの影響が大きい遠距離は勿論、近距離においても成り立たないことがある。例えば、受信機1については、近距離といえる距離3mにおける実測結果が理論カーブを約4dBm下回っており、このRSSIのみに基づく推定距離は約5mとなり、約2mもの誤差が生じることになる。他方、受信機2については距離が11m程度までは受信機1よりも理論カーブに近い実測結果が得られたものの、距離12mにおける実測結果は理論カーブを約10dBmも下回っている。
【0047】
図5から読み取れるように、ビーコン受信機1,2はRSSIの落ち込みのパターンが互いに異なっている。故に、両者の最大値を受信電力の推定値として採用することでフェージングを軽減することができる(空間ダイバーシティ効果)。結果的に、計測点毎のビーコン受信機1,2における実測結果の最大値を結んだ折れ線は、距離がおよそ5m付近までは理論カーブに近い結果が得られた。他方、距離が5~10mの範囲ではフェージングの影響が部分的に見られ、距離が10m以上では10m以上であることが分かるに過ぎない。
【0048】
従って、各ビーコン受信装置200に含まれる複数のビーコン受信機210について算出した候補値の最大値を、当該ビーコン受信装置200が設置された位置におけるビーコン信号の受信電力の推定値として決定することで、およそ5m付近までは高精度に距離を推定することができ、さらに、距離が5mより大きい場合であっても、およそ5m~10mの範囲にあるのか10m以上であるのか、を判別することは可能である。
【0049】
位置判定部104は、前述のプロセッサおよびメモリにより実現され得る。位置判定部104は、各位置におけるビーコン信号の受信電力の推定値と、後述される第1の閾値および第2の閾値を用いて、ビーコン送信機の位置を判定する。例えば、位置判定部104は、ビーコン送信機の位置を、当該ビーコン送信機が通過判定ラインよりも位置C1または位置C2側に存在することを意味する「ゲート外」を少なくとも含む複数のラベルのいずれかとして判定する。位置判定部104は、判定結果を警報部105へ送る。
【0050】
第1の閾値は、ビーコン送信機がビーコン受信装置200に近接しているか否かを判定するため基準値に相当し得る。前述のように本実施形態では、距離が5m付近までは高精度に距離を推定することができるので、近接は距離が5mまたはより小さな上限値以下にあることと定められ得る。例えば、
図5の例において上限値を4mとすれば、第1の閾値は
図7に例示されるように約-58dBmと定めることができる。
【0051】
他方、第2の閾値は、ビーコン送信機とビーコン受信装置200との距離が検出限界距離を超えているかどうかを判定するための基準値に相当し得る。前述のように本実施形態では、距離が10m以上では10m以上であることが分かるに過ぎないので、検出限界距離は10mまたはより小さな値と定められ得る。例えば、
図5の例において検出限界距離を10mとすれば、第2の閾値は
図7に例示されるように約-66dBmと定めることができる。
【0052】
また、前述のように、ビーコン送信機はユーザ300の正面側に身に着けられている。BLE信号などの周波数2.4GHz帯の電波は、直進性が高いうえに水分に吸収されやすいという性質を持つ。人体の約70%は水分であることから、ビーコン送信機か放射された電波は、ユーザ300の身体によって吸収されるうえに回り込みも殆ど生じない。故に、ビーコン信号の送信電力は、
図6に例示されるように、ユーザ300の背面側で大幅に減衰する。この減衰量は、10dBmを超える。すなわち、ユーザ300が通過判定ラインを通り過ぎる前と後とでは、位置A1および位置A2において10dBmを超える減衰が生じることになる。
【0053】
図8は、ビーコン送信機を身に着けたユーザが、許可エリアから通過判定ラインを通り過ぎ、最終的には位置C1および位置C2を結ぶラインも通り過ぎていくまでの、位置A1、A2、C1およびC2における受信電力の変化を例示する。
【0054】
図8によれば、測定カウント33あたりから位置A1および位置A2における受信電力が、急激に減少し始めており、他方で位置C1および位置C2における受信電力は横ばいないし増加している。これは、ユーザが通過判定ラインを通り過ぎようとしていることを示唆している。この時、位置A1および位置A2は、実際にはビーコン送信機と近接しているにも関わらず、これらの位置における受信電力は第1の閾値、場合によっては第2の閾値を下回ることになる。
【0055】
また、測定カウント49あたりから位置C1および位置C2における受信電力も、急激に減少し始める。これは、ユーザが最終的には位置C1および位置C2を結ぶラインを通り過ぎようとしていることを示唆している。この時、位置C1および位置C2は、実際にはビーコン送信機と近接しているにも関わらず、これらの位置における受信電力は第1の閾値、場合によっては第2の閾値を下回ることになる。
【0056】
位置判定部104は、かかる人体の電波遮蔽効果による受信電力の落ち込みを利用して、以下のように位置判定を行う。
(1) 位置A1または位置A2における推定値が第1の閾値以上である場合には、ビーコン送信機は位置A1または位置A2に近接しており、かつ、ユーザ300の身体は位置A1または位置A2に向いていると予想される。そして、さらに位置A1における推定値が位置C1における推定値以上、または位置A2における推定値が位置C2における推定値以上である場合には、ビーコン送信機は位置C1または位置C2よりも位置A1または位置A2に近いと予想される。故に、位置判定部104は、ビーコン送信機の位置を例えば、ビーコン送信機が通過判定ライン付近に存在することを意味する「ライン上」、または通過判定ラインよりも手前側、すなわち許可エリアに存在することを意味する「ゲート内」、と判定し得る。なお、「ライン上」および「ゲート内」は、必ずしも区別される必要はなく、例えば「ライン上」が「ゲート内」に統合されてもよい。他方、位置判定部104は、位置A1における推定値が第1の閾値以上であるが位置C1における推定値未満、または位置A2における推定値が第1の閾値以上であるが位置C2における推定値未満である場合には、ビーコン送信機の位置を、例えばビーコン送信機が通過判定ラインを通過済み、すなわちビーコン送信機が通過判定ラインよりも位置C1または位置C2側に存在することを意味する「ゲート外」と判定し得る。
【0057】
(2) 位置A1および位置A2における推定値がいずれも第1の閾値未満であって、かつ、位置C1または位置C2における推定値が第1の閾値以上である場合には、ビーコン送信機は位置C1または位置C2に近接しており、かつ、ユーザ300の身体は位置C1または位置C2に向いている、換言すれば位置A1および位置A2に背を向けていること予想される。故に、位置判定部104は、ビーコン送信機の位置を「ゲート外」と判定し得る。
【0058】
(3) 位置A1、位置A2、位置C1および位置C2における推定値がいずれも第2の閾値未満である場合には、(a)ビーコン送信機は許可エリア内にあるが、ビーコン送信機から位置A1および位置A2までの距離がいずれも第2の閾値に対応する距離、例えば10mを超えている、(b)ビーコン送信機は許可エリア内にあるが、ユーザ300は位置A1および位置A2に背を向けている、(c)ビーコン送信機は許可エリア外にあるが、ビーコン送信機から位置C1および位置C2までの距離がいずれも第2の閾値に対応する距離、例えば10mを超えている、(d)ビーコン送信機は許可エリア外にあるが、ユーザ300は位置C1および位置C2に背を向けている、などの可能性がある。すなわち、位置A1、位置A2、位置C1および位置C2における推定値がいずれも第2の閾値未満である場合には、ビーコン送信機が許可エリア内に存在するか否かを推定値のみから判定することはできない。そこで、位置判定部104は、ビーコン送信機の位置を、ビーコン送信機が位置判定可能な範囲外に存在することを意味する「圏外」と判定し得る。
【0059】
位置A1および位置A2の中点付近や位置C1および位置C2の中点付近では、これらの位置における推定値が第1の閾値未満かつ第2の閾値以上となることがあり得る。位置判定部104は、かかる場合であってもビーコン送信機が許可エリア内に存在するか否かを判定し得る。
【0060】
(4) 位置A1および位置A2における推定値が第1の閾値未満かつ第2の閾値以上であって、位置A1における推定値が位置C1における推定値以上であって、かつ位置A2における推定値が位置C2における推定値以上である場合には、ビーコン送信機は位置A1および位置A2の中点付近に存在し、かつ、ユーザ300の身体は位置A1または位置A2に向いていることを意味している。故に、位置判定部104は、ビーコン送信機の位置を例えば「ゲート内」と判定し得る。
【0061】
(5) 位置C1および位置C2における推定値が第1の閾値未満かつ第2の閾値以上であって、位置C1における推定値が位置A1における推定値以上であって、かつ位置C2における推定値が位置A2における推定値以上である場合には、ビーコン送信機は位置C1および位置C2の中点付近に存在し、かつ、ユーザ300の身体は位置C1または位置C2に向いている、換言すれば位置A1および位置A2に背を向けていることを意味している。故に、位置判定部104は、ビーコン送信機の位置を「ゲート外」と判定し得る。
【0062】
警報部105は、前述のプロセッサおよびメモリと、通信インタフェース、入出力インタフェース、および/または出力装置との組み合わせにより実現され得る。警報部105は、位置判定部104からの判定結果が例えば前述の「ゲート外」であった場合に、警報を発する。例えば、警報部105は、「持ち去り発生!」、「ビーコン○○が持ち去られます!」(○○はビーコン送信機の名称または識別子であり得るが、省略されてもよい)、「ユーザ□□がビーコンを持ち去ります!」(□□はユーザの名称または識別子であり得るが、省略されてもよい)、などのメッセージを表示または音声出力してもよいし、かかるメッセージデータを管理者の端末へ送信してもよい。
【0063】
以下、
図9を用いて、
図1の位置判定装置100の動作を説明する。
図9の動作は、例えばビーコン信号の送信周期毎に実行され得る。
まず、受信電力推定部103は、受信電力ログ記憶部102から受信電力データ群を読み出し、これに基づいて各位置におけるビーコン信号の受信電力を推定する(ステップS410)。なお、ステップS410の詳細は、
図10を用いて後述される。
【0064】
次に、位置判定部104は、ステップS410において生成された各位置におけるビーコン信号の受信電力の推定値と、第1の閾値および第2の閾値とに基づいて、対象ビーコンの位置を判定する(ステップS420)。なお、ステップS420の詳細は、
図11乃至
図13を用いて後述される。
【0065】
ステップS420における判定結果が「ゲート外」である場合には処理はステップS442へ進み、ステップS420における判定結果が「ゲート外」でない場合には
図9の動作は終了する(ステップS441)。
【0066】
ステップS442において、警報部105は警報を出力する。具体的には、警報部105は、メッセージを表示または音声出力してもよいし、かかるメッセージデータを管理者の端末へ送信してもよい。ステップS442の後、
図9の動作は終了する。
【0067】
以下、
図10を用いて、ステップS410の詳細を説明する。ステップS410の開始後、処理はまずステップS411に進む。
ステップS411において、受信電力推定部103は、未処理の位置のうちのいずれか1つを選択し、処理はステップS412に進む。
図2の例によれば、受信電力推定部103は、位置A1、位置A2、位置C1および位置C2から1つずつ順次選択し、ステップS412乃至ステップS417を通じて、選択位置におけるビーコン信号の受信電力を推定することになる。
【0068】
ステップS412において、受信電力推定部103は、選択位置に関する未処理のビーコン受信機210のうちのいずれか1つを選択する。
図3の例によれば、受信電力推定部103は、選択位置に設置されたビーコン受信装置200に含まれるビーコン受信機210-1およびビーコン受信機210-2から1つずつ順次選択し、ステップS413乃至ステップS415を通じて、選択位置におけるビーコン信号の受信電力の候補値の1つを算出することになる。
【0069】
受信電力推定部103は、ステップS412において選択したビーコン受信機210における直近4つのRSSIを、受信電力データ群から抽出する(ステップS413)。そして、受信電力推定部103は、ステップS413において抽出した4つのRSSIの最大値を探索する(ステップS414)。これにより、ステップS412において選択したビーコン受信機210における受信電力の揺らぎによる影響を抑制することができる。
【0070】
さらに、受信電力推定部103は、ステップS414において探索した最大RSSIに、ステップS412において選択したビーコン受信機210に対応するオフセットを加算し、当該ビーコン受信機210に対応する候補値を算出する(ステップS415)。これにより、ビーコン受信機210間の特性差分を吸収することができる。
【0071】
受信電力推定部103は、ステップS415の終了後に、選択位置に関して未処理のビーコン受信機210が残存するか否かを判定する(ステップS416)。未処理のビーコン受信機210が残存していれば処理はステップS412へ戻り、選択位置に関して全てのビーコン受信機210が処理済みであれば処理はステップS417へ進む。
図3の例によれば、各位置に関するビーコン受信機210の数は2つであるから、ステップS416における判定結果は順に「Yes」、「No」となる。
【0072】
ステップS417において、受信電力推定部103は、選択位置に関する全てのビーコン受信機210に亘る候補値の最大値を当該選択位置におけるビーコン信号の受信電力として推定する。
【0073】
受信電力推定部103は、ステップS417の終了後に、未処理の位置が残存するか否かを判定する(ステップS418)。未処理の位置が残存していれば処理はステップS411へ戻り、全ての位置が処理済みであれば
図10に例示したステップS410は終了する。
図2の例によれば、位置の数は4つであるから、ステップS418における判定結果は順に「Yes」、「Yes」、「Yes」、「No」となる。
【0074】
以下、
図11乃至
図13を用いて、ステップS420の詳細を説明する。
まず、位置判定部104は、位置A1、位置A2、位置C1および位置C2における推定値の全てが第2の閾値Th2未満であるか否かを判定する(ステップS421)。位置A1、位置A2、位置C1および位置C2における推定値の全てが第2の閾値Th2未満であると判定された場合には処理はステップS422へ進み、位置A1、位置A2、位置C1および位置C2における推定値の少なくとも1つが第2の閾値Th2以上であると判定された場合には処理はステップS423へ進む。
【0075】
ステップS422において、位置判定部104は、ビーコン送信機の位置を「圏外」と判定し、
図11および
図12に例示されたステップS420は終了する。
【0076】
ステップS423において、位置判定部104は、位置A1または位置A2における推定値が第1の閾値Th1以上であるか否かを判定する。位置A1または位置A2における推定値が第1の閾値Th1以上であると判定されれば処理はステップS426へ進み、位置A1および位置A2における推定値が全て第1の閾値Th1未満であると判定されれば処理はステップS424へ進む。
【0077】
ステップ424において、位置判定部104は、位置C1または位置C2における推定値が第1の閾値Th1以上であるか否かを判定する。位置C1または位置C2における推定値が第1の閾値Th1以上であると判定されれば処理はステップS425へ進み、位置C1および位置C2における推定値が全て第1の閾値Th1未満であると判定されれば処理は
図12のステップS431へ進む。
【0078】
ステップS425において、位置判定部104は、ビーコン送信機の位置を「ゲート外」と判定し、
図11および
図12に例示されたステップS420は終了する。
【0079】
ステップS426において、位置判定部104は、位置A1における推定値が第1の閾値Th1以上であって位置C1における推定値を上回ること、および位置A2における推定値が第1の閾値Th以上であって位置C2における推定値を上回ること、の少なくとも一方が満足するか否かを判定する。少なくとも一方が満足すると判定されれば処理はステップS427へ進み、そうでなければ処理はステップS428へと進む。
【0080】
ステップS427において、位置判定部104は、ビーコン送信機の位置を「ゲート内」と判定し、
図11および
図12に例示されたステップS420は終了する。
【0081】
ステップS428において、位置A1における推定値が第1の閾値Th1以上であって位置C1における推定値に略等しい、および位置A2における推定値が第1の閾値Th1以上であって位置C2における推定値に略等しい、の少なくとも一方が満足するか否かを判定する。少なくとも一方が満足すると判定されれば処理はステップS429へ進み、両方が満足しないと判定されれば処理はステップS430へと進む。
【0082】
ステップS429において、位置判定部104は、ビーコン送信機の位置を「ライン上」と判定し、
図11および
図12に例示されたステップS420は終了する。
【0083】
ステップS430において、位置判定部104は、ビーコン送信機の位置を「ゲート外」と判定し、
図11および
図12に例示されたステップS420は終了する。
【0084】
ステップS431において、位置判定部104は、位置A1における推定値が位置C1における推定値を上回ること、および位置A2における推定値が位置C2における推定値を上回ること、の両方が満足するか否かを判定する。両方が満足すると判定されれば処理はステップS432へ進み、少なくとも一方が満足しないと判定されれば処理はステップS434へと進む。
【0085】
ステップS432において、位置判定部104は、位置A1および位置A2における推定値が第2の閾値Th2以上であるか否かを判定する。位置A1および位置A2における推定値が第2の閾値Th2以上であると判定されれば処理はステップS433へ進み、位置A1または位置A2における推定値が第2の閾値Th2未満であると判定されれば処理はステップS437へ進む。
【0086】
ステップS433において、位置判定部104は、ビーコン送信機の位置を「ゲート内」と判定し、
図11および
図12に例示されたステップS420は終了する。
【0087】
ステップS434において、位置判定部104は、位置C1における推定値が位置A1における推定値を上回ること、および位置C2における推定値が位置A2における推定値を上回ること、の両方が満足するか否かを判定する。両方が満足すると判定されれば処理はステップS435へ進み、少なくとも一方が満足しないと判定されれば処理はステップS437へと進む。
【0088】
ステップS435において、位置判定部104は、位置C1および位置C2における推定値が第2の閾値Th2以上であるか否かを判定する。位置C1および位置C2における推定値が第2の閾値Th2以上であると判定されれば処理はステップS436へ進み、位置C1または位置C2における推定値が第2の閾値Th2未満であると判定されれば処理はステップS437へ進む。
【0089】
ステップS436において、位置判定部104は、ビーコン送信機の位置を「ゲート外」と判定し、
図11および
図12に例示されたステップS420は終了する。
【0090】
ステップS437において、位置判定部104は、ビーコン送信機の位置を「圏外」ではないが、「ゲート内」および「ゲート外」のいずれとも結論付けられないことを意味する「保留」と判定し、
図11および
図12に例示されたステップS420は終了する。
【0091】
図13は、ビーコン送信機を身に着けたユーザが、許可エリアから通過判定ラインを通り過ぎ、最終的には位置C1および位置C2を結ぶラインも通り過ぎていくまでの、位置A1、A2、C1およびC2における受信電力の変化と、各時点における位置判定部104の判定結果とを示す。
図13の例では、多数の地点におけるデータを収集して位置判定を行うために、被験者は10メートル強の距離を5分強かけて歩いている。なお、
図13の例では、第1の閾値Th1および第2の閾値Th2はそれぞれ-58dBmおよび-66dBmmに定められている。
【0092】
例えば、
図13の「14:55:25」時点での位置A1、位置A2、位置C1および位置C2におけるビーコン信号の受信電力(RSSI)の推定値はそれぞれ「-59dBm」、「-59dBm」、「-62dBm」および「-61dBm」である。故に、位置判定部104は、ステップS421、ステップS423、ステップS424、ステップS431、ステップS432、ステップS433の順で処理を実行し、「ゲート内」という判定結果を得る。
【0093】
また、
図13の「14:57:02」時点での位置A1、位置A2、位置C1および位置C2におけるビーコン信号の受信電力(RSSI)の推定値はそれぞれ「-75dBm」、「-70dBm」、「-60dBm」および「-55dBm」である。故に、位置判定部104は、ステップS421、ステップS423、ステップS424、ステップS425の順で処理を実行し、「ゲート外」という判定結果を得る。
【0094】
以上説明したように、実施形態に係る位置判定装置は、空間ダイバーシティ効果を利用することで複数の位置についてフェージングによる落ち込みを補正した受信電力を高精度に推定し、さらにこれらの推定値と2つの閾値とを用いた大小比較を行ってビーコン送信機の位置を判定する。具体的には、位置判定装置は、ユーザがビーコン受信装置を通り過ぎた直後に当該ビーコン受信装置の受信電力が人体の電波遮蔽効果により急激に低下する、という知見を利用したアルゴリズムによってビーコン送信機の位置を判定する。故に、この位置判定装置によれば、ビーコン受信機同士の間隔を従来よりも大きくして配置したとしても位置判定の精度を維持することができる。すなわち、位置判定システムにおいて設置されるビーコン受信機の配置制約を緩和することができる。
【0095】
(変形例1)
実施形態の説明では、ユーザ300がビーコン送信機を身に着けることを前提としているが、これとは逆にユーザ300がビーコン受信機を身に着けるようにしてもよい。この場合には、ビーコン受信機210をビーコン送信機に置き換える必要がある。ユーザ300の身に着けたビーコン受信機は、複数のビーコン送信機からのビーコン信号をそれぞれ受信し、受信電力データ群を位置判定装置100へ送信することになる。
【0096】
(変形例2)
前述の
図2の例では、幅10メートルの通過判定ラインをカバーするために合計4個のビーコン受信装置200を設置した。この配置例は、例えば道路のように通過判定ラインの中央にビーコン受信装置200を設置することが困難な環境に適している。他方、かかる制約が存在しない場合には、例えば位置A1および位置A2の中点付近と位置C1および位置C2の中点付近とに合計2つのビーコン受信装置200を設置してもよい。これにより、ビーコン受信装置200の必要数を抑えつつ、
図2の例と同規模の通過判定ラインをカバーすることができる。
【0097】
なお、この変形例では、例えば
図11および
図12を用いて説明したアルゴリズムを変形する必要がある。具体的には、「位置A1」を「位置A1および位置A2の中点付近」、「位置C1」を「位置C1および位置C2の中点付近」としてそれぞれ読み替えるとともに、「位置A2」および「位置C2」に関する記述を無視すればよい。
【0098】
上述の実施形態は、本発明の概念の理解を助けるための具体例を示しているに過ぎず、本発明の範囲を限定することを意図されていない。実施形態は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、様々な構成要素の付加、削除または転換をすることができる。
【0099】
上述の実施形態では、いくつかの機能部を説明したが、これらは各機能部の実装の一例に過ぎない。例えば、1つの装置に実装されると説明された複数の機能部が複数の別々の装置に亘って実装されることもあり得るし、逆に複数の別々の装置に亘って実装されると説明された機能部が1つの装置に実装されることもあり得る。
【0100】
上記各実施形態において説明された種々の機能部は、回路を用いることで実現されてもよい。回路は、特定の機能を実現する専用回路であってもよいし、プロセッサのような汎用回路であってもよい。
【0101】
上記各実施形態の処理の少なくとも一部は、例えば汎用のコンピュータに搭載されたプロセッサを基本ハードウェアとして用いることでも実現可能である。上記処理を実現するプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に格納して提供されてもよい。プログラムは、インストール可能な形式のファイルまたは実行可能な形式のファイルとして記録媒体に記憶される。記録媒体としては、磁気ディスク、光ディスク(CD-ROM、CD-R、DVD等)、光磁気ディスク(MO等)、半導体メモリなどである。記録媒体は、プログラムを記憶でき、かつ、コンピュータが読み取り可能であれば、何れであってもよい。また、上記処理を実現するプログラムを、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ(サーバ)上に格納し、ネットワーク経由でコンピュータ(クライアント)にダウンロードさせてもよい。
【符号の説明】
【0102】
100・・・位置判定装置
101・・・受信部
102・・・受信電力ログ記憶部
103・・・受信電力推定部
104・・・位置判定部
105・・・警報部
200・・・ビーコン受信装置
210・・・ビーコン受信機
220・・・ポール
230・・・ベース
300・・・ユーザ