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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】吸引式配湯装置
(51)【国際特許分類】
   F04F 10/00 20060101AFI20221227BHJP
   B22D 39/06 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
F04F10/00 J
B22D39/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018202770
(22)【出願日】2018-10-29
(65)【公開番号】P2020070719
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390036858
【氏名又は名称】ゼオンノース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(73)【特許権者】
【識別番号】399038527
【氏名又は名称】株式会社スズムラ
(74)【代理人】
【識別番号】100072604
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 軍一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140501
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 栄一郎
(72)【発明者】
【氏名】松岡 隆司
(72)【発明者】
【氏名】堀内 正樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 隆広
(72)【発明者】
【氏名】黄 先明
【審査官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-061906(JP,A)
【文献】特開2005-088070(JP,A)
【文献】特開2005-161403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04F 10/00
B22D 39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の溶湯を貯留する一方の容器から他方の容器に前記溶湯を汲み出し可能なサイフォン部を有し、前記溶湯を前記サイフォン部を介して配湯する吸引式配湯装置であって、
前記サイフォン部は、
前記他方の容器内の溶湯に閉塞状態に浸漬される下端開口部を有し、前記他方の容器内の溶湯との間に減圧可能な吸引室を画成する一端開口形状の第1吸引管と、
前記第1吸引管の所定高さ位置に連結された基端部および前記配湯時に前記一方の容器内に挿入されて該一方の容器内の溶湯に閉塞状態に浸漬される先端部を有する第2吸引管と、を含んで構成され、
前記第1吸引管内の前記吸引室の横断面積が、前記第2吸引管内の通路の横断面積より大きくなっており、

前記第1吸引管は、前記他方の容器内の溶湯の前記吸引室内における液面高さを前記所定高さ位置以上の所定範囲内に引き上げるよう前記吸引室内を減圧排気可能であることを特徴とする吸引式配湯装置。
【請求項2】
前記第1吸引管の前記下端開口部が前記他方の容器内の溶湯に閉塞状態に浸漬されるとき、
前記第2吸引管の前記先端部の鉛直方向高さが、前記他方の容器内の溶湯の液面高さよりも鉛直方向上方側に位置することを特徴とする請求項1に記載の吸引式配湯装置。
【請求項3】
前記配湯時における前記第2吸引管の先端部が、前記一方の容器内で内底壁面の近傍の下限液面高さ位置に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の吸引式配湯装置。
【請求項4】
前記他方の容器内の溶湯の前記吸引室内における液面高さが前記所定高さ位置から所定範囲を超えて上方に引き上げられたときに該溶湯の前記吸引室内における液面上昇を検知する異常検知手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の吸引式配湯装置。
【請求項5】
前記第2吸引管の前記先端部が前記一方の容器内の溶湯に閉塞状態に浸漬されるとき、前記第2吸引管の長さ方向の中間部が、前記一方の容器内の溶湯の液面高さよりも鉛直方向上方側に配置されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の吸引式配湯装置。
【請求項6】
供給側の炉内から取鍋内に受湯された金属の溶湯を汲み出し可能なサイフォン部を有し、前記溶湯を前記サイフォン部を介して前記取鍋から被供給側の炉内に配湯する吸引式配湯装置であって、
前記サイフォン部は、前記被供給側の炉内の溶湯に閉塞状態に浸漬される下端開口部を有し、前記被供給側の炉内の溶湯との間に減圧可能な吸引室を画成する一端開口形状の第1吸引管と、前記第1吸引管の所定高さ位置に連結された基端部および前記配湯時に前記取鍋に挿入されて該取鍋内の溶湯に閉塞状態に浸漬される先端部を有する第2吸引管と、を含んで構成され、
前記第1吸引管内の前記吸引室の横断面積が、前記第2吸引管内の通路の横断面積より大きくなっており、
前記第1吸引管は、前記被供給側の炉内の溶湯の前記吸引室内における液面高さを前記所定高さ位置以上の所定範囲内に引き上げるよう前記吸引室内を排気可能な排気口部を有していることを特徴とする吸引式配湯装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸引式配湯装置に関し、例えばダイカスト成形用の金属の溶湯を取鍋と保持炉等の炉の間で移動させるのに好適な吸引式配湯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト成形に使用されるアルミニウム合金等の金属の溶湯(溶融金属)は、一般に、集中溶解炉から取鍋、取鍋から手許炉や保持炉(保持炉ウェル)へと移してから、ダイカスト成形機等へ供給されている。
【0003】
また、従前における溶湯の移動は、取鍋から手許炉や保持炉もしくは溶解炉等に配湯する際に、取鍋をリフトで傾けて出湯したり取鍋内を加圧して出湯したりすることにより行われていた。しかし、取鍋を傾ける前者の場合は、溶湯内ガスが外部に出たり溶湯が飛散したりする危険性があり、取鍋内を加圧する後者の場合は、前者よりも安全であるものの、配湯終了時の溶湯の飛散や溶湯内ガス量の増加という問題があった。
【0004】
そこで、従来、集中溶解炉等から受湯する取鍋に溶湯汲み出し用のサイフォン部を設けて、そのサイフォン部の頂部に位置する小容器の内部を真空吸引することで、溶湯の特性を悪化させることなく取り扱いの安全性を高めるようにした液体用容器が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-161403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような従来のサイフォン式の配湯装置にあっても、供給側と被供給側の溶湯の液面レベルの差が小さくなると、サイフォン部における管内流量が低下して溶湯の移動(配湯)に時間がかかってしまうという問題があった。
【0007】
また、取鍋にサイフォン部を設けていたため、配湯のためにリフト車両その他の荷役車両で搬送される取鍋の重量やコストが嵩んだり、取鍋の形状やサイズの自由度が損なわれたりしてしまうという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、被供給側からのサイフォン部の補助吸引を可能にすることにより、溶湯の迅速な移動が可能で、しかも、取鍋の形状やサイズの自由度を高め得る吸引式配湯装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る吸引式配湯装置は、上記目的達成のため、金属の溶湯を貯留する一方の容器から他方の容器に前記溶湯を汲み出し可能なサイフォン部を有し、前記溶湯を前記サイフォン部を介して配湯する吸引式配湯装置であって、前記サイフォン部は、前記一方の容器内の溶湯に閉塞状態に浸漬される下端開口部を有し、前記一方の容器内の溶湯との間に減圧可能な吸引室を画成する一端開口形状の第1吸引管と、前記第1吸引管の所定高さ位置に連結された基端部および前記配湯時に前記他方の容器内に挿入されて該他方の容器内の溶湯に閉塞状態に浸漬される先端部を有する第2吸引管と、を含んで構成され、前記第1吸引管は、前記一方の容器内の溶湯の前記吸引室内における液面高さを前記所定高さ位置以上の所定範囲内に引き上げるよう前記吸引室内を減圧排気可能であることを特徴とする。
【0010】
この構成により、本発明では、サイフォン効果を生じさせるための減圧排気による補助吸引が溶湯の移動先となる第2容器側から可能となり、第1容器および第2容器内の溶湯の液面レベルの差が小さくなっても、第2容器内における吸引管内外の溶湯の液面レベルの差を適度に保つことで、所要の溶湯移動速度を保つことができる。したがって、溶湯の迅速な移動が可能で、しかも、一方の容器の形状やサイズの自由度を高め得る吸引式配湯装置となる。
【0011】
勿論、取鍋等の一方の容器を傾けるような配湯作業が必要でなく、一方の容器内のガスが外部に漏れ難いことから、配湯作業の安全性も確保できる。
【0012】
本発明においては、前記第1吸引管の前記下端開口部が前記他方の容器内の溶湯に閉塞状態に浸漬されるとき、前記第2吸引管の前記先端部の鉛直方向高さが、前記他方の容器内の溶湯の液面高さよりも鉛直方向上方側に位置する構成とすることができる。このようにすると、供給側と被供給側の溶湯の液面高さの差を利用したサイフォン効果を有効に発揮させることができ、溶湯移動速度を十分に高めることができ、溶湯の迅速な移動が可能となる。
【0013】
また、前記配湯時における前記第2吸引管の先端部が、前記一方の容器内で内底壁面の近傍の下限液面高さ位置に配置される構成とすることができる。このようにすると、一方の容器内の溶湯の略全量を確実に汲み出すことができる。
【0014】
さらに、前記他方の容器内の溶湯の前記吸引室内における液面高さが前記所定高さ位置から所定範囲を超えて上方に引き上げられたときに該溶湯の前記吸引室内における液面上昇を検知する異常検知手段をさらに備えている構成とすることができる。この構成により、補助吸引の負圧を加えたサイフォン効果で溶湯移動速度が過剰に高まるのを、吸引管内の液面の過剰な上昇として検出でき、吸引室内の圧力制御により溶湯移動速度を制御できることになる。
【0015】
本発明においては、前記第1吸引管内の前記吸引室の横断面積が、前記第2吸引管内の通路の横断面積より大きい構成となっている。したがって、被供給側の第1吸引管内に吸引室を画成しながらも、第2吸引管内の流速を第1吸引管内より高めることで、配湯時に第2吸引管内の的確な排気と所要の溶湯移動速度の確保が可能となる。
【0016】
また、前記第2吸引管の前記先端部が前記一方の容器内の溶湯に閉塞状態に浸漬されるとき、前記第2吸引管の長さ方向の中間部が、前記一方の容器内の溶湯の液面高さよりも鉛直方向上方側に配置されるとよい。このようにすると、略逆V形状に湾曲させた第2吸引管を一方の容器に対し上方から抜き差しでき、前述の第2吸引管内の溶湯移動速度の高速化と相俟って迅速で安全な配湯作業が可能となる。
【0017】
本発明に係る吸引式配湯装置は、あるいは、供給側の炉内から取鍋内に受湯された金属の溶湯を汲み出し可能なサイフォン部を有し、前記溶湯を前記サイフォン部を介して前記取鍋から被供給側の炉内に配湯する吸引式配湯装置であって、前記サイフォン部は、前記被供給側の炉内の溶湯に閉塞状態に浸漬される下端開口部を有し、前記被供給側の炉内の溶湯との間に減圧可能な吸引室を画成する一端開口形状の第1吸引管と、前記第1吸引管の所定高さ位置に連結された基端部および前記配湯時に前記取鍋に挿入されて該取鍋内の溶湯に閉塞状態に浸漬される先端部を有する第2吸引管と、を含んで構成され、前記第1吸引管内の前記吸引室の横断面積が、前記第2吸引管内の通路の横断面積より大きくなっており、前記第1吸引管は、前記被供給側の炉内の溶湯の前記吸引室内における液面高さを前記所定高さ位置以上の所定範囲内に引き上げるよう前記吸引室内を排気可能な排気口部を有していることを特徴とするものである。
【0018】
この構成により、本発明では、サイフォン効果を生じさせるための補助吸引が被供給側から可能となり、供給側と被供給側の溶湯の液面レベルの差が小さくなっても、被供給側における吸引管内外の溶湯の液面レベルの差を適度に保つことで、所要の溶湯移動速度を保つことができる。したがって、溶湯の迅速な移動が可能で、しかも、取鍋の形状やサイズの自由度を高め得る吸引式配湯装置となる。
【0019】
また、荷役車両等による搬送が要求される取鍋にサイフォン部を装着する必要がなくなることで、取鍋の製造および搬送コストを低減できることとなり、取鍋の形状やサイズの自由度も高まることとなる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、被供給側からのサイフォン部の補助吸引を可能にすることにより、溶湯の迅速な移動が可能で、しかも、取鍋の形状やサイズの自由度を高め得る吸引式配湯装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る吸引式配湯装置の概略正面断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る吸引式配湯装置を含むダイカスト成形システムの概略構成の説明図である。
図3】本発明の他の実施形態に係る吸引式配湯装置の概略正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0023】
(一実施形態)
図1および図2は、本発明の一実施形態に係る吸引式配湯装置とそれを含むダイカスト成形システムの概略構成を示している。
【0024】
まず、構成について説明する。
【0025】
図1ないし図2に示すように、本実施形態の吸引式配湯装置を含むダイカスト成形システム1は、供給側の炉である集中溶解炉2と、集中溶解炉2内から所定量の金属の溶湯(溶融金属)を受湯可能な取鍋3(一方の容器)と、被供給側の炉である保持炉4(他方の容器;他方式の手許炉でもよい)と、保持炉4から溶湯が注湯されるダイカスト成形機5と、取鍋3内の溶湯を汲み出し可能なサイフォン部12を有する吸引式配湯装置10と、を含んで構成されている。
【0026】
集中溶解炉2には、ダイカスト成形用の所定の金属材料が投入されており、例えばアルミニウム合金(ADC材)が溶融した状態の金属の溶湯が貯留されている。
【0027】
取鍋3は、集中溶解炉2内から所定量の金属の溶湯を受湯して収容する耐熱および耐火性の容器である。
【0028】
図2に示すように、集中溶解炉2側から溶湯を受湯した取鍋3は、リフト車両等の荷役車両8によって保持炉4側に搬送される。そして、そこで、保持炉4側に着脱可能に配置された本実施形態の吸引式配湯装置10により、取鍋3内の溶湯が汲み出されて保持炉4側に配湯される。
【0029】
ダイカスト成形機5は、保持炉4から移送される溶湯を成形型のキャビティ内に充填および加圧して圧力鋳造する、公知のダイカスト成形を行うことができる。
【0030】
吸引式配湯装置10は、昇降式または固定の支持フレーム11と、この支持フレーム11に支持された状態で取鍋3内の溶湯を汲み出し可能なサイフォン部12とを有しており、取鍋3内からの溶湯をサイフォン部12を介して取鍋3から被供給側の保持炉4内に配湯するようになっている。
【0031】
サイフォン部12は、それぞれ耐火材で形成された第1吸引管21と第2吸引管22とを含んで構成されている。
【0032】
図1中に片断面で示すように、鉛直方向に延びる第1吸引管21は、被供給側の保持炉4内の溶湯に閉塞状態に浸漬される下端開口部21aを有するとともに、被供給側の保持炉4内の溶湯との間に減圧可能な吸引室23を画成する一端開口形状を有している。ここで、下端開口部21aの設置高さは、保持炉4内の配湯可能な下限の液面レベルL1より鉛直方向下方に配置される。
【0033】
また、図1中に縦断面で示すように、第2吸引管22は、第1吸引管21の下端から所定高さ位置h1に連結された基端部22aと、配湯時に取鍋3に挿入されてその取鍋3内の溶湯に閉塞状態に浸漬される先端部22bと、逆V字形のように鉛直上方側に凸となる湾曲形状をなす中間部22cとを有している。
【0034】
さらに、第1吸引管21の上端側には、吸引室23内を排気可能な排気口部21cが天井壁部21dを貫通する通路の一部として設けられている。
【0035】
この排気口部21cは、支持フレーム11に第1吸引管21と一体的に支持された真空ポンプ24と協働して、吸引室23内を減圧するように吸引排気する排気手段を構成しており、保持炉4内の溶湯の吸引室23内における略円形の液面L2aの高さを、所定高さ位置h1以上でかつ上昇限度液面高さLexまでの所定範囲ha内に引き上げることができるようになっている。
【0036】
所定高さ位置h1は、保持炉4内の溶湯の満量状態に対応する上限の液面レベルL2からの引き上げ高さh2に配置されている。
【0037】
また、所定高さ位置h1以上の所定範囲ha内に引き上げられる吸引室23内の液面L2aの高さは、好ましくは、第2吸引管22の基端部22aにおいてその内部通路22dが吸引室23側に開口する高さ範囲よりも上方側である。すなわち、第2吸引管22の基端部22a側の内部通路22dが溶湯により確実に閉塞状態にされるように、液面L2aの引き上げ高さが設定されるのがよい。
【0038】
さらに、第1吸引管21の下端開口部21aが保持炉4内の溶湯液面下に閉塞状態に浸漬されるとき、第2吸引管22の先端部22bの鉛直方向高さが取鍋3の内底面3bの近傍の下限の液面レベルL3に略一致するように、配湯時における取鍋3の支持高さが設定されている。
【0039】
ここにいう配湯時の下限の液面レベルL3は、それぞれ図2中の液面レベルL2、L3の最小高低差h3に対応する取鍋3内の下限液面高さ位置であり、保持炉4内の溶湯の上限の液面レベルL2よりも鉛直方向上方側に位置している。したがって、第2吸引管の先端部22bは、保持炉4内の溶湯の液面レベルL2の高さよりも鉛直方向上方側に位置するとともに、取鍋3内の溶湯の下限の液面レベルL3から上限の液面レベルL4までの溶湯貯留高さ領域の下限近傍の鉛直方向高さに配置されることになる。
【0040】
一方、第1吸引管21の上端側には、吸引室23の天井側から鉛直方向下方に突出するように異常検知電極31が絶縁状態に支持されている。
【0041】
この異常検知電極31は、保持炉4内の溶湯の吸引室23内における液面L2aの高さが所定高さ位置h1から高さ方向の所定範囲haを超えて上方に引き上げられたときに第1吸引管21内の溶湯に接触し導通するようになっており、図外の異常検出回路と協働して、吸引室23内における液面L2aの過剰な上昇(配湯速度の急変)を異常として検知するようになっている。
【0042】
すなわち、本実施形態においては、排気口部21cを通した吸引室23内の排気(補助吸引)による負圧と保持炉4内の溶等に加わる大気圧との差圧が大きいために、液面レベルL2、L3の高低差を用いるサイフォン効果に基づく溶湯移動速度が過剰に高まるとき、異常検知電極31を含む異常検出手段が第1吸引管21内の液面L2aの過剰な上昇を検出し、その異常検出信号を基に吸引室23内の排気制御(排気速度の増減による圧力制御、あるいは排気通路の遮断および開通)により溶湯移動速度を制御できるようになっている。
【0043】
また、第1吸引管21内の吸引室23の横断面積(通路断面積)は、第2吸引管内の通路の横断面積より大きくなっており、溶湯の移動先である保持炉4側の第1吸引管21内に吸引室23を画成しながらも、第2吸引管22内の溶等の流速を第1吸引管21内よりも一定比率で高めることにより、第2吸引管22内の迅速かつ確実な排気と所要の配湯速度の確保とを実現できるように構成されている。
【0044】
本実施形態では、さらに、第2吸引管22の先端部22bが取鍋3内の溶湯に閉塞状態に浸漬されるとき、第2吸引管22の長さ方向の中間部22cが、取鍋3内の溶湯の上限の液面高さL2よりも鉛直方向上方側に配置されるようになっており、略逆V形状に湾曲させた第2吸引管22を取鍋3に対し上方から抜き差しでき、前述の溶湯移動速度の高速化と相俟って迅速で安全な配湯作業ができるようになっている。
【0045】
次に、作用について説明する。
【0046】
上述のように構成された本実施形態の吸引式配湯装置10およびこれを備えたダイカスト成形システムにおいては、溶湯の移動先である保持炉4側に配置された吸引室23を通して、安定したサイフォン効果を生じさせるための補助吸引が可能となる。
【0047】
したがって、溶湯液面が相対的に高所に配置される供給側の取鍋3と溶湯液面が相対的に低所に配置される被供給側の保持炉4との間で、双方の溶湯液面レベルの差が小さくなったとしても、保持炉4内における第1吸引管21内外の溶湯の液面レベルの差(配湯開始時の高さh2に対応)を適度に保つ程度の排気制御(吸引負圧の制御)を行うだけで、所要の溶湯移動速度を保つことができることとなる。その結果、取鍋3から保持炉4内への溶湯の迅速な移動が可能で、しかも、取鍋3の形状やサイズの自由度を高め得る吸引式配湯装置10となる。
【0048】
また、従前のように取鍋3を傾けるような配湯作業が必要でなく、取鍋3内のガスが外部に漏れ難いことから、配湯作業の安全性が確保できる。加えて、サイフォン部12を被供給側である保持炉4に予め配置しておけば、荷役車両等による搬送が要求される個々の取鍋3にサイフォン部12を装着する必要がない。したがって、被供給側の保持炉4に対して相対的に数が多くなる取鍋3の製造コストおよび搬送コストを低減できることとなり、取鍋3の形状やサイズの自由度も高まることとなる。
【0049】
本実施形態では、さらに、第2吸引管22の先端部22bの鉛直方向高さが、第1吸引管21外における保持炉4内の溶湯の液面レベルL2よりも鉛直方向上方側に位置しているので、供給側と被供給側の溶湯の液面高さの差を利用したサイフォン効果を有効に発揮させることができ、溶湯移動速度を十分に高めることができ、迅速な配湯が可能となる。
【0050】
しかも、配湯時における第2吸引管の先端部22bが、取鍋3内の溶湯の下限の液面高さL3に略一致するので、取鍋3内の溶湯の略全量を確実に汲み出すことができる。
【0051】
加えて、本実施形態では、吸引室23内の異常な液面上昇を検知する異常検知電極31が設けられているので、取鍋3側と保持炉4側の溶湯液面の高低差に基づくサイフォン効果での溶湯移動の速度が過剰に高まるのを、吸引室23内の溶湯に作用する負圧を制御することで、制御できることになる。
【0052】
しかも、本実施形態では、第1吸引管21内の吸引室23の通路断面積が、第2吸引管22の内部通路22dの断面積より大きいので、被供給側の第1吸引管21内に吸引室23を画成しながらも、第2吸引管22内の管内流速を第1吸引管21内よりも高めることができ、配湯時に第2吸引管22内の的確な排気と所要の溶湯移動速度の確保が可能となる。
【0053】
また、第2吸引管22の長さ方向の中間部22cが、取鍋3内の溶湯の上限の液面レベルL4さよりも鉛直方向上方側に配置されるので、略逆V形状に湾曲させた第2吸引管22を取鍋3に対し上方から抜き差しすることができ、前述の第2吸引管22内の溶湯移動速度の高速化と相俟って、迅速で安全な配湯作業を行うことができる。
【0054】
このように、本実施形態においては、サイフォン効果を生じさせるための補助吸引が被供給側から可能となり、供給側と被供給側の溶湯の液面レベルの差が小さくなっても、被供給側における吸引管内外の溶湯の液面レベルの差を適度に保つことで、所要の溶湯移動速度を保つことができ、溶湯の迅速な移動が可能となる。
【0055】
また、荷役車両等による搬送が要求される取鍋3にサイフォン部を装着する必要がなくなることで、取鍋3の製造および搬送コストを低減できることとなり、取鍋3の形状やサイズの自由度も高まることとなる。
【0056】
よって、溶湯の迅速な移動が可能で、しかも、取鍋の形状やサイズの自由度を高め得る吸引式配湯装置10を提供することができる。
【0057】
(他の実施形態)
図3は、本発明の他の実施形態に係る吸引式配湯装置を示している。
【0058】
なお、本実施形態は、前述の一実施形態と類似する構成を有するので、共通のまたは対応する構成要素については前述の一実施形態と同一の符号を用いて説明する。
【0059】
本実施形態の吸引式配湯装置10においては、サイフォン部12の第1吸引管21および第2吸引管22の結合位置と、第2吸引管22の湾曲形状と、取鍋3の形態とが、それぞれ前述の一実施形態とは相違する。
【0060】
本実施形態における第2吸引管22は、その基端部22aが第1吸引管21の上端部に結合されており、吸引室23に接続する高さ位置(所定高さ位置)と向きが前述の一実施形態の場合とは相違する。
【0061】
また、第2吸引管22の基端部22aの開口は、吸引室23内の溶湯の液面L2aが吸引室23内の減圧排気によって引き上げられる高さ位置の近傍に配置されるが、吸引室23内に開放されていてもよいし、液面L2aの下方に入っていてもよい。ただし、第2吸引管22の両端に所定の圧力差が生じ、サイフォン効果が生じ得るように設定される。
【0062】
図3中の各液面レベルL1、L2、L3、L4のそれぞれか、取鍋3内の溶湯の下限の液面レベルL3または保持炉4内の上限の液面レベルL2に達したことを検出するセンサと、第1吸引管21内の液面L2aの上限の液面レベルLexに達したことを検出するセンサとを設けるようにしてもよい。なお、同図中の各液面レベルを指し示す下向の三角形は、各液面レベルのセンサを示している。
【0063】
他の構成は、前述の一実施形態と同様であり、本実施形態においても、一実施形態と同様の効果が得られる。
【0064】
なお、前述の各実施形態においては、溶湯の移動先をダイカスト成形機側の保持炉4としたが、溶湯の供給側で液面が相対的に高所に配置される一方の容器は、取鍋に限定されるものでなく、溶湯の被供給側で液面が相対的に低所に配置される他方の容器は、保持炉や手許炉に限定されるものではない。すなわち、集中溶解炉等の溶湯液面が相対的に高所となり取鍋内の溶湯液面が相対的に低所となるような場合には、一方の容器が溶解炉等の炉となり、他方の容器が取鍋となり得るものであり、溶解炉から取鍋への受湯等にも本発明を適用できる。
【0065】
また、吸引室23は、真空ポンプ24での吸引により減圧排気するものとしたが、他の減圧排気方式とすることも考えられる。ただし、減圧(大気圧との差圧)の程度を増減制御できるのがよい。
【0066】
ここでは、ダイカスト成形機への注湯の手段については、言及しないが、特定の方式に限定されるものでないことはいうまでもない。さらに、ダイカスト成形機がアルミダイカスト成形に限らず、使用する材料やその注湯方式が異なる公知のいずれのものであってもよいことも勿論である。
【0067】
以上説明したように、本発明は、被供給側からのサイフォン部の補助吸引を行うことで、溶湯の迅速な移動が可能で、しかも、取鍋の形状やサイズの自由度を高め得る吸引式配湯装置を提供できるものであり、ダイカスト成形用の金属の溶湯を取鍋と保持炉等の炉の間で移動させる吸引式配湯装置全般に有用である。
【符号の説明】
【0068】
1 ダイカスト成形システム
2 集中溶解炉
3 取鍋(一方の容器、供給側の容器)
3b 内底面
4 保持炉(他方の容器、被供給側の容器、手許炉)
5 ダイカスト成形機
10 吸引式配湯装置
11 支持フレーム
12 サイフォン部
21 第1吸引管
21a 下端開口部
21c 排気口部(吸引排気手段)
21d 天井壁部
22 第2吸引管
22a 基端部
22b 先端部
22c 中間部
22d 内部通路
23 吸引室
24 真空ポンプ(排気手段)
31 異常検知電極
h1 所定高さ位置
h2 引き上げ高さ
h3 最小高低差
Lex 上昇限度液面高さ
L1 下限の液面レベル(他方の容器内の溶湯液面の下限高さ)
L2 上限の液面レベル(他方の容器内の溶湯液面の上限高さ)
L2a 液面(第1吸引管室内の溶湯の液面)
L3 下限の液面レベル(一方の容器内の液面の下限高さ)
L4 上限の液面レベル(一方の容器内の液面の上限高さ)
図1
図2
図3