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  • 特許-グローブ用布帛および繊維製品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】グローブ用布帛および繊維製品
(51)【国際特許分類】
   D04B 21/16 20060101AFI20221227BHJP
   A41D 19/00 20060101ALI20221227BHJP
   A41D 19/015 20060101ALI20221227BHJP
   D01F 8/14 20060101ALI20221227BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20221227BHJP
   D03D 15/20 20210101ALI20221227BHJP
   D03D 15/33 20210101ALI20221227BHJP
   D03D 15/37 20210101ALI20221227BHJP
【FI】
D04B21/16
A41D19/00 A
A41D19/015 210Z
D01F8/14 B
D03D1/00 Z
D03D15/20 200
D03D15/33
D03D15/37
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018206399
(22)【出願日】2018-11-01
(65)【公開番号】P2020070524
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 昭
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-275296(JP,A)
【文献】特開2016-037686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D19/00-19/04
D01F8/00-8/18
D03D1/00-27/18
D04B1/00-1/28
21/00-21/20
D06N1/00-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
織物組織または編物組織を有するグローブ用布帛であって、該布帛が、単繊維径が10~1500nmのフィラメント糸Aおよび前記フィラメント糸Aよりも単繊維径が大きいフィラメント糸Bを含み、タテ方向またはヨコ方向において、JIS L 1096-2010 8.16.1.D法による伸び率が13%以上であり、かつ厚みが0.45mm以下であり、前記フィラメント糸Bが、二種以上のポリエステル成分からなり、その少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである複合繊維であることを特徴とするグローブ用布帛。
【請求項2】
タテ方向またはヨコ方向において、JIS L 1096-2010 8.16.2.D法による伸長回復率が60%以上である、請求項1に記載のグローブ用布帛。
【請求項3】
タテ方向またはヨコ方向において、JIS L 1096-2010 8.20.3.C法(ループ圧縮法)による曲げ硬さLHが1.0~7.0cNの範囲内である、請求項1または請求項2に記載のグローブ用布帛。
【請求項4】
前記フィラメント糸Aが、ポリトリメチレンテレフタレートからなるフィラメントである、請求項1~3のいずれかに記載のグローブ用布帛。
【請求項5】
前記フィラメント糸Aのフィラメント数が500本以上である、請求項1~4のいずれかに記載のグローブ用布帛。
【請求項6】
前記フィラメント糸Bの総繊度が、45dtex以下である、請求項1~5のいずれかに記載のグローブ用布帛。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のグローブ用布帛を用いてなる、スポーツ用グローブ、アウトドア用グローブ、バイク用グローブ、作業用グローブ、精密作業用グローブ、医療用グローブ、生活アシストグローブからなる群より選択されるいずれかの繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いグリップ力、ソフト性、伸長回復性を併せ持つグローブ用布帛および該布帛を用いてなる繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、グローブ用途には天然皮革、人工皮革、合繊繊維スウェードなどが用いられてきた。しかしながら、天然皮革はフィット感、グリップ力には優れているものの耐久性に問題があった。一方、人工皮革や合繊繊維スウェードは耐久性に優れているものの、フィット感やグリップ力が劣るといった問題があった。
【0003】
かかる対策として、例えば特許文献1では、ナノファイバーと称せられる超極細繊維を用いたグローブ用布帛が提案されている。しかしながら、かかるグローブ用布帛は、グリップ力は十分であるが、まだ天然皮革のようなフィット感には不十分であった。
また、グローブ用布帛には、高いグリップ力はもちろんのこと、ソフト性や形態安定性なども要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-100964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、高いグリップ力、ソフト性、伸長回復性を併せ持つグローブ用布帛および該布帛を用いてなる繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、グローブ用布帛を構成する繊維の種類や単繊維径などを巧みに工夫することにより、高いグリップ力、ソフト性、伸長回復性を併せ持つグローブ用布帛が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば「織物組織または編物組織を有するグローブ用布帛であって、該布帛が、単繊維径が10~1500nmのフィラメント糸Aおよび前記フィラメント糸Aよりも単繊維径が大きいフィラメント糸Bを含み、タテ方向またはヨコ方向において、JIS L 1096-2010 8.16.1.D法による伸び率が13%以上であり、かつ厚みが0.45mm以下であり、前記フィラメント糸Bが、二種以上のポリエステル成分からなり、その少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである複合繊維であることを特徴とするグローブ用布帛。」が提供される。
【0008】
その際、タテ方向またはヨコ方向において、JIS L 1096-2010 8.16.2.D法による伸長回復率が60%以上であることが好ましい。また、タテ方向またはヨコ方向において、JIS L 1096-2010 8.20.3.C法(ループ圧縮法)による曲げ硬さLHが1.0~7.0cNの範囲内であることが好ましい。また、前記フィラメント糸Aが、ポリトリメチレンテレフタレートからなるフィラメントであることが好ましい。また、前記フィラメント糸Aのフィラメント数が500本以上であることが好ましい。また、前記フィラメント糸Bの総繊度が、45dtex以下であることが好ましい。
【0009】
また、本発明によれば、前記のグローブ用布帛を用いてなる、スポーツ用グローブ、アウトドア用グローブ、バイク用グローブ、作業用グローブ、精密作業用グローブ、医療用グローブ、生活アシストグローブからなる群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高いグリップ力、ソフト性、伸長回復性を併せ持つグローブ用布帛および該布帛を用いてなる繊維製品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1で用いた編組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明のグローブ用布帛は、織物組織または編物組織を有するグローブ用布帛であって、該布帛が、単繊維径が10~1500nmのフィラメント糸Aを含む。
【0014】
ここで、前記フィラメント糸Aにおいて、その単繊維径(単繊維の直径)が10~1500nm(好ましくは100~800nm、特に好ましくは510~800nm)の範囲内であることが肝要である。かかる単繊維径を単繊維繊度に換算すると、例えば1000nmは0.01dtexに相当する。該単繊維径が10nmよりも小さい場合は繊維強度が低下するため実用上好ましくない。逆に、該単繊維径が1500nmよりも大きい場合は、十分なグリップ力が得られないおそれがある。ここで、単繊維の横断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0015】
前記フィラメント糸Aにおいて、フィラメント数は特に限定されないが、高いグリップ力を得る上で500本以上(より好ましくは2000~20000本)であることが好ましい。また、フィラメント糸Aの総繊度(単繊維繊度とフィラメント数との積)としては、5~300dtexの範囲内であることが好ましい。
【0016】
前記フィラメント糸Aの繊維形態は特に限定されないが、長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0017】
前記フィラメント糸Aの繊維種類としては、ポリエステル繊維またはポリフェニレンスルフィド(PPS)繊維またはポリオレフィン繊維またはナイロン(Ny)繊維が好ましい。
【0018】
ポリエステル繊維を形成するポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、これらを主たる繰返し単位とする、イソフタル酸や5-スルホイソフタル酸金属塩等の芳香族ジカルボン酸やアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸やε-カプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸縮合物、ジエチレングリコールやトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等のグリコール成分等との共重合体が好ましい。マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルや、特開2009-091694号公報に記載された、バイオマスすなわち生物由来の物質を原材料として得られたモノマー成分を使用してなるポリエチレンテレフタレートであってもよい。さらには、特開2004-270097号公報や特開2004-211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。
【0019】
ポリフェニレンスルフィド(PPS)繊維を形成するポリアリーレンスルフィド樹脂としては、ポリアリーレンスルフィド樹脂と称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いてもよい。ポリアリーレンスルフィド樹脂としては、その構成単位として、例えばp-フェニレンスルフィド単位、m-フェニレンスルフィド単位、o-フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルホン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ジフェニレンスルフィド単位、置換基含有フェニレンスルフィド単位、分岐構造含有フェニレンスルフィド単位、等よりなるものを挙げることができる。その中でも、p-フェニレンスルフィド単位を70モル%以上、特に90モル%以上含有しているものが好ましく、さらにポリ(p-フェニレンスルフィド)がより好ましい。
【0020】
また、ポリオレフィン繊維には、ポリプロピレン繊維とポリエチレン繊維が含まれる。
また、ナイロン繊維にはナイロン6繊維とナイロン66繊維が含まれる。
【0021】
前記繊維を形成するポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0022】
本発明において布帛がポリエステルフィラメント糸Aの他に、フィラメント糸Aよりも単繊維径が大きいフィラメント糸Bが含まれると布帛の伸長回復率が向上し好ましい。
【0023】
前記フィラメント糸Bにおいて、フィラメント数は特に限定されないが、1~300本の範囲内であることが好ましい。また、フィラメント糸Bは二種以上のポリエステル成分からなり、その少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである複合繊維であることが好ましい。そのもう一方の成分は、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特開2004-270097号公報や特開2004-211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
また、かかるフィラメント糸Bの繊維形態は特に限定されず紡績糸でもよいが、長繊維(マルチフィラメント糸)が好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0024】
本発明のグローブ用布帛は例えば以下の製造方法により製造することができる。まず、海成分と、その径が10~1500nmである島成分とで形成される海島型複合繊維(フィラメント糸A用繊維)を用意する。かかる海島型複合繊維としては、特開2007-2364号公報に開示された海島型複合繊維(島数100~1500)が好ましく用いられる。
【0025】
すなわち、海成分ポリマーとしては、繊維形成性の良好なポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどが好ましい。例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリエチレングルコール系化合物共重合ポリエステル、ポリエチレングリコール系化合物と5-ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが好適である。なかでも、5-ナトリウムスルホイソフタル酸3~12モル%と分子量4000~12000のポリエチレングルコールを3~10重量%共重合させた固有粘度が0.4~0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。
【0026】
一方、島成分ポリマーは、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリオレフィン、ナイロンなどが例示される。繊維形成性のポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどのポリエステルが好ましく、その中でもポリトリメチレンテレフタレートが最も好ましい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0027】
上記の海成分ポリマーと島成分ポリマーからなる海島型複合繊維は、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。また、島成分の径は、10~1500nmの範囲とする必要がある。その際、島成分の形状が真円でない場合は外接円の直径を求める。前記の海島型複合繊維において、その海島複合重量比率(海:島)は、40:60~5:95の範囲が好ましく、特に30:70~10:90の範囲が好ましい。
【0028】
かかる海島型複合繊維は、例えば以下の方法により容易に製造することができる。すなわち、前記の海成分ポリマーと島成分ポリマーとを用い溶融紡糸する。溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。吐出された海島型断面複合繊維は、冷却風によって固化され、好ましくは400~6000m/分で溶融紡糸された後に巻き取られる。得られた未延伸糸は、別途延伸工程をとおして所望の強度・伸度・熱収縮特性を有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法のいずれでも構わない。かかる海島型複合繊維において、単繊維繊度、フィラメント数、総繊度としてはそれぞれ単繊維繊度0.5~10.0dtex、フィラメント数5~75本、総繊度30~170dtexの範囲内であることが好ましい。また、かかる海島型複合繊維の沸水収縮率としては5~30%の範囲内であることが好ましい。
【0029】
一方、必要に応じて、フィラメント糸Aよりも単繊維径が大きいフィラメント糸Bを用意する。かかるフィラメント糸Bにおいて、フィラメント数、総繊度としてはそれぞれフィラメント数1~300本、総繊度10~800dtex(好ましくは45dtex以下)の範囲内であることが好ましい。また、単繊維繊度が1.0dtex以上であることが好ましい。また、かかるフィラメント糸Bは、二種以上のポリエステル成分からなり、その少なくとも一成分がポリトリメチレンテレフタレートである複合繊維であると、優れた伸長回復率を得ることができ好ましい。
【0030】
次いで、前記海島型複合繊維(フィラメント糸A用繊維)と、必要に応じてフィラメント糸Bとを用いて、前記海島型複合繊維が生地の表面および/または裏面に露出するよう織編物を常法により織編成する。その際、前記海島型複合繊維とフィラメント糸Bとが混繊糸として織編物中に含まれていてもよいが、前記海島型複合繊維と前記フィラメントBとを交編または交織することにより編物または織物を織編成することが好ましい。
【0031】
ここで、織物組織および編物組織は特に限定されず、よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフ編、ハーフベース編、サテン編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等などが例示され、織物組織としては、平織、綾織、朱子織等の三原組織、変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示されるがこれらに限定されない。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。なかでも布帛が編物であると、編物は通常伸縮性を有するため、対象物にフィットしやすく好ましい。
【0032】
次いで、該織編物(生地)にアルカリ水溶液処理を施し、前記海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去することにより、海島型複合繊維を単繊維径が10~1500nmのフィラメント糸Aとすることにより、本発明のグローブ用布帛が得られる。その際、アルカリ水溶液処理の条件としては、濃度3~4%のNaOH水溶液を使用し55~65℃の温度で処理するとよい。
【0033】
また、該アルカリ水溶液による溶解除去の前および/または後に生地に染色加工を施してもよい。カレンダー加工(加熱加圧加工)やエンボス加工を施してもよい。さらに、常法の起毛加工、撥水加工、さらには、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0034】
ここで、伸び率としては、布帛のタテ方向およびヨコ方向のうち少なくともどちらか一方において(好ましくは布帛のタテ方向およびヨコ方向において)、JIS L 1096-2010 8.16.1.D法による伸び率が13%以上(好ましくは13~40%)であることが肝要である。該伸び率が13%未満の場合は、布帛を伸ばすために強い力が必要であり、高いフィット感が得られない可能性がある。
【0035】
また、生地の厚みとしては0.45mm以下であることが重要であり、好ましくは0.1~0.40mmである。生地の厚みが0.45mmより大の場合、素手感覚が損なわれていくために、細かい作業がし難くなるおそれがある。
【0036】
また、かかる布帛のタテ方向またはヨコ方向において(好ましくは布帛のタテ方向およびヨコ方向において)、JIS L 1096-2010 8.16.2.D法による伸長回復率が60%以上(より好ましくは60~95%)であることが好ましい。該伸長回復率が60%未満の場合はグローブを着用し作業中に伸長された際に元の形状に戻り難くなるおそれがある。
【0037】
また、かかる布帛のタテ方向またはヨコ方向において(好ましくは布帛のタテ方向およびヨコ方向において)、JIS L 1096-2010 8.20.3.C法(ループ圧縮法)による曲げ硬さLHが1.0~7.0cNの範囲内であることが好ましい。該曲げ硬さLHが7.0cNより大きい場合は曲げ反発が強くソフトな風合いが得られないおそれがある。逆に該曲げ硬さLHが1.0cNより小さい場合は、シワが発生しやすくなるおそれがある。
【0038】
次に、本発明の繊維製品は、前記のグローブ用布帛を用いてなる、スポーツ用グローブ、アウトドア用グローブ、バイク用グローブ、作業用グローブ、精密作業用グローブ、医療用グローブ、生活アシストグローブからなる群より選択されるいずれかの繊維製品である。かかる繊維製品は前記のグローブ用布帛を用いているので、高いグリップ力、ソフト性、伸長回復性を有する。
【実施例
【0039】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
<溶融粘度>
乾燥処理後のポリマーを紡糸時のルーダー溶融温度に設定したオリフィスにセットして5分間溶融保持したのち、数水準の荷重をかけて押し出し、そのときのせん断速度と溶融粘度をプロットする。そのプロットをなだらかにつないで、せん断速度-溶融粘度曲線を作成し、せん断速度が1000秒-1の時の溶融粘度を見る。
<溶解速度>
海・島成分の各々0.3φ-0.6L×24Hの口金にて1000~2000m/分の紡糸速度で糸を巻き取り、さらに残留伸度が30~60%の範囲になるように延伸して、総繊度84dtex/24filのマルチフィラメントを作製する。これを各溶剤にて溶解しようとする温度で浴比100にて溶解時間と溶解量から、減量速度を算出した。
<単繊維径>
生地を電子顕微鏡で写真撮影した後、n数5で単繊維径を測定しその平均値を求めた。
<伸び率>
JIS L 1096 8.16.1.D法(編物の定荷重法)に従って測定した。
<伸長回復率>
JIS L 1096 8.16.2.D法に従って測定した。
<曲げ硬さ>
JIS L1096 8.20.3.C法(ループ圧縮法)に従って測定した。
<布帛の厚み>
JIS L1096 8.4.A法に従って測定した。
【0040】
[実施例1]
島成分としてポリトリメチレンテレフタレート(280℃における溶融粘度が1300ポイズ、艶消し剤の含有量:0重量%)、海成分として5-ナトリウムスルホイソフタル酸6モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール6重量%を共重合したポリエチレンテレフタレート(280℃における溶融粘度が1750ポイズ)を用い(溶解速度比(海/島)=230)、海:島=30:70、島数=836の海島型複合未延伸繊維を、紡糸温度280℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸して一旦巻き取った。
【0041】
得られた未延伸糸を、延伸温度80℃、延伸倍率2.5倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットして巻き取った。得られた海島型複合繊維(フィラメント糸A用繊維、延伸糸)は総繊度56dtex/10filであり、透過型電子顕微鏡TEMによる繊維横断面を観察したところ、島の形状は丸形状でかつ島の径は700nmであった。
【0042】
一方、フィラメント糸Bとして、ポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートをサイドバイサイド型に接合された潜在捲縮発現性ポリエステルフィラメント(総繊度33dtex/24fil、帝人フロンティア(株)製)を用意した。
【0043】
次いで、40ゲージのトリコット機を使用して、フィラメント糸Bが編地の中間層に、一方、前記海島型複合繊維が編地の表面側および裏面側に位置するように給糸して、サテン編地を編成した。用いた編組織図を図1に示す。また糸構成としては、L1にフィラメント糸Bを配し、L2に海島型複合繊維を配した。
【0044】
次いで、海島型複合繊維の海成分を除去するために編地を3.5%NaOH水溶液で、80℃にて30%アルカリ減量した。その後、120℃かつ30分間の高圧染色を行い、両面を起毛するためバフ加工を行い、160℃の乾熱セットを行い、グローブ用布帛を得た。
【0045】
得られたグローブ用布帛において、フィラメント糸Aの単繊維径は700nmであり、フィラメント糸Bの単繊維径は11.8μmであった。
【0046】
得られたグローブ用布帛は、伸び率がタテ方向17.5%、ヨコ方向18.4%であり、伸長回復率はタテ方向82.5%、ヨコ方向66.8%であった。また曲げ硬さは3.6cNであった。また、厚みは0.42mmであった。
得られたグローブ用布帛を用いてゴルフグローブ製品を得て使用したところ、高い表面摩擦抵抗とグリップ力があり、形態が安定し、ソフトで厚みが小さいためフィット感やしっとりした手持ち感を併せ持つものであった。
【0047】
[比較例1]
実施例1において、フィラメント糸Bとして、ポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートをサイドバイサイド型に接合された潜在捲縮発現性ポリエステルフィラメント(総繊度56dtex/36fil、帝人フロンティア(株)製)を用意した。
【0048】
次いで、40ゲージのトリコット機を使用して、フィラメント糸Bが編地の中間層に、一方、前記海島型複合繊維が編地の表面側および裏面側に位置するように給糸して、サテン編地を編成した。用いた編組織図を図1に示す。また糸構成としては、L1にフィラメント糸Bを配し、L2に海島型複合繊維を配した。
【0049】
次いで、海島型複合繊維の海成分を除去するために編地を3.5%NaOH水溶液で、80℃にて30%アルカリ減量した。その後、120℃かつ30分間の高圧染色を行い、両面を起毛するためバフ加工を行い、160℃の乾熱セットを行い、グローブ用布帛を得た。
【0050】
得られたグローブ用布帛において、フィラメント糸Aの単繊維径は700nmであり、フィラメント糸Bの単繊維径は12μmであった。
【0051】
得られたグローブ用布帛は、伸び率がタテ方向17.5%、ヨコ方向18.4%であり、伸長回復率はタテ方向82.5%、ヨコ方向66.8%であった。また曲げ硬さは3.6cNであった。また、厚みは0.50mmであった。
【0052】
得られたグローブ用布帛を用いてゴルフグローブ製品を得て使用したところ、高い表面摩擦抵抗とグリップ力があり、形態が安定したが、厚みが大きいためソフト感やフィット感に欠け素手感覚の乏しいグローブとなった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、高いグリップ力、ソフト性、伸長回復性および薄さを併せ持つグローブ用布帛および該布帛を用いてなる繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。
図1