(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】車両用灯具システム、車両用灯具の制御装置および車両用灯具の制御方法
(51)【国際特許分類】
B60Q 1/14 20060101AFI20221227BHJP
B60Q 1/04 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
B60Q1/14 Z
B60Q1/04 E
(21)【出願番号】P 2018242511
(22)【出願日】2018-12-26
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】入場 健仁
【審査官】竹中 辰利
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-111000(JP,A)
【文献】特開2016-168915(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/14
B60Q 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車前方を撮像する撮像部と、
前記撮像部から得られる情報に基づいて、自車前方に並ぶ複数の個別領域それぞれの輝度を検出する輝度解析部と、
前記輝度解析部の検出結果に基づいて、各個別領域に照射する光の照度値を定める照度設定部と、
前記複数の個別領域それぞれに照射する光の照度を独立に調節可能な光源部と、
前記照度設定部が定める照度値に基づいて前記光源部を制御する光源制御部と、
を備え、
前記光源制御部は、前記照度設定部が定める照度値に依存しない固定照度領域を少なくとも一部に含む基準配光パターンを定期的に形成するよう前記光源部を制御し、
前記照度設定部は、前記基準配光パターンの形成下で得られる前記輝度解析部の検出結果を含む基準検出結果に基づいて前記照度値を定め、新たな前記基準検出結果が得られると前記照度値を更新
し、
前記撮像部の撮像頻度は、前記基準配光パターンの形成頻度よりも高く、
前記照度設定部は、前記基準配光パターンの形成後から次に前記基準配光パターンを形成するまでの間は、前記撮像部から得られる情報に基づいた前記照度値の更新を実行せずに前記照度値を維持することを特徴とする車両用灯具システム。
【請求項2】
前記固定照度領域は、ロービーム用配光パターンの少なくとも一部およびハイビーム用配光パターンの少なくとも一部のいずれかで構成される請求項1に記載の車両用灯具システム。
【請求項3】
前記撮像部から得られる情報に基づいて、自車前方に存在する所定の物標を検出する物標解析部を備え、
前記照度設定部は、前記物標の存在位置に応じて定まる特定個別領域に対して特定照度値を定め、
前記基準配光パターンは、前記特定照度値で構成される特定照度領域を含む請求項1または2に記載の車両用灯具システム。
【請求項4】
自車前方を撮像する撮像部から得られる情報に基づいて、自車前方に並ぶ複数の個別領域それぞれの輝度を検出する輝度解析部と、
前記輝度解析部の検出結果に基づいて、各個別領域に照射する光の照度値を定める照度設定部と、
前記照度設定部が定める照度値に基づいて、各個別領域に照射する光の照度を独立に調節可能な光源部を制御する光源制御部と、
を備え、
前記光源制御部は、前記照度設定部が定める照度値に依存しない固定照度領域を少なくとも一部に含む基準配光パターンを定期的に形成するよう前記光源部を制御し、
前記照度設定部は、前記基準配光パターンの形成下で得られる前記輝度解析部の検出結果を含む基準検出結果に基づいて前記照度値を定め、新たな前記基準検出結果が得られると前記照度値を更新
し、
前記撮像部の撮像頻度は、前記基準配光パターンの形成頻度よりも高く、
前記照度設定部は、前記基準配光パターンの形成後から次に前記基準配光パターンを形成するまでの間は、前記撮像部から得られる情報に基づいた前記照度値の更新を実行せずに前記照度値を維持することを特徴とする車両用灯具の制御装置。
【請求項5】
自車前方を撮像する撮像部から得られる情報に基づいて、自車前方に並ぶ複数の個別領域のそれぞれの輝度を検出する輝度検出ステップと、
検出した輝度に基づいて、各個別領域に照射する光の照度値を定める照度設定ステップと、
定めた前記照度値に基づいて、各個別領域に照射する光の照度を独立に調節可能な光源部を制御する光源制御ステップと、
を含む車両用灯具の制御方法であって、
前記照度設定ステップで定める照度値に依存しない固定照度領域を少なくとも一部に含む基準配光パターンを定期的に形成するステップをさらに含み、
前記照度設定ステップにおいて、前記基準配光パターンの形成下で得られる前記輝度検出ステップの検出結果を含む基準検出結果に基づいて前記照度値を定め、新たな前記基準検出結果が得られると前記照度値を更新
し、
前記撮像部の撮像頻度は、前記基準配光パターンの形成頻度よりも高く、
前記照度設定ステップにおいて、前記基準配光パターンの形成後から次に前記基準配光パターンを形成するまでの間は、前記撮像部から得られる情報に基づいた前記照度値の更新を実行せずに前記照度値を維持することを特徴とする車両用灯具の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具システム、車両用灯具の制御装置および車両用灯具の制御方法に関し、特に自動車などに用いられる車両用灯具システム、車両用灯具の制御装置および車両用灯具の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の周囲の状態に基づいてハイビームの配光パターンを動的、適応的に制御するADB(Adaptive Driving Beam)制御が提案されている。ADB制御は、自車前方に位置する高輝度の光照射を避けるべき対象、つまり減光対象の有無をカメラで検出し、減光対象に対応する領域を減光あるいは消灯するものである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
減光対象としては、先行車や対向車等の前方車両が挙げられる。前方車両に対応する領域を減光あるいは消灯することで、前方車両の運転者に与えるグレアを低減することができる。また、減光対象としては、道路脇の視線誘導標(デリニエータ)、看板、道路標識等の反射率の高い反射物が挙げられる。このような反射物に対応する領域を減光することで、反射物により反射した光によって自車両の運転者が受けるグレアを低減することができる。特に近年は車両用灯具の高輝度化が進み、反射物により反射する光の強度が高まる傾向にあるため、反射物に起因するグレアへの対策が求められるようになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のADB制御では、自車両の灯具による配光パターンの形成下で、自車前方をカメラで撮像して減光対象を検出し、この検出結果に基づいて新たな配光パターンを決定していた。つまり、自車両が形成する配光パターンが、次に形成する配光パターンの決定に影響する、いわゆる閉ループ制御であった。
【0006】
カメラの撮像結果に基づいて配光パターンを決定する制御では、自車前方の状態に合わせて正しい位置に配光パターンが形成されるよう、カメラの画角と灯具の光出射角とのずれは小さいことが望ましい。本発明者は、ADBの閉ループ制御においてカメラの画角と灯具の光出射角とのずれが与える影響について鋭意検討を重ねた結果、閉ループ制御では当該ずれがあると、自車前方の状態に対して形成すべき配光パターンと実際に形成する配光パターンとが徐々に乖離し、配光パターンの形成精度が徐々に低下し得ることを見出した。このことから本発明者は、これまで認識されてきた以上にカメラの画角と灯具の光出射角とを高い精度で一致させる必要があることを認識するに至った。
【0007】
しかしながら、カメラの画角と灯具の光出射角とを高精度に一致させようとすると、カメラや灯具の位置決め精度を高める構造が必要となったり、設置場所が限定されるといった問題が生じる。また、カメラの画角と灯具の光出射角とのずれを加味した演算処理を行うことで両者のずれを補正することも考えられるが、この場合は演算処理の複雑化を招く。
【0008】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両用灯具システムの構成の複雑化を抑制しながら配光パターンの形成精度を維持する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は車両用灯具システムである。当該システムは、自車前方を撮像する撮像部と、撮像部から得られる情報に基づいて、自車前方に並ぶ複数の個別領域それぞれの輝度を検出する輝度解析部と、輝度解析部の検出結果に基づいて、各個別領域に照射する光の照度値を定める照度設定部と、複数の個別領域それぞれに照射する光の照度を独立に調節可能な光源部と、照度設定部が定める照度値に基づいて光源部を制御する光源制御部と、を備える。光源制御部は、照度設定部が定める照度値に依存しない固定照度領域を少なくとも一部に含む基準配光パターンを定期的に形成するよう光源部を制御する。照度設定部は、基準配光パターンの形成下で得られる輝度解析部の検出結果を含む基準検出結果に基づいて照度値を定め、新たな基準検出結果が得られると照度値を更新する。この態様によれば、車両用灯具システムの構成の複雑化を抑制しながら配光パターンの形成精度を維持することができる。
【0010】
上記態様において、固定照度領域は、ロービーム用配光パターンの少なくとも一部およびハイビーム用配光パターンの少なくとも一部のいずれかで構成されてもよい。また、上記いずれかの態様において、車両灯具用システムは、撮像部から得られる情報に基づいて、自車前方に存在する所定の物標を検出する物標解析部を備え、照度設定部は、物標の存在位置に応じて定まる特定個別領域に対して特定照度値を定め、基準配光パターンは、特定照度値で構成される特定照度領域を含んでもよい。
【0011】
本発明の他の態様は、車両用灯具の制御装置である。当該制御装置は、自車前方を撮像する撮像部から得られる情報に基づいて、自車前方に並ぶ複数の個別領域それぞれの輝度を検出する輝度解析部と、輝度解析部の検出結果に基づいて、各個別領域に照射する光の照度値を定める照度設定部と、照度設定部が定める照度値に基づいて、各個別領域に照射する光の照度を独立に調節可能な光源部を制御する光源制御部と、を備える。光源制御部は、照度設定部が定める照度値に依存しない固定照度領域を少なくとも一部に含む基準配光パターンを定期的に形成するよう光源部を制御する。照度設定部は、基準配光パターンの形成下で得られる輝度解析部の検出結果を含む基準検出結果に基づいて照度値を定め、新たな基準検出結果が得られると照度値を更新する。
【0012】
また、本発明の他の態様は、車両用灯具の制御方法である。当該制御方法は、自車前方を撮像する撮像部から得られる情報に基づいて、自車前方に並ぶ複数の個別領域のそれぞれの輝度を検出する輝度検出ステップと、検出した輝度に基づいて、各個別領域に照射する光の照度値を定める照度設定ステップと、定めた照度値に基づいて、各個別領域に照射する光の照度を独立に調節可能な光源部を制御する光源制御ステップと、を含む車両用灯具の制御方法であって、照度設定ステップで定める照度値に依存しない固定照度領域を少なくとも一部に含む基準配光パターンを定期的に形成するステップをさらに含み、照度設定ステップにおいて、基準配光パターンの形成下で得られる輝度検出ステップの検出結果を含む基準検出結果に基づいて照度値を定め、新たな基準検出結果が得られると照度値を更新する。
【0013】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム等の間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、車両用灯具システムの構成の複雑化を抑制しながら配光パターンの形成精度を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態に係る車両用灯具システムの概略構成を示す図である。
【
図2】
図2(A)は、光偏向装置26の概略構成を示す正面図である。
図2(B)は、
図2(A)に示す光偏向装置のA-A断面図である。
【
図4】
図4(A)~
図4(F)は、車両用灯具システムが実行するADB制御を説明するための模式図である。
【
図5】
図5(A)~
図5(F)は、車両用灯具システムが実行するADB制御を説明するための模式図である。
【
図6】実施の形態に係る車両用灯具システムにおいて実行されるADB制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、特に言及がない限りこの用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0017】
図1は、実施の形態に係る車両用灯具システムの概略構成を示す図である。
図1では、車両用灯具システム1の構成要素の一部を機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックは、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現される。これらの機能ブロックがハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0018】
車両用灯具システム1は、車両前方の左右に配置される一対の前照灯ユニットを有する車両用前照灯装置に適用される。一対の前照灯ユニットは左右対称の構造を有する点以外は実質的に同一の構成であるため、
図1には車両用灯具2として一方の前照灯ユニットの構造を示す。
【0019】
車両用灯具システム1が備える車両用灯具2は、車両前方側に開口部を有するランプボディ4と、ランプボディ4の開口部を覆うように取り付けられた透光カバー6と、を備える。透光カバー6は、透光性を有する樹脂やガラス等で形成される。ランプボディ4と透光カバー6とにより形成される灯室8内には、光源部10と、撮像部12と、制御装置50と、が収容される。
【0020】
光源部10は、自車前方に並ぶ複数の個別領域(
図3参照)のそれぞれに照射する光の照度(強度)を独立に調節可能な装置である。光源部10は、光源22と、反射光学部材24と、光偏向装置26と、投影光学部材28と、を有する。各部は、図示しない支持機構によりランプボディ4に取り付けられる。
【0021】
光源22は、LED(Light emitting diode)、LD(Laser diode)、EL(Electroluminescence)素子等の半導体発光素子や、電球、白熱灯(ハロゲンランプ)、放電灯(ディスチャージランプ)等を用いることができる。
【0022】
反射光学部材24は、光源22から出射した光を光偏向装置26の反射面に導くように構成される。反射光学部材24は、内面が所定の反射面となっている反射鏡で構成される。なお、反射光学部材24は、中実導光体などであってもよい。また、光源22から出射した光を光偏向装置26に直接導くことができる場合は、反射光学部材24を設けなくてもよい。
【0023】
光偏向装置26は、投影光学部材28の光軸上に配置され、光源22から出射された光を選択的に投影光学部材28へ反射するように構成される。光偏向装置26は、例えばDMD(Digital Mirror Device)で構成される。すなわち、光偏向装置26は、複数の微小ミラーをアレイ(マトリックス)状に配列したものである。これらの複数の微小ミラーの反射面の角度をそれぞれ制御することで、光源22から出射された光の反射方向を選択的に変えることができる。つまり、光偏向装置26は、光源22から出射された光の一部を投影光学部材28へ向けて反射し、それ以外の光を、投影光学部材28によって有効に利用されない方向へ向けて反射することができる。ここで、有効に利用されない方向とは、例えば、投影光学部材28には入射するが配光パターンの形成にほとんど寄与しない方向や、図示しない光吸収部材(遮光部材)に向かう方向と捉えることができる。
【0024】
図2(A)は、光偏向装置26の概略構成を示す正面図である。
図2(B)は、
図2(A)に示す光偏向装置のA-A断面図である。光偏向装置26は、複数の微小なミラー素子30がマトリックス状に配列されたマイクロミラーアレイ32と、ミラー素子30の反射面30aの前方側(
図2(B)に示す光偏向装置26の右側)に配置された透明なカバー部材34と、を有する。カバー部材34は、例えば、ガラスやプラスチック等で構成される。
【0025】
ミラー素子30は略正方形であり、水平方向に延びミラー素子30をほぼ等分する回動軸30bを有する。マイクロミラーアレイ32の各ミラー素子30は、光源22から出射された光を所望の配光パターンの一部として利用されるように投影光学部材28へ向けて反射する第1反射位置(
図2(B)において実線で示す位置)と、光源22から出射された光が有効に利用されないように反射する第2反射位置(
図2(B)において点線で示す位置)と、を切り替え可能に構成されている。各ミラー素子30は、回動軸30b周りに回動して、第1反射位置と第2反射位置との間で個別に切り替えられる。各ミラー素子30は、オン時に第1反射位置をとり、オフ時に第2反射位置をとる。
【0026】
図3は、自車前方の様子を模式的に示す図である。上述のように光源部10は、灯具前方に向けて互いに独立に光を照射可能な個別照射部としてのミラー素子30を複数有する。光源部10は、ミラー素子30によって自車前方に並ぶ複数の個別領域Rに光を照射することができる。各個別領域Rは、撮像部12、より具体的には例えば高速カメラ36の1ピクセル又は複数ピクセルの集合に対応する領域である。本実施の形態では各個別領域Rと各ミラー素子30とが対応付けられている。
【0027】
図2(A)および
図3では、説明の便宜上、ミラー素子30および個別領域Rを横10×縦8の配列としているが、ミラー素子30および個別領域Rの数は特に限定されない。例えば、マイクロミラーアレイ32の解像度(言い換えればミラー素子30および個別領域Rの数)は1000~30万ピクセルである。また、光源部10が1つの配光パターンの形成に要する時間は、例えば0.1~5msである。すなわち、光源部10は、0.1~5ms毎に配光パターンを変更することができる。
【0028】
図1に示すように、投影光学部材28は、例えば、前方側表面および後方側表面が自由曲面形状を有する自由曲面レンズからなる。投影光学部材28は、その後方焦点を含む後方焦点面上に形成される光源像を、反転像として灯具前方に投影する。投影光学部材28は、その後方焦点が車両用灯具2の光軸上、且つマイクロミラーアレイ32の反射面の近傍に位置するように配置される。なお、投影光学部材28は、リフレクタであってもよい。
【0029】
光源22から出射された光は、反射光学部材24で反射されて、光偏向装置26のマイクロミラーアレイ32に照射される。光偏向装置26は、第1反射位置にある所定のミラー素子30によって投影光学部材28へ向けて光を反射する。この反射された光は、投影光学部材28を通過して灯具前方に進行し、各ミラー素子30に対応する各個別領域Rに照射される。これにより、所定形状の配光パターンが灯具前方に形成される。
【0030】
撮像部12は、自車前方を撮像する装置である。撮像部12は、高速カメラ36と、低速カメラ38と、を含む。高速カメラ36は、比較的フレームレートが高く、例えば200fps~10000fps(1フレームあたり0.1~5ms)である。一方、低速カメラ38は、比較的フレームレートが低く、例えば30fps~120fpsである(1フレームあたり約8~33ms)。また、高速カメラ36は、比較的解像度が小さく、例えば30万ピクセル~500万ピクセル未満である。一方、低速カメラ38は、比較的解像度が大きく、例えば500万ピクセル以上である。高速カメラ36および低速カメラ38は、全ての個別領域Rを撮像する。なお、高速カメラ36および低速カメラ38の解像度は、上記数値に限定されず、技術的に整合する範囲で任意の値に設定することができる。
【0031】
制御装置50は、輝度解析部14と、物標解析部16と、照度設定部42と、光源制御部20と、を有する。撮像部12が取得した画像データは、輝度解析部14および物標解析部16に送られる。以下、制御装置50が有する各部の基本動作を説明する。各部は、自身を構成する集積回路が、メモリに保持されたプログラムを実行することで動作する。
【0032】
輝度解析部14は、撮像部12から得られる情報(画像データ)に基づいて、各個別領域Rの輝度を検出する。輝度解析部14は、物標解析部16に比べて精度の低い画像解析を実行し、高速に解析結果を出力する高速低精度解析部である。本実施の形態の輝度解析部14は、高速カメラ36から得られる情報に基づいて、各個別領域Rの輝度を検出する。輝度解析部14は、例えば0.1~5ms毎に各個別領域Rの輝度を検出することができる。輝度解析部14の検出結果、すなわち個別領域Rの輝度情報を示す信号は、照度設定部42に送信される。
【0033】
物標解析部16は、撮像部12から得られる情報に基づいて、自車前方に存在する所定の物標を検出する。物標解析部16は、輝度解析部14に比べて精度の高い画像解析を実行し、低速に解析結果を出力する低速高精度解析部である。本実施の形態の物標解析部16は、低速カメラ38から得られる情報に基づいて物標を検出する。物標解析部16は、例えば50ms毎に物標を検出することができる。物標解析部16によって検出される物標は、例えば自発光体であり、具体例としては
図3に示す対向車100や、先行車104(
図4(C)参照)が挙げられる。
【0034】
物標解析部16は、アルゴリズム認識やディープラーニング等を含む、公知の方法を用いて物標を検出することができる。例えば、物標解析部16は、対向車100を示す特徴点を予め保持している。そして、物標解析部16は、低速カメラ38の撮像データの中に対向車100を示す特徴点を含むデータが存在する場合、対向車100の位置を認識する。前記「対向車100を示す特徴点」とは、例えば対向車100の前照灯の推定存在領域に現れる所定光度以上の光点102(
図3参照)である。物標解析部16の検出結果、すなわち自車前方の物標情報を示す信号は、照度設定部42に送信される。
【0035】
照度設定部42は、輝度解析部14および物標解析部16の検出結果に基づいて、特定個別領域R1の設定、各個別領域Rに照射する光の照度値の設定等を実行する。まず、照度設定部42は、物標の存在位置に応じて特定個別領域R1(
図3参照)を定める。例えば、物標が対向車100である場合、照度設定部42は、物標解析部16の検出結果に含まれる対向車100の位置情報に基づいて特定個別領域R1を定める。
【0036】
特定個別領域R1の設定について、例えば照度設定部42は、対向車100の前照灯に対応する2つの光点102間の水平方向距離aに対して、予め定められた所定比率の鉛直方向距離bを定め、横a×縦bの寸法範囲と重なる個別領域Rを特定個別領域R1とする(
図3参照)。特定個別領域R1には、対向車100の運転者と重なる個別領域Rが含まれる。本実施の形態では、光点102を含む個別領域Rと、この個別領域Rの鉛直方向上方に位置する個別領域Rを全て特定個別領域R1と定める。
【0037】
そして、照度設定部42は、特定個別領域R1を含む各個別領域Rに照射する光の照度値を定める。例えば、照度設定部42は、特定個別領域R1を除く個別領域Rについて、予め定めた目標輝度値をメモリに保持している。一例として、照度設定部42は、特定個別領域R1を除く個別領域Rについて、同じ値の目標輝度値を保持する。照度設定部42は、輝度解析部14により検出される輝度が後の配光パターン形成により目標輝度値に近づくように各個別領域Rの照度値を設定する。
【0038】
また、照度設定部42は、特定個別領域R1に対して特定照度値を定める。物標が対向車100や先行車104である場合、照度設定部42は特定個別領域R1に対して、例えば特定照度値「0」を設定する。つまり、照度設定部42は、特定個別領域R1を遮光する配光パターンを定める。照度設定部42は、特定個別領域R1に対する特定照度値を含む、各個別領域Rの照度値を示す信号を、光源制御部20に送信する。
【0039】
光源制御部20は、照度設定部42が定める照度値に基づいて光源部10を制御する。光源制御部20は、光源22の点消灯と、各ミラー素子30のオン/オフ切り替えと、を制御する。光源制御部20は、各個別領域Rに照射する光の照度値に基づいて、各ミラー素子30のオンの時間比率(幅や密度)を調節する。これにより、各個別領域Rに照射される光の照度を調節することができる。
【0040】
上述の構成により、車両用灯具システム1は、複数の部分照射領域が集まって構成される配光パターンを形成することができる。複数の部分照射領域のそれぞれは、対応するミラー素子30がオンのときに形成される。車両用灯具システム1は、各ミラー素子30のオン/オフを切り替えることにより、様々な形状の配光パターンを形成することができる。
【0041】
以下、本実施の形態に係る車両用灯具システム1が実行するADB(Adaptive Driving Beam)制御について説明する。
図4(A)~
図4(F)および
図5(A)~
図5(F)は、車両用灯具システムが実行するADB制御を説明するための模式図である。
図4(A)、
図4(C)、
図4(E)、
図5(A)、
図5(C)および
図5(E)は、撮像部12によって得られる画像データである。
図4(B)、
図4(D)、
図4(F)、
図5(B)、
図5(D)および
図5(F)は、光源部10が形成する配光パターンである。
【0042】
まず、一例として、ADB制御の開始前は
図4(A)に示すように、車両用灯具システム1により配光パターンが形成されていない。ADB制御が開始されると、
図4(B)に示すように、光源制御部20は、基準配光パターン60を形成するよう光源部10を制御する。基準配光パターン60は、照度設定部42が定める照度値に依存しない固定照度領域62を少なくとも一部に含む。ADB制御において最初に形成される基準配光パターン60は、全体が固定照度領域62で構成される。
【0043】
固定照度領域62は、ADB制御の開始前に、自車両の走行環境に応じて運転者が選択した、もしくは車両用灯具システム1が選択した配光パターンで構成される。具体的には、固定照度領域62は、ロービーム用配光パターンの少なくとも一部およびハイビーム用配光パターンの少なくとも一部のいずれかで構成される。
【0044】
例えば、自車両が市街地を走行中であれば、ADB制御が実行されていない間に形成する配光パターンとして、ロービーム用配光パターンが選択されることが多い。この場合、ADB制御において形成される基準配光パターン60は、ロービーム用配光パターンを基調とした固定照度領域62を含む。また、自車両が郊外を走行中であれば、ADB制御が実行されていない間に形成する配光パターンとして、ハイビーム用配光パターンが選択されることが多い。この場合、ADB制御において形成される基準配光パターン60は、ハイビーム用配光パターンを基調とした固定照度領域62を含む。
図4(B)には、ハイビーム用配光パターンの全体で構成された固定照度領域62が図示されている。
【0045】
続いて、
図4(C)に示すように、基準配光パターン60の形成下で、撮像部12によって自車前方が撮像され、画像データDが得られる。一例として、画像データDには、対向車100、先行車104および道路標識106が含まれている。輝度解析部14は、この画像データDに基づいて、各個別領域Rの輝度を検出する。この検出結果において、対向車100のヘッドランプや先行車104のテールランプに由来する光点102は、高輝度体として検出される。また、道路標識106は、反射率の高い反射物である。このため、道路標識106も、対向車100や先行車104の光点102と同様に高輝度体として検出される。
【0046】
また、物標解析部16は、基準配光パターン60の形成下で得られた画像データDに含まれる光点102から、所定の物標として対向車100および先行車104を検出する。基準配光パターン60の形成下で得られる輝度解析部14および物標解析部16の検出結果を、以下では基準検出結果という。
【0047】
続いて、
図4(D)に示すように、照度設定部42は、基準検出結果に基づいて各個別領域Rの照度値を定める。この結果、ADB配光パターン64が決定される。そして、光源制御部20は、決定されたADB配光パターン64を形成するよう光源部10を制御する。
【0048】
上述のように照度設定部42は、物標解析部16によって特定された対向車100および先行車104に対応する特定個別領域R1を定める。そして、特定個別領域R1に対して特定照度値「0」を設定する。したがって、ADB配光パターン64には、特定照度値で構成される特定照度領域66が含まれる。本実施の形態の特定照度領域66は、遮光領域である。
【0049】
また、照度設定部42は、他の個別領域Rに対して、後に形成する配光パターンの形成下で各個別領域Rの輝度差が小さくなるように照度値を定める。このとき、道路標識106は高輝度体であるため、道路標識106と重なる個別領域Rには、他の個別領域Rよりも低い照度値が設定される。したがって、ADB配光パターン64には、道路標識106に対応する減光領域68が含まれる。なお、減光領域68の照度値は「0」であってもよい。他の個別領域Rには、例えば光源部10が照射可能な光の最大照度値が設定される。
【0050】
続いて、
図4(E)に示すように、ADB配光パターン64の形成下で、撮像部12によって自車前方が撮像され、画像データDが得られる。ADB配光パターン64の形成下では、自車前方に存在する対向車100および先行車104に特定照度領域66が重なり、道路標識106に減光領域68が重なる。また、他の個別領域Rには、照度設定部42が定めた照度の光が照射される。この結果、対向車100、先行車104および自車両の運転者にグレアを与えることなく、自車両の運転者の視認性を高めることができる。
【0051】
本実施の形態のADB制御では、光源制御部20は、基準配光パターン60を定期的に形成するよう光源部10を制御する。また、照度設定部42は、新たな基準検出結果が得られると照度値を更新する。さらに、照度設定部42は、基準配光パターン60の形成下で得られる基準検出結果のみに基づいて、新たな配光パターンを決定する。したがって、
図4(F)に示すように、照度設定部42は、ADB配光パターン64の形成下で得られた画像データDに基づいて新たなADB配光パターン64を決定せず、各個別領域Rの照度値を前回の基準検出結果に基づいて定めた照度値のまま維持する。
【0052】
基準配光パターン60を形成する周期は、車両用灯具システム1にかかる負荷や物標の検出精度等を考慮して、実験やシミュレーションの結果に基づいて適宜設定することができる。また、基準配光パターン60の形成周期は、経過時間や撮像部12の撮像回数等に基づいて設定することができる。
【0053】
このため、
図5(A)に示すように、自車前方には前回決定したADB配光パターン64が引き続き形成される。以降、次回の基準配光パターン60が形成されるタイミングとなるまで、
図5(B)~
図5(C)に示すように、同じADB配光パターン64の形成が継続される。
【0054】
次の基準配光パターン60を形成するタイミングに達すると、
図5(D)に示すように、光源制御部20は、基準配光パターン60を形成するよう光源部10を制御する。ADB配光パターン64が形成されていた状態から基準配光パターン60を形成する場合には、光源制御部20は、ADB配光パターン64に含まれていた特定照度領域66を含む基準配光パターン60を形成する。したがって、基準配光パターン60は、一部に照度設定部42が定める照度値に依存する特定照度領域66を含み、残部が照度設定部42の定める照度値に依存しない固定照度領域62で構成される配光パターンとなる。なお、ADB配光パターン64に特定照度領域66が含まれていなかった場合には、基準配光パターン60は固定照度領域62のみで構成される配光パターンとなる。
【0055】
続いて、
図5(E)に示すように、基準配光パターン60の形成下で、撮像部12によって自車前方が撮像され、画像データDが得られる。輝度解析部14は、この画像データDに基づいて、各個別領域Rの輝度を検出する。この検出結果において、対向車100や先行車104に由来する光点102、および道路標識106は、高輝度体として検出される。また、物標解析部16は、基準配光パターン60の形成下で得られた画像データDに含まれる光点102から、改めて対向車100および先行車104を検出する。これにより、新たな基準検出結果が得られる。つまり、基準検出結果が更新される。
【0056】
続いて、
図5(F)に示すように、照度設定部42は、新たな基準検出結果に基づいて各個別領域Rの照度値を定める。この結果、新たなADB配光パターン64が決定される。そして、光源制御部20は、決定されたADB配光パターン64を形成するよう光源部10を制御する。なお、照度設定部42は、新たに得られた基準検出結果が前回の基準検出結果と同じであるかを判断して、同じである場合に照度値を更新せず、前回の照度値を維持してもよい。また、ADB制御の開始とともに形成する基準配光パターン60(
図4(B)参照)は、この基準配光パターン60を形成する段階で既に対向車100や先行車104が検知されている場合には、検知されている対向車100や先行車104に対応する特定照度領域66を含む基準配光パターン60(
図5(D)参照)であってもよい。
【0057】
特定照度領域66を含む基準配光パターン60を形成することで、対向車100および先行車104の運転者に与えるグレアを軽減することができる。また、この基準配光パターン60の形成下で、照度設定部42が新たなADB配光パターン64を決定する。これにより、前回のADB配光パターン64の決定後に対向車100や先行車104の位置が移動していた場合には、移動先の位置に合わせた特定照度領域66を有するADB配光パターン64を形成することができる。
【0058】
図6は、実施の形態に係る車両用灯具システムにおいて実行されるADB制御の一例を示すフローチャートである。このフローは、例えば図示しないライトスイッチによってADB制御の実行指示がなされ、且つイグニッションがオンのときに所定のタイミングで繰り返し実行され、ADB制御の実行指示が解除される(あるいは停止指示がなされる)か、イグニッションがオフにされた場合に終了する。
【0059】
制御装置50は、最初の基準配光パターン60の形成タイミングにあるか判断する(S101)。最初の基準配光パターン60の形成であるか否かは、基準配光パターン60の形成フラグの有無に基づいて判断することができる。最初の基準配光パターン60の形成タイミングである場合(S101のY)、制御装置50は、特定照度領域66を含まない基準配光パターン60を形成するよう光源部10を制御する(S102)。また、制御装置50は、基準配光パターン60の形成フラグを生成してメモリに保持する。
【0060】
続いて、撮像部12から画像データを取得する(S103)。そして、制御装置50は、画像データに基づいて、各個別領域Rの輝度と、自車前方に存在する物標と、を検出する(S104)。続いて、制御装置50は、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める(S105)。ステップS104において物標が検出された場合には、制御装置50は、特定個別領域R1を設定するとともに、特定個別領域R1に対して特定照度値を定める。また、ADB配光パターン64に特定照度領域66が含まれることを示すフラグを生成してメモリに保存する。そして、制御装置50は、決定した照度値に基づいて光源部10を制御し、自車前方にADB配光パターン64を形成して、本ルーチンを終了する。
【0061】
最初の基準配光パターン60の形成タイミングでない場合(S101のN)、制御装置50は、前回の基準配光パターン60を形成してから所定時間が経過したか判断する(S107)。当該時間の経過は、基準配光パターン60の形成フラグが生成された時間からの経過に基づいて判断することができる。所定時間が経過した場合(S107のY)、制御装置50は、前回形成したADB配光パターン64に特定照度領域66が含まれていたか判断する(S108)。特定照度領域66の有無は、特定照度領域66が含まれることを示すフラグの有無により判断することができる。
【0062】
前回形成したADB配光パターン64に特定照度領域66が含まれていなかった場合(S108のN)、制御装置50は、特定照度領域66を含まない基準配光パターン60を形成するよう光源部10を制御する(S102)。また、制御装置50は、基準配光パターン60の形成フラグを生成してメモリに保持する。以降は、ステップS103~S106の処理を実行して本ルーチンを終了する。前回形成したADB配光パターン64に特定照度領域66が含まれていた場合(S108のY)、特定照度領域66を含む基準配光パターン60を形成するよう光源部10を制御する(S109)。また、制御装置50は、基準配光パターン60の形成フラグを生成してメモリに保持する。以降は、ステップS103~S106の処理を実行して本ルーチンを終了する。
【0063】
前回の基準配光パターン60を形成してから所定時間が経過していない場合(S107のN)、制御装置50は、前回形成したADB配光パターン64を形成するよう光源部10を制御して(S110)、本ルーチンを終了する。
【0064】
以上説明したように、本実施の形態に係る車両用灯具システム1は、自車前方を撮像する撮像部12と、撮像部12から得られる情報に基づいて、自車前方に並ぶ複数の個別領域Rそれぞれの輝度を検出する輝度解析部14と、輝度解析部14の検出結果に基づいて、各個別領域Rに照射する光の照度値を定める照度設定部42と、複数の個別領域Rそれぞれに照射する光の照度を独立に調節可能な光源部10と、照度設定部42が定める照度値に基づいて光源部10を制御する光源制御部20と、を備える。
【0065】
光源制御部20は、照度設定部42が定める照度値に依存しない固定照度領域62を少なくとも一部に含む基準配光パターン60を定期的に形成するよう光源部10を制御する。照度設定部42は、基準配光パターン60の形成下で得られる輝度解析部14の検出結果を含む基準検出結果に基づいて照度値を定め、新たな基準検出結果が得られると照度値を更新する。
【0066】
上述の通り、本発明者は、自車両の灯具による配光パターンの形成下でのカメラ撮像と、得られた画像データに基づく配光パターンの決定と、を繰り返す閉ループ制御では、ADB制御の精度が徐々に低下し得ることを見出した。つまり、仮に自車前方の反射物に光が照射されたとする。この場合、この反射物はカメラの画像データ中で高輝度体となる。これに対し、反射物に対応する位置に減光領域を有する配光パターンが形成されるが、カメラの画角と灯具の光出射角にずれがあると、反射物に対して減光領域がずれてしまう。この状態で得られる画像データでは、反射物の一部分である第1部分が高輝度のままであり、残りの第2部分は暗くなる。
【0067】
これに対し、次に形成される配光パターンは、高輝度のまま残った第1部分に対応する位置に減光領域を有し、残りの第2部分に光を照射する配光パターンとなる。しかしながら、この配光パターンも形成位置がずれるため、第1部分に重ねようとした減光領域が第2部分の一部に重なってしまう。この結果、反射物の第1部分は依然として高輝度のままであり、第2部分が暗い部分と高輝度の部分とに分かれる。以降、この動作が繰り返されると、明るい部分と暗い部分とが交互に並ぶ領域が拡大していく。このため、自車前方の状況に対して形成すべき配光パターンと、実際に形成する配光パターンとが徐々に乖離していき、配光パターンの形成精度が徐々に低下していく。
【0068】
これに対し、本実施の形態の車両用灯具システム1では、照度設定部42が定める照度値に依存しない、つまり撮像部12の画像データに依存しない固定照度領域62を含む基準配光パターン60を定期的に形成し、基準配光パターン60の形成下で得られる画像データに基づいてADB配光パターン64を決定する。このように、定期的にADB配光パターン64をリセットすることで、カメラの画角と灯具の光出射角にずれがあったとしても、形成すべき配光パターンと実際に形成する配光パターンとの乖離の進行を抑制することができる。よって、配光パターンの形成精度の低下を抑制することができる。
【0069】
また、本実施の形態では、新たなADB配光パターン64が決定されるまでは、前回決定したADB配光パターン64が維持される。これにより、形成すべき配光パターンと実際に形成する配光パターンとの乖離をより一層抑制することができる。
【0070】
また、撮像部12と光源部10とを物理的に高精度に位置合わせすることなく、また、画像データの演算処理により補正を施すことなく、ADB制御の精度低下を抑制することができる。したがって、本実施の形態によれば、車両用灯具システム1の構成の複雑化を抑制しながら配光パターンの形成精度を維持することができる。また、ADB配光パターン64の形成頻度が低減されるため、制御装置50にかかる負荷を軽減することができる。
【0071】
また、反射物は自発光体でなく、特定個別領域R1の設定対象である物標に該当しない。このため、基準配光パターン60の形成時、反射物には光源部10から光が照射される。この状態で得られる輝度解析部14の検出結果(基準検出結果)において、反射物は高輝度体となるため、ADB配光パターン64を決定する際に減光(遮光)対象となる。したがって、その後のADB配光パターン64の形成下で得られる輝度解析部14の検出結果において、反射物は低輝度体となる。つまり、反射物は、自車両に向けて光を照射(反射)する状態と光を照射しない状態とが周期的に切り替わる。この切り替えは高速であるため、自車両の運転者には、高輝度時の明るさと低輝度時の明るさとを平均した明るさで反射物が視認される。よって、基準配光パターン60の形成周期を調整することで、運転者に視認される反射物の明るさを調整することができる。
【0072】
また、固定照度領域62は、ロービーム用配光パターンの少なくとも一部およびハイビーム用配光パターンの少なくとも一部のいずれかを含む。これにより、既存の配光パターンを利用して、基準配光パターン60を形成することができる。よって、車両用灯具システム1のさらなる簡素化を図ることができる。
【0073】
また、車両用灯具システム1は、撮像部12から得られる情報に基づいて、自車前方に存在する所定の物標を検出する物標解析部16を備える。照度設定部42は、物標の存在位置に応じて定まる特定個別領域R1に対して特定照度値を定める。そして、基準配光パターン60は、特定照度値で構成される特定照度領域66を含む。つまり、固定照度領域62を少なくとも一部に含む基準配光パターン60には、全体が固定照度領域62で構成される基準配光パターン60と、一部が特定照度領域66で残部が固定照度領域62で構成される基準配光パターン60と、が含まれる。これにより、基準配光パターン60の形成下においても、物標に対して特定照度値の光を照射することができる。したがって、例えば物標が対向車100や先行車104である場合には、基準配光パターン60の形成によって対向車100や先行車104の運転者に与えるグレアを低減することができる。
【0074】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明した。前述した実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施の形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。設計変更が加えられた新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形それぞれの効果をあわせもつ。前述の実施の形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「本実施の形態の」、「本実施の形態では」等の表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。以上の構成要素の任意の組み合わせも、本発明の態様として有効である。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0075】
実施の形態では、撮像部12および制御装置50が灯室8内に設けられているが、それぞれは適宜、灯室8外に設けられてもよい。また、高速カメラ36が低速カメラ38と同等の解像度を有する場合や、高速カメラ36の解像度が低いままであってもこの低い解像度で十分な物標検出を実施可能なアルゴリズムを物標解析部16が有する場合には、低速カメラ38を省略してもよい。これにより、車両用灯具システム1の小型化を図ることができる。この場合、物標解析部16は、高速カメラ36の画像データを用いて物標を検出する。光源部10は、DMDである光偏向装置26に代えて、光源光で自車前方を走査するスキャン光学系や、各個別領域Rに対応するLEDが配列されたLEDアレイを備えてもよい。実施の形態では、物標解析部16が物標としての対向車100や先行車104を検出しているが、輝度解析部14が対向車100や先行車104とその周囲との輝度差に基づいて対向車100や先行車104を検出してもよい。
【0076】
以下の態様も本発明に含めることができる。
【0077】
自車前方を撮像する撮像部(12)から得られる情報に基づいて、自車前方に並ぶ複数の個別領域(R)それぞれの輝度を検出する輝度解析部(14)と、
輝度解析部(14)の検出結果に基づいて、各個別領域(R)に照射する光の照度値を定める照度設定部(42)と、
照度設定部(42)が定める照度値に基づいて、各個別領域(R)に照射する光の照度を独立に調節可能な光源部(10)を制御する光源制御部(20)と、
を備え、
光源制御部(20)は、照度設定部(42)が定める照度値に依存しない固定照度領域(62)を少なくとも一部に含む基準配光パターン(60)を定期的に形成するよう光源部(10)を制御し、
照度設定部(42)は、基準配光パターン(60)の形成下で得られる輝度解析部(14)の検出結果を含む基準検出結果に基づいて照度値を定め、新たな基準検出結果が得られると照度値を更新する、車両用灯具(2)の制御装置(50)。
【0078】
自車前方を撮像する撮像部(12)から得られる情報に基づいて、自車前方に並ぶ複数の個別領域(R)のそれぞれの輝度を検出する輝度検出ステップと、
検出した輝度に基づいて、各個別領域(R)に照射する光の照度値を定める照度設定ステップと、
定めた照度値に基づいて、各個別領域(R)に照射する光の照度を独立に調節可能な光源部(10)を制御する光源制御ステップと、
を含む車両用灯具(2)の制御方法であって、
照度設定ステップで定める照度値に依存しない固定照度領域(62)を少なくとも一部に含む基準配光パターン(60)を定期的に形成するステップをさらに含み、
照度設定ステップにおいて、基準配光パターン(60)の形成下で得られる輝度検出ステップの検出結果を含む基準検出結果に基づいて照度値を定め、新たな基準検出結果が得られると照度値を更新する、車両用灯具(2)の制御方法。
【符号の説明】
【0079】
1 車両用灯具システム、 2 車両用灯具、 10 光源部、 12 撮像部、 14 輝度解析部、 16 物標解析部、 20 光源制御部、 42 照度設定部、 50 制御装置、 60 基準配光パターン、 62 固定照度領域、 66 特定照度領域。