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特許7201448プラズマ処理装置およびプラズマ処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置およびプラズマ処理方法
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/46 20060101AFI20221227BHJP
   C23C 16/52 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
H05H1/46 L
C23C16/52
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019004195
(22)【出願日】2019-01-15
(65)【公開番号】P2020113462
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】松田 真輔
(72)【発明者】
【氏名】大澤 篤史
【審査官】松平 佳巳
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-216948(JP,A)
【文献】特表2013-519991(JP,A)
【文献】特開2015-074792(JP,A)
【文献】特開2008-084693(JP,A)
【文献】特開2010-168604(JP,A)
【文献】特開2016-097572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/46
C23C 16/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象物の処理対象表面にプラズマを作用させるプラズマ処理装置であって、
チャンバーと、
前記チャンバー内において、前記処理対象物を保持し、前記処理対象物を搬送経路に沿って搬送する保持搬送部と、
前記搬送経路の途中において前記処理対象物の前記処理対象表面と鉛直方向で向かい合う位置に設けられた電極と、
前記電極を昇降させる昇降部と、
前記電極に電力を供給する電力供給部と、
前記チャンバー内にガスを導入するガス導入管と、
前記電力供給部に前記電力を供給させてプラズマを発生させた状態で、前記保持搬送部を制御して前記処理対象物を前記搬送経路に沿って搬送させながら、前記昇降部を制御して、前記処理対象表面の形状に基づいて、前記処理対象物の搬送位置に応じて前記電極を昇降させる制御部と
を備え
前記チャンバーは、
鉛直方向に沿って延在する貫通孔が形成された固定板と、
前記貫通孔に対向する位置に配置されて、前記昇降部に連結される可動板と、
鉛直方向に伸縮可能な筒状形状を有し、前記筒状形状の一端側の周縁部が前記可動板に連結され、前記筒状形状の他端側の周縁部が、前記固定板のうち前記貫通孔を囲む周縁部に連結されるベローズと
を含み、
前記電極は前記可動板に固定される、プラズマ処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマ処理装置であって、
前記処理対象物の前記処理対象表面の形状を記憶する記憶媒体を備える、プラズマ処理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のプラズマ処理装置であって、
前記電極よりも前記搬送経路の上流側に設けられており、前記処理対象物が前記保持搬送部によって保持された状態で前記処理対象表面の形状を測定するセンサをさらに備える、プラズマ処理装置。
【請求項4】
請求項1から請求項のいずれか一つに記載のプラズマ処理装置であって、
ガスが前記チャンバー内に導入される前記ガス導入管の導入口は、前記電極と隣り合う位置に配置されており、
前記ガス導入管は前記電極とともに昇降する、プラズマ処理装置。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか一つに記載のプラズマ処理装置であって、
前記搬送経路の延在方向において前記電極を互いに反対側から挟む位置に設けられた一対の仕切部材をさらに備え、
前記一対の仕切部材は前記電極とともに昇降する、プラズマ処理装置。
【請求項6】
処理対象物の処理対象表面にプラズマを作用させるプラズマ処理方法であって、
鉛直方向に沿って延在する貫通孔が形成された固定板と、前記貫通孔に対向する位置に配置される可動板と、鉛直方向に伸縮可能な筒状形状を有し、前記筒状形状の一端側の周縁部が前記可動板に連結され、前記筒状形状の他端側の周縁部が、前記固定板のうち前記貫通孔を囲む周縁部に連結されるベローズとを含むチャンバー内にガスを導入する工程と、
前記チャンバー内に規定された搬送経路の途中において前記処理対象物の前記処理対象表面と鉛直方向で向かい合う位置に配置され、前記可動板に固定された電極に電力を供給して、プラズマを発生させる工程と、
前記処理対象表面の形状に基づいて、前記処理対象物の搬送位置に応じて前記可動板を昇降させて前記電極を昇降させつつ、前記処理対象物を前記搬送経路に沿って搬送する工程と
を備える、プラズマ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、プラズマ処理装置およびプラズマ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、誘導結合方式のプラズマCVD(Plasma-enhanced Chemical Vapor Deposition)装置が開示されている。このプラズマCVD装置は、基板に薄膜を形成する装置である。このプラズマCVD装置は、チャンバーと、保持搬送部と、誘導結合型アンテナと、ガス導入部とを含む。保持搬送部はチャンバー内において基板を略水平に保持し、当該基板を略水平な搬送経路に沿って搬送する。ガス導入部はチャンバー内にガスを導入する。当該ガスとしては、例えば、シラン(SiH)等の原料ガスおよびアルゴン(Ar)等の添加ガスを採用することができる。誘導結合型アンテナは、搬送経路の途中において、搬送経路よりも上側に配置される。誘導結合型アンテナに高周波電流が流れると、誘導結合型アンテナの周囲にプラズマ(誘導結合プラズマ)が発生する。
【0003】
このようなプラズマCVD装置において、保持搬送部が基板を搬送経路に沿って搬送させることで、基板が誘導結合型アンテナの直下を移動する。誘導結合型アンテナの周囲には、プラズマが発生しているので、基板が誘導結合型アンテナの直下を移動する際に、基板の表面にプラズマが作用する。これにより、基板の表面に薄膜が形成される。つまり、基板の搬送中に薄膜が形成されるので、スループットは高い。
【0004】
特許文献2には、プラズマ成膜装置が開示されている。このプラズマ成膜装置は、ガス導入口を有する気密容器と、複数の電極と、ワーク保持部とを含む。ワーク保持部は、成膜対象物であるワークを、密閉容器内において静止状態で保持する。複数の電極はワーク保持部よりも上側において、上下移動可能に配置される。各電極およびワーク保持部は、密閉容器内に放電を生じさせる対向電極として機能する。各電極は、ワークの表面の凹凸形状に応じて上下移動する。ワークがワーク保持部に静止状態で保持された状況で、電極に高周波電圧が印加されると、密閉容器内において放電およびプラズマが生じ、ワークの表面に薄膜が形成される。
【0005】
特許文献2では、電極を上下移動することができるので、各電極とワークとの間の対向距離のばらつきを抑制することができる。よって、ワークの表面上のプラズマの強度分布のばらつきを抑制でき、これにより、より均一な膜厚で薄膜をワークの表面に形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-74792号公報
【文献】特開2010-168604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プラズマ処理の対象となる処理対象物の処理対象表面が平坦ではなく、三次元形状を有している場合、特許文献1に記載の技術では、より均一な膜厚で薄膜を形成することは難しい。より一般的な概念でいえば、処理対象表面上のプラズマの強度分布を広い範囲で調整することは難しい。
【0008】
一方で、特許文献2に記載の技術では、静止した処理対象物に対して、電極を上下移動することにより、より均一な膜厚で薄膜を形成することができる。しかしながら、特許文献2では、ワークが静止状態で処理されるので、スループットは低い。
【0009】
そこで、本願は、処理対象表面上のプラズマの強度分布を調整しつつ、高いスループットでプラズマ処理を行うことができるプラズマ処理装置およびプラズマ処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、プラズマ処理装置の第1の態様は、処理対象物の処理対象表面にプラズマを作用させるプラズマ処理装置であって、チャンバーと、前記チャンバー内において、前記処理対象物を保持し、前記処理対象物を搬送経路に沿って搬送する保持搬送部と、前記搬送経路の途中において前記処理対象物の前記処理対象表面と鉛直方向で向かい合う位置に設けられた電極と、前記電極を昇降させる昇降部と、前記電極に電力を供給する電力供給部と、前記チャンバー内にガスを導入するガス導入管と、前記電力供給部に前記電力を供給させてプラズマを発生させた状態で、前記保持搬送部を制御して前記処理対象物を前記搬送経路に沿って搬送させながら、前記昇降部を制御して、前記処理対象表面の形状に基づいて、前記処理対象物の搬送位置に応じて前記電極を昇降させる制御部とを備え、前記チャンバーは、鉛直方向に沿って延在する貫通孔が形成された固定板と、前記貫通孔に対向する位置に配置されて、前記昇降部に連結される可動板と、鉛直方向に伸縮可能な筒状形状を有し、前記筒状形状の一端側の周縁部が前記可動板に連結され、前記筒状形状の他端側の周縁部が、前記固定板のうち前記貫通孔を囲む周縁部に連結されるベローズとを含み、前記電極は前記可動板に固定される
【0011】
プラズマ処理装置の第2の態様は、第1の態様にかかるプラズマ処理装置であって、前記処理対象物の前記処理対象表面の形状を記憶する記憶媒体を備える。
【0012】
プラズマ処理装置の第3の態様は、第1または第2の態様にかかるプラズマ処理装置であって、前記電極よりも前記搬送経路の上流側に設けられており、前記処理対象物が前記保持搬送部によって保持された状態で前記処理対象表面の形状を測定するセンサをさらに備える。
【0014】
プラズマ処理装置の第の態様は、第1から第のいずれか一つの態様にかかるプラズマ処理装置であって、ガスが前記チャンバー内に導入される前記ガス導入管の導入口は、前記電極と隣り合う位置に配置されており、前記ガス導入管は前記電極とともに昇降する。
【0015】
プラズマ処理装置の第の態様は、第1から第のいずれか一つの態様にかかるプラズマ処理装置であって、前記搬送経路の延在方向において前記電極を互いに反対側から挟む位置に設けられた一対の仕切部材をさらに備え、前記一対の仕切部材は前記電極とともに昇降する。
【0016】
プラズマ処理方法の態様は、処理対象物の処理対象表面にプラズマを作用させるプラズマ処理方法であって、鉛直方向に沿って延在する貫通孔が形成された固定板と、前記貫通孔に対向する位置に配置される可動板と、鉛直方向に伸縮可能な筒状形状を有し、前記筒状形状の一端側の周縁部が前記可動板に連結され、前記筒状形状の他端側の周縁部が、前記固定板のうち前記貫通孔を囲む周縁部に連結されるベローズとを含むチャンバー内にガスを導入する工程と、前記チャンバー内に規定された搬送経路の途中において前記処理対象物の前記処理対象表面と鉛直方向で向かい合う位置に配置され、前記可動板に固定された電極に電力を供給して、プラズマを発生させる工程と、前記処理対象表面の形状に基づいて、前記処理対象物の搬送位置に応じて前記可動板を昇降させて前記電極を昇降させつつ、前記処理対象物を前記搬送経路に沿って搬送する工程とを備える。
【発明の効果】
【0017】
プラズマ処理装置の第1および第2の態様、ならびに、プラズマ処理方法の態様によれば、処理対象物の搬送中において、処理対象表面にプラズマを作用させることができるので、高いスループットでプラズマ処理を行うことができる。
【0018】
しかも、処理対象物の搬送中において、処理対象表面と電極との間の距離を動的に調整することができる。よって、処理対象表面上の搬送方向におけるプラズマの強度分布を制御することができる。例えば、処理対象表面と電極との間の距離が略一定となるように、電極を移動させることにより、処理対象表面上のプラズマの強度分布のばらつきを抑制することができる。さらに、昇降可能に電極をチャンバーに取り付けることができる。
【0019】
プラズマ処理装置の第3の態様によれば、センサは、保持搬送部によって保持された状態での処理対象表面の形状を測定する。よって、制御部は、高い精度で処理対象表面の形状に応じて電極を昇降させることができる。
【0021】
プラズマ処理装置の第の態様によれば、処理対象表面上のプラズマの強度分布のばらつきをさらに低減することができる。
【0022】
プラズマ処理装置の第の態様によれば、処理対象表面上のプラズマの強度分布のばらつきをさらに低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】プラズマ処理装置の構成の一例を概略的に示す図である。
図2】仮想軸に沿って配列された誘導結合型アンテナの配置の一例を説明するための図である。
図3】誘導結合型アンテナの一例を概略的に示す図である。
図4】プラズマ処理装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図5】プラズマ処理中のプラズマ処理装置の内部の様子の一例を概略的に示す図である。
図6】プラズマ処理中のプラズマ処理装置の内部の様子の一例を概略的に示す図である。
図7】プラズマ処理中のプラズマ処理装置の内部の様子の一例を概略的に示す図である。
図8】プラズマ処理中のプラズマ処理装置の内部の様子の一例を概略的に示す図である。
図9】誘導結合型アンテナの高さ位置の変化の一例を示すグラフである。
図10】プラズマ処理装置の構成の他の一例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。図面では同様な構成および機能を有する部分に同じ符号が付され、下記説明では重複説明が省略される。また、各図面は模式的に示されたものであり、理解容易のため、各部の寸法や数が誇張または簡略化して図示されている場合がある。また、一部の図面には、方向を説明するためにXYZ直交座標軸が適宜付されている。この座標軸におけるZ軸の方向は、鉛直線の方向を示し、XY平面は水平面である。また、X軸およびY軸の各々は、チャンバー1の側壁と平行な軸である。また、以下では、Y軸方向における一方方向を+Y方向とも呼び、他方方向を-Y方向とも呼ぶ。
【0025】
第1の実施の形態.
<プラズマ処理装置100の全体構成>
図1は、プラズマ処理装置100の構成の一例を概略的に示す図である。プラズマ処理装置100はプラズマを発生させ、当該プラズマを処理対象物9の処理対象表面9aに作用させる装置である。このようなプラズマ処理装置100としては、プラズマCVD(Plasma-enhanced Chemical Vapor Deposition)によって、処理対象表面9aに膜付けを行うプラズマ成膜装置を例示できる。以下では、プラズマ処理装置100として、このプラズマ成膜装置を例に挙げて説明を行う。
【0026】
処理対象物9の処理対象表面9aは例えば平坦ではなく、三次元形状を有している。このような処理対象物9としては、車両のフロントウィンドウまたはリアウィンドウを例示することができる。処理対象表面9aに形成する膜の種類としては、酸化シリコン膜または窒化シリコン膜を例示することができる。なお、処理対象物9は上記の例に限らず、適宜に変更され得る。同様に、処理対象物9に形成する膜の種類も上記の例に限らず、適宜に変更され得る。
【0027】
プラズマ処理装置100は、チャンバー1と、保持搬送部2と、プラズマ発生部4と、ガス導入部61と、昇降部7と、制御部8とを含んでいる。以下ではまず、各構成を概説した後に、各構成を詳述する。
【0028】
<各構成の概要>
チャンバー1は、その内部に処理空間Vを形成する。この処理空間V内において、処理対象物9に対するプラズマ処理が行われる。保持搬送部2は処理空間V内において処理対象物9を保持し、処理対象物9を所定の搬送経路Y1に沿って搬送する。ガス導入部61は処理空間V内にガスを導入する。当該ガスとしては、処理対象物9の処理対象表面9aに形成する膜の種類に応じたガスが適宜に採用される。
【0029】
プラズマ発生部4はプラズマ発生用の電極41を含んでいる。電極41は搬送経路Y1の途中において、搬送中の処理対象物9の処理対象表面9aと向かい合う位置に設けられている。これによれば、処理対象物9は電極41を横切るように搬送される。また電極41は昇降可能にチャンバー1に設けられている。昇降部7は電極41を昇降させる。
【0030】
電極41には、電力供給部45によって、プラズマ発生用の電力が供給される。これにより、処理空間V内においてガスがプラズマ化し、当該プラズマが搬送中の処理対象物9の処理対象表面9aに作用する。
【0031】
処理対象物9の搬送中において、昇降部7は処理対象表面9aの形状に応じて電極41を昇降させる。より具体的な一例として、昇降部7は電極41と処理対象表面9aとの間の距離(Z軸方向に沿う距離)が略一定に維持されるように、電極41を昇降させる(図5から図8も参照)。
【0032】
このプラズマ処理装置100によれば、処理対象物9を搬送しながら処理対象表面9aにプラズマ処理を行うので、スループットが高い。しかも、電極41と処理対象表面9aとの間の距離が略一定となるように電極41を昇降することにより、処理対象表面9a上のプラズマの強度分布のばらつきを低減することができる。したがって、より均一な膜厚で処理対象表面9aに薄膜を形成することができる。
【0033】
以下、各構成の一例について詳述する。
【0034】
<チャンバー1>
チャンバー1は、直方体形状の外形を呈する中空部材であり、内部に処理空間Vを形成する。処理空間Vには、保持搬送部2による処理対象物9の搬送経路Y1が規定されている。搬送経路Y1の延在方向は、Y軸方向であり、搬送経路Y1における処理対象物9の搬送方向は、+Y方向である。搬送経路Y1に沿ったチャンバー1の両端部のうち搬送方向上流側の端部には、処理対象物9をチャンバー1内に搬入するための搬入口121が設けられ、搬送方向下流側の端部には、処理対象物9をチャンバー1外に搬出するための搬出口122が設けられている。上流側の搬入口121にはゲート(「搬入ゲート」)123が設けられ、下流側の搬出口122には、ゲート(「搬出ゲート」)124が設けられている。各ゲート123,124は、開状態と閉状態との間で切り替え可能となっている。また、搬入口121および搬出口122の各々は、ロードロックチャンバー、または、アンロードロックチャンバーなどの他のチャンバーの開口部と気密を保った形態で接続可能に構成されている。
【0035】
<保持搬送部2>
ここでは、処理対象物9は、板状のキャリア90の上面に配設されている。キャリア90はその厚み方向がZ軸方向に沿うように配置される。処理対象物9は、処理対象表面9aが上側を向く姿勢で、キャリア90の上面に配設される。図1の例では、処理対象物9の処理対象表面9aは上側に凸となる湾曲形状を有している。
【0036】
保持搬送部2は、チャンバー1の搬入口121を介して処理空間Vに搬入されたキャリア90(すなわち、処理対象物9が配設されたキャリア90)を保持して、これを、処理空間V内に規定されている略水平な搬送経路Y1に沿って搬送する。
【0037】
保持搬送部2は、具体的には、例えば一対の搬送ローラ21と駆動部(図示省略)とを含む。一対の搬送ローラ21は、幅方向(図示の例ではX軸方向)における搬送経路Y1の両側にそれぞれ配置され、X軸方向において互いに対向する。一対の搬送ローラ21は、搬送経路Y1の延在方向(図示の例ではY軸方向)に沿って例えば複数組設けられる。駆動部は、搬送ローラ21を同期させて回転駆動する。この構成において、各搬送ローラ21がキャリア90の下面に当接しつつ回転することによって、キャリア90が処理空間V内の搬送経路Y1に沿って搬送される。すなわち、キャリア90に保持されている処理対象物9が搬送経路Y1に沿って搬送される。
【0038】
<プラズマ発生部4>
プラズマ発生部4は処理空間V内にプラズマを発生させる。プラズマ発生部4は、プラズマを発生させるための電極41を含んでいる。この電極41は搬送経路Y1の途中において、例えば搬送経路Y1よりも上側に設けられている。電極41は、例えば、誘導結合タイプの高周波アンテナである誘導結合型アンテナである。以下では、電極41を誘導結合型アンテナ41とも呼ぶ。
【0039】
誘導結合型アンテナ41は昇降可能にチャンバー1に設けられている。図示の例では、チャンバー1の天板11は固定板111と可動板112とベローズ113とを含んでいる。固定板111は天板11を主に構成している。この固定板111には、貫通孔111aが形成されている。貫通孔111aはZ軸方向に延在しており、固定板111を貫通する。貫通孔111aは、平面視において(つまりZ軸方向に沿って見て)、誘導結合型アンテナ41を含むように、固定板111に形成される。
【0040】
可動板112は、固定板111の貫通孔111aとZ軸方向において対向する位置に設けられている。図1の例では、可動板112は固定板111の貫通孔111aに対して上側に設けられている。
【0041】
ベローズ113は略筒状形状を有し、その側面が蛇腹状に形成されている。ベローズ113は、その中心軸がZ軸方向に沿う姿勢で設けられており、Z軸方向に沿って伸縮可能である。ベローズ113の一端側の周縁部は可動板112の周縁部に気密に連結されており、他端側の周縁部は、固定板111のうち貫通孔111aを形成する周縁部に気密に連結されている。
【0042】
このようなチャンバー1によれば、チャンバー1の気密性を維持しつつも、可動板112が固定板111に対して昇降可能となる。この可動板112は昇降部7に連結されている。昇降部7は例えばボールねじ機構を有しており、可動板112を昇降させて、その高さ位置を制御する。
【0043】
誘導結合型アンテナ41は、例えば、金属製のパイプ状導体をU字形に曲げたものであり、「U」の字の状態で処理空間Vの内部に突設されている。誘導結合型アンテナ41の該突出部分は、石英などからなる誘電体の保護パイプ42により覆われている。誘導結合型アンテナ41の上端部、すなわち誘導結合型アンテナ41の両端部は、チャンバー1の天板11(より具体的には、可動板112)を貫通して上方に突出している。また、誘導結合型アンテナ41は、例えば内部に冷却水を循環させることにより、冷却されている。
【0044】
誘導結合型アンテナ41が可動板112に固定されているので、昇降部7が可動板112を昇降させることにより、誘導結合型アンテナ41を昇降させることができる。つまり、誘導結合型アンテナ41の高さ位置を制御することができる。
【0045】
図1の例では、誘導結合型アンテナ41は複数設けられている。よって、チャンバー1の天板11は、誘導結合型アンテナ41の個数に応じて、複数の可動板112および複数のベローズ113を含んでおり、また固定板111には、誘導結合型アンテナ41の個数に応じて、複数の貫通孔111aが形成される。可動板112およびベローズ113の各組は上述の位置関係で固定板111に取り付けられ、誘導結合型アンテナ41はそれぞれ可動板112に固定される。また複数の可動板112はそれぞれ複数の昇降部7に連結される。これによれば、複数の可動板112、ひいては、複数の誘導結合型アンテナ41を互いに独立に昇降させることができる。
【0046】
複数の誘導結合型アンテナ41は、定められた方向に沿って、間隔をあけて(好ましくは等間隔で)配列されて、天板11(より具体的には、可動板112)に対して固定される。具体的には、複数の誘導結合型アンテナ41は、搬送経路Y1の延在方向と、後述する仮想軸K(図2も参照)に沿って、搬送経路Y1に対向するようにチャンバー1内にマトリックス状に配列される。例えば、仮想軸Kに沿って4個の誘導結合型アンテナ41が1列に配列された列が、搬送経路Y1の方向に沿って3列に配設されている。
【0047】
なお、チャンバー1内には、仮想軸Kに沿って複数の誘導結合型アンテナ41が1列に配列された列が、搬送経路Y1の方向に沿って1列のみ設けられてもよく、また、搬送経路Y1の方向に沿って複数の誘導結合型アンテナ41が1列に配列された列が、仮想軸Kに沿って1列のみ設けられてもよい。また、チャンバー1内に誘導結合型アンテナ41が1つだけ設けられてもよい。すなわち、チャンバー1内には、搬送経路Y1に対向して、少なくとも1つの誘導結合型アンテナ41が設けられる。
【0048】
図2は、プラズマ処理装置100において、仮想軸Kに沿って配列された誘導結合型アンテナ41の配置の一例を説明するための図である。図2においては、天板11の図示は、省略されている。上述したように、チャンバー1内には、仮想軸Kに沿って複数(図2の例では4個)の誘導結合型アンテナ41が1列に配列された列が搬送経路Y1の延在方向に沿って複数(図1の例では3列であり、仮想軸Kが3本設定される)設けられてもよく、図2には、その複数列のうちの1つの列が示されている。
【0049】
具体的には、図2に示されるように、複数の誘導結合型アンテナ41の各々の両端部を結ぶ線分Lの中心点Cが仮想軸K上に配置されることによって、複数の誘導結合型アンテナ41が当該仮想軸Kに沿って1列に配列されている。ただし、この仮想軸Kは、搬送経路Y1の延在方向(Y軸方向)と交差する方向に延在する軸であることが好ましく、例えば、搬送経路Y1の延在方向に略垂直かつ水平方向に略平行な軸であることが好ましい。
【0050】
また、図2の例では、仮想軸Kに沿って誘導結合型アンテナ41が4個設けられているが、仮想軸Kに沿って配列される誘導結合型アンテナ41の個数は必ずしも4個である必要はなく、チャンバー1の寸法等に応じて、適宜その個数を選択することができる。同様に、図1の例では、仮想軸Kに沿って配列された4個の誘導結合型アンテナ41の列が搬送経路Y1の延在方向に沿って3列設けられているが、必ずしも3列設けられる必要はない。また、誘導結合型アンテナ41は必ずしもマトリックス状に配列される必要はなく、例えば、千鳥状に配列されてもよい。
【0051】
<電力供給部45>
電力供給部45は誘導結合型アンテナ41にプラズマ発生用の電力を供給する。図1の例では、複数の誘導結合型アンテナ41に対応して複数の電力供給部45が設けられている。図1の例では、各電力供給部45はマッチングボックス43と高周波電源44とを含んでいる。高周波電源44はマッチングボックス43を介して、誘導結合型アンテナ41に高周波電力を供給する。
【0052】
各誘導結合型アンテナ41の一端は、マッチングボックス43を介して、高周波電源44に接続されている。また、各誘導結合型アンテナ41の他端は接地されている。この構成において、高周波電源44から各誘導結合型アンテナ41に高周波電流(具体的には、例えば、13.56MHzの高周波電流)が流されると、誘導結合型アンテナ41の周囲の電界(高周波誘導電界)により電子が加速されて、プラズマ(誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP))が発生する。
【0053】
上述した通り、誘導結合型アンテナ41は、U字形状を呈している。このようなU字形状の誘導結合型アンテナ41は、巻数が1回未満の誘導結合型アンテナに相当し、巻数が1回以上の誘導結合型アンテナよりもインダクタンスが低いため、誘導結合型アンテナ41の両端に発生する高周波電圧が低減され、生成するプラズマへの静電結合に伴うプラズマ電位の高周波揺動が抑制される。このため、対地電位へのプラズマ電位揺動に伴う過剰な電子損失が低減され、プラズマ電位が特に低く抑えられる。なお、このような誘導結合タイプの高周波アンテナは、特許第3836636号公報、特許第3836866号公報、特許第4451392号公報、特許第4852140号公報に開示されている。
【0054】
マッチングボックス43と誘導結合型アンテナ41とを接続する配線としては、曲げ変形可能な配線(例えば電線)を採用する。これにより、マッチングボックス43と誘導結合型アンテナ41との電気的な接続を維持しつつ、誘導結合型アンテナ41を昇降させることができる。
【0055】
<仕切部材5>
図1の例では、チャンバー1内には、仕切部材5が設けられている。仕切部材5は、1つの誘導結合型アンテナ41に対して搬送経路Y1の上流側と下流側とにそれぞれ設けられている。仕切部材5は、チャンバー1内の処理空間V(より詳細には、処理空間Vのうちチャンバー1の天板11側の一部の空間)を、仕切部材5に対して搬送経路Y1の上流側の空間と下流側の空間とに仕切る部材である。
【0056】
仕切部材5は、チャンバー1の天板11から下方向(-Z方向)に突設されている。仕切部材5は例えば板状の形状を有しており、その厚み方向が搬送経路Y1に沿うように設けられている。仕切部材5は誘電体により構成されている。キャリア90の上面と仕切部材5の下端との間には、処理対象物9が通過できる隙間が設けられている。
【0057】
処理空間Vに発生したプラズマは、処理空間Vのうち誘導結合型アンテナ41の上流側と下流側とに互いに対向して設けられた一対の仕切部材5によって規定される空間に滞留し、当該空間のプラズマの強度が高くなる。なお、誘導結合型アンテナ41が仮想軸Kに沿って複数設けられている場合には、各誘導結合型アンテナ41に対応する各仕切部材5を設けられる。
【0058】
仕切部材5も昇降可能にチャンバー1に取り付けられていてもよい。図1の例では、仕切部材5はチャンバー1の可動板112の下面に突設されている。つまり、一つの可動板112には、一つの誘導結合型アンテナ41と一対の仕切部材5とが固定されている。図3は、一つの誘導結合型アンテナ41をY軸方向に沿って見た図である。図3の例では、可動板112、仕切部材5および後述のガス導入管62も示されている。図3の例では、仕切部材5は、Y軸方向に沿って見て、矩形形状を有している。図3に示すように、仕切部材5の幅(X軸方向に沿う幅)は誘導結合型アンテナ41の幅よりも広く設定されていてもよい。また、仕切部材5の長さ(Z軸方向に沿う長さ)は、可動板112の下面からの誘導結合型アンテナ41の突出量よりも長く設定されてもよい。
【0059】
このように仕切部材5が可動板112に固定されていれば、可動板112の昇降に応じて、仕切部材5も昇降する。つまり、一対の仕切部材5は誘導結合型アンテナ41と一体に昇降する。
【0060】
<ガス供給部6およびガス導入部61>
再び図1を参照して、ガス供給部6は、プラズマ処理装置100の目的に応じて定められたガス、例えば処理ガスとしての原料ガス(具体的には、例えばシラン(SiH)またはアンモニア(NH))と、例えば添加ガス(具体的には、例えばアルゴン(Ar)、酸素(O)、水素(H)あるいはこれらの混合ガス)を、ガス導入部61を介して処理空間Vに供給する。ガス供給部6は、具体的には、例えば、ガス供給源611と、一端がガス供給源611と接続された導入配管612とを含む。
【0061】
処理空間Vには、上述のように、誘導結合型アンテナ41を挟んで互いに対向する一対の仕切部材5によって規定される空間が形成されており、各空間には、パイプ状のガス導入管62が、導入配管612と処理空間Vとを連通している。各ガス導入管62は、ガス導入部61をなしている。以下では、ガス導入管62の処理空間V内の開口を導入口62aと呼ぶ(図3も参照)。
【0062】
ガス供給部6の導入配管612は、ガス導入部61の各ガス導入管62と接続されている。また、導入配管612の経路途中には、供給バルブ613が介挿されている。供給バルブ613は、導入配管612を流れるガスの流量を自動調整できるバルブであることが好ましく、具体的には、例えば、マスフローコントローラ等を含んで構成することが好ましい。この構成において、供給バルブ613を開放させると、ガス供給源611から供給されるガスが、導入配管612を介して各ガス導入部61に供給され、各ガス導入部61のガス導入管62の導入口62aから処理空間Vに吐出される。
【0063】
ガス導入管62は誘導結合型アンテナ41に対応して設けられており、その導入口62aは、処理空間V内において、対応する誘導結合型アンテナ41と隣り合う位置に配置される。より具体的には、ガス導入管62は、導入口62aが一対の仕切部材5によって挟まれる空間において、誘導結合型アンテナ41と隣り合うように設けられる。
【0064】
ガス導入部61から、どのような種類のガスを、どれくらいの流量で導入させるかは、例えば、処理対象物9に形成するべき薄膜の種類、処理条件、処理内容等に応じて適宜選択される。すなわち、供給バルブ613は、制御部8と電気的に接続されており、制御部8が、オペレータから指定された値等に基づいて供給バルブ613を制御して、オペレータが指定する種類のガスを、オペレータが指定する流量で、ガス導入部61から処理空間Vに導入させる。
【0065】
ガス導入管62も昇降可能に設けられていてもよい。図1の例では、ガス導入管62はチャンバー1の可動板112を貫通しつつ、可動板112に固定されている。ガス導入管62のうち、少なくとも、導入配管612と可動板112との間の一部は、曲げ変形可能な部材で形成されている。このような構成によれば、可動板112が昇降すると、当該可動板112に固定されたガス導入管62(より具体的には、ガス導入管62のうちチャンバー1内の部分)も昇降する。つまり、ガス導入管62(より具体的にはチャンバー1内の部分)は誘導結合型アンテナ41と一体に昇降する。
【0066】
<加熱部3>
図1の例では、チャンバー1の処理空間V内には、加熱部3が設けられている。加熱部3は、保持搬送部2によって保持搬送される処理対象物9を加熱する部材であり、保持搬送部2よりも下側(すなわち、処理対象物9の搬送経路Y1よりも下側)に設けられている。加熱部3は、例えば、セラミックヒータにより構成することができる。なお、プラズマ処理装置100には、保持搬送部2によって保持されている処理対象物9等を冷却する機構がさらに設けられてもよい。
【0067】
<排気部65>
図1の例では、排気部65が設けられている。排気部65は、高真空排気系であり、具体的には、例えば、いずれも図示省略の真空ポンプ、排気配管および排気バルブを含む。排気配管は、一端が真空ポンプに接続され、他端が処理空間Vに接続される。また、排気バルブは、排気配管の経路途中に設けられる。排気バルブは、具体的には、排気配管を流れるガスの流量を自動調整できるバルブである。この構成において、真空ポンプが作動された状態で、排気バルブが開放されると、処理空間Vが排気され、真空ポンプおよびマスフローコントローラが互いに協働して、処理空間V内の圧力を所定のプロセス圧に保つように制御する。
【0068】
<制御部8>
制御部8は、プラズマ処理装置100が備える各構成要素と電気的に接続され、これら各構成要素を制御する。より具体的には、制御部8は、保持搬送部2、電力供給部45、供給バルブ613、排気部65および昇降部7を制御する。制御部8は、具体的には、例えば、各種演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)、記憶媒体81(例えば、プログラム等を記憶するROM(Read Only Memory)、演算処理の作業領域となるRAM(Random Access Memory)およびプログラムならびに各種のデータファイルなどを記憶するハードディスク)、LAN(Local Area Network)等を介したデータ通信機能を有するデータ通信部等がバスなどにより互いに接続された、一般的なFA(Factory Automation)コンピュータにより構成される。また、制御部8は、各種表示を行うディスプレイ、ならびに、キーボードおよびマウスなどで構成される入力部等と接続されている。プラズマ処理装置100においては、制御部8の制御下で、処理対象物9に対して定められた処理が実行される。
【0069】
<誘導結合型アンテナ41の昇降制御>
図4は、プラズマ処理装置100の動作の一例を示すフローチャートである。まずステップS1にて、制御部8は排気部65を制御して、チャンバー1内の気圧が所定範囲内(プロセス圧)となるように、チャンバー1内の気体を外部に排出する。
【0070】
次にステップS2にて、制御部8は、ガス供給部6の供給バルブ613を開放させて、ガス導入管62の導入口62aから処理空間V内にガスを吐出させる。
【0071】
次にステップS3にて、制御部8は、電力供給部45に、誘導結合型アンテナ41へ高周波電力を供給させる。これにより、誘導結合型アンテナ41の周囲のガスがプラズマ化される。
【0072】
次にステップS4にて、制御部8は加熱部3を制御して熱を発生させる。なおステップS4は必ずしもステップS3の後に行われる必要はなく、ステップS3以前に行われればよい。
【0073】
次にステップS5にて、制御部8は、昇降部7を制御して誘導結合型アンテナ41を昇降させつつ、保持搬送部2を制御して処理対象物9を搬送経路Y1に沿って搬送させる。具体的には、制御部8は、処理対象物9の処理対象表面9aの形状に基づいて、処理対象物9の搬送位置に応じて誘導結合型アンテナ41の高さ位置を制御する。つまり、制御部8は処理対象物9の搬送中に誘導結合型アンテナ41の高さ位置を動的に制御する。
【0074】
例えば制御部8は、誘導結合型アンテナ41と処理対象物9の処理対象表面9aとの間の距離(Z軸方向に沿う距離)が略一定となるように、誘導結合型アンテナ41の高さ位置を制御する。
【0075】
図5から図8は、プラズマ処理中のプラズマ処理装置100の内部の様子の一例を概略的に示す図である。図5から図8は、プラズマ処理装置100の内部の様子を時系列的に示している。図5が最も早いタイミングでのプラズマ処理装置100の内部の様子を示しており、図8が最も遅いタイミングでのプラズマ処理装置100の内部の様子を示している。
【0076】
以下では、Y軸方向に沿って並ぶ3つの誘導結合型アンテナ41を誘導結合型アンテナ41A~41Cとも呼ぶ。誘導結合型アンテナ41Aは-Y方向の端に位置し、誘導結合型アンテナ41Cは+Y方向の端に位置し、誘導結合型アンテナ41Bは誘導結合型アンテナ41Aと誘導結合型アンテナ41Cとの間に位置している。
【0077】
また以下では、誘導結合型アンテナ41に対応する仕切部材5、ガス導入管62および昇降部7を区別すべく、符号の末尾に「A」~「C」を付与することがある。例えば、仕切部材5Aは、誘導結合型アンテナ41Aに対応して設けられた仕切部材5である。
【0078】
図5の例では、処理対象物9は誘導結合型アンテナ41Aの直下に位置しており、誘導結合型アンテナ41Bおよび誘導結合型アンテナ41Cの直下には未だ到達していない。そこで、制御部8は、誘導結合型アンテナ41Aと処理対象物9の処理対象表面9aとの間の距離が所定値D1と略一致するように昇降部7Aを制御する。図5の例では、誘導結合型アンテナ41Bおよび誘導結合型アンテナ41Cの高さ位置は初期位置に制御されている。
【0079】
図6の例では、処理対象物9は誘導結合型アンテナ41Aおよび誘導結合型アンテナ41Bの直下に位置しており、誘導結合型アンテナ41Cの直下には未だ到達していない。そこで、制御部8は、誘導結合型アンテナ41Aおよび誘導結合型アンテナ41Bの各々と処理対象表面9aとの間の距離がいずれも所定値D1と略一致するように、昇降部7Aおよび昇降部7Bを制御する。図6の例では、誘導結合型アンテナ41Aは処理対象表面9aの頂点付近と対面しており、誘導結合型アンテナ41Bは処理対象表面9aの端部付近と対面しているので、誘導結合型アンテナ41Aの高さ位置は誘導結合型アンテナ41Bよりも高くなる。一方で、図6の例では、誘導結合型アンテナ41Cの高さ位置は初期位置に制御されている。
【0080】
図7の例では、処理対象物9は誘導結合型アンテナ41Aから誘導結合型アンテナ41Cの直下に位置している。そこで、制御部8は、誘導結合型アンテナ41Aから誘導結合型アンテナ41Cの各々と処理対象表面9aとの間の距離がいずれも所定値D1と略一致するように、昇降部7Aから昇降部7Cを制御する。図7の例では、誘導結合型アンテナ41Bは処理対象表面9aの頂点付近と対面しており、誘導結合型アンテナ41Aおよび誘導結合型アンテナ41Cは処理対象表面9aの互いに反対側の端部付近と対面している。よって、誘導結合型アンテナ41Bの高さ位置は誘導結合型アンテナ41Aおよび誘導結合型アンテナ41Cのいずれよりも高くなる。
【0081】
図8の例では、処理対象物9は誘導結合型アンテナ41Aの直下を通過し終わっており、誘導結合型アンテナ41Bおよび誘導結合型アンテナ41Cの直下に位置している。そこで、制御部8は、誘導結合型アンテナ41Bおよび誘導結合型アンテナ41Cの各々と処理対象表面9aとの間の距離がいずれも所定値D1と略一致するように昇降部7Bおよび昇降部7Cを制御する。図8の例では、誘導結合型アンテナ41Aの高さ位置は初期位置に制御されている。
【0082】
図9は、上述のプラズマ処理における誘導結合型アンテナ41Aの高さ位置の変化の一例を示すグラフである。図9の例では、処理対象物9の搬送位置を横軸に採用している。搬送位置y1から搬送位置y4は、それぞれ、図5から図8に対応する。
【0083】
上述の例では、誘導結合型アンテナ41Aの高さ位置は、誘導結合型アンテナ41Aと処理対象表面9aとの間の距離が所定値D1と略一致するように制御される。よって、図9に例示するように、誘導結合型アンテナ41Aの高さ位置を示すグラフは、処理対象物9が誘導結合型アンテナ41Aの直下に位置する範囲R1において、処理対象表面9aの形状と同様に上に凸の形状を有している。なお、誘導結合型アンテナ41Bおよび誘導結合型アンテナ41Cの高さ位置を示すグラフの波形は図9のグラフを適宜に横軸に平行移動したものとなる。
【0084】
誘導結合型アンテナ41の高さ位置と処理対象物9の搬送位置との関係を示す情報(以下、制御情報とも呼ぶ)は、例えば、処理対象表面9aの形状に応じて予め設定されていてもよい。この制御情報は、処理対象面9aの形状を示すデータであるともいえる。当該制御情報は制御部8の記憶媒体81に予め記憶されていてもよい。制御部8は当該制御情報を参照して保持搬送部2および昇降部7を上述のように制御する。
【0085】
以上のように、プラズマ処理装置100においては、処理対象物9の搬送中に処理対象表面9aにプラズマを作用させる。よって、高いスループットでプラズマ処理(ここでは成膜処理)を行うことができる。
【0086】
しかも、制御部8は処理対象表面9aの形状に応じて誘導結合型アンテナ41の高さ位置を制御する。例えば制御部8は、誘導結合型アンテナ41の各々と処理対象表面9aとの距離が所定値D1に略一致するように、各誘導結合型アンテナ41の高さ位置を制御する。これによれば、搬送中の処理対象表面9a上のプラズマの強度分布のばらつきを抑制することができる。したがって、より均一な膜厚で処理対象表面9aに薄膜を形成することができる。
【0087】
また、上述の例では、仕切部材5も、対応する誘導結合型アンテナ41と一体に昇降する。例えば、一対の仕切部材5Aは誘導結合型アンテナ41Aとともに昇降する。これによれば、高い強度でプラズマが発生する、一対の仕切部材5によって挟まれた空間と、処理対象表面9aとの間の距離も、処理対象物9の搬送中において略一定に制御される。
【0088】
比較のために、一対の仕切部材5が昇降不能にチャンバー1の天板11(固定板111)に固定された構造を考察する。この構成では、誘導結合型アンテナ41は一対の仕切部材5に対して相対的に昇降する。よって、一対の仕切部材5によって挟まれた空間内のプラズマの強度分布は、誘導結合型アンテナ41の高さ位置に応じて変動してしまう。これにより、処理対象表面9a上のプラズマの強度分布もばらつき得る。
【0089】
これに対して、一対の仕切部材5が誘導結合型アンテナ41とともに昇降すれば、一対の仕切部材5によって挟まれた空間内のプラズマの強度分布の変動を低減できる。そして、当該空間と処理対象表面9aとの間の距離も略一定に維持されるので、処理対象表面9a上のプラズマの強度分布のばらつきをさらに抑制することができる。したがって、さらに均一な膜厚で処理対象表面9aに薄膜を形成することができる。
【0090】
また、上述の例では、ガス導入管62(具体的には、チャンバー1内の部分)も、対応する誘導結合型アンテナ41と一体に昇降する。例えば、ガス導入管62Aが誘導結合型アンテナ41Aと一体に昇降する。これによれば、ガス導入管62の導入口62aと処理対象表面9aとの間の距離も、処理対象物9の搬送中において、略一定に制御される。これにより、搬送中の処理対象表面9a上のプラズマの強度分布のばらつきをさらに抑制することができる。したがって、さらに均一な膜厚で処理対象表面9aに薄膜を形成することができる。
【0091】
第2の実施の形態.
図10は、プラズマ処理装置100Aの構成の一例を概略的に示す図である。プラズマ処理装置100Aは、センサ75を除いて、プラズマ処理装置100と同様の構成を有している。センサ75は、誘導結合型アンテナ41よりも搬送方向上流側(-Y方向)において、搬送経路Y1よりも上側に設けられている。センサ75は処理対象物9が保持搬送部2によって保持された状態で、処理対象物9の処理対象表面9aの形状を測定する。センサ75は、その測定結果を示す形状データを制御部8に出力する。
【0092】
センサ75は、例えば、電磁波または超音波を用いた非接触の距離センサであってもよい。この場合、センサ75は超音波または電磁波である測定波を下側(-Z方向)に送波し、対象物で反射した測定波を受波する。センサ75は、測定波を送波したタイミングと、測定波を受波したタイミングとに基づいて、センサ75と対象物との間の距離を測定することができる。
【0093】
図10の例では、センサ75によって送波された測定波は、保持搬送部2による搬送中の処理対象物9の処理対象表面9aで反射されて、センサ75で受波される。処理対象物9がセンサ75の直下を横切る際にセンサ75によって得られた時系的な距離データは、処理対象物9の処理対象表面9aの形状を示すことになる。よって、センサ75は当該距離データを形状データとして制御部8に出力する。
【0094】
センサ75は、Z軸方向に沿って見て、搬送経路Y1の延在方向(ここではY軸方向)において、誘導結合型アンテナ41と並ぶ位置に設けられているとよい。これにより、センサ75は、処理対象表面9aのうち、誘導結合型アンテナ41と対面する部分の形状を測定することができる。複数の誘導結合型アンテナ41がX軸方向において配列される場合には、各誘導結合型アンテナ41に対応して複数のセンサ75が設けられるとよい。より具体的には、各センサ75は、平面視において、対応する誘導結合型アンテナ41と搬送経路Y1の延在方向で並んで設けられる。
【0095】
制御部8はセンサ75から入力された形状データに基づいて制御情報を生成する。制御情報とは、図9に例示するように、各誘導結合型アンテナ41の高さ位置と処理対象物9の搬送位置との関係を示す情報である。制御部8は当該制御情報に基づいて、第1の実施の形態と同様に、昇降部7を制御する。これによれば、第1の実施の形態と同様に、処理対象物9の処理対象表面9a上のプラズマの強度分布のばらつきを抑制することができる。
【0096】
しかも、第2の実施の形態によれば、センサ75は搬送経路Y1と対向する位置に設けられており、保持搬送部2によって保持された処理対象物9の処理対象表面9aの形状を測定している。これによれば、以下で説明する通り、誘導結合型アンテナ41の高さ位置を、より高い精度で処理対象表面9aの形状に応じて制御することができる。
【0097】
さて、保持搬送部2とは別の測定場所において処理対象物9の処理対象表面9aの形状を測定した場合、測定時における処理対象物9の載置姿勢は、プラズマ処理時における載置姿勢(つまり保持搬送部2による保持姿勢)と相違し得る。例えば、当該測定場所における載置面が、搬送ローラ21上のキャリア90の上面に対して傾いていると、測定場所における処理対象物9の載置姿勢はプラズマ処理時における載置姿勢と異なることになる。当該測定場所において測定した処理対象表面9aの形状データを用いて、誘導結合型アンテナ41の高さ位置を制御すれば、その載置姿勢の相違が高さ位置についての誤差となり得る。ひいては、当該相違はプラズマの強度分布のばらつきの要因となり得る。
【0098】
これに対して、第2の実施の形態では、センサ75は、処理対象物9が保持搬送部2に保持された状態で、処理対象表面9aの形状を測定する。つまり、センサ75は、プラズマ処理時における載置姿勢と略同一の載置姿勢をとる処理対象物9の処理対象表面9aの形状を測定することができる。したがって、制御部8は、高い精度で処理対象表面9aの形状に応じて誘導結合型アンテナ41を昇降させることができる。よって、処理対象表面9a上のプラズマの強度分布のばらつきをより適切に抑制することができ、より均一な膜厚で処理対象表面9aに薄膜を形成することができる。
【0099】
変形例.
上述の例では、制御部8は、誘導結合型アンテナ41と処理対象表面9aとの間の距離が一定の所定値D1と略一致するように昇降部7を制御した。しかるに、必ずしもこれに限らない。例えば制御部8は、処理対象表面9aの各位置に応じてプラズマの強度を異ならせるように昇降部7を制御しても構わない。より具体的な一例として、制御部8は、処理対象表面9aの頂点付近のプラズマの強度がその端部付近のプラズマの強度よりも大きくなるように、各誘導結合型アンテナ41の高さ位置を制御してもよい。
【0100】
要するに、制御部8は、誘導結合型アンテナ41の高さ位置を、処理対象表面9aの形状に応じて、処理対象物9の搬送位置に基づいて制御すればよい。これにより、処理対象表面9a上のプラズマの強度分布を調整しつつ、高いスループットでプラズマ処理を行うことができる。
【0101】
また上述の例では、プラズマ処理装置100として、プラズマ成膜装置を例示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、プラズマ処理装置100は、表面改質用のプラズマ処理装置であってもよい。具体的には、プラズマ処理装置100は金属製の処理対象物9の処理対象表面9a(金属面)に対して、アルゴン、窒素、水素、アンモニア等のガスでプラズマ処理を行うことで、処理対象表面9aを改質する。これにより、処理対象表面9aに形成する薄膜と、処理対象表面9aとの密着力を向上することができる。
【0102】
プラズマ処理装置は詳細に示され記述されたが、上記の記述は全ての態様において例示であって限定的ではない。したがって、プラズマ処理装置は、その開示の範囲内において、実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。また上述の実施の形態は適宜に組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0103】
100,100A プラズマ処理装置
1 チャンバー
2 保持搬送部
5 仕切部材
7 昇降部
41,41A~41C 電極(誘導結合型アンテナ)
45 電力供給部
62 ガス導入管
111 固定板
112 可動板
113 ベローズ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10