(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】仮設内部支保工の固定治具
(51)【国際特許分類】
E21D 11/40 20060101AFI20221227BHJP
【FI】
E21D11/40 A
(21)【出願番号】P 2019004799
(22)【出願日】2019-01-16
【審査請求日】2021-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 豊
(72)【発明者】
【氏名】久木田 駿一
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-018192(JP,A)
【文献】特開平10-212785(JP,A)
【文献】特開2002-013394(JP,A)
【文献】特開2000-273995(JP,A)
【文献】特開2000-104375(JP,A)
【文献】特開2001-146802(JP,A)
【文献】特開2012-172483(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01355039(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00-19/06
E21D 23/00-23/26
E04B 5/00-5/48
E04B 1/38-1/61
E21D 1/00-9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セグメントによって形成されたシールドトンネルの内面に沿って配置された仮設内部支保工を前記セグメントに固定する仮設内部支保工の固定治具であって、
前記固定治具は、抑え材とボルトとからなり、
前記抑え材は、
断面L字状を呈し、前記セグメントに埋設されたインサートに前記ボルトの締め付けによって前記セグメントに固定され、
前記セグメントの内面に沿って密着する前記仮設内部支保工を構成する梁材のフランジの両側端部は、対向する前記抑え材によって掛止され、
前記フランジの両側面と前記抑え材との間には隙間が形成されるとともに、前記梁材のウェブおよび前記フランジに直交して配置された複数の補剛材と前記抑え材との間には隙間が設けられており、
前記抑え材の前記フランジに掛かっている周面に沿って隅肉による溶接が施されている
ことを特徴とする仮設内部支保工の固定治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドトンネル工事に用いられる仮設内部支保工のセグメントへの固定治具に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド工法におけるトンネル工事のうち、特に道路トンネルでは、緊急時の避難や点検を目的として、併設する上下線トンネル同士を横坑で接続するUターン路や連絡道等が施工される場合があり、これらは地中内を非開削工法によるトンネルの一部を切開く作業を伴う。切開き対象範囲を含む同一リングのセグメントには、従来からガスによる溶断が可能な鋼製セグメントが用いられてきた。
切開き工事によるトンネルの不安定化を防ぐため、トンネル内には仮設内部支保工による補強工事が先行して行われる。この仮設内部支保工は、セグメントの切開きによって、それまでセグメントに作用していた軸力等の断面力を負担するため、仮設内部支保工とトンネルとを接続するトンネル内面形状に沿って固定される梁材には過大な滑り力が作用する。セグメントが鋼製であれば、セグメントを構成する縦リブ材等の仮設材を利用して梁材とセグメントとを比較的容易に固定することができる。
しかしながら近年、切開きに伴うトンネル全体の剛性低下の緩和とコストダウンの観点から、同一リングであっても、切開き箇所を含む最小範囲にのみ鋼製セグメントを適用し、それ以外はコンクリート系セグメントを適用する事例が増加してきており、梁材の設置範囲がコンクリート系セグメントに係る場合、セグメントへの梁材の固定手段が問題となる。
こうした仮設材をコンクリート系セグメントに固定する方法としては、一般に、予めセグメントに埋設したメス型インサートにボルトを螺着する方法が採用されるが、トンネルを構成するセグメントリングは、シールド機掘削時のヨーイング、ローリング、ピッチング等のトンネル断面方向の施工誤差やトンネル軸方向の伸縮による影響を受けやすく、インサートが所望する位置に配置されない可能性が高くなる。
参考までに、特許文献1には、トンネル内に内部支保工を設置し、一対のトンネルを連通させるトンネル軸方向の拡幅区間の一部に曲線パイプルーフを打設し、この曲線パイプルーフで地山を先受け支持しながら曲線パイプルーフ設置区間の上部空間を先行形成し、曲線パイプルーフ設置区間の上部空間を通じてトンネル軸方向に長尺鋼管を打設し、曲線パイプルーフ設置区間の上部空間を順次トンネル軸方向に延ばすように長尺鋼管で地山を先受け支持しながら長尺鋼管設置区間の上方の地山を掘削して、拡幅区間全体に亘って連通する上部空間を形成する形態が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、シールドトンネルのセグメントに埋設されたインサートの施工誤差による影響を吸収可能な仮設内部支保工の固定治具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明の仮設内部支保工の固定治具は、セグメントによって形成されたシールドトンネルの内面に沿って配置された仮設内部支保工を前記セグメントに固定する仮設内部支保工の固定治具であって、前記固定治具は、抑え材とボルトとからなり、前記抑え材は、断面L字状を呈し、前記セグメントに埋設されたインサートに前記ボルトの締め付けによって前記セグメントに固定され、前記セグメントの内面に沿って密着する前記仮設内部支保工を構成する梁材のフランジの両側端部は、対向する前記抑え材によって掛止され、前記フランジの両側面と前記抑え材との間には隙間が形成されるとともに、前記梁材のウェブおよび前記フランジに直交して配置された複数の補剛材と前記抑え材との間には隙間が設けられており、前記抑え材の前記フランジに掛かっている周面に沿って隅肉による溶接が施されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の仮設内部支保工の固定治具を適用することにより、シールド工事に伴う種々の施工誤差によってインサートの位置が変動しても、仮設内部支保工を確実にセグメント内面に固定するこができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の固定治具によりトンネル内面に固定された仮設内部支保工設置時のトンネル断面図である。
【
図2】(a)本発明の固定治具の平面図である(
図1のA-A矢視)。(b)本発明の固定治具の断面図である(
図2(a)のB-B矢視)。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1に、本発明の固定治具によりトンネル内面に固定された仮設内部支保工設置時のトンネル断面図を示す。
地盤G内に構築された円形トンネルTの外殻を形成する複数のセグメントピースからなる覆工1は、1リング断面内に、鋼製セグメント11とコンクリート系セグメント12の少なくとも2種類のセグメントから構成されている。併設する別なトンネルと横坑Sにより連接するため、横坑Sとの接続部を含む、止水や地山保持を目的として行われる薬液注入管(不図示)およびパイプルーフP等の施工範囲は、ガス溶断による切開き、注入管やパイプルーフの仕口等の仮設資機材の取付けや加工の容易さから鋼製セグメント11が適用されている。
【0009】
鋼製セグメント11の切開きによってトンネルが不安定化することを防ぐため、セグメントに作用していた軸力等の断面力を一時的に受け替える目的として、切開きに先立ってトンネル内には仮設内部支保工2が配置されている。仮設内部支保工2は主にH形鋼材により構成され、覆工1の上下内面に沿ってトンネル断面方向に対向するように配置された梁材21,21と、トンネル軸方向に所定の間隔を開けて配置された上下の梁材21,21・・・の左右および上下に架設された根太材22,22,22,22と、対向する上下の根太材22,22間に配置された柱材23と、からなる。本実施形態では、柱材23に油圧による伸縮可能なジャッキ24を介在させている。ジャッキ24の上下にはそれぞれ複数の水平繋ぎ材26,26・・・と斜繋ぎ材25,25・・・を配置することによって、左右に間隔を開けて隣り合う柱材23,23同士を繋ぎ、仮設内部支保工2全体の剛性向上を図り、ジャッキ24部の座屈を防止する。
【0010】
図2(a)に、
図1のA-A矢視である本発明の固定治具の平面図を、同図(b)に、同図(a)のB-B矢視である固定治具の断面図をそれぞれ示す。
覆工1の内面に沿ってトンネル断面方向に配置されたH形鋼材を主材とする梁材21は、覆工1の内面形状と同様に円弧状を呈しており、上下に対向するフランジ211,211とウェブ212、ウェブ212に直行する複数の補剛材213,213・・・とによって形成されている。
本発明の固定治具3は、平面視平板状の抑え材31とボルト32とからなり、抑え材31はコンクリート系セグメント12に埋設された雌型のインサート121にボルト32を螺着することで固定されている。抑え材31は、断面視L字状を呈し、コンクリート系セグメント12内面に沿って密着するように配置されたフランジ211の両側端部を対向する抑え材31,31によって掛止している。また、抑え材31のフランジ211に掛かっている周面に沿って隅肉による溶接33が施されている。フランジ211の両側面と抑え材31,31との間および補剛材213,213・・・と抑え材31,31・・・との間には隙間が設けられており、この隙間により、シールド工事に伴うトンネル断面および軸方向に生じる種々の施工誤差を吸収することを可能にしている。すなわち、この隙間の範囲内に梁材21が設置されれば、溶接33の総長は変わらないため、溶接33による梁材21のコンクリート系セグメント12への固定強度も影響を受けないからである。
【0011】
本発明の仮設内部支保工の固定治具を適用することにより、シールド工事に伴う種々の施工誤差によってインサートの位置が変動しても、仮設内部支保工を確実にセグメント内面に固定するこができる。
【0012】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0013】
G 地盤
T トンネル
P パイプルーフ
S 横坑
1 覆工
11 鋼製セグメント
12 コンクリート系セグメント
121 インサート
2 仮設内部支保工
21 梁材
211 フランジ
212 ウェブ
213 補剛材
22 根太材
23 柱材
24 ジャッキ
25 斜繋ぎ材
26 水平繋ぎ材
3 固定治具
31 抑え材
32 ボルト
33 溶接