(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】鋼構造物の補修方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20221227BHJP
【FI】
E04G23/02 A
(21)【出願番号】P 2019017513
(22)【出願日】2019-02-01
【審査請求日】2022-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507194017
【氏名又は名称】株式会社高速道路総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】505398941
【氏名又は名称】東日本高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505398952
【氏名又は名称】中日本高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169155
【氏名又は名称】倉橋 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075638
【氏名又は名称】倉橋 暎
(72)【発明者】
【氏名】秀熊 佑哉
(72)【発明者】
【氏名】三宅 央真
(72)【発明者】
【氏名】緒方 辰男
(72)【発明者】
【氏名】原田 拓也
【審査官】佐藤 史彬
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-009334(JP,A)
【文献】特開2005-200958(JP,A)
【文献】特開2005-076230(JP,A)
【文献】特開2005-213899(JP,A)
【文献】特開2015-124553(JP,A)
【文献】特開2017-125389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E01D 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食等により減厚した欠損箇所を有した鋼構造物の表面上に強化繊維を含む繊維シートを接着して一体化する鋼構造物の補修方法であって、
(a)鋼構造物表面の前記欠損箇所を含む一部の領域を素地調整し、塗料、錆を除去する工程と、
(b)前記素地調整された前記鋼構造物の前記欠損箇所は含むが、前記素地調整された全部の領域より狭い領域に対して、前記繊維シートを接着剤により接着する工程と、
(c)前記繊維シートと、前記繊維シートの周辺の、前記素地調整された領域及び前記構造物表面の前記素地調整されていない領域と、を覆って保護フィルムを貼り付ける工程と、
を有することを特徴とする鋼構造物の補修方法。
【請求項2】
前記(b)工程にて使用する前記繊維シートと、前記(c)工程にて使用する保護フィルムは、予め一体に接着されており、前記(b)工程の前記繊維シートの前記素地調整された領域への接着と、前記(c)工程の前記保護フィルムの前記繊維シート周辺領域への貼り付けとを同時に行うことを特徴とする請求項1に記載の鋼構造物の補修方法。
【請求項3】
前記(b)工程にて使用する接着剤は、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼構造物の補修方法。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂であり、前記熱可塑性樹脂は、熱可塑性エポキシ樹脂、ナイロン、又はビニロンであることを特徴とする請求項3に記載の鋼構造物の補修方法。
【請求項5】
腐食等により減厚した欠損箇所を有した鋼構造物の表面上に強化繊維を含む繊維シートを接着して一体化する鋼構造物の補修方法であって、
(a)鋼構造物表面の前記欠損箇所を含む一部の領域を素地調整し、塗料、錆を除去する工程と、
(b)前記鋼構造物の前記素地調整された領域、及び、前記素地調整された領域の周辺の前記素地調整されていない前記鋼構造物表面の領域を覆って耐候性を有するシート状のシリコーン系樹脂シート接着剤を接着する工程と、
(c)前記素地調整された前記鋼構造物の前記欠損箇所は含むが、前記素地調整された全部の領域より狭い領域に対応するようにして前記繊維シートを配置し、前記シリコーン系樹脂シート接着剤の上に前記繊維シートを押し付けて接着する工程と、
(d)前記繊維シートを覆って保護フィルムを貼り付ける工程と、
を有することを特徴とする鋼構造物の補修方法。
【請求項6】
前記(c)工程にて使用する前記繊維シートと、前記(d)工程にて使用する保護フィルムは、予め一体に接着されており、前記(d)工程を省略することを特徴とする請求項5に記載の鋼構造物の補修方法。
【請求項7】
前記繊維シートは、一方向に引き揃えた連続した強化繊維を互いに線材固定材にて固定した繊維シートであることを特徴とする請求項1~6のいずれかの項に記載の鋼構造物の補修方法。
【請求項8】
前記繊維シートは、一方向に引き揃えた連続した強化繊維シートに樹脂が含浸され、前記樹脂が硬化された繊維シートであることを特徴とする請求項1~6のいずれかの項に記載の鋼構造物の補修方法。
【請求項9】
前記繊維シートは、強化繊維にマトリクス樹脂が含浸され、硬化された連続した繊維強化プラスチック線材を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、線材を互いに線材固定材にて固定した繊維シートであることを特徴とする請求項1~6のいずれかの項に記載の鋼構造物の補修方法。
【請求項10】
前記マトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項9に記載の鋼構造物の補修方法。
【請求項11】
前記熱硬化性樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂であり、前記熱可塑性樹脂は、熱可塑性エポキシ樹脂、ナイロン、又はビニロンであることを特徴とする請求項10に記載の鋼構造物の補修方法。
【請求項12】
前記繊維シートは、複数層にて積層して接着されることを特徴とする請求項1~11のいずれかの項に記載の鋼構造物の補修方法。
【請求項13】
前記強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維;ボロン繊維、チタン繊維、スチール繊維などの金属繊維;更には、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステルなどの有機繊維;が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用することを特徴とする請求項1~12のいずれかの項に記載の鋼構造物の補修方法。
【請求項14】
前記保護フィルムは、基材フィルムとして耐候性を有するアクリル系樹脂フィルム、塩化ビニル系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム又はフッ素系樹脂フィルムを有することを特徴とする請求項1~13のいずれかの項に記載の鋼構造物の補修方法。
【請求項15】
前記保護フィルムは、前記基材フィルムに積層された粘着剤を有することを特徴とする請求項14に記載の鋼構造物の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続した強化繊維を含むシート状の強化繊維含有材料(以下、「繊維シート」という。)を使用して、橋、桟橋、煙突等、更には、船、車両、航空機等の腐食減厚した鋼構造物を補強するべく簡易的に補修する鋼構造物の補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、既存或いは新設の鋼構造物の補修補強方法として、その表面に炭素繊維シートやアラミド繊維シートなどの連続強化繊維シートを貼り付けたり、巻き付けたりする炭素繊維シート接着工法やアラミド繊維シート接着工法などの連続繊維シート接着工法がある。また、未硬化のマトリクス樹脂を連続繊維束に含浸させた繊維シートを接着した後に硬化させる工法、がある。
【0003】
更には、現場での樹脂の含浸を省略するため、工場生産した板厚1~2mm、幅5cm程度の板状の繊維強化プラスチック材(FRPプレート)をパテ状接着樹脂を用いて接着するFRPプレート接着工法も開発されている。
【0004】
特許文献1に記載されており、また、現在実際に施工されている鋼構造物の補修補強方法について、
図11(a)~(f)を参照して説明すると、この補修補強方法によれば、
(a)鋼構造物200の被補強面(即ち、被接着面)201の脆弱部201aを、ディスクサンダなどの研削手段50により除去し、鋼構造物200の被接着面201を下地処理をする(
図11(a)、(b))。
(b)下地処理した面202にプライマー203を塗布する(
図11(c))。
(c)プライマー203を塗布した被接着面201にポリウレア樹脂パテ剤204を塗布して硬化させ、弾性層204を形成する(
図11(d))。
(d)弾性層204の上に接着剤205を塗布し、この面に、繊維シート1を押し付けて補強対象コンクリート構造物200の表面202に弾性層204を介して接着する(
図11(e))。
工程を有している。
【0005】
ここで、屋外に構築された鋼構造物における補強作業においては、鋼構造物に接着され、鋼構造物の表層を形成している繊維シート、樹脂、などの紫外線、水、酸素による劣化が懸念される。
【0006】
そこで、補強された鋼構造物の表面領域を塗装して塗膜206を形成することが行われている(
図11(f))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に記載する鋼構造物の補修補強方法によれば、繊維シート1の剥離を防止し、日射等の高温環境下においても、十分な補強効果を得ることができる。また、斯かる補修補強方法にて使用する繊維シート1の耐久性は、20~30年とされている。従って、繊維シートは、例えば20~30年毎の定期的な鋼構造物の塗装塗り替え時に、鋼構造物から剥がし、貼り替えることが行われている。
【0009】
一方、例えば、鋼構造物は、5年毎の近接目視点検が行われており、この目視点検時に、鋼構造物に部分的に腐食減厚した鋼材欠損箇所が見つかることがある。この場合に、鋼構造物の全面的な補修、補強をなす程度にまでは至っていないが、部分的な補修補強を早急に行うのが好ましい、と思われる場合がある。
【0010】
このような場合に、塗装塗り替え時に行われているような鋼構造物全領域に渡る繊維シートによる補強を実施するには、補強材料の準備、搬送が大がかりとなる上、相当な施工時間、及び、施工コストが掛かってしまう。例えば、上記工程(a)~(e)をなすのに数日間を要し、また、屋外に構築された鋼構造物においては、上述のように、繊維シート、樹脂、などの紫外線、水、酸素による劣化を防止するために、塗装(上記工程(f))が必須とされる。塗装には、中塗り、上塗りとあり、そのために更に工期が長くなるといった問題がある。
【0011】
そこで、5年毎の近接目視点検時に局部的な欠損が発見された場合には、定期的に実施される塗装塗り替え時の全面的な繊維シート貼り替えを待つまでもなく、短時間で、例えば10分以内の短時間で施工を完了することができる簡易な補修方法が希求されている。
【0012】
本発明者らは鋼構造物の簡易な補強方法を実現するべく多くの研究実験を行った結果、特に、従来の繊維シートを使用した鋼構造物の補修補強方法にて多くの施工時間を必要とした塗装工程を無くし、その代わりに、耐候性を有する保護フィルムで補修個所を被覆して保護することにより、10年程度の期間は十分な耐候性、従って、補強強度が保証される補修施工が可能であり、また、必要に応じて、保護フィルムの貼り替えも容易に実施し得ることが分かった。従って、保護フィルムを、必要に応じて、5年毎の近接目視点検時において貼り替えを行えば、炭素繊維などを使用した繊維シートにおける20~30年間の使用許容期間内の耐候性が保証され、補強強度の低下はなく、更には、施工費用を極力低減し得る簡易な補修方法を提供し得ることが分かった。
【0013】
本発明は、斯かる本発明者らの新規な知見に基づくものである。
【0014】
本発明の目的は、塗装の代わりに耐候性を有した保護フィルムを使用することにより、例えば10分以内といった短時間で施工を完了することができ、しかも、5年毎の近接目視点検時までは十分に補強効果を達成することができ、更には、必要に応じて、5年毎の近接目視点検時の貼り替えが可能とされ、また、施工費用を極力低減し得る簡易な鋼構造物の補修方法を提供することである。
【0015】
本発明の他の目的は、現場までの補修材料の搬送が容易であり、また、施工作業も簡易な鋼構造物の補修方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的は本発明に係る鋼構造物の補修方法にて達成される。要約すれば、第1の本発明は、腐食等により減厚した欠損箇所を有した鋼構造物の表面上に強化繊維を含む繊維シートを接着して一体化する鋼構造物の補修方法であって、
(a)鋼構造物表面の前記欠損箇所を含む一部の領域を素地調整し、塗料、錆を除去する工程と、
(b)前記素地調整された前記鋼構造物の前記欠損箇所は含むが、前記素地調整された全部の領域より狭い領域に対して、前記繊維シートを接着剤により接着する工程と、
(c)前記繊維シートと、前記繊維シートの周辺の、前記素地調整された領域及び前記構造物表面の前記素地調整されていない領域と、を覆って保護フィルムを貼り付ける工程と、
を有することを特徴とする鋼構造物の補修方法である。
【0017】
第1の本発明の一実施態様によれば、前記(b)工程にて使用する前記繊維シートと、前記(c)工程にて使用する保護フィルムは、予め一体に接着されており、前記(b)工程の前記繊維シートの前記素地調整された領域への接着と、前記(c)工程の前記保護フィルムの前記繊維シート周辺領域への貼り付けとを同時に行う。
【0018】
第1の本発明の他の実施態様によれば、前記(b)工程にて使用する接着剤は、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂である。好ましくは、前記熱硬化性樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂であり、前記熱可塑性樹脂は、熱可塑性エポキシ樹脂、ナイロン、又はビニロンである。
【0019】
第2の本発明は、腐食等により減厚した欠損箇所を有した鋼構造物の表面上に強化繊維を含む繊維シートを接着して一体化する鋼構造物の補修方法であって、
(a)鋼構造物表面の前記欠損箇所を含む一部の領域を素地調整し、塗料、錆を除去する工程と、
(b)前記鋼構造物の前記素地調整された領域、及び、前記素地調整された領域の周辺の前記素地調整されていない前記鋼構造物表面の領域を覆って耐候性を有するシート状のシリコーン系樹脂シート接着剤を接着する工程と、
(c)前記素地調整された前記鋼構造物の前記欠損箇所は含むが、前記素地調整された全部の領域より狭い領域に対応するようにして前記繊維シートを配置し、前記シリコーン系樹脂シート接着剤の上に前記繊維シートを押し付けて接着する工程と、
(d)前記繊維シートを覆って保護フィルムを貼り付ける工程と、
を有することを特徴とする鋼構造物の補修方法である。
【0020】
第2の本発明の一実施態様によれば、前記(c)工程にて使用する前記繊維シートと、前記(d)工程にて使用する保護フィルムは、予め一体に接着されており、前記(d)工程を省略する。
【0021】
上記第1、第2の本発明の他の実施態様によれば、前記繊維シートは、一方向に引き揃えた連続した強化繊維を互いに線材固定材にて固定した繊維シートであるか、前記繊維シートは、一方向に引き揃えた連続した強化繊維シートに樹脂が含浸され、前記樹脂が硬化された繊維シートである。
【0022】
上記第1、第2の本発明の他の実施態様によれば、前記繊維シートは、強化繊維にマトリクス樹脂が含浸され、硬化された連続した繊維強化プラスチック線材を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、線材を互いに線材固定材にて固定した繊維シートとすることができ、このとき、前記マトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂である。また、前記熱硬化性樹脂は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂であり、前記熱可塑性樹脂は、熱可塑性エポキシ樹脂、ナイロン、又はビニロンである。
【0023】
上記第1、第2の本発明の他の実施態様によれば、前記繊維シートは、複数層にて積層して接着される。
【0024】
上記第1、第2の本発明の他の実施態様によれば、前記強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維;ボロン繊維、チタン繊維、スチール繊維などの金属繊維;更には、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステルなどの有機繊維;が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用することができる。
【0025】
上記第1、第2の本発明の他の実施態様によれば、前記保護フィルムは、基材フィルムとして耐候性を有するアクリル系樹脂フィルム、塩化ビニル系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム又はフッ素系樹脂フィルムを有する。また、他の実施態様によれば、前記保護フィルムは、前記基材フィルムに積層された粘着剤を有する。
【発明の効果】
【0026】
本発明の鋼構造物の補修方法によれば、塗装の代わりに耐候性を有した保護フィルムを使用することにより、例えば10分以内といった短時間で施工を完了することができ、しかも、5年毎の近接目視点検時までは十分に補強効果を達成することができ、更には、必要に応じて、5年毎の近接目視点検時の貼り替えが可能とされ、また、施工費用を極力低減することができる。また、本発明の鋼構造物の補修方法は、現場までの補修材料の搬送が容易であり、また、施工作業も簡易である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1(a)、(b)は、本発明の鋼構造物の補修方法を説明するための図であり、
図1(a)は斜視図であり、
図1(b)は断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の鋼構造物の補修方法に使用し得る繊維シートの一実施例を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の鋼構造物の補修方法に使用し得る繊維シートの他の実施例を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の鋼構造物の補修方法に使用し得る繊維シートの一実施例を示す斜視図である。
【
図5】
図5(a)、(b)は、本発明の鋼構造物の補修方法に使用し得る繊維シートを構成する繊維強化プラスチック線材の例を示す断面図である。
【
図6】
図6(a)、(b)は、本発明の鋼構造物の補修方法に使用し得る繊維シートの他の実施例を示す斜視図である。
【
図7】
図7(a)~(e)は、本発明の鋼構造物の補修方法の一実施例を説明する工程図である。
【
図8】
図8(a)は、本発明の鋼構造物の補修方法に使用する保護フィルムの他の例を示す断面図であり、
図8(b)、(c)は、本発明の鋼構造物の補修方法の他の実施例に使用する保護フィルムが接着された繊維シートの例を示す断面図である。
【
図9】
図9(a)、(b)は、本発明の鋼構造物の補修方法を説明するための図であり、
図9(a)は斜視図であり、
図9(b)は断面図である。
【
図10】
図10(a)~(f)は、本発明の鋼構造物の補修方法の他の実施例を説明する工程図である。
【
図11】
図11(a)~(f)は、従来の鋼構造物の補強補修方法の一例を説明する工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る鋼構造物の補修方法を実施例に即して更に詳しく説明する。
【0029】
実施例1
図1(a)、(b)を参照して、本発明に係る鋼構造物の補修方法の第一の実施例について説明する。本発明は、腐食等により減厚した欠損箇所を有した鋼構造物の表面上に強化繊維を含む繊維シートを接着して一体化する鋼構造物の補修方法である。本実施例によれば、本発明の鋼構造物の補修方法は、
(a)鋼構造物100の表面の欠損箇所103を含む一部の領域を素地調整し、塗料、錆を除去する工程と、
(b)素地調整された鋼構造物の欠損箇所は含むが、素地調整された全部の領域104より狭い領域に対して、繊維シート1を接着剤105により接着する工程と、
(c)繊維シート1と、繊維シート1の周辺の、素地調整された領域(△L104)及び構造物表面の素地調整されていない領域(△L106)と、を覆って保護フィルム106を貼り付ける工程と、
を有することを特徴とする。前記(b)工程にて使用する繊維シートと、前記(c)工程にて使用する保護フィルム106は、予め一体に接着されており、前記(b)工程と前記(c)工程とを同時に行うこともできる。
【0030】
次に、本発明にて使用する各材料について説明する。
【0031】
(繊維シート)
本発明においては種々の形態の繊維シート1を使用することができる。繊維シート1の実施例を具体的に具体例1~3として説明するが、本発明で使用する繊維シート1の形態は、これら具体例に示すものに限定されるものではない。
【0032】
具体例1
図2に、本発明にて使用することのできる繊維シート1の一実施例を示す。繊維シート1は、連続した強化繊維fを一方向に引き揃えてシート状に構成される樹脂未含浸の繊維シート1Aとされる。
【0033】
即ち、繊維シート1Aは、一方向に引き揃えた連続した強化繊維fから成る強化繊維シートをメッシュ状の支持体シートなどとされる線材固定材3にて保持した構成とすることができる。例えば、強化繊維fとして炭素繊維を使用した場合には、例えば平均径7μmの単繊維(炭素繊維モノフィラメント)fを6000~24000本収束した樹脂未含浸の単繊維束を複数本、一方向に平行に引き揃えて使用される。炭素繊維シート1Aの繊維目付は、通常、30~1000g/m2とされる。
【0034】
線材固定材3としてのメッシュ状の支持体シートを構成する縦糸4及び横糸5の表面に低融点タイプの熱可塑性樹脂を予め含浸させておき、メッシュ状支持体シート3をシート状に配列した炭素繊維の片面或いは両面に積層して加熱加圧し、メッシュ状支持体シート3の縦糸4及び横糸5の部分を炭素繊維シートに溶着する。
【0035】
メッシュ状支持体シート3は、2軸構成のほかに、ガラス繊維を3軸に配向して形成したり、或いは、ガラス繊維を一方向に配列された炭素繊維に対して直交する横糸5のみを配置した、所謂、1軸に配向して形成して前記シート状に引き揃えた炭素繊維に接着することもできる。
【0036】
又、上記線材固定材3の糸条としては、例えばガラス繊維を芯部に有し、低融点の熱融着性ポリエステルをその周囲に配したような二重構造の複合繊維も又好ましく用いられる。
【0037】
具体例2
また、繊維シート1は、
図3に示すように、複数の強化繊維fを一方向に引き揃えた強化繊維シート、例えば、
図2に示すような繊維シート1Aに樹脂Reを含浸し、前記樹脂が硬化された板状の繊維シート(所謂、FRPプレート)1Bとすることもできる。
【0038】
上記具体例1、2で説明した繊維シート1A、1Bにおいて、強化繊維fとしては、炭素繊維に限定されるものではなく、ガラス繊維、バサルト繊維;ボロン繊維、チタン繊維、スチール繊維などの金属繊維;更には、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステルなどの有機繊維;が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用することができる。
【0039】
また、具体例2における繊維シート1Bの場合の樹脂Reとしては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用することができ、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などが好適に使用され、又、熱可塑性樹脂としては、熱可塑性エポキシ樹脂、ナイロン、ビニロンなどが好適に使用可能である。又、樹脂含浸量は、30~70重量%、好ましくは、40~60重量%とされる。
【0040】
具体例3
更には、
図4及び
図5に示すように、繊維シート1としては、マトリクス樹脂Rfが含浸され硬化された細径の連続した繊維強化プラスチック線材2を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、各線材2を互いに線材固定材3にて固定した繊維シート(ストランドシート)1Cを使用することもできる。
【0041】
繊維強化プラスチック線材2は、直径(d)が0.5~3mmの略円形断面形状(
図5(a))であるか、又は、幅(w)が1~10mm、厚み(t)が0.1~2mmとされる略矩形断面形状(
図5(b))とし得る。勿論、必要に応じて、その他の種々の断面形状とすることができる。
【0042】
上述のように、一方向に引き揃えスダレ状とされた繊維シート1において、各線材2は、互いに空隙(g)=0.05~3.0mmだけ近接離間して、線材固定材3にて固定される。
【0043】
繊維シート1Cの場合においても、強化繊維fとしては、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維;ボロン繊維、チタン繊維、スチール繊維などの金属繊維;更には、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステルなどの有機繊維;が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用することができる。また、繊維強化プラスチック線材2に含浸されるマトリクス樹脂Rfは、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用することができ、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などが好適に使用され、又、熱可塑性樹脂としては、熱可塑性エポキシ樹脂、ナイロン、ビニロンなどが好適に使用可能である。又、樹脂含浸量は、30~70重量%、好ましくは、40~60重量%とされる。
【0044】
又、各線材2を線材固定材3にて固定する方法としては、
図4に示すように、例えば、線材固定材3として横糸を使用し、一方向にスダレ状に配列された複数本の線材2から成るシート形態とされる線材、即ち、連続した線材シートを、線材に対して直交して一定の間隔(P)にて打ち込み、編み付ける方法を採用し得る。横糸3の打ち込み間隔(P)は、特に制限されないが、作製された繊維シート1の取り扱い性を考慮して、通常10~100mm間隔の範囲で選定される。
【0045】
このとき、横糸3は、例えば直径2~50μmのガラス繊維或いは有機繊維を複数本束ねた糸条とされる。又、有機繊維としては、ナイロン、ビニロンなどが好適に使用される。
【0046】
各線材2をスダレ状に固定する他の方法としては、
図6(a)に示すように、線材固定材3としてメッシュ状支持体シートを使用することができる。
【0047】
つまり、シート形態を成すスダレ状に引き揃えた複数本の線材2、即ち、線材シートの片側面、又は、両面を、例えば直径2~50μmのガラス繊維或いは有機繊維にて作製した、上記具体例1で説明したと同様の構成とされるメッシュ状の支持体シート3により支持した構成とすることもできる。
【0048】
更に、各線材2をスダレ状に固定する他の方法としては、
図6(b)に示すように、線材固定材3として、例えば、粘着テープ又は接着テープなどとされる可撓性帯材を使用することができる。可撓性帯材3は、シート形態を成すスダレ状に引き揃えた各繊維強化プラスチック線材2の長手方向に対して垂直方向に、複数本の繊維強化プラスチック線材2の片側面、又は、両面を貼り付けて固定する。
【0049】
つまり、可撓性帯材3として、幅(w1)2~30mm程度の、塩化ビニルテープ、紙テープ、布テープ、不織布テープなどの粘着テープ又は接着テープが使用される。これらテープ3を、通常、10~100mm間隔(P)で各繊維強化プラスチック線材2の長手方向に対して垂直方向に貼り付ける。
【0050】
更に、可撓性帯材3としては、ナイロン、EVA樹脂などの熱可塑性樹脂を帯状に、線材2の長手方向に対して垂直方向に片側面、又は、両面に熱融着させることによっても達成される。
【0051】
上記具体例1~3に示す繊維シート1の長さ(L)及び幅(W)は、一般に、全幅(W)は100~1000mmとされ、長さ(L)は1~5m程度の短冊状のもの、或いは、100m以上のものを製造し得るが、本発明では、可搬性を良好なものとするために、このサイズに限定されるものではないが、繊維シート1の長さ(L)、幅(W)は、150~400mmの範囲のサイズに切断して使用され、詳しくは後述するように、通常、長さ(L)×幅(W)が300mm×200mm程度のサイズとされる。
【0052】
(補強方法)
次に、
図1(a)、(b)及び
図7(a)~(e)を参照して、本発明の鋼構造物の補修方法の第一の実施例について説明する。本発明によれば、前述のようにして製造された繊維シート1を、可搬性の良い寸法に切断して用いて、腐食等により減厚した鋼構造物の欠損箇所の補強のための補修を行う。
【0053】
(第1工程)
図7(a)に示すように、鋼構造物100は、その一部に腐食等により減厚した欠損箇所103が生じることがあり、この欠損箇所103が本発明の方法により補修される。本発明にて補修される欠損個所は、その欠損深さ(t)が2mm程度、長さは5~100mm、幅は5~100mm程度が想定される。
【0054】
本発明によれば、先ず、
図7(b)に示すように、鋼構造物100の表面101の欠損箇所103を含む被補修領域(素地調整領域)104を下地処理する。すなわち、下地処理は、塗装102における旧塗膜、錆を電動工具、或いは、手工具などを用いて除去する、所謂、2種ケレン程度の下地処理、即ち、素地調整を行う。ケレン用工具としては、バッテリー式のディスクサンダなどが持ち運び可能であり、また、小規模の素地調整作業には好適に使用できる。
【0055】
本発明で使用する繊維シート1は、持ち運びが容易であり、また、補修作業に要する必要作業時間等をも考慮して、本実施例では、繊維シート1の1枚当たりの厚さ(T)は1~3mm、長さ(L)×幅(W)が300mm×200mm程度とされる。従って、素地調整を行う素地調整領域104(L104a、L104b)は、使用される繊維シート1のサイズ(L×W)よりケレン余長(△L104)だけ広い領域とされる。ケレン余長(△L104)は5~50mm、通常、20mm程度とされる。
【0056】
(第2工程)
図7(c)、(d)に示すように、素地調整した素地調整領域104に接着剤105を塗布する。接着剤105は、欠損個所103を含む素地調整領域104(L104a、L104b)の範囲内で素地調整された全部の領域より狭い領域に限定して行うのが良く、場合によってはマスキングを行って塗布することもできる。ただ、素地調整領域104の範囲よりはみ出して、素地調整領域周辺の塗装102の活膜部位に僅かにはみ出しても問題はない。
【0057】
次いで、接着剤105を塗布した面に繊維シート1を押し付けて鋼構造物表面102に接着する。
【0058】
本発明の鋼構造物の補修方法によれば、例えば、繊維シート1として、上記具体例1で説明した強化繊維fを一方向に引き揃えて作製された繊維シート1Aを使用することができ、素地調整された鋼構造物の欠損箇所の表面に接着剤105にて接着して一体化する。この時、繊維シート1Aの鋼構造物への接着と同時に、この接着剤による繊維シート1Aに対する接着剤(マトリクス樹脂)含浸をも行うことができる。
【0059】
鋼構造物100の補修に際して、曲げモーメント及び軸力を主として受ける部材(構造物)に対しては、曲げモーメントにより生じる引張応力或いは圧縮応力の主応力方向に強化繊維の配向方向を概ね一致させて接着することで、繊維シート1が効果的に応力を負担し、簡便な補修方法ではあっても、効率的に構造物の耐荷力を向上させることが可能である。
【0060】
また、直交する2方向に曲げモーメントが作用する場合、繊維シート1の強化繊維fの配向方向が曲げモーメントにより生じる主応力に概ね一致するように2層以上の繊維シート1を直交させて積層接着することで効率的に耐荷力の向上が図れる。
【0061】
また、必要補強量が多い場合には、構造物表面に複数層の繊維シート1を接着することが可能である。通常、繊維シート1は、積層数2層にて、鋼1mm相当に対応するように作製される。
【0062】
接着剤105としては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用することができ、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などが好適に使用され、又、熱可塑性樹脂としては、熱可塑性エポキシ樹脂、ナイロン、ビニロンなどが好適に使用可能である。又、樹脂含浸量は、30~70重量%、好ましくは、40~60重量%とされる。
【0063】
尚、接着剤105は、素地調整領域104の上に塗布するものとして説明したが、勿論、繊維シート1に塗布することもでき、また、素地調整領域104の表面及び繊維シート1接着面の両面上に塗布しても良い。
【0064】
上述のように、本発明では、繊維シート1に対する含浸作業は、現場にて実施されるので、接着剤として例えば2液タイプのエポキシ樹脂を使用する場合には、主剤と硬化剤ととをカートリッジ化とし、1回~複数回の使用量だけの容量として軽量化を図り、また、従来の補修補強作業において行われていた現場での大容量の薬剤の撹拌作業を不要とすることにより、より現場での作業が容易となり、工期の短縮を図ることができる。
【0065】
上記説明では、繊維シート1は、具体例1で説明した樹脂未含浸の繊維シート1Aであるとして説明したが、繊維シート1は、具体例2で説明した樹脂が含浸硬化された板状の繊維シート、即ち、FRPプレート1Bとすることもできる。FRPプレート1Bの場合も、可搬性、作業性を考慮して、FRPプレート1Bのサイズは、上述したように、長さ(L)×幅(W)を300mm×200mmとすることができ、角部は、けが防止及び応力集中緩和のために、半径10mm程度のR加工をするのが好ましい。一般に、FRPプレート1Bの場合は、1層で厚さは、1~2mmとされ、鋼2~4mm相当に対応している。
【0066】
例えば、本発明者らの研究実験によれば、炭素繊維を用いたFRPプレート(CFRPプレート)1Bは、厚さが0.8mm、1.2mm、2mmのいずれのプレートでも400MPa(鋼材SM570の降伏の88%、許容の1.56倍)での剥離となり、実用上十分な強度を有していることが分かった。なお、CFRPプレート1Bは、弾性係数が350GPaであるため、2mmの欠損に相当する板厚は1.2mmである。
【0067】
また、FRPプレート1Bは、含浸樹脂が硬化されており、入隅部などへ適合して接着するのは困難である。従って、このような入隅部などの湾曲部の補修を必要とする場合は、例えば、FRPプレート1Bへの含侵樹脂として熱可塑性樹脂を使用することによって、即ち、例えば80~100℃程度で変形する現場加工可能な熱可塑性樹脂を使用することによって施工可能とされる。
【0068】
更に繊維シート1としては、具体例3で説明した、繊維強化プラスチック線材2が複数本長手方向にスダレ状に引き揃えて形成された繊維シート、即ち、ストランドシート1Cとすることもできる。この場合、接着剤105は、ストランドシート1Cの各線材2、2の間の空隙(g)にも充填され、ストランドシート1Cが素地調整領域104に接着される。
【0069】
(第3工程)
次に、
図7(d)、(e)に示すように、鋼構造物に接着された繊維シート1を覆って、保護フィルム106を鋼構造物表面に貼り付ける。保護フィルム106は、繊維シート1を被覆し、更に、繊維シート1の周囲の素地調整されていない鋼構造物の表面へと延在して、除去されていない塗装領域の活膜に所定量の重なり、即ち、ラップ長(△L106)をもって、粘着剤にて接着される。すなわち、繊維シート1と、繊維シート1の周辺の、素地調整された領域104(ケレン余長△L104の領域)及び構造物表面の素地調整されていない領域(ラップ長△L106の領域)と、を覆って保護フィルム106を貼り付ける。ラップ長△L106は、20~100mm程度とされ、通常、50mm程度とされる。
【0070】
保護フィルム106は、繊維シート1を紫外線から保護するものであり、また、繊維シート1と除去されていない活膜との間の領域(即ち、ケレン余長△L104)を水・酸素と遮断するためのものである。例えば保護フィルム106は、
図7(d)に示すように、耐候性を有するアクリル系樹脂フィルム、塩化ビニル系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム又はフッ素系樹脂フィルムなどの基材フィルム106aと、基材フィルム106を繊維シート1等に接着するための粘着剤106bとを有する構成とされる。保護フィルム106としては、例えば、塩化ビニル樹脂フィルムにアクリル系粘着剤が一体に形成スリーエムジャパン株式会社製の保護フィルム(商品名:「3MスコッチカルフィルムETMシリーズ」)を好適に使用し得る。この保護フィルムは、
図8(a)に示すように、基材フィルムとしての耐候性を有した塩化ビニル系樹脂フィルム106aと、粘着剤としてのアクリル系粘着剤106bと、表層として更に耐候性有した表面保護層(アクリル樹脂フィルム)106cとを備えた構成とされ、粘着剤面に剥離紙106dが貼付されている。保護フィルム106の厚さは、離型紙106cを含まない厚さで0.14mmとされる。使用時には、剥離紙106dを作業現場にて剥がして、繊維シート1などに貼り付けることができ好便である。本発明者らの研究実験の結果によれば、斯かる保護フィルムは、最小限10年以上の、通常、10年程度の耐候性を有しているものと考えられる。また、貼着後において、必要により、繊維シート1などから容易に剥がすことができる。
【0071】
なお、前記(c)工程にて使用する繊維シート1と、前記(d)工程にて使用する保護フィルム106は、
図8(b)に示すように、予め一体に接着しておくことができる。この場合は、前記(c)工程と前記(d)工程とを同時に、即ち、繊維シート1を接着剤105にて素地調整領域104に接着すると共に、保護フィルム106をケレン余長△L104の領域及びその周囲の塗装領域の活膜部位(△L106の領域)に接着する。なお、このように保護フィルム106を繊維シート1に予め接着した場合、現場での作業前においては、繊維シート1からはみ出した領域には離形紙を接着して置き、現場での作業時に離形紙を剥がして使用することができる。
【0072】
実施例2
図9(a)、(b)及び
図10(a)~(f)を参照して、本発明に係る鋼構造物の補修方法の第二の実施例について説明する。本実施例にて、本発明は、上記実施例1と同様に、腐食等により減厚した欠損箇所を有した鋼構造物100の表面上に強化繊維を含む繊維シート1を接着して一体化する鋼構造物の補修方法である。本実施例によれば、本発明の鋼構造物の補修方法は、
(a)鋼構造物100の表面の欠損箇所103を含む一部の領域を素地調整し、塗料、錆を除去する工程と、
(b)鋼構造物の素地調整された領域104、及び、素地調整された領域の周辺の素地調整されていない鋼構造物表面領域(△L106)を覆って耐候性を有するシート状のシリコーン系樹脂シート接着剤105を接着する工程と、
(c)素地調整された鋼構造物の欠損箇所103は含むが、素地調整された全部の領域104より狭い領域に対応するようにして繊維シート1を配置し、シリコーン系樹脂シート接着剤105の上に繊維シート1を押し付けて接着する工程と、
(d)繊維シート1を被覆して保護フィルム106を貼り付ける工程と、
を有することを特徴とする。前記(c)工程にて使用する繊維シート1と、前記(d)工程にて使用する保護フィルム106は、予め一体に接着されており、前記(d)工程を省略することができる。
【0073】
次に、
図9(a)、(b)及び
図10(a)~(f)を参照して、更に詳しく本発明の鋼構造物の補修方法の第二の実施例について説明する。本発明によれば、実施例1にて上述した繊維シート1を用いて、腐食等により減厚した鋼構造物の欠損箇所の補強のための補修を行う。
【0074】
(第1工程)
上記実施例1と同様に、本実施例においても
図10(a)に示すように、鋼構造物100の一部に生じた、腐食等により減厚した欠損箇所103が補修される。この欠損個所の欠損深さ(t)は2mm程度、長さは5~100mm、幅は5~100mm程度が想定される。
【0075】
本実施例においても、先ず、
図10(b)に示すように、鋼構造物100の表面101の欠損箇所103を含む被補修領域(素地調整領域)104を下地処理する。すなわち、下地処理は、塗装102において旧塗膜、錆を電動工具、或いは、手工具などを用いて除去する、所謂、2種ケレン程度の下地処理、即ち、素地調整を行う。ケレン用工具としては、バッテリー式のディスクサンダなどが持ち運び可能であり、また、小規模の素地調整作業には好適に使用できる。
【0076】
本実施例で使用する繊維シート1は、持ち運びが容易であり、また、補修作業に要する必要作業時間等をも考慮して、繊維シート1の1枚当たりの厚さ(T)は1~3mm、長さ(L)×幅(W)が300mm×200mm程度とされる。従って、素地調整を行う素地調整領域104(L104a、L104b)は、使用される繊維シート1のサイズ(L×W)よりケレン余長(△L104)だけ広い領域とされる。通常、ケレン余長は5~50mm、通常、20mm程度とされる。
【0077】
(第2工程)
本実施例では、上記実施例1と異なり、素地調整した面104に接着剤を塗布するのではなく、接着剤がシート状に成形された耐候性を有する樹脂シート接着剤105を使用する(
図10(c))。この耐候性を有する樹脂シート接着剤としてはシリコーン系の樹脂を使用したものが好適に使用される。本実施例にて好適に使用し得るシリコーン系樹脂シート接着剤105としては、信越ポリマー株式会社製の商品名「ポリマエース」が好ましい。このシリコーン系樹脂シート接着剤105は、密封して保護されており、水分を遮蔽すれば未硬化状態を維持することができる。従って、使用に際して封を切れば、硬化し始めるシート状の樹脂である。プライマーを使用すれば、鋼、繊維シートとの良好な接着性能を示す。従って、素地調整された領域104には、樹脂シート接着剤105を接着する前に、予め、例えばエポキシ系プライマー(図示せず)を塗布して置くのが好ましい。
【0078】
樹脂シート接着剤105は、
図10(c)に示すように、素地調整領域104(L104a、L104b)の範囲内だけでなく、素地調整領域104の範囲より外方へと延在して、除去されていない塗装領域の活膜と僅かに重なり合う程度(ラップ長△L106)の大きさとされる。ラップ長(△L106)は、20~100mm程度とされ、通常、50mm程度とされる。
【0079】
つまり、樹脂シート接着剤105は、素地調整領域104、及び、素地調整された領域104の周辺の素地調整されていない鋼構造物表面の領域(ラップ長△L106の領域)を覆って接着される。
【0080】
本発明の鋼構造物の補修方法によれば、本実施例においても、上記実施例と同様に、例えば、繊維シート1として、上記具体例1で説明した強化繊維fを一方向に引き揃えて作製された繊維シート1Aを使用することができる。
【0081】
繊維シート1Aは、
図10(d)、(e)に示すように、素地調整された鋼構造物の欠損箇所103は含むが、素地調整された全部の領域より狭い領域に対応するようにして、樹脂シート接着剤105の上に配置して、樹脂シート接着剤105へと押し付けて接着する。これにより、繊維シート1Aは、素地調整された鋼構造物の欠損箇所103を有する表面に樹脂シート接着剤105を介して接着して一体化する。この時、繊維シート1Aの鋼構造物への接着と同時に、この樹脂シート接着剤105による繊維シート1Aに対する接着剤(マトリクス樹脂)含浸をも行うことができる。又、樹脂含浸量は、30~70重量%、好ましくは、40~60重量%とされる。
【0082】
また、必要補強量が多い場合には、構造物表面に複数層の繊維シート1を接着することが可能である。通常、繊維シート1は、積層数2層にて、鋼1mm相当に対応するように作製される。
【0083】
更に、鋼構造物100の補修に際して、曲げモーメント及び軸力を主として受ける部材(構造物)に対しては、曲げモーメントにより生じる引張応力或いは圧縮応力の主応力方向に強化繊維の配向方向を概ね一致させて接着することで、繊維シート1が効果的に応力を負担し、簡便な補修方法ではあっても、効率的に構造物の耐荷力を向上させることが可能である。
【0084】
また、直交する2方向に曲げモーメントが作用する場合、繊維シート1の強化繊維fの配向方向が曲げモーメントにより生じる主応力に概ね一致するように2層以上の繊維シート1を直交させて積層接着することで効率的に耐荷力の向上が図れる。
【0085】
上記説明では、繊維シート1は、具体例1で説明した樹脂未含浸の繊維シート1Aであるとして説明したが、繊維シート1は、具体例2で説明した樹脂が含浸硬化された板状の繊維シート、即ち、FRPプレート1Bとすることもできる。FRPプレート1Bの場合も、可搬性、作業性を考慮して、FRPプレート1Bのサイズは、上述したように、長さ(L)×幅(W)を300mm×200mmとすることができ、角部は、けが防止及び応力集中緩和のために、半径10mm程度のR加工をするのが好ましい。一般に、FRPプレート1Bの場合は、1層で厚さは、1~2mmとされ、鋼2~4mm相当に対応している。
【0086】
実施例1にて説明したことであるが、本発明者らの研究実験によれば、炭素繊維を用いたFRPプレート(CFRPプレート)1Bは、厚さが0.8mm、1.2mm、2mmのいずれのプレートでも400MPa(鋼材SM570の降伏の88%、許容の1.56倍)での剥離となり、実用上十分な強度を有していることが分かった。なお、CFRPプレート1Bは、弾性係数が350GPaであるため、2mmの欠損に相当する板厚は1.2mmである。
【0087】
また、FRPプレート1Bは、含浸樹脂が硬化されており、入隅部などへ適合して接着するのは困難である。従って、このような入隅部などの湾曲部の補修を必要とする場合は、例えば、FRPプレート1Bへの含侵樹脂として熱可塑性樹脂を使用することによって、即ち、例えば80~100℃程度で変形する現場加工可能な熱可塑性樹脂を使用することによって施工可能とされる。
【0088】
更に繊維シート1としては、具体例3で説明した、繊維強化プラスチック線材2が複数本長手方向にスダレ状に引き揃えて形成された繊維シート、即ち、ストランドシート1Cとすることもできる。この場合、接着剤105は、ストランドシート1Cの各線材2、2の間の空隙(g)にも充填され、ストランドシート1Cが素地調整領域104に接着される。
【0089】
(第3工程)
次に、
図10(e)、(f)に示すように、鋼構造物に接着された繊維シート1を覆って、実施例1にて説明した保護フィルムを鋼構造物表面に貼り付ける。保護フィルムは耐候性を有するもであって、上記実施例1にて説明したように、繊維シート1を保護する機能を有するものである。ただ、本実施例では、硬化した樹脂シート接着剤105もまた耐候性を有するものであり、従って、繊維シート1の外周囲のケレン余長△L104の領域における水・酸素との遮断、及び、その周囲の塗装領域の活膜部位(ラップ長△L106の領域)における紫外線からの保護は、この硬化した樹脂シート接着剤105にて十分に達成し得る。勿論、保護フィルム106シートが樹脂シート接着剤105と重なり合っても問題はない。従って、保護フィルム106は繊維シート1より△Eだけ、例えば、20~100mm大きいサイズとすることができる。
【0090】
なお、実施例1で説明したと同様に、前記(d)工程にて使用する繊維シート1と、前記(e)工程にて使用する保護フィルム106は、
図8(c)に示すように、予め一体に接着しておくことができる。この場合は、前記(e)工程を省略することもできる。即ち、予め保護フィルム106が接着された繊維シート1を、上記工程(d)にて樹脂シート接着剤105を介して素地調整領域に接着することができる。
【0091】
本発明者らの実験結果によれば、上述の如き本発明に従った鋼構造物の補強方法によれば、現場までの補修材料の搬送が容易であり、また、10分以内といった短時間で施工を完了することができ、十分に補強効果を達成することができた。また、近接目視点検時の保護フィルム106の貼り替えが容易に可能とされ、従って、長期に渡って十分な補強を達成することができる。
【符号の説明】
【0092】
1 繊維シート
2 繊維強化プラスチック線材
3 線材固定材(横糸、メッシュ支持体シート、可撓性帯材)
100 鋼構造物
102 塗装(塗膜)
103 欠損個所
104 素地調整領域
105 接着剤(シリコーン系樹脂シート接着剤)
106 保護フィルム