(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
E02F 9/26 20060101AFI20221227BHJP
【FI】
E02F9/26 B
(21)【出願番号】P 2019046516
(22)【出願日】2019-03-13
【審査請求日】2022-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】黒髪 和重
(72)【発明者】
【氏名】時田 充基
(72)【発明者】
【氏名】坂本 博史
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/110045(WO,A1)
【文献】特開2017-115492(JP,A)
【文献】特許第6253417(JP,B2)
【文献】特許第3923747(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械本体に取り付けられた作業装置と、
前記作業装置の姿勢を検出する姿勢センサと、
オペレータに提供される作業支援情報を前記作業装置の実際の像と重ね合わせて表示可能な表示装置と、
前記作業支援情報を示す表示画像の前記表示装置における表示位置を決定し、その表示位置に前記表示画像を表示する表示制御装置とを備えた作業機械において、
前記表示制御装置は、
前記姿勢センサで検出された前記作業装置の姿勢に基づいてオペレータの視線方向を推定し、
前記推定されたオペレータの視線方向を基準として前記表示装置の画面上に複数の表示領域を設定し、前記複数の表示領域のうち前記表示画像の種類に対応する表示領域に位置するように前記表示画像の表示位置を演算し、
前記オペレータの視線方向の変化により前記表示装置の画面上における前記複数の表示領域の位置が変化した場合に、その変化後も前記表示画像の種類に対応する表示領域内に前記表示画像が位置するときには前記表示画像の表示位置を保持し、その変化後には前記表示画像の種類に対応する表示領域から前記表示画像が外れるときには前記表示画像の種類に対応する表示領域内に収まるように前記表示画像の新たな表示位置を演算することを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1の作業機械において、
前記複数の表示領域には、前記オペレータの視線方向の周囲に規定される第1視野範囲に対応する第1表示領域と、前記第1視野範囲を内包する第2視野範囲に対応する第2表示領域とが含まれており、
前記第1表示領域には第1の種類の表示画像が表示され、前記第2表示領域内の領域のうち前記第1表示領域を除いた領域には第2の種類の表示画像が表示されることを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項1の作業機械において、
前記表示制御装置は、前記作業装置の動作し得る範囲と前記複数の表示領域とに基づいて前記表示装置の画面上で前記複数の表示領域が移動し得る範囲を演算し、前記表示装置の画面上から前記表示装置の画面上で前記複数の表示領域が移動し得る範囲を除いた領域を視野範囲外表示領域として演算し、
前記視野範囲外表示領域には、第3の種類の表示画像が表示されるように設定されており、
前記表示制御装置は、前記視野範囲外表示領域内に位置するように前記第3の種類の表示画像の表示位置を演算することを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項1の作業機械において、
前記複数の表示領域ごとに前記表示画像の表示位置が予め決定されており、
前記表示制御装置は、前記オペレータの視線方向の変化により前記表示装置の表示画面上で前記複数の表示領域の位置が変化した場合に、前記表示画像の種類に対応する表示領域から前記表示画像が外れるときであって、前記表示画像の前記新たな表示位置として演算される前記予め決定された表示位置が前記表示画面の表示領域外のときには、前記表示画像の表示位置を保持することを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項1の作業機械において、
前記表示画像の関連情報を表示する他の表示装置をさらに備え、
前記表示制御装置は、前記他の表示装置上において前記関連情報が表示される位置と、前記オペレータの視線方向と前記表示装置の表示画面との交点とを結ぶ直線上に位置するように前記表示画像の表示位置を演算することを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置を備えた作業機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、油圧ショベルなどの作業機械においては、モニタ等の表示装置から作業支援情報を出力し、オペレータがその作業支援情報を基に操作を行うこと想定した機能が増加している。そうした機能の一例として、オペレータに施工対象の目標地形情報を提示するマシンガイダンス機能が挙げられる。マシンガイダンス機能を利用する作業中のオペレータの視線は、実際の作業が行われている作業装置の先端部及びその周辺(具体的にはバケットや地形等)と、運転室内の表示装置の画面上に表示された目標地形情報との間を繰り返し往復することが想定される。このとき、視線移動を行う距離が長くなるほど、目標地形情報の視認に要する時間が増加し、作業効率の低下につながると考えられる。
【0003】
作業支援情報の表示に関する技術として、特許文献1には、運転室前面に設置された透明ディスプレイ上に作業支援情報を表示し、表示装置における作業支援情報の表示位置をバケットの移動に追従させるとともに、バケットが運転室に対して前後方向に移動した場合、バケットの位置に基づいて表示装置における作業支援情報の表示態様を変更する技術が開示されている。バケットが運転室に近づくほど、オペレータから見て作業支援情報とバケットが重なる可能性が高くなるが、この技術は作業支援情報とバケットの重複による作業車両の操作性低下の防止を図ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、バケットの位置に追従するように作業支援情報の表示位置も移動する。すなわち、バケットの移動中は常に作業支援情報の表示位置も移動するため、その作業支援情報の移動が作業中のオペレータに煩わしさを感じさせる可能性が高い。また、特許文献1の方法では、透明ディスプレイ上に表示する作業支援情報の量が増加する等してその表示面積が増加した場合、その作業支援情報によってバケット近傍の視認性が損なわれ、作業支援情報を表示することが却って作業効率を低下させる虞がある。
【0006】
本発明は上記の問題点に着目してなされたものであり、その目的は、表示装置に作業支援情報を表示するに際して、オペレータに煩わしさを感じさせることや、情報量が増加した場合に作業効率が低下することを防止できる作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、作業機械本体に取り付けられた作業装置と、前記作業装置の姿勢を検出する姿勢センサと、オペレータに提供される作業支援情報を前記作業装置の実際の像と重ね合わせて表示可能な表示装置と、前記作業支援情報を示す表示画像の前記表示装置における表示位置を決定し、その表示位置に前記表示画像を表示する表示制御装置とを備えた作業機械において、前記表示制御装置は、前記姿勢センサで検出された前記作業装置の姿勢に基づいてオペレータの視線方向を推定し、前記推定されたオペレータの視線方向を基準として前記表示装置の画面上に複数の表示領域を設定し、前記複数の表示領域のうち前記表示画像の種類に対応する表示領域に位置するように前記表示画像の表示位置を演算し、前記オペレータの視線方向の変化により前記表示装置の画面上における前記複数の表示領域の位置が変化した場合に、その変化後も前記表示画像の種類に対応する表示領域内に前記表示画像が位置するときには前記表示画像の表示位置を保持し、その変化後には前記表示画像の種類に対応する表示領域から前記表示画像が外れるときには前記表示画像の種類に対応する表示領域内に収まるように前記表示画像の新たな表示位置を演算するものとする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、表示装置に作業支援情報を表示するに際して、オペレータに煩わしさを感じさせることや、情報量が増加した場合に作業効率が低下することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】作業機械の一例である油圧ショベルの外観を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る運転室の内観を示す図である。
【
図3】本実施形態に係る油圧ショベルの全体構成を示す図である。
【
図4】透明ディスプレイC/Uの機能ブロックを示す図である。
【
図8】視野範囲リスト(表示範囲リスト)の例を示す図である。
【
図9】視野範囲外表示領域演算部の処理を示す図である。
【
図12】初期姿勢における透明ディスプレイの表示状態を示す図である。
【
図13】微操作を行った際の透明ディスプレイの表示状態を示す図である。
【
図14】一定量以上の操作を行った際の透明ディスプレイの表示状態を示す図である。
【
図15】モニタに関連情報が表示されている際の透明ディスプレイの表示状態を示す図である。
【
図16】鉛直上方向にバケット位置を一定以上の距離だけ移動させたときの透明ディスプレイの表示状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
なお、以下では、作業機械として、作業装置の先端の作業具(アタッチメント)としてバケットを備える油圧ショベルを例示するが、バケット以外のアタッチメントを備える作業機械に本発明を適用してもよい。また、複数のリンク部材(アタッチメント,ブーム,アーム等)を連結して構成される多関節型の作業装置を有するものであれば、油圧ショベル以外の作業機械への適用も可能である。
【0011】
本発明の実施形態に係る作業機械の一例である油圧ショベルの側面図を
図1に示す。この図に示す油圧ショベル1は、垂直方向にそれぞれ回動する複数のフロント部材(ブーム1a、アーム1b及びバケット1c)を連結して構成される多関節型のフロント作業装置1Aと、上部旋回体1d及び下部走行体1eからなる車体1Bとで構成される。フロント作業装置1Aは車体1B(作業機本体)に取り付けられており、上部旋回体1dには運転室1fが備えられている。
【0012】
フロント作業装置1Aのブーム1aの基端は上部旋回体1dの前部においてブームピンを介して回動可能に支持されている。ブーム1aの先端にはアームピンを介してアーム1bの基端が回動可能に連結されており,アーム1bの先端にはバケットピンを介してバケット1cの基端が回動可能に連結されている。ブーム1aはブームシリンダ2aによって駆動され,アーム1bはアームシリンダ2bによって駆動され,バケット1cはバケットシリンダ2cによって駆動される。
【0013】
上部旋回体1dは旋回モータ3d(
図3参照)により駆動され、下部走行体1eは左右の走行モータ3e,3f(
図3参照)により駆動される。上部旋回体1dには、油圧ショベル1を動作するためのエンジン4、ポンプ5、バルブ(コントロールバルブ)6(
図3参照)が備えられており、ポンプ5はエンジン4によって回転駆動されて各アクチュエータ2a,2b,2c,3d,3e,3fに作動油を吐出する(
図3参照)。また、バルブ6は運転室1f内に備えられた操作レバー7a,7b,7c,7d(
図2参照)からの操作入力に応じて作動油の流量及び流通方向を変化させることで、各アクチュエータ2a,2b,2c,3d,3e,3fの動作を制御する。
【0014】
図2は運転室1fの内観を示したものである。運転室1fには、各油圧アクチュエータ2a,2b,2c,3d,3e,3fの動作を含む車体の動作を指示する操作装置としての4本の操作レバー7a,7b,7c,7dと、オペレータに提供される作業支援情報を表示するための表示装置である透明ディスプレイ11及びモニタ12とが設置されている。透明ディスプレイ11は運転室前面に設置されている。透明ディスプレイ11の液晶画面は透過しており、液晶画面上の作業支援情報をフロント作業装置1Aの実際の像と重ね合わせて表示することが可能になっている。
【0015】
操作レバー7a(操作左レバー)はアームシリンダ2b(アーム1b)及び上部旋回体1d(旋回油圧モータ3d)を操作するためのものであり,操作レバー7b(操作右レバー)はブームシリンダ2a(ブーム1a)及びバケットシリンダ2c(バケット1c)を操作するためのものである。また,操作レバー7c(走行左レバー)は下部走行体1e(左走行油圧モータ3e(
図3参照))を操作するためのものであり,操作レバー7d(走行右レバー)は下部走行体1e(右走行油圧モータ3f)を操作するためのものである。
【0016】
図3は本発明の実施形態に係る油圧ショベルのシステム構成図である。本実施形態に係る油圧ショベルは、制御装置として、メインコントロールユニット(以下、コントロールユニットを「C/U」と略することがある)20と、GNSS信号を処理するためのGNSSC/U10と、表示制御装置として用いる透明ディスプレイC/U30及びモニタC/U50とを搭載している。これらのC/U10,20,30,50は、それぞれ、演算処理装置(例えばCPU等)と、記憶装置(例えばROM,RAM等の半導体メモリ)とを備える制御装置(コントローラ)であり、記憶装置に記憶されたプログラムを演算処理装置で実行することで当該プログラムが規定する各種処理を実行可能に構成されている。
【0017】
フロント作業装置1Aが備えるブームピン、アームピン、バケットピンには、ブーム1a、アーム1b、バケット1cの回動角を検出する角度センサ8a、8b、8cが設けられている。角度センサ8a,8b,8cの検出角度によってフロント作業装置1Aの姿勢の検出が可能であり、角度センサ8a,8b,8cはフロント作業装置1Aの姿勢センサとして機能している。上部旋回体1dには油圧ショベル1の位置を演算するための航法信号(衛星信号)を受信する2本のGNSS(Global Navigation Satellite System/全球測位衛星システム)アンテナ9が取り付けられている。
【0018】
メインC/U20では、エンジン制御やポンプ制御等の油圧ショベルの基本となるシステムの制御を行うとともに、各種センサ(例えば角度センサ8a,8b,8c)からの入力に基づいて作業支援情報を生成し、それを透明ディスプレイC/U30、モニタC/U50へ出力する。
【0019】
GNSSC/U20は、GNSSアンテナ9で受信された航法信号を基に世界座標系における上部旋回体1dの位置(座標値)を演算し、その演算結果をメインC/U20に出力する。
【0020】
各表示制御装置(透明ディスプレイC/U及びモニタC/U)30,50は、メインC/U20から入力される情報に基づいて作業支援情報が含まれる表示画像とその関連情報の作成と、透明ディスプレイ11とモニタ12の画面上における当該表示画像と当該関連情報の表示位置の決定を行い、各表示装置11,12に対して信号(表示制御信号)を出力する。そして、各表示装置11,12は各表示制御装置30,50からの信号に基づき、オペレータに対する作業支援情報(表示画像及びその関連情報)の表示を行う。なお、本実施形態の油圧ショベル1はマシンガイダンス機能を搭載しており、例えば、目標地形面とバケット1c先端部(例えば爪先)との距離情報や、バケット1cの底面が目標地形面となす角度(角度情報)を作業支援情報(表示画像)として表示装置11,12に表示することができる。
【0021】
(透明ディスプレイC/U30)
図4は、透明ディスプレイC/U30の機能ブロック図であり、透明ディスプレイC/U30内の処理の流れを示している。透明ディスプレイC/U30は、角度センサ8a,8b,8c、メインC/U20及びモニタC/U50からの情報を入力し、それらの情報を基に生成した表示制御信号を透明ディスプレイ10に出力している。
【0022】
透明ディスプレイC/U30は、作業支援情報として透明ディスプレイ(表示装置)11に表示する表示画像を生成する表示画像生成部31と、角度センサ8a,8b,8cで検出されたフロント作業装置1Aの姿勢に基づいてオペレータの視線方向を推定する視線推定部32と、オペレータの視線方向の周囲に規定した入れ子構造の複数の視野範囲、及びその複数の視野範囲に対応する複数の表示領域のそれぞれに表示される表示画像の種類を設定する視野範囲設定部33と、フロント作業装置1Aの動作し得る範囲を記憶する動作範囲記憶部34と、透明ディスプレイ11の画面上で複数の表示領域(視野範囲)が移動し得る範囲を透明ディスプレイ11の画面上から除いた領域を視野範囲外表示領域として演算する視野範囲外表示領域演算部35と、透明ディスプレイ11上の表示画像の関連情報がモニタ12上で表示される位置(代表点位置)を記憶するモニタ位置記憶部36と、複数の表示領域のうちの1つである第1表示領域に表示される表示画像(第1表示画像)の表示位置が記憶される第1現在表示位置記憶部37と、複数の表示領域のうちの1つである第2表示領域に表示される表示画像(第2表示画像)の表示位置が記憶される第2現在表示位置記憶部38と、オペレータの視線方向と表示画像の種類に基づいて当該表示画像を表示する表示領域における当該表示画像の表示位置を演算する表示位置演算部39と、表示位置演算部39で演算された表示位置に当該表示画像を表示する表示制御部40とを備えている。以下に、透明ディスプレイC/U30における各部の機能(処理)について説明する。
【0023】
(表示画像生成部31)
表示画像生成部31では、作業支援情報として透明ディスプレイ11に表示する画像(表示画像)をメインC/U20から入力される情報に基づいて生成し、その生成した画像を表示位置演算部39及び表示制御部40に出力する。
【0024】
図5は表示画像生成部31が生成する表示画像(作業支援情報)の例を示す図である。
図5は表示画像の例として、目標地形面とバケット1c先端部の距離となす角を示す距離・角度画像51と、メインC/U20がエンジン4の異常を検知した場合に表示されるエンジン異常警告画像52と、油圧ショベルの燃料残量を示す燃料残量画像53とを示したものである。
【0025】
例えば距離・角度画像51の生成に関して、メインC/U20は、角度センサ8a,8b,8cの検出値と、ブーム1aの基端側の回動軸(ブームピン)から先端側の回動軸(アームピン)までの寸法Lbmと、アーム1bの基端側の回動軸(アームピン)から先端側の回動軸(バケットピン)までの寸法Lamと、バケット1cの基端側の回動軸(バケットピン)から先端部(バケット爪先)までの寸法Lbkとに基づいて車体座標系におけるバケット1cの先端部の座標を演算できる。また、メインC/U20の記憶装置には、油圧ショベルの周辺の目標地形面の3次元データが記憶されており、メインC/U20はこの3次元データとバケット1c先端部の座標に基づいて、目標地形面とバケット1c先端部との距離・角度情報を演算し、透明ディスプレイC/U30に出力する。透明ディスプレイC/U30の表示画像生成部31は、メインC/U20で演算されたその距離・角度情報に基づいて距離・角度画像51を生成する。
【0026】
(視線推定部32)
図6は視線推定部32の処理の流れを示したものである。まず、視線推定部32は、まず角度センサ8a,8b,8cからの出力に基づいてフロント作業装置1Aの各フロント部材1a,1b,1cの角度を取得し(ステップ32a)、その角度と各フロント部材1a,1b,1cの寸法(具体的には、上述の寸法Lbm,Lam,Lbk)に基づいてバケット1c先端部における車幅方向の中心点の位置座標を演算する(ステップ32b)。なお、このときの位置座標は、上部旋回体1dの特定の点(例えばブームピンの中心軸の中点)を基準とした車体座標系で表現する。
【0027】
次に、視線推定部32は、ステップ32cにおいて、オペレータが運転室1f内の運転席(座席)に着座したときの頭部の位置座標(頭部位置)を演算する。頭部位置の演算方法としては公知の方法が利用可能である。例えば、頭部位置は、特定の座席位置及び特定の作業姿勢を仮定したときに標準的な体型のオペレータの頭部が位置する座標を演算し、その値を頭部位置の初期値として設定することができる。なお、このとき、基準位置からの座席位置の変位を計測するセンサ(例えばストロークセンサ)の検出値を用いて当該初期値を補正することにより、より正確に頭部位置の推定を行ってもよい。また、マーカーのような特徴的な印をオペレータのヘルメットに複数取り付け、各マーカーの位置座標をモーションキャプチャシステム等で取得することで、さらに高精度な頭部位置の検出を行うことも可能である。
【0028】
ステップ32dでは、視線推定部32は、ステップS32bで演算した車体座標系におけるバケット1c先端部の位置座標と、ステップS32cで演算した車体座標系におけるオペレータの頭部位置座標とから、
図7に示すオペレータの視線ベクトル71を算出して表示位置演算部39に出力する(ステップ32e)。
図7はステップ32dで演算される視線ベクトル71の一例を示したものである。油圧ショベル1のようにフロント作業装置1Aを備えた作業機械では、オペレータがフロント作業装置1Aの先端、すなわちバケット1c先端部を注視しながら操作を行うことが想定されるため、ステップS32cで演算した頭部位置からステップS32bで演算したバケット1c先端部に向かうベクトルを演算することで、作業時のオペレータの視線ベクトル71を推定することが可能である。
【0029】
(視野範囲設定部33)
視野範囲設定部33では、オペレータの視線方向の周囲に規定される入れ子構造の複数の視野範囲(例えば、有効視野(第1視野範囲)、誘導視野(第2視野範囲)、視野範囲外)と、その複数の視野範囲のそれぞれに対応して透明ディスプレイ(表示装置)11の表示画面上に設定される複数の表示領域(画像表示領域)のそれぞれに表示される表示画像の種類とを設定する。なお、複数の視野範囲の設定と、複数の表示領域のそれぞれに表示する表示画像の種類の設定は、表示画像の表示位置の演算処理とは別に予め行っておき、透明ディスプレイC/U30の記憶装置に記憶しておいても良い。
【0030】
表示画像(作業支援情報)はその種類に応じてオペレータに参照される回数が異なる。例えば、マシンガイダンス機能に関する表示画像(例えば、距離・角度画像51)のように、オペレータが表示された情報を頻繁に視認する表示画像は、頭部動作を伴わずに視線移動だけで対象を視認可能な視野範囲である有効視野に表示する画像として分類することが好ましい。一方、警告表示に関する表示画像(例えば、エンジン異常警告画像52)は、マシンガイダンス機能に関する表示画像に比してオペレータが頻繁に視認を行うものではないが、表示がされた場合には、オペレータがその存在を即座に知覚し、状態に応じて適切な対応を行う必要がある。そのため、これらの表示画像はオペレータ注視点の近傍に位置する有効視野に表示する必要性は低く、作業中であってもその存在を知覚することができる誘導視野に表示する画像として分類することが好ましい。また、車体状態や時刻に関する表示画像(例えば、燃料残量画像53)は、上記2種の表示画像に比してオペレータが視認を行う頻度は低く、作業開始時や作業の合間のように、限られた条件下で視認することが想定される。したがって、通常の作業中に視野に入る煩わしさを低減するために、オペレータの視野(有効視野及び誘導視野)に入らない位置(視野範囲外)へ表示する画像として分類することが好ましい。これらの点を踏まえて、本実施形態では、オペレータが各表示画像を視認する頻度等を考慮し、各表示画像の示す情報の特性に応じた視野範囲(表示領域)に表示されるように設定している。次に
図8を用いて本実施形態における視野範囲分類と各視野範囲に表示される表示画像の種類について説明する。
【0031】
図8は本実施形態に係る視野範囲設定部33により設定される視野範囲と、各視野範囲の大きさ(水平角度、垂直角度)と、各視野範囲に対応して透明ディスプレイ11の表示画面上に設定される複数の表示領域と、各表示領域に表示される表示画像の種類(表示画像名)との関係を示すリストである。本実施形態では、視野範囲として、第1視野範囲、第2視野範囲、視野範囲外の3つの範囲が設定されている。第1視野範囲、第2視野範囲及び視野範囲外は、入れ子構造になっており、視野範囲外は第2視野範囲を内包し、第2視野範囲は第1視野範囲を内包している。但し、各範囲は重複領域が存在しないように設定されており、或る範囲に内包されている範囲は当該或る範囲から除くものとする。例えば、第2視野範囲に表示画像が表示される領域は、第2視野範囲内の領域のうち第1視野範囲を除いた領域となる。透明ディスプレイ11の表示画面上に設定される複数の表示領域は、第1視野範囲、第2視野範囲及び視野範囲外に対応しており、第1視野範囲に対応する表示領域を第1表示領域、第2視野範囲に対応する表示領域を第2表示領域、視野範囲外に対応する表示領域を視野範囲外表示領域と称する。
【0032】
第1視野範囲は、オペレータの視線方向を中心とした最も狭い視野範囲であり、その大きさは有効視野を考慮して決定されている。具体的には、オペレータの視線方向を基準(0度)として、水平面上で-10度の位置と+10度の位置を通過し、かつ、垂直面上で-5度の位置と+5度の位置を通過する楕円の内部を第1視野範囲としている。第1視野範囲に対応する第1表示領域には、目標地形面とバケット1c先端部の距離と、目標地形面とバケット1c先端部のなす角度を表示する距離・角度画像51が表示される。
【0033】
第2視野範囲は、第1視野範囲を内包する視野範囲であり、第1視野範囲と同様にオペレータの視線方向を中心とする視野範囲である。ただし、第2視野範囲からは第1視野範囲を除くものとする。第2視野範囲の大きさ(外側の輪郭線)は誘導視野を考慮して決定されており、具体的には、オペレータの視線方向を基準(0度)として、水平面上で-40度の位置と+40度の位置を通過し、かつ、垂直面上で-30度の位置と+30度の位置を通過する楕円の内部から第1視野範囲を除いた領域を第2視野範囲としている。第2視野範囲に対応する第2表示領域には、警告表示に関する表示画像が表示され、例えば、エンジン異常警告画像52、車体異常警告アイコン、周囲作業者接近警告画像等が表示される。
【0034】
視野範囲外は、第2視野範囲の外側に設定される視野範囲であり、第1視野範囲及び第2視野範囲のいずれにも属しない視野範囲である。例えば、透明ディスプレイ11の画面上でオペレータの視線方向に基づいて第1視野範囲と第2視野範囲を決定した場合、第1視野範囲と第2視野範囲のいずれにも属しない画面上の領域が視野範囲外となる。視野範囲外に対応する視野範囲外表示領域には、車体状態や時刻に関する表示画像が表示され、例えば、燃料残量画像53を含み各種車体に関する状態を示す車体状態アイコン、現在時刻を示す時刻画像、油圧ショベルの稼働時間の積算値を示すアワメータ画像、エンジン冷却水の温度を示す水温(水温計)画像、作動油の温度を示す油温(油温計)画像等が表示される。
【0035】
なお、本実施形態では、視野範囲を2つ設定する方法について示したが、情報の特性を踏まえ、3つ以上の視野範囲を設定することも可能である。この場合も各視野範囲は入れ子構造とし、複数の視野範囲において各視野範囲の外縁(外側の輪郭)が規定する面積の狭い視野範囲ほど作業中にオペレータに参照される回数(頻度)が多い表示画像が表示される表示領域に設定する。すなわち、オペレータの視線方向に近い表示領域(視野範囲)ほど参照頻度が多い表示画像が表示されるように設定する。また、オペレータが作業に集中している場合は、誘導視野内への表示であっても表示画像を知覚することが困難であるケースがある。そのため、視野範囲の大きさの設定も本実施形態に示す限りではなく、表示画像の示す情報の重要度等も考慮し、適切な大きさとすることが望ましい。
【0036】
(動作範囲記憶部34)
動作範囲記憶部34は、フロント作業装置1Aの動作し得る範囲(動作範囲)を記憶する。油圧ショベル1では、ブーム1a、アーム1b、バケット1cがそれぞれ回動をすることで、フロント作業装置1Aが動作する構成となっている。また、ブーム1a、アーム1b、バケット1cはそれぞれ機械的な拘束がされており、回動する範囲があらかじめ決められているため、フロント作業装置1Aの動作範囲を算出できる。動作範囲記憶部34では、ブーム1a、アーム1b、バケット1cの回動範囲を表す角度を記憶し、その値を視野範囲外表示領域演算部35へ出力する。
【0037】
(視野範囲外表示領域演算部35)
視野範囲外表示領域演算部35は、動作範囲記憶部34に記憶されたフロント作業装置1Aの動作範囲に基づいて運転席に着座したオペレータの視線方向71が変化し得る範囲を演算し、そのオペレータの視線方向が変化し得る範囲と、複数の視野範囲(第1視野範囲、第2視野範囲)の中で最も面積が広い視野範囲(第2視野範囲)とに基づいて透明ディスプレイ11の画面上で当該視野範囲(第2視野範囲)が移動し得る範囲を演算し、透明ディスプレイ11の画面上からその画面上で当該視野範囲(第2視野範囲)が移動し得る範囲を除いた領域を視野範囲外表示領域として演算する。
【0038】
本実施形態の視野範囲外表示領域演算部35では、フロント作業装置1Aの動作範囲をもとにオペレータの視野範囲外となる表示位置(視野範囲外表示領域)を演算し、それを表示位置演算部39に出力する。次に視野範囲外表示領域演算部35による具体的な処理について
図9を用いて説明する。
【0039】
図9は視野範囲外表示領域演算部35による具体的な処理を示したものである。まず、ステップ35aにおいて、視野範囲外表示領域演算部35は、動作範囲記憶部34から出力されるフロント作業装置1Aの動作範囲の情報に基づいて、その動作範囲内で仰角が最小となる場合(換言すると、バケット1cの先端部(爪先)が最も下方に位置する場合)のオペレータの視線ベクトル71を演算する。なお、視線ベクトル71が水平面より下を向く場合(すなわち俯角となる場合)は負の仰角として定義し、仰角の符号を負とする。このとき、視線ベクトル71の演算は、
図6に示した視線推定部32によるステップ32b~32dの処理に基づいて行い、バケット1c先端部をフロント作業装置1Aの動作範囲内で仰角が最小となる位置に設定して視線ベクトル71の仰角を演算する。
【0040】
つぎにステップ35bでは、視野範囲外表示領域演算部35は、視野範囲設定部33からの情報をもとに、視野範囲設定部33によって設定される視野範囲のなかで最も大きい視野範囲(本実施形態では第2視野範囲)を選択し、ステップ35cへ進む。なお、ステップ35bで選択される視野範囲は視野範囲設定部33によって設定される視野範囲のなかで最も外側に位置する視野範囲であると換言できる。
【0041】
ステップ35cでは、視野範囲外表示領域演算部35は、透明ディスプレイ11の表示画面を含む平面と視線ベクトル71の交点を注視点として算出し、さらに、ステップS35bで選択した視野範囲の大きさに基づいて、表示画面を含む平面上で注視点を中心とした当該視野範囲を表す楕円を求める。すなわち、この楕円が現在の視線ベクトル71における第2表示範囲の輪郭線に該当する。なお、この楕円は車体座標系で定義される。
【0042】
ステップ35dでは、視野範囲外表示領域演算部35は、ステップS35cで求めた車体座標系の楕円を透明ディスプレイ11の位置や画素サイズを用いて画面座標系へと変換する。画面座標系は、透明ディスプレイ11上で描画を行うために用いられる座標系であり、一般的なディスプレイでは画素の位置を示す座標値が用いられる。このとき得られた楕円内の領域(第2表示領域)はオペレータの視野範囲となり得るため、視野範囲外表示領域演算部35は、当該領域をステップ35eにて視野内表示領域として記憶する。
【0043】
ステップ35fでは、視野範囲外表示領域演算部35は、ステップ35c~35eの処理に用いた視線ベクトル71の仰角(初回の視線ベクトル71の仰角はステップS35aで演算した最小値)がフロント作業装置1Aの動作範囲内での最大値か否かを判定する。なお、フロント作業装置1Aの動作範囲内での視線ベクトル71の仰角の最大値はフローの開始後はじめてステップS35fに到達した際に演算しても良いし、ステップ35fに到達する前の任意のステップや
図9のフローの開始前に演算しておいても良い。
【0044】
ステップ35fで視線ベクトル71の仰角が最大値ではないと判定された場合は、ステップ35gで仰角に1[deg]加算したときの視線ベクトル71を演算し、再びステップ35c~35eを実施する。このとき、ステップ35eでは、これまでに記憶された視野内表示領域を保持したまま、新たに演算された視野内表示領域を加算するように記憶する。なお、ステップ35gで加算する単位角度は1[deg]に限らず、処理による負荷等を考慮して適宜他の値を設定できる。
【0045】
一方、ステップ35fで視線ベクトル71の仰角が最大値であると判定された場合は、ステップ35hにおいて、視野範囲外表示領域を演算する。視野範囲外表示領域は、透明ディスプレイ11の表示画面の全域から視野内表示領域を減算することによって得られる。
【0046】
ステップ35iでは、視野範囲外表示領域演算部35は、ステップ35hまでの処理によって得られた視野範囲外表示領域を表示位置演算部39に出力し、一連の処理を終了する。
【0047】
なお、本実施形態では、油圧ショベル1を想定し、バケット1c先端部の移動方向を垂直方向に限定した処理について説明を行ったが、水平方向への可動域をもつフロント作業装置1Aを有する作業機械では、水平方向への動作を考慮した繰り返し処理を行うものとする。また、視野範囲設定部33で設定された視野範囲の設定値が変更されない限り、視野範囲外表示領域は不変であるため、上記処理の結果を透明ディスプレイC/U内の記憶装置や外部の記憶装置に記憶しておいて、必要なときはその記憶した結果を参照することとし、透明ディスプレイC/U30の処理周期ごとに演算を行わない構成としてもよい。
【0048】
(モニタ位置記憶部36)
モニタ位置記憶部36は、透明ディスプレイ11に表示されている表示画像の詳細や関連する情報(関連情報)がモニタ12上で表示される点(「代表点」と称することがある)の位置(代表点位置)を車体座標系の座標で記憶する。本実施形態でモニタ12は、表示画像が表示される透明ディスプレイ11(第1表示装置)と共にその関連情報を作業支援情報をとして表示する第2表示装置(他の表示装置)として利用される。なお、モニタ12上の代表点は1点に限られず、モニタ12に複数の関連情報が表示される場合には各関連情報と対応するように代表点を複数設けてもよい。また、モニタ12上の代表点は固定値とせず、例えばモニタC/U50からの出力に応じて適宜変更を行ってもよい。
【0049】
(第1現在表示位置記憶部37・第2現在表示位置記憶部38)
第1現在表示位置記憶部37及び第2現在表示位置記憶部38は、後述する表示位置演算部39が演算した第1表示領域(第1視野範囲)及び第2表示領域(第2視野範囲)における全ての表示画像の表示位置が記憶される部分であり、透明ディスプレイC/U30の記憶装置内にその記憶領域が確保されている。表示画像の表示位置は、透明ディスプレイ11の表示画面上に設定される画面座標系における座標値で記憶される。表示位置演算部39で演算される各表示画像の表示位置が変化した場合は、変化前の座標値を変化後の座標値で更新することにより、記憶部37,38に記憶された各表示画像の座標値は常に最新のものに保持される。
【0050】
(表示位置演算部39)
表示位置演算部39は、視線推定部32で推定されたオペレータの視線ベクトル(視線方向)71に基づいて、視野範囲設定部33が設定した複数の視野範囲に対応する複数の表示領域を透明ディスプレイ11の画面上に設定し、透明ディスプレイ11の画面上に設定されたその複数の表示領域のうち表示画像の種類に対応する表示領域に位置するように表示画像の表示位置を演算する。表示位置演算部39に演算された表示画像の表示位置は表示制御部40に出力される。次に本実施形態に係る表示位置演算部39が実行する処理について
図10を用いて説明する。
【0051】
図10は本実施形態に係る表示位置演算部39による処理を示すフローチャートである。まずステップ39aでは、表示位置演算部39は、透明ディスプレイ11に表示する1以上の表示画像の中から1つの表示画像を選択し、その選択された表示画像(以下、「選択表示画像」と称することがある)の種類が第1表示領域(第1視野範囲)、第2表示領域(第2視野範囲)、視野範囲外表示領域(視野範囲外)のいずれの表示領域に表示される画像であるかを判定する。なお、透明ディスプレイ11に複数の表示画像を表示する場合は、その全ての表示画像の表示位置を
図10のフローチャートによって決定するものとする。
【0052】
ステップ39bでは、表示位置演算部39は、ステップ39aの選択表示画像が視野範囲外領域に表示する表示画像であるか否かを判定する。ここで視野範囲外表示領域への表示画像であると判定された場合にはステップ39cへ進み、その表示画像の視野範囲外表示領域内での表示位置(画面座標系の座標値)を決定する(ステップ39c)。なお、このときの視野範囲外表示領域での表示位置は常に同一の座標値でも良いし、注視点の位置等に応じてその都度演算される座標値でもよい。ステップ39cで決定した座標値はステップ39dにおいて、その選択表示画像の表示位置として表示制御部40へ出力される。
【0053】
一方、ステップ39bで視野範囲外表示領域への表示画像でないと判定された場合(すなわち、第1表示領域と第2表示領域のいずれかに表示される表示画像と判定された場合)には、ステップ39eへと進む。
【0054】
ステップ39e及びステップ39fでは、表示位置演算部39は、先述の視野範囲外表示領域演算部35のステップ35c及びステップ35d(
図9参照)と同様に、現在の視線ベクトル71に対する透明ディスプレイ11の表示画面上の表示領域を演算する。すなわち、オペレータの視線ベクトル71の方向が変化した場合には、ステップ39aの判定結果に係る表示領域に対応する表示領域の透明ディスプレイ11の表示画面上での位置は視線ベクトル71の変化に応じて変更される。なお、
図9の例では第2表示領域(第2視野範囲)のみが演算対象であったが、ここではステップ39aでの判定結果に応じて第1表示領域(第1視野範囲)及び第2表示領域(第2視野範囲)のいずれか一方の表示領域が演算対象となる。
【0055】
その後、ステップ39gでは、表示位置演算部39は、選択表示画像の現在の表示位置(前回の表示位置演算時の表示位置)がステップ39fで演算された選択表示画像の種類に対応する表示領域外にあるか否かを判定する。ここで対応する表示領域内であると判定された場合には、ステップ39hにおいて、現在の表示位置をそのまま出力する。すなわち、視線ベクトル71の方向移動による視野範囲の変化後も、選択表示画像の種類に対応する表示領域内に当該選択表示画像が位置するときには、表示位置演算部39は、当該選択表示画像の表示位置を保持する。
【0056】
一方、ステップ39gの判定で対応する表示領域外であると判定された場合は、ステップ39iへ進み、選択表示画像の詳細や関連する情報(「選択表示画像の関連情報」と称する)がモニタ12上に表示されているか否かの判定を行う。
【0057】
ステップ39iで、選択表示画像の関連情報がモニタ12に表示されていない場合には、ステップ39jにおいて、表示位置演算部39は、選択表示画像に対応する表示領域内となるように新しい表示位置を決定し、表示制御部40へ出力する(ステップ39k)。すなわち、視線ベクトル71の方向移動による表示領域の位置の変化後には、選択表示画像の種類に対応する表示領域から当該選択表示画像が外れるときには、表示位置演算部39は、当該選択表示画像の種類に対応する表示領域内に収まるように当該選択表示画像の新たな表示位置を演算する。なお、新たな表示位置の演算方法としては、例えば、対応する表示領域内へ表示されるような初期表示位置を、注視点位置を基準とした相対位置としてあらかじめ設定しておき、現在の注視点位置から初期表示位置を演算することで新たな表示位置を演算する方法がある。また、バケット1cの大きさを透明ディスプレイC/U30内の記憶装置にあらかじめ記憶しておき、バケット1c現在位置と大きさから、対応する表示領域内で選択表示画像と現実のバケット1cの像が重畳しないように新たな表示位置を演算するアルゴリズムを利用してもよい。
【0058】
一方、ステップ39iで、選択表示画像の関連情報がモニタ12に表示されている場合には、ステップ39lへ進む。ステップ39lでは、表示位置演算部39は、モニタ12上において選択表示画像の関連情報が表示される代表点位置(モニタ12に設定された座標系における座標値)をモニタ位置記憶部36から呼び出し、その代表点位置を透明ディスプレイ11の表示画面を含む平面上に対して投影(正射影)する。さらにステップ39mで、表示位置演算部39は、画面座標系において、ステップ39lで投影された代表点と注視点(視線ベクトル71と代表点を投影した平面との交点)とを結ぶ直線を求める。そして、表示位置演算部39は、選択表示画像の種類に対応する表示領域内かつステップ39mで得られた直線上となるように当該選択表示画像の新たな表示位置を決定し(ステップ39n)、その新たな表示位置を表示制御部40に出力する(ステップ39o)。このように、モニタ12上に表示画像の詳細や関連する情報が表示されている場合は、注視点とモニタ12上の代表点位置とを結ぶ直線上に表示画像を配置することによって、表示画像からモニタ12への視線移動時間を短縮することが可能となる。
【0059】
以上説明したようにステップ39d,39o,39k,39hが完了したら、表示位置演算部39は
図10に示した一連の処理を終了し、該当する選択表示画像の表示位置演算については次の制御周期まで待機する。ただし、ステップ39o,39k,39hで表示制御部40に出力される選択表示画像の表示位置は、第1現在表示位置記憶部37及び第2現在表示位置記憶部38のうち対応する記憶部に記憶される。この表示位置の記憶タイミングは表示位置の演算時以後かつ表示制御部40への出力時以前であればいつでも良い。なお、透明ディスプレイ11上に複数の表示画像が表示される場合には、全ての表示画像の表示位置の演算を並列処理しても良い。
【0060】
(表示制御部40)
表示制御部40は、表示画像生成部31で生成された表示画像を、表示位置演算部39で演算されたその表示画像の表示位置に基づいて、透明ディスプレイ11へ出力する信号を生成する。これにより表示画像が透明ディスプレイ11上の決められた表示位置に表示される。
【0061】
図11は本実施形態に係る表示制御部40が実行する処理のフローチャートである。まず、表示制御部40は、ステップ40aにおいて、表示画像生成部31で生成された表示画像と、その表示画像の表示位置として表示位置演算部39で演算された座標値を取得する。
【0062】
ステップ40bでは、表示制御部40は、ステップ40aで取得した表示位置が前回の位置から変更されたか否かを判定する。このとき、表示位置の変更が無いと判定された場合は、ステップ40cにおいて、現在表示位置(前回の表示位置)のまま表示画像を出力する。一方、表示位置の変更が有ると判定された場合は、ステップ40dへと進む。
【0063】
ステップ40dでは、表示制御部40は、透明ディスプレイ11の解像度に基づいて表示画像の新たな表示位置が透明ディスプレイ11上に表示可能な位置であるか否かの判定を行う。ここで、表示可能であると判定された場合には新たな表示位置に表示画像を出力し、表示不可能であると判定された場合には現在表示位置(前回の表示位置)のまま表示画像を出力し(ステップ40e)、一連の処理を終了する。
【0064】
なお、本実施形態では、表示位置の変更の有無の判定処理(ステップ40b)と、新たな表示位置の表示可否の判定処理(ステップ40d)とを表示制御部40で実行する場合について説明したが、これらの処理は表示位置演算部39で行っても構わない。この場合には、表示制御部40は、表示位置演算部39で演算された表示位置に対象の表示画像を表示する処理のみを実行することとなる。
【0065】
(作用・効果)
上記のように構成された本実施形態に係る油圧ショベルの作用・効果について図面を参照しつつ説明する。ここでは一例として、
図5に示す目標地形面-バケット1c先端部の距離・角度画像51(以下では「距離・角度画像51」と略することがある)、エンジン異常警告画像52、及び燃料残量画像53を表示画像とした場合の動作について説明する。既に説明したとおり、距離・角度画像51は第1表示領域に、エンジン異常警告画像52は第2表示領域に、燃料残量画像53は視野範囲外表示領域に表示される表示画像である。
【0066】
1.初期姿勢
図12はブーム1a、アーム1b、バケット1cの回動角がある状態で静止している(以下、「初期姿勢」と称する)ときの透明ディスプレイ11の表示状態を示したものである。距離・角度画像51及びエンジン異常警告画像52は、表示位置演算部39において、それぞれ視野範囲設定部33で設定された各表示画像に対応する視野範囲(注視点121を中心とする楕円で規定される第1表示領域122及び第2表示領域123)内となるように表示位置が決定され、表示されている。一方、燃料残量画像53は、視野範囲外表示領域演算部35によって演算された視野範囲外表示領域内となる位置に表示位置が設定されている(視野範囲外表示領域は透明ディスプレイ11の表示画面から第1表示領域122,第2表示領域123を除外した領域である。)。なお、このとき距離・角度画像51とエンジン異常警告画像52は、それらの詳細又は関連する情報がモニタ12上に表示されていないため、それぞれの表示領域122,123内で表示位置を任意に決定できる(すなわち、モニタ12上の関連情報の表示位置による表示位置の拘束を受けない。)。
【0067】
2.初期姿勢からバケットを0.25[m]下げたとき
図13は、
図12の初期姿勢状態から、バケット1c位置を鉛直方向に0.25[m]下げたときの透明ディスプレイ11の表示状態を示したものである。この場合、初期姿勢での注視点131の位置を基準とすると、その位置131からのバケット1c先端部(注視点)の移動変位は小さいため、距離・角度画像51とエンジン異常警告画像52の表示位置は、いずれも依然としてそれぞれの表示領域(第1表示領域122及び第2表示領域123)内に表示されており、表示位置の変更はされない。このように、本実施形態ではバケット1c位置の微小な変位に対しては表示画像の表示位置の変更が行われないため、表示画像の頻繁な表示位置の変更によりオペレータが煩わしさを感じることを防止できる。
【0068】
3.初期姿勢からバケットを1.45[m]下げたとき
図14は、
図12の初期姿勢状態から、バケット1c位置を鉛直方向に1.45[m]下げたときの透明ディスプレイ11の表示状態を示したものである。この場合、初期姿勢での注視点131の位置からの変位が大きく、初期姿勢での距離・角度画像51の表示位置141は、対応する表示領域である第1表示領域122から外れてしまう。そのため、表示位置演算部39は、最新の注視点(バケット1c)121の位置を基準とした第1表示領域122内に配置されるように距離・角度画像51の新たな表示位置を演算する。一方、エンジン異常警告画像52は、注視点121の移動後も第2表示領域123内に収まっていることから、表示位置は変更されない。こうして、表示画像がその種類に応じて設定された表示領域から外れた場合にのみ、その表示位置の変更を行うことにより、表示画像の種類に応じた適切な表示位置を維持したまま作業を行うことができる。
【0069】
4.初期姿勢でモニタ12に関連情報が表示されているとき
図15は、
図12の初期姿勢状態において、モニタ12上にエンジン異常警告画像52の関連情報であるエンジン異常警告の詳細を示す情報が表示されている場合の表示状態を示したものである。このとき、オペレータは透明ディスプレイ11上でエンジン異常状態にあることを認知し、より詳細な情報をモニタ12上で確認することが想定される。そのため、表示位置演算部39のステップ39l~39oの処理に従い、注視点121とモニタ12上の代表点とを結ぶ直線152上かつ第2表示領域123内にエンジン異常警告画像52を表示する。これにより透明ディスプレイ11でエンジン異常警告画像52を認識した後にモニタ12上の関連情報を確認する際の視線移動の時間を短縮することが可能である。
【0070】
5.新たな表示位置が透明ディスプレイ11の表示画面外のとき
図16は、
図12の初期姿勢状態から、鉛直上方向にバケット1cの位置を一定以上の距離だけ移動させたときの表示状態を示したものである。このとき、距離・角度画像51は第1表示領域122から外れるため、前述の処理に従い、表示位置演算部39は、距離・角度画像51の新たな表示位置161として第1表示領域122内の初期表示位置を演算する。しかし、その新たな表示位置161は透明ディスプレイ11の表示画面外に位置するため、表示制御部40のステップ40cの処理に従い、距離・角度画像51は、初期姿勢時の表示位置を維持する。このように、注視点121の移動によって表示画像の新たな表示位置161が透明ディスプレイ11の表示画面外となった場合に、例えば、表示画面内となる範囲で新たな表示位置161を逐次演算しようとする(例えば、透明ディスプレイ11の表示画面内、かつ、バケット1c先端部との距離が最小となる表示位置を新たな表示位置として演算する等)と、バケット1cの動作に応じて透明ディスプレイ11での表示位置が頻繁に切り替わり、煩わしさを招く虞がある。しかしながら、本実施形態では、新たな表示位置161が、対応する表示領域内、かつ、透明ディスプレイ11の表示画面内となるまでの間は、直近の表示位置を継続するため、バケット1c位置が透明ディスプレイ11の上方に位置するような作業においても表示位置の切り替わりが頻繁に起こることを防止でき、表示位置の頻繁な切り替わりによりオペレータが煩わしさを感じることを防止できるので作業効率を向上できる。
【0071】
6.まとめ
以上に説明したように、本実施形態に係る油圧ショベルでは、バケット1c先端部(オペレータの視線方向)の移動と共に変化する表示領域を透明ディスプレイ11上に設定し、バケット1c先端部の移動により作業支援情報(表示画像)の表示位置が対応する表示領域から外れた場合にのみ、その表示位置を対応する表示領域内へと変更することとした。これにより、作業支援情報の視認に要する視線移動の時間を短縮するとともに、頻繁に表示位置が変更されることで生じる煩わしさを低減することが可能である。また、視野範囲(表示領域)を複数設定し、表示する作業支援情報の特性に適した視野範囲(表示領域)を選択することにより、バケット近傍に表示する作業支援情報の数を最小限に留めることができ、表示される情報の増加に伴うバケット近傍の視認性低下を緩和することが可能である。さらに、透明ディスプレイ11における特定の表示画像を、注視点121とモニタ12との直線上に表示することで、透明ディスプレイ11からモニタ12への視線移動時間を短縮し、作業効率を向上することが可能である。
【0072】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例が含まれる。例えば、本発明は、上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、ある実施の形態に係る構成の一部を、他の実施の形態に係る構成に追加又は置換することが可能である。
【0073】
また、上記の制御装置(C/U10,20,30,50)に係る各構成や当該各構成の機能及び実行処理等は、それらの一部又は全部をハードウェア(例えば各機能を実行するロジックを集積回路で設計する等)で実現しても良い。また、上記の制御装置に係る構成は、演算処理装置(例えばCPU)によって読み出し・実行されることで当該制御装置の構成に係る各機能が実現されるプログラム(ソフトウェア)としてもよい。当該プログラムに係る情報は、例えば、半導体メモリ(フラッシュメモリ、SSD等)、磁気記憶装置(ハードディスクドライブ等)及び記録媒体(磁気ディスク、光ディスク等)等に記憶することができる。
【0074】
また、上記の各実施の形態の説明では、制御線や情報線は、当該実施の形態の説明に必要であると解されるものを示したが、必ずしも製品に係る全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。
【符号の説明】
【0075】
1A…フロント作業装置,1B…車体,1a…ブーム,1b…アーム,1c…バケット,1d…上部旋回体,1e…下部走行体,1f…運転室,8a、8b、8c…角度センサ(姿勢センサ),11…透明ディスプレイ(表示装置(第1表示装置)),12…モニタ(他の表示装置(第2表示装置)),20…メインC/U,30…透明ディスプレイC/U(表示制御装置),31…表示画像生成部,32…視線推定部,33…視野範囲設定部,34…動作範囲記憶部,35…視野範囲外表示領域演算部,36…モニタ位置記憶部,37…第1現在表示位置記憶部,38…第2現在表示位置記憶部,39…表示位置演算部,40…表示制御部,50…モニタC/U,71…視線ベクトル,81…視野範囲リスト,121…注視点,122…第1表示領域,123…第2表示領域,121…現在のバケット先端部(注視点)の位置,131…初期姿勢時のバケット先端部(注視点)の位置,141…初期姿勢時の目標地形面‐バケット先端部の距離・角度表示の位置