(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】電波時計
(51)【国際特許分類】
G04R 20/10 20130101AFI20221227BHJP
G04G 5/00 20130101ALI20221227BHJP
【FI】
G04R20/10
G04G5/00 J
(21)【出願番号】P 2019084323
(22)【出願日】2019-04-25
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 明
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 央
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-189556(JP,A)
【文献】特開2009-019921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04R 20/00-60/14
G04G 3/00-99/00
G04C 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の送信局および第2の送信局のいずれかから送信される、時刻信号が変調された標準電波を受信するアンテナと、
前記受信された標準電波を復調して、復調された時刻信号を出力する復調回路と、
前記復調された時刻信号の電圧が閾値より高いか低いかを判定する2値化回路と、
前記2値化回路による判定に基づいて、時刻を取得する時刻取得部と、
前記復調された時刻信号に基づいて前記閾値を調整する閾値調整部と、
前記第1の送信局および前記第2の送信局のいずれから標準電波を受信したかに応じて前記閾値調整部の動作を制御する調整制御部と、
を含み、
前記調整制御部は、前記アンテナが前記第1の送信局からの標準電波を受信する場合に、前記閾値調整部に前記復調された時刻信号に基づいて前記閾値を変更させ、
前記調整制御部は、前記アンテナが前記第2の送信局からの標準電波を受信する場合に、前記閾値調整部に前記閾値を変更させ
ず、
前記第1の送信局からの標準電波を受信する場合に、前記閾値調整部は、時刻信号が1秒の長さに分割されてなる複数の秒区間が分割された第1の区間から第nの区間(nは10以上の整数)のそれぞれについて、電圧が閾値を超える回数または電圧が閾値を超えない回数をカウントし、前記第1の区間から第nの区間のそれぞれについてカウントされた回数が所定の分布を示すか否かに基づいて、閾値を変更する、
ことを特徴とする電波時計。
【請求項2】
請求項1に記載の電波時計において、
前記第2の送信局から送信される標準電波は、時刻信号が変調される第1の長さのパルスと、前記第1の長さと異なる第2の長さのパルスとを含み、
前記第1の長さと前記第2の長さの差は100ms以下である、
ことを特徴とする電波時計。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電波時計において、
前記第1の送信局または前記第2の送信局から送信される標準電波は、それぞれの長さが1秒未満の複数のパルスであって、1秒ごとに開始する複数のパルスを含む時刻信号が変調されてなり、
前記復調された時刻信号に含まれる複数のパルスが開始するタイミングを検出する秒同期部をさらに含み、
前記閾値調整部は、前記秒同期部が前記タイミングを検出する前に、前記復調された時刻信号に基づいて前記閾値を変更する、
ことを特徴とする電波時計。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれかに記載の電波時計において、
前記閾値調整部は、前記復調された時刻信号に基づいて、現在の閾値において前記時刻取得部が時刻を取得することが難しいか否かを判定し、
前記調整制御部は、前記第2の送信局からの標準電波を受信し、かつ、前記取得が難しいと判定された場合に、前記標準電波の受信を終了させる、
ことを特徴とする電波時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波時計に関する。
【背景技術】
【0002】
送信局から正確な時刻の情報を含む標準電波が送信されている。この標準電波を受信して時刻を補正する電波時計が提供されている。この電波時計は、標準電波が復調された信号を2値化することでパルス期間およびパルスの立ち上がりタイミングを測定し、時刻情報を得ている。この2値化の際に用いる閾値を調整することにより、ある程度のノイズが混入する標準電波の受信環境においても、標準電波から時刻の情報をデコードすることが可能になっている。
【0003】
特許文献1には、電波時計において予め4つの閾値を設定し、デューティ比に応じて4つの閾値から2値化に用いる閾値を選択すること、および、デューティ比と閾値との対応が電波の送信所により異なることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
標準電波が復調された信号を2値化する際に複数の閾値を選択することはノイズ対策として有効な場合があるが、一方で、閾値の変更後にもう一度標準電波を受信する必要があるなど、標準電波のノイズ対策を行うことにより消費電力の増加が生じるなどのデメリットも生じる。
【0006】
本発明は上述の事情を考慮してなされたものであって、その目的は、標準電波のノイズ対策を効率的に行うことができる電波時計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本出願において開示される発明は種々の形態を有している。それらの形態の代表的なものの概要は以下の通りである。
【0008】
(1)第1の送信局および第2の送信局のいずれかから送信される、時刻信号が変調された標準電波を受信するアンテナと、前記受信された標準電波を復調して、復調された時刻信号を出力する復調回路と、前記復調された時刻信号の電圧が閾値より高いか低いかを判定する2値化回路と、前記2値化回路による判定に基づいて、時刻を取得する時刻取得部と、前記復調された時刻信号に基づいて前記閾値を調整する閾値調整部と、前記第1の送信局および前記第2の送信局のいずれから標準電波を受信したかに応じて前記閾値調整部の動作を制御する調整制御部と、を含み、前記調整制御部は、前記アンテナが前記第1の送信局からの標準電波を受信する場合に、前記閾値調整部に前記復調された時刻信号に基づいて前記閾値を変更させ、前記調整制御部は、前記アンテナが前記第2の送信局からの標準電波を受信する場合に、前記閾値調整部に前記閾値を変更させない、ことを特徴とする電波時計。
【0009】
(2)(1)において、前記第2の送信局から送信される標準電波は、時刻信号が変調される第1の長さのパルスと、前記第1の長さと異なる第2の長さのパルスとを含み、前記第1の長さと前記第2の長さの差は100ms以下である、ことを特徴とする電波時計。
【0010】
(3)(1)または(2)において、前記第1の送信局または前記第2の送信局から送信される標準電波は、それぞれの長さが1秒未満の複数のパルスであって、1秒ごとに開始する複数のパルスを含む時刻信号が変調されてなり、前記復調された時刻信号に含まれる複数のパルスが開始するタイミングを検出する秒同期部をさらに含み、前記閾値調整部は、前記秒同期部が前記タイミングを検出する前に、前記復調された時刻信号に基づいて前記閾値を変更する、ことを特徴とする電波時計。
【0011】
(4)(1)から(3)のいずれかにおいて、前記第1の送信局からの標準電波を受信する場合に、前記閾値調整部は、時刻信号が1秒の長さに分割されてなる複数の秒区間が分割された第1の区間から第nの区間(nは10以上の整数)のそれぞれについて、電圧が閾値を超える回数または電圧が閾値を超えない回数をカウントし、前記第1の区間から第nの区間のそれぞれについてカウントされた回数に基づいて、閾値を変更する、ことを特徴とする電波時計。
【0012】
(5)(1)から(4)のいずれかにおいて、前記閾値調整部は、前記復調された時刻信号に基づいて、現在の閾値において前記時刻取得部が時刻を取得することが難しいか否かを判定し、前記調整制御部は、前記第2の送信局からの標準電波を受信し、かつ、前記取得が難しいと判定された場合に、前記標準電波の受信を終了させる、ことを特徴とする電波時計。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電波時計において、標準電波のノイズ対策を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態にかかる電波時計の構成を示すブロック図である。
【
図2】タイムコードに含まれるパルスを説明する図である。
【
図3】時刻信号の二値化と閾値との関係を説明する図である。
【
図4】変調される前の時刻信号の波形と、復調された時刻信号の波形と、二値化信号との一例を示す図である。
【
図5】変調される前の時刻信号の波形と、復調された時刻信号の波形と、二値化信号との他の一例を示す図である。
【
図6】電波時計が内部的な日付および時刻を修正する処理の概要を示すフロー図である。
【
図7】閾値調整部および調整制御部の処理の一例を示すフロー図である。
【
図8】二値化信号のサンプリングを説明する図である。
【
図9】閾値調整部におけるカウント結果の一例を示すヒストグラムである。
【
図10】閾値調整部および調整制御部の処理の他の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。以下では、複数の送信局から送信される標準電波を受信することができる電波時計について説明する。送信局は国または地域ごとに設けられており、電波時計は、例えば、日本の2か所の送信局、ドイツの送信局、中国の送信局、アメリカの送信局から送信される標準電波を受信することができる。標準電波は、時刻信号(タイムコード)が振幅変調されたものである。時刻信号の詳細については後述する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態にかかる電波時計の構成を示すブロック図である。電波時計は、アンテナ10と、受信回路21と、復調回路22と、二値化回路23と、制御部25と、計時部27と、時刻表示部29とを含む。アンテナ10は、20~100kHzの長波を受信するよう特性が調整されており、アンテナ10はいわゆるバーアンテナやループアンテナであってよい。アンテナ10は、複数の送信局のいずれかから送信される標準電波を受信する。
【0017】
受信回路21は、標準電波を受信するアンテナ10から電気信号を受け取り、時刻信号を出力する。受信回路21は、復調回路22と、図示しない同調回路およびフィルタ回路、増幅回路を含む。標準電波は、アンテナ10で受信され、同調回路を通過し増幅回路により増幅される。復調回路22は、増幅された標準電波の信号を包絡線検波により復調し、時刻信号として出力する。
【0018】
送信局から送信される標準電波におけるタイムコード(変調前の時刻信号)は、それぞれ長さが1秒間である複数の基本区間に分割されており、それぞれの基本区間にはパルスが含まれる。送信局は、パルスを含む時刻信号が変調された標準電波を送信する。また、現在の日付および時刻を示す時刻情報は、復調された時刻信号のパルスの長さ、あるいはパルスの有無をデコードすることにより得られる。
【0019】
図2は、1秒間のタイムコードに含まれるパルスを説明する図である。
図2には、日本の2つの送信局から送信される標準電波のタイムコード(JJY)、アメリカ合衆国の送信局から送信される標準電波のタイムコード(WWVB)、ドイツの送信局から送信される標準電波のタイムコード(DCF)のそれぞれについて、タイムコードの基本区間に含まれる値0、値1、およびマーカーのパルスの波形が示されている。タイムコードのパルスの開始は時刻の各秒の開始に対応している。JJYではパルスの開始は立ち上がりであり、WWVBおよびDCFではパルスの開始は立ち下がりである。
【0020】
マーカーはポジションマーカーを含み、マーカーは時刻の毎0秒に送信され、また、時刻の所定の秒(JJYおよびWWVBの場合には毎9秒、19秒、29秒、39秒、49秒)にも送信される。DCFではマーカーとしてのパルスは送信されないが、その基本区間にパルスがないことでマーカーの存在は認識される。タイムコードのうち毎0秒から始まる60秒間には、日付及び時分がエンコードされており、その60秒間のタイムコードはマーカーを除くと、値0または値1のビットからなるビット列に対応するパルスが配置されたものである。電波時計は、標準電波の復調により取得された時刻信号からそのビット列をデコードし、そのビット列からBCD表現の日付および時分を抽出し、さらに毎0秒の開始タイミングを取得することで、現在日付および時刻を取得する。
【0021】
JJYおよびWWVBの送信局(例えば第1の送信局)から送信される標準電波は、時刻信号が変調されて1秒未満の3種類のパルスを含み、それらの長さは短いものから順に200ms、500ms、800msであり、これらのパルスの定義における種類によるパルスの長さの差(以下では「定義上の幅の差」と記載する)は300ms存在する。一方、DCF(例えば第2の送信局)では、3種類のパルスの長さは短いものから順に100ms(例えば第1の長さのパルス)、200ms(例えば第2の長さのパルス)であり、定義上の幅の差は100ms以下である。
【0022】
二値化回路23は、復調された時刻信号の電圧が閾値より高いか低いかを判定する。二値化回路23はコンパレータを含み、コンパレータには、復調された時刻信号と、閾値に相当する電圧(以下では閾値電圧と記載する)とが入力される。二値化回路23は、時刻信号と閾値相当の電圧とを比較した結果をHIGH電位またはLOW電位として出力する。ここでは、二値化回路23は時刻信号が閾値より高い場合にHIGH電位を出力し、時刻信号が閾値より低い場合にLOW電位を出力するものとする。ここで、閾値(具体的にはコンパレータに入力される閾値電圧)は変更可能となっている。以下ではHIGH電位およびLOW電位の時系列を二値化信号と記載する。二値化信号は、送信局におけるタイムコードに近い信号である。
【0023】
制御部25は、いわゆるマイクロコントローラである。制御部25は、演算部と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、を含み、例えば1つの集積回路により構成される。演算部は、ROMに格納されたプログラムに従って各種の情報処理を行う。RAMは、演算部のワークメモリとして機能し、演算部の処理対象となるデータが書き込まれる。
【0024】
制御部25は、演算部がプログラムを実行することにより、閾値調整部51、調整制御部52、秒同期部55、分同期部56、時刻取得部57、時刻修正部58、の機能を実現する。
【0025】
閾値調整部51は、復調された時刻信号に基づいて、二値化回路23の判定に用いる閾値を調整する。より具体的には、閾値調整部51は、二値化回路23が出力する二値化信号に基づいて、二値化回路23の判定に用いる閾値を変更する。
【0026】
調整制御部52は、複数の送信局のいずれから標準電波を受信したかに応じて閾値調整部51の動作を制御する。より具体的には、調整制御部52は、アンテナ10が予め定められた第1の送信局からの標準電波を受信する場合に、閾値調整部51が復調された時刻信号に基づいて閾値を変更するよう制御する。また、調整制御部52は、アンテナが予め定められた第2の送信局からの標準電波を受信する場合に、閾値調整部51に前記閾値を変更させない。
【0027】
閾値調整部51および調整制御部52は、二値化回路23の判定に用いる閾値を調整するための処理を実行する。秒同期部55、分同期部56、時刻取得部57は、二値化回路23による時刻信号の電位が閾値より高いか低いかの判定結果(二値化信号)に基づいて、現在の時刻を取得する処理を行う。時刻取得部57は二値化信号におけるHIGH電位およびLOW電位の時系列からタイムコードのパルス幅を検出することにより二値化信号をデコードしている。時刻修正部58は、取得された時刻に基づいて計時部27の内部的な日付および時刻を修正する。これらの処理の詳細については後述する。
【0028】
計時部27は、図示しないクロックに基づいて、内部的な日付および時刻をカウントする。
【0029】
時刻表示部29は、計時部27が計時する内部的な日付および時刻を表示する。時刻表示部29は、指針を用いて時刻を表示するアナログ表示機構を含んでもよいし、デジタル表示をするディスプレイ等を用いて時刻を表示してもよい。
【0030】
以下では、二値化回路23が用いる閾値とノイズ除去との関係について説明する。
図3は、二値化回路23による時刻信号の二値化と閾値との関係を説明する図である。
図3には、3つのケースについて、復調された時刻信号の波形と、閾値ThAにより二値化された二値化信号と、閾値ThBにより二値化された二値化信号のそれぞれが図示されている。閾値ThAは通常用いられるものであり、閾値ThBはノイズの多い時刻信号に対して用いられるものである。閾値ThBのレベルは、閾値ThAより高くなっている。1つ目のケース(a)は、ノイズが少なく閾値ThAで正しい二値化信号を取得できるケースである。2つ目のケース(b)は、ノイズが多いため閾値ThAによる二値化では本来のパルスがない位置で二値化信号のHIGH電位が出力されるが、閾値ThBによる二値化ではその二値化信号の不適切なHIGH電位が出力されなくなる。閾値ThBによる二値化信号は本来のパルスが複数の小さなパルスに分割されてしまうが、ソフトウェア的な処理などによりパルス幅を認識することが可能である。3つめのケース(c)では、ノイズがさらに多いため閾値ThBによる二値化信号でも不要なHIGH電位が出力されてしまう。このように、二値化回路23の閾値を変更することにより、時刻信号のノイズをある程度除去することができ、受信に成功しやすくなる。
【0031】
一方、閾値の変更によるノイズ除去は常に有効とは限らない。
図4は、変調される前の時刻信号(タイムコード)の波形と、復調された時刻信号の波形と、二値化信号との一例を示す図である。
図5は、変調される前の時刻信号の波形と、復調された時刻信号の波形と、二値化信号との他の一例を示す図である。
【0032】
図4の例は、WWVB(例えば第1の送信局)の送信局から送信される標準電波を受信する場合の例であり、ノイズが比較的多い標準電波を受信する場合の例である。
図5の例は、DCF(例えば第2の送信局)の送信局から送信される標準電波を受信する場合の例であり、
図4の例と同様にノイズが多い標準電波を受信する場合の例である。
図4および
図5については、説明の容易のため、タイムコード、復調された時刻信号および二値化信号の高低を反転して記載している。
【0033】
図4の例においては、WWVBの送信局から送信される標準電波を受信する場合は、閾値ThAによる二値化回路23の判定の出力である二値化信号ではノイズに起因するパルスが生じるが、閾値ThBによる二値化信号ではノイズに起因するパルスが生じず、かつ二値化信号におけるパルス幅と、元のタイムコードにおけるパルス幅との差は、パルスの定義上の幅の差に比べて小さい。このため、閾値を変更してノイズが除去された二値化信号からタイムコードのパルス幅を検出することは容易である。
【0034】
一方、
図5の例においては、閾値ThCによる二値化回路23の判定の出力である二値化信号ではノイズに起因するパルスが生じる。一方で、閾値ThDによる二値化信号ではノイズが除去されるが、本来のタイムコードのパルスも除去されている。
図5からもわかるように、DCFの送信局から送信される標準電波を受信する場合は、パルスの定義上の幅の差が小さい(ここでは100ms以下)ので、二値化されたパルスの幅の変動により、どのパルスが送出されたか適切に検出することが困難になる。したがって、
図5のような例においては閾値の変更によるノイズ除去は有効とは言えず、閾値の変更をさせないことが望ましい。
【0035】
以下では、これまでに説明した閾値によるノイズ除去の特性を用いて、より効率的に受信をする手法について説明する。
【0036】
図6は、電波時計が内部的な日付および時刻を修正する処理の概要を示すフロー図である。はじめに、電波時計の制御部25は、受信回路21に標準電波の受信を開始させる(ステップS101)。送信局により標準電波の周波数が異なる場合があるが、制御部25は、アンテナ10および受信回路21が受信する標準電波の周波数が、電波時計が受信可能な送信局のうち、使用者などにより設定された地域に属する送信局の周波数の標準電波の受信を開始する。また制御部25は、ある周波数について標準電波が適切に受信できなかった場合にその地域に属する他の送信局の周波数について標準電波の受信を開始してよい。標準電波の受信が開始されると、復調回路22により時刻信号が出力され、二値化回路23はHIGH電位またはLOW電位の時系列を含む二値化信号を出力する。
【0037】
次に、閾値調整部51は、調整制御部52の制御に基づいて、受信した標準電波が閾値の調整が許されている送信局の標準電波である場合に、標準電波が復調された時刻信号に基づいて、二値化回路23の閾値を調整する(ステップS102)。この処理は、例えば受信開始後10秒間の時刻信号を解析することにより行われる。
【0038】
ステップS101およびステップS102の処理についてさらに詳細に説明する。
図7は、閾値調整部51および調整制御部52の処理の一例を示すフロー図である。
【0039】
はじめに、制御部25は、二値化回路23の用いる閾値をデフォルトの閾値に設定し、標準電波の受信を開始させる(ステップS201)。ここで、電波時計が受信する送信局および周波数は、利用者により予め設定されているものとする。制御部25は、その設定された送信局と関連付けられたデフォルトの閾値を二値化回路23に設定し、標準電波の受信を開始させる。
【0040】
次に、調整制御部52は、現在受信している標準電波の送信局について、閾値調整可能と設定されているかを判定する(ステップS202)。具体的には、調整制御部52は、設定された送信局が、予め定められた閾値調整が可能または不可能な送信局であるか否かを判定することにより、閾値調整可能と設定されているか否かを判定する。受信している標準電波の送信局が閾値調整可能と設定されていない場合には(ステップS202のN)、閾値調整部51の処理を行わない。例えば、JJYおよびWWVBは閾値調整可能と設定されており、DCFの送信局は閾値調整不可能と設定されている。
【0041】
一方、受信している標準電波の送信局が閾値調整可能と設定されている場合には(ステップS202のY)、ステップS203以降に示される、閾値調整部51による閾値の調整の処理を実行する。その処理においては、はじめに、閾値調整部51は、二値化回路23から出力される、復調された時刻信号が二値化された二値化信号を、10秒間、所定の間隔(1/64sec)でサンプリングする(ステップS203)。サンプリングの実施期間は10秒間でなくてもよいし、サンプリング間隔は、理論上は1/10sec以上であればよい。
【0042】
図8は、二値化信号のサンプリングを説明する図である。サンプリングは、1秒間を順に第1から第n(nは10以上の整数)のサンプリング区間に分割されたそれぞれの期間で行なわれる。本実施形態では、1秒間におけるサンプリング区間の数nを64とし、サンプリング区間の長さは、1/64(sec)である。ここで、サンプリングの実施期間(10秒)を10個の秒区間(秒区間の長さは1秒である)に分割して考えると、それぞれの秒区間についても、順に第1から第64のサンプリング区間に分割されている。全体でみると、同じ名称のサンプリング区間が1秒ごとに出現する。
【0043】
閾値調整部51は、複数の秒区間が分割された第1から第64のサンプリング区間のそれぞれについて、二値化信号がHIGH(またはLOW)であった回数をカウントする(ステップS204)。
【0044】
より具体的には、閾値調整部51では、第1から第64のサンプリング区間のそれぞれに対応してカウンタ(以下では第1から第64のカウンタと記載する)が設けられている。閾値調整部51は、その処理を開始する際に、カウンタのそれぞれに0を設定する。また、閾値調整部51は、それぞれの秒区間の第kのサンプリング区間(kは1以上64以下の整数)において二値化信号の電位がHIGHである場合、つまり復調された時刻信号が閾値を超えるときには、超えた回数をカウントするための第kのカウンタの値を1増やす。なお、閾値調整部51は、第kのサンプリング区間(kは1以上64以下の整数)において二値化信号の電位が、HIGHである場合をカウントするのではなく、LOWである場合をカウントしてもよい。つまり復調された時刻信号が閾値を超えないときに超えない回数をカウントするための第kのカウンタの値を1増やしてもよい。どちらにしても、カウンタの値から復調された時刻信号が閾値を超える回数がわかる、つまりカウンタの値は復調された時刻信号の大きさが閾値を超える回数を示している。なお、ステップS204の処理は、ステップS203のサンプリングに対してリアルタイムに行われてもよい。この場合、ステップS203,S204の処理は繰り返し実行される。
【0045】
サンプリングの実施期間において、第1から第64のサンプリング区間についてカウントがされると、閾値調整部51は、カウント結果に基づいて、10秒間受信された時刻信号が特有の分布を示すか否かを判定する(ステップS205)。
【0046】
例えば、閾値調整部51は、2つの条件を満たす場合に特有の分布を有すると判定する。
図9は、閾値調整部51におけるカウント結果の一例を示すヒストグラムである。
図9は、ノイズが少ない環境においてJJYの標準電波から時刻信号が復調された場合の例を示している。秒区間に含まれるパルスの立ち上がりは1秒周期である一方、そのパルスの立ち上がりの前にはパルスが存在しない。そのため、理想的な環境下では複数のカウンタのうち1つ(
図9の例ではカウンタ2)においてカウントされた値が0であり、次のカウンタ(
図9の例ではカウンタ3)において値が10になる。ほかには、最もパルス幅の長いマーカーのパルスは10秒に1~2回送信される。そのため、パルスの立ち上がりに対応するカウンタを起点として、2番目に長いパルスのパルス幅に相当するカウンタの次のカウンタからマーカーのパルス幅に相当するカウンタまで(
図9の例ではカウンタ35から54)のカウントされた値は、理想的な環境下では1または2になる。
【0047】
多少のノイズやサンプリング区間の設定に伴う変動があるため、閾値調整部51は、あるカウンタ(
図9の例ではカウンタ2)において値が0であり、次のカウンタにおいて値が5以上であるか否かを検出し(
図9の二点鎖線で囲まれた区間参照)、そのカウンタが検出された場合には、1つめの条件を満たすとする。また、その値が5以上のカウンタをパルスの立ち上がりと判定する。次に、閾値調整部51は、その立ち上がりと判定されたカウンタの位置からマーカーのパルスのみが検出されるべき複数のカウンタ(
図9の例ではカウンタ35から54)を特定し、それらのカウンタのそれぞれの値が3以上でないか判定する(
図9の一点鎖線で囲まれた区間参照)。それらのカウンタのすべてのカウンタの値が3未満である場合には、閾値調整部51は2つめの条件を満たすとし、特有のパターンを検出した、つまり標準電波が正常に受信できたと判定する。
【0048】
時刻信号が特有の分布を示さないと判定された場合には(ステップS205のN)、閾値調整部51は二値化回路23の閾値をノイズ除去用に変更し、変更された閾値を用いて標準電波の受信を開始させ(ステップS206)、閾値調整部51の処理を終了する。一方、時刻信号が特有の分布を示すと判定された場合には(ステップS205のY)、ステップS206の処理をスキップして閾値調整部51の処理を終了する。これにより、受信環境がある程度悪い場合でも標準電波から日付および時刻を取得することが可能になる。
【0049】
なお、デューティ比に基づいて時刻信号が特有の分布を示すか否かが判定されてもよい。例えば、閾値調整部51は、第1から第64のカウンタの値の総計を算出し、その総計が示すデューティ比が所定の範囲にある場合に、時刻信号が特有の分布を示し標準電波が受信できたと判定してよい。なお、第1から第64のカウンタの代わりに、閾値調整部51は、二値化回路23が、復調された時刻信号が閾値より高い(または低い)と判定された場合にデューティ比計測カウンタのカウントを増やし、そのデューティ比計測カウンタの値に基づいてデューティ比が所定の範囲にあるか判定してもよい。
【0050】
閾値調整部51の処理(閾値の変更等)が終わると、秒同期部55は、二値化信号に基づいて、時刻信号に含まれるタイムコードのパルスの開始タイミングを検出する(ステップS103)。この処理は、閾値調整部51の処理に用いられるより長い期間(例えば30秒)の時刻信号を解析することにより行われる。秒同期部55は、複数のサンプリング区間に対応する複数のカウンタの値に基づいて、パルスの立ち上がりに対応するカウンタおよびサンプリング区間を特定することにより、パルスが1秒間の中のどこで開始するかを検出する。立ち上がりの検出手法そのものは、解析に用いられるサンプリング実施期間が長くなることに起因して判定に用いる値が異なる他は閾値調整部51の処理と同様である。ここで、分同期部56および時刻取得部57は、秒同期部55により検出されたタイミングをパルスの開始点として1秒周期の基本区間を設定し、その基本区間の先頭からのパルス幅に基づいてタイムコードとして値0、値1、マーカーのいずれが送信されたかを判定する。
【0051】
なお、閾値調整部51が閾値を変更しなかった場合には、これまでの受信内容、例えば第1から第64のカウンタの値を秒同期部55の処理にも用いてよい。これにより、秒同期部55の処理のために標準電波を受信する時間が削減される。
【0052】
パルスの開始タイミングが検出されると、分同期部56は、上述の手法で各基本区間におけるパルス幅から値0、値1、マーカーを検出し、時刻信号に含まれる時刻情報の先頭を検出する(ステップS104)。時刻情報の先頭は、時刻の各分の開始に相当し、タイムコードとして、例えば連続するマーカーなどの先頭検出用のパルスまたはパルス群が出力される。
【0053】
時刻情報の先頭が検出されると、時刻取得部57は、時刻情報を取得する(ステップS105)。そして、時刻修正部58は、適正な時刻情報を取得できた場合には(ステップS106)、内部的な現在日付および現在時刻を修正する(ステップS107)。ここで、ステップS105では、時刻取得部57は3分間かけて連続した3つの時刻情報を取得する。また時刻修正部58はそれらの時刻情報に一貫性がある場合、具体的には取得された2番目以降の時刻情報の時刻が前の時刻情報より1分進んでいる場合には、適正な時刻情報が取得できたと判定する。
【0054】
図7に示される処理により、例えばJJYやWWVB(いずれも例えば第1の送信局)のように閾値調整が有効な場合には初めに試験的な受信をして閾値調整部51が閾値を調整するが、DCF(例えば第2の送信局)のように閾値調整が有効といえない場合には閾値調整部51は閾値の調整にかかる動作を行わない。つまり閾値を変更させない。これにより無駄な動作をなくし、無駄な電力消費を抑えることができる。
【0055】
なお、これまでの説明では、閾値調整をするか否かだけを制御し、必ず秒同期部55など標準電波から時刻情報を取得するための処理が行われているが、閾値調整にかかる判定の結果に基づいて受信そのものを中止してもよい。つまり、閾値調整部51は、JJYやWWVB(例えば、第1の送信局)からの標準電波を受信し、復調回路22から出力される復調された時刻信号に基づいて、現在の閾値において時刻取得部57が時刻を取得することが難しいか否かを判定し、調整制御部52は、DCF(例えば、第2の送信局)からの標準電波を受信し、かつ、現在の閾値において時刻取得部57が時刻を取得が難しいと判定された場合、標準電波の受信を終了させる。これにより、無駄な動作をなくし、無駄な電力消費を抑えることができる。以下ではより具体的に説明する。
【0056】
図10は、閾値調整部51および調整制御部52の処理の他の一例を示すフロー図である。本図の例は、
図7に記載の処理の代わりに実行される。以下では、
図7の例と違いがない箇所については説明を省略する。
【0057】
はじめに、制御部25は、二値化回路23の用いる閾値をデフォルトの閾値に設定し、標準電波の受信を開始させる(ステップS251)。次に閾値調整部51は、二値化回路23から出力される、復調された時刻信号が二値化された二値化信号を、10秒間(10の秒区間)、所定の間隔(1/64sec)でサンプリングする(ステップS252)。サンプリングの実施期間およびサンプリング間隔は異なっていてもよい。
【0058】
閾値調整部51は、複数の秒区間が分割された第1から第64のサンプリング区間のそれぞれについて、二値化信号がHIGH(またはLOW)であった回数をカウントする(ステップS253)。
【0059】
そして、閾値調整部51は、カウント結果に基づいて、10秒間受信された時刻信号に特有の分布を示すか否かを判定する(ステップS254)。この判定手法は
図7の例と同様であるので説明を省略する。現在の閾値において時刻取得部57が時刻を取得することが難しくないと判定された場合、より具体的には、時刻信号が特有の分布を示すと判定された場合には(ステップS254のY)、閾値調整部51の処理を終了し、標準電波の受信を継続するとともに秒同期部55等による時刻情報の取得が行われる。一方、現在の閾値において時刻取得部57が時刻を取得することが難しいと判定された場合、より具体的には、時刻信号が特有の分布を示さないと判定された場合には(ステップS254のN)、調整制御部52は、現在受信している標準電波の送信局について、閾値調整可能と設定されているかを判定する(ステップS255)。受信している標準電波の送信局が閾値調整可能と設定されている場合には(ステップS255のY)、閾値調整部51は二値化回路23の閾値をノイズ除去用に変更し、変更された閾値を用いて標準電波の受信を開始させ(ステップS256)、閾値調整部51の処理を終了する。一方、受信している標準電波の送信局が閾値調整可能と設定されていない場合には(ステップS255のN)、調整制御部52は、閾値調整部51に閾値の変更を行わせず、かつ、標準電波の受信および時刻情報の取得に関する処理を終了させる(ステップS257)。
【0060】
図10に示される処理によっても、DCFのように閾値調整が有効といえない場合には閾値調整部51の処理での受信動作以外での受信動作が行われず、無駄な電力消費を抑えることができる。
【0061】
今回は閾値を上げることでノイズ除去を行う方法について記載しているが、閾値調整部51はその動作とは異なる制御を行ってもよい。具体的には、特定の受信局では予め閾値を高めに設定しておいて、特定の条件と取得した2値化データが一致していない場合、閾値を下げるように制御してよい。
【0062】
また、閾値を調整した結果として閾値を上げすぎた場合、閾値調整部51は、再度2値化波形を検出し、閾値を上げる前の値と、上げた後の値の中間に閾値が設定されるように制御してもよい。この場合、調整にかかる時間が多くなってしまうため、予め電池の電圧をモニタしておき、受信可能な電池の範囲の上位30%以上であった場合に実施するようにしてもよい。
【0063】
さらに、前回の受信からの経過時間や時計の置かれている環境に応じて時刻ずれが大きいと判断した場合に、受信の成功率を上げて時刻を正しい時刻に合わせるため、閾値調整部51は閾値調整を複数回実施して最適な敷地を検索してもよい。
【0064】
さらに、閾値調整が困難であると判断した場合、他の受信機能より時刻情報を取得してもよい。例えば、衛星から時刻情報御を取得するGPS受信機も合わせて搭載している製品は、閾値調整が困難であると判断された場合にGPS受信機を動作させて時刻情報を取得してもよい。また、スマートフォンやウェアラブル機器とBLE通信を行う受信機を搭載している製品は、閾値調整が困難であると判断された場合に他の機器より時刻情報御を取得するように動作してもよい。通信方式は上記記載の内容に限定されない。いずれにおいても標準電波で閾値が設定できない場合に動作を実施させることで低消費電力の製品を提供することができる。
【符号の説明】
【0065】
10 アンテナ、21 受信回路、22 復調回路、23 二値化回路、25 制御部、27 計時部、29 時刻表示部、51 閾値調整部、52 調整制御部、55 秒同期部、56 分同期部、57 時刻取得部、58 時刻修正部、ThA,ThB,ThC,ThD 閾値。