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特許7201612強化繊維にポリアリールエーテルケトンを含浸させるための方法及びそれから得られる半製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】強化繊維にポリアリールエーテルケトンを含浸させるための方法及びそれから得られる半製品
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20221227BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20221227BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20221227BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20221227BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
C08J5/04 CEZ
C08L71/00
C08K5/521
C08K5/42
C08K7/02
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019554911
(86)(22)【出願日】2018-04-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-30
(86)【国際出願番号】 FR2018050856
(87)【国際公開番号】W WO2018185440
(87)【国際公開日】2018-10-11
【審査請求日】2021-04-02
(31)【優先権主張番号】1752951
(32)【優先日】2017-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ブノワ・ブリュル
(72)【発明者】
【氏名】アンリ-アレクサンドル・ケーザク
(72)【発明者】
【氏名】ギヨーム・ル
(72)【発明者】
【氏名】ジェローム・パスカル
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン・スゲーラ
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/013368(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/156325(WO,A1)
【文献】特開平02-175972(JP,A)
【文献】特開昭62-115033(JP,A)
【文献】国際公開第2016/062558(WO,A1)
【文献】特開平01-079235(JP,A)
【文献】米国特許第05063265(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16、15/08-15/14、C08J5/04-5/10、5/24、
C08K3/00-13/08、C08L1/00-101/14、
B29C41/00-41/36、41/46-41/52、70/00-70/88、
C08G65/00-67/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PAEK樹脂及び強化繊維を含む半完成品を調製するための方法であって、
a. 少なくとも1種の界面活性剤を含む水性相に分散させた、粉状形態のPAEK樹脂を含む、分散体を調製する段階、
b. 強化繊維を前記分散体に接触させる段階、
c. 分散体を含浸させた繊維を乾燥する段階、及び
d. 含浸させた繊維を、樹脂が溶融するのに十分な温度に加熱して、半完成品を形成する段階
を含み、前記界面活性剤が、375℃の温度に少なくとも20分間供された場合、PAEK樹脂と有意に反応することが可能な反応性の物質を発生させない熱的に安定な界面活性剤であることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記界面活性剤が芳香族基を含む、請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
前記界面活性剤が、リン酸基、ホスフェート基又はスルホネート基を含む、請求項1又は2に記載の調製方法。
【請求項4】
前記強化繊維が炭素繊維である、請求項1から3のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項5】
前記強化繊維が非サイズ繊維である、請求項1から4のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項6】
前記強化繊維が、375℃の温度に少なくとも20分間供したときに、PAEK樹脂と有意に反応することが可能な反応性の物質を発生させない熱的に安定なサイズにサイズ決めされた繊維である、請求項1から4のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項7】
前記PAEK樹脂が、ポリ(エーテルケトン)(PEK)、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)、ポリ(エーテルエーテルケトンケトン)(PEEKK)、ポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)、ポリ(エーテルケトンエーテルケトンケトン)(PEKEKK)、ポリ(エーテルエーテルケトンエーテルケトン)(PEEKEK)、ポリ(エーテルエーテルエーテルケトン)(PEEEK)、及びポリ(エーテルジフェニルエーテルケトン)(PEDEK)、これらの混合物、及びこれらの互いの、又は上記ポリマーの他のメンバーとのコポリマーからなる群から選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項8】
前記PAEK樹脂が、テレフタル単位及びイソフタル単位の合計に対して、35%から100%の間のテレフタル単位の質量百分率を示すPEKKである、請求項1から7のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項9】
分散体中の粉状PAEK樹脂が、規格ISO 13 320に従って測定される、1から300μmの体積メジアン径Dv50を示す、請求項1から8のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項10】
前記半完成品が、プリプレグ又はテープから選択される、請求項1から9のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項11】
PAEK樹脂及び強化繊維を含む半完成品の調製に使用する分散体であって、
a. 1から50質量%の、規格ISO 13 320に従って測定される1から300μmの間のDv50直径を示すPAEK樹脂、
b. 樹脂の質量に対して計算して0.001から5質量%の少なくとも1種の熱的に安定な界面活性剤、
c. 0~1質量%の他の添加剤、及び
d. 残部の水
を含む、分散体であって、
前記熱的に安定な界面活性剤が、375℃の温度に少なくとも20分間供された場合、PAEK樹脂と有意に反応することが可能な反応性の物質を発生させない、分散体
【請求項12】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法によって得ることが可能な、PAEK樹脂及び強化繊維を含む半完成品。
【請求項13】
サイズ排除クロマトグラフィ分析により測定されるPAEK樹脂の重量平均分子量Mw の増加量が、熱処理前のPAEK樹脂の重量平均分子量に対して、375℃で20分間の熱処理後に100%以下である、請求項12に記載の半完成品。
【請求項14】
複合材料の製造における、請求項12又は13に記載の半完成品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、熱可塑性マトリックス及び強化繊維を含む半完成品の製造の分野に関する。本特許出願は、そのような半完成品、及び複合部品の製造におけるそれらの使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂と強化繊維とを組み合わせた複合材料は、低質量というそれらの優れた機械的特性に起因して、数多くの分野で、特に航空宇宙産業で、また自動車産業及びスポーツ用品産業においても非常に興味深いものである。
【0003】
これらの複合材料は、粗紡又は織布の一方向シートの形態をとるプリプレグ等の樹脂コーティングされた強化繊維からなる半完成品の圧密化によって、一般に製造される。
【0004】
これらの半完成品は、繊維に樹脂を含浸させることによって得ることができる。樹脂を溶融し、溶媒に溶解し、そうでなければ粉末形態をとり、流動床にあり又は水性溶液中に分散させることができる、種々の含浸方法が存在する。含浸させた繊維からはその後、必要に応じて、溶媒又は水性溶液が除去され、次いで保持された樹脂を溶融するために且つ半完成品を形成するために加熱される。
【0005】
水性分散体の浴中への含浸は、経済的に及び環境上有利である。それにも関わらず、この方法は、繊維への樹脂の均一な投入を得るために、分散体における樹脂の均質分布が得られる必要がある。
【0006】
このように、特許出願WO 88/03468は、懸濁液を高い粘性(少なくとも50Pa・秒)にすることによって且つ必要に応じて界面活性剤を更に添加することによって、懸濁液の安定化を提供する。
【0007】
類似の手法により、特許US 5 236 972は、水溶性ポリマー、湿潤剤、更に殺生物剤、可塑剤、及び消泡剤の、分散体への添加を提供する。
【0008】
特許US 5 888 580は、それとは反対に、低粘度を有し且つ分散剤をほとんど含有しない分散体の使用を提供し、分散体中での樹脂の濃縮及び滞留時間を介した繊維への樹脂の負荷の規制を提供する。しかしそのような半完成品から製造される複合部品は、高い多孔度及び最適ではない機械的特性を示す。
【0009】
この問題を克服するために、FR 3 034 425は、特定のアルコキシル化アルコール界面活性剤、即ち100倍エトキシル化ステアリルアルコールを用いた熱可塑性樹脂の分散と、懸濁液を均質に保持するための撹拌デバイスの組合せとを提供する。このように筆者等は、多孔性のない複合生成物を圧密化することができることを主張する。それにも関わらず、そのような界面活性剤の添加は、樹脂、特に、PAEK等の高融点を有するポリマーの粘度に増大をもたらすことが見出された。樹脂の高粘度は、後で欠陥形成をもたらす可能性がある。この理由は、溶融状態で、過剰な粘性のポリマー樹脂はもはや適切に流れることができないからである。この理由で、所望の形状及び所望の表面外観を有する複合部品を実現することは難しい。
【0010】
特に、複合部品を複雑な部品に組み立てる間にもたらされる表面の皺の外観及び溶接の強度の問題を観察することは、一般的である。これらの欠陥は、5bar未満の圧力で圧密化が実施された場合に悪化する。
【0011】
一般に、高圧に頼ることなく複合部品を製造できることが有利であり、その理由はこれには非常に高価なオートクレーブの使用が必要だからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】WO 88/03468
【文献】US 5 236 972
【文献】US 5 888 580
【文献】FR 3 034 425
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、これらの問題を克服し、上述の欠陥を示さない複合部品に変換することが可能な半完成品を調製するための方法を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、オートクレーブの外側で、低い陰圧の下で圧密化することが可能な、半完成部品を調製するための方法を提供することである。
【0015】
より詳細には本発明の目的は、樹脂が、複合部品の製造に必要な熱サイクルの後にほとんど変化しない粘度及び分子量を示す、半完成品を調製するためのそのような方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の目的は、少なくとも1種の熱的に安定な界面活性剤を含む粉状樹脂の水性分散体中に強化繊維を含浸させる、本発明による方法によって達成された。
【0017】
この理由は、PAEK樹脂をベースとする複合部品の品質が、特に半完成部品の樹脂の粘度及びその後の進化に依存するという観察に、本発明が基づくことによる。実際は、製造に必要な高温及びPAEKベースの半完成品の圧密化(温度は一般に300℃よりも高い)が、製造中に導入される化合物の分解をもたらして反応性の物質を提供し、それがPAEKの鎖延長反応をもたらす可能性があり、分岐に至る可能性がある。次いでそこから得られる分子量の増加は、樹脂の粘度を増大させる。
【0018】
実際は、PAEKベースの半完成品中に存在しがちな種々の薬剤の系統的研究は、一方で、分散体中に使用される界面活性剤が熱サイクル後の粘度の増大の主な要因を構成し、他方で、この効果は選択される界面活性剤に応じて非常に変化し易いことを、明らかにした。
【0019】
これに基づき、熱的に安定な界面活性剤の使用は、樹脂の粘度の変化を制限し且つ必要とされる品質の複合部品を得るのを可能にすることを、検証することができた。
【0020】
この仮説に固執するものではないが、多くの界面活性剤は、その変換に必要とされる高温の影響下、PAEK樹脂中で分解すると想定される。次いで分解中に形成された反応性の物質、特にラジカルは、ポリマーと反応し、鎖延長反応又は分岐をもたらしてもよく、それがポリマーの分子量を増大させ、この理由でその粘度も増大させる。実際は、樹脂が高粘度を示す場合、もはや完全に含浸させ且つ繊維をコーティングすることができず、半完成品を一まとめにする良好な接着を確実することができず、金型の壁に適合できず、そのことが、得られる複合製品の品質に影響を及ぼす。
【0021】
その結果、第1の態様によれば、本発明の対象は、PAEKベースの樹脂及び強化繊維を含む半完成品を調製するための方法であって、
a. 少なくとも1種の界面活性剤を含む水性相に分散させた、粉状形態のPAEKベースの樹脂を含む、分散体を調製する段階;
b. 強化繊維を前記水性分散体に接触させて、含浸させた繊維を得る段階;
c. 分散体を含浸させた繊維を乾燥する段階;及び
d. 含浸させた繊維を、樹脂が溶融するのに十分な温度に加熱して、半完成品を形成する段階
を含み、界面活性剤が、熱的に安定な界面活性剤であることを特徴とする方法である。
【0022】
有利には、熱的に安定な界面活性剤は芳香族基を含む。本発明の別の実施形態によれば、界面活性剤は、リン酸基、ホスフェート基又はスルホネート基を含む。好ましくはイオン性基である。
【0023】
好ましくは、強化繊維は炭素繊維である。好ましくは、本発明の方法で用いられる強化繊維は、非サイズ繊維である。
【0024】
強化繊維がサイズ繊維である場合、それらは好ましくは、熱安定性サイズにサイズ決めされる。
【0025】
好ましくは、PAEK樹脂は、ポリ(エーテルケトン)(PEK)、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)、ポリ(エーテルエーテルケトンケトン)(PEEKK)、ポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)、ポリ(エーテルケトンエーテルケトンケトン)(PEKEKK)、ポリ(エーテルエーテルケトンエーテルケトン)(PEEKEK)、ポリ(エーテルエーテルエーテルケトン)(PEEEK)、及びポリ(エーテルジフェニルエーテルケトン)(PEDEK)、これらの混合物、及びこれらの互いの、又はPAEKファミリーの他のメンバーとのコポリマーからなる群から選択される。
【0026】
PEKK樹脂である場合、PAEK樹脂は好ましくは、テレフタル及びイソフタル単位の合計に対して、35%から100%の間、特に50%から90%の間、非常に特別には55%から85%の間のテレフタル単位の質量百分率を示すPEKKである。
【0027】
有利には、分散体中の粉状PAEK樹脂は、Malvern社製Insitecデバイス上で規格ISO 13 320に従って測定される、1から300μm、好ましくは5から100μm、非常に特別には10から50μmの体積メジアン径Dv50を示す。
【0028】
好ましい実施形態によれば、半完成品はプリプレグ又はテープから選択される。
【0029】
更に、第2の態様によれば、本発明の対象は、前記方法によって得ることが可能な半完成品である。
【0030】
好ましくは、サイズ排除クロマトグラフィ分析により測定される半完成品中のPAEK樹脂の重量平均分子量Mwは、375℃で20分間の熱処理後、100%よりも多く増大することはなく、特に50%以下、非常に特別には20%以下である。
【0031】
第3の態様によれば、本発明の対象は、PAEKベースの樹脂及び強化繊維を含む半完成品の調製に使用する分散体であって、
a. 1から50質量%の、1から300μmの間のDv50直径を示すPAEKベースの樹脂、
b. 樹脂の質量に対して計算して0.001から5質量%の少なくとも1種の熱的に安定な界面活性剤、
c. 0~1質量%の他の添加剤、及び
d. 残部の水
を含む、分散体である。
【0032】
最後に、第4の態様によれば、本発明の対象は、複合体の製造における、上述の半完成品の使用である。
【0033】
複合部品を製造するための方法において、半完成品は、複合部品を形成し且つ/又はそれを成形するためにそれらを一緒に組み立てるため、圧力下又は真空下で種々の熱サイクルに供される。
【0034】
本発明のより良い理解は、以下の続く記述に照らして得られることになる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
用語の定義
「半完成品」という用語は、複合材料の製造において、中間製品として使用される樹脂及び強化繊維を含む製品を示すことを意図する。これらの製品は特に、粗紡若しくは織布の一方向シートの形態をとるプリプレグ、又はそうでない場合には繊維/マトリックス混合物とすることができる。
【0036】
半完成品は、複合部品を製造するために、例えば手作業による若しくは自動化されたドレープ形成によって、又は自動化された繊維配置によって引き続き組み立てられ、圧密化によって成形することができる。このように製造された複合部品は、複雑な複合部品の集合体を得るために、更に変換することができる。このように、複合部品を同時圧密化することが可能であり、これは新たな熱サイクルを用いてオートクレーブ内で一般に実施される方法であり、又は部品を互いに局所加熱することによって溶接させることが可能になる。
【0037】
「樹脂」という用語は、主として添加された1種又は複数のポリマーを、必要に応じて従来の添加剤、特に充填剤及び機能性添加剤と共に含む、組成物を示すことを意図する。
【0038】
「分散体」という用語は、液相及び固相を含む不均質組成物を示すことを意図する。本発明の方法で用いられる分散体において、液相は水性であり、熱的に安定な界面活性剤及び必要に応じて他の添加剤も含む。固相は、粉状形態のPAEK樹脂を含み又はこの樹脂から本質的に構成される。
【0039】
「界面活性剤」という用語は、親水性部分及び親油性部分を示す化合物であって、樹脂粉末を液相中に分散させ且つ撹拌を行った状態で又は撹拌せずに懸濁させたままにすることが可能な化合物を示すことを意図する。この化合物は、分散によって繊維の濡れを助けることもできる。
【0040】
「熱的に安定な界面活性剤」は、375℃の温度に少なくとも20分間供された場合、PAEK樹脂と有意に反応することが可能な反応性の物質を発生させない界面活性剤を意味すると理解される。
【0041】
この特性は、下記の試験によって評価される:粉末形態のPAEK樹脂(体積メジアン径Dv50=20μm)を、評価される界面活性剤を樹脂の量に対して1質量%含有する水性溶液中に導入する(分散体の樹脂含量: 1質量%)。得られた混合物を、磁気撹拌子を使用して30分間撹拌する。水を引き続き、90℃の炉内で48時間蒸発させる。界面活性剤が添加されたPAEK樹脂の乾燥残留物が得られる。その後、界面活性剤が添加されたPAEK樹脂の試料を、窒素でフラッシュしながら、375℃の温度で20分の持続時間にわたって熱処理に供する。
【0042】
これらの試料の粘度を測定することは、問題が多いことが証明された。その結果、界面活性剤が添加ざれたPAEK樹脂の粘度を、以下のプロトコールに従って、サイズ排除クロマトグラフィ分析により測定される分子量の分布を用いて評価した。
【0043】
評価されることになる界面活性剤が添加されたPAEK樹脂約30mgを、4-クロロフェノール1ml中に導入し、150℃で24時間撹拌する。溶液を室温に冷却後、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)14mlを添加し、次いで溶液を、直径25mm及び多孔度0.2μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜を含むAcrodisc型のシリンジフィルターに通して濾過する。
【0044】
樹脂の分子量は、下記の条件使用する、Waters Alliance 2695型の機器を用いるサイズ排除クロマトグラフィによって決定される:
【0045】
流量: 1.00ml/分。溶離液: HFIP。注入される体積: 100.00μl。PSS PFG(1000+100Å)230cmカラムの設定。温度40℃。検出方法:示差屈折計。較正:各分析系列中に最新のものにされる402g/molから1900000g/molの分子量の範囲を持つPMMA。
【0046】
可溶物の含量は、同じ濃度で調製され且つ同じ量でクロマトグラフィデバイス内に注入され、一方では分析される試料と、他方では可溶性参照化合物との間のクロマトグラムの面積の比によって測定される。
【0047】
PAEK樹脂の重量平均分子量Mwが、熱処理前の樹脂に対して20%よりも多く増大する場合、研究される界面活性剤は、熱的に不安定であると分類される。逆に、PAEK樹脂の重量平均分子量Mwが20%以下増大する場合、研究される界面活性剤は熱的に安定であると分類される。
【0048】
「熱的に安定なサイズ」は、375℃の温度に少なくとも20分間供したときに、PAEK樹脂と有意に反応することが可能な反応性の物質を発生させないサイズを意味すると理解される。
【0049】
この特性を、下記の試験によって評価する:評価される、PAEK樹脂(Dv50=2μm)72質量%及びサイズ繊維28質量%の密な混合物を、乳鉢で調製する。その後、PAEK樹脂及びサイズ繊維のこの混合物の試料を、375℃に加熱された平板/平板レオメータに導入し、20分にわたる粘度の変化を測定する。混合物の粘度が20%よりも多く増大した場合、サイズは、熱的に不安定であると分類される。これとは逆に、混合物の粘度が20%以下増大した場合、研究されるサイズは熱的に安定であると分類される。
【0050】
分散体
提供される方法に用いられる分散体は、本発明によれば、粉末形態のPAEK樹脂及び少なくとも1種の熱的に安定な界面活性剤も含む、水性相を含む。
【0051】
PAEK樹脂は、本質的には、少なくとも1種のポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)を含む。ポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)は、下式:
(-Ar-X-)及び(-Ar1-Y-)
(式中:
- Ar及びAr1はそれぞれ、2価の芳香族基を示し;
- Ar及びAr1は、好ましくは、任意選択で置換される、1,3-フェニレン、1,4-フェニレン、4,4'-ビフェニレン、1,4-ナフチレン、1,5-ナフチレン、及び2,6-ナフチレンから選択されてもよく;
- Xは電子求引基を示し;それは、好ましくはカルボニル基及びスルホニル基から選択されてもよく;
- Yは、酸素原子、硫黄原子、又はアルキレン基、例えば-CH2-及びイソプロピリデンから選択される基を示す)の単位を含む。
【0052】
これらのX及びY単位において、X基の少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、及びより詳細には少なくとも80%がカルボニル基であり、Y基の少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より詳細には少なくとも80%が酸素原子を表す。好ましい実施形態によれば、X基の100%がカルボニル基を示し、Y基の100%が酸素原子を表す。
【0053】
より好ましくは、ポリ(アリーレンエーテルケトン)(PAEK)は以下から選択されてもよい。
- 式IAの単位、式IBの単位、及びこれらの混合物を含む、PEKKとも呼ばれるポリ(エーテルケトンケトン):
【0054】
【化1】
【0055】
- 式IIの単位を含む、PEEKとも呼ばれる、ポリ(エーテルエーテルケトン):
【0056】
【化2】
【0057】
配列は、完全にパラ(式II)とすることができる。同様に、以下の式III及び式IVの2つの例により、エーテル及びケトンでこれらの構造にメタ配列を:
【0058】
【化3】
【0059】
若しくはそうでない場合には:
【0060】
【化4】
【0061】
又は式Vによるオルト配列を、部分的に又は完全に導入することが可能である:
【0062】
【化5】
【0063】
- 式VIの単位を含む、PEKとも呼ばれるポリ(エーテルケトン):
【0064】
【化6】
【0065】
同様に、配列は、完全にパラにすることができるが、メタ配列(式VII及び式VIII)を部分的に又は完全に導入することもできる:
【0066】
【化7】
【0067】
- 式IXの単位を含む、PEEKKとも呼ばれるポリ(エーテルエーテルケトンケトン):
【0068】
【化8】
【0069】
同様に、エーテル及びケトンでこれらの構造にメタ配列を導入することが可能である。
【0070】
- 式Xの単位を含む、PEEEKとも呼ばれるポリ(エーテルエーテルエーテルケトン):
【0071】
【化9】
【0072】
同様に、エーテル及びケトンでこれらの構造にメタ配列を導入することが可能であるが、式XIによるビフェノール又はジフェニル配列も導入することが可能である(次の名称において、D型の単位;したがって式XIは名称PEDEKに対応する):
【0073】
【化10】
【0074】
カルボニル基の及び酸素原子の他の配置構成も可能である。
【0075】
好ましくは、本発明で使用されるPAEKは、ポリ(エーテルケトン)(PEK)、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)、ポリ(エーテルエーテルケトンケトン)(PEEKK)、ポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)、ポリ(エーテルケトンエーテルケトンケトン)(PEKEKK)、ポリ(エーテルエーテルケトンエーテルケトン)(PEEKEK)、ポリ(エーテルエーテルエーテルケトン)(PEEEK)、及びポリ(エーテルジフェニルエーテルケトン)(PEDEK)、これらの混合物、及びこれらの互いのコポリマー又は上記ポリマーの他のメンバーとのコポリマーからなる群から選択される。PEEK及びPEKK、並びにこれらの混合物も、特に好ましい。
【0076】
有利には、溶融状態にあるPAEKの安定性は、1種又は複数のホスフェート又はリン酸塩を添加することによって改善することができる。
【0077】
好ましくはPAEK樹脂は、限界値も含めて樹脂の50%超、好ましくは60%超、特に70%超、更に好ましくは80%超、特に90質量%超(限界値を含む)の、少なくとも1種のポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)を含む。残りの10%から50質量%は、PAEKのファミリーに属する又は属さない他のポリマーからなることができる。
【0078】
より好ましくは、PAEK樹脂は本質的にPEKKからなる。
【0079】
有利には、PEKKは、テレフタル単位及びイソフタル単位の合計に対して、35%から100%の間、とりわけ50%から90%の間、特に55%から85%の間、好ましくは60%から80%の間のテレフタル単位の質量百分率を示し、非常に特別には、この比は65%から75%である。
【0080】
樹脂は更に、上記にて論じたように、追加として他の通常の添加剤、例えば充填剤を含むことができる。更に、樹脂は任意選択で、少量の機能性添加剤を含むことができる。好ましくは樹脂は、それにも関わらず、粘度が変化するリスクを制限するために、熱の影響下で分解し易い添加剤を含まない。より好ましくは更に、樹脂は機能性添加剤を含まない。
【0081】
PAEK樹脂粉末の粒径は、懸濁液の安定性に影響を及ぼす可能性がある。強化繊維への樹脂の含浸の品質にも影響を及ぼす可能性がある。懸濁液の最適な均質性及び良好な含浸を確実にするために、樹脂粉末を微粉化することが好ましい。より詳細には、PAEK粉末は、規格ISO 13 320に従って測定される、1から300μmの範囲、好ましくは5から100μm、非常に特別には10から50μmの範囲に位置付けられるメジアン径Dv50を示すことが好ましい。
【0082】
好ましくは、分散体のPAEK樹脂粉末の含量は、最終分散体の質量に対して有利には0.1%から50%の間、好ましくは1%から40%の間、更に好ましくは10%から30質量%の間である。
【0083】
上記にて触れたように、本発明による方法は、分散体が、少なくとも1種の熱的に安定な界面活性剤を更に含むという事実によって特徴付けられる。これは、界面活性剤が、半完成品中に存在するPAEK樹脂の粘度の増大の主な要因であり、その増大が、その圧密化に必要な熱サイクルの後に観察されたことを、実施された研究が実証するのを可能にしたからである。
【0084】
上述の試験は、PAEK樹脂と有意に反応することが可能な反応性の物質を形成することなく、必要な温度に耐えるその能力に関して界面活性剤を評価するのを可能にする。したがって、本発明の意味の範囲内で界面活性剤が熱的に安定であるか否かを、単純に且つ迅速に決定することが可能である。
【0085】
熱的に安定な界面活性剤として、イオン性又は非イオン性界面活性剤を選択することが可能である。好ましくは、それはイオン性界面活性剤であり、特に陰イオン性界面活性剤である。
【0086】
好ましくは、熱的に安定な界面活性剤は、少なくとも1種の芳香族物質、特に1種又は複数のフェニル基を含む界面活性剤である。
【0087】
特に好ましい実施形態によれば、熱的に安定な界面活性剤は、リン酸基、ホスフェート基又はスルホネート基を含む。更にホスフェート及びスルホネートは、水性分散体による含浸のための方法で使用される場合、他の界面活性剤よりも、PAEK樹脂とそれほど反応する傾向にはない。
【0088】
より詳細には、リン酸エステルのファミリーの界面活性剤に、特に言及してもよい。好ましくは、それらはリン酸モノエステル又はジエステルである。特に、リン酸とアルコール、特に6から24個の、特に10から16個の炭素原子を含むアルコールとのエステルとすることができる。アルキルエーテル酸、ホスフェート又はスルホネート、及びアルキルアリールエーテルホスフェート又はスルホネートが特に好ましい。有利には、それらはアルコキシル化アルコールの、特にメトキシル化、エトキシル化、又はプロポキシル化アルコールのホスフェートである。リン酸基当たりのアルコキシ分子の数は、広く変えることができ、特に1から100個の間、好ましくは2から50個の間、非常に特別には10から20個の間とすることができる。
【0089】
このファミリーの化合物として、Lankm社からLanphos PE35の名称で、Ceca France社からCecabase RTの名称で、及びDeWolf社からKlearfac AA270の名称で販売されている、アルキルエーテルリン酸のファミリーの界面活性剤の化合物として、特に言及してもよい。
【0090】
これらの界面活性剤は、遊離酸形態で使用することができるが、好ましくは中和される。中和は、適切な量の水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを添加することにより、分散体中で、予め又はその場で実施することができる。
【0091】
分散体は、好ましくは、懸濁液を適切に安定化させるのに必要な最小限の含量を超えない界面活性剤を含む。この含量は、PAEK樹脂の粒径、分散される粒子の量、及び界面活性剤の性質等の要因に依存する。
【0092】
いくつかの熱的に安定な界面活性剤を添加することが、有利とすることができる。特に、PAEK樹脂粉末の良好な分散を確実にするのを可能にする、熱的に安定な界面活性剤、並びに強化繊維とPAEK樹脂粉末との親和性を改善するための別の熱的に安定な界面活性剤を、選択することが可能である。
【0093】
それにも関わらず、樹脂の質量に対して一般に0.001から5質量%の、好ましくは0.01から2質量%の、非常に特別には0.1から1質量%の、特に0.2から0.8質量%の界面活性剤の含量は、懸濁液の安定性及び繊維の良好なぬれ性を確実にするのを可能にする。
【0094】
分散体の水性相は、必要に応じて、少量の他の従来の添加剤、例えば増粘剤、消泡剤、又は殺生物剤を含むことができる。それにも関わらず、半完成品中の添加剤の存在及び関連ある潜在的な問題を制限するために、分散体は、好ましくは最小限の含量の他の添加剤を含む。好ましくは、他の添加剤の量は、最終分散体の1質量%を超えなくなり、特に0.5質量%を超えなくなる。
【0095】
繊維のぬれを容易にするために、分散体は、20℃で、有利には10Pa・秒未満の、有利には5未満の、特に0.0001から1の間、及び好ましくは0.001から0.1Pa・秒の間の粘度を示す。
【0096】
好ましくは、分散体中に存在する添加剤は、上述の試験により決定されたように熱的に安定になる。それにも関わらず、分散体の水性相は、最少量の添加剤を含むこと、及び特に熱的に安定な界面活性剤のみを含むことが好ましい。
【0097】
分散体を調製するのに使用される水は、好ましくは脱塩水である。
【0098】
分散体を調製するための方法は、それ自体が公知の方式で実施することができる。より詳細には、適切な撹拌デバイスが設けられた適切な体積の容器に、必要とされる量の水を導入し、次いで引き続き界面活性剤を、及び他の1種又は複数の添加剤も、適切な場合に添加することによって、分散体を調製することが可能である。必要に応じて、混合物を、均質な溶液が得られるまで撹拌する。粉状PAEK樹脂は、その後、水性溶液中に導入され、次いで安定な分散体が得られるまで撹拌を実施する。
【0099】
強化繊維
強化繊維は、原則として、半完成品の製造に習慣的に使用される任意の繊維とすることができる。
【0100】
本発明によれば、強化繊維は、複合材料で作製された部品の製造で強化材として使用することが可能な全ての繊維から選択されてもよい。
【0101】
したがって、それらの繊維は特に、ガラス繊維、石英繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、シリカ繊維、金属繊維、例えば鋼繊維、アルミニウム繊維、若しくはホウ素繊維、セラミック繊維、例えば炭化ケイ素若しくは炭化ホウ素繊維、合成有機繊維、例えばアラミド繊維若しくはポリ(p-フェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、略称PBOでより良く知られているもの、又はそうでない場合にはPAEK繊維、又はそうでない場合にはそのような繊維の混合物とすることができる。
【0102】
好ましくは、それらは炭素繊維又はガラス繊維であり、より詳細には炭素繊維である。
【0103】
好ましい実施形態によれば、繊維は、他の化合物と組み合わせて、半完成品中及び複合体中のPAEKの粘度に有意な変化をもたらさない。
【0104】
繊維は、好ましくはサイズ決めされていない。サイズ決めされている場合は、それらは、上記にて定義されたように、好ましくは熱的に安定なサイズにサイズ決めされる。
【0105】
水性分散体経路による含浸によって半完成品の製造で使用される強化繊維は、一般に連続的である。
【0106】
好ましくは繊維は、一方向繊維の形態で、例えば数千本の個々のフィラメント(典型的には3000から48 000本)を一緒にしたスレッドの形態で提供され、例えばその直径は、炭素繊維の場合に6から10μmと測定される。このタイプの繊維は、粗紡の名称で公知である。
【0107】
それにも関わらず、繊維は、種々の方式で、例えばマット形態で、又はそうでない場合には粗紡を織ることによって得られるテキスタイルの形態で配置構成することもできる。
【0108】
半完成品を製造するための方法
本発明による製造方法は、従来通り、通常の設備で、上述の分散体を用いることにより実施することができる。上述のように、熱的に安定な界面活性剤の分散体中での存在は、樹脂の分子量を増大させることが可能な反応性の物質の形成、したがってその粘度を制限するのを可能にし、このことは、複合部品中の欠陥の出現を低減させることを意味する。
【0109】
より詳細には、半完成品は、強化繊維を導入し、上述の水性分散体の浴中で強化繊維を循環させることによって得られる。PAEK樹脂を含浸させた繊維は、その後、浴から取り出され、例えば赤外線炉内で乾燥することによって水が除去される。乾燥した含浸繊維を、PAEK樹脂による繊維のコーティングを可能にするために、樹脂が溶融するまで引き続き加熱する。得られたコーティング済み繊維を、半完成品に成形し且つ準じるように、引き続き適切な場合、例えばカレンダ掛けすることによって成形する。
【0110】
好ましくは、本発明による半完成品は、強化繊維を1から99質量%、好ましくは30から90質量%、特に50から80質量%、特に60から70質量%含む。
【0111】
本発明の方法により製造された半完成品は、特に樹脂によって特徴付けられ、その粘度は、樹脂を溶融するためにその製造に必要とされる高温にも関わらず、僅かしか変化していない。
【0112】
本発明の方法により得られる半完成品は、特に、複合部品の製造で使用することができる。
【0113】
複合部品は、例えば最初にプリフォームを製造することによって、特に事前に含浸させた半完成品を金型に入れるか、又はドレープ形成することによって得られる。複合部品は、その後、圧密化によって得られ、その段階の間にプリフォームは例えばオートクレーブ又はプレス内で加熱され圧縮され、溶融によって半完成品が組み立てられるようになる。
【0114】
本発明の方法により製造された複合製品は、特に樹脂によって特徴付けられ、その粘度は、それらの製造に必要な高温にも関わらず僅かしか変化していない。
【0115】
これらの段階中、マトリックスの過度に高くない粘度は、半完成品が実際に金型の形状に一致するのを確実にするために必須である。マトリックスの粘度は、圧密化中の良好な流れを確実にし、したがって皺等の表面欠陥を防止することも可能にする。
【0116】
本発明について、以下に続く実施例でより詳細に説明する。
【実施例
【0117】
(実施例1から実施例3)
半完成品を製造するための方法による粘度の変化
粘度の変化に対する熱サイクルの影響を、PEKK樹脂(Kepstan 7003、Arkema France社により販売)に関して、並びに種々の方法によりこの樹脂及び炭素繊維から製造された半完成品に関して研究した。
【0118】
プリプレグは、Kepstan 7003樹脂を70質量%及び炭素繊維を30質量%含む実験室規模で、一方では溶融経路法に従い、他方では分散経路によって、下記のそれぞれのプロトコールに従い製造した:
【0119】
1)溶融経路による含浸の方法:
炭素繊維粗紡(東邦テナックス株式会社によりHTA40の名称で販売されるエポキシE13適合サイズを有する12K繊維)約8gを、温度耐性アルミニウム接着剤を使用して、ポリイミドシート(宇部興産株式会社により販売されている厚さ50μmのUpilexフィルム)上に位置決めする。
【0120】
炭素繊維粗紡に続き、振動篩を使用してPEKK粉末(Arkema France社によりKepstan 7003の名称で販売されている、Dv50=300μm)20gを均質に振り掛ける。PEKK粉末表面を、引き続き第2のポリイミドシートで覆う。
【0121】
集合体を引き続き、2枚の鋼製シートの間に配置し、375℃で1分間、5bar下でCarverプレス機下に通す。集合体をその後プレス機から取り出し、室温に冷却させる。
【0122】
ポリイミドシートを剥がし、アルミニウム接着剤を切り取った後、溶融経路により調製されたプリプレグが得られる。得られたプリプレグを2つの部分に分ける。
【0123】
2)水性分散体による含浸の方法:
水性界面活性剤溶液を、フラスコに水1000g及びDow社により販売されるTriton(商標)X100(t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール)界面活性剤0.1gを導入することによって調製する。水性溶液を、磁気撹拌子を使用して10分間均質化する。
【0124】
1cmの長さに切断された、サイズ決めされた炭素繊維(HTA40 E13、東邦テナックス株式会社により販売)4gを、その後、徐々に、水性溶液を含有するフラスコ内に、Ultra-Turrax型のホモジナイザで激しく撹拌しながら導入する。得られた分散体を、最終的に10分間均質化する。この段階の終わりに、炭素繊維を均質に粉砕し、水性溶液中に懸濁させる。
【0125】
引き続き、PEKK粉末(Arkema France社によりKepstan 7003の名称で販売される、Dv50=20μm)10gを添加し、得られた混合物を、磁気撹拌子を使用して30分間撹拌する。
【0126】
水を引き続き、90℃の炉内で48時間蒸発させる。
【0127】
界面活性剤及び炭素繊維が添加されたPEKK粉末の均質混合物はこのように得られる。次いでプリプレグを、上述のように375℃及び5bar下で1分間圧縮することにより生成する。
【0128】
溶融経路によって及び水性分散体経路によってそれぞれ生成された2つのプリプレグを、その後、半完成品の圧密化に必要とされるものを再生する熱サイクルに供する。熱サイクルは、窒素でフラッシュしながら375℃の炉内に20分間通すことからなる。
【0129】
PEKK樹脂の重量平均分子量Mwを、引き続き、下記のプロトコールに従い、サイズ排除クロマトグラフィにより測定する:
- 変換されていないPEKK樹脂(実施例1)
- 溶融経路によって得られた試料(実施例2)、及び
- 水性分散体経路により含浸法の場合のように界面活性剤と接触させた試料(実施例3)。
【0130】
実施例2及び実施例3では、測定は、熱サイクルの前及び後で試料に関して実施する。
【0131】
試料約30mgを、4-クロロフェノール1ml中に導入し、150℃で24時間撹拌する。溶液を室温に冷却した後、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)14mlを添加し、次いで溶液を、直径25mm及び多孔度0.2μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜を含むAcrodisc型のシリンジフィルターに通して濾過する。
【0132】
試料中の樹脂の分子量を、下記の条件を使用して、Waters Alliance 2695型の機器を用いてサイズ排除クロマトグラフィにより決定する:
【0133】
流量: 1.00ml/分。溶離液: HFIP。注入される体積: 100.00μl。PSS PFG(1000+100Å)230cmカラムの設定。温度40℃。検出方法:示差屈折計。較正:各分析系列中に最新のものにされる、402g/molから1900000g/molの分子量範囲を持つPMMA。
【0134】
可溶物の含量は、一方では分析された試料と、他方では同じ濃度で調製され且つ同じ量でクロマトグラフィデバイス内に注入される可溶性参照化合物との間の、クロマトグラムの面積の比によって測定される。次いで不溶物の含量は、炭素繊維の含量と不溶性ポリマーの含量とからなる。次いで不溶性ポリマーの含量のみを得るために、炭素繊維の含量を差し引くのに注意が払われることになる。
【0135】
結果を、以下の表1にまとめる。
【0136】
表1の結果は、分散経路で必要に応じて界面活性剤を含有する試料中の樹脂の重量平均分子量Mwの変化が、溶融経路により製造された半完成品の場合の2倍よりも大きいことを実証する。
【0137】
更に、分散経路により実施される実施例3では、不溶物の割合の有意な増大が示され、これは実験条件下でもはや溶解することができない点までポリマーの一部が変性した兆候である。
【0138】
【表1】
【0139】
(実施例4から実施例12)
炭素繊維の性質による粘度の変化
粘度の変化に対する熱サイクルの影響を、種々の製造業者から得られる、サイズ決めされた又はサイズ決めされていない炭素繊維を含有する試料に関して研究した。ここで使用される繊維は、下記の通りである:
- HexTow AS4繊維、Hexcel社により販売(サイズ決めされていない)、
- HexTow AS4D繊維、Hexcel社により販売(サイズ決めされていない)、
- Tenax HTS45 P12繊維、東邦テナックス株式会社により販売(熱可塑性適合サイズを有する)、
- Tenax HTA40 E13繊維、東邦テナックス株式会社により販売(エポキシ適合サイズを有する)。
【0140】
PEKK樹脂とこれら炭素繊維との混合物を、下記のプロトコールに従い製造した。
【0141】
PEKK樹脂粉末(Kepstan 7002、Arkema France社により販売、Dv50=20μm)2gの量を、乳鉢内に導入する。試料の合計質量に対して14%、28%、及び43質量%の、長さ0.5cmに切断された繊維の量を、添加する。
【0142】
機械式混合を、樹脂中の繊維のぬれ性及び良好な分散を助けるのを可能にする数滴の水の存在下、乳鉢内で実施する。このように生成された混合物を、引き続き120℃で12時間、真空乾燥する。その後、粘度を各試料ごとに、平板/平板レオメータで、時間の関数として窒素下(1Hz)で375℃で、20分間測定する。半完成品を圧密化するのに必要とされるものを再生する熱サイクルの影響下、粘度の変化(単位%)を、開始する瞬間に測定された粘度の値と20分間の試験後の粘度の値とを比較することによって評価することができる。
【0143】
生成された種々の混合物に関する結果を、以下の表2にまとめる。
【0144】
【表2】
【0145】
表2の結果は、炭素繊維の存在が、PAEK樹脂の粘度変化に著しい影響を及ぼすことを実証する。更に、この影響は、用いられる繊維の性質に応じて非常にばらつきがあることに留意されたい。特に、非サイズ繊維は、サイズ繊維と比較してその影響が低減したことがわかる。最後に、サイズ繊維の中で、一部のサイズはPAEK樹脂の粘度に対して非常に有害な影響を及ぼす可能性があることに留意されたい。
【0146】
その結果、熱処理後の、粘度の増大と外因的物質の存在との間の関連を、この研究から推測することができる。更に、好ましくは非サイズ繊維の使用に利点があると結論付けられる。
【0147】
(実施例13~21)
界面活性剤の熱安定性の評価
重量平均分子量Mwの変化に対する熱サイクルの影響を、種々の界面活性剤に対するPEKK樹脂(Kepstan 7002、Arkema France社により販売)に関して研究した。
【0148】
試料を、下記のプロトコールに従い製造した。
【0149】
水性界面活性剤溶液を、水1000g及び界面活性剤0.1gもフラスコに導入することによって調製する。水性溶液を、磁気撹拌子を使用して10分間均質化する。その後、PEKK粉末(Arkema France社によりKepstan 7002の名称で販売される、Dv50=20μm)10gを添加し、得られた混合物を、磁気撹拌子を使用して30分間撹拌する。水を引き続き90℃の炉内で48時間蒸発させる。界面活性剤が添加されたPEKK粉末の均質混合物が、このように得られる。
【0150】
種々の実施例を、以下に示す界面活性剤を用いて調製する。
- 界面活性剤Cremophor(登録商標)A25(エトキシル化C16~C18アルコール)、BASF社により販売。
- 界面活性剤Brij(登録商標)S 100(エトキシル化ステアリルアルコール)、Sigma-Aldrich社により販売。
- 界面活性剤Lanphos PE35(イソトリデシルアルコールエトキシル化リン酸エステル)、Lankem社により販売、ここでは「Lanphos PE35Na」として示される水酸化ナトリウムによって中和された形態で使用する。
- 界面活性剤Agrosurf DIS145(ナフタレンスルホン酸ナトリウムとホルムアルデヒドとの縮合物)、Lankem社により販売。
- 界面活性剤Triton(商標)X100(t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール)、Dow社により販売。
- 界面活性剤Triton(商標)GR-7ME(芳香族炭化水素に溶解したスルホコハク酸ジオクチル)、Dow社により販売。
【0151】
調製した試料の一部を使用して、実施例3に記述されるように、熱サイクルの前後にPEKK樹脂の重量平均分子量Mwを測定する。結果を、以下の表3にまとめる。
【0152】
【表3】
【0153】
上記表3の結果は、PAEK樹脂の粘度の変化に対する、界面活性剤の選択の著しい影響を実証する。
【0154】
特に、界面活性剤Lanphos PE35Na及びAgrosurf DIS145は、試験条件下でPEKKと共にあるとき熱的に安定であるが、それは樹脂の重量平均分子量Mwが、375℃で20分の熱サイクル後に20%未満増大するからであることに留意されたい。
【0155】
一方、試験をした界面活性剤Cremophor(登録商標)A25、Brij(登録商標)S 100、Triton(商標)GR-7ME、及びTriton(商標)X100は、樹脂の重量平均分子量Mwが30%増大し、実際に最大70%増大するので、この試験を満足させない。
【0156】
このように、界面活性剤Triton(商標)X100と共に実施された実施例18の重量平均分子量Mwの変化は、界面活性剤PE35Na及びDIS145を使用してそれぞれ実施された実施例16及び17の試料に関して測定されたものよりも、非常に有意に大きい。
【0157】
上記にて示された事実は、界面活性剤の性質が、複合部品を得るために、半完成品の圧密化に必要とされる代表的な熱サイクルに供される、PAEK樹脂の粘度及び重量平均分子量Mwの変化を制御する際の有意な要因を構成することを示す。
【0158】
(実施例20~22)
界面活性剤による粘度の変化
重量平均分子量Mwの変化に対する、熱サイクルの影響を、Hexcel社により販売された非サイズAS4D炭素繊維の存在下、種々の界面活性剤を用いたPEKK樹脂(Kepstan 7002、Arkema France社により販売)に関して研究した。
【0159】
試料を、以下に示す界面活性剤と共に、上記実施例3のプロトコールに従い製造した。
- 界面活性剤Cremophor(登録商標)A25、BASF社により販売。
- 界面活性剤Lanphos PE35Na、Lankem社により販売。
【0160】
調製された試料の一部を熱サイクルに供し、試料のPEKK樹脂の重量平均分子量Mwを、実施例3に記述されるように熱サイクルの前後に測定する。
【0161】
結果を、以下の表4にまとめる。
【0162】
【表4】
【0163】
表4の結果は、PAEK樹脂の粘度の変化に対する、界面活性剤の選択の著しい影響を実証する。
【0164】
これは界面活性剤PE35NaがPEKKと共にあるとき、界面活性剤Cremophor(登録商標)A25よりも、試験条件下でより安定だからである。界面活性剤Cremophor(登録商)A25と共に実施される実施例21の重量平均分子量Mwの変化は、界面活性剤PE35Naを使用して実施される実施例22の試料で測定されたものよりも、非常に有意に大きい。
【0165】
更に、不溶物の有意な割合は、試料中で、実験プロトコールにより溶解することができないポリマーの存在を反映することに留意されたい。
【0166】
上述の研究の全てから、界面活性剤の性質は、複合部品を得るために、半完成品の圧密化に必要とされる代表的な熱サイクルに供される、PAEK樹脂の粘度及び重量平均分子量Mwの変化に関する本質的な要因を構成することがわかる。
【0167】
それにも関わらず、この影響は、界面活性剤の適切な選択によって実質的に緩和させることができる。特に、PAEKポリマーの融点で熱的に安定な界面活性剤の使用は、反応性物質の形成を制限するのを可能にする。
【0168】
更に、適切な強化繊維、サイズ又は非サイズの選択も、粘度の増大を低減させるのを可能にする。
【0169】
したがって本発明の方法による半完成品を製造中の、熱的に安定な界面活性剤の使用は、PAEK樹脂の粘度を保持しながら、半完成品から得られた複合部品の良好な品質を確実にするのを可能にする。