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特許7201616リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20221227BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221227BHJP
   C01B 32/205 20170101ALI20221227BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/36 A
C01B32/205
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019560527
(86)(22)【出願日】2018-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2018046743
(87)【国際公開番号】W WO2019124425
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2017246208
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219576
【氏名又は名称】東海カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 俊輝
(72)【発明者】
【氏名】増田 佳穂
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-158005(JP,A)
【文献】特開2017-126426(JP,A)
【文献】国際公開第2012/017676(WO,A1)
【文献】特開2014-060124(JP,A)
【文献】特開2012-094505(JP,A)
【文献】特開2017-063040(JP,A)
【文献】特表2014-528631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/587
H01M 4/36
C01B 32/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の扁平状黒鉛粒子が球状に凝集した黒鉛粒子球状凝集体の集合物からなるリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法であって、
(a)生ニードルコークスまたは仮焼ニードルコークスと有機バインダーとを混合して造粒物を得る工程と、
(b)前記造粒物または当該造粒物を500~1500℃で加熱し炭素化して得られた造粒炭素化物を黒鉛化触媒の不存在下に2000~3000℃で黒鉛化処理して黒鉛化処理物を得る工程とを
施すことにより、
前記扁平状黒鉛粒子が、生ニードルコークスまたは仮焼ニードルコークスを構成する扁平状粒子の黒鉛化物からなり、
前記黒鉛粒子球状凝集体の集合物として、
(i)黒鉛粒子球状凝集体の平均円形度が0.900以上であり、
(ii)体積基準積算粒度分布における積算粒度で10%の粒径D10に対する体積基準積算粒度分布における積算粒度で90%の粒径D90の比が2.0~3.5であり、
(iii)黒鉛粒子球状凝集体を構成する黒鉛のc軸方向の結晶子サイズLc(004)が40nm~100nmであり、
(iv)走査型電子顕微鏡により観察したときに、円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体において、最表面に観察される最大の扁平状黒鉛粒子の円相当径が2μm~12μmである黒鉛粒子球状凝集体の割合が個数基準で80%以上である
ものを得る
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極材およびリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話、パソコン等の多くの機器に搭載され、高容量で、高電圧、小型軽量である点から多様な分野で利用されるようになっている。
【0003】
近年、リチウムイオン二次電池は、車載用途の需要が急激に高まっており、車載用に求められる特性としては、高容量で、高寿命かつ高入出力であり、かつこれらの特性のバランスに優れていることが求められている。このため、エネルギー密度が高くかつ膨張収縮が小さい負極材が必要とされ、これらの特性を満たす負極材として黒鉛粒子製のものが広く利用されるようになっている。
【0004】
リチウムイオン二次電池用負極材の構成材料として黒鉛粒子を利用する場合、黒鉛粒子の結晶性が高いほど高容量であり、粒子の膨張収縮を抑制することで高寿命となることが一般的に知られている。
重量当たりの容量特性は結晶性の高い天然黒鉛が優れるが、一方で黒鉛層間へのリチウムイオンの挿入による膨張収縮がc軸方向に偏り、高密度な負極の場合、内部の破壊が生じ易く、寿命特性が低下し易くなる。
このため、容量と寿命特性の両立が重視される車載用途では人造黒鉛からなる負極材の利用が検討されるようになっている。
【0005】
このような特性を有するリチウムイオン二次電池用負極材として、 特許文献1(特許第5162093号公報)には、石油系生コークス(非針状(非ニードル)コークス)を粉砕し、黒鉛化処理した黒鉛材料からなるリチウムイオン二次電池用負極材が開示されており、係る負極材を用いることにより、初期効率および放電容量に優れたリチウムイオン二次電池が得られるとされている。
【0006】
また、特許文献2(特許第3213575号公報)には、コークス粉末を炭化ケイ素等の黒鉛化触媒の存在下に焼成処理した後、粉砕処理することにより、扁平状の粒子が複数、配向面が非平行になるように集合または結合した不定形状の黒鉛材料からなるリチウムイオン二次電池用負極材が開示されており、係る負極材を使用することにより、サイクル特性および急速充放電特性に優れたリチウムイオン二次電池が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5162093号公報
【文献】特許第3213575号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、リチウムイオン二次電池用負極材は、電池に組み込む際に、一般に結着材と混合した状態で集電体となる銅箔状に塗布、乾燥、プレスして電極としているが、本発明者等が検討したところ、特許文献1記載のリチウムイオン二次電池用負極材は、黒鉛化後の粒子が硬く、プレス時に殆ど変形しないため、極板密度が低くなり、エネルギー密度が小さくなってしまうことが判明した。
【0009】
また、本発明者等が検討したところ、特許文献2に記載のリチウムイオン二次電池用負極材は、電池に組み込む際に一定以上のプレス圧を加えると潰れすぎてしまい、負極材内部で粒子が変形し非平行であった一次粒子の配向面が揃うばかりか、黒鉛粒子間の電解液流路が塞がって負極全体の抵抗が増加してしまうことが判明した。
【0010】
上述したように、リチウムイオン二次電池としては、高容量で、高寿命なものが求められるようになっているが、人造黒鉛を用いた負極材においては、高エネルギー密度化して放電容量を向上させるために一定以上の極板密度が必要であり、なおかつサイクル特性(寿命特性)を向上させるために負極材を構成する黒鉛の配向が非平行であることが望まれる。そのため、電極を形成するためにプレス処理したときに、黒鉛粒子が一定以上の密度に到達するよう変形しつつも、電解液流路を保持し、黒鉛の配向が非平行であることを維持し得る十分な強度を有するものが求められる。
【0011】
このような負極材を構成し得る黒鉛粒子として、その粒子形態が特定形状に制御されたものが考えられたが、従来、黒鉛粒子の形態はレーザー回折粒度分布測定装置によって平均粒径を評価する程度のことしか行われておらず、粒子形態を特定形状に制御しつつ、その形状を特定する手法自体が十分に確立していなかった。
【0012】
このような状況下、本発明は、電極形成時にプレス処理したときに、黒鉛粒子が一定以上の密度に到達するよう変形しつつも、電解液流路を保持し、黒鉛の非平行な配向も維持し得る十分な強度を有する特定の形態を有することにより、高電極密度化および放電容量の向上が可能であるとともに、サイクル特性(寿命特性)に優れるリチウムイオン二次電池用負極材およびリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記知見の下、本発明者等がさらに検討したところ、複数の扁平状黒鉛粒子が球状に凝集した黒鉛粒子球状凝集体の集合物からなるリチウムイオン二次電池用負極材であって、当該黒鉛粒子球状凝集体の集合物は、(i)平均円形度が0.900以上であり、(ii)体積基準積算粒度分布における積算粒度で10%の粒径D10に対する体積基準積算粒度分布における積算粒度で90%の粒径D90の比が2.0~3.5であり、(iii)結晶子サイズLc(004)が40nm~100nmであり、(iv)走査型電子顕微鏡により観察したときに、円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体において、最表面に観察される最大の扁平状黒鉛粒子の円相当径が2μm~12μmである黒鉛粒子球状凝集体の割合が個数基準で80%以上であるリチウムイオン二次電池用負極材により、上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は
(1)複数の扁平状黒鉛粒子が球状に凝集した黒鉛粒子球状凝集体の集合物からなるリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法であって、
(a)生ニードルコークスまたは仮焼ニードルコークスと有機バインダーとを混合して造粒物を得る工程と、
(b)前記造粒物または当該造粒物を500~1500℃で加熱し炭素化して得られた造粒炭素化物を黒鉛化触媒の不存在下に2000~3000℃で黒鉛化処理して黒鉛化処理物を得る工程とを
施すことにより、
前記扁平状黒鉛粒子が、生ニードルコークスまたは仮焼ニードルコークスを構成する扁平状粒子の黒鉛化物からなり、
前記黒鉛粒子球状凝集体の集合物として、
(i)黒鉛粒子球状凝集体の平均円形度が0.900以上であり、
(ii)体積基準積算粒度分布における積算粒度で10%の粒径D10に対する体積基準積算粒度分布における積算粒度で90%の粒径D90の比が2.0~3.5であり、
(iii)黒鉛粒子球状凝集体を構成する黒鉛のc軸方向の結晶子サイズLc(004)が40nm~100nmであり、
(iv)走査型電子顕微鏡により観察したときに、円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体において、最表面に観察される最大の扁平状黒鉛粒子の円相当径が2μm~12μmである黒鉛粒子球状凝集体の割合が個数基準で80%以上である
ものを得る
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造方
提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池用負極材が、特定の結晶子サイズを有する扁平状黒鉛粒子が複数凝集してなり、走査型電子顕微鏡により観察したときに、一定の円相当径を有する扁平状黒鉛粒子が最表面に観察される球形度の高い黒鉛粒子球状凝集体を狭い粒度分布で含む集合物からなる。このため、電極を形成するためにプレス処理したときに好適に加圧処理されて高密度化を容易に図ることができるとともに、一定の抵抗力を発揮して扁平状黒鉛の非平行な配向を維持し得る優れた強度を発揮し、かつ黒鉛粒子球状凝集体間に電界液流路として好適な隙間を容易に形成することができる。
【0016】
従って、本発明によれば、高電極密度化による放電容量の向上および極板の高配向化によるサイクル特性(寿命特性)の向上が可能な、電解液の通液性に優れたリチウムイオン二次電池用負極材を提供することができるとともに、上記リチウムイオン二次電池用負極材を簡便に製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例および比較例で得られた黒鉛粉末を用いたボタン型リチウムイオン二次電池の構造を説明するための垂直断面図である。
図2】本発明の実施例で得られた黒鉛粒子球状凝集体の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図3】本発明の実施例で得られた黒鉛粒子球状凝集体の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図4】本発明の実施例で得られた黒鉛粒子球状凝集体の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図5】本発明の実施例で得られた黒鉛粒子球状凝集体の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図6】本発明の比較例で得られた黒鉛粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図7】本発明の比較例で得られた黒鉛凝集粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図8】本発明の比較例で得られた炭素質粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材は、複数の扁平状黒鉛粒子が球状に凝集した黒鉛粒子球状凝集体の集合物からなるリチウムイオン二次電池用負極材であって、当該黒鉛粒子球状凝集体の集合物は、(i)平均円形度が0.900以上であり、(ii)体積基準積算粒度分布における積算粒度で10%の粒径D10に対する体積基準積算粒度分布における積算粒度で90%の粒径D90の比が2.0~3.5であり、(iii)結晶子サイズLc(004)が40nm~100nmであり、(iv)走査型電子顕微鏡により観察したときに、円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体において、最表面に観察される最大の扁平状黒鉛粒子の円相当径が2μm~12μmである黒鉛粒子球状凝集体の割合が個数基準で80%以上であることを特徴とするものである。
【0019】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材は、複数の扁平状黒鉛粒子が球状に凝集した黒鉛粒子球状凝集体の集合物からなるからなる。
【0020】
図2は、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材を構成する扁平状黒鉛粒子が複数凝集してなる黒鉛粒子球状凝集体の一例の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図2の左側および右側に示すSEM画像は同一のものであり、図2の右側に示すSEM画像は、中央部に示される黒鉛粒子球状凝集体の外周を白色の外形線で囲うとともに、黒鉛粒子球状凝集体の最表面に確認できる扁平状黒鉛粒子のうち最大の粒子の外周を白色の外形線で囲うものである。
【0021】
図2から明らかなように、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材を構成する黒鉛粒子球状凝集体は、扁平状黒鉛粒子が複数凝集して球形状を成すものであり、同図に示すように、扁平状黒鉛粒子が配向面が非平行になるように複数凝集して球形状を成している。
【0022】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、黒鉛粒子球状凝集体を構成する扁平状黒鉛粒子は、レーザー回折粒度分布測定装置を用いて体積基準積算粒度分布を測定したときの積算粒度50%の平均粒子径(D50)が、4μm~20μmであるものが好ましく、5μm~15μmであるものがより好ましく、6μm~12μmであるものがさらに好ましい。
【0023】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、扁平状黒鉛粒子の平均粒子径が上記範囲内にあることにより、球状化し易くなり所望形状を有する黒鉛粒子球状凝集体を容易に形成し得るとともに、電極形成時に電極密度が向上し、エネルギー密度が増大し易くなる。
【0024】
なお、扁平状黒鉛粒子の平均粒子径が上記範囲内にあり、更に走査型電子顕微鏡により観察したときに、円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体において、最表面に観察される最大の扁平状黒鉛粒子の円相当径が2μm~12μmである黒鉛粒子球状凝集体の割合が個数基準で80%以上である場合、負極材としたときに、内部での電解液流路が広がり、高速充電時にも放電容量を容易に保持することができる。また、接触点が増加して充放電時の膨張収縮による通電パス切れが起こり難くなり、サイクル特性をより向上させ易くなる。
【0025】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、上記扁平状黒鉛粒子は、生ニードルコークスまたは仮焼ニードルコークスを構成する扁平状粒子の黒鉛化物であることが好ましい。具体的には、生ニードルコークスまたは仮焼ニードルコークスの粉砕物を黒鉛化してなるものや、生ニードルコークスまたは仮焼ニードルコークスの黒鉛化物を粉砕してなるものを挙げることができる。
【0026】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、上記扁平状黒鉛粒子が、生ニードルコークスまたは仮焼ニードルコークスを構成する扁平状粒子の黒鉛化物であることにより、所望形状を有する黒鉛粒子球状凝集体を容易に形成することができる。
生ニードルコークスまたは仮焼ニードルコークスの詳細については後述する。
【0027】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、黒鉛粒子球状凝集体は、扁平状黒鉛粒子が凝集してなるものである。
ここで、扁平状黒鉛粒子が凝集しているとは、扁平状黒鉛粒子同士が相互に化学的な相互作用によってまたは有機バインダーの黒鉛化物等を介して凝集しており、走査型電子顕微鏡観察による測定に供したときに測定前後で凝集状態を維持し得る程度の強度を有することを意味する。
【0028】
また、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、黒鉛粒子球状凝集体は、配向面が非平行なものであり、ここで扁平状黒鉛粒子の配向面の非平行の度合いはプレス前極板配向比によって表すことができ、上記プレス前極板配向比が、0.1以上であることが好ましく、0.15以上であることがより好ましく、0.2以上であることがさらに好ましい。
【0029】
黒鉛粒子球状凝集体のプレス前極板配向比が上記範囲内にあることにより、黒鉛粒子球状凝集体を構成する各扁平状黒鉛粒子の配向面の配向方向がランダムとなり、電極材に使用したときに電池充電時の膨張方向が均一で優れた寿命特性を容易に発揮することができる。
【0030】
なお、本出願書類において、プレス前極板配向比とは、黒鉛粒子球状凝集体の集合物から下記(1)記載の方法で作製されるプレス処理前の電極シートを下記(2)記載のX線回折法により測定して得られる、炭素(004)面に由来するピーク強度I(004)に対する炭素(110)面に由来するピーク強度I(110)(ピークの強度比I(110)/I(004))を意味する。
【0031】
(1)電極シートの作製方法
黒鉛粒子球状凝集体90重量%に対し、N-メチル-2ピロリドンに溶解した有機系結着材ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を固形分で10重量%加えて攪拌混合し、負極合材ペーストを調製する。
得られた負極合材ペーストを厚さ18μmの銅箔(集電体)上にドクターブレードで塗布した後、真空中で130℃に加熱して溶媒を完全に揮発させ、目付量が15.0±0.4mg/cmである電極シートを得る(なお、ここで目付量とは、電極シートの単位面積当たりの黒鉛粒子球状凝集体の重量を意味する)。
【0032】
(2)極板配向比の測定
(1)で得られた電極シートを両面テープでガラス板上に固定し、X線回折装置((株)リガク製UltimaIV)にてグラファイトモノクロメーターで単色化したCuKα線を用い、広角X線回折曲線を測定した。スリットおよび計測条件は次の通りである。なお、2θは回折角を表す。
【0033】
スリット : 発散スリット=2/3度、受光スリット=0.15mm、散乱スリット=2/3度
測定範囲及びステップ角度/計測時間:
(110)面 :76.0度≦2θ≦79.0度 0.01度/3秒
(004)面 :53.0度≦2θ≦56.0度 0.01度/3秒
得られたチャートについて、プロファイル関数として分割擬Voigt関数を用いてフィッティングすることでピーク分離を行ない、(110)面と(004)面のピークの積分強度を算出した。次いで、(110)面の回折強度と(004)面の回折強度の比(極板配向比I(110)/I(004))を求める。上記測定を5回繰り返したときの算術平均値をプレス前極板配向比とする。
【0034】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、黒鉛粒子球状凝集体は、扁平状黒鉛粒子が凝集してなるものであることにより、二次電池のサイクル特性(電池寿命)を容易に向上させることができる。
【0035】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、黒鉛粒子球状凝集体は、扁平状黒鉛粒子が3個以上凝集してなるものであることが好ましい。
【0036】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、黒鉛粒子球状凝集体の集合物は、平均円形度が、0.900以上であり、0.910以上であることが好ましく、0.915以上であることがより好ましい。
黒鉛粒子球状凝集体の集合物における平均円形度が0.900以上であることにより電極密度を高めることができ、高電極密度時でも構成する扁平状黒鉛粒子の配向面を非平行のまま維持することができる。
【0037】
本出願書類において、黒鉛粒子球状凝集体の集合物における平均円形度は、以下の方法で求めた値を意味する。
すなわち、黒鉛粒子球状凝集体粉末約20mgを、フロー式粒子像分析装置(スペクトリス(株)製FPIA-3000)の標準撮像ユニットを用いてLPF測定モードにて測定する。次いで、各黒鉛粒子球状凝集体の投影面積を円換算した上で、円相当径8μm~160μmの1万~5万個の黒鉛粒子球状凝集体に対し、Wadellの式により各々「黒鉛粒子球状凝集体の投影面積と等しい面積を有する円の周囲長/黒鉛粒子球状凝集体投影像の周囲長」を求めたときの算術平均値を意味する。
【0038】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、黒鉛粒子球状凝集体の集合物における平均円形度が0.900以上であることにより、球形度に優れ、電極を形成するためにプレス処理されたときに加圧力に対して一定の抵抗力を発揮して、黒鉛粒子球状凝集体が一定以上の密度に到達するよう変形しつつも、電解液流路を保持し、黒鉛粒子球状凝集体を構成する扁平状黒鉛の非平行な配向を保持し得る十分な強度を発揮することができる。
【0039】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、黒鉛粒子球状凝集体の集合物は、体積基準積算粒度分布における積算粒度で10%の粒径(D10)が、4μm~18μmであることが好ましく、6μm~16μmであることがより好ましく、8μm~14μmであることがさらに好ましい。
黒鉛粒子球状凝集体の集合物のD10が上記範囲内にあることにより、電極材として使用したときに良好な初期充放電効率を容易に発揮することができる。
【0040】
また、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、黒鉛粒子球状凝集体の集合物は、体積基準積算粒度分布における積算粒度で50%の粒径(D50)が、6μm~40μmであることが好ましく、8μm~35μmであることがより好ましく、10μm~30μmであることがさらに好ましい。
黒鉛粒子球状凝集体の集合物のD50が上記範囲内にあることにより、電極材として使用したときに良好な初期充放電効率や高速充電性を容易に発揮することができる。
【0041】
さらに、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、黒鉛粒子球状凝集体の集合物は、体積基準積算粒度分布における積算粒度で90%の粒径(D90)が、14μm~50μmであることが好ましく、16μm~45μmであることがより好ましく、18μm~40μmであることがさらに好ましい。
黒鉛粒子球状凝集体の集合物のD90が上記範囲内にあることにより、電極材として使用したときに電界液の拡散パスが短くなり優れた高速充電性を容易に発揮することができる。
【0042】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、黒鉛粒子球状凝集体の集合物は、体積基準積算粒度分布における積算粒度で10%の粒径(D10)に対する体積基準積算粒度分布における積算粒度で90%の粒径(D90)の比(D90/D10)が、2.0~3.5であり、2.0~3.0であることが好ましく、2.0~2.7であることがより好ましい。
黒鉛粒子球状凝集体の集合物におけるD90/D10が上記範囲内にあることにより、電極塗工用のスラリーにおける凝集が減少し、バインダーと集電体の結着性が改善され、サイクル特性が向上する。
【0043】
また、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、黒鉛粒子球状凝集体の集合物の粒径分布指数(SPAN)は、下記式により算出される値を意味する。
【0044】
SPAN=(D90-D10)/D50
ただし、D90は体積基準積算粒度分布における積算粒度で90%の粒径、D50は体積基準積算粒度分布における積算粒度で50%の粒径、D10は体積基準積算粒度分布における積算粒度で10%の粒径を意味する。
【0045】
上記粒径分布指数(SPAN)が、0.5~1.4であることが好ましく、0.5~1.2であることがより好ましく、0.5~1.0であることがさらに好ましい。
【0046】
黒鉛粒子球状凝集体の集合物におけるSPANが上記範囲内にあることにより、電極塗工用のスラリー中における凝集が効果的に減少し、バインダーと集電体の結着性が容易に改善され、電極材として使用したときにサイクル特性を容易に向上させることができる。
【0047】
本出願書類において、黒鉛粒子球状凝集体の集合物における体積基準積算粒度分布において、積算粒度で10%の粒径(D10)、積算粒度で50%の粒径(D50)、積算粒度で90%の粒径(D90)は、レーザー回折粒度分布測定装置を用いて算出される値を意味する。
【0048】
具体的には、黒鉛粒子球状凝集体粉末約20mgを界面活性剤を添加した純水中に超音波分散した状態で、レーザー回折粒度分布測定装置((株)島津製作所製SALD-2100)を用いて体積基準積算粒度分布を測定したときに求められる、体積基準積算粒度分布における積算粒度で10%の粒径(D10)、体積基準積算粒度分布における積算粒度で50%の粒径(D50)および体積基準積算粒度分布における積算粒度で90%の粒径(D90)を意味する。
【0049】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、黒鉛粒子球状凝集体の集合物におけるD90/D10や粒径分布指数(SPAN)が上記範囲内にあることにより、粒度分布に優れ、電極を形成するためにプレス処理されたときに、黒鉛粒子球状凝集体が一定以上の密度に到達するよう変形しつつも、電解液流路を保持し、極板高密度化時の高速充電性を維持することができる。
【0050】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、黒鉛粒子球状凝集体を構成する黒鉛のc軸方向の結晶子サイズLc(004)は、40nm~100nmであり、40nm~90nmであることが好ましく、40nm~80nmであることがより好ましい。
【0051】
黒鉛粒子球状凝集体を構成する黒鉛のc軸方向の結晶子サイズLc(004)が上記範囲内にあることにより、電極を形成するためにプレス処理されたときに、加圧力に対して一定の抵抗力を発揮して、黒鉛粒子球状凝集体が一定以上の密度に到達するよう変形しつつも、電解液流路を保持し、黒鉛粒子球状凝集体を構成する扁平状黒鉛の非平行な配向を保持し得る強度を容易に発揮することができる。
【0052】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、黒鉛粒子球状凝集体を構成する黒鉛の層間距離d002は、0.3350nm~0.3380nmが好ましく、0.3355nm~0.3370nmがより好ましく、0.3355nm~0.3365nmがさらに好ましい。
【0053】
黒鉛粒子球状凝集体を構成する黒鉛の層間距離d002が上記範囲内にあることにより、電極を形成するためにプレス処理されたときに、加圧力に対して一定の抵抗力を発揮して、黒鉛粒子球状凝集体が一定以上の密度に到達するよう変形しつつも、電解液流路を保持し、黒鉛粒子球状凝集体を構成する扁平状黒鉛の非平行な配向を保持し得る強度を容易に発揮することができる。
【0054】
本出願書類において、黒鉛粒子球状凝集体を構成する黒鉛のc軸方向の結晶子サイズLc(004)は、X線回折装置を用いて学振法によって算出される値を意味し、また、本出願書類において、黒鉛粒子球状凝集体を構成する黒鉛の層間距離d002も、X線回折装置を用いて学振法によって算出される値を意味する。
【0055】
具体的には、上記黒鉛の層間距離d002とc軸方向の結晶子サイズLc(004)は、X線回折装置((株)リガク製UltimaIV)を用い、Cu-Kα線をNiフィルターで単色化したX線を使用して、高純度シリコンを標準物質として粉末X線回折法で測定を行い、得られた炭素(004)面の回折ピークの強度と半値幅より、日本学術振興会第117委員会によって定められた学振法に従って求めた値を意味する。
【0056】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、黒鉛粒子球状凝集体の集合物は、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したときに、円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体において、最表面に観察される最大の扁平状黒鉛粒子の円相当径が2μm~12μmである黒鉛粒子球状凝集体の割合が個数基準で80%以上であるものであり、85%以上であるものが好ましく、90%以上であるものがより好ましい。
このように、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材は、上記円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体における、最表面に観察される最大の扁平状黒鉛粒子の円相当径が2μm~12μmである黒鉛粒子球状凝集体の割合により規定されるものであるが、上記円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体における、最表面に観察される最大の扁平状黒鉛粒子の円相当径が4μm~12μmである黒鉛粒子球状凝集体の割合により代替することもできる。この場合、上記円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体における、最表面に観察される最大の扁平状黒鉛粒子の円相当径が4μm~12μmである黒鉛粒子球状凝集体の割合は、個数基準で80%以上であるものが好ましく、85%以上であるものが好ましく、90%以上であるものがより好ましい。
【0057】
黒鉛粒子球状凝集体の最表面に観察される最大の扁平状黒鉛粒子の円相当径が上記範囲内にあることにより、負極材としたときに、内部での電解液流路が広がり、高速充電時にも放電容量を容易に保持することができる。また、接触点が増加して充放電時の膨張収縮による通電パス切れが起こり難くなり、サイクル特性がより向上する。
【0058】
本出願書類において、円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体において、走査型電子顕微鏡により最表面に観察される最大の扁平状黒鉛粒子の円相当径が2μm~12μmである黒鉛粒子球状凝集体の割合(小粒子存在割合(%))は以下の手順により算出される。
また、本出願書類において、円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体において、走査型電子顕微鏡により最表面に観察される最大の扁平状黒鉛粒子の円相当径が4μm~12μmである黒鉛粒子球状凝集体の割合(小粒子存在割合(%))も、以下に示す手順と同様の方法により、以下に示す最表面に観察される最大の扁平状黒鉛粒子の円相当径が2μm~12μmである黒鉛粒子球状凝集体個数に代えて、最表面に観察される最大の扁平状黒鉛粒子の円相当径が4μm~12μmである黒鉛粒子球状凝集体個数を用いて算出することができる。
【0059】
試料台上に固定した黒鉛粒子球状凝集体粉末を、走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製JSM-6340F)を用い、加速電圧10kV、観察倍率1000倍、作動距離(working distance, WD)25mm、二次電子の検出に下方二次電子検出器を用いて観察する。得られたSEM像を画像解析ソフト(三谷商事(株)製 WinROOF)で読み込み、任意形状選択ツールを用いて、黒鉛粒子球状凝集体の外周部を(図2の右側図において、中央部に示される黒鉛粒子球状凝集体の外周を囲う線として示すように)領域選択して粒子面積を求める。次いで、選択された領域(粒子面積)と同じ面積を持つ円の直径を円相当径として求める。
【0060】
また、円相当径が10μm以上の黒鉛粒子球状凝集体を任意に500粒子選択する。次いで、各黒鉛粒子球状凝集体の最表面に確認できる扁平状黒鉛粒子のうち最大の粒子の外周部を(図2の右側図において、中央部に示される黒鉛粒子球状凝集体を構成する扁平状黒鉛粒子の外周を囲う線として示すように)任意形状選択ツールを用いて領域選択する。
その後、選択された領域(粒子面積)と同じ面積を持つ円の直径を円相当径として求め、下記式により上記小粒子存在割合(個数基準の算術平均値:%)を算出する。
【0061】
小粒子存在割合(%)=最表面に観察される最大の扁平状黒鉛粒子の円相当径が2μm~12μmである黒鉛粒子球状凝集体個数/500(円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体の総個数)
【0062】
上記小粒子存在割合が80%以上であることにより、表面に所望の凹凸を有する黒鉛粒子球状凝集体の存在割合が高くなり、電極形成時にプレス処理したときに一定以上の密度に到達するように変形しつつも所望の電解液流路を形成し易いことから、高電極密度化が可能で放電容量を向上し得るとともに、高い電解液の通液性を発揮して高速充電特性に優れるリチウムイオン二次電池用負極材を容易に提供することができる。
【0063】
なお、円相当径が10μm以上の黒鉛粒子球状凝集体において、最表面に観察される最大の扁平状黒鉛粒子とは、走査型電子顕微鏡観察(SEM)による測定に供したときに測定前後で剥がれを生じることなく凝集状態を維持し得る程度の強度を有するものを意味する。
【0064】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、黒鉛粒子球状凝集体の集合物中に含まれる、走査型電子顕微鏡により観察したときに、円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体の個数割合は、50~100%であることが好ましく、55~95%であることがより好ましく、60~90%であることがさらに好ましい。
【0065】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、黒鉛粒子球状凝集体の集合物中に含まれる、走査型電子顕微鏡により観察したときに、円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体の個数割合が上記範囲内にあることにより、電極材として使用したときに、良好な初期充電効率や高速充電特性を容易に発揮することができる。
【0066】
本出願書類において、黒鉛粒子球状凝集体の集合物中に含まれる、 円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体の個数割合は、上述した方法と同様の方法により、走査型電子顕微鏡により、1000個の黒鉛粒子球状凝集体の円相当径を各々求めたときに、下記式により算出される、測定対象とされた全黒鉛粒子球状凝集体数(1000個)に対する、円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体の個数の割合を意味する。
【0067】
円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体の個数割合(%)=(円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体の個数/1000)×100
【0068】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、黒鉛粒子球状凝集体の集合物の比表面積(SA)は、0.8~5m/gであることが好ましく、0.8~4m/gであることがより好ましく、0.8~3m/gであることがさらに好ましい。
【0069】
黒鉛粒子球状凝集体の集合物の比表面積(SA)が上記範囲内にあることにより、凝集体を構成する扁平状黒鉛粒子のエッジ部が減少し、電極材としたときに、初期サイクル時の充放電不可逆容量を小さくし易くなり充放電効率が向上し易くなるとともに形状も球形に近付くため電極密度が向上し易くなる。
【0070】
なお、本出願書類において、黒鉛粒子球状凝集体の集合物の比表面積(SA)は、全自動表面積測定装置((株)島津製作所製ジェミニV)を用い、窒素吸着等温線における相対圧0.05~0.2の範囲におけるBET多点法により算出される値を意味する。
【0071】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、黒鉛粒子球状凝集体の集合物は、タップ密度が、0.8~1.3g/cmであることが好ましく、0.9~1.3g/cmであることがより好ましく、1.0~1.3g/cmであることがさらに好ましい。
【0072】
黒鉛粒子球状凝集体の集合物のタップ密度が上記範囲内にあることにより、電極材形成時に電極密度を容易に向上することができ、また凝集体の密度が高いために電極を形成するためのプレス処理時に配向面を非平行のまま維持し、サイクル特性を容易に向上することができるとともに、黒鉛化処理コストや輸送コストを容易に低減することができる。
【0073】
なお、本出願書類において、黒鉛粒子球状凝集体の集合物のタップ密度は、25mlメスシリンダーに黒鉛粒子粉末5gを投入し、筒井理化学器械(株)製のタッピング式粉体減少度測定器を用いてギャップ10mmにて1000回タッピングを繰り返した後の見かけ体積の値と、メスシリンダーに投入した黒鉛粒子粉末の質量から、下記式により算出した値を意味する。
【0074】
タップ密度(g/cm)=メスシリンダーに投入した粉末の質量(g)/1000回タッピングを繰り返した後の見かけ体積の値(cm
【0075】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、黒鉛粒子球状凝集体の集合物の到達極板密度は、1.40~1.85g/cmであることが好ましく、1.50~1.80g/cmであることがより好ましく、1.55~1.75g/cmであることがさらに好ましい。
【0076】
黒鉛粒子球状凝集体の集合物の到達極板密度が上記範囲内にあることにより、電池のエネルギー密度と高速充電性を両立させることが容易になる。
【0077】
本出願書類において、黒鉛粒子球状凝集体の到達極板密度が上記範囲内にあることにより、体積当たりの充電量(電池容量)を容易に所望範囲に制御することができる。
【0078】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、黒鉛粒子球状凝集体の集合物の極板配向比(プレス後極板配向比)は、0.05以上であることが好ましく、0.08以上であることがより好ましく、0.10以上であることがさらに好ましい。
【0079】
上記極板配向比は、プレス後の電極シートをX線回折装置で測定して得られる、炭素(004)面に由来するピーク強度I(110)に対する炭素(110)面に由来するピーク強度I(110)(ピーク強度比I(110)/I(004))として定義される。
黒鉛粒子球状凝集体の集合物の極板配向比が上記範囲内にあることにより、複数の扁平状黒鉛粒子の配向面を所望程度に非平行に維持し得ることから、リチウムイオン二次電池用負極材として使用したときに、電池のサイクル特性(電池寿命)を容易に向上させることができる。
【0080】
なお、本出願書類において、黒鉛粒子球状凝集体の到達極板密度および極板配向比は、以下の方法で測定した値を意味する。
【0081】
(1)電極シートの作製
黒鉛粒子球状凝集体90重量%に対し、N-メチル-2ピロリドンに溶解した有機系結着材ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を固形分で10重量%加えて攪拌混合し、負極合材ペーストを調製する。
得られた負極合材ペーストを厚さ18μmの銅箔(集電体)上にドクターブレード法で塗布した後、真空中で130℃に加熱して溶媒を完全に揮発させ、目付量が15.0±0.4mg/cmである電極シートを得る。
なお、ここで目付量とは、電極シートの単位面積当たりの黒鉛粒子球状凝集体の重量を意味する。
【0082】
(2)到達極板密度の測定
上記電極シートを幅5cmの短冊状に切り出し、3000kg/5cmの線圧でローラープレスによる圧延を行う。プレスした電極シートを直径1.62cmのコイン状に5カ所打ち抜き、各重量A(g)と中心部分の厚みB(cm)から下記式によって極板密度を算出したときに得られる算術平均値を到達極板密度とした。
【0083】
極板密度(g/cm)={(A(g)-銅箔重量(g))×負極合材層中の黒鉛粒子球状凝集体の重量割合(0.9)}/{(B(cm)-銅箔厚み(cm))×打ち抜き面積(cm)}
【0084】
(3)極板配向比の測定
(2)でプレス処理した電極シートを両面テープでガラス板上に固定し、X線回折装置((株)リガク製UltimaIV)にてグラファイトモノクロメーターで単色化したCuKα線を用い、広角X線回折曲線を測定する。スリットおよび計測条件は次の通りである。なお、2θは回折角を表す。
【0085】
スリット : 発散スリット=2/3度、受光スリット=0.15mm、散乱スリット=2/3度
測定範囲及びステップ角度/計測時間:
(110)面 :76.0度≦2θ≦79.0度 0.01度/3秒
(004)面 :53.0度≦2θ≦56.0度 0.01度/3秒得られたチャートについて、プロファイル関数として分割擬Voigt関数を用いてフィッティングすることでピーク分離を行ない、(110)面と(004)面のピークの積分強度を算出する。次いで、(110)面の回折強度と(004)面の回折強度の比(極板配向比I(110)/I(004))を求めた。上記測定を5回繰り返し、上記回折強度の比(極板配向比I(110)/I(004))の算術平均値を極板密度とした。
【0086】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材を構成する黒鉛粒子球状凝集体は、(i)生ニードルコークスまたは仮焼ニードルコークスと有機バインダーとの造粒物の黒鉛化触媒不存在における黒鉛化処理物であるか、(ii)生ニードルコークスまたは仮焼ニードルコークスと有機バインダーとの造粒物が炭素化処理された造粒炭素化物の黒鉛化触媒不存在における黒鉛化処理物であることが好ましい。
【0087】
生ニードルコークスまたは仮焼ニードルコークスと有機バインダーとの造粒方法や、得られた造粒物の炭素化処理方法や、黒鉛化触媒不存在における黒鉛化処理方法の詳細は、後述する本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の説明に記載するとおりである。
【0088】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材は、後述する本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法により、好適に製造することができる。
【0089】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池用負極材が、特定の結晶子サイズを有する扁平状黒鉛粒子が複数凝集してなり、走査型電子顕微鏡により観察したときに、一定の円相当径を有する扁平状黒鉛粒子が最表面に観察される球形度の高い黒鉛粒子球状凝集体を狭い粒度分布で含む集合物からなる。このため、電極を形成するためにプレス処理したときに好適に加圧処理されて高密度化を容易に図ることができるとともに、一定の抵抗力を発揮して扁平状黒鉛の非平行な配向を維持し得る優れた強度を発揮し、かつ黒鉛粒子球状凝集体間に電界液流路として好適な隙間を容易に形成することができる。
【0090】
従って、本発明によれば、高電極密度化による放電容量の向上および極板の高配向化によるサイクル特性(寿命特性)の向上が可能な、電解液の通液性に優れたリチウムイオン二次電池用負極材を提供することができる。
【0091】
次に、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法について説明する。
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法は、
複数の扁平状黒鉛粒子が球状に凝集した黒鉛粒子球状凝集体の集合物からなるリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法であって、
(a)生ニードルコークスまたは仮焼ニードルコークスと有機バインダーとを混合して造粒物を得る工程と、
(b)前記造粒物または当該造粒物を炭素化して得られた造粒炭素化物を黒鉛化触媒の不存在下に黒鉛化処理して黒鉛化処理物を得る工程と
を有することを特徴とするものである。
【0092】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法において、生ニードルコークスまたは仮焼ニードルコークスとは、針状構造が発達したコークスであって、黒鉛化等の高温焼成に際してパッフィングを生起し得るコークスを意味する。
【0093】
生ニードルコークスは、通常、コールタールピッチ、石油系重質油、石炭の液化物、ナフサ分解残油等の原料油をコークス化することにより得られている。生ニードルコークスは、工業的には、通常、上記原料油を、加熱温度400~600℃、常圧~10kg/cm程度の圧力下において、約12~48時間かけてディレードコーキング法でコークス化することにより製造されている、内部に10%程度の水素原子、酸素原子、窒素原子等の炭素原子以外の原子が残存するものを意味する。
【0094】
仮焼ニードルコークスは、上記生ニードルコークスを1000~1500℃程度の温度で仮焼した、内部に残存する水素原子、酸素原子、窒素原子等の炭素原子以外の原子を数%程度まで揮散せしめ、微細孔を形成せしめたものを意味する。
なお、上記生ニードルコークスおよび仮焼ニードルコークスは、一種のみを使用してもよいし、二種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0095】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法において、有機バインダーとしては、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、ゴム等の各種高分子化合物や、タール、ピッチ等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0096】
有機バインダーとして、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエピクロルヒドリン、ポリフォスファゼン、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、コールタール、石油系ピッチ、石炭系ピッチ、クレオソート油、エチレンボトム油等から選ばれる一種以上を使用することができる。
なお、上記有機バインダーは、一種のみを使用してもよいし、二種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0097】
また、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法においては、生ニードルコークスまたは仮焼ニードルコークスと有機バインダーとを、有機溶媒の存在下に混合してもよい。
【0098】
有機溶媒として、具体的には、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン(NEP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルカプロラクタム等のアミド系有機溶媒や、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等の低分子ポリオール類や、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール等のエチレンオキサイド付加物や、ジプロピレングリコール等のプロピレンオキサイド付加物や、上記低分子ポリオールのエチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイド付加物や、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオール類や、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホロトリアミド、1,2-ジメトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、1,2-ビス(2-メトキシエトキシ)エタン、テトラヒドロフラン、ビス[2-(2-メトキシエトキシ)エチル]エーテル、1,4-ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジフェニルエーテル、スルホラン、ジフェニルスルホン、テトラメチル尿素、アニソール、γ-ブチロラクトン、イソプロパノール等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
なお、上記有機溶媒は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0099】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法においては、(a)工程において、生ニードルコークスまたは仮焼ニードルコークスと有機バインダーとを、必要に応じて有機溶媒の共存下に混合して造粒物を得る。上記生ニードルコークスまたは仮焼ニードルコークスと有機バインダーとを混合する順番は適宜選択すればよい。
【0100】
この場合、有機バインダーまたは有機バインダーと有機溶媒の混合物は、1000℃で焼成した際の残炭率が5~60質量%であることが好ましく、10~55質量%であることがより好ましく、15~50質量%であることがさらに好ましい。
【0101】
有機バインダーまたは有機バインダーと有機溶媒の混合物の残炭率が上記範囲内にあることにより、扁平状黒鉛粒子を目的の粒径に容易に造粒することできる。また、焼成・黒鉛化後の粒子に適切な強度を持たせ、電極を形成するためにプレス処理したときに、黒鉛粒子が一定以上の密度に到達するよう変形しつつも、電解液流路を保持し、黒鉛の非平行な配向も維持することができる。
【0102】
なお、本出願書類において、残炭率は以下の手法によって測定した値を意味する。
【0103】
(残炭率の測定法)
バインダーを20g程度ボート型黒鉛るつぼに取り、横型管状炉にセットする。アルゴンガスを毎分0.8Lで流通させながら、10時間で1000℃まで温度を上昇させ、1000℃で2時間保持して炭化し、その後室温まで冷却する。このとき、下記式に示すように、冷却後の炭化物の質量を、加熱前の有機バインダーまたは有機バインダーと有機溶媒の混合物の質量で除し、100を掛けた値を残炭率とする。
【0104】
残炭率(質量%)={冷却後の炭化物の質量(g)/加熱前の有機バインダーまたは有機バインダーと有機溶媒の混合物の質量(g)}×100
【0105】
使用するニードルコークス量(使用する生ニードルコークスおよび/または仮焼ニードルコークス量)を100質量部としたときに、有機バインダーまたは有機バインダーと有機溶媒の混合物の配合割合は、5~50質量部であることが好ましく、10~45質量部であることがより好ましく、15~40質量部であることがさらに好ましい。
【0106】
使用するニードルコークス量(使用する生ニードルコークスおよび/または仮焼ニードルコークス量)に対する有機バインダーまたは有機バインダーと有機溶媒の混合物の配合割合が上記範囲内にあることにより、扁平状黒鉛粒子を目的の粒径に容易に造粒することができ、電極材としたときに電池の容量特性が向上し易くなり、造粒物を構成する黒鉛の非平行な配向を維持し易くなる。
【0107】
生ニードルコークスまたは仮焼ニードルコークスと有機バインダーとの混合、造粒方法や、生ニードルコークスまたは仮焼ニードルコークスと有機バインダーおよび有機溶媒との混合、造粒方法は特に制限されず、例えば、ニーダー等の各種攪拌機またはミキサーを用い、適宜有機溶媒を添加しつつ、所望粒径を有する造粒物が得られるように、混合物の粘度や撹拌速度等を適宜設定しつつ攪拌混合すればよい。
上記攪拌は、有機バインダーの軟化点以上の温度条件下で行うことが好ましく、有機バインダーがピッチ、タール等の場合には50~300℃の温度条件下で攪拌することが好ましく、有機バインダーが熱硬化性樹脂の場合には20~100℃の温度条件下で攪拌することが好ましい。
【0108】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法においては、上記混合、造粒処理後にさらに乾燥処理を施してもよい。
乾燥処理時における処理温度は、50~500℃が好ましく、80~300℃がより好ましく、100~150℃がさらに好ましい。
上記混合、造粒処理後に乾燥処理を施すことにより、得られた造粒物の取扱い性を容易に向上させることができる。
【0109】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法においては、(b)工程において、(a)工程で得られた造粒物を黒鉛化触媒の不存在下に黒鉛化処理するか、(a)工程で得られた造粒物を炭素化して得られた造粒炭素化物を黒鉛化処理して、黒鉛化処理物を得る。
【0110】
(a)工程で得られた造粒物を炭素化して造粒炭素化物にする条件は、特に制限されない。
炭素化処理時の加熱温度は、500~1500℃が好ましく、600~1300℃がより好ましく、700~1100℃がさらに好ましい。
炭素化処理時間(上記加熱温度で処理した時間)は、0.1~100時間が好ましく、0.3~10時間がより好ましく、0.5~5時間がさらに好ましい。
上記炭素化処理は複数回行ってもよい。
なお、昇温時間および降温時間は適宜選択すればよい。
【0111】
上記炭素化処理時における加熱雰囲気は、不活性雰囲気であることが好ましい。本出願書類において、不活性雰囲気としては、酸素など酸化活性の気体が存在しない雰囲気を意味し、例えば、アルゴン雰囲気、窒素雰囲気等を挙げることができる。
【0112】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法においては、上記生ニードルコークスまたは仮焼ニードルコークスと有機バインダーとの混合、造粒物を炭素化して得られた造粒炭素化物を、適宜粉砕処理してもよい。
【0113】
上記粉砕処理の方法は、特に制限されず、例えば、ジェットミル、振動ミル、ピンミル、ハンマーミル等の公知の方法から選ばれる一種以上の方法を適宜選択すればよい。
【0114】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法においては、上記造粒炭素化物を黒鉛化触媒の不存在下に焼成処理することにより、黒鉛化処理物である黒鉛粒子球状凝集体を得る。
【0115】
上記造粒物または造粒炭素化物を黒鉛化処理する際の処理温度(黒鉛化温度)は、2000℃~3000℃が好ましく、2500℃~3000℃がより好ましく、2700~3000℃がさらに好ましい。
黒鉛化温度が上記範囲内にあることにより、炭素の結晶化(黒鉛化)を好適に進行させることができる。
【0116】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法において、黒鉛化処理時間は適宜選択すればよい。
【0117】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法においては、黒鉛化触媒の不存在下に黒鉛化処理して黒鉛化処理物を得る。
本発明者等が検討したところ、黒鉛化触媒の存在下に得られる黒鉛化処理物は、電極を形成するためにプレス処理したときに、加圧力に対して抵抗力を示し難く、黒鉛粒子球状凝集体が一定以上の密度に到達することができるが、粒子凝集体が潰れ易く、粒子凝集体を構成する扁平状黒鉛の非平行な配向を保持し得ず、極板配向比の向上によるサイクル特性(寿命特性)の向上を達成し得ないことを見出した。
【0118】
一方、本発明者等が検討したところ、黒鉛化触媒の不存在下に得られる黒鉛化処理物は、プレス処理したときに、加圧力に対して一定の抵抗力を発揮して、黒鉛粒子球状凝集体を構成する扁平状黒鉛の非平行な配向を保持し得る十分な強度を有することを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0119】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法においては、工程(b)によって所望の粒度分布を有する黒鉛化処理物が得られた場合には、そのまま目的とする黒鉛粒子球状凝集体の集合物としてもよいし、得られた黒鉛化処理物が所望の粒度分布を有するように適宜粉砕処理および分級処理を施してもよい。
【0120】
上記粉砕処理の方法は、特に制限されず、例えば、ジェットミル、振動ミル、ピンミル、ハンマーミル等の公知の方法から選ばれる一種以上の方法を適宜選択すればよい。
【0121】
上記処理によって、目的とする黒鉛粒子球状凝集体を得ることができる。
得られる黒鉛粒子球状凝集体の集合物の詳細は、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の説明で述べたとおりである。
【0122】
本発明によれば、電極を形成するためにプレス処理したときに、加圧力に対して一定の抵抗力を発揮して、黒鉛粒子球状凝集体の集合物が一定以上の密度に到達するよう変形しつつも電解液流路を保持し、黒鉛粒子球状凝集体を構成する扁平状黒鉛の非平行な配向を保持し得る十分な強度を発揮し、かつ黒鉛粒子球状凝集体間に電界液流路として好適な隙間を容易に形成することができる。
【0123】
従って、本発明によれば、高電極密度化による放電容量の向上および極板の高配向化によるサイクル特性(寿命特性)の向上が可能な、電解液の通液性に優れたリチウムイオン二次電池用負極材を簡便に製造する方法を提供することができる。
【実施例
【0124】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0125】
(実施例1)
(原料調製)
石炭系ニードルコークスA(灰分0.03質量%、揮発分4.37質量%)を高速ローター型粉砕機にて微粉砕し、平均粒径9.4μmのコークス微粒子を得た。
【0126】
(バインダー調製)
フェノール樹脂(粘度5300cp, ゲル化時間351秒間、不揮発分57質量%)100重量部と、ジエチレングリコール(キシダ化学(株)製)100重量部とを室温で混合撹拌し、バインダーを得た。
【0127】
(黒鉛粒子作製)
上記コークス微粒子100重量部と、上記バインダー30重量部を40℃に保温し、ヘンシェルミキサーを用いて造粒処理を行った。
次いで、得られた造粒物を非酸化性雰囲気にて1000℃で熱処理して炭素化した後、粗粉砕および目開き53μmの篩にて分級して粗粉を除いた後、アチソン炉にて3000℃以上で熱処理し、目的とする黒鉛粒子球状凝集体粉末(黒鉛粒子球状凝集体の集合物)を得た。
【0128】
図2に得られた黒鉛粒子球状凝集体の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。図2の左側および右側に示すSEM画像は同一のものであり、図2の右側に示すSEM画像は、後述するSEM観察による黒鉛粒子球状凝集体の形態の特定方法を示すための図である。
得られた黒鉛粒子球状凝集体粉末(黒鉛粒子球状凝集体の集合物)について、以下の方法によって、粒度分布、比表面積(SA)、タップ密度、平均円形度、黒鉛粒子球状凝集体を構成する黒鉛の層間距離d002およびc軸方向の結晶子サイズLc(004)、走査型電子顕微鏡(SEM)観察による黒鉛粒子球状凝集体の形態の特定(小粒子の存在割合特定)、プレス前極板配向比、極板配向比並びに到達極板密度の測定を行った。
結果を表1および表2に示す。
【0129】
なお、走査型電子顕微鏡(SEM)観察による特定される、黒鉛粒子球状凝集体粉末(黒鉛粒子球状凝集体の集合物)中に含まれる円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体の個数割合は79%であり、また、走査型電子顕微鏡(SEM)観察による黒鉛粒子球状凝集体の形態の特定(小粒子の存在割合特定)により特定された、黒鉛粒子球状凝集体の個数割合は各々以下のとおりであった。
最表面に確認できる最大の扁平状黒鉛粒子の円相当径が2μm未満である黒鉛粒子球状凝集体:4%
最表面に確認できる最大の扁平状黒鉛粒子の円相当径が4μm未満である黒鉛粒子球状凝集体:5%
最表面に確認できる最大の扁平状黒鉛粒子の円相当径が2μm~12μmである黒鉛粒子球状凝集体:96%
最表面に確認できる最大の扁平状黒鉛粒子の円相当径が4μm~12μmである黒鉛粒子球状凝集体:92%
最表面に確認できる最大の扁平状黒鉛粒子の円相当径が12μm超である黒鉛粒子球状凝集体:0%
最表面に扁平状黒鉛粒子の存在が確認できない黒鉛粒子球状凝集体:4%
【0130】
(粒度分布測定)
得られた黒鉛粒子球状凝集体粉末約20mgを界面活性剤を添加した純水中に超音波分散した状態で、レーザー回折粒度分布測定装置((株)島津製作所製SALD-2100)を用いて体積基準積算粒度分布を測定した。
体積基準積算粒度分布における積算粒度で10%の粒径(D10)、体積基準積算粒度分布における積算粒度で50%の粒径(D50)、体積基準積算粒度分布における積算粒度で90%の粒径(D90)を求めるとともに、体積基準積算粒度分布における積算粒度で10%の粒径に対する体積基準積算粒度分布における積算粒度で90%の粒径の比(D90/D10)を算出した。
【0131】
(比表面積(SA)測定)
黒鉛粒子球状凝集体粉末の比表面積は、全自動表面積測定装置((株)島津製作所製ジェミニV)を用い、窒素吸着等温線における相対圧0.05~0.2の範囲におけるBET多点法により算出した。
【0132】
(タップ密度測定)
黒鉛粒子球状凝集体粉末のタップ密度は、25mlメスシリンダーに黒鉛粒子粉末5gを投入し、筒井理化学器械(株)製のタッピング式粉体減少度測定器を用いてギャップ10mmにて1000回タッピングを繰り返した後の見かけ体積の値と、メスシリンダーに投入した黒鉛粒子粉末の質量から、下記式により算出した。
【0133】
タップ密度(g/cm)=メスシリンダーに投入した粉末の質量(g)/1000回タッピングを繰り返した後の見かけ体積の値(cm
【0134】
(平均円形度測定)
得られた黒鉛粒子球状凝集体粉末の円形度は、黒鉛粒子球状凝集体粉末約20mgを、界面活性剤を添加した純水中に超音波分散し、フロー式粒子像分析装置(スペクトリス(株)製FPIA-3000)の標準撮像ユニットを用いてLPF測定モードにて測定し、各黒鉛粒子球状凝集体の投影面積を円換算したときの円相当径を求めた。
得られた円相当径8~160μmの1万~5万個の各黒鉛粒子球状凝集体に対し、Wadellの式により各々「黒鉛粒子球状凝集体の投影面積と等しい面積を有する円の周囲長/黒鉛粒子球状凝集体投影像の周囲長」を求め、その算術平均値を平均円形度とした。
【0135】
(層間距離d002および結晶子サイズLc(004)測定)
黒鉛粒子球状凝集体を構成する黒鉛の層間距離d002とc軸方向の結晶子サイズLc(004)は、X線回折装置((株)リガク製UltimaIV)を用い、Cu-Kα線をNiフィルターで単色化したX線を使用して、高純度シリコンを標準物質として粉末X線回折法で測定を行い、得られた炭素(004)面の回折ピークの強度と半値幅より、日本学術振興会第117委員会によって定められた学振法に従って求めた。
【0136】
(走査型電子顕微鏡(SEM)観察による黒鉛粒子球状凝集体の形態の特定)
走査型電子顕微鏡(SEM)よる黒鉛粒子球状凝集体の形態観察は以下の手順で行った。
SEMの試料台上に3mm四方程度に切り出したカーボンテープを貼り、その上に黒鉛粒子球状凝集体粉末を静かに散布した。余分な粉末はエアーを用いて除去し、カーボンテープ上に残った粉末のみを観察した。
観察は日本電子製の走査型電子顕微鏡(JSM-6340F)を用い、加速電圧10kV、観察倍率1000倍、作動距離(working distance, WD)25mmで行い、二次電子の検出には下方二次電子検出器を用いてSEM観察を行った。
【0137】
得られたSEM像を画像解析ソフト(三谷商事(株)製 WinROOF)で読み込んだ。次いで、任意形状選択ツールを用い、黒鉛粒子球状凝集体の外周部を領域選択して粒子面積を求めた。すなわち、図2の右側のSEM画像に示しているように、中央部に示される黒鉛粒子球状凝集体の外周を任意形状選択ツールを用いて領域選択して粒子面積を求めた。
その後、選択された領域(粒子面積)と同じ面積を持つ円の直径を円相当径として求めた。
【0138】
また、円相当径が10μm以上の黒鉛粒子球状凝集体を任意に500粒子選択した。次いで、各黒鉛粒子球状凝集体の最表面に確認できる扁平状黒鉛粒子のうち最大の粒子の外周部を任意形状選択ツールを用いて領域選択した。すなわち、図2の右側のSEM画像に示しているように、最表面に確認できる扁平状黒鉛粒子のうち最大の粒子の外周部として中央部に示される黒鉛粒子球状凝集体を構成する扁平状黒鉛粒子の外周を任意形状選択ツールを用いて領域選択した。その後、選択された領域(粒子面積)と同じ面積を持つ円の直径を円相当径として求め、下記式によりその割合(小粒子存在割合(%))を算出した。
【0139】
小粒子(2~12μm)存在割合(%)=最表面に観察される最大の扁平状黒鉛粒子の円相当径が2μm~12μmである黒鉛粒子球状凝集体数/500(円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体の総数)
小粒子(4~12μm)存在割合(%)=最表面に観察される最大の扁平状黒鉛粒子の円相当径が4μm~12μmである黒鉛粒子球状凝集体数/500(円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体の総数)
【0140】
(到達極板密度、プレス前極板配向比および極板配向比の測定)
(1)電極シートの作製
得られた黒鉛粒子球状凝集体粉末90重量%に対し、N-メチル-2ピロリドンに溶解した有機系結着材ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を固形分で10重量%加えて攪拌混合し、負極合材ペーストを調製した。
得られた負極合材ペーストを厚さ18μmの銅箔(集電体)上にドクターブレードで塗布した後、真空中で130℃に加熱して溶媒を完全に揮発させ、目付量が15.0±0.4mg/cmである電極シートを得た。
なお、ここで目付量とは、電極シートの単位面積当たりの黒鉛粒子球状凝集体粉末の重量を意味する。
【0141】
(2)到達極板密度の測定
上記電極シートを幅5cmの短冊状に切り出し、3000kg/5cmの線圧でローラープレスによる圧延を行った。プレスした電極シートを直径1.62cmのコイン状に5箇所打ち抜き、各重量A(g)と中心部分の厚みB(cm)から下記式によって極板密度を算出し、その算術平均値を到達極板密度として求めた。
【0142】
極板密度(g/cm)={(A(g)-銅箔重量(g))×負極合材層中の黒鉛粒子球状凝集体粉末の重量割合(0.9)}/{(B(cm)-銅箔厚み(cm))×打ち抜き面積(cm)}
【0143】
(3)プレス前極板配向比および極板配向比の測定
プレス前極板配向比および極板配向比は、プレス前後の電極シートを各々X線回折装置で測定して得られる、炭素(110)面と炭素(004)面に由来するピークの強度比I(110)/I(004)として定義される。
【0144】
(1)で得られた電極シートまたは(2)でプレス処理した電極シートを両面テープでガラス板上に固定し、X線回折装置((株)リガク製UltimaIV)にてグラファイトモノクロメーターで単色化したCuKα線を用い、広角X線回折曲線を測定した。スリットおよび計測条件は次の通りである。なお、2θは回折角を表す。
【0145】
スリット : 発散スリット=2/3度、受光スリット=0.15mm、散乱スリット=2/3度
測定範囲及びステップ角度/計測時間:
(110)面 :76.0度≦2θ≦79.0度 0.01度/3秒
(004)面 :53.0度≦2θ≦56.0度 0.01度/3秒
得られたチャートについて、プロファイル関数として分割擬Voigt関数を用いてフィッティングすることでピーク分離を行ない、(110)面と(004)面のピークの積分強度を算出した。次いで、(110)面の回折強度と(004)面の回折強度の比(極板配向比I(110)/I(004))を求めた。上記測定を5回繰り返し、上記回折強度の比(極板配向比I(110)/I(004))の算術平均値を極板密度として求めた。
【0146】
<リチウムイオン二次電池の作製および評価>
得られた黒鉛粒子球状凝集体粉末を用いてリチウムイオン二次電池を作製し、電池評価を行った。
【0147】
(負極用電極シートの作製)
得られた黒鉛粒子球状凝集体粉末90重量%に対し、N-メチル-2ピロリドンに溶解した有機系結着材ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を固形分で10重量%加えて攪拌混合し、負極合材ペーストを調製した。得られた負極合材ペーストを厚さ18μmの銅箔(集電体)上にドクターブレードで塗布した後、真空中で130℃に加熱して溶媒を完全に揮発させて電極シートを得た。
得られた電極シートをローラープレスで圧延し、黒鉛粒子とPVDFの混合物層の密度が1.5g/cmになるように調整した。
【0148】
(リチウムイオン二次電池の作製)
上記電極シートをポンチで打ち抜いて、2cmの負極(作用極)を作製した。また、不活性雰囲気下、リチウム金属箔を、ポンチで打ち抜いた厚さ270μmのニッケルメッシュ(集電体)にめり込ませることにより、正極(対極)を作製した。
電解液は、次の(i)~(iii)の手順で調製したものを使用した。
(i)溶媒としてエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を1:1の体積比で混合した溶液を調製する。
(ii)(i)で得られた溶液に電解質としてリチウム塩LiPFを1mol/dmの濃度で溶解する。
(iii)(ii)の溶液に添加剤として、ビニレンカーボネートを1重量%添加する。
不活性雰囲気下、図1に示すように、ケース1中に、上記ニッケルメッシュ(集電体)3にめり込ませた正極(対極)4、セパレータ5、上記負極(作用極)8、スペーサー7を積層させた状態で組付け、スプリング6を介して封口蓋(キャップ)2で封止することにより、図1に示す形態を有するボタン型の評価用リチウムイオン二次電池を計6個作製した。
【0149】
(電池評価方法)
得られた評価用リチウムイオン二次電池において、0.405mA、終止電圧5mVで定電流充電を行った後、下限電流0.0405mAとなるまで定電位保持した。次いで、0.405mAにて終止電圧1.5Vまで定電流放電を行い、1サイクル終了後の放電容量を定格容量(可逆容量(mAh/g))とした。以上の計測を6個の電池で各々行い、1サイクル終了後の放電容量の算術平均値を初期放電容量(mAh/g)として求めた。
また、初期効率として、1回目の充電容量と放電容量により下記式により算出し、6個の電池の算術平均値を初期効率(%)として求めた。
初期効率(%)=(1回目の放電容量(mAh/g)/1回目の充電容量(mAh/g))×100
結果を表2に示す。
【0150】
(実施例2)
実施例1で得られた黒鉛粒子球状凝集体粉末を用い、実施例1と同様の方法で評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
得られたリチウムイオン二次電池において、終止電圧を1.5Vから3.0Vに変更した以外は、実施例1と同様に電池評価を行った。
結果を表2に示す。
【0151】
(実施例3)
石炭系ニードルコークスAに代えて石炭系ニードルコークスB(灰分0.01質量%、揮発分4.35質量%)を使用した以外は実施例1と同じ条件で黒鉛粒子球状凝集体粉末を調製して実施例1と同様に評価するとともに、得られた黒鉛粒子球状凝集体粉末を用いて実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製し同様に評価した。
このとき、走査型電子顕微鏡(SEM)観察による特定される、黒鉛粒子球状凝集体粉末(黒鉛粒子球状凝集体の集合物)中に含まれる円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体の個数割合は69%であった。
【0152】
図3に得られた黒鉛粒子球状凝集体の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図3の左側および右側に示すSEM画像は同一のものであり、図3の右側に示すSEM画像は、上記SEM観察による黒鉛粒子球状凝集体の形態を特定する際に、中央部に示される黒鉛粒子球状凝集体の外周部を領域選択して面積を求めたときの外形線を示すものである。
また、図3の右側に示すSEM画像は、黒鉛粒子球状凝集体の最表面に確認できる扁平状黒鉛粒子のうち最大の粒子として中央部に示される黒鉛粒子球状凝集体を構成する扁平状黒鉛粒子の外周部を領域選択して面積を求めたときの外形線を示すものである。
評価結果を表1および表2に示す。
【0153】
(実施例4)
実施例1において、バインダーを浸透ピッチ(150℃における粘度189mPa・s、 残炭率34%)に変更し、コークス微粒子100重量部と上記浸透ピッチからなるバインダー30重量部を150℃に保温しつつ造粒した以外は、実施例1と同じ条件で黒鉛粒子球状凝集体粉末を調製して実施例1と同様に評価するとともに、得られた黒鉛粒子球状凝集体粉末を用いて実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製し同様に評価した。
このとき、走査型電子顕微鏡(SEM)観察による特定される、黒鉛粒子球状凝集体粉末(黒鉛粒子球状凝集体の集合物)中に含まれる円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体の個数割合は62%であった。
【0154】
図4に得られた黒鉛粒子球状凝集体の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図4の左側および右側に示すSEM画像は同一のものであり、図4の右側に示すSEM画像は、上記SEM観察による黒鉛粒子球状凝集体の形態を特定する際に、中央部に示される黒鉛粒子球状凝集体の外周部を領域選択して面積を求めたときの外形線を示すものである。
また、図4の右側に示すSEM画像は、黒鉛粒子球状凝集体の最表面に確認できる扁平状黒鉛粒子のうち最大の粒子として中央部に示される黒鉛粒子球状凝集体を構成する扁平状黒鉛粒子の外周部を領域選択して面積を求めたときの外形線を示すものである。
評価結果を表1および表2に示す。
【0155】
(実施例5)
石炭系ニードルコークスAを微粉砕したコークス微粒子に代えて、石炭系ニードルコークスB(灰分0.01質量%、揮発分4.35質量%)を高速ローター型微粉砕機で微粉砕した、平均粒子径が5.1μmのコークス微粒子を使用し、コークス微粒子100重量部とバインダー30重量部とを用いることに代えてコークス微粒子100重量部とバインダー35重量部とを用いる以外は、実施例1と同じ条件で黒鉛粒子球状凝集体粉末を調製して実施例1と同様に評価するとともに、得られた黒鉛粒子球状凝集体粉末を用いて実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製し同様に評価した。
このとき、走査型電子顕微鏡(SEM)観察による特定される、黒鉛粒子球状凝集体粉末(黒鉛粒子球状凝集体の集合物)中に含まれる円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体の個数割合は52%であった。
【0156】
図5に得られた黒鉛粒子球状凝集体の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図5の左側および右側に示すSEM画像は同一のものであり、図5の右側に示すSEM画像は、上記SEM観察による黒鉛粒子球状凝集体の形態を特定する際に、中央部に示される黒鉛粒子球状凝集体の外周部を領域選択して面積を求めたときの外形線を示すものである。
また、図5の右側に示すSEM画像は、黒鉛粒子球状凝集体の最表面に確認できる扁平状黒鉛粒子のうち最大の粒子として中央部に示される黒鉛粒子球状凝集体を構成する扁平状黒鉛粒子の外周部を領域選択して面積を求めたときの外形線を示すものである。
評価結果を表1および表2に示す。
【0157】
(比較例1)
特許文献1記載の黒鉛材料に対応する黒鉛材料として、以下に示す材料を調製した。
石油系モザイクコークス(灰分0.46質量%、揮発分12.55質量%)を(株)マツボー製ターボミルを用いて微粉砕した後、非酸化性雰囲気下1000℃で熱処理した後、アチソン炉にて3000℃以上で加熱処理して黒鉛化粉末を得、得られた黒鉛化粉末を実施例1と同様に評価するとともに、得られた黒鉛化粉末を用いて実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製し同様に評価した。
このとき、走査型電子顕微鏡(SEM)観察による特定される、黒鉛粒子球状凝集体粉末(黒鉛粒子球状凝集体の集合物)中に含まれる円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体の個数割合は38%であった。
図6に得られた黒鉛化粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
評価結果を表1および表2に示す。
【0158】
(比較例2)
特許文献2記載の黒鉛材料に対応する黒鉛材料として、以下に示す材料を調製した。
実施例3で使用した石炭系ニードルコークスB(灰分0.01質量%、揮発分4.35質量%)100重量部にタールを40重量部、黒鉛化触媒として炭化ケイ素を10重量部を加えて捏合機で捏合し、非酸化性雰囲気下1000℃で熱処理した後、アチソン炉にて2800℃以上で加熱処理し、得られた黒鉛質塊を微粉砕して黒鉛凝集粉末を得、得られた黒鉛化粉末を実施例1と同様に評価するとともに、得られた黒鉛凝集粉末を用いて実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製し同様に評価した。
このとき、走査型電子顕微鏡(SEM)観察による特定される、黒鉛粒子球状凝集体粉末(黒鉛粒子球状凝集体の集合物)中に含まれる円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体の個数割合は46%であった。
【0159】
図7に得られた黒鉛凝集粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図7の左側および右側に示すSEM画像は同一のものであり、図7の右側に示すSEM画像は、上記SEM観察による黒鉛凝集粉末の形態を特定する際に、略中央部に示される黒鉛粉末の外周部を領域選択して面積を求めたときの外形線を示すものである。また、図7の右側に示すSEM画像は、黒鉛凝集粉末の最表面に確認できる扁平状黒鉛粒子のうち最大の粒子として略中央部に示される黒鉛粒子球状凝集体を構成する扁平状黒鉛粒子の外周部を領域選択して面積を求めたときの外形線を示すものである。
評価結果を表1および表2に示す。
【0160】
(比較例3)
球形化天然黒鉛100重量部にバインダーピッチ10重量部を加え、150℃に保持しながらヘンシェルミキサーで混合し、非酸化性雰囲気下1000℃で加熱処理した後、微粉砕して炭素質粒子を得、得られた炭素質粉末を実施例1と同様に評価するとともに、得られた炭素質粉末を用いて実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製し同様に評価した。
このとき、走査型電子顕微鏡(SEM)観察による特定される、黒鉛粒子球状凝集体粉末(黒鉛粒子球状凝集体の集合物)中に含まれる円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体の個数割合は38%であった。
図8に得られた炭素質粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。 評価結果を表1および表2に示す。
【0161】
【表1】
【0162】
【表2】
【0163】
表1~表2および図2図5より、実施例1~実施例5で得られた黒鉛粒子球状凝集体粉末は、特定の結晶子サイズを有する扁平状黒鉛粒子が複数凝集してなり、走査型電子顕微鏡により観察したときに、一定の円相当径を有する扁平状黒鉛粒子が最表面に観察される球形度の高い黒鉛粒子球状凝集体を狭い粒度分布で含む集合物からなることが分かる。このため、電極を形成するためにプレス処理したときに好適に加圧処理されて高密度化を容易に図ることができるとともに、一定の抵抗力を発揮して扁平状黒鉛の配向を非平行に維持し得る優れた強度を発揮し、かつ黒鉛粒子球状凝集体間に電界液流路として好適な隙間を容易に形成し得ることが分かる。
この場合、円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体において、最表面に観察される最大の扁平状粒子の円相当径が4~12μmである黒鉛粒子球状凝集体の割合が80%以上であることにより、一次粒子のエッジ部を減らし、一次粒子同士の平滑な接触を担保することで、電解液との副反応を抑え、初期効率や初期放電容量を向上させ得ることが分かる。さらに、実施例3と実施例5を対比することにより、黒鉛粒子球状凝集体を構成する一次粒子を微細化し、円相当径が10μm以上である黒鉛粒子球状凝集体において、最表面に観察される最大の扁平状粒子の円相当径が2~12μmである黒鉛粒子球状凝集体の割合を80%以上にした場合には、凝集体を構成する一次粒子数が増加し、凝集体の配向をより非平行にし得ることが分かる。
また、実施例1と実施例2との結果を対比することにより、リチウムイオン二次電池用負極材として、Si系負極材で利用される広い電位窓の領域でも所望特性を維持しつつ作動することができ、より高容量が求められる電池に適した負極材を提供し得ることが分かる。
従って、実施例1~実施例4で得られた黒鉛粒子球状凝集体粉末は、高電極密度化による放電容量の向上および極板の高配向化によるサイクル特性(寿命特性)の向上が可能な、電解液の通液性に優れたリチウムイオン二次電池用負極材を提供し得ることが分かる。
【0164】
一方、表1および表2より、比較例1で得られた黒鉛材料は、小粒子の存在割合が低く図6に示すように表面に扁平状黒鉛が殆ど存在していないものであって、硬度が非常に高いものであることから、極板密度が低く、初期容量および放電容量が低いものであることが分かる。
【0165】
また、表1および表2より、比較例2で得られた黒鉛材料は、平均円形度が低く図7に示すように不定形状を有し、非常に柔らかいものであることから、極板配向比が低く、サイクル特性(寿命特性)に劣るものであることが分かる。
【0166】
さらに、表1および表2より、比較例3で得られた炭素質材料は、小粒子の存在割合が低く図8に示すように表面に扁平状黒鉛が殆ど存在していないものであって、非常に柔らかいものであることから、極板配向比が低く、サイクル特性(寿命特性)に劣るものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明によれば、電極形成時にプレス処理したときに、加圧力に対して一定の抵抗力を発揮して、黒鉛粒子球状凝集体が一定以上の密度に到達するよう変形しつつも、電解液流路を保持し、上記凝集体を構成する扁平状黒鉛の非平行な配向を保持し得る十分な強度を有し、高電極密度化が可能で放電容量を向上し得るとともに、サイクル特性(寿命特性)に優れたリチウムイオン二次電池用負極材およびリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供することができる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8