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特許7201634リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法およびリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料
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  • 特許-リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法およびリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法およびリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20221227BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/36 C
H01M4/36 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020052398
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021152998
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000219576
【氏名又は名称】東海カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】山崎 俊輝
(72)【発明者】
【氏名】建部 智洋
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-218758(JP,A)
【文献】特開2019-149348(JP,A)
【文献】国際公開第2013/002162(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/110263(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/056820(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/587
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法であって、
黒鉛粒子と樹脂溶液とを混合することにより、前記黒鉛粒子が樹脂で覆われた樹脂被覆黒鉛粒子を得る被覆工程と、
前記樹脂被覆黒鉛粒子に対し、非晶質炭素粒子を前記黒鉛粒子100.0質量部当たり2.0~10.0質量部混合して、前記樹脂被覆黒鉛粒子の表面に前記非晶質炭素粒子が付着した非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を得る工程と、
前記非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を焼成炭化する焼成炭化工程と
を有する
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項2】
前記黒鉛粒子の平均粒子径D50が5.0~30.0μmであり、前記非晶質炭素粒子の平均粒子径が50~300nmである請求項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項3】
黒鉛粒子の表面に樹脂とともに非晶質炭素粒子が付着した非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子が、複数結着した結着集合物からなり、
当該結着集合物は、前記黒鉛粒子100.0質量部あたり前記非晶質炭素粒子を2.0~10.0質量部含む
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料。
【請求項4】
黒鉛粒子の表面が非晶質炭素化結合材料と非晶質炭素粒子によって被覆された非晶質炭素粒子被覆黒鉛粒子が、複数固着した固着集合物からなり、
当該固着集合物は、前記黒鉛粒子100.0質量部あたり前記非晶質炭素粒子を2.0~10.0質量部含み、
粉砕前後におけるタップ密度の変化割合を表すタップ密度変化率が10%~60%のときに、窒素吸着比表面積の変化割合を示す比表面積変化率が20%以下である
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法およびリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話、パソコン等の多くの機器に搭載され、高容量で、高電圧、小型軽量である点から多様な分野で利用されるようになっている。
【0003】
近年、リチウムイオン二次電池は、車載用途の需要が急激に高まっており、車載用に求められる特性としては、高容量で、高寿命かつ高入出力であり、かつこれらの特性のバランスに優れていることが求められている。このため、エネルギー密度が高くかつ膨張収縮が小さい負極材が必要とされ、これらの特性を満たす負極材として黒鉛粒子製のものが広く利用されるようになっている。
【0004】
黒鉛材料を用いるリチウムイオン二次電池用負極材においては、黒鉛材料の結晶性を高めることにより、放電容量を向上し得ることが知られている。
【0005】
そして、このような黒鉛粒子を用いたリチウムイオン二次電池用負極材の性能向上を目的として、黒鉛粒子を複合化した複合粒子が提案されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
引用文献1には、天然黒鉛を球状に賦形した母材100重量部にカーボンブラック2~50重量部及びピッチを混合して天然黒鉛粒子を含浸・被覆して900℃~1500℃で焼成し、表面に微小突起を形成したBET比表面積2m/g以上であるリチウムイオン二次電池用黒鉛粒子(A)が開示されている。特許文献1によれば、単位体積当たりの放電容量が高く、初期充放電時の容量ロスが小さいことに加え、高速充放電特性に優れるリチウムイオン二次電池用負極材を提供することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-233541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者等が検討したところ、特許文献1記載のリチウムイオン二次電池用黒鉛粒子は、リチウムイオン二次電池用負極材として用いた場合に初期効率の低下を招きやすいことが判明した。
これは、黒鉛粒子にカーボンブラックを被覆する際にバインダーとしてピッチを用いているために、カーボンブラック表面に付着したピッチを介して複合黒鉛粒子同士が強固に結合してしまい、焼成後に粉砕して複合黒鉛粒子を得ようとする際に強い衝撃を生じて、得られる複合黒鉛粒子が微粉化し易くなり、比表面積の増加を招き易いためと考えられた。
【0009】
また、従来より、高い放電容量を達成し得るリチウムイオン二次電池用負極材が強く望まれるようになっており、特許文献1記載のリチウムイオン二次電池用黒鉛粒子よりも、さらに高い放電容量を達成し得るリチウムイオン二次電池用負極材が求められるようになっていた。
【0010】
従って、本発明は、初期効率に優れ高い放電容量を達成し得るリチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法およびリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記技術背景の下、本発明者等が鋭意検討を重ねたところ、黒鉛粒子の表面に樹脂溶液に由来する非晶質炭素化結合材料層を設け、係る非晶質炭素化結合材料層を介して非晶質炭素粒子を所定量固定した複合黒鉛粒子により、比表面積の増加を抑制しつつ、高速充放電特性を付与し、かつ放電容量に優れるリチウムイオン二次電池用負極材が得られることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)リチウムイオン二次電池用負極材であって、
黒鉛粒子と樹脂溶液とを混合することにより、前記黒鉛粒子が樹脂で覆われた樹脂被覆黒鉛粒子を得る被覆工程と、
前記樹脂被覆黒鉛粒子に対し、非晶質炭素粒子を前記黒鉛粒子100.0質量部当たり2.0~10.0質量部混合して、前記樹脂被覆黒鉛粒子の表面に前記非晶質炭素粒子が付着した非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を得る工程と、
前記非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を焼成炭化する焼成炭化工程と
を施して得られる、
黒鉛粒子と、非晶質炭素粒子及び非晶質炭素化結合材料を含み前記黒鉛粒子を覆う被覆層とを有する複合黒鉛粒子からなり、
当該複合黒鉛粒子は、表面観察したときに前記非晶質炭素粒子が黒鉛粒子を被覆する被覆率が5%以上50%未満である
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材、
(2)タップ密度が0.6g/cm以上であることを特徴とする上記(1)に記載のリチウムイオン二次電池用負極材、
(3)前記複合黒鉛粒子は、平均粒子径D50が5.0~30.0μm、粒度分布指数SPANが2.0未満である上記(1)に記載のリチウムイオン二次電池用負極材、
(4)前記複合黒鉛粒子を断面観察したときの前記非晶質炭素粒子の平均粒子径が50~300nmである上記(1)に記載のリチウムイオン二次電池用負極材、
(5)黒鉛粒子と樹脂溶液とを混合することにより、前記黒鉛粒子が樹脂で覆われた樹脂被覆黒鉛粒子を得る被覆工程と、
前記樹脂被覆黒鉛粒子に対し、非晶質炭素粒子を前記黒鉛粒子100.0質量部当たり2.0~10.0質量部混合して、前記樹脂被覆黒鉛粒子の表面に前記非晶質炭素粒子が付着した非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を得る工程と、
前記非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を焼成炭化する焼成炭化工程と
を有する
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法、
(6)前記黒鉛粒子の平均粒子径D50が5.0~30.0μmであり、前記非晶質炭素粒子の平均粒子径が50~300nmである請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
(7)黒鉛粒子の表面に樹脂とともに非晶質炭素粒子が付着した非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子が、複数結着した結着集合物からなり、
当該結着集合物は、前記黒鉛粒子100.0質量部あたり前記非晶質炭素粒子を2.0~10.0質量部含む
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料(以下、適宜、本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料1と称する)、
(8)黒鉛粒子の表面が非晶質炭素化結合材料と非晶質炭素粒子によって被覆された非晶質炭素粒子被覆黒鉛粒子が、複数固着した固着集合物からなり、
当該固着集合物は、前記黒鉛粒子100.0質量部あたり前記非晶質炭素粒子を2.0~10.0質量部含み、
粉砕前後におけるタップ密度の変化割合を表すタップ密度変化率が10%~
60%のときに、窒素吸着比表面積の変化割合を示す比表面積変化率が20%以下である
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料(以下、適宜、本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料2と称する)
を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、初期効率に優れ高い放電容量を達成し得るリチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法およびリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子の形態例における断面の概略図である。
図2】本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子において、非晶質炭素粒子が黒鉛粒子を被覆する被覆率の算出方法を説明するための模式図である。
図3】本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子において、非晶質炭素粒子が非晶質炭素化結合材料に埋め込まれた埋没割合の算出方法を説明するための模式図である。
図4】黒鉛粒子の表面に樹脂とともに非晶質炭素粒子が付着した非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子が、複数結着した結着集合物を示す断面の概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
先ず、本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材について説明する。
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材は、
黒鉛粒子と樹脂溶液とを混合することにより、前記黒鉛粒子が樹脂で覆われた樹脂被覆黒鉛粒子を得る被覆工程と、
前記樹脂被覆黒鉛粒子に対し、非晶質炭素粒子を前記黒鉛粒子100.0質量部当たり2.0~10.0質量部混合して、前記樹脂被覆黒鉛粒子の表面に前記非晶質炭素粒子が付着した非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を得る工程と、
前記非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を焼成炭化する焼成炭化工程と
を施して得られる、
黒鉛粒子と、非晶質炭素粒子及び非晶質炭素化結合材料を含み前記黒鉛粒子を覆う被覆層とを有する複合黒鉛粒子からなり、
当該複合黒鉛粒子は、表面観察したときに前記非晶質炭素粒子が黒鉛粒子を被覆する被覆率が5%以上50%未満である
ことを特徴とするものである。
【0016】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材は、上記被覆工程と、非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を得る工程と、焼成炭化工程とを施して得られる複合黒鉛粒子からなるものであり、これ等の工程の詳細は、後述する本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法の説明で詳述するとおりである。
なお、本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材は、上記被覆工程と、非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を得る工程と、焼成炭化工程とを少なくとも行って得られるものであり、本発明の効果を損なわない範囲で、他の工程を行うことは許容される。
【0017】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材について、適宜、図1図3を用いて説明する。図1は、本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子の一形態例における断面の概略図である。
【0018】
図1中、リチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子10は、黒鉛粒子1と黒鉛粒子1を覆う被覆層4とからなる。被覆層4は、非晶質炭素粒子3及び非晶質炭素化結合材料2を含み、非晶質炭素粒子3は、通常、非晶質炭素化結合材料2の層に埋め込まれるようにして、リチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子10に固定されている。また、リチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子10において、複合黒鉛粒子を構成するほぼ全ての非晶質炭素粒子3が黒鉛粒子1の表面に接している。
【0019】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材において、複合黒鉛粒子の芯材となる黒鉛粒子としては、扁平状の黒鉛が球状に凝集した球状の黒鉛粒子を挙げることができる。黒鉛粒子は、天然黒鉛からなるものであってもよいし、人造黒鉛からなるものであってもよい。
【0020】
黒鉛粒子の平均格子面間隔d(002)は、0.3360nm以下であり、球状黒鉛粒子の平均格子面間隔d(002)が0.3360nm以下であることにより、可逆容量を十分に大きくすることができる。黒鉛粒子の平均格子面間隔d(002)は、可逆容量をさらに向上させる上では、0.3358nm以下であることが好ましい。
【0021】
なお、本出願書類において、平均格子面間隔d(002)は、X線回折装置((株)リガク製UltimaIV)を用い、Cu-Kα線をNiフィルターで単色化したX線を使用して、高純度シリコンを標準物質として粉末X線回折法で測定を行い、得られた炭素(002)面の回折ピークの強度と半値幅より、日本学術振興会第117委員会によって定められた学振法に従って求めた値である。
【0022】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子において、被覆層は、非晶質炭素粒子及び非晶質炭素化結合材料(非晶質樹脂炭素化物)を含む。
上記非晶質炭素化結合材料は、黒鉛粒子表面を覆う樹脂が焼成され非晶質炭素化されたものであり、平均格子面間隔d(002)が0.3370nm以上であるものを意味する。
【0023】
図1に例示するように、複合黒鉛粒子10において、非晶質炭素粒子3は、通常、その一部が非晶質炭素化結合材料2に埋め込まれるようにして、黒鉛粒子1に固定されている。
【0024】
非晶質炭素粒子としては、特に制限されないが、例えば、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカーボンブラックが挙げられる。
【0025】
非晶質炭素粒子の平均格子面間隔d(002)は、0.3370nm以上であり、非晶質炭素粒子の平均格子面間隔d(002)が0.3370nm以上であることにより、粒子表面の反応抵抗が下がり易くなりリチウムイオン二次電池用負極材として使用したときに優れた高速充放電特性を容易に発揮することができる。
非晶質炭素粒子の平均格子面間隔d(002)は、高速充放電特性をさらに向上させる上では、0.3400nm以上であることが好ましく、更に高速充放電性能が向上する点で、0.3500nm以上であることがより好ましい。
【0026】
複合黒鉛粒子を表面観察したときの非晶質炭素粒子の平均粒子径は、50~300nmが好ましく、表面観察における球状の非晶質炭素材料の平均粒子径が上記範囲にあることにより、不可逆容量の増大を抑制しつつ、リチウムイオン二次電池用負極材として高速充放電特性に優れた複合黒鉛粒子を容易に得ることができる。
複合黒鉛粒子を表面観察したときの非晶質炭素粒子の平均粒子径は、不可逆容量の増大をさらに抑制する上では、100nm以上がより好ましく、また、高速充放電性能をさらに向上させる上では、200nm以下がより好ましい。
【0027】
なお、本出願書類において、複合黒鉛粒子を表面観察したときの非晶質炭素粒子の平均粒子径は、以下のとおり求めた値を意味する。
すなわち、複合黒鉛粒子を走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子(株)製JSM7900F)により表面観察し、得られたSEM画像中から複合黒鉛粒子上の非晶質炭素粒子を任意に選択し、画像解析ソフト(三谷商事(株)製WINROOF)を用いて、係る非晶質炭素粒子の外接円の直径を粒子径として算出する。同様にして、SEM画像から任意に1000個以上の非晶質炭素粒子を抽出して各粒子径を求め、それらの算術平均値を表面観察における非晶質炭素粒子の平均粒子径とする。
【0028】
断面観察における非晶質炭素化結合材料の厚み(後述する図3に符号8で示す非晶質炭素化結合材料2の厚み)は、適宜選定され、被覆粒子の埋め込みを考慮した場合は、15nm~1μmであることが好ましい。断面観察における非晶質炭素化結合材料の厚みが上記範囲内にあることにより、非晶質炭素粒子の固定化および埋め込みが十分になされ、リチウムイオン二次電池用負極材として使用したときに高速充放電特性に優れた複合黒鉛粒を容易に得ることができる。
【0029】
なお、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材において、断面観察における非晶質炭素化結合材料の厚みは、複合黒鉛粒子のうち任意に抽出した1粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子(株)製JSM7900F)により断面観察し、得られるSEM画像中の非晶質炭素化結合材料の断面の厚みを、任意に10か所測定して、それらの平均を計算し、その値を非晶質炭素化結合材料の断面の厚みとする。
そして、複合黒鉛粒子を任意に少なくとも10粒子抽出し、各粒子について、非晶質炭素化結合材料の断面の厚みを求め、それらの厚みを平均し、断面観察における非晶質炭素化結合材料の断面の厚みとする。
【0030】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材は、黒鉛粒子と、非晶質炭素粒子及び非晶質炭素化結合材料を含み前記黒鉛粒子を覆う被覆層とを有する複合黒鉛粒子からなる。
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子は、表面観察したときに前記非晶質炭素粒子が黒鉛粒子を被覆する被覆率が、5%以上50%未満である。表面観察したときにおける非晶質炭素粒子の被覆率が上記範囲内にあることにより、複合黒鉛粒子をリチウムイオン二次電池用負極材として用いたときに初回充電時の不可逆容量の増大を抑制しつつ、高速充放電特性を付与し、高い放電容量を容易に達成することができる。
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子において、表面観察したときに前記非晶質炭素粒子が黒鉛粒子を被覆する被覆率は、放電容量をさらに向上する上では5%~40%未満であることが好ましく、放電容量を特に向上する上では、5%~30%未満であることがより好ましい。
【0031】
本出願書類において、複合黒鉛粒子を表面観察したときに非晶質炭素粒子が黒鉛粒子を被覆する被覆率の算出方法を、図2を用いて説明すると以下のとおりとなる。
図2(A)は、図1に示すリチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子10の表面付近を走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子(株)製JSM7900F)により観察したときの模式図であり、図2(A)に例示するように、SEM観察画像において、50個以上の任意の非晶質炭素粒子3が含まれるように枠線(破線)9で囲んで観察範囲とする。
図2(B)は、上記図2(A)に示す観察範囲内における非晶質炭素粒子3の合計面積α(斜線で示す面積)と、観察範囲全体の面積β(枠線9内の面積)を示すものである。
上記各面積を画像解析ソフトウェアWINROOFを用いて算出した上で、各観察箇所における非晶質炭素粒子の被覆率を下記式(1)により求める。
各観察箇所における非晶質炭素粒子の被覆率(%)=(観察範囲内における非晶質炭素粒子の合計面積α/観察範囲全体の面積β)×100 (1)
そして、上記複合黒鉛粒子の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を10箇所について行って各観察箇所における非晶質炭素粒子の被覆率を求め、得られた被覆率の算術平均値を、表面観察したときに非晶質炭素粒子が黒鉛粒子を被覆する被覆率とする。
【0032】
図3は、図1に示すリチウムイオン二次電池用負極材の表面付近の拡大図であり、図3に例示するように、本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子において、被覆層は、通常、黒鉛粒子1の表面に層状に設けられた非晶質炭素化結合材料2に非晶質炭素粒子3の一部が埋設された状態になっている。
【0033】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子において、当該複合黒鉛粒子を断面観察したときにおける、非晶質炭素粒子が非晶質炭素化結合材料に埋設された割合である埋没割合は、50~80%が好ましく、複合黒鉛粒子を断面観察したときの非晶質炭素粒子の埋没割合が上記範囲内にあることにより、優れた高速充放電特性を容易に発揮することができる。
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子において、当該複合黒鉛粒子を断面観察したときにおける、非晶質炭素粒子が非晶質炭素化結合材料に埋設された割合である埋没割合は、高速充放電特性を向上する上で、60~80%がより好ましい。
【0034】
本出願書類において、複合黒鉛粒子を断面観察したときにおける、非晶質炭素粒子が非晶質炭素化結合材料に埋め混まれた割合である埋没割合の算出方法を、図3を用いて説明すると以下のとおりとなる。
すなわち、図3に示すように、リチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子10を走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子社製JSM7900F)により断面観察した場合において、非晶質炭素粒子3の輪郭と非晶質炭素化結合材料2の外側の輪郭との交点を、交点6a、交点6bとする。交点6aと交点6b結んだ線よりも黒鉛粒子1側にある部分(図3(A)の斜線部)が、非晶質炭素粒子3の埋没部分5である。そして、非晶質炭素粒子3の埋没部分5(図3(A)の斜線部)の面積γおよび非晶質炭素粒子3の全体7(図3(B)の斜線部)の面積δを、画像解析ソフトウェア(三谷商事(株)製WINROOF)を用いて算出した上で、各非晶質炭素粒子の埋没割合(%)を下記式(2)により求める。
断面観察による各非晶質炭素粒子の埋没割合(%)=(非晶質炭素粒子の埋没部分の面積γ/非晶質炭素粒子の全体の面積δ)×100 (2)
そして、上記断面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察による各非晶質炭素粒子の埋没割合の算出を、10箇所について行って、その算術平均値を非晶質炭素粒子の埋没割合とする。
【0035】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子において、黒鉛粒子100.0質量部に対する非晶質炭素粒子の割合は、好ましくは2.0~10.0質量部である。非晶質炭素粒子の割合が黒鉛粒子100.0質量部に対し2.0~10.0質量部であることにより、得られる複合黒鉛粒子をリチウムイオン二次電池用負極材として使用したときに、高速充放電特性を付与しつつ、高い可逆容量を容易に達成することができる。
黒鉛粒子100.0質量部に対する非晶質炭素粒子の割合は、可逆容量をさらに向上する上で、2.0~5.0質量部であることがより好ましい。
【0036】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子は、タップ密度が0.60g/cm以上であることが好ましく、タップ密度が0.60g/cm以上であることにより、微粒状物が少なく、大多数の粒子が比較的狭い粒度範囲内にあり、このために比表面積の増加を抑制して優れた初期効率を容易に発揮することができる。
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子のタップ密度は、初期効率をさらに向上する上では、0.70g/cm以上がより好ましく、初期効率を特に向上する上では、0.80g/cm以上がさらに好ましい。
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子のタップ密度の上限は特に制限されないが、上記タップ密度は、粒子間導電パスの確保及び浸液性の確保が可能となる点で、1.20g/cm以下が好ましい。
【0037】
なお、本出願書類において、タップ密度は、25mlメスシリンダーに黒鉛粒子粉末5gを投入し、筒井理化学器械(株)製のタッピング式粉体減少度測定器を用いてギャップ10mmにて1000回タッピングを繰り返した後の見かけ体積の値と、メスシリンダーに投入した複合黒鉛粒子粉末の質量から、下記式(3)により算出した値を意味する。
タップ密度(g/cm)=メスシリンダーに投入した粉末の質量(g)/1000回タッピングを繰り返した後の見かけ体積の値(cm) (3)
【0038】
レーザー回折粒度分布における複合黒鉛粒子の平均粒子径D50 は、5.0~30.0μmが好ましく、複合黒鉛粒子の平均粒子径D50が上記範囲にあることにより、反応比表面積が増加して反応抵抗が下がり優れた高速充放電特性を発揮するとともに、黒鉛粒子内のリチウムイオンの移動速度を向上させ易くなる。
レーザー回折粒度分布における複合黒鉛粒子の平均粒子径D50 は、初回充電時における不可逆容量の増大を抑制する上では7.0μm以上がより好ましく、また、高速充放電性能をさらに向上する上では25.0μm以下がより好ましく、高速充放電性能を特に向上する上では20.0μm以下がさらに好ましい。
【0039】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子の粒度分布指数SPAN((D90-D10)/D50)は、2.0未満が好ましく、粒度分布指数SPAN((D90-D10)/D50)が2.0未満であることにより、微粒状物が少なく、大多数の粒子が比較的狭い粒度範囲内にあることから、比表面積の増加を抑制してリチウムイオン二次電池において優れた初期効率を容易に発揮することができる。
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子の粒度分布指数SPAN((D90-D10)/D50)は、比表面積の増加を抑制する上では1.0未満がより好ましい。
【0040】
なお、本出願書類において、粉末又は粒子のD10、D50(平均粒子径)およびD90は、レーザー回折粒度分布測定装置((株)堀場製作所製LA-960S)を用いて体積基準積算粒度分布を測定したときの積算粒度が、それぞれ、10%、50%および90%の粒径を意味する。
【0041】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子の窒素吸着比表面積(NSA)は、3.0 ~7.0m/gが好ましく、複合黒鉛粒子の比表面積が上記範囲内にあることにより、リチウムイオン二次電池用負極材として使用したときに初期効率の低下を容易に抑制することができる。
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子の窒素吸着比表面積(NSA)は、初期効率の低下をさらに抑制する上では3.0~5.0m/gがより好ましい。
【0042】
なお、本出願書類において、粉末又は粒子の窒素吸着比表面積(NSA)は、全自動表面積測定装置((株)島津製作所製ジェミニV)を用い、窒素吸着等温線における相対圧0.05~0.2の範囲におけるBET多点法により算出される値を意味する。
【0043】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子のラマンR(ラマンスペクトル強度比R)は、0.3以上が好ましく、リチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子のラマンRが上記範囲にあることにより、粒子表面が十分に非晶質化されているため、反応抵抗が低く、リチウムイオン二次電池用負極材の高速充放電特性を容易に向上させることができる。
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子のララマンR(ラマンスペクトル強度比R)は、高速充放電性能をさらに向上する上では、0.4以上がより好ましい。
【0044】
なお、本出願書類において、ラマンRは、波長532nmのNd/YAGレーザーを備えたラマン分光分析器(堀場製作所社製、HR800 )で測定し、表層での結晶欠陥及び積層構造の不整合等による結晶構造の乱れに帰属する1360cm-1 近傍のスペクトルI 1360を、炭素六角網面内の格子震動に相当するE2g型振動に帰属する1580cm-1近傍のスペクトルI 1580で除し、ラマンR=(I 1360/I 1580)により算出したときに、100μmの照射面積にて10点以上測定した平均値を意味する。
【0045】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子は、平均格子面間隔d(002)が0.3360nm以下であることが好ましく、複合黒鉛粒子の平均格子面間隔d(002)が0.3360nm以下であることにより、リチウムイオン二次電池用負極材として使用したときに可逆容量を十分に向上させることができる。
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子において、平均格子面間隔d(002)は、可逆容量をさらに向上する上では、0.3358nm以下であることがより好ましい。
【0046】
なお、本出願書類において、平均格子面間隔d(002)は、X線回折装置((株)リガク製UltimaIV)を用い、Cu-Kα線をNiフィルターで単色化したX線を使用して、高純度シリコンを標準物質として粉末X線回折法で測定を行い、得られた炭素(002)面の回折ピークの強度と半値幅より、日本学術振興会第117委員会によって定められた学振法に従って求めた値を意味する。
【0047】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材は、以下に詳述する本発明に係る製造方法により好適に製造することができる。
【0048】
本発明によれば、初期効率に優れ、高速充放電特性を付与した、高い放電容量を達成し得るリチウムイオン二次電池用負極材を提供することができる。
【0049】
次に、本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法について説明する。
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法は、黒鉛粒子と樹脂溶液とを混合することにより、前記黒鉛粒子が樹脂で覆われた樹脂被覆黒鉛粒子を得る被覆工程と、
前記樹脂被覆黒鉛粒子に対し、非晶質炭素粒子を前記黒鉛粒子100.0質量部当たり2.0~10.0質量部混合して、前記樹脂被覆黒鉛粒子の表面に前記非晶質炭素粒子が付着した非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を得る工程と、
前記非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を焼成炭化する焼成炭化工程と
を有する
ことを特徴とするものである。
【0050】
本発明に係る製造方法においては、被覆工程において、黒鉛粒子と樹脂溶液とを混合することにより、上記黒鉛粒子が樹脂で覆われた樹脂被覆黒鉛粒子を得る。
【0051】
被覆工程に係る黒鉛粒子としては、特に制限されないが、扁平状の黒鉛が球状に凝集したものが好ましい。黒鉛粒子は、天然黒鉛からなるものであってもよいし、人造黒鉛からなるものであってもよい。
【0052】
本発明に係る製造方法において、黒鉛粒子の平均粒子径D50は、5.0~30.0μmが好ましく、黒鉛粒子の平均粒子径D50が上記範囲内にあることにより、反応比表面積が増加して反応抵抗が低下し易くなるとともに、黒鉛粒子内のリチウムイオンの移動速度も向上し易くなる。
本発明に係る製造方法において、黒鉛粒子の平均粒子径D50は、初回充電時の不可逆容量の増大を抑制する上では、7.0μm以上がより好ましく、また、高速充放電性能をさらに向上する上では、25.0μm以下がより好ましく、高速充放電性能を特に向上する上では、20.0μm以下がさらに好ましい。
【0053】
本発明に係る製造方法において、黒鉛粒子の平均格子面間隔d(002)は、0.3360nm以下であり、黒鉛粒子の平均格子面間隔d(002)が上記範囲内にあることにより、可逆容量を十分に大きくすることができる。
本発明に係る製造方法において、黒鉛粒子の平均格子面間隔d(002)は、可逆容量をさらに向上する上では、0.3358nm以下が好ましい。
【0054】
被覆工程で用いられる樹脂溶液を構成する樹脂は、結合剤として使用されるものであり、焼成炭化工程において炭化し非晶質の炭素材料となるものであれば、特に制限されない。
上記樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂やアクリル樹脂などの熱可塑性樹脂、フェノール樹脂や尿素樹脂などの熱硬化性樹脂等の合成樹脂から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0055】
被覆工程で用いられる樹脂溶液を構成する溶剤としては、特に制限されず、水、ジエチレングリコール等のアルコール類、またはそれらの混合物から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0056】
上記樹脂溶液を構成する樹脂濃度は、後述する焼成炭化処理後において、黒鉛粒子100.0質量部あたり、4.0~16.0質量部の非晶質炭素化結合材料を生成する濃度であることが好ましく、上記樹脂溶液を構成する樹脂濃度が上記範囲内にあることにより、黒鉛粒子に対し、非晶質炭素粒子を所望の付着力で付着させることができる。
上記樹脂溶液を構成する樹脂濃度は、後述する焼成炭化処理後において、非晶質炭素粒子の付着率を所望範囲に制御する上では、黒鉛粒子100.0質量部あたり、6.0~14.0質量部の非晶質炭素化結合材料を生成する濃度であることがより好ましく、非晶質炭素粒子の付着率をさらに所望範囲に制御する上では、黒鉛粒子100.0質量部あたり、8.0~12.0質量部の非晶質炭素化結合材料を生成する濃度であることがさらに好ましい。
【0057】
上記樹脂溶液の粘度は、0.005~40Pa・sが好ましく、上記樹脂溶液を構成する樹脂粘度が上記範囲内にあることにより、黒鉛粒子に対し、非晶性炭素粒子を均一に所望の付着力で付着させることができる。上記樹脂溶液の粘度は、非晶質炭素粒子の付着率を所望範囲に制御する上で、0.3~10Pa・sがより好ましい。
なお、本出願書類において、樹脂溶液の粘度は、回転式b型粘度計により測定される値を意味する。
【0058】
被覆工程において、黒鉛粒子に混合、接触させる樹脂の量は、黒鉛粒子100.0質量部あたり、10.0~60.0質量部であることが好ましく、被覆工程において黒鉛粒子に混合、接触させる樹脂の量が上記範囲内にあることにより、被覆粒子との結着面積が大きくなるため結着力が増加し、かつ、均一な被覆が可能となる。
被覆工程において、黒鉛粒子に混合、接触させる樹脂の量は、さらに均一な被覆を可能とする上では、黒鉛粒子100.0質量部あたり10.0~50.0質量部であることがより好ましく、特に均一な被覆を可能とする上では、黒鉛粒子100.0質量部あたり10.0~40.0質量部であることがさらに好ましい。
【0059】
被覆工程において、黒鉛粒子と樹脂溶液を混合する方法としては、特に制限されず、ニーダー、トリミクス、ハイスピードミキサー、ヘンシェルミキサー等の混合機を用いて混合する方法が挙げられる。
【0060】
被覆工程において、黒鉛粒子と樹脂溶液を混合するときの混合温度は、特に限定されないが、樹脂の粘度が0.005~40Pa・sとなるよう調整することが好ましい。
【0061】
本発明に係る製造方法においては、被覆工程において、黒鉛粒子に樹脂溶液を混合、接触させて樹脂を付着することにより、後述する非晶質炭素粒子を固定する結合剤(バインダー)とする。
このとき、樹脂溶液の濃度、粘度ないしは使用量を適宜調整することにより、黒鉛粒子や後述する非晶質炭素粒子への付着量や、黒鉛粒子表面における樹脂層の厚さを容易に制御することができ、このために、焼成炭化して得られる塊状物を粉砕処理して複合黒鉛粒子を得る際に、衝撃を緩和して、微粉状物の生成を抑制し、粒度分布の狭い粒度の揃った複合黒鉛粒子を容易に得ることができる。
このため、本発明に係る製造方法によれば、リチウムイオン二次電池用負極材として使用したときに優れた初期効率を発揮する複合黒鉛粒子を容易に製造することができる。
【0062】
本発明に係る製造方法においては、被覆工程で得られた樹脂被覆黒鉛粒子に対し、非晶質炭素粒子を前記黒鉛粒子100.0質量部当たり2.0~10.0質量部混合して、前記樹脂被覆黒鉛粒子の表面に非晶質炭素粒子が付着した非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を得る。
【0063】
上記非晶質炭素粒子としては、特に制限されないが、例えば、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカーボンブラックから挙げられる一種以上を挙げることができる。
【0064】
本発明に係る製造方法において、非晶質炭素粒子は、平均粒子径が、50~300nmであることが好ましく、非晶質炭素粒子の平均粒子径が上記範囲内にあることにより、不可逆容量の増大を抑制しつつ、リチウムイオン二次電池用負極材として高速充放電特性に優れた複合黒鉛粒子を容易に得ることができる。
本発明に係る製造方法において、非晶質炭素粒子の平均粒子径は、不可逆容量の増大をさらに抑制する上では、100nm以上がより好ましく、また、高速充放電性能をさらに向上させる上では200nm以下がより好ましい。
【0065】
なお、本出願書類において、本発明に係る製造方法で使用する非晶質炭素粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM、(株)日立製作所製H-7650型透過型電子顕微鏡)を用いて各非晶質炭素粒子を観察したときに、画像解析ソフト(三谷商事(株)製WINROOF)により、各非晶質炭素粒子の外接円の直径を各々の粒子径として、10,000個の非晶質炭素粒子の粒子径を求めたときの算術平均値を意味する。
【0066】
本発明に係る製造方法において、非晶質炭素粒子の平均格子面間隔d(002)は、0.3370nm以上であり、非晶質炭素粒子の平均格子面間隔d(002)が上記範囲内にあることにより、粒子表面の反応抵抗が低下し易くなり優れた高速充放電特性を発揮し易くなる。
本発明に係る製造方法において、非晶質炭素粒子の平均格子面間隔d(002)は、高速充放電特性を向上する上で、0.3400nm以上であることが好ましく、さらに高速充放電性能を向上し得る点で、0.3500nm以上であることがより好ましい。
【0067】
本発明に係る製造方法において、非晶質炭素粒子がカーボンブラックである場合、カーボンブラックのDBP吸油量は、300ml/100g以下が好ましく、カーボンブラックのDBP吸油量が300ml/100g以下であることにより、得られる複合黒鉛粒子の比表面積の増大を抑制し、リチウムイオン二次電池用負極材として使用したときに初回充電時の不可逆容量の増大を容易に抑制することができる。
本発明に係る製造方法において、非晶質炭素粒子がカーボンブラックである場合、カーボンブラックのDBP吸油量は、不可逆容量の増大をさらに抑制する上で250ml/100g以下がより好ましく、不可逆容量の増大を特に抑制する上で200ml/100g以下がさらに好ましい。
【0068】
本発明に係る製造方法においては、樹脂被覆黒鉛粒子に対し、非晶質炭素粒子を、(樹脂被覆黒鉛粒子を構成する)黒鉛粒子100.0質量部当たり、2.0~10.0質量部混合する。
非晶質炭素粒子の混合量が上記範囲内にあることにより、得られる複合黒鉛粒子をリチウムイオン二次電池用負極材として使用したときに、高速充放電特性を付与すると共に、高い可逆容量を容易に達成することができる。
本発明に係る製造方法においては、初回充電時の不可逆容量の増大を抑制する上で、樹脂被覆黒鉛粒子に対し、非晶質炭素粒子を、(樹脂被覆黒鉛粒子を構成する)黒鉛粒子100.0質量部当たり、2.0~5.0質量部混合することが好ましい。
【0069】
本発明に係る製造方法においては、樹脂被覆黒鉛粒子に対し非晶質炭素粒子を混合することにより、樹脂被覆黒鉛粒子の表面に前記非晶質炭素粒子が付着した非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を得る。
【0070】
樹脂被覆黒鉛粒子に対し、特定の非晶質炭素粒子を混合するときの処理温度は、特に限定されるものではないが、樹脂の粘度が0.005~40Pa・sとなるように調整することが好ましい。
【0071】
樹脂被覆黒鉛粒子に対し非晶質炭素粒子を混合する工程において、混合手段としては、ニーダー、トリミクス、ハイスピードミキサー、ヘンシェルミキサー等から選ばれる一種以上の混合装置を挙げることができる。
本発明に係る製造方法において、樹脂被覆黒鉛粒子と非晶質炭素粒子との混合を、ヘンシェルミキサー(三井鉱山(株)製FM20C)を用いて行う場合、例えば、樹脂被覆黒鉛粒子を収容したヘンシェルミキサーの槽内にカーボンブラック等の非晶質炭素粒子を投入し、所定の温度に到達した後、周速30m/sで15分間処理をする。
【0072】
本発明に係る製造方法においては、樹脂被覆黒鉛粒子の表面に非晶質炭素粒子が付着した非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子に対し、これを焼成炭化する焼成炭化工程を施す。
【0073】
非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を焼成炭化する温度は、800℃以上が好ましく、焼成炭化温度が上記範囲内にあることにより、特にカーボンブラック等に含まれる未燃分を十分に除去することができる。
非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を焼成炭化する温度は、未燃焼分を除去する上では1000℃以上がより好ましい。
焼成炭化する温度の上限は特に制限されないが、非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を焼成炭化する温度は、3000℃以下が好ましく、高速充放電特性が向上する点で2000℃以下がより好ましい。
【0074】
非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を焼成炭化する時間は、1時間以上であることが好ましく、焼成炭化時間が1時間以上であることにより、特にカーボンブラック等に含まれる未燃分を十分に除去することができる。
非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を焼成炭化する時間は、未燃焼分を除去する上では2時間以上であることがより好ましい。
【0075】
非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を焼成炭化するときの雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等の不活性ガス雰囲気である。
【0076】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法では、炭化焼成工程を行って得られる焼成炭化物に粉砕処理を施し、必要に応じて分級処理等を施してもよい。
【0077】
本発明に係る製造方法によって得られるリチウムイオン二次電池用負極材としては、本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材を挙げることができる。
【0078】
本発明によれば、初期効率に優れ、高速充放電特性を付与し、高い放電容量を達成し得るリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供することができる。
【0079】
次に、本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料について説明する。
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料1は、
黒鉛粒子の表面に樹脂とともに非晶質炭素粒子が付着した非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子が、複数結着した結着集合物からなり、
当該結着集合物は、前記黒鉛粒子100.0質量部あたり前記非晶質炭素粒子を2.0~10.0質量部含む
ことを特徴とするものである。
【0080】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料1は、本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子の製造するための中間体と称すべきものであり、本発明に係る製造方法において、樹脂被覆黒鉛粒子に対し非晶質炭素粒子を混合して、樹脂被覆黒鉛粒子の表面に前記非晶質炭素粒子が付着した非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を得る工程を施すことにより得られるものに相当する。
このため、本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料1において、黒鉛粒子、非晶質炭素粒子および樹脂の詳細は、本発明に係る製造方法の説明で述べた内容と同様である。
また、本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料1は、本発明に係る製造方法において、樹脂被覆黒鉛粒子に対し非晶質炭素粒子を混合して、樹脂被覆黒鉛粒子の表面に前記非晶質炭素粒子が付着した非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を得る工程を施すことにより製造することができ、その詳細は本発明に係る製造方法の説明で述べたとおりである。
【0081】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料1において、結着集合物は、黒鉛粒子100.0質量部あたり、非晶質炭素粒子を2.0~10.0質量部含むものであり、非晶質炭素粒子の割合が黒鉛粒子100.0質量部に対し2.0~10.0質量部であることにより、得られる複合黒鉛粒子をリチウムイオン二次電池用負極材として使用したときに、高速充放電特性を付与しつつ、高い可逆容量を容易に達成することができる。
黒鉛粒子100.0質量部に対する非晶質炭素粒子の割合は、可逆容量を容易に向上し得ることから、2.0~5.0質量部であることが好ましい。
【0082】
図4は、黒鉛粒子1の表面に樹脂とともに非晶質炭素粒子3が付着した非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子20が、複数結着した結着集合物30を示す断面の概略図である。
図4に例示するように、本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料1は、非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子20が複数結着した結着集合物30からなり、各非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子20は、互いに膜状の樹脂を介して適度な結着力で結着している。
このため、上記結着集合物を焼成炭化処理し、次いで粉砕する際に、粒子間に余分な衝撃力を加えることなく粉砕処理し得ることから、粒度分布が狭く粒度の揃った複合黒鉛粒子を好適に調製することができ、かつ、得られる複合黒鉛粒子の比表面積の増大を抑制することができる。このためにリチウムイオン二次電池用負極材として使用したときに、優れた初期効率を発揮し得る複合黒鉛粒子を提供することができる。
【0083】
また、本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料2は、黒鉛粒子の表面が非晶質炭素化結合材料と非晶質炭素粒子によって被覆された非晶質炭素粒子被覆黒鉛粒子が、複数固着した固着集合物からなり、
当該固着集合物は、前記黒鉛粒子100.0質量部あたり前記非晶質炭素粒子を2.0~10.0質量部含み、
粉砕前後におけるタップ密度の変化割合を表すタップ密度変化率が10%~60%のときに、窒素吸着比表面積の変化割合を示す比表面積変化率が20%以下である
ことを特徴とするものである。
【0084】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料2も、本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材を構成する複合黒鉛粒子の製造するための中間体と称すべきものであり、本発明に係る製造方法において、固着集合物は、非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を焼成炭化する焼成炭化工程を施すことにより得られるものに相当する。
このため、本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料2において、固着集合物の原料となる、黒鉛粒子、非晶質炭素粒子および樹脂の詳細は、本発明に係る製造方法の説明で述べた内容と同様である。
また、本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料2は、本発明に係る製造方法において述べたように、非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を焼成炭化する焼成炭化工程を施すことにより製造することができ、その詳細は本発明に係る製造方法の説明で述べたとおりである。
【0085】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料2において、固着集合物は、黒鉛粒子100.0質量部あたり、非晶質炭素粒子を2.0~10.0質量部含むものであり、非晶質炭素粒子の割合が黒鉛粒子100.0質量部に対し2.0~10.0質量部であることにより、得られる複合黒鉛粒子をリチウムイオン二次電池用負極材として使用したときに、高速充放電特性を付与しつつ、高い可逆容量を容易に達成することができる。
黒鉛粒子100.0質量部に対する非晶質炭素粒子の割合は、可逆容量を向上する上で、2.0~5.0質量部であることが好ましい。
【0086】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料2において、固着集合物の粉砕前後におけるタップ密度の変化割合を表すタップ密度変化率が10%~60%のときに、比表面積の変化割合を示す比表面積変化率が20%以下であることを特徴とするものである。
【0087】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料2は、固着集合物の粉砕前後におけるタップ密度の変化割合を表すタップ密度変化率が10%~60%のときに、窒素吸着比表面積の変化割合を示す比表面積変化率が、20%以下であり、固着集合物の粉砕前後における比表面積変化率が上記範囲内にあることにより、衝撃粉砕時における複合黒鉛粒子の損傷を低減し、比表面積の増大を抑制することで、初回充電時の不可逆容量の増大を容易に低減することができる。
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料2は、固着集合物の粉砕前後におけるタップ密度の変化割合を表すタップ密度変化率が10%~60%のときに、窒素吸着比表面積の変化割合を示す比表面積変化率が、不可逆容量の増大をさらに抑制する上で15%以下であることが好ましく、不可逆容量の増大を特に抑制する上で10%以下であることがより好ましい。
【0088】
なお、本出願書類において、上記タップ密度変化率、及び、比表面積変化率を算出する際の固着集合物の粉砕処理は、日清エンジニアリング(株)製のスーパーローター(SR25)を用いて4000rpmの回転数で処理することにより行われる。
また、粉砕前後のタップ密度および窒素吸着比表面積は、上述した方法により測定される値を意味し、タップ密度変化率および比表面積変化率は下記式(4)および(5)により算出される値を意味する。
タップ密度変化率=(粉砕後のタップ密度-粉砕前のタップ密度)/(粉砕前のタップ密度)×100 (4)
比表面積変化率=(粉砕後の窒素吸着比表面積-粉砕前の窒素吸着比表面積)/(粉砕前の窒素吸着比表面積)×100 (5)
【0089】
本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料2は、非晶質炭素粒子被覆黒鉛粒子が複数固着した固着集合物からなり、各非晶質炭素粒子被覆黒鉛粒子は、互いに膜状の非晶質炭素化結合材料を介して適度な固着力で固着している。
このため、上記固着集合物を粉砕する際に、粒子間に余分な衝撃力を加えることなく粉砕処理し得ることから、粒度分布が狭く粒度の揃った複合黒鉛粒子を好適に調製することができ、タップ密度変化率が10%~60%である場合においても比表面積変化率を20%以下に抑制することができる。
従って、本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料2をリチウムイオン二次電池用負極材として使用したときに、優れた初期効率を発揮することができる。
【0090】
本発明によれば、初期効率に優れ高い放電容量を達成し得るリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料を提供することができる。
【実施例
【0091】
(実施例1)
天然黒鉛(平均粒子径(D50)10.4μm、BET吸着比表面積7.4m/g、タップ密度0.76g/cm)100.0質量部、樹脂水溶液(住友ベークライト(株)製PR-56265:水=4:1(質量比))を20.0質量部、それぞれ混合機(三井鉱山(株)製ヘンシェルミキサー)に投入し、40℃で15分間混合した。次いで、40℃のまま、上記天然黒鉛100.0質量部に対し、平均粒子径が122nmのファーネスブラック(東海カーボン(株)製S-TA)5.0質量部を投入し、さらに10分間混合した。
得られた粉体を窒素ガス雰囲気下、1000℃で2時間焼成炭化した。次いで、得られた焼成粉を粉砕機(日清エンジニアリング(株)製スーパーローター:SR25)を用いて4000rpmで粉砕した後、分級(装置名:篩分級、目開き45μm)して、篩下分として複合黒鉛粒子(被覆率12%、タップ密度0.94g/cm、平均粒子径D5012.1μm、粒度分布指数SPAN0.9、窒素吸着比表面積4.7m/g)からなるリチウムイオン二次電池用負極材を得た。
上記粉砕処理前後におけるタップ密度変化率は17%、比表面積変化率は11%であった。
得られたリチウムイオン二次電池用負極材の分析結果及び評価結果を表1に示す。
【0092】
(実施例2)
実施例1において、樹脂水溶液(住友ベークライト(株)製PR-56265:水=4:1(質量比))を樹脂水溶液(住友ベークライト(株)製PR-56265:水=1:1(質量比))に変更した以外は、実施例1と同様にして、複合黒鉛粒子(被覆率10%、タップ密度0.95g/cm、平均粒子径D5012.0μm、粒度分布指数SPAN0.9、窒素吸着比表面積4.3m/g)からなるリチウムイオン二次電池用負極材を得た。
なお、粉砕前後におけるタップ密度変化率は16%、比表面積変化率は10%であった。
【0093】
(比較例1)
実施例1において、樹脂水溶液(住友ベークライト(株)製PR-56265:水=4:1(質量比))20.0質量部に代えてピッチ40.0質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、複合黒鉛粒子(被覆率14%、タップ密度0.89g/cm、平均粒子径D5016.1μm、粒度分布指数SPAN1.0、窒素吸着比表面積5.8m/g)からなるリチウムイオン二次電池用負極材を得た。
【0094】
(比較例2)
天然黒鉛100.0質量部に対するファーネスブラック(東海カーボン(株)製S-TA)の投入量を5.0質量部から50.0質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、複合黒鉛粒子(被覆率95%、タップ密度0.89g/cm、平均粒子径D5014.3μm、粒度分布指数SPAN1.1、窒素吸着比表面積7.8m/g)からなるリチウムイオン二次電池用負極材を得た。
【0095】
<被覆率測定時における走査型電子顕微鏡(SEM)測定条件>
分析装置:日本電子(株)製JSM7900F
加速電圧:2-5kVで加速した電子線を試料に当て二次電子像を観察。
【0096】
<カーボンブラックの平均粒子径測定時における透過型電子顕微鏡(TEM)測定条件>
分析装置:透過型電子顕微鏡(TEM、(株)日立製作所製H-7650型透過型電子顕微鏡
加速電圧:100kV
【0097】
<平均粒子径D50およびSPANの測定条件>
分析装置:堀場製作所社製:LA-960S
光源 :半導体レーザー(650nm)
蒸留水100質量部に対して10質量%の両性界面活性剤を添加した水溶液に対し、粉末を投入して超音波で分散させた。分散させた粉末を装置内の測定セルにフローし、レーザーを照射する。散乱光をリング状検出器で検出、解析することで求めた粒度分布から、平均粒子径D50およびSPANを求めた。
【0098】
<タップ密度の測定条件>
25mlメスシリンダーに黒鉛粒子粉末5gを投入し、筒井理化学器械(株)製のタッピング式粉体減少度測定器を用いてギャップ10mmにて1000回タッピングを繰り返した後の見かけ体積の値と、メスシリンダーに投入した黒鉛粒子粉末の質量から、下記式(3)により算出した。
タップ密度(g/cm)=メスシリンダーに投入した粉末の質量(g)/1000回タッピングを繰り返した後の見かけ体積の値(cm) (3)
【0099】
(電池特性評価方法)
各実施例および比較例で得られた複合黒鉛粒子を用いて、以下の方法により極板密度を測定するとともに、ラミネート電池を作製して各種電池特性を求めた。
【0100】
<極板密度>
(1)電極シートの作製
複合黒鉛粒子90.2重量%に対し、N-メチル-2ピロリドンに溶解した有機系結着材ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を固形分で9.8重量%加えて攪拌混合し、負極合材ペーストを調製する。
得られた負極合材ペーストを厚さ20μmの銅箔(集電体)上にドクターブレード法で塗布した後、乾燥機で90℃、90分間、更に真空中で130℃、11時間加熱して溶媒を完全に揮発させ、目付量が3.5±0.2mg/cmである電極シートを得る。
なお、ここで目付量とは、電極シートの単位面積当たりの複合黒鉛粒子の重量を意味する。
【0101】
(2)極板密度の測定
上記電極シートを幅6cmの短冊状に切り出し、極板密度が1.2g/cmとなるようにローラープレスによる圧延を行う。プレスした電極シートは縦2.8cm、横5.5cmに切断する。各重量A(g)と中心部分の厚みB(cm)から下記式(6)によって各々得られる極板密度の算術平均値を極板密度とした。
【0102】
極板密度(g/cm)={(A(g)-銅箔重量(g))×負極合材層中の複合黒鉛粒子の重量割合(0.902)}/{(B(cm)-銅箔厚み(cm))×電極面積(cm)} (6)
<ラミネート電池の作製>
上記極板密度の測定に使用したものと同一の電極シートを作製し負極とした。
その上で、評価用電池として、正極(Li金属、セパレータ(ポリプロピレン)、負極を順に積層し、さらに、Niタブを取り付けた後、積層物をアルミラミネートして、ラミネート電池を不活性雰囲気下で組み立てた。電解液は1 mol/dmのリチウム塩LiPFを溶解したエチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)1:1混合溶液を使用した。充電は電流密度0 .2mA/cm、終止電圧5mV で定電流充電を終えた後、下限電流0.02mA/cmとなるまで定電位保持する。放電は電流密度0.2mA/cmにて終止電圧1.5Vまで定電流放電を行い、3サイクル終了後の放電容量を可逆容量とした。初期効率は、1サイクル目の放電容量を1サイクル目の充電容量で除した値(%)である。5Cの充電容量は、3サイクル後の完放電の状態から、12分間で満充電させたときの充電容量である。
【0103】
上記各実施例および比較例で使用した原料配合(質量部)、得られた複合黒鉛粒子の特性を表1に示す。また、上記各実施例および比較例で得られた負極材からなる電極(負極)を用いて各々ラミネート電池を作製したときの電池特性を表1に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
表1より、実施例1~実施例2で得られたリチウムイオン二次電池用負極材は、特定工程として、被覆工程、非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を得る工程および焼成炭化工程を施して得られた、特定の複合黒鉛粒子からなるものであることから、リチウムイオン二次電池に用いたときに初期効率に優れ高い放電容量を達成し得るものであることが分かる。
【0106】
一方、表1より、比較例1~比較例2で得られたリチウムイオン二次電池用負極材は、被覆工程で樹脂を用いていなかったり(比較例1)、非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子を得る工程で使用する黒鉛粒子100.0質量部当たりの非晶質炭素粒子量が所定範囲外であったり、複合黒鉛粒子の被覆率が50%未満である(比較例2)ために、リチウムイオン二次電池に用いたときに初期効率または放電容量に劣ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明によれば、初期効率に優れ高い放電容量を達成し得るリチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法およびリチウムイオン二次電池用負極材の製造材料を提供することができる。
【符号の説明】
【0108】
1 黒鉛粒子
2 非晶質炭素化結合材料
3 非晶質炭素粒子
4 被覆層
5 非晶質炭素粒子埋没部分
6a、6b 交点
7 非晶質炭素粒子全体
8 非晶質炭素化結合材料の厚み
9 枠線
10 複合黒鉛粒子
20 非晶質炭素粒子付着黒鉛粒子
30 結着集合物
図1
図2
図3
図4