(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】内部変調機能付きマグネトロンRF源を使用したパルス電力生成
(51)【国際特許分類】
H05H 7/18 20060101AFI20221227BHJP
H05H 7/20 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
H05H7/18
H05H7/20
(21)【出願番号】P 2020512824
(86)(22)【出願日】2018-08-28
(86)【国際出願番号】 US2018048384
(87)【国際公開番号】W WO2019046327
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-08-13
(32)【優先日】2017-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520068353
【氏名又は名称】ミューオンズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MUONS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】カザケーヴィチ、グリゴリー エム.
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/090342(WO,A1)
【文献】特開2006-094214(JP,A)
【文献】特開2007-228219(JP,A)
【文献】特表平03-500946(JP,A)
【文献】CHEN S C, BEKEFI G, TEMKIN R J,Injection locking of a long-pulse relativistic magnetron.,Conference Record of the 1991 IEEE Particle Accelerator Conference, Vol.2,米国,1991年,751-753,会議録:IEEE Particle Accelerator Conference(14th)San Francisco, Calif.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 3/00-15/00
H01J 23/34
H01J 23/36
H01J 23/20
H01J 25/50
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線周波数(RF)電力生成のためのシステムであって、
第1のパルスマグネトロン出力信号を使用してパルスRF送信機出力信号を生成するように構成されたRFパルス送信機を備え、前記RFパルス送信機が、
パルスRF送信機入力信号を受信する送信機入力と、
パルスRF送信機出力信号を送信する送信機出力と、
第1の自励しきい値電圧を有し、前記第1の自励しきい値電圧未満の第1の電圧レベルで駆動されているときに前記パルスRF送信機入力信号を使用した内部変調動作により前記第1のパルスマグネトロン出力信号を生成するように構成された第1のマグネトロンと、
前記第1のマグネトロンに電力を供給するように構成された第1の直流(DC)電源と、を含む、システム。
【請求項2】
前記送信機出力に結合され、前記パルスRF送信機出力信号を受信して、前記パルスRF送信機出力信号により駆動されるように構成された超伝導RF加速空洞をさらに備える請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記RFパルス送信機が、前記第1のマグネトロンへの前記パルスRF送信機入力信号の方向付けと、前記送信機出力への前記第1のパルスマグネトロン出力信号の方向付けとを同時に行って前記RFパルス送信機を反射波から保護するように構成された1つまたは複数のサーキュレータをさらに含む、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記RFパルス送信機が、前記送信機入力と前記第1のマグネトロンとの間に結合されて前記パルスRF送信機入力信号の測定を可能にするように構成された第1方向性結合器と、前記第1のマグネトロンと前記送信機出力との間に結合されて前記パルスRF送信機出力信号の測定を可能にするように構成された第2方向性結合器とのうちの少なくとも一方をさらに含む、請求項1~3のうちのいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記RFパルス送信機が、前記パルスRF送信機入力信号および前記パルスRF送信機出力信号を測定し、当該測定結果を使用して前記第1のDC電源を制御するように構成された低レベルRFシステムをさらに含む、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記RFパルス送信機が、
第2の自励しきい値電圧を有し、前記第1のマグネトロンと直列に接続され、前記第2の自励しきい値電圧未満の第2の電圧レベルで駆動されているときに前記第1のパルスマグネトロン出力信号を使用した内部変調動作により第2のパルスマグネトロン出力信号を生成するように構成された第2のマグネトロンと、
前記第2のマグネトロンに電力を供給するように構成された第2の直流(DC)電源と、
をさらに含み、
前記RFパルス送信機が、前記第2のパルスマグネトロン出力信号を前記送信機出力へ方向付けて前記パルスRF送信機出力信号として送信するように構成されている、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項7】
前記RFパルス送信機が、前記第1のマグネトロンへの前記パルスRF送信機入力信号の方向付けと、前記第2のマグネトロンへの前記第1のパルスマグネトロン出力信号の方向付けと、前記送信機出力への前記第2のパルスマグネトロン出力信号の方向付けとを同時に行って前記RFパルス送信機を反射波から保護するように構成された4ポートサーキュレータをさらに含む、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記RFパルス送信機が、前記第2のDC電源を制御することにより前記パルスRF送信機出力信号の電力を制御するように構成された位相および電力コントローラをさらに含む、請求項6または7に記載のシステム。
【請求項9】
前記送信機出力に結合され、前記パルスRF送信機出力信号を受信して、前記パルスRF送信機出力信号により駆動されるように構成された超伝導RF(SRF)加速空洞をさらに備え、前記RFパルス送信機が、前記SRF加速空洞のパルスRF加速場の位相および振幅を測定するように構成されたRFプローブをさらに含み、前記位相および電力コントローラが、前記パルスRF加速場の前記測定された位相を前記パルスRF送信機入力信号の位相と比較することに基づいて前記パルスRF加速場の位相を制御するとともに、前記パルスRF加速場の前記測定された振幅に基づいて前記パルスRF送信機出力信号の電力を制御するように構成されている、請求項6~8のうちのいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
無線周波数(RF)電力生成のための方法であって、
パルスRF送信機入力信号を受信すること、
第1の自励しきい値電圧を有する第1のマグネトロンを動作させることであって、
第1の直流(DC)電源を使用して、前記第1の自励しきい値電圧未満の第1の電圧レベルで前記第1のマグネトロンを駆動すること、
前記パルスRF送信機入力信号を使用した内部変調によって第1のパルスマグネトロン出力信号を生成すること、
を含む前記第1のマグネトロンを動作させること、
前記第1のパルスマグネトロン出力信号を使用してパルスRF送信機出力信号を生成すること、を備える方法。
【請求項11】
前記パルスRF送信機出力信号を使用して超伝導RF加速空洞を駆動することをさらに備える請求項10に記載の方法。
【請求項12】
1つまたは複数のサーキュレータを使用して前記パルスRF送信機入力信号から前記パルスRF送信機出力信号を分離することをさらに備える請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記パルスRF送信機入力信号および前記パルスRF送信機出力信号を測定すること、
当該測定結果を使用して前記第1のDC電源を制御すること、
をさらに備える請求項10~12のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
第2の自励しきい値電圧を有する第2のマグネトロンを動作させることであって、
第2のDC電源を使用して、前記第2の自励しきい値電圧未満の第2の電圧レベルで前記第2のマグネトロンを駆動すること、
前記第1のパルスマグネトロン出力信号を使用した内部変調により第2のパルスマグネトロン出力信号を生成すること、
を含む前記第2のマグネトロンを動作させること、
前記第2のパルスマグネトロン出力信号を前記パルスRF送信機出力信号として送信すること、
をさらに備える請求項10または11に記載の方法。
【請求項15】
サーキュレータを使用して、前記第1のマグネトロンへの前記パルスRF送信機入力信号の方向付けと、前記第2のマグネトロンへの前記第1のパルスマグネトロン出力信号の方向付けと、前記パルスRF送信機出力信号を送信する出力への前記第2のパルスマグネトロン出力信号の方向付けとを同時に行うことをさらに備える請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記パルスRF送信機出力信号を使用して超伝導RF(SRF)加速空洞を駆動すること、
前記SRF
加速空洞内のパルスRF加速場の位相および振幅を測定すること、
当該測定結果を使用して、前記パルスRF送信機入力信号の位相と前記第2のDC電源の電圧とを制御することにより、前記パルスRF送信機出力信号の位相および振幅を制御すること、
をさらに備える請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
加速空洞を駆動するためのシステムであって、
入力インジェクションロック信号を受信するマグネトロンであって、前記マグネトロンの自励に必要な臨界電圧未満の未臨界カソード電圧で前記マグネトロンを前記入力インジェクションロック信号により動作させることが可能な場合に前記入力インジェクションロック信号を使用してインジェクションロック出力信号を生成し、前記入力インジェクションロック信号の強さが前記未臨界カソード電圧で前記マグネトロンを動作させるには十分でない場合に前記インジェクションロック出力信号を遮断するように構成された前記マグネトロンと、
前記マグネトロンに結合され、前記未臨界カソード電圧を供給するとともに当該カソード電圧を制御することにより前記インジェクションロック出力信号の電力を制御するように構成されたカソード電圧供給システムと、を備えるシステム。
【請求項18】
前記カソード電圧供給システムが、前記未臨界カソード電圧を供給して、前記入力インジェクションロック信号を制御することにより前記マグネトロンをオンオフ可能にするように構成されている、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記マグネトロンに直列に接続された追加のマグネトロンをさらに備え、前記追加のマグネトロンが、前記インジェクションロック出力信号を受信して、前記追加のマグネトロンの自励に必要な臨界電圧未満の追加の未臨界カソード電圧で動作することにより追加の出力信号を生成して前記追加の出力信号の電力を制御するように構成されている、請求項17に記載のシステム。
【請求項20】
前記追加のマグネトロンが、超伝導無線周波数(RF)加速空洞である前記加速空洞を駆動するのに適したRFパルス信号である前記追加の出力信号を生成するように構成されている、請求項19に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、概して、無線周波数(RF)電力の生成に関し、特に、出力電力の内部パルス変調機能付きマグネトロン送信機に関する。本出願は、例えば、強度フロンティア(intensity-frontier)パルス加速器の超伝導RF(SRF)空洞を駆動することを含む。本出願は、2017年8月28日に出願された「内部高電圧変調付き高電力パルスマグネトロン送信機」(HIGH-POWER PULSED MAGNETRON TRANSMITTER WITH INTERNAL HIGH VOLTAGE MODULATION)を名称とする米国仮特許出願番号第62/551,066号に基づく優先権の利益を主張し、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
近年の強度フロンティア超伝導パルス加速器は、SRF空洞加速場の位相および振幅の不安定性をそれぞれ1度および1%よりもはるかに小さい値にするために、数十kWの平均電力で数百kWまでのパルス電力を有する無線周波数(RF)源を必要とする。マイクロフォニック、ローレンツ力離調(LFD)、およびビーム負荷の悪影響は、必要レベルの加速場安定性をサポートするべく動的な位相および電力制御によって補償される。このような制御の実装を成功させるには、RF送信機の十分に広い帯域幅が必要となる。
【0003】
クライストロン、誘導出力管(IOT)、ソリッドステート増幅器などの伝統的なRF源は高価であり、そのコストは加速器プロジェクトのコストのかなりの部分を占めている。メガワット(MW)スケールのクライストロンによる空洞の給電群を使用すると、コストを幾らか削減できるが、MWスケールのクライストロン用の変調器は非常に高価である。さらに、この選択は、空洞群について加速電圧のベクトル和の制御のみを提供するため、縦方向のビーム放射を最小化するには不十分となり得る。従って、大規模プロジェクトの高強度パルス加速器においては、キャリア周波数付近で位相および電力が動的に制御され、各SRF空洞に個別に給電し、高電圧変調器なしで動作するRF源が好ましい。
【0004】
マグネトロンは、上述した伝統的なRF源よりも効率的で安価である([1])。低資本コスト(例えば、1ワットあたり最大1米ドル)のマグネトロン電力により、各空洞を個別に駆動することができ、各空洞の電圧と位相の安定性を大幅に向上することができる。従って、大規模加速器プロジェクトにおいてマグネトロンRF源を使用することにより、RF発電システムのコストを大幅に削減することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
以下の文献は、括弧内の参照番号を用いて本明細書で引用され、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【文献】[1]G. Kazakevich, ”High-Power Magnetron RF Source for Intensity-Frontier Superconducting Linacs”, EIC 2014, TUDF1132, http://appora.fnal.gov/pls/eic14/agenda.full, (2014)
【文献】[2]G. Kazakevich, R. Johnson, V. Lebedev, V. Yakovlev, V. Pavlov, “Resonant interaction of the electron beam with a synchronous wave in controlled magnetrons for high-current superconducting accelerators”, Phys. Rew. Accelerators and Beams 21, 062001 (2018)
【文献】[3]G. Kazakevich, V. Lebedev, V. Yakovlev, V. Pavlov, “An efficient magnetron transmitter for superconducting accelerators”, Nucl. Instrum. and Methods in Phys. Research, A839, 43-51 (2016)
【文献】[4]P. L. Kapitza, HIGH POWER ELECTRONICS, Sov. Phys. Uspekhi, V 5, # 5, 777-826, (1963)
【文献】[5]B. Chase, R. Pasquinelli, E. Cullerton, P. Varghese, “Precision vector control of a superconducting RF cavity driven by an injection locked magnetron”, JINST, 10, P03007, (2015)
【文献】[6]G. Kazakevich, R. Johnson, G. Flanagan, F. Marhauser, V. Yakovlev, B. Chase, V. Lebedev, S. Nagaitsev, R. Pasquinelli, N. Solyak, K. Quinn, D. Wolff, V. Pavlov, “High-power magnetron transmitter as an RF source for superconducting linear accelerators”, Nucl. Instrum. and Methods in Phys. Research, A 760, 19-27, (2014)
【発明の概要】
【0006】
システムは、1つまたは複数のマグネトロンを使用して、加速空洞を駆動するなどのためにパルス無線周波数(RF)電力を生成する。前記1つまたは複数のマグネトロンは各々自励(self-excitation)しきい値電圧を有し、前記自励しきい値電圧未満の電圧レベルで直流(DC)電源により駆動されているときにパルスRF入力信号を用いた内部変調動作によりパルスRF電力を生成するように構成されている。
【0007】
一実施形態において、RF電力生成のためのシステムは、パルスマグネトロン出力信号を使用してパルスRF出力信号を生成するように構成されたRFパルス送信機を含み得る。このパルスRF送信機は、入力、出力、マグネトロン、およびDC電源を含むことができる。前記入力は、パルスRF入力信号を受信する。前記出力は、パルスRF出力信号を送信する。前記マグネトロンは自励しきい値電圧を有し、前記自励しきい値電圧未満の電圧レベルで駆動されているときに前記パルスRF入力信号を用いた内部変調動作により前記パルスマグネトロン出力信号を生成するように構成され得る。前記DC電源は、前記マグネトロンに電力を供給するように構成され得る。
【0008】
一実施形態において、RF電力生成のための方法が提供される。この方法は、パルスRF入力信号を受信すること、自励しきい値電圧を有するマグネトロンを動作させること、およびパルスマグネトロン出力信号を使用してパルスRF出力信号を生成することを含み得る。前記マグネトロンを動作させることは、DC電源を使用して前記自励しきい値電圧未満の電圧レベルで前記マグネトロンを駆動すること、および前記パルスRF入力信号を使用した内部変調によってパルスマグネトロン出力信号を生成することを含み得る。
【0009】
一実施形態において、加速空洞を駆動するためのシステムは、マグネトロンとカソード電圧供給システムとを含み得る。前記マグネトロンは、入力インジェクションロック(injection-locking)信号を受信し、前記マグネトロンの自励に必要な臨界電圧未満の未臨界(subcritical)カソード電圧で前記マグネトロンを前記入力インジェクションロック信号により動作させることが可能な場合に前記入力インジェクションロック信号を使用してインジェクションロック出力信号を生成し、前記入力インジェクションロック信号の強さが前記未臨界カソード電圧で前記マグネトロンを動作させるには十分でない場合に前記インジェクションロック出力信号を遮断するように構成され得る。前記カソード電圧供給システムは、前記マグネトロンに結合され、前記未臨界カソード電圧を供給するとともに、当該カソード電圧を制御することによって前記インジェクションロック出力信号の電力を制御するように構成され得る。
【0010】
この概要は、本出願の教示の幾つかについての概要であり、本主題の排他的または網羅的な扱いとされることを意図していない。本主題に関するさらなる詳細は、詳細な説明および添付の特許請求の範囲に記載されている。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲およびそれらの法的均等物によって定義される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】十分な共振注入(インジェクションロック)信号で測定されたマグネトロン電圧電流(V-I)特性の一例を示すグラフ。
【
図2】自励のしきい値に対して上下する連続波(CW)の形態で動作するマグネトロンを試験するための実験的セットアップの実施形態を示すブロック図。
【
図3】種々の制御方法について電力制御の範囲に対して測定された相対平均マグネトロン効率の一例を示すグラフ。
【
図4】マグネトロンの種々の電力レベルで測定されたキャリア周波数のオフセットと、自励のしきい値に対して上下するマグネトロン電圧のロック信号の一例を示すグラフ。
【
図5A】自励のしきい値に対して上下するマグネトロンのノイズの測定電力スペクトル密度の一例を示すグラフ。
【
図5B】自励のしきい値に対して上下するマグネトロンのノイズの測定電力スペクトル密度の一例を示すグラフ。
【
図5C】自励のしきい値に対して上下するマグネトロンのノイズの測定電力スペクトル密度の一例を示すグラフ。
【
図6】自励しきい値未満で動作しかつ十分な電力のパルス共振注入無線周波数(RF)信号によって駆動されるマグネトロンのオンオフ制御を調査するために使用されるパルス高電圧(HV)電源の実施形態を示すブロック図。
【
図7】自励しきい値未満で動作しかつパルス共振注入RF信号によって駆動されるマグネトロンのオンオフ制御を調査するための実験的セットアップの実施形態を示すブロック図。
【
図8】マグネトロンを駆動する測定パルスHV信号と、マグネトロンの入力および出力で測定されたRF信号の一例を示すグラフ。
【
図9】マグネトロンのインジェクションロック信号と出力信号のトレースのより詳細な形状の一例を示すグラフ。
【
図10】注入パルス共振RF信号によって制御される内部変調機能を備えた単一段パルスマグネトロン送信機の実施形態を示すブロック図。
【
図11】注入パルス共振RF信号によって制御される内部変調機能と、送信機によって駆動される超伝導RF(SRF)空洞とを備えた2段パルスマグネトロン送信機を含むシステムの実施形態を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本主題の以下の詳細な説明は、添付の図面の主題を指し、本主題が実施され得る特定の態様および実施形態を例示として示している。これらの実施形態は、当業者が本主題を実施できるように十分に詳細に説明されている。本開示における「1つの」または「種々の」実施形態への言及は、必ずしも同じ実施形態への言及ではなく、そのような言及は複数の実施形態を意図する。以下の詳細な説明は例示的なものであり、限定的な意味で解釈されるものではない。本主題の範囲は、添付の特許請求の範囲と、そのような特許請求の範囲によって権利が与えられる法的均等物の全範囲によって定義される。
【0013】
本主題は、マグネトロン相互作用空間において同期波による電子の共振相互作用のモデルを使用して予測された特異な現象に基づいて開発されたものである([2])。発明者によってマグネトロンの「内部変調」と呼ばれるこの特異な現象は、その自励しきい値よりもやや低い直流電流(DC)電源によって駆動されかつ十分な電力(マグネトロンの公称電力の約10%)を有するパルス共振注入信号によって駆動されるマグネトロンのパルスインジェクションロック生成を含む。この予測に続いて、マグネトロンがDC電源によって駆動されかつパルス変調器なしで自励しきい値よりもやや低い値で動作している際にパルス共振注入信号によって高効率でマグネトロンのオンオフを切り替えることにより、この特異な現象の発見が証明された。
【0014】
本明細書は、とりわけ、例えば強度フロンティアパルス加速器の空洞(cavity)を駆動するにあたり、パルス変調器を必要とせずに、内部変調機能を備えた1つまたは複数のマグネトロンを各々含む高効率および高電力の送信機のシステムについて説明する。注入共振信号によって制御される内部パルス変調機能を備えたマグネトロン送信機の動作原理の概念は実験で実証されている。送信機は、位相および振幅の制御フィードバックループを使用して、インジェクションロック信号の周波数によるそれぞれの速度で位相と電力の制御を可能とすることにより、マイクロフォニックス、ローレンツ力離調、および超伝導無線周波数(SRF)空洞内のビーム負荷を抑制する。この概念は、適切な電力での共振注入(インジェクションロック)信号によるマグネトロンの励起を利用する。送信機出力マグネトロンは、その自励しきい値未満の電圧による高電圧(HV)DC電源によって駆動される。これにより、パルス変調器なしで、共振励起無線周波数(RF)信号によってオンオフが切り替えられる高電力インジェクションロックマグネトロンのパルス動作が実現される。この概念の最初の実験的検証は、パルスおよび連続波(CW)の形態で動作する2.45GHzおよび1kWの連続波(CW)の電子レンジマグネトロンで実行された。提案された概念の実証結果は、本明細書において提示および説明されている。
【0015】
マグネトロンは、そのカソード給電電圧が自励のしきい値を超えるとコヒーレントな生成を行う周知の安価な自励発振器である。マグネトロンの自励のしきい値は、マグネトロンの臨界カソード電圧とも呼ばれるしきい値電圧である。この自励のしきい値未満の電圧は、未臨界カソード電圧と呼ぶことができる。給電電圧が自励のしきい値未満である場合、マグネトロン相互作用空間に同期波は存在しないか、その同期波の振幅が不十分となる。この場合、マグネトロンアノードに向かってドリフトする電荷の必要な位相グルーピングが可能とならず、移動する電荷は、マグネトロン相互作用の空間で回転する同期波のエネルギーまで増加できない。これにより、同期波の減衰が生じて、マグネトロンのコヒーレント生成が不可となる([2])。十分な振幅を有する(例えば、十分な共振注入信号による)同期波の出現は、マグネトロン電圧が自励しきい値よりもやや低い場合に「スポーク」(spokes)内の電荷を適切に形成してコヒーレントな安定した発振を開始するのに十分な条件である。十分な振幅を有する同期波の存在が、マグネトロンの安定したコヒーレントな生成に必要な条件である。
【0016】
現在、マグネトロンのパルス動作では、HVパルス変調器を使用してマグネトロンの電源をオンまたはオフにすることができる。しかしながら、超伝導加速器のためのこれらの変調器は、長パルスおよび高電圧のパルス変圧器を扱うため、大型であり、重く、高価となる。本主題は、自励しきい値未満でマグネトロンを起動する最近開発された技術を使用したパルスマグネトロンRF生成を提供する([3])。共振注入信号によって駆動されるマグネトロン内の同期波と電子流との共振相互作用のモデリング([2])は、DC電源によって駆動されるマグネトロンのパルス動作が、マグネトロンのオンオフを切り替えるパルスRF共振注入信号によって実現されることを示している。
【0017】
種々の実施形態において、マグネトロンのパルスRF電力は、公称マグネトロン電力よりもやや低い電力とすることができる。しかしながら、共振相互作用モデル([2])に従って、マグネトロンRF源の効率および寿命を延ばすことができる。
【0018】
適切な振幅の駆動共振信号の存在により、マグネトロンの相互作用空間において共振回転(同期)波が励起され、それによって、十分な波の振幅でマグネトロンを起動することができる。これにより、マグネトロンの給電電圧が自励のしきい値よりやや低い場合でも、共振信号の周波数でコヒーレントな発振が生じる。この場合のコヒーレント発振は、周波数が正確であり安定しており、位相および電力において広帯域で制御することができる。注入共振信号をオフにするなどして同期波が著しく減少すると、その高速減衰やマグネトロン生成の停止が生じる([2])。従って、マグネトロン電圧が自励しきい値よりも数パーセント低い場合における共振駆動波の有無により、マグネトロンの駆動信号の周波数でコヒーレント振動をオンオフすることができ、すなわち、安価なDC電源により電力供給されかつ適切なパルスRF源で駆動されるパルス方式でマグネトロンが動作するものとなる。これが本主題の概念の基礎である。この概念を実証する実験的試験は、パルスCW-HV電源によって給電される2.45GHzの1kWマグネトロンを使用して実施された。その結果を以下に提示して説明する。
【0019】
[概念の理論的実証]
現在のマグネトロン送信機の概念の理論的実証は、電荷ドリフト近似の理論([4])や、マグネトロンに適用される摂動の理論([3])に基づいており、マグネトロンの共振相互作用理論の動力学モデル([2])に基づいて開発されている。
【0020】
現在のマグネトロン送信機の概念の簡単な説明は、エネルギー保存の基本法則に基づいている。エネルギー保存の法則に従ってマグネトロンに注入される共振駆動信号は、マグネトロン空洞および相互作用空間に保存されるRFエネルギーを増加させる。マグネトロンのRFエネルギーは静電場によって決定されるため、注入される共振信号はマグネトロン給電電圧の増加に相当する。従って、マグネトロン給電電圧が自励のしきい値よりも数パーセント低い場合でも、注入共振信号の十分な電力によりマグネトロンを起動することができる。これにより、自励動作(free run)で利用可能な電流よりも低い電流でマグネトロンを安定して動作させることができる。より低いマグネトロン電流によって誘起される同期波のRF電圧の不足は、十分な共振注入信号によって駆動されるときのマグネトロンの安定した動作を提供するインジェクションロック信号によって補償される。共振注入信号をオフに切り替えると、同期波の減衰が生じて([2])、マグネトロンの電力生成が急速に停止する。
【0021】
図1は、十分な共振注入(インジェクションロック)信号(公称マグネトロン電力の約10%)で測定されたマグネトロン電圧電流(V-I)特性の一例を示すグラフである。1.2kWのタイプ2M137-ILマグネトロン(米国イリノイ州ラフォックスのリチャードソンエレクトロニクス社(Richardson Electronics)製)のV-I特性を、ロック電力P
Lock=100WでのCW形態で測定した([3])。実線の曲線(Bスプラインフィット)は、所与のロック電力P
Lock=100Wでのマグネトロンの安定した動作で利用可能な電流範囲を示している。このV-I特性は、自励しきい値未満でのマグネトロンの安定した動作を示している。
【0022】
典型的なマグネトロンの自励に十分な同期波の最小電力の概算から、マグネトロンの公称電力の約1/10が得られる([3])。実験で実証されたように(例えば、文献[3])、共振駆動信号のこの電力の値により、マグネトロン電圧が自励発振のしきい値電圧より数パーセント小さい場合でも、マグネトロンで誘導コヒーレント振動が開始する。
【0023】
実験によって、自励の電圧よりも低い給電電圧で公称電力の約-10dBの電力を持つ共振(インジェクションロック)波により駆動される典型的なマグネトロンが、出力電力の広範囲(10dB)にわたってマグネトロンの安定した動作を提供することが実証された。自励しきい値未満の電圧で給電されるマグネトロンのRF電力は、最大5dBの範囲で制御することができ、十分な共振予備励起(pre-exciting)(インジェクションロック)信号で電流を変化させることができる。従って、自励のしきい値よりも低い電圧によって給電される予備励起マグネトロンは、RF信号の有無によりそれぞれマグネトロンの動作が開始および停止することから、駆動インジェクションロックRF信号によってオンオフが切り替えられるRFインジェクションロックコヒーレント発振器として動作し得る。マグネトロンのこのような方式でのRF発振のオンオフを切り替える時間は、(10QL)/fの大きさのオーダーの同期波の確立および減衰を持つ過渡プロセスの時間によって決定され、ここで、QLはマグネトロン空洞負荷Qファクタ(QL≒100)であり、fはマグネトロン周波数である。2.45GHzマグネトロンの場合、切り替え時間は200nsを超えない。駆動RF信号がオフの場合には、通常、典型的なマグネトロンによるHV電源のエネルギー消費はない。従って、「自己変調」(self-modulating)インジェクションロックマグネトロンの誘導生成、すなわち内部パルス変調による動作は非常に効率的である。
【0024】
[概念の実験的実証]
提案された概念の実験的検証は、自励のしきい値未満の電圧で給電されるパルスCW形態で動作する2.45GHzの1kWマグネトロンで行われた。マグネトロンが十分な注入共振信号によって駆動された場合、自励しきい値未満のカソード電圧で低ノイズのマグネトロンの安定動作が実証された([2][3])。2.5GHzの1.2kWマグネトロンタイプ2M137-ILを使用したCW形態では、より詳細な測定が実行された。
【0025】
図2は、自励のしきい値を下回ったり上回ったりするCW形態で動作するマグネトロンを試験するための実験セットアップの実施形態を示すブロック図である。マグネトロンには、電流源として動作し電流制御を可能にする交流スイッチングHV電源タイプSM445G(米国マサチューセッツ州アンドーバーのMKSインスツルメンツ社(MKS Instruments)製)により給電された。マグネトロンは、ソリッドステート増幅器と36.6dB進行波管(TWT)増幅器とを介したHP8341A生成器による共振(周波数ロック)信号によって駆動され、最大100WのCWロック電力を提供するものとした。
【0026】
実験的検証は、HV電源からのマグネトロンの消費電力の測定、インジェクションロック信号およびマグネトロン出力信号のRFスペクトルの測定、マグネトロンによって生成されるRF電力の測定、およびインジェクションロック信号の電力の測定を含むものとした。マグネトロンにおける広範囲(10dB)の電力制御は、マグネトロン電流を変化させて、自励しきい値の上下で動作させることにより実現された。
【0027】
図3は、種々の制御方法について電力制御の範囲に対して測定された相対平均マグネトロン効率の一例を示すグラフである。
図3において、トレースDは、-10dBの注入共振信号により駆動されて深部マグネトロン電流制御で測定された1.2kWマグネトロンの平均効率を示し、トレースEは、ベクトル電力制御による1kWマグネトロンの平均効率を示している([3][5])。
図3に示されるような測定結果により、このような電力制御下でのマグネトロンの最高効率が広範囲で実証された。現在の電流変動による電力制御の推定帯域幅は、スイッチングDC-HV電源の場合、約10kHzであり得る([2])。
【0028】
図4は、マグネトロンの種々の電力レベルP
Magによるキャリア周波数の測定オフセットと、CW形態で測定された自励しきい値に対し上下するマグネトロン電圧のロック信号P
Lockの一例を示すグラフである。P
Mag=0.0W、P
Lock=30Wのトレースは、マグネトロンHVがオフのときのインジェクションロック信号のスペクトルを示している。すべてのトレースに見られる側波帯は、TWT増幅器とマグネトロンのスイッチング電源の低周波変調によって生じる。
図4に示されるように、10dBの範囲の種々の電力レベルで自励しきい値に対し上下する電圧によって給電されるインジェクションロックCWマグネトロンのキャリア周波数のスペクトルは、正確に安定しており、広がりやシフトを示さなかった([3])。提示されたスペクトルは、超伝導加速器の要件に対して自励しきい値未満で動作するマグネトロンに基づく送信機の提案された概念の妥当性を示している。マグネトロン出力P
Mag=300W,P
Mag=100Wのトレースは、自励しきい値未満で測定されている。
【0029】
図5は、1,000Wの出力電力で自励しきい値を超えて動作する場合(トレースA)と、100Wの出力電力で自励しきい値未満で動作する場合(トレースB)における周波数ロックされたマグネトロンのノイズの測定パワースペクトル密度の一例を示すグラフである。トレースCは、インジェクションロック信号のスペクトルパワー密度である。プロットA,B,Cは、平均スペクトル密度を示すトレースを含む。
図5に示された測定結果は、広い電力範囲にわたるマグネトロンの低ノイズを示している。
図5に示されるように、トレースCは注入共振信号のスペクトルパワー密度を表し、ここで、側波帯はTWT増幅器のスイッチング電源によって引き起こされ、トレースA,Bも同様にマグネトロンHV電源タイプSM445Gのスイッチングによって引き起こされる側波帯を含む。
【0030】
図3~
図5などに示されるように、
図2に示された実験セットアップを使用して実行された測定の結果により、SRF空洞のパルス電力要件を満たすべくマグネトロンをその自励電圧未満で動作させるために共振注入信号による励起を使用する現在のマグネトロン送信機概念の妥当性が実証された。実施された測定は、自励しきい値未満の電圧で動作するCWマグネトロンが、そのマグネトロンを励起およびインジェクションロックする適切なレベルの共振波によってオンに切り替えられることを示している。約-10dBの励起インジェクションロック信号の電力の場合、マグネトロン出力電力は、低ノイズでの5dBの範囲のカソード電圧によって制御され得る。
【0031】
945Wおよび2.45MHzのタイプ2M219Gの電子レンジマグネトロン(例えば、韓国ソウルのLG社製)およびパルスHV電源を使用して、自励しきい値未満で動作しパルス共振注入信号によって駆動されるマグネトロンのオンオフスイッチング制御について検証した([1])。パルスHV電源は、1~5kVの範囲の安定した電圧を提供し、最大5msのパルス持続時間で無視できる低リップルを実現する。
図6は、ベールケ社(Behlke)のMOSFETによるIGBTの10kV/800Aスイッチを備えたパルスHV電源の一実施形態を示すブロック図である。
図7は、自励しきい値未満で動作しパルス共振注入信号によって駆動されるマグネトロンのオンオフ制御を検証するための実験的セットアップの一実施形態を示すブロック図である。図示された実験的セットアップでは、パルス生成器でゲート制御されたバランスミキサを使用して、共振周波数で一連のRFパルスを形成している。RFパルスは、ソリッドステート増幅器およびTWT増幅器によって最大140Wの電力レベルまで増幅される。このRFパルスによりマグネトロンが駆動される。注入されたマグネトロン出力RF信号が、較正されたRFゼロバイアスショットキー検出器によって測定された。
【0032】
図8は、マグネトロンを駆動する測定パルスHV信号と、マグネトロンの入力および出力で測定されたRF信号の一例を示すグラフである。
図8におけるトレースは、電源電圧が5msのパルス持続時間(トレース3)を有するときに共振注入された13μs信号(トレース1)とマグネトロンの出力信号(トレース2)との20kHzの一連の結果を示している。インジェクションロック信号およびマグネトロン出力信号の測定パルス電力は、それぞれ約110Wおよび約770Wである。
【0033】
図9は、積分時間を低減した校正済みショットキー検出器で測定した、マグネトロンのインジェクションロック信号と出力RF信号のトレースのより詳細な形状の例を示すグラフである。
図9におけるトレースは、ロック信号の種々の電力P
Lockの場合におけるインジェクションロック信号(トレース1,3)とマグネトロン出力信号(トレース2,4)との一連の結果を示している。トレース1,2はそれぞれP
Lockが約90Wと約130Wの場合である。トレース2,4はそれぞれ出力信号の電力P
Outが約780Wと約830Wの場合である。この測定は、マグネトロンが自励しきい値未満で動作して注入共振信号によりオンオフが切り替えられる立ち上がり時間と立ち下がり時間が約200nsであることを示している。
【0034】
共振相互作用理論の開発モデル([2][3])からわかるように、約-10dBの注入共振信号は、マグネトロン相互作用空間で回転する「スポーク」の電荷の位相グルーピングを改善する。これにより、RFシステム全体のマグネトロンのRFエネルギーが大きく増加する。検出器を使用したマグネトロンの出力信号の測定は、インジェクションロック信号によるマグネトロンのオンオフの切り替えが、マグネトロン公称電力の約80%以上を提供できることを示している。さらには、改善された位相グルーピングにより、マグネトロンカソードの電子逆流加熱が減少する。これにより、マグネトロンの寿命が長くなる。
【0035】
[応用例]
種々の実施形態において、必要なパルスRF電力が数十キロワットに制限される場合、パルスRF電力生成のためのシステムは、マグネトロン出力でパルスRF信号を生成するように構成されたRFパルス送信機を含むことができる。送信機は、マグネトロンと、フェライトサーキュレータまたはフェライトサーキュレータシステムと、DC電源とを含むことができる。フェライトサーキュレータ(またはフェライトサーキュレータシステム)は、マグネトロンの内部変調を制御する入力パルスRF信号を、これらのコンポーネントの指向性によりパルスマグネトロン出力信号から分離するために使用される。DC電源は、自励しきい値電圧よりもやや低い電圧レベルでマグネトロンに電力を供給するように構成することができる。マグネトロンを制御する入力パルス信号は、真空管が自励しきい値電圧未満で駆動される場合にマグネトロンのオンオフを切り替えてパルス出力RF信号を生成するのに十分とされる(マグネトロン公称電力の約10%を必要とする)ように構成することができる。
【0036】
種々の実施形態において、約100kW以上のパルスRF電力で加速空洞を駆動するRFパルス送信機を含むシステムは、自励しきい値をやや下回る電力で低電力真空管を駆動するように構成されたDC電源を備える低電力マグネトロン(送信機の必要な出力電力の約10%の電力を有するもの)を含むことができる。入力注入共振(インジェクションロック)信号は、自励しきい値未満の電力で駆動される低電力マグネトロンのオンオフを切り替えて第2の高電力マグネトロン(この高電力マグネトロンの自励しきい値未満をやや下回るDC電源で給電される)のオンオフを切り替えるのに十分な電力を持つインジェクションロック出力パルス信号を生成する電力(第2の高電力マグネトロンの公称電力の約1%)に設定される。低電力および高電力マグネトロンの入出力は、フェライトサーキュレータによって分離することができる。必要な出力送信機出力の約1%の出力を持つ注入共振信号により、高電力パルスSRF加速器に必要なインジェクションロックパルス生成の精度のよい安定した誘導(内部)パルス変調が制御される。
【0037】
種々の実施形態では、サーキュレータまたはサーキュレータシステムは、RFパルス送信機を反射波から保護する。システムの動作開始時には、SRF空洞はRFパルス送信機と整合していない。これにより、大きい波と大きなパルス電力がRFパルス送信機の出力に反射される。サーキュレータまたはサーキュレータシステムは、この反射波を整合負荷に向けてその整合負荷に吸収させる。サーキュレータまたはサーキュレータシステムがない場合、このような反射波によりマグネトロンが損傷する可能性がある。これは、低電力および高電力マグネトロンを備えたシステムにおいて、高電力マグネトロンで放電が起きる場合に生じる。これにより、低電力マグネトロンで放電を引き起こすのに十分な振幅で、低電力マグネトロンに反射される波が発生する。この場合にサーキュレータまたはサーキュレータシステムは、同様にこの反射波を整合負荷に向けてその整合負荷に吸収させる。
【0038】
図10は、最大数十キロワットの電力を出力するための注入パルス共振RF信号によって制御される内部変調機能を備えた費用対効果の高い単一段パルスマグネトロン送信機の一実施形態を示すブロック図である。送信機は、パルス超伝導加速器を駆動するための安価なコンポーネントを使用して実装することができる。
【0039】
単一段パルスマグネトロン送信機は、入力1002においてパルス入力RF信号を測定するための方向性結合器1001Aと、出力1003においてパルス出力RF信号を測定するための方向性結合器1001Bと、入力RF信号と出力RF信号とを分離するためのサーキュレータ1004A,B(例えば、2つのT型フェライトサーキュレータであるが、これに代えて、単一の4ポートサーキュレータで置き換えも可能である)と、マグネトロン1005と、マグネトロン1005にその自励しきい値未満の電圧を供給するためのDC-HV電源1006と、を含むことができる。送信機の内部変調を制御する(HV変調器を使用せずにマグネトロンのオンオフを切り替える)入力信号は、マグネトロンの公称電力の約10%の電力を持つパルスRF源によって提供される。低レベルRF(LLRF)システム1007は、入力RF信号および出力RF信号の測定および調整とともに、DC-HV電源1006の制御を提供する。図示された送信機は、SRF加速器を駆動するのに適切な速度で、RF出力信号の位相および電力を制御することができる。
【0040】
図11は、注入パルス共振RF信号によって制御される内部変調機能と、送信機によって駆動されるSRF空洞とを備えた2段パルスマグネトロン送信機を含むシステムの一実施形態を示すブロック図である。この送信機は、数百キロワットの出力電力に対して費用対効果の高いものとする。図示された送信機は、DC電源によって駆動され、HV高電力パルス変調器を必要とせず、SRF加速器への給電に適した速度でRF出力信号の位相および電力制御を提供することができる。
図11において、参照符号は、以下のようなシステムの種々の要素を示している。
【0041】
1121:注入パルス共振RF信号を受信するための入力、
1122:注入パルス共振RF信号により駆動され、自励しきい値未満の電圧が供給される低電力マグネトロン、
1123:カソード電圧で制御される高電力インジェクションロックマグネトロン、
1124A,B:第1および第2のRF整合負荷、
1125A,B:第1および第2の4ポートサーキュレータ、
1126:高電力マグネトロンで駆動される加速空洞(例えば、SRF加速空洞)、
1127A,B:第1および第2のRF結合器(1127AはSRF空洞の給電用、1127BはSRF空洞内の加速場の位相および振幅の測定用)、
1128:高電力マグネトロン用HV-DC電源、
1129:低電力マグネトロン用のHV-DC電源、
1130:RFプローブ(SRF空洞内の加速場の位相および振幅の測定用)、
1131:LLRFシステム内の位相および電力コントローラ、
1132:パルスRF高電力マグネトロンの出力。
【0042】
二重線の矢印は、情報が流れる方向を示している。太線の矢印は、RF電力が流れる方向を示している。
図11に示された送信機は、HV変調器を使用せずにSRF空洞のパルス給電用の内部変調を行う費用対効果の高い高電力パルス2段RF電源([6])とすることができる。RF源は、加速電圧を安定させるために、SRFパルス加速器に適した速度でRF出力信号の位相および電力を制御することができる。図示された送信機は、インジェクションロック式の2段カスケードマグネトロンシステムに基づいている。この制御は、RFプローブで測定された空洞内の加速電圧の振幅と位相を必要なパラメータと比較することによって実現することができる。図示の実施形態では、入力1121によって受信された注入パルス共振RF信号は、第1の4ポートサーキュレータ1125Aを介して低電力マグネトロン1122を駆動する。低電力マグネトロン1122は、その自励しきい値未満で動作し、注入パルス共振(インジェクションロック)RF信号によってオンオフが切り替えられる。次いで、低電力マグネトロン1122のインジェクションロックパルス出力RF信号が、4ポートサーキュレータ1125A,Bを介して方向付けられ、その自励しきい値未満で動作する高電力マグネトロン1123に入力される。高電力マグネトロン1123の出力パルスRF電力は、第1のRF結合器1127Aを介してSRF空洞1126を駆動する。この出力RF信号は、LLRFシステムを制御する位相フィードバックループ内において、注入パルス共振RF信号の位相をRFプローブ1130によって測定された信号の位相と比較する位相および電力コントローラ1131を使用して広帯域で同相に制御される。この制御は、文献[3]に示されているように、入力インジェクションロック信号の位相変調を使用する。低電力マグネトロン1122は、自励しきい値未満の給電電圧で安定して動作しかつ低電力マグネトロン1122によってオンオフが切り替えられる高電力マグネトロン1123の広帯域位相制御に必要なインジェクションロックパルスRF信号を提供する。SRF空洞1126を駆動する出力信号の電力制御は、位相および電力コントローラ1131を介してHV-DC電源1128を制御しRFプローブ1130による加速空洞1126内のパルスRF加速場の振幅の測定結果を基にする高電力マグネトロン1123の電流を変化させることによって実現することができる。
【0043】
自励しきい値未満で動作する2段カスケードマグネトロンを使用することで、注入(入力)パルス共振RF信号の制御電力を出力RF電力の約1%にすることができる。
本主題のいくつかの非限定的な実施例(実施例1~20)は、以下のとおり提供される。
【0044】
実施例1において、RF電力生成のためのシステムは、RFパルス送信機を含み得る。前記RFパルス送信機は、第1のパルスマグネトロン出力信号を使用してパルスRF送信機出力信号を生成するように構成され得るとともに、送信機入力、送信機出力、第1のマグネトロン、および第1のDC電源を含み得る。前記送信機入力は、パルスRF送信機入力信号を受信し得る。前記送信機出力は、前記パルスRF送信機出力信号を送信し得る。前記第1のマグネトロンは第1の自励しきい値電圧を有し、前記第1の自励しきい値電圧未満の第1の電圧レベルで駆動されているときに前記パルスRF送信機入力信号を用いた内部変調動作により前記第1のパルスマグネトロン出力信号を生成するように構成され得る。前記第1のDC電源は、前記マグネトロンに電力供給するように構成されている。
【0045】
実施例2において、実施例1の主題は、任意で、前記送信機出力に結合され、前記パルスRF送信機出力信号を受信して、前記パルスRF送信機出力信号によって駆動されるように構成される超伝導RF加速空洞をさらに含むように構成され得る。
【0046】
実施例3において、実施例1,2のいずれか1つまたはその組み合わせの主題は、任意で、前記RFパルス送信機が、前記パルスRF送信機入力信号を前記第1のマグネトロンへと方向付けると同時に、前記第1のパルスマグネトロン出力信号を前記送信機出力へと方向付けるように構成された1つまたは複数のサーキュレータをさらに含むように構成され得る。前記1つまたは複数のサーキュレータはまた、前記RF送信機を反射波から保護する。
【0047】
実施例4において、実施例1~3のいずれか1つまたはそれらの任意の組み合わせの主題は、任意で、前記RFパルス送信機が、第1の方向性結合器および第2の方向性結合器のうちの少なくとも一方をさらに含むように構成され得る。前記第1の方向性結合器は、前記送信機入力と前記第1のマグネトロンとの間に結合され、前記パルスRF送信機入力信号の測定を可能にするように構成され得る。前記第2の方向性結合器は、前記第1のマグネトロンと前記送信機出力との間に結合され、前記パルスRF送信機出力信号の測定を可能にするように構成され得る。
【0048】
実施例5において、実施例4の主題は、任意で、前記RFパルス送信機が、前記パルスRF送信機入力信号および前記パルスRF送信機出力信号を測定して、当該測定結果を使用して前記第1のDC電源を制御するように構成された低レベルRFシステムをさらに含むように構成され得る。
【0049】
実施例6において、実施例1,2のいずれか1つまたはその組み合わせの主題は、任意で、前記RFパルス送信機が第2のマグネトロンおよび第2のDC電源をさらに含むように構成され得る。前記第2のマグネトロンは第2の自励しきい値電圧を有し、前記第1のマグネトロンと(信号伝搬において)直列に接続され、前記第2の自励しきい値電圧よりも低い第2の電圧レベルで駆動されているときに前記第1のパルスマグネトロン出力信号を用いた内部変調動作により第2のパルスマグネトロン出力信号を生成するように構成されている。前記第2のDC電源は、前記マグネトロンに電力供給するように構成されている。前記RFパルス送信機は、前記第2のパルスマグネトロン出力信号を前記送信機出力に方向付けて前記パルスRF送信機出力信号として送信するように構成されている。
【0050】
実施例7において、実施例6の主題は、任意で、前記RFパルス送信機が、前記第1のマグネトロンへの前記パルスRF送信機入力信号の方向付けと、前記第2のマグネトロンへの前記第1のパルスマグネトロン出力信号の方向付けと、前記送信機出力への前記第2のパルスマグネトロン出力信号の方向付けとを同時に行うように構成された4ポートサーキュレータをさらに含むように構成され得る。前記4ポートサーキュレータはさらに、前記RF送信機を反射波から保護する。
【0051】
実施例8において、実施例6,7のいずれか1つまたはその組み合わせの主題は、任意で、前記RFパルス送信機が、前記第2のDC電源を制御することによって前記パルスRF送信機出力信号の電力を制御するように構成された位相および電力コントローラをさらに含むように構成され得る。
【0052】
実施例9において、実施例6~8のいずれか1つまたはそれらの任意の組み合わせの主題は、任意で、前記送信機出力に結合され、前記パルスRF送信機出力信号を受信して、当該パルスRF送信機出力信号で駆動されるように構成されたSRF加速空洞をさらに含み、前記RFパルス送信機が、前記SRF加速空洞のパルスRF加速場の位相および振幅を測定するように構成されたRFプローブをさらに含み、前記位相および電力コントローラが、前記パルスRF加速場の前記測定された位相を前記パルスRF送信機入力信号の位相と比較することに基づいて前記パルスRF加速場の位相を制御するとともに、前記パルスRF加速場の前記測定された振幅に基づいて前記パルスRF送信機出力信号の電力を制御するように構成され得る。
【0053】
実施例10において、RF電力生成の方法が提供される。この方法は、パルスRF送信機入力信号を受信すること、第1の自励しきい値電圧を有する第1のマグネトロンを動作させること、および第1のパルスマグネトロン出力信号を使用してパルスRF送信機出力信号を生成することを含み得る。前記第1マグネトロンを動作させることは、第1のDC電源を使用して前記第1の自励しきい値電圧よりも低い第1の電圧レベルで前記第1のマグネトロンを駆動すること、および前記パルスRF送信機入力信号を使用した内部変調により第1のパルスマグネトロン出力信号を生成することを含み得る。
【0054】
実施例11において、実施例10の主題は、任意で、前記パルスRF送信機出力信号を使用して超伝導RF加速空洞を駆動することをさらに含み得る。
実施例12において、実施例10,11のいずれか1つまたはその組み合わせの主題は、任意で、1つまたは複数のサーキュレータを使用して前記パルスRF送信機入力信号から前記パルスRF送信機出力信号を分離することをさらに含み得る。
【0055】
実施例13において、実施例10~12のいずれか1つまたはそれらの任意の組み合わせの主題は、任意で、前記パルスRF送信機入力信号および前記パルスRF送信機出力信号を測定すること、および当該測定結果を使用して前記第1のDC電源を制御することをさらに含み得る。
【0056】
実施例14において、実施例10,11のいずれか1つまたはその組み合わせの主題は、任意で、第2の自励しきい値電圧を有する第2のマグネトロンを動作させること、および前記第2のパルスマグネトロン出力信号を前記パルスRF送信機出力信号として送信することをさらに含み得る。前記第2のマグネトロンを動作させることは、第2のDC電源を使用して前記第2の自励しきい値電圧よりも低い第2の電圧レベルで前記第2のマグネトロンを駆動すること、および前記第1のパルスマグネトロン出力信号を使用した内部変調により前記第2のパルスマグネトロン出力信号を生成することを含む。
【0057】
実施例15において、実施例14の主題は、任意で、前記第1のマグネトロンへの前記パルスRF送信機入力信号の方向付けと、前記第2のマグネトロンへの前記第1のパルスマグネトロン出力信号の方向付けと、前記パルスRF送信機出力信号を送信する出力への前記第2のパルスマグネトロン出力信号の方向付けとを同時に行うサーキュレータを用いることをさらに含み得る。
【0058】
実施例16において、実施例14,15のいずれか1つまたはその組み合わせの主題は、任意で、前記パルスRF送信機出力信号を使用してSRF加速空洞を駆動すること、前記SRF空洞内のパルスRF加速場の位相および振幅を測定すること、および当該測定結果を使用して前記パルスRF送信機入力信号の位相と前記第2のDC電源の電圧とを制御することにより前記パルスRF送信機出力信号の位相および振幅を制御することをさらに含み得る。
【0059】
実施例17において、加速空洞を駆動するためのシステムは、マグネトロンとカソード電圧供給システムとを含み得る。前記マグネトロンは、入力インジェクションロック(injection-locking)信号を受信し、前記マグネトロンの自励に必要な臨界電圧未満の未臨界(subcritical)カソード電圧で前記マグネトロンを前記入力インジェクションロック信号により動作させることが可能な場合に前記入力インジェクションロック信号を使用してインジェクションロック出力信号を生成し、前記入力インジェクションロック信号の強さが前記未臨界カソード電圧で前記マグネトロンを動作させるには十分でない場合に前記インジェクションロック出力信号を遮断するように構成され得る。前記カソード電圧供給システムは、前記マグネトロンに結合され得るとともに、前記未臨界カソード電圧を供給して、前記カソード電圧を制御することにより前記インジェクションロック出力信号の電力を制御するように構成され得る。
【0060】
実施例18において、実施例17の主題は、任意で、前記カソード電圧供給システムが前記未臨界カソード電圧を供給して、前記入力インジェクションロック信号を制御することにより前記マグネトロンをオンオフ可能とするように構成され得る。
【0061】
実施例19において、実施例17,18のいずれか1つまたはその組み合わせの主題は、任意で、前記マグネトロンに直列に接続された追加のマグネトロンをさらに含むように構成され得る。前記追加のマグネトロンは、前記インジェクションロック出力信号を受信して、前記追加のマグネトロンの自励に必要な臨界電圧未満の追加の未臨界カソード電圧で動作することにより追加の出力信号を生成して前記追加の出力信号の電力を制御するように構成され得る。
【0062】
実施例20において、実施例19の主題は、任意で、前記追加のマグネトロンが、超伝導RF加速空洞である前記加速空洞を駆動するのに適したRFパルス信号である前記追加の出力信号を生成するように構成され得る。
【0063】
本出願は、本主題の適応または変形を網羅することを意図している。以上の説明は例示的なものであり、限定的なものではないことを理解すべきである。本主題の範囲は、添付の特許請求の範囲を参照して、そのような特許請求の範囲が権利を有する法的同等物の全範囲とともに決定されるべきである。