(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】注射可能なスラリーならびにその製造方法および使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 33/00 20060101AFI20221227BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20221227BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20221227BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20221227BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20221227BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20221227BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20221227BHJP
A61P 11/04 20060101ALI20221227BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20221227BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20221227BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20221227BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
A61K33/00
A61K9/10
A61K47/10
A61K47/18
A61K47/26
A61K45/00
A61P25/00
A61P11/04
A61P1/02
A61P15/00
A61P9/00
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2021042989
(22)【出願日】2021-03-17
(62)【分割の表示】P 2017511724の分割
【原出願日】2015-08-27
【審査請求日】2021-03-24
(32)【優先日】2014-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】ガリビアン リリト
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン リチャード ロックス
(72)【発明者】
【氏名】ファリネッリ ウィリアム エイ
(72)【発明者】
【氏名】ジャヴォルスキ エミリア
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-526684(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0190744(US,A1)
【文献】特表2003-534366(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0200511(US,A1)
【文献】特表平06-510758(JP,A)
【文献】I. J. Trans. Phenomena, 2011, Vol.12, No.3-4, pp.307-317
【文献】J. Chemical Engineering of Japan, 2010, Vol.43, No.6, pp.482-486
【文献】HVAC&R Research, 2002, Vol.8, No.4, pp.453-466
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 45/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
最大断面寸法が約1.5mm未満の複数の滅菌氷粒子、生体適合性界面活性剤、および添加剤を含む、被験体を治療する方法
において使用するための医薬の製造におけるスラリーの使用であって、 前記方法は、
前記被験体の治療領域にスラリーを注入することを含
み、前記生体適合性界面活性剤が、グリセロール、尿素、ポリソルベート、またはそれらの組み合わせである、使用。
【請求項2】
最大断面寸法が約1.5mm未満の複数の滅菌氷粒子、生体適合性界面活性剤、および添加剤を含む、被験体を治療する方法
において使用するための医薬の製造におけるスラリーの使用であって、前記方法は、
組織を非選択的に破壊するのに十分な温度と冷却能力を有する前記スラリーを
前記被験体の治療領域に注射することを含
み、前記生体適合性界面活性剤が、グリセロール、尿素、ポリソルベート、またはそれらの組み合わせである、使用。
【請求項3】
最大断面寸法が約1.5mm未満の複数の滅菌氷粒子、生体適合性界面活性剤、および添加剤を含む、被験体を治療する方法
において使用するための医薬の製造におけるスラリーの使用であって、前記方法は、神経に対して近位、皮下脂肪組織に対して近位、
乳房組織に対して近位、内臓脂肪に対して近位、咽頭に対して近位の脂肪組織、口蓋に対して近位の脂肪組織、舌に対して近位の脂肪組織、脊髄脂肪腫に対して近位、脂肪脊髄膜瘤に対して近位、内臓脂肪に対して近位、乳房肥大に対して近位、腫瘍に対して近位、心組織に対して近位、心膜脂肪に対して近位、心外膜脂肪に対して近位からなる群から選択される被験体の治療領域に前記スラリーを注射することを含
み、記生体適合性界面活性剤が、グリセロール、尿素、ポリソルベート、またはそれらの組み合わせである、使用。
【請求項4】
前記複数の滅菌氷粒子が、約1.25mm、約1mm、約0.9mm、約0.8mm、約0.7mm、約0.6mm、約0.5mm、約0.4mm、約0.3mm、約0.2mmおよび約0.1mmからなる群から選択される値より小さな最大断面寸法を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記生体適合性界面活性剤が、溶媒、洗剤、湿潤剤、乳化剤、気泡剤および分散剤からなる群から選択される1種以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記生体適合性界面活性剤が、アニオン性、カチオン性、両性および非イオン性からなる群から選択される1種以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記生体適合性界面活性剤が
、グリセロールである、請求項1~
6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記生体適合性界面活性剤が
、尿素である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記複数の氷粒子は、重量基準で前記スラリーの約0.1%~約75%を構成する、請求項1~
8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記複数の氷粒子は、約0.1%~約1%、約1%~約10%、約10%~約20%、約20%~約30%、約30%~約40%、約40%~約50%、約50%~約60%、約60%~約70%、および約50%より多くからなる群から選択される重量比で前記スラリーを構成する、請求項1~
9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記複数の氷粒子は、重量基準で前記スラリーの約0.1%~約50%を構成する、請求項1~
10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記スラリーが
、治療用化合物をさらに含む、請求項1~
11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記治療用化合物が、麻酔薬および鎮痛薬からなる群から選択される、請求項
12に記載の使用。
【請求項14】
前記治療用化合物は
、水溶性麻酔薬である、請求項
12に記載の使用。
【請求項15】
前記治療用化合物は、プリロカイン、ブピバカイン、テトラカイン、プロカイン、メピビカイン、エチドカイン、リドカイン、QX-314および非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)からなる群から選択される、請求項
12に記載の使用。
【請求項16】
前記治療用化合物は
、血管収縮薬である、請求項
12に記載の使用。
【請求項17】
前記血管収縮薬が、エピネフリン、ノルエピネフリン、選択的アドレナリン作動薬、非選択的アドレナリン作動薬およびコルチコステロイドからなる群から選択される、請求項
16に記載の使用。
【請求項18】
前記スラリーは、マイクロバブル、ナノバブルおよび生分解性固体からなる群から選択される1種以上をさらに含む、請求項1~
17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
前記スラリーが
、毒素をさらに含む、請求項1~
18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
前記毒素が
、エタノールである、請求項
19に記載の使用。
【請求項21】
前記スラリーが
、高張性である、請求項1~
20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項22】
前記スラリーが
、低張性である、請求項1~
20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項23】
前記スラリーが、約0℃、約-1℃、約-2℃、約-3℃、約-4℃、約-5℃、約-6℃、約-7℃、約-8℃、約-9℃、約-10℃、約-11℃、約-12℃、約-13℃、約-14℃、約-15℃、約-15℃~約-25℃、約-25℃~約-50℃、
および約-50℃~約-75℃からなる群から選択される平均温度を有する、請求項1~
22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
前記スラリーは、約0℃以下の平均温度を有する、請求項1~
23のいずれか一項に記載の使用。
【請求項25】
前記スラリーは、さらに複数の気泡を含む泡を含む、請求項1~
24のいずれか一項に記載の使用。
【請求項26】
前記治療領域が、神経に対して近位、皮下脂肪組織に対して近位、
乳房組織に対して近位、内臓脂肪に対して近位、咽頭に対して近位の脂肪組織、口蓋に対して近位の脂肪組織、舌に対して近位の脂肪組織、脊髄脂肪腫に対して近位、脂肪脊髄膜瘤に対して近位、内臓脂肪に対して近位、乳房肥大に対して近位、腫瘍に対して近位、心組織に対して近位、心膜脂肪に対して近位、心外膜脂肪に対して近位からなる群から選択される、請求項1~2または4~
25のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
前記治療領域が、結合組織、上皮
組織、神経
組織、関節
組織、心臓
組織、脂肪組織、肝臓
組織、腎臓
組織、血管
組織、皮膚
組織および筋肉
組織からなる群から選択される1種以上の組織を含む、請求項1~
26のいずれか一項に記載の使用。
【請求項28】
前記方法が、注射前に前記スラリーの温度を測定することをさらに含む、請求項1~
27のいずれか一項に記載の使用。
【請求項29】
前記スラリーが
、自然流下によって注射される、請求項1~
28のいずれか一項に記載の使用。
【請求項30】
前記スラリーが
、加圧注射によって注射される、請求項1~
28のいずれか一項に記載の使用。
【請求項31】
前記スラリーは、シリンジ、カニューレ、カテーテルおよび管類からなる群から選択される1種以上を介して注射される、請求項1~
30のいずれか一項に記載の使用。
【請求項32】
前記方法が、前記注射工程前に前記治療領域をあらかじめ冷却することをさらに含む、請求項1~
31のいずれか一項に記載の使用。
【請求項33】
前記方法が、標的組織に隣接してエネルギーを加えることをさらに含む、請求項1~
31のいずれか一項に記載の使用。
【請求項34】
前記方法が、溶融したスラリーを除去するために前記治療領域に対して吸引を行うことをさらに含む、請求項1~
33のいずれか一項に記載の使用。
【請求項35】
前記注射工程は、前記治療領域の腫脹性の膨潤を起こさせるのに十分な体積の前記スラリーを注射することを含む、請求項1~
34のいずれか一項に記載の使用。
【請求項36】
前記注射工程が複数回繰り返される、請求項1~
35のいずれか一項に記載の使用。
【請求項37】
前記方法が、前記治療領域の所望な量の破壊に基づき、注射されるスラリーの所望な量を計算することをさらに含む、請求項1~
36のいずれか一項に記載の使用。
【請求項38】
前記スラリーが、約-2℃/分より大きな速度で注射部位に隣接する治療領域を冷却する、請求項1~
37のいずれか一項に記載の使用。
【請求項39】
前記方法が隔膜を厚くする、請求項1~
38のいずれか一項に記載の使用。
【請求項40】
前記方法が、前記注射工程の前に、前記スラリーと、相対的に
温かい液体とを混合することをさらに含む、請求項1~
39のいずれか一項に記載の使用。
【請求項41】
前記スラリーが、前記治療領域に対して低張性である、請求項1~
40のいずれか一項に記載の使用。
【請求項42】
前記スラリーが、前記治療領域に対して等張性である、請求項1~
40のいずれか一項に記載の使用。
【請求項43】
前記スラリーが、前記治療領域に対して高張性である、請求項1~
40のいずれか一項に記載の使用。
【請求項44】
前記方法
が、前記被験体の治療領域の中で組織を非選択的に破壊するのに十分な温度と冷却能力を有する前記スラリーを注射することを含む、
請求項1~43のいずれか一項に記載の使用。
【請求項45】
前記治療領域が、前立腺、腎臓、心臓および線維腺腫からなる群から選択される、請求項1~
44のいずれか一項に記載の使用。
【請求項46】
前記スラリーが
、イオン性成分を含む、請求項1~
45のいずれか一項に記載の使用。
【請求項47】
前記複数の滅菌氷粒子は、実質的に均一な形状を有する、請求項1~
46のいずれか一項に記載の使用。
【請求項48】
前記添加剤が
、賦形剤である、請求項1~
47のいずれか一項に記載の使用。
【請求項49】
前記
賦形剤が
、氷点低下剤である、請求項
48に記載の使用。
【請求項50】
前記氷点低下剤が
、塩である、請求項
49に記載の使用。
【請求項51】
前記塩が
、塩化ナトリウムである、請求項
50に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2014年8月28日に出願された米国仮特許出願第62/042,979号、2015年2月26日に出願された米国仮特許出願第62/121,329号、2015年2月26日に出願された米国仮特許出願第62/121,472号に対する優先権を主張する。本出願は、2015年8月27日に出願された国際出願第PCT/US2015/PCT/047292号(代理人整理番号051588-22211WO2(00387))に関連する開示内容を含む。上述の出願の全開示内容は、本明細書に参考として組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
特定の組織を選択的に標的とするための種々のデバイスおよび技術が探求されているが、選択されていない組織に対する害を避けつつ、選択した組織を標的とする際の解像度と特異性を高める必要が依然として存在する。
【発明の概要】
【0003】
本発明の一態様は、最大断面寸法が約1.5mm未満の複数の滅菌氷粒子と、生体適合性界面活性剤とを含む、スラリーを提供する。
【0004】
本発明のこの態様は、種々の実施形態を含んでいてもよい。複数の滅菌氷粒子は、約1.25mm、約1mm、約0.9mm、約0.8mm、約0.7mm、約0.6mm、約0.5mm、約0.4mm、約0.3mm、約0.2mmおよび約0.1mmからなる群から選択される値より小さな最大断面寸法を有していてもよい。
【0005】
生体適合性界面活性剤は、溶媒、洗剤、湿潤剤、乳化剤、気泡剤および分散剤からなる群から選択される1種以上であってもよい。生体適合性界面活性剤は、アニオン性、カチオン性、両性および非イオン性からなる群から選択される1種以上であってもよい。生体適合性界面活性剤は、グリセロールであってもよい。生体適合性界面活性剤は、尿素であってもよい。
【0006】
複数の氷粒子は、重量基準で前記スラリーの約0.1%~約75%を構成していてもよい。複数の氷粒子は、約0.1%~1%、約1%~10%、約10%~約20%、約20%~約30%、約30%~約40%、約40%~約50%、約50%~約60%、約60%~約70%、および約50%より多くからなる群から選択される重量基準での割合を構成していてもよい。複数の氷粒子は、重量基準で前記スラリーの約0.1%~約50%を構成していてもよい。
【0007】
スラリーは、治療用化合物をさらに含んでいてもよい。
【0008】
治療用化合物は、麻酔薬および鎮痛薬からなる群から選択されてもよい。治療用化合物は、水溶性麻酔薬であってもよい。治療用化合物は、プリロカイン、ブピバカイン、プリロカイン、テトラカイン、プロカイン、メピビカイン、エチドカイン、リドカイン、QX-314および非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)からなる群から選択されてもよい。
【0009】
治療用化合物は、血管収縮薬であってもよい。血管収縮薬は、エピネフリン、ノルエピネフリン、選択的アドレナリン作動薬、非選択的アドレナリン作動薬およびコルチコステ
ロイドからなる群から選択されてもよい。
【0010】
スラリーは、マイクロバブル、ナノバブルおよび生分解性固体からなる群から選択される1種以上をさらに含んでいてもよい。
【0011】
スラリーは、毒素をさらに含んでいてもよい。毒素は、エタノールであってもよい。
【0012】
スラリーは、高張性であってもよい。スラリーは、低張性であってもよい。
【0013】
スラリーは、約+10℃、約+9℃、約+8℃、約+7℃、約+6℃、約+5℃、約+4℃、約+3℃、約+2℃、約+1℃、約0℃、約-1℃、約-2℃、約-3℃、約-4℃、約-5℃、約-6℃、約-7℃、約-8℃、約-9℃、約-10℃、約-11℃、約-12℃、約-13℃、約-14℃、約-15℃、約-15℃~約-25℃、約-25℃~約-50℃、約-50℃~約-75℃からなる群から選択される平均温度を有していてもよい。
【0014】
スラリーは、約+5℃以下の平均温度を有していてもよい。
【0015】
本発明の別の態様は、最大断面寸法が約1.5mm未満の複数の滅菌氷粒子と、生体適合性界面活性剤と、複数の気泡を含む泡とを含む、スラリーを提供する。
【0016】
本発明のこの態様は、種々の実施形態を含んでいてもよい。スラリーは、約+10℃、約+9℃、約+8℃、約+7℃、約+6℃、約+5℃、約+4℃、約+3℃、約+2℃、約+1℃、約0℃、約-1℃、約-2℃、約-3℃、約-4℃、約-5℃、約-6℃、約-7℃、約-8℃、約-9℃、約-10℃、約-11℃、約-12℃、約-13℃、約-14℃、約-15℃、約-15℃~約-25℃、約-25℃~約-50℃、約-50℃~約-75℃からなる群から選択される平均温度を有していてもよい。
【0017】
本発明の別の態様は、最大断面寸法が約1.5mm未満の複数の滅菌氷粒子と、生体適合性賦形剤とを含む、スラリーを提供する。
【0018】
本発明のこの態様は、種々の実施形態を含んでいてもよい。スラリーは、約+10℃、約+9℃、約+8℃、約+7℃、約+6℃、約+5℃、約+4℃、約+3℃、約+2℃、約+1℃、約0℃、約-1℃、約-2℃、約-3℃、約-4℃、約-5℃、約-6℃、約-7℃、約-8℃、約-9℃、約-10℃、約-11℃、約-12℃、約-13℃、約-14℃、約-15℃、約-15℃~約-25℃、約-25℃~約-50℃、約-50℃~約-75℃からなる群から選択される平均温度を有していてもよい。
【0019】
本発明の別の態様は、最大断面寸法が約1.5mm未満の複数の滅菌氷粒子と、脂肪分解剤とを含む、スラリーを提供する。
【0020】
本発明のこの態様は、種々の実施形態を含んでいてもよい。脂肪分解剤は、洗剤であってもよい。洗剤は、デオキシコレートであってもよい。脂肪分解剤は、アルコールであってもよい。脂肪分解剤は、有機溶媒であってもよい。
【0021】
スラリーは、約+10℃、約+9℃、約+8℃、約+7℃、約+6℃、約+5℃、約+4℃、約+3℃、約+2℃、約+1℃、約0℃、約-1℃、約-2℃、約-3℃、約-4℃、約-5℃、約-6℃、約-7℃、約-8℃、約-9℃、約-10℃、約-11℃、約-12℃、約-13℃、約-14℃、約-15℃、約-15℃~約-25℃、約-25℃~約-50℃、約-50℃~約-75℃からなる群から選択される平均温度を有していてもよい。
【0022】
本発明の別の態様は、被験体を治療する方法を提供する。この方法は、被験体の治療領域に本明細書に記載されるスラリーを注射することを含む。
【0023】
本発明のこの態様は、種々の実施形態を含んでいてもよい。治療領域は、神経に対して近位、皮下脂肪組織に対して近位、乳腺組織に対して近位、内臓脂肪に対して近位、咽頭に対して近位の脂肪組織、口蓋に対して近位の脂肪組織、舌に対して近位の脂肪組織、脊髄脂肪腫に対して近位、脂肪脊髄膜瘤に対して近位、内臓脂肪に対して近位、乳房肥大に対して近位、腫瘍に対して近位、心組織に対して近位、心膜脂肪に対して近位、心外膜脂肪に対して近位からなる群から選択されてもよい。
【0024】
治療領域は、結合組織、上皮の領域、神経の領域、関節、心臓の領域、脂肪組織、肝臓の領域、腎臓の領域、血管の領域、皮膚の領域および筋肉からなる群から選択される1種以上の組織を含んでいてもよい。
【0025】
この方法は、注射前に前記スラリーの温度を測定することをさらに含んでいてもよい。
【0026】
スラリーが自然流下によって注射されてもよい。スラリーが加圧注射によって注射されてもよい。スラリーが、シリンジ、カニューレ、カテーテルおよび管類からなる群から選択される1種以上を介して注射されてもよい。
【0027】
この方法は、前記注射工程前に前記治療領域をあらかじめ冷却することをさらに含んでいてもよい。この方法は、標的組織に隣接してエネルギーを加えることをさらに含んでいてもよい。この方法は、溶融したスラリーを除去するために前記治療領域に対して吸引を行うことをさらに含んでいてもよい。
【0028】
注射工程は、前記治療領域の腫脹性の膨潤を起こさせるのに十分な体積の前記スラリーを注射することを含んでいてもよい。注射工程は、複数回繰り返されてもよい。
【0029】
この方法は、治療領域の所望な量の破壊に基づき、注射されるスラリーの所望な量を計算することをさらに含んでいてもよい。スラリーが、約-2℃/分より大きな速度で注射部位に隣接する治療領域を冷却されてもよい。
【0030】
この方法は、隔膜を厚くしてもよい。隔膜は、脂肪組織および/または真皮の中の隔膜であってもよい。
【0031】
この方法は、注射工程の前に、スラリーと、相対的に暖かい液体とを混合することをさらに含んでいてもよい。
【0032】
スラリーは、約+10℃、約+9℃、約+8℃、約+7℃、約+6℃、約+5℃、約+4℃、約+3℃、約+2℃、約+1℃、約0℃、約-1℃、約-2℃、約-3℃、約-4℃、約-5℃、約-6℃、約-7℃、約-8℃、約-9℃、約-10℃、約-11℃、約-12℃、約-13℃、約-14℃、約-15℃、約-15℃~約-25℃、約-25℃~約-50℃、約-50℃~約-75℃からなる群から選択される平均温度を有していてもよい。
【0033】
スラリーは、治療領域に対して低張性であってもよい。スラリーは、治療領域に対して等張性であってもよい。スラリーは、治療領域に対して高張性であってもよい。
【0034】
本発明の別の態様は、被験体を治療する方法を提供する。この方法は、前記被験体の治療領域の中で組織を非選択的に破壊するのに十分な温度と冷却能力を有する本明細書に記載されるスラリーを注射することを含む。
【0035】
本発明のこの態様は、種々の実施形態を含んでいてもよい。治療領域は、前立腺、腎臓、心臓および線維腺腫からなる群から選択されてもよい。
【0036】
スラリーは、約+10℃、約+9℃、約+8℃、約+7℃、約+6℃、約+5℃、約+4℃、約+3℃、約+2℃、約+1℃、約0℃、約-1℃、約-2℃、約-3℃、約-4℃、約-5℃、約-6℃、約-7℃、約-8℃、約-9℃、約-10℃、約-11℃、約-12℃、約-13℃、約-14℃、約-15℃、約-15℃~約-25℃、約-25℃~約-50℃、約-50℃~約-75℃からなる群から選択される平均温度を有していてもよい。
【0037】
スラリーは、治療領域に対して低張性であってもよい。スラリーは、治療領域に対して等張性であってもよい。スラリーは、治療領域に対して高張性であってもよい。
【0038】
本発明の別の態様は、被験体を治療する方法を提供する。この方法は、神経に対して近位、皮下脂肪組織に対して近位、乳腺組織に対して近位、内臓脂肪に対して近位、咽頭に対して近位の脂肪組織、口蓋に対して近位の脂肪組織、舌に対して近位の脂肪組織、脊髄脂肪腫に対して近位、脂肪脊髄膜瘤に対して近位、内臓脂肪に対して近位、乳房肥大に対して近位、腫瘍に対して近位、心組織に対して近位、心膜脂肪に対して近位、心外膜脂肪に対して近位からなる群から選択される被験体の治療領域にスラリーを注射することを含む。
【0039】
本発明のこの態様は、種々の実施形態を含んでいてもよい。スラリーは、イオン性成分を含んでいてもよい。
【0040】
スラリーは、被験体の治療領域の中で組織を非選択的に破壊するのに十分な温度と冷却能力を有していてもよい。スラリーは、約+10℃、約+9℃、約+8℃、約+7℃、約+6℃、約+5℃、約+4℃、約+3℃、約+2℃、約+1℃、約0℃、約-1℃、約-2℃、約-3℃、約-4℃、約-5℃、約-6℃、約-7℃、約-8℃、約-9℃、約-10℃、約-11℃、約-12℃、約-13℃、約-14℃、約-15℃、約-15℃~約-25℃、約-25℃~約-50℃、約-50℃~約-75℃からなる群から選択される平均温度を有していてもよい。
【0041】
本発明の別の態様は、スラリーを調製する方法を提供する。この方法は、1種以上の微小金型の中で、最大断面寸法が約1.5mm未満の複数の滅菌氷粒子を凍結させることと;前記複数の滅菌氷粒子と1種以上の生体適合性液体を混合することとを含む。
【0042】
本発明のこの態様は、種々の実施形態を含んでいてもよい。複数の滅菌氷粒子は、実質的に均一な形状を有していてもよい。1種以上の微小金型は、ポリマー、プラスチック、エラストマー、シリコン、シリコーンおよび金属からなる群から選択される1種以上の材料から製造されてもよい。この方法は、1種以上の微小金型から前記複数の滅菌氷粒子を除去するために、機械的な歪み、応力波、衝撃波または向心力を加えることをさらに含んでいてもよい。
【0043】
スラリーは、約+10℃、約+9℃、約+8℃、約+7℃、約+6℃、約+5℃、約+4℃、約+3℃、約+2℃、約+1℃、約0℃、約-1℃、約-2℃、約-3℃、約-4℃、約-5℃、約-6℃、約-7℃、約-8℃、約-9℃、約-10℃、約-11℃、約-12℃、約-13℃、約-14℃、約-15℃、約-15℃~約-25℃、約-25℃~約-50℃、約-50℃~約-75℃からなる群から選択される平均温度を有していてもよい。
【0044】
本発明の別の態様は、最大断面寸法が約1.5mm未満の複数の滅菌氷粒子と;水素イオン、ラクテート、ホスフェート、亜鉛イオン、硫黄イオン、硝酸イオン、アンモニウム、水酸化物、鉄イオン、バリウムイオンからなる群から選択されるイオン性成分とを含む、スラリーを提供する。
【0045】
本発明の性質および望ましい目的をより完全に理解するために、添付の図面と組み合わせて以下の詳細な記載が参照され、ここで、同様の参照文字は、いくつかの図にわたって対応する部分を示す。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態にかかるスラリーを調製する方法を示す。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態にかかるスラリーを調製する方法を示す。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態にかかるスラリーを作成するための実験プロトタイプを示す。
【
図4】
図4は、超音波加湿器によって作られる液滴を、本発明の一実施形態にかかるドライアイス環境に入れることによって作られる氷の一例を示す。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態に従って液体窒素を用いて集められた氷球を示す。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態にかかる注射可能なスラリーを用いる治療の一般的な方法を示す。
【
図7】
図7は、本発明の一実施形態にかかる高濃度の小さな氷粒子を用いた氷スラリーを示す。
【
図8A】
図8Aは、本発明の一実施形態にかかるヒト腹膜形成術の脂肪組織に氷スラリーを注射した結果を示す。
【
図8B-C】
図8Bおよび
図8Cは、本発明の一実施形態にかかるヒト腹膜形成術の脂肪組織に氷スラリーを注射した結果を示す。
【
図9】
図9Aおよび
図9Bは、本発明の一実施形態にかかるヒト皮膚においてex vivoで注射されたスラリーの超音波を用いての検出を示す。
図9Aは、スラリー注射前のヒトの皮膚の超音波画像である。
図9Bは、スラリー注射後のヒトの皮膚の超音波画像である。
【
図10】
図10は、本発明の一実施形態にかかる冷スラリーの注射後、下から加熱されるex vivoでのヒト腹膜形成術標本の温度チャートを示す。
【
図12】
図12Aおよび
図12Bは、本発明の一実施形態にかかる冷スラリー注射前の処理部位のブタ皮膚の超音波画像(
図12A)と、冷スラリーを注射してから4週間後の処理部位のブタ皮膚の超音波画像(
図12B)を示す。
【
図13】
図13Aおよび
図13Bは、本発明の一実施形態にかかる冷スラリーを注射してから4週間後の別の処理部位でのブタ皮膚の全体写真を示し、注射部位の皮下脂肪の消失によって生じる皮膚の顕著なくぼみを示している。
【
図14】
図14Aおよび
図14Bは、本発明の一実施形態にかかる冷スラリー注射前の別の処理部位でのブタ皮膚の超音波画像(
図14A)と、冷スラリーを注射してから4週間後の処理部位のブタ皮膚の超音波画像(
図14B)を示す。
【
図15】
図15は、本発明の一実施形態にかかるベンチトップ分析ミルを用いたスラリーの作成を示す。
【
図16】
図16は、Sprague-Dawley成ラットにおける左鼠径部脂肪褥の領域内の注射部位を示す。
【
図17A】
図17Aは、それぞれ、Sprague-Dawley成ラットにおける室温のヘタスターチ溶液の注射、冷ヘタスターチスラリーの注射、コントロール部位での注射していない結果を示す。
【
図17B】
図17Bは、それぞれ、Sprague-Dawley成ラットにおける室温のヘタスターチ溶液の注射、冷ヘタスターチスラリーの注射、コントロール部位での注射していない結果を示す。
【
図17C】
図17Cは、それぞれ、Sprague-Dawley成ラットにおける室温のヘタスターチ溶液の注射、冷ヘタスターチスラリーの注射、コントロール部位での注射していない結果を示す。
【
図17D】
図17Dは、注射部位の周囲の組織を示し、筋肉または周囲組織に対する影響がないことを示している。
【
図17E】
図17Eは、注射部位の周囲の組織を示し、筋肉または周囲組織に対する影響がないことを示している。
【
図17F】
図17Fは、注射部位の周囲の組織を示し、筋肉または周囲組織に対する影響がないことを示している。
【
図17G】
図17Gは、注射部位の周囲の組織を示し、筋肉または周囲組織に対する影響がないことを示している。
【
図18A】
図18Aは、5% TWEEN(登録商標)20(ポリソルベート20)の乳酸Ringer溶液と5%デキストロースをそれぞれ室温(+16℃)および冷スラリー(-0.6℃)でSprague-Dawley成ラットに注射した結果を示す。
【
図18B】
図18Bは、5% TWEEN(登録商標)20(ポリソルベート20)の乳酸Ringer溶液と5%デキストロースをそれぞれ室温(+16℃)および冷スラリー(-0.6℃)でSprague-Dawley成ラットに注射した結果を示す。
【
図18D】
図18Dは、注射部位の周囲の組織を示し、筋肉または周囲組織に対する影響がないことを示している。
【
図18E】
図18Eは、注射部位の周囲の組織を示し、筋肉または周囲組織に対する影響がないことを示している。
【
図18F】
図18Fは、注射部位の周囲の組織を示し、筋肉または周囲組織に対する影響がないことを示している。
【
図18G】
図18Gは、注射部位の周囲の組織を示し、筋肉または周囲組織に対する影響がないことを示している。
【
図19A】
図19Aは、5%ポリエチレングリコール(PEG)の乳酸Ringer溶液と5%デキストロースをそれぞれ室温(+8℃)および冷スラリー(-0.8℃)でSprague-Dawley成ラットに注射した結果を示す。
【
図19B】
図19Bは、5%ポリエチレングリコール(PEG)の乳酸Ringer溶液と5%デキストロースをそれぞれ室温(+8℃)および冷スラリー(-0.8℃)でSprague-Dawley成ラットに注射した結果を示す。
【
図19D】
図19Dは、注射部位の周囲の組織を示し、筋肉または周囲組織に対する影響がないことを示している。
【
図19E】
図19Eは、注射部位の周囲の組織を示し、筋肉または周囲組織に対する影響がないことを示している。
【
図19F】
図19Fは、注射部位の周囲の組織を示し、筋肉または周囲組織に対する影響がないことを示している。
【
図19G】
図19Gは、注射部位の周囲の組織を示し、筋肉または周囲組織に対する影響がないことを示している。
【
図21】
図21は、ブタにスラリーを注射する間の3箇所での冷却グラフを示す。
【
図22A】
図22Aは、-4.1℃で10%グリセロールを含む通常のスラリーの注射を受けた注射部位11の写真である。
【
図22B】
図22Bは、-4.1℃で10%グリセロールを含む通常のスラリーの注射を受けた注射部位11の写真である。
【
図22C】
図22Cは、-4.1℃で10%グリセロールを含む通常のスラリーの注射を受けた注射部位11の写真である。
【
図22D】
図22Dは、-4.1℃で10%グリセロールを含む通常のスラリーの注射を受けた注射部位11の写真である。
【
図24】
図24は、さらなるスラリー注射のためのインシュレータとしての泡状スラリーの使用を示す。
【
図25A】
図25Aは、ブタの咽頭側隙および頸部の脂肪褥のための注射部位を示す。
【
図25C】
図25Cは、咽頭側隙および頸部の脂肪褥の中のスラリー(インクを含む)の局在化を示す。
【
図25D】
図25Dは、咽頭側隙および頸部の脂肪褥の中のスラリー(インクを含む)の局在化を示す。
【
図26A-F】
図26A~26Fは、ブタにおける種々のスラリー組成物の結果を示す写真である。
【
図26G-K】
図26G~26Kは、ブタにおける種々のスラリー組成物の結果を示す写真である。
【
図27A】
図27Aは、本発明の一実施形態に従って、溶融したスラリーを注射部位から除去するための種々の構造を示す。
【
図27B】
図27Bは、本発明の一実施形態に従って、溶融したスラリーを注射部位から除去するための種々の構造を示す。
【
図27C】
図27Cは、本発明の一実施形態に従って、溶融したスラリーを注射部位から除去するための種々の構造を示す。
【
図28】
図28は、本発明の一実施形態に従って、氷微粒子を成形するためのトレイと、このようなトレイから作成することができる氷微粒子を示す。
【
図30】
図30は、冷スラリーの腹腔内注射で治療された肥満マウスの平均体重減少を、未処理のコホートと比較したグラフを示す。
【
図31A】
図31Aは、術後3ヶ月に屠殺したときに採取したブタの全体検体の画像を与え、治療された領域において、目に見えて真皮が厚くなっていることを示している。
【
図31B】
図31Bは、術後3ヶ月に屠殺したときに採取したブタの全体検体の画像を与え、治療された領域において、目に見えて真皮が厚くなっていることを示している。
【
図32A】
図32Aは、術後3ヶ月に屠殺したときに採取し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色したブタの組織の画像を与える。
【
図32B】
図32Bは、術後3ヶ月に屠殺したときに採取し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色したブタの組織の画像を与える。
【
図33A】
図33Aは、本発明の一実施形態に従って注射されたスラリーの挙動を示すための定量モデルを示す。
【
図34A】
図34Aは、術後3ヶ月に屠殺したときに採取したI型コラーゲンのための免疫組織化学的(IHC)染色の画像を与える。
【
図34B】
図34Bは、術後3ヶ月に屠殺したときに採取したI型コラーゲンのための免疫組織化学的(IHC)染色の画像を与える。
【
図35A】
図35Aは、術後3ヶ月に屠殺したときに採取したIII型コラーゲンのための免疫組織化学的(IHC)染色の画像を与える。
【
図35B】
図35Bは、術後3ヶ月に屠殺したときに採取したIII型コラーゲンのための免疫組織化学的(IHC)染色の画像を与える。
【
図36A】
図36Aは、それぞれベースラインおよび4週間のフォローアップ時のコントロールマウスの気管および隣接組織の断面を示す磁気共鳴(MR)画像である。
【
図36B】
図36Bは、それぞれベースラインおよび4週間のフォローアップ時のコントロールマウスの気管および隣接組織の断面を示す磁気共鳴(MR)画像である。
【
図37A】
図37Aは、それぞれベースラインおよび4週間のフォローアップ時の治療されたマウスの気管および隣接組織の断面を示す磁気共鳴(MR)画像である。
【
図37B】
図37Bは、それぞれベースラインおよび4週間のフォローアップ時の治療されたマウスの気管および隣接組織の断面を示す磁気共鳴(MR)画像である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
定義
本発明は、以下の定義を参照しつつ、最も明確に理解される。
【0048】
本明細書で使用される場合、「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」という単数形は、本文で他の意味であると明確に示されていない限り、複数の参照物も含む。
【0049】
明確に述べられていない限り、または本文から明らかではない限り、本明細書で使用される場合、「約」という用語は、当該技術分野での一般交差の範囲内、例えば、平均の2標準偏差以内であると理解される。「約」は、述べられている値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%または0.01%の範囲内であると理解されてもよい。内容から他の意味であることが明らかではない限り、本明細書で与えられる全ての数値は、約という用語で修正される。
【0050】
明細書および特許請求の範囲で使用される場合、「含む(comprise)」、「含む(comprising)」、「含有する(containing)」、「有する(having)」などの用語は、米国特許法において割り当てられた意味を有していてもよく、「含む(include)」、「含む(including)」などを意味していてもよい。
【0051】
明確に述べられていない限り、または本文から明らかではない限り、「または」という用語は、本明細書で使用される場合、包括的であると理解される。
【0052】
本明細書で与えられる範囲は、その範囲に含まれる全ての値の簡易表記であると理解される。例えば、1~50の範囲は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49または50からなる群からの任意の数、数の組み合わせまたは部分範囲(および内容から他の意味であることが明確に示されていない限り、その一部)を含むと理解される。
【0053】
本明細書で使用される場合、「スラリー」という用語は、水溶液中の複数の氷粒子を指す。
【0054】
本発明の種々の態様は、冷スラリー(例えば、氷スラリー)を含む組成物を組織に、例えば、体内の天然の経路、例えば、動脈、静脈または消化管を介するのではなく、組織に直接導入することを含む。所定体積の軟組織に所定体積の氷スラリーが直接導入されると、組織とスラリーとの間で迅速な熱交換が起こる。迅速に局所的に注射されると、標的とする体積の局所組織と接触するスラリーの液だまりが作られる。これとは対称的に、スラリーがよりゆっくりと、大きな体積に注入されると、スラリーが浸透し、組織内の空間を通って流れ、腫脹性の麻酔薬の投与と同様のプロセスで、スラリーが満たされた広範囲にわたる経路が作られる。注入によって、組織、特に、導入部位に近い組織を介する継続的なスラリーの流れが可能になる。スラリーの連続的な流れまたは長期的な流れによって、組織をスラリー自体と全く同じ温度に冷却することができる。
【0055】
一般的に、スラリーを組織に直接的に注射するとき、スラリーと局所組織との迅速な平衡化、その後、体温へのゆっくりとした加温の2つの熱交換期が存在する。迅速な平衡化の間、スラリーおよび組織の初期温度の間の平衡温度に達するまで、スラリーが加温され、局所組織が冷却される。熱交換によるこの迅速な組織冷却の間、3つの事象が起こる。(1)スラリーと組織の熱容量によって蓄えられる熱が交換する。(2)組織の脂質の結晶化によって放出される熱が交換する。(3)スラリーの氷の溶融によって吸収される熱が交換される。組織とスラリーのパラメータに従って、スラリー中の氷の一部または全てが溶融し、組織中の脂質の一部または全てが結晶化する。
【0056】
スラリーを用いた迅速な熱交換の後、身体との熱交換によって徐々に加温される。周囲の暖かい組織からの熱拡散の組み合わせと、血流からの対流加熱によって、徐々に加温が起こる。血流は、圧力によって、または本明細書でさらに詳細に記載するように薬物によって、局所組織において減少させることができる。所望のレベルの疼痛緩和は、温度、冷却速度、冷却持続時間および冷却サイクル数に依存して変わるだろう。
【0057】
注射可能なスラリー
本発明の実施形態は、選択的または非選択的な冷凍療法および/または冷凍溶融に使用可能な注射可能なスラリーを提供する。理論によって束縛されないが、このようなスラリーは、スラリーの氷成分の溶融中に隣接する組織から熱を抽出することによって、所望の組織を標的とし、破壊することができると考えられる。
【0058】
それに加え、高張性または低張性の損傷による選択的な障害を相乗的に誘発するために、スラリーの質量オスモル濃度または容量オスモル濃度を調節してもよい。例えば、スラリーは、容量オスモル濃度が約308mOsm/Lの等張性スラリー、容量オスモル濃度が約308mOsm/L未満の低張性スラリー、または容量オスモル濃度が約308mOsm/Lより大きい高張性スラリーであってもよい。
【0059】
本明細書に記載されるように、さまざまな量の添加剤(例えば、氷点低下剤)をスラリーに加えてもよい。例えば、添加剤は、スラリーの約20%(w/w)未満、約20%(w/w)~約40%(w/w)などを構成していてもよい。
【0060】
一実施形態において、注射可能なスラリーは、複数の滅菌氷粒子と、1種以上の氷点低下剤とを含む。氷点低下剤は、さらに、スラリーの粘度を変え、氷粒子の凝集を防ぎ、流体相の熱伝導性を高め、その他、スラリーの性能を高めることもできる。
【0061】
氷点低下度は、理想化された式:
【数1】
であり、K
Fは、モル降下定数であり、bは、モル濃度であり、iは、個々の溶質分子あ
たりのイオン粒子の数を表すファントホッフの因子であり、例えば、NaClの場合は2、BaCl
2の場合は3である)を用いるか、またはX.Ge & X.Wang、「E
stimation of Freezing Point Depression、Boiling Point Elevation and Vaporization enthalpies of electrolyte solutions」、48 Ind.Eng.Chem.Res.2229-35(2009)およびX.Ge & X.Wang、「Calculations of Freezing Point Depression、Boiling Point Elevation、Vapor Pressure and Enthalpies of Vaporization
of Electrolyte Solutions by a Modified Three-Characteristic Parameter Correlation Model」、38 J.Sol.Chem.1097-1117(2009)によって提案されている式で計算することができる。
【0062】
スラリーを針、カニューレまたはカテーテルによって被験体に確実に注射することができるようするために、氷粒子の大きさを制御することができる。理論によって束縛されないが、氷粒子の全てまたは大部分(例えば、量で約50%より多く、量で約75%より多く、量で約80%より多く、量で約90%より多く、量で約95%より多く、量で約99%より多くなど)が、最大断面寸法(すなわち、氷粒子表面の2点間の最大距離)が、使用する容器(例えば、針、カニューレ、カテーテル、管類など)の内径の半分以下である場合、スラリーは、注射可能であると考えられる。例えば、内径が3mmのカテーテルを用いてスラリーを注射する場合、氷粒子は、好ましくは、最大断面寸法が約1.5mm以下である。いくつかの実施形態において、氷粒子は、1mm以下の平均最大断面寸法を有する。
【0063】
本明細書でさらに詳細に記載するように、この制御された大きさは、氷粒子を制御しつつ作成するか、または氷粒子を加工することによって、および/または氷粒子を濾過し、ふるい分けし、または分類することによって達成することができる。氷粒子および/またはスラリーの制御された保存、輸送および/または取り扱いによって、氷粒子の溶融および再凍結を防ぐことによって、予測可能な流動可能なスラリーを促進することもでき、氷粒子の大きさを変え、および/または鋭い表面および/またはギザギザの表面を生成してもよい。
【0064】
理論によって束縛されないが、種々のカテーテルの内径および針の内径に適した例示的な氷粒子の大きさを、それぞれ以下の表1および表2に与える。
【0065】
【0066】
【0067】
1種以上の氷点低下剤を加え、注射可能な状態を維持する0℃未満のスラリーを生成してもよい。氷点低下剤は、スラリーの温度を0℃未満まで下げることもできる。適切な氷点低下剤としては、生体適合性化合物、例えば、塩(例えば、塩化ナトリウム)、イオン、乳酸Ringer溶液、糖類(例えば、グルコース、ソルビトール、マンニトール、ヘタスターチ、ショ糖、またはこれらの組み合わせ)、生体適合性界面活性剤、例えば、グリセロール(グリセリン(glycerinまたはglycerine)としても知られる)、他のポリオール、他の糖アルコールおよび/または尿素などが挙げられる。特に、ある種の生体適合性界面活性剤(例えば、グリセロール)は、氷粒子を縮ませ、丸くすると考えられており、脂質を豊富に含まない細胞のための凍結保護物質としても役立つ。他の例示的な生体適合性界面活性剤としては、脂肪酸のソルビタンエステル、ポリソルベート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(ポリソルベート80としても知られており、TWEEN(登録商標)80の商標でニューキャッスル、デラウェアのCroda Americas LLCから入手可能)、ソルビタンモノオレエートポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(ポリソルベート80としても知られており、TWEEN(登録商標)80の商標としてニューキャッスル、デラウェアのCroda Americas LLCから入手可能)、ポリソルベート20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)、ポリソルベート40(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート)、ポリソルベート60(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート)、ポリソルベート80(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)、ソルビタンエステル、ポロキサマー、レシチン、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー(PLURONIC(登録商標)の商標でマウントオリーブ、ニュージャージーのBASF Corporationから入手可能)、ソルビタントリオレエート(SPAN(登録商標)85の商標でセントルイス、ミズーリのSigma-Aldrichから入手可能)などが挙げられる。
【0068】
界面活性剤は、溶媒、洗剤、湿潤剤、乳化剤、気泡剤および/または分散剤として作用する場合もある。界面活性剤は、アニオン性、カチオン性、両性または非イオン性であってもよい。生体適合性界面活性剤は、注射可能な氷スラリーに含まれていてもよい。
【0069】
注射可能なスラリーは、所望の温度を有し、スラリーの単位体積または単位質量あたり、所望の量の熱を抽出するように構成されていてもよい。具体的には、溶質(すなわち、氷点低下剤)の濃度は、スラリーの温度を決定付け、スラリーの氷含有量は、スラリーによって抽出される熱の量を決定付ける。
【0070】
脂質の豊富な細胞の相対的な脆弱性を標的とする選択的に破壊するスラリーのために、スラリーは、好ましくは、被験体の細胞に対して等張性であり、例えば、容量オスモル濃度が約308mOsm/Lである。例えば、生理食塩水と20%のグリセロールを含むスラリーは、急性の非選択的な壊死を避けつつ、脂質の豊富な細胞を標的とすることができた。広範囲に破壊するスラリーによって、溶質濃度を(例えば、20%(w/v)の食塩水まで)上げ、高張性溶液(すなわち、容量オスモル濃度が約308mOsm/Lより高い溶液)を生成することによって、これも浸透圧によって細胞を破壊し、より低い温度と、より大きな破壊力を達成することができる。氷が溶融するにつれて、溶質濃度は下がるだろう。
【0071】
注射可能なスラリーは、さまざまな割合の氷を含有していてもよい。例えば、スラリーは、約0.1重量%~約75重量%、約0.1重量%~1重量%、約1重量%~10重量%、約10重量%~約20重量%、約20重量%~約30重量%、約30重量%~約40重量%、約40重量%~約50重量%、約50重量%~約60重量%、約60重量%~約70重量%、約50重量%より多い氷を含有していてもよい。(体積基準による氷の割合は、固体と液体の水の密度に起因して、わずかに大きい。)
【0072】
いくつかの実施形態において、注射可能なスラリーは、さらに、治療用化合物を含む(上の溶質濃度を計算する際に含まれていてもよい)。治療用化合物は、液体、気体または固体であってもよい。
【0073】
一実施形態において、治療用化合物は、麻酔薬および/または鎮痛薬、例えば、水溶性麻酔薬(例えば、プリロカイン)、ブピバカイン、プリロカイン、テトラカイン、プロカイン、メピビカイン、エチドカイン、リドカイン、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、ステロイド(例えば、メチルプレドニゾン)などである。神経ブロックをするためにスラリーを使用するとき、(i)麻酔薬の効果により、スラリーが正しい位置に注射されていることがすぐに確認されるため、また、(ii)低温神経剥離による神経ブロックが有効になるまで(潜在的には48時間後)、麻酔薬が疼痛緩和もすることができるため、スラリーに麻酔薬が含まれることは、特に有利であろう。
【0074】
一実施形態において、麻酔薬は、長期間にわたる(24時間を超える)麻酔を与えることができる永久的に帯電した分子であるQX-314、N-エチルブロミド,四級リドカイン誘導体である。リドカインとは異なり、QX-314は、侵害受容体をより選択的に遮断することができ、作用持続時間がより長く、副作用がより少ない。QX-314は、細胞に入り込み、ナトリウムチャンネルを細胞内で遮断することが必要な、帯電した分子である。QX-314が神経膜の外側ではなく内側から遮断する能力は、所望のニューロンのみを遮断するように活用することができた。QX-314と、本明細書に記載される冷スラリー注射とを組み合わせると、冷温で検知する侵害受容感覚ニューロンを選択的に標的とし、選択的で長期間続く麻酔薬を与えることができる。
【0075】
別の実施形態において、治療用化合物は、血管収縮薬、例えば、エピネフリン、ノルエピネフリン、他の選択的アドレナリン作動薬または非選択的アドレナリン作動薬またはコルチコステロイドである。血管収縮薬は、有利には、血流からの加温を減らすことによって、スラリーの冷却効果を長く継続させることができる。(圧力または吸引を使用し、米国特許第7,367,341号および第8,840,608号に記載するように、血流を減らし、および/または標的組織を単離することもできる。)
【0076】
さらに別の実施形態において、脂質の豊富な細胞の減少を促進するために、注射可能なスラリーは、1種以上の脂肪分解剤を含んでいてもよい。例示的な脂肪分解剤としては、生体適合性界面活性剤、胆汁塩およびこれらの誘導体(例えば、デオキシコール酸)、ホスファチジルコリン(レシチン)、カテコールアミン、B-アゴニスト(例えば、イソプロテレノール)、アルファ 2-アゴニスト(例えば、ヨヒンビン)、ホスホジエステラーゼ阻害剤(例えば、アミノフィリン、テオフィリン)、コルチコステロイド、カフェイン、ヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼ、α-トコフェロール、エタノール、ベンジルアルコール、カルニチン、カテキン、システイン、没食子酸、ラミナリン、ルチン、ミレセチン(myrecetin)、アルファMSH、メリロート、レスベラトロール、ゲニステインなどが挙げられる。このような薬剤は、室温で注射すると、脂肪組織の形態を破壊することができ、脂肪冷却痩身および/または凍結神経溶解のために調製されたスラリーに含まれるとき、脂肪組織の形態破壊を強化するのに特に有用であろう。表3は、例示的な脂肪分解剤、細胞標的、および作用機序の仮説のリストを与える。
【0077】
【0078】
いくつかの実施形態において、注射可能なスラリーは、さらに、注射部位の画像形成(特に超音波による)および確認を補助するために、マイクロバブルまたはナノバブルを含む。適切なマイクロバブルおよびナノバブル、およびこれらを製造するための方法は、米国特許第7,897,141号および第8,715,622号、および米国特許出願公開第2008/0247957号、第2008/0279783号および第2009/0028797号に記載される。
【0079】
いくつかの実施形態において、具体的には、非選択的な注射可能なスラリーにおいて、スラリーは、さらに、毒素または硬化薬、例えば、エタノール、洗剤などを含んでいてもよい。
【0080】
スラリーは、Sougata Pramanickら、「Excipient Selection In Parenteral Formulation Development」、45(3)Pharma Times 65-77(2013)に記載されるような、他の非経口溶液に含まれる他の乳化剤および賦形剤を含有していてもよい。例示的な賦形剤を以下の表4に列挙する。本明細書に記載される物質を、さまざまな効果を生じ得る種々の投薬量で投与してもよい。例えば、低用量の特定の物質は、不活性賦形剤として作用し得るが、より高い濃度では治療効果を発揮し得る。
【0081】
【0082】
【0083】
種々の添加剤の例示的な特性を以下の表5にまとめている。
【0084】
【0085】
【0086】
本明細書で使用される場合、「イントラリピッド」は、典型的には静脈栄養に使用される脂質のエマルション、例えば、20%の静脈脂肪エマルション、20%の大豆油、1.2%の卵の黄身リン脂質(レシチン)、2.25%のグリセリン、水およびpHを調節するための水酸化ナトリウムを指す。種々の他のイントラリピッド製剤が医薬に使用される。
【0087】
他の添加剤としては、糖類、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、炭水化物、脂質、代謝拮抗物質、油類、天然油(例えば、キャノーラ油、ココナツ油、トウモロコシ油、綿実油、亜麻仁油、オリーブ油、パーム油、ピーナッツ油、ベニバナ油、大豆油および/またはヒマワリ油)、腹膜透析溶液、イオン類(例えば、カルシウム、カリウム、水素、塩素、マグネシウム、ナトリウム、ラクテート、ホスフェート、亜鉛、硫黄、硝酸イオン、アンモニウム、炭酸イオン、水酸化物イオン、鉄、バリウムなど)などが挙げられる。
【0088】
泡および泡状スラリー
ここで
図23Aおよび
図23Bを参照し、5% TWEEN(登録商標)20(ポリソルベート20)を含む乳酸Ringer溶液と5%デキストロースのスラリーは、最初、規則的なスラリー稠度を有していたが、再びブレンドすると、激しく泡状になった。理論によって束縛されないが、他の洗剤を用いて泡状スラリーを作成してもよいと考えられる。
【0089】
泡状スラリーまたは他の生体適合性の泡をインシュレータとして利用し、冷温によって誘発される損傷から隣接組織をさらに保護することができる。例えば、泡状スラリーまたは他の生体適合性の泡を、最初、冷却する標的(例えば、神経)に隣接して注射してもよい。次いで、
図24に示されるように、この標的に隣接して、泡状スラリーまたは生体適合性の泡の内部に、より冷却力の高いスラリーを注射してもよい。泡状スラリーまたは生体適合性の泡は、一部には含まれる空気に起因して、インシュレータとして作用し、それによって、冷温によって誘発される損傷から隣接組織を保護し、隣接組織によって第2のスラリーが加温されないように遮蔽する。
【0090】
スラリーを調製する方法
種々の方法を用い、スラリーを調製してもよい。
【0091】
一実施形態において、市販の氷スラリー生成機、例えば、MODUPAK(商標)DEEPCHILL(商標)の商標でウッドブリッジ、オンタリオのSunwell Tec
hnologies Inc.から入手可能なものを用い、スラリーを調製する。市販のスラリー生成機としては、冷却した表面から小さな氷の結晶を掃き出し、水と混合する砕表面生成機(例えば、ブレード、オーガ、ブラシを備える)、不混和性の一次冷媒が蒸発し、水を過飽和状態にし、小さく滑らかな結晶を生成する直接接触生成機、水を過冷却し、ノズルから貯蔵タンクに放出する過冷却生成機が挙げられる。
【0092】
図1は、スラリーを調製する1つの例示的な方法100を示す。
【0093】
工程S102において、氷が得られる。氷は、好ましくは、滅菌氷であり、純粋な水からなっていてもよく、または水から本質的になっていてもよく、または水と、本明細書に記載するような1種以上の添加剤との凍結した混合物であってもよい。
【0094】
工程S104において、加工の前に、場合により、1種以上の添加剤を氷と合わせる。1種以上の添加剤は、好ましくは、氷粒子の溶融および再凍結を防ぐために、所望なスラリーの温度またはその温度付近である。
【0095】
工程S106において、氷はより小さな破片へと加工される。回転ブレードを備えるブレードグラインダ(例えば、ブレンダー、フードプロセッサなど)、砕氷機、氷削り機、ミルまたは他の適切なデバイスを含む種々の技術およびデバイスを利用し、氷の大きさを小さくすることができる。適切なブレードグラインダは、WARING(登録商標)の商標で、スタンフォード、コネチカットのConair Corporationから入手可能である。適切な砕氷機および氷削り機は、フランクリン、ニュージャージーのClawson Machine Division of Technology General Corp.からCLAWSON(商標)の商標で、また、ファー、テキサスのSemco Inc.からSEMCO(商標)の商標で入手可能である。適切なミルとしては、ヴァーノン・ヒルズ、イリノイのCole-Parmerから入手可能であり、
図15に示されるベンチトップ分析ミルが挙げられ、これを利用し、氷またはドライアイスを粉砕することができる。さらに別の実施形態において、反対方向に回転する表面(例えば、ディスクまたはスクリーン)の間で氷を研磨/粉砕することによって、氷粒子を作ることができる。なお別の実施形態において、衝撃波、振動(例えば、超音波振動)および/または熱ショック(例えば、レーザまたは蒸気流から)を使用して氷を砕いてもよい。さらに他の実施形態において、氷(および任意の添加剤)を袋に入れ、マレットまたは他の器具で繰り返し叩いてもよい。
【0096】
工程S108において、1種以上の添加剤(例えば、グリセロール)を、砕いた氷(およびすでに加えられた添加剤)に加える。
【0097】
この方法の一例において、生体適合性液体の氷点より1℃高い温度まで冷却した生体適合性液体に、氷を-80℃で砕いて入れてもよい。次いで、-20℃に冷却した界面活性剤を加え、得られたスラリーを激しく攪拌する。
【0098】
図2は、スラリーを調製する別の例示的な方法200を示す。
【0099】
工程S202において、滅菌水が得られる。滅菌水は、レイクフォレスト、イリノイのHospira,Inc.を含む種々の供給源から入手可能である。
【0100】
工程S204において、加工の前に、場合により、1種以上の添加剤を滅菌水と合わせる。
【0101】
工程S206において、水(および任意の添加剤)を凍結させる。種々の技術およびデ
バイスを利用し、水を凍結させてもよい。
【0102】
一例は、小さな氷の結晶を作成するための移動要素(パドルまたは回転容器)を利用するアイスクリーム製造機である。家庭用アイスクリーム製造機を用いる実験プロトタイプを
図3に示す。
【0103】
別の実施形態において、水(および場合により添加剤)の小さな液滴を生成し、次いで、これを凍結させる。水の小さな液滴を生成するのに適したデバイスとしては、アトマイザ、インジェクタ、エジェクタ、アスピレータ、Venturiポンプ、ネブライザ、加湿器、超音波加湿器などが挙げられる。生成した水の液滴を、冷温環境に入れてもよく、この冷温環境は、例えば、ドライアイスを用いて達成することができる。超音波加湿器によって作られた液滴をドライアイス環境に入れることによって作られる氷の一例を
図4に示す。
【0104】
さらに別の実施形態において、水(および場合により添加剤)の小さな液滴を液体窒素に落とし、次いで、集める。この技術を用いて集めた氷球502を
図5に示す。このプロセスは、マイクロドロッパー、例えば、ノルダーシュテット、ドイツのmicrodrop Technologies GmbHから入手可能なマイクロドロッパーの使用によって自動化することができる。
【0105】
さらに別の実施形態において、スラリー成分が、袋(例えば、静脈輸液袋など)であらかじめ混合した液体として与えられ、次いで、連続的または間欠的な攪拌下(例えば、衝撃波、振動(例えば、超音波振動)、熱ショック(例えば、レーザ、蒸気流から)など)で、この袋の中で凍結させ、この袋の中でスラリーを生成し、次いで、これを注射してもよい。この手法は、有利には、滅菌状態を促進するためのスラリーを作成するための「閉じた」システムを与える。
【0106】
さらに別の実施形態において、ミリメートル未満(例えば、最大断面寸法が約0.1mm以下)で、または
図28に示されるようなマイクロスケールで、注型金型で複数の氷粒子を作成してもよい。種々の形状の入れ物の輪郭を規定するために、成型、ネガティブ成型、3D印刷、付加製造、機械加工によって注型金型を製造してもよく、ポリマー、プラスチック、エラストマー、シリコーン、シリコン、金属などのような種々の材料から製造してもよい。トレイに氷粒子があらかじめ入れられていてもよく、または水が入れられており、実験室内で凍結させてもよい。氷粒子を液体成分に放出するようにトレイを曲げ、スラリーを生成してもよい。
【0107】
液体の水と接触させつつ、または冷たい注型材料の上または中に液体の水を流しつつ、注型金型を迅速に冷却することによって注型成形を行ってもよく、その間に、注型物内に氷が生成する。機械的な歪み、応力波または衝撃波を用い、注型する材料の変形によって、注型物から氷粒子を取り出してもよい。外部または内部のエネルギー源から部分的に溶融させることによって、氷粒子を注型物から取り出してもよい。向心力によって、例えば、遠心分離によって、氷粒子を注型物から取り出してもよく、または注型物から取り出しやすくしてもよい。例えば、型表面付近に小さな氷粒子を作成するために、水で冷却し、周期的に水を供給しつつ、注型金型をすばやく回転させ、集めるために向心力によって冷たい環境へと落としてもよい。
【0108】
スラリーの保存およびさらなる加工
本明細書に記載されるスラリーおよび前駆体の氷粒子は、安定な湿度、溶液または氷粒子の氷点よりも低い温度で保持される場合、両方とも数年間にわたって安定であり得る。氷結晶が成長または凝集しないようにするために、スラリーを、意図した用途のための温
度より低い安定な温度で保存し、使用前にスラリーを部分的に溶融し、所望な注射温度にすることが好ましい。部分的な溶融は、スラリーを加温する(例えば、スラリーが入った容器を周囲条件にさらすことによって、または能動的にエネルギー源を加えることによって)か、またはさらなる溶質(例えば、グリセリン)を入れることによって達成することができる。
【0109】
保存中、輸送中および/または取り扱い中に前駆体である氷粒子またはスラリーの昇華を防ぐか、または最低限にするために、種々の技術を使用してもよい。例えば、氷粒子を、昇華の障壁として作用し、また氷粒子間の摩擦が減らす界面活性剤でコーティングしてもよい。これに加えて、またはこれに代えて、氷粒子および/またはスラリーを高圧(例えば、水の三重点より高い圧力)で保存してもよい。
【0110】
上述のいずれかの方法を、一箇所で単回、1つの作用因子によって行ってもよく、または、1箇所以上で1回以上、1つ以上の作用因子によって行ってもよい。例えば、小さく安定な氷粒子を包装し、標準的な冷温輸送法を用いて輸送し、標準的な冷凍庫(例えば、-20℃)で保存してもよい。注射の少し前または注射直前に、クリニックにおいて、氷粒子を1種以上のさらなる添加剤と合わせてもよい。本明細書にさらに詳細に記載されるように、添加剤は、例えば、生体適合性溶液であってもよく、生体適合性界面活性剤(例えば、グリセロール)を含有し、あらかじめ冷却されていてもよい(例えば、注射時のスラリーの所望な温度に近い温度まで)。
【0111】
添加剤を種々の方法によって添加してもよい。一実施形態において、氷粒子を容器(例えば、プラスチック袋、例えば、静脈(IV)液を保存するために一般的に使用されるもの)に保存し、添加剤を氷粒子へと注射し、圧送し、または自然流下させる。他の実施形態において、添加剤を氷粒子の上に注ぐ。さらに別の実施形態において、添加剤は、氷粒子と同じ容器中の破壊可能なパウチまたは破裂するパウチの中に入れられる。この破壊可能なパウチまたは破裂するパウチを搾ってパウチを破裂させ、添加剤と氷粒子を所望な時に合わせてもよい。
【0112】
治療の時に氷粒子と添加剤をde novoで混合したら、またはあらかじめ混合しておいたスラリーを冷凍庫から出したら、所望な温度を維持するか、または所望な温度を達成するために、その温度を好ましくは監視する。例えば、スラリーを所望な温度まで上げることが必要な場合があるが、スラリーを所望な温度を超えて顕著に上げないことが好ましい場合がある。種々の温度計、熱電対および他の温度測定デバイスを使用し、スラリーの温度を測定してもよい。これらの測定は、スラリーの入った容器の内部または外部で行ってもよい。一実施形態において、液晶温度計を、スラリーの入った容器(例えば、IV袋)の外側に取り付ける。-30℃~0℃の温度を測定することができる適切な液晶温度計が、アナハイム、カリフォルニアのTelatemp CorporationからPart No.427-1で入手可能である。別の実施形態において、スラリー中の添加剤またはスラリーの入った容器の中の添加剤は、適切な温度および/または不適切な温度を示すために色が変化してもよい。同様に、スラリーにとって適切ではない保存条件または輸送条件を示すために、温度モニターを使用してもよい。
【0113】
スラリーの送達
注射可能なスラリーは、自然流下、シリンジ、カニューレ、カテーテル、管類および/またはポンプによる注射などを含め、種々の非経口送達システムおよび技術を用いて導入することができる。制御デバイスは、注射部位に隣接する組織から所望の量の熱を抽出するために、注射されるスラリーの流速、体積および/または圧力を制御してもよい。
【0114】
場合により、画像形成技術(例えば、超音波、磁気共鳴、x線など)を利用し、注射デ
バイスおよび/またはスラリーの適切な配置を確認することができる。特に、氷は、超音波の非常に強い反射体であり、一方、脂質の豊富な細胞は、超音波をあまり反射しない。超音波イメージングは、スラリーの投与を導き、および/または監視するのに十分な画像形成のコントラストと深さを有する、簡便な「病床での」画像形成法である。
【0115】
注射可能なスラリーの治療適用
本明細書に記載する注射可能なスラリーを利用し、限定されないが、結合組織、上皮の領域、神経の領域、関節、心臓の領域、脂肪組織、肝臓の領域、腎臓の領域、血管の領域、皮膚の領域および筋肉組織を含むあらゆる種類の組織を標的とすることができる。注射可能なスラリーは、有利には、熱の拡散または灌流組織の問題なく、標的とする組織の部位に直接冷却効果を集中させることができる。
【0116】
ここで
図6を参照すると、注射可能なスラリーを用いた一般的な治療方法600が提供される。線形の様式で示されているが、1つ以上の工程を省いてもよく、繰り返してもよく、または種々の順序で実行してもよい。
【0117】
工程S602において、抽出される熱の量を決定する。抽出される熱の量は、特に、神経のような小さな構造を治療するために、一般的な予測可能なものであってもよく、例えば、医薬デバイスまたは手順の承認の一部として、医薬デバイスのための指示マニュアルの一部として、および/または医薬デバイスにあらかじめ設定された制御パラメータとして経験的に明示されてもよい。他の実施形態において、抽出される熱の量は、治療される組織の量、治療部位の位置および被験体の他の属性によって変わるだろう。
【0118】
工程S604において、治療パラメータを選択する。治療パラメータとしては、スラリーの組成(例えば、氷の含有量および添加剤の含有量)および温度を挙げることができ、これらは共に(特に、氷の含有量は)スラリーの冷却力を決定付ける。(添加剤の含有量は、主に、スラリーの温度に影響を与える。)例示的な氷の含有量および添加剤の含有量は、本明細書に記載される。例示的なスラリーの温度としては、約+10℃、約+9℃、約+8℃、約+7℃、約+6℃、約+5℃、約+4℃、約+3℃、約+2℃、約+1℃、約0℃、約-1℃、約-2℃、約-3℃、約-4℃、約-5℃、約-6℃、約-7℃、約-8℃、約-9℃、約-10℃、約-11℃、約-12℃、約-13℃、約-14℃、約-15℃、約-15℃~約-25℃、約-25℃~約-50℃、約-50℃~約-75℃などが挙げられる。
【0119】
理論によって束縛されないが、出願人は、脂質の融解熱は、水の融解熱の約半分であることを示しており、約2単位の体積の脂質を、約1単位の体積のスラリーで治療する事ができると考える。特に、治療部位が、神経、血管、臓器などに近い場合、注射されるスラリーの量は控えめであることが望ましいだろう。
【0120】
工程S606において、場合により、スラリーを所望の温度にする。この工程は、その温度が所望な温度まで上昇するまで、スラリーを室温に置くか、または制御された温度環境に置くことによって達成することができる。均一な温度分布を促進するために、スラリーを場合により、攪拌または機械攪拌してもよい。スラリーを所望な温度に保存するために、場合により、スラリーを絶縁された容器に入れてもよい。同様に、温度上昇を最低限にするために、スラリーを被験体に送達するために使用されるカテーテル、針および/または管類を、場合により(例えば、デッドスペースの空気またはネオプレンのようなゴムを用いて)絶縁してもよい。
【0121】
工程S608において、場合により、例えば、吸引または加圧のような物理的手段、またはエピネフリン注射のような化学的手段によって、血管収縮を適用する。
【0122】
工程S610において、注射時のスラリーの溶融を最低限にするために、場合により、適用部位をあらかじめ冷却する。一実施形態において、1種以上の熱電(Peltier)冷却デバイスを使用し、スラリー注射前に、組織を所望の温度まであらかじめ冷却してもよい。適切な熱電冷却器は、トラバースシティ、ミシガンのTE Technology,Inc.およびエングルウッド、コロラドのQuanta Aesthetic Lasers USAから入手可能である。
【0123】
工程S612において、1種以上の低温保護物質による手法を場合により使用してもよい。
【0124】
例えば、隣接組織を望ましくない冷却から保護し、および/または標的組織のさらなる攻撃的な冷却を可能にするため、標的組織に隣接する組織にエネルギーを加えてもよい。エネルギーをスラリーと同時に、振幅のある様式で、フィードバックに応答してなどの様式で加えてもよい。適切なエネルギー源としては、単極、二極の容量結合RFエネルギーおよび/または導電結合RFエネルギーを生成するように適用され、構成され、および/またはプログラムされた電波(RF)エネルギー生成ユニットが挙げられる。RFエネルギーは、約0.3MHz~約100MHzの周波数を有していてもよい。他の適切なエネルギー源としては、コヒーレント光源、非コヒーレント光源、加熱流体源、抵抗(オーム)加熱器、マイクロ波生成器(例えば、約915MHz~約2.45GHzの周波数を生成する)および超音波生成器(例えば、約300KHz~約3GHzの周波数を生成する)が挙げられる。
【0125】
別の例において、脂質を豊富に含まない組織を、冷温によって誘発される損傷から保護するために、1種以上の低温保護物質(例えば、グリセロール、プロピレングリコールなど)を適用してもよい。低温保護物質を表皮に局所的に適用してもよく、および/または所望な領域に注射してもよい。
【0126】
工程S614において、注射デバイスを被験体に挿入する。本明細書に記載されるように、適切な注射デバイスとしては、皮下用の針、カニューレ、カテーテルなどが挙げられる。挿入の位置および深さは、標的領域を反映してさまざまであってよい。例えば、注射デバイスを、非経口、皮下、筋肉内または間質への注射のために適した深さまで挿入してもよい。
【0127】
工程S616において、例えば、超音波またはx線による画像形成によって注射位置を確認してもよい。または、「肉眼によらない」注射によってスラリーを投与してもよい。
【0128】
工程S618において、後に注射されるスラリーを絶縁するために、泡状スラリーまたは生体適合性の泡を、場合により、本明細書に記載されるように注射する。
【0129】
工程S620において、注射に対するフィードバックを得る。フィードバックは、スラリーのさらなる画像形成、さらなる注射への耐性、患者からの入力(特に、スラリーが麻酔薬を含む場合)、治療部位に関する情報(例えば、米国特許第7,367,341号および第8,840,608号に記載されるフィードバックデバイスを用いる)などを含んでいてもよい。例えば、スラリー中の氷粒子は、放射線不透過性であり、超音波によって容易に視覚化することができる。
【0130】
工程S622において、スラリーを注射する。出願人は、シリンジに与えられる典型的な手での圧力は、注射に十分なものであるが、より大きな機械的な圧力を同様に使用してもよいことを発見した。スラリーを別個の所定の体積で注射してもよく、または例えば、
圧力の上昇またはさらなる注射への耐性、または望ましい体積のスラリーを注射したことに起因して、医療専門家が注射を止めるべきと決定するまで注射してもよい。
【0131】
工程S624において、注射に関するフィードバックを得る。
【0132】
工程S626において、場合により、スラリーを、例えば、米国特許出願公開第2013/0190744号に記載される方法およびデバイスを用いて抜き取る。多くの場合、特に、皮下注射の場合、スラリーを体内に残し、溶融させ、吸収させる。いくつかの実施形態において、スラリーの注射と同時に、間欠的に、および/または交互に吸引を適用してもよい。例えば、濾過するか、または小さなゲージのカニューレを、
図27A-27Cに示されるような注射デバイスに隣接して、またはこの注射デバイスと同軸に挿入し、注射部位に氷粒子のほとんどまたは全てを残しつつ、手技の間に溶融した流体を除去してもよい。このような実施形態は、大容積のスラリーの注射には問題がある神経のような解剖学的に制限された標的には特に有用であろう。
【0133】
工程S628において、注射部位から注射デバイスを取り出す。
【0134】
工程S630において、注射部位を評価する。注射したスラリーの効果を評価するために、手技の間または後に評価を行ってもよい。評価は、医療専門家および/または被験体によって行われてもよく、自己報告、写真、カリパスで測定、MRIと、米国特許第7,367,341号および第8,840,608号に記載される画像形成デバイスを含んでいてもよい。
【0135】
この方法の全てまたは一部を同じ注射部位および/または標的組織に1回以上繰り返してもよいが、必須ではない。複数回の注射を連続した様式、重複した様式、または並行した様式で行ってもよい。
【0136】
一実施形態において、低温スラリーを、注射部位の腫脹性の膨潤を起こすのに十分な体積で注射する。別の実施形態において、複数の注射部位は、組織の小さな領域を治療するために、それぞれ有効な量のスラリーを受ける。例えば、実質的に均一な体積のスラリーの注射は、格子状パターンまたは他のパターンで行われてもよい。
【0137】
いくつかの実施形態において、1回の治療期間内に連続した注射を行う。例えば、領域をあらかじめ冷却するために1回目の注射を行った後、所望の臨床効果または審美的な冷却効果を達成するために2回目の注射を行ってもよい。これらの連続した注射の配合はさまざまであってもよい。例えば、2回目の注射は、1回目の注射よりも冷却力が高くてもよく、または低くてもよい。
【0138】
低温神経剥離術
医療的な神経ブロックの大きな限界は、継続時間の制限であり、数時間は続くが、1日は続かない。ある程度長い疼痛緩和が必要な場合、時には、針によって、または留置カテーテルによって、麻酔薬の一定の注入または注入の繰り返しを行うが、典型的には、慢性疼痛は、アヘン剤のような強力な鎮痛薬の使用のための設定であり、中毒を含む高リスクの副作用を伴う。
【0139】
2014年8月28日に出願された米国仮特許出願第62/042,979号に記載されるように、冷たい特定のスラリーを用い、長期間にわたるが、神経機能を可逆的に阻害することができる。本明細書に記載されるスラリーは、その原因にかかわらず、前例のない長期間にわたる疼痛の低減または完全な緩和を与えることができる。
【0140】
本発明の方法を使用し、手術(例えば、皮膚を介した切開を行い、疼痛を誘発する手術)によって生じる疼痛障害に関連する症状を減らすか、またはなくすこともできる。これは、胸郭手術によって生じる胸郭の術後痛(例えば、切開手術による疼痛の治療)を含む。切開前、切開中または切開後にスラリーを注射してもよい。
【0141】
本発明の方法は、限定されないが、片側顔面痙攣、喉頭痙攣および味覚性多汗症を含む運動障害に関連する障害を減らすか、またはなくすこともできる。本発明の方法は、膀胱痙攣または顔面痙攣のような異常な神経発火による筋肉痙攣を減らすか、またはなくすこともできる。本発明の方法は、運動神経の長期間にわたる麻痺が望ましい場合に、運動神経を標的とすることもできる。
【0142】
スラリーを含む溶液を、皮膚の神経、三叉神経、腸骨鼠径神経、肋間神経、斜角筋間神経、鎖骨上神経、鎖骨下神経、腋窩神経、外陰部の神経、傍脊椎の神経、腹横筋膜面の神経、腰部神経叢、大腿神経および座骨神経からなる群から選択される1つ以上の神経に注射することによる、被験体の末梢神経、皮下神経または自律神経のような1つ以上の神経へのスラリーの注射、注入または腫脹性の圧送によって、被験体の末梢神経に投与してもよい。
【0143】
本発明の方法は、限定されないが、頭部、頸部および肩を担う頚神経叢、胸、肩、腕および手を担う腕神経叢、背中、腹部、鼠径部、大腿部、膝およびふくらはぎを担う腰神経叢、骨盤、臀部、性器、大腿部、ふくらはぎおよび足を担う仙骨神経叢、内臓を担う腹腔神経叢(太陽神経叢)、尾てい骨の上の小さな領域を担う尾骨神経叢、胃腸管を担うAuerbach神経叢、胃腸管を担うMeissner神経叢(粘膜下神経叢)を含め、神経叢(すなわち、交差する神経の群)と関連する疼痛を減らすか、またはなくすこともできる。
【0144】
本発明の方法は、腎臓の交感神経除去術にも使用することができ、交感神経除去術は、重篤な、および/または耐性のある高血圧を治療するために出現した治療である。
【0145】
生理学的スラリーを特定の感覚神経の周りに注射すると、その神経の誘導を特異的に遮断し、標的神経の分布全体で感覚が失われる。従って、スラリーの注射は、特定の標的神経によって「担われている」皮膚、筋肉、関節などの非常に大きな領域にわたって疼痛および/または痒みを緩和することができる。以前の動物実験において、冷却は運動神経も遮断し得ることが示されている。ヒトの体内の多くの神経は、感覚機能と運動機能が混合している。混合した神経の場合、運動機能は遮断せずに感覚を遮断することが望ましいことが多い。(一時的な運動機能の消失は、例えば、切断術によって被験体がすでに運動機能を失っている場合には、関心が低い場合がある。)末梢神経系の構造は、運動神経と感覚神経の繊維が、脊椎付近で完全に分離している構造である。脊椎の神経レベルに関連する感覚機能を長期間にわたり特異的に遮断するのは、スラリー注射を用いて感覚神経根を長期間にわたって遮断することによって行うことができる。末梢神経の感覚部分へのスラリー注射は、超音波ガイダンスがあってもなくても、疼痛の長期間にわたる特異的な緩和をもたらすことができる。スラリーの注射工程は、医学的な麻酔薬による神経ブロックの注射と似ている。
【0146】
本明細書に記載されるスラリーを利用し、高血圧を治療するために、腎臓の動脈に隣接する自律交感神経を長期間にわたって、しかし可逆的に阻害することができることをさらに注記しておく。他の例示的な神経標的としては、交感神経および副交感神経が挙げられる。
【0147】
脂肪冷却痩身
本明細書に記載されるスラリーは、脂質の豊富な細胞を選択的に減らすために使用することができる。
【0148】
スラリー注射は、一部には、注射可能なスラリーの高い冷却力に起因して、皮下脂肪減少のための外部冷却デバイスを用いる脂肪冷却痩身よりもいくつか改良されている。第1に、局所的なスラリー注射は、所望の温度を達成するために必要なアクティブ時間がわずか数分である。第2に、スラリー注射は、皮下脂肪の厚みの大幅な消失をより迅速に(例えば、3週間~5週間以内に)誘発するようである。表面の冷却とは異なり、おそらく、スラリーが標的組織層から直接的に熱を抽出し、標的組織においてかなり速い冷却速度を与えるため、この大きな効能が生じるのだろう。第3に、スラリー注射は、表皮および真皮を避けることができ、表皮の温度を検出し、脂質を豊富に含まない細胞に対する損傷から保護するために商業的に利用される手法を避けることができる。例えば、理論によって束縛されないが、真皮および/または表皮は、脂肪組織へのほとんどの皮下スラリー注射の間、正常な生理学的温度の15℃以内に維持されると考えられる。皮下組織へのスラリー注射の前、注射の間、および/または注射の後、例えば、温かい物体を適用するか、または放射熱によって皮膚の加温を行うことができる。第4に、スラリー注射は、治療の深さまたは位置に制限がない。スラリーを表面に、深くに、または皮下脂肪層全体に注射することができ、被験体の皮膚の幾何形状および局所的なアプリケータによって制限されない。第5に、高い解剖学的正確さで、スラリー注射を行うことができる。医師は、一般的に、超音波ガイダンスがない場合であっても、注射を行うのに非常に熟達している。注射のために使用される針カニューレまたはカテーテルを直接見ることができる超音波ガイダンスがあれば、高い正確さでスラリーを配置することができる。上に示したように、スラリー自体は、超音波によって視覚化することができ、その結果、治療される組織が治療中に十分に規定され、わかる。最後に、市販の脂肪冷却痩身システムで使用される大きな熱電気デバイスを使用することなく、スラリーを投与することができる。
【0149】
スラリー注射は、治療部位に隣接する神経を迅速に麻痺させることもでき、潜在的に、市販の脂肪冷却痩身手順で使用される麻酔薬の使用をなくすか、または減らす。
【0150】
理論によって束縛されないが、約+5℃以下の温度でスラリーを注射することによって、脂肪冷却痩身を達成することができると考えられる。理論によって束縛されないが、氷含有量がより多いスラリーは、臨床的および/または審美的に顕著な数の脂肪細胞において脂肪冷却痩身を達成するのに十分な熱を抽出する際に、最も効果的であろうと考えられる。例えば、少なくとも約50重量%(±30重量%)の氷を含むスラリーが好ましいだろう。スラリーの注射可能性およびスラリーが皮下脂肪組織に染み込む能力を高めるために、化学的な技術(例えば、氷点低下剤)および熱的な技術(例えば、温かい冷却剤)を使用し、樹状の氷粒子をより球状にすることができる。スラリーを注射する前に、生体適合性発熱溶質を添加すると、スラリーの温度をさらに下げるだろう。いくつかの実施形態において、スラリーは、本明細書に記載されるような有効な量の脂肪分解剤を含む。
【0151】
注射されるスラリーの量および/またはスラリーの氷含有量を計算し、較正し、所望な量の脂肪冷却痩身を行うことができる。理論によって束縛されないが、スラリーの冷却効果は、同じ組成および物理的特徴を有する2つのスラリーが、同じ生理学的条件で同じ位置に注射される場合に、実質的に同じ量の脂肪冷却痩身を作り出すように、厳密に制御することができると考えられる。
【0152】
理論によって束縛されないが、本明細書に記載されるスラリーは、約-2℃/分より大きな冷却速度を達成するために使用されてもよいと考えられる。例えば、冷却速度は、約-10℃/分より大きくてもよく、約-20℃/分より大きくてもよく、約-30℃/分より大きくてもよく、約-40℃/分より大きくてもよく、約-50℃/分より大きくて
もよく、約-60℃/分より大きくてもよく、約-70℃/分より大きくてもよく、約-80℃/分より大きくてもよく、約-90℃/分より大きくてもよく、約-100℃/分より大きくてもよく、約-110℃/分より大きくてもよく、約-120℃/分より大きくてもよい、などであってもよい。例えば、出願人は、スラリーと接触した組織において約-117℃/分の冷却速度を達成しており、脂肪組織に隣接して、-26℃/分の冷却速度を達成している。スラリーの注射による脂肪冷却痩身は、医学的理由および/または審美的理由から脂肪の減少が望ましい種々の領域に対して行われてもよい。例示的な領域としては、腹部、脇腹(「ラブハンドル」としても知られる)、臀部、大腿部、腕、頸部、顎(例えば、「二重顎」としても知られる顎下のふくよかさの治療)などが挙げられる。
【0153】
閉塞性睡眠時無呼吸症の治療
睡眠時無呼吸症は、睡眠中の上気道閉塞に起因する。睡眠時無呼吸症によって、睡眠の質が悪くなり、目が覚め、低酸素症からの臓器損傷(心筋梗塞、卒中および累積的な脳の損傷を含む)が起こり、肥満の個体のよくある死因である。睡眠時無呼吸症の有病率は、肥満に起因して、米国で着実に増加し続けている。現在の治療は、一般的に、肥満度を下げること(食事、運動、医薬および/または手術による)と、睡眠中に気道を開いたままにすることを目的としている。持続的気道陽圧法(CPAP)は、気道を開いたままに維持するのに役立つが、ぴったりと適合するマスクと加圧装置を一晩中着用する必要がある。これらは、睡眠中に落ち、漏れることが多く、またはこれらを着用することによって単純に睡眠が妨害され得るほど十分に不快である。気道の閉塞は、舌の基底部に位置し、軟口蓋および側部咽頭に沿って位置する深い脂肪褥の中にある脂肪の量と強く関係がある。例えば、口蓋を吊すか、または咽頭の脂肪を切除するための手術が開発されているが、これらは、最終的には瘢痕化し、気道を十分に開けることができなくなることが多く、痛みを伴い、治癒中に局所的な浮腫を引き起こし、睡眠時無呼吸症をさらに悪化させ、気道閉塞、呼吸困難および死を引き起こす場合がある。
【0154】
声門下、口蓋および/または咽頭の脂肪に生理学的な氷スラリーを注射するのは、睡眠時無呼吸症の新しい治療である。標的組織の中にスラリーを正確に配置し、注射するための超音波によるガイダンスも、新しい方法である。これらの脂肪部分は、皮下脂肪とは別個である。これらは、周囲の筋肉、筋膜および他の構造と比較して、エコールーセントな(シグナルが低い)領域として、超音波によって視覚化することができる。氷含有量が多いスラリーは、標的脂肪の効果的な減少に必要な注射されるスラリーの体積を最低限にするために、特に望ましい。治療から約6週間の間に、脂肪へのスラリーの注射が、脂肪量の減少を徐々に誘発し、患者の睡眠時無呼吸症の改善または治癒が起こる。脂肪のためのこの治療に固有の選択性から、隣接する筋肉、筋膜、唾液腺および他の組織が損傷を受けにくく、標的となる脂肪の信頼性高い減少を達成することができる。手術とは異なり、この手順は、麻酔薬をほとんど用いないか、または全く用いずに行われる事務所での手順であろう。手術とは異なり、この治療が、睡眠時無呼吸症を引き起こす脂肪を豊富に含む脂肪細胞に固有に選択的であるため、瘢痕化しないだろう。治療後の疼痛、炎症および気道障害のリスクは、隣接する組織が影響を受けないため、手術よりも低いだろう。CPAPとは異なり、生理学的な氷スラリーの注射は、永久的な改善であり、睡眠を妨害しない。
【0155】
標的とし得る例示的な領域としては、前外側の上気道、咽頭脂肪褥(例えば、喉頭咽頭、鼻咽頭、中下咽頭および口蓋咽頭での脂肪の蓄積)、咽頭側隙脂肪褥(例えば、口蓋に近い領域および舌に近い領域での脂肪の蓄積)、舌の中にある脂肪(例えば、舌後部の中)および軟口蓋が挙げられる。理論によって束縛されないが、本明細書に記載されるスラリーを用いた治療が、隔膜を肥大化させ、皮膚を密にし、気道が崩壊する傾向も減らす事ができると考えられる。
【0156】
隣接する神経、血管および他の構造を避けつつ、脂肪の特定の領域を最も良く標的とするために、注射は、口腔または頸部を介して行うことができる。治療あたりに除去される脂肪の量は、注射されるスラリーの体積および/または氷含有量を調整することによって調整することができ、除去される脂肪の正確な位置は、注射の位置を調整することによって調製することができる。舌、頸部、口蓋、咽頭および/または扁桃腺にある脂肪から少量の脂肪をそれぞれ除去する複数の一連の治療は、添加されるスラリーの体積に起因して、一時的な気道狭窄を最低限にするため、好ましいだろう。
【0157】
睡眠時無呼吸症を治療するためのこの新しい方法は、肥満に関連する罹患率、心臓発作、卒中および死の減少を含め、ヘルスケアに大きな影響を有するだろう。
【0158】
脊髄脂肪腫および脂肪脊髄膜瘤の治療
脊髄脂肪腫および脂肪脊髄膜瘤は、両方とも、脊髄の中および周囲の異常な脂肪の蓄積と関係がある。脊髄脂肪腫は、皮膚または骨の異常がなく、正常に配置された脊髄の中の脂肪である。これらの病変は、胸郭の脊髄に最も一般的に起こる。まれではあるが、これらの病変は、重篤な死亡率を引き起こす場合がある。これらは、症候性であってもよく、最も多くは、成人に現れる。しびれおよびチクチク感、衰弱、排尿または腸の運動の困難、失禁、手足のこわばりの原因となり得る脊髄の圧縮を伴う患者が存在する場合がある。
【0159】
脊髄の周囲の症候性脂肪腫のための現在の治療は、脊髄へのアクセスを増やすための椎弓切除術である。手術の目標は、脂肪腫の大きさを小さくすることであり、脂肪を完全に除去することではない。推奨されている他の治療法はない。
【0160】
本発明の実施形態は、冷スラリーの注射を利用し、冷スラリーを針によって脂肪腫に直接的に注射することができるため、椎弓切除を必要とすることなく、脊髄の脂肪腫を特異的に標的とする。超音波ガイダンスを使用し、脂肪腫を冷スラリー注射によって探し、特異的に破壊することができる。脂肪腫を治療するこの新しい方法は、手術に関連する死亡率を下げるだろう。
【0161】
治療のスラリー注射方法を、末梢神経を含む神経の周囲にある脂肪腫に使用してもよい。脂肪腫は、重要な末梢神経の付近または周囲に成長することもある。従って、その除去によって、神経を損傷し、麻痺が起こる可能性がある。よくある位置としては、頸部、臀部、前腕が挙げられる。ここでも、選択的に標的とするための脂肪腫へのスラリーの注射は、手術の必要性を低減するだろう。
【0162】
脂肪脊髄膜瘤(LMM)は、よくある重篤な子供の閉じた神経組織管の欠陥である。脂肪脊髄膜瘤は、閉じた神経組織管の欠陥の領域にある。複雑な障害を示し、固有の繋留脊髄に次いで神経の欠損を伴う場合がある。これは、誕生時に存在する病変であり、一般的には、二分脊椎(脊椎が閉じてしまう先天的な疾患)と関係がある。この状態は、皮膚の下で始まり、脊髄に向かって開放している骨を通って延びる異常な脂肪の蓄積と関係がある。これらの病変は、生まれてから最初の数ヶ月から数年の間に明らかになり、1.5:1の比率で男子よりの女子が多く罹患する。90%より多い患者に、腰の脊椎の上に明らかな軟組織の膨潤がある。これらの病変は、皮膚によって覆われ、痛みを伴わない。患者は、誕生から数週間以内に神経学的な機能を失う場合があるが、さらに典型的には、数ヶ月から数年をかけて機能が悪化する。神経学的症状は、通常、衰弱と、膀胱と腸の失禁が挙げられる。衰弱は、対称または非対称であってもよく、下肢の萎縮が起こる場合がある。後期青年期および成人において、痛みが患者を医師のもとに向かわせる原動力となる場合がある。痛みが拡散していて、説明するのが困難な場合がある。背中の運動は制限される場合がある。手術は、可能な場合はいつでも治療の選択肢であるが、ほとんどの場合は、手術不可能である。手術の目標は、脊髄への脂肪の付着(連結)をはがし、脂肪腫瘍の塊を減らすことである。手術をすれば、19%の患者が改善し、75%が変化せず、6%が悪化するだろう。脂肪選択的な侵襲性が最低限の治療は、手術よりも優れた安全性と効能をもたらすと思われ、手術不可能な症例を治療することができるようになるだろう。
【0163】
冷スラリーの注射は、脂肪腫を特異的に標的とし、その大きさを小さくすることができるため、脂肪腫の成長に関連する神経学的損傷を防ぐ。標的組織内にスラリーを正確に配置し、注射するため、超音波またはMRI(磁気共鳴イメージング)によって注射針を導いてもよい。MRIは、骨、脊髄および標的である脂肪髄膜瘤を含む局所的な構造の正確な前処理「マップ」を与えることができる。LMMを治療するためのスラリーの使用は、これらの小児科患者のための新規な、行き過ぎず、生命を脅かさない治療を与えるだろう。
【0164】
乳房の減少
男性の偽性女性化乳房または乳房肥大は、胸における脂肪の蓄積の存在に起因する。この状態は、年齢を重ね、過体重であり、特定の薬物を摂取するか、または食事源を含むエストロゲンにさらされている男性がよく罹患する。現在、手術による除去が好ましい治療である。出願人は、本明細書に記載する実施形態のスラリーを胸組織周囲の過剰な脂肪に注射することは、死亡率が低く、侵襲性が低い技術であると考える。
【0165】
さらに、スラリー注射を女性の乳房減少手技に、特に、少量から中程度の体積を減少させるために示される脂肪吸引のみの技術の代替として、使用してもよい。本明細書でさらに詳細に記載される結合組織の増加によって、乳房または胸筋の領域のいずれかに引き締め効果とリフティング効果を与えることもできる。
【0166】
心外膜脂肪および心膜脂肪の治療
本明細書に記載されるスラリーを利用し、心外膜脂肪および/または心膜脂肪を治療してもよい。このような治療を、冠動脈疾患および冠動脈アテローム性硬化の予防、心房細動および動脈の不整脈の予防および治療、心室頻脈の予防および治療に使用してもよい。
【0167】
胸部の脂肪は、心膜の外側(臓側心膜の外側)および心膜の内側(臓側心膜の内側)の脂肪組織を含む。これは、異所性の脂肪組織と呼ばれるが、正常な解剖学的構造である。心膜の内側の脂肪組織は、主に心外膜および冠動脈周囲の脂肪組織で構成され、心血管系の機能において顕著な役割を果たす。心外膜脂肪は、心筋と臓側心膜の間にあり、心膜脂肪は、臓側心膜の外側であって、壁側心膜の外側表面にある。心外膜および心膜脂肪は、発生学的に異なっている。
【0168】
近年の研究は、心外膜脂肪の増加が、心疾患の重要なリスク因子であり得ることを示唆している。炎症誘発性サイトカインを分泌し、これが冠動脈疾患(CAD)を発生させる場合がある。ヒトにおいて、外膜脂肪組織(EAT)の体積と、冠動脈アテローム性硬化の負荷とに正の相関が存在する。有望な症例のコホートと、ケースコントロール試験は、EAT体積が、将来のCAD事象と心筋虚血を予測することを示している。これらの知見は、EATが、冠動脈アテローム性硬化に局所的に寄与し得ることを示唆している。ブタモデルにおいて、心外膜冠状動脈の1つと直接的に接触する、脂肪組織の選択的な手術による切除は、アテローム性硬化の進行を弱らせることが示され、そのため、心外膜脂肪の除去が、CADの保護指標として機能し得ることを示唆している。
【0169】
心膜脂肪は、その固有の特性および心組織構造に対する近さに起因して、心血管疾患の重要なリスク因子を表しているだろう。心膜脂肪は、いくつかの研究において、有害な心疾患、冠状動脈のカルシウム、流行している心疾患のリスクプロフィールと関係がある。心膜脂肪の体積(PFV)は、近年、CADの重篤度および存在と強く関係があることが
報告されている。心膜脂肪は、一般的な不整脈、例えば、心房細動(AF)とも関係がある。AFは、臨床の実施において、最も一般的な心組織の不整脈であり、主要な疾病率および死亡率と関係がある。AFの有病率は、次の数十年で増加すると見積もられており、2050年には、7.5百万を超えるアメリカ人が罹患すると予想されている。心膜脂肪は、心室頻脈および収縮期心不全からの死亡率とも関係がある。
【0170】
本明細書に記載されるスラリーを利用し、心組織手術中に心膜および/または心外膜脂肪の中および/または周囲へのスラリーの注射によって、心外膜および/または心膜脂肪を治療することができる。これに加えて、またはこれに代えて、コンピューター断層撮影(CT)または超音波(US)イメージングを利用し、スラリー注射のための心膜および/または心外膜脂肪の中に針を誘導することができる。ビデオを用いた胸腔鏡手術を直接見ながら注射を行うこともできる。
【0171】
さらに別の実施形態において、超音波ガイダンスを使用しつつ、または使用せずに、スラリーを心膜に注射してもよい。心膜に近づくための主な手法は、肋骨下、胸骨傍、心尖部からの手法である。一例において、長く細い針またはカテーテル(例えば、7~9cm、18G)を用い、心膜穿刺術を行ってもよい。正常な生理学的条件で、心膜の空間に50ml未満の流体が存在する。急性状態では、この空間は、血流力学を犠牲にすることなく、200mlまでの体積を保持することができ、流体が慢性的に蓄積する場合、500mlを超える流体を保持することができる。従って、スラリーの体積が注射され、心膜から除去されてもよく、または心膜に残ってもよい安全な治療ウィンドウが存在することを仮定することができる。
【0172】
内臓脂肪の治療
本明細書に記載されるスラリーを利用し、米国特許出願公開第2013/0190744号に記載される方法に従って、脂質の豊富な細胞(例えば、内臓脂肪)を選択的に減らすことができる。例えば、本明細書に記載されるスラリーを、腹部および/または腹膜の空洞に導入することができる。このような注射は、腹膜の網および神経周膜のような構造や、性腺周囲、後腹膜、体内の腸間膜領域のような領域において、脂質の豊富な細胞を減らすことができる。
【0173】
非選択的な冷凍アブレーション
上述の方法において、脂質の豊富な細胞を選択的に標的とすることに加え、本明細書に記載されるスラリーの実施形態を、前立腺の冷凍アブレーション、腎臓の冷凍アブレーション、心組織の冷凍アブレーション、線維腺腫の冷凍アブレーションなどを含め、従来の冷凍アブレーション技術に利用してもよい。従来の冷凍アブレーションは、種々の侵襲性プローブデバイスを用い、非常に低温で、典型的には、-30℃~-100℃で行われる。組織の破壊は、これらの温度では、脂質の豊富な細胞に選択的ではない。高い質量オスモル濃度、高い氷含有量を有する注射されたスラリーは、-20℃未満の温度に達することができ、これらの非選択的な手順のために使用することができ、既存の寒剤プローブデバイスと比べていくつかの利点を有する。
【0174】
結合組織の向上
脂肪の選択的な消失は、スラリー注射部位および/またはこの部位付近にある結合組織の相対的な量の増加をもたらす。主に脂肪細胞に影響を与え、脂肪を除去することによって、脂肪を支えていた結合組織の隔膜は残り、肥大化する。このことは、ブタ実験からの組織学および全体的な組織画像の両方から明確にわかる。脂肪は、一般的に、移動し、弱く支えられている。治療後の結合組織の相対的な増加は、その上にある皮膚のための良好な支持材を与える。脂肪冷却痩身治療の後、出願人は、緩み(たるみ)が顕著に向上することを臨床的に観察した。
【0175】
言い換えると、脂肪組織は、結合組織であるが、緩む傾向がある。スラリー注射は、脂肪細胞を除去するが、隔膜を保護し、刺激し、緩みが減り、機械的な支持が大きくなる。
図13Aおよび
図13Bのような組織学と、さらに全体的な画像は、脂肪組織にスラリーを注射するとこの変化が起こることを明らかに示す。
【0176】
この影響は、脂肪冷却痩身、乳房減少、閉塞性睡眠時無呼吸症、偽性女性化乳房および乳房肥大の治療のような手順に利点を加えるが、皮膚の引き締めという目的のためだけに使用することもできる。
【0177】
骨盤底の強化および/または引き締め
骨盤底は、骨盤の臓器を所定の位置に保持する支持装置である。骨盤底の機能不全(例えば、骨盤底の緩みに起因する)は、異常な排便、尿機能不全、器官脱出、疼痛、性的機能不全を引き起こす場合がある。
【0178】
本明細書に記載するスラリーおよび方法を適用し、骨盤底を強化し、および/または引き締めてもよい。例えば、骨盤底に隣接してスラリーを注射し(例えば、経尿道、経膣または経腹膜注射による)、1つ以上の骨盤臓器を良好に支えるために骨盤底の引き締めおよび/または肥大を誘発してもよい。
【0179】
尿失禁の治療
米国での25~84歳の女性についての近年の調査において、おおよそ15%が、緊張性失禁を経験していると報告し、13%が、切迫性失禁/「過活動膀胱」を経験していると報告している。これら2つの失禁の因果関係は、別個の機構に起因するが、両方の機構を1人の患者が経験する場合がある。
【0180】
緊張性失禁は、若い女性の最も一般的な種類の失禁であり、多くは尿道の過可動性により、骨盤底からの不十分な支持に起因する。この支持の不足は、結合組織の消失に起因する。この支持の不足は、例えば、骨盤臓器の脱出および排便の問題(便秘および失禁の両方)のような他の状態とも関係がある。骨盤領域への本明細書に記載されるスラリーの投与によって、結合組織を肥大させ、それによって、骨盤底の支持を増やすことができる。従って、一実施形態において、本発明は、必要とする被験体において緊張性尿失禁を治療するための方法を提供する。この方法は、被験体の骨盤底の結合組織に、治療に有効な量の本明細書に記載するスラリーを投与することを含む。
【0181】
対照的に、切迫性失禁は、排尿筋の過活動に起因する。本明細書に記載されるスラリーを注射可能な治療として使用し、膀胱への神経組織の入力を阻害することができる。
【0182】
腹壁の強化
腹部の緩みによって、ヘルニアまたは審美的にわずらわしい腹部の膨らみを引き起こす場合がある。本明細書に記載されるスラリーを使用し、皮膚を引き締め、および/または腹壁を支える筋膜を引き締め、ヘルニアまたは腹部の膨らみを予防し、および/または改善することができる。
【0183】
作業例
注射されるスラリーの挙動を示すための定量モデル
単純化した合理的な推定は、
図33Aに示されるように、注射されるスラリーの挙動を示すための定量モデルにおいて作られる。
【0184】
熱容量は、スラリーと組織との間の熱交換の重要な要素である。最初に考慮する熱交換
は、スラリーおよび組織の熱容量によって蓄えられているエネルギーの熱交換である。熱容量によって蓄えられる媒体中の単位体積あたりのエネルギーは、H=TρCで与えられ、ここで、Hは、エネルギー密度(cal/cm3)であり、Tは温度(℃)であり、pは密度(gm/cm3)であり、Cは、比熱容量(cal/℃ gm)である。ρCが、スラリー、組織、水で同じであると推定する(すなわち、ρC=1cal/gm-℃)。この推定は、脂肪以外の全ての軟組織の場合、ほぼ正しい。脂肪の場合、ρCは、約2分の1小さい。
【0185】
スラリーが導入された組織の局所的な体積を考慮する。スラリーが、局所的な組織に体積分率fsで導入される場合、この局所的な組織は、(1-fs)の体積分率を占める。スラリーの熱容量に起因して、得られたスラリー-組織混合物の単位体積あたりに蓄えられた熱は、Hs=fsTsρCであり、組織の熱容量に起因して単位体積あたりに蓄えられた
熱は、Ht=(1-fs)TtρCである。熱容量に起因して熱エネルギーが迅速に交換し
た後、新しい温度Tmが達成される。この混合物の熱容量に起因する熱エネルギーは、Hm=TmρCによって与えられる。局所的な熱交換におけるエネルギーの保存は、Hs+Ht
=Hmであることを必要とする。この式を合わせると、
fsTsρC+(1-fs)TtρC=TmρC
【0186】
Tmについて解くと、この初期の部分の熱交換の後のスラリー-組織混合物の温度は、
Tm=fsTs+(1-fs)Tt
である。生理学的氷スラリーの温度が、ほぼ0に近いため、これは、
Tm=(1-fs)Tt
と単純化される。熱容量のみに起因する混合時の迅速な熱交換は、2つの開始温度の体積によって重み付けられた平均である。例えば、fs=0である場合、スラリーを加えず、
Tm=Ttであり、組織の開始温度である。fs=1の場合、混合物は全てスラリーであり
、Tm=0である。fs=0.5の場合、スラリーと組織の50%-50%混合物であり、混合後に得られた温度は、スラリーと組織の開始温度の平均である。スラリーの間質注射のためのfsの典型的な値は、約0.2~約0.8の範囲であり、すなわち、混合したス
ラリー-組織の体積は、スラリー含有量が約20~約80%であってもよい。また、fs
=0.5の場合を考慮する。出発組織温度Ttが37℃である場合、熱容量からの熱交換
の後、Tm=18.5℃である。
【0187】
このモデルの生理学的スラリー中の氷の体積分率は、Isと定義され、スラリーの単位
体積あたりの氷の体積である。従って、組織に注射してすぐに、局所的なスラリー-組織混合物中の氷の初期の体積分率は、
I0=fsIs
であり、I0は、スラリー-組織混合物の単位体積あたり、溶融するために利用可能な氷
の合計量である。
【0188】
熱容量からの迅速な熱交換の後、スラリー-組織混合物のスラリー成分中の氷は溶融し始め、熱を吸収し、スラリー-組織混合物を冷却する。上に簡単に述べた体内の熱交換によって徐々に温まる期間の前に、スラリー-組織混合物中の氷は、なくなるまで溶融するか、または平衡温度に達するまで溶融する。純水において、氷と液体の水は、0℃~4℃の平衡温度で一緒に存在する場合がある。組織において、氷点を低下させる多くの溶質が存在し、その結果、ある程度低い温度範囲(例えば、皮膚で約-8℃~0℃)にわたって氷と水が一緒に存在する場合がある。組織中の脂質は、通常の体温では液体状態である。氷の溶融に起因してスラリー-組織混合物の冷却が起こると、特定の温度より下では、脂質が結晶化することがある。本質的に、溶融する氷からの融合潜熱と、脂質の結晶化からの融合潜熱との熱交換が存在する。脂質の結晶化は、水の氷点よりかなり高い温度で起こるため、これら2つのプロセスは、反対方向に進む(例えば、水が溶融し、脂質が結晶化
する)。ほとんどの動物の脂肪は、トリグリセリド分子中の脂質鎖の長さおよび飽和度に依存して、10℃~15℃で結晶化する。ワックスエステルと遊離脂肪酸は、同様の温度で結晶化する。極性脂質は、より低い温度で結晶化し、例えば、細胞膜のリン脂質は、0℃未満でも十分にある程度流体を保つことができる。
【0189】
注射される生理学的スラリーは、神経のミエリン鞘脂質に影響を与えることによって、疼痛または痒みを抑制するのに効果的である。鞘の脂質は、0℃より高くても十分に結晶化する。効果的な処理は、出発組織温度Tt、スラリーの氷含有量Is、スラリー-組織混合物中、十分なスラリー分率fsを達成するために注射されるスラリーの量および速度、
組織の標的脂質含有量Lt、その結晶化温度Tc、ある程度の氷がスラリー-組織混合物に留まっている時間を含む変数によって変わる。
【0190】
融合エンタルピー(融解熱とも呼ばれる)は、固体状態から液体状態への変化に起因して、どれだけ多くの熱エネルギーが吸収される(吸熱)か、または放出される(発熱)かを記述する。氷の溶融は、大量の熱エネルギーを必要とする吸熱的な遷移である。水の場合、融解熱は80cal/gmである。0℃での氷の密度は0.92であり、その結果、体積融解熱Hice(所定体積の氷を溶融させるのに必要な熱エネルギー)は、
Hice=74cal/cm3
である。
【0191】
スラリー-組織混合物中の全ての氷が溶融することによって吸収することができる単位体積あたりの合計熱Qicetotalは、単に、その氷含有量とHiceを掛け算し、
Qicetotal=fsIsHice
である。
【0192】
fsについて上に述べたような典型的な値は、約0.2~0.8の範囲であり、生理学
的スラリーの氷含有量は、約50%までがあり得る(Is~0.5)。従って、適切な最
大のIs=0.5の場合、スラリー-組織混合物中のQicetotalの範囲(制限はない)は
、約7~30cal/cm3である。
【0193】
動物脂肪の脂質の融解熱は、約30~50cal/gmの範囲である。脂質の密度は、約0.8~0.9gm/cm3の範囲である(例えば、固体状態のパルミチン酸トリグリ
セリドは、0.85gm/cm3である)。融解熱として40cal/gmの平均値をと
ると、脂質の結晶化のための単位体積あたりの潜熱は、ほぼ、
Hlipid=34cal/cm3
である。
【0194】
従って、脂質の結晶化のための潜熱は、氷を溶融するための潜熱の半分より小さい。温度が、脂質の結晶化が始まるのに必要な温度である約10℃に達するまで、ある程度の氷が溶融することによって、スラリー-組織混合物の冷却が進む。スラリー-組織混合物の温度を約10℃まで下げることによって消費される熱エネルギーは、
Qto10℃=(Tm-10)ρC
によって得られる。ほぼこの温度で、スラリーからの氷が残っている場合はどんな場合でも溶融し、脂質自体の体積のほぼ2倍を結晶化させるのに必要なエネルギーを吸収する。組織の全ての脂質が結晶化する場合、より多くの氷が溶融し、温度は約10℃未満まで下がり、潜在的には、氷と液体の水が組織中で一緒に存在し得る約-8℃~0℃まで下がる。従って、スラリー-組織混合物の脂質含有量は、別の重要な因子である。組織の脂質含有量をftlipと定義すると、スラリー-組織混合物の脂質含有量は、
fmlip=(1-fs)ftlip
である。
【0195】
ftlipの値は、組織の種類によって変わる。ほとんどの軟組織の脂質含有量は、約5%(ほとんどの結合組織)~約80%(脂肪)であり、すなわち、ftlip=0.05~0.8である。存在する全ての脂質が結晶化することによって作られるスラリー-組織混合物の単位体積あたりのエネルギーは、
Qliptotal=fmlipHlipid
である。
【0196】
スラリー-組織混合物中の氷の溶融と脂質の結晶化の間の潜熱の交換時間の間、スラリー中の氷は、全ての脂質が結晶化するまで、または氷がなくなるまで溶融する。
スラリー-組織混合物中の結晶化する脂質の分率は、単に、エネルギーバランスによって与えられ、flipxtal=(Qicetotal-Qto10℃)/Qicetotalである。(Qicetotal
-Qto10℃)<Qliptotalの場合、脂質の一部が結晶化し、flipxtalによって上に与え
られる。(Qicetotal-Qto10℃)=Qliptotalの場合、脂質の全てが結晶化し、氷の全てが溶融し、温度は、ほとんどの動物脂質の相転移温度である約10℃付近にとどまる。(Qicetotal-Qto10℃)>Qliptotalの場合、脂質の全てが結晶化し、その後、氷の全てが溶融するまで、または組織中の氷と液体の水の間に平衡が存在するまで、温度は約10℃未満まで(すなわち、約-8℃~0℃の温度範囲に)下がる。到達する最も低い温度は、残留する氷の溶融と、スラリー-組織混合物の熱容量との間の熱交換によって決定される。従って、最も低い温度Tfinalは、残留する氷を溶融することによって吸収される
単位体積あたりの潜熱と、約10℃より低い温度低下の熱容量に関係する熱とを等しくすることによって概算されるだろう。
【0197】
脂質が結晶化した後に残った氷の溶融に関連する潜熱は、Qiceresidual=Qicetotal
-Qto10℃-Qliptotalであり、単位体積あたりの残留する氷の量は、Iresidual=Qicetotal/Hiceである。残留する氷の溶融に起因するTfinalへの温度低下は、Qiceresidual~(10-Tfinal)ρCによって概算することができ、Tfinal~10-(Qiceresidual/ρC)に再配列する。
【0198】
上のモデル化された局所的な熱交換は、間質注射の間、スラリーが軟組織を通って混合して流れ、および/または切断することによって、組織と密に接触しているため、数秒のタイムスケールで起こる。溶融する氷と結晶化する脂質からの潜熱の交換の後、スラリー-組織混合物の温度は、ほぼTfinalに固定され、次いで、伝導および対流に起因して、
徐々に加温される。従って、徐々に加温される速度は、伝導および対流の速度によって変わる。血流(対流)がない状態では、伝導による加温は、最小の特徴的な時間を含み、この時間は、局所的なスラリー-組織混合物の直径の二乗に比例する。典型的には、軟組織において、伝導によってある領域を実質的に加温するため(最終的な平衡値の1/eまで)の秒単位での時間は、ミリメートル単位での直径の二乗にほぼ等しい。例えば、直径が10mmのスラリー-組織混合物は、典型的には、実質的に加温するのに約100秒を必要とし、直径が30mmのスラリー-組織混合物は、典型的には、伝導によって実質的に加温するのに約900秒(すなわち、15分間)を必要とする。氷含有量に依存して、この概算される実質的に加温する期間の後でさえ、ある程度の氷が残る場合がある。ここに提示されるモデルは説明のためのものであり、実際のものではない。スラリーと組織の温度の直接的な測定を行うことができる。以下に示すように、このような測定は、一般的に、この適切なモデルと一致する。
【0199】
ex vivoでのヒト腹膜形成術組織実験
ex vivoでブタ組織とヒト腹膜形成術組織サンプルを用い、出願人は、滅菌の冷たい注射可能なスラリーが、脂肪組織の温度を下げる能力について試験した。
【0200】
図7は、高濃度の小さな氷粒子を含み、皮下脂肪組織に15~19ゲージ針によって容易に注射可能な氷スラリーを示す。
【0201】
図8A~8Cは、ヒト腹膜形成術脂肪組織への氷スラリーの注射の結果を示す。氷の結晶802は、脂肪組織内で明確に目に見える。
【0202】
これらのスラリーを組織に注射すると、皮下脂肪の中に局在化した氷が集まった領域が作られ、
図9Bに示されるように、これを、
図9Aのスラリー注射前のヒト皮膚の超音波画像と比較して、超音波によって検出することができる。この注射された氷は、脂肪組織と直接接触した。スラリーの注射は、脂肪組織の温度を0℃未満まで下げることができ、この温度は、脂肪の結晶化温度より十分に低い。この実験は、スラリーと局所的な脂肪組織との間の熱交換が、脂肪組織の温度を、脂肪組織に損傷を与え、局所的な脂肪消失を起こすのに十分なレベルまで下げることができることを示す。
【0203】
スラリーは、液体冷却剤(例えば、冷たい生理食塩水)の冷却能力の何倍もの冷却能力を有し(典型的には、氷含有量に依存して5~8倍)、従って、脂肪のような脂質を豊富に含む組織に選択的に損傷を与えるためにかなり多くの熱エネルギーを抽出することができる。例えば、本明細書に記載する滅菌の生体適合性スラリーの実施形態は、標的組織の温度を-3℃~-2℃にする。標的である脂質を豊富に含む組織に対する損傷は、冷却速度が高いときに向上する傾向があり、これは、一部には、種々の組織の保護応答のための時間が制限されていることによるものである。例えば、20~25ccのスラリーを皮下脂肪に注射したとき、-3℃~-2℃の範囲の組織温度は、
図10に示されるように、ほぼ瞬時に起こった。
【0204】
図10は、ex vivoでのヒト腹膜形成術標本へのスラリー注射の結果を示す。注射の前に、38℃の加熱パッドを標本の下に置き、ヒトのコア温度を模倣する一定の熱を与えた。60mlシリンジと15ゲージ針を用い、スラリーをヒト脂肪組織に注射し、脂肪組織に埋め込まれた熱電対によって測定すると、開始時の脂肪の温度は23℃であった。スラリーを注射した後、脂肪組織の温度は、すぐに-3℃まで下がった。スラリー中で氷が溶融するにつれて、スラリーのすぐ近くに隣接する組織中の組織の温度が、全ての氷が溶融するまで、0℃以下に維持される。1回のスラリー注射で、少なくとも10~15分間、0℃未満に維持することができた。
【0205】
注射したスラリーによって作られた低温によって、脂肪細胞および有髄神経のような脂質を豊富に含む標的組織に局在化され、選択的な損傷を与える。
【0206】
in vivoでのブタ実験
ブタにおける脂肪冷却痩身の観察
出願人は、生理学的滅菌氷スラリーを生きたブタの皮下脂肪に注射する実験を行った。この制御された試験において、スラリー注射の効果を、同じ動物の他の部位への溶融したスラリーの注射、生理食塩水の注射と比較した。一般的な麻酔薬を使用し、承認された動物実験に従って、注射を行った。
【0207】
出願人は、注射時に+1℃~-3℃の範囲の温度を有する滅菌生体適合性スラリーを作成した。注射前に、ブタの注射を予定した部位の超音波測定および標準化された写真を得た。部位に、冷スラリー、室温で溶融したスラリー(氷を含まない溶液)、水または生理食塩水を注射した。別のコントロール部位には注射せず、短時間の皮膚冷却のみを受けた。15ゲージ針を使用した。しかし、出願人は、他の実験において、同じスラリー組成物が19ゲージ針によって注射可能であることを確認した。
【0208】
約4cm×4cmの領域内の部位に、皮膚のみを介して注射した。冷スラリーまたは室温スラリー、生理食塩水コントロール約20ccを、所定の部位の皮下脂肪に首尾良く送達した。
【0209】
冷スラリーを注射した後、注射部位内の温度は、-2℃まで冷えた。冷却持続期間(治療部位の温度が+5℃未満に維持される期間であると定義される)は、約5~19分の範囲であった。注射の後、注射部位の全てを覆う皮膚表面(実験およびコントロール)は、皮膚の下にある脂肪に加えられる体積に起因して、膨らんだ。この反応は、注射されたスラリーまたは液体が周囲の組織に徐々に拡散していくにつれて、迅速に弱まる。
【0210】
約3~4週間のフォローアップ時に、注射部位は、
図11B、13Aおよび13Bに示されるように冷スラリーを注射した部位で、全体的に観察すると明らかなへこみを示し、これは、皮下脂肪の消失に対応している。これとは対照的に、室温スラリー、水および生理食塩水を注射した部位には、明らかなへこみはなかった。全体的な検査で、周囲の皮膚組織に対する損傷の徴候はなかったことを示すことは重要である。これに加え、この部位に対する感染または非特異的な損傷の徴候はなかった。
【0211】
ベースライン(
図12Aおよび
図14A)および注射してから4週間後(
図12Bおよび
図14B)の部位の超音波画像は、明らかに、冷スラリーを注射した部位でのみ、表在性の皮下脂肪組織の約40~50%の消失を示す。
【0212】
ここで、
図20Aおよび20Bを参照し、別のブタに対し、生理食塩水と10%グリセロールスラリー、室温(溶融)スラリーを用い、あらかじめ冷却する場合と冷却しない場合で、さらなる実験を行った。
図20Aは、注射前の注射部位を示し、
図20Bは、注射してから14日後の注射部位を示す。全体的に観察すると、あらかじめ冷却してからスラリーを加えたものと、スラリーのみのものとで、脂肪消失に差はなく、このことは、筋膜に対して表面にある皮下脂肪層に深くスラリーを1回注射すると、組織をあらかじめ冷却していない場合であっても、非常に迅速で効果的な皮下脂肪の消失を誘発することができることを示している。
【0213】
スラリーを筋肉に深く注射した部位において、出願人は、筋肉の異常、へこみまたは筋肉組織に対するスラリーの明らかな影響は、まだみとめられていない。出願人による組織学的分析は、筋肉組織がスラリーによって影響を受けないことも示しており、そのため、脂質を豊富に含む組織のみが、低温スラリーによって標的とされるという仮説を裏付けている。
【0214】
図21は、3箇所で冷却するグラフを示す。T3は、スラリー注射のポケット内にある脂肪組織の温度を表す。T2は、スラリー注射のポケットに隣接する脂肪組織の温度を表す。T4は、スラリー注射のポケットに隣接する皮膚の温度を表す。
【0215】
図22A~22Dは、注射部位11の写真であり、注射部位11は、10%グリセロールを含む通常のスラリーの注射を-4.1℃で受けた。
図22Aおよび
図22Bは、注射前の部位を示し、一方、
図22Cおよび
図22Dは、注射してから8週間後の顕著なへこみを示す。
【0216】
これらの実験の結果は、超音波画像および全体観察に基づき、皮下脂肪に注射されたスラリーによって、1回の注射から2~3週間後に脂肪が顕著に消失することを示す。さらに、スラリーのIM(筋肉内)注射は、全体的な組織の異常を引き起こさなかった。冷温スラリーは、例えば、筋肉または他の脂質を豊富に含まない組織に隣接する場合であっても、脂質を豊富に含む組織(例えば、皮下脂肪)を標的とするとき、安全であり、効果的
である。写真および組織学に基づき、注射後に皮膚の壊死、筋肉の壊死、感染、他の皮膚構造に対する損傷のような望ましくない部位の影響は観察されなかった。ブタは、体積の過剰添加または全身の異常の徴候なく、皮下脂肪に対し、600mlに近いスラリー注射まで耐えることができた。さらに、冷却速度は、非常に速く、冷却の速度と程度は、
図21に示されるように、注射されるスラリーに対する近さに関係がある。
【0217】
以下の表6にまとめられているように、別のブタにさらなる注射を行った。1~2サイクルのスラリー30ccを皮下脂肪に注射した。皮下脂肪のへこみの有無を示すために、皮膚と蓋に対し、底部から水平に定規を置いた。下側を通る光(すなわち、皮膚表面と直線の縁の間)は、脂肪消失に起因するへこみの指標である。
【0218】
【0219】
これらの実験は、スラリーの冷却力を上げたときのイオン(例えば、カリウム、塩素、マグネシウム、カルシウムなど)の役割と、脂肪消失に対する二相(すなわち、氷と液体)のスラリーの機能に注目している。さらに、部位23および25に使用される熱による平滑化と、部位27の化学物質による平滑化によって、スラリーの流動性と、脂肪の減少が向上した。熱による平滑化は、注射前にスラリーを部分的に溶融させることを指す。氷を機械的に砕くことによって新しく作られたスラリー中の氷粒子は、岩を砕いたときに作られる小石と似た種々の多角形形状を有する。このような粒子は、相互に結合し、流動性を制限してしまう傾向がある。部分的に溶融すると、さらに丸みを帯びた氷粒子が生成し、所与の粒径および氷含有量で大きな流動性を有するスラリーが生成する。流動性を向上させるための他の方法としては、より小さな氷粒子を使用すること、氷含有量を少なくすること、スラリー使用前に溶質および/または界面活性剤を加えることが挙げられる。等張性溶液および高張性溶液は、両方とも、脂肪消失を誘発することができることが示された。さらに、6%ヘタスターチの乳酸Ringer溶液のようなスラリーを含有するコロイド溶液は、部位23および25からわかるように、脂肪消失を誘発することができる。
【0220】
氷スラリーを用いた咽頭脂肪の治療
ブタの検視のとき、出願人は、超音波ガイダンスおよび非侵襲性の注射を用い、スラリーを咽頭側隙脂肪褥に送達することができることを示した。数滴の黒色インディアインク(タトゥー用インク)を、生理食塩水中の10%グリセロール(重量基準)で構成されるスラリーに加えた。インクの添加によって、スラリーの堆積を視覚化することができる。超音波イメージングを使用し、注射する領域を視覚化した。
図25Aは、注射部位を示す。
図25Bは、注射深さを示す。
図25Cおよび
図25Dは、咽頭側隙脂肪褥内のスラリー(インクを含む)の局在化を示す。
【0221】
真皮の肥大
図31Aおよび
図31Bは、術後3ヶ月の屠殺時に採取した全体生検の画像を与える。
図31Aは、生理食塩水+10%グリセロールの冷スラリーを注射した部位の組織の断面である。
図31Bは、生理食塩水+10%グリセロールの室温溶液を注射した部位の組織の断面である。
図31Aに示される冷スラリー注射を受けた部位において、屠殺時に38.1%の真皮の肥大が示された。対照的に、
図31Aに示されるスラリーと同じ組成を有する室温溶液を受けた部位は、真皮の厚みの変化をなんら示さなかった。
【0222】
図32Aおよび
図32Bは、術後3ヶ月の屠殺時に採取し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した組織の画像を与える。
図32Aの冷スラリーの注射を受けた部位で、屠殺時に隔膜の肥大およびコラーゲンの増加が示された。対照的に、
図32Bの未処理の部位は、通常の結合組織の形態を示し、隔膜は薄く、コラーゲンの生成は示されなかった。
図34Aおよび
図34Bは、術後3ヶ月の屠殺時に採取したI型コラーゲンの免疫組織化学的(IHC)染色の画像を与える。
図35Aおよび
図35Bは、術後3ヶ月の屠殺時に採取したIII型コラーゲンの免疫組織化学的(IHC)染色の画像を与える。
【0223】
in vivoでのラット実験
安全性および忍容性の実験
表7に詳細に記載される種々のスラリー製剤をラットに注射し、スラリーの安全性および忍容性を評価した。全ての動物は、注射に忍容性であり、感染、潰瘍、壊死または副作用の徴候はなかった。
【0224】
【0225】
スラリーの組成と温度の効能比較
Sprague-Dawley成ラットに麻酔をかけ、冷スラリー、または冷スラリーと同じ組成の室温流体のいずれか10ccを1回皮下注射した。注射は、
図16の丸く囲った領域で示されるように、左鼠径部の脂肪褥の領域に接種した。右側は注射せず、コントロールとして使用した。
【0226】
この実験では、3種類のスラリー組成物を試験した。(a)乳酸Ringer溶液中の6%ヘタスターチ、(b)乳酸Ringer溶液中の5% TWEEN(登録商標)20(ポリソルベート20)と5%デキストロース、(c)乳酸Ringer溶液中の5%ポリエチレングリコール(PEG)と5%デキストロース。
【0227】
乳酸Ringer溶液は、一般的に使用される静脈注射用液体であり、等張性である。この溶液は、120mEqのナトリウムイオン、109mEqの塩化物イオン、28mEqの乳酸イオン、4mEqのカリウムイオン、3mEqのカルシウムイオンで構成されていた。従って、生理食塩水とは組成が異なる。
【0228】
図17Aおよび
図17Bは、室温(+15.4℃)での乳酸Ringer溶液中の6%ヘタスターチと、冷スラリー(+0.3℃)の注射の結果をそれぞれ示す。
図17Cは、コントロール(注射していない)側を示す。
図17D~17Gは、注射部位の周囲の組織を示し、筋肉または周囲組織に影響がないことを示している。
【0229】
全ての写真は、注射手技から10日後に撮影した。冷ヘタスターチスラリーによって、正常な脂肪の形態が破壊された(細い矢印で示されるとおり)。脂肪組織は、括弧で強調されている。室温スラリーは、全体観察で脂肪組織の破壊を示さなかった。冷スラリーは、注射した領域付近の筋肉または皮膚において、全体的な変化を示さなかった。スラリー注射のみによる冷却によって、脂肪を選択的に破壊した。
【0230】
図18Aおよび
図18Bは、Sprague-Dawley成ラットにおける、乳酸Ringer溶液中の5% TWEEN(登録商標)20(ポリソルベート20)と5%デキストロースの室温(+16℃)および冷スラリー(-0.6℃)での注射の結果をそれぞれ示す。
図18Cは、コントロール(注射していない)側を示す。
図18D~18Gは、注射部位の周囲の組織を示し、筋肉または周囲組織に影響がないことを示している。
【0231】
点線の矢印で示されるように、室温スラリーおよび冷スラリーは、コントロールと比較して、両方とも通常の脂肪組織の形態を破壊した。脂肪組織は、括弧で強調されている。冷スラリーは、実線の矢印で示されるように、大きな破壊と、潜在的に大きな脂肪消失をもたらした。脂肪細胞は、一般的に洗剤に高感度である可能性がある。冷スラリーは、筋肉または皮膚に全体的な変化を生じなかった。
【0232】
図19Aおよび19Bは、Sprague-Dawley成ラットにおける、乳酸Ringer溶液中の5%ポリエチレングリコール(PEG)と5%デキストロースの室温(+8℃)および冷スラリー(-0.8℃)での注射の結果をそれぞれ示す。
図19Cは、コントロール(注射していない)側を示す。
図19D~19Gは、注射部位の周囲の組織を示し、筋肉または周囲組織に影響がないことを示している。
【0233】
点線の矢印で示されるように、室温スラリーおよび冷スラリーは、コントロールと比較して、両方とも通常の脂肪組織の形態を破壊した。脂肪組織は、括弧で強調されている。PEGは、洗剤として作用する。脂肪細胞は、一般的に洗剤に高感度である可能性がある。冷スラリーは、筋肉または皮膚に全体的な変化を生じなかった。+8℃が、脂質の結晶化温度(+14℃)より低い温度であるため、単相の液体も冷却効果を有していた可能性がある。
【0234】
これらの実験は、いくつかの結果を示す。第1に、グリセロールを含んでいなかったスラリーも、脂肪を破壊することができる。第2に、組織の破壊は、脂肪に選択的であり、筋肉またはこれを覆う皮膚に全体的な変化は観察されなかった。第3に、スラリーと同じ組成を有する冷たい液体または室温の液体がなんら変化を起こさないため、脂肪分解性添加剤が存在しない状態で、冷スラリーのみで脂肪を破壊することができる。この結果は、洗剤添加剤を含有するスラリーの室温改変物において、脂肪組織の穏やかな破壊が観察されるため、脂肪細胞が、洗剤特性を有する物質による損傷に感度が高いだろうという理論を裏付けている。第5に、組織の破壊は、冷スラリーと洗剤添加剤の条件で最も顕著であり、スラリーと洗剤の相加効果または相乗効果が存在し得るという予備的な証拠を与えている。
【0235】
内臓脂肪の治療
肥満マウスに開腹術を行った。性腺周囲の脂肪、内臓脂肪の蓄積を露出させ、試験マウスにおいて、生理食塩水で構成されるスラリーで冷却した。コントロールマウスにおいて、+37℃まで加温した生理食塩水を内臓脂肪の上に置いた。標準的な手術技術を用いて動物を閉じ、次いで、術後1週間に屠殺した。温かい生理食塩水群の屠殺時の性腺周囲の内臓脂肪の組織を
図29Aおよび
図29Cに示し、スラリー群における屠殺時の組織を
図29Bおよび
図29Dにそれぞれ示す。
図29Aおよび
図29Cは、加温した生理食塩水群において、正常な内臓脂肪の形態を示す。しかし、
図29Bおよび
図29Dに示される生理食塩水スラリー群において、全体的な組織学および高解像度の両方で、脂肪の形態の破壊が観察される。
【0236】
ここで
図30を参照し、大きなコホートから5匹の肥満マウスを選び、麻酔をかけ、計量し、それぞれスラリー2ccを腹腔内注射した。注射したスラリーは、腹腔透析溶液(ディアフィールド、イリノイのBaxter International Inc.から入手可能なDIANEAL(登録商標))と5%グリセロール(w/v)とで構成されていた。注射温度は、ほぼ-1.9℃であった。注射から1.5週後にマウスを屠殺した。屠殺時に、治療したマウスと一般的なコホートの両方を計量した。以下のグラフに示されるように、スラリーを用いた治療を受けたマウスは、平均で体重が7.9%減少した。対照的に、正常な未処理のコホートは、体重が平均で21.8%増加した。
【0237】
睡眠時無呼吸症の治療
ここで
図36A~37Bを参照し、スラリー注射を利用し、マウスモデルにおいて、睡眠時無呼吸症を治療した。
図36Aおよび
図36Bは、それぞれ、ベースラインおよび4週間のフォローアップでのコントロールマウスの気管と隣接組織の断面を示す磁気共鳴(MR)画像である。
図37Aおよび
図37Bは、それぞれ、ベースラインおよび4週間のフォローアップでの治療されたマウスの気管と隣接組織の断面を示す磁気共鳴(MR)画像である。
図37Aおよび
図37Bの治療されたマウスは、-1.9℃の温度でスラリーを注射された。
【0238】
【0239】
均等物
本発明の好ましい実施形態を、専門用語を用いて記載してきたが、このような記載は、単なる例示の目的のためのものであり、以下の特許請求の範囲の精神または範囲から逸脱することなく、変更および改変を行ってもよいことが理解されるべきである。
【0240】
参照による援用
本明細書に引用される全ての特許、公開された特許明細書および他の引用文献の全内容は、明らかに、その全体が参考により本明細書に組み込まれる。