(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/01 20060101AFI20221227BHJP
B60C 13/00 20060101ALI20221227BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20221227BHJP
B60C 11/12 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
B60C11/01 A
B60C13/00 D
B60C11/03 300B
B60C11/03 200A
B60C11/12 C
(21)【出願番号】P 2021197691
(22)【出願日】2021-12-06
(62)【分割の表示】P 2017247778の分割
【原出願日】2017-12-25
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲くわ▼野 慎吾
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-111967(JP,A)
【文献】特開2017-109543(JP,A)
【文献】特開2017-124733(JP,A)
【文献】特許第6194984(JP,B1)
【文献】特開2010-264962(JP,A)
【文献】特開2015-168301(JP,A)
【文献】特開2005-225305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/01
B60C 13/00
B60C 11/03
B60C 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部からタイヤ径方向外側に延び、タイヤ最大幅位置よりもタイヤ径方向外側にバットレス領域を有する一対のサイドウォール部と、その一対のサイドウォール部の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部とを備え、
前記トレッド部は、
複数本の主溝と、
前記複数本の主溝の中で最もタイヤ幅方向外側に位置するショルダー主溝と、
前記ショルダー主溝と交差して前記バットレス領域に至る方向に延びる複数本のラグ溝と、を備え、
前記サイドウォール部は、
前記バットレス領域において前記サイドウォール部の外表面から隆起するバットレスブロックと、
前記バットレスブロックを横切るようにタイヤ周方向に沿って環状に延びる環状リブと、
前記環状リブのタイヤ径方向外側に位置し、
前記環状リブに連続する拡幅部を形成するように前記ラグ溝から延びて前記環状リブに到達しない第1の外側ラグ溝と、
前記環状リブのタイヤ径方向内側に位置し、
前記環状リブに連続する拡幅部を形成するようにタイヤ径方向外側に延びて前記環状リブに到達しない第1の内側ラグ溝と、を備える、
空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記サイドウォール部は、更に、
前記環状リブのタイヤ径方向外側に位置し、前記ラグ溝から延びて前記環状リブに到達する第2の外側ラグ溝と、
前記環状リブのタイヤ径方向内側に位置し、タイヤ径方向外側に延びて前記環状リブに到達する第2の内側ラグ溝と、を備える、
請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記第1の外側ラグ溝の延長方向が、
前記第1の内側ラグ溝の延長方向に対してずれている、
請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記第1の外側ラグ溝のタイヤ径方向内側への延長方向は、タイヤ周方向一方側へ傾斜し、
前記第1の内側ラグ溝のタイヤ径方向外側への延長方向は、タイヤ周方向他方側へ傾斜している、
請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記第1の外側ラグ溝のタイヤ径方向内側への延長方向、及び、前記第1の内側ラグ溝のタイヤ径方向外側への延長方向の少なくとも一つが、タイヤ周方向に対して傾斜している、
請求項1~3いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記第1の外側ラグ溝、及び、前記第1の内側ラグ溝の少なくとも一方の終端が、タイヤ周方向に対して傾斜している、
請求項1~5いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記バットレスブロックの表面にサイプが形成されている請求項1~6いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記サイプの先端が、前記
第1の外側ラグ溝及び前記
第1の内側ラグ溝よりも前記環状リブに接近している請求項7に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記サイプがタイヤ径方向に沿って延び、前記環状リブのタイヤ径方向外側とタイヤ径方向内側の両方に配置されている、請求項7または8に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、泥濘地や岩場などの悪路での走行を目的とした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
泥濘地や岩場などの悪路での走行性能の向上を目的として、サイドウォール部のバットレス領域に複数のバットレスブロックを配列した空気入りタイヤが知られている。このようなバットレスブロックを備えたタイヤでは、悪路を走行する場面で剪断抵抗によるトラクションを発生する効果(トラクション効果)が得られるため、悪路走破性が向上する。また、岩肌の角張った部分などの外傷因子をサイドウォール部の外表面から遠ざける効果(プロテクション効果)が得られ、耐外傷性が向上する。更には、バットレスブロックの凹凸形状による装飾効果(デコレーション効果)が得られるので、タイヤ側面の意匠性を向上できる。
【0003】
特許文献1,2には、それぞれバットレスブロックを横切って環状に延びる環状リブを備えた空気入りタイヤが記載されている。また、特許文献3では、環状リブがバットレスブロックの上端位置に設けられている。特許文献1では、環状リブに相当する段差によって複雑な凹凸形状を形成でき、泥などを噛み込みやすくなって、トラクション効果を高めるうえで有利になると謳われている。このような環状リブを備えたタイヤに関して、本発明者は、バットレスブロックを区画するラグ溝内では環状リブの剛性が弱く、これを改善することによりプロテクション効果を高める余地があることを見出した。また、環状リブを境目にしてバットレスブロックが分断されて見えてしまう場合があり、デコレーション効果についても改善の余地があることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-124733号公報
【文献】特開2015-168301号公報
【文献】特許6194984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、バットレスブロックを横切る環状リブが設けられたバットレス領域のプロテクション効果とデコレーション効果を向上できる空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。即ち、本発明に係る空気入りタイヤは、一対のビード部と、その一対のビード部の各々からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール部と、その一対のサイドウォール部の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部と、前記トレッド部のショルダー領域からタイヤ幅方向外側に延びて前記サイドウォール部のバットレス領域に至る複数本のラグ溝と、その複数本のラグ溝によって区画されたブロックとを備え、前記ブロックは、前記ショルダー領域に設けられたショルダーブロックと、前記バットレス領域に設けられたバットレスブロックとを含み、前記バットレス領域に、前記バットレスブロックを横切ってタイヤ周方向に沿って環状に延びた環状リブが設けられており、前記バットレス領域では、前記複数本のラグ溝が、前記環状リブのタイヤ径方向外側に位置する外側ラグ溝と、前記環状リブのタイヤ径方向内側に位置する内側ラグ溝とに区画されていて、前記複数本のラグ溝のうち少なくとも一部のラグ溝には、前記環状リブの幅を大きくするようにして拡幅部が設けられているものである。拡幅部が設けられているラグ溝では、環状リブの剛性が高められるとともに、バットレスブロックを分断する境目としての環状リブが目立ちにくくなるので、バットレス領域のプロテクション効果とデコレーション効果が向上する。
【0007】
前記拡幅部が設けられている一本または二本の前記ラグ溝と、前記拡幅部が設けられていない一本または二本のラグ溝とが、タイヤ周方向に交互に配置されていることが好ましい。これにより、拡幅部が設けられているラグ溝とそうでないラグ溝とが適度に混在し、バットレスブロックを分断する境目としての環状リブがより目立ちにくくなり、デコレーション効果が良好に向上する。
【0008】
プロテクション効果を高めるうえで、前記拡幅部が、前記環状リブのタイヤ径方向外側とタイヤ径方向内側の両方に設けられていることが好ましい。また、かかる構成によれば、環状リブのタイヤ径方向外側とタイヤ径方向内側とで意匠的な一体感を与えやすくなるので、バットレス領域のデコレーション効果も向上する。
【0009】
前記拡幅部が設けられている前記ラグ溝では、前記外側ラグ溝のタイヤ径方向内側への延長方向と前記内側ラグ溝のタイヤ径方向外側への延長方向とが互いにずれていることが好ましい。かかる構成によれば、拡幅部が設けられているラグ溝において、外側ラグ溝と内側ラグ溝との意匠的な連続性が無くなるので、環状リブがタイヤ周方向に延びていないように見せることができる。その結果、バットレスブロックを分断する境目としての環状リブが目立ちにくくなり、デコレーション効果が良好に向上する。
【0010】
前記拡幅部が設けられている前記ラグ溝では、前記外側ラグ溝のタイヤ径方向内側への延長方向がタイヤ径方向内側に向かってタイヤ周方向一方側に傾斜し、且つ、前記内側ラグ溝のタイヤ径方向外側への延長方向がタイヤ径方向外側に向かってタイヤ周方向他方側に傾斜していることが好ましい。これにより、拡幅部が設けられているラグ溝では、環状リブがタイヤ周方向に延びていないように見せることができ、バットレスブロックを分断する境目としての環状リブが目立ちにくくなって、デコレーション効果が良好に向上する。
【0011】
前記拡幅部が設けられている前記ラグ溝では、前記外側ラグ溝及び前記内側ラグ溝の少なくとも一方の終端がタイヤ周方向に対して傾斜していることが好ましい。これにより、拡幅部が設けられているラグ溝では、環状リブがタイヤ周方向に延びていないように見せることができ、バットレスブロックを分断する境目としての環状リブが目立ちにくくなって、デコレーション効果が良好に向上する。
【0012】
前記拡幅部が設けられている前記ラグ溝で区画された前記バットレスブロックの表面にサイプが形成されていることが好ましい。拡幅部を設けることでバットレスブロックのエッジ成分が幾分か減少するものの、そのバットレスブロックにサイプを形成することによりエッジ成分を増やせるので、トラクション効果の維持向上に役立つ。そのサイプによるエッジ成分を増やす観点から、前記サイプの先端が、前記外側ラグ溝及び前記内側ラグ溝よりも前記環状リブに接近していることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る空気入りタイヤの一例を概略的に示すタイヤ子午線半断面図
【
図2】
図1の空気入りタイヤのショルダー領域とバットレス領域を示す展開図
【
図4】拡幅部が設けられていない比較例のバットレス領域を示す展開図
【
図5】本発明の別実施形態に係るバットレス領域を示す展開図
【
図6】本発明の別実施形態に係るバットレス領域を示す展開図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る空気入りタイヤの一例を概略的に示すタイヤ子午線半断面図であり、
図2のA-A断面に相当する。
図2は、その空気入りタイヤのショルダー領域とバットレス領域を示す展開図である。
図2では、左右方向がタイヤ周方向、下方向がタイヤ幅方向外側、上方向がタイヤ幅方向内側となる。
図3A~3Dは、それぞれ
図2のA-A,B-B,C-C,D-D断面を示す概略図である。
【0015】
空気入りタイヤTは、泥濘地や岩場を含む悪路での走行を目的としたオフロード用空気入りラジアルタイヤである。
図1に示すように、この空気入りタイヤTは、一対のビード部1と、その一対のビード部1の各々からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール部2と、その一対のサイドウォール部2の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部3とを備える。ビード部1には、鋼線等の収束体をゴム被覆してなる環状のビードコア1aと、ビードコア1aのタイヤ径方向外側に配置されたビードフィラー1bとが設けられている。
【0016】
空気入りタイヤTは、更に、一対のビード部1の間に設けられたカーカス4と、トレッド部3においてカーカス4の外周側に設けられたベルト5と、空気圧保持のためにカーカス4の内周側に設けられたインナーライナー6とを備える。カーカス4は、全体としてトロイド状をなし、その端部がビードコア1aとビードフィラー1bを挟み込むようにして巻き上げられている。ベルト5は、内外に積層された2枚のベルトプライを含む。ベルト5の外周側にはトレッドゴム30が設けられている。インナーライナー6は、空気が充填されるタイヤTの内部空間に面する。サイドウォール部2では、インナーライナー6がカーカス4の内周側に直接的に貼り付けられており、それらの間に他の部材は介在していない。
【0017】
図1,2に示すように、トレッドゴム30の表面には、タイヤ周方向に沿って延びた複数本の主溝7と、タイヤ周方向と交差する方向に延びた複数本のラグ溝8とが設けられている。ラグ溝8は、タイヤ周方向に間隔を置いて複数配置されている。空気入りタイヤTは、トレッド部3のショルダー領域3Sからタイヤ幅方向外側に延びてサイドウォール部2のバットレス領域2Bに至る複数本のラグ溝8と、その複数本のラグ溝8によって区画されたブロックとを備える。このラグ溝8で区画されたブロックは、ショルダー領域3Sに設けられたショルダーブロック31と、バットレス領域2Bに設けられたバットレスブロック21とを含む。ショルダーブロック31及びバットレスブロック21は、それぞれタイヤ周方向に間隔を置いて複数配置されている。
【0018】
ショルダー領域3Sは、トレッド部3においてショルダー主溝71よりもタイヤ幅方向外側となる領域である。ショルダー主溝71は、複数本の主溝7の中で最もタイヤ幅方向外側に位置する。ショルダーブロック31は、そのショルダー主溝71のタイヤ幅方向外側に設けられている。本実施形態では、相対的にタイヤ幅方向外側の位置にエッジを有するショルダーブロック31aと、相対的にタイヤ幅方向内側の位置にエッジを有するショルダーブロック31bとをタイヤ周方向に交互に配置した、いわゆるスタッガードショルダーを採用している。かかる構成によれば、ショルダーブロック31bよりも外側にエッジを突き出したショルダーブロック31aの剪断抵抗によるトラクションを発生して、悪路走破性を向上できる。
【0019】
バットレス領域2Bは、サイドウォール部2のタイヤ径方向外側の領域、より詳しくはタイヤ最大幅位置10よりもタイヤ径方向外側の領域であって、平坦な舗装路での通常走行時には接地しない部分である。泥濘地や砂場のような軟弱路では、車両の重みによりタイヤが沈むため、バットレス領域2Bが擬似的に接地する。タイヤ最大幅位置10は、タイヤTのプロファイルラインがタイヤ幅方向においてタイヤ赤道TEから最も離れる位置である。タイヤTのプロファイルラインは、リムプロテクタ11などの突起物を除いたサイドウォール部2の外表面となる輪郭線であり、通常、複数の円弧を滑らかに接続することで規定される子午線断面形状を持つ。
【0020】
図2及び
図3A~3Dに示すように、バットレスブロック21は、ショルダーブロック31のタイヤ幅方向外側に配置され、タイヤ径方向に沿って延在している。バットレスブロック21の下端(タイヤ径方向内側端)は、タイヤ最大幅位置10よりもタイヤ径方向外側に配置されている。バットレスブロック21は、タイヤTのプロファイルラインに沿ったサイドウォール部2の外表面2aから隆起している。
【0021】
本実施形態では、ショルダーブロック31aのタイヤ幅方向外側に配置されたバットレスブロック21aと、ショルダーブロック31bのタイヤ幅方向外側に配置されたバットレスブロック21bとがタイヤ周方向に交互に配置されている。バットレスブロック21aの下端は、バットレスブロック21bの下端よりもタイヤ径方向内側に位置している。図示されていない部分においても、このような二種のバットレスブロック21a,21bがタイヤ周方向に並んでおり、それらの配列体が環状ブロック列20を構成している。但し、環状ブロック列20を構成するバットレスブロックは二種に限られず、三種以上であっても構わない。
【0022】
本実施形態のタイヤTでは、このような複数のバットレスブロック21が設けられていることにより、泥濘地や岩場などの悪路を走行する場面では、バットレスブロック21の剪断抵抗によるトラクション効果を発揮して悪路走破性を向上できる。また、バットレスブロック21が設けられていることにより、岩肌の角張った部分などの外傷因子をサイドウォール部2の外表面2aから遠ざけるプロテクション効果を発揮し、耐外傷性を向上できる。更には、バットレスブロック21の凹凸形状によりデコレーション効果を奏して、タイヤ側面の意匠性を向上することができる。
【0023】
このタイヤTでは、バットレス領域2Bに、バットレスブロック21を横切ってタイヤ周方向に沿って環状に延びた環状リブ22が設けられている。バットレス領域2Bでは、複数本のラグ溝8が、環状リブ22のタイヤ径方向外側に位置する外側ラグ溝81と、環状リブ22のタイヤ径方向内側に位置する内側ラグ溝82とに区画されている。環状リブ22は、バットレスブロック21と同様に、サイドウォール部2の外表面2aから隆起している。本実施形態では、外表面2aを基準にした環状リブ22の隆起高さがバットレスブロック21の隆起高さよりも大きく、それによって段差が形成されている。但し、環状リブ22を目立たせなくする観点から、これらを面一に形成してもよい。バットレスブロック21は、環状リブ22よりも大きく隆起した部位を含んでいてもよい。
【0024】
環状リブ22は、所定の幅W22を有した頂面を備える。環状リブ22の断面形状は、頂面が平坦な山状をなし、より具体的には、斜面が緩やかに湾曲して括れた成層火山状をなす。但し、これに限られず、頂面が平坦な矩形状や台形状、或いは頂面が先細りとなる三角形状など、他の形状を採用しても構わない。外表面2aを基準にした環状リブ22の隆起高さは、例えば5mm以上であり、好ましくは8mm以上である。一方、外表面2aを基準にしたバットレスブロック21の隆起高さは、トラクション効果とプロテクション効果を確保する観点から、5mm以上が好ましく、8mm以上がより好ましい。これらの隆起高さがタイヤ径方向に沿って変化する場合は、その最大値が上記範囲にあることが好ましい。
【0025】
環状リブ22は、例えば、
図1に示した距離Daが20~40mmの範囲内となる位置に設定される。距離Daは、タイヤTの最外径位置35から環状リブ22の頂面のタイヤ径方向外側縁までのタイヤ径方向距離として求められる。また、環状リブ22は、例えば、
図1に示した距離Dbがタイヤ断面半幅HWの75%以上となる位置に設定される。距離Dbは、タイヤ赤道TEから環状リブ22の頂面のタイヤ径方向外側縁までのタイヤ幅方向距離として求められる。タイヤ断面半幅HWは、タイヤ赤道TEからタイヤ最大幅位置10までのタイヤ幅方向距離として求められる。
【0026】
複数本のラグ溝8のうち少なくとも一部のラグ溝8Aには、環状リブ22の幅を大きくするようにして拡幅部23が設けられている。
図2のように、拡幅部23は、ラグ溝8Aで区画された一対のバットレスブロック21,21(即ち、バットレスブロック21aとバットレスブロック21b)を互いに繋ぐようにタイヤ周方向に延びている。また、
図3Bのように、拡幅部23は、サイドウォール部2の外表面2aから隆起し、環状リブ22からタイヤ径方向に延びている。かかる構成により、拡幅部23が設けられているラグ溝8Aでは、環状リブ22の剛性が高められ、バットレス領域2Bのプロテクション効果が向上する。また、このような拡幅部23が設けられていることにより、バットレスブロック21を分断する境目としての環状リブ22が目立ちにくくなり、バットレス領域2Bのデコレーション効果が向上する。
【0027】
図4は、本実施形態と比較するために示した比較例であり、便宜上、本実施形態で説明した部位と同一の部位に同一の符号を付している。
図4のバットレス領域2Bは、ラグ溝8Aに拡幅部が設けられていない点を除いて、
図2のバットレス領域2Bと同じである。この比較例では、
図2のような拡幅部23が設けられていないことから、
図2の場合と比べて、バットレスブロック21を分断する境目として環状リブ22が視覚的に目立ってしまう。それ故、バットレスブロック21の意匠が環状リブ22で上下に分断されて見え、意図したものとは異なる印象を看者に与えてしまう恐れがある。かかる観点に基づき、
図4の形態では、バットレス領域2Bのデコレーション効果に対して改善の余地があると言える。
【0028】
図2のように、複数本のラグ溝8のうち、拡幅部23が設けられているラグ溝8A以外のラグ溝8Bには拡幅部23が設けられていない。本実施形態では、その拡幅部23が設けられている一本のラグ溝8Aと、拡幅部23が設けられていない一本のラグ溝8Bとが、タイヤ周方向に交互に配置されている。これにより、ラグ溝8Aとラグ溝8Bとが適度に混在し、バットレスブロック21を分断する境目としての環状リブ22がより目立ちにくくなり、デコレーション効果が良好に向上する。かかる改善効果を得るうえで、拡幅部23が設けられている一本または二本のラグ溝8Aと、拡幅部23が設けられていない一本または二本のラグ溝8Bとがタイヤ周方向に交互に配置されていることが好ましい。
【0029】
本実施形態では、拡幅部23が、環状リブ22のタイヤ径方向外側とタイヤ径方向内側の両方に設けられている。即ち、ラグ溝8Aには、環状リブ22からタイヤ径方向外側に延びた拡幅部23と、環状リブ22からタイヤ径方向内側に延びた拡幅部23とが設けられている。これにより、バットレス領域2Bのプロテクション効果を良好に高めることができる。また、拡幅部23によって、環状リブ22のタイヤ径方向外側とタイヤ径方向内側とで意匠的な一体感を与えやすくなるので、バットレス領域2Bのデコレーション効果も向上する。
【0030】
本実施形態において、拡幅部23が設けられているラグ溝8Aでは、外側ラグ溝81のタイヤ径方向内側への延長方向と内側ラグ溝82のタイヤ径方向外側への延長方向とが互いにずれている。かかる構成によれば、そのラグ溝8Aにおいて、外側ラグ溝81と内側ラグ溝82との意匠的な連続性を減じて、環状リブ22がタイヤ周方向に延びていないように見せることができる。その結果、バットレスブロック21を分断する境目としての環状リブ22が目立ちにくくなり、デコレーション効果が良好に向上する。ここで、外側ラグ溝81の延長方向は、その外側ラグ溝81の溝幅中央を通る中央線の延長方向に相当し、内側ラグ溝82の延長方向もこれに準ずる(
図2の鎖線BL1,BL2参照)。
【0031】
拡幅部23が設けられているラグ溝8Aでは、外側ラグ溝81のタイヤ径方向内側への延長方向、及び、内側ラグ溝82のタイヤ径方向外側への延長方向の少なくとも一方が、タイヤ周方向に対して傾斜していることが好ましい。本実施形態では、それら両方がタイヤ周方向に対して傾斜しており、具体的には、外側ラグ溝81のタイヤ径方向内側への延長方向がタイヤ径方向内側に向かってタイヤ周方向一方側(
図2の右側)に傾斜し、且つ、内側ラグ溝82のタイヤ径方向外側への延長方向がタイヤ径方向外側に向かってタイヤ周方向他方側(
図2の左側)に傾斜している。よって、これらの延長方向は互いに交わらない位置関係にある。このため、バットレスブロック21を分断する境目としての環状リブ22がより目立ちにくくなり、デコレーション効果が良好に向上する。
【0032】
拡幅部23が設けられているラグ溝8Aでは、外側ラグ溝81及び内側ラグ溝82の少なくとも一方の終端がタイヤ周方向に対して傾斜していることが好ましい。これにより、そのラグ溝8Aでは、環状リブ22がタイヤ周方向に延びていないように見せることができ、バットレスブロック21を分断する境目としての環状リブ22が目立ちにくくなって、デコレーション効果が良好に向上する。本実施形態では、内側ラグ溝82の終端(タイヤ径方向外側端)がタイヤ周方向に対して傾斜している例を示す。これに代えて、または加えて、外側ラグ溝81の終端(タイヤ径方向内側端)をタイヤ周方向に対して傾斜させてもよい。
図2では、タイヤ周方向に対する内側ラグ溝82の終端の傾斜角度θを示している。
【0033】
本実施形態では、
図2のように、拡幅部23が設けられているラグ溝8Aで区画されたバットレスブロック21の表面にサイプ24が形成されている。サイプ24は、切り込み状に形成されており、サイプ24の溝幅はラグ溝8の溝幅よりも小さい。拡幅部23を設けることでバットレスブロック21のエッジ成分が幾分か減少するものの、このようなサイプ24をバットレスブロック21に形成することによりエッジ成分を増やせるため、トラクション効果の維持向上に役立つ。サイプ24は、タイヤ径方向に沿って延在し、環状リブ22のタイヤ径方向外側と内側の両方に配置されている。
【0034】
サイプ24によるエッジ成分を増やす観点から、サイプ24の先端は、外側ラグ溝81及び内側ラグ溝82よりも環状リブ22に接近していることが好ましい。本実施形態では、環状リブ22のタイヤ径方向外側に形成されたサイプ24の先端が外側ラグ溝81よりも環状リブ22に接近し、環状リブ22のタイヤ径方向内側に形成されたサイプ24の先端が内側ラグ溝82よりも環状リブ22に接近している。バットレス領域2Bの表面において、環状リブ22のタイヤ径方向外側のサイプ24の先端から環状リブ22までの距離は、外側ラグ溝81の終端から環状リブ22までの距離(
図5の距離D1に相当)よりも小さい。同様に、環状リブ22のタイヤ径方向内側にあるサイプ24の先端から環状リブ22までの距離は、内側ラグ溝82から環状リブ22までの距離(
図5の距離D2に相当)よりも小さい。
【0035】
上述した各寸法値は、タイヤを正規リムに装着して正規内圧を充填した無負荷の正規状態で測定したものである。正規リムとは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRAであれば "Design Rim"、或いはETRTOであれば "Measuring Rim" とする。また、正規内圧とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" とする。
【0036】
上記の如き環状ブロック列20は、少なくとも片側のサイドウォール部2に形成されていればよいが、バットレス領域のプロテクション効果とデコレーション効果をより良好に向上する観点から、両側のサイドウォール部2に形成されていることが好ましい。
【0037】
図5の変形例では、
図2の実施形態よりも、外側ラグ溝81の終端から環状リブ22までのタイヤ径方向距離D1、及び、内側ラグ溝82の終端から環状リブ22までのタイヤ径方向距離D2を大きくしている。この実施形態では、拡幅部23のタイヤ径方向長さが大きいことにより、その拡幅部23によるプロテクション効果を比較的大きく向上できる。このような拡幅部23によるプロテクション効果を良好に高める観点から、距離D1及びD2は、それぞれ1mm以上が好ましく、3mm以上がより好ましく、5mm以上が更に好ましい。また、距離D1及びD2は、例えば10mm以下である。
【0038】
図6の変形例では、拡幅部23が設けられるラグ溝8Aとして、
図2で示したラグ溝8A(左側のラグ溝8A)と、
図5で示したラグ溝8A(右側のラグ溝8A)とが混在している。左側のラグ溝8Aでは、右側のラグ溝8Aに比べてバットレスブロック21のエッジ成分が多いため、トラクション効果に優れる。また、右側のラグ溝8Aでは、既述のように左側のラグ溝8Aよりもプロテクション効果に優れる。よって、左側のラグ溝8Aと右側のラグ溝8Aとが混在することにより、例えばラグ溝8Bを挟みつつそれらがタイヤ周方向に交互に配置されることにより、トラクション効果とプロテクション効果をバランス良く向上できる。
【0039】
本発明に係る空気入りタイヤは、サイドウォール部のバットレス領域を上記の如く構成したこと以外は、通常の空気入りタイヤと同等に構成できる。したがって、従来公知の材料、形状、構造、製法などは、いずれも本発明に採用できる。
【0040】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 ビード部
2 サイドウォール部
2a サイドウォール部の外表面
2B バットレス領域
3 トレッド部
3S ショルダー領域
8 ラグ溝
81 外側ラグ溝
82 内側ラグ溝
20 環状ブロック列
21 バットレスブロック
22 環状リブ
23 拡幅部
24 サイプ
31 ショルダーブロック