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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】処置具
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/08 20060101AFI20221227BHJP
【FI】
A61B18/08
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021504727
(86)(22)【出願日】2019-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2019010381
(87)【国際公開番号】W WO2020183672
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】銅 庸高
【審査官】槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/195334(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/043120(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織を処置する処置面と、前記処置面と表裏の関係を持つ背面とを有するエンドエフェクタを備え、
前記エンドエフェクタは、
前記処置面を有する処置部と、前記処置部よりも低い熱伝導率を有する断熱部と、蓄熱する蓄熱部材と、を備え、前記処置部、前記断熱部、及び前記蓄熱部材の順に前記処置面から前記背面への第1の方向に沿って積層されている処置具。
【請求項2】
前記蓄熱部材は、
相変化に伴う潜熱によって蓄熱する潜熱蓄熱材を含む請求項1に記載の処置具。
【請求項3】
前記蓄熱部材は、
前記潜熱蓄熱材を封止する封止部材を備える請求項2に記載の処置具。
【請求項4】
前記潜熱蓄熱材は、
パラフィンを含む請求項2に記載の処置具。
【請求項5】
前記処置部を加熱するヒータをさらに備え、
前記断熱部は、
前記ヒータと前記蓄熱部材との間に位置する請求項1に記載の処置具。
【請求項6】
前記エンドエフェクタは、
前記背面を有する支持部材をさらに備え、
前記ヒータは、
前記処置部に対して取り付けられ、
前記処置部及び前記蓄熱部材は、
前記支持部材に対してそれぞれ取り付けられている請求項5に記載の処置具。
【請求項7】
前記処置部は、
導電性材料によって構成され、前記生体組織に対して高周波電流を流す電極である請求項1に記載の処置具。
【請求項8】
生体組織を把持する一対の把持部材を備え、
前記一対の把持部材の少なくとも一方は、
前記エンドエフェクタである請求項1に記載の処置具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処置具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体組織における処置の対象となる部位(以下、対象部位と記載)に対してエネルギを付与することによって当該対象部位を処置する処置具が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載の処置具は、対象部位を処置する処置面と、当該処置面と表裏の関係を持つ背面とを有するエンドエフェクタを備える。当該エンドエフェクタは、対象部位に接触する側から順に、上述した処置面を有するブレードと、当該ブレードを加熱するヒータと、当該ブレード及び当該ヒータを支持するとともに上述した背面を有するジョーとが積層された積層構造を有する。そして、当該処置具では、ブレードを経由することによって、ヒータの熱を対象部位に伝達させる。これによって、対象部位は、処置される。
【0003】
ところで、エネルギ付与による生体組織の処置を行った場合には、ジョーにおける上述した背面の温度も上昇する。そして、当該背面の温度が高温になった状態で、当該背面が生体組織における対象部位以外の部位に接触した場合には、生体組織に対して意図しない作用を及ぼしてしまう。
そこで、特許文献1に記載の処置具では、ブレード及びヒータとジョーとの間に低熱伝導性を有する樹脂によって構成された断熱部を設けている。すなわち、断熱部によって、ブレード及びヒータからジョーへの熱を断熱する構造を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/043120号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、断熱部を設けた特許文献1に記載の処置具であっても、エンドエフェクタを小型化した場合には、当該断熱部による断熱効果が低いものとなる。すなわち、ジョーの背面の温度を所望の温度以下にすることができない可能性がある。結果として、生体組織に対して意図しない作用を及ぼしてしまう虞がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、生体組織に対して意図しない作用を及ぼすことを効果的に回避することができる処置具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る処置具は、生体組織を処置する処置面と、前記処置面と表裏の関係を持つ背面とを有するエンドエフェクタを備え、前記エンドエフェクタは、前記処置面を有する処置部と、前記処置部よりも低い熱伝導率を有する断熱部と、蓄熱する蓄熱部材と、を備え、前記処置部、前記断熱部、及び前記蓄熱部材の順に前記処置面から前記背面への第1の方向に沿って積層されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る処置具によれば、生体組織に対して意図しない作用を及ぼすことを効果的に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施の形態に係る処置システムを示す図である。
図2図2は、把持部を示す図である。
図3図3は、第1の把持部材を示す図である。
図4図4は、第1の把持部材を示す図である。
図5図5は、実施の形態の効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施の形態)について説明する。なお、以下に説明する実施の形態によって本発明が限定されるものではない。さらに、図面の記載において、同一の部分には同一の符号を付している。
【0011】
〔処置システムの概略構成〕
図1は、本実施の形態に係る処置システム1を示す図である。
処置システム1は、生体組織における処置の対象となる部位(以下、対象部位と記載)に対してエネルギを付与することによって、当該対象部位を処置する。ここで、当該処置とは、例えば、対象部位の凝固及び切開を意味する。この処置システム1は、図1に示すように、処置具2と、制御装置3とを備える。
【0012】
〔処置具の構成〕
処置具2は、例えば、腹壁を通した状態で対象部位を処置するための外科医療用処置具である。この処置具2は、図1に示すように、ハンドル5と、シャフト6と、把持部7とを備える。
ハンドル5は、術者が手で持つ部分である。そして、このハンドル5には、図1に示すように、操作ノブ51と、スイッチ52とが設けられている。
操作ノブ51は、術者による開閉操作を受け付ける。
スイッチ52は、術者による出力開始操作を受け付ける。そして、スイッチ52は、電気ケーブルC(図1)を経由することによって、制御装置3に対して当該出力開始操作に応じた操作信号を出力する。
【0013】
シャフト6は、略円筒形状を有する。なお、以下では、シャフト6の中心軸を中心軸Ax(図1)と記載する。また、以下では、中心軸Axに沿う一方側を先端側Ar1(図1)と記載し、他方側を基端側Ar2(図1)と記載する。そして、シャフト6は、基端側Ar2の端部がハンドル5に対して接続されている。また、シャフト6における先端側Ar1の端部には、把持部7が取り付けられている。そして、このシャフト6の内部には、術者による操作ノブ51への開閉操作に応じて、把持部7を構成する第1,第2の把持部材8,9(図1)を開閉する開閉機構(図示略)が設けられている。また、このシャフト6の内部には、電気ケーブルCがハンドル5を経由することによって基端側Ar2から先端側Ar1まで配設されている。
【0014】
〔把持部の構成〕
図2は、把持部7を示す図である。
把持部7は、対象部位を把持した状態で当該対象部位を処置する部分である。この把持部7は、図1または図2に示すように、第1,第2の把持部材8,9を備える。
第1,第2の把持部材8,9は、本発明に係る一対の把持部材に相当する。これら第1,第2の把持部材8,9は、術者による操作ノブ51への開閉操作に応じて、矢印R1(図2)方向に開閉可能に構成されている。
【0015】
〔第1の把持部材の構成〕
図3及び図4は、第1の把持部材8を示す図である。具体的に、図3は、中心軸Axを含む平面によって第1の把持部材8を切断した断面図である。図4は、中心軸Axに直交する平面によって第1の把持部材8を切断した断面図である。
第1の把持部材8は、本発明に係るエンドエフェクタに相当する。この第1の把持部材8は、第2の把持部材9に対向する位置に配設されている。そして、第1の把持部材8は、図2ないし図4に示すように、第1のジョー10Aと、第1の断熱部材10Bと、ブレード11と、ヒータ12(図3図4)と、第2の断熱部材13(図3図4)と、蓄熱部材14(図3図4)とを備える。
【0016】
第1のジョー10Aは、シャフト6の一部を先端側Ar1に延在させた部分であり、中心軸Axに沿って延在する長尺状に形成されている。この第1のジョー10Aは、例えば、ステンレスやチタン等の金属材料によって構成されている。
第1の断熱部材10Bは、中心軸Axに沿って延在する長尺形状を有し、第1のジョー10Aにおける図3及び図4中、上方側の面に固定される。
この第1の断熱部材10Bにおいて、図3及び図4中、上方側の面には、当該第1の断熱部材10Bの基端から先端側Ar1に向けて延在した凹部101が形成されている。そして、第1の断熱部材10Bは、凹部101内において、各部材11~14を支持する。
【0017】
以上説明した第1の断熱部材10Bを構成する材料としては、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等の電気絶縁性を有し、かつ、ブレード11よりも低い熱伝導率を有する樹脂材料等を例示することができる。すなわち、ブレード11及びヒータ12と第1のジョー10Aとの間に熱伝導率の低い第1の断熱部材10Bを配設することによって、ヒータ12から第1のジョー10Aに向かう熱の伝達を制限し、当該ヒータ12からの熱を効率良くブレード11に伝達することが可能となる。
そして、上述した第1のジョー10A及び第1の断熱部材10Bは、本発明に係る支持部材10(図2図4)に相当する。また、第1のジョー10Aにおいて、図3及び図4中、下方側の面は、本発明に係る背面102に相当する。
【0018】
ブレード11は、本発明に係る処置部に相当する。このブレード11は、中心軸Axに沿って延在する長尺形状を有し、凹部101内に固定されている。そして、ブレード11は、例えば銅、アルミニウム、銅合金、アルミニウム合金等のように導電性を有し、熱伝導に優れた材料によって構成されている。
このブレード11において、図3及び図4中、上方側の面は、第1,第2の把持部材8,9によって対象部位を把持した状態で、当該対象部位に対して接触する。すなわち、当該面は、当該対象部位を処置する処置面111(図2図4)として機能する。ここで、図3及び図4中、上から下に向かう方向A1は、処置面111から背面102への方向であり、本発明に係る第1の方向に相当する。本実施の形態では、処置面111は、第1の方向A1に対して直交する平坦面によって構成されている。
なお、処置面111は、平坦面によって構成されているが、これに限らず、凸形状や凹形状等のその他の形状によって構成しても構わない。第2の把持部材9における後述する把持面931も同様である。
【0019】
また、ブレード11において、処置面111と表裏の関係を持つ実装面112には、当該ブレード11の基端から先端まで延在した凹部113(図3図4)が形成されている。なお、以下では、説明の便宜上、凹部113を構成する図4中、左右一対の側壁をそれぞれ突出部114と記載する。
【0020】
ヒータ12は、通電によって発熱するシートヒータであり、凹部113の底面に対して固定されている。このヒータ12は、具体的な図示は省略したが、ポリイミド等の電気絶縁性を有するシート状の基板に電気抵抗パターンが蒸着等によって形成されたものである。当該電気抵抗パターンには、電気ケーブルCを構成するリード線(図示略)が接合される。そして、当該電気抵抗パターンには、制御装置3による制御の下、当該リード線を経由することによって電圧が印加される。これによって、当該電気抵抗パターンは、発熱する。
【0021】
第2の断熱部材13は、中心軸Axに沿って延在する長尺状の平板であり、図3または図4に示すように、凹部113を閉塞する状態で一対の突出部114の突端に対して固定されている。
この第2の断熱部材13を構成する材料としては、PEEK等の電気絶縁性を有し、かつ、ブレード11よりも低い熱伝導率を有する樹脂材料等を例示することができる。すなわち、ブレード11及びヒータ12と第1のジョー10Aとの間に熱伝導率の低い第2の断熱部材13を配設することによって、ヒータ12から第1のジョー10Aに向かう熱の伝達を制限し、当該ヒータ12からの熱を効率良くブレード11に伝達することが可能となる。
以上説明した第2の断熱部材13は、本発明に係る断熱部に相当する。なお、本発明に係る断熱部としては、上述した第2の断熱部材13に限らず、空気層(断熱層)を採用しても構わない。
【0022】
蓄熱部材14は、中心軸Axに沿って延在する長尺状のシートによって構成され、図3または図4に示すように、凹部101の底面に対して固定されている。この状態では、蓄熱部材14は、第2の断熱部材13と凹部101の底面との間に位置する。そして、蓄熱部材14は、潜熱蓄熱材141と、封止部材142とを備える。
潜熱蓄熱材141は、ある温度までは他の物質と同様の熱的挙動を示すものの、物質固有の当該ある温度で相変化を生じ、それに伴う潜熱による吸熱作用を利用することによって、他の物質に比べて単位体積当たり大きな熱量を保持することができる物質である。この潜熱蓄熱材141としては、例えば、50℃以上100℃以下、より好ましくは60℃以上80℃以下の温度範囲において相変化(固体から液体への相変化)を生じる例えばパラフィン等を例示することができる。
封止部材142は、潜熱蓄熱材141が内部に封入される例えば樹脂容器やアルミラミネートパック等によって構成されている。
【0023】
以上のように、第1の把持部材8は、図3または図4に示すように、ブレード11、第2の断熱部材13、蓄熱部材14、及び支持部材10の順に第1の方向A1に沿って積層されている。
【0024】
〔第2の把持部材の構成〕
第2の把持部材9は、図2に示すように、第2のジョー91と、第3の断熱部材92と、対向板93とを備える。
第2のジョー91は、中心軸Axに沿って延在する長尺形状を有する。そして、第2のジョー91は、基端側Ar2の端部が支点P0(図2)を中心としてシャフト6に対して回動可能に軸支され、回動することによって第1の把持部材8に対して開閉する。
なお、本実施の形態では、第1の把持部材8がシャフト6に固定され、第2の把持部材9がシャフト6に軸支された構成としているが、これに限らない。例えば、第1,第2の把持部材8,9の双方がシャフト6に軸支され、それぞれ回動することによって第1,第2の把持部材8,9が開閉する構成を採用しても構わない。また、例えば、第1の把持部材8がシャフト6に軸支され、第2の把持部材9がシャフト6に固定され、第1の把持部材8が回動することによって第2の把持部材9に対して開閉する構成を採用しても構わない。
【0025】
第3の断熱部材92は、例えばPEEK等の電気絶縁性を有し、かつ、低い熱伝導率を有する樹脂材料等によって構成され、第2のジョー91と対向板93との間に配設されている。
対向板93は、例えば銅等の導電性材料によって構成され、第3の断熱部材92における第1の把持部材8に対向する面上に固定されている。
この対向板93において、第1の把持部材8側の面は、処置面111との間で対象部位を把持する把持面931(図2)として機能する。
【0026】
〔制御装置の構成〕
制御装置3には、電気ケーブルCによって、処置具2が着脱自在に接続される。そして、制御装置3は、電気ケーブルCを経由することによって、スイッチ52と電気的に接続する。また、制御装置3は、電気ケーブルCを経由することによって、ヒータ12(電気抵抗パターン)と電気的に接続する。さらに、制御装置3は、電気ケーブルCを経由することによって、ブレード11及び対向板93とそれぞれ電気的に接続する。そして、制御装置3は、スイッチ52からの操作信号に応じて、以下に示す処置制御を実行する。
【0027】
制御装置3は、電気ケーブルCを経由することによって、ヒータ12(電気抵抗パターン)に対して電圧を印加する。ここで、制御装置3は、ヒータ12に対して供給している電圧値及び電流値から例えば電圧降下法を用いてヒータ12(電気抵抗パターン)の抵抗値(以下、ヒータ抵抗と記載)を計測する。また、制御装置3は、予め測定された抵抗温度特性を参照する。なお、抵抗温度特性は、ヒータ抵抗とヒータ12(電気抵抗パターン)の温度(以下、ヒータ温度と記載)との関係を示す特性である。そして、制御装置3は、ヒータ12(電気抵抗パターン)に対して供給する電力を変更しながら、当該ヒータ抵抗を当該抵抗温度特性における目標温度に対応する目標抵抗値に制御する。これによって、ヒータ温度は、目標温度に制御される。当該目標温度に制御されたヒータ12からの熱は、ブレード11を経由することによって、第1,第2の把持部材8,9の間に把持された対象部位に伝達される。言い換えれば、当該対象部位には、熱エネルギが付与される。
【0028】
また、制御装置3は、上述した対象部位への熱エネルギの付与と略同時に、電気ケーブルCを経由することによって、ブレード11及び対向板93に対して高周波電力を供給する。これによって、ブレード11及び対向板93の間に把持された対象部位には、高周波電流が流れる。言い換えれば、当該対象部位には、高周波エネルギが付与される。すなわち、ブレード11及び対向板93は、高周波電力が供給され、対象部位に高周波電流を流す電極としての機能も有する。
そして、対象部位は、上述した熱エネルギの付与によって加熱される。また、当該対象部位には、高周波電流が流れることによって、ジュール熱が発生する。これによって、当該対象部位は、処置される。
【0029】
以上説明した本実施の形態によれば、以下の効果を奏する。
図5は、本実施の形態の効果を説明する図である。具体的に、図5に示す実線は、ヒータ12を一定の温度に制御した場合での第1のジョー10Aの背面102の温度の挙動を示している。また、図5に示す一点鎖線は、第1の把持部材8において、第2の断熱部材13を省略し、ヒータ12及びブレード11に対して直接、蓄熱部材14を当接させた構成(以下、非断熱構造と記載)とし、図5に示す実線の場合と同様にヒータ12を一定の温度に制御した場合での第1のジョー10Aの背面102の温度の挙動を示している。
【0030】
第1の把持部材8を上述した非断熱構造とし、ヒータ12を一定の温度に制御した場合には、当該ヒータ12からの熱は、第2の断熱部材13を経由することなく、直接、蓄熱部材14に伝達される。すなわち、蓄熱部材14は、比較的に短時間で相変化を生じる温度T1(図5)に達する。このため、当該場合には、背面102の温度は、図5に一点鎖線で示すように、比較的に短時間で高温になってしまう結果となる。なお、第2の断熱部材13のみならず、蓄熱部材14も省略した構成では、具体的な図示は省略したが、上述した非断熱構造よりも短時間で高温になってしまうものである。
【0031】
一方、本実施の形態に係る処置具2では、第1の把持部材8は、ブレード11、第2の断熱部材13、蓄熱部材14、及び支持部材10の順に第1の方向A1に沿って積層されている。また、第2の断熱部材13は、ヒータ12と蓄熱部材14との間に位置する。このため、第2の断熱部材13によって、ヒータ12から蓄熱部材14に向かう熱の伝達が制限される。すなわち、蓄熱部材14は、比較的に長い時間が経過した後に、相変化を生じる温度T1に達する。そして、蓄熱部材14には、温度T1に達した後、相変化に伴う潜熱によって吸熱作用が働くこととなる。したがって、本実施の形態に係る処置具2では、背面102の温度は、図5に実線で示すように、上述した非断熱構造のように短時間で高温になってしまうことがない。
以上のように、本実施の形態に係る処置具2によれば、背面102の温度を所望の温度以下にすることが可能となり、結果として、生体組織に対して意図しない作用を及ぼすことを効果的に回避することができる。
【0032】
また、本実施の形態に係る処置具2では、蓄熱部材14は、相変化に伴う潜熱によって蓄熱する潜熱蓄熱材141を含む。
このため、潜熱蓄熱材141が温度T1に達する時間までは、当該潜熱蓄熱材141における潜熱による吸熱作用が働かないため、当該潜熱蓄熱材141によって対象部位の温度上昇を大きく妨げることがなく、当該対象部位を適切に処置することができる。
【0033】
また、本実施の形態に係る処置具2では、蓄熱部材14は、潜熱蓄熱材141を封止する封止部材142を備える。
このため、潜熱蓄熱材141が相変化によってゲル化した際に、封止部材142によって、当該潜熱蓄熱材141が外部に流出することを防止することができる。
【0034】
また、本実施の形態に係る処置具2では、潜熱蓄熱材141は、60℃以上80℃以下の温度範囲において相変化を生じるパラフィンを含む。
このため、背面102の温度を例えば90℃以下にすることが可能となる。
【0035】
また、本実施の形態に係る処置具2では、ヒータ12及び第2の断熱部材13は、ブレード11に対して取り付けられている。また、ブレード11及び蓄熱部材14は、支持部材10に対してそれぞれ取り付けられている。
このため、ブレード11を支持部材10から取り外すことによって、蓄熱部材14を交換することができる。したがって、処置具2の再製造時の作業が容易になる。
【0036】
(その他の実施形態)
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は上述した実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。
上述した実施の形態に係る処置具2では、対象部位に対して熱エネルギ及び高周波エネルギの双方を付与していたが、これに限らない。例えば、本発明に係る処置具を、熱エネルギのみを付与する構成(ヒータ12からの熱によってのみ対象部位を処置する構成)、あるいは、高周波エネルギのみを付与する構成(ブレード11及び対向板93からの高周波電流によってのみ対象部位を処置する構成)としても構わない。さらに、対象部位に対して付与するエネルギとしては、熱エネルギ及び高周波エネルギに限らず、超音波エネルギを採用しても構わない。なお、「対象部位に対して超音波エネルギを付与する」とは、対象部位に対して超音波振動を付与することを意味する。
【0037】
上述した実施の形態に係る処置具2では、第1,第2の把持部材8,9のうち、第1の把持部材8のみに本発明に係る断熱部及び蓄熱部材を設けていたがこれに限らず、第1,第2の把持部材8,9の双方に設けても構わない。第2の把持部材9に本発明に係る断熱部及び蓄熱部材を設ける場合には、第3の断熱部材92を本発明に係る断熱部とし、当該第3の断熱部材92と第2のジョー91との間に本発明に係る蓄熱部材を配置する。
上述した実施の形態に係る処置具2では、本発明に係る蓄熱部材として、潜熱蓄熱材141を含む蓄熱部材14を採用していたが、これに限らず、伝達された熱を蓄えることが可能な部材であれば、その他の蓄熱部材を採用しても構わない。
上述した実施の形態に係る処置具2では、第1,第2の把持部材8,9によって対象部位を把持する構成を採用していたが、これに限らない。例えば、第2の把持部材9を省略した構成としても構わない。
【符号の説明】
【0038】
1 処置システム
2 処置具
3 制御装置
5 ハンドル
6 シャフト
7 把持部
8 第1の把持部材
9 第2の把持部材
10 支持部材
10A 第1のジョー
10B 第1の断熱部材
11 ブレード
12 ヒータ
13 第2の断熱部材
14 蓄熱部材
51 操作ノブ
52 スイッチ
91 第2のジョー
92 第3の断熱部材
93 対向板
101 凹部
102 背面
111 処置面
112 実装面
113 凹部
114 突出部
141 潜熱蓄熱材
142 封止部材
931 把持面
A1 第1の方向
Ar1 先端側
Ar2 基端側
Ax 中心軸
C 電気ケーブル
P0 支点
R1 矢印
T1 温度
図1
図2
図3
図4
図5