(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】ガラス板の製造方法および磁気ディスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
G11B 5/84 20060101AFI20221227BHJP
G11B 5/73 20060101ALI20221227BHJP
C03C 19/00 20060101ALI20221227BHJP
B23K 26/361 20140101ALI20221227BHJP
B23K 26/38 20140101ALI20221227BHJP
【FI】
G11B5/84 Z
G11B5/73
C03C19/00 Z
B23K26/361
B23K26/38 Z
(21)【出願番号】P 2021528306
(86)(22)【出願日】2020-06-29
(86)【国際出願番号】 JP2020025596
(87)【国際公開番号】W WO2020262702
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2019122243
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】東 修平
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-150546(JP,A)
【文献】特開2006-079800(JP,A)
【文献】特表2010-519164(JP,A)
【文献】特開2013-004114(JP,A)
【文献】特開2019-011242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/84
G11B 5/73
C03C 19/00
B23K 26/361
B23K 26/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤形状のガラス板の端面に対して形状加工を行う処理を含むガラス板の製造方法であって、
円盤形状のガラス板を基台から浮上させるステップと、
基台に載置された前記ガラス板を浮上させた状態で、前記ガラス板を非接触で加熱しながら、前記ガラス板の端面にレーザー光を照射し、前記端面に対して前記レーザー光を前記円盤形状のガラス板の周方向に相対的に移動しながら、前記端面を目標とする形状に加工するステップと、
を含む、ことを特徴とするガラス板の製造方法。
【請求項2】
前記ガラス板の浮上は、超音波、気体の圧力又は静電力の中から少なくとも1つを用いて、浮上力あるいは吸引力を前記ガラス板に付与することにより行うことを特徴とする、請求項1に記載のガラス板の製造方法。
【請求項3】
円盤形状のガラス板の端面に対して形状加工を行う処理を含むガラス板の製造方法であって、
円盤形状のガラス板を支持台や支持具に非接触となるように配置するステップと、
前記支持台や支持具に非接触の状態の前記ガラス板を加熱しながら、前記ガラス板の端面にレーザー光を照射し、前記端面に対して前記レーザー光を前記円盤形状のガラス板の周方向に相対的に移動しながら、前記端面を目標とする形状に加工するステップと、
を含む、ことを特徴とするガラス板の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス板は、主表面の面内における温度差が50℃以下となるように非接触で加熱される、請求項1~3のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項5】
前記端面を目標とする形状に加工するステップでは、前記端面に、面取り面を形成するように、前記レーザー光の照射の条件が設定される、請求項1~4のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項6】
前記端面に照射される前記レーザー光の光束の前記周方向の長さW2の前記ガラス板の直径Dに対する比であるW2/Dは、0.03~0.2である、請求項1~5のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項7】
前記レーザー光の照射により形成された前記ガラス板の直径は、前記レーザー光の照射前の前記ガラス板の直径に比べて増大する、請求項1~6のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項8】
前記レーザー光の前記端面に沿って移動する移動速度は、0.7~140[mm/秒]である、請求項1~7のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項9】
前記ガラス板の厚さThは、0.7mm以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項10】
前記ガラス板の製造方法は、前記端面を目標とする形状に加工した前記ガラス板の主表面を研削あるいは研磨するステップを含み、
前記端面を目標とする形状に加工した後、前記主表面の研削あるいは研磨の前に、前記端面の研磨を行わない、あるいは、前記端面の研磨を行っても、前記端面の研磨による取り代量は5μm以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法により製造されたガラス板の主表面に磁性膜を形成する、ことを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【請求項12】
円盤形状のガラス板を載置する基台と、
前記ガラス板を前記基台から浮上させるための手段と、
前記基台から浮上させた前記ガラス板を非接触な方法で加熱するための加熱手段と、
前記ガラス板の端面にレーザー光を照射するための手段と、
を少なくとも有する、ガラス板の製造装置。
【請求項13】
前記レーザー光は、前記端面に面取り面を形成するように前記端面に照射される、請求項12に記載のガラス板の製造装置。
【請求項14】
前記ガラス板は、磁気ディスク用ガラス基板又は磁気ディスク用ガラス基板の素材である、請求項12又は13に記載のガラス板の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円盤形状のガラス板の端面に対して形状加工を行う処理を含むガラス板の製造方法およびこのガラス板の製造方法を用いた磁気ディスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
データ記録のためのハードディスク装置には、円盤形状の非磁性の磁気ディスク用ガラス基板に磁性層が設けられた磁気ディスクが用いられる。
磁気ディスク用ガラス基板を製造するとき、最終製品である磁気ディスク用ガラス基板の素となる円盤状のガラス素板の端面は、微細なパーティクルが主表面に付着して磁気ディスクの性能に悪影響を与えないためにも、パーティクルの発生しやすい端面の表面を滑らかにすることが好ましい。また、磁気ディスクを精度よくHDD装置に組み込む点から、さらには、ガラス基板の主表面に磁性膜を形成する際にガラス基板の外周端面を把持する治具の把持に適するように、ガラス板の端面を目標形状に揃えることが好ましい。
【0003】
ガラス板の端面を目標形状にするための方法として、ガラス板のエッジを、レーザー光を用いて面取り加工する方法が知られている。例えば、ガラス板であるガラス部材の全体を常温より高い所定温度に保持した状態で、レーザー光を、照射スポットがガラス部材の角部に沿って移動するように、上記ガラス板に照射することにより、上記角部の少なくとも一部分をその他の部分よりさらに高温に加熱して軟化させて面取りする(特許文献1)。
この面取り加工を行うとき、ガラス部材は、あらかじめ定めた支持台に載せた状態で支持台に固定して加熱した後、レーザー光をガラス部材の角部に照射することが一般的に行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の方法で加工すると、処理後の基板に大きな歪みが残留してしまうことがわかった。この原因を調査したところ、加熱したガラス部材からガラス部材の支持台に、これらの接触部分を通じて熱が逃げるため、実質的にガラス部材を均一に加熱することができず、その結果、ガラス部材の主表面の面内の位置によって加工中の温度履歴が異なり、ガラス部材の主表面内における歪み(リタデーション値)の最大値と最小値との差、すなわち、歪み分布(歪みのバラツキ)が大きくなることがわかった。この歪み分布が大きいと、その後のガラス部材の加工工程などの様々な工程においてガラス部材に撓みや割れが発生しやすくなる恐れがある。
【0006】
そこで、本発明は、円盤形状のガラス板の端面に対してレーザー光の照射により形状加工を行ってガラス板を製造するとき、ガラス板の主表面内における面内の歪み(リタデーション値)の分布を抑制することができるガラス板の製造方法および磁気ディスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、円盤形状のガラス板の端面に対して形状加工を行う処理を含むガラス板の製造方法である。当該製造方法は、
円盤形状のガラス板を基台から浮上させるステップと、
前記ガラス板を浮上させた状態で、前記ガラス板を非接触で加熱しながら、前記ガラス板の端面にレーザー光を照射し、前記端面に対して前記レーザー光を前記円盤形状のガラス板の周方向に相対的に移動しながら、前記端面を目標とする形状に加工するステップと、を含む。
本発明の一態様も、円盤形状のガラス板の端面に対して形状加工を行う処理を含むガラス板の製造方法である。当該製造方法は、
円盤形状のガラス板と基台とが非接触となるように配置するステップと、
前記雰囲気内に配置した前記ガラス板を非接触で加熱しながら、前記ガラス板の端面にレーザー光を照射し、前記端面に対して前記レーザー光を前記円盤形状のガラス板の周方向に相対的に移動しながら、前記端面を目標とする形状に加工するステップと、を含む。
【0008】
前記ガラス板は、主表面の面内における温度差が50℃以下となるように非接触で加熱される、ことが好ましい。
【0009】
前記端面を目標とする形状に加工するステップでは、前記端面に、面取り面を形成するように、前記レーザー光の照射の条件が設定される、ことが好ましい。
その際、前記面取り面の前記主表面の径方向に沿った長さCの、前記ガラス板の厚さThに対する比であるC/Thが、0.1~0.7となるように、前記条件が設定される、ことが好ましい。
【0010】
前記レーザー光により形成された端面の算術平均粗さRaは0.02μm以下である、ことが好ましい。
【0011】
前記端面に照射される前記レーザー光の光束の前記周方向の長さW2の前記ガラス板の直径Dに対する比であるW2/Dは、0.03~0.2である、ことが好ましい。
【0012】
前記端面に照射する前記レーザー光の断面強度分布はシングルモードであって、前記端面における照射位置上の前記レーザー光の光束の前記ガラス板の厚さ方向の幅をW1[mm]とし、前記ガラス板の厚さをTh[mm]とし、前記レーザー光のパワー密度をPdとしたとき、W1>Thであって、Pd×Thは、0.8~3.5[W/mm]である、ことが好ましい。
【0013】
前記レーザー光の照射により形成された前記ガラス板の直径は、前記レーザー光の照射前の前記ガラス板の直径に比べて増大するように前記パワー密度Pdは設定される、ことが好ましい。
【0014】
前記レーザー光の前記端面に沿って移動する移動速度は、0.7~140[mm/秒]である、ことが好ましい。
【0015】
前記ガラス板のヤング率は、70[GPa]以上である、ことが好ましい。
【0016】
前記ガラス板は、線膨張係数が100×10-7[1/K〕以下である、ことが好ましい。
【0017】
前記ガラス板の厚さThは、0.7mm以下である、ことが好ましい。
【0018】
前記ガラス板の製造方法は、前記端面を目標とする形状に加工した前記ガラス板の主表面を研削あるいは研磨するステップを含み、
前記端面を目標とする形状に加工した後、前記主表面の研削あるいは研磨の前に、前記端面の研磨を行わない、あるいは、前記端面の研磨を行っても、前記端面の研磨による取り代量は5μm以下である、ことが好ましい。
【0019】
本発明の他の一態様は、前記ガラス板の製造方法により製造されたガラス板の主表面に磁性膜を形成する、ことを特徴とする磁気ディスクの製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
上述のガラス板の製造方法および磁気ディスクの製造方法によれば、円盤形状のガラス板の端面に対してレーザー光の照射により形状加工を行ってガラス板を製造するとき、ガラス板の主表面内における歪み(リタデーション値)の分布を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】一実施形態であるガラス板の製造方法におけるレーザー光の照射を説明する図である。
【
図2】レーザー光の照射位置における光束の形状の一例を説明する図である。
【
図3】レーザー光の照射位置における光束と光強度分布を説明する図である。
【
図4】レーザー光による形状加工後の端面の形状を説明する図である。
【
図5】(a)~(c)は、レーザー光の照射の条件の相違による端面の形状の相違を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、一実施形態であるガラス板の製造方法におけるレーザー光の照射を説明する図である。
図2は、レーザー光の照射位置における光束の形状の一例を説明する図である。
図3は、レーザー光の照射位置における光束と光強度分布を説明する図である。
図4は、レーザー光による形状加工後の端面の形状を説明する図である。
【0023】
本実施形態のガラス板の製造方法で形状加工するガラス板は、円盤形状であって、円盤形状の中心位置に、外周端と同心円状の内周端が形成されるように円孔があけられた形状を成している。換言すれば、本実施形態のガラス板は円環形状のガラス板である。本実施形態のガラス板の円盤形状は、円環形状の他、上記円孔があいていない円盤形状であってもよい。本実施形態のガラス板の製造方法で形状加工するガラス板の例としては、磁気ディスク用ガラス基板に限られず、HDD用ガラススペーサやその他の製品(いずれも加工前中間体を含む)、があげられる。
このガラス板から、端面を目標形状に揃えたガラス板を作製するために、あるいは、ガラス板の端面と主表面の接続部分が角張ったエッジとならないように、ガラス板には、ガラス板の主表面と端面の接続部分に面取りを形成する形状加工が施される。
特に、円孔のあいた円盤形状の磁気ディスク用ガラス基板を製造するとき、最終製品である磁気ディスク用ガラス基板の素となる円盤状のガラス板の端面の形状は、磁気ディスクを精度よくHDD装置に組み込むために、さらには、ガラス基板の主表面に磁性膜を形成する際にガラス基板の端面を治具によって確実に把持するためにも、目標形状に揃えることが望ましい。さらに、微細なパーティクルが主表面に付着して磁気ディスクの性能に悪影響を与えないために、パーティクルの発生しやすい端面の表面を滑らかにすることが望ましい。このために、本実施形態では、面取りのための形状加工を行うために、レーザー光を用いる。
【0024】
具体的には、
図1に示すように、円孔16のあいた円盤形状のガラス板10は、主表面12と端面14とを有する。
図1に示す例では、外周端面をレーザー光Lによる形状加工の端面14としているが、円孔16に沿った内周端面もレーザー光による形状加工の対象とすることができる。少なくとも内周端面と外周端面の一方をレーザー光による形状加工の対象とすればよい。
本実施形態では、ガラス板10を水平にした状態で、端面14にレーザー光を照射し、レーザー光Lを、円盤形状のガラス板10の周方向に端面14に対して相対的に移動しながら、端面14を目標形状に加工する。ガラス板10の主表面12を垂直にした状態でレーザー光Lを端面14に照射して端面14を目標形状に加工してもよい。ガラス板10の配置の向きは、特に制限されない。レーザー光Lは、例えば端面14の法線方向から端面14に照射される。レーザー光Lは、後述するレーザー光源20から出射したレーザー光Lを、コリーメータ等を含む光学系22を通して平行光とした後、集束レンズ24を介してレーザー光Lを集束させた後、拡張するレーザー光Lを端面14に照射する。
一方、ガラス板10は、ガラス板10の中心位置を回転中心として一定速度で回転させる。こうして、レーザー光Lと端面14とを、円盤形状のガラス板10の周方向にお互いに相対的に移動させながら、レーザー光Lはガラス板10の端面14の全周を照射する。ガラス板10を回転させる代わりに、レーザー光Lの照射位置を端面14に沿って移動させてもよく、レーザー光Lと端面14とを相対的に移動すればよい。
ここで、レーザー光Lの端面14への照射は、照射される端面14の位置の法線方向から行ってもよいし、法線方向から傾けてもよい。例えば、法線方向から45度以下の角度で傾けることができる。上記法線方向は、完全な法線方向(傾斜角度0度)の他に、法線方向に対する傾斜角度が10度以内の範囲内も許容範囲として含まれる。
【0025】
上記レーザー光Lを用いた形状加工では、ガラス板10は予め高温に加熱された後、レーザー光Lと端面14とを、円盤形状のガラス板10の周方向にお互いに相対的に移動させる。このとき、レーザー光Lはガラス板10の端面14の全周を照射するために、一般的には、ガラス板10を支持台に載せて固定し、あるいは支持具でガラス板10を挟持して固定することが行われる。しかし、高温となったガラス板10の熱は支持台や支持具から逃げるため、ガラス板10を実質的に均一に加熱することができない。その結果、ガラス板10における主表面12内で温度履歴が異なり、ガラス板10に歪み分布が生じ易い。
【0026】
具体的に、従来のレーザー光Lを用いた形状加工を説明すると、ガラス板10の、レーザー光Lの照射位置付近の端面14においてガラス板10の厚さ方向の全体にレーザー光Lが当たるように、支持台や支持具の大きさや主表面との接触位置が調整される。換言すれば、ガラス板10の外周端面及び/又は内周端面がガラス板10の全周に渡って外部に露出するように、支持台や支持具の大きさやガラス板10の主表面12との接触位置が調整される。このとき、支持台や支持具と接触するガラス板10の主表面12上の接触位置は、外周端面から所定の距離以上内側であって、かつ、内周端面から所定の距離以上外側の、主表面12上の領域になる。上記接触位置は、別の言い方をすれば、ガラス板10の主表面12上において最外周部と最内周部とを除いた部分(中周部分とも言う)と言える。
上記所定の距離は、ガラス板10を支持台や支持具上に載置する際の位置のバラツキを考慮して、例えば5mm以上とすることができる。仮に所定の距離を5mmとした場合、中周部分は、外周端面から5mm以上離れていて、かつ、内周端面から5mm以上離れている、主表面12上の領域となる。
【0027】
ガラス板10を支持台や支持具上へ載置した後、一般的にはガラス板10の加熱を継続しながらレーザー光Lがガラス板10の端面14に照射される。しかし、従来、加熱されたガラス板10の熱の一部は、支持台や支持具を通して逃げるため、ガラス板10の主表面12を実質的に均一に加熱することができず、温度の分布が発生していた。この結果、ガラス板10における主表面12内の位置によって温度履歴が異なるため、ガラス板10の中周部分に異常な歪みが発生し、歪み分布が生じ易かった。
【0028】
さらに、発明者の検討によると、支持台や支持具との接触に起因するガラス板10の歪みは、上記端面14からの所定の距離の大小にかかわらず、中周部分において、ある程度の広がりを持って発生することがわかった。よって、ガラス板10の主表面12の径方向において、内周端を0%、外周端を100%としたときに、内周端及び外周端からそれぞれ約25%以上離れた中周部分で検出できることがわかった。したがって、歪み分布を評価する場合、例えば、ガラス板10の内周端から径方向に25%、50%、75%離れた中周部分の任意の複数の位置において歪みを測定することで評価することができる。これら3つの径方向の測定位置は、例えば外径95mm、内径25mmの円環状ガラスをガラス板として用いる場合、内周端からそれぞれ8.75mm、17.5mm、26.25mm(中心からの距離はそれぞれ21.25mm、30mm、38.75mm)となる。
【0029】
他方、本実施形態では、
図1に示すように、ガラス板10を基台の載置面18から浮上させることにより、ガラス板10と載置面18とを非接触な状態とし、その上で、ガラス板10に非接触な方法でガラス板10を加熱しながら、ガラス板10の端面にレーザー光Lを照射する。加熱装置は、図示を省略している。ガラス板10の非接触加熱は、例えば、ヒーター等による熱輻射や伝熱炉内での加熱により行うことができる。あるいは、レーザー光Lとは異なる加熱用のレーザー光を用いてガラス板10全体を加熱する。加熱用のレーザー光の照射スポット径は特に限定はないが、ガラス板10の直径(外径)の3/4以上とすることが、加熱効率を上げやすいため好ましい。また、加熱用のレーザー光がガラス板10の主表面12の全面を走査するようにしてもよいし、複数のレーザー光を用いてもよい。この加熱用レーザー光として、例えばCO
2レーザーを使用することができる。CO
2レーザーの光は一般的にガラスに99%以上吸収されるため、効率よくガラス板を加熱することができる。
このようにすることで、支持台や支持具との接触部を通じてガラス板10からの熱の流出がなくなるので、ガラス板10を均一に加熱することが容易となる。その結果、ガラス板10の中周部分の熱履歴が揃いやすくなるので、中周部分における異常な歪みの発生を抑制することができる。
【0030】
このように、ガラス板10の端面にレーザー光Lを照射する際、ガラス板10を載置面18から浮上させ、ガラス板10と載置面18とが非接触な状態とし、ガラス板10に非接触な方法でガラス板10を加熱しながら、ガラス板10の端面にレーザー光Lを照射する。その際、端面14に対してレーザー光Lを円盤形状のガラス板10の周方向に相対的に移動する。これにより、端面14を目標とする形状に加工することができる。
【0031】
ガラス板10の浮上は、超音波、気体の圧力、あるいは静電力等を利用した周知の技術を用いて浮上力あるいは吸引力をガラス板10に付与することにより行われる。浮上量Hは、安定していれば特に制限はないが、例えば、0.1mm以上とすることができ、より好ましくは0.5~5mmである。この浮上により、支持台や支持具からの熱の流出を抑制することができる。
【0032】
例えば、超音波の場合、定在波による気体の疎密を利用し、あるいはさらに音響放射圧を利用する。音源である振動子と反射板を平行に配置して定在波の音場を形成すると、気圧が低くなる定在波の節の位置で疎密差により浮上力が発生し、この位置で、対象物を浮揚させることができる。しかし、この浮上力は小さいため、音響放射圧による浮上力を利用することが好ましい。音響放射圧は、たわみ振動モードあるいは縦振動モードの振動板の上に、対象物体を平行に載せると、音波の伝搬を遮る対象物体の底面に音響放射圧が作用し、これにより浮上力が生じる。このような浮上力による浮上量は、例えば、0.1mm以上とすることができ、より好ましくは0.5~5mmである。この浮上により、支持台や支持具を通した流出を抑制することができる。
【0033】
また、ガラス板10の主表面12に対向するように超音波発生面を配置して、超音波発生面の面に圧縮された薄い空気の膜を形成することにより、超音波発生面とガラス板10とが離間する反発力を形成して、ガラス板10を超音波発生面から非接触状態にし、一方、超音波発生面から空気を吸引してできる負圧を吸引力として、ガラス板10を超音波発生面に対して離間した状態で固定する、すなわち、非接触状態でガラス板10をチャックすることができる。したがって、超音波発生面を回転させることで容易にガラス板10の回転を制御することができる。場合によっては、吸引力を用いることなく、超音波のみを用いてガラス板10を基台に対して非接触状態として、超音波発生面の上に固定(チャック)することもできる。
この場合、加工中浮上量が変化することがないように、浮上量を一定にする超音波の制御を行うことが好ましい。
【0034】
気体の圧力を利用する場合、ベルヌーイ効果を利用した非接触チャックなどが利用できる。例えば、基台の上方に、基台に対向するように円筒室を設け、この室内に高速の旋回流(渦巻き流)を発生させて、旋回中心部に発生する負圧と円筒室から外部に流れる吐出気体による正圧により対象物体を吸引させて、基台から対象物体を浮上させることができる。気体の圧力を利用する場合、非接触ながらガラス板10を固定する力が比較的強いので、チャック部を含む基台ごと回転させることで容易にガラス板10の回転を制御することができる。また、対象物体を帯電させて、静電力によって浮上させることもできる。このような浮上方法は、単独で用いてもよいが、上記超音波、気体の圧力、静電力などからいずれか2つ以上を複合して用いてもよい。
【0035】
このように、円盤形状のガラス板10を基台から浮上させ、ガラス板10を浮上させた状態で、ガラス板10を非接触で加熱しながら、ガラス板10の端面にレーザー光Lを照射し、端面14に対してレーザー光Lをガラス板10の周方向に相対的に移動しながら、端面14を目標とする形状に加工する。レーザー光Lのガラス板10への照射により、ガラス板10の端面14の形状を目標形状からばらつくことなく揃えることができ、面取り面を形成することができ、さらに、ガラス板10の主表面12の面内における歪み(リタデーション値)のばらつきを抑制することができる、すなわち、歪み分布を抑制することができる。例えば、基台の載置面18に載せた状態で加熱してレーザー光Lの照射による形状加工をしたガラス板10の面内の中周部におけるリタデーション値の最大値と最小値の差は30nm超であるのに対して、本実施形態の載置面18からガラス板10を浮上させた状態で加熱してレーザー光Lの照射による形状加工をした場合、ガラス板10のリタデーション値の上記差を30nm以下、好ましくは20nm以下とすることができる。しかも、端面14の表面を滑らかにすることができる。ガラス板10の面内の中周部におけるリタデーション値の上記差は10nm以下であるとより好ましく、5nm以下であるとさらに好ましい。リタデーション値の上記差が大きいと、後工程において、加熱プロセス中にガラス板に反りが生じたり、割れが発生しやすくなる恐れがある。特に、ガラス板が最終的に磁気ディスク用ガラス基板となる場合、その後の基板表面への磁性膜の成膜工程において高温に加熱されるため、リタデーション値の上記差を小さくすることは重要である。
一実施形態によれば、レーザー光Lを用いた形状加工前に行うガラス板10の事前加熱において、ガラス板は、主表面12の面内の中周部における温度差が50℃以下となるように非接触で加熱されることが好ましい。これにより、面取り面の形状を周上で均一に形成することができるとともに、リタデーション値の上記差を低減することができる。上記温度差は、20℃以下となるように非接触で加熱されることがより好ましい。
【0036】
このようなレーザー光Lの照射により端面14を目標形状にするためには、以下の照射の条件が挙げられる。
端面14に照射するレーザー光Lの断面強度分布はシングルモードであることが好ましい。すなわち、レーザー光Lの断面強度分布は、ガウス分布である。このようなレーザー光Lの、端面14における照射位置上の光束のガラス板10の厚さ方向の幅を、
図2に示すようにW1[mm]とし、ガラス板10の厚さを
図1,3に示すようにTh[mm]とし、レーザー光Lのパワー密度をPd[W/mm
2]としたとき、レーザー光Lの照射では、W1>Thであって、Pd×Thは、0.8~3.5[W/mm]である条件を用いることが好ましい。ここで、レーザー光Lの光束は、ガラス板10の厚さ方向の両側にはみ出すように照射される。また、レーザー光Lの端面14の両側にはみ出す幅を同等とすることで、ガラス板10の厚さ方向の両側において面取りを均等に行うことができ、2つの面取り面14cの形状を同等にすることができる。パワー密度Pdは、レーザー光Lの全パワーP[W]を、レーザー光Lの照射する部分における光束の面積で割った値である。レーザー光Lの光束が、短軸半径がW1/2、長軸半径がW2/2である楕円形状(
図2参照)を成している場合、パワー密度Pdは4×P/W1/W2/π[W/mm
2](πは円周率)と規定される。
ここで、レーザー光Lの一例として、CO
2レーザー光を用いるが、ガラスに対し吸収がある発振波長であればよく、CO
2レーザー光に制限されない。例えば、COレーザー(発振波長~5μmや~10.6μm)、Er-YAGレーザー(発振波長~2.94μm)等が挙げられる。CO
2レーザー光を用いる場合、波長は3μm以上とすることが好ましい。さらに、波長を11μm以下とするとより好ましい。波長が3μmよりも短いと、ガラスがレーザー光Lを吸収しにくくなり、ガラス板10の端面14を十分に加熱できない場合がある。また、波長が11μmより長いと、レーザー装置の入手が困難である場合がある。なお、レーザー光源20の発振形態は特に限定されず、連続発振光(CW光)、パルス発振光、連続発振光の変調光のいずれであってもよい。但し、パルス発振光および連続発振光の変調光の場合、レーザー光Lの相対的な移動速度が速い場合に移動方向に面取り面14cの形状のムラを生じる虞がある。その場合、発振および変調の周波数は1kHz以上が好ましく、より好ましくは5kHz以上、さらに好ましくは10kHz以上である。
光束の幅W1及び後述する長さW2は、レーザー光Lのガラス板10の照射位置を、例えば2枚のシリンドリカルレンズを用いて調整することで設定することができる。また、幅W1はビームプロファイラから求めることができ、長さW2は、ビームプロファイラによるビーム形状とガラス板の直径Dから求めることができる。
【0037】
レーザー光Lの幅W1を、ガラス板10の厚さThより大きくすることにより、端面14の主表面12側(厚さ方向両側)の側端にもレーザー光Lを十分に照射させることができ、熱によってガラス板10の一部を軟化溶融させることにより、面取り面を形成することができる。
レーザー光Lの幅W1の、ガラス板10の厚さThに対する比であるTh/W1を大きくし過ぎる(すなわち、Th/W1が1に近づき過ぎる)と、レーザーの強度分布の勾配が急峻な範囲の影響を受け、ガラス板10のエッジ部分の加熱が弱くなるとともに、ガラス板10の端面14の厚さ方向の中心部分の加熱は強くなる。そのため、後述の球面形状の端面になりやすく好ましくない。また、Th/W1を小さくし過ぎると、端面14へのレーザー光Lによる加熱が小さくなり過ぎて面取り面14cの形成が困難になる場合がある。上記観点より、Th/W1は0.3~0.9の範囲内であることが好ましい。
一方、レーザー光Lのパワー密度Pdが過度に低い場合、端面14の加熱が十分でなく面取り面が形成されない。一方、パワー密度Pdが過度に高い場合、端面14全体が熱によって球形状に丸まり、球形状の厚さ方向の厚さが、ガラス板10の厚さThよりも大きくなる。
このため、照射の条件として、W1>Thとし、Pd×Th=0.8~3.5[W/mm]とすることが好ましい。Pd×Thは、3.0[W/mm]以下であることが好ましく、より好ましくは1.0~2.8[W/mm]であり、よりいっそう好ましくは1.2~2.3[W/mm]である。
Pd×Th=0.8~3.5[W/mm]とするので、ガラス板10の厚さThが薄くなり、照射条件がPd×Th=0.8~3.5[W/mm]からはずれる場合、パワー密度Pdを高めることを意味する。パワー密度Pdを高めることで、レーザー光Lによるガラス板10の照射面積が小さくなった分をパワー密度Pdで補うことができ、面取り面14cを形成することができる。
なお、ガラス板10の厚さ方向の両側に同じ形状の面取り面を同時に形成するために、レーザー光Lの幅方向の光束の中心位置を、ガラス板10の厚さ方向の、ガラス板10の真ん中の位置に合わせることが好ましい。
【0038】
このような条件を用いることにより、ガラス板10の端面14の形状を目標形状からばらつくことなく目標形状に揃えることができ、面取り面14cを形成することができる。しかも、端面14の表面を滑らかにすることができる。
上述したようにPd×Thの値の範囲を制限して面取り面14cを形成することができるが、Pd×Thの値と移動速度の値とを制御して端面14にレーザー光Lを照射することにより、ガラス板10の端面14に、面取り面14cを効率よく形成することができる。また、Pd×Thの値と移動速度の値とをさらに詳細に制御することにより面取り面14cのみならず、ガラス板10の主表面12に垂直な面、すなわち側壁面14tを形成することができる。これにより、端面14の形状を、目標形状に対してばらつくことなく揃えることができる。しかも、端面14の表面を滑らかにすることができる。この場合、面取り面14c形成前のガラス板10の端面14は、ガラス板10の厚さ方向の少なくとも中心部において主表面12に対して垂直な面を有する。ガラス板10の端面14へのレーザー光Lの照射によってガラス板10の端面14の厚さ方向の両側のエッジ部(主表面12と端面14との境界部分)、例えば直角に曲がった角部を軟化及び/又は溶融させて、端面14のエッジ部を、丸みを帯びた形状に面取りするとともに、面取り後の端面14に、ガラス板10の厚さ方向の両側の面取り面に挟まれた主表面12に垂直な面(側壁面14t)を形成することができる。特に、端面14は、主表面12に垂直な長さが厚さThの10分の1以上の面(側壁面14t)と、面取り面14cとを備えることが好ましい。上記垂直な面(側壁面14t)の長さT(
図4参照)は、厚さThの5分の1以上であることがより好ましい。
レーザー光Lの照射により面取り面14cとともに形成される上記垂直な面(側壁面14t)は、一実施形態によれば、レーザー光Lの照射により面取り面14cが形成される前の端面14の主表面12に垂直な面と異なり、新たに形成される面であり、表面粗さRzおよび算術平均粗さRaは、レーザー光Lの照射により低減する。また、円盤形状のガラス板10の中心位置から垂直な面(側壁面14t)までの半径方向の距離は大きくなる。
なお、主表面12に垂直な面(側壁面14t)とは、主表面12に対して90度±2度の範囲を許容範囲とする面である。
【0039】
上述のガラス板10の形状加工を含むガラス板の製造方法について、以下、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法を用いて説明する。
磁気ディスク用ガラス基板も、
図1に示すガラス板10と同様に、円孔が設けられた円盤形状の薄板のガラス基板である。磁気ディスク用ガラス基板のサイズは問わないが、磁気ディスク用ガラス基板は、例えば、公称直径2.5インチや3.5インチの磁気ディスク用ガラス基板のサイズである。公称直径3.5インチの磁気ディスク用ガラス基板の場合、例えば、外径(公称値)は、95mm~97mmである。公称直径2.5インチの磁気ディスク用ガラス基板の場合、例えば、外径(公称値)は、65mm~67mmである。磁気ディスク用ガラス基板の厚さは、例えば0.20mm~0.65mm、好ましくは0.30mm~0.65mmであり、好ましくは、0.30mm~0.53mmである。このガラス基板の主表面上に磁性層が形成されて磁気ディスクが作られる。
【0040】
ガラス基板は、
図4に示すガラス板10の外周端と同様の端面の形状を有する。ガラス板10は、一対の主表面12,12、外周端部の端面14に形成された側壁面14t、側壁面14tと主表面12,12の間に介在する面取面14c,14c、内周端部の端面にも、外周端部の端面14と同様に、図示されない側壁面、及び、この側壁面と主表面12,12の間に介在する図示されない面取り面とを備える。この形状が、レーザー光Lを用いた端面14の形状加工における目標形状である。目標形状について以下説明する。
側壁面14tは、主表面12に対して略直交する方向に延びる面である。略直交とは、主表面12に対する側壁面14tの傾斜角度が、88度~92度の範囲にあることをいう。面取り面14cは、主表面12と滑らかに接続されて、側壁面14tに向かって延びている。面取り面14cは、外側に向かって凸の湾曲形状を成して側壁面14tに滑らかに接続している。したがって、
図4に示す面取り面14cの、主表面12の径方向に沿った長さC[mm]は、主表面12に対して傾斜角度2度超88度未満の範囲で傾斜した部分の長さである。
面取り面14cを主表面12の径方向及び厚さ方向に沿って切断したときの面取り面14cの曲線形状は、径方向外側に進むほど、面取り面14cの主表面12に対する傾斜角度が連続的に大きくなる形状を成している。
【0041】
このようなガラス基板を作製するとき、例えば、予め作製された大きなガラス板からレーザー光を用いて、ガラス板10のサイズに比べてやや大きめのガラスブランクを切り出すことができる。
ガラスブランクを切り出す前の大きなシートガラスは、例えば、フローティング法あるいはダウンドロー法を用いて作製された一定の板厚のガラス板である。あるいは、ガラスの塊を、金型を用いてプレス成形したガラス板であってもよい。ガラス板の板厚は、最終製品である磁気ディスク用ガラス基板になる時の目標板厚に対して、研削及び研磨の取り代量の分だけ厚く、例えば、数μm~数100μm程度厚い。
なお、レーザー光を用いてガラスブランクを切り出す方法の他に、従来のように、スクライバを用いてガラス板に切り欠き線を形成し、加熱等によって切り欠き線に沿ってクラックを発生させて割断させる方法を用いてもよい。また、フッ酸等のエッチング液を用いたウェットエッチングによりガラスブランクを切り出してもよい。
【0042】
大きなシートガラスからガラスブランクを切り出す処理をレーザー光で行う場合、レーザー光として、例えば、YAGレーザー、あるいは、Nd:YAGレーザー等の固体レーザーが用いられる。したがって、レーザー光の波長は、例えば、1030nm~1070nmの範囲にある。この場合、レーザー光は、例えばパルスレーザーであり、パルス幅を10×10-12秒以下(10ピコ秒以下)とする。レーザー光の光エネルギーは、パルス幅及びパルス幅の繰り返し周波数に応じて適宜調整することができる。このレーザー光の照射によって、切断しようとする境界線上に沿った離散的な位置に欠陥を断続的に形成することができる。
この後、欠陥を形成したガラス板の、上記境界線を境にして外側部分と内側部分のうち、外側部分の加熱を、内側部分に比べて高めることにより、あるいは、外側部分を加熱することにより、ガラス板の外側部分と内側部分を分離する。
あるいは、レーザー光の照射によって、切断しようとする境界線上に沿って離散的に形成した欠陥が線状に連続するように、別種のレーザー光を上記境界線に沿って連続的に照射してもよい。例えば、別種のレーザー光として、CO2レーザーを用いることができる。このレーザー光によって、断続的に形成された欠陥をつなぐように線状の欠陥を形成することができる。この場合、必要に応じて、上記境界線を境にして外側部分と内側部分のうち、外側部分の加熱を、内側部分に比べて高めることにより、あるいは、外側部分を加熱することにより、ガラス板の外側部分と内側部分を分離する。こうして、シートガラスから円板形状のガラスブランクを切り出すことができる。このように形成した円板形状のガラスブランクの端面の表面粗さRzは、例えば1~10μmであり、算術平均粗さRaは例えば0.1~1μmである。
【0043】
さらに、切り出した円板状のガラスブランクに、同心円の円孔をあけるために、上述した方法と同様に、レーザー光の照射により、スクライバを用いて、あるいはエッチングにより円孔をあける。円孔をあけたガラスブランクが、磁気ディスク用ガラス基板を作製する場合のガラス素板となる。
【0044】
こうして得られた
図1に示すような円盤形状のガラス板10の端面14(外周端部の端面及び内周端部の端面)に面取り面14cを形成するために、レーザー光Lによる形状加工を行う。レーザー光Lによる形状加工では、上述したように、周知の技術を利用して載置面18から浮上させ、浮上した状態で加熱したガラス板10(ガラス素板)の端面14に(例えば、端面14の法線方向から)、レーザー光Lを照射し、端面14とレーザー光Lとを円盤形状のガラス板10の周方向に相対的に移動させながら、端面14の形状を目標形状に加工する。レーザー光Lはシングルモードの断面強度分布を有するレーザー光であることが好ましく、レーザー光Lの照射の条件として、幅W1>厚さThであって、Pd×Thを、0.8~3.5[W/mm
2]とすることが好ましい。これにより、ガラス板10の端面14の形状を目標形状からばらつくことなく揃えることができ、面取り面を形成することができる。
また、少なくとも厚さ方向の中心部において主表面12に対して垂直な面を有する面取り前のガラス板10の端面14に、レーザー光Lを照射することによってガラス板10の端面14のエッジ部を軟化及び/又は溶融させて、端面14のエッジ部を、丸みを帯びた形状になるように面取りするために、さらに、面取りをするとともに、面取り後の端面14においてもガラス板10の主表面12に垂直な面(側壁面14t)を形成するために、Pd×Thの値と移動速度の値とを制御して端面14にレーザー光Lを照射する。これにより、ガラス板10の端面14の形状を目標形状に対してばらつくことなく揃えることができ、主表面12に対して垂直な面(側壁面14t)及び面取り面14cを形成することができる。
【0045】
図5(a)~(c)は、レーザー光Lの照射の条件の相違による端面14の形状の相違を説明する図である。
図5(a)~(c)では、照射条件のうち、厚さThを0.7mm、幅W1を1.0mm、Th/W1を0.7に固定し、さらに長さW2を10mm、照射位置における移動速度を2mm/秒に固定して、パワー密度Pdを変更してPd×Thを変更した場合の端面14の形状の例を示している。なお、加工前のガラス板として、ガラス転移点温度Tgが500℃、直径は95mm、端面14が主表面12に垂直であるものを使用した。端面14の表面粗さRzは5μm、算術平均粗さRaは0.5μmであった。レーザー光Lはガラス素板の外周端面に照射した。
図5(a)は、レーザー光Lの照射がない状態、すなわち、Pd=0[W/mm
2]である例を示している。
図5(b)は、Pd=1.9[W/mm
2]の照射の条件、
図5(c)は、Pd=4.0[W/mm
2]の照射の条件における端面14の形状を示している。
図5(c)に示す端面14の部分は、球面形状となって、ガラス板10の外径が小さくなり、その分、ガラス板10の厚さ方向の長さが、ガラス板10の厚さ(主表面間の長さ)に比べて長くなり、一定の厚さを有するガラス基板として好ましくない形状である。
したがって、レーザー光Lの照射の条件は、端面14において、主表面12に対して略直交する側壁面14tと、側壁面14tの両側の端と、主表面12の端とを接続する面取り面14cと、を形成するように、照射の条件は設定される、ことが好ましい。ガラス板10の外径が小さくなり、あるいは、上記球面形状の厚さ方向の長さがガラス板10の厚さ(主表面間の長さ)に比べて長くなることがないように、例えば、パワー密度Pdの範囲は、1.2[W/mm
2]~3.0[W/mm
2]に設定されることが好ましい。
【0046】
一実施形態によれば、端面14の目標形状として、面取り面14cの主表面12の径方向に沿った長さCの、厚さThに対する比であるC/Thが、0.1~0.7となるように、照射の条件Pd×Thが設定される、ことが好ましい。C/Thを0.1~0.7とすることにより、端面14と主表面12との接続部分に角部のない面取り面14cの機能を発揮させることができる。また、C/Thが0.1未満の場合、面取り面14cの形成が不十分となり、後の成膜工程等においてエッジがかけやすくなる恐れがある。また、C/Thが0.7超の場合、主表面12上のデータ記録領域が少なくなってしまう恐れがある。したがって、Pd×Thを1.2~2.3[W/mm]の範囲内で調整することにより、C/Thを調整することができる。C/Thは0.25~0.5とすることがより好ましい。
一実施形態によれば、端面14の目標形状として、側壁面14tの厚さ方向に沿った長さT[mm]の、厚さThに対する比であるT/Thが、0.1~0.8となるように、照射条件を設定することが好ましい。T/Thが、0.1未満の場合、側壁面14tの形成が不十分となり、ガラス板10の外径または内径の測定が難しくなるため、測定バラツキが発生して生産管理が困難になる恐れがある。また、C/Thが0.8超の場合、面取り面14cの形成が不十分となり、後の成膜工程等においてエッジがかけやすくなる恐れがある。
【0047】
一実施形態によれば、レーザー光Lにより形成された端面14(面取り面14c、側壁面14t)の算術平均粗さRa(JIS B0601:2001)は、0.02μm以下である、ことが好ましい。さらに、表面粗さRz(JIS B0601:2001)は、0.3μm以下であることが好ましく、0.2μm以下であることがより好ましく、0.02μm以下であることが一層好ましい。表面粗さRz及び算術平均粗さRaは、例えばレーザー式の光学顕微鏡で測定することができる。上記照射条件のレーザー光Lによる端面14の照射によって、面取り面14c及び側壁面14tを滑らかにすることができる。
【0048】
また、
図1に示すように、レーザー光Lの照射位置を円盤形状のガラス板10の周方向に沿って相対的に移動させて形状加工を行う際、ガラス板10の円盤形状の周方向の長さW2(
図2参照)をある程度長くして、レーザー光Lによる加熱による端面14の温度を徐々に高め、照射位置の周方向の中心点で最大の温度となるように、レーザー光Lによる端面14の加熱を効果的に行うことが好ましい。こうすることで、レーザー光Lの照射位置における移動速度を大きくできるため、加工時間を短縮することができる。一実施形態によれば、端面14に照射されるレーザー光Lの光束の、ガラス板10の円盤形状の周方向の長さW2のガラス板10の直径Dに対する比であるW2/Dは、0.03~0.2である、ことが好ましい。W2/Dが0.03未満の場合、長さW2が相対的に短くなるため、端面14の温度を徐々に高めることが十分にできない。W2/Dが0.2超の場合、長さW2が相対的に長くなるため、この場合、レーザー光Lのガラス板10の照射位置(レーザー光Lの照射方向における位置)が、ガラス板10の曲率によって大きく変化し、その結果光束が広がって、周方向において効率良く加熱を行うことが困難になる。一実施形態によれば、端面14に照射するレーザー光Lの光束は、
図2に示すように、楕円形状をしていることが好ましい。
【0049】
なお、レーザー光Lの照射により端面14は、パワー密度Pdを徐々に大きくしていくと、ガラス板10の直径Dが、端面14の形状が丸まることにより数10μm~数100μm増加し、さらにパワー密度Pdを増大させると、丸まる範囲が広がって厚さ方向の長さが広がり球面形状となり、これによりガラス板10の直径Dが減少する。すなわち、形状加工後のガラス板10の直径Dは、パワー密度Pdの大きさによって変化する。
図5(c)に示す例は、パワー密度Pdが過度に大きくなって、端面14の過度な加熱により球面形状となって、ガラス板10の直径が短くなる例である。
図5(c)に示すようなガラス板10は、外径が目標とするガラス板10の直径に比べて小さくなり好ましくない。また、端面14の過度な加熱により球面形状もばらつき易くなり、ガラス板10の直径を一定に揃えることができず、好ましくない。このため、レーザー光Lの照射により形成されたガラス板10の直径は、レーザー光Lの照射前のガラス板10の直径に比べて増大するようにパワー密度Pdは設定される、ことが好ましい。
【0050】
レーザー光Lの端面14に沿って移動する移動速度は、0.7~140mm/秒である、ことが好ましい。ここで、移動速度とは端面14に対する相対的な移動速度である。レーザー光Lによる形状加工は、加工効率の点から、ガラス板10の周りをレーザー光Lが1周回転した時、形状加工が完了することが好ましい。ここで、移動速度が140mm/秒を超える場合、形状加工を完了するタイミングが取りづらくなり、形状加工の開始点と終点とを一致させることが困難になる恐れがある。また、移動速度が0.7mm/秒より低いと、僅かなPd×Thの変化によって端面14の形状が変わるため、端面14の形状の制御が難しくなる。例えば、
図4に示す側壁面14tと面取り面14cとがある形状が得られたとしても、Pd×Thを少し増加させただけで、端面14が過度に熱されて
図5(c)に示すような形状になりやすいため、安定した生産が行いにくい。これらの点から、上記移動速度は、0.7~140mm/秒であることが好ましい。
なお、移動速度は20~140mm/秒であるとより好ましい。移動速度が20mm/秒以上であると、Pd×Thの変化に対する端面14の形状の変化が比較的穏やかになる上、加工時間短縮により生産性が向上する。このため、移動速度は20~100mm/秒であるとより好ましい。
【0051】
なお、レーザー光Lによる面取りの形成を促すために、当該レーザー光Lによる面取りの形状加工の際にガラス板10の温度を室温より高い温度にすることが好ましい。このとき、Tg-50℃(Tgはガラス板10のガラス転移点温度)以下であることが好ましい。さらに、面取りの形状加工を行う時のガラス板10の温度は、150~400℃の範囲にすることがより好ましい。ガラス板10の温度が150℃未満であると、面取り面14cの形成が十分に得られない場合がある。ガラス板10の温度が400℃より高いと、ガラス板10が変形し端面14にレーザー光Lを照射することが困難になる場合がある。ガラス板10を加熱する方法としては、例えば、当該面取り加工を実施する前にガラス板10を加熱し、また、当該面取り加工を行いながらガラス板10を加熱することができる。ただし、レーザー光Lの照射による面取りを行いながらガラス板10の加熱を行う場合、レーザー光Lによる加熱との相乗効果によって温度制御が難しくなるため、端面14の形状のバラツキが大きくなる場合がある。したがって、ガラス板10を加熱する場合、レーザー光Lの照射による面取りに先立ってガラス板10の加熱を行うことが好ましい。この場合、面取りの際にガラス板10を適宜保温することが好ましい。
【0052】
このようにして端面14の形状加工されたガラス板10は、内周端部の端面もレーザー光Lにより形状加工された後、ガラス板10は、最終製品に適した特性を有するように各種処理が行われる。
【0053】
例えば、形状加工された端面14に対して、端面研磨処理が行われる。上述の形状加工により面取り面14c及び側壁面14tの表面粗さを小さくすることができるので、端面研磨処理における取代量を、従来のように総型砥石を用いた面取り面14cの加工の場合に比べて少なくすることができ、生産コスト及び生産効率を向上させることができる。一実施形態では、端面研磨処理を全くしなくてもよい。
【0054】
ガラス板10から磁気ディスク用ガラス基板を作製する場合、この後、ガラス板10を磁気ディスク用ガラス基板となる前の中間体のガラス板として、ガラス板10の主表面12の研削・研磨処理が行われる。
研削・研磨処理では、ガラス板10の研削後、研磨が行われる。
研削処理では、遊星歯車機構を備えた両面研削装置を用いて、ガラス板10の主表面12に対して研削加工を行う。具体的には、ガラス板10の外周端部の端面14を、両面研削装置の保持部材に設けられた保持孔内に保持しながらガラス板10の両側の主表面12の研削を行う。両面研削装置は、上下一対の定盤(上定盤および下定盤)を有しており、上定盤および下定盤の間にガラス板10が狭持される。そして、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動操作させ、クーラントを供給しながらガラス板10と各定盤とを相対的に移動させることにより、ガラス板10の両主表面12を研削することができる。
例えば、ダイヤモンドを樹脂で固定した固定砥粒をシート状に形成した研削部材を定盤に装着して研削処理をすることができる。
【0055】
次に、研削後のガラス板10の主表面12に第1研磨が施される。具体的には、ガラス板10の外周端部の端面14を、両面研磨装置の研磨用キャリアに設けられた保持孔内に保持しながらガラス板10の両側の主表面12の研磨が行われる。第1研磨は、研削処理後の主表面12に残留したキズや歪みの除去、あるいは微小な表面凹凸(マイクロウェービネス、粗さ)の調整を目的とする。
【0056】
第1研磨処理では、固定砥粒による上述の研削処理に用いる両面研削装置と同様の構成を備えた両面研磨装置を用いて、研磨スラリを与えながらガラス板10が研磨される。第1研磨処理では、遊離砥粒を含んだ研磨スラリが用いられる。第1研磨に用いる遊離砥粒として、例えば、酸化セリウム、あるいはジルコニア等の砥粒が用いられる。両面研磨装置も、両面研削装置と同様に、上下一対の定盤の間にガラス板10が狭持される。下定盤の上面及び上定盤の底面には、全体として円環形状の平板の研磨パッド(例えば、樹脂ポリッシャ)が取り付けられている。そして、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動操作させることで、ガラス板10と各定盤とを相対的に移動させることにより、ガラス板10の両主表面12を研磨する。研磨砥粒の大きさは、平均粒径(D50)で0.5~3μmの範囲内であることが好ましい。
【0057】
第1研磨後、ガラス板10を化学強化してもよい。この場合、化学強化液として、例えば硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合熔融液等を用い、ガラス板10を化学強化液中に浸漬する。これにより、イオン交換によってガラス板10の表面に圧縮応力層を形成することができる。
【0058】
次に、ガラス板10に第2研磨が施される。第2研磨処理は、主表面12の鏡面研磨を目的とする。第2研磨においても、第1研磨に用いる両面研磨装置と同様の構成を有する両面研磨装置が用いられる。具体的には、ガラス板10の外周端部の端面14を、両面研磨装置の研磨用キャリアに設けられた保持孔内に保持させながら、ガラス板10の両側の主表面12の研磨が行われる。第2研磨処理では、第1研磨処理に対して、遊離砥粒の種類及び粒子サイズが異なることと、樹脂ポリッシャの硬度が異なる。樹脂ポリッシャの硬度は第1研磨処理時よりも低いことが好ましい。例えばコロイダルシリカを遊離砥粒として含む研磨液が両面研磨装置の研磨パッドとガラス板10の主表面12との間に供給され、ガラス板10の主表面12が研磨される。第2研磨に用いる研磨砥粒の大きさは、平均粒径(d50)で5~50nmの範囲内であることが好ましい。
なお、化学強化処理の要否については、ガラス組成や必要性を考慮して適宜選択すればよい。第1研磨処理及び第2研磨処理の他にさらに別の研磨処理を加えてもよく、2つの主表面12の研磨処理を1つの研磨処理で済ませてもよい。また、上記各処理の順番は、適宜変更してもよい。
こうして、ガラス板10の主表面12を研磨して、磁気ディスク用ガラス板10に要求される条件を満足した磁気ディスク用ガラス基板を得ることができる。
この後、主表面12が研磨されて作製されたガラス板10に、少なくとも磁性層を形成して磁気ディスクが作製される。
【0059】
このように、ガラス板10の製造方法では、形状加工を行ったガラス板10の主表面12を研削あるいは研磨する。この場合、端面14の形状加工後、主表面12の研削あるいは研磨の前に、端面14の研磨を行わない、あるいは、端面14の研磨を行っても、端面14の研磨による取り代量は5μm以下とすることができる。したがって、ガラス板10の外径の変化は、10μm以下とすることができる。これは、レーザー光Lにより、表面凹凸が小さい面取り面14c及び側壁面14tを形成することができるからである。
【0060】
近年、ビックデータ解析などのため、ハードディスクドライブ装置に対する記憶容量の増大化の要求はますます激しくなっている。そのため、ハードディスクドライブ装置1台に搭載される磁気ディスクの枚数を増やすことが検討されている。ハードディスクドライブ装置に組み込む磁気ディスクの枚数を増大することで記憶容量の増大化を図る場合、磁気ディスクドライブ装置内の限られた空間内で磁気ディスクの厚さのうち大部分を占める磁気ディスク用ガラス基板の板厚を薄くする必要がある。
ここで、磁気ディスク用ガラス基板の板厚を薄くすると、ガラス基板の剛性が低下して、大きな振動が発生しやすくなるとともに、その振動が収まり難い。ガラス基板の振動の振幅が大きいと、隣りに並ぶ磁気ディスクと接触する場合が多くなり、また、一定の間隔をあけて配置された複数枚の磁気ディスクの最上部に位置する磁気ディスクは、ハードディスクドライブ装置の磁気ディスク収納容器の天井面と接触する場合もある。このような接触において、磁気ディスクの一部が欠けてパーティクルを発生させる場合もある。
このため、磁気ディスク用ガラス基板の剛性が低いことは好ましくない。この点から、上述の形状加工に用いるガラス板10に関して、一実施形態によれば、ガラス板10のヤング率は、70[GPa]以上であることが好ましく、80[GPa]以上であることがより好ましく、90[GPa]以上であることがより一層好ましい。
また、ガラス板10を磁気ディスク用ガラス基板の素材とする場合、ガラス板10の厚さThは、0.7mm以下であることが好ましく、0.6mm以下であることがより好ましい。厚さThが小さくなるほど、ハードディスクドライブ装置内に搭載される磁気ディスクの枚数を枚増やすことができる。
【0061】
このようなガラス板10の組成については、限定するものではないが、以下の組成であることが好ましい。
【0062】
(ガラス1)
SiO2 56~80モル%、
Li2O 1~10モル%、
B2O3 0~4モル%、
MgOとCaOの合計含有量(MgO+CaO) 9~40モル%、
である。
ガラス1の比重は2.75g/cm3以下、ガラス転移温度Tgは650℃以上である。
【0063】
(ガラス2)
SiO2 56~80モル%、
Li2O 1~10モル%、
B2O3 0~4モル%、
MgOとCaOの合計含有量(MgO+CaO) 4~40モル%、
であり、
Al2O3含有量に対するSiO2とZrO2の合計含有量のモル比((SiO2+ZrO2)/Al2O3)が2~13、
である。
ガラス2の比重は2.50g/cm3以下、ガラス転移温度Tgは500℃以上、20℃における比弾性率は30GPa・cm3/g以上である。
【0064】
(ガラス3)
モル%表示にて、
SiO2 56~65%、
Al2O3 5~20%、
B2O3 0~4%、
MgO 3~28%、
Li2O 1~10%、
を含有し、
SiO2とAl2O3 の合計含有量(SiO2+Al2O3) 65~80%、
MgOとCaOの合計含有量(MgO+CaO) 11~30%、
MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO) 12~30%、
MgO含有量、0.7×CaO含有量、Li2O含有量、TiO2含有量およびZrO2含有量の和(MgO+0.7CaO+Li2O+TiO2+ZrO2) 16%以上、
5×Li2O含有量、3×Na2O含有量、3×K2O含有量、2×B2O3含有量、MgO含有量、2×CaO含有量、3×SrO含有量およびBaO含有量の和(5Li2O+3Na2O+3K2O+2B2O3+MgO+2CaO+3SrO+BaO) 32~58%、
SiO2含有量、Al2O3含有量、B2O3含有量、P2O5含有量、1.5×Na2O含有量、1.5×K2O含有量、2×SrO含有量、3×BaO含有量およびZnO含有量の和(SiO2+Al2O3+B2O3+P2O5+1.5Na2O+1.5K2O+2SrO+3BaO+ZnO) 86%以下、及び
SiO2含有量、Al2O3含有量、B2O3含有量、P2O5含有量、Na2O含有量、K2O含有量、CaO含有量、2×SrO含有量および3×BaO含有量の和(SiO2+Al2O3+B2O3+P2O5+Na2O+K2O+CaO+2SrO+3BaO) 92%以下、
含有し、
MgO含有量に対するCaO含有量のモル比(CaO/MgO)が2.5以下、
Li2O含有量に対するNa2O含有量のモル比(Na2O/Li2O)が5以下、
MgOとCaOの合計含有量に対するLi2O含有量のモル比(Li2O/(MgO+CaO))が0.03~0.4、
Li2O、Na2
OおよびK2
Oの合計含有量に対するSiO2含有量のモル比(SiO2/(Li2O+Na2O+K2O))が4~22、
Al2O3 に対するSiO2とZrO2の合計含有量のモル比((SiO2+ZrO2)/Al2O3 )が2~10、
MgOとCaOの合計含有量に対するTiO2とAl2O3の合計含有量のモル比((TiO2+Al2O3)/(MgO+CaO))が0.35~2、
MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量に対するMgOとCaOの合計含有量のモル比((MgO+CaO)/(MgO+CaO+SrO+BaO))が0.7~1、
MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量に対するBaO含有量のモル比(BaO/(MgO+CaO+SrO+BaO))が0.1以下、
B2O3、SiO2、Al2O3およびP2O5の合計含有量に対するP2O5含有量のモル比(P2O5/(B2O3+SiO2+Al2O3+P2O5))が0.005以下、
であり、
ガラス転移温度が670℃以上かつヤング率が90GPa以上、
比重が2.75以下、
100~300℃における平均線膨張係数が40×10-7~70×10-7/℃の範囲の非晶質の酸化物ガラス。
【0065】
一実施形態によれば、ガラス板10は、ガラス転移点Tgが500℃以上のガラスで構成されていることが好ましく、より好ましくは、ガラス転移点Tgは650℃以上である。ガラス転移点Tgが高い程、ガラス板10を熱処理したときの熱収縮と熱収縮に起因して発生する変形を抑制することができる。したがって、磁気ディスクの磁性膜等を基板1に形成する際の熱処理を考慮して、ガラス転移点Tgを500℃以上とすることが好ましく、650℃以上とすることがより好ましい。
【0066】
一実施形態によれば、ガラス板10は、線膨張係数が100×10-7[1/K〕以下の材料で構成されることが好ましく、95×10-7[1/K〕以下の材料で構成されることがより好ましく、70×10-7[1/K〕以下の材料で構成されることがより一層好ましく、特に好ましくは、線膨張係数は60×10-7[1/K〕以下である。ガラス板10の線膨張係数の下限は特に限定はないが、ガラス板10の場合は例えば5×10-7[1/K〕[1/K〕である。ここでいう線膨張係数は、100℃と300℃の間の熱膨張差によって求められる線膨張係数である。このような線膨張係数を用いることで、磁性膜等を形成する際の加熱処理において、熱膨張を抑えることができ、外周端部の端面14を成膜装置の把持部材がガラス板10を固定して把持する際に、把持部分周りのガラス板10の熱歪みを抑えることができる。線膨張係数は、例えば、従来のアルミニウム合金製基板では、242×10-7[1/K〕であるのに対し、一実施形態のガラス板10における線膨張係数は51×10-7[1/K〕である。
【0067】
[実験例]
本実施形態のガラス板10の製造方法において、レーザー光Lの照射の際にガラス板10を基台の載置面18から浮上させることによって、ガラス板10の主表面12内における面内の歪みの分布を抑制する効果を調べた。ガラス板10の外径は95mm、内孔の内径は25mm、厚さThは0.7mmであった。ガラス板10のガラス組成は、上記ガラス1とした。
レーザー光Lの照射の前、及びレーザー光Lの照射中に行う加熱では、ガラス板10の加熱温度がガラス板10の中心から30mm離れた位置で350℃になるように加熱を調整した。
【0068】
(歪み分布測定)
主表面12の歪み分布では、リタデーション値のばらつきを用いた。リタデーション値のばらつきとして、主表面12の周方向及び径方向の12か所の測定点におけるリタデーション値の最大値と最小値の差を求めた。12か所の測定点の径方向の位置は、円盤形状のガラス板10の内周端面を0%、外周端面を100%の位置として、内周端面から径方向の外側に25%、50%、75%離れた3か所の位置である。一方、測定点の周方向の位置は、90度離れた周上の4か所の位置(0,90,180,270度の位置)とした。上記12か所の測定点に、直線偏光の光を照射し、ガラス板10を透過した偏光した光のリタデーション値を測定した。
【0069】
(温度分布測定)
加熱されたガラス板10の温度分布については、ガラス板10の計測した温度のばらつきを用いた。温度分布の測定では、レーザー光Lを端面14に照射せずに、レーザー光Lを照射したときと同様の方法でガラス板10を加熱し、このときの、レーザー光Lの照射開始のタイミングと同じタイミングで主表面12の上記12か所の測定点における温度を測定した。温度測定では、非接触温度計(サーモグラフィ)を用いた。12か所の測定点における温度の最高温度と最低温度の差を求め、この差を温度のばらつきとした。
【0070】
レーザー光Lの照射条件は、幅W1=1mm、長さW2=10mmとし、Pdを5.1[W/mm2]とした。レーザー光Lの端面14に沿って移動する移動速度20[mm/秒]とした。
【0071】
下記表1に、比較例1,2及び実施例1~4における歪み分布測定及び温度分布測定の結果を示す。
比較例1では、円孔内径45mm、外径75mmの円筒形基台を有するホットプレート型ヒーター上にガラス板10を載置して加熱した。比較例2では、円孔内径35mm、外径85mmの円筒形基台を有するホットプレート型ヒーター上にガラス板10を載置して加熱した。
実施例1,2では、載置面18からガラス板10を浮上させ、上方から加熱領域を調節可能なスポット型のハロゲンランプヒーターを用いてガラス板10を加熱した。実施例1,2の間では、ハロゲンランプヒーターとガラス板10との間の距離と、ハロゲンランプヒーターの投入電力が異なる。
実施例3では、載置面18からガラス板10を浮上させ、上方から加熱領域を調節可能なスポット型のカーボンヒーターを用いてガラス板10を加熱した。
実施例4では、照射領域が直径100mmの円形状をしたレーザー光を主表面12に照射して加熱した。
実施例1~4は、主表面12の下面側にベルヌーイ効果を利用した非接触チャックを基台として配置し、ガラス板10を浮上して固定した。
【0072】
【0073】
載置面18からガラス板10を浮上させて加熱した実施例1~4は、歪み(リタデーション値)のばらつきが30[nm]以下となり、載置面18にガラス板10を接触させて加熱した比較例1,2に比べて小さく好ましい。実施例2~4は、上記ばらつきが20[nm]以下となりさらに好ましい。また、実施例1及び比較例2の比較から、ガラス板10を浮上させることによって、同じ温度のばらつきであっても、歪みのばらつきを小さくすることできることがわかる。
これより、ガラス板10を基台の載置面18から浮上させることによって、ガラス板10の主表面12内における面内の歪みの分布を抑制することがわかる。
【0074】
以上、本発明のガラス板の製造方法及び磁気ディスクの製造方法について詳細に説明したが、本発明のガラス板の製造方法及び磁気ディスクの製造方法は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0075】
10 ガラス板
12 主表面
14 端面
14c 面取り面
14t 側壁面
16 円孔
18 載置面
20 レーザー光源
22 光学系
24 集束レンズ