(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-26
(45)【発行日】2023-01-10
(54)【発明の名称】緊張力導入方法及びプレストレストコンクリート構造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
E04C 5/08 20060101AFI20221227BHJP
E04C 5/12 20060101ALI20221227BHJP
E04C 5/10 20060101ALI20221227BHJP
【FI】
E04C5/08
E04C5/12
E04C5/10
(21)【出願番号】P 2022152615
(22)【出願日】2022-09-26
【審査請求日】2022-09-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 良弘
(72)【発明者】
【氏名】渡瀬 博
(72)【発明者】
【氏名】東 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】井隼 俊也
(72)【発明者】
【氏名】幸田 英司
(72)【発明者】
【氏名】菅原 公理
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-029088(JP,A)
【文献】特開2011-184871(JP,A)
【文献】特許第3032716(JP,B2)
【文献】特公平07-096838(JP,B2)
【文献】特開2002-349012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/08,5/10,5/12
E04B 1/06
E04C 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緊張材を緊張した緊張力を解放してコンクリート構造物へポストテンション方式でプレストレスを導入する緊張力導入方法であって、
前記コンクリート構造物に形成され、端面同士を貫通する挿通孔に緊張材を挿入する緊張材挿通工程と、
前記緊張材挿通工程で挿通した前記緊張材を緊張ジャッキにより緊張して所定の緊張力を付与する緊張材緊張工程と、
前記緊張材緊張工程で緊張した前記緊張材の前記挿通孔の周りにグラウト材を充填するグラウト材充填工程と、
前記グラウト材充填工程で充填したグラウト材が所定の圧縮強度が発現した後、前記緊張材の緊張力を解放する緊張力解放工程と、備え、
前記緊張力解放工程では、油圧トルクレンチで前記緊張材の緊張力の解放速度を制御しながら前記コンクリート構造物へプレストレスを導入すること
を特徴とする緊張力導入方法。
【請求項2】
前記緊張力解放工程は、前記グラウト材の圧縮強度f
gmが、式(1)を満たす所定の圧縮強度が発現した後に行うこと
を特徴とする請求項
1に記載の緊張力導入方法。
f
gm ≧ 0.5・f
'
ck・・・・・(1)
ここで、f
gm:グラウト材の圧縮強度(N/mm
2)
f
'
ck:コンクリート構造物の設計圧縮基準強度(N/mm
2)
【請求項3】
前記緊張力解放工程では、前記緊張材の緊張力の解放速度が平均付着応力度の時間変化率K
65が、式(4)を満足するように解放すること
を特徴とする請求項
2に記載の緊張力導入方法。
K
65 ≦ 0.0897・f
gm
2/3 - 0.8219・・・・・(4)
ここで、 K
65 :平均付着応力度の時間変化率(N/mm
2/sec)
K
65= τ
65/T
r
τ
65 = 0.7P
u/(65πφ
2)
T
r:緊張力の最速解放時における解放時間(sec)
τ
65 :標準定着長(=65φ)における平均付着応力度(N/mm
2)
P
u:緊張材の引張強度又は保証破断荷重(連続繊維補強材)(N)
φ:緊張材の直径(mm)
【請求項4】
コンクリート構造物へポストテンション方式でプレストレスを導入してプレストレストコンクリート構造物を製造するプレストレストコンクリート構造物の製造方法であって、
請求項
2又は
3に記載の緊張力導入方法により、前記緊張材の緊張力の解放速度を制御しながら前記コンクリート構造物へプレストレスを導入すること
を特徴とするプレストレストコンクリート構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊張力導入方法及びプレストレストコンクリート構造物の製造方法に関するものであり、詳しくは、従来のポストテンション用の定着装置を用いることなく、コンクリート構造物に対してポストテンション方式によりプレストレス応力を導入して定着可能な緊張力導入方法及びプレストレストコンクリート構造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレストレストコンクリート構造物への緊張力導入方法には、ポストテンション方式とプレテンション方式の2種類の方式がある。これらの2つの方式は、それぞれ長所と短所があるため、プレストレストコンクリート構造物の施工条件や設計条件に応じて、いずれかの方式が採用されている。
【0003】
プレテンション方式では、工場生産が有利であるために、緊張反力装置や蒸気養生設備を装備して、効率的な緊張作業が可能であり、コンクリート構造物の緊張端部に個別の定着装置や緊張装置を設ける必要がない。また、プレテンション方式は、PCグラウト作業が不必要など、経済的にプレストレストコンクリート構造物の部材を製造できるメリットがある。一方、プレテンション方式は、工場生産が基本であるために、大型橋梁のようなコンクリート部材長が長くなる場合やコンクリート部材相互を接合する必要がある場合には、採用されることが困難である。従って、そのような施工条件の場合は、ポストテンション方式が採用されることになる。
【0004】
一方、ポストテンション方式では、基本的に建設現場において緊張作業をするために、コンクリート部材長の制限はなく、コンクリート部材間を接合するためにコンクリート構造物の全長にわたり緊張力を導入することが可能である。しかし、対象とするコンクリート構造物の緊張端部、及び定着端部において導入した緊張力をコンクリート構造物に定着するための定着装置が必要である。定着装置は種々のものが採用されているものの、一般的には高価である上、使用材料が鋼製であるために、防錆処理装置を設けるなどの防錆対策が必要である。なお、従来のポストテンション方式では、コンクリート構造物に定着装置を介して緊張力を導入した後に、緊張材の防錆目的でシース管内の緊張材の周りにPCグラウト材を充填し、PCグラウト材の強度発現のために養生を行う。
【0005】
従来、ポストテンション方式による緊張力導入方法は、コンクリート橋梁などのプレストレストコンクリート構造物の建設では、不可欠の緊張工法である。しかし、ポストテンション方式によるプレストレストコンクリート構造物の緊張端部において、定着装置が高価であり、防錆処理が必要であるという問題点を解決し、定着装置のコスト削減に関する技術的な提案を行った例は見当たらない。
【0006】
例えば、特許文献1には、プレテンション方式とポストテンション方式のそれぞれの利点を活用できるようなプレストレストコンクリート構造とその製造方法が開示されている。つまり、プレテンション方式の部材長が短い場合の効率的な製造方式による経済的な製造方式の利点を活用して製造した、プレテンションブロック1と、現場での緊張施工が優位となるポストテンション方式により現場接合を前提としたポストテンションブロック2とを、ポストテンション方式により一体化するプレストレストコンクリート部材の構造及び施工方法が提案されている(特許文献1の明細書の段落[0009]~[0019]、図面の
図1~
図10参照)。
【0007】
しかしながら、特許文献1のプレストレストコンクリート部材の構造及び施工方法は、プレテンション方式及びポストテンション方式のいずれの場合に対しても、従来とは異なる緊張の定着方法に関する提案を示すものはなく、それぞれの方式において従来の定着方法を踏襲しているに過ぎなかった。このため、前述のプレテンション方式やポストテンション方式による緊張力導入方法の問題点を解決できるものではなかった。
【0008】
また、特許文献2には、高強度鉄筋をプレテンション緊張材として使用した際に、プレテンション緊張材の所要定着長を従来の定着長よりも短縮する技術が開示されている。具体的には、特許文献2には、高強度鉄筋からなるプレテンション緊張材の端部側の母材の周りに母材直径の1.5倍以上の大きい突形状の瘤(突起物)を形成したプレテンション緊張材及びその緊張材を用いてコンクリートにプレテンションを導入する方法が開示されている(特許文献2の明細書の段落[0046]~[0086]、図面の
図7~
図10等参照)。
【0009】
特許文献2に記載のコンクリートにプレテンションを導入する方法は、プレテンション緊張材の瘤による支圧と、端部でのコンクリートとの付着によって、コンクリートにプレテンションを導入するものであり、周囲のコンクリートに対して付着力及び支圧力を期待して、定着長を短縮することはできるとされている。しかし、特許文献2に記載の瘤(突起物)を形成したプレテンション緊張材を用いてコンクリートにプレテンションを導入する方法は、従来のプレテンション方式の導入方法の延長線の考え方に過ぎず、定着長を短縮する効果に止まり、前述のプレテンション方式やポストテンション方式による緊張力導入方法の問題点を解決できるものではなかった。
【0010】
さらに、特許文献3には、PC鋼材400の軸方向(長手方向)に沿って組み合わせられる、スリーブ100とクサビ200とキャップ300とを備え、このスリーブ100は、
外筒面120において、キャップ側に雄ねじ部122を備え、キャップ300は、雄ねじ部122に螺合する雌ねじ部312を備えるとともに、クサビ200に当接する当接端面314を備えるプレストレス導入治具及びそれを用いたプレテンション方式のプレストレスト導入方法が開示されている(特許文献3の明細書の段落[0016]~[0035]、図面の
図7~
図10等参照)。
【0011】
特許文献3に記載のプレストレスト導入方法は、特許文献2に記載のコンクリートにプレテンションを導入する方法と類似する技術であり、プレテンション方式によりプレストレストコンクリート部材を製作する際に、クサビ機構を適用した小型の治具を使用して、定着長を短縮することを目的とするものである。このため、特許文献3に記載のプレテンション方式のプレストレスト導入方法は、特許文献2に記載のコンクリートにプレテンションを導入する方法と同様に、前述のプレテンション方式やポストテンション方式による緊張力導入方法の問題点を解決できるものではなかった。また、特許文献3に記載のプレストレスト導入方法の緊張材の適用対象は、PC鋼ストランドであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2016-8441号公報
【文献】特開2017-203357号公報
【文献】特開2019-181704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、従来の高価で維持管理費が必要なポストテンション用の定着装置を用いることなく、防錆処理が不要で、且つ、簡易で安価な構成でコンクリート構造物に対してポストテンション方式によりプレストレス応力を導入して定着可能な緊張力導入方法及びプレストレストコンクリート構造物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
請求項1に記載のプレストレス応力導入方法は、緊張材を緊張した緊張力を解放してコンクリート構造物へポストテンション方式でプレストレスを導入する緊張力導入方法であって、前記コンクリート構造物に形成され、端面同士を貫通する挿通孔に緊張材を挿入する緊張材挿通工程と、前記緊張材挿通工程で挿通した前記緊張材を緊張ジャッキにより緊張して所定の緊張力を付与する緊張材緊張工程と、前記緊張材緊張工程で緊張した前記緊張材の前記挿通孔の周りにグラウト材を充填するグラウト材充填工程と、前記グラウト材充填工程で充填したグラウト材が所定の圧縮強度が発現した後、前記緊張材の緊張力を解放する緊張力解放工程と、備え、前記緊張力解放工程では、油圧トルクレンチで前記緊張材の緊張力の解放速度を制御しながら前記コンクリート構造物へプレストレスを導入することを特徴とする。
【0019】
請求項2に記載のプレストレス応力導入方法は、請求項1に記載のプレストレス応力導入方法において、前記緊張力解放工程は、前記グラウト材の圧縮強度fgmが、式(1)を満たす所定の圧縮強度を発現した後に行うことを特徴とする。
fgm ≧ 0.5・f'
ck・・・・・(1)
ここで、fgm:グラウト材の圧縮強度(N/mm2)
f'
ck:コンクリート構造物の設計圧縮基準強度(N/mm2)
【0020】
請求項3に記載のコンクリート構造物の製造方法は、請求項2に記載のプレストレス応力導入方法において、前記緊張力解放工程では、前記緊張材の緊張力の解放速度が平均付着応力度の時間変化率K65が、式(4)を満足するように解放することを特徴とする。
K65 ≦ 0.0897・fgm
2/3 - 0.8219・・・・・(4)
ここで、 K65 :平均付着応力度の時間変化率(N/mm2/sec)
K65 = τ65/Tr
τ65 = 0.7Pu/(65πφ2)
Tr:緊張力の最速解放時における解放時間(sec)
τ65 :標準定着長(=65φ)における平均付着応力度(N/mm2)
Pu:緊張材の引張荷重(PC鋼ストランドの場合の呼称)
又は保証破断荷重(連続繊維補強材の場合の呼称)(N)
φ:緊張材の直径(mm)
【0021】
請求項4に記載のプレストレストコンクリート構造物の製造方法は、コンクリート構造物へポストテンション方式でプレストレスを導入してプレストレストコンクリート構造物を製造するプレストレストコンクリート構造物の製造方法であって、請求項2又は3に記載の緊張力導入方法により、前記緊張材の緊張力の解放速度を制御しながら前記コンクリート構造物へプレストレスを導入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
請求項1~4に記載の発明によれば、緊張ざれた緊張材の緊張力が、グラウト材の付着抵抗応力を介してコンリート構造物に伝達されて、その結果、プレストレスが導入されている。つまり、プレテンション方式とポストテンション方式のそれぞれの利点を活用でき、従来の高価で維持管理費が必要なポストテンション用の定着装置(金属製で精密な機械加工が要求される装置である従来のポストテンション方式の定着具)を用いる必要がない。このため、請求項1~4に記載の発明によれば、防錆処理が不要となるだけでなく、コンクリート部材長が長大化する場合や、またコンクリート部材相互を接合する必要がある場合でも、簡易で安価な構成でコンクリート構造物に対してポストテンション方式によるプレストレス応力の導入と定着が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、導入された緊張材の緊張力が解放された際に、解放緊張力がコンクリートへ伝達される付着せん断応力の伝達経路を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1実施形態に係る緊張力導入方法における、緊張力解放の施工方法を示す説明図であり、(a)が断面図、(b)が(a)のA矢視図である。
【
図3】
図3は、本発明の第2実施形態に係る緊張力導入方法における、緊張力解放の施工方法を示す説明図である。
【
図4】
図4は、緊張材の緊張力の解放を、切断モードで実施した際の、解放緊張力によりコンクリート端部から9φの位置のコンクリート表面に発生するひずみの時間的変化を示す説明図である。
【
図5】
図5は、緊張材の緊張力の解放を、ジャッキ/トルクレンチモードで実施した際の、解放緊張力によりコンクリート端部から9φの位置のコンクリート表面に発生するひずみの時間的変化を示す説明図である。
【
図6】
図6は、切断モード時の緊張端部からの無次元距離(L/φ)に対するプレストレス有効率(EPR)の関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、ジャッキ/トルクレンチモード時の緊張端部からの無次元距離(L/φ)に対するプレストレス有効率(EPR)の関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、ジャッキ/トルクレンチモード時のグラウト材の圧縮強度の2/3乗と付着応力時間変化率K
65の関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、切断モード時のグラウト材の圧縮強度の2/3乗と付着応力時間変化率K
65関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るポストテンション方式によるプレストレストコンクリート構造物を実施するための一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
<PC鋼ストランドによるポストテンション方式による定着方法の問題点>
PC鋼ストランドを緊張材として適用したポストテンション方式によるプレストレス工法は、元来、ドイツ、フランスなどにおいて開発、・普及した工法である。日本においては、例えばVSL工法、フレシネ工法、エスイー工法などとして技術導入され、実用化されてきた歴史がある。現存する日本のプレストレストコンクリート構造の多くは、基本的には、これらの工法を基本として建設されてきた。しかし、従来のPC鋼ストランドによるポストテンション方式による定着装置(定着具)には問題がある。
【0026】
PC鋼ストランドの定着工法としては、大別して、クサビ式定着工法とネジ式定着工法に区分される。クサビ定着工法とは、クサビ効果によりPC鋼ストランドを任意の位置でグリップして定着する工法であり、ネジ式定着工法とは、緊張材をスリーブに圧着することにより定着し、スリーブにねじ加工してロックボルトにより任意の位置で支圧板に定着する工法である。ポストテンション方式によるプレストレスの定着には、固定端部と緊張端部があるが、基本的に、上記の二つの定着装置を適用している。
【0027】
緊張材としてPC鋼ストランド(複数本のPC鋼線を撚り合わせたもの)を適用した場合の固定端部の定着方法としては、クサビ、アンカーヘッド、支圧板、スパイラル筋(またはグリッド筋)から構成されるクサビ定着方式による固定端部の緊張材を定着する方法が一般的である。また、圧着グリップなる鋼製スリーブを緊張材に圧着して定着した、簡易の定着具を使用して支圧板に定着する例もある。
【0028】
一方、緊張端部の定着方法は、緊張ジャッキにより緊張した後に、クサビ式定着工法あるいはネジ式定着工法のいずれかの工法が採用されて、緊張端部のコンクリートに定着する。クサビ式定着工法は、定着時にクサビのセットロスが発生して、若干の緊張力ロスが発生することがある。一方、ねじ式定着工法は、そのリスクはないが、定着装置の製作コストが若干高い。
【0029】
いずれにしても、PC鋼ストランドを緊張材として適用した場合のポストテンション方式の定着方法は、鋼製で精密加工が要求されるクサビ式定着工法、あるいはネジ式定着工法による定着装置(又は定着治具)が適用されている。
【0030】
PC鋼ストランドによるポストテンション方式による定着方法の問題点としては、これらの固定端部や緊張端部の定着装置は、鋼製の精密加工された高価な製品であり、ポストテンション方式による全体施工費用のなかで多くの割合を占めていることとが挙げられる。
【0031】
また、PC鋼ストランドによるポストテンション方式による定着方法の別な問題点としては、緊張端部や固定端部における定着治具(定着具)は、鋼製であるために防錆対策として定着具全体をオイルシールなる装置、もしくは防錆された蓋材で定着具を覆う、もしくは定着具全体をコンクリートによりあと打ちする等により保護する必要がある点である。そのオイルシールの装置費用が高価であるばかりか、封入オイルの維持管理費用が発生するという問題点がある。
【0032】
ポストテンション方式では、コンクリート強度発現後のコンクリート構造体に対して緊張力を導入するために、緊張定着が終了した段階で、コンクリート構造物にはプレストレス応力が導入される。その後、PC鋼ストランドを挿入したシース管との隙間には、PCグラウト(グラウト材)が充填される。PCグラウト充填の主目的は、PC鋼ストランドの防錆である。つまり、基本的に緊張力の定着は、コンクリート構造体の両端部に設けたポストテンション方式のための定着装置の定着性能に期待されている。
【0033】
<連続繊維補強材によるポストテンション方式による定着方法とその問題点>
次に、連続繊維補強材によるポストテンション方式による定着方法とその問題点について説明する。
【0034】
連続繊維補強材は、炭素繊維,アラミド繊維,ガラス繊維などの連続繊維を数万本束ね、これにエポキシ樹脂やビニルエステル樹脂などの熱硬化性樹脂又はポリカーボネート,ポリ塩化ビニルなどの熱可塑性樹脂を含浸し硬化させたものである。複数本の連続繊維を束にし、複数本の連続繊維束を撚り合わせることによって連続繊維補強材を構成してもよい。
【0035】
連続繊維補強材の材料開発は、日本が先進国である。連続繊維補強材とPC鋼ストランドを緊張定着装置の観点から比較した場合、最も大きな相違点は、連続繊維補強材は緊張方向には高強度であるが、横方向には変形しやすく、低強度である点である。従って、PC鋼ストランドと同じように、クサビ定着や圧着定着は不可能である。現在、膨張材スリーブにより連続繊維補強材に定着する工法は、最も適用されている定着方法である。
【0036】
緊張材として連続繊維補強材を適用した場合の固定端部の定着方法は、膨張材スリーブにより固定端部の緊張材を定着して支圧板により端部コンクリートに定着する方法が一般的である。PC鋼ストランドの場合との相違は、前述のクサビ+テーパ付きスリーブの定着方法の代わりに、膨張材スリーブによる定着装置を適用していることである。
【0037】
一方、緊張材として連続繊維補強材を適用した場合の緊張端部の定着方法は、緊張側において緊張後にコンクリート構造体端部に設けられた支圧板に緊張力を定着する方法が、一般的に多く適用されている。この方法では、膨張材スリーブの外側にロックナットを装着して、最終的にロックナットを介して緊張力を支圧板に伝達する。そのため、スリーブの外側にはねじ切りをして、ロックナットが機能できるようにしている。また、膨張材スリーブを緊張ジャッキにより緊張するために、緊張側端部にはテンションバーをねじ込むことができるネジ穴を設けておく。センターホールジャッキによりテンションバーを介して、膨張材スリーブに緊張力を与え、所定の緊張力に達したら、予め膨張材スリーブに装着したロックナットを支圧板に締め付けて、緊張力は支圧板に伝達され、コンクリート構造物に緊張応力が発生する。その後、シース内にPCグラウトを充填し、強度発現したら一連の緊張作業は終了する。
【0038】
連続繊維補強材によるポストテンション方式の問題点1として、現状の膨張材スリーブのロックナットを介して、支圧板に緊張力を定着する方法では、緊張するコンクリート構造物の長さに制限が生ずることが挙げられる。一般的に連続繊維補強材の緊張時の緊張力は、保証破断荷重の70%以下とすることが設計で定められている。つまり、使用する連続繊維補強材の直径に関係なく、緊張時の連続繊維補強材の引張歪は、11,000μ~12,000μとなり、緊張部材の長さがL=10mの場合には、緊張による伸び量ΔL=110mm~120mmとなる。一方、膨脹材スリーブは製品工場において緊張材の固定された位置に設置する必要がある。そのために連続繊維補強材の必要長が切断されて、かつ所定の位置に膨張材スリーブが設置された状態で出荷される。膨張材スリーブの長さは、長くても300~400mmが一般的であるので、定着時のハンドリングを考慮すると、コンクリート構造体の長さは、15m~20m程度に制限される可能性がある。
【0039】
連続繊維補強材によるポストテンション方式の問題点2としては、一般的にロックナットを装着する膨張材スリーブ外径は、シース管径よりも大きくなることが多い。つまり、緊張開始時には膨張材スリーブの支圧板側の端部は、支圧板よりも外側にある。そのために、緊張後にロックナットを支圧板に固定した際には、緊張端部から膨張材スリーブが300~400mm突出することとなる。従来のPC鋼ストランドの端部定着においても、アンカーヘッドが端部よりも突出することがある。一般的には、緊張端部から緊張管理に重要な役割を果たす部材が、突出することは望ましいことではない。従って、管理用の保護カバー装置や防錆装置の装備が必要である。
【0040】
連続繊維補強材によるポストテンション方式の問題点3は、膨張材スリーブが、膨張性のセメント系材料を充填して水和反応中の膨張量を制御して商品化されている点である。そのために、工場のおける温度・湿度管理などの品質管理が要求され、工場生産に限定されている。緊張を対象とする構造物は、コンクリート構造物であり、例えば橋梁では30m~50mの規模が多くあり、仮に橋梁の施工長さに0.5%の誤差が発生した場合、150mm~250mmの長さの誤差が発生することになる。
【0041】
また、プレキャスト製品をジョイントする場合では、プレキャスト製品の製品精度は非常に高いが、ジョイント部では現場作業であるために、誤差が蓄積される可能性もある。このような、緊張する対象構造物の長さに誤差が発生した場合に、工場において膨張材スリーブの事前生産は困難となる。なお、従来のPC鋼ストランドでは、基本的にクサビ定着であるために、緊張材の切断は現地で行い、また、定着位置は任意の位置でクサビ定着が可能であるために、上記のような課題は発生しない。
【0042】
<本発明の手段、構成、技術、原理>
次に、本発明の課題を解決するための手段、構成、技術、課題解決原理について説明する。
【0043】
現在、ポストテンション方式でコンクリートにプレストレスを導入する緊張材としては、素線材質がピアノ線を用いたPC鋼ストランド、あるいは素線の材質が炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維などを用いた連続繊維補強材である。
【0044】
これらの緊張材を適用して、従来のポストテンション方式による定着方法は、PC鋼ストランドではクサビ定着が基本であり、連続繊維補強材では膨張材スリーブが基本であった。いずれの緊張材においても、金属製の定着装置がプレストレストコンクリート構造物の両端部に存在することが必要であった。そのために、定着装置が高価であり、防錆上の維持管理費用が必要であった。このような現状に対して、本発明の緊張材の定着方法は、現場施工上の制約が少なく、緊張装置や緊張施工コストの大幅な低減が可能である。
【0045】
(本発明の課題を解決するための手段)
本発明による緊張材の定着メカニズムを簡単に言及する。緊張材に所定の緊張力を導入し、仮設の定着装置により緊張状態を保持した状態とし、プレストレスを導入しようとするコンクリート構造物のコンクリートと緊張材との隙間にPCグラウト(グラウト材)を充填する。PCグラウトが本発明の圧縮強度に達したら、本発明の油圧トルクレンチ、あるいは緊張ジャッキを適用して緊張端部、あるいは固定端部のロックナットを、所定の平均付着応力度の時間変化率を満足する状態を維持しながら、緊張力を解放する。これにより、PCグラウトと緊張材との間に発生する所定の付着抵抗応力度を期待することが可能となり、緊張材全長にわたり緊張材の定着効果を維持することが可能となる。その結果、コンクリート構造物に所定のプレストレスが導入される。
【0046】
本発明による定着方法が従来の定着方法と大きく異なる特徴は、本発明では従来のクサビ定着や膨張材スリーブなどの定着装置を使用していない。つまり、本発明によるポストテンション方式のプレストレスコンクリート構造物は、緊張固定端部や緊張端部に、金属製の定着装置が存在しない。そのために、緊張端部定着装置の防錆装置や維持管理の必要がない。緊張端部や固定端部に定着装置が不要である緊張方式として、プレテンション方式がある。しかし、本発明はプレテンション方式によるプレストレストコンクリート構造物とは、根本的に異なる。
【0047】
プレテンション方式では、緊張材に予め緊張力を導入した状態でコンクリート打設し、コンクリート強度が所定の強度に達したら、緊張力を解放してプレストレスを導入する工法である。プレテンション方式は、その製作プロセスからPC工場で製作するのが前提である。従って、製作された製品は、運搬制約から部材長や大きさの制限が発生する。
【0048】
これに対して、ポストテンション方式では、施工現場で長大橋梁などにプレストレスを導入することが可能である。また、コンクリート部材相互の現場接合をポストテンション方式で実施することも可能である。
【0049】
本発明は、基本的にポストテンション方式の緊張材の定着方法であり、施工現場で大型のプレストレストコンクリート構造物を施工することができる。
【0050】
[本発明の実施形態に係る緊張材の定着構造]
本発明は、ポストテンション方式の緊張工法である。しかし、定着構造(定着機構)はプレテンション方式ではないかとの考えもあるが、本発明の実施形態に係る緊張材の定着構造は、基本的にはプレテンション方式とは似て非なるものである。
【0051】
本発明は、基本的には緊張力を解放することにより、緊張材とPCグラウトとの相互に発生する付着抵抗力により緊張力が緊張材周辺のコンクリート構造物に伝達されて、所定のプレストレスがコンクリート構造物全体に導入される発明である。定性的に記述した、上記の説明では、例えばプレテンション方式の技術で公開された公知の事実でないか、との意見もあるかと思われる。しかし、本発明はこれまでの公知の事実の組合せではなく、理論的にも公知の技術では得られない考え方を構築している。
【0052】
(1)緊張材からコンクリートまでの緊張力の伝達
緊張材を緊張後、緊張材とコンクリートとの隙間にPCグラウト(グラウト材)を充填し、これが所定の圧縮強度に達したら、緊張材の緊張力を解放する際に、緊張力がどのような経路で伝達されるかのメカニズムは、本発明を考えるうえで重要なポイントである。
図1に、本発明の実施形態に係る緊張材の定着機構である緊張力の解放により、緊張材からコンクリートまでの緊張力の伝達経路を示す。
図1は、緊張材からコンクリートまでの緊張力の伝達経路を示す模式図である。
【0053】
緊張材T1の表面からコンクリート本体(コンクリート構造物CS)までの緊張力の伝達を考察する。緊張力が解放されることにより発生する解放力は、
1)まず緊張材T1の表面と、その表面に接するPCグラウトG1(グラウト材)の表面との間に発生する付着せん断応力により伝達される。
【0054】
2)付着せん断応力は、薄いPCグラウトG1層内部では、PCグラウト材料自身の内部のせん断応力として発生して、そのせん断抵抗応力はPCグラウトG1の外周に接しているコンクリート本体(コンクリート構造物CS)へと伝達される。
【0055】
3)PCグラウトG1からのせん断力は、PCグラウトG1外周とコンクリート本体(コンクリート構造物CS)の内周に接する表面で、付着せん断抵抗により伝達される。なお、PCグラウトG1とコンクリート本体(コンクリート構造物CS)との間には、シース管S1が存在する場合がある。その場合は、PCグラウトG1層外周と薄肉のシース管の内面、薄肉のシース管の外周とコンクリート本体(コンクリート構造物CS)の内周に接する表面において、付着せん断応力が伝達される。
【0056】
(2)緊張力の解放に影響する要因分析
上記に示した解放力の伝達経路を念頭に、緊張力の解放に影響する要因を分析する。まず、問題となるのは、PCグラウト層内部に発生する、せん断の内部応力である。PCグラウトのせん断抵抗応力及びPCグラウトと緊張材やコンクリート間の付着せん断抵抗応力は、いずれもPCグラウトの圧縮強度に依存する。つまり、緊張力を解放する際には、PCグラウトの圧縮強度が一定の基準強度を維持されている必要がある。
【0057】
次に、緊張材の表面とPCグラウトの表面との間の付着せん断抵抗、及びPCグラウト外周とコンクリート本体の内周表面間あるいは、シース管がある場合は、PCグラウト外周とシース管の内周表面間)での付着せん断抵抗を比較する。両者の付着せん断抵抗面積を比較した場合、PCグラウト外周とコンクリート本体の内周表面積(あるいは、シース管の内周面積)は、緊張材表面とPCグラウトとの内周表面積と比較して、前者の方が一般的には1.5~2.0倍程度大きい。つまり、緊張力の解放時には、緊張材表面とPCグラウトの内周面における付着せん断抵抗応力がクリティカルとなる。
【0058】
付着せん断抵抗応力に影響する要因として、まず、第1に上記のPCグラウトの圧縮強度が影響する。同時に、緊張力を解放する際の付着せん断抵抗応力の時間変化率が大きな影響要因であると考える。具体的には、付着せん断抵抗応力の時間変化率が非常に大きい場合として、緊張力が作用している緊張材を切断した場合がある。緊張材の直径の大きさにも依存するものの、1本の緊張材を切断するのに、1秒から2秒で切断して緊張力を解放することが可能である。そのような場合には、クリティカルとなる緊張材表面とPCグラウト内周面における付着せん断抵抗応力の時間変化率が非常に大きくなり、結果、付着せん断衝撃力が発生するために両者間のせん断伝達効率は大幅に低減する。つまり、そのような場合には、付着せん断衝撃力が発生して緊張力のほんの一部しかコンクリート本体にせん断伝達されないために、コンクリート本体に十分なプレストレスを導入することができなくなる。
【0059】
しかし、本発明では、上記の定性的な説明により示した緊張力を解放するための、いくつかの定量的な条件を追求することにより、本発明の目的であるコンクリート構造物に所定のプレストレス応力を導入することが可能となり、ポストテンション方式のコンクリート構造物が実現するに至った。
【0060】
本実施形態に係る定着機構を実現するためには、以下に示す2つの条件を満足する必要がある。
【0061】
(PCグラウトの圧縮強度)
PCグラウト(グラウト材)の圧縮強度は、緊張材とPCグラウトとの付着せん断応力度の強度に直接関係するために、本実施形態に係る定着機構を成立されるための重要な条件となる。PCグラウトの圧縮強度の表現は、圧縮強度の絶対値ではなくプレストレスを導入するコンクリート構造物の設計圧縮強度との相対関係で示すのが良い。
【0062】
具体的には、プレストレストコンクリート構造物のコンクリート設計基準強度=f’ckとして、緊張力を解放する時のPCグラウトの圧縮強度:fgmとすると、式(1)の条件を満足することが必要である。
fgm ≧0.5・f’ck ・・・・・・・・・(1)
なお、この条件式は、基本的に種々の検証実験データから考察したものである。
【0063】
(付着せん断応力度の時間変化率と付着せん断応力の関係)
本実施形態に係る緊張力の定着機構は、基本的に緊張材とPCグラウト間の付着せん断抵抗の特性に大きく影響される。付着せん断抵抗の特性には、PCグラウトの圧縮強度の他に、付着せん断抵抗応力の時間変化率が大きな影響要因となる。
【0064】
付着せん断抵抗応力の時間変化率の記述方法として、緊張材料の直径、あるいは緊張力の大きさ、またPCグラウト強度などの違いによる影響を反映できる関係式を求める必要がある。また、緊張材解放時の定着性能の影響要因の一つに、解放時のPCグラウトの圧縮強度と、それに関係する緊張材とPCグラウトの付着せん断応力度の性能がある。
【0065】
一方、解放時の緊張材に作用する付着応力度に関しては、緊張材の直径や緊張力を考慮して、緊張端部、あるいは固定端部からの長さ65φを、「定着長」として考え、その定着長において平均的に抵抗する平均付着応力度(=τ65)を定義する。定着長を65φの長さに採用した理由は、道路橋示方書・同解説(III コンクリート橋・コンクリート部材編)平成29年11月、日本道路協会発行、p101に示されている、「プレテンション部材では、・・・・定着長については、φ15.2までのPC鋼より線の場合、その直径の65倍としてよい。(図-解5.3.4)」の記述を参考としている。
【0066】
また、プレストレス導入終了時には、最大緊張力としては、緊張直後の荷重として0.7Puが採用されている。ここで、Puとは緊張材の引張荷重(PC鋼ストランドの場合の呼称)、あるいは保証破断荷重(連続繊維補強材の場合の呼称)である。従って、平均付着応力度(τ65)は、以下の式(2)で示される。
τ65 = 0.7Pu/(65πφ2) ・・・・・・・・(2)
【0067】
次に、解放時の標準定着長65φにおける平均付着応力度の時間変化率(=K65)を以下の式(3)で定義する。
K65 = τ65/Tr ・・・・・・・・・・・・・(3)
ここで、Tr=緊張力解放時間 (sec)
【0068】
なお、緊張力解放時間Trは、緊張力を解放してから終了するまでのすべての合計時間を表していない。緊張力の解放により、コンクリート構造物に発生する圧縮ひずみは、場所と時間の関数である。式(3)で定義する緊張力解放時間Trは、一連の解放作業中に発生する、最速解放時おける解放時間と定義している。
【0069】
平均付着応力度の時間変化率(=K65)とは、65φの定着長における、緊張力に対する平均付着応力度の、最速解放時における解放時間に対する平均付着応力度の時間変化率を示している。例えば、平均付着応力度の時間変化率(=K65)が大きい場合は、解放時間が短いために、緊張力を伝達するための付着せん断応力度が衝撃的に変化するために、結果、コンクリート本体にプレストレスを導入することができなくなる。
【0070】
鉄筋はじめ緊張材などの補強材に作用する付着抵抗応力は、コンクリート圧縮強度の2/3乗に比例することが知られている。本実施形態においては、この関係を取り入れて、平均付着応力度の時間変化率(=K65)とPCグラウト圧縮強度:fgmとの関係を構築する。つまり、式(4)に示すような、PCグラウトの圧縮強度:fgmを影響要因として考慮した、解放時の標準定着長65φにおける平均付着応力度の時間変化率(=K65)の実験式が表現できる。
K65 ≦ A×fgm
2/3 + B ・・・・・・・・・・(4)
【0071】
式(4)は、A,Bが実験定数であり、緊張力の解放実験にから求めることができる。その結果の実験式は、本発明により所定のプレストレスの導入が可能か、不可能かの限界状態を表現することが可能となる。
【0072】
[第1実施形態に係る緊張力導入方法]
次に、本発明の実施形態に係る定着機構を達成することが可能な、つまり本発明の基本概念を満足できるように緊張力を解放してコンクリート構造物へポストテンション方式でプレストレスを導入する本発明の第1実施形態に係る緊張力導入方法について説明する。
【0073】
第1実施形態に係る緊張力導入方法では、従来のポストテンション方式の緊張力導入方法と同様に、コンクリート構造物CSに形成され、コンクリート構造物CSの側面である端面同士を、例えば、横方向に貫通する挿通孔に緊張材T1を挿入する緊張材挿通工程を行う。本実施形態では、挿通孔の作成方法としては、例えば、コンクリート構造物CSにポリエチレン製シース管を埋設して形成する方法や、鋼製シース管を埋設してコンクリート打設後に除去する方法などがある。
【0074】
その後、緊張材挿通工程で挿通した緊張材T1を緊張ジャッキにより緊張して、コンクリート構造物CSに所定の緊張力を付与する緊張材緊張工程を行う。
【0075】
そして、緊張材緊張工程で緊張した緊張材T1の周りにグラウト材であるPCグラウトG1を充填するグラウト材充填工程を行い、PCグラウトの圧縮強度fgmが前記式(1)の条件を満足するように養生する。
【0076】
グラウト材充填工程で充填したPCグラウトの圧縮強度fgmが前記式(1)の条件を満たす所定の圧縮強度が発現した後、本実施形態に係る緊張力導入方法の特徴部分となる緊張材T1の緊張力を解放する緊張力解放工程を行う。
【0077】
図2は、本発明の第1実施形態に係る緊張力導入方法の緊張力解放の施工方法を示す説明図であり、(a)が断面図、(b)が(a)のA矢視図である。第1実施形態に係る緊張力導入方法の緊張力解放工程では、
図2に示すように、油圧トルクレンチ2を使用して緊張力解放の解放速度を制御する。本実施形態に係る緊張力導入方法は、基本概念で示したように、前記式(4)を満足するように、平均付着応力度の時間変化率(=K
65)を維持することにより効率的に緊張力を解放することができる。
【0078】
具体的な緊張力の解放方法としてコンクリート構造物CSへ緊張力を導入する本実施形態に係る緊張力導入方法は、油圧トルクレンチ2を使用することにより、望ましい平均付着応力度の時間変化率(=K65)を容易に維持することが可能である。しかも、油圧トルクレンチはスイッチを入れるだけの単純作業で、特別の技量が必要なく、短時間に、誰が施工しても確実に解放できる施工方法である。
【0079】
施工事例の一例として、緊張端部において緊張力を解放する本実施形態に係る緊張力導入方法を
図2に示す。
図2の施工事例は、緊張端部における、緊張力解放の施工方法を示している。固定端部における施工方法では同様の施工方法を用いるために、割愛する。
【0080】
(1)施工ステップ1(緊張材緊張工程)
図2を用いて、緊張材緊張工程からグラウト材充填工程までの施工方法を説明する。なお、
図3は、もともと第2実施形態に係る緊張力導入方法の説明図であるが、第1実施形態の緊張材緊張工程の説明図と同一であるので、これを代用する。まず、緊張材緊張工程では、緊張ジャッキ10による緊張方法としては、膨張材スリーブ3(又はマンションスリーブ)に設けた内ネジを介してテンションバー11と接続し、テンションバーをセンターホールの緊張ジャッキ10によりラムチェアー4を反力に所定の緊張力まで緊張する。
【0081】
緊張ジャッキ10を使用して所定の緊張力を導入した後に、膨張材スリーブ3(連続繊維補強材の場合)又はマンションタイプのスリーブ(PC鋼ストランドの場合)に設けているロックナット5を回転させることにより緊張力の反力をラムチェアー4に置き換える。この状態では、テンションバー11や緊張ジャッキ10を撤去することができる。
【0082】
(2)施工ステップ2(グラウト材充填工程)
緊張反力をラムチェアー4にとらせた状態では、コンクリート構造物CSにプレストレスが導入された状態となっている。この状態で、シース管S1と緊張材T1の隙間に、PCグラウトG1を充填し、養生後に前記式(1)の条件を満たす所定の圧縮強度を得る。
【0083】
(3)施工ステップ3(緊張力解放工程)
次に、
図2を用いて緊張力を解放する施工ステップである緊張力解放工程について詳細に説明する。
図2には、緊張反力がロックナット5とラムチェアー4を介してコンクリート構造物CSに伝達されている状況が示されている。なお、この緊張力解放工程が本発明の実施形態に係る緊張力導入方法の重要なポイントである。本実施形態に係る緊張力導入方法では、まず、油圧トルクレンチ2をセットして、予め支圧板6に設けた反力体7から、反力を取れるようにする。支圧板6に対して反力体7をセットする目的は、油圧トルクレンチ2を作動してロックナット5を解放する際に、緊張材T1に働いている緊張力の解放時に、そのロックナット5に係合している油圧トルクレンチ2に発生する解放のトルク反力R1として、支圧板6からの反力を受けるためである。
【0084】
ロックナット5のネジを解放する際に作用している抵抗力は、1)緊張反力に伴う膨張材スリーブ3の外ネジとロックナット5の内ネジに作用する緊張力に依存する摩擦力、及び、2)ラムチェアー4上面とロックナット5との接触面に作用する緊張反力に伴う摩擦力、の合計である。従って、緊張作業まえの段階で、上記、膨張材スリーブ3とロックナット5とのネジ部、及びラムチェアー4とロックナット5の接触面には、予め、例えばモリブデン成分の潤滑剤を塗布しておくのが望ましい。
【0085】
油圧トルクレンチ2をセットする際には、もう一つの反力体8が必要である。その理由は、上記で説明したように、ロックナット5を解放することにより上記1)の膨張材スリーブ3の外ネジとロックナット5の内ネジに作用する緊張力に依存する摩擦力が作用するために、膨張材スリーブ3全体を供回り方向に回転させる回転トルク反力R2が発生する。この回転トルク反力R2が緊張材T1を捩じる結果となる。緊張材T1に捩じりを与えることは、緊張材に損傷を与えるので、緊張力解放作業としては非常に危険作業となる。その対策として、膨張材スリーブ3の回転を防止するための反力体7を支圧板6からとることが必要となる。この反力体7に作用する回転トルク反力R2の向きは、
図2に示すように、油圧トルクレンチ2による回転トルク反力R1とは逆となるので、支圧板6から設ける同じ反力体7を利用できる。
【0086】
上記の膨張材スリーブ3が回転することを防止するための反力体8の取り方の一例としては、膨張材スリーブ3の外周に外ネジをねじ切り切削して、これにハードロックナット9のような供回り防止の固定ナットをセットし、これよりスパナ形状の反力体8により反力を取る方法がある。別の方法としては、膨張材スリーブの一部に六角ナット形状ではなく、二面の平行面を設けて、これにスパナをかけて反力体7に伝達する方法もある。
【0087】
本実施形態に係る緊張力導入方法では、自重で5kg程度の軽量な油圧トルクレンチ2を使用するので、現場作業で装置のセット、撤去作業が容易となる。また、油圧トルクレンチ2の操作の特徴として、一回のスイッチでロックナット5の回転角度が一定角度、回転した後に自動的に止まるので、スイッチの押す時間間隔を制御するだけで、平均付着応力度の時間変化率を容易に制御できる。本実施形態に係る緊張力導入方法は、緊張の1カ所当たりの緊張力の解放に、約1~2分で完了する。
【0088】
[第2実施形態に係る緊張力導入方法]
次に、
図3を用いて、本発明の第2実施形態に係る緊張力導入方法について説明する。
図3は、本発明の第2実施形態に係る緊張力導入方法の緊張力解放の施工方法を示す説明図である。本実施形態に係る緊張力導入方法は、緊張ジャッキ10を利用して緊張力を本発明で提示した基本構想を満足するように解放することにより得られる解放力を、PCグラウトG1の付着性能を利用して、コンクリート構造物CSに対してプレストレスを導入する方法である。第1実施形態では、油圧トルクレンチ2を利用して緊張力解放の解放速度を制御したが、本第2実施形態では、緊張ジャッキ10を利用して緊張力解放の解放速度を制御する。
【0089】
(1)施工ステップ1(緊張材緊張工程)
第2実施形態に係る緊張力導入方法の緊張材緊張工程を、
図3を参照して説明する。まず、緊張ジャッキ10による緊張方法としては、膨張材スリーブ3に設けた外内ネジを介してテンションバー11と接続し、テンションバー11をセンターホールの緊張ジャッキ10によりラムチェアー4を反力に所定の緊張力まで緊張する。
【0090】
緊張ジャッキ10を使用して所定の緊張力を導入した後に、膨張材スリーブ3(連続繊維補強材の場合)又はマンションタイプのスリーブ(PC鋼ストランドの場合)に設けているロックナット5を回転させることにより緊張力の反力をラムチェアー4に置き換える。
【0091】
(2)施工ステップ2(グラウト材充填工程)
緊張反力をラムチェアー4にとらせた状態では、コンクリート構造物CSにプレストレスが導入された状態となっている。この状態で、シース管S1と緊張材T1の隙間に、PCグラウトG1を充填し、養生後に前記式(1)の条件を満たす所定の圧縮強度を得る。
【0092】
(3)施工ステップ3(緊張力解放工程)
次に、緊張力を解放する施工ステップである緊張力解放工程について詳細に説明する。第2実施形態に係る緊張力導入方法では、油圧トルクレンチ2を利用しないで、緊張時に使用した緊張ジャッキ10を利用する。まず膨張材(マンション)スリーブ3に設けた内ネジにテンションバー11を接合し、緊張時に使用した緊張ジャッキ10のセンターホールに通してジャッキラム12の先端で鋼製クサビ/スリーブ13によりテンションバー11を固定する。
【0093】
緊張ジャッキ10の先端に予め設けたロードセル14により、施工ステップ1の緊張材緊張工程で実施した緊張力の90~95%の緊張力を緊張材に与える。なお、緊張力を95%以上与えると、施工管理値を超過する過大緊張力となり、その結果、緊張材T1の表面とPCグラウトG1との間で緊張定着とは逆向きの付着応力が発生する。そのために、許容の付着せん断応力を超過する可能性があり、その結果、緊張力を導入することが不可能となる。
【0094】
上記の結果、ロックナット5を緩めることが可能となりで、緊張ジャッキ10による緊張力解放をすることが可能となる。第2実施形態に係る緊張力導入方法では、解放時の平均付着応力度の時間変化率の制御が必要である。つまり、本実施形態に係る緊張力導入方法では、緊張ジャッキ10のリリース油圧を管理しながら徐々に解放力を与える。
【0095】
(4)施工ステップ4
施工ステップ3の方法により、本発明で提示した式(1)と式(4)の制約条件下で、緊張力を解放することにより、少なくてもプレテンション方式によりプレストレス導入と同等以上の定着効果をもって、プレストレス導入が可能となる。施工ステップ4としては、
図2あるいは
図3に示されているコンクリート緊張端部に準備されたすべての部品を撤去する。緊張材T1はコンクリート構造物CSの緊張端面で切断して、コンクリート端部の表面処理を行う。
【0096】
<実物大検証実験>
次に、本発明のポストテンション定着メカニズムの理論展開が正しいかどうかを検証するために行った実物大検証実験について説明する。
【0097】
(実大実験の概要)
(1)実験供試体と使用材料
実験供試体の概要:1)断面形状×長さ=B×H×L=220×210×2500mm、2)緊張材=代表的な連続繊維補強材に属する、炭素繊維を使用した連続炭素繊維補強材(CFCCと称する)、CFCC直径φ=17.2mm、断面積=151.1mm2、保証破断荷重Pu=385kN、弾性係数=150kN/mm2、3)PEシース:内径φ38ポリエチレンシース、4)PCグラウト:超低粘性無収縮型PCグラウト、5)コンクリート:設計基準強度=60N/mm2、6)コンクリート歪測定=緊張端部より歪ゲージ(ゲージ長60mm)をコンクリート表面に長手方向に沿って貼り付ける。
【0098】
(2)実験水準
1)緊張力の解放モード:緊張材の切断、油圧トルクレンチによる解放、ジャッキによる解放である。
2)緊張力は、すべてのケースで0.7Pu=269.5kNを与えたので、平均付着応力度(τ65)=4.463N/mm2(一定)となる。
3)PCグラウトの圧縮強度は、解放時の定着効果に影響するので、fgm=22.8~110N/mm2の範囲で変化させた。
4)コンクリートの圧縮強度は、設計基準強度(60N/mm2)に基づき製作した。
【0099】
(3)プレストレス有効率(EPR:Effective Prestressing Ratio)
本発明によりポストテンション・コンクリート構造体に所定のプレストレスが有効に導入されているかを判断する上で、プレストレス有効率の定義が重要である。
プレストレス有効率(EPR)は、式(5)により定義される。
EPR = εp2/εp1×100 (%)・・・(5)
【0100】
ここで、εp1は解放直前のコンクリート歪、εp2は解放直後のコンクリート歪
上記のEPRは、ひずみの有効率でもあり、同時にプレストレス応力の有効率でもある。例えば、有効率(EPR)が100%の場合は、その位置における導入プレストレ応力は、緊張材の解放力をPCグラウト定着により100%プレストレス応力として導入されていると評価されることを意味している。
【0101】
(4)平均付着応力度の時間変化率K65の実験データからの求め方
式(3)で示されたK65の定義式は、解放時の標準定着長65φにおける平均付着応力度の時間変化率を定義している。しかし、実際の実験データでは、解放時における時間変化率K65が一定とならない。従って、実験データ処理においては、閾値が安全側になるように、時間変化率の上限値を取り出して、データ処理を行う。具体的は、解放の最速時間において、線形的に変化する部分を実験データとして取り出して、この状態が緊張力解放時の最初から最後まで継続するものと仮定する。つまり、このデータ処理方法により、現象を安全側に評価するので、この結果から得られる実験評価式も安全側に評価されると考えてよい。
【0102】
図4は、切断モードで緊張力を解放した場合の、典型的な経過時間とコンクリートひずみの変化を示す。コンクリート歪の測定位置は、ひずみ変動が大きい緊張端部から9φの位置とした。
図4より、切断モード時の時間変化率K
65は以下の式(7)により求められる。
時間変化率 K
65=τ
max/ T
max ・・・・・・・・・・・・(6)
ここで、ε
pは緊張直後のコンクリートひずみであり、また
τ
max=τ
65(ε
2-ε
1)/ε
p なので、式(6)は、最終的に式(7)となる。
時間変化率 K
65=τ
65(ε
2-ε
1)/(ε
p・T
max)・・・・(7)
【0103】
図5は、ジャッキ/トルクレンチモードで緊張力を解放した場合の、典型的な経過時間とコンクリートひずみの変化を示す。緊張力の解放の方法にもよるが、一般的には経過時間とコンクリート歪の関係は折れ線グラフとなる。安全側に実験評価式とするために、最速解放時のひずみ変化(ε
2-ε
1)が最終の開放ひずみ(ε
3)まで持続すると仮定して、切断モード時の時間変化率K
65は以下の式(9)により求められる。
時間変化率 K
65=τ
max/ T
total ・・・・・・・・・・・(8)
ここで、T
max=T
total(ε
2-ε
1)/ε
3 なので、式(8)は、最終的に
時間変化率 K
65=τ
65(ε
2-ε
1)/(ε
3・T
max)・・・・(9)
【0104】
(5)実験供試体の変動要因
緊張力の実大解放実験において、実験は、切断による解放=10ケース、油圧トルクレンチによる解放=6ケース、ジャッキによる解放=8ケースである。
【0105】
表1に切断モード解放、及び表2にジャッキ/トルクレンチモード解放による実験条件、PCグラウトの実験時圧縮強度、コンクリートの弾性係数、その他の実験データ示す。また、最後の実験時の緊張端部に一番近い歪データの時間履歴から、最速解放ひずみと解放時間を求め、そして最後にこれらのデータから、最速解放時の付着応力時間変化率を算定した。
【0106】
【0107】
【0108】
(6)緊張力の解放モードに依存するプレストレス有効率(EPR)
図6及び
図7に、切断モード時及びジャッキ/トルクレンチモード時における、緊張端部からの無次元距離(L/φ)に対するプレストレス有効率(EPR)の関係図を示す。図中の凡例は、表1、表2の実験番号である。
【0109】
これらの図から、切断モード時の場合、緊張端部から距離65φ近傍位置において有効率95%を達成することは困難であることがわかる。その中で、連続繊維補強材の素線を選択して切断した実験ケース4-9は比較的、良好なEPSを示している。このケースの切断方法は、CFCCの素線を1本ずつ切断する方法を取り、平均付着応力度の時間変化率(=K65)を少しでも大きく取った結果である。
【0110】
一方、
図5に示すジャッキ/トルクレンチの解放モードでは、PCグラウトの圧縮強度が低いもので30.1N/mm
2のケースも含まれているが、緊張端部からの距離65φではEPRが95%以上を確保している。
【0111】
図6及び
図7の比較から、緊張力の解放を切断モードで実施した場合には、十分なプレストレス有効率(EPR)を達成できない。しかし、緊張力の解放をジャッキ/トルクレンチ解放モードで実施した場合には、コンクリート構造物の全長に渡り十分なプレストレス有効率(EPR)を達成することができることを示した。
【0112】
(7)平均付着応力度の時間変化率(=K65)の限界条件
本発明の最も肝となる、緊張力を解放する際に限界となる定量的な限界条件式を導く必要がある。これまでの理論展開から、式(1)で示される必要強度のモルタル材を使用して、式(4)で示される、平均付着応力度の時間変化率(K65)とグラウト材の圧縮強度の2/3乗との関係を、満足するように緊張力を解放することにより、コンクリート構造物の全長に渡り十分な緊張応力が導入されると考える。
【0113】
表2に示された、モルタル材の圧縮強度の2/3乗と付着応力時間変化率(K
65)との関係プロットを
図8に示す。実験データの観察から、緊張力の定着を可能とできる限界領域は、式(4)で示され、その限界領域を示す実験データとして、A,BがそれぞれA=0.0897、B=-0.8219となった。
図6に示す破線は、その境界線を示している。
【0114】
また、
図9に示されたすべてのデータは、表1の実験データをプロットしたものである。これらの実験データは、切断モードにより緊張力を解放したものであり、
図6に示した無次元距離65におけるプレストレス有効率(EPR)の結果からも、十分なプレストレス有効率(EPR)を達成できるものではない。切断モードの実験データは、
図9に示した式(4)の破線境界線よりも、すべて上にあり、式(4)の妥当性を証明している。
【0115】
<緊張材の種類による実験式の適応性>
実大実験による検証において、緊張材料として炭素繊維を連続繊維補強材として適用したCFCC(Carbon Fiber Composite Cable)を適用した。前述のように、緊張材料には従来から適用されている、PC鋼ストランドも実際の施工に多く適用されている。そこで、CFCCを使用して得られた検証実験データ及び式(1)や式(4)が、PC鋼ストランドの場合についても適用可能であるかについて、検討を行う。
【0116】
(検討対象の緊張材)
検証実験に適用したCFCCφ17.2の保証破断荷重Pu=385.0kNである。これとほぼ同等の引張荷重のPC鋼ストランドとしては、PCφ17.8があり、その引張荷重Pu=387.0kNである。この両者の張材を使用した場合の、異なる緊張定着長における平均付着応力度の比較を行う。
【0117】
(1)CFCCφ17.2及びPCφ17.8の物性値
CFCCφ17.2:直径=17.2mm、断面積Acf=151.1mm2、緊張導入力0.7Pu=269.5kN
PCφ17.8:直径=17.8mm、断面積APC=208.4mm2、緊張導入力0.7Pu=270.9kN
【0118】
(2)緊張時の緊張材の引張応力
CFCCφ17.2の引張応力=1783.6N/mm2
PCφ17.8の引張応力=1300.0N/mm2
【0119】
(平均付着応力度の比較)
プレストレス導入時(緊張力=0.7Pu)において、緊張端部のからの緊張定着長をNφとした場合の、緊張定着長における平均付着応力度をτNとすると、式(10)により求められる。
τN=0.7Pu/(Nπφ2)・・・・・・・・(10)
【0120】
ここで、N=65の場合において、Nφ=標準定着長となる。
式(10)によりCFCCφ17.2とPCφ17.8の定着長Nφにおける、プレストレス導入時の平均付着応力度を、表3に示す。
【0121】
【0122】
表3に示す平均付着応力度の比較から、PCφ17.8の平均付着応力度は、CFCCφ17.2の平均付着応力度よりも約6%程度小さいことがわかる。この両者の比較結果から、緊張材がPC鋼ストランドの場合の方が定着長における平均付着応力度が若干小さいため、CFCC緊張材を適用した式(4)より求められた実験定数は、設計的に安全側であることがわかる。
【0123】
以上、本発明の実施形態に係る緊張材の定着構造、本発明の第1及び第2実施形態に係る緊張力導入方法について詳細に説明した。しかし、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【符号の説明】
【0124】
2:油圧トルクレンチ
3:膨張材スリーブ
4:ラムチェアー
5:ロックナット
6:支圧板
7,8:反力体
9:ハードロックナット
10:緊張ジャッキ
11:テンションバー
12:ジャッキラム
13:鋼製クサビ/スリーブ
14:ロードセル
CS:コンクリート構造物(コンクリート本体)
S1:シース管(挿通孔)
T1:緊張材
G1:PCグラウト(グラウト材)
R1:油圧トルクレンチにより発生する回転トルク反力
R2:供回りにより発生する回転トルク反力
【要約】 (修正有)
【課題】防錆処理が不要で、簡易で安価な構成でコンクリート構造物に対してポストテンション方式によりプレストレス応力を導入して定着可能な緊張材の定着構造、緊張力導入方法及びプレストレストコンクリート構造物の製造方法を提供する。
【解決手段】コンクリート構造物へプレストレスを導入するためのポストテンション方式の緊張材の定着構造において、コンクリート構造物に形成され、端面同士を貫通する挿通孔と、挿通孔に挿通された緊張材T1と、挿通孔の緊張材の周りに充填されたグラウト材G1と、を備え、グラウト材が充填される前に緊張された緊張材の緊張力を、グラウト材の圧縮強度が、所定の圧縮強度が発現された状態で解放されることにより、グラウト材と緊張材との間に作用する付着抵抗応力によりコンクリート構造物へ緊張力を伝達し、定着してプレストレスを導入する。
【選択図】
図2