(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-27
(45)【発行日】2023-01-11
(54)【発明の名称】自己免疫性胃炎の検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20221228BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 D
(21)【出願番号】P 2018205914
(22)【出願日】2018-10-31
【審査請求日】2021-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 隆久
(72)【発明者】
【氏名】山出 美穂子
(72)【発明者】
【氏名】魚谷 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】鏡 卓馬
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】樋口 友洋
(72)【発明者】
【氏名】高橋 崇道
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-501177(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0109107(US,A1)
【文献】国際公開第2009/053537(WO,A1)
【文献】今村 祐志,A型胃炎(自己免疫性胃炎)の診断,日本消化器内視鏡学会雑誌,日本,2018年,Vol.60 ,No. 8 ,page 1444-1449,https://doi.org/10.11280/gee.60.1444
【文献】古田隆久、他2名,自己免疫性胃炎を予測する血清ガストリン値,ペプシノゲン値の検討,日本消化器がん検診学会雑誌,日本,2018年09月15日,Vol.57, No.3 , Page.515
【文献】古田隆久、他9名,自己免疫性胃炎の診断,日本消化器内視鏡学会総会,日本,2019年,Vol.61 (Suppl.1)
【文献】古田隆久、他4名,自己免疫性胃炎の血清診断方法,第58回 日本消化器がん検診学会 総会,日本,2019年,Vol.57,No.3,Page.515 O-24
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の血液中のPG I値、PG II値及びガストリン値の少なくとも2つを測定し、以下の(i)~(iv)のいずれかを算出し、該いずれかの算出値を指標として、自己免疫性胃炎(AIG)を非自己免疫性胃炎(non-AIG)と鑑別して検出する
ための補助的データを取得する方法:
(i) PG I*PG II値(PG I値とPG II値の積);
(ii) PG I/ガストリン比(PG I値とガストリン値の比);
(iii) (PG I/II比)/ガストリン比(PG I/II比(PG I値とPG II値の比)とガストリン値の比);及び
(iv) (PG I*PG II値)/ガストリン比(PG I*PG II値(PG I値とPG II値の積)とガストリン値の比)。
【請求項2】
PG I値、PG II値及びガストリン値の測定に、独立してRIA法、EIA法、ELISA法、LA法、CLIA法及びCLEIA法からなる群から選択される方法を用いる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
(i) PG I*PG II値(PG I値とPG II値の積)、(ii) PG I/ガストリン比(PG I値とガストリン値の比)、(iii) (PG I/II比)/ガストリン比(PG I/II比(PG I値とPG II値の比)とガストリン値の比)及び(iv) (PG I*PG II値)/ガストリン比(PG I*PG II値(PG I値とPG II値の積)とガストリン値の比)にカットオフ値を設定し、それぞれの算出値がカットオフ値未満の場合に被験体が自己免疫性胃炎に罹患していると判断する
ための補助的データを取得する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ROC解析によりカットオフ値を設定する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
(i) PG I*PG II値(PG I値とPG II値の積)のカットオフ値が、PG I値及びPG II値をμg/ml換算の値とした場合に100~115、(ii) PG I/ガストリン比(PG I値とガストリン値の比)のカットオフ値が、PG I値をガストリン値と同じpg/ml換算の値とし、ガストリン値をpg/ml換算の値とした場合に10~13、(iii) (PG I/II比)/ガストリン比(PG I/II比(PG I値とPG II値の比)とガストリン値の比)のカットオフ値が、PG I値及びPG II値をμg/ml換算の値とし、ガストリン値をpg/ml換算の値とし、PG I/PG II比をガストリン値で除した値に1000を掛けた場合に0.99~1.05、(iv) (PG I*PG II値)/ガストリン比(PG I*PG II値(PG I値とPG II値の積)とガストリン値の比)のカットオフ値が、PG I値及びPG II値をμg/ml換算の値とし、ガストリン値をpg/ml換算の値とした場合に36~41である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野に属し、血液検体から自己免疫性胃炎の症例を効率よく検出するための検査方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
1. 自己免疫性胃炎について
自己免疫性胃炎(autoimmune gastritis, 以下AIG)は、抗壁細胞抗体、抗内因子抗体による自己免疫機序により胃の体部の高度の萎縮性変化を来す疾患である。壁細胞への自己免疫機序による障害は、胃体部の固有胃腺の高度萎縮、胃酸分泌低下、内因子欠乏によるビタミンB12吸収不良などをきたす。
【0003】
ビタミンB12吸収不良による慢性的なビタミンB12欠乏は、悪性貧血や神経・精神疾患などの多彩な症状を引き起こし、認知症の発症にも寄与する。
【0004】
また、胃酸分泌の著しい低下は、胃の殺菌作用を損ない、消化管の細菌叢にも影響する。また、胃酸分泌低下に伴う高ガストリン血症は、カルチノイド、胃がん、大腸癌といった悪性腫瘍の発症リスクを高める。
【0005】
ヘリコバクター・ピロリ(以下H. pylori)の感染率が高かった日本では、これまでAIGはまれな疾患とされていたが、H. pylori感染者の減少によりAIG患者が顕在化し、むしろAIG患者はまれではないと考えられるようになった。しかし、実臨床においては、H. pylori感染に伴う高度の萎縮性胃炎とAIGとの鑑別は容易ではなく、しばしばAIGが見過ごされているのが実情である。特に、AIGでは無酸症のために、H. pylori以外のウレアーゼ産生菌が胃内で棲息できるため、しばしば、13C-尿素呼気試験を陽性化してH. pylori感染があると誤診されて、除菌療法を繰り返されてしまうことも報告されている。
【0006】
AIGの診断は、胃の体部有意の萎縮性変化(逆萎縮)、抗壁細胞抗体や抗内因子抗体の陽性で診断される。しかし、内視鏡検査時にAIGを疑わなくては診断のための組織生検は行われず、従って、事前に本疾患を疑う簡便な検査方法の確立が急務である。AIGでの血液検査の特徴としては、高ガストリン血症、血清ペプシノゲンの低値が報告されているが、H. pylori感染に伴う萎縮性胃炎でも同様な値を呈することがあり、両者を鑑別するカットオフ値も定まっていない。
【0007】
2. 血清ペプシノゲン及び血清ガストリンについて
血清ペプシノゲンは、大きくペプシノゲンI (PG I)とペプシノゲンII (PG II)に分けられる。PG Iは主に胃の主細胞や胃腺頸部粘液細胞から分泌され、PG IIは主細胞や胃腺頸部粘液細胞のみならず幽門腺細胞や十二指腸のブルンネル腺からも分泌される。PG IもPG IIも一定量が血中に漏出し、血液中で測定可能である。萎縮性胃炎が進行するとPGの産生領域が減少するため、ペプシノゲンの値も低下する。一方主細胞にはガストリンの受容体があり、血清ガストリン値が高い場合には、ペプシノゲンの値も上昇する。
【0008】
血清ガストリンは、胃の前庭部に存在するG細胞から分泌され、血流を介して、胃のECL細胞を刺激し、ヒスタミンを分泌させて壁細胞からの胃酸分泌を促進する。G細胞は突起を粘膜表面に出しており、それがセンサーとなって胃酸分泌状態を監視しており、胃酸分泌が低下すると、ガストリンの分泌が増加し、血中のガストリン値は上昇する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Furuta T, et al. Aliment Pharmacol Ther. 2018 Aug;48(3):370-377.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、血液検査で非侵襲的にかつ迅速に自己免疫性胃炎を検出する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、AIGの症例と同程度の萎縮性変化を有する非自己免疫性胃炎(non-AIG)とを比較し、血清ペプシノゲン(以下、PGという)I値、PG II値、PG I/II比(PG I値とPG II値の比)及び血清ガストリン値を比較し、それらの値にカットオフ値を設けることで、高い精度でAIGとnon-AIGを鑑別することが可能であることを見出した。この方法は、内視鏡検査を施行せずに、高い精度でAIGを診断することを可能とした。そして、特に、PG I値とガストリン値の比(PG I/ガストリン比)、PG I/II比とガストリン値の比((PG I/II比)/ガストリン比)、PG I*PG II(PG I値とPG II値の積)/ガストリン比等の値を算出し、AIG検出の指標とすることで高い精度でAIGの検出が可能となることを見出した。
【0012】
本発明の態様は、以下のとおりである。
[1] 被験体の血液中のPG I値、PG II値及びガストリン値の少なくとも2つを測定し、以下の(i)~(iv)のいずれかを算出し、該いずれかの算出値を指標として、自己免疫性胃炎(AIG)を非自己免疫性胃炎(non-AIG)と鑑別して検出する方法:
(i) PG I*PG II値(PG I値とPG II値の積);
(ii) PG I/ガストリン比(PG I値とガストリン値の比);
(iii) (PG I/II比)/ガストリン比(PG I/II比(PG I値とPG II値の比)とガストリン値の比);及び
(iv) (PG I*PG II値)/ガストリン比(PG I*PG II値(PG I値とPG II値の積)とガストリン値の比)。
[2] PG I値、PG II値及びガストリン値の測定に、独立してRIA法、EIA法、ELISA法、LA法、CLIA法及びCLEIA法からなる群から選択される方法を用いる、[1]の方法。
[3] (i) PG I*PG II値(PG I値とPG II値の積)、(ii) PG I/ガストリン比(PG I値とガストリン値の比)、(iii) (PG I/II比)/ガストリン比(PG I/II比(PG I値とPG II値の比)とガストリン値の比)及び(iv) (PG I*PG II値)/ガストリン比(PG I*PG II値(PG I値とPG II値の積)とガストリン値の比)にカットオフ値を設定し、それぞれの算出値がカットオフ値未満の場合に被験体が自己免疫性胃炎に罹患していると判断する、[1]又は[2]の方法。
[4] ROC解析によりカットオフ値を設定する、[1]~[3]のいずれかの方法。
[5] (i) PG I*PG II値(PG I値とPG II値の積)のカットオフ値が、PG I値及びPG II値をμg/ml換算の値とした場合に100~115、(ii) PG I/ガストリン比(PG I値とガストリン値の比)のカットオフ値が、PG I値をガストリン値と同じpg/ml換算の値とし、ガストリン値をpg/ml換算の値とした場合に10~13、(iii) (PG I/II比)/ガストリン比(PG I/II比(PG I値とPG II値の比)とガストリン値の比)のカットオフ値が、PG I値及びPG II値をμg/ml換算の値とし、ガストリン値をpg/ml換算の値とし、PG I/PG II比をガストリン値で除した値に1000を掛けた場合に0.99~1.05、(iv) (PG I*PG II値)/ガストリン比(PG I*PG II値(PG I値とPG II値の積)とガストリン値の比)のカットオフ値が、PG I値及びPG II値をμg/ml換算の値とし、ガストリン値をpg/ml換算の値とした場合に36~41である、[1]~[4]のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法により、内視鏡検査を施行することなく、高い精度でAIGをnon-AIGと鑑別する方法を確立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】AIG症例及びnon AIG症例の血清PG I濃度、PG II濃度、PG I/PG II濃度比及び血清ガストリン濃度を示す図である。
【
図2】各種パラメーターの精度をROC解析にて確認した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、血液中のPG I、PG II若しくはガストリン値、あるいはそれらの値から算出した値を指標にAIGとnon-AIGを鑑別する方法である。ここで、鑑別とは疾患を検出するにあたり、検査の結果から可能性のある複数の疾患を比較しながら、特定することをいう。すなわち、本発明の方法においては、血液中のPG I、PG II又はガストリンをマーカーとして用いる。また、本発明は、血液中のPG I、PG II若しくはガストリン濃度、あるいはそれらの値から算出した値を指標にAIGをnon-AIGと鑑別して検出する方法でもある。さらに、本発明は、血液中のPG I、PG II若しくはガストリン値、あるいはそれらの値から算出した値を指標にAIGとnon-AIGを鑑別するため、又はAIGをnon-AIGと鑑別して診断するための補助的データを取得する方法でもある。
【0016】
本発明においては、血液中のPG I、PG II又はガストリンを測定する。血液中のPG I、PG II又はガストリン値は濃度で表すことができる。検体としては、血清又は血漿を用いればよい。
【0017】
PG I、PG II及びガストリンの測定方法は限定されないが、好ましくは抗PG I抗体、抗PG II抗体又は抗ガストリン抗体を用いた免疫学的測定方法により測定すればよい。免疫学的測定方法としては、例えば、免疫測定法(RIA: radio immunoassay、EIA: enzyme immunoassay、FIA: fluoro immunoassay、CLIA: chemiluminescent immunoassay、CLEIA: chemiluminescent enzyme immunoassay等)、ドット・ブロッティング法、ラテックス凝集法(LA:Latex Agglutination-Turbidimetric Immunoassay)、イムノクロマト法等が挙げられる。
【0018】
この中でも、抗体を固相化したラテックス粒子を用いたラテックス凝集法(LA)やEIA(Enzyme Immunoassay)法の1種であるELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法が好ましい。
【0019】
ラテックス凝集法は、PG I、PG II又はガストリンに対する抗体をラテックス粒子に固相化し、抗原(PG I、PG II又はガストリン)を含む検体と混合する。抗原が存在する場合、抗原抗体反応によりラテックス粒子が凝集し、この凝集を目視により観察するか、あるいは自動分析装置により濁度を測定することにより抗原を定量することができる。
【0020】
ELISA法では、PG I、PG II又はガストリンに対する抗体を固相化したマイクロタイタープレートに抗原(PG I、PG II又はガストリン)を含む検体を添加し抗原・抗体反応を行わせ、さらに酵素標識したPG I、PG II又はガストリンに対する抗体を添加し、抗原・抗体反応をさせ、洗浄後、酵素基質と反応・発色させ、吸光度を測定して検体中のPG I、PG II又はガストリン濃度を測定する。蛍光標識したPG I、PG II又はガストリンに対する抗体を用いてもよい。
【0021】
免疫学的測定方法において、抗原抗体反応は4℃~45℃、より好ましくは20℃~40℃、さらに好ましくは25℃~38℃で行うことができ、また、反応時間は、1分~18時間、より好ましくは5分~1時間、さらに好ましくは10分~1時間程度である。
【0022】
免疫学的測定方法において用いられる抗PG I抗体、抗PG II抗体又は抗ガストリン抗体は、PG I、PG II又はガストリンを検出し得る抗体であればよく、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい。さらに、モノクローナル抗体のFab、F(ab')、F(ab')2等の結合活性断片を用いることもできる。
【0023】
本発明においては、血液中のPG I、PG II及びガストリンのうちの1つ、2つ又は3つを測定し、PG I、PG II又はガストリンの単独の値を指標としてAIGとnon-AIGを鑑別し、又はAIGをnon-AIGと鑑別して検出するか、あるいは、PG I、PG II又はガストリンの値を組合せて新たなパラメーターを算出し、該パラメーターを指標としてAIGとnon-AIGを鑑別し、又はAIGをnon-AIGと鑑別して検出する。
【0024】
一般に、PG I値、PG II値、及びPG I値とPG II値の比(PG I/II比)はAIG症例で低く、血清ガストリン値はAIG症例で高いと考えられている。いずれの数値もAIGとnon-AIGの間でオーバーラップがあるため、PG I値、PG II値又はPG I/PG II比単独で高い精度でAIGとnon-AIGを鑑別することは難しい。しかし、これらの数値を組み合わせた値を算出し、その値を鑑別や検出の指標とすることで高い精度でAIGとnon-AIGの鑑別を行うこと、又はAIGをnon-AIGと鑑別して検出することが可能となった。
【0025】
本発明において用いられる数値の組み合わせた値として、PG I*PG II値、PG I/ガストリン比、(PG I/PG II比)/ガストリン比及び(PG I*PG II値)/ガストリン比が挙げられる。
【0026】
(1)PG I*PG II値
PG I*PG II値は、PG I値とPG II値を乗じて得られた積である。PG I*PG II値は、AIG症例で低く、non-AIG症例で高い。PG I値及びPG II値をμg/ml換算の値とした場合、AIG症例における平均値は80.3 ± 128.9であり、non-AIG症例における平均値は1773.5 ± 3543.9であり、non-AIG症例における値はAIG症例における値の15~25倍である(AIG症例における値はnon-AIG症例における値の1/25~1/15)。
【0027】
(2)PG I/ガストリン比
PG I/ガストリン比は、PG I値をガストリン値で除して得られた値である。PG I/ガストリン比は、AIG症例で低く、non-AIG症例で高い。PG I値をガストリン値と同じpg/ml換算の値とし、ガストリン値をpg/ml換算の値とした場合、AIG症例における平均値は6.38 ± 16.6であり、non-AIG症例における平均値は290.5 ± 311.5であり、non-AIG症例における値はAIG症例における値の35~55倍である(AIG症例における値はnon-AIG症例における値の1/55~1/35)。
【0028】
(3)(PG I/PG II比)/ガストリン比
(PG I/PG II比)/ガストリン比は、PG I値をPG II値で除して得られた値(PG I/PG II比)を、さらに、ガストリン値で除した値である。(PG I/PG II比)/ガストリン比は、AIG症例で低く、non-AIG症例で高い。PG I値及びPG II値をμg/ml換算の値とし、ガストリン値をpg/ml換算の値とし、PG I/PG II比をガストリン値で除した値に1000を掛けた場合、AIG症例における平均値は1.1 ± 3.8であり、non-AIG症例における平均値は20.8 ± 25.2であり、non-AIG症例における値はAIG症例における値の15~25倍である(AIG症例における値はnon-AIG症例における値の1/25~1/15倍)。
【0029】
(4)(PG I*PG II値)/ガストリン比
(PG I*PG II値)/ガストリン比は、PG I値とPG II値を乗じて得られた積(PG I*PG II)をさらに、ガストリン値で除して得られた値である。(PG I*PG II値)/ガストリン比は、AIG症例で低く、non-AIG症例で高い。PG I値及びPG II値をμg/ml換算の値とし、ガストリン値をpg/ml換算の値とした場合、AIG症例における平均値は55.2であり、non-AIG症例における平均値は7623.8 ± 22999.5であり、non-AIG症例における値はAIG症例における値の100~150倍である(AIG症例における値はnon-AIG症例における値の1/150~1/100倍)。
【0030】
本発明においては、AIGの症例と同程度の萎縮性変化を有するnon-AIG症例から採取した血液を陰性対照として、同時に測定してもよい。
【0031】
この場合、被験体がAIGに罹患している場合、被験体の血液中のPG I値、PG II値、ガストリン値について、PG I*PG II値、PG I/ガストリン比、(PG I/PG II比)/ガストリン比及び(PG I*PG II値)/ガストリン比がnon-AIG症例に比べて低下するので、被験体におけるPG I*PG II値、PG I/ガストリン比、(PG I/PG II比)/ガストリン比又は(PG I*PG II値)/ガストリン比がnon-AIG症例よりも低い場合、被験体がAIGに罹患していると判断し、AIGをnon-AIGと鑑別して検出することができる。例えば、被験体において、PG I*PG II値がnon-AIG症例の1/25~/15の場合、PG I/ガストリン比がnon-AIG症例の1/55~1/35の場合、(PG I/PG II比)/ガストリン比がnon-AIG症例の1/25~1/15の場合、又は(PG I*PG II値)/ガストリン比がnon-AIG症例の1/150~1/100の場合、被験体がAIGに罹患していると判断し、AIGをnon-AIGと鑑別して検出することができる。
【0032】
また、あらかじめnon-AIG症例の血液中のPG I値、PG II値及びガストリン値を測定し、PG I*PG II値、PG I/ガストリン比、(PG I/PG II比)/ガストリン比及び(PG I*PG II値)/ガストリン比についてAIGとnon-AIGを鑑別するためのカットオフ値(閾値)を定めておいてもよい。該カットオフ値を基準としカットオフ値未満の場合に、AIGに罹患していると判断し、AIGをnon-AIGと鑑別して検出することができる。
【0033】
カットオフ値は、例えば、ROC(receiver operating characteristic curve:受信者動作特性曲線)解析により設定することができる。ROC曲線は、各カットオフ値での感度(sensitivity)及び特異性(specificity)を算出し、横軸を特異性とし、縦軸を感度とした座標上にプロットして作成する。また、ROC解析により本発明の方法による判定精度(感度及び特異性)を決定することができる。ROC解析は、試料としてAIG患者から採取した試料とnon-AIG症例から採取した血液についてPG I値、PG II値及びガストリン値を測定し、PG I*PG II値、PG I/ガストリン比、(PG I/PG II比)/ガストリン比及び(PG I*PG II値)/ガストリン比について、各カットオフ値での感度(sensitivity)及び特異性(specificity)を算出し、横軸を特異性(1‐特異性)とし、縦軸を感度とした座標上にプロットする。本発明の方法の測定結果についてROC解析により判定精度を解析した場合の、曲線下面積(AUC:area under the curve)は0.95以上と高く、感度は80%以上、好ましくは82%以上、さらに好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上であり、特異性は90%以上、好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上である。本発明の方法により、非常に高い精度でAIGとnon-AIGを鑑別することができ、あるいはAIGを検出することができる。
【0034】
それぞれの判定のための指標については、PG I*PG II値の場合、曲線下面積が0.90以上、感度が80%以上、特異度が90%以上、PG I/ガストリン比の場合、曲線下面積が0.95以上、感度が90%以上、特異度が95%以上、(PG I/PG II比)/ガストリン比の場合、曲線下面積が0.95以上、感度が80%以上、特異度が95%以上であり、(PG I*PG II値)/ガストリン比の場合、曲線下面積が0.95以上、感度が80%以上、特異度が95%以上である。
【0035】
ROC曲線を用いてカットオフ値を決定する場合、カットオフ値は感度と特異度のバランスから決定すればよく、例えば、ROC曲線の図の左上隅からの距離が最少となる点の値をカットオフ値としてもよく、曲線下面積(AUC)=0.500となる斜点線(
図2の参照線)から最も離れた点の値をカットオフ値としてもよい(Youden's index)。
【0036】
例えば、PG I*PG II値のカットオフ値として、100~115と設定することができ、好ましくは105~111、さらに好ましくは108と設定することができる。PG I/ガストリン比のカットオフ値として、10~13と設定することができ、好ましくは11~12と設定することができ、さらに好ましくは11.5と設定することができる。(PG I/II比)/ガストリン比のカットオフ値として、0.99~1.05と設定することができ、好ましくは1.01~1.03と設定することができ、さらに好ましくは1.02と設定することができる。(PG I*PG II値)/ガストリン比のカットオフ値として、36~46と設定することができ、好ましくは39~43と設定することができ、さらに好ましくは41と設定することができる。各値がカットオフ値未満の場合に、被験体はAIGに罹患していると判断し、AIGをnon-AIGと鑑別して検出することができる。
【実施例】
【0037】
浜松医科大学の専門外来を受診し、上部消化管内視鏡検査が実施され、血清PG I値、血清PG II値及び血清ガストリン値が測定された409の症例を後ろ向きに検討した。PG I値、PG II値及びガストリン値は、血清中の濃度値である。PG I値はLZテスト‘栄研’ペプシノゲンI(栄研化学株式会社)を用いて、PG II値はLZテスト‘栄研’ペプシノゲンII(栄研化学株式会社)を用いて、ガストリン値はガストリン・リアキット(登録商標)II(富士レビオ株式会社)を用いて測定した。
【0038】
AIGと診断された症例は、内視鏡検査にて胃粘膜の萎縮性変化を認め、かつ、抗壁細胞抗体陽性例であった。73症例がAIGと判断された。それ以外の336症例をnon-AIGとした。
【0039】
そこで、AIGと診断された症例とnon-AIG症例について、同時期にPG I値、PG II値、PG I/II比(PG I値とPG II値の比)及びガストリン値を比較した。
【0040】
PG I値、PG II値及びPG I/II比はAIGで低く、ガストリン値はAIGで有意に高かった(
図1)。
【0041】
1.各パラメーター単独での判定
(1) PG I値による判定
PG I値の平均値(±標準偏差)は、AIGでは7.4 ± 7.6ng/mlであるのに対し、non-AIGでは58.4 ± 46.4ng/mlであり、有意にAIGで低値であった(P < 0.001)。そこで、PG I値が7.30μg/ml未満の症例をAIGとすると、感度71.2%、特異度97.6%、陽性的中率86.7%、陰性的中率94.0%となり、有用度92.9%となった。PG I値のカットオフ値を7.3ng/mlとし、その値未満の症例をAIGとした場合の判定結果を表1に示し、判定精度を表2に示す。
【0042】
【0043】
【0044】
(2) PG II値による判定
PG II値の平均値(±標準偏差)は、AIGでは8.5 ± 3.9ng/mlで、non-AIGでは20.2 ± 16.0ng/mlであった(P < 0.001)。PG II値のカットオフ値を10.4ng/mlとし、その値未満の症例をAIGとした場合の判定結果を表3に示し、判定精度を表4に示す。
【0045】
【0046】
【0047】
(3) PG I/II比による判定
PG I/II比(PG I値とPG II値の比)の平均値(±標準偏差)は、AIGでは0.9 ± 0.8であり、non-AIGでは3.3 ± 2.1であった(P < 0.001)。PG I/II比のカットオフ値を1.3とし、その値未満の症例をAIGとした場合の判定結果を表5に示し、判定精度を表6に示す。
【0048】
【0049】
【0050】
(4) ガストリン値による判定
ガストリン値の平均値(±標準偏差)は、AIGでは2905± 2642 pg/mlで、non-AIGでは362 ± 361 pg/mlである(P < 0.001)。ガストリン値のカットオフ値を1300 pg/mlとし、その値以上の症例をAIGとした場合の判定結果を表7に示し、判定精度を表8に示す。
【0051】
【0052】
【0053】
2.パラメーターの組み合わせによる判定
(1) PG I値とPG II値の積(PG I*PG II値)による判定
PG I値もPG II値もAIGではnon-AIGに比してその値が小さいため、両者の差をより大きくするために、PG I値とPG II値を乗じた積であるPG I*PG II値を判定の指標として検討した。PG I * PG II値もAIGで低いことが考えられたが、実際測定してみると、PG I*PG II値の平均は、AIGでは80.3 ± 128.9であり、non-AIGでの平均値は1773.5 ± 3543.9であった(P < 0.001)。PG I*PG II値のカットオフ値を108とし、その値未満の症例をAIGとした場合の判定結果を表9に示し、判定精度を表10に示す。
【0054】
【0055】
【0056】
(2) PG I値とガストリン値の比(PG I/ガストリン比)による判定
PG I値はAIGで低く、ガストリン値はAIGで高い。そこで、両者の影響を考慮して、PG I値とガストリン値の比(PG I/ガストリン比)を指標とすれば、AIGでより低く、non-AIGではより高くなると考えられる。特に、主細胞にはガストリンの受容体があり、高ガストリン血症では、PG I値は上昇するはずであるが、そのガストリンの影響を相殺できると考えられる。PG I値の値をガストリン値と同じpg/mlに換算してPG I/ガストリン比を計算すると、その平均値は、AIGでは6.38 ± 16.6で、non-AIGでは290.5 ± 311.5である(P < 0.001)。PG I/ガストリン比のカットオフ値を11.5とし、その値未満の症例をAIGとした場合の判定結果を表11に示し、判定精度を表12に示す。
【0057】
【0058】
【0059】
(3) (PG I/II比)/ガストリン比による判定
PG I/II比(PG I値とPG II値の比)はAIGで低く、ガストリン値はAIGで高い。そこで、PG I/II比をさらにガストリン値で除した。この値を(PG I/II比)/ガストリン比と呼ぶ。数値は、PG I/II比をガストリン値(pg/ml)で除して、1000をかけた値を用いた。その平均値はAIGでは、1.1 ± 3.8、non-AIGでは20.8 ± 25.2であった(P < 0.001)。(PG I/II比)/ガストリン比のカットオフ値を1.02とし、その値未満の症例をAIGとした場合の判定結果を表13に示し、判定精度を表14に示す。
【0060】
【0061】
【0062】
(4) (PG I*PG II値)/ガストリン比による判定
1.に示したように、PG I値とPG II値の積(PG I*PG II値)は、AIGとnon-AIG との鑑別に有用な指標であった。そこで、さらにガストリンで除すことによって精度が高まると考えられた。そして、PG I値(ng/ml)、PG II値(ng/ml)、ガストリン値(pg/ml)の値をそのまま用いて、(PG I*PG II値)/ガストリン比を計算すると、その平均値は、AIGでは55.2で、non-AIGでは、7623.8 ± 22999.5であった(P < 0.001)。(PG I*PG II値)/ガストリン比のカットオフ値を41とし、その値未満の症例をAIGとした場合の判定結果を表15に示し、判定精度を表16に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
3.判定制度の確認
各種パラメーターの精度をROC解析にて確認した。
得られたROC曲線を
図2に示す。また、ROC解析結果を表17に示す。
【0066】
図2は、(PG I*PG II値)/ガストリン比、(PG I/II比)/ガストリン比、PG I/ガストリン比、PG I*PG II値の順で、ROC曲線が図の左上隅に近接していることを示す。また、表17はこの順序で面積が大きいことを示す。この結果は、(PG I*PG II値)/ガストリン比、(PG I/II比)/ガストリン比、PG I/ガストリン比、PG I*PG II値の順で、より高い精度でAIGとnon-AIGを鑑別して検出することができることを示す。
【0067】
【0068】
これらの結果より、各パラメーター単独よりも、パラメーターの組み合わせでの判定で精度がさらに高くなり、特にPG I/ガストリン比、(PG I/II比)/ガストリン比、(PG I*PG II値)/ガストリン比は非常に高い精度でAIGとnon-AIGの鑑別が可能となり、AIGの診断の有力なツールとなると考えられる。