(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-27
(45)【発行日】2023-01-11
(54)【発明の名称】点火プラグ
(51)【国際特許分類】
H01T 13/20 20060101AFI20221228BHJP
F02P 13/00 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
H01T13/20 B
F02P13/00 301J
(21)【出願番号】P 2019080827
(22)【出願日】2019-04-22
【審査請求日】2022-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100175019
【氏名又は名称】白井 健朗
(74)【代理人】
【識別番号】100195648
【氏名又は名称】小林 悠太
(74)【代理人】
【識別番号】100104329
【氏名又は名称】原田 卓治
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】菅原 晃
(72)【発明者】
【氏名】西田 直人
(72)【発明者】
【氏名】安川 諒
【審査官】関 信之
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-077889(JP,U)
【文献】特開2010-218768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/20
F02P 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる柱状の中心電極と、
前記中心電極の側面を覆う絶縁体と、
導電材料から筒状に形成され、前記絶縁体を保持するハウジングと、
前記ハウジングと導通し、前記軸線方向において前記中心電極の先端部と間隔を空けて対向する接地電極と、
前記中心電極の前記先端部の側面を覆うとともに、前記先端部のうち前記接地電極に向く先端面を露出させる誘電体からなる筒状部と、を備え、
前記中心電極と前記接地電極との間には、前記中心電極を陰極とし、前記接地電極を陽極として電圧が印加されることで放電が生じ
、
前記筒状部の前記接地電極に向く先端は、前記先端面と面一である、
点火プラグ。
【請求項2】
前記筒状部は、前記絶縁体と一体に形成されている、
請求項
1に記載の点火プラグ。
【請求項3】
前記中心電極の外周面と前記筒状部の内周面とは当接し、前記先端面が平坦に形成されている、
請求項
1又は2に記載の点火プラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点火プラグに関する。
【背景技術】
【0002】
中心電極と接地電極を備え、両電極間に高電圧を印加することで放電により内燃機関における混合気を点火する点火プラグが知られている。例えば、特許文献1には、中心電極と接地電極との少なくともいずれかの表面部分をクロムの炭化物又は炭窒化物で形成することで、電極間で放電が開始される電圧(以下、放電開始電圧と言う。)の低下を試みた点火プラグが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
簡潔な構成で放電開始電圧を低下させるにあたっては、未だ改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、簡潔な構成で放電開始電圧を低下させることができる点火プラグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る点火プラグは、
軸線方向に延びる柱状の中心電極と、
前記中心電極の側面を覆う絶縁体と、
導電材料から筒状に形成され、前記絶縁体を保持するハウジングと、
前記ハウジングと導通し、前記軸線方向において前記中心電極の先端部と間隔を空けて対向する接地電極と、
前記中心電極の前記先端部の側面を覆うとともに、前記先端部のうち前記接地電極に向く先端面を露出させる誘電体からなる筒状部と、を備え、
前記中心電極と前記接地電極との間には、前記中心電極を陰極とし、前記接地電極を陽極として電圧が印加されることで放電が生じ、
前記筒状部の前記接地電極に向く先端は、前記先端面と面一である。
【0009】
前記筒状部は、前記絶縁体と一体に形成されていてもよい。
【0010】
前記中心電極の外周面と前記筒状部と内周面とは当接し、前記先端面が平坦に形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡潔な構成で放電開始電圧を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る点火プラグを含むエンジン等を示す模式図である。
【
図4】(a)及び(b)は、実験で用いた放電用電極体を説明するための図である。
【
図7】(a)は、一実施例に係る放電用電極体の放電時の電圧及び電流波形を示す図であり、(b)は、比較例として誘電体を備えない放電用電極体の放電時の電圧及び電流波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0014】
本実施形態に係る点火プラグ100は、例えば、
図1に示すように、エンジン1を点火する点火装置8にて使用される。点火装置8は、点火プラグ100と、点火プラグ100に高電圧を印加する高電圧電源9とを備える。エンジン1は、燃焼室2、ピストン3、吸気バルブ4、吸気管5、排気バルブ6及び排気管7を備える。
【0015】
点火プラグ100は、その先端部(
図1での下端部)が燃焼室2内に露出するとともに、例えば、ピストン3の移動方向に沿って設置される。以下、点火装置8によるエンジン1の点火について簡潔に述べる。吸気バルブ4が開き、ピストン3が
図1の下方に移動すると、燃焼室2内に吸気管5から燃料(混合気)が導入される。ピストン3が下死点まで移動し、吸気バルブ4が閉じられた後、ピストン3が
図1の上方に移動していくと、燃焼室2内の圧力が高められる。このとき、点火プラグ100の後述する中心電極10及び接地電極40の間に高電圧電源9から高電圧が印加され、両電極間でプラズマが発生することにより、燃焼室2内で混合気が燃焼する。混合気が燃焼すると、発生した排気ガスが排気バルブ6及び排気管7を介して外部へと排出され、再び混合気が燃焼室2内に導入される。
【0016】
点火プラグ100は、
図2に示すように、中心電極10と、絶縁体20(碍子)と、ハウジング30と、接地電極40と、筒状部50と、を備える。
【0017】
中心電極10は、軸線AXに沿う方向(以下、軸線方向と言う。)に延びる円柱状に形成されている。中心電極10は、導電材料(例えば、銅、ニッケル合金などの金属)から形成されている。中心電極10は、軸線AX上に位置する端子11及び放電用導体12と導通されている。中心電極10には、高電圧電源9と電気的に接続される端子11と、放電用導体12とを介して高電圧が印加される。
【0018】
中心電極10の先端部10aは、軸線方向において、後述の接地電極40と対向している。
図3に示すように、先端部10aのうち接地電極40に向く先端面10bは、平坦面となっており、例えば、軸線AXを法線とする平面状に形成されている。
【0019】
絶縁体20は、中心電極10から外部への漏電を防ぐものである。絶縁体20は、セラミック(例えばアルミナ)から、中心電極10及び放電用導体12の外周側面を覆う筒状に形成されている。なお、前述の端子11は、絶縁体20の
図2における上方端部から露出して設けられている。
【0020】
ハウジング30は、導電材料(例えば、低炭素鋼などの金属)から筒状に形成され、その内部で絶縁体20を保持する。ハウジング30は、中心電極10を取り囲む部分の外周にネジ部31を有する。ネジ部31は、図示省略したネジ山が形成された部分である。このネジ部31をエンジンヘッドに設けられたネジ孔に締め付けることにより、点火プラグ100は、エンジン1に取り付けられる。点火プラグ100がエンジン1に取り付けられると、ハウジング30と、次に述べる接地電極40とがエンジンヘッドを介して接地される。
【0021】
接地電極40は、ハウジング30と導通し、軸線方向において中心電極10の先端部10aと間隔(
図3に示すギャップG)を空けて対向する板状の部材である。例えば、接地電極40は、ハウジング30と一体に形成され、ハウジング30の
図2における下方の開口端からL字状に屈曲した部分の先端部に位置する。
図3に示すように、接地電極40のうち、中心電極10の先端面10bと対向する対向面41は、例えば、先端面10bと概ね平行(丁度、平行も含む。)に形成されている。
【0022】
高電圧電源9から点火プラグ100の中心電極10及び接地電極40との間に高電圧が印加されると、中心電極10及び接地電極40の間のギャップGにおいて、火花放電が発生する。本実施形態では、中心電極10を陰極として、接地電極40を陽極として、高電圧電源9が接続される。高電圧電源9としては、例えば、高電圧をパルス状に複数回印加する、公知の高速パルス電源を使用することができる。高電圧電源9は、例えば、車両等の乗り物に搭載されたバッテリの電圧を、コイルによって高電圧化し、ECU(Engine Control Unit)等の制御装置の制御の下で点火プラグ100に印加する。
【0023】
筒状部50は、セラミック(例えばアルミナ)から形成され、例えば円筒状に形成されている。本実施形態に係る筒状部50は、絶縁体20と一体に形成されている。従って、本実施形態に係る筒状部50は、絶縁体20の
図2における下端部として構成されている。
【0024】
筒状部50は、中心電極10の先端部10aの外周側面を覆うとともに、
図3に示すように、その開口部から中心電極10の先端面10bを露出させるように設けられている。具体的に、筒状部50は、中心電極10の先端部10aのうち先端面10bのみを接地電極40に向かって露出させる格好で設けられている。筒状部50の内周面と、中心電極10の先端部10aの外周面とは当接している。
【0025】
筒状部50の接地電極40に向く先端は、
図3に示すように、中心電極10の先端面10bよりも接地電極40側に突出している。なお、図示しないが、筒状部50の接地電極40に向く先端は、中心電極10の先端面10bと面一であってもよい。ここで、中心電極10の先端面10bから筒状部50の先端までの軸線方向における長さを、突出長さLとすれば、本実施形態では、突出長さLは、ギャップGよりも小さい範囲内において、0mm以上(0mmを含む。)に設定される。なお、後述するように、突出長さLは、0mm以上、2mm以下(0mm≦L≦2mm)であることが好ましい。
【0026】
以上のように構成される本実施形態に係る点火プラグ100では、誘電体からなる筒状部50で、電子を放出する陰極である中心電極10の先端部10aの外周側面を覆うことで、電極間に発生する電界における軸線AXから離れる方向の成分を抑制するとともに、電界の軸線方向成分を増大させることができる。これは、誘電体からなる筒状部50が中心電極10の先端部10aの外周側面を覆うことで、軸線AXと垂直な方向に生じる電気力線の数が減り、その分、中心電極10の先端面10bや後述の三重点Jに生じる電気力線の数が増加することで、軸線方向に沿う電気力線の密度が大きくなるためである。また、二次電子放出により電子が抜けた筒状部50の内周面には正の電荷が生じ、当該内周面と中心電極10の先端面10bとの間にも電界を強める作用が生じる。この作用によっても、電界の軸線方向の成分が増大される。結果として、本実施形態に係る点火プラグ100によれば、放電開始電圧を低下させることができる。
【0027】
また、本実施形態に係る点火プラグ100では、中心電極10の先端部10aの外周面と筒状部50の内周面とが当接するとともに、中心電極10の先端面10bが平坦に形成されているため、接地電極40までのギャップGが同様に設定され、且つ、先端が先細りの中心電極と比較すると、
図3に示す三重点J(陰極トリプルジャンクションとも呼ばれる。)を接地電極40のより近くに位置させることができる。三重点Jとは、中心電極10と、絶縁体としての筒状部50及び空中とが交わる位置であって、電子が供給されると考えられる位置である。図においては点状に示しているが、実際には、本実施形態に係る点火プラグ100では円環状となる。以上のように、本実施形態に係る点火プラグ100によれば、相対的に三重点Jを接地電極40に近づけることができるため、電子ビームを安定して放出することができる。これにより、放電開始電圧のバラツキが少なく、放電電流を大きくすることができる。
【0028】
(実験について)
ここからは、以上に説明した点火プラグ100による効果を検証した実験結果について説明する。実験で使用した、
図4(a)に示す放電用電極体200は、第1電極210、第2電極240及び誘電体250を備える。第1電極210は、軸線方向に延び、銅から形成した円柱状の電極で、前述した、陰極としての中心電極10と対応する。第2電極240は、第1電極210の先端部とギャップGを空けて対向する平板電極であり、前述した、陽極としての接地電極40と対応する。誘電体250は、円筒状のセラミックパイプであり、前述の筒状部50と対応する。
図4(b)に示すように、放電用電極体200においては、第1電極210の外径φ1を1mm、誘電体250の外径φ2を2mm(内径は1mm)に設定した。
【0029】
また、第1電極210及び第2電極240間に、高電圧を印加する実験用回路90を
図5に示す。実験用回路90においては、商用の電源91(AC100[V])による電圧をスライダーにより連続的に電圧調整可能なネオントランス92で昇圧した。また、ネオントランス92の二次側出力電流をダイオードブリッジ93(図では模式的に示した)で全波整流し、コンデンサ94(C=2552[pF])を充電し、この充電電圧を高めることで、第1電極210及び第2電極240間で放電を開始させた。そして、放電開始の前後に亘る電圧及び電流波形を電圧プローブ95、シャント抵抗96で検出し、オシロスコープで観測した。なお、保護抵抗97は、放流電流を制限するためのものである。
【0030】
本願発明者らは、以上の放電用電極体200及び実験用回路90を用い、誘電体250の先端から第2電極240までの距離D[mm]、誘電体250の突出長さL[mm]をパラメータとし特性測定を行った。なお、
図4(a)に示すように、突出長さLと距離Dの和がギャップGとなる(G=L+D)。D=1mm~5mm、L=0mm~2mmの範囲で、それぞれ、1mm間隔で変化させ、各パラメータに設定された放電用電極体200に対し、5回電圧を印加し、放電開始電圧のバラツキも測定した。併せて、比較例として、第1電極210に誘電体250を設けない放電用電極体(この場合、G=Dとなる。)についても同様に特性観測を行った。
【0031】
(実験結果)
D,Lを各パラメータで設定した放電用電極体200及び比較例に対して5回の施行を行い、まとめた放電電圧特性を
図6に示す。
図6は、横軸をD[mm]、縦軸を放電開始電圧V[V]として、各パラメータに対して行った5回の施行の最大値と最小値の平均値をプロットして得られるグラフである。ここで、ギャップGが異なるものは放電電圧特性の比較対象にならないため、以下では、主にギャップGが同じものについて考察する。
【0032】
まず、比較例としての「誘電体なし」とL=0の放電用電極体200に着目する。比較例は、D=1mmで約6kVの放電開始電圧となり、D=5mmでの約11kVまで、距離D(比較例においてはD=G)の増加に伴い放電開始電圧が上昇している。一方、L=0の放電用電極体200では、D=1mmで約4kVの放電開始電圧となり、D=5mmでの約9kVまで、距離D(L=0においてもD=G)の増加に伴い放電開始電圧が上昇しているが、いずれの距離Dにおいても、比較例よりも放電開始電圧が約2kV程、低下していることが分かる。
【0033】
また、G=5mmとなるもの同士として、「誘電体なし」のD=5mmにおける放電開始電圧(図示Pn)と、L=0mm且つD=5mmの放電用電極体200の放電開始電圧(図示P0)と、L=2mm且つD=3mmの放電用電極体200の放電開始電圧(図示P2)と、に着目する。グラフから分かるように、「誘電体なし」のPnが約11kVを示しているのに対し、P0及びP2は、ともに約9kVを示しており、この実施例に係る放電用電極体200によれば、比較例よりも、約2kV程、放電開始電圧が低下している。
【0034】
また、G=4mmとなるもの同士として、「誘電体なし」のD=4mmにおける放電開始電圧(図示Qn)と、L=0mm且つD=4mmの放電用電極体200の放電開始電圧(図示Q0)と、L=1mm且つD=3mmの放電用電極体200の放電開始電圧(図示Q1)と、L=2mm且つD=2mmの放電用電極体200の放電開始電圧(図示Q2)と、に着目する。グラフから分かるように、「誘電体なし」のQnが約9kVを示しているのに対し、Q0、Q1及びQ2は、約7~8kVの間の値を示しており、この実施例に係る放電用電極体200によれば、比較例よりも、約1~2kV程、放電開始電圧が低下している。
【0035】
さらに、Dが1mm~5mmの範囲内における放電開始電圧特性を考察すると、L=0mmの放電用電極体200は、最も低い放電開始電圧特性を示している。また、「誘電体なし」の比較例では、Dの値によって放電開始電圧のバラツキが顕著であるのに対して、L=1mm及びL=2mmの放電用電極体200は、ギャップGが同じとなる比較例よりも十分に低い放電開始電圧特性を有するとともに、比較例よりも、Dの値による放電開始電圧のバラツキが少ないことが分かる。特に、L=1mmの場合は、Dの値に対してほぼ線形の放電開始電圧特性を有しており、Dの値による放電開始電圧のバラツキが良好に抑制されていることが分かる。
【0036】
以上を勘案すると、誘電体250あるいは前述の点火プラグ100における筒状部50の突出長さLを、0mm以上、2mm以下(0mm≦L≦2mm)に設定すれば、良好に放電開始電圧を低下させることができる。また、特に、放電開始電圧を十分に低下させるに当たっては、誘電体250又は筒状部50の突出長さLを0mm(つまり、誘電体250又は筒状部50が陰極の先端から突出しない形状)とし、陰極の先端と、誘電体250又は筒状部50との先端とを面一に設定すればよい。また、放電開始電圧を低下させるとともに、Dの値に対してバラツキの少ない放電開始電圧を得るには、誘電体250又は筒状部50の突出長さLを0mmより大きい範囲(好ましくは、1mm以上、2mm以下の範囲)に設定すればよい。
【0037】
図7に、上記実験による観測波形の一例を示す。横軸は放電開始時を0[ms]として観測時間であり、左方縦軸は電極間への印加電圧[V]、右方縦軸は放電電流[A]を示す。
図7(a)は、D=5mm、L=2mmに設定した放電用電極体200に係る観測波形であり、
図7(b)は、第1電極210に誘電体250を設けていない、比較例としての放電用電極体に係る観測波形である。なお、
図7(a)と
図7(b)とではギャップGが異なるため、両図は、放電電圧低減効果を説明するものではなく、あくまで、放電電圧と放電電流の挙動例を示すものである。比較例では、
図7(b)に示すように、印加電圧が約-10kVで放電を開始し、以降は持続放電を維持した。また、放電電流は波高値で約10mAであった。一方、実施例に係る放電用電極体200では、
図7(a)に示すように、印加電圧が約-11kVで放電を開始し、約5ms後に放電が休止し、コンデンサ94が充電された後、約-10kVで放電し、これを繰り返す。放電電流の波高値は約10mAであった。なお、放電電流は、保護抵抗97で制限されているため、コンデンサ94を含む電源側の容量変更により、その上限は変更可能である。
【0038】
本発明は以上の実施形態及び図面によって限定されるものではない。本発明の要旨を変更しない範囲で、適宜、変更(構成要素の削除も含む)を加えることが可能である。以下に変形の一例を説明する。
【0039】
中心電極10又は第1電極210(陰極)の形状、接地電極40又は第2電極240(陽極)の形状、筒状部50又は誘電体250の形状、ギャップG、電極間への印加電圧などは、電極間に放電を発生させるとともに、上述の効果を奏することができる限りにおいては任意である。例えば、以上では、陰極を円柱状に形成した例を示したが、これに限られず、軸線方向に沿う形状であれば、陰極を角筒状や、先端が先細りとなる形状としてもよい。但し、前述の通り三重点Jを相対的に陽極に近づける観点からは、陰極の先端を平坦面とすることが好ましい。なお、当該平坦面は、軸線AXと垂直な面に限られず、軸線AXに対して傾いていてもよい。また、陽極は、軸線方向において陽極と対向する限りにおいては、その形状は任意である。なお、陽極は、軸線方向から見て陽極と重なる面積を有していることが好ましいと考えられる。
【0040】
また、点火プラグ100及び点火装置8は、エンジン1の点火用に限られず、石油、ガスファンヒータ、ガスコンロ等の点火用として用いることもできる。また、放電用電極体200は、混合気の点火用に限られず、気中で放電を発生させるために使用されるものであればよい。
【0041】
また、以上の点火プラグ100では、筒状部50を絶縁体20と一体に形成する例を示したが、中心電極10から外部への漏電を防ぐことができ、且つ、放電用電圧を低下させることができる限りにおいては、絶縁体20と筒状部50とを別体とすることもできる。
【0042】
以上では、筒状部50の先端が中心電極10の先端面10bよりも接地電極40側に突出している場合と、先端面10bと面一である(L=0mm)場合とについて説明したが、筒状部50を設けない場合よりも放電開始電圧を低下させることができる限りにおいては、中心電極10が筒状部50の先端よりも接地電極40側に突出していてもよい。筒状部50が中心電極10の先端部10aの外周側面を十分に覆っていれば、軸線AXと垂直な方向に生じる電気力線の数を減らすことができ、その分、中心電極10の先端面10bに生じる電気力線の数を増加させることができると考えられるためである。
【0043】
以上に説明した点火プラグ100は、中心電極10の先端部10aの側面を覆うとともに、先端部10aのうち接地電極40に向く先端面10bを露出させる誘電体からなる筒状部50を備える。ここで言う、中心電極10の先端部10aの側面を覆う筒状部50とは、中心電極10の先端部10aの外周側面の全てを覆う態様だけでなく、中心電極10の先端部10aの外周側面のうち、先端面10b側の一部を露出させる態様も含む。つまり、筒状部50を設けない場合よりも放電開始電圧を低下させることができる限りにおいては、中心電極10が筒状部50の先端よりも接地電極40側に突出していてもよい。中心電極10が筒状部50の先端よりも接地電極40側に突出する際の長さは、短ければ短いほど良いが、例えば、1mm以内(好ましくは0.5mm以内、より好ましくは0.1mm以内)の範囲で、中心電極10が筒状部50の先端よりも接地電極40側に突出していたとしても、筒状部50を設けない場合に比べて、放電開始電圧を低下させることができると考えられる。
【0044】
点火プラグ100において、筒状部50の接地電極40に向く先端は、中心電極10の先端面10bよりも接地電極40側にギャップGよりも短い長さ(L<G)で突出している、又は、先端面10bと面一である(L=0mm)ことが好ましい。このようにしたから、前述の通り、放電開始電圧を低下させることができる。また、筒状部50の形状を工夫するだけでよいため、構成が簡潔である。なお、放電開始電圧が低下すれば、燃焼効率を高めることもできると考えられる。特に、L=0mmとすれば、放電開始電圧を良好に低下させることができる。
【0045】
また、点火プラグ100において、中心電極10の先端面10bから筒状部50の先端までの軸線方向における長さ(突出長さL)を、0mmより大きく、2mm以下としてもよい。こうすれば、放電開始電圧を良好に低下させるだけでなく、前述の距離Dを変更した場合であっても、放電開始電圧にバラツキが生じることを抑制することができる。
【0046】
また、点火プラグ100において、筒状部50を絶縁体20(碍子)と一体に形成してもよい。こうすれば、従来から存在する絶縁用の碍子に、上記のように特徴的な形状の筒状部50を設けるだけで、放電開始電圧を低下させることができる。
【0047】
また、点火プラグ100は、中心電極10の外周面と筒状部50の内周面とが当接し、先端面10bが平坦に形成されていてもよい。こうすれば、前述の通り、相対的に三重点Jを接地電極40に近づけることができるため、陰極から電子ビームを安定して放出することができる。
【0048】
以上に説明した放電用電極体200では、誘電体250の第2電極240に向く先端は、第1電極210の先端面よりも第2電極240側にギャップGよりも短い長さ(L<G)で突出している、又は、第1電極210の先端面と面一である(L=0mm)。このようにしたから、前述の通り、放電開始電圧を低下させることができる。
【0049】
以上の説明では、本発明の理解を容易にするために、公知の技術的事項の説明を適宜省略した。
【符号の説明】
【0050】
1…エンジン、8…点火装置、9…高電圧電源
100…点火プラグ
10…中心電極、10a…先端部、10b…先端面
20…絶縁体
30…ハウジング
40…接地電極
50…筒状部
AX…軸線、J…三重点
200…放電用電極体、210…第1電極、240…第2電極、250…誘電体
90…実験用回路