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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-27
(45)【発行日】2023-01-11
(54)【発明の名称】労働債権取引システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 40/02 20230101AFI20221228BHJP
【FI】
G06Q40/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020564022
(86)(22)【出願日】2020-04-16
(86)【国際出願番号】 JP2020016725
(87)【国際公開番号】W WO2020218153
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2020-11-19
(31)【優先権主張番号】P 2019083642
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519153062
【氏名又は名称】株式会社ITZ
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】朴 賢一
【審査官】山内 裕史
(56)【参考文献】
【文献】特許第6413110(JP,B1)
【文献】特開2018-190156(JP,A)
【文献】国際公開第02/023421(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピア・ツー・ピア・ネットワークで接続された複数のノードの各々が同一内容のデータを共有した状態で記録するための分散型台帳を有する労働債権取引システムであって、
前記分散型台帳には、労働者の賃金の一部を債権額として使用者に請求可能な労働債権に関する情報が記録され、
前記複数のノードは、使用者ノードと労働者ノードと仲介者ノードと複数の買取先ノードと金融機関ノードとを含み、
前記使用者ノードは、前記労働者の勤怠情報に基づいて発行する新規労働債権に関する情報を前記分散型台帳に記録すると共に、前記新規労働債権の発行通知を前記仲介者ノードに送信し、
前記仲介者ノードは、前記発行通知に応答して前記新規労働債権を検証し、前記新規労働債権に問題がないと判断した場合には前記新規労働債権に関する情報として発行承認情報を前記分散型台帳に記録し、
前記労働者ノードは、複数の買取先の中から特定の買取先に売却する売却対象債権が前記労働者によって選択されたことに応答して、前記特定の買取先と前記特定の買取先の買取条件に基づく売却額とを前記売却対象債権に関する買取先情報として前記分散型台帳に記録すると共に、前記売却対象債権の売却申請を前記使用者ノードに通知し、
前記使用者ノードは、前記売却申請に応答して前記売却対象債権を検証し、前記売却対象債権に問題がないと判断した場合には前記売却対象債権に関する情報として売却承認情報を前記分散型台帳に記録すると共に、前記売却対象債権の売却承認通知を前記特定の買取先に対応する特定の買取先ノードに通知し、
前記特定の買取先ノードは、前記売却承認通知に応答して前記売却対象債権を検証し、前記売却対象債権に問題がないと判断した場合には前記売却対象債権に関する情報として買取承認情報を前記分散型台帳に記録すると共に、前記売却対象債権の買取承認通知を前記金融機関ノードに通知し、
前記金融機関ノードは、前記売却対象債権に関する情報として前記売却承認情報及び前記買取承認情報が前記分散型台帳に記録されている場合には、前記売却額を前記特定の買取先の口座から前記労働者の口座へ送金する送金処理を実行した後、売却額送金完了情報を前記分散型台帳に記録することを特徴とする労働債権取引システム。
【請求項2】
前記売却対象債権に関する情報には、前記債権額を前記特定の買取先に支払う支払日時が含まれ、
前記金融機関ノードは、前記分散型台帳を参照して前記支払日時に達した前記売却対象債権を特定し、特定した前記売却対象債権の前記債権額を前記使用者の口座から前記特定の買取先の口座に送金する送金処理を実行した後、債権額送金完了情報を前記分散型台帳に記録すると共に、前記債権額の送金完了通知を前記仲介者ノードに送信し、
前記仲介者ノードは、前記送金完了通知に応答して、前記売却対象債権に関する情報として前記売却対象債権を無効化する無効化情報を前記分散型台帳に記録することを特徴とする請求項1に記載の労働債権取引システム。
【請求項3】
前記労働者ノードは、分割対象債権が前記労働者によって選択されたことに応答して、前記分割対象債権に関する情報として分割申請情報を記録すると共に、前記分割対象債権の分割申請を前記使用者ノードに通知し、
前記使用者ノードは、前記分割申請を検証し、前記分割申請に問題がないと判断した場合には、前記分割対象債権に関する情報として分割承認情報を前記分散型台帳に記録し、且つ、分割された複数の分割後労働債権に関する情報をそれぞれ前記分散型台帳に記録すると共に、分割通知を前記仲介者ノードに送信し、
前記仲介者ノードは、前記分割通知に応答して前記複数の分割後労働債権を検証し、前記複数の分割後労働債権に問題がないと判断した場合には前記複数の分割後労働債権に関する情報として分割承認情報をそれぞれ前記分散型台帳に記録すると共に、前記分割対象債権に関する情報として無効化情報を前記分散型台帳に記録することを特徴とする請求項1又は2に記載の労働債権取引システム。
【請求項4】
前記使用者ノードは、前記分割対象債権が前記使用者によって発行され、且つ、分割対象債権の債権額と前記複数の分割後労働債権の債権額の合計額とが一致することを条件として、前記分割申請に問題がないと判断し、
前記仲介者ノードは、前記分割対象債権に関する情報として前記分割申請情報と前記分割承認情報とが記録され、且つ、前記複数の分割後労働債権が分割申請の内容に沿って発行されていることを条件として、前記複数の分割後労働債権に問題がないと判断することを特徴とする請求項3に記載の労働債権取引システム。
【請求項5】
前記労働債権に関する情報には売却期限が含まれ、
前記仲介者ノードは、前記複数の買取先の何れにも売却されることなく前記売却期限に達した前記労働債権を非売却労働債権として特定し、前記非売却労働債権に関する情報として無効化情報を前記分散型台帳に記録することを特徴とする請求項1から4のうち何れかに記載の労働債権取引システム。
【請求項6】
前記仲介者ノードは、前記新規労働債権が前記使用者の発行権限内で発行され、且つ、前記新規労働債権に関する情報として購入者情報が記録されていないことを条件として、前記新規労働債権に問題がないと判断することを特徴とする請求項1から5のうち何れかに記載の労働債権取引システム。
【請求項7】
前記使用者ノードは、前記売却対象債権が前記使用者によって発行されていることを条件として前記売却対象債権に問題がないと判断し、
前記特定の買取先ノードは、前記売却対象債権に関する情報として前記売却承認情報が記録されていることを条件として前記売却対象債権に問題がないと判断することを特徴とする請求項1から6のうち何れかに記載の労働債権取引システム。
【請求項8】
ピア・ツー・ピア・ネットワークで接続された複数のノードの各々が同一内容のデータを共有した状態で記録するための分散型台帳を有する労働債権取引システムであって、
前記分散型台帳には、労働者の賃金の一部を債権額として使用者に請求可能な労働債権に関する情報が記録され、
前記複数のノードは、使用者ノードと労働者ノードと仲介者ノードと複数の買取先ノードと金融機関ノードとを含み、
前記労働者ノードは、前記使用者によって承認された勤怠情報に基づいて前記労働者が指定した債権額に相当する新規労働債権の発行申請を使用者ノードに送信し、
前記使用者ノードは、前記発行申請に応答して、前記新規労働債権に関する情報を前記分散型台帳に記録すると共に前記新規労働債権の発行通知を前記仲介者ノードに送信し、
前記仲介者ノードは、前記発行通知に応答して前記新規労働債権を検証し、前記新規労働債権に問題がないと判断した場合には前記新規労働債権に関する情報として発行承認情報を前記分散型台帳に記録し、
前記労働者ノードは、複数の買取先の中から特定の買取先に売却する売却対象債権が前記労働者によって選択されたことに応答して、前記特定の買取先と前記特定の買取先の買取条件に基づく売却額とを前記売却対象債権に関する買取先情報として前記分散型台帳に記録すると共に、前記売却対象債権の売却申請を前記使用者ノードに通知し、
前記使用者ノードは、前記売却申請に応答して前記売却対象債権を検証し、前記売却対象債権に問題がないと判断した場合には前記売却対象債権に関する情報として売却承認情報を前記分散型台帳に記録すると共に、前記売却対象債権の売却承認通知を前記特定の買取先に対応する特定の買取先ノードに通知し、
前記特定の買取先ノードは、前記売却承認通知に応答して前記売却対象債権を検証し、前記売却対象債権に問題がないと判断した場合には前記売却対象債権に関する情報として買取承認情報を前記分散型台帳に記録すると共に、前記売却対象債権の買取承認通知を前記金融機関ノードに通知し、
前記金融機関ノードは、前記売却対象債権に関する情報として前記売却承認情報及び前記買取承認情報が前記分散型台帳に記録されている場合には、前記売却額を前記特定の買取先の口座から前記労働者の口座へ送金する送金処理を実行した後、売却額送金完了情報を前記分散型台帳に記録することを特徴とする労働債権取引システム。
【請求項9】
ピア・ツー・ピア・ネットワークで接続された複数のノードの各々が同一内容のデータを共有した状態で記録するための分散型台帳を有する労働債権取引システムであって、
前記分散型台帳には、労働者の賃金の一部を債権額として使用者に請求可能な労働債権に関する情報が記録され、
前記複数のノードは、使用者ノードと労働者ノードと仲介者ノードと買取先ノードとを含み、
前記使用者ノードは、前記労働者の勤怠情報に基づいて発行する新規労働債権に関する情報を前記分散型台帳に記録すると共に、前記新規労働債権の発行通知を前記仲介者ノードに送信し、
前記仲介者ノードは、前記発行通知に応答して前記新規労働債権を検証し、前記新規労働債権に問題がないと判断した場合には前記新規労働債権に関する情報として発行承認情報を前記分散型台帳に記録し、
前記労働者ノードは、前記買取先ノードに対応する買取先と前記買取先の買取条件に基づく売却額とを売却対象債権に関する買取先情報として前記分散型台帳に記録すると共に、前記売却対象債権の売却申請を前記使用者ノードに通知し、
前記使用者ノードは、前記売却申請に応答して前記売却対象債権を検証し、前記売却対象債権に問題がないと判断した場合には前記売却対象債権に関する情報として売却承認情報を前記分散型台帳に記録すると共に、前記売却対象債権の売却承認通知を前記買取先ノードに通知し、
前記買取先ノードは、
前記売却承認通知に応答して前記売却対象債権を検証し、前記売却対象債権に問題がないと判断した場合には前記売却対象債権に関する情報として買取承認情報を前記分散型台帳に記録し、
前記売却額を前記買取先の口座から前記労働者の口座へ送金する送金処理を実行した後、売却額送金完了情報を前記分散型台帳に記録することを特徴とする労働債権取引システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、労働者の賃金の一部を使用者に請求可能な労働債権を取引する労働債権取引システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、1日、数週間、数ヶ月といった比較的短期の労働を提供するスタッフを派遣する人材派遣会社のための給与システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
具体的には、特許文献1では、派遣スタッフ(労働者)に対する給与の支払いに関して売掛債権が確定した時点で銀行等の金融機関(買取先)が当該売掛債権を買取り、その買取対価として給与相当額が派遣スタッフに支払われる。なお、売掛債権は、派遣先企業において労働が予定された通りに提供されたことが認証されて確定する。また、人材派遣会社は、このサービスの対価として手数料を当該金融機関に対して支払う。
【0004】
また、別の技術として、分散型台帳技術を用いて、債務記録情報の正当性を確認できる基盤システムを利用して、効率的な支払いを支援する支払支援システムが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-016237号公報
【文献】特許第6363254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1のシステムによれば、人材派遣会社(使用者)の所有する売掛債権を銀行等の金融機関(買取先)が買い取ることで、派遣スタッフ(労働者)は、給与支給日前に給与相当額を受け取ることが可能になる。
【0007】
しかし、特許文献1に記載の売掛債権は、派遣スタッフ(労働者)ではなく人材派遣会社(使用者)に対して発行される債権である。よって、派遣スタッフ(労働者)は売掛債権に関して何らの権利も有しておらず、売掛債権を労働者自身の意思に基づいて第三者に売却することはできなかった。そのため、特許文献1において給与前払いサービスを受けるためには、企業間取引(BtoB)として、人材派遣会社(使用者)が銀行等の金融機関(買取先)に売掛債権を売却する他なく、労働者個人が主体的に取引することはできなかった。また、特許文献1に記載のシステムでは、派遣スタッフ(労働者)は、人材派遣会社(使用者)と提携する金融機関(買取先)からしか給与前払いサービスを受けることができないため、人材派遣会社(使用者)と金融機関(買取先)との間で定められた条件(手数料等)を無条件に受け入れなければならなかった。
【0008】
そこで、本発明は、賃金の一部を使用者に請求可能な労働債権を労働者に対して発行することで労働者個人が労働債権を主体的に取引することが可能な労働債権取引システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、ピア・ツー・ピア・ネットワークで接続された複数のノードの各々が同一内容のデータを共有した状態で記録するための分散型台帳を有する労働債権取引システムであって、前記分散型台帳には、労働者の賃金の一部を債権額として使用者に請求可能な労働債権に関する情報が記録され、前記複数のノードは、使用者ノードと労働者ノードと仲介者ノードと複数の買取先ノードと金融機関ノードとを含み、前記使用者ノードは、前記労働者の勤怠情報に基づいて発行する新規労働債権に関する情報を前記分散型台帳に記録すると共に、前記新規労働債権の発行通知を前記仲介者ノードに送信し、前記仲介者ノードは、前記発行通知に応答して前記新規労働債権を検証し、前記新規労働債権に問題がないと判断した場合には前記新規労働債権に関する情報として発行承認情報を前記分散型台帳に記録し、前記労働者ノードは、複数の買取先の中から特定の買取先に売却する売却対象債権が前記労働者によって選択されたことに応答して、前記特定の買取先と前記特定の買取先の買取条件に基づく売却額とを前記売却対象債権に関する買取先情報として前記分散型台帳に記録すると共に、前記売却対象債権の売却申請を前記使用者ノードに通知し、前記使用者ノードは、前記売却申請に応答して前記売却対象債権を検証し、前記売却対象債権に問題がないと判断した場合には前記売却対象債権に関する情報として売却承認情報を前記分散型台帳に記録すると共に、前記売却対象債権の売却承認通知を前記特定の買取先に対応する特定の買取先ノードに通知し、前記特定の買取先ノードは、前記売却承認通知に応答して前記売却対象債権を検証し、前記売却対象債権に問題がないと判断した場合には前記売却対象債権に関する情報として買取承認情報を前記分散型台帳に記録すると共に、前記売却対象債権の買取承認通知を前記金融機関ノードに通知し、前記金融機関ノードは、前記売却対象債権に関する情報として前記売却承認情報及び前記買取承認情報が前記分散型台帳に記録されている場合には、前記売却額を前記特定の買取先の口座から前記労働者の口座へ送金する送金処理を実行した後、売却額送金完了情報を前記分散型台帳に記録することを特徴とする労働債権取引システムを提供している。
【0010】
ここで、前記売却対象債権に関する情報には、前記債権額を前記特定の買取先に支払う支払日時が含まれ、前記金融機関ノードは、前記分散型台帳を参照して前記支払日時に達した前記売却対象債権を特定し、特定した前記売却対象債権の前記債権額を前記使用者の口座から前記特定の買取先の口座に送金する送金処理を実行した後、債権額送金完了情報を前記分散型台帳に記録すると共に、前記債権額の送金完了通知を前記仲介者ノードに送信し、前記仲介者ノードは、前記送金完了通知に応答して、前記売却対象債権に関する情報として前記売却対象債権を無効化する無効化情報を前記分散型台帳に記録するのが好ましい。
【0011】
また、前記労働者ノードは、分割対象債権が前記労働者によって選択されたことに応答して、前記分割対象債権に関する情報として分割申請情報を記録すると共に、前記分割対象債権の分割申請を前記使用者ノードに通知し、前記使用者ノードは、前記分割申請を検証し、前記分割申請に問題がないと判断した場合には、前記分割対象債権に関する情報として分割承認情報を前記分散型台帳に記録し、且つ、分割された複数の分割後労働債権に関する情報をそれぞれ前記分散型台帳に記録すると共に、分割通知を前記仲介者ノードに送信し、前記仲介者ノードは、前記分割通知に応答して前記複数の分割後労働債権を検証し、前記複数の分割後労働債権に問題がないと判断した場合には前記複数の分割後労働債権に関する情報として分割承認情報をそれぞれ前記分散型台帳に記録すると共に、前記分割対象債権に関する情報として無効化情報を前記分散型台帳に記録するのが好ましい。
【0012】
また、前記使用者ノードは、前記分割対象債権が前記使用者によって発行され、且つ、分割対象債権の債権額と前記複数の分割後労働債権の債権額の合計額とが一致することを条件として、前記分割申請に問題がないと判断し、前記仲介者ノードは、前記分割対象債権に関する情報として前記分割申請情報と前記分割承認情報とが記録され、且つ、前記複数の分割後労働債権が分割申請の内容に沿って発行されていることを条件として、前記複数の分割後労働債権に問題がないと判断するのが好ましい。
【0013】
また、前記労働債権に関する情報には売却期限が含まれ、前記仲介者ノードは、前記複数の買取先の何れにも売却されることなく前記売却期限に達した前記労働債権を非売却労働債権として特定し、前記非売却労働債権に関する情報として無効化情報を前記分散型台帳に記録するのが好ましい。
【0014】
また、前記仲介者ノードは、前記新規労働債権が前記使用者の発行権限内で発行され、且つ、前記新規労働債権に関する情報として購入者情報が記録されていないことを条件として、前記新規労働債権に問題がないと判断するのが好ましい。
【0015】
さらに、前記使用者ノードは、前記売却対象債権が前記使用者によって発行されていることを条件として前記売却対象債権に問題がないと判断し、前記特定の買取先ノードは、前記売却対象債権に関する情報として前記売却承認情報が記録されていることを条件として前記売却対象債権に問題がないと判断するのが好ましい。
【0016】
また、本発明は、ピア・ツー・ピア・ネットワークで接続された複数のノードの各々が同一内容のデータを共有した状態で記録するための分散型台帳を有する労働債権取引システムであって、前記分散型台帳には、労働者の賃金の一部を債権額として使用者に請求可能な労働債権に関する情報が記録され、前記複数のノードは、使用者ノードと労働者ノードと仲介者ノードと複数の買取先ノードと金融機関ノードとを含み、前記労働者ノードは、前記使用者によって承認された勤怠情報に基づいて前記労働者が指定した債権額に相当する新規労働債権の発行申請を使用者ノードに送信し、前記使用者ノードは、前記発行申請に応答して、前記新規労働債権に関する情報を前記分散型台帳に記録すると共に前記新規労働債権の発行通知を前記仲介者ノードに送信し、前記仲介者ノードは、前記発行通知に応答して前記新規労働債権を検証し、前記新規労働債権に問題がないと判断した場合には前記新規労働債権に関する情報として発行承認情報を前記分散型台帳に記録し、前記労働者ノードは、複数の買取先の中から特定の買取先に売却する売却対象債権が前記労働者によって選択されたことに応答して、前記特定の買取先と前記特定の買取先の買取条件に基づく売却額とを前記売却対象債権に関する買取先情報として前記分散型台帳に記録すると共に、前記売却対象債権の売却申請を前記使用者ノードに通知し、前記使用者ノードは、前記売却申請に応答して前記売却対象債権を検証し、前記売却対象債権に問題がないと判断した場合には前記売却対象債権に関する情報として売却承認情報を前記分散型台帳に記録すると共に、前記売却対象債権の売却承認通知を前記特定の買取先に対応する特定の買取先ノードに通知し、前記特定の買取先ノードは、前記売却承認通知に応答して前記売却対象債権を検証し、前記売却対象債権に問題がないと判断した場合には前記売却対象債権に関する情報として買取承認情報を前記分散型台帳に記録すると共に、前記売却対象債権の買取承認通知を前記金融機関ノードに通知し、前記金融機関ノードは、前記売却対象債権に関する情報として前記売却承認情報及び前記買取承認情報が前記分散型台帳に記録されている場合には、前記売却額を前記特定の買取先の口座から前記労働者の口座へ送金する送金処理を実行した後、売却額送金完了情報を前記分散型台帳に記録することを特徴とする労働債権取引システムを提供している。
【0017】
更に、本発明は、ピア・ツー・ピア・ネットワークで接続された複数のノードの各々が同一内容のデータを共有した状態で記録するための分散型台帳を有する労働債権取引システムであって、前記分散型台帳には、労働者の賃金の一部を債権額として使用者に請求可能な労働債権に関する情報が記録され、前記複数のノードは、使用者ノードと労働者ノードと仲介者ノードと買取先ノードとを含み、前記使用者ノードは、前記労働者の勤怠情報に基づいて発行する新規労働債権に関する情報を前記分散型台帳に記録すると共に、前記新規労働債権の発行通知を前記仲介者ノードに送信し、前記仲介者ノードは、前記発行通知に応答して前記新規労働債権を検証し、前記新規労働債権に問題がないと判断した場合には前記新規労働債権に関する情報として発行承認情報を前記分散型台帳に記録し、前記労働者ノードは、前記買取先ノードに対応する買取先と前記買取先の買取条件に基づく売却額とを前記売却対象債権に関する買取先情報として前記分散型台帳に記録すると共に、前記売却対象債権の売却申請を前記使用者ノードに通知し、前記使用者ノードは、前記売却申請に応答して前記売却対象債権を検証し、前記売却対象債権に問題がないと判断した場合には前記売却対象債権に関する情報として売却承認情報を前記分散型台帳に記録すると共に、前記売却対象債権の売却承認通知を前記買取先ノードに通知し、前記買取先ノードは、前記売却承認通知に応答して前記売却対象債権を検証し、前記売却対象債権に問題がないと判断した場合には前記売却対象債権に関する情報として買取承認情報を前記分散型台帳に記録し、前記売却額を前記買取先の口座から前記労働者の口座へ送金する送金処理を実行した後、売却額送金完了情報を前記分散型台帳に記録することを特徴とする労働債権取引システムを提供している。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、分散型台帳技術を利用して、賃金の一部を使用者に請求可能な労働債権が労働者に対して発行される。そのため、労働者が自らの意思で複数の買取先の中から労働債権の売却先を選択して売却することが可能である。端的に言えば、労働者個人が労働債権を主体的に取引することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態による労働債権取引システムの概略構成を示す図。
図2】労働債権に関する債権情報を示す図。
図3】労働債権の発行・消滅に係る処理を示すシーケンス図。
図4】労働債権の売買取引に係る処理を示すシーケンス図。
図5】労働債権買取先への支払に係る処理示すシーケンス図。
図6】労働債権の分割に係る処理を示すシーケンス図。
図7】変形例による売買取引に関する処理を示すシーケンス図。
図8】変形例による労働債権の発行・消滅に関する処理を示すシーケンス図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<1.実施形態>
本発明の実施形態による労働債権取引システム1について図1から図6を参照しながら説明する。
【0021】
図1に示されるように、労働債権取引システム1は、ピア・ツー・ピア(P2P)ネットワークPNによる公知の分散型台帳技術を用いて労働債権に関する情報(図2参照)を共有し、労働債権を取引するためのシステムである。
【0022】
以下では、本発明に係る労働債権の一例としてBillCoinという名称の労働債権を例示する。BillCoinとは、労働者の賃金の一部(具体的には給与支給額の6~7割程度)を使用者に請求可能な債権として使用者(雇用主)が労働者に対して発行する独自の債権である。
【0023】
労働者は、BillCoinを所定条件(債権額の95パーセントで買取等)で特定の買取先に売却することが可能である。これにより、労働者は、買取先に手数料(買取条件が債権額95%の場合、手数料は5%)を支払うことで、給与支給日前に賃金の一部を現金化することが可能である。なお、本システムでは、BillCoinの売却先を複数の買取先の中から選択する構成となっている関係上、労働者は、より良い買取条件を提示する買取先を選択することが可能である。また、複数の買取先が存在することで、市場の原理が働き、労働者にとって有利な買取条件が設定される可能性が高い。
【0024】
なお、BillCoinには買取先への売却期限が設定される。売却期限を過ぎたBillCoinは自動的に消滅し、消滅したBillCoinの債権額は給与支給日に残りの給与と共に支給される。すなわち、労働者は、給与前払いが不要な場合には、BillCoinを売却せずに消滅させ、BillCoinの債権額を給与支給日に満額受け取るといった選択も可能である。
【0025】
BillCoinが売却された場合には、買取先への支払日時が設定されるため、支払日時が到来した時点で買取先は債権額を使用者から受け取ることができる。すなわち、買取先は、BillCoinを買い取ることで、支払日時にBillCoinの債権額を使用者から受け取り、受け取った債権額と労働者に実際に支払った買取額との差額を利益として得ることが可能である。つまり、買取先は、BillCoinによって利ざやを稼ぐことが可能である。
【0026】
また、BillCoinが労働者に対して発行され、当該労働者がBillCoinを特定の買取先に売却可能とすることで、使用者は、給与支給日前に給与前払いのための現金(キャッシュ)を確保しなくて済む。
【0027】
図1に示されるように、労働債権取引システム1は、P2P(ピア・ツー・ピア)ネットワークPNを介して接続される複数のノードとして使用者ノード10、労働者ノード20、仲介者ノード30、複数の買取先ノード40(40A~40C)及び金融機関ノード50を備えて構成される。
【0028】
本実施形態では、労働債権取引システム1は、単一のコンピュータ内で構築されたP2PネットワークPNによって単一のコンピュータで実現されているものとする。より詳細には、単一のコンピュータ内において、個別のIPアドレスが設定された各ノード10,20,30,40,50がAPIノードとして機能するように設計されている。これにより、単一のコンピュータ内において、各ノードは他のノードとの間でP2P通信を行い、各種の処理を適宜実行する。なお、各ノード間で実行される各種承認処理(後述)は、公知のスマートコントラクト技術によって自動的に実行される。
【0029】
なお、ここでは、P2PネットワークPNが単一のコンピュータ内で構築される場合を例示するが、これに限定されず、複数のコンピュータを用いて構築されるようにしてもよい。つまり、P2PネットワークPNによって互いに接続された複数のコンピュータの各々が上述した各ノード10,20,30,40,50として機能するように設計してもよい。
【0030】
使用者ノード10、労働者ノード20、仲介者ノード30、複数の買取先ノード40(40A~40C)及び金融機関ノード50は、分散型台帳に記録されたBillCoinに関する情報を共有する。
【0031】
使用者ノード10は、勤怠データベースDBにアクセス可能に構成されている。勤怠データベースDBには、図示しないタイムレコーダを介して記録される労働者の勤怠情報が蓄積されている。なお、勤怠データベースDBは、労働債権取引システム1が構築されたコンピュータの記憶装置に存在してもよく、当該コンピュータと通信可能な外部の記憶装置に存在してもよい。使用者ノード10は、新規BillCoinの発行等を行うためのノードとして使用者(雇用者)によって予め承認されているものとする。
【0032】
労働者ノード20は、保有するBillCoinの売却等を行うために労働者によって予め承認されているものとする。買取先ノード40は、BillCoinの買取等を行うために買取先によって予め承認されているものとする。金融機関ノード50は、送金処理を実行するためのノードとして金融機関によって予め承認されているものとする。
【0033】
各ノード10,20,30,40,50は、同一内容のデータを共有した状態で記録するための分散型台帳を保持している。各ノード10,20,30,40,50の分散型台帳には、上述したBillCoin情報(図2参照)が記録されている。
【0034】
図2に示すように、BillCoin情報は、「Coin ID」、「Coin発行日時」、「使用者」、「労働者」、「債権額」、「Coin売却期限」を備えている。「Coin ID」にはBillCoinを識別するための識別子が記録される。「Coin発行日時」にはBillCoinを発行した日時が記録される。「使用者」にはBillCoinを発行した使用者に関する情報(使用者を識別する情報等)が記録される。「労働者」にはBillCoinを所有する労働者に関する情報(労働者を識別する情報等)が記録される。「債権額」にはBillCoinの債権額が記録される。「Coin売却期限」にはBillCoinを買取先に売却可能な期限(売却期日等)が記録される。これら6つの情報は、BillCoinの発行時に記録される。
【0035】
また、BillCoin情報は、「買取先」、「売却額」、「支払日時」、「売却額送金完了情報」、「債権額送金完了情報」、「分割申請」、「分割元Coin ID」、「無効」を備えている。「買取先」にはBillCoinの買取先情報(買取先を識別する情報等)が記録される。「売却額」には買取先に売却する際の売却額が記録される。「支払日時」にはBillCoin買取先への支払日時が記録される。「売却額送金完了情報」には売却額の送金が完了したことを示す情報が記録される。「債権額送金完了情報」には債権額の送金が完了したことを示す情報が記録される。「分割申請」にはBillCoinの分割申請に関する情報が記録される。なお、分割申請に関する情報としては、例えば、複数の分割後BillCoinの各債権額等が記録される。「分割元Coin ID」には分割対象BillCoinのCoin IDが記録される。「無効」にはBillCoinを無効化する無効化情報が記録される。これら8つの情報は、BillCoinを売却したり、分割したりした場合にのみ記録される。
【0036】
更に、BillCoin情報は、「発行承認」、「売却承認」、「買取承認」、「使用者分割承認」、「仲介者分割承認」を備えている。「発行承認」には仲介者によるBillCoinの発行承認情報が記録される。「売却承認」には使用者によるBillCoinの売却承認情報が記録される。「買取承認」には買取先によるBillCoinの買取承認情報が記録される。「使用者分割承認」には使用者によるBillCoinの分割承認情報が記録される。「仲介者分割承認」には仲介者によるBillCoinの分割承認情報が記録される。
【0037】
上述のようなBillCoin情報は、新規に発行されるBillCoin毎に記録される。詳細には、公知のブロックチェーン方式を用いて、1つのBillCoin情報を1つのブロックと捉え、BillCoinが発行される度にチェーン状にブロック(BillCoin情報)が追加される。ブロックは、ヘッダとトランザクションとからなる。ヘッダには、そのブロックに関する情報と1つ前のブロックに関する情報とが含まれる。トランザクションには、具体的なBillCoin情報が記録される。
【0038】
続いて、図3に示すシーケンス図を参照しつつ、BillCoinの発行・消滅に伴う処理について詳細に説明する。
【0039】
図3に示されるように、使用者ノード10は、労働者の勤怠情報が記録された勤怠データベースDBを参照し、勤怠情報を承認する(ステップS11)。勤怠情報の承認は、使用者側の担当者が逐次確認して承認するようにしてもよく、あるいは、記録された勤怠情報が正しいものとして自動承認するようにしてもよい。
【0040】
使用者ノード10は、承認した勤怠情報に基づいて新規BillCoinを発行し、新規BillCoinに関する情報を分散型台帳に記録する(ステップS12)。上述したように、BillCoinの発行時点においては、「Coin ID」、「Coin発行日時」、「使用者」、「労働者」、「債権額」及び「Coin売却期限」の6つの情報が自動的に記録される。「債権額」には、所定の算定式により賃金の一部(例えば6~7割)に相当する額が記録される。また、「Coin売却期限」には、使用者が事前に設定した期間(例えば発行から2週間後)が記録される。
【0041】
新規BillCoinに関する情報を記録した後、使用者ノード10は、新規BillCoinの発行通知を仲介者ノード30に送信する(ステップS13)。
【0042】
新規BillCoinの発行通知に応答して、仲介者ノード30は、分散型台帳に記録された新規BillCoinを検証する。新規BillCoinが使用者の発行権限内で発行され、かつ、BillCoin情報の「購入者情報」が記録されていないことを条件として、仲介者ノード30は新規BillCoinに問題がないと判断する。
【0043】
新規BillCoinに問題がないと判断した場合、仲介者ノード30は、仲介者による新規BillCoinの発行承認情報を分散型台帳(詳細にはBillCoin情報の「発行承認」)に記録する(ステップS14)。
【0044】
以上のステップS11~S14の処理により、新規BillCoinが労働者に対して発行され、労働者はBillCoinを所有することになる。
【0045】
上述したように、労働者は、BillCoinを売却期限までに売却し、早期に現金を受け取ることも、売却期限までに売却せずに債権額を残りの給与と共に給与支給日に全額受け取ることも可能である。
【0046】
労働債権取引システム1は、労働者がBillCoinを売却期限までに売却しない場合に図3のステップS15,16の処理を実行する。
【0047】
具体的には、仲介者ノード30は、BillCoin情報を参照し、買取先に売却されることなく売却期限に達したBillCoinを非売却BillCoinとして特定する(ステップS15)。詳細には、仲介者ノード30は、「買取先」に買取先情報が記録されておらず、「Coin売却期限」を過ぎたBillCoinを非売却BillCoinとして特定する。
【0048】
仲介者ノード30は、ステップS15で特定した非売却BillCoinを無効化する「無効化情報」を分散型台帳(詳細にはBillCoin情報の「無効」)に記録する(ステップS16)。
【0049】
以上のステップS15,16の処理により、BillCoinは消滅し、BillCoinの債権額は残りの給与に合算され、通常通り給与支給日に労働者に支給される。
【0050】
続いて、図4のシーケンス図を参照しつつ、労働者がBillCoinを特定の買取先に売却する場合の処理について説明する。
【0051】
まず、労働者ノード20は、労働者の選択操作に応じて、労働者の所有するBillCoinの中から売却対象BillCoinを選択すると共に、複数の買取先40A~40Cの中から売却対象BillCoinの売却先を選択する(ステップS31)。そして、労働者ノード20は、売却対象BillCoinの売却申請を使用者ノード10に通知する(ステップS321)。また、労働者ノード20は、売却対象BillCoinの買取先と当該買取先の買取条件に基づく売却額とを分散型台帳(詳細にはBillCoin情報の「買取先」)に記録する(ステップS322)。ここでは、売却対象BillCoinの売却先として買取先40Aが選択されたものとして説明を進める。
【0052】
労働者ノード20からの売却申請に応答して、使用者ノード10は、売却対象BillCoinを検証する。売却対象BillCoinが使用者によって発行されていることを条件に、使用者ノード10は、売却対象BillCoinに問題がないと判断する。
【0053】
売却対象BillCoinに問題がないと判断した場合、使用者ノード10は、使用者による売却対象BillCoinの売却承認情報を分散型台帳(詳細にはBillCoin情報の「売却承認」)に記録する(ステップS33)。そして、使用者ノード10は、売却対象BillCoinの売却承認通知を買取先ノード40Aに送信する(ステップS34)。
【0054】
使用者ノード10からの売却承認通知に応答して、買取先ノード40Aは、売却対象BillCoinを検証する。買取先ノード40Aは、使用者による売却承認情報が「売却承認」に記録されていることを条件に、売却対象BillCoinに問題がないと判断する。
【0055】
売却対象BillCoinに問題がないと判断した場合、買取先ノード40Aは、買取先による売却対象BillCoinの買取承認情報を分散型台帳(詳細にはBillCoin情報の「買取承認」)に記録する(ステップS35)。そして、買取先ノード40Aは、売却対象BillCoinの買取承認通知を金融機関ノード50に送信する(ステップS36)。
【0056】
金融機関ノード50は、分散型台帳を参照し、売却BillCoinに関する情報として売却承認情報及び買取承認情報が記録されている否かを確認する(ステップS37)。
【0057】
金融機関ノード50は、売却承認情報及び買取承認情報が記録されていると判断した場合には、売却対象BillCoinのBillCoin情報として記録された売却額を買取先の口座から労働者の口座へ送金する送金処理を実行する。送金処理が完了すると、金融機関ノード50は、売却額の送金が完了したことを示す売却額送金完了情報を分散型台帳(詳細にはBillCoin情報の「売却額送金完了情報」)に記録する(ステップS38)。
【0058】
その後、金融機関ノード50は、送金結果(詳細には分散型台帳に売却額送金完了情報を記録したこと)を仲介者ノード30に通知する(ステップS39)。送金結果が通知されたことに応答して、仲介者ノード30は、分散型台帳に記録された売却額送金完了情報を検証し、問題がないと判断した場合には、BillCoinの購入者情報を分散型台帳(詳細にはBillCoin情報の「買取先」)に記録する(ステップS40)。これに伴い、BillCoinの所有権が労働者から特定の買取先に移る。
【0059】
以上のステップS31~S39の処理により、BillCoinが労働者から買取先に売却され、買取先がBillCoinの新たな所有者となる。
【0060】
労働債権取引システム1は、買取先への支払い処理として、図5に示すステップS51~S53の処理を実行する。
【0061】
具体的には、金融機関ノード50は、BillCoin情報(詳細には「支払日時」)を参照し、支払期限に達したBillCoinを支払対象BillCoinとして特定する(ステップS51)。なお、本実施形態では、「支払日時」は、新規BillCoinの発行時に使用者ノード10によって記録されているものとするが、これに限定されず、例えば、売買成立時に仲介者ノード30によって記録されるようにしてもよい。
【0062】
支払対象BillCoinが特定されると、金融機関ノード50は、債権額を使用者の口座から買取先の口座へ送金する送金処理を実行する。
【0063】
送金処理が完了すると、金融機関ノード50は、債権額の送金が完了したことを示す債権額送金完了情報を分散型台帳(詳細にはBillCoin情報の「債権額送金完了情報」)に記録する(ステップS52)。また、金融機関ノード50は、送金完了通知を仲介者ノード30に送信する(ステップS53)。
【0064】
金融機関ノード50から送金完了通知を受信したことに応答して、仲介者ノード30は、支払対象BillCoinを無効化する「無効化情報」を分散型台帳(詳細にはBillCoin情報の「無効」)に記録する(ステップS54)。
【0065】
ところで、労働者が自身の所有するBillCoinの債権額のうち一部を現金化したいというケースも想定される。そこで、労働債権取引システム1では、労働者によって選択された分割対象BillCoinを複数のBillCoinに分割する分割処理が実行可能になっている。
【0066】
以下、図6のシーケンス図を参照しながら、労働者がBillCoinを分割する分割処理について説明する。
【0067】
まず、労働者ノード20は、労働者の選択操作に応じて、労働者の所有するBillCoinの中から分割対象BillCoinを選択する(ステップS71)。
【0068】
次に、労働者ノード20は、分割申請情報を分散型台帳(詳細にはBillCoin情報の「分割申請」)に記録する(ステップS72)。分割申請情報には、分割申請したこと及び分割後BillCoinの債権額が含まれる。
【0069】
この後、労働者ノード20は、分割対象BillCoinの分割申請通知を使用者ノード10に送信する(ステップS73)。
【0070】
労働者ノード20からの分割申請通知に応答して、使用者ノード10は、分割対象BillCoinを検証する。詳細には、使用者ノード10は、分割対象BillCoinが使用者によって発行され、且つ、分割対象BillCoinの債権額と複数の分割後BillCoinの債権額の合計額とが一致することを条件に、分割対象BillCoinに対する分割申請に問題がないと判断する。
【0071】
分割対象BillCoinに対する分割申請に問題がないと判断した場合、使用者ノード10は、使用者による分割対象BillCoinの分割承認情報を分散型台帳(詳細にはBillCoin情報の「使用者分割承認」)に記録する(ステップS74)。また、使用者ノード10は、複数の分割後BillCoinに関する情報を分散型台帳に記録する(ステップS75)。複数の分割後BillCoinに関する情報には、図2に示す「分割元Coin ID」が記録される。そして、使用者ノード10は、BillCoin分割通知を仲介者ノード30に送信する(ステップS76)。
【0072】
使用者ノード10からのBillCoin分割通知に応答して、仲介者ノード30は、複数の分割後BillCoinを検証する。詳細には、仲介者ノード30は、分割対象BillCoinの情報として分割申請情報及び分割承認情報が記録され、かつ、複数の分割後BillCoinが分割申請の内容に沿って発行されていることを条件に、複数の分割後BillCoinに問題がないと判断する。
【0073】
複数の分割後BillCoinに問題がないと判断した場合、仲介者ノード30は、複数の分割後BillCoinに関する情報として分割承認情報を分散型台帳(詳細にはBillCoin情報の「仲介者分割承認」)に記録すると共に、分割対象BillCoinを無効化する「無効化情報」を分散型台帳(詳細にはBillCoin情報の「無効」)に記録する(ステップS77)。
【0074】
以上のステップS71~S77の処理により、労働者が選択した分割対象BillCoinを複数の分割後BillCoinに分割することが可能である。
【0075】
上述した本実施形態によれば、分散型台帳技術を利用して賃金の一部を使用者に請求可能なBillCoinが労働者に対して発行される。そのため、労働者が自らの意思でBillCoinの売却先を複数の買取先の中から選択して売却することが可能である。端的に言えば、労働者個人がBillCoinを主体的に取引することが可能である。
【0076】
<2.変形例>
本発明による労働債権取引システムは上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。
【0077】
例えば、上記実施形態では、BillCoin情報が公知のブロックチェーン方式により記録される場合を例示したが、これに限定されない。P2Pネットワークに接続される複数のノードで同じデータを保持し合う分散型台帳技術を用いるものであれば、他の方式を採用してもよい。
【0078】
また、上記実施形態では、図3に示すように、使用者ノード10が新規BillCoinを発行する(ステップS12)と共に、当該新規BillCoinに関する情報を分散型台帳に記録する(ステップS13)場合を例示したが、これに限定されない。
【0079】
図7に示すように、労働者ノード20が、勤怠情報に基づいて労働者によって指定された債権額に相当する新規BillCoinの発行を使用者ノード10に申請するようにしてもよい(ステップS121)。そして、使用者ノード10が、発行申請された内容に基づいて新規BillCoinに関する情報を分散型台帳に記録するようにしてもよい(ステップS122)。
【0080】
また、上記実施形態では、買取先と金融機関とが異なる場合を例示したが、これに限定されず、両者が同じであってもよい。
【0081】
具体的には、金融機関自体が買取先としてBillCoinを労働者から買い取るようにしてもよい。詳細には、図8に示すように、上記実施形態で金融機関ノード50が行っていた処理(図4のステップS37,S38,S39)を金融機関である買取先ノード40が行うようにすればよい。その場合、図4のステップS36の処理(買取承認通知)は不要であるから、図8においては存在しない。また、図示は省略するが、図5のステップS51,S52,S53の処理についても金融機関である買取先ノード40が行うようにすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上のように本発明にかかる労働債権取引システムは、賃金の一部を債権化した労働債権を取引するのに適している。
【符号の説明】
【0083】
1 労働債権取引システム
10 使用者ノード
20 労働者ノード
30 仲介者ノード
40(40A~40C) 買取先ノード
50 金融機関ノード
DB 勤怠データベース
PN P2Pネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8