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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-27
(45)【発行日】2023-01-11
(54)【発明の名称】医療機器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/22 20060101AFI20221228BHJP
【FI】
A61M1/22 510
A61M1/22 513
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022075623
(22)【出願日】2022-04-30
【審査請求日】2022-06-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度,国立研究開発法人科学技術振興機構,大学発新産業創出プログラム 社会還元加速プログラム(SCORE)大学推進型 「透析患者QOLを劇的に改善するインプラント人工腎臓Azinzoの研究開発」に係る委託研究,産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】大田 能士
(72)【発明者】
【氏名】三木 則尚
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-158814(JP,A)
【文献】国際公開第2019/155895(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/016519(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/127961(WO,A1)
【文献】特表2005-506541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の血液流路層(3)を有する医療機器(1)であって,
前記複数の血液流路層(3)のそれぞれは,
板状本体部(5)と,
前記板状本体部(5)に形成され,血液流路(7)を形成するための溝(9)と,
前記溝(9)の側壁に形成された樹脂層(11)と,を有する,
医療機器であって,
前記樹脂層(11)は,前記溝(9)の側壁の高さ方向の中心部に比べ,最下部と最上部が厚く,厚みがなだらかに変化する形状を有する,医療機器(1)
【請求項2】
請求項1に記載の医療機器(1)であって,
前記血液流路(7)に沿って配置される濾液流路(21)を有する濾液流路層(23)と,
前記血液流路層(3)と前記濾液流路層(23)との間に介在し,前記血液流路(7)を流れる血液を濾過するための濾過膜(31)と,をさらに有する,医療機器。
【請求項3】
請求項1に記載の医療機器(1)であって,インプラント型人工腎臓,携帯型人工腎臓,血液透析器,血液濾過器,又は体外式膜型人工肺である,医療機器。
【請求項4】
血液流路(7)を形成するための溝(9)を有する板状本体部(5)の前記溝(9)に樹脂を塗布する樹脂塗布工程と,
前記板状本体部(5)を,第1の膜(41)及び第2の膜(43)ではさむことにより,前記板状本体部(5),前記第1の膜(41)及び前記第2の膜(43)を結合する結合工程と,
前記結合工程の後に,前記樹脂塗布工程で前記溝(9)に塗布された樹脂を硬化するポスト硬化工程と,
を含む医療機器の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の医療機器の製造方法であって,
前記医療機器は,請求項1~3のいずれかに記載の医療機器である,医療機器の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の医療機器の製造方法であって,
前記樹脂は,光硬化性樹脂であり,前記ポスト硬化工程は,光を前記樹脂に照射することにより,前記樹脂を硬化する工程である,医療機器の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の医療機器の製造方法であって,
前記樹脂塗布工程で前記溝(9)に塗布された樹脂に光を照射することにより,前記樹脂を硬化するプレ硬化工程をさらに含み,
前記結合工程は,前記プレ硬化工程の後の工程であり,
前記プレ硬化工程は,前記ポスト硬化工程の1/100以上1/5以下の期間前記光を照射する工程である,医療機器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,医療機器及びその製造方法に関する。より詳しく説明すると,この発明は,血液流路の壁面を樹脂で覆った医療機器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2020-134150号公報には,マイクロ流路チップが記載されている。特開2017-158814号公報には,血液濾過装置が記載されている。特開2020-22524号公報には,血漿分離装置が記載されている。これらの流路の断面積は,矩形である。このため,流路に血液を流すと血栓ができやすい。また,これらの流路は,基本的には金属を加工して得られたものである。このため,これらの流路は,金属を加工した際の加工むらが生じる場合や,血液と親和性が高くない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-134150号公報
【文献】特開2017-158814号公報
【文献】特開2020-22524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は,血液を流しても血栓ができにくい医療機器やその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題は,基本的には,基板に形成される溝の側壁を樹脂でコーティングすることで,角が丸くなり,血液の流れの阻害を軽減することにより,解決できる。
【0006】
最初の発明は医療機器に関する。この医療機器1は,血液流路層3を有する。血液流路層3は,通常多層である。血液流路層3は,血液が流れる流路を有する層である。そして,それぞれの血液流路層3は,板状本体部5と溝9と樹脂層11と,を有する。樹脂層11は,溝9の側壁に樹脂により形成された要素である。
次の発明は,医療機器の製造方法に関する。この方法は,樹脂塗布工程(S101)と,結合工程(S103)と,ポスト硬化工程(S104)とを含む。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば,血液を流しても血栓ができにくい医療機器やその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は,血液流路層を有する医療機器の例を示す概念図である。図1(a)は,装置の外観例を示す。図1(b)は,血液流路層の例を示す。図1(c)は,血液流路の例を示す。
図2図2は,樹脂層を説明するための概念図である。
図3図3は,血液濾過装置や血液分離装置の層構成を説明するための概念図である。
図4図4は,医療機器の製造段階を説明するための概念図である。図4(a)は,溝を有する板状本体部の断面の例を示す図である。図4(b)は溝に樹脂を塗布した様子を示す概念図である。。図4(c)はプレ硬化工程の例を説明するための図である。図4(d)は,板状本体部を,第1の膜及び第2の膜で挟んだ様子を示す概念図である。図4(e)は,結合工程で得られた板状本体部を,第1の膜及び第2の膜ではんだものに光を照射し,溝に塗布された樹脂を硬化する様子を示す概念図である。図4(f)は,得られた医療機器の部分図を示す概念図である。
図5図5は,溝部分の図面に代わる写真である。図5(a)は,実施例により得られた溝部分の図面に代わる写真である。図5(b)は,樹脂層を設けなかった溝部分の図面に代わる写真である。
図6図6は,実施例により得られた医療機器の外観を示す図面に代わる写真である。
図7図7は,医療機器を用いて血液を濾過した様子を示す図面に代わる写真である。図7(a)は,実施例により得られた医療機器を用いた後に,血液流路層を取り出した様子を示す図面に代わる写真である。図7(b)は,樹脂層を設けなかった医療機器を用いた様子を示す図面に代わる写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0010】
医療機器1
この明細書の最初の発明は,医療機器1に関する。図1は,血液流路層を有する医療機器の例を示す概念図である。この発明は,図1に示される医療機器に限定されない。図1(a)は,装置の外観例を示す。図1(b)は,血液流路層の例を示す。図1(c)は,血液流路の例を示す。図1に示される通り,この医療機器1は,血液流路層3を有する。血液流路層3は,通常多層である。血液流路層3は,血液が流れる流路を有する層である。そして,それぞれの血液流路層3は,板状本体部5と溝9と樹脂層11と,を有する。医療機器1の例は,インプラント型人工腎臓,携帯型人工腎臓,血液透析器,血液濾過器,及び体外式膜型人工肺である。血液濾過器には,持続的血液濾過透析器も含む。樹脂層11以外の構成は,特開2017-158814号公報や特開2020-22524号公報に記載されたものを適宜用いることができる。
【0011】
血液濾過装置1の例は,正六角形の外形形状を有する本体部を備えている。本体部は,複数の板状部材を積層して形成された積層構造を有している。そして,本体部の積層方向一方側の面に,血液入口と血液出口と濾液出口が設けられている。血液入口は,本体部内に血液を流入させ,血液出口は,本体部内の血液を流出させる。そして,濾液出口は,本体部内で濾過されて血液から取り出された濾液を排出する。血液入口と血液出口と濾液出口5,それぞれチューブを接続可能なコネクタ形状となっている。
【0012】
血液流路層は,血液が流れる血液流路7を備える。濾液流路層は,濾液が流れる濾液流路を備えている。本体部では,血液流路層と濾液流路層は,間に濾過膜を介して血液流路と濾液流路とが対向する位置に配置されており,血液が血液流路を流れる過程において濾過膜によって濾過されて,血中の有害物質と余分な水分を含む血漿が濾液流路に流れこみ,濾液として濾液出口から排出される。
【0013】
血液流路層3
血液流路層3は,一般的には平板状であり,板状本体部5に溝9を有し,この溝9が血液流路となる。医療機器は,通常,複数の血液流路層を有する。積層数の例は,1層以上120層以下であり,2層以上60層以下でもよいし,5層以上30層以下でも,5層以上20層以下でもよい。一方,たとえばヒト(特に成人)など体重が20kg以上100kg以下の場合,積層数の例は,1層以上300層以下であり,1層以上240層以下でもよいし,1層以上120層以下でも,2層以上60層以下でもよい。
【0014】
板状本体部5
板状本体部5は,例えば,チタンやステンレス鋼などの金属製材料のもの,プラスチックなどの合成樹脂製材料のもの,あるいはシリコンやガラスなどのセラミックス材料のものを用いることができる。
【0015】
溝9は,板状本体部5に形成され,血液流路7を形成するための要素である。
流路の幅は,0.01mm以上1cm以下が好ましく,0.1mm以上5mm以下でもよく,0.5mm以上4mm以下でもよい。流路の厚さは,装置の厚さや,積層の数に応じて適宜調整されるが,流路の厚さが厚すぎると,血流速度が高まりすぎ,流路の厚さが薄すぎると,血流が滞るほか,不純物が堆積し流路が閉塞するリスクが高くなる。このような観点から,流路の厚さは,0.01mm以上1cm以下が好ましく,0.05mm以上5mm以下でもよく,0.1mm以上3mm以下でもよい。
【0016】
樹脂層11
樹脂層11は,溝9の側壁に樹脂により形成された要素である。医療機器は,溝9の側壁に形成された樹脂層11を有するので,溝が露出し,溝と血液と接する事態を防止/軽減できる。図2は,樹脂層を説明するための概念図である。樹脂層11は,少なくとも溝の角領域12に存在し,溝の形を滑らかにすることが好ましい。このため,この発明の医療機器は,血液接触面の表面粗さについて,溝の加工粗さに依存せずに粗さを低減させることが可能となる。また,樹脂層11は,溝の側壁を覆ったものであることが好ましい。樹脂層11は,溝の全体(両側壁,及び上下(左右)の壁)を覆ってもよい。換言すれば,血液流路を構成する壁のすべてが樹脂層により覆われていてもよい。この医療機器は,板状本体部5が血液と接触しないので,板状本体部5の材質について選択の幅を広げることができる。図2に示されるように,樹脂層11は,溝9の側壁の高さ方向の中心部18に比べ,最下部14と最上部16が厚く,厚みがなだらかに変化する形状を有するものが好ましい。このような形状であれば,血液流路7の断面が円形や楕円形に近づくので,血液の流れがスムーズになり,血栓ができる事態を効果的に防止できる。なお,高さ方向,最下部及び最上部という呼び名は,樹脂層を説明するための便宜上のものであり,最下部を下方にして医療機器を用いる必要はない。この形状は,後述する医療機器の製造方法に従い,樹脂の表面張力を利用することで形成できる。
【0017】
図3は,血液濾過装置や血液分離装置の層構成を説明するための概念図である。図3に示される通り,この医療機器は,濾液流路層23と濾過膜31とをさらに有する。
【0018】
濾液流路層23
濾液流路層23は,血液流路7に沿って配置される濾液流路21を有する層を意味する。
【0019】
濾過膜31
濾過膜31は,血液流路層3と濾液流路層23との間に介在し,血液流路7を流れる血液を濾過するための膜である。濾過膜は,血液を濾過して有害物質と余分な水分を取り除くものであり,ナノスケールの孔を多く有するポリマー膜により構成されており,本実施例では,PES(ポリエーテルスルホン)膜が用いられている。PES膜は,ナノスケールの孔により,分子量の小さい血中成分のみを選択的に濾過することができ,血液から有害物質と余分な水分を取り出すことができる。
【0020】
医療機器の製造方法
この方法は,樹脂塗布工程(S101)と,結合工程(S103)と,ポスト硬化工程(S104)とを含む。樹脂塗布工程(S101)と,結合工程(S103)の間,又は結合工程(S103)と,ポスト硬化工程(S104)との間に,プレ硬化工程(S102)を含んでもよい。図4は,医療機器の製造段階を説明するための概念図である。
【0021】
樹脂塗布工程(S101)
樹脂塗布工程(S101)は,血液流路7を形成するための溝9を有する板状本体部5の溝9に樹脂を塗布するための工程である。樹脂の例は,熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂である。図4(a)は,溝を有する板状本体部の断面の例を示す図である。図4(a)に示される溝9を有する板状本体部5は,例えば特開2017-158814号公報や特開2020-22524号公報に記載された方法を用いて適宜準備できる。溝9に樹脂10を塗布する方法は,公知である。塗布の方法は,浸漬塗布,及びスプレー塗布である。図4(b)は溝に樹脂を塗布した様子を示す概念図である。この図では,基板本体部5に樹脂が接着している。浸漬塗布は,樹脂の中に,板状本体部を浸漬すればよい。板状本体部を完全に浸漬させた後に,板状本体部を樹脂から取り出し,余剰な樹脂を溝から除去すればよい。板状本体部を樹脂に浸漬させる条件(環境,板状本体部の向き及び浸漬速度など)や,浸漬時間,板状本体部を樹脂から取り出す際の条件,及び余剰な樹脂を取り除く方法は,適宜調整すればよい。
【0022】
プレ硬化工程(S102)
プレ硬化工程(S102)は,樹脂塗布工程で溝9に塗布された樹脂を硬化するための任意の工程である。この工程では,樹脂を完全に硬化させるのではなく,樹脂の流動性が無くなる程度に樹脂を硬化させればよい。プレ硬化工程を行わなくてもよい。図4(c)はプレ硬化工程の例を説明するための図である。樹脂が,光硬化性樹脂の場合,図4(c)に示されるように,光(hv)を樹脂に照射することにより,樹脂を硬化できる。光の照射時間は,用いた光硬化性樹脂や光照射機に応じて適宜調整すればよい。光の照射時間の例は,1秒以上20秒以下であり,2秒以上15秒以下でもよい。樹脂が熱硬化性樹脂の場合,樹脂を加熱することで,樹脂を硬化できる。プレ硬化工程(S102)は樹脂を完全に硬化させる必要はない。樹脂が光硬化性樹脂の場合であって,プレ硬化工程とポスト硬化工程とにおいて同じ強度の光を用いる場合,例えば,プレ硬化工程は,ポスト硬化工程の1/100以上1/5以下の期間だけ光を照射すればよい。本体部5を膜41,42で挟む前に,プレ硬化工程で,樹脂を前もって少し硬化させておいて,本体部5を膜41,42で挟んだ後に,ポスト硬化工程で,膜41,42に塗布された樹脂を硬化することができる。
【0023】
結合工程(S103)
結合工程(S103)は,板状本体部5を,第1の膜41及び第2の膜43ではさむことにより,板状本体部5,第1の膜41及び第2の膜43を結合するための工程である。図4(d)は,板状本体部を,第1の膜及び第2の膜で挟んだ様子を示す概念図である。第1の膜41及び第2の膜43の例は,濾過膜31や透析膜である。膜41,43は,水分を含んでおり,乾燥していないことが好ましい。膜41,43が乾燥していると,毛細管現象により膜内部のポアに樹脂が侵入し,ポアが閉塞することが考えられる。このため,膜41,43に水分を付与する工程を含むことは,結合工程の好ましい例である。膜41,43に水分を付与するためには,膜41,43を水につけてもよいし,スプレー等により膜41,43に水を塗布してもよい。膜41,43は,可撓性があるので,例えば,膜41,43を基板に固定した後に,膜41,43を板状本体部に結合させてもよい。例えば,ポリエーテルスルホン(PES)膜は,ナノポア(緻密層)とマイクロポア(支持層)から構成される非対称膜である。このように緻密層と支持層とを有する膜の場合,緻密層が板状本体部5側になるようにすることが好ましい。
板状本体部5を,第1の膜41及び第2の膜43で挟んだのち,静置することが好ましい。この際に,板状本体部5を,第1の膜41及び第2の膜43で挟んだものを加圧すると,板状本体部5に存在する樹脂が流路や膜のポアに侵入することが考えられる。
【0024】
ポスト硬化工程(S104)
ポスト硬化工程(S104)は,結合工程の後に,樹脂塗布工程で溝9に塗布された樹脂を硬化するための工程である。樹脂が,光硬化性樹脂の場合,光を樹脂に照射することにより,樹脂を硬化できる。図4(e)は,結合工程で得られた板状本体部を,第1の膜及び第2の膜ではんだものに光(hv)を照射し,溝に塗布された樹脂を硬化する様子を示す概念図である。樹脂が熱硬化性樹脂の場合,樹脂を加熱することで,樹脂を硬化できる。光の照射時間は,用いた光硬化性樹脂や光照射機に応じて適宜調整すればよい。光の照射時間の例は,30秒以上10分以下であり,1分以上5分以下でもよい。図4(f)は,得られた医療機器の部分図を示す概念図である。
【0025】
医療機器が血液流路層と濾液流路層とを有する場合,血液流路層を製作した後に,濾液流路層を製作することが好ましい。一方,濾液流路層を先に製作した後に,血液流路層を製作しても構わない。血液流路層については,接着剤中の気泡の有無が流路の表面状態に大きく関係するため,セット確認後に光透過もしくは超音波で気泡の有無をチェックすることが好ましい。濾液流路層を血液流路層より先に製作した場合は,このチェックをしにくくなる。このような観点から,医療機器が血液流路層と濾液流路層とを有する場合,濾液流路層よりも血液流路層を先に製造することが好ましい。濾液流路層の濾液流路は,血液が流れる流路ではないので,流路に樹脂層を形成しなくても構わない。また,血液流路層と濾液流路層とは,例えば接着シートを用いて接着してもよい。
【実施例
【0026】
以下のようにして,医療機器を製造した。各工程は全てClass10,0000以上の陽圧クリーンルーム内,もしくはクリーンベンチ内で実施した。無菌操作で行ってもよいし,最終滅菌を施してもよい。特に,医療機器を大量生産する場合は,各工程の順序が大きく変わってもよい。
【0027】
工程1
レーザー加工機を用いて300μmのPMMA板(キャスト)から血液流路ベース及び濾液流路ベースの切り出しを行った。レーザーとPMMA板の距離は5mm,出力設定はPower:20.00ワット/Speed:0.3 インチ/秒/PPI:30,000 Hzであった。
【0028】
工程2
ガラスシャーレに紫外線硬化樹脂(Henkel社製紫外線硬化型接着剤LOCTITE4304(主成分:光硬化型エチルシアノアクリレート))を十分に滴下し,接着剤プールを準備した。
【0029】
工程3
水中で保管される透析膜(ポリエーテルスルホン製:100×10×0.1mm)の表面の水分を除去し,ガラス板(100×100mm)上にある水分の表面張力を利用して,透析膜をガラス板に固定した。これを2セット用意した。
この時,透析膜を完全に乾燥させると,最終製品の膜強度が劣化するため,表面の余剰水分のみを除去した。
透析膜が乾燥している場合,毛細管現象により膜内部のポアを接着液が伝い,ポアが完全に閉塞されことが考えられるため,十分に注意した。
ポリエーテルスルホン(PES)膜はナノポア(緻密層)とマイクロポア(支持層)から構成される非対称膜なので,ガラス板上ではナノポアが表になるようにした。
【0030】
工程4
ピンセットで,血液流路ベースを接着剤プール内に浸漬した。
【0031】
工程5
血液流路ベースが接着剤プールに完全に浸漬された後に,血液流路ベースを取り出し,重力を利用して(必要に応じてヘラ等を用いて),余剰な接着剤を除去した。
【0032】
工程6
紫外線露光機(14±4W/m)で,接着剤をプレ硬化させた。プレ硬化時間は10秒以内とした。なお,プレ硬化は無くても実際は製作可能であった。
【0033】
工程7
プレ硬化後の血液流路ベースを,工程3で準備したPES膜でガラス板ごとボンディングした。この際,重力のみでボンディングし,加圧(プレス)処理をしなかった。プレス処理すると,接着剤が流路内に大きく侵入し,流路幅を狭めると考えられる。
【0034】
工程8
ボンディングされた血液流路ベースとPES膜を紫外線露光機(14±4W/m)で120秒以上照射し,ポスト硬化させた。
【0035】
工程9
乾燥によるダメージを防ぐために,血液流路セット(PES膜-血液流路層-PES膜)を水中で保管した。
【0036】
工程10
最終的な積層は「PES膜-血液流路層-PES膜-濾液流路層-PES膜-血液流路層・・・・」の交互配置とした。工程4と同様に濾液流路ベースを接着剤プールに浸漬し,濾液流路ベースを取り出して余剰な接着剤を除去した。なお,濾液流路は血液と接触しないため,紫外線硬化型接着剤を使用した流路製作方法でなくてもよい。
【0037】
工程11
取り出した濾液流路ベースを血液流路セットとボンディングし,紫外線露光機(14±4W/m)で240秒以上照射し,硬化させた。
【0038】
工程12
工程11で製作された「PES膜-血液流路層-PES膜-濾液流路層-PES膜-血液流路層-PES膜」と血液流路セットで,プール浸漬後の濾液流路ベースをボンディングした。
【0039】
工程13
工程10~工程12を繰り返し,積層流路を形成した。
【0040】
工程14
各流路ベースのサポート部分を除去した。
【0041】
上記のようにして得た医療機器の溝部分を撮影した。得られた画像を図5に示す。図5(a)は,実施例により得られた溝部分の図面に代わる写真である。図5(b)は,樹脂層を設けなかった溝部分の図面に代わる写真である。図5(b)に示される通り,樹脂層を設けないと,溝部分が矩形であり,この部分に血栓が生ずる。一方,図5(a)に示されるように,樹脂層を設けると角が丸くなる。この結果樹脂層を設けることで,血栓が生ずる事態を軽減できると考えられる。
【0042】
図6は,得られた医療機器の外観を示す図面に代わる写真である。この医療機器(血液濾過装置)を用いて血液を濾過した。その結果を図7に示す。図7(a)は,実施例により得られた医療機器を用いた後に,血液流路層を取り出した様子を示す図面に代わる写真である。図7(b)は,樹脂層を設けなかった医療機器を用いた様子を示す図面に代わる写真である。図7(b)に示されるように,樹脂層を設けない場合,血栓が発生している。一方,図7(a)に示されるように,樹脂層を設けることで,血液流路層に血栓が発生しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
この発明は医療機器の分野で利用されうる。
【符号の説明】
【0044】
1 医療機器
3 血液流路層
5 板状本体部
7 血液流路
9 溝
11 樹脂層
21 濾液流路
23 濾液流路層
31 濾過膜
41 第1の膜
43 第2の膜
【要約】      (修正有)
【課題】血液を流しても血栓ができにくい医療機器やその製造方法を提供する。
【解決手段】複数の血液流路層3を有する医療機器1であって,複数の血液流路層3は,板状本体部5と,血液流路7を形成するための溝9と,溝9の側壁に形成された樹脂層11とを有する医療機器であって,その製造方法は、血液流路7を形成するための溝9を有する板状本体部5の溝9に樹脂を塗布する樹脂塗布工程と,板状本体部5を,第1の膜及び第2の膜ではさむことにより,板状本体部5,第1の膜及び第2の膜を結合する結合工程と,結合工程の後に,樹脂塗布工程で溝9に塗布された樹脂を硬化するポスト硬化工程と,を含む。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7