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特許7202110シール材用ゴム組成物およびこれを用いたシール材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-27
(45)【発行日】2023-01-11
(54)【発明の名称】シール材用ゴム組成物およびこれを用いたシール材
(51)【国際特許分類】
   C08L 15/02 20060101AFI20221228BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20221228BHJP
   C08L 27/16 20060101ALI20221228BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20221228BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
C08L15/02
C08K3/04
C08L27/16
C08L27/18
F16J15/10 Y
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018168056
(22)【出願日】2018-09-07
(65)【公開番号】P2020041028
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】株式会社バルカー
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】圖師 浩文
(72)【発明者】
【氏名】上田 彰
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 憲
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-510182(JP,A)
【文献】特公昭59-022740(JP,B2)
【文献】特開2010-031151(JP,A)
【文献】特開2008-223780(JP,A)
【文献】特開2015-174879(JP,A)
【文献】特開昭63-251442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,F16J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分とカーボンブラックとを含むシール材用ゴム組成物であって、
前記カーボンブラックの粒度分布は多峰性であり、
前記ゴム成分は、テトラフルオロエチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-プロピレンゴム、ニトリルゴム、水素添加ニトリルゴム、ブチルゴムおよびシリコーンゴムからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記カーボンブラックは、算術平均粒子径が5nm以上100nm未満である小粒径カーボンブラックと、算術平均粒子径が100nm以上500nm以下である大粒径カーボンブラックとを含み、
前記小粒径カーボンブラックと前記大粒径カーボンブラックの質量比率は、10:1以上1:1未満であり、
タルクおよびカーボンナノファイバーを含まない、シール材用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム成分100質量部に対して前記カーボンブラックを25質量部以上200質量部以下含む、請求項1に記載のシール材用ゴム組成物。
【請求項3】
前記カーボンブラックは、少なくとも2種のカーボンブラックの混合物である、請求項1または2に記載のシール材用ゴム組成物。
【請求項4】
前記カーボンブラックは、最大の算術平均粒子径の1/2以下の算術平均粒子径を有する少なくとも1種のカーボンブラックを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のシール材用ゴム組成物。
【請求項5】
前記カーボンブラックは、最大の算術平均粒子径と最小の算術平均粒子径との差が20nm以上450nm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のシール材用ゴム組成物。
【請求項6】
前記カーボンブラックは、MTと、MAFおよびHAFからなる群より選ばれる少なくとも1つとを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のシール材用ゴム組成物。
【請求項7】
前記ゴム成分は、テトラフルオロエチレン-プロピレンゴムを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のシール材用ゴム組成物。
【請求項8】
前記ゴム成分はテトラフルオロエチレン-プロピレンゴムを含み、
前記カーボンブラックはMT、MAFおよびHAFを含み、
前記ゴム成分100質量部に対してMTを5質量部以上10質量部以下、およびMAFとHAFとの総量を20質量部以上30質量部以下含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のシール材用ゴム組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のゴム組成物の架橋物からなるシール材。
【請求項10】
JIS K6253-3:2012に準拠して測定した硬度が95以下である、請求項9に記載のシール材。
【請求項11】
Oリングである、請求項9または10に記載のシール材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール材用ゴム組成物およびこれを用いたシール材に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックはゴムの補強材として古くから用いられている。非特許文献1(国沢新太郎「カーボンブラックの新しい使用方法」、日本ゴム協会誌 1958年31巻9号p.749-754)には、粒子の大きさや表面性質が異なる複数のカーボンブラックを組み合わせてゴム組成物に配合することで、加工性の改善、費用の減少、カーボンブラックの特性の付与が可能となることなどが記載されている。しかし、複数のカーボンブラックの組み合わせについての具体的な検討は、十分に行われていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】国沢新太郎「カーボンブラックの新しい使用方法」、日本ゴム協会誌 1958年31巻9号p.749-754
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粒子径が小さく、比表面積が大きいカーボンブラックやシリカなどの補強剤は、補強効果が高く、常温での機械的強度(引張強度)を上昇させるとともに硬度を上昇させる。しかし、強度を上げるために比表面積が大きい補強材をゴム組成物に多く配合すると、架橋して得られたシール材の硬度が高くなりすぎる傾向がある。このため、適当な硬度を有するシール材を得るためには、比表面積が大きい補強材は少量しか充填することができないことがある。補強材の含有量が多いほど高温時の引張強度は高くなるため、補強材を少量しか充填できないシール材は、高温での十分な機械的強度を得ることができなかった。
【0005】
一方、粒子径が大きく、比表面積が小さい補強材をゴム組成物に充填させた場合、硬度が上がりにくいために充填量を増やすことができ、高温での機械的強度を上昇させることができる。しかし、比表面積が小さい補強材を充填したシール材は、常温での機械的強度に劣る。また、補強材を多量に充填させると反発力(永久圧縮歪率)も低下する。このようなシール材は、固定部での使用は可能であっても、高温高圧下のような厳しい環境下における駆動部(運動部)での使用には適さない。
【0006】
本発明の目的は、常温での機械的強度と高温での機械的強度とを両立させ、かつ良好な反発力を保持したシール材用ゴム組成物、およびこれを架橋してなるシール材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のものを含む。
〔1〕ゴム成分とカーボンブラックとを含むシール材用ゴム組成物であって、
カーボンブラックの粒度分布は多峰性である、シール材用ゴム組成物。
【0008】
〔2〕ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを25質量部以上200質量部以下含む、〔1〕に記載のシール材用ゴム組成物。
【0009】
〔3〕カーボンブラックは、少なくとも2種のカーボンブラックの混合物である、〔1〕または〔2〕に記載のシール材用ゴム組成物。
【0010】
〔4〕カーボンブラックは、最大の算術平均粒子径の1/2以下の算術平均粒子径を有する少なくとも1種のカーボンブラックを含む、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のシール材用ゴム組成物。
【0011】
〔5〕カーボンブラックは、最大の算術平均粒子径と最小の算術平均粒子径との差が20nm以上450nm以下である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のシール材用ゴム組成物。
【0012】
〔6〕カーボンブラックは、算術平均粒子径が5nm以上100nm未満である小粒径カーボンブラックと、算術平均粒子径が100nm以上500nm以下である大粒径カーボンブラックとを含む、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のシール材用ゴム組成物。
【0013】
〔7〕小粒径カーボンブラックと大粒径カーボンブラックの質量比率は、10:1~1:3である、〔6〕に記載のシール材用ゴム組成物。
【0014】
〔8〕カーボンブラックは、MTと、MAFおよびHAFからなる群より選ばれる少なくとも1つとを含む、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のシール材用ゴム組成物。
【0015】
〔9〕ゴム成分は、フッ化ビニリデン系ゴム、テトラフルオロエチレン-プロピレンゴム及びパーフルオロエラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のシール材用ゴム組成物。
【0016】
〔10〕ゴム成分はテトラフルオロエチレン-プロピレンゴムを含み、
カーボンブラックはMT、MAFおよびHAFを含み、
ゴム成分100質量部に対してMTを5質量部以上10質量部以下、およびMAFとHAFとの総量を20質量部以上30質量部以下含む、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のシール材用ゴム組成物。
【0017】
〔11〕〔1〕~〔10〕のいずれかに記載のゴム組成物の架橋物からなるシール材。
【0018】
〔12〕JIS K6253-3:2012に準拠して測定した硬度が95以下である、〔11〕に記載のシール材。
【0019】
〔13〕Oリングである、〔11〕または〔12〕に記載のシール材。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、常温での機械的強度と高温での機械的強度とを両立させ、かつ良好な反発力を保持したシール材用ゴム組成物、およびこれを架橋してなるシール材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のシール材用ゴム組成物は、〔A〕ゴム成分と〔B〕カーボンブラックとを含む。以下、本発明のシール材用ゴム組成物が含有する各成分および任意で含有される成分について詳細に説明する。
【0022】
〔A〕ゴム成分
ゴム成分としては、例えばフッ素ゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、ニトリルゴム(NBR;アクリロニトリルブタジエンゴム)、水素添加ニトリルゴム(HNBR;水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム)、ブチルゴム(IIR)、シリコーンゴム(Q)等を用いることができる。耐熱性の観点からは、フッ素ゴムが好ましい。また、本発明に用いられるゴム成分としては、JIS K6300-1に準拠して測定される100℃におけるムーニー粘度〔ML(1+4)100℃〕が比較的高く、例えば50以上100以下であるゴム成分が適している。例えばフッ素ゴムのようにムーニー粘度が高いゴム成分の場合、硬度の問題でムーニー粘度が低いゴム成分よりも少量の補強材しか充填できないという問題が生じやすいためである。ゴム成分は1種のみからなっていてもよいし、2種以上を含んでいてもよい。
【0023】
フッ素ゴムとしては、例えばフッ化ビニリデン系フッ素ゴム(FKM)、テトラフルオロエチレン-プロピレンゴム(FEPM)、パーフルオロエラストマー(テトラフルオロエチレン-パーフルオロメチルビニルエーテルゴム、FFKM)等が挙げられる。ゴム成分としては、好ましくはFKM、FEPMおよびFFKMからなる群より選ばれる少なくとも1つを含み、より好ましくはFEPMを含む。
【0024】
FKMはビニリデンフルオライドを主成分とし、例えばビニリデンフルオライド(VDF)-クロロトリフルオロエチレン系重合体、ビニリデンフルオライド(VDF)-ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系重合体、ビニリデンフルオライド(VDF)-ヘキサフルオロプロピレン(HFP)-テトラフルオロエチレン(TFE)系重合体、ビニリデンフルオライド(VDF)-プロピレン(Pr)-テトラフルオロエチレン(TFE)系重合体、ビニリデンフルオライド(VDF)-テトラフルオロエチレン(TFE)-パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)系重合体、ビニリデンフルオライド(VDF)-パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)系重合体が挙げられる。FKMの市販品としては、例えばケマーズ株式会社製の「Viton」、ダイキン工業株式会社製の「ダイエルG」が挙げられる。
【0025】
FEPMは、テトラフルオロエチレン(TFE)とプロピレン(Pr)との交互共重合体をベースとするフッ素ゴムである。FEPMの市販品としては、例えばAGC株式会社製の「AFLAS」が挙げられる。
【0026】
FFKMは、テトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)との共重合体のフッ素ゴムである。FFKMの市販品としては、例えばデュポン社製の「Kalrez」が挙げられる。
【0027】
〔B〕カーボンブラック
本発明に係るシール材用ゴム組成物に含まれるカーボンブラックの粒度分布は多峰性である。カーボンブラックの粒度分布が多峰性であるとき、比表面積が大きいカーボンブラックでもシール材用ゴム組成物に高充填することができ、常温下だけでなく、高温下でも機械的強度を上昇させることができる。カーボンブラックの粒度分布は、好ましくは二峰性または三峰性である。ここで、粒度分布は次のようにして把握することができる。まず、電子顕微鏡を用いてカーボンブラックの粒子を適切な倍率で撮影する。得られた画像から100個以上(例えば100個以上2000個以下)の粒子を無作為に選択し、その一次粒子径を測定する。横軸に粒子径、縦軸に粒子の個数をとり、カーボンブラックの粒度分布を表すことができる。また、一般的なレーザー回析式粒度分布測定装置により粒度分布を求めることもできる。
【0028】
カーボンブラックの粒度分布において、最小の極大粒子径と最大の極大粒子径との比率は、好ましくは1:20~1:2であり、より好ましくは1:15~1:3である。また、カーボンブラックの粒度分布において、好ましくは最大の極大粒子径と最小の極大粒子径との差が20nm以上450nm以下であり、より好ましくは50nm以上400nm以下である。カーボンブラックは、好ましくはカーボンブラックの粒度分布において、5nm以上100nm未満に極大値を有するカーボンブラックと、100nm以上500nm以下に極大値を有するカーボンブラックとを含む。
【0029】
シール材用ゴム組成物は、好ましくはゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを25質量部以上200質量部以下含み、より好ましくは30質量部以上100質量部以下含む。カーボンブラックの配合量が少なすぎると架橋物の十分な機械的強度が得られず、配合量が多すぎると架橋物の硬度が高くなりすぎる可能性がある。
【0030】
カーボンブラックは、導電性でも非導電性でもよく、その製法によりファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック、ランプブラック等に分類される。カーボンブラックは、好ましくはファーネスブラックを含む。
【0031】
カーボンブラックのヨウ素吸着量は、好ましくは25g/kg以上250g/kg以下である。カーボンブラックのヨウ素吸着量は、K 6217-1:2008に記載の方法により測定することができる。
【0032】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは20m/g以上160m/g以下である。窒素吸着比表面積は、JIS K6217-2:2001に記載の方法により測定することができる。
【0033】
カーボンブラックのジブチルフタレート(DBP)吸収量は、好ましくは70ml/100g以上160ml/100g以下である。ジブチルフタレート(DBP)吸収量は、JIS K6217-4:2008に記載の方法により測定することができる。
【0034】
カーボンブラックは、好ましくは少なくとも2種のカーボンブラックの混合物であり、より好ましくは2種または3種のカーボンブラックの混合物である。
【0035】
カーボンブラックは、算術平均粒子径が異なる少なくとも2種のカーボンブラックを含むことが好ましい。カーボンブラックは、好ましくは最大の算術平均粒子径の1/2以下、より好ましくは1/20以上1/3以下の算術平均粒子径を有する少なくとも1種のカーボンブラックを含む。ここで算術平均粒子径とは、電子顕微鏡により撮影し、得られた画像から無作為に選択したカーボンブラックの一次粒子径を測定し、それらを算術平均した値をいう。
【0036】
また、カーボンブラックは、好ましくは最大の算術平均粒子径と最小の算術平均粒子径との差が20nm以上450nm以下であり、より好ましくは50nm以上400nm以下である。算術平均粒子径が異なるカーボンブラックを併用すると、算術平均粒子径が大きいカーボンブラックの隙間に算術平均粒子径が小さいカーボンブラックが入り込んでカーボンブラックが分散され、シール材の硬度の上昇を抑えながらカーボンブラックを高充填することができる。これにより、シール材にクラックが入ってもカーボンブラックの存在によりクラックが止まり、常温での引張強度と高温での引張強度をより向上させることができる。
【0037】
カーボンブラックは、好ましくは算術平均粒子径が5nm以上100nm未満である小粒径カーボンブラックと、算術平均粒子径が100nm以上500nm以下である大粒径カーボンブラックとを含む。小粒径カーボンブラックは、比表面積が大きく、例えばヨウ素吸着量が40mg/gより高く、補強性が高い。小粒径カーボンブラックの算術平均粒子径は、15nm以上60nm以下であってもよい。大粒径カーボンブラックは、比表面積が小さく、補強性が低い。補強性の異なるカーボンブラックを併用させることで、カーボンブラックをより高充填することが可能となり、常温下だけでなく高温下での引張強度を上昇させることができる。このとき、耐熱性の指標の1つである圧縮永久歪率も良好な値を示し、シール材に要求される反発力も保持することができる。また、シール材用ゴム組成物中のゴム成分の比率が低下するため、製造コストを削減できるとともに蒸気への暴露時、および薬液または油中への浸漬時のシール材の膨潤を抑制することができる。また、カーボンブラックの充填率が増加したことにより、ロール加工性が改善し、作業効率を向上させることができる。
【0038】
カーボンブラックとしては、各製造会社によって異なる場合があるものの、例えばSAF(N110、平均粒子径:19nm、N2SA:139m2/g、DBP吸収量:113ml/100g)、SAF-HS(平均粒子径:19nm、N2SA:142m2/g、DBP吸収量:130ml/100g)、ISAF-LS(N219、平均粒子径:23nm、NSA:106m/g、DBP吸収量:75ml/100g)、ISAF(N220、平均粒子径:23nm、N2SA:115m2/g、DBP吸収量:113ml/100g)、N234(平均粒子径:19nm、N2SA:124m2/g、DBP吸収量:125ml/100g)、IISAF-HS(N285、平均粒子径:26nm、NSA:99m/g、DBP吸収量:129ml/100g)、HAF-LS(N326、平均粒子径:28nm、NSA:84m/g、DBP吸収量:75ml/100g)、LI-HAF(平均粒子径:29nm、N2SA:74m2/g、DBP吸収量:103ml/100g)、HAF(N330、平均粒子径:28nm、N2SA:77m2/g、DBP吸収量:101ml/100g)、N339(平均粒子径:26nm、N2SA:83m2/g、DBP吸収量:128ml/100g)、HAF-HS(N347、平均粒子径:28nm、NSA:82m/g、DBP吸収量:126ml/100g)、N351(平均粒子径:29nm、N2SA:74m2/g、DBP吸収量:127ml/100g)、MAF(平均粒子径:38nm、NSA:49m/g、DBP吸収量:133ml/100g)、FEF(N550、平均粒子径:43nm、N2SA:42m2/g、DBP吸収量:115ml/100g)、GPF(N660、平均粒子径:62nm、N2SA:27m2/g、DBP吸収量:87ml/100g)、SRF(N774、平均粒子径:66nm、N2SA:27m2/g、DBP吸収量:68ml/100g)、FT(N880、平均粒子径:122nm、N2SA:19m2/g、DBP吸収量:42ml/100g)、MT(N990、平均粒子径:250nm~480nm、N2SA:12m2/g、DBP吸収量:41ml/100g)等が挙げられる。
【0039】
小粒径カーボンブラックとしては、SAFグレードからSRFグレードのカーボンブラックが挙げられ、1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。大粒径カーボンブラックはFTグレードまたはMTグレードのカーボンブラックが挙げられ、1種または2種を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
カーボンブラックは、好ましくはMTと、MAFおよびHAFからなる群より選ばれる少なくとも1つとを含む。MTカーボンの市販品としては、新日化カーボン株式会社製の「HTC#20」、Cancarb Limited社製の「Thermax」等が挙げられる。MAFカーボンの市販品としては、東海カーボン株式会社製の「シースト116」、旭カーボン株式会社製の「旭60H」等が挙げられる。HAFカーボンの市販品としては、三菱化学株式会社製の「ダイアブラックH」、東海カーボン株式会社製の「シースト3」等が挙げられる。
【0041】
小粒径カーボンブラックの算術平均粒子径と大粒径カーボンブラックの算術平均粒子径との比率は、好ましくは1:20~1:2であり、より好ましくは1:15~1:3である。
【0042】
小粒径カーボンブラックと大粒径カーボンブラックの質量比率は、要求される硬度および機械的強度により適宜調節可能であるが、好ましくは10:1~1:3であり、より好ましくは6:1~1:1である。
【0043】
シール材用ゴム組成物は、好ましくはゴム成分100質量部に対して小粒径カーボンブラックを0質量部以上100質量部以下含み、大粒径カーボンブラックを0質量部以上100質量部以下含む。
【0044】
本発明に係るシール材用ゴム組成物の好ましい一形態としては、ゴム成分とカーボンブラックとを含むシール材用ゴム組成物であって、ゴム成分はテトラフルオロエチレン-プロピレンゴムを含み、カーボンブラックはMT、MAFおよびHAFを含み、ゴム成分100質量部に対してMTを5質量部以上10質量部以下、およびMAFとHAFとの総量を20質量部以上30質量部以下含むシール材用ゴム組成物が挙げられる。
【0045】
〔架橋剤〕
ゴム成分の架橋系は特に制限されず、例えばFKMおよびFEPMであればパーオキサイド架橋系、ポリアミン架橋系、ポリオール架橋系が、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)であればパーオキサイド架橋系、硫黄架橋系、キノイド架橋系、樹脂架橋系が、パーフルオロエラストマー(FFKM)であればパーオキサイド架橋系、ビスフェノール架橋系、トリアジン架橋系、オキサゾール架橋系、イミダゾール架橋系、チアゾール架橋系が挙げられる。ゴム成分は、いずれか1種の架橋系で架橋されてもよいし、2種以上の架橋系で架橋されてもよい。
【0046】
パーオキサイド架橋系で用いるパーオキサイド架橋剤(ラジカル重合開始剤)は、例えば2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン(市販品の例:日油株式会社製「パーヘキサ25B」);ジクミルペルオキシド(市販品の例:日油株式会社製「パークミルD」);2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド;ジ-t-ブチルパーオキサイド;t-ブチルジクミルパーオキサイド;ベンゾイルペルオキシド(市販品の例:日油株式会社製「ナイパーB」);2,5-ジメチル-2,5-(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3(市販品の例:日油株式会社製「パーヘキシン25B」);2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン;α,α’-ビス(t-ブチルペルオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン(市販品の例:日油株式会社製「パーブチルP」);t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート;パラクロロベンゾイルパーオキサイド等であることができる。パーオキサイド架橋剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
シール材用ゴム組成物における架橋剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、通常0.1質量部以上10質量部以下であり、好ましくは0.5質量部以上5.0質量部以下である。この範囲内であれば、架橋反応を十分に進行させることができるため、硬度、機械的強度および反発力に優れたシール材を得ることが可能である。
【0048】
〔共架橋剤〕
パーオキサイド架橋系で用いる共架橋剤としては、トリアリルイソシアヌレート(市販品の例:日本化成株式会社製「TAIC」);トリアリルシアヌレート;トリアリルホルマール;トリアリルトリメリテート;N,N’-m-フェニレンビスマレイミド;ジプロパギルテレフタレート;ジアリルフタレート;テトラアリルテレフタルアミド等のラジカルによる共架橋が可能な化合物(多官能性モノマー)を挙げることができる。共架橋剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、反応性や得られる架橋ゴム成形体の耐熱性の観点から、共架橋剤はトリアリルイソシアヌレートを含むことが好ましい。
【0049】
シール材用ゴム組成物における共架橋剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であり、より好ましくは2質量部以上10質量部以下である。共架橋剤の含有量が少なすぎると、シール材の100%引張応力が低下する虞があり、多すぎると切断時伸びが低下する虞がある。
【0050】
〔その他の含有成分〕
本発明のシール材用ゴム組成物は、必要に応じて、上述の成分以外の他の成分を含有することができる。他の含有成分としては、例えば、カーボンブラック以外のフィラー(体質顔料および着色顔料を含む)、老化防止剤、酸化防止剤、加工助剤、安定剤、粘着付与剤、多価アルコール、可塑剤、難燃剤、ワックス類、滑剤等の添加剤を挙げることができる。添加剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0051】
シール材用ゴム組成物が上記の添加剤を含有する場合、その含有量は当該分野において通常用いられる量であってよい。
【0052】
フィラーの具体例は、アルミナ、酸化亜鉛、二酸化チタン、クレー、タルク、珪藻土、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、マイカ、グラファイト、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、ハイドロタルサイト、粒状または粉末状樹脂、金属粉、ガラス粉、セラミックス粉等を含む。
【0053】
老化防止剤の具体例は、フェノール誘導体、芳香族アミン誘導体、アミン-ケトン縮合物、ベンズイミダゾール誘導体、ジチオカルバミン酸誘導体、チオウレア誘導体等を含む。
【0054】
加硫促進剤の具体例は、チウラム系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸塩系の化合物等を含む。
【0055】
加工助剤の具体例は、熱可塑性樹脂、液状ゴム、オイル、可塑剤、軟化剤、内部離型剤、粘着付与剤を含み、例えばステアリン酸、酸化亜鉛が挙げられる。ゴム成分がFKM、FEPMまたはFFKMを含む場合、充填剤としてフッ素樹脂またはその粒子を含有してもよく、加工助剤として液状フッ素ゴムを含有してもよい。ゴム成分がEPMまたはEPDMを含む場合、加工助剤として、例えばパラフィン系オイルを含有することができる。
【0056】
内部離型剤の具体例は、例えば高級脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、炭化水素樹脂等を含む。
【0057】
多価アルコールの具体例は、例えばジエチレングリコールを含む。
【0058】
可塑剤の具体例は、狭義の可塑剤(フタル酸エステル系、アジピン酸エステル系、脂肪族二塩基酸エステル系、リン酸エステル系、クエン酸エステル系、トリメリット系可塑剤等)の他、オイル(ナフテン系プロセスオイル、パラフィン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、植物油、エポキシ化植物油等)も含む。
【0059】
本発明のゴム組成物は、上述の含有成分を均一に混練りすることにより調製できる。混練り機としては、例えばミキシングロール、加圧ニーダー、インターナルミキサー(バンバリーミキサー)等の従来公知のものを用いることができる。この際、各配合成分のうち、架橋反応に寄与する成分(架橋促進剤、架橋遅延剤、架橋剤等)を除く成分を先に均一に混練しておき、その後、架橋反応に寄与する成分を混練するようにしてもよい。混練り温度は、例えば常温付近が好ましい。
【0060】
<シール材>
本発明のシール材は、上述の本発明に係るシール材用ゴム組成物の架橋物からなる。シール材は、シール材用ゴム組成物を架橋(加硫)・成形することにより作製することができる。架橋・成形方法は、インジェクション成形、圧縮成形、移送成形等の従来公知の方法を採用することができる。
【0061】
成形時における加熱温度(架橋温度)は、例えば120~220℃程度であり、加熱時間(架橋時間)は、例えば0.5~120分程度である。加硫成形後、必要に応じて、120~280℃程度の温度で二次架橋を行ってもよい。二次架橋時間は、例えば0.5~24時間程度である。
【0062】
シール材は、パッキンやガスケット等であってもよい。シール材の形状はその用途に応じて適宜選択され、その代表例は、断面形状がO型であるOリングである。
【0063】
本発明に係るシール材は、適切な硬度を保持していることが好ましく、例えばJIS K6253-3:2012に準拠して測定した硬度が95以下であることが好ましい。硬度が大きすぎると、特に駆動部でシール性が低下する虞がある。本発明に係るシール材は、常温および高温での機械的強度に優れ、反発性も保持しているため、特に高温高圧下での駆動部に好適に使用することができる。
【実施例
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0065】
[シール部材用ゴム組成物の調製およびシール部材の作製]
<実施例1>
次の手順に従って、シール部材用ゴム組成物を調製した。表1に示される配合組成に従って(表1における配合量の単位は質量部である。)、10Lニーダーによりゴム成分、3種のカーボンブラック、加工助剤、架橋剤及び共架橋剤の所定量を混練した。得られた混練物に対し、170℃、10分の条件で熱架橋を施し(第1架橋工程)、次いで、230℃、16時間熱架橋して(第2架橋工程)、成形品を得た。
【0066】
<実施例2>
3種のカーボンブラックの配合量を表1に従って変化させた以外は、実施例1と同様にしてシール材を得た。
【0067】
<実施例3>
カーボンブラックとして、表1に記載の2種のカーボンブラックを用いた以外は、実施例1と同様にしてシール材を得た。
【0068】
<実施例4>
実施例1とは異なる架橋剤を用い、また共架橋剤の量およびカーボンブラックの配合を表1に従って変化させた以外は、実施例1と同様にしてシール材を得た。
【0069】
<比較例1~3>
表1に示す1種のカーボンブラックを配合した以外は、実施例1と同様にしてシール材を得た。
【0070】
【表1】
【0071】
表1中の配合物の詳細は次の通りである。
〔1〕ゴム成分:AFLAS600S(AGC株式会社製、テトラフルオロエチレン-プロピレンゴム)
〔2〕加工助剤:ステアリン酸ナトリウム(米山薬品工業株式会社)
〔3〕カーボンブラック1:MTカーボン(Thermax N990 ULTRA-PURE、算術平均粒子径250-350nm、N2SA:9m2/g、Cancarb Limited製)
〔4〕カーボンブラック2:MAFカーボン(シースト116、算術平均粒子径38nm、NSA:49m/g、DBP吸収量:133ml/100g、東海カーボン株式会社製)
〔5〕カーボンブラック3:HAFカーボン(ダイアブラックH、平均粒径28-36nm、N2SA:79m2/g、DBP吸油量:105cm3/100g、三菱化学株式会社製)
〔6〕共架橋剤:TAIC(トリアリルイソシアヌレート、日本化成社製)
〔7〕架橋剤:パーブチルP(1,3-ビス(t-ブチルパーオキシ-イソプロピル)ベンゼン、日油株式会社製)
〔8〕架橋剤:パーヘキサ25B(2,5-ジメチル-2,5-ジ-t-ブチル-パーオキシヘキサン、日油株式会社製)
【0072】
[成形品の状態物性評価]
JIS K6250:2006に従い、2mmの厚さに作製したシート状成形品から、JIS K6251:2010に従い、ダンベル状3号型試験片を型抜きした。この試験片を、500mm/分で引張し、引張強度、切断時伸び、100%モジュラスをショッパー式引張試験機を用いて測定した。また、JIS K6253-3:2012に従い、タイプAデューロメータ硬さ試験機にてシート状成形品の硬度を測定した。これらの試験はすべて25℃で行った。
【0073】
[熱間強度]
ダンベル状3号型試験片を200℃雰囲気下に20分以上放置した後、200℃雰囲気下で上記と同様にして引張試験を行い、熱間強度を測定した。
【0074】
[圧縮永久歪率]
圧縮永久歪率はJIS K 6262:2013に準拠して行った。スペーサーを用いて圧縮率25%となるようにJIS大型試験片(直径29mm、厚さ12.7mm)を挟み込み、200℃環境下で72時間保持した。試験片の圧縮を解放し、試験室の標準温度で30分間放冷した後に、試験片の厚さを測定した。圧縮永久歪率(Compression Set、CS)は下記式:
圧縮永久歪率(%)={(h0-h1)/(h0-h2)}×100
に基づいて算出した。h0は試験前の試験片の厚さ(mm)、h1は30分間放冷後の試験片の厚さ(mm)、h2はスペーサ-の厚み(高さ)(mm)である。
【0075】
[ロール加工性]
ニーダーを用いて、シール材用ゴム組成物の混練を行う際、ロールへの粘着が見られなかったものを「○」、ロールへの粘着が見られたものを「△」と評価した。
【0076】
評価結果を表1に示す。実施例1~3の成形品は、常温での引張強度が高く、熱間強度も高い値を示したことから、常温および高温での機械的強度に優れていることがわかる。また、永久圧縮歪率も小さく、反発力も保持していた。従って、算術平均粒子径が異なる少なくとも2種のカーボンブラックを混合し、粒度分布が多峰性を示すカーボンブラックを含むシール材用組成物を架橋すると、常温での機械的強度と高温での機械的強度とを両立させ、かつ反発力を保持した成形品が得られることがわかった。実施例4の成形品は、用いた架橋剤が異なるが、引張強度、熱間強度及び圧縮永久歪が良好であった。また、実施例1~4は全てロール加工性が良好であった。
【0077】
これに対し、比較例1~3の成形品は、引張強度、熱間強度および圧縮永久歪率のいずれか1つ以上が劣っていた。また、比較例1と比較例3については、ロール加工性が良好ではなかった。