(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-27
(45)【発行日】2023-01-11
(54)【発明の名称】マスターバッチ
(51)【国際特許分類】
C08J 3/22 20060101AFI20221228BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20221228BHJP
C08L 25/08 20060101ALI20221228BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20221228BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20221228BHJP
D01F 1/10 20060101ALI20221228BHJP
D01F 6/46 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
C08J3/22 CER
C08J3/22 CEZ
C08L21/00
C08L25/08
C08K5/13
C08L101/00
D01F1/10
D01F6/46 B
(21)【出願番号】P 2018173831
(22)【出願日】2018-09-18
【審査請求日】2021-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】小松 利豪
(72)【発明者】
【氏名】土谷 美緒
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-265677(JP,A)
【文献】特開昭63-139937(JP,A)
【文献】特開2002-322377(JP,A)
【文献】特開2018-172347(JP,A)
【文献】特開2018-111683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J3/00-3/28、99/00、C08K3/00-13/08、
C08L1/00-101/14、A01N1/00-65/48、
A01P1/00-23/00、
D01F1/00-6/96、9/00-9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂100質量部、および熱可塑性樹脂100質量部に対して式(1)
【化1】
(式中、R
1は水素原子またはアルカリ金属、R
2は炭素原子数1~10のアルキル基またはアリール基を示す)
で表される化合物20質量部超~200質量部を含有するマスターバッチであって、
該熱可塑性樹脂は熱可塑性エラストマー10~100質量%を含有し、熱可塑性エラストマーは、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、および塩ビ系熱可塑性エラストマーからなる群から選択される1種以上である、マスターバッチ。
【請求項2】
式(1)で表される化合物の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して
20質量部超ないし70質量部以下である、請求項1に記載のマスターバッチ。
【請求項3】
熱可塑性樹脂は、熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性樹脂として、ポリプロピレンおよびポリエチレンからなる群から選択される1種以上の樹脂またはその共重合樹脂を含有する、請求項1または2に記載のマスターバッチ。
【請求項4】
熱可塑性エラストマーはスチレン系熱可塑性エラストマーである、請求項1~3のいずれかに記載のマスターバッチ。
【請求項5】
式(1)で表される化合物は、4-ヒドロキシ安息香酸メチル、4-ヒドロキシ安息香酸エチル、4-ヒドロキシ安息香酸プロピル、4-ヒドロキシ安息香酸ブチル、4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルおよび4-ヒドロキシ安息香酸ベンジルからなる群から選択される1種以上である、請求項1~4のいずれかに記載のマスターバッチ。
【請求項6】
式(1)で表される化合物は4-ヒドロキシ安息香酸ブチルまたは4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルである、請求項1~5のいずれかに記載のマスターバッチ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のマスターバッチとベース樹脂を含有する樹脂組成物から構成される成形品、中空成形体、フィルム、シートまたは繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラベン類を含有するマスターバッチに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機能性を備えた樹脂からなる加工製品が増加しており、特に、抗菌機能を備えた樹脂からなる抗菌加工製品が一般家庭においても広く使用されている。樹脂に抗菌機能を付加させる手段としては、樹脂表面に抗菌剤を含有する塗料を塗付する方法や、樹脂中に抗菌剤を混在させる方法等が知られている。
【0003】
このような用途に用いられる抗菌剤としては、抗菌機能が高く安全性の高い銀系抗菌剤や亜鉛系抗菌剤等の無機系抗菌剤が使用されている(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
しかし、無機系抗菌剤を樹脂に混在させる場合、抗菌剤は無機物固体であるため、熱可塑性樹脂のような有機物中での分散性に劣る。そこで、従来の樹脂中への混練手段としては、製品素材の樹脂と同一の樹脂に、一旦抗菌剤を高濃度で混在させ、粒状に形成した抗菌マスターバッチを形成し、製品成形時の樹脂素材中に前記の抗菌マスターバッチを所定量混合する方法が提案されている。しかしながら、抗菌マスターバッチを用いた場合においても、無機系抗菌剤の分散性が必ずしも十分であるといえず、また、光による無機系抗菌剤の変色や白濁、あるいは樹脂自体の物性の低下を招く等の問題があった。
【0005】
一方、有機系抗菌剤は、無機系抗菌剤と比較して種々の樹脂との相溶性が高いものが多く、樹脂との混練や均一な分散が容易であるといった利点があり、例えば、第四級アンモニウム塩とパラオキシ安息香酸エステル類系化合物を含有することを特徴とする抗菌性樹脂組成物が提案されている(特許文献3)。しかしながら、高濃度の有機系抗菌剤を樹脂に含有させる場合、溶融混練が困難であったり、溶融混練できたとしても抗菌剤がブリードアウトしてしまう等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-047884号公報
【文献】特開2015-105252号公報
【文献】特開平10-237317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、溶融混練が容易であり、かつ、高濃度のパラベン類を含有し得るマスターバッチを提供することにある。また、本発明の別の目的は、抗菌機能が高く、安全性の高いマスターバッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記の問題を見出すと共にその解決に取り組んだ結果、バインダー樹脂として特定の熱可塑性樹脂を用いることにより、溶融混練が容易で、かつ、高濃度のパラベン類を含有することが可能なマスターバッチが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂100質量部、および熱可塑性樹脂100質量部に対して式(1)で表される化合物1~200質量部を含有するマスターバッチであって、該熱可塑性樹脂は熱可塑性エラストマー10~100質量%を含有するマスターバッチに関する。
【化1】
(式中、R
1は水素原子またはアルカリ金属、R
2は炭素原子数1~10のアルキル基またはアリール基を示す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明のマスターバッチは、溶融混練が容易であり、また、高濃度のパラベン類を含有し得るため、少量の使用であっても、抗菌性等の機能を十分発現させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のマスターバッチに用いられる熱可塑性樹脂は、熱可塑性エラストマーを10~100質量%含有するものであり、15~100質量%含有するのがより好ましく、20~100質量%含有するのがさらに好ましく、25~100質量%含有するのが特に好ましい。熱可塑性エラストマーを上記範囲で含有することにより、マスターバッチ中に式(1)で表される化合物を高濃度で含有させることが可能である。ここで、本発明のマスターバッチに用いられる熱可塑性樹脂が熱可塑性エラストマーを100質量%含有するとは、熱可塑性樹脂として熱可塑性エラストマーを単独で用いることを意味する。
【0012】
本発明の一実施形態では、マスターバッチに用いられる熱可塑性樹脂は熱可塑性エラストマーを95質量%以下含有するものであり、また本発明の更なる別の実施形態では、マスターバッチに用いられる熱可塑性樹脂は熱可塑性エラストマーを90質量%以下含有するものであり、また本発明の更なる別の実施形態では、マスターバッチに用いられる熱可塑性樹脂は熱可塑性エラストマーを80質量%以下含有するものである。
【0013】
本発明に使用する熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、塩ビ系熱可塑性エラストマーからなる群から選択される1種以上が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を任意に組み合わせて用いてよい。中でも式(1)で表される化合物(パラベン類とも称する)との相溶性に優れる点で、スチレン系熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0014】
本発明のマスターバッチに用いられる、熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリオキシメチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン共重合樹脂(AS樹脂)およびポリエステルからなる群から選択される1種以上の樹脂またはその共重合樹脂が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を任意に組み合わせて用いてよい。
【0015】
式(1)で表される化合物において、R1は、好ましくは水素原子、ナトリウムまたはカリウムであり、より好ましくは水素原子である。
【0016】
式(1)で表される化合物において、R2は、好ましくは炭素原子数1~6のアルキル基またはアリール基であり、より好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基またはベンジル基であり、さらに好ましくはブチル基またはヘキシル基である。
【0017】
本発明に使用する式(1)で表される化合物の具体例としては、4-ヒドロキシ安息香酸メチル、4-ヒドロキシ安息香酸エチル、4-ヒドロキシ安息香酸プロピル、4-ヒドロキシ安息香酸ブチル、4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルおよび4-ヒドロキシ安息香酸ベンジルからなる群から選択される1種以上が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を任意に組み合わせて用いてよい。抗菌性が高く、難昇華性であることから4-ヒドロキシ安息香酸ブチルおよび4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルが好ましい。
【0018】
式(1)で表される化合物を得る方法は特に限定されないが、市販されているものでもよく、あるいは、触媒の存在下、4-ヒドロキシ安息香酸と炭素原子数1~10の脂肪族アルコールまたはアリールアルコールとの反応によって得られたものを用いてもよい。
【0019】
本発明のマスターバッチは、熱可塑性樹脂100質量部に対して式(1)で表される化合物1~200質量部を含有する。好適には、その含有量は熱可塑性樹脂100質量部に対し、5質量部超ないし170質量部以下であることが好ましく、10質量部超ないし150質量部以下であることがより好ましく、20質量部超ないし125質量部であることがさらに好ましく、30質量部超ないし100質量部以下であることが特に好ましい。
【0020】
熱可塑性樹脂100質量部に対する式(1)で表される化合物の含有量が少ないと、抗菌性などの機能性が発揮されず、マスターバッチとしての使用が困難になる傾向がある。一方、熱可塑性樹脂100質量部に対する式(1)で表される化合物の含有量が多いと、マスターバッチが脆くなってペレット等の形態とすることが困難となったり、樹脂としての強度等の物性が低下する傾向があり、または式(1)で表される化合物がペレット中で凝集するおそれや、保存中にブリードアウトするおそれがある。
【0021】
本発明のマスターバッチは抗菌機能の他、抗カビ、防藻およびダニ等に対する防虫機能を有する。
【0022】
本発明のマスターバッチは、熱可塑性樹脂および式(1)で表される化合物以外に、添加剤を含有していてもよく、添加剤としては、着色剤、難燃剤、熱安定剤、可塑剤、光安定剤(紫外線吸収剤等)、帯電防止剤、分散剤、離型剤等の各種添加剤、繊維状強化剤等の強化剤、および粉末増量剤等の充填剤からなる群から選択される一種以上が挙げられる。
【0023】
本発明のマスターバッチの形状としては、特に限定されるものではなく、例えば、角柱状、球状、円柱状等のペレットとすることができる。ペレットの大きさとしては、角柱状の場合は最大辺の長さが1~20mmであることが好ましく、球状の場合は粒子径が1~20mmであることが好ましく、円柱状の場合は直径が1.5~5mm、高さが1.5~5mmであることが好ましい。ペレットの大きさが上記範囲内にあると、取扱性が向上し、ペレットの包装作業等が容易になる。また、上記ペレットは平均粒子径が0.1~1mmである微粒子からなるパウダーとして用いることもできる。パウダーは、例えばペレットを公知の微粉砕機を用いて粉砕することによって得ることができる。
【0024】
本発明のマスターバッチの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、式(1)で表される化合物と熱可塑性樹脂とを含有させた樹脂組成物を押出成形によりシート状に成形し、この得られたシート状成形物をカッター等により適度な大きさに切断してペレットに加工する方法等を用いることができる。
【0025】
本発明のマスターバッチを構成する樹脂組成物(以下、樹脂組成物1と称する)は、適宜、熱可塑性エラストマー、熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性樹脂および式(1)で表される化合物を混合することによって製造することができる。混合は、これらの各成分を溶融混合させることによって行ってもよい。
【0026】
熱可塑性エラストマーおよび任意に熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性樹脂と、式(1)で表される化合物とを溶融混合する場合、例えばタンブラーブレンダー、ヘンシェルミキサー又はスーパーミキサーのような混合機で各成分を予め均一に混合した後、単軸押出機や二軸ないし多軸押出機で溶融混練し、押出されたストランドをカッター等で切断して造粒する方法や、ニーダーやバンバリーミキサー等で溶融混練した後に押出機を用いて造粒する方法等が挙げられる。
【0027】
溶融混練時の加熱条件は、用いる熱可塑性エラストマー、熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性樹脂、式(1)で表される化合物、添加剤の種類や配合量、或いは用いる混合機の条件等によっても相違するので、一概には規定できないが、用いる熱可塑性樹脂の結晶融解温度以上、熱可塑性樹脂および当該化合物の劣化温度未満の温度で1~600秒間加熱することが望ましい。
【0028】
本発明のマスターバッチは、さらに式(1)で表される化合物を含有しないベース樹脂に配合され(以下、得られた混合物を樹脂組成物2と称する)、得られた混合物から、もしくは得られた混合物からなるペレットから、成形品、中空成形体、フィルム、シートおよび繊維製品等へ成形される。
【0029】
ベース樹脂としては、マスターバッチに含有される熱可塑性樹脂と同一の樹脂であってもよく、異なった樹脂でもよく、とりわけマスターバッチに含有される熱可塑性樹脂と相溶性の高い樹脂であることが好ましい。
【0030】
マスターバッチのベース樹脂への配合量は、マスターバッチ中の式(1)で表される化合物の種類およびその量に応じて適宜設定することが可能であり、マスターバッチの量に対して例えば2倍~40倍の量のベース樹脂を用いて希釈することが望ましい。上記範囲よりもマスターバッチ量が少ない場合には、成形体に十分な抗菌性能を付与することができないことがあり、一方、上記範囲よりもマスターバッチ量が多い場合には、樹脂組成物2の成形性が十分でないことがある。
【0031】
マスターバッチをベース樹脂に配合してなる樹脂組成物(樹脂組成物2)を、二本ロール法、射出成形、押出成形、圧縮成形等の従来公知の溶融成形に付することにより、最終成形品の用途に応じた形状、例えば成形品、中空成形体、フィルム、シートおよび繊維製品等の抗菌性成形体を得ることができる。
【0032】
尚、本発明における抗菌活性値はJIS Z 2801:2010に準拠して測定したものである。
【0033】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
実施例および比較例に用いた各種抗菌剤および樹脂、ならびに各測定方法を以下に示す。
抗菌剤A:4-ヒドロキシ安息香酸ブチルエステル(上野製薬(株)製)
抗菌剤B:4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルエステル(上野製薬(株)製)
熱可塑性エラストマー:水素添加スチレン系熱可塑性エラストマー「セプトン(登録商標)2002」((株)クラレ製)
熱可塑性樹脂A:高密度ポリエチレン「サンテック(登録商標)J-311」(旭化成(株)製)
熱可塑性樹脂B:低密度ポリエチレン「スミカセン(登録商標)G401」(住友化学(株)製)
熱可塑性樹脂C:ポリプロピレン「プライムポリプロ(登録商標)J105G」((株)プライムポリマー製)
【0035】
(測定方法)
(1)抗菌性試験
試験方法:JIS Z 2801:2010
試験菌株:大腸菌 Escherichia coli NIHJ-JC2
試験菌株:黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureus NBRC12732
【0036】
実施例において得られた樹脂成形体の表面に、大腸菌および黄色ブドウ球菌をそれぞれ含む菌液を滴下し、その上からポリエチレン製フィルムを密着させ、温度35℃、湿度90%の条件下で24時間培養した。培養後、ポリエチレン製フィルムおよび試験片に付着している菌体をSCDLP培地で洗いだした液(VmL)を1mL取り、希釈(D倍希釈)した液1mLをシャーレに移して、SPC培地約20mLを加え、混合した。培地が固まった後、温度35℃、湿度90%の条件下で40~48時間培養した後、大腸菌および黄色ブドウ球菌の生菌数をそれぞれカウントした。
評価の基準は、マスターバッチを配合せずに熱可塑性樹脂Cから得たポリプロピレン製樹脂成形体(以下、無加工樹脂成形体ともいう)を用いた。試験はそれぞれ3回行い、平均値を算出した。
【0037】
抗菌試験の評価は以下の方法により算出した。
N=(C×D×V)/A
N:生菌数(試験片1cm2あたり)
C:集落数(採用した2枚のシャーレ内の集落数の平均値)
D:希釈倍数(採用したシャーレに分注した希釈液の希釈倍率)
V:洗い出しに用いたSCDLP培地の液量(mL)
A:被覆フィルムの表面積(cm2)
ただし、Cが<1の場合はCを1として生菌数を算出した。
【0038】
例えば、V=10mL、A=16cm2、D=1の場合、N<0.63と表示する。
R=(Ut-U0)-(At-U0)=Ut-At
R :抗菌活性値
U0:無加工樹脂成形体の接種直後の生菌数の対数値の平均値
Ut:無加工樹脂成形体の接種から24時間後の生菌数の対数値の平均値
At:実施例および比較例において得られた抗菌剤を含む樹脂成形体の24時間後の生菌数の対数値の平均値
【0039】
抗菌活性評価:下記の基準に従い評価した。
抗菌活性値Rが3.0以上 :◎
抗菌活性値Rが2.0以上3.0未満:○
抗菌活性値Rが1.5以上2.0未満:△
抗菌活性値Rが1.5未満 :×
【0040】
(2)マスターバッチ中の抗菌剤濃度の測定
200mL三角フラスコにマスターバッチ5gとキシレン60gを加え100℃まで加熱し、目視でマスターバッチが溶解するのを確認した。その後、混合物を室温まで冷却したのち、メタノールを30g加えて樹脂を析出させ、減圧濾過を行い抗菌剤の溶解した濾液を回収した。
回収した濾液について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を下記条件で測定し、マスターバッチ中の抗菌剤の濃度を算出した。
[高速液体クロマトグラフィー(HPLC)]
装置:Waters アライアンス 2487/2996
カラム型番: L-Column
液量:1.0mL/分
溶媒比:H2O(pH2.3)/CH3OH=50/50(4分)→32/68(7分)→5/95(17分)、グラジエント分析
波長:229nm/254nm
カラム温度:40℃
【0041】
[実施例1]
(マスターバッチの作製)
熱可塑性エラストマー100質量部と抗菌剤A32質量部を混合し、二軸押出機(株式会社池貝製PCM-30)を用いて180℃で溶融混練してマスターバッチを調製。得られたマスターバッチ中の抗菌剤の濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0042】
(樹脂成形体の作製)
得られたマスターバッチを、マスターバッチが全樹脂組成物(樹脂組成物2)100質量部に対してそれぞれ5質量部、10質量部、20質量部となるように熱可塑性樹脂C(ベース樹脂)と混合したのち、射出成型機(日精樹脂工業株式会社製UH1000-110)を用いて縦×横×高さがそれぞれ50mm×90mm×0.8mmのカラープレート(樹脂成形体)を得た。得られた樹脂成形体について、抗菌性試験を行った。結果を表1に示す。
【0043】
[実施例2~7]
マスターバッチの各種材料の混合比を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてマスターバッチを調製し、得られたマスターバッチ中の抗菌剤の濃度を測定した。結果を表1に示す。
また、それぞれのマスターバッチを用いて、実施例1と同様にして各樹脂成形体を得た。得られた各樹脂成形体について、抗菌性試験を行った。結果を表1に示す。
【0044】
[比較例1~6]
マスターバッチの作製に用いた各種材料の混合比を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてマスターバッチを得た。得られたマスターバッチ中の抗菌剤の濃度を測定した。結果を表2に示す。尚、二軸押出機による溶融混練時に、抗菌剤が樹脂と混ざらず二軸押出機内に多く残存する様子、または抗菌剤のみが系外に噴出される様子が確認された。
得られたそれぞれのマスターバッチについて、実施例1と同様にして樹脂成形体を得た。得られた各樹脂成形体について、抗菌性試験を行った。結果を表2に示す。
【0045】
実施例1~7の結果が示す通り、本発明に従い熱可塑性エラストマーを含有する熱可塑性樹脂で作製したマスターバッチによると、抗菌剤がマスターバッチ中に十分な濃度で存在することが確認され、その結果、そのマスターバッチを用いて作製した樹脂成形体は十分な抗菌活性を示した。一方、比較例1~6の結果が示す通り、本発明に従わず熱可塑性エラストマーを含有しない熱可塑性樹脂で作製したマスターバッチは、マスターバッチ中の抗菌剤の含有量が少なく、その結果、そのマスターバッチを用いて作製した樹脂成形体は十分な抗菌活性を示さないものが多かった。
【0046】
【0047】
【表2】
本発明の好ましい態様は以下を包含する。
〔1〕熱可塑性樹脂100質量部、および熱可塑性樹脂100質量部に対して式(1)
[化1]
(式中、R
1
は水素原子またはアルカリ金属、R
2
は炭素原子数1~10のアルキル基またはアリール基を示す)
で表される化合物1~200質量部を含有するマスターバッチであって、
該熱可塑性樹脂は熱可塑性エラストマー10~100質量%を含有する、マスターバッチ。
〔2〕式(1)で表される化合物の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して20質量部超ないし70質量部以下である、〔1〕に記載のマスターバッチ。
〔3〕熱可塑性エラストマーは、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、塩ビ系熱可塑性エラストマーからなる群から選択される1種以上である、〔1〕または〔2〕に記載のマスターバッチ。
〔4〕熱可塑性エラストマーはスチレン系熱可塑性エラストマーである、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のマスターバッチ。
〔5〕式(1)で表される化合物は、4-ヒドロキシ安息香酸メチル、4-ヒドロキシ安息香酸エチル、4-ヒドロキシ安息香酸プロピル、4-ヒドロキシ安息香酸ブチル、4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルおよび4-ヒドロキシ安息香酸ベンジルからなる群から選択される1種以上である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のマスターバッチ。
〔6〕式(1)で表される化合物は4-ヒドロキシ安息香酸ブチルまたは4-ヒドロキシ安息香酸ヘキシルである、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のマスターバッチ。
〔7〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のマスターバッチとベース樹脂を含有する樹脂組成物から構成される成形品、中空成形体、フィルム、シートまたは繊維製品。