(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-27
(45)【発行日】2023-01-11
(54)【発明の名称】親綱設置方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/32 20060101AFI20221228BHJP
E04D 15/00 20060101ALI20221228BHJP
A62B 35/00 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
E04G21/32 D
E04D15/00 V
A62B35/00 H
(21)【出願番号】P 2018194194
(22)【出願日】2018-10-15
【審査請求日】2021-09-23
(73)【特許権者】
【識別番号】504093467
【氏名又は名称】トヨタホーム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592230380
【氏名又は名称】株式会社エバー商会
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100161230
【氏名又は名称】加藤 雅博
(72)【発明者】
【氏名】植月 英貴
(72)【発明者】
【氏名】安部 和広
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/148966(WO,A1)
【文献】特開2016-008434(JP,A)
【文献】特開2018-127867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/32
E04D 15/00
A62B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の親綱を含み構成され、前記親綱同士が接続されて接続部が形成されることにより、前記接続部を基端部とする少なくとも3本の綱部が形成された親綱複合体について、前記接続部を含む一部を、建物の屋根よりも低い位置から前記屋根の上に揚げる接続部揚げ工程と、
少なくとも3本の前記綱部を、平面視で前記屋根の上に引き上げられた前記接続部から放射状に広げた形になるように設置する綱部設置工程と、
を有する親綱設置方法。
【請求項2】
一の親綱と他の親綱とを含み構成され、前記一の親綱の中間部と前記他の親綱の中間部とが接続されることにより接続部が形成された親綱複合体について、前記接続部を含む一部を、建物の屋根よりも低い位置から前記屋根の上に揚げる接続部揚げ工程と、
前記接続部が前記屋根の上に配されている状態のまま、前記一の親綱を、両端部がそれぞれ前記建物の周囲において固定された状態になるように設置する一親綱設置工程と、
前記一親綱設置工程の後に、前記他の親綱を、前記一の親綱に対して所定角度をなすように設置する他親綱設置工程と、
を有する親綱設置方法。
【請求項3】
前記接続部揚げ工程は、
移動可能な可動体に
前記親綱複合体とは別に設けられた線状体を接続した状態で、前記可動体を操作することにより、前記線状体を、前記建物よりも一方側から前記屋根の上を通過して前記建物よりも他方側に至るように前記屋根にかける線状体設置工程と、
前記線状体に前記
綱部又は前記一の親綱が繋がっている状態で、前記屋根にかけられた前記線状体を手繰り寄せることで、前記接続部を前記屋根の上に引き揚げる線状体手繰り寄せ工程と、
を有する請求項1又は2記載の親綱設置方法。
【請求項4】
さらに、建物の周囲にアンカーを設置するアンカー設置工程を有し、
前記アンカー内には、前記線状体と前記親綱複合体とが繰出し可能に収納されており、
前記線状体設置工程では、前記可動体の操作により前記線状体を引くのに伴い前記線状体が前記アンカー内から繰り出され、
前記線状体手繰り寄せ工程では、前記線状体を手繰り寄せるのに伴い前記親綱複合体が前記アンカー内から繰り出され、
前記綱部設置工程、又は前記一親綱設置工程及び前記他親綱設置工程では、前記親綱複合体の端部を前記アンカーに接続する、
請求項3記載の親綱設置方法。
【請求項5】
前記接続部は、前記親綱同士が係合し合うように前記親綱を結ぶことにより形成する請求項1~4のいずれか一項に記載の親綱設置方法。
【請求項6】
前記接続部揚げ工程では、少なくとも1本の前記親綱のいずれかの端部が、前記建物の周囲において固定されたことにより、前記接続部の移動可能範囲が制限された状態で、前記接続部を前記移動可能範囲内にある所定位置に揚げる請求項1~5のいずれか一項に記載の親綱設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の屋根に親綱を設置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅等の建物を新築する際や、既存の建物についてメンテナンス作業を行う際に、作業者が屋根の上に登る場合がある。この場合、あらかじめ屋根に親綱を張っておき、作業者は、自身に装着した安全帯などを親綱に連結することで、梯子の昇降や屋根の上での作業について安全性を確保することができる。
【0003】
具体的には、例えば従来例では、切妻屋根の短手方向に一本の親綱を張り、その親綱に安全帯を連結する。また、特許文献1では、寄棟屋根に2本の親綱を十字に張り、その親綱に安全帯を連結する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来例では、親綱を一本張っているだけなので、例えば、作業者が親綱の長さ方向に直交する方向に落下するなどして、前記直交する方向に強い力が加わった場合、親綱が前記直交する方向にずれるなどして前記方向にぐらつく懸念がある。
【0006】
他方、特許文献1では、2本の親綱を十字に張っているため、上記懸念はないが、このように親綱を十字に張るためには、作業者が傾斜した屋根の上に登り、そこで落下しないように十分に注意を払いながら2本の親綱を互いに接続しなければならない。そのため、前記接続の作業は苦労が多い。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、親綱をずれにくく設置し、しかも、親綱同士の接続作業を屋根の上でしなくても済むようにすることを、本発明の主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するのに有効な手段につき、必要に応じて作用、効果等を示しつつ説明する。なお、以下においては、理解の容易のため、図面において対応する構成を示す符号を括弧書きで示すが、本発明は、図面に示す具体的構成や形状に限定されるものではない。
【0009】
第1発明は、複数本の親綱(30,40)を含み構成され、前記親綱(30,40)同士が接続されて接続部(J)が形成されることにより、前記接続部(J)を基端部とする少なくとも3本の綱部(31,32,43,44)が形成された親綱複合体(X)について、前記接続部(J)を含む一部を、建物(80)の屋根(85)よりも低い位置から前記屋根(85)の上に揚げる接続部揚げ工程(s3,s4)と、少なくとも3本の前記綱部(31,32,43,44)を、平面視で前記屋根(85)の上に引き上げられた前記接続部(J)から放射状に広げた形になるように設置する綱部設置工程(s5,s6)と、を有する親綱設置方法である。
【0010】
第1発明によれば、少なくとも3本の綱部(31,32,43,44)を、接続部(J)から平面視で放射状に広げた形になるように設置するので、1本の親綱を平面視で直線状に設置する通常の場合に比べて、親綱(30,40)をずれにくく設置できる。しかも、接続部(J)が形成された親綱複合体(X)について、接続部(J)を含む一部を屋根(85)の上に揚げるので、親綱(30,40)同士を接続する作業を屋根(85)の上でする必要がない。
【0011】
第2発明は、一の親綱(30)と他の親綱(40)とを含み構成され、前記一の親綱(30)の中間部と前記他の親綱(40)の中間部とが接続されることにより接続部(J)が形成された親綱複合体(X)について、前記接続部(J)を含む一部を、建物(80)の屋根(85)よりも低い位置から前記屋根(85)の上に揚げる接続部揚げ工程(s3,s4)と、前記接続部(J)が前記屋根(85)の上に配されている状態のまま、前記一の親綱(30)を、両端部がそれぞれ前記建物(80)の周囲において固定された状態になるように設置する一親綱設置工程(s5)と、前記一親綱設置工程(s5)の後に、前記他の親綱(40)を、平面視で前記一の親綱(30)に対して所定角度をなすように設置する他親綱設置工程(s6)と、を有する親綱設置方法である。
【0012】
第2発明によれば、第1発明をシンプルに実施できる。そして、第1発明と同様の効果を得ることができる。具体的には、他の親綱(40)を、平面視で一の親綱(30)に対して所定角度をなすように設置するので、1本の親綱を平面視で直線状に設置する通常の場合に比べて、親綱(30,40)をずれにくく設置できる。しかも、接続部(J)が形成された親綱複合体(X)について、接続部(J)を含む一部を屋根(85)の上に揚げるので、親綱(30,40)同士を接続する作業を屋根(85)の上でする必要がない。
【0013】
第3発明は、第1発明又は第2発明において、前記接続部揚げ工程(s3,s4)は、移動可能な可動体(10)に線状体を接続した状態で、前記可動体(10)を操作することにより、前記線状体を、前記建物(80)よりも一方側から前記屋根(85)の上を通過して前記建物(80)よりも他方側に至るように前記屋根(85)にかける線状体設置工程(s3)と、前記線状体に前記接続部(J)が繋がっている状態で、前記屋根(85)にかけられた前記線状体を手繰り寄せることで、前記接続部(J)を前記屋根の上に引き揚げる線状体手繰り寄せ工程(s4)と、を有するものである。前記可動体(10)は、例えば、ドローンやラジコンヘリコプター等の飛行装置であってもよいし、前記屋根(85)に前記線状体をかけられる長さの操作棒等であってもよい。また、前記線状体は、例えば、前記親綱複合体(X)に接続されるパイロットライン(20)等であってもよいし、前記親綱複合体(X)自体、すなわち、前記一の親綱(30)又は前記他の親綱(40)であってもよい。
【0014】
第3発明によれば、可動体(10)の操作により線状体を設置し、その線状体を用いて親綱複合体(X)の接続部(J)を屋根(85)の上に引き揚げることで、作業者(H)が屋根の上に登ることなく、親綱複合体(X)の設置作業を完了させることができる。そのため、作業者(H)は、屋根(85)の上に登った当初から、設置作業が完了している親綱複合体(X)に、安全帯を連結することができる。そのため、安全性が高い。
【0015】
第4発明は、第3発明において、さらに、建物(80)の周囲にアンカー(50a~50d)を設置するアンカー設置工程(s2)を有し、前記アンカー(50b)内には、前記線状体と前記親綱複合体(X)とが繰出し可能に収納されており、前記線状体設置工程(s3)では、前記可動体(10)の操作により前記線状体を引くのに伴い前記線状体が前記アンカー(50b)内から繰り出され、前記線状体手繰り寄せ工程(s4)では、前記線状体を手繰り寄せるのに伴い前記親綱複合体(X)が前記アンカー(50b)内から繰り出され、前記綱部設置工程(s5,s6)、又は前記一親綱設置工程(s5)及び前記他親綱設置工程(s6)では、前記親綱複合体(X)の端部を前記アンカー(50a,50c,50d)に接続する、ものである。
【0016】
第4発明によれば、アンカー(50b)内に、線状体と親綱複合体(X)とが収納されるので、それらを収納する容器を別途用意する必要がない。また、可動体(10)により線状体を引くのに伴い線状体が引き出され、線状体を手繰り寄せるのに伴い親綱複合体(X)が引き出されるので、効率的に第3発明を実施できる。
【0017】
第5発明は、第1~第4発明において、前記接続部(J)は、前記親綱(30,40)同士が係合し合うように前記親綱(30,40)を結ぶことにより形成するものである。
【0018】
第5発明によれば、例えば、親綱(30,40)同士を金属の接続具等で接続した場合に比べて、接続部(J)が瓦等に引っ掛かりにくい。そのため、接続部(J)をスムーズに屋根(85)の上に揚げることができる。また、接続部(J)が瓦等に引っ掛かりにくいため、瓦等を傷つけにくい。また、親綱(30,40)を結ぶ作業は、もし仮に屋根の上でするとしたら苦労の多い作業になるが、ここでは、接続部(J)が形成された親綱複合体(X)について、接続部(J)を含む一部を屋根(85)の上に揚げるので、前記結ぶ作業は、例えば地面の上等、屋根(85)の上以外ですることができる。また、親綱(30,40)同士が係合し合うように親綱(30,40)を結ぶので、例えば、複数本の親綱をそれらとは別のロープ等で結ぶ場合に比べて、強固に親綱(30,40)同士を接続することができる。
【0019】
第6発明は、第1~第5発明において、前記接続部揚げ工程(s3,s4)では、少なくとも1本の前記親綱(30,40)のいずれかの端部(32)が、前記建物の周囲において固定されたことにより、前記接続部(J)の移動可能範囲が制限された状態で、前記接続部(J)を前記移動可能範囲内にある所定位置(P)に揚げるものである。
【0020】
第6発明によれば、接続部(J)の移動可能範囲を制限してから、その移動可能範囲内にある所定位置(P)に前記接続部(J)を揚げることで、前記移動可能範囲が全く制限されていない場合に比べて、接続部(J)を楽に所定位置(P)に配することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図4】線状体設置工程(パイロットライン設置工程)を示す図
【
図5】線状体手繰り寄せ工程(パイロットライン手繰り寄せ工程)を示す図
【
図6】綱部設置工程(一親綱設置工程及び他親綱設置工程)等を示す図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。但し、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施できる。
【0023】
[第1実施形態]
本実施形態は、上記の第1~第6発明を具体化したものである。
図1は、本実施形態の親綱設置方法で使用する親綱設置キットKを示している。親綱設置キットKは、飛行装置10と、パイロットライン20と、親綱複合体Xと、4つのアンカー50a~50dとを含み構成されている。
【0024】
飛行装置10は、ドローンやラジコンヘリコプター等であり、パイロットライン20の後述するリング部21を引っ掛けるためのフックを備えている。
【0025】
パイロットライン20は、合成樹脂材料や金属材料により形成されたワイヤー等の線状体であり、柔軟性及び弾力性を有している。パイロットライン20の先端部には、飛行装置10のフックに取り付けるためのリング部21が形成されている。パイロットライン20の基端部は、一の親綱30の先端部に粘着テープ等の接続材23により脱着可能に接続されている。
【0026】
親綱複合体Xは、2本の親綱30,40からなる。各親綱30,40は、いずれも合成樹脂材料や金属材料などにより形成されたロープ状の線状体であり、柔軟性を有している。親綱複合体Xは、2本の親綱30,40の中間部どうしが接続されたことにより、接続部Jが形成されると共に、接続部Jを基端部とする4本の綱部31,32,43,44が形成されている。
【0027】
以下では、接続部Jから一の親綱30の先端までの部分を第1綱部31といい、接続部Jから一の親綱30の基端までの部分を第2綱部32といい、接続部Jから他の親綱40の一端までの部分を第3綱部43といい、接続部Jから他の親綱40の他端までの部分を第4綱部44という。第2綱部32の端部(一の親綱30の基端部)は、一のアンカー(第2アンカー50b)に接続されている。
【0028】
4つの各アンカー50a~50dには、綱部31,32,43,44の端部が接続される。以下では、分かりやすいように、前述の第2綱部32が接続されている一のアンカーを第2アンカー50bという。また、後に第1綱部31が接続されるアンカーを第1アンカー50aといい、後に第3綱部43が接続されるアンカーを第3アンカー50cいい、後に第4綱部44が接続されるアンカーを第4アンカー50dいう。
【0029】
4つの各アンカー50a~50dは、互いに結合されて一纏まりになった4つの袋状の容器51~54からなり、各容器51~54は内側に、タンク57が搭載されると共に、そのタンク57に水が充填されることで、重量が増して地面等に固定されるようになっている。各容器51~54には、綱部31,32,43,44の端部を接続するためのベルト59が取り付けられている。本実施形態で、綱部の端部をアンカーに接続するというときは、4つの容器51~54のベルト59を纏めて、それらに綱部の端部を接続することをいう。容器51~54の内側には、タンク57の代わりに、又はタンク57を畳んだ状態で、親綱複合体Xやパイロットライン20を収納しておくこともできる。
【0030】
本実施形態では、親綱設置キットKを使用する前の状態においては、第2アンカー50bの中に、タンク57を畳んだ状態で、親綱複合体Xとパイロットライン20とが収納されている。より具体的には、第2アンカー50bにおける一の容器51の内側には、パイロットライン20と一の親綱30とがトグロを巻いた状態で繰出し可能に収納されている。また、第2アンカー50bにおける別の一の容器53の内側には、第3綱部43(他の親綱40の一端側)がトグロを巻いた状態で操出し可能に収納されている。また、第2アンカー50bにおけるさらに別の容器54の内側には、第4綱部44(他の親綱40の他端側)がトグロを巻いた状態で操出し可能に収納されている。
【0031】
次に、本実施形態の親綱設置方法を説明する。
図2は、親綱設置方法で最初に行う親綱接続工程を示している。親綱接続工程では、2本の親綱30,40が中間部同士で係合し合うように親綱30,40を結ぶことにより、接続部Jを形成して親綱複合体Xを形成する。但し、本実施形態では、上記のとおり、親綱複合体Xは既に形成されている。すなわち、親綱接続工程s1は、親綱設置キットKを現場に持ち込む前に既に行われている。
【0032】
図2(a)は、親綱接続工程s1の一例を示す平面図である。この一例では、まず、いずれかの親綱(図では他の親綱40)の中間部に、「二重8の字結び」によりループ48を形成する。「二重8の字結び」は、「ダブルフィギュアエイトノット」、「フレミッシュループ」ともいう。次に、前記ループ48に、もう一方の親綱(図では一の親綱30)の長さ方向中間部を「本結び」により接続する。これにより、接続部Jが形成される。これにより、2本の親綱30,40の中間部同士が接続される。
【0033】
なお、
図2(a)は、分かりやすいように、前記「本結び」を強く締める前の緩んだ状態を示しているが、この緩んだ状態から、2本の親綱30,40を互いに離間する方向に強く引っ張ることで、前記「本結び」が強く締まる。
【0034】
図2(b)は、親綱接続工程s1の別例を示す平面図である。この別例でも、まず、いずれかの親綱(例えば他の親綱40)の中間部に、「二重8の字結び」によりループ48を形成する。次に、もう一方の親綱(例えば一の親綱30)の中間部に、「二重8の字結び」により、前記ループ48の内側を通過する別のループ38を形成する。これにより、2つのループ38,48同士が鎖状に連結されて、2つのループ38,48からなる接続部Jが形成される。これにより、2本の親綱30,40の中間部同士が結束される。
【0035】
図2(c)は、親綱接続工程s1のさらに別例を示す平面図である。この別例では、両方の親綱30,40をそれぞれ長さ方向中間部で折り返して、その折り返し部分及びその周辺どうしを略平行に重ねた状態から、それらまとめて「8の字結び」することにより、2本の親綱30,40の中間部同士が結束させて接続部Jが形成される。
【0036】
図3は、親綱複合体Xを設置する現場で最初に行うアンカー設置工程s2を示している。
図3(a)は、アンカー設置工程s2の前期を示す平面図である。アンカー設置工程s2では、まず、作業者Hが、建物80の周囲の地面に4つのアンカー50a~50dを配置する。具体的には、接続部Jを最終的に配置すべき所定位置Pの四方に、アンカー50a~50dを配置する。より具体的には、建物80の屋根85の短手方向両側に、第1アンカー50a及び第2アンカー50bを配置し、屋根85の長手方向両側に第3アンカー50c及び第4アンカー50dを配置する。なお、本実施形態の屋根85は、方形屋根である。
【0037】
図3(b)は、アンカー設置工程s2の後期を示す斜視図である。ここでは、作業者Hが、各アンカー50a~50dの各容器51~54のタンク57に水Wを充填することで、各アンカー50a~50dの重量を増加させて、それぞれの位置に固定する。但し、第2アンカー50bの3つの容器51,53,54については、上記のとおり、パイロットライン20や親綱複合体Xが収納されているため、水Wを充填しない。また、第1アンカー50aにおいては、3つの容器51,53,54のタンク57にのみ水Wを充填し、残り1つの容器52のタンク57については空にしておく。
【0038】
図4は、アンカー設置工程s2の後に行うパイロットライン設置工程s3を示している。
図4(a)は、パイロットライン設置工程s3の前期を示す斜視図である。パイロットライン設置工程s3では、まず、作業者Hが、飛行装置10のフックに、パイロットライン20の先端部にあるリング部21を接続する。次に、作業者Hが飛行装置10のコントローラ15を操作することにより、飛行装置10を建物80よりも一方側から他方側にまで飛ばす。それにより、作業者Hが屋根85の上に登ることなく、パイロットライン20を屋根85にかける。このとき、パイロットライン20は、飛行装置10の飛行により引っ張られるのに伴い、トグロを巻いた状態から延びることで第2アンカー50bの容器51から順次繰り出される。
【0039】
図4(b)は、パイロットライン設置工程s3の後期を示す平面図である。パイロットライン20は、建物80よりも第2アンカー50b側から屋根85の上を通過して建物80よりも第1アンカー50a側に至るように設置する。
【0040】
図5は、パイロットライン設置工程s3の後に行うパイロットライン手繰り寄せ工程s4を示している。
図5(a)は、パイロットライン手繰り寄せ工程s4の前期を示す平面図である。パイロットライン手繰り寄せ工程s4では、屋根85にかけられているパイロットライン20の先端側(第1アンカー50a側)から基端側(第2アンカー50b側)を手繰り寄せることで、親綱複合体Xを第1綱部31側から手繰り寄せる。それにより、一の親綱30を、建物80よりも第2アンカー50b側から屋根85の上を通過して建物80よりも第1アンカー50a側に至るように屋根85にかけると同時に、親綱複合体Xの接続部Jを第2アンカー50b内から屋根85の上に引き揚げる。
【0041】
このとき、親綱複合体Xは、前記手繰り寄せに伴い第2アンカー50bの各容器51,53,54から順次繰り出される。具体的には、まずは、第1綱部31がトグロを巻いた状態から延びることで容器51から繰り出される。その後に、第2綱部32と第3綱部43と第4綱部44とが同時に並行してトグロを巻いた状態から延びることで、それぞれ容器51,53,54から繰り出される。
【0042】
図5(b)は、パイロットライン手繰り寄せ工程s4の後期を示す斜視図である。第2綱部32がすべて容器51から繰り出された時点で、それ以上のパイロットライン20の手繰り寄せは不能となる。上記のとおり、第2綱部32の端部は第2アンカー50bに接続されているからである。そのため、接続部Jがそれ以上第1アンカー50a側に移動することがない。このように、接続部Jの移動可能範囲は、第2アンカー50bを起点とした第2綱部32の長さ範囲内に制限される。そして、本実施形態では、第2綱部32がすべて繰り出されたときに接続部Jが前記所定位置Pまたはその近辺にくるように、第2アンカー50bの位置および第2綱部32の長さが予め調整されている。そのため、接続部Jを所定位置Pに簡単に配することができる。
【0043】
なお、手繰り寄せたパイロットライン20は、一の親綱30から取り外すと共に、トグロ状に巻いて、第1アンカー50aの空になっている一の容器52に回収する。また、パイロットライン20及び親綱複合体Xが繰り出したことで、第2アンカー50bの3つの容器51,53,54はそれぞれ空になっている。その空になっている3つの容器51,53,54については、収納されているタンク57を広げてそのタンク57に、それぞれ水を充填する。それにより、第2アンカー50bの重量を増加させて第2アンカー50bの固定力を補強する。
【0044】
図6(a)は、パイロットライン手繰り寄せ工程s4の後に行う一親綱設置工程s5と、その後に行う他親綱設置工程s6とを示す平面図である。一親綱設置工程s5では、親綱複合体Xの接続部Jが屋根85の上に配されている状態のまま、次の作業を行う。すなわち、第1アンカー50a側に手繰り寄せられている一の親綱30の先端部(第1綱部31の端部)を、第1アンカー50aに接続する。これにより、一の親綱30の両端部が第1アンカー50a及び第2アンカー50bにそれぞれ接続された状態になる。このとき、一の親綱30には、両端側から適度な張力が加わるようにする。また、一の親綱30は、平面視で直線状になるように屋根85に張る。
【0045】
他親綱設置工程s6では、一の親綱30の両端部が固定されている状態のまま、次の作業を行う。すなわち、屋根85における接続部Jが載っている部分の流れ方向を流れ方向Zとして、まず、流れ方向Zの反対側(流れ方向上流側)にあるアンカー(第3アンカー50c)に、他の親綱40の一端部(第3綱部43の端部)を接続する。次に、流れ方向Z側(流れ方向下流側)にあるアンカー(第4アンカー50d)に、他の親綱40の他端部(第4綱部44の端部)を接続する。これにより、他の親綱40は、両端部が第3アンカー50c及び第4アンカー50dにそれぞれ接続された状態、すなわち、両端部がそれぞれ建物80を挟む互いに反対側において固定された状態になる。このとき、他の親綱30には、両端側から適度な張力が加わるようにする。他の親綱40は、平面視で一の親綱30に対して直角(90°)をなすように張る。
【0046】
上記の一親綱設置工程s5及び他親綱設置工程s6が、綱部設置工程s5,s6を構成している。綱部設置工程s5,s6により、親綱複合体Xの4つの綱部31,32,43,44が、接続部Jから十字(放射状)に広げられた形になるように設置される。以上により、本実施形態の親綱設置方法は完了である。
【0047】
図6(b)は、親綱設置方法の完了時の状態を示す斜視図である。本実施形態によれば、第1~第6発明の効果を得ることができる。また、パイロットライン20を用いて親綱複合体Xの一部を引き揚げることで、直接、親綱複合体Xの一部を引き揚げる場合等に比べて、楽に親綱複合体Xの一部を屋根85の上に引き揚げることができる。
【0048】
[第2実施形態]
次に、
図7を参照しつつ第2実施形態について説明する。本実施形態については、第1実施形態のものと同一の又は対応する部材等については同一の符号を付して、第1実施形態と異なる点のみを説明する。
【0049】
親綱複合体Xやパイロットライン20は、第2アンカー50bの容器51~54の外側に置かれており、各容器51~54の内側には、タンク57が搭載されると共に水wが充填される。屋根85は、寄棟屋根である。パイロットライン20の基端部には、第1綱部31の先端部と第3綱部43の先端部とが接続される。
【0050】
図7(a)は、パイロットライン手繰り寄せ工程s4を示す平面図である。本実施形態では、第1アンカー50a及び第3アンカー50cを、建物80よりも屋根85の短手方向の一方側に、長手方向側に間隔をおいて設置する。また、第2アンカー50b及び第4アンカー50dを、建物80よりも屋根85の短手方向の他方側に、長手方向側に間隔をおいて設置する。そして、パイロットライン20を屋根85の短手方向側にかける。
【0051】
パイロットライン手繰り寄せ工程s4では、屋根85にかけられているパイロットライン20の先端側(第1アンカー50a側)から基端側(第2アンカー50b側)を手繰り寄せることで、親綱複合体Xを第1綱部31及び第3綱部43側から手繰り寄せる。それにより、一の親綱30及び他の親綱40を、建物80よりも一方側から屋根85の上を通過して建物80よりも他方側に至るように屋根85にかけると同時に、親綱複合体Xの接続部Jを屋根85の上に引き揚げる。
【0052】
そして、接続部Jが屋根85の頂部にきたら、
図7(b)に示すように、親綱複合体Xを広げて、第1綱部31を第1アンカー50aに接続し、第2綱部32を第2アンカー50bに接続し、第3綱部43を第3アンカー50cに接続し、第4綱部44を第4アンカー50dに接続する。これにより、親綱複合体Xが、屋根85に対してX字形に設置される。
【0053】
本実施形態によっても、第1~第3発明及び第5発明の効果を得ることができる。
【0054】
[他の実施形態]
本発明は、例えば、第1実施形態を次のように変更して実施することもできる。
【0055】
まず、第1~第6発明の実施となる範囲内での変更について説明する。例えば、親綱接続工程s1を、親綱設置キットKを現場に持ち込む前の段階で行うのに代えて、現場に持ち込んでから行ってもよい。また、一の親綱30に対するパイロットライン20の接続作業を、親綱設置キットKを現場に持ち込む前の段階で行うのに代えて、現場に持ち込んでから行ってもよい。
【0056】
また、他の親綱40を、平面視で一の親綱30に対して直角をなすように張るのに代えて、他の角度をなすように張ってもよい。また、隣り合う各2本の綱部同士の間の角度を全て90°にするのに代えて、70°,100°,80°,110°等、互いに異なる角度にしてもよい。
【0057】
また、2本の親綱30,40を、上記の結び方で接続するのに代えて、その他の結び方で接続してもよい。また、本実施形態の親綱設置方法を、方形屋根(屋根85)に対して実施するのに代えて、寄棟屋根や妻切屋根や片流れ屋根等に対して実施してもよい。
【0058】
次に、第6発明とは異なる態様の実施となる変更について説明する。例えば、第2アンカー50bに対する一の親綱30の接続作業を、親綱設置キットKを現場に持ち込む前の段階で行うのに代えて、接続部Jを屋根85の上に揚げた後に行ってもよい。この場合、いずれの綱部31,32,43,44も地面に固定されていない状態、すなわち、接続部Jの移動可能範囲が制限されていない状態で、接続部Jを所定位置Pに揚げることになる。
【0059】
また、パイロットライン20を用いて親綱複合体Xの一部を屋根85の上に引き揚げるのに代えて、パイロットライン20を用いず、飛行装置10や操作棒等で直接、親綱複合体Xの一部を屋根85の上に引き揚げてもよい。
【0060】
次に、第5発明とは異なる態様の実施となる変更について説明する。例えば、親綱30,40を結ぶのに代えて、2本の親綱30,40を金属等の接続具で接続してもよい。また、2本の親綱30,40をそれらとは別のロープ等で結んでもよい。
【0061】
次に、第4発明とは異なる態様の実施となる変更について説明する。例えば、親綱設置キットKにおいて、パイロットライン20及び親綱複合体Xは、第2アンカー50bの外に置いて、第2アンカー50bの各容器51~54内に、タンク57を設置してもよい。また、4つの容器51~54からなる各アンカー50a~50dに代えて、土嚢タイプのアンカーや、地面にさす金具タイプのアンカーを使用してもよい。また、パイロットライン20及び親綱複合体Xを第2アンカー50bに収納するのに代えて、アンカー50a~50dとは別体の容器に収納してもよい。
【0062】
次に、第3発明とは異なる態様の実施となる変更について説明する。例えば、パイロットライン20を飛行装置10により屋根85にかけるのに代えて、操作棒等により屋根85にかけてもよい。
【0063】
また、飛行装置10及びパイロットライン20を用いて親綱複合体Xの一部を屋根の上に揚げるのに代えて、作業者Hが屋根85の上に登って屋根85の上から親綱複合体Xを引っ張ることで、親綱複合体Xの一部を屋根85の上に揚げてもよい。
【0064】
次に、第2発明とは異なる態様の実施となる変更について説明する。例えば、平面視で、一の親綱30が直線状に延び、他の親綱40がそれと直交する直線状に延びるように設置するのに代えて、平面視で、一の親綱がL字状に延び、他の親綱が逆L字状(L字を180°回転させた形状)に延びるように設置してもよい。すなわち、例えば
図6(a)において、一の親綱30が、第1綱部31及び第3綱部43を構成するL字形をなし、他の親綱40が、第2綱部32及び第4綱部44を構成する逆L字形をなすようにしてもよい。
【0065】
また、2本の親綱30,40の中間部同士を接続するのに代えて、4本の親綱の各一方の端部を一点で接続することで、前記一点(接続部)を基端部とする4本の綱部を形成してもよい。
【0066】
また、4本の綱部31,32,43,44をそれぞれアンカー50a~50dに接続するのに代えて、1本の綱部は遊ばせて残り3本の綱部のみをアンカーに接続してもよい。すなわち、1本の綱部は遊ばせて残り3本の綱部のみを平面視でY字(放射状)になるように設置してもよい。
【0067】
また、2本の親綱30,40の中間部同士を接続するのに代えて、1本の親綱の中間部に別の親綱の端部を接続してもよい。そして、接続部を基端部とする綱部を3本のみ形成すると共に、3本の綱部を平面視でY字(放射状)になるように設置してもよい。
【符号の説明】
【0068】
10…飛行装置、20…パイロットライン、30…一の親綱、40…他の親綱、50a…第1アンカー、50b…第2アンカー、50c…第3アンカー、50d…第4アンカー、80…建物、85…屋根、J…接続部、P…所定位置、X…親綱複合体、s2…アンカー設置工程、s3…パイロットライン設置工程、s4…パイロットライン手繰り寄せ工程、s5…一親綱設置工程、s6…他親綱設置工程。