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  • 特許-ゲルコート付き強化プラスチック成形物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-27
(45)【発行日】2023-01-11
(54)【発明の名称】ゲルコート付き強化プラスチック成形物
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/06 20060101AFI20221228BHJP
   B29C 70/30 20060101ALI20221228BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20221228BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20221228BHJP
【FI】
B29C70/06
B29C70/30
B32B5/28 Z
B29L9:00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018203156
(22)【出願日】2018-10-29
(65)【公開番号】P2020069654
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000229874
【氏名又は名称】TOMATEC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】鳥飼 晋也
(72)【発明者】
【氏名】木下 奏恵
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼田 祐光
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-027117(JP,A)
【文献】特開2014-205932(JP,A)
【文献】特開2005-014449(JP,A)
【文献】特開2007-091985(JP,A)
【文献】特開平01-105735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00- 70/88
B29B 11/16
B29B 15/08- 15/14
C08J 5/04- 5/10
C08J 5/24
B32B 1/00- 43/00
C08F283/01
C08F290/00-290/14
C08F299/00-299/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にゲルコート層を有する強化プラスチック成形物であって、前記強化プラスチック成形物が、熱伝導率が140W/mK以上の炭素繊維を含有する層を有し、該炭素繊維を含有する層がゲルコート層と隣接し、
前記炭素繊維含有層の前記ゲルコート層と隣接する側と反対側に、マット状ガラス繊維を少なくとも1枚含有するガラス繊維含有層を備え、
前記炭素繊維含有層及び前記ガラス繊維含有層が水酸化アルミニウムを含有すること、及び、前記ゲルコート層が、ゲルコート樹脂成分100質量部に対して、リン酸又はポリリン酸と、トリアジン環含有アミン化合物又はアンモニアとを反応させて得られる有機リン酸塩化合物成分を1~70質量部を含有するゲルコート樹脂組成物から成ること、を満足することを特徴とする強化プラスチック成形物。
【請求項2】
表面にゲルコート層を有する強化プラスチック成形物であって、前記強化プラスチック成形物が、熱伝導率が320W/mK以上の炭素繊維を含有する層を有し、該炭素繊維を含有する層がゲルコート層と隣接し、
前記炭素繊維含有層の前記ゲルコート層と隣接する側と反対側に、マット状ガラス繊維を少なくとも1枚含有するガラス繊維含有層を備え、
前記炭素繊維含有層及びガラス繊維含有層が水酸化アルミニウムを含有すること、又は、前記ゲルコート層が、ゲルコート樹脂成分100質量部に対して、リン酸又はポリリン酸と、トリアジン環含有アミン化合物又はアンモニアとを反応させて得られる有機リン酸塩化合物成分を1~70質量部を含有するゲルコート樹脂組成物から成ること、の少なくとも一方を満足することを特徴とする強化プラスチック成形物。
【請求項3】
前記ゲルコート層を構成するゲルコート樹脂成分が、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、アクリル樹脂の単独もしくはこれらの混合物である請求項1又は2記載の強化プラスチック成形物。
【請求項4】
前記炭素繊維含有層及び前記ガラス繊維含有層を構成する樹脂が、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、アクリル樹脂の単独もしくはこれらの混合物である請求項1~の何れかに記載の強化プラスチック成形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性が顕著に向上されたゲルコート層を有する強化プラスチック成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両や航空機に用いられる車両用部材の分野等においては、国土交通省令に定められた耐着火性の他、低発煙性及び難燃性に加え、耐クラック性や軽量性を有することが要求されている。そのため、かかる分野では、ガラス繊維や炭素繊維、或いはその他の有機系繊維をマット化したものに熱硬化樹脂又は熱可塑性樹脂を含浸させて成形された繊維強化プラスチック(以下、「FRP」ということがある)から成る難燃性を有する成形物が採用されている。
例えば下記特許文献1には、一部若しくは全部が繊維強化複合材で形成された車両用部材において、少なくとも一側の面に表面層として、熱伝導率100W/m・K未満の繊維を用いた繊維強化複合材を厚さ0.1mm~1.0mmで配置し、且つ、その内層に熱伝導率100W/m・K以上の炭素繊維若しくは金属繊維にマトリックス樹脂を含浸させて形成した繊維強化複合材を配置し、前記内層としての繊維強化複合材の層の厚みが0.1mm~1.0mmであることを特徴とする、国土交通省令第151号に準拠した試験で着火を起こさない車両用部材が記載されている(特許文献1)。
【0003】
また車両用部材に適用される繊維強化プラスチックにおいても、美観を有すると共に、水、熱水、紫外線等に対する保護機能を備えることが要求されている。繊維強化プラスチックにこのような美観や機能性を付与する方法として、アクリル系塗料やウレタン系塗料を塗装する方法や、不飽和ポリエステル樹脂等をベース樹脂とし、これに顔料、硬化促進剤等を配合して成るゲルコート組成物をFRP成形物表面に塗布する方法等がある。
しかしながら、FRP成形物表面にアクリル系塗料やウレタン系塗料を塗装する方法では、塗装を行う前に、FRP成形物表面のサンディングが必要であるため、製造工程数が多く、生産性や経済性に劣っている。またこれらの塗料から成る塗膜はその厚みが薄く、しかもアクリル系塗料等はFRP成形物表面と反応しないことから、塗膜の接着力が弱く、衝撃により塗膜にクラックが入ったり、或いは剥離するということがしばしば発生した。
【0004】
一方、ゲルコート組成物を強化プラスチック成形物に塗布する方法では、ゲルコート組成物はFRPと重合反応を伴い、FRP成形物と一体的に厚いゲルコート層を形成できることから、上述したアクリル系塗料を用いた場合のような問題は生じない。その一方、ゲルコート組成物は、難燃性の点で未だ十分満足するものではなく、ゲルコート組成物の難燃化は、一般にゲルコート組成物を構成する熱硬化性樹脂のハロゲン付加や、或いはアンチモン系難燃剤や水和金属化合物等の添加等の方法によって行われていた。
しかしながら、近年はハロゲンフリー材料への要請が高まっていることから、ハロゲン系、アンチモン系の難燃剤の使用は制限され、また水和金属化合物は難燃化効率が低いことから高添加量で用いる必要がある結果、作業性が悪く、耐クラック性も低いという問題があった。
【0005】
ハロゲンフリーの難燃性を有するゲルコート組成物も提案されており、例えば下記特許文献2には、(A)ゲルコート樹脂成分と、(B)リン酸またはポリリン酸とトリアジン環含有アミン化合物またはアンモニアとを反応させて得られる有機リン酸塩化合物成分とを含み、前記成分(A)100質量部に対して前記成分(B)が1~70質量部含まれる難燃性を有するゲルコート組成物、及びこのゲルコート組成物から成るゲルコートを表面に有する強化プラスチック成形物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3853760号
【文献】特開2016-27117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献2のゲルコートを表面に有する強化プラスチック成形物は、車両用部材に好適に適用可能な難燃性、耐クラック性、及び軽量性を兼ね備えているが、このゲルコート組成物から成る層を有するゲルコート付き強化プラスチックでは、鉄道車両用材料燃焼性試験(車材燃試)における不燃乃至極難燃レベルの難燃性を得ることができなかった。
【0008】
従って本発明の目的は、艶付けや着色といった美観、及び水、熱水、紫外線等に対する保護機能を有するゲルコート層を表面に有すると共に、車材燃試における不燃乃至極難燃レベルの難燃性を備えたゲルコート付き強化プラスチック成形物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、表面にゲルコート層を有する強化プラスチック成形物であって、前記強化プラスチック成形物が、熱伝導率が140W/mK以上の炭素繊維を含有する層を有し、該炭素繊維を含有する層がゲルコート層と隣接し、前記炭素繊維含有層の前記ゲルコート層と隣接する側と反対側に、マット状ガラス繊維を少なくとも1枚含有するガラス繊維含有層を備え、前記炭素繊維含有層及び前記ガラス繊維含有層が水酸化アルミニウムを含有すること、及び、前記ゲルコート層が、ゲルコート樹脂成分100質量部に対して、リン酸又はポリリン酸と、トリアジン環含有アミン化合物又はアンモニアとを反応させて得られる有機リン酸塩化合物成分を1~70質量部を含有するゲルコート樹脂組成物から成ること、を満足することを特徴とする強化プラスチック成形物が提供される。
本発明によればまた、表面にゲルコート層を有する強化プラスチック成形物であって、前記強化プラスチック成形物が、熱伝導率が320W/mK以上の炭素繊維を含有する層を有し、該炭素繊維を含有する層がゲルコート層と隣接し、前記炭素繊維含有層の前記ゲルコート層と隣接する側と反対側に、マット状ガラス繊維を少なくとも1枚含有するガラス繊維含有層を備え、前記炭素繊維含有層及びガラス繊維含有層が水酸化アルミニウムを含有すること、又は、前記ゲルコート層が、ゲルコート樹脂成分100質量部に対して、リン酸又はポリリン酸と、トリアジン環含有アミン化合物又はアンモニアとを反応させて得られる有機リン酸塩化合物成分を1~70質量部を含有するゲルコート樹脂組成物から成ること、の少なくとも一方を満足することを特徴とする強化プラスチック成形物が提供される。
【0010】
本発明の強化プラスチック成形物においては、
前記ゲルコート層を構成するゲルコート樹脂成分が、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、アクリル樹脂の単独もしくはこれらの混合物であること、
.前記炭素繊維含有層及び前記ガラス繊維含有層を構成する樹脂が、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、アクリル樹脂の単独もしくはこれらの混合物であること、
が好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、従来公知の強化プラスチック成形物に形成した場合には、不燃乃至極難燃レベルの難燃性を発現できなかったゲルコート組成物を用いた場合であっても、このゲルコート層を熱伝導率が140W/mK以上の炭素繊維を含有する層に隣接するように形成することによって、ゲルコート層付き強化プラスチック成形物全体が、鉄道車両用材料燃焼性試験(車材燃試)における不燃乃至極難燃レベルの難燃性を有することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のゲルコート層を有する強化プラスチック成形物の断面構造の例を示す図である。
図2】実施例における難燃性試験装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のゲルコート付き強化プラスチック成形物は、図1にその断面構造を示すように、強化プラスチック成形物10が、ガラス繊維などの強化繊維を含有する層11と、熱伝導率が140W/mK以上の炭素繊維を含有する層12とから成り、この熱伝導率が140W/mK以上の炭素繊維含有層12に直接ゲルコート層13が形成されていることが重要な特徴である。このように熱伝導率の高い炭素繊維を含有する層をゲルコート層に隣接することにより、炭素繊維がゲルコート層の熱を効率よく逃すことが可能になり、ゲルコート層の難燃性が向上され、成形物全体としての難燃性が向上する。
【0014】
(強化プラスチック成形物)
本発明に用いる強化プラスチック成形物は、ゲルコート層を形成する側に、熱伝導率が140W/mK以上、特に320W/mK以上の炭素繊維を含有する層(以下、「炭素繊維層」ということがある)が形成されていることが重要であり、この炭素繊維層部分を除いては、従来公知の強化プラスチック成形物を使用できる。
【0015】
[強化繊維]
炭素繊維層を構成する炭素繊維は、熱伝導率が上記範囲にある限り、ポリアクリルニトリル(PAN)系、ピッチ系、レーヨン系、リグニン系等の炭素繊維の何れも使用できるが、ピッチ系炭素繊維を好適に使用できる。またピッチ系炭素繊維の中でも、機械的強度に優れた異方性ピッチ系炭素繊維を用いることが望ましい。尚、炭素繊維は熱伝導率が高いほど、難燃性のレベルを向上できるが、後述するゲルコート層の種類によっては、低い熱伝導率の炭素繊維を用いた場合でも、同等レベルの難燃性を得ることができる場合があり、目的とする難燃性のレベル、用いるゲルコート組成物、及び経済性等を考慮して適宜選択することができる。
【0016】
強化プラスチック成形物の炭素繊維層以外の部分においては、従来公知の強化プラスチック成形物に使用されている、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、炭素繊維等を使用することができる。
これらの強化繊維は単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することもできる。
強化繊維の形態は、織物、編み物、マット等のシート状の連続繊維を好適に使用することができるが、ストランド、ストランドを束ねた紐状、ストランドを一方向に引き揃えたシート状のものを使用してもよい。
【0017】
[マトリックス樹脂]
強化プラスチック成形物のマトリックス樹脂は、強化プラスチック成形物のマトリックス樹脂として従来より使用されていた公知の熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用することができる。
このような従来公知の熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、マレイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂等を例示できる。
また熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、芳香族ビニル単量体・シアン化ビニル単量体・ゴム質重合体から選ばれる少なくとも2種類を構成成分とする重合体、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアリーレンオキシド、ポリアリーレンスルフィド、ポリスルホン、ポリイミド等を例示することができる。
本発明においては、上記マトリックス樹脂の中でも特に、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂を好適に使用できる。
【0018】
不飽和ポリエステル樹脂は、一般に無水マレイン酸またはフマル酸のような不飽和酸と無水フタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、エンド酸などの飽和塩基酸を併用して、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、水素添加ビスエポキシなどのグリコール類などをエステル化して得られる不飽和アルキドをスチレンモノマー、ビニルトルエン、トリアリルシアヌレート、ジアリルフタレート、メチルメタクリレートモノマーなどのビニルモノマーに溶解して得られるものである。
ビニルエステル樹脂は、分子内に複数のエポキシ基を有する化合物、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂と、アクリル酸あるいはメタクリル酸を反応させることにより得られる、分子内に複数のアクリロイル基あるいはメタクリロイル基を有する化合物である。
エポキシ樹脂は、末端に反応性のエポキシ基を持つ熱硬化型の合成樹脂で、代表的なエポキシ樹脂はビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの縮合反応により製造される、いわゆるビスフェノールA型エポキシ樹脂である。特にポリアミン硬化、酸無水物硬化、イミダゾール硬化のタイプのエポキシ樹脂が好ましい。
フェノール樹脂は、フェノール、クレゾールなどのフェノール類とホルムアルデヒドを原料として触媒下において合成を行い、酸触媒下での合成により得られたノボラック型熱可塑性樹脂をヘキサメチレンテトラミンなどの硬化剤を用いて硬化させ、アルカリ触媒下での合成により得られたレゾール型樹脂を加熱することによりそのまま硬化させるものである。
【0019】
マトリックス樹脂は、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物から成る従来公知の難燃剤を含有することができ、特に水酸化アルミニウムを好適に使用することができる。水酸化アルミニウムは、マトリックス樹脂100質量部に対して、100~300質量部、特に140~190質量部の量で配合することが好適である。上記範囲よりも配合量が少ない場合には、水酸化アルミニウムを配合することにより得られる難燃性向上効果が充分得られず、その一方上記範囲よりも配合量が多くなるとマトリックス樹脂が強化繊維に含浸しにくくなり成形が困難になる。
【0020】
強化プラスチック成形物の成形法としては、ハンドレイアップ法、RTM法、スプレーアップ法、BMC法、SMC法、プリプレグ法など、型を用いる成形法であれば任意の公知方法が適用できるが、本発明においては特に、炭素繊維層に用いる熱伝導率が140W/mK以上の炭素繊維及び強化プラスチック成形物に用いるガラス繊維等の強化繊維のいずれも、マット状のものを使用し、これらを積層して、マトリックス樹脂を含浸させて硬化させて成形することが好適である。
炭素繊維層を構成する炭素繊維のマット状物は何層でも積層することができるが、1層あれば充分に難燃性向上の効果がある。本発明においては、炭素繊維層及び任意の強化繊維層を同一のマトリックス樹脂で形成することが好適であり、これらのマット状物を重ね合わせ、マトリックス樹脂を含浸させて硬化させることにより、炭素繊維層及び任意の強化繊維層を境目なく成形することができる。また、炭素繊維層と任意の強化繊維層を異なるマトリックス樹脂で形成することもでき、この場合には、炭素繊維層又は任意の強化繊維層の何れか一方を先に成形し、該成形物の上に他方のマット状物を載置した後、このマット状物に他方のマトリックス樹脂を含浸させて成形と同時に両者を一体化する。
【0021】
(ゲルコート層)
本発明のゲルコート付き強化プラスチック成形物においては、ゲルコート組成物として、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂等の単独もしくはこれらの混合物から成るゲルコート樹脂成分、顔料、体質顔料、揺変剤、硬化促進剤、重合開始剤等から成る、従来公知の熱硬化性樹脂組成物を使用することができる。
本発明においては、前述したとおり、強化プラスチック成形物のゲルコート層を形成する側に熱伝導率が140W/mK以上、特に320W/mK以上の炭素繊維を含有する炭素繊維層が形成されていることから、難燃性のゲルコート組成物を用いない場合でも、ゲルコート隣接層に用いる炭素繊維の熱伝導率を調整することにより、後述する実施例の結果からも明らかなように、ゲルコート付き強化プラスチック成形物全体の難燃性を極難燃の難燃性レベルまで向上させることができる。
【0022】
ゲルコート組成物には、ハロゲン系難燃剤、アンチモン系難燃剤、水和金属化合物などの従来公知の難燃剤を配合することにより、難燃性のレベルを向上させることもできるが、特に本出願人により提案された特開2016-27117号公報に記載の難燃性ゲルコート組成物を用いることが好適である。これにより、ノンハロゲン、ノンアンチモンの要請に沿うと共に、耐クラック性や、軽量性等の特性が向上される。また前述した特定の炭素繊維から成る層が形成された強化プラスチック成形物と組み合わせることにより、特に強化プラスチック成形物の難燃性を不燃乃至極難燃のレベルまで向上させることが可能となる。
本発明に好適に用いることができる上記難燃性ゲルコート組成物は、ゲルコート樹脂成分100質量部に対して、下記式(1)で表される、リン酸またはポリリン酸とトリアジン環含有アミン化合物またはアンモニアとを反応させて得られる有機リン酸塩化合物成分を1~70質量部の量で配合して成るゲルコート組成物である。
【0023】
【化1】
(一般式(1)中、nは1~1000の数、pは0<p<n+2を満たす数、Xはアンモニアまたは下記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体である。
【0024】
【化2】
一般式(2)中、ZおよびZはそれぞれ独立に、-NRNR基(RおよびRはそれぞれ独立に、水素原子、メチロール基、または炭素原子数1~6のアルキル基である。)、水素基、メルカプト基、フェニル基、ビニル基、炭素原子数1~10のアルキル基、および炭素原子数1~10のアルコキシ基からなる群より選ばれる基である。)。
【0025】
前記一般式(2)におけるZおよびZで表される炭素原子数1~10のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、イソブチル、アミル、イソアミル、第三アミル、ヘキシル、シクロヘキシル、ヘプチル、イソヘプチル、第三ヘプチル、n-オクチル、イソオクチル、第三オクチル、2-エチルヘキシル、ノニル、デシル等の基が挙げられ、炭素原子数1~10のアルコキシ基としては、これらアルキル基から誘導される基が挙げられる。
【0026】
また、ZおよびZがとり得る-NRNR基におけるRおよびRに対応する炭素原子数1~6のアルキル基としては、例えば、上記したアルキル基のうちの、炭素原子数1~6のものが挙げられる。
【0027】
前記トリアジン誘導体の具体的な例としては、メラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、アクリルグアナミン、2,4-ジアミノ-6-ノニル-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-ハイドロキシ-1,3,5-トリアジン、2-アミノ-4,6-ジハイドロキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-メトキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-エトキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-プロポキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-イソプロポキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-メルカプト-1,3,5-トリアジン、2-アミノ-4,6-ジメルカプト-1,3,5-トリアジン等が挙げられる。
【0028】
上記一般式(1)で表される有機リン酸塩化合物の内、特に好ましい化合物としては、リン酸とメラミンとの塩またはポリリン酸アンモニウム化合物が挙げられ、特にリン酸とメラミンとの塩を使用することが好ましい。
有機リン酸塩化合物として特に好ましくはポリリン酸メラミン塩である「AP750」、「AP760」、「OP1312」(以上、クラリアントジャパン社製)、「アデカスタブFP-2100J」、「アデカスタブFP-2200」(以上、ADEKA社製)を使用できる。
【0029】
また、上記のリン酸とメラミンとの塩としては、例えば、オルトリン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン等が挙げられ、これらの中でも、上記一般式(1)におけるnが2、pが2、Xがメラミンであるピロリン酸メラミンが特に好ましい。リン酸とメラミンとの塩は、例えば、ピロリン酸メラミンの場合には、ピロリン酸ナトリウムとメラミンとを任意の反応比率で塩酸を加えて反応させ、水酸化ナトリウムで中和することにより得ることができる。
【0030】
また、前記のポリリン酸アンモニウム化合物とは、ポリリン酸アンモニウム単体若しくはポリリン酸アンモニウムを主成分とする化合物である。該ポリリン酸アンモニウム単体としては、例えば、クラリアント社製のエキソリット-422、エキソリット-700、モンサント社製のフォスチェク-P/30、フォスチェク-P/40、住友化学(株)社製のスミセーフ-P、チッソ(株)社製のテラージュ-S10、テラージュ-S20等の市販品を使用することができる。
【0031】
上記のポリリン酸アンモニウムを主成分とする化合物としては、ポリリン酸アンモニウムを熱硬化性樹脂で被覆若しくはマイクロカプセル化したものや、メラミンモノマーや他の含窒素有機化合物等でポリリン酸アンモニウム表面を被覆したもの、界面活性剤やシリコン処理を行ったもの、ポリリン酸アンモニウムを製造する過程でメラミン等を添加し難溶化したもの等が挙げられる。このような化合物の市販品としては、クラリアント社製のエキソリット-462、住友化学(株)社製のスミセーフ-PM、チッソ(株)社製のテラージュ-C60、テラージュ-C70、テラージュ-C80等が挙げられる。
【0032】
上記難燃性ゲルコート組成物において、ゲルコート樹脂成分としては、従来公知のゲルコート組成物に用いられていた、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂等を、単独又は組み合わせて使用できる。これらの樹脂は、前述した強化プラスチック成形物のマトリックスと同様のものを使用することができる。
【0033】
ゲルコート組成物は、上記ゲルコート樹脂及び有機リン酸塩化合物の他、顔料、体質顔料、揺変剤、硬化促進剤、重合開始剤等、従来公知のゲルコート組成物に含有されている成分を含有することができる。
体質顔料としては、雲母、合成金雲母、タルク、カオリン、マイカ、セリサイト、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、無水珪酸、酸化アルミニウム、硫酸バリウム等を例示できる。
揺変剤としては、無機系としてシリカ微粒子(アエロジル)、アルミナ、雲母等、有機系として酸化ポリスチレン系、重合油系、界面活性剤系等を例示できる。中でも、耐溶剤性およびインク組成物への影響の点から、シリカ微粒子(アエロジル)であるヒュームドシリカを用いることが好ましい。
硬化促進剤としては、不飽和ポリエステル樹脂の場合、ナフテン酸コバルト、オクテン酸コバルトなどの金属石けん類、ジメチルベンジルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム塩、アセチルアセトンなどのβ-ジケトン類、ジメチルアニリン、N-エチル-メタトルイジン、トリエタノールアミンなどのアミン類などが挙げられる。この硬化促進剤の配合割合には特に制限はなく、要求される硬化性に応じて適宜決定される。
【0034】
本発明に用いる難燃性ゲルコート組成物には、上述した成分に加え、必要に応じて従来公知の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤、消泡剤、レベリング剤、内部離型剤、ワックス、酸化防止剤、染料、顔料、無機充填剤(タルク、クレー、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、ガラスビーズ等)、分散剤、硬化剤、重合禁止剤、着色剤、難燃剤、その他の添加剤などが配合される。
これらの添加剤は合計して、ゲルコート組成物中に好ましくは50質量%以下、より好ましくは35質量%以下の量で含有されていることが好適である。
【0035】
(ゲルコート付き強化プラスチック成形物の製造方法)
本発明のゲルコート付き強化プラスチック成形物は、前述した特定の熱伝導率の炭素繊維を含有する層を有する強化プラスチック成形物を用いる限り、従来のゲルコート付き強化プラスチック成形物と同様に製造することができる。ゲルコート層及び強化プラスチック成形物の一体化は、ゲルコート層を先に成形し、ゲルコート層の上に炭素繊維層がゲルコート層側に位置するように強化プラスチック成形物を成形してもよいし、或いは強化プラスチック成形物を先に成形し、この強化プラスチック成形物の炭素繊維層上にゲルコート層を形成することもできる。
具体的には、これに限定されないが、離型処理した型の表面にゲルコート組成物を刷毛、ローラー、スプレー等で所定量塗布する。塗布層の厚みは通常100~500μmである。その後、室温放置、加熱、電離放射線、紫外線、可視光線、赤外線の照射等、用いるゲルコート樹脂組成物に合わせた方法でゲルコート組成物を硬化させる。硬化は、必ずしも完全硬化に至るまで行う必要はないが、少なくともゲルコート組成物の流動性が失われる程度までは行う。
次いで、形成されたゲルコート層の上に、前述した強化プラスチック組成物を構成するマトリックス樹脂、炭素繊維層に使用する特定の熱伝導率を有する炭素繊維、他の強化繊維をハンドレイアップ成形法により積層状に成形し、この積層物を加熱硬化させることにより、特定の熱伝導率を有する炭素繊維を含有する表層がゲルコート層に隣接するように、ゲルコート付き強化プラスチック成形物を一体に成形することができる。
【実施例
【0036】
(実施例1~及び比較例1~
以下に示すゲルコート組成物、強化プラスチック成形物を使用して、下記成形方法でゲルコート付き強化プラスチック成形物を成形した。評価結果を表2に示す。
【0037】
[ゲルコート組成物]
ゲルコート樹脂として、イソフタル酸/プロピレングリコール系不飽和ポリエステル樹脂系ゲルコート(東罐マテリアル・テクノロジー社製、「3B-0012P」)を使用し、難燃剤として有機リン酸塩化合物(ADEKA社製、「アデカスタブFP-2200」)、水酸化アルミニウムを、それぞれ表2に示す割合で配合して使用した。尚、表中、記載はないが硬化剤としてメチルエチルケトンパーオキサイド(日本油脂社製、「パーメックN」)を、ゲルコート樹脂成分100質量部対して1質量部使用した。
【0038】
[強化プラスチック成形物]
不飽和ポリエステル樹脂(DICマテリアル社製、「サンドーマLP-924-N」)をマトリックス樹脂とし、このマトリックス樹脂100質量部に対して、水酸化アルミニウムを、表2に示す配合量で使用した。尚、表中、記載はないが硬化剤としてメチルエチルケトンパーオキサイド(日本油脂社製、「パーメックN」)を、マトリックス樹脂100質量部対して1.0~1.5質量部使用した。
また強化繊維として、炭素繊維(日本グラファイトファイバー社製「PF-XN80--240(320W/mK)」(表中「CF1」で示す)又は「PF-XN60-140(140W/mK)」(表中「CF2」で示す))と、ガラス繊維(セントラルグラスファイバー社製「ガラスマット♯450」(表中「ガラス」で示す))を使用した。
【0039】
[ゲルコート付強化プラスチック成形物の成形方法]
表2に示す組成のゲルコート組成物を用い、攪拌して得られた混合物を真空下で脱泡した。次いで、離型処理したガラス板からなる成形型に前記混合物をスクレーパー塗布し、厚さ0.3~0.4mmの塗膜を形成した後、このゲルコート塗膜付きの成形型を、60℃に調整した乾燥炉に入れて2時間加熱し、塗膜を硬化させ、ゲルコート層を形成した。
次いで、ゲルコート層の上に、充填材と硬化剤を配合したマトリックス樹脂層と、炭素繊維のマットを1層と、ガラス繊維のマットを2層とを、ゲルコート層側に炭素繊維となるように、ハンドレイアップ成形法にて積層状に成形し、この積層物を60℃にて4時間加熱して硬化させて、ゲルコート層付き強化プラスチック成形物を形成し、ガラス板型より脱型し、5日間以上室温で放置した。
得られたゲルコート付強化プラスチック成形物を下記の燃焼試験においてテストピースとして用いた。
【0040】
(燃焼試験)
車両用材料燃焼試験(鉄道に関する技術上の基準を定める省令の解釈基準 第八十三条、車両の火災対策:国土交通省令)に従って、上記ゲルコート付強化プラスチック成形物の燃焼試験を行った。試験手順は下記の通りである。
1.図2に示す燃焼試験装置において、B5版(182mm×257mm)のサイズのテストピース(1)を基台(2)に対して角度45度で傾斜状に配置する。
2.傾斜状のテストピース(1)の下面中央から下の位置に配置された直径17.5mm×高さ7.1mmで厚さ0.8mmの円筒状の鉄製の燃焼皿(3)にエチルアルコール(0.5cc)を注ぎ込み、これを点火させる。テストピース(1)の下面中心から燃焼皿(3)の底面までの距離は25.4mm(1インチ)である。図2中、(4)は燃焼皿(3)を載せる受台で、コルク等の熱伝導率の低い材料でできている。(5)は受台(4)を基台(2)に支持する脚部である。
3.炎をテストピース(1)に接触させ、燃焼中及び燃焼後のテストピース(1)の状態を目視観察して、燃焼状態を判定する。難燃性の評価基準を表1に、材料の使用量(質量部)および燃焼試験結果を表2に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によるゲルコート付き強化プラスチック成形物は、艶付けや着色といった美観、及び水、熱水、紫外線等に対する保護機能を有するゲルコート層を表面に有すると共に、不燃乃至極難燃レベルの難燃性をも備え、鉄道車両や航空機用途の部材として好適に利用できる。
図1
図2