(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-27
(45)【発行日】2023-01-11
(54)【発明の名称】水冷パイプを被覆する断熱構造及びそれに用いられる分割ブロック、並びに前記断熱構造の施工方法及び補修方法
(51)【国際特許分類】
F27D 1/12 20060101AFI20221228BHJP
【FI】
F27D1/12 R
(21)【出願番号】P 2018230010
(22)【出願日】2018-12-07
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000205111
【氏名又は名称】大光炉材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【氏名又は名称】高石 橘馬
(74)【代理人】
【識別番号】100168206
【氏名又は名称】高石 健二
(72)【発明者】
【氏名】栗原 利光
(72)【発明者】
【氏名】寺島 英俊
(72)【発明者】
【氏名】幸野 洋三
【審査官】岡田 眞理
(56)【参考文献】
【文献】実開昭54-136312(JP,U)
【文献】特開2013-112832(JP,A)
【文献】特開昭62-007818(JP,A)
【文献】実開昭58-011698(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 1/00-1/18
F27D 3/02
F27B 9/00-9/40
C21D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水冷パイプの周囲を囲むように軸方向に連接して設置された複数の環状ブロックと、
前記複数の環状ブロックと前記水冷パイプとの間に充填された不定形耐火物が硬化してなる支持構造体とを備えた水冷パイプを被覆する断熱構造であって、 前記環状ブロックは、環状に組み合わせた2個以上の分割ブロックと、
前記分割ブロック
の外周側に取り外し可能に装着され、前記分割ブロック同士を固定する固定具とからなり、
前記分割ブロックは、内周面に前記不定形耐火物によって支持されるための凹凸構造を有
し、前記支持構造体から分離可能であることを特徴とする水冷パイプを被覆する断熱構造。
【請求項2】
請求項1に記載の水冷パイプを被覆する断熱構造において、
前記分割ブロックは、外周面に前記固定具によって前記分割ブロック同士が環状に組み合わされて固定されるための構造を有し、前記固定具は前記構造に装着されていることを特徴とする水冷パイプを被覆する断熱構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水冷パイプを被覆する断熱構造において、
前記不定形耐火物が不定形耐火キャスタブル又は耐火粉末であることを特徴とする水冷パイプを被覆する断熱構造。
【請求項4】
水冷パイプを被覆する断熱構造の施工方法であって、
2個以上の分割ブロック
の外周側に取り外し可能に固定具を
装着することにより、前記分割ブロックを環状に組み合わせて環状ブロックを形成する工程と、
複数の前記環状ブロックを水冷パイプの周囲を囲むように軸方向に連接して設置する工程と、
前記複数の環状ブロックと前記水冷パイプとの間に不定形耐火物を充填及び硬化させ不定形耐火物からなる支持構造体を形成する工程とを有し、
前記分割ブロックは、内周面に前記不定形耐火物によって支持されるための凹凸構造を有
し、前記支持構造体から分離可能であることを特徴とする水冷パイプを被覆する断熱構造の施工方法。
【請求項5】
請求項4に記載の水冷パイプを被覆する断熱構造の施工方法において、
前記分割ブロックは外周面に前記固定具によって前記分割ブロック同士が環状に組み合わされて固定されるための構造を有し、前記固定具を前記構造に装着することを特徴とする水冷パイプを被覆する断熱構造の施工方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の水冷パイプを被覆する断熱構造の施工方法において、
前記不定形耐火物が不定形耐火キャスタブル又は耐火粉末であることを特徴とする水冷パイプを被覆する断熱構造の施工方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれかに記載の断熱構造を補修する方法であって、
補修対象の分割ブロックを固定している固定具を取り外して、前記分割ブロックを引き抜く、又は解体することで取り除く工程と、
前記取り除いた分割ブロックに置換して、新しい分割ブロックを挿入して、固定具によって環状に組み合わせて固定し環状ブロックを形成する工程と
を有することを特徴とする水冷パイプを被覆する断熱構造の補修方法。
【請求項8】
請求項4~6のいずれかに記載の方法により施工された断熱構造を補修する方法であって、
補修対象の分割ブロックを固定している固定具を取り外して、前記分割ブロックを引き抜く、又は解体することで取り除く工程と、
前記取り除いた分割ブロックに置換して、新しい分割ブロックを挿入して、固定具によって環状に組み合わせて固定し環状ブロックを形成する工程と
を有することを特徴とする水冷パイプを被覆する断熱構造の補修方法。
【請求項9】
請求項1~3のいずれかに記載の断熱構造に用いられる分割ブロックであって、
前記固定具によって前記分割ブロック同士が環状に組み合わされて固定されるための構造と、前記内周面に不定形耐火物によって支持されるための凹凸構造とを有することを特徴とする分割ブロック。
【請求項10】
請求項4~6のいずれかに記載の方法により施工される断熱構造に用いられる分割ブロックであって、
前記固定具によって前記分割ブロック同士が環状に組み合わされて固定されるための構造と、前記内周面に不定形耐火物によって支持されるための凹凸構造とを有することを特徴とする分割ブロック。
【請求項11】
請求項7又は8に記載の補修方法に用いられる分割ブロックであって、
前記固定具によって前記分割ブロック同士が環状に組み合わされて固定されるための構造と、前記内周面に不定形耐火物によって支持されるための凹凸構造とを有することを特徴とする分割ブロック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱炉や溶鉱炉、熱処理炉等で使用される水冷パイプを被覆する筒状の断熱構造及びそれに用いられる分割ブロック、並びに前記断熱構造の施工方法及び補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱炉等の水冷パイプに施工される筒状の被覆断熱材は、断熱材の脱落やせり出し等を防止するため、多くの場合、水冷パイプに溶接されたスタッドによって支持されている。
【0003】
一方で断熱材は部分的に損耗することがあり、部分補修を可能とする支持構造が望まれている。しかし断熱材をスタッドによって支持していると、損耗している部位を解体する際にスタッドごと解体せねばならず、また補修の際は再度スタッドをパイプに溶接する必要があり、作業効率が悪かった。
【0004】
加えてスタッドは熱損失が大きく、また炉全体では数千本を溶接する必要があるため、操業、施工作業の観点からもスタッドを用いない支持構造が求められている。
【0005】
スタッドを用いない支持構造として、例えば、特許文献1(特開2012-127619号)には、2個以上の耐火物製ブロックを組み合わせることで環状とし、それを筒状に積み重ねることで水冷パイプを被覆する断熱構造であって、耐火物製ブロックは積み重ね方向を法線とする平面に対して径方向に傾斜しており、更に周方向分割面の目地位置が1段ずつ交互にずれていることを特徴とした水冷パイプを被覆する断熱構造が開示されている。
【0006】
特許文献2(特開2013-112832号)には、3個以上の分割ブロックを組み合わせて環状とする水冷パイプを被覆する断熱構造であって、この環状ブロック部を水冷パイプの長手方向(通常は高さ方向)に、膨張代を確保しつつ複数個積み重ねて筒状ブロック部を形成する断熱構造が開示されている。
【0007】
特許文献3(特開2016-104899号)には、あらかじめセラミックスタッドを接合した金属板にキャスタブルを鋳込んで成型した一体物の分割ブロックモジュールを用い、金属板を水冷パイプに溶接することで分割ブロックモジュールを接合する施工方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-127619号公報
【文献】特開2013-112832号公報
【文献】特開2016-104899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1~3に記載された従来の構造は、部分補修を行う際、目的の損耗部位のみを解体、又は損耗したブロックのみを引き抜き、補修や交換を行うことが容易ではなかった。
【0010】
特許文献1では、分割ブロックが半径方向に対して傾斜しているので、半径方向に対する拘束力を働かせることができる一方で、損耗した分割ブロックのみを引き抜くことが難しく、引き抜いた後は長手方向に支持する手段がないため崩落する危険性がある。
【0011】
特許文献2の構造においても、損耗した分割ブロックを引き抜いた後長手方向に支持する手段がないため崩落する危険性がある。第2の実施形態では引っ張り治具を使用しているが溶接等による固定が必要と記載されており、また筒状に積み重ねた分割ブロックを引き抜く際に分割ブロックと分割ブロックとの間に十分な長手方向の間隙を必要とするため、余分な分割ブロックまで解体する必要がある。
【0012】
特許文献3は、半径方向と長手方向に対する支持があるが、施工や部分補修の際に金属板を溶接する必要があり、更に解体の際はブロックを壊して溶接された金属板を取り外す必要があるため、手間がかかるという問題があった。
【0013】
つまり水冷パイプを被覆する筒状の断熱構造体において、断熱材のせり出しや脱落の防止としてスタッド等による半径方向に対する支持が必要となるが、大量の溶接作業を伴う施工は労力と時間を必要とし、更に部分補修の際には逆に半径方向に対する支持があると損耗部位の解体が難しいという問題があった。加えて長手方向に対する支持手段がないと損耗部位を解体した際に構造体が崩落するという危険性があった。これらを同時に解決するような構造はこれまでなかった。
【0014】
従って、本発明の目的は、施工及び部分補修を容易にするとともに、断熱材の脱落やせり出し等を防止できる断熱構造及びそれに用いられる分割ブロック、並びに前記断熱構造の施工方法及び補修方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、断熱材(分割ブロック及び支持構造体)を半径方向に支持するための固定具を取り外し可能に設けるとともに、分割ブロックを長手方向に支持するための支持構造を不定形耐火物によって付与することにより、稼働時には断熱材・分割ブロックの脱落やせり出し等を防止し、部分補修時には損傷した分割ブロックの半径方向に対する固定具を取り外すことによって分割ブロックのみを取り除くことが可能になることを見出し、本発明に想到した。
【0016】
すなわち、本発明の水冷パイプを被覆する断熱構造は、水冷パイプの周囲を囲むように軸方向に連接して設置された複数の環状ブロックと、
前記複数の環状ブロックと前記水冷パイプとの間に充填された不定形耐火物が硬化してなる支持構造体と
を備えた水冷パイプを被覆する断熱構造であって、前記環状ブロックは、環状に組み合わせた2個以上の分割ブロックと、前記分割ブロックの外周側に取り外し可能に装着され、前記分割ブロック同士を固定する固定具とからなり、
前記分割ブロックは、内周面に前記不定形耐火物によって支持されるための凹凸構造を有し、前記支持構造体から分離可能であることを特徴とする。
【0017】
本発明の断熱構造において、前記分割ブロックは、外周面に前記固定具によって前記分割ブロック同士が環状に組み合わされて固定されるための構造を有し、前記固定具は前記構造に装着されているのが好ましい。
【0018】
本発明の断熱構造において、前記不定形耐火物は不定形耐火キャスタブル又は耐火粉末であるのが好ましい。
【0019】
本発明の水冷パイプを被覆する断熱構造の施工方法は、
2個以上の分割ブロックの外周側に取り外し可能に固定具を装着することにより、前記分割ブロックを環状に組み合わせて環状ブロックを形成する工程と、
複数の前記環状ブロックを水冷パイプの周囲を囲むように軸方向に連接して設置する工程と、
前記複数の環状ブロックと前記水冷パイプとの間に不定形耐火物を充填及び硬化させ不定形耐火物からなる支持構造体を形成する工程とを有し、
前記分割ブロックは、内周面に前記不定形耐火物によって支持されるための凹凸構造を有し、前記支持構造体から分離可能であることを特徴とする。
【0020】
本発明の施工方法において、前記分割ブロックは外周面に前記固定具によって前記分割ブロック同士が環状に組み合わされて固定されるための構造を有し、前記固定具を前記構造に装着するのが好ましい。
【0021】
本発明の施工方法において、前記不定形耐火物は不定形耐火キャスタブル又は耐火粉末であるのが好ましい。
【0022】
本発明の補修方法は、本発明の断熱構造、又は本発明の施工方法によって施工される断熱構造を補修する方法であって、
補修対象の分割ブロックを固定している固定具を取り外して、前記分割ブロックを引き抜く、又は解体することで取り除く工程と、
前記取り除いた分割ブロックに置換して、新しい分割ブロックを挿入して、固定具によって環状に組み合わせて固定し環状ブロックを形成する工程と
を有することを特徴とする。
【0023】
本発明の分割ブロックは、本発明の断熱構造、本発明の施工方法、又は本発明の補修方法において用いられる分割ブロックであって、
前記固定具によって前記分割ブロック同士が環状に組み合わされて固定されるための構造と、前記内周面に不定形耐火物によって支持されるための凹凸構造とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の水冷パイプを被覆する断熱構造は、環状に組み合わせた分割ブロックを筒状に連接して設置した後に不定形耐火物を流し込んで充填することで施工し、スタッドを使用せず、溶接も必要としないため、施工が簡便化され、熱損失を低減することができる。また部分補修を行う際には、損耗した分割ブロックを交換するだけでよいため、補修時間が短縮され、解体量も少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】分割ブロックと固定具とからなる環状ブロックの一例を示す模式図である。
【
図2】分割ブロックと固定具とからなる環状ブロックの他の一例を示す模式図である。
【
図3】分割ブロックと固定具とからなる環状ブロックの更に他の一例を示す模式図である。
【
図4】分割ブロックと固定具とからなる環状ブロックの更に他の一例を示す模式図である。
【
図5】内周面に面取部が設けられた分割ブロックの一例を示す模式図である。
【
図6】内周面に凸部が設けられた分割ブロックの一例を示す模式図である。
【
図7】水冷パイプの周囲を囲むように軸方向に連接して設置された複数の環状ブロックを示す模式図である。
【
図8】複数の環状ブロックと水冷パイプとの間に不定形耐火物を充填した様子を示す模式図である。
【
図9】充填された不定形耐火物が硬化して得られた長手方向に対する支持構造体の一例を示す模式図である。
【
図10】充填された不定形耐火物が硬化して得られた長手方向に対する支持構造体の他の一例を示す模式図である。
【
図11】充填された不定形耐火物が硬化して得られた長手方向に対する支持構造体の更に他の一例を示す模式図である。
【
図12】実施例で作製した試験用の断熱構造体を示す模式図である。
【
図13】断熱構造体の評価試験に用いた試験用電気炉を示す模式断面である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[1] 水冷パイプを被覆する断熱構造
本発明の水冷パイプを被覆する断熱構造は、水冷パイプの周囲を囲むように軸方向に連接して設置された複数の環状ブロックと、
前記複数の環状ブロックと前記水冷パイプとの間に充填された不定形耐火物が硬化してなる支持構造体と
を備えた水冷パイプを被覆する断熱構造であって、前記環状ブロックは、環状に組み合わせた2個以上の分割ブロックと、隣接する前記分割ブロック同士を固定する取り外し可能な固定具とからなり、
前記分割ブロックは、内周面に前記不定形耐火物によって支持されるための凹凸構造を有することを特徴とする。
【0027】
(1) 環状ブロック
環状ブロックは、2個以上の分割ブロックからなり、前記分割ブロックを環状に組み合わせることによって形成される。すなわち、各分割ブロックは環状ブロックを周方向に複数個に分割した形状を有している。環状ブロックは、水冷パイプの周囲を囲むように、軸方向(水冷パイプの長手方向)に複数個を筒状に連接して設置される。
【0028】
(a)分割ブロック
分割ブロックは、外周面に固定具によって分割ブロック同士が環状に組み合わされて固定されるための構造を有する。例えば、
図1は、2個の分割ブロック1a,1bから構成される環状ブロック1の一例を示す。環状ブロック1は、2個の分割ブロック1a,1bからなり、分割ブロック1a,1bの外周面に設けた突起部2a,2bに固定ボルト3aを挿通させ、ナット3b留めすることによって隣接する分割ブロック1a,1b同士を固定する。このような構成により分割ブロックの半径方向への動きを抑えることができるため、分割ブロックの脱落やせり出し等を防止することができるとともに、解体時は固定ボルト3aを外すことで分割ブロックの半径方向に対する支持を取り外すことができるため、部分解体が可能となる。
【0029】
分割ブロックは、内周面に前記不定形耐火物によって支持されるための凹凸構造を有する。分割ブロックの内周面の凹凸構造は、硬化した不定形耐火物によって支持されることのできる構造であれば特に限定されないが、例えば、
図5に示すような、分割ブロックの長手方向端部の内周面側に面取部6を設けた構造が挙げられる。この場合、この分割ブロックを環状に組み合わせてなる環状ブロックを連接したときに、環状ブロックと環状ブロックとの接合部の内周面に溝部が形成されるので、硬化した不定形耐火物によって支持されることが可能となる。その他の例として、
図6に示すような、分割ブロックの内周面に凸部が形成された構造、分割ブロックの内周面に凹部が形成された構造、分割ブロックの内周面に溝部が形成された構造、分割ブロックの内周面に突条部が形成された構造等が挙げられる。これらの構造を2種以上組み合わせて用いても良い。
【0030】
1つの環状ブロックを構成する複数の分割ブロックは同じ形状であっても良いし異なる形状であっても良いが、加工にかかるコスト及び取り扱い性の観点から、複数の分割ブロックは同じ形状を有しているのが好ましい。1つの環状ブロックを構成する分割ブロックの数は、特に規定しないが、加工にかかるコスト及び取り扱い性を考慮すると2~4個であるのが好ましい。
【0031】
分割ブロックは、硬化前の支持構造体を半径方向に支持するための支持体として働くと同時に、断熱材としても働くため、耐熱性の材料によって形成され、多孔質なCaO・6Al2O3質あるいは中空のアルミナ質等からなるのが好ましい。
【0032】
(b)固定具
分割ブロックを半径方向に支持するための固定具は解体の際に容易に取り外せることが望ましい。
図1は固定ボルト3a及びナット3bからなる固定具を示したが、この他にも
図2及び
図3に示すようなU字型固定具4,4’を使用した固定、
図4に示すようなワイヤー5を分割ブロック1a,1bの外周に巻きつけることによる固定等が考えられる。解体の際は固定具を切断する等して取り除いても良い。固定具の形態はこれらの例に限られない。
【0033】
固定具の材質は加熱炉のように1300℃以上の高温雰囲気に晒される場合はセラミックやカンタル等の耐熱合金が好ましい。低温熱処理炉のような600℃未満の雰囲気の場合はステンレス製等の固定具を使用しても構わない。また加熱炉ではスケールにも晒されるため、固定具に焼付き防止剤やコーティング剤を塗布したりするなどしても良い。
【0034】
(2)支持構造体
分割ブロックの半径方向に対する支持とは別に、損耗した分割ブロックを取り除く際、他の分割ブロック(環状ブロック)が崩落しないように長手方向に対する支持が必要であるが、本発明では長手方向に対する支持を、環状ブロックと水冷パイプとの間隙に充填した不定形耐火物を成型して得られる凹凸構造により付与する。すなわち、本発明において、不定形耐火物を硬化してなる支持構造体は、断熱材として働くとともに、分割ブロック(環状ブロック)を支持する働きも有する。
【0035】
まずあらかじめ
図5に示すように、長手方向端部の内周面側に面取部6を設けた分割ブロック1a,1bを用いて環状ブロックを構成する。このように面取部6を有する分割ブロックを用いることにより、長手方向端部の内周面側に面取部6を有する環状ブロックが形成される。次に、
図7に示すように、複数個の環状ブロック1,1’,1’’を連接して水冷パイプ10の外周に設置する。複数個の環状ブロックを連接することにより、環状ブロックと環状ブロックとの接合部分の内周面に、面取部6同士が対向してなる凹部(溝部)が形成される。
図8に示すように、水冷パイプ10と環状ブロック1,1’,1’’との間に設けた隙間及び隣接する環状ブロックの接合部分に形成された凹部(溝部)に不定形耐火物11を流し込んで充填する。不定形耐火物11が硬化することにより、長手方向に対して分割ブロックを支持する支持構造が形成される。硬化した支持構造体は、
図9に示すように、環状ブロックの内周面に形成された凹部(溝部)に対応する位置に突条部が形成された構造を有する。なお図示していないが、通常水冷パイプ10の周りには断熱材(断熱ブランケットなど)による被覆が施されている。
【0036】
部分補修のため、分割ブロックは硬化した不定形耐火物(支持構造体)から分離可能とする必要がある。分離可能とは、不定形耐火物をほとんど破壊せずに分割ブロックのみを取り外すことができることを言う。分離可能とするためには、例えば、分割ブロックと不定形耐火物とが反応しないように別組成とする、分割ブロックの内周面に剥離剤をあらかじめ塗っておく、テープやファイバーブランケットを分割ブロックの内周面に張っておく等の方法が考えられる。
【0037】
不定形耐火物は環状ブロック(分割ブロック)と水冷パイプとの間に充填されるため、分割ブロックの断熱性が高ければ不定形耐火物の組成は断熱性よりも硬化後の強度や流し込み流動性を重視しても良い。一方で不定形耐火物を断熱性の高い組成とし、分割ブロックを耐熱スポーリング性や耐スケール性を重視する組成としても良い。また、水冷パイプに断熱性の高いファイバーブランケット等の断熱材を被覆しておき、ファイバーブランケット、不定形耐火物、分割ブロックの三層構造としても良い。
【0038】
不定形耐火物は十分に充填されるだけの流動性を備え、硬化後にブロックを支持できる強度を発現できれば良い。また冷却後に不定形耐火物による支持構造体の径が変わると新規のブロックを施工する際手間がかかるため、残存膨張率は0%に近いことが望ましい。従って、そのような条件を満たす充填材であれば不定形耐火物以外も使用可能であるが、自硬化性の不定形耐火キャスタブルもしくは熱硬化性の耐火粉末を使用することが好ましい。
【0039】
支持構造体の凹凸部の形状は、損耗した分割ブロックを引き抜いた際に崩落しない支持強度を不定形耐火物に与えうる構造であればその形態は問わない。例えば、
図9に示す竹の節のような、突条部が形成された支持構造や、
図10に示す凸部11bを有する柱状の支持構造等が考えられる。また、分割ブロックの内周面に
図6に示すような凸部7を設け、
図11に示すように凹部11cを有する柱状の支持構造体としても良い。なお、支持構造体の凹凸部の形状はこれらの例に限られない。
【0040】
[2] 水冷パイプを被覆する断熱構造の施工方法
水冷パイプを被覆する断熱構造を施工する本発明の方法は、
2個以上の分割ブロックを取り外し可能な固定具によって環状に組み合わせて環状ブロックを形成する工程と、
複数の前記環状ブロックを水冷パイプの周囲を囲むように軸方向に積み重ねて設置する工程と、
前記複数の環状ブロックと前記水冷パイプとの間に不定形耐火物を充填及び硬化させ不定形耐火物からなる支持構造体を形成する工程とを有し、
前記分割ブロックは、内周面に前記不定形耐火物によって支持されるための凹凸構造を有することを特徴とする。
【0041】
本発明は水冷パイプが垂直方向(鉛直方向)に設置されている場合に高い効果を発揮するが、水冷パイプの設置方向は特に限定されない。例えば、水冷パイプが地面に対して水平方向に設置されている場合においても本発明を適用可能である。この場合、環状ブロックの落下防止、分割ブロック間の目地開き抑制、固定具を取り外すことで損耗したブロックを容易に交換可能にするといった効果が期待される。
【0042】
[3] 水冷パイプを被覆する断熱構造の補修方法
本発明の水冷パイプを被覆する断熱構造において、損耗した分割ブロックを交換補修する際は、半径方向に支持構造体を支持する固定具を取り外して対象の分割ブロックを引き抜く、又は解体することで取り除き、前記取り除いた分割ブロックに置換して、新しい分割ブロックを挿入して、再び固定具で固定し環状ブロックを形成するだけでよい。スタッド等の再溶接の手間が無く、また分割ブロックよりも内側にある断熱構造を解体せずにそのまま使用できるため、経済的にも優位である。
【実施例】
【0043】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0044】
実施例1
CaO・6Al
2O
3(以下CA6と略する。)を主成分とした多孔質で断熱性の高いCA6質プレキャストブロックからなり、
図1に示す外周構造と、
図5に示す内周面形状とを有する分割ブロックを作製し、環状に組み合わせて環状ブロックを作製した。分割ブロック1a,1bを固定するための固定具(図示せず)は、カンタル製のボルト及びナットを用いた。この環状ブロックを、
図12(a)に示すように、水冷パイプ10の周囲を囲むように3個積み重ねて配置し、3個の環状ブロック1,1’,1’’と水冷パイプ10との間に、熱膨張率が低く強度の高いアルミナ質の組成を有する不定形耐火物11を充填及び硬化させて、本発明の断熱構造からなる断熱構造体20を作製した。なお水冷パイプ10の周りにはあらかじめ断熱材12(断熱ブランケット)で被覆を施しておいた。硬化後の不定形耐火物は、
図9に示す形状であった。これらの構成を表1に示す。
【0045】
作製した断熱構造体20の水冷パイプ10の上部及び下部に蓋をして、
図12(b)に示すように、上部の蓋13及び水冷パイプ10の上部側面に水冷パイプ10内に冷却水を循環させるための注水ホース14a及び排水ホース14bをそれぞれ接続した。この断熱構造体20を、
図13に示すように、試験用電気炉21の天井部に設けた開口部22から挿入し、試験用電気炉21内の加熱室22に設置した。試験用電気炉21は、ほぼ立方体の加熱室22を有し、挿入した断熱構造体20を側面から加熱するための発熱体24と、断熱構造体20及び発熱体22の全体を取り囲んで保温するための断熱材25aとからなる。断熱構造体20を挿入した後で、開口部22の隙間に断熱材25bを充填し蓋をし、断熱構造体20の評価試験を行った。このような構成の試験用電気炉21を使用することにより実機に近い温度分布条件下で断熱構造体20の試験が可能である。
【0046】
実施例2~4
分割ブロック及び固定具、並びに不定形耐火物の材質(材料)及び形状を表1-1及び表1-2に示すように変更した以外は実施例1と同様にして本発明の断熱構造からなる断熱構造体を作製した。更に、実施例1と同様にしてこれらの断熱構造体を試験用電気炉21に設置し、断熱構造体の評価試験を行った。
【0047】
【表1-1】
注(1):曲げ強度及び圧縮強度は800℃焼成後の値
【0048】
【表1-2】
注(1):曲げ強度及び圧縮強度は800℃焼成後の値
【0049】
実施例1~4の断熱構造体の評価試験は、室温(25℃)から1300℃まで昇温し、1300℃で24時間保持した後、室温となるまで自然冷却するという工程を1サイクルとし、3サイクル繰り返した後、分割ブロックの外観を目視により観察し亀裂の有無を確認し、更に下段の分割ブロックを取り外し、新規の分割ブロックと交換可能であるかを評価した。
【0050】
実施例1~4ともに、半径方向に対する固定具を取り外すだけで分割ブロックを引き抜くことができた。引き抜いた際に上段のブロックが落ち込むこともなく、長手方向に対する支持が有効であった。また、分割ブロックの外観に亀裂等もなかった。ただし実施例4については、固定具のSUS310が固着し、切断する必要があった。
【0051】
更に実施例1で作製した断熱構造を、鉄鋼生産工程における熱間圧延用のウォーキングビーム式加熱炉内の水冷パイプを被覆する断熱構造に適用した。加熱状態での炉内雰囲気は1100~1300℃であり、補修は冷間で行った。
【0052】
加熱条件下で約3カ月使用した後、最下段の分割ブロックを含む複数個所の分割ブロックを引き抜き、新規分割ブロックと交換可能であるかを評価した。その結果、交換前の分割ブロックの表面に微亀裂は見られたが、分割ブロックに大きな損傷はなかった。部分補修の際は、いずれもボルトナットを外すだけで容易に目的の分割ブロックを引き抜くことができ、新規分割ブロックを挿入することで交換することができた。また、溶接を必要としないため施工時間も大幅に短縮することができた。
【符号の説明】
【0053】
1,1’,1’’・・・環状ブロック
1a,1b・・・分割ブロック
2a,2b・・・突起部
3a・・・固定ボルト
4,4’・・・U字型固定具
5・・・ワイヤー
6・・・面取部
7・・・凸部
10・・・水冷パイプ
11・・・不定形耐火物
11a・・・突条部
12・・・断熱材
13・・・蓋
14a・・・注水ホース
14b・・・排水ホース
21・・・試験用電気炉
22・・・開口部
23・・・加熱室
24・・・発熱体
25a,25b・・・断熱材