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特許7202243ポリオレフィン系樹脂用防曇剤及びその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-27
(45)【発行日】2023-01-11
(54)【発明の名称】ポリオレフィン系樹脂用防曇剤及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C08K 5/17 20060101AFI20221228BHJP
   C08K 5/103 20060101ALI20221228BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20221228BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20221228BHJP
   C08L 23/12 20060101ALI20221228BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
C08K5/17
C08K5/103
C08L23/00
C09K3/00 R
C08L23/12
C08J5/18
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019071104
(22)【出願日】2019-04-03
(65)【公開番号】P2020169261
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000188951
【氏名又は名称】松本油脂製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】後藤 佳希
(72)【発明者】
【氏名】重田 啓彰
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-131604(JP,A)
【文献】特開2008-266463(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03245864(EP,A1)
【文献】特開平04-279643(JP,A)
【文献】特開平11-168991(JP,A)
【文献】特開2016-060909(JP,A)
【文献】特開平10-045994(JP,A)
【文献】特開2013-209613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
C09K 3/18
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物と脂肪酸とのエステルである成分(A)と、グリセリンと脂肪酸とのエステルである成分(B)と、脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物である成分(C)を含むポリオレフィン系樹脂用防曇剤であって、
前記成分(A)が脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物と脂肪酸とのジエステル化物(A-2)を含み、
前記ジエステル化物(A-2)が下記一般式(2)で示される化合物であり、
前記成分(B)がグリセリンと脂肪酸とのトリエステル化物(B-3)を含み、さらにグリセリンと脂肪酸とのモノエステル化物(B-1)及び/またはグリセリンと脂肪酸とのジエステル化物(B-2)を含み、
ポリオレフィン系樹脂用防曇剤のアミン価が15~45mgKOH/gであり、
ポリオレフィン系樹脂用防曇剤の水酸基価(OHv mgKOH/g)とケン化価(Sv mgKOH/g)との比(OHv/Sv)が0.4~1.4である、
ポリオレフィン系樹脂用防曇剤。
【化2】
(式中、R 、R 及びR はアルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基又はアルキニル基であり、その炭素数はR =8~22、R 及びR =7~21であり、c及びdは1以上でc+d=2~3を満足する数である。)
【請求項2】
前記成分(B)の水酸基価(OHv mgKOH/g)とケン化価(Sv mgKOH/g)との比(OHv/Sv)が0.5~1.3である、請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂用防曇剤。
【請求項3】
ポリオレフィン系樹脂用防曇剤全体に占める前記成分(A-2)の重量割合が1~80重量%であり、前記成分(B)の重量割合が5~80重量%であり、前記トリエステル化物(B-3)の重量割合が0.3~64重量%であり、前記成分(C)の重量割合が0.1~30重量%である、請求項1又は2に記載のポリオレフィン系樹脂用防曇剤。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂用防曇剤と、ポリオレフィン系樹脂を含む、樹脂組成物。
【請求項5】
樹脂組成物全体に占める前記防曇剤の重量割合が0.01~30重量%である、請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
ポリプロピレンフィルムである、請求項又はに記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリオレフィン系樹脂用防曇剤、前記防曇剤を含有する樹脂組成物及び前記樹脂組成物を用いたポリオレフィン系樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂は透明性、加工性、剛性、絶縁性及び防湿性が良好であることから、食品や衣料品等の包装材料や家電製品部品、自動車内装部品などに広く使用されている。ポリオレフィン製品は、絶縁性に優れる反面、摩擦等によって静電気が発生しやすく、発生した静電気により、人体へのショック、空気中の粉塵等が吸着することによる成形品の汚れ、電気機器への電気障害等の種々のトラブルを発生させることがある。
従来、これらのトラブルを防ぐために、ポリオレフィン樹脂中に帯電防止剤(各種界面活性剤)を練り込み、静電気によるトラブルを防ぐことが行われてきた。この場合、いわゆる練り込み型帯電防止剤では、帯電防止剤が逐次表面に移行(ブリード)し、表面に導電膜を形成することにより、帯電防止効果を発現するものと推測されている。
【0003】
またポリオレフィン樹脂は疎水性であり樹脂表面のぬれ性が著しく低いため、水分含有食品(果物、野菜、食肉等)の包装等が多量の水分にさらされる条件において、包装フィルムの内面に水滴が付着し曇りが発生することがある。この曇りにより、内容物が見えづらくなり、商品価値が減ずるばかりではなく、結露した水滴が包装された食品に付着することにより、食品の変質を促進してしまうことがある。
これらの問題を解決するためにやはり各種界面活性剤からなる防曇剤を樹脂に練り込み、樹脂表面の濡れ性を上げることにより表面に水滴を形成させないようにする方法が採用されている
【0004】
防曇剤としては、特許文献1ではグリセリン脂肪酸エステルとジグリセリン脂肪酸エステル、アルキルジエタノールアミンの3成分系の防曇剤・帯電防止剤が提案されている。また、特許文献2ではジグリセリン脂肪酸エステルとソルビタン脂肪酸エステルを用いた防曇剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-286877号公報
【文献】特開平11-302462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の防曇剤・帯電防止剤では、成形したフィルムの経時変化に伴いブリード過多となり、防曇剤がフィルム表面で凝集を起こし、フィルムの防曇性や透明性が損なわれ、防曇性が長期間維持できないことが確認された。
また、特許文献2の防曇剤では、ブリード量が多い特殊な状況でしか性能が発揮されないために、通常の条件で成形したフィルムでは防曇性が発揮されず、また防曇性が長期間維持できないことが確認された。
【0007】
本発明の目的は、成形後速やかに防曇性を発現し、長期間にわたり防曇性を維持するポリオレフィン系樹脂用防曇剤、それを含む樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、特定の成分を含み、特定の性能を示すポリオレフィン樹脂用防曇剤であれば、上記課題を解決することを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明のポリオレフィン系樹脂用防曇剤は、脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物と脂肪酸とのエステルである成分(A)と、3価のアルコールと脂肪酸とのエステルである成分(B)を含むポリオレフィン系樹脂用防曇剤であって、前記成分(A)が脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物と脂肪酸とのジエステル化物(A-2)を含み、ポリオレフィン系樹脂用防曇剤のアミン価が15~45mgKOH/gであり、ポリオレフィン系樹脂用防曇剤の水酸基価(OHv)とケン化価(Sv)との比(OHv/Sv)が0.4~1.4である。
【0010】
前記成分(B)の水酸基価(OHv)とケン化価(Sv)との比(OHv/Sv)が0.5~1.3であると好ましい。
脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物である成分(C)をさらに含むと好ましい。
【0011】
また、本発明のポリオレフィン系樹脂用防曇剤は、脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物と脂肪酸とのエステルである成分(A)と、3価のアルコールと脂肪酸とのエステルである成分(B)を含むポリオレフィン系樹脂用防曇剤であって、前記成分(B)が3価のアルコールと脂肪酸とのトリエステル化物(B-3)を含み、ポリオレフィン系樹脂用防曇剤のアミン価が15~45mgKOH/gであって、ポリオレフィン系樹脂用防曇剤の水酸基価(OHv)とケン化価(Sv)との比(OHv/Sv)が0.4~1.4である。
【0012】
前記成分(B)の水酸基価(OHv)とケン化価(Sv)との比(OHv/Sv)が0.5~1.3であると好ましい。
前記成分(A)が脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物と脂肪酸とのジエステル化物(A-2)を含むと好ましい。
脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物である成分(C)をさらに含むと好ましい。
【0013】
本発明の樹脂組成物は、上記ポリオレフィン系樹脂用防曇剤と、ポリオレフィン系樹脂を含む、樹脂組成物である。
樹脂組成物全体に占める前記防曇剤の重量割合が0.01~30重量%であると好ましい。
ポリプロピレンフィルムであると好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリオレフィン系樹脂用防曇剤は、成形後速やかに防曇性を発現し、長期間にわたり防曇性を維持する。
本発明の樹脂組成物は、長期間にわたり防曇性が維持される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のポリオレフィン系樹脂用防曇剤(以下、単に防曇剤ということがある)は、脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物と脂肪酸とのエステルである成分(A)(以下、単に成分(A)ということがある)と、3価のアルコールと脂肪酸とのエステルである成分(B)(以下、単に成分(B)ということがある)を含むポリオレフィン系樹脂用防曇剤である。まずは、防曇剤を構成する成分について詳細に説明する。
【0016】
〔成分(A)〕
成分(A)は脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物と脂肪酸とのエステルであり、ポリオレフィン系樹脂と防曇剤とを相溶させる成分である。
【0017】
成分(A)はそのエステル化度の相違によって、モノエステルである脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物と脂肪酸とのモノエステル化物(A-1)(以下、単に成分(A-1)ということがある)と、ジエステルである脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物と脂肪酸とのジエステル化物(A-2)(以下、単に成分(A-2)ということがある)が存在する。
本発明の防曇剤においては、一つの形態として、成分(A)は成分(A-2)を必須に含む。成分(A)が成分(A-2)を含まない場合、ポリオレフィン系樹脂と防曇剤との相溶性が不足するためにブリードに偏りが生じ、表面の親水性が不均一となるために長期間にわたり防曇性を維持できない。
成分(A)は、成分(A-2)単独で構成されていてもよく、成分(A-1)と成分(A-2)の混合物で構成されていてもよい。
【0018】
防曇剤全体に占める成分(A)の重量割合は、ポリオレフィン系樹脂への相溶性の観点から、好ましくは10~80重量%である。成分(A)の重量割合が10重量%未満であると、ポリオレフィン系樹脂との相溶性が低下し、ブリード過多による透明性不良を起こすことがあり、80重量%超であると防曇成分が不足することで防曇性が低下することがある。成分(A)の重量割合の上限は、より好ましくは70重量%、さらに好ましくは60重量%である。一方、成分(A)の重量割合の下限は、より好ましくは15重量%、さらに好ましくは20重量%である。
【0019】
〔成分(A-1)〕
成分(A)は、成分(A-1)を含んでも良い。成分(A)が成分(A-1)を含むと、防曇成分とポリオレフィン系樹脂との相溶性が良好となるため、好ましい。
【0020】
成分(A-1)が下記一般式(1)で示される化合物であると、好ましい。
【化1】
(式中、R、Rはアルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基又はアルキニル基であり、その炭素数はR=8~22、R=7~21であり、a及びbは0以上でa+b=2~3を満足する数である。)
【0021】
式(1)中、アルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基又はアルキニル基としては、直鎖状であっても分岐状であってもよく、本願効果を奏する観点から、直鎖状であると好ましい。
の炭素数は8~22であり、より好ましくは12~18である。Rの炭素数が8未満であると、ポリオレフィン系樹脂との相溶性が低下し、長期間にわたり防曇性を維持できないことがあり、また、ブリード過多による透明性不良を起こすことがある。一方、炭素数が22を超えると、防曇剤中の防曇成分のブリードが阻害され、防曇性が低下する事がある。
の炭素数は7~21であり、より好ましくは11~17である。Rの炭素数が7未満であると、ポリオレフィン系樹脂との相溶性が低下し、長期間にわたり防曇性を維持できないことがあり、また、ブリード過多による透明性不良を起こすことがある。一方、炭素数が21を超えると、防曇剤中の防曇成分のブリードが阻害され、防曇性が低下することがある。
及びRの炭素数はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0022】
成分(A-1)としては、特に限定はないが、たとえばラウリルジエタノールアミンモノラウレート、ラウリルジエタノールアミンモノミリステート、ラウリルジエタノールアミンモノパルミテート、ラウリルジエタノールアミンモノステアレート、ラウリルジエタノールアミンモノオレート等のラウリルジエタノールアミンモノエステル;ミリスチルジエタノールアミンモノラウレート、ミリスチルジエタノールアミンモノミリステート、ミリスチルジエタノールアミンモノパルミテート、ミリスチルジエタノールアミンモノステアレート、ミリスチルジエタノールアミンモノオレート等のミリスチルジエタノールアミンモノエステル;パルミチルジエタノールアミンモノラウレート、パルミチルジエタノールアミンモノミリステート、パルミチルジエタノールアミンモノパルミテート、パルミチルジエタノールアミンモノステアレート、パルミチルジエタノールアミンモノオレート等のパルミチルジエタノールアミンモノエステル;ステアリルジエタノールアミンモノラウレート、ステアリルジエタノールアミンモノミリステート、ステアリルジエタノールアミンモノパルミテート、ステアリルジエタノールアミンモノステアレート、ステアリルジエタノールアミンモノオレート等のステアリルジエタノールアミンモノエステル;オレイルジエタノールアミンモノラウレート、オレイルジエタノールアミンモノミリステート、オレイルジエタノールアミンモノパルミテート、オレイルジエタノールアミンモノステアレート、オレイルジエタノールアミンモノオレート等のオレイルジエタノールアミンモノエステル等が挙げられ、1種又は2種以上併用してもよい。
【0023】
〔成分(A-2)〕
成分(A-2)は、上述のように本発明の防曇剤の1つの形態として、成分(A)に必須に含まれるものである。成分(A-2)が下記一般式(2)で示される化合物であると、防曇剤とポリオレフィン系樹脂との相溶性の観点から、好ましい。
【化2】
(式中、R、R及びRはアルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基又はアルキニル基であり、その炭素数はR=8~22、R、R=7~21であり、c及びdは1以上でc+d=2~3を満足する数である。)
【0024】
式(2)中、アルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基又はアルキニル基としては、直鎖状であっても分岐状であってもよく、本願効果を奏する観点から、直鎖状であると好ましい。
の炭素数は8~22であり、12~18がさらに好ましい。炭素数が8未満であると、ポリオレフィン系樹脂との相溶性が低下し、長期間にわたり防曇性を維持できないことがあり、また、ブリード過多による透明性不良を起こすことがある。一方、炭素数が22を超えると、防曇剤中の防曇成分のブリードが阻害され、防曇性が低下することがある。
及びRの炭素数は7~21であり、11~17がさらに好ましい。炭素数が7未満であると、ポリオレフィン系樹脂との相溶性が低下し、長期間にわたり防曇性を維持できないことがあり、また、ブリード過多による透明性不良を起こすことがある。一方、炭素数が21を超えると、防曇剤中の防曇成分のブリードが阻害され、防曇性が低下し、速やかに防曇性を発現できないことがある。
、R及びRの炭素数はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0025】
防曇剤全体に占める成分(A-2)の重量割合は、特に限定はないが、防曇剤とポリオレフィン樹脂と相溶性の観点から、好ましくは1~80重量%である。防曇剤全体に占める成分(A-2)の重量割合が1重量%未満であると、ポリオレフィン系樹脂との充分な相溶性が得られず、長期間にわたり防曇性を維持できないことがあり、80重量%超であると、防曇成分の量が不足することで充分な防曇性が得られず、速やかに防曇性を発現できないことがある。防曇剤全体に占める成分(A-2)の重量割合の上限は、より好ましくは70重量%、さらに好ましくは60重量%である。一方、防曇剤全体に占める成分(A-2)の重量割合の下限は、より好ましくは3重量%、さらに好ましくは5重量%である。
【0026】
成分(A-2)としては、特に限定されないが、たとえば、ラウリルジエタノールアミンジラウレート、ラウリルジエタノールアミンジミリステート、ラウリルジエタノールアミンジパルミテート、ラウリルジエタノールアミンジステアレート、ラウリルジエタノールアミンジオレート等のラウリルジエタノールアミンジエステル;ミリスチルジエタノールアミンジラウレート、ミリスチルジエタノールアミンジミリステート、ミリスチルジエタノールアミンジパルミテート、ミリスチルジエタノールアミンジステアレート、ミリスチルジエタノールアミンジオレート等のミリスチルジエタノールアミンジエステル;パルミチルジエタノールアミンジラウレート、パルミチルジエタノールアミンジミリステート、パルミチルジエタノールアミンジパルミテート、パルミチルジエタノールアミンジステアレート、パルミチルジエタノールアミンジオレート等のパルミチルジエタノールアミンジエステル;ステアリルジエタノールアミンジラウレート、ステアリルジエタノールアミンジミリステート、ステアリルジエタノールアミンジパルミテート、ステアリルジエタノールアミンジステアレート、ステアリルジエタノールアミンジオレート等のステアリルジエタノールアミンジエステル;オレイルジエタノールアミンジラウレート、オレイルジエタノールアミンジミリステート、オレイルジエタノールアミンジパルミテート、オレイルジエタノールアミンジステアレート、オレイルジエタノールアミンジオレート等のオレイルジエタノールアミンジエステル等が挙げられ、1種又は2種以上併用してもよい。
【0027】
成分(A-1)及び成分(A-2)の合成法については、特に限定はないが、アルキルジエタノールアミンと脂肪酸をエステル化反応する際に脂肪酸の反応比を調整することにより混合物を得る方法や、アルキルジエタノールアミンと脂肪酸を反応させた後に精製して、それぞれを別個に得る方法が挙げられる。
【0028】
成分(A)が成分(A-1)及び成分(A-2)を含む場合、成分(A-1)と成分(A-2)の重量比((A-1)/(A-2))は、特に限定はないが、好ましくは1/99~90/10である。(A-1)/(A-2)が1/99未満であると、防曇剤の親水性が不足し、防曇性が低下することがある。一方、90/10超であると、ポリオレフィン系樹脂との相溶性が低下し、ブリード過多による透明性不良を起こすことがある。(A-1)/(A-2)の上限は、より好ましくは85/15、さらに好ましくは80/20である。一方、(A-1)/(A-2)の下限は、より好ましくは15/85、さらに好ましくは20/80である。
【0029】
〔成分(B)〕
成分(B)は3価のアルコールと脂肪酸とのエステルであり、ポリオレフィン樹脂へ防曇性を付与し、さらにポリオレフィン系樹脂への相溶性も向上させる成分である。また、防曇剤は成分(B)を含むことで、ポリオレフィン樹脂へ帯電防止性も付与することができる。
【0030】
3価のアルコールとしては、特に限定はないが、たとえば、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,4-ブタントリオール、1,3,5-ペンタントリオール等が挙げられる。上記3価のアルコールの中でも、防曇性をより向上させる観点から、グリセリンが好ましい。
【0031】
成分(B)が炭素数8~22の脂肪酸残基を有すると、ポリオレフィン系樹脂との相溶性が向上し、防曇性に優れるために好ましい。本発明において脂肪酸残基とは、脂肪酸(RCOOH;たとえば、Rは炭化水素基)から水酸基を除いた有機基であるアシル基(RCO-)を意味する。
【0032】
成分(B)が有する脂肪酸残基の炭素数は、好ましくは8~22、さらに好ましくは12~18である。炭素数が8未満であると、ポリオレフィン系樹脂との相溶性が低下し、長期的な防曇性能を維持できないことがあり、また、ブリード過多による透明性不良を起こすこともある。一方、炭素数が22を超えると樹脂表面へのブリード量が過少となり防曇性が不足することがある。
【0033】
成分(B)はそのエステル化度によって、3価のアルコールと脂肪酸とのモノエステル化物(B-1)(以下、単に成分(B-1)ということがある)、3価のアルコールと脂肪酸とのジエステル化物(B-2)(以下、単に成分(B-2)ということがある)、及び3価のアルコールと脂肪酸とのトリエステル化物(B-3)(以下、単に成分(B-3)ということがある)のうちの少なくとも1種を含む。
【0034】
成分(B)は、防曇性及び相溶性のバランスの観点から、成分(B-1)、成分(B-2)、及び成分(B-3)のうち少なくとも2種以上の混合物から構成されると好ましい。
本発明の防曇剤の1つの形態として、成分(B)は、成分(B-3)を必須に含む。成分(B)が成分(B-3)を含まない場合、防曇成分のブリード過多により、長期間にわたり防曇性を維持できない。
【0035】
成分(B-1)としては、たとえば、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノミリステート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレート等のグリセリン脂肪酸モノエステル;トリメチロールプロパンモノラウレート、トリメチロールプロパンモノミリステート、トリメチロールプロパンモノパルミテート、トリメチロールプロパンモノステアレート、トリメチロールプロパンモノオレート等のトリメチロールプロパン脂肪酸モノエステル;1,3,5-ペンタントリオールモノラウレート、1,3,5-ペンタントリオールモノミリステート、1,3,5-ペンタントリオールモノパルミテート、1,3,5-ペンタントリオールモノステアレート、1,3,5-ペンタントリオールモノオレート等の1,3,5-ペンタントリオール脂肪酸モノエステルなどが挙げられ、1種または2種以上を併用してもよい。
【0036】
成分(B)が成分(B-1)を含む場合、成分(B)に占める成分(B-1)の重量割合は、特に限定はないが、5~90重量%であると好ましい。成分(B)に占める成分(B-1)の重量割合が5重量%未満であると、防曇性が低下することがあり、90重量%超であると、防曇成分のブリード過多による透明性不良を起こすことがある。成分(B)に占める成分(B-1)の重量割合の上限はより好ましくは85重量%、さらに好ましくは80重量%、特に好ましくは75重量%である。一方、成分(B)に占める成分(B-1)の重量割合の下限はより好ましくは8重量%、さらに好ましくは10重量%、特に好ましくは15重量%である。
【0037】
成分(B-2)としては、たとえばグリセリンジラウレート、グリセリンジミリステート、グリセリンジパルミテート、グリセリンジステアレート、グリセリンジレート等のグリセリン脂肪酸ジエステル;トリメチロールプロパンジラウレート、トリメチロールプロパンジミリステート、トリメチロールプロパンジパルミテート、トリメチロールプロパンジステアレート、トリメチロールプロパンジオレート等のトリメチロールプロパン脂肪酸ジエステル;1,3,5-ペンタントリオールジラウレート、1,3,5-ペンタントリオールジミリステート、1,3,5-ペンタントリオールジパルミテート、1,3,5-ペンタントリオールジステアレート、1,3,5-ペンタントリオールジオレート等の1,3,5-ペンタントリオール脂肪酸ジエステルなどが挙げられ、1種または2種以上を併用してもよい。また、成分(B-2)は1つの3価のアルコールと2種の異なる脂肪酸のエステル化物を使用してもよい。
【0038】
成分(B)が成分(B-2)を含む場合、成分(B)に占める成分(B-2)の重量割合は、特に限定はないが、5~90重量%であると好ましい。成分(B)に占める成分(B-2)の重量割合が5重量%未満であると、ポリオレフィン系樹脂との相溶性が低下することがあり、90重量%超であると、防曇成分のブリード過多による透明性不良を起こすことがある。成分(B)に占める成分(B-2)の重量割合の上限はより好ましくは80重量%、さらに好ましくは70重量%、特に好ましくは65重量%である。一方、成分(B)に占める成分(B-2)の重量割合の下限はより好ましくは10重量%、さらに好ましくは15重量%、特に好ましくは20重量%である。
【0039】
成分(B-3)としては、たとえば、グリセリントリラウレート、グリセリントリミリステート、グリセリントリパルミテート、グリセリントリステアレート、グリセリントリオレート等のグリセリン脂肪酸トリエステル;トリメチロールプロパントリラウレート、トリメチロールプロパントリミリステート、トリメチロールプロパントリパルミテート、トリメチロールプロパントリステアレート、トリメチロールプロパントリオレート等のトリメチロールプロパン脂肪酸トリエステル;1,3,5-ペンタントリオールトリラウレート、1,3,5-ペンタントリオールトリミリステート、1,3,5-ペンタントリオールトリパルミテート、1,3,5-ペンタントリオールトリステアレート、1,3,5-ペンタントリオールトリオレート等の1,3,5-ペンタントリオール脂肪酸トリエステルなどが挙げられ、1種または2種以上併用してもよい。また、成分(B-3)は1つの3価アルコールと2種以上の異なる脂肪酸のエステル化物を使用してもよい。
【0040】
防曇剤全体に占める成分(B-3)の重量割合は、特に限定はないが、防曇剤とポリオレフィン樹脂との相溶性の観点から、好ましくは0.3~64重量%である。防曇剤全体に占める成分(B-3)の重量割合が0.3重量%未満であると、防曇成分のブリード過多による透明性不良を起こすことがあり、64重量%超であると、防曇成分のブリードが過度に抑制されるために防曇性が低下することがある。防曇剤全体に占める成分(B-3)の重量割合の上限は、より好ましくは50重量%、さらに好ましくは30重量%である。一方、防曇剤全体に占める成分(B-3)の重量割合の下限は、より好ましくは1重量%、さらに好ましくは5重量%である。
【0041】
成分(B)に占める成分(B-3)の重量割合は、特に限定はないが、5~80重量%である。成分(B)に占める成分(B-3)の重量割合が5重量%未満であると、防曇成分のブリード過多による透明性不良を起こすことがあり、80重量%超であると防曇成分のブリードが過度に抑制されるために防曇性が低下することがある。成分(B)に占める成分(B-3)の重量割合の上限は、より好ましくは60重量%、さらに好ましくは40重量%である。一方、成分(B)に占める成分(B-3)の重量割合の下限は、より好ましくは8重量%、さらに好ましくは10重量%である。
【0042】
防曇剤全体に占める成分(B)の重量割合は、特に限定はないが、防曇性及びポリオレフィン系樹脂への相溶性の観点から、好ましくは5~80重量%である。成分(B)の重量割合が5重量%未満であると、防曇成分が不足することで充分な防曇性が発揮されないことがあり、80重量%超であると防曇成分が過剰となることで樹脂の透明性不良が生じることがある。成分(B)の重量割合の上限は、より好ましくは70重量%、さらに好ましくは60重量%である。一方、成分(B)の重量割合の下限は、より好ましくは10重量%、さらに好ましくは20重量%である。
【0043】
成分(B)の水酸基価(OHv)とケン化価(Sv)との比(OHv/Sv)は、特に限定はないが、防曇成分と樹脂との相溶性の観点から、好ましくは0.5~1.3である。成分(B)のOHv/Svが0.5未満であると、防曇性が低下することがあり、1.3超であると防曇成分のブリード過剰による透明性不良が生じることがある。成分(B)のOHv/Svの上限は、より好ましくは1.2、さらに好ましくは1.1である。一方、成分(B)のOHv/Svの下限は、より好ましくは0.6、さらに好ましくは0.7である。なお、成分(B)のOHv及びSvの測定方法は、実施例で測定される方法によるものである。
【0044】
本発明の防曇剤は、成分(A)及び成分(B)の他に、本願効果を奏する観点から、脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物である成分(C)(以下、単に成分(C)ということがある)、4価以上の多価アルコールの脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物(D-1)及び/又は4価以上の多価アルコールの脂肪酸エステル(D-2)である成分(D)(以下、単に成分(D)ということがある)を含んでもよい。
【0045】
〔成分(C)〕
防曇剤が成分(C)を含むと、防曇性をさらに向上させることができる。また、防曇剤は成分(C)を含むことで、帯電防止性もさらに向上させることができる。
成分(C)は下記一般式(3)で示される化合物であると、好ましい。
【化3】
(式中、Rはアルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基又はアルキニル基であり、その炭素数は8~22であり、eおよびfは0以上でe+f=2~3を満足する数である。)
【0046】
式(3)中、アルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基又はアルキニル基としては、直鎖状であっても分岐状であってもよく、本願効果を奏する観点から、直鎖状であると好ましい。
式(3)のRとしては、入手が容易であり、安定性が高い点で、アルキル基やアルケニル基が好ましい。Rの炭素数は、好ましくは8~22であり、より好ましくは8~18、さらに好ましくは10~18、特に好ましくは12~18である。Rの炭素数が8未満であると、ポリオレフィン系樹脂に対する相溶性が低下し、ブリード過多となることがある。一方、Rの炭素数が22を超えると、防曇性が低下することがある。
【0047】
成分(C)としては、たとえば、ラウリルジエタノールアミン、ミリスチルジエタノールアミン、パルミチルジエタノールアミン、ステアリルジエタノールアミン等が挙げられ、1種又は2種以上併用してもよい。
【0048】
防曇剤が成分(C)を含有する場合、防曇剤全体に占める成分(C)の重量割合は、特に限定はないが、好ましくは0.1~30重量%である。成分(C)の重量割合が0.1重量%未満であると充分な防曇性の向上効果が得られないことがあり、30重量%超であると、防曇剤とポリオレフィン樹脂との相溶性が低下することがある。成分(C)の重量割合の上限は、より好ましくは20重量%、さらに好ましくは15重量%である。一方、成分(C)の重量割合の下限は、より好ましくは0.5重量%、さらに好ましくは1重量%である。
【0049】
成分(C)の製造方法については、たとえば、脂肪族アミンに酸化エチレンを付加反応させて製造する方法等が挙げられる。
【0050】
〔成分(D)〕
防曇剤が、成分(D)を含むと、防曇性をさらに向上させることができる。以下、4価以上の多価アルコールの脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物(D-1)を単に成分(D-1)ということがあり、4価以上の多価アルコールの脂肪酸エステル(D-2)を単に成分(D-2)ということがある。
【0051】
成分(D)における多価アルコールの価数は、特に限定はないが、本願効果を奏する点で、好ましくは4価以上11価以下、より好ましくは4価以上8価以下である。
成分(D)に使用する4価以上のアルコールとしては、たとえば、ポリグリセリン;エリトリトールやソルビトール等の糖アルコール;ソルビタン等の糖アルコールの脱水縮合物等が挙げられる。
【0052】
成分(D)が有する脂肪酸残基の炭素数は、好ましくは8~22、より好ましくは12~18である。炭素数が8未満であるとポリオレフィン系樹脂との相溶性が低下することがあり、また、ブリード過多により、透明性も低下することがある。一方、炭素数が22を超えると、防曇性が低下することがある。
成分(D)が有する脂肪酸残基としては、特に限定はないが、たとえば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の脂肪酸残基が挙げられ、1種又は2種以上有していてもよい。
【0053】
成分(D)は、モノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステル等のいずれであってもよく、多価アルコールに対する脂肪酸の反応モル数が1.5や2.5のように中間的なエステル化度のものでもよい。成分(D)は、上記のうちの1種又は2種以上の混合物から構成されていてもよい。
【0054】
成分(D)が成分(D-2)を含む場合、成分(D-2)が有するオキシアルキレン基の繰り返し単位数については、特に限定はないが、好ましくは1~30、より好ましくは3~25、さらに好ましくは10~22である。オキシアルキレン基の繰り返し単位数が30を越えると、ポリオレフィン系樹脂との相溶性が低下することがある。
成分(D-2)の有するオキシアルキレン基としては、特に限定はないが、たとえば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられ、オキシエチレン基が好ましい。成分(D-2)は上記オキシアルキレン基のうち、1種または2種以上有していてもよい。
【0055】
成分(D)について、成分(D-1)としては、たとえば、ジグリセリンラウレート、ジグリセリンステアレート、テトラグリセリンラウレート、テトラグリセリンステアレート等があげられ、1種または2種以上の混合物で構成されていてもよい。また、成分(D-2)としては、たとえば、POE(p)ソルビタンラウレート、POE(p)ソルビタンステアレート等が挙げられ、1種または2種以上の混合物で構成されていてもよい。ここで、POEは(ポリ)オキシエチレン基を意味し、pはオキシエチレン基の繰り返し単位数を意味する。成分(D-1)及び成分(D-2)はそれぞれ単独で使ってもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
防曇剤が成分(D)を含有する場合、防曇剤全体に占める成分(D)の重量割合は、特に限定はないが、好ましくは1~40重量%である。成分(D)の重量割合が1重量%未満であると、防曇性の向上効果が充分発揮されないことがあり、40重量%以上であると透明性不良となることがある。成分(D)の重量割合の上限は、より好ましくは30重量%、さらに好ましくは20重量%である。一方、成分(D)の重量割合の下限は、より好ましくは3重量%、さらに好ましくは5重量%である。
【0057】
成分(D)が成分(D-1)及び成分(D-2)から構成される場合、成分(D-1)と成分(D-2)の重量比((D-1)/(D-2))は、好ましくは1/99~99/1であり、より好ましくは15/85~85/15、さらに好ましくは30/70~70/30、特に好ましくは40/60~60/40である。
【0058】
成分(D)の製造方法については、たとえば、以下の方法が挙げられる。
(1)多価アルコールに脂肪酸をエステル化反応する方法。
(2)多価アルコールに脂肪酸をエステル化反応し、得られたエステル化物に酸化エチレンを反応させる方法。
(3)多価アルコールエステル化物に脂肪酸エステルをエステル交換反応させる方法。
(4)多価アルコールエステル化物に脂肪酸エステルをエステル交換反応させたものに酸化エチレンを反応させる方法。
(5)多価アルコールに酸化エチレンを反応させ、得られた付加物に脂肪酸エステルをエステル交換反応させる方法。
【0059】
〔その他成分〕
本発明の防曇剤は本願効果を阻害しない範囲で、さらに高級アルコール、高級アルコール脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸アミド等の帯電防止剤や、着色防止のための酸化防止剤等を含有してもよい。
【0060】
〔ポリオレフィン系樹脂用防曇剤及びその製造方法〕
本発明のポリオレフィン系樹脂用防曇剤は上記で説明した成分(A)及び成分(B)を必須に含有し、防曇剤のアミン価が15~45mgKOH/gであり、防曇剤の水酸基価(OHv)とケン化価(Sv)の比(OHv/Sv)が0.4~1.4であるものである。これらの条件を満たすことで、防曇剤は親水性とポリオレフィン系樹脂に対する相溶性を持ち、各々の性能のバランスにより、防曇剤中の防曇成分のブリード量を調整し、成形後初期から防曇性を発揮する上に、長期間保管した場合においても防曇成分が過剰にブリードしないと考えられる。これにより、成形後速やかに防曇性を発現し、長期間にわたり防曇性を維持することができる防曇剤となる。
【0061】
防曇剤のアミン価(Amv)は、15~45mgKOH/gである。防曇剤のアミン価が15mgKOH/g未満であると、防曇剤の親水性が不足し、速やかに防曇性を発現しない。一方、防曇剤のアミン価が45mgKOH/g超であると、防曇剤の親水性とポリオレフィン系樹脂との相溶性のバランスが崩れ、長期間にわたり防曇性を維持できない。防曇剤のアミン価の上限は、好ましくは43mgKOH/g、より好ましくは40mgKOH/gである。一方、防曇剤のアミン価の下限は、好ましくは18mgKOH/g、より好ましくは20mgKOH/gである。なお、防曇剤のアミン価の測定方法は、実施例で測定される方法によるものである。
【0062】
防曇剤のOHv/Svは、0.4~1.4である。防曇剤のOHv/Svが0.4未満であると、防曇剤の親水性が低下し、速やかに防曇性が発現しない。一方、防曇剤のOHv/Svが1.4を超えると、防曇剤の親水性とポリオレフィン系樹脂との相溶性のバランスが崩れ、長期間にわたり防曇性を維持できない。防曇剤のOHv/Svの上限は、好ましくは1.2、より好ましくは1.1である。一方防曇剤のOHv/Svの下限は、好ましくは0.6、より好ましくは0.7である。なお、防曇剤のOHv及びSvの測定方法は、実施例で測定される方法によるものである。
【0063】
また、本発明の防曇剤の副次的な効果として、帯電防止剤としても使用することができることが挙げられる。帯電防止性の発現機構は防曇剤と同様に親水性成分が樹脂組成物表面を親水化することであり、親水性成分が表面上に均一に存在しなければ防曇性と同様に帯電防止性も失われる。本発明の防曇性と同様に特定の成分を含有した上でOHv/Sv及びアミン価が特定の範囲にあるため、即効的な帯電防止性の発現と長期的な維持が可能となる。
【0064】
さらに、本発明の防曇剤をフィルムに練り込んだ場合における副次的な効果として、高温保管時のフィルムの臭気が抑えられる点が挙げられる。通常、アミン成分を含む防曇剤を利用したフィルムは高温下での長期保管により、アミン成分が酸化、変質することで悪臭や刺激臭が発生することがある。本発明の防曇剤は特定の成分を含有した上でOHv/Sv及びアミン価が特定の範囲にあることで、アミン成分が樹脂表面へ過剰にブリードせず、高温で保管した場合においてもフィルムの臭気が抑えられるものと考えられる。
【0065】
本発明のポリオレフィン系樹脂用防曇剤は、上記で説明した各成分をそれぞれ混合することによって製造することができる。混合方法については、特に限定はなく、各成分を一挙または順次に混合してもよく、予めいくつかの成分を混合しておいて、残りの成分と混合してもよい。また、各成分の混合は溶融混合で行ってもよく、ポリオレフィン系樹脂と混合する際に行ってもよく、ポリオレフィン系樹脂との成形加工時に混合してもよい。
【0066】
〔樹脂組成物及びその製造方法〕
本発明の樹脂組成物は、上記ポリオレフィン系樹脂用防曇剤とポリオレフィン系樹脂を含む。
樹脂組成物に含まれるポリオレフィン系樹脂としては、たとえば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-プロピレンの共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂等が挙げられ、1種又は2種以上併用してもよい。
【0067】
樹脂組成物全体に占める防曇剤の重量割合は、特に限定はないが、好ましくは0.1~30重量%である。防曇剤の重量割合が0.1重量%未満であると、防曇剤の濃度が低く、充分な防曇性が得られないことがあり、30重量%超であると防曇剤をポリオレフィン系樹脂に均一に練り込むことが難しくなることがある。防曇剤の重量割合の上限は、より好ましくは20重量%、さらに好ましくは10重量%である。一方、防曇剤の重量割合の下限は、より好ましくは0.3重量%、さらに好ましくは0.5重量%である。
【0068】
本発明の樹脂組成物は、本願効果を阻害しない範囲で、さらに酸化防止剤、紫外線吸収剤等の安定剤;滑剤;造核剤;帯電防止剤;顔料;無機充填剤;可塑剤等の樹脂添加剤を含有してもよい。
【0069】
本発明の樹脂組成物は、成形材料の中間原料であるマスターバッチでもよく、成形に用いられる成形材料でもよく、フィルム、シート等の成形加工品でもよい。
以下、樹脂組成物が、マスターバッチの場合、成形材料の場合、成形加工品の場合等について、各々の場合の樹脂組成物の製造方法を説明する。
【0070】
樹脂組成物がマスターバッチの場合、その製造方法としては、たとえば、通常のプラスチック成形機、すなわちバンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、1軸以上の押出成形機、ニーダー等を使用して、ポリオレフィン系樹脂と本発明の防曇剤と、必要に応じて上記樹脂添加剤を、ポリオレフィン系樹脂の溶融又は軟化温度以上の温度で溶融混練し、所望の形状やサイズに造形して、マスターバッチを作製する方法等を挙げることができる。
【0071】
樹脂組成物が成形材料である場合、その製造方法としては、たとえば、マスターバッチ製造と同様の通常のプラスチック成形機を用いて、防曇剤とポリオレフィン系樹脂と、必要に応じて上記樹脂添加剤を単に、ポリオレフィン系樹脂の溶融温度又は軟化温度以上の温度で混練する方法や、上記マスターバッチとポリオレフィン系樹脂をポリオレフィン系樹脂の溶融温度以上の温度で溶融混練する方法等を挙げることができる。また、上記マスターバッチとポリオレフィン系樹脂を、リボンブレンダー、スーパーミキサーやヘンシェルミキサー等の混合機を用いて、ポリオレフィン系樹脂の溶融温度以下の温度で混合する方法も挙げることができる。
【0072】
樹脂組成物が成形加工品である場合、その製造方法としては、たとえば、上記成形材料をインフレーション成形機等のフィルム成形機や、ブロー成形機、射出成形機等を用いて、所望の形状やサイズに造形する方法が挙げられる。
【0073】
樹脂組成物は、本願効果を奏する点で、ポリプロピレンフィルムであると特に好ましい。
【実施例
【0074】
以下の実施例および比較例で本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例におけるポリオレフィン系樹脂用防曇剤の物性、樹脂組成物の測定評価は、下記の方法にて実施した。以下では、ポリオレフィン系樹脂組成物を簡単のために「防曇剤」ということがある。
なお、実施例1~5は参考例とする。
【0075】
〔アミン価の測定〕
防曇剤のアミン価(AmV)を医薬部外品原料規格アミン価測定法第2法によって測定した。なお、上記測定法は本願出願時に規定された測定法とする。
【0076】
〔水酸基価の測定〕
防曇剤及び成分(B)の水酸基価(OHv)を医薬部外品原料規格水酸基価測定法によって測定した。なお、上記測定法は本願出願時に規定された測定法とする。
【0077】
〔ケン化価の測定〕
防曇剤及び成分(B)のケン化価(Sv)を医薬部外品原料規格ケン化価測定法によって測定した。なお、上記測定法は本願出願時に規定された測定法とする。
【0078】
〔防曇性の評価〕
容量100mlのガラス製ビーカーに30℃の水を60ml入れ、ビーカーの口を40℃にて所定期間保管後の樹脂組成物の成形によって作製されたフィルムで密閉し塞いだ。次いで、5℃の恒温槽に入れ、1時間後のフィルム内面への水滴の付着状態を目視で観察し、下記に示す評価基準(1~10級)に基づいて評価し、フィルム作製1日後~30日後までの経時変化を測定し、7級以上を維持したものを合格とした。
10級:全く水滴がなく、全面濡れた状態。
9級:曇りは全くないが、極わずかはじかれた水滴が存在している状態。
8級:7級および9級の中間の評価。
7級:曇りはないが、所々にはじかれた水滴が存在している状態。
6級:5級および7級の中間の評価。
5級:曇りはないが、はじかれた水が大きな水滴となって点在している状態。
4級:3級および5級の中間の評価。
3級:全面に大きな水滴が付着し、曇って中身がほとんど見えない状態。
2級:1級および3級の中間の評価。
1級:全体的に白く曇って中身が全く見えない状態。
【0079】
〔表面固有抵抗率(LOG)の評価〕
樹脂組成物の成形によって作製されたフィルムについて、40℃にて所定期間保管後の表面固有抵抗率を東亜電波工業製極超絶縁計を使用し、温湿度20℃×45%、R.H.の条件で測定し、その数値を常用対数で返した値を表面固有抵抗率(LOG)とした。フィルム作製1日後~30日後までの経時変化を測定し、表面固有抵抗率(LOG)の値が14未満を維持したものを合格とした。
【0080】
〔フィルムの透明性の評価〕
樹脂組成物の成形によって作製されたフィルムを、40℃で所定期間保管後に、色差・濁度測定器(日本電色工業製)を使用してフィルムのHaze値およびフィルム表面をエタノールで洗い流した後のフィルムのHaze値を測定し、洗浄前後のフィルムのHaze値の差をΔHazeとして透明性の評価とし、フィルム作製30日後にΔHazeが0.5以下のものを合格とした。
【0081】
〔フィルムの臭気の評価〕
作成したフィルムと添加物を加えていない無添加フィルムを40℃×30日保管し、臭いの官能試験を行い、以下の4段階で評価を行った。○以上を合格とした。
◎:無添加フィルムと区別ができない。
○:無添加フィルムと比較して僅かに臭気を感じられる。
△:無添加フィルムと比較しなくても不快臭を感じる。
×:明らかな刺激臭を感じる。
【0082】
〔実施例1~15、比較例1~12〕
表1~3に示す配合割合にて成分(A)~成分(D)を溶融混合して防曇剤を作製した。次いで、ポリプロピレン(ホモポリマー、MFR=2.5g/10min)を準備し、作製した防曇剤の含有量がポリプロピレンに対して10重量%となるように防曇剤を混合し、二軸押出成形機にて230℃で溶融混練して、ストランドを得た。得られたストランドをペレタイザーでカットして、マスターバッチを作製した。
次いで、得られたマスターバッチおよび別に用意したポリプロピレン(ホモポリマー、MFR=2.5g/10min)を混合して、成形材料を得た。得られた成形材料を二軸押出成形機にて230℃で溶融混練し、Tダイより押出した。ここで、成形材料は、防曇剤の含有率がポリプロピレンに対して0.8重量%となるように、マスターバッチおよび別に用意したポリプロピレンの量を調整した。
Tダイより押出しされた押出物を一軸延伸して厚さ20μmの成形加工品であるフィルムに成形し、得られたフィルムについて帯電防止性・防曇性・透明性を測定した。その結果を表1~3に示す。防曇剤を添加しないフィルムについても、同様の方法で作製した。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
実施例1~15より、成分(A)及び成分(B)を含み、アミン価が15~45mgKOH/gで、水酸基価(OHv)とケン化価(Sv)との比(OHv/Sv)が0.4~1.4であり、成分(A)が成分(A-2)を必須に含む防曇剤であると、ポリオレフィン系樹脂との成形後速やかに防曇性を発現でき、長期間にわたり防曇性を維持することができる。また、成分(A)及び成分(B)を含み、アミン価が15~45mgKOH/gで、水酸基価(OHv)とケン化価(Sv)との比(OHv/Sv)が0.4~1.4であり、成分(B)が成分(B-3)を必須に含む防曇剤も、ポリオレフィン系樹脂との成形後速やかに防曇性を発現でき、長期間にわたり防曇性を維持することができる。本発明のポリオレフィン樹脂組成物は成形後速やかに防曇性を発揮し、長期間に渡って防曇性を維持できる。
一方、成分(A)を含まない防曇剤(比較例7、12)、成分(B)を含まない防曇剤(比較例2)、成分(A-2)を含まない防曇剤(比較例9)、成分(B-3)を含まない防曇剤(比較例1)、アミン価が15~45mgKOH/gでない防曇剤(比較例3、4、10、11)、水酸基価(OHv)とケン化価(Sv)との比(OHv/Sv)が0.4~1.4でない防曇剤(比較例5、6、8)では、本願課題を解決できていない。