(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-27
(45)【発行日】2023-01-11
(54)【発明の名称】配水管漏水防止構造およびその形成方法
(51)【国際特許分類】
E01D 19/08 20060101AFI20221228BHJP
E01D 1/00 20060101ALI20221228BHJP
F16L 5/02 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
E01D19/08
E01D1/00 C
F16L5/02 G
(21)【出願番号】P 2019131661
(22)【出願日】2019-07-17
【審査請求日】2022-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小森 敦
(72)【発明者】
【氏名】関口 好彦
(72)【発明者】
【氏名】関東 健介
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-190184(JP,U)
【文献】特開2018-028346(JP,A)
【文献】特開2004-339755(JP,A)
【文献】特開2004-218774(JP,A)
【文献】登録実用新案第3018270(JP,U)
【文献】特開2015-090009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/08
E01D 1/00
F16L 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート製の床版と、
前記床版を貫通して固定されている配水管と、
前記床版から露出している前記配水管の外周に巻かれている自己融着性シリコーンゴムと、
前記床版と前記配水管との隙間に蓋をして当該隙間から前記配水管の表面に漏れ出てくる水を止水するシリコーンゴムシール剤と、
を備え、
前記シリコーンゴムシール剤は、前記自己融着性シリコーンゴムの表面と、前記配水管の露出側の前記床版の表面とに接着して、前記配水管の外周に沿って前記隙間をシールしていることを特徴とする配水管漏水防止構造
を形成する方法であって、
前記コンクリート製の床版から露出している前記配水管の外周に、自己融着性シリコーンゴムのテープを巻く巻回工程と、
前記自己融着性シリコーンゴムの表面と、前記配水管の露出側の前記床版の表面とに、半硬化状態の接着性シリコーンゴム組成物を接着する接着工程と、
前記半硬化状態の接着性シリコーンゴム組成物を硬化して前記隙間をシールする硬化工程と、
を含む配水管漏水防止構造の形成方法。
【請求項2】
前記床版は、高架橋の構成部材であることを特徴とする請求項1に記載の配水管漏水防止構造
の形成方法。
【請求項3】
前記配水管は、樹脂加工品である請求項1または2に記載の配水管漏水防止構造
の形成方法。
【請求項4】
前記接着工程に先立ち、前記配水管の露出側の前記床版の表面をケレン処理する工程および/または当該表面にプライマーを塗布する工程を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の配水管漏水防止構造の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配水管漏水防止構造およびその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道および道路のある高架橋は、雨水あるいは融雪水等を高架橋外に配水するための配水管(ドレインパイプともいう)を貫通設置している。高架橋の床版上の雨水等は、床版から配水管を通って高架橋の下方へと送られる。高架橋の床版を構成するコンクリートは、年月の経過によって痩せることが知られている。また、電車または自動車の通過、さらには地震等の自然現象によって生じる振動に起因して、上記コンクリートと配水管との間に隙間が生じる可能性がある。
【0003】
図5は、従来の高架橋を構成するコンクリート製の床版と、該コンクリート製の床版に貫通設置されている配水管との間に生じた隙間から配水管の表面をつたって漏水する状況を説明する断面図を示す。
【0004】
この図に示すように、高架橋を構成する床版20と配水管21との間に隙間23が生じていると、高架橋からの大部分の水W1は配水管21の内部22を通って高架橋の下に送られるが、一部の水W2は隙間23から配水管21の表面をつたって漏水する。このような漏水は、高架橋の下に設置されている商業施設、道路、駐車場または公園に悪影響を及ぼす。また、冬季には、配水管21の表面に漏れてきた水は、氷柱となって落下すれば、高架橋の下を通過する人を危険にさらす。
【0005】
このような配水管の表面に生じる漏水を防止する方法として、シリコーンゴム製のシーリング剤やブチルゴム等の充填剤を配管の周辺に充填し、充填剤を軸方向上方から押さえつけつつ配管上にステンレススチール製のカバーを固定する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、配水管の漏水防止の補修を行う場合、予め管径がわからないことがある。また、1日に、複数種の管径をもつ配水管を補修しながら移動することもある。このため、各種の管径に対応可能なカバーを用意するのは煩わしさに堪えない。
【0008】
また、配水管と床版との間に生じた隙間を強固かつ長期に閉鎖することは難しい。このような問題は、高架橋以外の場所、例えば、アパートメント、学校などの建築物においても生じる共通の問題である。
【0009】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、手軽で、強固且つ長期に配水管の表面をつたう漏水を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記目的を達成するための本発明の一実施形態に係る配水管漏水防止構造は、コンクリート製の床版と、前記床版を貫通して固定されている配水管と、前記床版から露出している前記配水管の外周に巻かれている自己融着性シリコーンゴムと、前記床版と前記配水管との隙間に蓋をして当該隙間から前記配水管の表面に漏れ出てくる水を止水するシリコーンゴムシール剤と、を備え、
前記シリコーンゴムシール剤は、前記自己融着性シリコーンゴムの表面と、前記配水管の露出側の前記床版の表面とに接着して、前記配水管の外周に沿って前記隙間をシールしている。
(2)別の実施形態に係る配水管漏水防止構造において、好ましくは、前記床版は、高架橋の構成部材である。
(3)別の実施形態に係る配水管漏水防止構造において、好ましくは、前記配水管は、樹脂加工品である。
(4)上記目的を達成するための本発明の一実施形態に係る配水管漏水防止構造の形成方法は、コンクリート製の床版と、前記床版を貫通して固定されている配水管と、前記床版から露出している前記配水管の外周に巻かれている自己融着性シリコーンゴムと、前記床版と前記配水管との隙間に蓋をして当該隙間から前記配水管の表面に漏れ出てくる水を止水するシリコーンゴムシール剤と、を備え、前記シリコーンゴムシール剤が前記自己融着性シリコーンゴムの表面と、前記配水管の露出側の前記床版の表面とに接着して、前記配水管の外周に沿って前記隙間をシールしている配水管漏水防止構造を形成する方法、前記床版を高架橋の構成部材とした配水管漏水防止構造を形成する方法、さらには前記配水管を樹脂加工品とした配水管漏水防止構造を形成する方法である。
当該配水管漏水防止構造の形成方法は、前記コンクリート製の床版から露出している前記配水管の外周に、自己融着性シリコーンゴムのテープを巻く巻回工程と、
前記自己融着性シリコーンゴムの表面と、前記配水管の露出側の前記床版の表面とに、半硬化状態の接着性シリコーンゴム組成物を接着する接着工程と、
前記半硬化状態の接着性シリコーンゴム組成物を硬化して前記隙間をシールする硬化工程と、を含む。
(5)別の実施形態に係る配水管漏水防止構造の形成方法は、好ましくは、前記接着工程に先立ち、前記配水管の露出側の前記床版の表面をケレン処理する工程および/または当該表面にプライマーを塗布する工程を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、手軽で、強固且つ長期に配水管の表面をつたう漏水を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る配水管漏水防止構造の一部側面図および当該側面図中の一部Pの拡大図を示す。
【
図2】
図2は、
図1の一部P近傍を部分的に破砕して破砕部分を縦断面で表した破砕断面図を示す。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る配水管漏水防止構造の形成方法の各工程のフローチャートおよび各工程における構造の変化を説明するために部分的に破砕して破砕部分を縦断面で表した破砕断面図を示す。
【
図4】
図4は、本発明の変形例に係る配水管漏水防止構造の形成方法の各工程のフローチャートを示す。
【
図5】
図5は、従来の高架橋を構成するコンクリート製の床版と、該コンクリート製の床版に貫通設置されている配水管との間に生じた隙間から配水管の表面をつたって漏水する状況を説明する断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている諸要素およびその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。実施形態においては、基本的な構成および特徴が同じ構成要素については、実施形態をまたぎ同じ符号を使用し、説明を省略する場合がある。発明の構成要素を表示する図は模式図であり、実際の寸法や比率を必ずしも正確に表現したものではない。
【0014】
1.配水管漏水防止構造
図1は、本発明の実施形態に係る配水管漏水防止構造の一部側面図および当該側面図中の一部Pの拡大図を示す。
図2は、
図1の一部P近傍を部分的に破砕して破砕部分を縦断面で表した破砕断面図を示す。
【0015】
第1実施形態に係る配水管漏水防止構造1は、コンクリート製の床版20と、床版20を貫通して固定されている樹脂製の配水管21と、床版20から露出している配水管21の外周に巻かれている自己融着性シリコーンゴム5と、床版20と配水管21との隙間23に蓋をして隙間23から配水管21の表面に漏れ出てくる水を止水するシリコーンゴムシール剤10と、を備える。シリコーンゴムシール剤10は、自己融着性シリコーンゴム5の表面と、配水管21の露出側の床版20の表面とに接着して、配水管21の外周に沿って隙間23をシールしている。この実施形態に係る配水管漏水防止構造1において、床版20は、高架橋の構成部材である。ただし、床版20は、配水管21を貫通して設置されている限り、高架橋の構成部材に限定されず、アパートメント、学校、病院、橋等の建造物のような如何なる性質の構造体の構成部材でも良い。また、配水管21は、この実施形態では、樹脂製の配水管(樹脂加工品の一例)であるが、他の材料から成る配水管(例えば、亜鉛メッキ鋼管あるいはSUS管に代表される金属製の配水管)でも良い。さらには、配水管21は、繊維強化樹脂(FRP)製の配水管でも良い。
【0016】
高架橋の床版20は、通常、雨水あるいは融雪水などの水W1の流れる溝(配水溝、側溝ともいう)30を備える。床版20上の水W1は、溝30を流れ、床版20を貫通して設置されている配水管21の内部22を流れて、高架橋の下(地面近傍)に流れ出る。床版20と配水管21との間に隙間23が生じると、水W1の一部の水W2は、隙間23から配水管21の表面をつたって、高架橋の下に向かう。水W2を容易かつ確実にせき止めるため、この実施形態に係る配水管漏水防止構造1は、配水管21の表面(外側面ともいう)に自己融着性シリコーンゴム5を巻き、当該自己融着性シリコーンゴム5と床版20(具体的には、配水管21の露出する近傍にある下面)とを接続するようにシリコーンゴムシール剤10を備える。なお、配水管漏水防止構造1は、この実施形態では、床版20の下面に自己融着性シリコーンゴム5とシリコーンゴムシール剤10とを備えるが、床版20の上方あるいは横方向に自己融着性シリコーンゴム5とシリコーンゴムシール剤10とを備える構造であっても良い。
【0017】
隙間23が配水管21の外周囲に沿って略環状に形成されている場合には、シリコーンゴムシール剤10は、好ましくは、配水管21の外周囲に沿って略環状に形成される。一方、隙間23が配水管21の外周囲の一部に形成されている場合には、シリコーンゴムシール剤10は、その一部を覆うように形成されても良く、あるいは配水管21の外周囲に沿って略環状に形成されても良い。なお、「シール剤」は、「シール部材」あるいは「止水材」と称しても良い。
【0018】
次に、シリコーンゴムシール剤10について説明する。
【0019】
シリコーンゴムシール剤10は、半固形状の硬化性シリコーン系接着剤(「接着性シリコーンゴム組成物」あるいは「接着性シリコーン組成物」ともいう。)の加硫化を進めて完全硬化させたシール部材である。シリコーンゴムシール剤10は、接着性シリコーンゴム若しくは接着性シリコーンと称することもできる。硬化性シリコーン系接着剤は、無溶剤のシリコーン系接着剤の一種であり、高い接着力を有するとともに、硬化後には熱安定性、耐候性、良好な耐水性、優れた可撓性を有するシリコーンゴムシール剤10となる。半固形状の硬化性シリコーン系接着剤は、自立した形状を保持でき、かつ、押圧力に従って変形可能な可塑性を有する。このため、半固形状の硬化性シリコーン系接着剤は、配置する場所の凹凸や曲面に応じて変形させ、配置する場所に密着させることが可能である。
【0020】
硬化性シリコーン系接着剤は、25℃におけるウイリアムス可塑度が50~500の範囲内にあることが好ましい。なお、ウイリアムス可塑度は、平行板可塑度計(ウイリアムスプラストメーター)を使用し、JIS K 6249「未硬化および硬化シリコーンゴムの試験方法」に規定の測定方法に準じて測定されるものである。硬化性シリコーン系接着剤は、縮合反応型の硬化性シリコーンゴム組成物であり、好ましくは常温で放置することにより空気中の水分と反応させるという手軽な手段によって硬化可能である。硬化性シリコーン系接着剤を硬化して成るシリコーン系エラストマー(すなわち、シリコーンゴムシール剤10)は、好ましくは、湿気硬化シリコーン系エラストマーである。なお、硬化性シリコーン系接着剤は、付加反応型の硬化性シリコーンゴム組成物であって、加熱により硬化するものであっても良い。その場合には、硬化性シリコーン系接着剤は、加熱硬化シリコーン系エラストマーから成る。以下、接着シートとなる縮合反応型の硬化性シリコーンゴム組成物および付加反応型の硬化性シリコーンゴム組成物について詳述する。
【0021】
(1)縮合反応型の硬化性シリコーンゴム組成物
縮合反応型の硬化性シリコーンゴム組成物は、例えば、主に以下の成分から構成できる。
【0022】
(1-1)オルガノポリシロキサン
オルガノポリシロキサンは、縮合反応型の硬化性シリコーンゴム組成物の主剤成分であり、好ましくは、下記の化学式(1)または化学式(2)により表されるジオルガノポリシロキサンである。化学式は、平均組成式と称しても良い。
【0023】
【0024】
【0025】
上記の化学式(1),(2)において、Rは一価の炭化水素基である。Rとしては、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、2-エチルブチル基、オクチル基等)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基、シクロペンチル基等)、アルケニル基(ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘプテニル基、ヘキセニル基、アリル基等)、アリール基(フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ジフェニル基等)、アラルキル基(ベンジル基、フェニルエチル基等)、および、上記炭化水素基の炭素原子に結合している水素原子の少なくとも一部をハロゲンやシアノ基等で置換したもの(クロロメチル基、トリフルオロプロピル基、2-シアノエチル基、3-シアノプロピル基等)から選択される一または複数の炭化水素基を挙げることができる。Rの炭素数としては、1~12であることが好ましく、1~10であることが一層好ましい。上記の化学式(1),(2)においては、Aは酸素原子または-(CH2)m-(mは1~8)で表されるポリメチレン基(メチレン基を含む)である。Aは、酸素原子またはエチレン基であることが好ましい。
【0026】
上記の化学式(1),(2)において、nは(1-1)成分の25℃における動粘度を100~1000000cm2/sの範囲内とする任意の数である。当該動粘度は、500~500000cm2/sの範囲内とすることが一層好ましい。
【0027】
上記の化学式(1),(2)において、Bは加水分解性基である。Bとしては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等)、ケトオキシム基(ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基等)、アシルオキシ基(アセトキシ基等)、アルケニルオキシ基(イソプロペニルオキシ基、イソブテニルオキシ基等)を挙げることができる。なお、上記の化学式(1),(2)におけるxは2または3である。
【0028】
上記(1-1)成分は、公知の方法(例えば、環状シロキサンまたは線状オリゴマーと酸触媒または塩基触媒とを用いた平衡反応による方法)により製造することができる。
【0029】
なお、(1-1)成分であるジオルガノポリシロキサンに分岐構造を導入する場合には、常法として、重合中にSiO3/2単位およびSiO4/2単位のうち少なくとも一方を含むシランまたはシロキサンをジオルガノポリシロキサンがゲル化しない程度に添加する方法を用いることができる。(1-1)成分については、汚れを低減するため、洗浄等により低分子シロキサンを除去してから用いることが好ましい。
【0030】
(1-2)架橋剤
架橋剤としては、加水分解性基を1分子中に2個以上、好ましくは3個以上有するシラン、または、当該シランの部分加水分解縮合物を用いる。加水分解性基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等)、ケトオキシム基(ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基等)、アシルオキシ基(アセトキシ基等)、アルケニルオキシ基(イソプロペニルオキシ基、イソブテニルオキシ基等)、アミノ基(N-ブチルアミノ基、N,N-ジエチルアミノ基等)、アミド基(N-メチルアセトアミド基等)を挙げることができる。これらの中では、アルコキシ基、ケトオキシム基、アシルオキシ基、アルケニルオキシ基を用いることが好ましい。架橋剤の配合量は、(1-1)成分100質量部に対して1~50質量部の範囲内にあることが好ましく、2~30質量部の範囲内にあることが一層好ましく、5~20質量部の範囲内にあることがより一層好ましい。
【0031】
(1-3)硬化触媒
硬化触媒は必須ではないが、硬化触媒を用いることにより、硬化性シリコーンゴム組成物の硬化を促進することができる。硬化触媒の例としては、アルキル錫エステル化合物(ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクトエート等)、チタン酸エステルまたはチタンキレート化合物(テトライソプロポキシチタン、テトラn-ブトキシチタン、テトラキス(2-エチルヘキソキシ)チタン、ジプロポキシビス(アセチルアセトナ)チタン、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコール等)、その他の適切な有機金属化合物(ナフテン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、亜鉛-2-エチルオクトエート、鉄-2-エチルヘキソエート、コバルト-2-エチルヘキソエート、マンガン-2-エチルヘキソエート、ナフテン酸コバルト、アルコキシアルミニウム化合物等)、アミノアルキル基置換アルコキシシラン(3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等)、アミン化合物またはその塩(ヘキシルアミン、リン酸ドデシルアミン等)、第4級アンモニウム塩(ベンジルトリエチルアンモニウムアセテート等)、アルカリ金属の低級脂肪酸塩(酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、シュウ酸リチウム等)、のアルカリ金属の低級脂肪酸塩、ジアルキルヒドロキシルアミン(ジメチルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン等)、グアニジル基を有するシランまたはシロキサン(テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン、テトラメチルグアニジルプロピルメチルジメトキシシラン、テトラメチルグアニジルプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン等)を挙げることができる。これらは、1種のみで用いてもよいし、2種以上の混合物として用いてもよい。硬化触媒の配合量は、(1-1)成分100質量部に対して0~20質量部の範囲内にあることが好ましく、0.001~10質量部の範囲内にあることが一層好ましく、0.01~5質量部の範囲内にあることがより一層好ましい。
【0032】
(1-4)充填剤
充填剤は、必須ではないが、補強等の目的で好適に用いることができる。充填剤の例としては、補強剤(ヒュームドシリカ、沈降性シリカ、これらのシリカの表面を有機珪素化合物で疎水化処理したシリカ、石英粉末、タルク、ゼオライト、ベントナイト等)、繊維質充填剤(アスベスト、ガラス繊維、有機繊維等)、塩基性充填剤(炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、セライト等)を挙げることができる。これらの中では、シリカ、炭酸カルシウムおよびゼオライトを用いることが好ましく、表面を疎水化処理したヒュームドシリカおよび炭酸カルシウムを用いることが一層好ましい。上記充填剤の配合量は、目的や充填剤の種類により選択することができるが、(1-1)成分に対して1~90体積%の範囲内にあり、5~60体積%の範囲内にあることが好ましい。
【0033】
(1-5)接着性付与成分
接着性付与成分は必須ではないが好適に用いられる。接着性付与成分の例としては、アミノ基含有オルガノアルコキシシラン(γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等)、エポキシ基含有オルガノアルコキシシラン(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等)、メルカプト含有オルガノアルコキシシラン(γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等)、アミノ基含有オルガノアルコキシシランとエポキシ基含有オルガノアルコキシシランとの反応混合物を挙げることができる。接着性付与成分の配合量は、(1-1)成分100質量部に対して0.1~5質量部の範囲内にあることが好ましい。
【0034】
(2)付加硬化型の硬化性シリコーンゴム組成物
付加硬化型の硬化性シリコーンゴム組成物を硬化する場合、その付加硬化型の硬化性シリコーンゴム組成物は、例えば、主に以下の成分から構成できる。
【0035】
(2-1)オルガノポリシロキサン
オルガノポリシロキサンは、付加硬化型の硬化性シリコーンゴム組成物の主剤であり、一分子中に平均2個以上のアルケニル基を有する。アルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基およびヘプテニル基を挙げることができる。これらの中では、ビニル基を用いることが好ましい。また、本成分中、アルケニル基以外のケイ素原子に結合する有機基の例としては、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等)、アリール基(フェニル基、トリル基、キシリル基等)、ハロゲン化アルキル基(3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等)を挙げることができる。これらの中では、メチル基を用いることが好ましい。本成分の分子構造の例としては、直鎖状、一部分枝を有する直鎖状、分枝鎖状、網状、樹枝状を挙げることができる。本成分の25℃における粘度は100000mPa・s以上であることが好ましく、1000000mPa・s以上であることが一層好ましい。
【0036】
本成分のオルガノポリシロキサンとしては、例えば、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ポリジメチルシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、(CH3)3SiO1/2で示されるシロキサン単位と(CH3)2(CH2=CH)SiO1/2で示されるシロキサン単位とSiO4/2で示されるシロキサン単位とからなるオルガノポリシロキサン、これらのオルガノポリシロキサンのメチル基の少なくとも一部をアルキル基(エチル基、プロピル基等)、アリール基(フェニル基、トリル基等)、ハロゲン化アルキル基(3,3,3-トリフルオロプロピル基等)から選ばれる置換基で置換したオルガノポリシロキサン、これらのオルガノポリシロキサンのビニル基の少なくとも一部をアルケニル基(アリル基、プロペニル基等)で置換したオルガノポリシロキサン、および、これらのオルガノポリシロキサンの2種以上の混合物を用いることができる。
【0037】
(2-2)水素化オルガノポリシロキサン
水素化オルガノポリシロキサンは、付加硬化型の硬化性シリコーンゴム組成物の硬化剤として作用するものであり、1分子中に平均2個以上のケイ素原子結合水素を有する。本成分中のケイ素に結合する有機基の例としては、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等)、アリール基(フェニル基、トリル基、キシリル基等)、ハロゲン化アルキル基(3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等)を挙げることができる。上記の中では、メチル基を用いることが好ましい。本成分の分子構造の例としては、直鎖状、一部分枝を有する直鎖状、分枝鎖状、網状、樹枝状を挙げることができる。本成分の25℃における粘度は限定されないが、1~1000000mPa・sの範囲内にあることが好ましく、1~10000mPa・sの範囲内にあることが一層好ましい。
【0038】
本成分の水素化オルガノポリシロキサンとしては、例えば、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ポリジメチルシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ポリメチルハイドロジェンシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、環状ポリメチルハイドロジェンシロキサン、(CH3)2HSiO1/2で示されるシロキサン単位とSiO4/2で示されるシロキサン単位とからなるオルガノポリシロキサン、これらのオルガノポリシロキサンのメチル基の少なくとも一部をアルキル基(エチル基、プロピル基等)、アリール基(フェニル基、トリル基等)、ハロゲン化アルキル基(3,3,3-トリフルオロプロピル基等)で置換したオルガノポリシロキサン、および、これらのオルガノポリシロキサンの2種以上の混合物を用いることができる。これらの中では、得られる硬化物の機械的特性(特に伸び)が向上することから、分子鎖両末端にのみケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサンと分子鎖側鎖にケイ素原子結合を有するオルガノポリシロキサンとの混合物を用いることが好ましい。
【0039】
付加硬化型の硬化性シリコーンゴム組成物における本成分の含有量は、(2-1)成分中のアルケニル基に対する本成分中のケイ素原子結合水素原子のモル比が0.01~20の範囲内となる量であり、0.1~10の範囲内となる量であることが好ましく、0.1~5の範囲内となる量であることが一層好ましい。上記のような範囲としたのは、本成分の含有量が上記範囲の下限以上であると、接着性シリコーンゴムが十分に硬化しやすくなる傾向があるからであり、一方、上記範囲の上限以下では、硬化した接着シートの機械的特性がより高くなる傾向があるからである。また、本成分として、分子鎖両末端にのみケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサンと分子鎖側鎖にケイ素原子結合を有するオルガノポリシロキサンとの混合物を用いる場合には、前者のオルガノポリシロキサンの含有量は、(2-1)成分中のアルケニル基に対する本成分中のケイ素原子結合水素原子のモル比が0.01~10の範囲内となる量であることが好ましく、0.1~10の範囲内となる量であることが一層好ましく、0.1~5の範囲内となる量であることがより一層好ましい。また、後者のオルガノポリシロキサンの含有量は、(2-1)成分中のアルケニル基に対する本成分中のケイ素原子結合水素原子のモル比が0.5~20の範囲内となる量であることが好ましく、0.5~10の範囲内となる量であることが一層好ましく、0.5~5の範囲内となる量であることが一層好ましい。
【0040】
(2-3)硬化触媒
硬化触媒は必須ではないが、好ましい例としてヒドロシリル化反応用白金系触媒を挙げることができる。ヒドロシリル化反応用白金系触媒の例としては、白金微粉末、白金黒、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、白金とジケトンの錯体、塩化白金酸とオレフィン類の錯体、塩化白金酸とアルケニルシロキサンとの錯体、および、これらを担体(アルミナ、シリカ、カーボンブラック等)に担持させたものを挙げることができる。これらの中では、触媒活性の高さから、塩化白金酸とアルケニルシロキサンとの錯体を用いることが好ましい。また、塩化白金酸とジビニルテトラメチルジシロキサンとの錯体を用いることが一層好ましい。本成分の配合量は、(2-1)成分100万質量部に対して、白金金属原子として1~1000質量部の範囲内にあることが好ましく、1~100質量部の範囲内にあることが一層好ましい。
【0041】
(2-4)充填剤
充填剤は、付加硬化型の硬化性シリコーンゴム組成物の機械的強度を向上させるために添加する方が好ましいものであり、通常、シリコーンゴムの配合に用いられる公知の化合物を用いることができる。本成分としては、例えば、ヒュームドシリカ、沈降性シリカ、焼成シリカ、粉砕石英、および、これらのシリカの粉末を有機ケイ素化合物(オルガノアルコキシシラン、オルガノハロシラン、オルガノシラザン等)で表面処理した粉末を挙げることができる。特に、硬化した接着シートの機械的強度を十分に向上させるためには、本成分としてBET比表面積が50m2/g以上であるシリカ粉末を用いることが好ましい。
【0042】
付加硬化型の硬化性シリコーンゴム組成物において、本成分の添加は任意であるが、硬化した接着性シリコーンゴムの機械的強度を向上させるためには、本成分の配合量が(2-1)成分100質量部に対して1~1000質量部の範囲内にあることが好ましく、1~400質量部の範囲内にあることが一層好ましい。また、付加硬化型の硬化性シリコーンゴム組成物は、その他任意の成分として、例えば、ヒュームド酸化チタン、ケイ藻土、酸化鉄、酸化アルミニウム、アルミノケイ酸塩、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム等の無機質充填剤および有機充填剤を含有していてもよい。付加硬化型の硬化性シリコーンゴム組成物は、これらの充填剤の表面を前記の有機ケイ素化合物で処理した充填剤を含有していても良い。充填剤の配合量は、目的や充填剤の種類により選択することができるが、(2-1)成分に対して1~90体積%の範囲内にあり、5~60体積%の範囲内にあることが好ましい。
【0043】
(2-5)接着性付与成分
本成分は、必須ではないが、付加硬化型の硬化性シリコーンゴム組成物を接着剤として機能させるためにその接着性を付与、向上させるために好適に用いることができるものである。本成分の例として、シランカップリング剤およびこれらの部分加水分解物(メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)プロパン、ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン等)、「エポキシ基、酸無水物基、αシアノアクリル基」を有する有機化合物、「エポキシ基、酸無水物基、αシアノアクリル基」を有するシロキサン化合物、「エポキシ基、酸無水物基、αシアノアクリル基」とアルコキシシリル基とを併有する有機化合物またはシロキサン化合物、チタン化合物(テトラエチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラ(2-エチルヘキシル)チタネート、チタンエチルアセトネート、チタンアセチルアセトネート等)、アルミニウム化合物(エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)等)、ジルコニウム化合物(ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニウムブトキシアセチルアセトネート、ジルコニウムビスアセチルアセトネート、ジルコニウムエチルアセトアセテート等)を挙げることができる。なお、上記のシロキサン化合物としては、アルケニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等の低級脂肪族不飽和基またはこれらとヒドロシリル基とを併有するものが接着性向上について効果的な寄与を期待できる。上記接着性付与成分の含有量は、特に限定されないが、(2-1)成分100質量部に対して0.01~10質量部の範囲内にあることが好ましい。
【0044】
さらに、付加硬化型の硬化性シリコーンゴム組成物には、その硬化性を調整するために、アセチレン系化合物(3-メチル-1-ブチン-3-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、3-フェニル-1-ブチン-3-オール等)、エンイン化合物(3-メチル-3-ペンテン-1-イン、3,5-ジメチル-3-ヘキセン-1-イン等)、1分子中にビニル基を5質量%以上持つオルガノシロキサン化合物(1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラヘキセニルシクロテトラシロキサン、分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルビニルシロキサン、分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルビニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体等)、その他の硬化抑制剤(ベンゾトリアゾール等のトリアゾール類、フォスフィン類、メルカプタン類、ヒドラジン類等)を含有することが好ましい。これらの含有量は限定されないが、(2-1)成分100質量部に対して0.001~5質量部の範囲内にあることが好ましい。
【0045】
付加硬化型の硬化性シリコーンゴム組成物を調製する方法は限定されず、必要に応じてその他任意の成分を混合することにより調製することができるが、予め(2-1)成分と(2-3)成分とを加熱混合して調製したベースコンパウンドに、残余の成分を添加することが好ましい。なお、その他任意の成分を添加する場合、ベースコンパウンドを調製する際に添加してもよく、また、その他任意の成分が加熱混合により変質する場合には、(2-2)成分や(2-4)成分を添加する際に添加してもよい。また、ベースコンパウンドを調製する際、前記の有機ケイ素化合物を添加して、(2-3)成分の表面をin-situ処理してもよい。
【0046】
次に、自己融着性シリコーンゴム5について説明する。
【0047】
自己融着性シリコーンゴム5は、以下の化学式(3)で示されるジオルガノポリシロキサンと、ホウ酸化合物と、を含有するシリコーン組成物を硬化させた硬化物である。自己融着性シリコーンゴム5と、先に説明した半固形状の硬化性シリコーン系接着剤との主な相違点は、以下の2点である。
1つは、自己融着性シリコーンゴム5は硬化物であるのに対して、半固形状の硬化性シリコーン系接着剤は、未加硫物であること、である。
もう1つは、自己融着性シリコーンゴム5は、自己融着性を発現するためにホウ酸化合物を含むのに対して、半固形状の硬化性シリコーン系接着剤は、必ずしも、ホウ酸化合物を含まなくとも良い、ことである。
【0048】
【化3】
(式(3)におけるR
1は、炭素数1~10の炭化水素基である。式(3)中のnは、1.98~2.02である。)
【0049】
式(3)におけるR1としては、炭素数1~10、好ましくは1~8の炭化水素基である。炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基等が挙げられる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基等が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基等が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基等が挙げられる。また、R1としては、前記炭化水素基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子、シアノ基等で置換された基でもよい。上記シリコーン組成物を硬化させる際に、後述の有機過酸化物で硬化を促進させる場合には、R1がアルケニル基又はアルケニル基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子、シアノ基で置換された基であるのが好ましい。式(3)におけるnは、1.98~2.02である。nがこの範囲内にあると、より良い自己融着性が得られる。
【0050】
ジオルガノポリシロキサンの25℃における動粘度は、100~100,000,000cStであることが好ましく、100,000~10,000,000cStであることがより好ましい。ジオルガノポリシロキサンの25℃における動粘度が前記範囲内であれば、硬化前の取り扱い性と硬化後の機械的物性に優れる。
【0051】
ホウ酸化合物としては、ホウ酸、無水ホウ酸の誘導体等が挙げられる。ホウ酸としては、例えば、無水ホウ酸、ピロホウ酸、オルトホウ酸等が挙げられる。無水ホウ酸の誘導体としては、例えば、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、トリメトキシボロキシン等が挙げられる。また、ホウ酸化合物として、ジメチルジメトキシシラン又はジメチルジエトキシシラン等のオルガノアルコキシシランと無水ホウ酸とを縮合させて得たポリオルガノボロシロキサンを用いることもできる。ホウ酸化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
シリコーン組成物におけるホウ酸化合物の含有割合は、ジオルガノポリシロキサン100質量部に対して、0.1~50質量部であることが好ましく、0.5~30質量部であることがより好ましく、1~5質量部であることがさらに好ましい。ホウ酸化合物の含有割合が前記下限値以上であれば、充分な自己融着性を確保でき、前記上限値以下であれば、機械的物性の低下を抑制することができる。
【0053】
シリコーン組成物は、シリコーン組成物の硬化を促進するために、有機過酸化物を含んでもよい。有機過酸化物としては、例えば、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート等が挙げられる。これら有機過酸化物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0054】
シリコーン組成物における有機過酸化物の含有割合は、ジオルガノポリシロキサン100質量部に対して、0.1~10質量部であることが好ましく、0.5~3.0質量部であることがより好ましい。有機過酸化物の含有割合が前記下限値以上であれば、充分に硬化を促進できる。
【0055】
自己融着性シリコーンゴム5の幅方向中央の厚さは0.5~1.5mmであることが好ましく、自己融着性シリコーンゴム5の幅方向の端部の厚さは0~0.5mm(この場合、0を含まず。)であることが好ましい。自己融着性シリコーンゴム5の幅は15~50mmであることが好ましく、20~40mmであることがより好ましい。自己融着性シリコーンゴム5の幅が前記下限値以上であれば、配水管21への巻き数を抑制できるので、補修をより簡便にでき、前記上限値以下であれば、補修において無駄なテープの使用を抑制できる。
【0056】
自己融着性シリコーンゴム5の引張最大荷重は70N以上であることが好ましく、80N以上であることがより好ましく、100N以上であることがさらに好ましい。自己融着性シリコーンゴム5の引張伸び率は300%以上であることが好ましく、400%以上であることがより好ましく、500%以上であることがさらに好ましい。自己融着性シリコーンゴム5の引張最大荷重及び引張伸び率が前記下限値以上であれば、自己融着性シリコーンゴム5が充分に高い自己融着性を発揮できる。なお、上記の引張最大荷重及び引張伸び率は、引張試験機を用い、テープ状の自己融着性シリコーンゴム5を、23℃、引張速度500mm/分の条件で測定した値である。
【0057】
2.配水管漏水防止構造の形成方法
図3は、本発明の実施形態に係る配水管漏水防止構造の形成方法の各工程のフローチャートおよび各工程における構造の変化を説明するために部分的に破砕して破砕部分を縦断面で表した破砕断面図を示す。
【0058】
この実施形態に係る配水管漏水防止構造の形成方法は、コンクリート製の床版20と、床版20を貫通して固定されている配水管21と、床版20から露出している配水管21の外周に巻かれている自己融着性シリコーンゴム5と、床版20と配水管21との隙間23に蓋をして隙間23から配水管21の表面に漏れ出てくる水W2を止水するシリコーンゴムシール剤10と、を備え、シリコーンゴムシール剤10が自己融着性シリコーンゴム5の表面と、配水管21の露出側に位置する床版20の表面とに接着して、配水管21の外周に沿って隙間23をシールしている配水管漏水防止構造1を形成する方法、床版20を高架橋の構成部材とした配水管漏水防止構造1を形成する方法、さらには、配水管21を樹脂加工品とした配水管漏水防止構造1を形成する方法である。
【0059】
上記配水管漏水防止構造の形成方法は、巻回工程(S100)と、接着工程(S200)と、硬化工程(S300)と、を含む。以下、図面を参照しながら、配水管漏水防止構造の形成方法について説明する。
【0060】
(1)巻回工程(S100)
この工程は、コンクリート製の床版20から露出している配水管21の外周に、自己融着性シリコーンゴム5のテープを巻く工程である。当該テープは、好ましくは、配水管21と床版20との境界若しくはその近傍から、当該近傍より離れる方向に向かって所定の長さで複数周巻回される。この工程によって、配水管21の一部表面がシリコーン化される。
【0061】
(2)接着工程(S200)
この工程は、自己融着性シリコーンゴム5の表面と、配水管21の露出側の床版20の表面とに、半硬化状態の接着性シリコーンゴム組成物10aを接着する工程である。なお、
図3および後述の
図4に基づく説明に限り、「接着性シリコーンゴム組成物」を「接着性シリコーンゴム組成物10a」と称する。接着性シリコーンゴム組成物10aを縮合反応型の硬化性シリコーンゴム組成物とする場合には、密閉状態の袋内から接着性シリコーンゴム組成物10aを取り出して、できるだけスピーディーに当該組成物10aを、自己融着性シリコーンゴム5の表面と配水管21の露出側の床版20の表面とをまたぐように密着させて隙間23を埋めるのが好ましい。
【0062】
(3)硬化工程(S300)
この工程は、半硬化状態の接着性シリコーンゴム組成物10aを硬化して隙間23をシールする工程である。硬化の方法は、接着性シリコーンゴム組成物10aの種類によって異なる。例えば、接着性シリコーンゴム組成物10aを縮合反応型の硬化性シリコーンゴム組成物とする場合には、空気中に放置することによって硬化可能である。また、接着性シリコーンゴム組成物10aを付加反応型の硬化性シリコーンゴム組成物とする場合には、加熱を行うことで硬化できる。
【0063】
図4は、本発明の変形例に係る配水管漏水防止構造の形成方法の各工程のフローチャートを示す。
【0064】
この変形例に係る配水管漏水防止構造の形成方法は、先に説明した巻回工程(S100)の前に、配水管21の露出側の床版20の表面をケレン処理する工程および/または当該表面にプライマーを塗布する工程(S50)を含む。本願では、プライマーの塗布を、プライマー処理とも称する。したがって、S50は、ケレン処理工程および/またはプライマー処理工程ともいう。なお、ここでいう「ケレン処理」を「研磨処理」あるいは「表面清浄処理」に代用しても良い。ケレン処理工程および/またはプライマー処理工程(S50)は、接着工程(S200)に先立って行われる工程であれば、巻回工程(S100)の後に行われても良い。S50は、ケレン処理のみの工程、プライマー処理のみの工程、またはケレン処理後にプライマーを塗布する工程のいずれでも良い。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、配水管と床版との隙間からの漏水を防止することに関連する産業において利用可能である。
【符号の説明】
【0066】
1・・・配水管漏水防止構造、5・・・自己融着性シリコーンゴム、10・・・シリコーンゴムシール剤、20・・・床版、21・・・配水管、23・・・隙間。