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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-27
(45)【発行日】2023-01-11
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
   F15B 11/00 20060101AFI20221228BHJP
   F15B 11/08 20060101ALI20221228BHJP
   F15B 11/02 20060101ALI20221228BHJP
   E02F 9/22 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
F15B11/00 B
F15B11/08 C
F15B11/00 P
F15B11/02 W
E02F9/22 R
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019202551
(22)【出願日】2019-11-07
(65)【公開番号】P2021076162
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】平工 賢二
(72)【発明者】
【氏名】中山 晃
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 哲平
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-161312(JP,A)
【文献】実開昭58-144104(JP,U)
【文献】実開昭59-40602(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 11/00
F15B 11/08
F15B 11/02
E02F 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの吸込吐出ポートを有する両傾転型油圧ポンプからなる閉回路ポンプと、
前記閉回路ポンプに閉回路状に接続された油圧アクチュエータと、
チャージポンプと、
前記チャージポンプの吐出ポートに接続されたチャージラインと、
前記チャージラインと前記閉回路ポンプとを接続する油路に設けられ、前記チャージラインから前記閉回路ポンプへの作動油の流入を許容するチェック弁と、
前記チャージラインに設けられたチャージリリーフ弁と、
前記油圧アクチュエータの動作を指示するための操作レバーと、
前記操作レバーからの入力に応じて前記閉回路ポンプの容量を制御するコントローラとを備えた建設機械において、
前記閉回路ポンプの一方の吸込吐出ポートと前記チャージラインとを接続する油路に設けられ、前記コントローラからの制御信号に応じて開閉する切換弁を備え、
前記コントローラは、前記閉回路ポンプの容量をゼロに保持した状態が所定時間以上継続した場合に、前記切換弁を開くとともに、前記閉回路ポンプの容量をゼロより大きい所定の容量以上に保持する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械において、
前記コントローラは、前記閉回路ポンプの回転速度が大きくなるに従って前記所定時間を短く設定する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項3】
請求項1に記載の建設機械において、
前記チェック弁、前記チャージリリーフ弁、および前記切換弁のうち、前記チェック弁が前記チャージポンプの吐出ポートから最も近くに配置されている
ことを特徴とする建設機械。
【請求項4】
請求項1に記載の建設機械において、
ブームおよびアームを有するフロント装置を備え、
前記閉回路ポンプは、第1閉回路ポンプと第2閉回路ポンプとを含み、
前記油圧アクチュエータは、前記ブームを駆動するブームシリンダと、前記アームを駆動するアームシリンダとを含み、
前記切換弁は、前記第1閉回路ポンプの一方の吸込吐出ポートと前記チャージラインとを接続する油路に設けられた第1切換弁と、前記第2閉回路ポンプの一方の吸込吐出ポートと前記チャージラインとを接続する油路に設けられた第2切換弁とを含み、
前記第1切換弁および前記第2切換弁は、それぞれ、前記ブームシリンダのロッド側でかつ前記アームシリンダのボトム側に配置されている
ことを特徴とする建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧アクチュエータを閉回路用油圧ポンプで駆動する構成の建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、油圧ショベルやホイールローダなどの建設機械において、省エネ化が重要な開発項目になっている。建設機械の省エネ化には油圧システム自体の省エネ化が重要であり、油圧ポンプにより油圧アクチュエータを閉回路接続して直接に制御する油圧閉回路システムの適用が検討されている。このシステムは、制御弁による圧力損失がなく、必要な流量のみをポンプが吐出するため流量損失もない。また、アクチュエータの位置エネルギや減速時のエネルギを回生することもできる。このため省エネ化が可能となる。
【0003】
油圧閉回路を組み合わせた建設機械の背景技術として、特許文献1には、複数の可変容量油圧ポンプをそれぞれ複数の油圧アクチュエータに電磁切換弁を介して閉回路を構成するよう分岐接続することで、アクチュエータの複合動作と高速動作を可能にした構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-48899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の油圧回路では、建設機械の無操作時(エンジンは動いている)や走行時は閉回路用油圧ポンプのポンプ容量をゼロとして流量を吐出しないようにする必要がある。無操作時や走行時は閉回路用油圧ポンプとアクチュエータとを接続する電磁切換弁が閉じており、仮に流量を吐出すると吐出圧力がリリーフ圧力まで上昇し、ポンプに高負荷が作用して信頼性が低下し、エンジンへの負荷も増加するため建設機械の省エネ性が低下するためである。
【0006】
閉回路用油圧ポンプとしては、可変容量型斜板式油圧ポンプが一般的であり、ポンプ容量ゼロとするには斜板の傾転角をゼロにする必要がある。この傾転角ゼロの状態ではポンプ内のピストンはシリンダに対しほとんど変位せず、ピストン自身の遠心力によりシリンダ壁面に押し付けられるため、この状態が続くと摺動部の油膜が切れてピストンやシリンダが摩耗したり、損傷したりして信頼性が低下する可能性があった。特に大型の建設機械に用いるような大容量の閉回路用油圧ポンプではピストンが重く、また長期信頼性も求められるため大きな課題と言える。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、油圧アクチュエータを閉回路用油圧ポンプで駆動する構成の建設機械において、無操作時や走行時の閉回路用油圧ポンプの油膜切れを防止して信頼性を向上し、高い稼働率が得られる建設機械を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、2つの吸込吐出ポートを有する両傾転型油圧ポンプからなる閉回路ポンプと、前記閉回路ポンプに閉回路状に接続された油圧アクチュエータと、チャージポンプと、前記チャージポンプの吐出ポートに接続されたチャージラインと、前記チャージラインと前記閉回路ポンプとを接続する油路に設けられ、前記チャージラインから前記閉回路ポンプへの作動油の流入を許容するチェック弁と、前記チャージラインに設けられたリリーフ弁と、前記油圧アクチュエータの動作を指示するための操作レバーと、前記操作レバーからの入力に応じて前記閉回路ポンプの容量を制御するコントローラとを備えた建設機械において、前記閉回路ポンプの一方の吐出ポートと前記チャージラインとを接続する油路に設けられ、前記コントローラからの制御信号に応じて開閉する切換弁を備え、前記コントローラは、前記閉回路ポンプの容量をゼロに保持した状態が所定時間以上継続した場合に、前記切換弁を開くとともに、前記閉回路ポンプの容量をゼロより大きい所定の容量以上に保持するものとする。
【0009】
以上のように構成した本発明によれば、閉回路ポンプの傾転量がゼロの状態が所定時間以上継続した場合に、閉回路ポンプの傾転量をゼロより大きい所定の傾転量に保持することで、閉回路ポンプ内のピストンがシリンダに対して変位するため、ピストンとシリンダの摺動部に油が導かれて油膜が確保されるため、ピストンまたはシリンダの摩耗を防止することができる。また、閉回路ポンプの吐出ポートを切換弁を介してチャージラインに連通させることで、閉回路ポンプの吐出圧がチャージ圧力以下に低く抑えることができる。これにより、燃費の悪化を防止しつつ、閉回路ポンプの耐久性を向上することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、油圧アクチュエータを閉回路用油圧ポンプで駆動する構成の建設機械において、無操作時や走行時の閉回路用油圧ポンプの油膜切れを防止して信頼性を向上し、高い稼働率が得られる建設機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る油圧ショベルの側面図である。
図2】本発明の実施の形態に係る油圧ショベルの油圧回路図である。
図3】閉回路ポンプの断面図である。
図4】コントローラのアンロード制御部の処理を示すフローチャートである。
図5】待機時間とエンジン回転数との相関を示す図である。
図6】エンジン回転数が所定の回転数を超過し、かつ閉回路ポンプのゼロ傾転継続時間が待機時間を超過したときの作動油の流れを示す油圧回路図である。
図7】切換弁が固着した状態を示す油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係る建設機械として油圧ショベルを例に挙げ、図面を参照して説明する。なお、各図中、同等の部材には同一の符号を付し、重複した説明は適宜省略する。
【0013】
図1は、本実施の形態に係る油圧ショベルの側面図である。
【0014】
図1において、油圧ショベル100は、左右両側にクローラ式の走行装置8を備えた下部走行体101と、下部走行体101上に旋回装置7を介して旋回可能に取り付けられた上部旋回体102とを備えている。旋回装置7は、旋回用油圧モータ(図示せず)によって駆動される。
【0015】
上部旋回体102の前側には、掘削作業等を行うためのフロント装置103が取り付けられている。フロント装置103は、上部旋回体102の前側に上下方向に回動可能に連結されたブーム2と、ブーム2の先端部に上下、前後方向に回動可能に連結されたアーム4と、アーム4の先端部に上下、前後方向に回動可能に連結されたバケット6とを備えている。ブーム2、アーム4、およびバケット6は、片ロッド式油圧シリンダであるブームシリンダ1、アームシリンダ3、およびバケットシリンダ5によってそれぞれ駆動される。
【0016】
上部旋回体102上には、オペレータが搭乗するキャブ104が設けられている。キャブ104内には、アーム4および上部旋回体102の動作を指示するための操作レバー56a(図2に示す)、ブーム2およびバケット6の動作を指示するための操作レバー56d(図2に示す)等が配設されている。
【0017】
図2は、油圧ショベル100の油圧回路図である。なお、図2では、ブームシリンダ1およびアームシリンダ3の駆動に関わる部分のみを示し、その他のアクチュエータの駆動に関わる部分は省略している。
【0018】
図2において、動力源であるエンジン9は、動力を配分する動力伝達装置10に接続されている。動力伝達装置10には、固定容量式の油圧ポンプからなるチャージポンプ11、両傾転型可変容量式の油圧ポンプからなる閉回路ポンプ12,14、片傾転型可変容量式の油圧ポンプからなる開回路ポンプ13,15が接続されている。
【0019】
チャージポンプ11の吸込ポートはタンク25に接続され、吐出ポートはチャージライン90に接続されている。チャージライン90は、チャージリリーフ弁20を介してタンク25に接続されている。チャージリリーフ弁20は、チャージポンプ11の吐出圧力(チャージライン90の圧力)を略一定の低圧力に保持する。
【0020】
閉回路ポンプ12の一方の吸込吐出ポートは、切換弁43aおよびボトム側油路91aを介してブームシリンダ1のボトム側油室1aに接続されており、他方の吸込吐出ポートは、切換弁43aおよびロッド側油路91bを介してブームシリンダ1のロッド側油室1bに接続されている。切換弁43aは、コントローラ57からの信号により流路の導通と遮断を切り換え、信号が無い場合は遮断状態となる。閉回路ポンプ12は、切換弁43aが導通状態となることでブームシリンダ1に閉回路接続される。
【0021】
また、閉回路ポンプ12の一方の吸込吐出ポートは、切換弁43bおよびボトム側油路92aを介してアームシリンダ3のボトム側油室3aに接続されており、他方の吸込吐出ポートは、切換弁43bおよびロッド側油路92bを介してアームシリンダ3のロッド側油室3bに接続されている。切換弁43bは、コントローラ57からの信号により流路の導通と遮断を切り換え、信号が無い場合は遮断状態となる。閉回路ポンプ12は、切換弁43bが導通状態となることでアームシリンダ3に閉回路接続される。
【0022】
閉回路ポンプ14の一方の吸込吐出ポートは、切換弁45aおよびボトム側油路91aを介してブームシリンダ1のボトム側油室1aに接続されており、他方の吸込吐出ポートは、切換弁45aおよびロッド側油路91bを介してブームシリンダ1のロッド側油室1bに接続されている。切換弁45aは、コントローラ57からの信号により流路の導通と遮断を切り換え、信号が無い場合は遮断状態となる。閉回路ポンプ14は、切換弁45aが導通状態となることでブームシリンダ1に閉回路接続される。
【0023】
また、閉回路ポンプ14の一方の吸込吐出ポートは、切換弁45bおよびボトム側油路92aを介してアームシリンダ3のボトム側油室3aに接続されており、他方の吸込吐出ポートは、切換弁45bおよびロッド側油路92bを介してアームシリンダ3のロッド側油室3bに接続されている。切換弁45bは、コントローラ57からの信号により流路の導通と遮断を切り換え、信号が無い場合は遮断状態となる。閉回路ポンプ14は、切換弁45bが導通状態となることでアームシリンダ3に閉回路接続される。
【0024】
開回路ポンプ13の吸込ポートはタンク25に接続され、吐出ポートは吐出油路93に接続されている。吐出油路93は、ブリードオフ弁64を介してタンク25に接続されている。ブリードオフ弁64は、コントローラ57からの信号により開口面積を変化させ、信号が無い場合は全開状態となる。また、吐出油路93は、切換弁44aを介してブームシリンダ1のボトム側油路91aに接続され、切換弁44bを介してアームシリンダ3のボトム側油路92aに接続されている。切換弁44a,44bは、コントローラ57からの信号により流路の導通と遮断を切り換え、信号が無い場合は遮断状態となる。
【0025】
開回路ポンプ15の吸込ポートはタンク25に接続され、吐出ポートは吐出油路94に接続されている。吐出油路94は、ブリードオフ弁65を介してタンク25に接続されている。ブリードオフ弁65は、コントローラ57からの信号により開口面積を変化させ、信号が無い場合は全開状態となる。また、吐出油路94は、切換弁46aを介してブームシリンダ1のボトム側油路91aに接続され、切換弁46bを介してアームシリンダ3のボトム側油路92aに接続されている。切換弁46a,46bは、コントローラ57からの信号により流路の導通と遮断を切り換え、信号が無い場合は遮断状態となる。
【0026】
閉回路ポンプ12の一方の吸込吐出ポート(ブームシリンダ1のロッド側油室1bおよびアームシリンダ3のボトム側油室3aに接続する側)は、分岐油路95を介してチャージライン90に接続されており、分岐油路95には切換弁70が設けられている。また、閉回路ポンプ14の一方の吸込吐出ポート(ブームシリンダ1のロッド側油室1bおよびアームシリンダ3のボトム側油室3aに接続する側)は、分岐油路96を介してチャージライン90に接続されており、分岐油路96には切換弁71が設けられている。切換弁70,71は、コントローラ57からの信号により流路の導通と遮断を切り換え、信号が無い場合は遮断状態となる。
【0027】
ブームシリンダ1のボトム側油路91aおよびロッド側油路91bは、チェック弁37a,37bおよびフラッシング弁34を介してチャージライン90に接続されており、アームシリンダ3のボトム側油路92aおよびロッド側油路92bは、チェック弁38a,38bおよびフラッシング弁35を介してチャージライン90に接続されている。閉回路ポンプ12の吸込吐出ポートは、チェック弁30a,30bおよびメインリリーフ弁80a,80bを介してチャージライン90に接続されており、閉回路ポンプ14の吸込吐出ポートは、チェック弁31a,31bおよびメインリリーフ弁81a,81bを介してチャージライン90に接続されている。チェック弁30a,30bは閉回路ポンプ12に内蔵されており、チェック弁31a,31bは閉回路ポンプ14に内蔵されている。
【0028】
チェック弁30a,30b,31a,31b,37a,37b,38a,38bは、閉回路内の圧力が下がるとチャージライン90の作動油を回路内に吸込み、回路のキャビテーションを防止する。フラッシング弁34,35は、閉回路の低圧側とチャージライン90とを接続する低圧選択弁であり、閉回路内の余剰な作動油をチャージライン90に排出し、または、閉回路内で不足する作動油をチャージライン90から吸込むことで閉回路内の油量の収支を保つ。メインリリーフ弁80a,80b,81a,81bは、閉回路内の圧力が所定の圧力(メインリリーフ圧)を超えると作動油をタンク25に逃がし、回路を保護する。
【0029】
コントローラ57は、操作レバー56a,56dからの入力とエンジン回転数や各部圧力などのセンサ情報とに応じて、ポンプ12~15と切換弁43a~46b,70,71に指令を与える。また、コントローラ57は、後述するアンロード制御を行うためのアンロード制御部57aを備えている。アンロード制御部57aは、例えばコントローラ57が実行するプログラムの一機能として実装されている。
【0030】
図3は閉回路ポンプ12(14)の断面図である。
【0031】
図3において、閉回路ポンプ12(14)は、ケーシング301と、リヤケース302、シャフト303と、シリンダ304と、ピストン305と、シュー306と、弁板307と、斜板308と、クレードル309と、吸込吐出ポート310,311と、チャージポート312と、チェック弁30a(31a),30b(31b)とを有する。
【0032】
エンジン9からの回転動力はシャフト303に入力され、シャフト303と一体になってシリンダ304、シリンダ304内に収納された複数本のピストン305などが回転動作する。ピストン305は斜板308に当接した状態で回転摺動するようになっており、斜板308が角度αを持っていることでシリンダ304に対して軸方向に変位し、例えば吸込吐出ポート310から作動油を吸入し、吸込吐出ポート311へと吐出する。
【0033】
斜板308は、ケーシング301内にクレードル309を介して傾転可能に設けられている。斜板308の表面側は、各シュー306を摺動可能に案内する平滑面308aとなっている。これに対して、斜板308の裏面側は、クレードル309に傾転(摺動)可能に支持される。クレードル309は、シャフト303の周囲に位置してケーシング301に固定して設けられている。
【0034】
斜板308の傾転角αは図示しないレギュレータとサーボピストンにより調整することが可能であり、傾斜角αがゼロの場合はポンプ吐出流量はゼロとなり、傾斜角αがマイナスの場合は吸込吐出ポート311から作動油を吸入し、吸込吐出ポート310へと吐出する。
【0035】
チャージポート312にはチャージライン90が接続されており、吸込吐出ポート310,311の圧力がチャージ圧力以下に低下するとチェック弁30a,30b(31a,31b)が開いてチャージポンプ11からの作動油が吸入され、閉回路ポンプ12(14)内のキャビテーションが防止される。
【0036】
以上の構成において、まずはアクチュエータの動作例を説明する。
【0037】
図2において、ブームシリンダ1の伸長動作を行う場合は、切換弁43a,44aを導通状態とし、閉回路ポンプ12と開回路ポンプ13から作動油を吐出する。これによりブームシリンダ1のボトム側油室1aにはポンプ2台分の流量が流入し、ブームシリンダ1が伸長する。ブームシリンダ1のロッド側油室1bからの排出流量は閉回路ポンプ12に吸入されるが、流量が余剰になった場合はフラッシング弁34からチャージライン920に排出され、流量が不足した場合は逆にチャージライン90からフラッシング弁34またはチェック弁30a,37aを介して閉回路内に作動油が吸入される。
【0038】
アームシリンダ3の引込動作を行う場合は、切換弁43b,44bを導通状態とし、閉回路ポンプ12を先ほどとは逆方向に吐出させ、さらにブリードオフ弁64を開口する。これによりアームシリンダ3のボトム側油室3aから作動油が排出され、アームシリンダ3は引込動作する。
【0039】
作業の待機時などオペレータからのレバー入力が無い場合は、切換弁43a~46bをいずれも遮断状態とし、図1のように油圧ショベル100のフロント装置103が空中にある場合でも、フロント装置103が自重方向に沈下しないようアクチュエータ1,3で保持している。閉回路ポンプ12,14は吐出流量が発生しないよう、傾転角がゼロに制御されている。
【0040】
この際、図3に示すように閉回路ポンプ12,14内のピストン305は遠心力によりシリンダ壁面304bに押し付けられており、かつ傾転角αがゼロでピストン305とシリンダ304の相対変位がないために両者の接触部には潤滑油としての作動油が導かれにくい状況になっている。そのため、この状態が続くと接触部の油膜が切れてピストン305やシリンダ304が摩耗したり、損傷したりして信頼性が低下する可能性があった。
【0041】
そこで、本実施の形態では、上記課題を解決するために、分岐油路95,96に切換弁70,71を設け、コントローラ57にアンロード制御部57aを備えている。
【0042】
図4はアンロード制御部57aのフローチャートである。ここでは閉回路ポンプ12のアンロード制御について説明するが、閉回路ポンプ14の場合も同様である。
【0043】
コントローラ57は、まず、閉回路ポンプ12への要求ポンプ容量がゼロであるか否かを判定する(ステップS1)。
【0044】
ステップS1で要求ポンプ容量がゼロでない(No)と判定した場合、ピストン305はシリンダ304に対して変位しており、ピストン305やシリンダ304が摩耗することはないため、ポンプ容量ゼロの状態を継続する。具体的には、ゼロ傾転継続時間Tzeroをゼロとし(ステップS2)、切換弁70の指令は遮断(Close)としたまま、閉回路ポンプ12の指令容量は要求通りとする(ステップS3)。
【0045】
ステップS1で要求ポンプ容量がゼロである(Yes)と判定した場合は、エンジン回転数Nが所定の回転数Nhighを超過したか否かを判定する(ステップS4)。
【0046】
ステップS4でNo(エンジン回転数Nが所定の回転数Nhigh以下である)と判定した場合は、閉回路ポンプ12のピストン305に作用する遠心力は小さく、ピストン305やシリンダ304が摩耗する可能性は十分に小さいため、ポンプ容量ゼロの状態をそのまま継続する。すなわち、ゼロ傾転継続時間Tzeroをゼロとし(ステップS2)、切換弁70の指令は遮断(Close)としたまま、閉回路ポンプ12の指令容量は要求通りとする(ステップS3)。
【0047】
ステップS4でYes(エンジン回転数Nが所定の回転数Nhighを超過した)と判定した場合は、前回の制御周期におけるゼロ傾転継続時間Tzeroに制御周期ΔTを加算し、現時点のゼロ傾転継続時間Tzeroを算出する(ステップS5)。
【0048】
ステップS5に続き、ゼロ傾転継続時間Tzeroが所定の待機時間Tlimitを超過したか否かを判定する(ステップS6)。本実施の形態では、待機時間Tlimitは、エンジン回転数Nの関数として定義されており、例えば図5に示すように、エンジン回転数Nが所定の回転数Nhighより大きくなるに従って短くなるように設定されている。これは、エンジン回転数Nが大きくなるほど、閉回路ポンプのピストン305に作用する遠心力が大きくなり、ピストン305とシリンダ304の摺動部の油膜が切れるまでの時間が短くなるためである。
【0049】
ステップS6でNo(ゼロ傾転継続時間Tzeroが所定の待機時間Tlimit以下である)と判定した場合は、ポンプ容量ゼロの状態を継続する。すなわち、切換弁70の指令は遮断(Close)としたまま、閉回路ポンプ12の指令容量は要求通りとする(ステップS3)。
【0050】
ステップS6でYes(ゼロ傾転継続時間Tzeroが待機時間Tlimitを超過した)と判定した場合は、切換弁70の指令を開弁(Open)とし、閉回路ポンプ12の指令容量を所定の容量Vsetとする(ステップS7)。
【0051】
ステップS3またはステップS7に続き、切換弁70および閉回路ポンプ12に指令を出力し(ステップS8)、当該フローを終了する。
【0052】
図6に、エンジン回転数Nが所定の回転数Nhighを超過し、かつ閉回路ポンプ12のゼロ傾転継続時間Tzeroが待機時間Tlimitを超過したときの作動油の流れを示す。閉回路ポンプ12は容量Vsetに応じた流量を吐出する。閉回路ポンプ12から吐出された作動油は、図中実線の太線で示すように、切換弁70を経由してチャージライン90へと流れ、チャージリリーフ弁20を通ってタンク25へと戻る。閉回路ポンプ12の吸入側へは、図中点線の太線で示すように、チャージポンプ11の吐出流量がチェック弁30bを介して供給される。
【0053】
この結果、以下のような効果が得られる。
【0054】
閉回路ポンプ容量を所定の容量Vset以上に保持することでポンプ12内のピストン305はシリンダ304に対して変位するので摺動部に油が導かれて油膜が確保され、摩耗を防止することができる。また、閉回路ポンプ12の吸込吐出ポートを切換弁70を介してチャージライン90に接続したので、閉回路ポンプ12の吐出圧力はチャージ圧力以下に低く抑えられ、燃費の悪化を防止するとともに閉回路ポンプ12自体の耐久性を向上することができる。
【0055】
また、アンロード制御を開始するまでの待機時間Tlimitを設け、かつ回転速度Nに応じて待機時間Tlimitを変化させるようにしたので、例えばエンジンアイドル時のような摩耗の可能性の低い場合は待機時間Tlimitを無限大にしてアンロード制御を行わず、結果として切換弁70,71の動作回数が大幅に減らせるので切換弁70,71の信頼性確保を容易にすることができる。
【0056】
また、図6に示したように、本実施の形態ではチャージライン90に接続される油圧機器の中で、チェック弁30a,30b,31a,31bをチャージポンプ11の吐出ポートから最も近くに配置し、チャージリリーフ弁20、切換弁70,71をそれより遠くに配置する構成とした。これにより、アンロード制御中に閉回路ポンプ12,14にはチャージポンプ11を介してタンク25内の比較的温度の低い作動油が吸入されるので、閉回路ポンプ12,14の温度上昇が抑えられ、信頼性および耐久性を向上させることができる。仮に、チャージポンプ11の吐出ポートに近い方からチャージリリーフ弁20、チェック弁30a,30b,31a,31b、切換弁70,71の順に配置したり、切換弁70,71、チェック弁30a,30b,31a,31b、チャージリリーフ弁20の順に配置した場合、閉回路ポンプ12,14から吐出された作動油は切換弁70,71、チェック弁30a,30b,31a,31bと経由して再び閉回路ポンプ12,14に吸入されることになり、タンク25を介さず作動油が循環するため作動油温度が局部的に上昇し、作動油の粘度が低下して摺動部の摩耗が促進される可能性がある。
【0057】
さらに、本実施の形態では、アンロード制御用の切換弁70,71は油圧シリンダ1,3のボトム側油室1a,3aまたはロッド側油室1b,3bのいずれか一方のみに接続し、かつフロント装置103の自重による高圧が作用しない側に接続する構成とした。具体的には本実施の形態では使用頻度の高い空中姿勢として、図1に示すようなバケット6を駆動して暖機運転を行うシーンを想定した。この姿勢ではブームシリンダ1のボトム側、アームシリンダ3のロッド側にフロント装置103の自重による高圧が作用しているので、本実施の形態では図7に示すように高圧が作用しないブームシリンダ1のロッド側、アームシリンダ3のボトム側と切換弁70,71が接続するように構成した。
【0058】
これにより、例えば図1の空中姿勢からオペレータが微操作のブーム上げを行おうとして切換弁43aを開弁した時点で、仮に切換弁70が開弁した状態で固着していた場合(開固着故障)でも、ブーム2が自重方向に急激に下がることはないので、オペレータの意図しない動作を抑制することができる。
【0059】
本実施の形態では、2つの吸込吐出ポートを有する両傾転型油圧ポンプからなる閉回路ポンプ12,14と、閉回路ポンプ12,14に閉回路状に接続された油圧アクチュエータ1,3と、チャージポンプ11と、チャージポンプ11の吐出ポートに接続されたチャージライン90と、チャージライン90と閉回路ポンプ12,14とを接続する油路に設けられ、チャージライン90から閉回路ポンプ12,14への作動油の流入を許容するチェック弁30a,30b,31a,31bと、チャージライン90に設けられたチャージリリーフ弁20と、油圧アクチュエータ1,3の動作を指示するための操作レバー56a,56dと、操作レバー56a,56dからの入力に応じて閉回路ポンプ12,14の容量を制御するコントローラ57とを備えた建設機械100において、閉回路ポンプ12,14の一方の吸込吐出ポートとチャージライン90とを接続する分岐油路95,96に設けられ、コントローラ57からの制御信号に応じて開閉する切換弁70,71を備え、コントローラ57は、閉回路ポンプ12,14の容量をゼロに保持した状態が所定時間Tlimit以上継続した場合に、切換弁70,71を開くとともに、閉回路ポンプ12,14の容量をゼロより大きい所定の容量Vset以上に保持する。
【0060】
以上のように構成した本実施の形態によれば、閉回路ポンプ12,14の容量を所定の容量Vset以上に保持することで閉回路ポンプ12,14内のピストン305はシリンダ304に対して変位するので摺動部に油が導かれて油膜が確保され、摩耗を防止することができる。また、閉回路ポンプ12,14の吐出ポートを切換弁70,71を介してチャージライン90に接続することでポンプ圧が低く(チャージ圧力以下に)抑えられるため、燃費の悪化を防止するとともに閉回路ポンプ12,14の耐久性を向上することができる。その結果、油圧アクチュエータを閉回路用油圧ポンプで駆動する構成の建設機械において、最重要機器である閉回路用油圧ポンプの油膜切れを防止することができるので、閉回路ポンプの信頼性を向上し、高い稼働率が得られる建設機械を提供することができる。なお、本実施の形態では、ブームシリンダ1のロッド側およびアームシリンダ3のボトム側に切換弁70,71を設けたが、ブームシリンダ1のボトム側およびアームシリンダ3のロッド側に設けても良い。
【0061】
また、本実施の形態におけるコントローラ57は、閉回路ポンプ12,14の回転速度Nが大きくなるに従って所定時間Tlimitを短く設定する。
【0062】
これにより、閉回路ポンプ12,14の回転速度Nに応じてアンロード制御までの待機時間Tlimitが変化するので、例えばエンジンアイドル時のような摩耗の可能性の低い場合はアンロード制御を行わず、結果として切換弁70,71の動作回数が減るので切換弁70,71の信頼性確保を容易にすることができる。
【0063】
また、本実施の形態では、チャージライン90に接続されたチェック弁30a,30b,31a,31b、チャージリリーフ弁20、および切換弁70,71のうち、チェック弁30a,30b,31a,31bがチャージポンプ11の吐出ポートから最も近くに配置されている。
【0064】
これにより、アンロード制御中に閉回路ポンプ12,14にはチャージポンプ11を介してタンク25から比較的低い温度の油が吸入されるので、閉回路ポンプ12,14の温度上昇が抑えられ、信頼性および耐久性を向上することができる。
【0065】
また、本実施の形態に係る建設機械100は、ブーム2およびアーム4を有するフロント装置103を備え、閉回路ポンプ12,14は、第1閉回路ポンプ12と第2閉回路ポンプ14とを含み、油圧アクチュエータ1,3は、ブーム2を駆動するブームシリンダ1と、アーム4を駆動するアームシリンダ3とを含み、切換弁70,71は、第1閉回路ポンプ12の一方の吸込吐出ポートとチャージライン90とを接続する第1分岐油路95に設けられた第1切換弁70と、第2閉回路ポンプ14の一方の吸込吐出ポートとチャージライン90とを接続する第2分岐油路96に設けられた第2切換弁71とを含み、第1切換弁70および第2切換弁71は、それぞれ、ブームシリンダ1のロッド側でかつアームシリンダ3のボトム側に配置されている。
【0066】
これにより、仮に切換弁70,71が開弁した状態で固着(開固着)してしまった場合でも、フロント装置103が自重方向に急激に下がるような動作を防止することができるので、オペレータの意図しない動作を抑制することができる。
【0067】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0068】
1…ブームシリンダ(油圧アクチュエータ)、1a…ボトム側油室、1b…ロッド側油室、2…ブーム、3…アームシリンダ(油圧アクチュエータ)、3a…ボトム側油室、3b…ロッド側油室、4…アーム、5…バケットシリンダ、6…バケット、7…旋回装置、8…走行装置、9…エンジン、10…動力伝達装置、11…チャージポンプ、12…閉回路ポンプ(第1閉回路ポンプ)、14…閉回路ポンプ(第2閉回路ポンプ)、13,15…開回路ポンプ、20…チャージリリーフ弁、25…タンク、34,35…フラッシング弁、30a,30b,31a,31b,37a,37b,38a,38b…チェック弁、43a,43b,44a,44b,45a,45b,46a,46b…切換弁、56a,56d…操作レバー、57…コントローラ、57a…アンロード制御部、64,65…ブリードオフ弁、70…切換弁(第1切換弁)、71…切換弁(第2切換弁)、80a,80b,81a,81b…メインリリーフ弁、90…チャージライン、91a…ボトム側油路、91b…ロッド側油路、92a…ボトム側油路、92b…ロッド側油路、93,94…吐出油路、95…分岐油路(第1分岐油路)、96…分岐油路(第2分岐油路)、100…油圧ショベル(建設機械)、101…下部走行体、102…上部旋回体、103…フロント装置、104…キャブ、301…ケーシング、302…リヤケース、303…シャフト、304…シリンダ、304a…シリンダ壁面、305…ピストン、306…シュー、307…弁板、308…斜板、308a…平滑面、309…クレードル、310,311…吸込吐出ポート、312…チャージポート。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7