(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-27
(45)【発行日】2023-01-11
(54)【発明の名称】グリカンとともに三重内部標準を同時注入することによって、前記グリカンの構造を識別するためのシステム、方法、およびコンピュータプログラム製品
(51)【国際特許分類】
G01N 27/447 20060101AFI20221228BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20221228BHJP
G01N 30/74 20060101ALI20221228BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20221228BHJP
G01N 30/86 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
G01N27/447 301A
G01N27/447 331K
G01N27/447 301B
G01N30/88 N
G01N30/74 E
G01N30/72 C
G01N30/86 F
(21)【出願番号】P 2019511484
(86)(22)【出願日】2017-08-17
(86)【国際出願番号】 IB2017054989
(87)【国際公開番号】W WO2018037316
(87)【国際公開日】2018-03-01
【審査請求日】2020-08-13
(32)【優先日】2016-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510075457
【氏名又は名称】ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ヤルヴァス, ガボル
(72)【発明者】
【氏名】スィゲティ, マルトン ゲーザ
(72)【発明者】
【氏名】ガットマン, アンドラス
(72)【発明者】
【氏名】チャップマン, ジェフ
【審査官】北島 拓馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-205431(JP,A)
【文献】特開平06-242074(JP,A)
【文献】国際公開第2015/166399(WO,A1)
【文献】米国特許第05662787(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26 -27/404
G01N 27/414-27/416
G01N 27/42 -27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリカンとともにマルトオリゴ糖(MOL)の3つの異なるグルコースα1-4オリゴマーから構成された三重内部標準を同時注入することによって、前記グリカンの構造を識別するためのシステムであって、前記システムは、
MOLの3つの異なるオリゴマーとともに同時注入される既知または未知のグリカンを受け取り、前記グリカンおよび前記MOLの3つの異なるオリゴマーを経時的に分離する分離デバイスであって、MOLは、1~最大数十に及ぶ重合度(DP)を有するオリゴマーを備え、MOLの2つの連続的オリゴマー間の移動時間の差異とMOLの隣接する連続的オリゴマー間の移動時間の差異との比率は、MOLのDP範囲の第1の領域内の第1の既知の定数値およびMOLのDP範囲の第2の領域内の第2の既知の定数値であり、前記MOLのDP範囲の第1の領域は、DP値≧DP2かつ≦DP7を備え、前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの2つは、前記第1の領域または前記第2の領域のうちの一方における移動時間を生じるように選択され、前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの第3のものは、前記第1の領域または前記第2の領域のうちの他方における移動時間を生じるように選択される、分離デバイスと、
移動時間の関数である強度ピークとして、前記分離された既知または未知のグリカンおよび前記分離されたMOLの3つの異なるオリゴマーを測定する検出器と、
プロセッサと
を備え、前記プロセッサは、
前記分離された既知または未知のグリカンおよび前記分離されたMOLの3つの異なるオリゴマーの前記強度ピークを受信することと、
前記MOLの3つの異なるオリゴマーの移動時間と前記第1の既知の定数値および前記第2の既知の定数値とからMOLの複数の他のオリゴマーの移動時間を計算することと、
前記分離された既知または未知のグリカンの移動時間を前記MOLの複数の他のオリゴマーの前記計算された移動時間と比較することによって、前記分離された既知または未知のグリカンの前記強度ピークに対するグルコース単位(GU)値を計算することと、
前記分離された既知または未知のグリカンの前記強度ピークの前記計算されたGU値を既知のグリカン構造に対するGU値のデータベースと比較することによって、前記既知または未知のグリカンの前記構造を識別することと
を行う、システム。
【請求項2】
前記分離デバイスは、キャピラリ電気泳動(CE)または多重キャピラリ電気泳動デバイスを備えている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記分離デバイスは、液体クロマトグラフィ(LC)デバイスを備えている、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記既知または未知のグリカンおよび前記MOLの3つの異なるオリゴマーは、同時注入の前にレーザ誘起蛍光(LIF)のために標識化され、前記検出器は、LIF検出器を備えている、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記検出器は、紫外線(UV)光検出器を備えている、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記検出器は、質量分析計を備えている、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記MOLの3つの異なるオリゴマーは、マルトース(下側ブラケティング標準)と、マルトトリオース(内部標準)と、マルトペンタデカオース(上側ブラケティング標準)とを備えている、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記MOLのDP範囲の第2の領域は、DP値≧DP7を備えている、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの前記2つは、前記第1の領域内の移動時間を生じるように選択され、前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの前記第3のものは、前記第2の領域内の移動時間を生じるように選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの前記2つは、前記第2の領域内の移動時間を生じるように選択され、前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの前記第3のものは、前記第1の領域内の移動時間を生じるように選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
グリカンとともにマルトオリゴ糖(MOL)の3つの異なるオリゴマーから構成された三重内部標準を同時注入することによって、前記グリカンの構造を識別する方法であって、前記方法は、
分離デバイスを使用して、MOLの3つの異なるオリゴマーとともに同時注入される既知または未知のグリカンを受け取り、前記グリカンおよび前記MOLの3つの異なるオリゴマーを経時的に分離することであって、MOLは、1~最大数十に及ぶ重合度(DP)を有するオリゴマーを備え、MOLの2つの連続的オリゴマー間の移動時間の差異とMOLの隣接する連続的オリゴマー間の移動時間の差異との比率は、MOLのDP範囲の第1の領域内の第1の既知の定数値およびMOLのDP範囲の第2の領域内の第2の既知の定数値であり、前記MOLのDP範囲の第1の領域は、DP値≧DP2かつ≦DP7を備え、前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの2つは、前記第1の領域または前記第2の領域のうちの一方における移動時間を生じるように選択され、前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの第3のものは、前記第1の領域または前記第2の領域のうちの他方における移動時間を生じるように選択される、ことと、
検出器を使用して、移動時間の関数である強度ピークとして、前記分離された既知または未知のグリカンおよび前記分離されたMOLの3つの異なるオリゴマーを測定することと、
プロセッサを使用して、前記分離された既知または未知のグリカンおよび前記分離されたMOLの3つの異なるオリゴマーの前記強度ピークを受信することと、
前記プロセッサを使用して、前記MOLの3つの異なるオリゴマーの移動時間と前記第1の既知の定数値および前記第2の既知の定数値とからMOLの複数の他のオリゴマーの移動時間を計算することと、
前記プロセッサを使用して、前記分離された既知または未知のグリカンの移動時間を前記MOLの複数の他のオリゴマーの前記計算された移動時間と比較することによって、前記分離された既知または未知のグリカンの前記強度ピークに対するグルコース単位(GU)値を計算することと、
前記プロセッサを使用して、前記分離された既知または未知のグリカンの前記強度ピークの前記計算されたGU値を既知のグリカン構造に対するGU値のデータベースと比較することによって、前記既知または未知のグリカンの前記構造を識別することと
を含む、方法。
【請求項12】
前記MOLの3つの異なるオリゴマーは、マルトースと、マルトトリオースと、マルトペンタデカオースとを備えている、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの前記2つは、前記第1の領域内の移動時間を生じるように選択され、前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの前記第3のものは、前記第2の領域内の移動時間を生じるように選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの前記2つは、前記第2の領域内の移動時間を生じるように選択され、前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの前記第3のものは、前記第1の領域内の移動時間を生じるように選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
グリカンとともにマルトオリゴ糖(MOL)の3つの異なるオリゴマーから構成された三重内部標準を同時注入することによって前記グリカンの構造を識別する方法を
システムに実施
させる命令を
備えるプログラム
であって、前記システムは、1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを備え、前記異なるソフトウェアモジュールは、測定モジュールと、分析モジュールとを備え
、前記方法は、
前記測定モジュールを使用して、MOLの3つの異なるオリゴマーとともに同時注入される既知または未知のグリカンを受け取ることと、前記グリカンおよび前記MOLの3つの異なるオリゴマーを経時的に分離することとを行うように分離デバイスに命令することであって、MOLは、1~最大数十に及ぶ重合度(DP)を有するオリゴマーを備え、MOLの2つの連続的オリゴマー間の移動時間の差異とMOLの隣接する連続的オリゴマー間の移動時間の差異との比率は、MOLのDP範囲の第1の領域内の第1の既知の定数値およびMOLのDP範囲の第2の領域内の第2の既知の定数値であり、前記MOLのDP範囲の第1の領域は、DP値≧DP2かつ≦DP7を備え、前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの2つは、前記第1の領域または前記第2の領域のうちの一方における移動時間を生じるように選択され、前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの第3のものは、前記第1の領域または前記第2の領域のうちの他方における移動時間を生じるように選択される、ことと、
前記測定モジュールを使用して、移動時間の関数である強度ピークとして、前記分離された既知または未知のグリカンおよび前記分離されたMOLの3つの異なるオリゴマーを測定するように検出器に命令することと、
前記分析モジュールを使用して、前記分離された既知または未知のグリカンおよび前記分離されたMOLの3つの異なるオリゴマーの前記強度ピークを受信することと、
前記分析モジュールを使用して、前記MOLの3つの異なるオリゴマーの移動時間と前記第1の既知の定数値および前記第2の既知の定数値とからMOLの複数の他のオリゴマーの移動時間を計算することと、
前記分析モジュールを使用して、前記分離された既知または未知のグリカンの移動時間を前記MOLの複数の他のオリゴマーの前記計算された移動時間と比較することによって、前記分離された既知または未知のグリカンの前記強度ピークに対するグルコース単位(GU)値を計算することと、
前記分析モジュールを使用して、前記分離された既知または未知のグリカンの前記強度ピークの前記計算されたGU値を既知のグリカン構造に対するGU値のデータベースと比較することによって、前記既知または未知のグリカンの前記構造を識別することと
を含む
、プログラ
ム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、米国仮特許出願第62/380,062号(2016年8月26日出願)および米国仮特許出願第62/518,104号(2017年6月12日出願)の利益を主張し、両出願の内容は、その全体が参照により本明細書に引用される。
【0002】
本明細書における教示は、キャピラリ電気泳動または液体クロマトグラフィ等の分離技法を使用して、サンプル中の炭水化物または任意のグリカンの構造を識別することに関する。より具体的には、本明細書における教示は、グルコース単位(GU)計算のための三重内部標準の同時注入を使用してグリカンの構造を識別するためのシステムおよび方法に関し、三重内部標準の同時注入は、計算のためのマルトオリゴ糖ラダーの付随する実行の必要性を緩和する。ブラケティング標準が、同時注入される一方、内部標準は、サンプルの一部である。本明細書におけるシステムおよび方法は、プロセッサ、コントローラ、または
図1のコンピュータシステム等のコンピュータシステムと併せて実施されることができる。
【背景技術】
【0003】
(グルコース単位(GU)計算)
炭水化物は、本質的に最も構造的に多様なバイオポリマーのうちの1つであり、したがって、有意な分析課題を提起する。可能なグリカン構造の極端に高い多様性は、液体クロマトグラフィ(LC)、キャピラリ電気泳動(CE)、多重キャピラリ電気泳動、質量分析(MS)、および核磁気共鳴分光法(NMR)、またはそれらのいくつかの組み合わせの最も強力な生物学的分析技法を用いても、それらの構造解明を非常に困難にする。グリカンは、任意の多糖類またはオリゴ糖であり、特に、糖タンパク質もしくは糖脂質の一部となるものである(2017年3月23日時点のhttps://en.wikipedia.org/wiki/Glycan)。炭水化物は、あるタイプのグリカンであるか、またはグリカンの一部であり得る糖類である(2017年3月23日時点のhttps://en.wikipedia.org/wiki/Carbohydrate)。
【0004】
LCおよびCEベースのグライコミクス方法が、通常、グリコ分析分野において使用される。両方の技法では、グルコース単位(GU)計算が、データベース検索ベースの構造割当のための一般的なアプローチである。グルコース単位アプローチは、構造解明を補助するための増加するサイズのオリゴ糖構造の混合物(通常、文献では「ラダー」と呼ばれる)との未知の分析物ピークの移動時間の直接比較に基づく。
【0005】
CEまたはLCでは、例えば、マルトオリゴ糖(MOL)ラダーが、この目的のために使用される。ラダーは、グルコース単位(限定ではないが、α1-4、α1-6、β1-4、β1-6、β等の結合単位等)を備え、それらの重合度(DP)は、1~最大数十に及ぶ。CEは、著しく強力な分離技法であるが、エキソグリコシダーゼベースの分解アッセイまたは質量分析等の追加の分析次元の使用なしでは、それは、グリカン構造データベースに関してGU計算を付随しない限り、直接構造情報を提供しない。
【0006】
しかしながら、GU値計算の正確度は、溶出/移動時間測定値の精度に強く依存し、事実上全ての液相分離方法は、異なるオリゴ糖構造の溶出/移動時間シフトおよび可能な共溶出/移動に悩まされる。移動時間の相対的移動時間への変換が、精度を増加させることができる。加えて、サンプルについての先験的情報が、データ誤解釈を回避することに役立ち得る。GUアプローチは、システム非依存性になり、糖鎖生物学において標準構造解明方法としての役割を果たすことを目標としている。クロマトグラフィ分野におけるその明確に確立された役割にもかかわらず、CEベースのデータ処理および解釈は、依然として、その初期段階にある。
【0007】
手動GU計算は、実践では、このタスクを実施するためのコンピュータプログラムのリリース前は時間がかかるプロセスであった。これらのコンピュータプログラムのうちのいくつかは、サンプル間移動時間シフトおよび電気泳動図の伸張/圧縮に対処する優れたマルチレーンCE移動時間整合を提供するが、GU値計算および後続の構造割当に対処しない。
【0008】
典型的なCEベースのGUアプローチ実験では、1つ以上のMOL標準サンプルが、各既知または未知のグリカンサンプルとともに調製される。MOL標準サンプルが、CEを使用して最初に分離される。オリゴマーの強度ピークが、CEデバイスに接続される検出器を使用して検出される。検出器によって採用される検出の方法は、限定ではないが、蛍光検出、紫外線光検出、または質量分析を含むことができる。MOL標準サンプルから検出されるオリゴマーの強度ピークは、移動時間の関数として測定される。
【0009】
MOL標準サンプルを分離した後、既知または未知のグリカンサンプルが、同じCEデバイスを使用して分離される。既知または未知のグリカンサンプルの強度ピークも、移動時間の関数として測定される。
【0010】
図2は、相対的移動時間に基づいてピークの整合を実証する既知の8-アミノピレン-1,3,6-トリスルホン酸(APTS)標識化ヒト免疫グロブリンG(IgG)N-グリカンおよびマルトオリゴ糖(MOL)標準ラダーの強度ピークの比較を示す例示的プロットまたは電気泳動
図200である。既知のIgG N-グリカンの強度ピーク210が、上側トレースにおいて示され、MOL標準ラダーの強度ピーク220が、下側トレースにおいて示される。強度ピーク210および220は、比較目的のために同じプロット200に示される。強度ピーク210および220は、同じCEデバイスを使用して、別個のCE実験から取得された。
【0011】
典型的なCEベースのGU実験では、既知または未知のグリカンの強度ピークの移動時間は、グリカンを識別するために、MOL標準の強度ピークの移動時間と比較される。特に、ピークは、既知または未知のグリカンのピークからMOL標準ラダーのピークもしくはα1-4結合グルコース単位までの時間における相対的距離を決定するために比較される。既知または未知のグリカンのピークとMOL標準ラダーのピークもしくはα1-4結合グルコース単位とのこの相対的対応は、1~最大数十に及ぶ既知または未知のグリカンの重合度(DP)を決定する。GU値は、次いで、DPの観点から表される。
【0012】
例えば、既知のIgG N-グリカンのピーク210の移動時間が、既知のIgG N-グリカンのピーク210の各々に対する相対的GU値を決定するために、MOL標準ラダーのピーク220と比較される。既知のIgG N-グリカンのピーク210に対するGU値が取得されると、これらのGU値は、複数のグリカンに対する基準GU値を含むグリカン構造データベースと比較される。計算されたGU値をグリカン構造データベースの基準GU値に合致させることから、既知のIgG N-グリカンの構造が、確認される。
【0013】
単一のスペクトル撮像検出システム上で最大精度を達成し、ドリフトする移動時間を回避するために、GU値計算は、各サンプルに対して付随するMOLラダーの実行を要求し、それは、サンプル処理時間を2倍にする。ある場合、MOL標準ラダー実験は、既知または未知のグリカンに対する実験の前および後に実施される。その結果、3つの別個の分離実験が、実施され、サンプル処理時間を3倍にする。
【0014】
代替として、単一のMOLラダーが、サンプルのバッチのために使用されることができる。しかしながら、このシナリオでは、一連の実行は、移動時間シフトをもたらす、わずかに異なる分離条件を有し得る。この改変は、毛細管壁被覆範囲の分散、すなわち、コーティング問題および/または吸着される分析物分子、バックグラウンド電解液成分、もしくは不純物によって引き起こされる可能性が最も高い。GU値に影響を及ぼさなかったわずかな移動時間シフトが、コーティングされていない毛細管とコーティングされた毛細管との間で観察されている。
【0015】
単一色検出システムの場合サンプルとのMOLラダーの同時注入は、ラダーおよびサンプルピークのうちのいくつかが重複し得るので、いかなる実践的妥当性も有していない。マルチスペクトル撮像(すなわち、異なるように標識化された種を同時に検出するために複数の波長を使用すること)では、ラダーの同時注入は、着目ピークに変位効果を引き起こし、したがって、データ評価を不明瞭にし得る。
【0016】
少なくとも1つ、多くの場合、2つの別個のMOL標準ラダー分離実験が、各既知または未知のグリカン分離実験のために実施されるので、伝統的なLCまたはCEベースのGU実験は、時間がかかり得る。加えて、3つもの数の実験サンプルが各既知または未知のグリカンのために生成および分析されなければならないので、これらの実験は、実験室材料および資源の観点から高価である。例えば、96ウェルプレートの3分の2が、MOL標準ラダーサンプルのみを含むために使用され得る。
【0017】
加えて、伝統的なLCまたはCEベースのGU実験は、同じデバイス上で実施される別個の実験間の比較を要求する。これらは、既知または未知のグリカン実験と1つまたは2つのMOL標準ラダー実験とからの結果間の比較である。その結果、追加の誤差が、異なる実験の設定および測定において導入され得る。
【0018】
その結果、(1)これらの実験のために要求される時間の量を低減させ、(2)これらの実験のコストを減少させ、(3)これらの実験の正確度を改良し得るLCまたはCEベースのGU実験を実施する改良された方法の必要性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
グリカンとともにマルトオリゴ糖(MOL)の3つの異なるオリゴマーから構成された三重内部標準を同時注入することによって、グリカンの構造を識別するためのシステム、方法、およびコンピュータプログラム製品が、開示される。3つ全ての実施形態は、以下のステップを含む。
【0020】
分離デバイスは、MOLの3つの異なるオリゴマーとともに同時注入される既知または未知のグリカンを受け取る。好ましい実施形態では、MOLの3つの異なるオリゴマーは、グルコースα1-4オリゴマーである。しかしながら、MOLのこれらのオリゴマーは、任意の他の糖またはほぼ同時に移動する任意の他の分子であり得る。MOLの3つのオリゴマーのうちの2つは、ブラケティング標準であり、一方は、MOLの他方のオリゴマーの計算のためにも使用される内部標識化標準であり、それは、オリゴマー移動時間の仮想ラダーを生成する。
【0021】
分離デバイスは、グリカンおよび3つの異なるオリゴマーを経時的に分離する。検出器は、移動時間の関数である強度ピークとして、分離されたグリカンおよび分離された3つの異なるオリゴマーを測定する。
【0022】
プロセッサは、分離されたグリカンおよび分離された3つの異なるオリゴマーの強度ピークを受信する。プロセッサは、3つの異なるオリゴマーの移動時間からMOLの複数の他のオリゴマーの移動時間を計算する。プロセッサは、それらの移動時間をMOLの複数の他のオリゴマーの計算された移動時間と比較することによって、分離されたグリカンの強度ピークに対するグルコース単位(GU)値を計算する。プロセッサは、分離されたグリカンの強度ピークの計算されたGU値をデータベースと比較することによって、グリカンの構造を識別する。データベースは、既知のグリカン構造に対するGU値を含む。グリカンの構造は、データベースの合致する構造から見出される。
本明細書は、例えば、以下の項目も提供する。
(項目1)
グリカンとともにマルトオリゴ糖(MOL)の3つの異なるグルコースα1-4オリゴマーから構成された三重内部標準を同時注入することによって、前記グリカンの構造を識別するためのシステムであって、前記システムは、
MOLの3つの異なるオリゴマーとともに同時注入される既知または未知のグリカンを受け取り、前記グリカンおよび前記MOLの3つの異なるオリゴマーを経時的に分離する分離デバイスであって、MOLは、1~最大数十に及ぶ重合度(DP)を有するオリゴマーを備え、MOLの2つの連続的オリゴマー間の移動時間の差異とMOLの隣接する連続的オリゴマー間の移動時間の差異との比率は、MOLのDP範囲の第1の領域内の第1の既知の定数値およびMOLのDP範囲の第2の領域内の第2の既知の定数値であり、前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの2つは、前記第1の領域または前記第2の領域のうちの一方における移動時間を生じるように選択され、前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの第3のものは、前記第1の領域または前記第2の領域のうちの他方における移動時間を生じるように選択される、分離デバイスと、
移動時間の関数である強度ピークとして、前記分離された既知または未知のグリカンおよび前記分離されたMOLの3つの異なるオリゴマーを測定する検出器と、
プロセッサと
を備え、前記プロセッサは、
前記分離された既知または未知のグリカンおよび前記分離されたMOLの3つの異なるオリゴマーの前記強度ピークを受信することと、
前記MOLの3つの異なるオリゴマーの移動時間と前記第1の既知の定数値および前記第2の既知の定数値とからMOLの複数の他のオリゴマーの移動時間を計算することと、
前記分離された既知または未知のグリカンの移動時間を前記MOLの複数の他のオリゴマーの前記計算された移動時間と比較することによって、前記分離された既知または未知のグリカンの前記強度ピークに対するグルコース単位(GU)値を計算することと、
前記分離された既知または未知のグリカンの前記強度ピークの前記計算されたGU値を既知のグリカン構造に対するGU値のデータベースと比較することによって、前記既知または未知のグリカンの前記構造を識別することと
を行う、システム。
(項目2)
前記分離デバイスは、キャピラリ電気泳動(CE)または多重キャピラリ電気泳動デバイスを備えている、項目1に記載のシステム。
(項目3)
前記分離デバイスは、液体クロマトグラフィ(LC)デバイスを備えている、項目1に記載のシステム。
(項目4)
前記既知または未知のグリカンおよび前記MOLの3つの異なるオリゴマーは、同時注入の前にレーザ誘起蛍光(LIF)のために標識化され、前記検出器は、LIF検出器を備えている、項目1に記載のシステム。
(項目5)
前記検出器は、紫外線(UV)光検出器を備えている、項目1に記載のシステム。
(項目6)
前記検出器は、質量分析計を備えている、項目1に記載のシステム。
(項目7)
前記MOLの3つの異なるオリゴマーは、マルトース(下側ブラケティング標準)と、マルトトリオース(内部標準)と、マルトペンタデカオース(上側ブラケティング標準)とを備えている、項目1に記載のシステム。
(項目8)
前記MOLのDP範囲の第1の領域は、DP値≧DP2かつ≦DP7を備え、前記MOLのDP範囲の第2の領域は、DP値≧DP7を備えている、項目1に記載のシステム。
(項目9)
前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの前記2つは、前記第1の領域内の移動時間を生じるように選択され、前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの前記第3のものは、前記第2の領域内の移動時間を生じるように選択される、項目1に記載のシステム。
(項目10)
前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの前記2つは、前記第2の領域内の移動時間を生じるように選択され、前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの前記第3のものは、前記第1の領域内の移動時間を生じるように選択される、項目1に記載のシステム。
(項目11)
グリカンとともにマルトオリゴ糖(MOL)の3つの異なるオリゴマーから構成された三重内部標準を同時注入することによって、前記グリカンの構造を識別する方法であって、前記方法は、
分離デバイスを使用して、前記MOLの3つの異なるオリゴマーとともに同時注入される既知または未知のグリカンを受け取り、前記グリカンおよび前記MOLの3つの異なるオリゴマーを経時的に分離することであって、MOLは、1~最大数十に及ぶ重合度(DP)を有するオリゴマーを備え、MOLの2つの連続的オリゴマー間の移動時間の差異とMOLの隣接する連続的オリゴマー間の移動時間の差異との比率は、MOLのDP範囲の第1の領域内の第1の既知の定数値およびMOLのDP範囲の第2の領域内の第2の既知の定数値であり、前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの2つは、前記第1の領域または前記第2の領域のうちの一方における移動時間を生じるように選択され、前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの第3のものは、前記第1の領域または前記第2の領域のうちの他方における移動時間を生じるように選択される、ことと、
検出器を使用して、移動時間の関数である強度ピークとして、前記分離された既知または未知のグリカンおよび前記分離されたMOLの3つの異なるオリゴマーを測定することと、
プロセッサを使用して、前記分離された既知または未知のグリカンおよび前記分離されたMOLの3つの異なるオリゴマーの強度ピークを受信することと、
前記プロセッサを使用して、前記MOLの3つの異なるオリゴマーの移動時間と前記第1の既知の定数値および前記第2の既知の定数値とからMOLの複数の他のオリゴマーの移動時間を計算することと、
前記プロセッサを使用して、前記分離された既知または未知のグリカンの移動時間を前記MOLの複数の他のオリゴマーの前記計算された移動時間と比較することによって、前記分離された既知または未知のグリカンの前記強度ピークに対するグルコース単位(GU)値を計算することと、
前記プロセッサを使用して、前記分離された既知または未知のグリカンの前記強度ピークの前記計算されたGU値を既知のグリカン構造に対するGU値のデータベースと比較することによって、前記既知または未知のグリカンの前記構造を識別することと
を含む、方法。
(項目12)
前記MOLの3つの異なるオリゴマーは、マルトースと、マルトトリオースと、マルトペンタデカオースとを備えている、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの前記2つは、前記第1の領域内の移動時間を生じるように選択され、前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの前記第3のものは、前記第2の領域内の移動時間を生じるように選択される、項目11に記載の方法。
(項目14)
前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの前記2つは、前記第2の領域内の移動時間を生じるように選択され、前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの前記第3のものは、前記第1の領域内の移動時間を生じるように選択される、項目11に記載の方法。
(項目15)
非一過性有形コンピュータ読み取り可能な記憶媒体を備えているコンピュータプログラム製品であって、前記記憶媒体のコンテンツは、グリカンとともにマルトオリゴ糖(MOL)の3つの異なるオリゴマーから構成された三重内部標準を同時注入することによって前記グリカンの構造を識別する方法を実施するためのプロセッサ上で実行される命令を有するプログラムを含み、前記方法は、
システムを提供することであって、前記システムは、1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを備え、前記異なるソフトウェアモジュールは、測定モジュールと、分析モジュールとを備えている、ことと、
前記測定モジュールを使用して、前記MOLの3つの異なるオリゴマーとともに同時注入される既知または未知のグリカンを受け取ることと、前記グリカンおよび前記MOLの3つの異なるオリゴマーを経時的に分離することとを行うように分離デバイスに命令することであって、MOLは、1~最大数十に及ぶ重合度(DP)を有するオリゴマーを備え、MOLの2つの連続的オリゴマー間の移動時間の差異とMOLの隣接する連続的オリゴマー間の移動時間の差異との比率は、MOLのDP範囲の第1の領域内の第1の既知の定数値およびMOLのDP範囲の第2の領域内の第2の既知の定数値であり、前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの2つは、前記第1の領域または前記第2の領域のうちの一方における移動時間を生じるように選択され、前記MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの第3のものは、前記第1の領域または前記第2の領域のうちの他方における移動時間を生じるように選択される、ことと、
前記測定モジュールを使用して、移動時間の関数である強度ピークとして、前記分離された既知または未知のグリカンおよび前記分離されたMOLの3つの異なるオリゴマーを測定するように検出器に命令することと、
前記分析モジュールを使用して、前記分離された既知または未知のグリカンおよび前記分離されたMOLの3つの異なるオリゴマーの強度ピークを受信することと、
前記分析モジュールを使用して、前記MOLの3つの異なるオリゴマーの移動時間と前記第1の既知の定数値および前記第2の既知の定数値とから前記MOLの複数の他のオリゴマーの移動時間を計算することと、
前記分析モジュールを使用して、前記分離された既知または未知のグリカンの移動時間を前記MOLの複数の他のオリゴマーの計算された移動時間と比較することによって、前記分離された既知または未知のグリカンの前記強度ピークに対するグルコース単位(GU)値を計算することと、
前記分析モジュールを使用して、前記分離された既知または未知のグリカンの前記強度ピークの前記計算されたGU値を既知のグリカン構造に対するGU値のデータベースと比較することによって、前記既知または未知のグリカンの前記構造を識別することと
を含む、コンピュータプログラム製品。
【0023】
出願者の教示のこれらおよび他の特徴が、本明細書に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
当業者は、下記に説明される図面が、例証目的のためにすぎないことを理解するであろう。図面は、本教示の範囲をいかようにも限定することを意図していない。
【0025】
【
図1】
図1は、本教示の実施形態が実装され得るコンピュータシステムを図示するブロック図である。
【0026】
【
図2】
図2は、相対的移動時間に基づいてピークの整合を実証する既知の8-アミノピレン-1,3,6-トリスルホン酸(APTS)標識化ヒト免疫グロブリンG(IgG)N-グリカンおよびマルトオリゴ糖(MOL)標準ラダーの強度ピークの比較を示す、例示的プロットまたは電気泳動図である。
【0027】
【0028】
【
図4】
図4は、種々の実施形態による連続的MOL標準ラダーピークの移動時間差対連続的MOL標準ラダーピーク差の例示的プロットである。
【0029】
【
図5】
図5は、種々の実施形態によるグリカンとともにMOLの3つの異なるオリゴマーから構成された三重内部標準を同時注入することによって、グリカンの構造を識別するためのシステムの概略図である。
【0030】
【
図6】
図6は、種々の実施形態によるグリカンとともにMOLの3つの異なるオリゴマーから構成された三重内部標準を同時注入することによって、グリカンの構造を識別する方法を示す、フローチャートである。
【0031】
【
図7】
図7は、種々の実施形態によるグリカンとともにMOLの3つの異なるオリゴマーから構成された三重内部標準を同時注入することによって、グリカンの構造を識別する方法を実施する1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを含むシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本教示の1つ以上の実施形態が詳細に説明される前に、当業者は、本教示が、それらの用途において、以下の詳細な説明に記載される構造、構成要素の配列、およびステップの配列、または図面に図示されるそれらの詳細に限定されないことを理解するであろう。本明細書で使用される語句および専門用語が説明の目的のためであり、限定的と見なされるべきではないことも理解されたい。
【0033】
(コンピュータ実装システム)
図1は、本教示の実施形態が実装され得るコンピュータシステム100を図示するブロック図である。コンピュータシステム100は、情報を通信するためのバス102または他の通信機構と、情報を処理するためにバス102と結合されたプロセッサ104とを含む。コンピュータシステム100は、プロセッサ104によって実行されるべき命令を記憶するために、バス102に結合されるランダムアクセスメモリ(RAM)または他の動的記憶デバイスであり得るメモリ106も含む。メモリ106は、プロセッサ104によって実行されるべき命令の実行中、一時的変数または他の中間情報を記憶するためにも使用され得る。コンピュータシステム100は、プロセッサ104のための静的情報および命令を記憶するために、バス102に結合された読み取り専用メモリ(ROM)108または他の静的記憶デバイスをさらに含む。磁気ディスクまたは光学ディスク等の記憶デバイス110は、情報および命令を記憶するために提供され、バス102に結合される。
【0034】
コンピュータシステム100は、情報をコンピュータユーザに表示するために、バス102を介して、ブラウン管(CRT)または液晶ディスプレイ(LCD)等のディスプレイ112に結合され得る。英数字および他のキーを含む入力デバイス114は、情報およびコマンド選択をプロセッサ104に通信するために、バス102に結合される。別のタイプのユーザ入力デバイスは、方向情報およびコマンド選択をプロセッサ104に通信し、ディスプレイ112上のカーソル移動を制御するためのマウス、トラックボール、またはカーソル方向キー等のカーソル制御116である。この入力デバイスは、典型的には、このデバイスが平面において位置を規定することを可能にする2つの軸、すなわち、第1の軸(すなわち、x)および第2の軸(すなわち、y)において、2自由度を有する。
【0035】
コンピュータシステム100は、本教示を実施することができる。本教示のある実装によると、結果は、メモリ106内に含まれる1つ以上の命令の1つ以上のシーケンスをプロセッサ104が実行することに応答して、コンピュータシステム100によって提供される。そのような命令は、記憶デバイス110等の別のコンピュータ読み取り可能な媒体から、メモリ106に読み込まれ得る。メモリ106内に含まれる命令のシーケンスの実行は、本明細書に説明されるプロセスをプロセッサ104に実施させる。代替として、有線回路が、本教示を実装するためのソフトウェア命令の代わりに、またはそれと組み合わせて使用され得る。したがって、本教示の実装は、ハードウェア回路およびソフトウェアの任意の特定の組み合わせに限定されない。
【0036】
種々の実施形態では、コンピュータシステム100は、ネットワーク化システムを形成するために、ネットワークを横断して、コンピュータシステム100のような1つ以上の他のコンピュータシステムに接続されることができる。ネットワークは、プライベートネットワークまたはインターネット等のパブリックネットワークを含むことができる。ネットワーク化システムでは、1つ以上のコンピュータシステムは、データを記憶し、それを他のコンピュータシステムに提供することができる。データを記憶および提供する1つ以上のコンピュータシステムは、クラウドコンピューティングシナリオにおいて、サーバもしくはクラウドと称されることができる。1つ以上のコンピュータシステムは、例えば、1つ以上のウェブサーバを含むことができる。サーバまたはクラウドに、およびそれからデータを送信および受信する他のコンピュータシステムは、例えば、クライアントもしくはクラウドデバイスと称されることができる。
【0037】
本明細書で使用されるような用語「コンピュータ読み取り可能な媒体」は、実行のために命令をプロセッサ104に提供することにおいて関与する任意の媒体を指す。そのような媒体は、限定ではないが、不揮発性媒体、揮発性媒体、および伝送媒体を含む多くの形態をとり得る。不揮発性媒体は、例えば、記憶デバイス110等の光学または磁気ディスクを含む。揮発性媒体は、メモリ106等の動的メモリを含む。伝送媒体は、バス102を備えているワイヤを含む同軸ケーブル、銅ワイヤ、および光ファイバを含む。
【0038】
コンピュータ読み取り可能な媒体またはコンピュータプログラム製品の一般的形態は、例えば、フロッピディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、または任意の他の磁気媒体、CD-ROM、デジタルビデオディスク(DVD)、Blu-ray(登録商標) Disc、任意の他の光学媒体、サムドライブ、メモリカード、RAM、PROM、およびEPROM、FLASH-EPROM、任意の他のメモリチップまたはカートリッジ、もしくはコンピュータが読み取り得る任意の他の有形媒体を含む。
【0039】
コンピュータ読み取り可能な媒体の種々の形態は、実行のために1つ以上の命令の1つ以上のシーケンスをプロセッサ104に搬送することに関与し得る。例えば、命令は、遠隔コンピュータの磁気ディスク上で最初に搬送され得る。遠隔コンピュータは、命令をその動的メモリ内にロードし、モデムを使用して、電話回線を経由して命令を送信することができる。コンピュータシステム100にローカルなモデムは、データを電話回線上で受信し、赤外線送信機を使用し、データを赤外線信号に変換することができる。バス102に結合された赤外線検出器は、赤外線信号において搬送されるデータを受信し、データをバス102上に配置することができる。バス102は、データをメモリ106に搬送し、そこから、プロセッサ104は、命令を読み出し、実行する。メモリ106によって受信された命令は、随意に、プロセッサ104による実行の前または後のいずれかに、記憶デバイス110上に記憶され得る。
【0040】
種々の実施形態によると、方法を実施するためにプロセッサによって実行されるように構成される命令は、コンピュータ読み取り可能な媒体上に記憶される。コンピュータ読み取り可能な媒体は、デジタル情報を記憶するデバイスであり得る。例えば、コンピュータ読み取り可能な媒体は、ソフトウェアを記憶するための当分野で公知であるようなコンパクトディスク読み取り専用メモリ(CD-ROM)を含む。コンピュータ読み取り可能な媒体は、実行されるように構成される命令を実行するために好適なプロセッサによってアクセスされる。
【0041】
本教示の種々の実装の以下の説明は、例証および説明の目的ために提示されている。それは、包括的ではなく、本教示を開示される精密な形態に限定しない。修正および変形例が、上記の教示に照らして可能であるか、または本教示の実践から取得され得る。加えて、説明される実装は、ソフトウェアを含むが、本教示は、ハードウェアおよびソフトウェアの組み合わせとして、またはハードウェア単独において実装され得る。本教示は、オブジェクト指向および非オブジェクト指向両方のプログラミングシステムによって実装され得る。
【0042】
(電気泳動システムおよび方法)
電気泳動方法が、標的分析物の検出を促進するために使用される。そのような方法は、溶液中の分子が固有電荷を有するという事実を活用する。したがって、電場の存在下、各分子種は、分子種の質量/電荷比に依存する特徴的な「電気泳動」移動度で移動する。この比率が存在する種々の種の間で異なるとき、それらは、相互から分離する。そのような場の影響下、全ての異型は、異型の電荷と反対の指定された電荷に向かって移動し、すなわち、より低い電気泳動移動度を有するそれらは、(相対的に)より高い電気泳動移動度を有するそれらよりも低速で移動し、したがって、それから分離されるであろう。
【0043】
電気泳動は、混合物の分離および分析のために使用されている。電気泳動は、移動度の差異に基づく電場内の分子の移動および分離を伴う。フリーゾーン電気泳動、ゲル電気泳動、等電点電気泳動、および等速電気泳動を含む種々の形態の電気泳動が、公知である。別の形態のキャピラリ電気泳動(CE)が、遊離および結合標識の分離を対象とする。一般的に、CEは、サンプルを毛細管、すなわち、約2pm~約2,000μmの(好ましくは、約50μm未満、最も好ましくは、約25pmまたはそれ未満)内径を有する管の中に導入し、電場を管に印加することを伴う(Chen,F-T.A.,J.Chromatogr.516:69*78(1991年);Chen,F-T.A.,et al.,J.Chromatogr.15:1143*1161(1992年))。サンプル構成物の各々は、それ自体の個々の電気泳動移動度を有するので、より高い移動度を有するものは、より低い移動度を伴うものよりも速く毛細管を通して進行する。したがって、サンプルの構成物は、管を通したそれらの移動中に毛細管内の別々の区域に分解される。方法は、それが便利なオンライン注入、検出、およびリアルタイムデータ分析を提供するので、自動化に非常に好適である。
【0044】
図3は、例示的CEシステム300である。CEシステム300は、CEデバイス310と、検出器320とを含む。CEデバイス310は、光学視認窓312を伴う溶融シリカ毛細管311と、制御可能高電圧電力供給源313と、2つの電極アセンブリ314と、2つのバッファリザーバ315とを含む。毛細管311の端部は、バッファリザーバ内に設置され、光学視認窓312は、検出器320が光学検出器であるとき、検出器320と整列させられる。バッファを用いて毛細管311を充填した後、サンプルは、毛細管311の中に注入されることができる。
【0045】
電気泳動は、基本的に、印加電場内の荷電粒子の移動である。CEでは、サンプルが、毛細管311の一方の端部に注入される。検出器320は、サンプルから遠隔の毛細管311の他方の端部において毛細管311に位置付けられるか、または取り付けられる。高電圧電力供給源313および2つの電極アセンブリ314によって提供される電圧が、毛細管311の長さに沿って印加される。
【0046】
電位が印加された状態で、2つの別個の流動効果が生じる。これらの流動効果のうちの第1のものは、総サンプル流動効果である。サンプルは、集団として毛細管の中に移動する。これらの流動効果のうちの第2のものは、電気泳動流動である。これは、異なる電荷を有するサンプルの構成物に毛細管311内の流体の主流に対して移動させる。異なる電荷を有するサンプルの部分は、それによって、毛細管311内で分離される。
【0047】
異なる検出器が、電気泳動分離が起こった後、サンプルを分析するために使用され得る。これらの検出器は、限定ではないが、紫外線(UV)検出器、レーザ誘起蛍光(LIF)検出器、または質量分析計を含むことができる。例えば、UV検出器は、分離されたサンプルによって吸収されるUV光の量を測定するために使用される。例えば、LIF検出器は、標識化された分子種の高感度測定を提供するために使用される。
【0048】
キャピラリ電気泳動をエレクトロスプレーイオン化(ESI)および質量分析(MS)と組み合わせるシステムでは、毛細管の出力は、エレクトロスプレーアセンブリに入力される。エレクトロスプレーイオン化は、質量分析計への毛細管入口に対して、分離毛細管の出力において高電位差をかけることによって遂行される。分離毛細管は、高電位差がその入口と出口との間にかけられることも要求する。サンプルの分離された部分は、それらが毛細管から退出するとき、エレクトロスプレーによって微細なエアロゾルに分散させられる。エアロゾルの液滴は、次いで、質量分析によって観察される。
【0049】
初期開発器具と比較して、完全に自動化されたCEデバイスは、全ての動作のコンピュータ制御、圧力および動電学的注入、オートサンプラおよびフラクションコレクタ、自動化された方法開発、精密な温度制御、ならびに高度な熱放散システムを提供する。繰り返し可能な動作が精密な定量的分析のために要求されるので、自動化は、CEに重要である。
【0050】
(三重内部標準GU実験を実施するためのシステムおよび方法)
上で説明されるように、液体クロマトグラフィ(LC)、キャピラリ電気泳動(CE)、および多重キャピラリ電気泳動ベースのグライコミクス方法が、グリカンの構造を決定するために、グリコ分析分野において通常使用される。両方の技法では、グルコース単位(GU)計算が、データベース検索ベースの構造割当のための一般的なアプローチである。グルコース単位アプローチは、ラダーと呼ばれる増加するサイズのオリゴ糖構造の混合物との未知の分析物ピークの移動時間の直接比較に基づく。CEまたはLCでは、例えば、マルトオリゴ糖(MOL)ラダーが、この目的のために使用される。
【0051】
典型的なCEベースのGUアプローチ実験では、1つ以上のMOL標準サンプルが、各既知または未知のグリカンサンプルとともに調製される。MOL標準サンプルが、CEを使用して最初に分離される。オリゴマーの強度ピークが、CEデバイスに接続される検出器を使用して検出される。MOL標準サンプルから検出されるオリゴマーの強度ピークは、移動時間の関数として測定される。
【0052】
MOL標準サンプルを分離した後、既知または未知のグリカンサンプルが、同じCEデバイスを使用して分離される。既知または未知のグリカンサンプルの強度ピークも、移動時間の関数として測定される。
【0053】
上で説明されるように、
図2は、相対的移動時間に基づいてピークの整合を実証する既知の8-アミノピレン-1,3,6-トリスルホン酸(APTS)標識化ヒト免疫グロブリンG(IgG)N-グリカンおよびマルトオリゴ糖(MOL)標準ラダーの強度ピークの比較を示す。既知のIgG N-グリカンの強度ピーク210が、上側トレースにおいて示され、MOL標準ラダーの強度ピーク220が、下側トレースにおいて示される。
【0054】
典型的なCEベースのGU実験では、既知または未知のグリカンの強度ピークの移動時間は、グリカンを識別するために、MOL標準の強度ピークの移動時間と比較される。
図2を参照すると、既知のIgG N-グリカンのピーク210の移動時間は、既知のIgG N-グリカンのピーク210の各々に対する相対的GU値を決定するために、MOL標準ラダーのピーク220と比較される。
【0055】
例えば、既知のIgG N-グリカンのピーク211のGU値は、以下から計算されることができ、
GUx=Gn+(tx-tn)/(tn+1-tn) (1)
式中、GUxは、未知のオリゴ糖のGU値であり、Gnは、先行するMOL標準ラダーピークの重合度(DP)であり、txは、未知のオリゴ糖の移動時間であり、tn+1およびtnは、未知のオリゴ糖のピークに後続および先行するMOL標準ラダーピークの移動時間である。先行および後続するMOL標準ラダーピークのDPは、整数として表され、それは、ラダーの対応する段階を表す。
【0056】
再び
図2を参照すると、ピーク211の先行するMOL標準ラダーピークは、ピーク221である。ピーク221のDPは、DP10であり、したがって、G
nは、10である。未知のオリゴ糖またはピーク211の相対的移動時間t
xは、0.66である。先行するMOL標準ラダーピーク221の移動時間t
nは、0.65である。後続するMOL標準ラダーピーク222の移動時間t
n+1は、0.72である。その結果、ピーク211のGU値GU
xは、10+(0.66-0.65)/(0.72-0.65)、すなわち10.143である。
【0057】
既知のIgG N-グリカンのピーク210に対するGU値が取得されると、これらのGU値は、複数のグリカンに対する基準GU値を含むグリカン構造データベースと比較される。例えば、ピーク211のGU値10.143が、グリカン構造データベース内の複数のグリカンに対するGU値と比較される。計算されたGU値をグリカン構造データベースの基準GU値に合致させることから、既知のIgG N-グリカンの構造が、確認される。この場合、IgG N-グリカンは、既知であり、したがって、その構造が、確認される。グリカンが未知である場合、グリカン構造データベースからの合致する構造は、未知のグリカンの構造を識別する。
【0058】
上で説明されるように、少なくとも1つ、多くの場合、2つの別個のMOL標準ラダー分離実験が、各既知または未知のグリカン分離実験に対して実施されるので、伝統的なLCまたはCEベースのGU実験は、時間がかかり、実験室材料および資源の観点から高価であり得る。加えて、伝統的なLCまたはCEベースのGU実験は、同じデバイス上で実施される別個の実験間の比較を要求し、それは、測定において追加の誤差を導入し得る。
【0059】
その結果、(1)これらの実験のために要求される時間の量を低減させ、(2)これらの実験のコストを減少させ、(3)これらの実験の正確度を改良し得るLCまたはCEベースのGU実験を実施する改良された方法の必要性がある。
【0060】
(MOL標準の3つのみのオリゴマーの同時注入)
種々の実施形態では、1回のみのLCまたはCE分離実験において、MOL標準の3つのみのオリゴマーが、GU計算のために必要とされる測定値を取得するために、既知もしくは未知のグリカンサンプルとともに同時注入される。例えば、3つのα1-4オリゴマーが、使用されることができる。しかしながら、3つのオリゴマーは、任意の他の糖、結合、またはさらには非糖分子であり得る。MOL標準の3つのみのオリゴマーからの測定値を使用することは、上で説明された既知または未知のグリカンのピークとのラダーピークの重複もしくは干渉を防止する。加えて、MOL標準の3つのみのオリゴマーから、MOL標準ラダー全体が、既知または未知のグリカンに対するGU計算において計算および使用されることができる。
【0061】
1回のみの分離実験を使用するこの能力は、上で説明される伝統的方法に優って(1)GU実験のために要求される時間の量を低減させ、(2)実験のコストを減少させ、(3)実験の結果の正確度を改良する。
【0062】
多数のCE実行を分析すると、連続的ピークの移動時間増分の比率分布が、明白に一定であることが観察された。この観察は、改変された分離電圧、温度、毛細管タイプ(コーティングの有無別)、毛細管長、注入方法、ならびに日々の反復および器具依存性調査を伴う専用実験を含む500+測定データ点に基づいた。
【0063】
より具体的には、2つのMOL標準ラダーピーク間の移動時間差と次の2つのMOL標準ラダーピーク間の移動時間差との比率は、定数であることが観察された。例えば、Δt2-3/Δt3-4の比率とΔt3-4/Δt4-5の比率とは、同じ定数に等しいことが観察され、式中、Δt2-3=t3-t2は、DP2ピークとDP3ピークと間の移動時間差であり、Δt3-4=t4-t3は、DP3ピークとDP4ピークと間の移動時間差であり、Δt4-5=t5-t4は、DP4ピークとDP5ピークと間の移動時間差である。この関係を説明する別の方法は、連続的MOL標準ラダーピーク間の時間差が線形に変動するということである。
【0064】
さらに、時間差の比率は、2つの別個であるが接続される領域において異なる定数であることが観察された。この関係を説明する別の方法は、連続的MOL標準ラダーピーク間の時間差が、2つの別個であるが接続される領域において線形であるということである。糖オリゴマーがDP>7において完全な螺旋回転を形成するとき、移動挙動は変化するので、2つの別個であるが接続された線形領域が存在する。この変化は、DP>7における計算された移動時間においてシフトをもたらす。
【0065】
図4は、種々の実施形態による連続的MOL標準ラダーピークの移動時間差対連続的MOL標準ラダーピーク差の例示的プロット400である。プロット400は、線410と420とによって描写される本質的に2つの別個の線形領域を示す。MOL標準ラダーピーク1-2間の移動時間差点411は、使用されない。これは、その構造がMOL標準の他のオリゴマーと同等ではないので、MOL標準の第1のオリゴマーが使用されないためである。例えば、それは、リング構造ではない。
【0066】
移動時間差点411を排除すると、したがって、2つの線形領域、すなわち、線410および420が存在する。各線形領域内の点は、2つの測定されたラダーピーク移動時間の間の差異および観察された比率から計算されることができる。その結果、2つの別個の線形領域の各々に対して、2つの測定されたラダーピーク移動時間が、必要とされる。言い換えると、合計4つの測定されたラダーピーク移動時間が、必要とされる。
【0067】
しかしながら、この場合、2つの線形領域は、完全には別個ではない。それらは、DP7ピークを共有する。その結果、1つの領域内の2つの測定されたピーク移動時間は、DP7ピークの移動時間が計算されることを可能にする。DP7ピークの移動時間がすでに計算されていると、1つの他の移動時間のみが、他の領域内で測定される必要がある。その結果、合計3つのみの測定されたラダーピーク移動時間が、プロット400の全ての点またはMOL標準ラダー全体の全ての移動時間を計算するために必要とされる。
【0068】
好ましい実施形態では、例えば、MOL標準のマルトース、マルトトリオース、およびマルトペンタデカオースが、既知または未知のグリカンとともに同時注入される。マルトース(下側ブラケティング標準)およびマルトトリオース(内部標準)は、MOL標準の一方の線形領域に対する測定可能ピークを提供し、マルトペンタデカオース(上側ブラケティング標準)は、他方の線形領域に対する測定可能ピークを提供する。これらの3つの別個の標準は、それぞれ、MOL標準ラダーのDP2、DP3、およびDP15に対応する。
【0069】
マルトース(DP2)およびマルトトリオース(DP3)は、例えば、それらが殆どの他の着目グリカンピークよりも早く移動し、マルトペンタデカオース(DP15)が殆どの他の着目グリカンピークよりも後で移動するので、選定される。その結果、これらの3つの特定の標準を選定することは、上で説明される同時注入される着目グリカンのピークとの潜在的重複または干渉を回避する。
【0070】
マルトース、マルトトリオース、およびマルトペンタデカオース(それぞれ、DP2、DP3、およびDP15)の測定されたピークから、MOL標準ラダー全体の移動時間が、計算される。例えば、
図4を参照すると、測定されたピークDP2およびDP3から、これらのピークの移動時間差Δt
2-3=t
3-t
2は、0.425分であることが見出される。これは、
図4の点412として示される。Δt
2-3/Δt
3-4の観察された比率は、1.091であることが把握される。Δt
2-3および1.091の観察された比率から、ピークDP3およびDP4の移動時間差Δt
3-4は、0.390分であることが見出される。これは、
図4の点413として示される。同様に、それは、Δt
3-4/Δt
4-5に関して繰り返される。この比率も、1.091である。その結果、Δt
4-5が、Δt
3-4/1.091から計算され、0.357であることが見出される。このように、
図4の点412-416は、それぞれ、0.425、0.390、0.357、0.327、および0.300分として計算される。
【0071】
ラダーピークの個々の移動時間は、ピークDP2およびDP3の測定された移動時間と計算された移動時間差(点412-416)とから計算されることができる。例えば、DP2の測定された移動時間が4.323分であり、DP3が4.748である場合、DP4、DP5、DP6、およびDP7の計算された移動時間は、それぞれ、5.138、5.495、5.822、および6.122分である。
【0072】
同様に、DP7の計算された移動時間、DP15の測定された移動時間、およびMOL標準ラダーの第2の領域内の移動時間差の観察された比率から、
図4の残りの点とMOL標準ラダーの残りの移動時間とが、計算される。例えば、DP15の移動時間は、8.322分であると測定され、DP7の移動時間は、6.122分であると計算され、MOL標準ラダーの第2の領域内の移動時間差の観察された比率は、1.000である。
【0073】
DP15およびDP7の移動時間が、把握され、したがって、移動時間差Δt
7-15=t
15-t
7が、把握される。この差異は、以下のように表されることができる。
Δt
7-15=Δt
7-8+Δt
8-9+Δt
9-10+Δt
10-11+Δt
11-12+Δt
12-13+Δt
13-14+Δt
14-15(2)
それは、以下でもあると把握され、
Δt
7-8/Δt
8-9=Δt
8-9/Δt
9-10=Δt
9-10/Δt
10-11=Δt
10-11/Δt
11-12=Δt
11-12/Δt
12-13=Δt
12-13/Δt
13-14=Δt
13-14/Δt
14-15=K
ratio(3)
式中、K
ratioは、既知の観察された比率1.000である。これらの2つの式から、残りの未知の移動時間が全て、計算されることができる。例えば、式(2)は、式(3)を使用してΔt
7-8の観点から表されることができる。次いで、式(2)は、以下になる。
Δt
7-15=Δt
7-8+Δt
7-8/K
ratio+Δt
7-8/(K
ratio)
2+Δt
7-8/(K
ratio)
3+Δt
7-8/(K
ratio)
4+Δt
7-8/(K
ratio)
5+Δt
7-8/(K
ratio)
6+Δt
7-8/(K
ratio)
7(4)
式(4)では、t
7、t
15、およびK
ratioは、全て既知であり、したがって、式は、t
8を解くために使用されることができる。t
8から、Δt
7-8が、計算されることができ、式(3)を使用して、全ての他の移動時間および移動時間差が、見出されることができる。このように、
図4の点421-428は、0.275として計算される。
【0074】
ラダーピークの個々の移動時間は、ピークDP7およびDP8の計算された移動時間と計算された移動時間差(点422-428)とから計算されることができる。例えば、DP7の計算された移動時間が6.122分であり、DP8が6.397である場合、DP9-DP14の計算された移動時間は、それぞれ、6.672、6.947、7.222、7.497、7.772、および8.047分である。
【0075】
要約すれば、好ましい実施形態では、領域≧DP2かつ≦DP7からのマルトース(DP2)およびマルトトリオース(DP3)標準と、領域≧DP7からのマルトペンタデカオース(DP15)標準とが、MOL標準ラダー全体を計算するために、既知または未知のグリカンとともに同時注入される。種々の他の実施形態では、領域≧DP2かつ≦DP7からの任意の2つの標準と、領域≧DP7からのいずれか1つの標準とが、MOL標準ラダー全体を計算するために、既知または未知のグリカンとともに同時注入されることができる。この場合、DP2およびDP15は、ブラケティング標準であり、DP3は、仮想ラダーの計算のためにも使用される内部標識化標準である。
【0076】
種々の他の実施形態では、領域≧DP2かつ≦DP7からのいずれか1つの標準と、領域≧DP7からのいずれか2つの標準とが、MOL標準ラダー全体を計算するために、既知または未知のグリカンとともに同時注入されることもできる。例えば、領域≧DP2かつ≦DP7からのマルトース(DP2)標準と、領域≧DP7からのマルトテトラデカオース(DP14)およびマルトペンタデカオース(DP15)標準とが、MOL標準ラダー全体を計算するために、既知または未知のグリカンとともに同時注入される。
【0077】
言い換えると、MOL標準からの任意の3つのオリゴマー標準は、2つの標準がMOL標準ラダーの2つの領域のうちの一方においてピークを生じ、第3の標準が他方の領域においてピークを生じる限り、MOL標準ラダー全体を計算するために使用されることができる。MOL標準ラダーの2つの領域は、(1)領域≧DP2~≦DP7、および、(2)領域≧DP7である。当然ながら、3つの標準は、既知または未知の着目グリカンとの重複もしくは干渉を回避するようにも選択されるべきである。
【0078】
MOL標準ラダーピークが3つの同時注入された標準の測定されたピークから計算されると、既知または未知のグリカンの構造は、既知または未知のグリカンの測定された強度ピークを、計算されたもしくは「仮想」MOL標準ラダーピークと比較することによって見出される。この比較は、上で説明される方法に従う。
【0079】
例えば、GU値が、上で示される式(1)を使用して、既知または未知のグリカンの各ピークに対して計算される。既知または未知のグリカンのピークに対するGU値が取得されると、これらのGU値は、複数のグリカンに対する基準GU値を含むグリカン構造データベースと比較される。計算されたGU値をグリカン構造データベースの基準GU値に合致させることから、既知のグリカンの構造または未知のグリカンの構造が、それぞれ、確認され、または識別される。
【0080】
(グリカンを識別するためのシステム)
図5は、種々の実施形態による、グリカンとともにMOLの3つの異なるオリゴマーから構成された三重内部標準を同時注入することによって、グリカンの構造を識別するためのシステム500の概略図である。システム500は、分離デバイス510と、検出器520と、プロセッサ530とを含む。
【0081】
分離デバイス510は、限定ではないが、CEデバイスまたはLCデバイスであり得る。分離デバイス510は、MOLの3つの異なるオリゴマー502とともに同時注入される既知または未知のグリカン501を受け取る。分離デバイス510は、グリカン501および3つの異なるオリゴマー502を経時的に分離する。
【0082】
好ましい実施形態では、MOLの3つの異なるオリゴマー502は、グルコースα1-4オリゴマーである。しかしながら、単糖類タイプ(例えば、ガラクトース、マンノース等)、結合タイプ(1-6、1-2等)、およびアノマー性(例えば、ベータ)にかかわらず、MOLの任意のオリゴマーまたは類似する移動時間を伴う任意の他の分子が、使用されることができる。
【0083】
MOLは、1~最大数十に及ぶ重合度(DP)を有するオリゴマーを含む。MOLの2つの連続的オリゴマー間の移動時間の差異とMOLの隣接する連続的グルコース単位間の移動時間の差異との比率は、MOLのDP範囲の第1の領域内の第1の既知の定数値およびMOLのDP範囲の第2の領域内の第2の既知の定数値である。3つの異なるオリゴマー502のうちの2つは、第1の領域または第2の領域のうちの一方における移動時間を生じるように選択される。3つの異なるオリゴマー502のうちの第3のものは、第1の領域または第2の領域のうちの他方における移動時間を生じるように選択される。
【0084】
種々の実施形態では、MOLの3つの異なるオリゴマーは、マルトース(下側ブラケティング標準)と、マルトトリオース(内部標準)と、マルトペンタデカオース(上側ブラケティング標準)とを含む。
【0085】
種々の実施形態では、MOLのDP範囲の第1の領域は、DP値≧DP2かつ≦DP7を備え、MOLのDP範囲の第2の領域は、DP値≧DP7を備えている。
【0086】
種々の実施形態では、3つの異なるオリゴマー502のうちの2つは、第1の領域内の移動時間を生じるように選択される。3つの異なるオリゴマー502のうちの第3のものは、第2の領域内の移動時間を生じるように選択される。代替実施形態では、この状況は、逆転される。3つの異なるオリゴマー502のうちの2つは、第2の領域内の移動時間を生じるように選択される。3つの異なるオリゴマー502のうちの第3のものは、第1の領域内の移動時間を生じるように選択される。
【0087】
検出器520は、限定ではないが、LIF検出器、UV光検出器、または質量分析計であり得る。検出器520がLIF検出器である場合、グリカン501および3つの異なるオリゴマー502は、同時注入の前にLIFのために標識化される。
【0088】
検出器520は、移動時間の関数である強度ピークとして、分離されたグリカン501および分離された3つの異なるオリゴマー502を測定する。これらの測定値は、例えば、プロット521に示される。
【0089】
プロセッサ530は、限定ではないが、コンピュータ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、
図1のコンピュータシステム、または制御信号およびデータを送信および受信し、データを処理することが可能な任意のデバイスであり得る。プロセッサ530は、分離デバイス510、検出器520、およびデータベース540と通信する。
【0090】
プロセッサ530は、分離されたグリカン501および分離された3つの異なるオリゴマー502の強度ピークを受信する。プロセッサ530は、3つの異なるオリゴマー502の移動時間と第1の既知の定数値および第2の既知の定数値とからMOLの複数の他のオリゴマーの移動時間を計算する。プロット531および532は、計算を描写する。
【0091】
プロセッサ530は、分離されたグリカン501の強度ピークに対するGU値を、それらの移動時間をMOLの複数の他のオリゴマーの計算された移動時間と比較することによって、計算する。ボックス533は、計算において比較される移動時間を強調する。プロセッサ530は、分離されたグリカン501の強度ピークの計算されたGU値をデータベース540と比較することによって、グリカン501の構造を識別する。データベース540は、既知のグリカン構造に対するGU値を含む。グリカン501の構造は、データベース540の合致する構造から見出される。
【0092】
(グリカンを識別する方法)
図6は、種々の実施形態によるグリカンとともにMOLの3つの異なるオリゴマーから構成された三重内部標準を同時注入することによって、グリカンの構造を識別する方法600を示すフローチャートである。
【0093】
方法600のステップ610において、既知または未知のグリカンおよびグリカンとともに同時注入されるMOLの3つの異なるオリゴマーが、受け取られ、グリカンおよびMOLの3つの異なるオリゴマーは、分離デバイスを使用して、経時的に分離される。MOLは、1~最大数十に及ぶ重合度(DP)を有するオリゴマーを備えている。MOLの2つの連続的オリゴマー間の移動時間の差異とMOLの隣接する連続的オリゴマー間の移動時間の差異との比率は、MOLのDP範囲の第1の領域内の第1の既知の定数値およびMOLのDP範囲の第2の領域内の第2の既知の定数値である。MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの2つは、第1の領域または第2の領域のうちの一方における移動時間を生じるように選択される。MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの第3のものは、第1の領域または第2の領域のうちの他方における移動時間を生じるように選択される。
【0094】
ステップ620において、分離された既知または未知のグリカンおよび分離されたMOLの3つの異なるオリゴマーが、検出器を使用して移動時間の関数である強度ピークとして測定される。
【0095】
ステップ630において、分離された既知または未知のグリカンおよび分離されたMOLの3つの異なるオリゴマーの強度ピークが、プロセッサを使用して受信される。
【0096】
ステップ640において、MOLの複数の他のオリゴマーの移動時間が、プロセッサを使用して、MOLの3つの異なるオリゴマーの移動時間と第1の既知の定数値および第2の既知の定数値とから計算される。
【0097】
ステップ650において、分離された既知または未知のグリカンの強度ピークに対するグルコース単位(GU)値が、プロセッサを使用して、それらの移動時間をMOLの複数の他のオリゴマーの計算された移動時間と比較することによって計算される。
【0098】
最後に、ステップ660において、既知または未知のグリカンの構造が、プロセッサを使用して、分離された既知または未知のグリカンの強度ピークの計算されたGU値を既知のグリカン構造に対するGU値のデータベースと比較することによって識別される。
【0099】
(グリカンを識別するためのコンピュータプログラム製品)
種々の実施形態では、コンピュータプログラム製品は、そのコンテンツが、グリカンとともにMOLの3つの異なるオリゴマーから構成された三重内部標準を同時注入することによってグリカンの構造を識別する方法を実施するためのプロセッサ上で実行される命令を伴うプログラムを含む有形コンピュータ読み取り可能な記憶媒体を含む。方法は、1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを含むシステムによって実施される。
【0100】
図7は、種々の実施形態によるグリカンとともにMOLの3つの異なるオリゴマーから構成された三重内部標準を同時注入することによってグリカンの構造を識別する方法を実施する1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを含むシステム700の概略図である。システム700は、測定モジュール710と、分析モジュール720とを含む。
【0101】
測定モジュール710は、MOLの3つの異なるオリゴマーとともに同時注入される既知または未知のグリカンを受け取り、グリカンおよびMOLの3つの異なるオリゴマーを経時的に分離するように分離デバイスに命令する。MOLは、1~最大数十に及ぶ重合度(DP)を有するオリゴマーを含む。MOLの2つの連続的オリゴマー間の移動時間の差異とMOLの隣接する連続的オリゴマー間の移動時間の差異との比率は、MOLのDP範囲の第1の領域内の第1の既知の定数値およびMOLのDP範囲の第2の領域内の第2の既知の定数値である。MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの2つは、第1の領域または第2の領域のうちの一方における移動時間を生じるように選択される。MOLの3つの異なるオリゴマーのうちの第3のものは、第1の領域または第2の領域のうちの他方における移動時間を生じるように選択される。
【0102】
測定モジュール710は、移動時間の関数である強度ピークとして分離された既知または未知のグリカンおよび分離されたMOLの3つの異なるオリゴマーを測定するように検出器に命令する。
【0103】
分析モジュール720は、分離された既知または未知のグリカンおよび分離されたMOLの3つの異なるオリゴマーの強度ピークを受信する。分析モジュール720は、MOLの3つの異なるオリゴマーの移動時間と第1の既知の定数値および第2の既知の定数値とからMOLの複数の他のオリゴマーの移動時間を計算する。分析モジュール720は、分析モジュールを使用して、それらの移動時間をMOLの複数の他のオリゴマーの計算された移動時間と比較することによって、分離された既知または未知のグリカンの強度ピークに対するグルコース単位(GU)値を計算する。最後に、分析モジュール720は、分離された既知または未知のグリカンの強度ピークの計算されたGU値を既知のグリカン構造に対するGU値のデータベースと比較することによって、既知または未知のグリカンの構造を識別する。
【0104】
本教示は、種々の実施形態と併せて説明されているが、本教示が、そのような実施形態に限定されることは意図されない。対照的に、本教示は、当業者によって理解されるであろうように、種々の代替物、修正、および均等物を包含する。
【0105】
さらに、種々の実施形態の説明する上で、本明細書は、ステップの特定のシーケンスとして方法および/またはプロセスを提示していることもある。しかしながら、方法またはプロセスが、本明細書に記載されるステップの特定の順序に依拠しない程度に、方法またはプロセスは、説明されるステップの特定のシーケンスに限定されるべきではない。当業者が理解するであろうように、ステップの他のシーケンスも、可能であり得る。したがって、本明細書に記載される特定の順序のステップは、請求項に関する限定として解釈されるべきではない。加えて、方法および/またはプロセスを対象とする請求項は、記載される順序におけるそれらのステップの実施に限定されるべきではなく、当業者は、シーケンスが変動され、依然として、種々の実施形態の精神および範囲内に留まり得ることを容易に理解することができる。