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特許7202300高時間分解能のハイスループットスクリーニングの測定を行う方法およびシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-27
(45)【発行日】2023-01-11
(54)【発明の名称】高時間分解能のハイスループットスクリーニングの測定を行う方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/11 20060101AFI20221228BHJP
   G01N 35/10 20060101ALI20221228BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20221228BHJP
   C12M 1/34 20060101ALN20221228BHJP
【FI】
G01N21/11
G01N35/10 H
G01N21/64 Z
C12M1/34 E
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2019533400
(86)(22)【出願日】2017-12-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-30
(86)【国際出願番号】 EP2017082825
(87)【国際公開番号】W WO2018114593
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-12-09
(31)【優先権主張番号】102016225817.6
(32)【優先日】2016-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】514298139
【氏名又は名称】バイエル・ファルマ・アクティエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・シャーデ
(72)【発明者】
【氏名】マイク・クスター
(72)【発明者】
【氏名】クラウス・オッホマン
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・ハーナウ
(72)【発明者】
【氏名】カール-ヘルマン・ケッヒング
(72)【発明者】
【氏名】ニルス・ブルクハルト
(72)【発明者】
【氏名】ベルント・カルトホーフ
(72)【発明者】
【氏名】リン・シュナイダー
(72)【発明者】
【氏名】ゲオルク・シュミット
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-197449(JP,A)
【文献】特開2009-296967(JP,A)
【文献】特開2005-052148(JP,A)
【文献】特開2004-313028(JP,A)
【文献】特表2013-528359(JP,A)
【文献】特開2009-074824(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0215957(US,A1)
【文献】特開2002-014044(JP,A)
【文献】特開2014-092465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/73
G01N 35/00 - G01N 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高時間分解能のハイスループットスクリーニングの測定のための方法であって、
a.
i.複数のアッセイウェルを有する透明な底部を有するマイクロタイタープレートと、
ii.複数のアッセイウェル内に液を同時に追加するために前記マイクロタイタープレートの上に配置される分配システムであって、前記分配システムは圧力室を備え、前記圧力室は、
圧力室内に加圧された液を供給するための供給開口と、
前記圧力室の内部から直接前記複数のウェルの1つへと前記加圧された液を分配するために管がおのおのに配置されている、複数の通路と、
を有し、前記複数の通路の第1の端は前記圧力室内に突出し、前記複数の通路の第2の端は前記圧力室から突出している、分配システムと、
iii.前記マイクロタイタープレートの下にあり、前記透明な底部を通して同時に前記複数のアッセイウェルを照明するのに適した照明システムと、
iv.前記透明な底部を通して同時に前記複数のアッセイウェルまたは前記アッセイウェルすべてからの電磁放射を検出するのに適した検出システムと
を用意するステップと、
b.0.5bar~2barの範囲の圧力で5~200msで前記分配システムから同時に前記複数のアッセイウェル内に1アッセイウェルあたり0.3~300μlの液を追加するステップと、
c.前記照明システムを用いて前記透明な底部を通して同時に前記複数のアッセイウェルを照明するステップであって、照明の開始が前記追加の開始の時点の前または前記時点からである、ステップと、
d.個々の測定点間の1~1000msの時間間隔で同時に前記複数のアッセイウェルまたは前記アッセイウェルすべてからの前記電磁放射を検出するステップと
を備える方法。
【請求項2】
前記マイクロタイタープレートは384個または1536個のアッセイウェルを有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分配システムは24個または48個のアッセイウェル内に液を同時に追加するのに適していることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記分配システムによる前記液の前記追加は0.5から2barの範囲の圧力で行われることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記分配システムからの1アッセイウェルあたり0.3~300μlの液の前記追加は0.5bar~2barの範囲の圧力で5~200msで同時に前記複数のアッセイウェル内に行われることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記分配システムによる前記液の前記追加は前記マイクロタイタープレートの前記アッセイウェルの側壁に対して斜めまたは平行に行われることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記照明は12~36個のLED光源を場合毎に有する1対のLED照明モジュールによって行われ、前記LED照明モジュールは両側で前記マイクロタイタープレートの下に配置されて、20~80度の範囲の角度で前記マイクロタイタープレートの前記底部を照明することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記照明は感光性タンパク質の活性化および/または蛍光測定の励起のために波長の異なる複数のLED照明モジュールによって行われることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記LED光源は340~800ナノメートルの波長範囲で発光することを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記発光した光の前記検出は前記マイクロタイタープレートの前記底部に直角に行われ、前記検出システムは前記マイクロタイタープレートの下で中央に配置されることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記発光した光の前記検出は様々な波長で同時に行われることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
高時間分解能のハイスループットスクリーニングの高速動態測定のためのシステムであって、
a.複数のアッセイウェルを有する透明な底部を有するマイクロタイタープレートと、
b.複数のアッセイウェル内に液を同時に追加するために前記マイクロタイタープレートの上に配置される分配システムであって、前記分配システムは圧力室を備え、前記圧力室は、
圧力室内に加圧された液を供給するための供給開口と、
前記圧力室の内部から直接前記複数のウェルの1つへと前記加圧された液を分配するために管がおのおのに配置されている、複数の通路と、
を有し、前記複数の通路の第1の端は前記圧力室内に突出し、前記複数の通路の第2の端は前記圧力室から突出している、分配システムと、
c.前記マイクロタイタープレートの下にあり、前記透明な底部を通して同時に前記複数のアッセイウェルを照明するのに適した照明システムと、
d.前記透明な底部を通して同時に前記複数のアッセイウェルまたは前記アッセイウェルすべてからの電磁放射を検出するのに適した検出システムと
を備えるシステム。
【請求項13】
前記分配システムは、0.5bar~2barの範囲の圧力で5~200msで同時に前記複数のアッセイウェル内に1アッセイウェルあたり0.3~300μlの加圧された液を追加するのに適していることを特徴とする、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記検出システムは、個々の測定点間の1~1000msの時間間隔で同時に前記複数のアッセイウェルまたは前記アッセイウェルすべてからの前記電磁放射に行われる前記検出に適していることを特徴とする、請求項12に記載のシステム。
【請求項15】
前記マイクロタイタープレートは384個または1536個のアッセイウェルを有することを特徴とする、請求項12~14のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項16】
前記分配システムは24個または48個または2×24個または2×48個のアッセイウェル内に液を同時に追加するのに適していることを特徴とする、請求項12~15のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項17】
前記分配システムは、前記分配システムによる前記液の前記追加が0.5から2barの範囲の圧力で行われることを可能にするのに適した制御システムを備えることを特徴とする、請求項12から16のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項18】
前記分配システムは、前記分配システムからの1アッセイウェルあたり0.3~300μlの液の前記追加が0.5bar~2barの前記範囲の圧力で5~200msで同時に前記複数のアッセイウェル内に行われることを可能にするのに適した制御システムを備えることを特徴とする、請求項12から17のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項19】
前記照明システムは、両側で前記マイクロタイタープレートの下に配置されて、20~80度の範囲の角度で前記マイクロタイタープレートの前記底部を照明する12~36個の(UVおよび/またはVIS)高出力LED光源を場合毎に有する1対のLED照明モジュールを備えることを特徴とする、請求項12から18のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項20】
前記照明システムは、波長の異なる複数のLED照明モジュールを備えることを特徴とする、請求項12から19のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項21】
前記高出力LED光源は340~800ナノメートルの波長範囲で発光することを特徴とする、請求項12から20のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項22】
前記発光した光の前記検出は前記マイクロタイタープレートの前記底部に直角に行われ、前記検出システムは前記マイクロタイタープレートの下で中央に配置されることを特徴とする、請求項12から21のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項23】
前記発光した光の前記検出は様々な波長で同時に行われることを特徴とする、請求項12から22のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項24】
前記分配システムが、前記圧力室に供給される加圧された液の圧力を制御するためのバルブを更に備える、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記分配システムが、前記圧力室に供給される加圧された液の圧力を制御するためのバルブを更に備える、請求項12に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高時間分解能のハイスループットスクリーニングの測定のための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
新規の原薬の識別および開発の目的は、リガンド結合、高分子立体構造変化または酵素反応などの生化学プロセスを調整する化合物を識別することである。小型化によって高速で費用効果が高く効果的な分析が確保されるので、莫大な数の化学構造を分析するのにハイスループットスクリーニング(high-throughput screening)(HTS)が通常利用されている。
【0003】
その高い感度およびオートマタビリティのために、蛍光を基本とした分析はほぼ確実にHTSに対する最も重要なアプローチである。酵素反応による蛍光の変化を追跡することに加えて、蛍光共鳴エネルギー移動(fluorescence resonance energy transfer)(FRET)、生物発光共鳴エネルギー移動(bioluminescence resonance energy transfer)(BRET)や蛍光偏光(fluorescence polarization)(FP)によってタンパク質間相互作用またはリガンド結合を特定するのにラベル付与技術が利用される。
【0004】
多くの生物学的プロセス、特に微小リガンドの結合の特性が、高速攪拌法(rapid mixing method)を必要とする超高速動態によって示される。
【0005】
しかし、アッセイウェルが384個または1536個あるプレートフォーマットを用いた装置は多くの場合に時間分解能に関して制限を受け、その結果、高速結合動態の特定はスループットが低い方法に制限される。マルチディスペンサを装備する装置のスクリーニングアプローチ(Gonzalez,J.E.,&Maher,M.P.(2002)Cellular Fluorescent Indicators and Voltage/Ion Probe Reader(VIPR TM):Tools for Ion Channel and Receptor Drug Discovery,Receptors and Channels 8,283-295、Mori,T.,Itami,S.,Yanagi,T.,Tatara,Y.,Takamiya,M.,&Uchida,T.(2009)Use of a Real-Time Fluorescence Monitoring System for High-Throughput Screening for Prolyl Isomerase Inhibitors,Journal of Biomolecular Screening 14,419-424、Schroeder,K.S.,&Neagle,B.D.(1996)FLIPR:A New Instrument for Accurate,High Throughput Optical Screening,Journal of Biomolecular Screening 1,75-80を参照)であっても、時間分解能を相当に改善してはいるが、多くの場合、数秒の時間範囲に制限される。
【0006】
先行技術によって公知の高速攪拌法としては、連続フローデバイスまたはストップトフローデバイスがある。
【0007】
連続フロー実験の場合、反応はミキサーの下流の経路の関数として平衡フロー状態で分析される。ミキサー設計を改善することで、不動作時間が100μsになり、さらに100μs未満にもなる(Regenfuss,P.,Clegg,R.M.,Fulwyler,M.J.,Barrantes,F.J.,&Jovin,T.M.(1985)Mixing liquids in microseconds,Rev.Sci.Instrum.56,293-290、Shastry,M.C.R.,Luck,S.D.,&Roder,H.(1998)A Continuous-Flow Capillary Mixing Method to Monitor Reactions on the Microsecond Time Scale,Biophysical Journal 74,2714-2721、Roder,H.,Maki,K.,Cheng,H.,&Ramachandra Shastry,M.C.(2004)Rapid mixing methods for exploring the kinetics of protein folding,Methods 34,15-27)。しかし、効果的な攪拌を実現するには多量の流量と比較的大きい流路寸法とが必要であるが、これでは大量の材料を消費する。
【0008】
市販のストップトフロー装置の場合、反応体が空気圧アクチュエータを用いて2つのシリンジを介して供給される。観察細胞を充填した後、ストッパシリンジがストッパブロックに当たると、流れが急に止まる。この装置では、数ミリ秒の不動作時間が常時生じる場合がある(Dickson,P.N.,&Margerum,D.W.(1986)Extension of accessible first-order rate constants and accurate dead-time determinations for stopped-flow spectroscopy,Analytical Chemistry 58,3153-3158、Nakatani,H.,&Hiromi,K.(1980)Analysis of Signal Amplitude in Stopped-Flow Method for Enzyme-Ligand Systems,Journal of Biochemistry 87,1805-1810、Peterman,B.F.(1979)Measurement of the dead time of a fluorescence stopped-flow instrument,Analytical Biochemistry 93,442-444.)。
【0009】
連続フロー装置もストップトフロー装置も、1キュベットまたは1流路に制限されるスループットが低い方法である。しかし、新規の原薬の識別および開発において高速結合反応または酵素動態の特定が根源的な役割を果たすので、複数の反応抑制剤および濃度を分析する高速攪拌法が必要である。マイクロタイタープレートで高速動態を観察することを可能にするために、高時間分解能と大規模に並列化したシステムのスループットとを組み合わせた高速動態検出画像処理装置を基本とした新規の方法が開発された。これにより、新規の原薬の識別および開発に高速動態を効果的に適用することが初めて可能となっている。
【0010】
独国特許出願公開第102004016361号および国際公開第03/100398号には、マイクロタイタープレート上での蛍光測定向けの光学分析器が開示されている。マイクロタイタープレートは透明な底部を有する。マイクロタイタープレートの透明な底部に励起ビーム経路および評価ビーム経路が導かれる。マイクロタイタープレートの上には、マイクロタイタープレートのサンプル発光測定中に液を追加し、測定を連続的かつ同時に実行するためのディスペンサまたはピペッタが配置される。
【0011】
独国特許出願公開第102004016361号および国際公開第03/100398号による発明の基本的なアイデアは、複数の個々のサンプルがマイクロタイタープレート上にあることでサンプルスループットが高い場合は、個々のサンプルの励起と発光の記録とが同時に行われ、随意に液の追加もこれらと同時に行われるべきであり、マイクロプレートのすべてのサンプルの発光(蛍光またはルミネッセンス)を、理想的には録画器(たとえば増倍カメラ)を用いて、比較的長い時間にわたって終始検出することができるという考えに基づいている。
【0012】
薬理的効果がある物質を追加した後の蛍光反応の動態を測定する必要がある場合が多い細胞生物学的分析については、すべてのウェルを同時に測定するので、分析器は、物質の追加前、追加中および追加後にサンプルの発光が測定されるという要件を満たす。蛍光励起とマイクロタイタープレートの発光の検出とが下から行われる場合、上から、物質および/または他の液を複数のウェル中で同時に行う場合であっても、任意の仕方で接触することなく追加したり、決められた時間に異なる量または濃度の異なる物質および/または他の液を接触することなく追加したりして連続的に観察することができる。特にHTS使用下では、CCDカメラを用いた当該並列測定にわたっていわゆる多重化効果を得ることができ、したがって、1ウェルあたりの測定時間が増加することが明らかであるにもかかわらず、高いサンプルスループットを実現することができる。
【0013】
独国特許出願公開第102004016361号および国際公開第03/100398号に記載の光学分析器を用いて高いサンプルスループットを実現することができるが、これは、微小リガンドの結合などのいくつかの生物学的プロセスにおける高速動態の解明に必要であるような1秒未満の時間分解能の強度測定向けには設計されてはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】独国特許出願公開第102004016361号
【文献】国際公開第03/100398号
【非特許文献】
【0015】
【文献】Gonzalez,J.E.,&Maher,M.P.(2002)Cellular Fluorescent Indicators and Voltage/Ion Probe Reader(VIPR TM):Tools for Ion Channel and Receptor Drug Discovery,Receptors and Channels 8,283-295
【文献】Mori,T.,Itami,S.,Yanagi,T.,Tatara,Y.,Takamiya,M.,&Uchida,T.(2009)Use of a Real-Time Fluorescence Monitoring System for High-Throughput Screening for Prolyl Isomerase Inhibitors,Journal of Biomolecular Screening 14,419-424
【文献】Schroeder,K.S.,&Neagle,B.D.(1996)FLIPR:A New Instrument for Accurate,High Throughput Optical Screening,Journal of Biomolecular Screening 1,75-80
【文献】Regenfuss,P.,Clegg,R.M.,Fulwyler,M.J.,Barrantes,F.J.,&Jovin,T.M.(1985)Mixing liquids in microseconds,Rev.Sci.Instrum.56,293-290
【文献】Shastry,M.C.R.,Luck,S.D.,&Roder,H.(1998)A Continuous-Flow Capillary Mixing Method to Monitor Reactions on the Microsecond Time Scale,Biophysical Journal 74,2714-2721
【文献】Roder,H.,Maki,K.,Cheng,H.,&Ramachandra Shastry,M.C.(2004)Rapid mixing methods for exploring the kinetics of protein folding,Methods 34,15-27
【文献】Dickson,P.N.,&Margerum,D.W.(1986)Extension of accessible first-order rate constants and accurate dead-time determinations for stopped-flow spectroscopy,Analytical Chemistry 58,3153-3158
【文献】Nakatani,H.,&Hiromi,K.(1980)Analysis of Signal Amplitude in Stopped-Flow Method for Enzyme-Ligand Systems,Journal of Biochemistry 87,1805-1810
【文献】Peterman,B.F.(1979)Measurement of the dead time of a fluorescence stopped-flow instrument,Analytical Biochemistry 93,442-444
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
特定された課題の解決手段は、高時間分解能のハイスループットスクリーニングの高速動態測定のための方法であって、
a.
i.複数のアッセイウェルを有する透明な底部を有するマイクロタイタープレートと、
ii.複数のアッセイウェル内に液を同時に追加するためにマイクロタイタープレートの上に配置される分配デバイスを有する分配システムと、
iii.マイクロタイタープレートの下にあり、透明な底部を通して同時に複数のアッセイウェルを照明するのに適した照明システムと、
iv.透明な底部を通して同時に複数のアッセイウェルまたはアッセイウェルすべてからの電磁放射を検出するのに適した検出システムと
を用意するステップと、
b.0.5bar~2barの範囲の圧力で5~200msで分配デバイスから同時に複数のアッセイウェル内に1アッセイウェルあたり0.3~300μlの液を追加するステップと、
c.照明システムを用いて透明な底部を通して同時に複数のアッセイウェルを照明するステップであって、照明の開始が追加の開始の時点の前またはこの時点からである、ステップと、
d.個々の測定点間の1~1000msの時間間隔で同時に複数のアッセイウェルまたはアッセイウェルすべてからの電磁放射を検出するステップと
を備える方法である。
【0017】
本発明は、高時間分解能のハイスループットスクリーニングの高速動態測定のためのシステムであって、
複数のアッセイウェルを有する透明な底部を有するマイクロタイタープレートと、
複数のアッセイウェル内に液を同時に追加するためにマイクロタイタープレートの上に配置される分配デバイスを有する分配システムと、
マイクロタイタープレートの下にあり、透明な底部を通して同時に複数のアッセイウェルを照明するのに適した照明システムと、
透明な底部を通して同時に複数のアッセイウェルまたはアッセイウェルすべてからの電磁放射を検出するのに適した検出システムと
を備えるシステムも提供する。
【0018】
好ましくはマイクロタイタープレートは384個または1536個のアッセイウェルを有する。
【0019】
分配デバイス
分配デバイスは、少なくとも1つの圧力室を有するハウジングを備えており、ハウジングは、圧力室内に液を供給するための供給開口を有し、圧力室とハウジングの外側側面との間にある複数の通路を有しており、通路の各々には管が配置されており、管の第1の端は圧力室内まで突出し、管の第2の端は外側側面でハウジングから突出する。
【0020】
好ましくは圧力室のある空間的寸法の大きさは、その他の2つの空間的寸法よりも大きい。圧力室の長手方向軸はこの大きい大きさの方向に延びる。さらに、圧力室の長手方向軸はハウジングの外側側面に平行に延びる。好ましい実施形態では、圧力室は円筒形または立方体形である。
【0021】
通路は圧力室の壁の1つに配置され、圧力室の長手方向軸に平行に延びる。好ましくは、通路は互いに平行に配置される。少なくとも2つの通路が存在する。通路は、圧力室の長手方向軸に平行に1列以上で配置することができる。この点について、通路が1列あたり好ましくは12個、特に好ましくは24個または48個ある。理想的には、1列あたりの通路の数は、分配デバイスによって分配が行われるマイクロタイタープレートの1列(長辺)中のウェルの数に対応する。
【0022】
管は好ましくは金属またはプラスチック製の毛細管であり、毛細管、すなわち細管内では、液を用いて毛細管効果が起こる。管は0.1mm~0.8mmの範囲、好ましくは0.2mm~0.6mmの範囲の内径を有するべきである。外径は0.35mm~2mmの範囲、好ましくは0.6mm~1.1mmの範囲にあることが可能である。管の長さは6mm~15mmの範囲、好ましくは8.5mm~13mmの範囲、特に好ましくは10mm~13mmの範囲にある。
【0023】
液を上から垂直にするようにマイクロタイタープレートのウェルに供給するのか、所定の角度でウェルの側壁上に供給すなわち注出するのかに応じて、管がハウジングの外側側面と直交(90°)するか、40°以上90°未満の範囲でハウジングの外側側面に対して所定の角度に傾けられるかするように管を配置する。
【0024】
ハウジングの外側側面上に配置される管の疎水性を増すために、好ましくはプラスチック、たとえばテフロン(登録商標)(Teflon(登録商標))で被覆することができる。
【0025】
毛細管は一端で圧力室内まで突出し、他端でハウジングから突出する。
【0026】
一実施形態では、液の供給開口は、分配室の長手方向軸に垂直に配置される壁の1つに配置される。ハウジングは、分配室に液を充填する際に空気を強制的に出す排出開口をさらに備えることができる。前記排出開口は、分配室の長手方向軸に垂直に配置される壁の1つに配置することができる。
【0027】
圧力室が60mm~300mmの範囲の断面積を有するか、4mm~10mmの範囲、好ましくは5.5mm~6.5mmの範囲の直径を有するかすることが可能である。
【0028】
分配デバイスのハウジングは1つを超える圧力室、たとえば2つ、3つまたは4つの圧力室を備えることもでき、圧力室の長手方向軸は互いに平行に延びる。各圧力室には、圧力室内に液を供給するための別々の供給開口が属し、各圧力室は圧力室とハウジングの外側側面との間に複数の通路を有して、対応する通路および管を有する。好ましくは、異なる圧力室の通路および管は互いに平行に配置される。必要な場合、1つ以上の圧力室を有する複数のハウジングを互いに隣接して互いに平行に配置することも可能である。
【0029】
圧力室内に突出する短い管が組み込まれる圧力室の容積は大きいので、圧力勾配は存在せず、したがって、液を超高速で量を正確に供給することが可能である。たとえば384ウェルまたは1536ウェルマイクロタイタープレート内にμl範囲で並列かつ正確かつ高速に分配することが可能になる。
【0030】
分配システムは、ラインを介して分配デバイスの供給開口に接続される液溜め部を分配デバイス用にさらに備える。液溜め部への圧力によって、液溜め部から圧力室内への液のポンプ圧送が引き起こされる。これを実現するために、液溜め部を気密的に周囲大気から隔離して、必要な圧力を確立するポンプに接続する。複数圧力室の場合、各圧力室の供給開口を液の同じ溜め部または液の異なる溜め部に接続することができる。
【0031】
ポンプの圧力とともに、液溜め部と供給開口との間のバルブの切り替え時間を通じて、各切り替えサイクル(通路開/閉)で圧力室に流入して、個々の管を介して流出する液の量を制御することが可能である。
【0032】
本発明の一実施形態では、液溜め部からの液は0.5~2barの範囲の圧力、好ましくは0.5~0.85barの範囲の圧力でバルブに向かって加圧され、バルブの切り替え時間は5ms~200msの範囲(ウェルが1536個あるマイクロタイタープレートの場合5~60ms、ウェルが384個あるマイクロタイタープレートの場合40~200ms)、好ましくは5ms~50msの範囲にある。
【0033】
バルブの切り替え時間とポンプによる圧力とは、分配デバイスの供給量が1毛細管あたり0.3~300μlの範囲、好ましくは1~30μlの範囲にあるように調節される。
【0034】
照明
照明システムは、両側でマイクロタイタープレートの下に配置されて、20~80度の角度でマイクロタイタープレートの透明な底部を照明する少なくとも1対のLED照明モジュールを備える。
【0035】
本発明に係るLED照明モジュールは、最大発光がトリガ信号の開始後10マイクロ秒未満で達することと、パルスがトリガ信号の終了後20マイクロ秒以下でおさまりきっていることとを特徴とする。これにより、高速動態測定が可能である。同時に、光学配置によってマイクロタイタープレートの均一な照明が可能である。
【0036】
LED照明モジュールは1列以上で配置されたLED光源を含む。これとは別に、ロッド形状の平凸シリンドリカルレンズを含んでもよい。LED光源の発光がシリンドリカルレンズの平面側に入射し、シリンドリカルレンズの凸面側から出射するようにシリンドリカルレンズの平面側がLED光源上に配置される。
【0037】
LED光源が12~36個あることが可能である。
【0038】
好ましくは、LED光源はLED基板上に配置され、LED基板は熱伝導するようにヒートシンクに接続される。
【0039】
LED光源とシリンドリカルレンズとの間に減光フィルタを配置することができ、減光フィルタとシリンドリカルレンズとの間に保護ガラスまたは偏光フィルタを配置することができる。
【0040】
好ましい実施形態では、LED光源は可視光(visible)(VIS)波長範囲またはUV波長範囲、好ましくは340nm~800nmの波長範囲の高出力LED光源である。
【0041】
いくつかの用途には、1対を超えるLED照明モジュールを用いることも可能であったり、複数のLED照明モジュールを用いることが可能であったりする。異なるLED照明モジュールが異なる波長を有する場合には、同時に複数の波長で蛍光励起を実現することが可能である。
【0042】
2対のLED照明モジュールの各々を両側でマイクロタイタープレートの下に配置することができ、マイクロタイタープレートの透明な底部を同じ角度または異なる角度で照明することができる。2対以上のLED照明モジュールの各々を、マイクロタイタープレートからの距離を異ならせてマイクロタイタープレートの同じ側に配置することができ、照明角度を異ならせてマイクロタイタープレートの透明な底部を各対によって照明することができる。
【0043】
好ましくは、1つの対の2つのLED照明モジュールを両側でマイクロタイタープレートの下に配置し、さらに、1つまたは2つの別のLED照明モジュールをマイクロタイタープレートの下でより中央に配置すると、その結果として、当該追加LED照明モジュールの発光は、マイクロタイタープレートの平面に対して1組のLED照明モジュールの光よりも大きい角度でマイクロタイタープレートの透明な底部に照射される。
【0044】
波長が異なるLED照明モジュールの一用途として、光遺伝学の分野がある。光遺伝学は、遺伝子操作された細胞を感光性タンパク質を用いて光によって制御するものである。これを実現するために、前記タンパク質を活性化して、乗り越えて細胞プロセスに作用するのに、ある波長を用いる。さらに、前記プロセスを観察することが可能であるために、対応するセンサまたは色素の蛍光測定用の蛍光発光を励起するのに別の波長を利用する。
【0045】
検出
発光の検出はマイクロタイタープレートの底部に直角に行われる。
【0046】
検出システムをマイクロタイタープレートの下で中央に配置して直接発光を受けることができ、かつ/または発光を適切な偏向ミラーまたはダイクロイックビームスプリッタを介して検出システムに導く。
【0047】
発光の検出を様々な波長で同時に行うことができる。
【0048】
検出システムは、個々の測定点間の1~1000msの時間間隔で同時に複数のアッセイウェルまたはアッセイウェルすべてからの電磁放射に行われる検出に適している。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】斜視図で示す2つの分配室を有する2つの分配デバイスである。
図2】内部構成を含む斜視図で示す2つの分配室を有する分配デバイスである。
図3】側面図で示す分配デバイスである。
図4】側面図で示す分配デバイスの拡大断面(バルブ側)である。
図5】液溜め部を有する分配システムである。
図6】斜視図で示すLED照明モジュールである。
図7】分解図で示すLED照明モジュールである。
図8】横断面図で示すLED照明モジュールである。
図9】縦断面図で示すLED照明モジュールである。
図10】長さの異なるトリガ信号時のLED発光である。
図11】画像処理測定装置(1チャンネル検出)である。
図12】画像処理測定装置(2チャンネル検出)である。
図13】アッセイウェルが1536個あるマイクロタイタープレートの発光プロファイルである。
図14A】画像処理測定装置を用いたBSAに対するANSの結合の動態の測定値である。
図14B】画像処理測定装置を用いたBSAに対するANSの結合の動態の測定値である。
図14C】画像処理測定装置を用いたBSAに対するANSの結合の動態の測定値である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図1は本発明に係る2つの並列配置型分配デバイス10を示し、各々が2つの圧力室を有する様子を斜視図に示している。分配デバイスの別の図が図2図4に示されている。各分配デバイス10は、4~10mm径で120~140mm長の管をなす2つの孔を有する立方体形のハウジング2を有する。前記孔は2つの並列する圧力室5を生成する。各孔は、円形の供給開口6を形成する開放端を有する。反対側の端はシステムの充填および排出のために開放しており、分配動作の際に密封される。この箇所には、漏出開口すなわち排出開口3がある。供給開口6があるハウジング2の側部は、前記ハウジングが水平にマウント7から離れるように突出するようにマウント7に取り付けられる。マウント7は各供給開口6用の凹所を有する。外方に突出したハウジング2の下側には、各圧力室5とハウジング2の下側との間にある48個以下の通路の列が配置されており、通路の各々には、好ましくはステンレス鋼製の毛細管4が配置されている。毛細管4の第1の端は圧力室5内まで突出しており、毛細管4の第2の端は下側でハウジング2から突出している。毛細管の内径は0.1~0.8mmであり、毛細管は垂直に配置される。ハウジング2の下側から突出している管の部分は疎水被覆されている(好ましくはテフロン(登録商標)(Teflon(登録商標))で被覆)。
【0051】
図3は分配デバイス10を側面図で示す。円形部分Aが図4に拡大して示されている。図4では、毛細管4がその高さの半分以下だけ圧力室内に突出していることが分かる。このことが均一な分配に特に有効であることが分かっている。
【0052】
図5は本発明に係る分配システムを示す。分配デバイス10の圧力室5(ハウジング2内に示されていない)が、ライン71、バルブ72およびさらに別のライン70を介して液溜め容器に入っている液に接続されている。膜ポンプ66および圧力ライン68を介して室内空気が0.8barの圧力で加圧して液溜め容器に導入される。室内空気の代わりにNなどの別のガスを用いることも可能である。膜ポンプの代わりに別の圧力供給システムを用いることも可能である。たとえば、パーカー・ハネフィン・コーポレーション(米国オハイオ州クリーブランド44124)によって販売されているような、無駄な空間容積が少なく、切り替え時間が短いソレノイドバルブが適切なバルブであることが分かっている。
【0053】
図6図9はLED照明モジュール610の様々な図を示す。図6はLED照明モジュール610を斜視図で示す。LED照明モジュール610は、底部615および2つの側壁を有するハウジング612と、冷却空気流入開口付きフロントハウジングカバー613とを有する。底部615の反対側にあるハウジング612の開放側は、保護ガラスマウント617および保護ガラス616によって閉止される。偏光測定の場合、保護ガラス616を偏光フィルタと交換することができる。保護ガラス616および保護ガラスマウント617の上には、ロッド形状の平凸シリンドリカルレンズを、保護ガラス616または保護ガラスマウント617の方向に平面側がある状態で取り付けることが可能である。フロントハウジングカバー613の反対側で、ハウジングの開放した延伸側には、冷却空気吸入ファン位置がある。ファン位置614の上には電気接続部618が配置されている。
【0054】
ハウジング612内にはヒートシンク632が配置され、ヒートシンク632上には、1番目に電気接続部618が取り付けられ、2番目にLED基板630が取り付けられる。LED基板630は、LED631が12個~36個ある1列または並列する2列、好ましくは、LED631が24個ある1列からなることが可能である。LED631は図面の上方向に動作中に発光するように配置される。LED631の上には、フィルタマウント623中の励起フィルタ622が配置される。ハウジングは保護ガラス616および保護ガラスマウント617によって閉止される。ハウジング底部615上には、保持磁石636およびRFIDトランスポンダ634が配置される。これは側壁に取り付けることもできる。
【0055】
以下で説明する測定にはフィリップスの型式LUXEON(登録商標)RebelのLED631を有するLED照明モジュール610を利用した。同様の使用に適した他のLED631は、たとえば、
・オスラム:Golden DRAGON(登録商標)Plus、OSLON SSL 80/150、Platinum DRAGON(登録商標)
・CREE:XLamp(登録商標)XP-C、XLamp XR-C、Xlamp7090XRE
・日亜:NCU133A、NCSU034B、NCSU033B
である。
【0056】
前記LEDの発光出力は波長に応じて100~2000mWである。
【0057】
図10のa)~d)は、長さの異なるトリガ信号660についてのLED発光の経時過程の測定を示す。長さの異なるトリガ信号660が場合毎に基板630のLED631に接続部618を介して与えられる。トリガ信号660の長さに応じて、強度および長さの異なるLED発光が実現される。x軸666は5マイクロ秒単位の時間を示す。
【0058】
図10のa)は長さが2マイクロ秒のトリガ信号660についてのLED発光を示す。LED発光はトリガ信号660の開始後僅か5マイクロ秒の不動作時間後に開始され、最大発光出力の60%に達する。
【0059】
図10のb)は長さが5マイクロ秒のトリガ信号660についてのLED発光を示す。LED発光662はトリガ信号660の開始後僅か5マイクロ秒の不動作時間後に開始され、最大発光出力の70%に達する。
【0060】
図10のc)は長さが8マイクロ秒のトリガ信号660についてのLED発光を示す。LED発光はトリガ信号660の開始後僅か5マイクロ秒の不動作時間後に開始され、最大発光出力の100%に達する。
【0061】
図10のd)は長さが14マイクロ秒のトリガ信号660についてのLED発光664を示す。LED発光はトリガ信号660の開始後僅か5マイクロ秒の不動作時間後に開始され、最大発光出力の100%に達する。
【0062】
トリガ信号660の開始とモジュールのLED631の最大発光出力との間の時間遅延は約8マイクロ秒である。トリガ信号660の終了後17マイクロ秒で、LED発光は完全におさまっていた。LED強度はパルス幅調整(pulse-width modulation)または電流制御を介して制御することができる。
【0063】
以下、高時間分解能のハイスループットスクリーニングの高速動態測定のためのシステムの動作を説明するのに図11および図12を用いる。
【0064】
反応体を含む液の分配は、マイクロタイタープレート配置トレイ62上に位置する透明な底部を有するマイクロタイタープレート60の上側から行う。分配は、下からの斜めの照明、および下からの適切なカメラを用いた検出と組み合わされる。マイクロタイタープレート60のアッセイウェルが48個ある列の蛍光プロファイルを同時に記録することによって反応の進行を追跡する。これに関して、分配期間および攪拌期間を含めて動態プロセスを観察することがこの配置を用いて可能であるように分配照明システムを設計し制御する。
【0065】
分配は分配システムを用いて行われる。分配デバイス10は前記分配システムの一部である。分析される反応体を含む液溜め容器64内の液65はバルブ72を介して分配デバイスの圧力室5(図示されていない)にポンプ圧送される(図5)。毛細管4は~800μmの開口(=内径)を有し、これにより、マイクロタイタープレートの48個のアッセイウェルへの並列分配が可能になる(図5)。強い乱流の攪拌状態を実現するために、管4の分配放出口の向きは、特に、アッセイウェルが384個あるマイクロタイタープレートと、アッセイウェルが1536個あるマイクロタイタープレートとに適している。マイクロタイタープレート壁上に斜めに反応体を分配することによって、アッセイウェルが384個あるマイクロタイタープレートについて最良の攪拌結果が得られた。これとは対照的に、図5に示されているように、アッセイウェルが1536個あるマイクロタイタープレート60に必要な少量の分配量が垂直に分配される。用いられる任意の圧力に対して記憶される較正関数(線形関数または3次多項式関数)によってバルブの切り替え時間が定められ、したがって、分配される量が定められる。高精度のマイクロタイタープレートマウント62により、マイクロタイタープレート60のウェルに対する分配デバイス10の最適かつ再現性の高い向きが確保された。
【0066】
配列されプレートに対して斜めに向けられる12~36個の(UVまたはVIS)高出力LED光源631を有する1対のLED照明モジュール610によって、マイクロタイタープレート60の底部を均一に照明することが実現される(図11図12および図7)。用いられるLED631によって340~800nmの波長範囲で励起光92が供給され、減光フィルタを用いることで、選択波長範囲を透過させることによって波長選択性が改善される。発光した蛍光94は高速高感度背面照射式EMCCD(電子増倍電荷結合素子(electron multiplying charge coupled device))またはICCD(インテンシファイア電荷結合素子(intensified charge coupled device))カメラ82によって90°の角度で検出される。カメラ82には干渉フィルタ84が設けられており、偏光フィルタ85をさらに設けることができる。
【0067】
2つのカメラ82およびビームスプリッタミラー90を用いて蛍光を検出することで、たとえば、フェルスター共鳴エネルギー移動(Forster resonance energy transfer)(FRET)に関する測定時、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)に関する測定時または蛍光偏光(FP)に関する測定時に、必要に応じて2つの発光信号の同時検出が可能になる。
【0068】
図示されているLEDユニットの下に、照明角度を変えて配置される別のLED照明ユニットによって、図11および図12に示されている測定システムを拡張することが可能である。これらの追加LEDユニットが元のLEDユニットと比較して異なる波長を有する場合、複数の波長で蛍光励起を実現することが可能である。
【0069】
蛍光体溶液(fluorescent solution)が入ったアッセイウェルが1536個あるマイクロタイタープレートの発光の疑似カラー表示が図13に例として示されている。アッセイウェルのデータは、1アッセイウェルあたり毎秒1000個以下の箇所を撮像して視覚化し、専用設計のデータ処理ソフトウェアを用いてデータを処理することによって収集する。
【0070】
性能試験
高速攪拌デバイスの性能を試験するのに通常用いられている方法としては、高速の試験反応の観察がある。蛍光を検討する場合、追跡に適した対象は、蛍光収量の激増に関連する、疎水性色素1-アニリノ-8-ナフタレンスルホン酸(ANS)のウシ血清アルブミン(BSA)への結合である。様々なBSA濃度に対する蛍光動態を指数関数にフィッティングして、共通の開始蛍光に外挿する。この共通の点により、反応の開始時点(t)での、BSAが存在しないANSの蛍光が得られる。この点から、フィッティングされた指数曲線上に載る最初のデータ点までの時間間隔により、測定の不動作時間の推定値が得られる。図14A図14Cは、高速動態向けの特許性のある分配デバイスを有する画像処理測定装置で測定された、様々なBSA濃度での補正蛍光動態を示す。
【0071】
55ms後、アッセイウェルが1536個あるBSA注入済みマイクロタイタープレートに毛細管バルブを9msで切り替えてANS溶液を1.6μl追加した(図14A)。毛細管バルブの切り替えは灰色の筋で示されている。ANSがBSAに結合すると、ANS蛍光が増大する。これは365nm(バンドパス36nm)での励起後の460nm(バンドパス60nm)で記録されている。ANS・BSA溶液を100mMリン酸カリウム(pH 7.5)の状態で調製した。最終濃度:5μM ANSならびに1.9(白丸),2.5(黒丸),3.4(逆三角),7.9(四角)および10.6μM(三角)BSA(図14A)。
【0072】
蛍光動態の二重指数フィッティングおよび共通の開始時刻tへの外挿によって結合反応の開始時点を特定した。蛍光動態(図14Aから収集)を前記開始時刻tに対して補正した(図14B)。実線は、共通の時点tに外挿された二重指数関数を示す。
【0073】
反応のtはバルブ切り替えの時点に相当するものではないが、代わりに、反応のtはアッセイウェルにおける反応体の注入および攪拌に対応する時間遅延を有する点に留意するべきである。tから、フィッティングされた指数曲線上で補正して特定された最初の点までの期間によって得られる装置の不動作時間は、分配時間および攪拌による乱れに基づいている。マイクロタイタープレートのアッセイウェル内に液が3μl存在し、少量である1.6μlを前記マイクロタイタープレートの1536個のアッセイウェル内に分配する場合、数ミリ秒の商用ストップトフロー装置の時間分解能にほぼ対応する約10msの不動作時間を実現することが可能である。
【0074】
検出された蛍光の軌跡(図14B)はきわめて低いノイズレベルを示し、これは動態データの品質が高いことを示す。図14Cは、動態軌跡から特定された結合の見かけ上の速度定数のグラフをBSA濃度の関数として示す。低速の結合段階(黒丸)と高速の結合段階(白丸)とを検出することができた。BSA濃度に対して、動態が低速である結合段階が線形依存性を示すことで、特定された軌跡の正確さおよび信頼性が確認されている。観察された速度定数(黒)を、従来のストップトフローデバイスを用いて得られたデータ(赤)と比較した。低速の結合段階の濃度依存に基づいて特定された見かけ上の速度定数および2次速度定数が、個々のキュベットのストップトフローデバイスで追加を行うことで得られたデータと著しく一致する。
【符号の説明】
【0075】
10 分配デバイス
1 バルブ
2 ハウジング
3 漏出/排出開口
4 管
5 圧力室
6 供給開口
7 マウント
8 被覆
60 マイクロタイタープレート
62 プレートホルダ
64 液溜め容器
65 液
66 ポンプ
68 圧力ライン
70 ライン
71 ライン
72 バルブ
82 カメラ
84 発光フィルタ
85 偏光フィルタ
90 ビームスプリッタ
92 励起光
94 蛍光
610 LED照明モジュール
612 ハウジング
613 冷却空気流入開口付きフロントハウジングカバー
614 冷却空気吸入ファン位置
615 ハウジング底部
616 保護ガラスまたは偏光フィルタ
617 保護ガラスマウント
618 電気接続部
620 シリンドリカルレンズ
622 励起フィルタ
623 フィルタマウント
630 LED基板
631 LED
632 ヒートシンク
634 RFIDトランスポンダ
636 保持磁石
660 トリガ信号
662 図10のb)中のLED発光の電圧プロファイル
664 図10のd)中のLED発光の電圧プロファイル
666 図10中の時間軸
図8の断面軸
図9の断面軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10a)】
図10b)】
図10c)】
図10d)】
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C