(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-27
(45)【発行日】2023-01-11
(54)【発明の名称】マイクロ波熟成装置およびマイクロ波熟成方法
(51)【国際特許分類】
H05B 6/68 20060101AFI20221228BHJP
H05B 6/80 20060101ALI20221228BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20221228BHJP
A23L 17/00 20160101ALI20221228BHJP
A23L 5/30 20160101ALI20221228BHJP
A23C 19/14 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
H05B6/68 320M
H05B6/80 Z
A23L13/00 A
A23L17/00 A
A23L5/30
A23C19/14
(21)【出願番号】P 2019552344
(86)(22)【出願日】2018-11-07
(86)【国際出願番号】 JP2018041313
(87)【国際公開番号】W WO2019093365
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2017215296
(32)【優先日】2017-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000180313
【氏名又は名称】四国計測工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(72)【発明者】
【氏名】曽我 博文
(72)【発明者】
【氏名】國井 勝之
(72)【発明者】
【氏名】香川 英二
(72)【発明者】
【氏名】小川 翼
【審査官】根本 徳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-090052(JP,A)
【文献】特開2004-317070(JP,A)
【文献】特開2005-000053(JP,A)
【文献】特開2013-208058(JP,A)
【文献】特開昭63-177753(JP,A)
【文献】特開2003-021340(JP,A)
【文献】特開2001-046038(JP,A)
【文献】特開昭52-064036(JP,A)
【文献】特許第5281691(JP,B2)
【文献】特開2013-029220(JP,A)
【文献】特許第4781378(JP,B2)
【文献】特許第5304729(JP,B2)
【文献】特開平05-049415(JP,A)
【文献】特開2002-005448(JP,A)
【文献】特開昭53-109240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/68
H05B 6/80
A23L 13/00
A23L 17/00
A23L 5/30
A23C 19/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品を収納する熟成室、熟成室にマイクロ波を照射する照射口および熟成室に送風をする送風ファンを有するマイクロ波熟成部と、
冷却器により冷却される冷却室を有する冷却部と、
照射口に接続されたマイクロ波発振部と、
制御部と、を備えるマイクロ波熟成装置であって、
前記熟成室が前記冷却室内に配置され
、
前記制御部が、前記食品の表面温度よりも内部温度が高くなるように、前記マイクロ波発振部の作動を制御する、マイクロ波熟成装置。
【請求項2】
前記熟成室内壁には、マイクロ波は遮断し、空気は透過させる多数の微小開口が多数設けられている請求項1のマイクロ波熟成装置。
【請求項3】
前記熟成室の複数の内壁のそれぞれに、前記微小開口が多数設けられている請求項2のマイクロ波熟成装置。
【請求項4】
前記熟成室が、複数の熟成室からなる請求項1ないし3のいずれかのマイクロ波熟成装置。
【請求項5】
前記制御部が、熟成時に、食品の内部温度を5℃以上となるように前記マイクロ波発振部の作動を自動制御する請求項
1ないし4のいずれかに記載のマイクロ波熟成装置。
【請求項6】
前記制御部が、熟成時に、食品の表面温度を5℃未満なるように前記冷却器および/または前記送風ファンの作動を自動制御する請求項
1ないし5のいずれかに記載のマイクロ波熟成装置。
【請求項7】
前記制御部が、熟成時に、食品の表面温度と内部温度との温度差を3℃以上となるように前記マイクロ波発振部、前記冷却器および前記送風ファンの作動を自動制御する請求項
1ないし
6のいずれかに記載のマイクロ波熟成装置。
【請求項8】
前記マイクロ波発振部は、熟成時に、マイクロ波を1時間以上照射する請求項1ないし
7のいずれかに記載のマイクロ波熟成装置。
【請求項9】
前記制御部は、熟成時に、前記マイクロ波発振部にマイクロ波を一定時間照射することとマイクロ波の照射を一定時間停止することとを繰り返させる請求項1ないし
8のいずれかに記載のマイクロ波熟成装置。
【請求項10】
前記冷却部は、前記冷却室内に設置されたUVランプを備える請求項1ないし
9のいずれかに記載のマイクロ波熟成装置。
【請求項11】
マイクロ波を用いて食品を熟成させるマイクロ波熟成方法であって、
マイクロ波の照射による食品内部の加熱と冷気の送風による食品表面の冷却とを同時に行いながら、食品の表面温度よりも内部温度の方を高くして食品の熟成を行うマイクロ波熟成方法。
【請求項12】
食品の内部温度を5℃以上、食品の表面温度を5℃未満かつ食品の表面温度と内部温度との温度差を3℃以上となるようにマイクロ波の照射および冷気の送風を行う請求項
11のマイクロ波熟成方法。
【請求項13】
前記食品が肉類または魚介類である請求項
11または
12のマイクロ波熟成方法。
【請求項14】
前記食品が塩を含んだ食材である請求項
11または
12のマイクロ波熟成方法。
【請求項15】
前記塩を含んだ食材がハムおよびチーズから選ばれる請求項
14のマイクロ波熟成方法。
【請求項16】
前記食品が液体の中に入れられた食材である請求項
11または
12のマイクロ波熟成方法。
【請求項17】
前記液体がマイクロ波吸収性のない液体である請求項
16のマイクロ波熟成方法。
【請求項18】
前記マイクロ波吸収性のない液体が食用の植物油である請求項
17のマイクロ波熟成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を照射して食品を熟成させる、マイクロ波熟成装置およびマイクロ波熟成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸溜酒は蒸溜時の荒々しさは貯蔵によりまるくなる。自然熟成は長期間を要することから、種々の議論があるが、人工熟成法に興味が向けられてきた歴史がある。人工熟成法には物理的方法と化学的方法と併用法とがある。蒸留酒の人工熟成法の一つに電気的処理法があり、例えば、野口(1949、1951)は周波数の低い、高いのいずれかの交流を用いて酒類の熟成をはかった。Maximov(1955)は高周波とオゾンで処理し、ラムウイスキーが特に品質が良くなった。単独法よりもこれらを組み合わせて行う方法も考案されている(非特許文献1参照)。
近年、牛肉を一定期間熟成させることで牛肉のうま味などを増大させた、いわゆる熟成肉が広く知られるようになり、その需要が増大している。牛肉を熟成させる場合には、本来40℃程度で熟成することがうま味などを引き出す点から好ましいが、菌の増殖による腐敗を抑制するために、通常は、1℃などの低温で熟成が行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、このように低温で熟成を行うため、熟成が完成するまでに長時間(長い場合には90~180日)を要してしまうという問題があった。また、熟成期間が長くなるほど、低温でも菌による腐敗が表面から進み、その分、表面をそぎ落とすトリミングの量が多くなり、歩留まりが悪くなるという問題があった。
【0006】
本発明は、食品の熟成にかかる時間を短縮することができ、歩留まりの改善を図ることができる、マイクロ波熟成装置およびマイクロ波熟成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
マイクロ波も高周波も電波の中のある特定の周波数帯のことである。双方共に高域周波数のため高周波と呼ぶ場合がある。マイクロ波の周波数は300MHz~300GHz、高周波は10KHz~300MHzで、マイクロ波の方が高周波より少し周波数が高いのが特徴である。どちらも通信や加熱などに広く利用されており、一般にマイクロ波は比較的断面サイズの小さいもの、形状の不定形なものの加熱に、高周波は断面サイズの大きなもの、長いものの加熱に使われている。本発明では加熱に広く利用されて高周波のうちマイクロ波の領域を利用するものを好ましい実施の態様とする。マイクロ波は電波の一つで、電波は電磁波の1つであり、真空中でも伝播することができる。 電磁波は「波」であるから、波長と周波数という2つの要素を持っている。マイクロ波は1mから1mmの電波である。
本発明に係る高周波熟成装置、好ましくはマイクロ波熟成装置は、食品を収納する熟成室、熟成室に高周波、好ましくはマイクロ波を照射する照射口および熟成室に送風をする送風ファンを有する高周波熟成部、好ましくはマイクロ波熟成部と、冷却器により冷却される冷却室を有する冷却部と、照射口に接続された高周波発振部、好ましくはマイクロ波発振部と、制御部と、を備える高周波熟成装置、好ましくはマイクロ波熟成装置であって、前記熟成室が前記冷却室内に配置され、前記制御部が、前記食品の表面温度よりも内部温度が高くなるように、前記マイクロ波発振部の作動を制御する。
以下、「高周波」は、好ましい態様の「マイクロ波」を使用することとする。
【0008】
上記マイクロ波熟成装置において、前記熟成室内壁には、マイクロ波は遮断し、空気は透過させる多数の微小開口が多数設けられているように構成することができる。
【0009】
上記マイクロ波熟成装置において、前記熟成室の複数の内壁のそれぞれに、前記微小開口が多数設けられているように構成することができる。
【0010】
上記マイクロ波熟成装置において、前記熟成室が、複数の熟成室からなるように構成することができる。
【0012】
上記マイクロ波熟成装置において、前記制御部が、熟成時に、食品の内部温度を5℃以上となるように前記マイクロ波発振部の作動を自動制御するように構成することができる。
【0013】
上記マイクロ波熟成装置において、前記制御部が、熟成時に、食品の表面温度を5℃未満なるように前記冷却器および/または前記送風ファンの作動を自動制御するように構成することができる。
【0014】
上記マイクロ波熟成装置において、前記制御部が、熟成時に、食品の表面温度と内部温度との温度差を3℃以上となるように前記マイクロ波発振部、前記冷却器および前記送風ファンの作動を自動制御するように構成することができる。
【0015】
上記マイクロ波熟成装置において、前記マイクロ波発振部は、熟成時に、マイクロ波を1時間以上照射するように構成することができる。
【0016】
上記マイクロ波熟成装置において、前記制御部は、熟成時に、前記マイクロ波発振部にマイクロ波を一定時間照射することとマイクロ波の照射を一定時間停止することとを繰り返させるように構成することができる。
【0017】
上記マイクロ波熟成装置において、前記冷却部は、前記冷却室内に設置されたUVランプを備えるように構成することができる。
【0018】
本発明に係るマイクロ波熟成方法は、マイクロ波を用いて食品を熟成させるマイクロ波熟成方法であって、マイクロ波の照射による食品内部の加熱と冷気の送風による食品表面の冷却とを同時に行いながら、食品の表面温度よりも内部温度の方を高くして食品の熟成を行う。
【0019】
上記マイクロ波熟成方法において、食品の内部温度を5℃以上、食品の表面温度を5℃未満かつ食品の表面温度と内部温度との温度差を3℃以上となるようにマイクロ波の照射および冷気の送風を行うように構成することができる。
【0020】
上記マイクロ波熟成方法において、前記食品が肉類または魚介類であるように構成することができる。また、塩を含んだ食材であるように、より具体的にはハムおよびチーズから選ばれるように構成することができる。
さらにまた、前記食品が液体の中に、好ましくはマイクロ波吸収性のない液体の中に、より具体的には食用の植物油の中に入れられた食材であるように構成することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、熟成中に、食品の表面温度よりも内部温度を高くすることができるため、熟成期間を短縮することができるとともに、食品表面における菌の増殖を抑制し、トリミングの量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1実施形態に係るマイクロ波熟成装置の構成図である。
【
図2】第2実施形態に係るマイクロ波熟成装置の構成図である。
【
図3】第3実施形態に係るマイクロ波熟成装置の構成図である。
【
図4】第3実施形態に係るキャビティの構成図である。
【
図5】マイクロ波を連続照射した場合における、熟成日数ごとのアミノ酸含量の測定結果を示す表である。
【
図7】熟成条件ごとのアミノ酸含量の測定結果を示す表である。
【
図9】熟成条件ごとのグルタミン酸含量の測定結果を示すグラフである。
【
図10】官能試験の試験条件を説明するための図である。
【
図12】生ハムの実施例のマイクロ波熟成実験、比較実験を対比して説明する図面である。
【
図13】オリーブオイルに漬けた熟成実験のマイクロ波熟成実験、比較実験を対比して説明する図面である。図中、ラップで覆わない通常のマイクロ波熟成実験の図を参考図として含む。
【発明を実施するための形態】
【0023】
≪熟成させる食品≫
熟成とは、食品をある条件において良好な状態にさせることである。微生物の酵素作用による発酵、食品中の酵素の作用、食品と容器の成分どうしの化学反応、食品成分の物理的変化によるものなど、食品の種類によって熟成のメカニズムは多様である。簡単にいえば、食品を寝かせておいしくすることである。水分が失われる一方で濃厚さが増し、うまみ成分のアミノ酸が何倍にも増えるというメカニズムである。食品を長くおいておくことで、食品の色や味、香り、歯触りなどを変化させ、好ましい状態にすることなのである。熟成させる上では、風味の変化を品質の向上につなげるために、温度や時間などの条件を課すなどのさまざまな工夫がほどこされている。熟成肉のうま味が増すのは肉のタンパク質が分解されるからである。味噌や醤油の色が褐色に変化するのは、食品中のアミノ酸や還元糖の化学反応、つまりメイラード反応によるものである。この反応では香ばしい匂いも生まれる。ウイスキーでは、樽に貯蔵している間に樽の成分が移り、琥珀色になる。発酵や熟成の過程で原料から分解されできたアミノ酸のうまみや、糖類の甘み、加えた食塩のバランスで決まる。本発明の装置、および方法によって、経験や勘に頼らなくても、また時間をかけなくても熟成の風味を再現できるようになった。熟成させる食品として食肉、特に牛肉、ハム、チーズを例示して本発明を説明しているが、本発明に係るマイクロ波熟成装置で熟成できる食品はそれらに限定されず、牛肉以外の食肉、魚介類、ハム、ソーセージ、チーズ、野菜類、麺類、パン類などに適用することもできる。熟成させる上で、風味の変化を品質の向上につなげるために、液体の中に、好ましくはマイクロ波吸収性のない液体(例えばオリーブオイルのような食用の植物油)の中に食材を入れて温度条件を課す工夫をすることができる。
【0024】
≪第1実施形態≫
図1は、第1実施形態に係るマイクロ波熟成装置の構成図である。本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1は、乾燥熟成(ドライエイジング)に適した装置であり、
図1に示すように、冷却部10、マイクロ波発振部20、マイクロ波熟成部30、制御部40、およびUVランプ50を備える。
図1に示すように、マイクロ波熟成装置1は、冷却部10の内部にマイクロ波熟成部30、制御部40、およびUVランプ50が内蔵されている。熟成の対象となる食品は、肉類、魚介類、野菜類、麺類、パン類である。
【0025】
冷却部10は、冷却部10の内部空間を冷気により冷却する装置である。冷却部10は、
図1に示すように、冷却器11、第1ファン12、冷却室13、および不図示の冷却室扉14を有している。本実施形態では、冷却器11が外部との熱交換を行うことで冷気を発生させ、発生した冷気を第1ファン12により冷却部10の内部の冷却室13内に送風する。これにより、冷却室13内を低温とすることがきできる。なお、後述するように、熟成させる食品の表面温度が内部温度よりも低くなるように、制御部40により、マイクロ波発振部20等の動作や冷却室13内の温度が適宜制御されている。また、ユーザは、冷却室扉14を開くことで、冷却室13内に設置されているマイクロ波熟成部30に、熟成させる食品を出し入れすることができる。
【0026】
マイクロ波発振部20は、食品Mに照射するためのマイクロ波を発生する。マイクロ波発振部20として、マグネトロンを使用した発振器を用いることもできるが、本実施形態では、マグネトロンと比べて高い周波数および出力安定度が得られる、半導体素子を用いたソリッドステータス方式の発振器を用いる。マイクロ波発振部20は、周波数を2.4~2.5GHzの間で連続的に変化させて、マイクロ波を発生させる。マイクロ波発振部20で発振されたマイクロ波は、ケーブル21を介して、マイクロ波熟成部30の照射口31から照射される。なお、マイクロ波の周波数を2.4~2.5GHzの間で連続的に変化させることでマイクロ波熟成部30での電磁界の分布が均一化されるため、食品Mにも均一な分布でマイクロ波が照射され、食品Mの均一加熱(均一熟成)を促進することができる。
【0027】
マイクロ波熟成部30は、
図1に示すように、照射口31、第2ファン32、熟成室33、および不図示の熟成室扉34を備える。ユーザは、熟成室扉34を開けることで、熟成を行う食品Mを熟成室33に出し入れすることができる。
【0028】
熟成室33は、内面(内壁)の全ての面にマイクロ波を反射するための反射板が設置されたキャビティである。熟成室33の上部内面には、マイクロ波発振部20により発振されたマイクロ波を、熟成室33内に照射する照射口31が設置されている。本実施形態においては、照射口31に、小型で利得が高いパッチアンテナ(平面アンテナ)が取り付けられ、これによりマイクロ波発振部20により発振されたマイクロ波が熟成室33内に照射される。
熟成室33には、テフロン(登録商標)やポリプロピレンなどのマイクロ波透過性材により構成された棚を設置してもよい。
【0029】
第2ファン32は、冷却室13内の冷気を熟成室33に送風する。第2ファン32は、ドライエイジングに適した風量(たとえば0.5~10.0m/秒)で送風を行うことができるものを採用している。本実施形態では、
図1に示すように、第2ファン32が熟成室33の外側に取り付けられており、第2ファン32が取り付けられた熟成室33の側壁には、第1微小開口35が設けられている。第1微小開口35は、マイクロ波の波長よりも短い大きさで開口されており、たとえば本実施形態では、第1微小開口35の大きさを直径10mm以下としている。第1微小開口35により、熟成室33内に照射されたマイクロ波は遮断され、第2ファン32により送風された冷気のみが通過される。また、第1微小開口35と対向する熟成室33の側壁には、第1微小開口35と同様の径の、第2微小開口36が設けられている。第2微小開口36により、熟成室33に照射されたマイクロ波は遮断されるが、食品Mとの熱交換により温められた熟成室33内の空気が、第2微小開口36を通過して、冷却室13内へと排出される。第1微小開口35および第2微小開口36を、1または複数の側壁の大部分を占める面積に設け、通気性を高めてもよい。また、熟成室33を第1微小開口35および第2微小開口36が予め形成されたパンチングメタルを用いて構成することもでき、このようなパンチングメタルとして、φ10mmのステンレス板を用いることもできる。
【0030】
制御部40には、熟成させる食品Mの表面温度および内部温度がそれぞれ所定の温度となるように温度制御を行うプログラムが組み込まれている。具体的には、制御部40は、マイクロ波発振部20、冷却器11、第1ファン12、第2ファン32の動作を制御することで、マイクロ波発振部20によるマイクロ波の出力、冷却器11による冷気の温度、第1ファン12および第2ファン32の風量を制御して温度制御を行う。たとえば、制御部40は、マイクロ波発振部20のマイクロ波の出力を高くすることで食品Mの内部温度を高くすることができ、また、冷却器11による冷気の温度を低くし、あるいは、第1ファン12および第2ファン32の風量を高くすることで食品Mの表面温度を低くすることができる。また、制御部40は、マイクロ波の照射のON-OFFを一定時間(たとえば数時間)ごとに切り替えるように、マイクロ波発振部20を制御する構成とすることもできる。たとえば、制御部40は、マイクロ波を3時間照射した後、マイクロ波の照射を3時間停止し、同様に、マイクロ波の照射と停止とを3時間ごとに、たとえば熟成期間である7日間ずっと繰り返すように、マイクロ波発振部20を制御することができる。
【0031】
また、制御部40は、食品Mの内部温度や表面温度を測定する温度センサ(例えば、マイクロ波環境下においても接触式で温度計測が可能な蛍光式光ファイバー温度計(安立計器株式会社製)や、非接触により赤外線や可視光線の強度を測定する放射型温度センサ)と接続し、温度センサの計測結果に基づいて、適宜温度制御を行う構成とすることもできる。
さらに、制御部40は、予め試験により、食品Mの重量および水分量と、食品Mの表面温度および内部温度を所定の温度とするための、マイクロ波発振部20のマイクロ波の出力、冷却器11による冷気の温度、第1ファン12および第2ファン32の風量との関係を記憶しておき、熟成室33内に設置された重量計や非接触式の水分計から得た食品Mの重量や水分量に応じて、マイクロ波発振部20のマイクロ波の出力、冷却器11による冷気の温度、第1ファン12および第2ファン32の風量を制御する構成とすることもできる。この場合、制御部40は、操作ボタンやタッチパネル等の入力装置を備えており、食品の種類(たとえば、牛肉、豚肉、鶏肉)や大きさなどの熟成対象食品情報を入力することで食品の表面温度が内部温度よりも高くなるような制御を自動で行うことが開示される。
【0032】
ここで、マイクロ波は誘電加熱により食品内部まで加熱するため、マイクロ波熟成部30でマイクロ波を照射した場合、食品Mの表面に加えて食品Mの内部まで加熱することができる。食品Mの内部を温めることで食品Mの熟成を促進することができるが、食品Mの表面を温めることは食品Mの表面に付着した菌の増殖を促すこととなる。これに対して、本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1では、冷却機構、すなわち、冷却部10および第2ファン32の動作により食品Mの表面を冷却することで、食品Mの表面に付着した菌の増殖を抑制することができる。
【0033】
特に、本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1では、加熱機構(マイクロ波発振部20およびマイクロ波熟成部30)による食品Mの加熱と、冷却機構(冷却部10および第2ファン32)による食品Mの表面の冷却とを同時に行い、かつ、制御部40の制御により、食品Mの内部温度が表面温度よりも高くなるように、加熱機構および冷却機構の動作が制御されている。より具体的には、制御部40は、食品Mの内部温度が5℃以上、かつ、食品Mの表面温度が5℃未満(好ましくは0~4℃)となるように、温度制御を行い、より好適には、食品Mの内部温度と表面温度との差が3℃以上となるように、マイクロ波発振部20の出力、冷却器11による冷気の温度、第1ファン12および第2ファン32による風量を制御する。これにより、マイクロ波熟成装置1では、食品Mの熟成時に、食品Mの熟成を促進することができるとともに、食品Mの表面の菌の増殖を抑制することができる。食品Mを熟成している間中、マイクロ波を連続して照射する必要はなく、少なくとも1時間以上(好ましくは3時間以上、より好ましくは5時間以上)、マイクロ波の照射が行なわれる構成とすることができる。
【0034】
UVランプ50は、紫外線を発生させる装置である。本実施形態では、熟成室33の一部(少なくともUVランプ50側の一部)の壁部において紫外線が通過する構成とされており、食品Mの熟成中に、UVランプ50で発生させた紫外線を、熟成室33内に置かれた食品Mの表面に照射することができる。このように、熟成中に、紫外線を食品Mの表面に照射することで、食品Mの表面に存在する菌の増殖をより抑制することができる。なお、制御部40は、UVランプ50の動作も制御することができる。たとえば、制御部40は、熟成を開始したタイミングまたは熟成室扉34を(開けた後に)閉じたタイミングから、一定時間(たとえば数時間)、UVランプ50に紫外線を照射させるように制御を行うことができる。
【0035】
以上のように、本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1では、食品Mにマイクロ波を照射するマイクロ波熟成部30と、食品Mの表面を冷却する冷却部10とを備え、マイクロ波熟成部30による食品内部の加熱と、冷却部10および第2ファン32による食品表面の冷却とを同時に行い、食品Mの表面温度よりも内部温度を高くして、食品Mの熟成を行う。これにより、食品Mの表面に存在する菌の増殖を抑制しながら、食品Mの熟成を促進することができる。さらに、食品Mの表面に存在する菌の増殖を抑制し、食品Mの熟成を促進することで、食品Mの表面をそぎ落とすトリミングの量を減少させることができ、歩留まりを改善することもできる。
【0036】
さらに、食品Mにマイクロ波を照射して熟成させることで、食品Mの表面に存在する菌にマイクロ波による損傷を与えることができるため、食品Mの表面に存在する菌の増殖をより抑制することができる。また、マイクロ波によりプロテアーゼなどの酵素の活性を向上させることが知られており、食品Mにマイクロ波を照射して熟成させることで、食品Mの熟成をより促進させることができる。このように、本実施形態に係るマイクロ波熟成装置1では、食品Mの表面に存在する菌の増殖を抑制しながら、食品Mの熟成を促進することができるため、通常、腐敗が速く熟成が難しかった鶏肉や豚肉についても熟成を行うことが容易となるという効果を奏することもできる。
【0037】
また、マイクロ波熟成部30による食品内部の加熱により、食品Mの熟成時に、食品Mの内部温度が5℃以上となり、食品Mの表面温度が5℃未満となり、より好適には、食品Mの内部温度と表面温度との差が3℃以上となるように、制御部40により、マイクロ波発振部20のマイクロ波の出力、冷却器11による冷気の温度、第1ファン12および第2ファン32による風量が制御されている。これにより、より効果的に、食品Mの表面に存在する菌の増殖を抑制しながら、食品Mの熟成を促進することができる。
【0038】
≪第2実施形態≫
続いて、第2実施形態に係るマイクロ波熟成装置1aについて説明する。
図2は、第2実施形態に係るマイクロ波熟成装置1aの一例を示す構成図である。第2実施形態に係るマイクロ波熟成装置1aでは、
図2に示すように、熟成室33の熟成室扉34がチョーク構造を有し、外部から開閉可能となっていること以外は、第1実施形態に係るマイクロ波熟成装置1と同様である。第1実施形態と同じ構成については同じ符号を付し、説明を割愛する。
【0039】
図2に示すように、第2実施形態に係るマイクロ波熟成装置1aでは、熟成室33の熟成室扉34が直接外部から開閉できるようになっている。また、第2実施形態では、マイクロ波が外部に漏洩することを防止するために、熟成室33の熟成室扉34は、チョーク構造を有している。なお、チョーク構造は公知の構造とすることができる。
【0040】
このように、第2実施形態に係るマイクロ波熟成装置1aでは、外部から直接、熟成室33内に食品Mの出し入れを行うことができる。また、第2実施形態では、熟成室扉34にチョーク構造を備えることで、外部へのマイクロ波の漏洩を有効に防止することができる。
【0041】
≪第3実施形態≫
続いて、第3実施形態に係るマイクロ波熟成装置1bについて説明する。
図3は、第3実施形態に係るマイクロ波熟成装置1bの一例を示す斜視図であり、
図4は、第3実施形態に係るマイクロ波熟成部30aの一例を示す斜視図である。
図3に示すように、冷却部10は2つの冷却室13を有し、各冷却室13内にはマイクロ波熟成部30a(熟成室33)がそれぞれ設置されている。
【0042】
マイクロ波熟成部30aは、
図4(A)に示すように、網皿37により熟成室33が上下に分かれた二段構造となっており、食品Mを上下それぞれ載置することができる。また、第3実施形態に係るマイクロ波熟成部30aでは、
図4(B)に示すように、各段の背面に第2ファン32が取り付けられており、第2ファン32の動作により冷却室13内の冷気が熟成室33内に送風される。また、マイクロ波熟成部30aの両側面の大部分には微小開口36が開けられており、冷却室13から熟成室33の内部に送風され食品Mと熱交換を行った空気が、微小開口36から冷却室13へと排出されることで、食品Mの表面温度を効率良く低くすることができる。
【0043】
また、第3実施形態において、マイクロ波熟成部30aの前面は開口となっており、開口の縁部には、チョーク構造38が形成されている。
図3に示すように、冷却室13の冷却室扉は、熟成室33の熟成室扉34と兼用されており、チョーク構造38によりマイクロ波が外部に漏洩することを有効に防止することができる。扉面をパンチングメタル板と透明な板の2重構造とする事で、マイクロ波の漏洩防止と断熱機能を有したまま、熟成室33内部の食品Mの熟成進行度等を、扉を開けずに確認できる構造にしても良い。透明な板の材質は特に制限はなく、例えばガラスやポリカーボネイト樹脂等が良い。また、透明な板を空気層ができるように、2枚重ねた構造にすることで断熱機能が向上した構造とすることができる。
【0044】
第3実施形態においては、マイクロ波熟成部30aの上面に、照射口31と照明部39とが配置されている。照射口31は、第1実施形態と同様に、熟成室33内にマイクロ波を照射する。また、照明部39は、熟成室33内を照明するLED光源を有し、たとえば熟成室扉34が開かれた場合に、熟成室33内を照明する。
【0045】
以上のように、第3実施形態に係るマイクロ波熟成装置1bは、冷却室13および熟成室33をそれぞれ2つずつ有するため、一度に熟成できる食品Mの量を多くすることができる。また、熟成室33は上下二段に分かれており、各段について第2ファン32を備えることで、熟成させる食品Mの量が多い場合でも、食品Mの表面温度を適切に低くすることができる。さらに、第3実施形態では、市販の冷蔵庫を冷却部10として利用することができるため、製造コストを低減することもできる。
【0046】
本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。本発明は、これらの実施例によって何ら限定されることはない。
【実施例1】
【0047】
発明者は、本発明に係るマイクロ波熟成装置による食品の熟成効果を確認するために、以下の試験を行った。具体的には、第1実施形態に係るマイクロ波熟成装置1と同様の構成の試作機を製作し、各試験を行った。
なお、以下の実施例1~3では、牛モモ肉約300g(実施例4では約700g)をマイクロ波熟成部に入れて100W以下のマイクロ波により照射して試験を行った。また、冷却部10の内部の温度は-2℃、牛モモ肉表面の温度は-1~+2℃、牛モモ肉内部の温度は+8℃となるように、マイクロ波発振器のマイクロ波の出力、冷却器の冷気の温度、第1ファンおよび第2ファンの風量を制御して試験を行った。第2ファンの風量は、0.5~1.0m/秒の範囲で制御した。
【0048】
(実施例1)
まず、マイクロ波を熟成9日目まで連続して照射し、熟成日数ごとにアミノ酸含有量を測った。その計測結果を
図5および
図6に示す。
図5は、実施例1における熟成日数ごとのアミノ酸含有量の測定結果であり、
図6は、
図5に示す測定結果のグラフである。アミノ酸総量に着目すると、当初(0日)のアミノ酸総量は375.4mg/100gであり、熟成6日目のアミノ酸総量は745.9mg/100gであり、熟成9日目のアミノ酸総量は1128.1mg/100gとなった。これらの結果から分かるように、マイクロ波を牛モモ肉に照射することで、アミノ酸総量が、熟成6日間で約2倍、熟成9日間で約3倍まで増加した。
【0049】
(実施例2)
次いで、実施例2では、(A)熟成前の牛モモ肉、(B)マイクロ波を照射せずに7日間熟成させた牛モモ肉、(C)7日間の熟成においてマイクロ波を熟成開始から6時間だけ照射した牛モモ肉、(D)7日間の熟成においてマイクロ波を熟成開始から20時間だけ照射した牛モモ肉について、7日間熟成後のアミノ酸含有量((A)については熟成前の牛モモ肉のアミノ酸含有量)を測定した。
図7は実施例2における上記(A)~(D)のアミノ酸含有量の測定結果であり、
図8は、
図7に示す測定結果のグラフである。
【0050】
アミノ酸総量に着目した場合、
図7および
図8に示すように、(A)熟成前の牛モモ肉に対して、(B)マイクロ波を照射せずに7日間熟成させた牛モモ肉では、アミノ酸総量が44.9mg/100g増加した。一方、(A)熟成前の牛モモ肉に対して、(C)7日間の熟成においてマイクロ波を6時間だけ照射した牛モモ肉では、アミノ酸総量が96.5mg/100g増加し、(D)7日間の熟成においてマイクロ波を20時間だけ照射した牛モモ肉では、アミノ酸総量が232.5mg/100g増加した。このように、(B)マイクロ波を照射せずに7日間熟成させた場合と比べて、(C)7日間の熟成においてマイクロ波を6時間だけ照射した場合、および(D)7日間の熟成においてマイクロ波を20時間だけ照射した場合では、それぞれ、アミノ酸総量が大幅に増加することが分かった。また、マイクロ波の照射時間が長いほど、アミノ酸総量が大きくなる傾向にあることが分かった。
【0051】
(実施例3)
次に、マイクロ波を照射しない通常の熟成方法と、マイクロ波を照射した本発明に係る熟成方法とにおける、グルタミン酸の含有量を、7日間熟成させた場合の熟成日数ごとに測定した測定結果を、
図9に示す。グルタミン酸は、うま味に関連するアミノ酸であり、牛肉のうま味を示す指標ともなる。なお、通常の熟成方法において熟成させた牛肉と、本実施形態に係るマイクロ波を照射させて熟成させた牛肉とは、肉の種類が異なるため、
図9に示すように、熟成当初のグルタミン酸の含有量は異なっている。
【0052】
図9に示すように、マイクロ波を照射した場合には、マイクロ波を照射しない場合と比べて、グルタミン酸の含有量は大幅に増加した。具体的には、マイクロ波を照射しない従来の熟成方法では7日間熟成でグルタミン酸の含有量が1.52倍となったが、マイクロ波を照射した本実施形態に係る熟成方法では7日間熟成でグルタミン酸の含有量が2.60倍と大幅に増加した。また、マイクロ波を照射した場合には、熟成期間が経つほど、グルタミン酸の増加量(増加幅)が多くなる傾向にあることが分かった。
【0053】
(実施例4)
次に、(E)マイクロ波を連続照射して7日間熟成させた牛モモ肉と、(F),(G)マイクロ波を照射せずに7日間熟成させた牛モモ肉とについて、官能試験を行った。
図10は、実施例4における各サンプルの熟成条件を説明するための図である。
図10に示すように、(E)マイクロ波を連続照射して7日間熟成させた牛モモ肉では、冷却室の温度が-2℃、牛モモ肉の表面温度が2℃、牛モモ肉の内部温度が8℃となるように温度制御して熟成を行った。また、マイクロ波を照射せずに7日間熟成させた牛モモ肉のうち、(F)は、冷却室の温度が-2℃、牛モモ肉の表面温度が‐2℃、牛モモ肉の内部温度が-2℃となるように温度制御して熟成を行い、(G)は、冷却室の温度が8℃、牛モモ肉の表面温度が8℃、牛モモ肉の内部温度が8℃となるように温度制御して熟成を行った。
【0054】
図11に、実施例4の官能試験の結果を示す。なお、当該官能試験は、一般社団法人 食肉科学技術研究所において専門家3名により実施した。また、当該官能試験においては、熟成させていない牛モモ肉を基準(ゼロ点)とし、不快臭、異味、熟成風味、コク、うま味、ジューシーさ、やわらかさ、総合の各項目について、-3点から+3点の7段階評価を行った。
【0055】
その結果、熟成をしていない牛モモ肉(基準)に比べて、(E)マイクロ波を連続照射して7日間熟成させた牛モモ肉、および、(F),(G)マイクロ波を照射せずに7日間熟成させた牛モモ肉において、熟成風味、コク、うま味、ジューシーさが高くなり、総合評価も高くなった。また、(E)マイクロ波を連続照射して7日間熟成させた牛モモ肉と、(F),(G)マイクロ波を照射せずに7日間熟成させた牛モモ肉とを比べると、(E)マイクロ波を連続照射して7日間熟成させた牛モモ肉では、コク、うま味、ジューシーさ、軟らかさがより高く評価され、総合評価もより高くなった。特に、(E)マイクロ波を連続照射して7日間熟成させた牛モモ肉では、熟成をしていない牛モモ肉(基準)に比べて、コクやうま味が、大幅に高い評価となった。
【0056】
このように、(E)マイクロ波を連続照射して7日間熟成させた牛モモ肉では、(F),(G)マイクロ波を照射せずに7日間熟成させた牛モモ肉と比べて、官能的にも、コク、うま味、ジューシーさ、軟らかさが増し、牛モモ肉が美味しくなることが分かった。
【0057】
なお、実施例4で熟成させた(E)~(G)の牛モモ肉については、細菌検査が行われ、E.Coli数が30未満(100g当り)、腸内細菌科菌群数が10未満(cfu/g)であることが確認された。
【実施例2】
【0058】
生ハムでの実施例である。
ハムやチーズへマイクロ波熟成を適用し実施例とした。マイクロ波熟成実験、比較実験を対比して説明する図面を
図12に示す。
期待される効果は以下のとおりである。
水を含む食材に電解質である塩分が添加されると、マイクロ波の吸収性が増加することが知られている。塩分を含む食材にマイクロ波を照射すると、塩分を多く含む部分にマイクロ波が効率的に吸収されることにより、塩分の濃度勾配に従って塩分が拡散するため、食材内部の塩分濃度ムラが急速に改善されることで、まろやかな塩味を感じることが期待できる。
(具体的実施例)
(1)マイクロ波熟成実験
12か月熟成の生ハム(既製品)300gを、食品用ラップフィルムで覆い、冷却室の温度が0℃、ハムの表面温度が3℃、生ハムの内部温度が10℃となるように温度制御して5日間熟成を行った。
(2)比較実験
12か月熟成の生ハム300gを、食品用ラップフィルムで覆い、マイクロ波を照射せず、庫内温度が3℃の冷蔵庫で5日間熟成した。
(3)官能評価試験
生ハムの試食結果を表1に示す。表1に示すとおり、10人のモニターで、食べ比べを実施したところ、塩味では9人が、まろやかさでは8人が、総合では8人が、(2)よりも(1)の方が、良かったとの評価をした。
イタリアン店のシェフで、18か月熟成の生ハム(既製品)と同等の塩味のまろやかさを感じることができたとの評価を得た。
(4)その他への応用
味噌や醤油などの塩が含まれる食材に対して広く応用できる。
【0059】
【実施例3】
【0060】
オリーブオイルに漬けた熟成実験を実施例とした。マイクロ波熟成実験、比較実験を対比して説明する図面を
図13に示す。
図13には、ラップで覆わない通常のマイクロ波熟成実験の図も参考図として示す。
期待される効果は以下のとおりである。
(ア)液体、好ましくはマイクロ波吸収性のない液体を使用することで、食材の周囲に熱伝導性の良い液体を配置したまま、マイクロ波で食材を直接加熱することができる。そのため、冷却室の冷気による冷却よりも、食材表面を効率的に冷却することができる。
(イ)オリーブオイルなどの水に溶けない液体を使用した場合は、食材からの水分の溶出を抑制することができるので、熟成前後で食材に含まれる含水率は変化しないので、歩留り低下を防止できる。また、食材表面の酸化も防止できることから、食材の表面をそぎ落とすトリミングの必要がなく歩留り低下を防止できる。
(ウ)また水分低下した食材は、焼き過ぎになってしまうことが有り、調理の際の焼き加減の調整が難しいが、本方法で処理した食材の含水率は変化していないため、調理がしやすい点でも効果がある。
(具体的実施例)
(1)マイクロ波熟成実験
A5黒毛和種のモモ肉300gを500mlのオリーブオイルに漬けて、オリーブオイルの温度は3℃、肉の内部温度が10℃になるように温度制御して5日間熟成を行った。
(2)比較実験
牛モモ肉300gを、食品用ラップフィルムで覆い、マイクロ波を照射せず、庫内温度が3℃の冷蔵庫で5日間熟成した。
マイクロ波熟成肉、比較肉ともに処理後の重量変化はなかった。
(3)官能評価試験
オリーブオイルに漬けた肉の試食結果を表2に示す。表2にしめすとおり、10人のモニターで、食べ比べを実施したところ、柔らかさでは7人が、味では8人が、総合では8人が、(2)よりも(1)の方が、良かったとの評価をした。
(4)その他への応用
液体として、マイクロ波吸収性のない液体、好ましくは食用の植物油としてオリーブオイルに代えて他の食用油を使うことができる。
食用の植物油には原料により、油糧種子(大豆、菜種、ごま、綿実、あまに等)から抽出したもの、農産物の副産物(米ぬか、とうもろこし胚芽)から抽出したもの、海外から輸入した油(パーム油、オリーブ油、ひまわり油、ひまし油等)などの種類があり、熟成する食品に応じて、いずれも使用可能である。
【0061】
【0062】
以上、本発明の好ましい実施形態例および実施例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態および実施例の記載に限定されるものではない。上記実施形態例および実施例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0063】
また、上述した実施形態および実施例に加えて、熟成室33に載置された食品Mの重量を測定する測定器を、熟成室33の下部に備える構成としてもよい。この場合、食品の重量変化に基づいて、食品の熟成度合を判断し、ユーザに提示する構成としてもよい。また、非接触式の水分計をさらに備え、食品の重量変化および食品の水分量変化に応じて、食品の熟成度合を判断する構成とすることもできる。
【0064】
さらに、上述した実施形態および実施例では、マイクロ波の周波数を2.4~2.5GHz(ISM周波数帯)とする構成を例示したが、この構成に限定されず、たとえば300MHz~300GHzの範囲の周波数を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0065】
1,1a,1b…マイクロ波熟成装置
10…冷却部
11…冷却器
12…第1ファン
13…冷却室
20…マイクロ波発振部
21…ケーブル
30,30a…マイクロ波熟成部
31…照射口
32…第2ファン
33…熟成室
34…熟成室扉
35…第1微小開口
36…第2微小開口
37…網皿
38…チョーク構造
39…照明部
40…制御部
50…UVランプ