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特許7202464補修用レーザ溶接方法及び補修用レーザ溶接装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-27
(45)【発行日】2023-01-11
(54)【発明の名称】補修用レーザ溶接方法及び補修用レーザ溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 31/00 20060101AFI20221228BHJP
   B23K 26/34 20140101ALI20221228BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20221228BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
B23K31/00 D
B23K26/34
E01D22/00 B
E01D19/12
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021534055
(86)(22)【出願日】2020-07-22
(86)【国際出願番号】 JP2020028349
(87)【国際公開番号】W WO2021015216
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2021-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2019136084
(32)【優先日】2019-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509338994
【氏名又は名称】株式会社IHIインフラシステム
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 直幸
(72)【発明者】
【氏名】中村 善彦
(72)【発明者】
【氏名】大澤 信哉
(72)【発明者】
【氏名】猪瀬 幸太郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 順子
(72)【発明者】
【氏名】置田 大記
(72)【発明者】
【氏名】加藤 明
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-86163(JP,A)
【文献】特開2005-111517(JP,A)
【文献】特開2010-133835(JP,A)
【文献】特開2018-24929(JP,A)
【文献】特開2016-194236(JP,A)
【文献】特開2006-9412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 31/00
B23K 26/00 - 26/70
E01D 22/00
E01D 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の被溶接材と、該一方の被溶接材の面上に対して隅肉溶接により斜めに接合された他方の被溶接材との間のルート部における未溶着部分を起点として生じたき裂をレーザ光の照射により溶融させて消去する補修用レーザ溶接方法であって、
前記ルート部における未溶着部分に含まれる前記一方の被溶接材と前記他方の被溶接材との接触点を前記レーザ光の照射ポイントとして前記ルート部の溶接ビード側から狙いつつ、該溶接ビードに沿って前記レーザ光を照射する補修用レーザ溶接方法。
【請求項2】
前記レーザ光の照射ポイントを前記接触点から前記溶接ビード側にシフトさせて前記レーザ光を前記溶接ビードに沿って複数回パスさせる請求項1に記載の補修用レーザ溶接方法。
【請求項3】
前記溶接ビードを横切る方向に前記レーザ光をウィービングさせつつ該溶接ビードに沿って前記レーザ光を照射する請求項1又は2に記載の補修用レーザ溶接方法。
【請求項4】
前記ルート部における未溶着部分に含まれる前記一方の被溶接材と前記他方の被溶接材との接触点を前記レーザ光の照射ポイントとして狙うに際して、前記レーザ光のスポットの少なくとも外縁が前記接触点に触れるべく照射ポイントを設定する請求項1~3のいずれか一つの項に記載の補修用レーザ溶接方法。
【請求項5】
溶材を供給しつつ前記レーザ光を照射する請求項1~4のいずれか一つの項に記載の補修用レーザ溶接方法。
【請求項6】
一方の被溶接材と、該一方の被溶接材の面上に対して隅肉溶接により斜めに接合された他方の被溶接材との間のルート部における未溶着部分を起点として生じたき裂をレーザ光の照射により溶融させて消去する補修用レーザ溶接装置であって、
レーザ発振器と、
前記レーザ発振器から供給されるレーザ光を照射するレーザヘッドと、
前記レーザヘッドを前記ルート部の溶接ビードに沿って移動させるヘッド駆動機構と、
前記ヘッド駆動機構により前記溶接ビードに沿って移動する前記レーザヘッドから照射される前記レーザ光の照射ポイントを前記ルート部における未溶着部分に含まれる前記一方の被溶接材と前記他方の被溶接材との接触点に倣わせる倣い機構を備えている補修用レーザ溶接装置。
【請求項7】
一方の被溶接材と、該一方の被溶接材の面上に対して隅肉溶接により斜めに接合された他方の被溶接材との間のルート部における未溶着部分を起点として生じたき裂をレーザ光の照射により溶融させて消去する補修用レーザ溶接装置であって、
レーザ発振器と、
前記レーザ発振器から供給されるレーザ光を照射するレーザヘッドと、
前記レーザヘッドを前記ルート部の溶接ビードに沿って移動させるヘッド駆動機構を備え、
前記ヘッド駆動機構は、レール及び前記レーザヘッドを搭載して前記レール上を走行する台車を具備し、前記レールは、前記溶接ビードに沿って前記台車とともに移動する前記レーザヘッドから照射される前記レーザ光の照射ポイントを前記ルート部における未溶着部分に含まれる前記一方の被溶接材と前記他方の被溶接材との接触点とするべく、前記一方の被溶接材における前記他方の被溶接材が接合される面及び該他方の被溶接材の双方を基準にして固定されている補修用レーザ溶接装置。
【請求項8】
前記ヘッド駆動機構の前記レールは、互いに分離可能に結合する縦板材及び横板材を具備した山形鋼形状を成し、
前記レールの前記縦板材は、前記他方の被溶接材を基準にして位置決め固定され、
前記レールの前記横板材は、前記他方の被溶接材を基準にして固定された前記縦板材に対して前記一方の被溶接材における前記他方の被溶接材が接合される面を基準にして位置決め固定され、
前記レールの前記横板材は、該横板材上に載置した前記ヘッド駆動機構の前記台車が前記縦板材に案内されて走行する走行路として形成されている請求項7に記載の補修用レーザ溶接装置。
【請求項9】
前記溶接ビードを横切る方向に前記レーザ光をウィービングさせるウィービング機構を備えている請求項6~8のいずれか一つの項に記載の補修用レーザ溶接装置。
【請求項10】
前記レーザ光の照射ポイントは、該レーザ光のスポットの少なくとも外縁が前記ルート部における未溶着部分に含まれる前記一方の被溶接材と前記他方の被溶接材との接触点に触れるべく設定されている請求項6~9のいずれか一つの項に記載の補修用レーザ溶接装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば、橋梁における舗装部分を支持する鋼床版を構成するデッキプレート(一方の被溶接材)と、このデッキプレートの面上に対して隅肉溶接により接合されたUリブ(他方の被溶接材)との接合部分に生じたき裂を補修するのに用いる補修用レーザ溶接方法及び補修用レーザ溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、上記した鋼床版において、デッキプレートの面上に隅肉溶接により接合されるUリブの側縁は、デッキプレートに対して斜めに接合される。この際、デッキプレート及びUリブの側縁の接合部分におけるルート部には未溶着部分が残っているが、溶着部分の溶け込み深さが予め定められた規定数値をクリアするように成すことで強度を確保している。
【0003】
しかしながら、デッキプレート及びUリブの側縁の接合部分には、経年劣化や金属疲労によって上記ルート部の未溶着部分を起点とするき裂(デッキプレートを貫通方向に進展するデッキ進展き裂及び接合部分の溶接ビードを貫通方向に進展するビード進展き裂)が発生することが知られている。
【0004】
従来において、鋼床版におけるデッキプレート及びUリブの側縁の接合部分に、上記したようなルート部の未溶着部分を起点とするき裂が生じた場合には、鋼床版上の舗装部分を取り除いたうえで、当て板補強して補修するようにしていた。
【0005】
このような従来の補修施工では、鋼床版上の舗装部分を取り除く都合上、交通規制を行う必要があり、近年では、この交通規制を回避するために、例えば、特許文献1に記載された溶接方法が提案されている。
この溶接方法では、ビードに生じるき裂の進展方向となるようにレーザ光の照射方向を設定することで、き裂を消去するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6092163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記した従来におけるき裂除去用の溶接方法では、レーザ光の照射によってビード進展き裂を消去することはできても、デッキプレートを貫通方向に進展するデッキ進展き裂の除去までは想定していない。したがって、レーザ光の照射によって如何にしてデッキ進展き裂を除去するかが従来の課題となっている。
【0008】
本開示は、上記したような従来の課題を解決するためになされたもので、例えば、鋼床版におけるデッキプレート及びUリブの側縁の接合部分に、ルート部の未溶着部分を起点とするき裂が生じた場合、鋼床版上の舗装部分を取り除くことなく、レーザ光の照射によってビード進展き裂のみならずデッキ進展き裂をも除去することが可能な補修用レーザ溶接方法及び補修用レーザ溶接装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第1の態様は、一方の被溶接材と、該一方の被溶接材の面上に対して隅肉溶接により斜めに接合された他方の被溶接材との間のルート部における未溶着部分を起点として生じたき裂をレーザ光の照射により溶融させて消去する補修用レーザ溶接方法であって、前記ルート部における未溶着部分に含まれる前記一方の被溶接材と前記他方の被溶接材との接触点を前記レーザ光の照射ポイントとして前記ルート部の溶接ビード側から狙いつつ、該溶接ビードに沿って前記レーザ光を照射する構成としている。
なお、ルート部における未溶着部分に含まれる一方の被溶接材と他方の被溶接材との接触点は、非破壊検査によって位置を特定する。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係る補修用レーザ溶接方法によれば、例えば、鋼床版におけるデッキプレート及びUリブの側縁の接合部分に、ルート部の未溶着部分を起点とするき裂が生じた場合、鋼床版上の舗装部分を取り除くことなく、レーザ光の照射によってビード進展き裂のみならずデッキ進展き裂をも除去することが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の一実施形態による補修用レーザ溶接方法が適用される鋼床版を示す橋梁の鋼床版箱桁に組み込まれた状態の斜視図である。
図2図1の鋼床版の一部を拡大して示す部分拡大正面図である。
図3】本開示の一実施形態による補修用レーザ溶接方法に用いる補修用レーザ溶接装置を概略的に説明する正面説明図である。
図4図3の補修用レーザ溶接装置の側面説明図である。
図5】本開示の一実施形態による補修用レーザ溶接方法のレーザ光照射ポイントを示す図2相当部位での部分拡大正面図である。
図6図5におけるレーザ光照射ポイントと補修状況との関係を示す部分拡大断面図である。
図7A】本開示の一実施形態による補修用レーザ溶接方法のレーザ光照射パス回数と補修状況との関係を示す部分拡大断面図である。
図7B】本開示の一実施形態による補修用レーザ溶接方法のレーザ光照射パス回数と補修状況との関係を示す部分拡大断面図である。
図7C】本開示の一実施形態による補修用レーザ溶接方法のレーザ光照射パス回数と補修状況との関係を示す部分拡大断面図である。
図8】本開示の他の実施形態による補修用レーザ溶接方法に用いる補修用レーザ溶接装置を概略的に説明する正面説明図である。
図9図8の補修用レーザ溶接装置の側面説明図である。
図10A】本開示のさらに他の実施形態による補修用レーザ溶接方法に用いる補修用レーザ溶接装置を概略的に説明するレール位置決め時における正面説明図である。
図10B】本開示のさらに他の実施形態による補修用レーザ溶接方法に用いる補修用レーザ溶接装置を概略的に説明する補修溶接時における正面説明図である。
図11図10Aの補修用レーザ溶接装置の側面説明図である。
図12A】本開示による補修用レーザ溶接方法においてレーザ溶接の始端及び終端でタブ板を用いる場合のタブ板の斜視説明図である。
図12B】本開示による補修用レーザ溶接方法においてレーザ溶接の始端及び終端でタブ板を用いる場合のタブ板の配置例を示す溶接ビードの外観説明図である。
図12C】本開示による補修用レーザ溶接方法においてレーザ溶接の始端及び終端でタブ板を用いる場合の図2相当部位での部分拡大正面図である。
図13A図12Aにおけるタブ板の他の形態例を示す斜視説明図である。
図13B図12Aにおけるタブ板のさらに他の形態例を示す斜視説明図である。
図14図13Bのタブ板を用いて補修用レーザ溶接を行う場合の概念図である。
図15A図13Bのタブ板に替えて使用するのに好ましい形態例を示す斜視説明図である。
図15B図13Bのタブ板に替えて使用するのに好ましい他の形態例を示す斜視説明図である。
図15C図13Bのタブ板に替えて使用するのに好ましいさらに他の形態例を示す斜視説明図である。
図16A図15Aのタブ板を用いて補修用レーザ溶接を行う場合に当て板を配置した状態の側面図である。
図16B図15Aのタブ板を用いて補修用レーザ溶接を行う場合に当て板を配置した状態の他の配置例を示す側面図である。
図16C図13Bのタブ板を用いて補修用レーザ溶接を行う場合に当て板を配置した状態の側面図である。
図17A】本開示の補修用レーザ溶接方法が適用される鋼床版の横リブと交差する箇所における溶接部分の補修要領を示す拡大断面説明図である。
図17B】本開示の補修用レーザ溶接方法が適用される鋼床版の横リブと交差する箇所における溶接部分の補修要領を示す拡大断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1及び図2は、本開示に係る補修用レーザ溶接方法が適用される橋梁の鋼床版箱桁の鋼床版を示し、図3及び図4は、本開示の一実施形態に係る補修用レーザ溶接方法に用いる補修用レーザ溶接装置を示している。
【0013】
図1に示すように、複数の主桁101とともに鋼床版箱桁100を構成する鋼床版103は、橋梁の舗装部分Hを載せるデッキプレート(一方の被溶接材)110と、このデッキプレート110の舗装部分載置面111とは反対側の下向き面112に配置した複数のUリブ(他方の被溶接材)120を備えている。
【0014】
図1の拡大円内にも示すように、デッキプレート110の下向き面112に斜めに当接するUリブ120の一対の側縁121,121の各先端には、レ型開先122,122がそれぞれ形成されている。そして、Uリブ120は、そのレ型開先122,122と、デッキプレート110の下向き面112との間に隅肉アーク溶接による溶接ビードBを全長にわたって形成することでデッキプレート110に取り付けてあり、これによりデッキプレート110とともに閉断面構造を形成している。
【0015】
この際、図2に示すように、デッキプレート110と、このデッキプレートの下向き面112上に斜めに接合されるUリブ120の側縁121,121との接合部分におけるルート部Rには未溶着部分Sが残っており、このデッキプレート110及びUリブ120の接合部分には、経年劣化や金属疲労によって、未溶着部分Sを起点とするき裂(デッキプレート110を貫通方向に進展するデッキ進展き裂Cd及び接合部分の溶接ビードBを貫通方向に進展するビード進展き裂Cb)が発生する可能性がある。
【0016】
このようなデッキプレート110及びUリブ120の接合部分に生じたき裂Cd,Cbを除去する本実施形態に係る補修用レーザ溶接装置1は、図3及び図4に概略的に示すように、レーザ発振器2と、このレーザ発振器2から光ファイバ3を介して供給されるレーザ光Lを集光して補修箇所に照射するレーザヘッド4と、このレーザヘッド4を溶接ビードBに沿って移動させるヘッド駆動機構10を備えている。
【0017】
ヘッド駆動機構10は、Uリブ120の側縁121,121間の底辺123に磁石等により吸着固定されるレールベース11、及び、アーム7を介してレーザヘッド4を搭載して走行する台車12を具備している。
【0018】
この場合、台車12は、その車輪12a,12aをレールベース11のレール11a,11aに載せることで、レールベース11に吊り下げ支持されるようになっており、台車12に搭載された図示しないモータからの動力により、レール11a,11a上を走行する、すなわち、溶接ビードBに沿って走行するものとなっている。
【0019】
また、補修用レーザ溶接装置1は、ヘッド駆動機構10により溶接ビードBに沿って移動するレーザヘッド4から照射されるレーザ光Lの照射ポイントをデッキプレート110及びUリブ120の接合部分に倣わせる倣い機構8を備えている。
【0020】
この倣い機構8は、レーザヘッド4に配置された先端にローラ8cを有する2本の倣い脚8a,8bと、台車12に設けたサブアーム9aと、引張りばね9bを具備している。そして、この倣い機構8では、引張りばね9bをサブアーム9a及びアーム7の間に配置して、2本の倣い脚8a,8bをデッキプレート110の下向き面112及びUリブ120の側縁121にそれぞれ押し付けるようにすることで、レーザヘッド4から照射されるレーザ光Lの照射ポイントをデッキプレート110及びUリブ120の接合部分に倣わせるようにしている。
なお、レーザ光Lの照射ポイントをデッキプレート110及びUリブ120の接合部分に倣わせる倣い機構は、上記の構成のものに限定されない。例えば、センサによる非接触タイプの倣い機構を用いてもよい。
【0021】
さらに、補修用レーザ溶接装置1はレーザヘッド4に内蔵されたウィービング機構6を備えており、溶接ビードBを横切る方向にレーザ光Lを図3の矢印の範囲で、ウィービングさせることができるようにしている。
【0022】
さらにまた、補修用レーザ溶接装置1はシフト機構を備えている。この実施形態では、レーザヘッド4を支えるアーム7がシフト機構を兼ねている。具体的には、アーム7は、台車12に設けた支持アーム7aと、この支持アーム7aにピン7bを介して回動可能に連結されたアーム本体7cと、レーザヘッド4側に設けられてアーム本体7cに対して軸方向(図示矢印方向)に移動可能に嵌合する移動アーム7dとからなっている。
【0023】
つまり、シフト機構を兼ねるアーム7では、支持アーム7aに回動可能に連結されたアーム本体7cに対して移動アーム7dを移動させることで、レーザ光Lの照射ポイントをデッキプレート110及びUリブ120の接合部分におけるルート部Rから溶接ビードB側にシフトさせることができるようにしている。
【0024】
なお、図3における符号5は制御部であり、この制御部5では、レーザヘッド4から照射するレーザ光Lのスポット径及びヘッド駆動機構10によるレーザヘッド4の移動等をコントロールするようになっている。
【0025】
このように構成された補修用レーザ溶接装置1を用いて鋼床版103のデッキプレート110及びUリブ120の接合部分に生じたデッキ進展き裂Cdを除去するに際しては、まず、デッキプレート110及びUリブ120の接合部分に対して、超音波探傷試験等の非破壊検査を実施して、図5に示すように、ルート部Rにおける未溶着部分Sに含まれるデッキプレート110の下向き面112とUリブ120の側縁121のレ型開先122との接触点Pの位置を特定する。
【0026】
次いで、レーザヘッド4を支えるアーム7(シフト機構)のアーム本体7cの角度を調整すると共に、このアーム本体7cに対して移動アーム7dを移動させることで、レーザ光Lが上記接触点Pに触れるべくレーザ光Lの照射ポイントを決定する。
【0027】
そして、倣い機構8の引張りばね9bによって、2本の倣い脚8a,8bをデッキプレート110の下向き面112及びUリブ120の側縁121にそれぞれ押し付けるようセットする。
【0028】
この後、制御部5からの指令によりヘッド駆動機構10の台車12が走行を開始し、上記接触点Pに対して適宜スポット径のレーザ光Lを照射しつつレーザヘッド4が移動を開始する。
この実施形態において、このレーザヘッド4の移動により、レーザ光Lは、溶接ビードBに沿って1回パス(移動)するようになっている。
【0029】
一方、上記構成の補修用レーザ溶接装置1を用いて鋼床版103のデッキプレート110及びUリブ120の接合部分に生じたビード進展き裂Cbを除去する場合には、レーザ光Lを溶接ビードBに向けて照射しながらレーザヘッド4を移動させる。
【0030】
この実施形態に係る補修用レーザ溶接方法では、ルート部Rにおける未溶着部分Sに含まれる鋼床版103のデッキプレート110の下向き面112とUリブ120の側縁121のレ型開先122との接触点Pをレーザ光Lの照射ポイントとして狙うようにしているので、ルート部Rにおける未溶着部分Sを溶融させ得ることとなる。そして、この未溶着部分Sの溶融に伴って、未溶着部分Sを起点として生じていたデッキ進展き裂Cdも溶融除去されることとなる。
【0031】
ここで、図6は、レーザ光照射ポイントと補修状況との関係を示す部分拡大断面図であり、レーザ光Lを溶接ビードBに沿って1回パスさせた場合の補修状況を示している。
【0032】
図5において、レーザ光Lの照射ポイントを上記接触点PよりもUリブ120の内側(0未満(-))に設定すると、図6の部分拡大断面図に示すように、レーザ光Lの照射による溶接ビードBLの溶融金属がUリブ120の内側に流れてしまい、Uリブ120の側縁121に穴アキが生じてしまう。
この際、レーザ光Lの焦点が上記接触点Pに合致するように設定したとしても、実際には、レーザ光Lのスポットの外縁がUリブ120の内側(0未満(-)の領域)に入り込むことになる。
したがって、レーザ光Lのスポットの少なくとも外縁が接触点Pに触れるべくレーザ光Lの照射ポイントを設定することが望ましく、このようにレーザ光Lの照射ポイントを設定することで、レーザ光Lの照射による溶融金属のUリブ120内側への流動を確実に防ぐことができる。
【0033】
一方、レーザ光Lの照射ポイントを上記接触点Pよりも溶接ビードB側(4mm+)に設定し過ぎると、図6の部分拡大断面図に示すように、レーザ光Lの照射による溶接ビードBLが未溶着部分Sに届かないので、未溶着ノコリが発生する。
したがって、レーザ光Lを溶接ビードBに沿って1回パスさせるこの実施形態では、レーザ光Lの照射ポイントを上記接触点Pから2mm程度溶接ビードB側に設定することが望ましいことが判る。
【0034】
また、デッキ進展き裂Cdが小さければ、図7Aの部分拡大断面図に示すように、レーザ光Lを溶接ビードBに沿って1回パスさせて、レーザ光Lの照射による溶接ビードBLを形成するだけで、デッキ進展き裂Cdを除去可能であるが、デッキ進展き裂Cdが大きかったりした場合には、図7Bの部分拡大断面図に示すように、シフト機構を兼ねるアーム7によって、レーザ光Lの照射ポイントをデッキプレート110及びUリブ120の接合部分におけるルート部Rから溶接ビードB側にシフトさせてマルチパスさせることで(レーザ光Lの照射による溶接ビードBLを複数形成することで)、デッキ進展き裂Cdを除去可能である。
【0035】
この際、図7Cの部分拡大断面図に示すように、ウィービング機構6によりレーザ光Lにウィービングを行わせて、レーザ光Lの照射による幅広の溶接ビードBLWを形成すれば、高温割れリスクを低減することができる。
【0036】
図8及び図9は、本開示の他の実施形態に係る補修用レーザ溶接方法に用いる補修用レーザ溶接装置を示している。
【0037】
この実施形態に係る補修用レーザ溶接装置1Aは、図8及び図9に概略的に示すように、図外のレーザ発振器から光ファイバ3を介して供給されるレーザ光Lを集光して補修箇所に照射するレーザヘッド4と、このレーザヘッド4を溶接ビードBに沿って移動させるヘッド駆動機構10Aを備えている。
【0038】
この実施形態において、ヘッド駆動機構10Aは、レール11A及びこのレール11A上を走行する台車12Aを具備しており、レーザヘッド4はアーム7Aを介して台車12Aに搭載されている。
【0039】
また、この実施形態に係る補修用レーザ溶接装置1Aは、レール配置機構20を備えており、このレール配置機構20は、両端にマグネット21,21が配置されたL字部材22と、ヘッド駆動機構10Aのレール11Aに配置されたガイド23を具備している。
【0040】
ヘッド駆動機構10Aのレール11Aは、レール配置機構20のL字部材22の一方のマグネット21を介してUリブ120の底辺123に固定されている。この際、L字部材22の他方のマグネット21をデッキプレート110の下向き面112(一方の被溶接材における他方の被溶接材が接合される面)に吸着させると共に、ガイド23をUリブ120の側縁121に当接させている。
【0041】
つまり、ヘッド駆動機構10Aのレール11Aは、デッキプレート110の下向き面112及びUリブ120の側縁121の双方を基準にして固定されており、これにより、溶接ビードBに沿って台車12Aとともに移動するレーザヘッド4から照射されるレーザ光Lの照射ポイントがデッキプレート110及びUリブ120の接合部分(図5のルート部Rにおける未溶着部分Sに含まれるデッキプレート110の下向き面112とUリブ120の側縁121のレ型開先122との接触点P)を狙うようにしている。
【0042】
この実施形態に係る補修用レーザ溶接装置1Aを用いて鋼床版103のデッキプレート110及びUリブ120の接合部分に生じたデッキ進展き裂Cdを除去するに際しても、まず、デッキプレート110及びUリブ120の接合部分に対して、超音波探傷試験等の非破壊検査を実施して、図5に示すように、ルート部Rにおける未溶着部分Sに含まれるデッキプレート110の下向き面112とUリブ120の側縁121のレ型開先122との接触点Pの位置を特定する。
【0043】
次いで、レール配置機構20におけるL字部材22の他方のマグネット21をデッキプレート110の下向き面112に吸着させると共に、ガイド23をUリブ120の側縁121に当接させて、すなわち、デッキプレート110の下向き面112及びUリブ120の側縁121の双方を基準にして、L字部材22の一方のマグネット21を介してUリブ120の底辺123にヘッド駆動機構10Aのレール11Aを固定する。
【0044】
これにより、溶接ビードBに沿って台車12Aとともに移動するレーザヘッド4から照射されるレーザ光Lの照射ポイントがデッキプレート110及びUリブ120の接合部分のルート部Rにおける未溶着部分Sに含まれる接触点Pに設定される。
【0045】
この後、ヘッド駆動機構10Aの台車12Aが走行を開始し、上記接触点Pに対して適宜スポット径のレーザ光Lを照射しつつレーザヘッド4が移動を開始する。
この実施形態においても、このレーザヘッド4の移動により、レーザ光Lは、溶接ビードBに沿って1回パス(移動)するようになっている。
【0046】
一方、上記構成の補修用レーザ溶接装置1Aを用いて鋼床版103のデッキプレート110及びUリブ120の接合部分に生じたビード進展き裂Cbを除去する場合には、レーザ光Lを溶接ビードBに向けて照射しながらレーザヘッド4を移動させる。
【0047】
この実施形態に係る補修用レーザ溶接方法においても、ルート部Rにおける未溶着部分Sに含まれる鋼床版103のデッキプレート110の下向き面112とUリブ120の側縁121のレ型開先122との接触点Pをレーザ光Lの照射ポイントとして狙うようにしているので、ルート部Rにおける未溶着部分Sを溶融させ得ることとなる。そして、この未溶着部分Sの溶融に伴って、未溶着部分Sを起点として生じていたデッキ進展き裂Cdも溶融除去されることとなる。
【0048】
図10A,10B及び図11は、本開示のさらに他の実施形態に係る補修用レーザ溶接方法に用いる補修用レーザ溶接装置を示している。
【0049】
この実施形態に係る補修用レーザ溶接装置1Bは、図10A,10B及び図11に概略的に示すように、図外のレーザ発振器から光ファイバ3を介して供給されるレーザ光Lを集光して補修箇所に照射するレーザヘッド4と、このレーザヘッド4を溶接ビードBに沿って移動させるヘッド駆動機構10Bを備えている。
【0050】
このヘッド駆動機構10Bは、レール20B及びレーザヘッド4を搭載した台車22Bを具備している。この場合、レール20Bは山形鋼形状を成しており、互いに分離可能に結合する縦板材22Y及び横板材22Xを具備している。
【0051】
レール20Bの縦板材22Yは、その長手方向(図11左右方向)の両端部における各上端にマグネット21を有しており、縦板材22Yは、このマグネット21を介してデッキプレート110の下向き面112(一方の被溶接材における他方の被溶接材が接合される面)に固定されるようになっている。
また、この縦板材22Yの長手方向の両端部における各下端部には上下方向に沿う溝22Yaが形成されている。
【0052】
この実施形態において、この縦板材22Yを固定する際には、図10Aに示すように、Uリブ120の側縁121との間にガイド23Bを介在させることで、Uリブ120に対する位置決めが成されるようにしている。
このガイド23Bは、縦板材22Yの長手方向の適宜位置、例えば両端部に介在させ、縦板材22Yの固定後には除去されるものとなっている。
【0053】
一方、レール20Bの横板材22Xは、縦板材22Yの溝22Yaに挿入される溝挿入突起22Xaを基端部(図10A左端部)に有していると共に、長手方向(図11左右方向)の両端部における各先端(図10A右端)にマグネット21を有している。
【0054】
この横板材22Xは、縦板材22Yの溝22Yaに溝挿入突起22Xaを挿入した状態で、マグネット21を介してUリブ120の底辺123に固定されており、この際、縦板材22Yの溝22Yaに対する溝挿入突起22Xaの上下の位置調整を行うことで、デッキプレート110の下向き面112(一方の被溶接材における他方の被溶接材が接合される面)を基準にした位置決めが成されるようになっている。
【0055】
この横板材22X上には、縦板材22Yと平行を成すようにして長尺部材22Ybが配置されていて、横板材22Xにおける縦板材22Yと長尺部材22Ybとの間を走行路として形成しており、ヘッド駆動機構10Bの台車22Bは、図10Bに示すように、位置決めが成された横板材22X上の走行路を同じく位置決めが成された縦板材22Y及び長尺部材22Ybに案内されて走行するようになっている。
【0056】
つまり、溶接ビードBに沿って台車22Bとともに移動するレーザヘッド4から照射されるレーザ光Lの照射ポイントがデッキプレート110及びUリブ120の接合部分(図5のルート部Rにおける未溶着部分Sに含まれるデッキプレート110の下向き面112とUリブ120の側縁121のレ型開先122との接触点P)を狙うようにしている。
【0057】
この実施形態に係る補修用レーザ溶接装置1Bを用いて鋼床版103のデッキプレート110及びUリブ120の接合部分に生じたデッキ進展き裂Cdを除去するに際しても、まず、デッキプレート110及びUリブ120の接合部分に対して、超音波探傷試験等の非破壊検査を実施して、図5に示すように、ルート部Rにおける未溶着部分Sに含まれるデッキプレート110の下向き面112とUリブ120の側縁121のレ型開先122との接触点Pの位置を特定する。
【0058】
次いで、レール20Bの縦板材22YをUリブ120の側縁121との間にガイド23Bを介在させた状態で、マグネット21を介してデッキプレート110の下向き面112(一方の被溶接材における他方の被溶接材が接合される面)に固定する。つまり、Uリブ120に対する位置決めが成された状態でレール20Bの縦板材22Yをデッキプレート110の下向き面112に固定する。
【0059】
これに続いて、横板材22Xの溝挿入突起22Xaを縦板材22Yの溝22Yaに挿入した状態で、マグネット21を介してUリブ120の底辺123に横板材22Xを固定し、この際、縦板材22Yの溝22Yaに対する溝挿入突起22Xaの上下の位置調整を行って、デッキプレート110の下向き面112(一方の被溶接材における他方の被溶接材が接合される面)を基準にした位置決めを行う。
【0060】
これにより、縦板材22Y及び長尺部材22Ybに案内されて(溶接ビードBに沿って)走行する台車22Bの走行路が横板材22X上に設定され、台車22B上のレーザヘッド4から照射されるレーザ光Lの照射ポイントがデッキプレート110及びUリブ120の接合部分のルート部Rにおける未溶着部分Sに含まれる接触点Pに設定される。
【0061】
次に、レール20Bの縦板材22YとUリブ120の側縁121との間からガイド23Bを除去した後、ヘッド駆動機構10Bの台車22Bが走行を開始し、上記接触点Pに対して適宜スポット径のレーザ光Lを照射しつつレーザヘッド4が移動を開始する。
この実施形態においても、このレーザヘッド4の移動により、レーザ光Lは、溶接ビードBに沿って1回パス(移動)するようになっている。
【0062】
一方、上記構成の補修用レーザ溶接装置1Bを用いて鋼床版103のデッキプレート110及びUリブ120の接合部分に生じたビード進展き裂Cbを除去する場合には、レーザ光Lを溶接ビードBに向けて照射しながらレーザヘッド4を移動させる。
【0063】
この実施形態に係る補修用レーザ溶接方法においても、ルート部Rにおける未溶着部分Sに含まれる鋼床版103のデッキプレート110の下向き面112とUリブ120の側縁121のレ型開先122との接触点Pをレーザ光Lの照射ポイントとして狙うようにしているので、ルート部Rにおける未溶着部分Sを溶融させ得ることとなる。そして、この未溶着部分Sの溶融に伴って、未溶着部分Sを起点として生じていたデッキ進展き裂Cdも溶融除去されることとなる。
【0064】
また、この実施形態に係る補修用レーザ溶接装置1Bでは、レール20Bを互いに分離可能に結合する縦板材22Y及び横板材22Xから構成しているので、レール20Bを設置する際には、デッキプレート110の下向き面112及びUリブ120に対して縦板材22Y及び横板材22Xを一つひとつ位置決めしながら設置することとなる。
【0065】
つまり、一つひとつの作業がそれ程重量を感じずに行い得るものとなり、その結果、レール20Bの位置決め及び設置が容易になる分だけ作業性が向上することとなる。
【0066】
さらに、この実施形態に係る補修用レーザ溶接装置1Bでは、台車22Bの走行路をレール20Bの横板材22X上に設定しているので、レーザヘッド4から照射されるレーザ光Lの照準合わせ作業が簡単に成されることとなる。
【0067】
ここで、この実施形態に係る補修用レーザ溶接方法では、デッキプレート110及びUリブ120の接合部分に生じたビード進展き裂にレーザ光Lを照射して除去する場合において、図12Aに示す直方体形状のタブ板Tを、図12B,12Cに示すように、溶接ビードBにおける補修溶接箇所の始端及び終端の2箇所に配置してレーザ溶接を行い、補修用のレーザ溶接終了後にタブ板T,Tを除去するようにしている。
【0068】
このように、溶接ビードBにおける補修溶接箇所の始端及び終端にタブ板T,Tを配置してレーザ溶接を行うことで、欠陥発生率が高い溶接ビードBにおける補修溶接箇所の始端及び終端の健全性を確保し得ることとなる。
【0069】
この実施形態において、溶接ビードBにおける補修溶接箇所の始端及び終端に配置するタブ板として、直方体形状のタブ板T以外に、図13Aに示す楔形状のタブ板T1や、図13Bに示す側面視が台形形状のタブ板T2を用いることができる。
【0070】
例えば、側面視が台形形状のタブ板T2を用いてき補修用レーザ溶接を行う場合には、図14に示すように、鋼材Wの表面上において、き裂Waを挟むようにして2枚のタブ板T2,T2を配置する。そして、これらのタブ板T2,T2の斜め切りされた各一方の側面を鋼材Wの表面Wpに面接触させて、他方の側面同士が互いに離れる方向に傾くようにして、例えば、スポット溶接により接合する。
【0071】
次いで、鋼材Wの表面Wpに傾きを持って面接触状態で保持した一方側(図示左側)のタブ板T2の側面(いわゆるこば面)から入熱するべくレーザ光Lの照射を開始する。
【0072】
この場合、レーザ光Lは鋼材Wの表面Wpに対してほぼ垂直で且つ距離が一定となるように設定されるので、タブ板T2,T2の各こば面近傍ではエネルギー密度が低く溶融しない。
【0073】
そこで、側面視が台形形状のタブ板T2に替えて、図15Aに示すように、溶接方向に沿う溝T3aを有するタブ板T3を採用したり、図15Bに示すように、こば面に切欠きT4aを有するタブ板T4を採用したり、図15Cに示すように、こば面に段差T5aを有するタブ板T5を採用したりして、鋼材Wの厚み方向に温度差が生じないようすることが望ましい。
【0074】
この補修用レーザ溶接において、上記した溝T3aや切欠きT4aや段差T5aを有するタブ板T3~T5を用いる場合には、レーザ光照射開始及びレーザ光照射終了の各時点において母材が溶融するのを避けるために、図16Aに示すように、鋼材やセラミック等から成る当て板Uをタブ板T3(T4,T5)のこば面に宛がったり、図16Bに示すように、当て板Uをタブ板T3(T4,T5)に形成した切欠きTaに嵌め込んだりすることが望ましく、側面視が台形形状のタブ板T2を用いる場合には、図16Cに示すように、タブ板T2の下に当て板Uをあてがったりすることが望ましい。
【0075】
図17A,17Bは、この実施形態に係る補修用レーザ溶接方法によって、デッキプレート110及びUリブの接合部分に補修用レーザ溶接を行うに際して、Uリブを跨いで配置される横リブ130のスカラップ部131に位置する部分にレーザ光Lを照射する場合を示している。
【0076】
このように、横リブ130のスカラップ部131に位置する部分にレーザ光Lを照射する場合において、まず、図17Aに示すように、図示左側から図示右側に向けて移動するレーザヘッド(図17Aでは図示省略)を横リブ130の手前で一端停止させ、この状態で、横リブ130のスカラップ部131に位置する部分にミラー4aを介してレーザ光Lを照射する。
【0077】
この後、図17Bに示すように、レーザヘッドを横リブ130の図示右側に位置させて、横リブ130の図示右側からスカラップ部131に位置する部分にミラー4aを介してレーザ光Lを照射する、すなわち、スカラップ部131に位置する部分をラップするように溶接する。
【0078】
この際、スカラップ部131に位置する部分に未溶接箇所が生じるのを防ぐために、横リブ130の肉厚をt、スカラップ部131のデッキプレート110からの距離をRとした場合、レーザ光Lの横リブ130に対する照射角度θが、t/Rで表されるtanαの正接角度αの少なくとも1/2以上の角度とすることが望ましい。
【0079】
上記した各実施形態では、いずれも本開示に係る補修用レーザ溶接方法を橋梁の鋼床版を構成するデッキプレートと、このデッキプレートの面上に隅肉溶接により接合されたUリブとの接合部分に生じたき裂を補修するのに用いた場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。
【0080】
また、上記した各実施形態では、いずれもレーザ光Lの照射のみでき裂を除去するようにしているが、これに限定されるものではなく、他の構成として、例えば、溶材を供給しつつレーザ光Lの照射を行ってもよく、このように溶材を供給しつつレーザ光Lの照射を行う場合には、き裂を確実に除去することができる。
【0081】
さらに、上記した各実施形態では、いずれもレーザ光Lの照射のみでき裂を除去するようにしているが、他の溶接、例えば、アーク溶接を併用するようにしてもよい。
【0082】
本開示に係る補修用レーザ溶接方法及び補修用レーザ溶接装置の構成は、上記した各実施形態に限られるものではなく、開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
【0083】
本開示の第1の態様は、一方の被溶接材と、該一方の被溶接材の面上に対して隅肉溶接により斜めに接合された他方の被溶接材との間のルート部における未溶着部分を起点として生じたき裂をレーザ光の照射により溶融させて消去する補修用レーザ溶接方法であって、前記ルート部における未溶着部分に含まれる前記一方の被溶接材と前記他方の被溶接材との接触点を前記レーザ光の照射ポイントとして前記ルート部の溶接ビード側から狙いつつ、該溶接ビードに沿って前記レーザ光を照射する構成としている。
なお、ルート部における未溶着部分に含まれる一方の被溶接材と他方の被溶接材との接触点は、非破壊検査によって位置を特定する。
【0084】
また、本開示の第2の態様は、前記レーザ光の照射ポイントを前記接触点から前記溶接ビード側にシフトさせて前記レーザ光を前記溶接ビードに沿って複数回パスさせる構成としている。
この際、レーザ光の照射ポイントの1回のシフト量は、レーザ光のスポット径に基づいて決定する。
【0085】
さらに、本開示の第3の態様は、前記溶接ビードを横切る方向に前記レーザ光をウィービングさせつつ該溶接ビードに沿って前記レーザ光を照射する構成としている。
【0086】
さらにまた、本開示の第4の態様は、前記ルート部における未溶着部分に含まれる前記一方の被溶接材と前記他方の被溶接材との接触点を前記レーザ光の照射ポイントとして狙うに際して、前記レーザ光のスポットの少なくとも外縁が前記接触点に触れるべく照射ポイントを設定する構成としている。
【0087】
さらにまた、本開示の第5の態様は、溶材を供給しつつ前記レーザ光を照射する構成としている。
【0088】
一方、本開示の第6の態様は、一方の被溶接材と、該一方の被溶接材の面上に対して隅肉溶接により斜めに接合された他方の被溶接材との間のルート部における未溶着部分を起点として生じたき裂をレーザ光の照射により溶融させて消去する補修用レーザ溶接装置であって、レーザ発振器と、前記レーザ発振器から供給されるレーザ光を照射するレーザヘッドと、前記レーザヘッドを前記ルート部の溶接ビードに沿って移動させるヘッド駆動機構と、前記ヘッド駆動機構により前記溶接ビードに沿って移動する前記レーザヘッドから照射される前記レーザ光の照射ポイントを前記ルート部における未溶着部分に含まれる前記一方の被溶接材と前記他方の被溶接材との接触点に倣わせる倣い機構を備えている構成としている。
【0089】
また、本開示の第7の態様は、 一方の被溶接材と、該一方の被溶接材の面上に対して隅肉溶接により斜めに接合された他方の被溶接材との間のルート部における未溶着部分を起点として生じたき裂をレーザ光の照射により溶融させて消去する補修用レーザ溶接装置であって、レーザ発振器と、前記レーザ発振器から供給されるレーザ光を照射するレーザヘッドと、前記レーザヘッドを前記ルート部の溶接ビードに沿って移動させるヘッド駆動機構を備え、前記ヘッド駆動機構は、レール及び前記レーザヘッドを搭載して前記レール上を走行する台車を具備し、前記レールは、前記溶接ビードに沿って前記台車とともに移動する前記レーザヘッドから照射される前記レーザ光の照射ポイントを前記ルート部における未溶着部分に含まれる前記一方の被溶接材と前記他方の被溶接材との接触点とするべく、前記一方の被溶接材における前記他方の被溶接材が接合される面及び該他方の被溶接材の双方を基準にして固定されている構成としている。
【0090】
さらに、本開示の第8の態様は、前記ヘッド駆動機構の前記レールは、互いに分離可能に結合する縦板材及び横板材を具備した山形鋼形状を成し、前記レールの前記縦板材は、前記他方の被溶接材を基準にして位置決め固定され、前記レールの前記横板材は、前記他方の被溶接材を基準にして固定された前記縦板材に対して前記一方の被溶接材における前記他方の被溶接材が接合される面を基準にして位置決め固定され、前記レールの前記横板材は、該横板材上に載置した前記ヘッド駆動機構の前記台車が前記縦板材に案内されて走行する走行路として形成されている構成としている。
【0091】
さらにまた、本開示の第9の態様は、前記溶接ビードを横切る方向に前記レーザ光をウィービングさせるウィービング機構を備えている構成としている。
【0092】
さらにまた、本開示の第10の態様において、前記レーザ光の照射ポイントは、該レーザ光のスポットの少なくとも外縁が前記ルート部における未溶着部分に含まれる前記一方の被溶接材と前記他方の被溶接材との接触点に触れるべく設定されている構成としている。
【0093】
本開示の補修用レーザ溶接方法及び補修用レーザ溶接装置において、レーザには、YAGレーザや半導体レーザを用いるのが一般的であるが、これらのものに限定されない。
【符号の説明】
【0094】
1,1A,1B 補修用レーザ溶接装置
2 レーザ発振器
4 レーザヘッド
6 ウィービング機構
7 アーム(シフト機構)
8 倣い機構
10,10A,10B ヘッド駆動機構
11A,20B レール
12A,22B 台車
22X 横板材(レール)
22Y 縦板材(レール)
103 鋼床版
110 デッキプレート(一方の被溶接材)
112 下向き面(一方の被溶接材における他方の被溶接材が接合される面)
120 Uリブ(他方の被溶接材)
121 Uリブの側縁
122 レ型開先
B 溶接ビード
Cb ビード進展き裂
Cd デッキ進展き裂
P 接触点
R ルート部
S 未溶着部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12A
図12B
図12C
図13A
図13B
図14
図15A
図15B
図15C
図16A
図16B
図16C
図17A
図17B