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特許7202477内燃機関用ピストンの製造方法および製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-27
(45)【発行日】2023-01-11
(54)【発明の名称】内燃機関用ピストンの製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 17/32 20060101AFI20221228BHJP
   B22D 17/00 20060101ALI20221228BHJP
   B22D 17/22 20060101ALI20221228BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20221228BHJP
   F02F 3/00 20060101ALI20221228BHJP
【FI】
B22D17/32 B
B22D17/00 C
B22D17/22 S
C22C21/02
F02F3/00 G
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2021550785
(86)(22)【出願日】2019-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2019038643
(87)【国際公開番号】W WO2021064834
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000243434
【氏名又は名称】本田金属技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169111
【弁理士】
【氏名又は名称】神澤 淳子
(74)【代理人】
【識別番号】100098176
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 訓
(72)【発明者】
【氏名】福田 征秀
(72)【発明者】
【氏名】横谷 仁
(72)【発明者】
【氏名】中村 重郷
(72)【発明者】
【氏名】中川 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】千原 裕基
(72)【発明者】
【氏名】岡田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】関口 洋平
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 佑樹
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-052015(JP,A)
【文献】特開2001-287012(JP,A)
【文献】特開2004-223610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 17/32
B22D 17/00
B22D 17/22
C22C 21/02
F02F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム材料を用いて、鋳型(2)のキャビティ(200)内に溶湯を射出するダイカスト法により内燃機関用ピストン(100)を製造する内燃機関用ピストンの製造方法において、
前記キャビティ(200)へ溶湯を供給する溶湯供給通路(6)から前記キャビティ(200)への流出口であるゲート(7)の、ゲート面積A(cm2)、ゲート高さh(cm)およびゲート幅w(cm)により、G=A/(h+w)で表されるゲートパラメータGと、
前記ゲート(7)における前記溶湯のゲート速度V(cm/s)と、
前記溶湯の溶湯密度ρ(kg/cm3)と、により、
J=ρ×G×V1.71 で求められるJ値と、
前記キャビティへ(200)の鋳造圧力と、を
前記キャビティ(200)において、複数の前記J値と複数の前記鋳造圧力を選択して組み合わせ、
前記J値と前記鋳造圧力の組み合わせごとによる条件下で鋳造した前記内燃機関用ピストンについて、欠陥体積率を測定し、
前記内燃機関用ピストンの厚肉部位の前記欠陥体積率が0%より大きく4.5%以下の範囲における前記J値と前記鋳造圧力の関係を求め、
前記関係に基づいて、前記J値と前記鋳造圧力を定め、
定められた前記J値と前記鋳造圧力により、前記アルミニウム材料をダイカストして製造することを特徴とする内燃機関用ピストンの製造方法。
【請求項2】
前記アルミニウム材料は、12.5~14.0重量%のSiと、3.0~4.5重量%のCuと、1.4~2.0重量%のMgと、(0.8~1.2)×MgのZnと、残部のAlおよび不可避不純物とからなる組成であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用ピストンの製造方法。
【請求項3】
前記欠陥体積率を、0%より大きく1%以下とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の内燃機関用ピストンの製造方法。
【請求項4】
前記ゲート(7)は、前記キャビティ(200)において1箇所のみ設けられたことを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれかに記載の内燃機関用ピストンの製造方法。
【請求項5】
前記溶湯供給通路(6)は前記キャビティ(200)に向かって直状であり、
前記溶湯供給通路(6)の前記ゲート(7)側の終端部(6a)は、括れた形状の括れ部(6b)とされていることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれかに記載の内燃機関用ピストンの製造方法。
【請求項6】
前記括れ部(6b)は、溶湯の流れ方向に対して左右が括れている左右括れ部(6b1)を備えていることを特徴とする請求項に記載の内燃機関用ピストンの製造方法。
【請求項7】
前記括れ部(6b)は、溶湯の流れ方向に対して上下に括れている上下括れ部(6b2)を備え、
前記上下括れ部(6b2)の傾斜角は、前記左右括れ部(6b1)の傾斜角に対して傾斜角が小さいことを特徴とする請求項に記載の内燃機関用ピストンの製造方法。
【請求項8】
前記ゲート(7)の長手方向の前記キャビティ(200)における位置は、前記キャビティのトップランド部(201)に沿って、前記トップランド部(201)を横断する方向に向けられ、
前記ゲート(7)の前記トップランド部(201)の周方向における位置は、前記ゲート(7)の中心(C1)と前記トップランド部(201)の中心(C2)を結んだ直線(L1)が前記キャビティ(200)の一対のピンボス部(203)の中心を結んだ直線(L2)方向に対して交差する方向に向けられ、前記直線(L1)は、前記ゲート(7)に隣接する前記キャビティ(200)のバルブリセス部(207)と交わらない方向に向けられたことを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれかに記載の内燃機関用ピストンの製造方法。
【請求項9】
前記キャビティ(200)内を減圧して前記キャビティ(200)内に前記溶湯を充填する工程、および前記キャビティ(200)内に前記溶湯を充填加圧した後に前記キャビティ(200)内を二次加圧する工程を含まないことを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれかに記載の内燃機関用ピストンの製造方法。
【請求項10】
前記内燃機関用ピストンは、鞍乗り型車両の内燃機関に用いられるものであって、
前記J値が1500以上4000以下の範囲とすることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれかに記載の内燃機関用ピストンの製造方法。
【請求項11】
前記J値を2000以上3500以下の範囲とすることを特徴とする請求項10に記載の内燃機関用ピストンの製造方法。
【請求項12】
前記内燃機関用ピストンは、鞍乗り型車両の内燃機関に用いられるものであって、
前記キャビティ(200)内に溶湯を充填後加圧する鋳造圧力を、45MPa以上80MPa以下とすることを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれかに記載の内燃機関用ピストンの製造方法。
【請求項13】
前記キャビティ(200)内に溶湯を充填後加圧する鋳造圧力を、50MPa以上70MPa以下とすることを特徴とする請求項12に記載の内燃機関用ピストンの製造方法。
【請求項14】
アルミニウム材料を用いて、鋳型(2)のキャビティ(200)内に溶湯を射出するダイカスト法により内燃機関用ピストン(100)を製造する内燃機関用ピストンの製造装置において、
前記キャビティ(200)へ溶湯を供給する溶湯供給通路(6)から前記キャビティ(200)への流出口であるゲート(7)の、ゲート面積A(cm2)、ゲート高さh(cm)およびゲート幅w(cm)により、G=A/(h+w)で表されるゲートパラメータGと、
前記ゲート(7)における前記溶湯のゲート速度V(cm/s)と、
前記溶湯の溶湯密度ρ(kg/cm3)と、により、
J=ρ×G×V1.71 で求められるJ値と、
前記キャビティ(200)の鋳造圧力と、を
前記キャビティ(200)において、複数の前記J値と複数の前記鋳造圧力を選択して組み合わせ、
前記J値と前記鋳造圧力の組み合わせごとによる条件下で鋳造した前記内燃機関用ピストンについて、欠陥体積率を測定し、
前記内燃機関用ピストンの厚肉部位の前記欠陥体積率が0%より大きく4.5%以下の範囲における前記J値と前記鋳造圧力の関係を求め、
前記関係に基づいて、前記J値と前記鋳造圧力を定め、
定められた前記J値と前記鋳造圧力により、
前記アルミニウム材料をダイカストして製造することを特徴とする内燃機関用ピストンの製造装置。
【請求項15】
前記アルミニウム材料は、12.5~14.0重量%のSiと、3.0~4.5重量%のCuと、1.4~2.0重量%のMgと、(0.8~1.2)×MgのZnと、残部のAlおよび不可避不純物とからなる組成であることを特徴とする請求項14に記載の内燃機関用ピストンの製造装置。
【請求項16】
前記欠陥体積率を、0%より大きく1%以下とすることを特徴とする請求項14または請求項15に記載の内燃機関用ピストンの製造装置。
【請求項17】
前記ゲート(7)は、前記キャビティ(200)において1箇所のみ設けられたことを特徴とする請求項14ないし請求項16のいずれかに記載の内燃機関用ピストンの製造装置。
【請求項18】
前記溶湯供給通路(6)は前記キャビティ(200)に向かって直状であり、
前記溶湯供給通路(6)の前記ゲート(7)側の終端部(6a)は、括れた形状の括れ部(6b)とされていることを特徴とする請求項14ないし請求項17のいずれかに記載の内燃機関用ピストンの製造装置。
【請求項19】
前記括れ部(6b)は、溶湯の流れ方向に対して左右が括れている左右括れ部(6b1)を備えていることを特徴とする請求項18に記載の内燃機関用ピストンの製造装置。
【請求項20】
前記括れ部(6b)は、溶湯の流れ方向に対して上下に括れている上下括れ部(6b2)を備え、
前記上下括れ部(6b2)の傾斜角は、前記左右括れ部(6b1)の傾斜角に対して傾斜角が小さいことを特徴とする請求項19に記載の内燃機関用ピストンの製造装置。
【請求項21】
前記ゲート(7)の長手方向の前記キャビティ(200)における位置は、前記キャビティのトップランド部(201)に沿って、前記トップランド部(201)を横断する方向に向けられ、
前記ゲート(7)の前記トップランド部(201)の周方向における位置は、前記ゲート(7)の中心(C1)と前記トップランド部(201)の中心(C2)を結んだ直線(L1)が前記キャビティ(200)の一対のピンボス部(203)の中心を結んだ直線(L2)方向に対して交差する方向に向けられ、前記直線(L1)は、前記ゲート(7)に隣接する前記キャビティ(200)のバルブリセス部(207)と交わらない方向に向けられたことを特徴とする請求項14ないし請求項20のいずれかに記載の内燃機関用ピストンの製造装置。
【請求項22】
前記キャビティ(200)内を減圧して前記キャビティ(200)内に前記溶湯を充填する工程、および前記キャビティ(200)内に前記溶湯を充填加圧した後に前記キャビティ(200)内を二次加圧する工程を含まないことを特徴とする請求項14ないし請求項21のいずれかに記載の内燃機関用ピストンの製造装置。
【請求項23】
前記内燃機関用ピストンは、鞍乗り型車両の内燃機関に用いられるものであって、
前記J値が1500以上4000以下の範囲とすることを特徴とする請求項14ないし請求項22のいずれかに記載の内燃機関用ピストンの製造装置。
【請求項24】
前記J値を2000以上3500以下の範囲とすることを特徴とする請求項23に記載の内燃機関用ピストンの製造装置。
【請求項25】
前記内燃機関用ピストンは、鞍乗り型車両の内燃機関に用いられるものであって、
前記キャビティ(200)内に溶湯を充填後加圧する鋳造圧力を、45MPa以上80MPa以下とすることを特徴とする請求項14ないし請求項24のいずれかに記載の内燃機関用ピストンの製造装置。
【請求項26】
前記キャビティ(200)内に溶湯を充填後加圧する鋳造圧力を、50MPa以上70MPa以下とすることを特徴とする請求項25に記載の内燃機関用ピストンの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用ピストンの製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関用ピストンのダイカスト材料として、例えば引用文献1に記載されたアルミニウム材料がある。このようなアルミニウム材料を用いてダイカスト法により製造されたピストンでは、厚肉となるピストンボス内部の部位において、アルミニウム材料が凝固する速度が、肉厚の薄いピストントップ部位などと比較して遅いので、ピストンボス内部に微細な空孔(鋳巣)やひけが発生し、ピストントップ部位やピストン表面のチル層に比較して、ピストンボス内部の強度が低下し、部位によって強度が異なっていた。そこで、内燃機関用のピストンのうちより強度が求められるものは、このような鋳巣やひけを防止して、ピストン全体の強度をより均一なものとし、強度を高めて品質を向上させる為に、キャビティ内へ溶湯を充填加圧した後に二次加圧を行う方法(例えば、特許文献2)や、真空装置を使用してキャビティ内を減圧、真空状態にしてダイカストを行う方法が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-294380号公報
【文献】特許第4648559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このように射出後の溶湯の二次加圧や、真空装置を利用したキャビティ内の減圧による方法を採用すると、作業工程の増加や、それに伴う管理項目が増加する課題がある。また鋳巣のさらなる低減によりピストン強度を高める課題がある。
【0005】
そこで本発明は、ダイカストによる内燃機関用ピストンの製造方法および内燃機関用ピストンの製造装置において、キャビティ内へ射出後の溶湯の二次加圧や、真空装置を利用したキャビティ内の減圧等の作業を行わなくとも、内燃機関用のピストン内の鋳巣を低減させ、強度の高いピストンを得るとともに、作業工程を減少させそれに伴う管理項目を低減させ、生産性を向上させつつ、二次加圧装置や真空装置を不要として製造コストの低減化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題に鑑み、本発明は、アルミニウム材料を用いて、鋳型のキャビティ内に溶湯を射出するダイカスト法により内燃機関用ピストンを製造する内燃機関用ピストンの製造方法において、
前記キャビティへ溶湯を供給する溶湯供給通路から前記キャビティへの流出口であるゲート(7)の、ゲート面積A(cm2)、ゲート高さh(cm)およびゲート幅w(cm)により、G=A/(h+w)で表されるゲートパラメータGと、
前記ゲート(7)における前記溶湯のゲート速度V(cm/s)と、
前記溶湯の溶湯密度ρ(kg/cm3)と、により、
J=ρ×G×V1.71 で求められるJ値と、
前記キャビティへの鋳造圧力と、を制御することにより、
前記内燃機関用ピストンの厚肉部位における欠陥体積率を所定の値とし、
前記アルミニウム材料をダイカストして製造することを特徴とする内燃機関用ピストンの製造方法である。
【0007】
前記構成によれば、J値および鋳造圧力を制御することにより、内燃機関用ピストンの厚肉部位における欠陥体積率を所定の値としているので、溶湯をキャビティ内へ充填加圧した後の二次加圧や、キャビティ内の減圧等の作業を行うことなく、鋳巣を低減させて強度の高い内燃機関用ピストンを得ることができ、作業工程を減少させて、それに伴う管理項目を低減させ、二次加圧装置や真空装置を不要として製造コストを削減することができる。
【0008】
前記構成において、前記キャビティにおいて、複数の前記J値と複数の前記鋳造圧力を選択して組み合わせ、
前記J値と前記鋳造圧力の組み合わせごとに前記欠陥体積率を測定し、
所定の前記欠陥体積率における前記J値と前記鋳造圧力の関係式を求め、
前記関係式に基づいて、前記J値と前記鋳造圧力を定め、
定められた前記J値と前記鋳造圧力により、前記アルミニウム材料をダイカストすることもできる。
【0009】
前記構成によれば、キャビティごとに確実に所望する欠陥体積率以下として、所望する強度を満たす内燃機関用ピストンを得ることができる。
【0010】
前記構成において、前記アルミニウム材料として、12.5~14.0%のSiと、3.0~4.5%のCuと、1.4~2.0%のMgと、(0.8~1.2)×MgのZnと、残部のAlおよび不可避不純物とからなる組成のアルミニウム材料を用いてもよい。
【0011】
過共晶Al-Si合金は、Si:11~18重量%を含有しさらに残部Alおよび不可避不純物からなる組成であるが、さらに合金元素を添加して、Cu:1.0~6.0重量%、Mg:0.5~2.0重量%、Fe:0.1~2.0重量%の少なくとも1種をさらに含有し、残部をAlおよび不可避不純物からなる組成とすると好適である。以下上記合金元素の作用を説明する。
【0012】
Si:11~18重量%
Siは耐摩耗性を向上させるために必要な元素であり、特に、粒状の初晶Siが耐摩耗性に有効であることが広く知られている。Siは11重量%付近でAl-Si共晶点が存在するから、過共晶とするために11重量%以上含有する必要がある。ただし、Siの含有量が18重量%を超えると合金の融点が過度に高くなり、溶湯中のガス量が増加したり金型の寿命が低下するという不都合が生じる。よって、Siの含有量は11~18重量%とした。
【0013】
Cu:1.0~6.0重量%
CuはAl母相中にAlCuを析出させ、150~250℃付近の疲労強度の向上に寄与する。Cuの含有量が1.0重量%未満であるとその効果が充分でなく、6.0重量%を超えるとAl中のCuの固溶限を超えてダイカストによる鋳造でもAlCuが粗大化し易くなり、粗大化したAlCuが鋳肌面で疲労破壊の起点となって疲労強度が低下する。よって、Cuの含有量は1.0~6.0重量%が望ましい。
【0014】
Mg:0.5~2.0重量%
MgはSiと共存することによりMgSiを析出させて強度を向上する。Mgの含有量が0.5重量%未満であると強度向上が不十分となり、2.0重量%を超えて含有するとダイカスト鋳造時の割れが発生しやすくなる。よって、Mgの含有量は0.5~2.0重量%が望ましい。
【0015】
Fe:0.1~2.0重量%
Feは種々の金属間化合物を生成し、Niと同様に200~350℃での疲労強度を向上させる。Feの含有量が0.1重量%未満であると強度向上が不十分となり、2.0重量%を超えて含有するとAl中のFe共晶点を超えてダイカストによる鋳造でもAl-Fe系晶出物が粗大化しやすくなり、粗大化したAl-Fe系晶出物が鋳肌面で疲労破壊の起点となって疲労強度が低下する。よって、Feの含有量は0.1~2.0重量%が望ましい。
【0016】
このようなアルミニウム材料を用いても、溶湯をキャビティ内へ充填加圧した後の二次加圧あるいはキャビティ内への溶湯の射出時にキャビティ内の減圧等の作業を行うことなく、鋳巣を低減させて強度の高い内燃機関用ピストンを得ることができる。
【0017】
前記構成において、前記欠陥体積率を、0%より大きく4.5%以下としてもよい。
【0018】
前記構成によれば、欠陥体積率は疲労強度と相関関係があるので、欠陥体積率を0%より大きく、4.5%以下とすることにより、内燃機関用ピストンの疲労強度を向上させるとともに、疲労強度を適切な値にすることができる。
【0019】
前記構成において、前記ピストンの欠陥体積率を0%以上1%以下としてもよい。
【0020】
前記構成によれば、欠陥体積率を0%以上1%以下とすることで、さらに強度の高い内燃機関用ピストンを得ることができる。
【0021】
前記構成において、キャビティのゲートを1箇所のみ設けるようにしてもよい。
【0022】
前記構成によれば、同じ能力を持った鋳造装置を使用しても、ゲートにおける溶湯のゲート速度を高めることができるので、J値を高めることが可能となる。
【0023】
前記構成において、前記溶湯供給通路を直状とし、前記溶湯供給通路の前記ゲート側の終端部を、括れた形状の括れ部にしてもよい。
【0024】
前記構成によれば、溶湯の流路断面積がキャビティに射出するゲートの直前において、括れ部により絞られるので、キャビティに射出する溶湯のゲート速度を高めることができる。
【0025】
前記構成において、前記括れ部は、溶湯の流れ方向に対して左右が括れている左右括れ部を備えるようにしてもよい。
【0026】
前記構成によれば、括れ部が左右に括れていることで、溶湯がゲート7の左右方向に広がって噴流し、トップランド部201に万遍なく溶湯が充填され、トップランド部およびピンボス部で構成される厚肉部位に充分に溶湯を充填することができる。
【0027】
前記構成において、前記括れ部は、溶湯の流れ方向に対して上下に括れている上下括れ部を備え、前記上下括れ部の傾斜角は、前記左右括れ部の傾斜角に対して緩やかに傾斜させてもよい。
【0028】
上下括れ部の傾斜角を、左右括れ部の傾斜角に対して緩やかに傾斜させることにより、トップランド部とピンボス部で構成される厚肉部位に充分に溶湯を充填することができるとともに、トップランド部のゲートと対向する箇所にも溶湯を充分に充填することができる。
【0029】
前記構成において、前記ゲートの長手方向の前記キャビティにおける位置を、前記キャビティのトップランド部に沿って、前記トップランド部を横断する方向に向け、前記ゲートの前記トップランド部の周方向における位置を、前記ゲートの中心と前記トップランド部の中心を結んだ直線が前記キャビティの一対のピンボス部の中心を結んだ直線方向に対して交差する方向に向けられ、前記直線は、前記ゲートに隣接する前記キャビティのバルブリセス部と交わらない方向に向けるようにしてもよい。
【0030】
前記構成によれば、溶湯の噴霧がキャビティのトップランド部のゲート対向面まで届き易く、鋳巣を低減し強度の高い内燃機関用ピストンを製造することができる。
【0031】
前記構成において、前記キャビティ内を減圧して前記キャビティ内に前記溶湯を充填する工程、および前記キャビティ内に前記溶湯を充填加圧した後に前記キャビティ内を二次加圧する工程を含まないようにすることもできる。
【0032】
前記構成によれば、溶湯を充填加圧した後にキャビティ内を二次加圧する作業およびキャビティ内への溶湯の射出時にキャビティ内の減圧等の作業を行うことを不要として、作業工程を減少させて、それに伴う管理項目を低減させ、生産性をより向上させコストの低減を図るとともに、鋳巣を低減させてより強度の高いピストンを得ることが可能となる。
【0033】
前記構成において、前記内燃機関用ピストンは、鞍乗り型車両の内燃機関に用いられるものであって、前記J値を1500以上4000以下の範囲としてもよい。
【0034】
前記構成によれば、作業工程を減少させて、それに伴う管理項目を低減させ、生産性をさらに向上させるとともに、所定のJ値においてキャビティに溶湯を射出することで溶湯を微細に射出し、内燃機関用ピストンの厚肉部位における欠陥を微細化・分散化して抑制することができるので、鋳巣をより低減させて、鞍乗り型車両に適応する、さらに強度の高い内燃機関用ピストンを得ることができる。
【0035】
前記構成において、前記J値を2000以上3500以下の範囲としてもよい。
【0036】
前記構成によれば、作業工程を減少させて、それに伴う管理項目を低減させ、鋳巣をより低減させてさらに強度の高いピストンを得ることができる。
【0037】
前記構成において、前記内燃機関用ピストンは、鞍乗り型車両の内燃機関に用いられるものであって、前記キャビティ内に溶湯を充填後加圧する鋳造圧力を、45MPa以上80MPa以下としてもよい。
【0038】
前記構成によれば、適正な出力の鋳造装置を用いて内燃機関用ピストンを製造することができ、製造コストを低減することができる。
【0039】
前記構成において、前記キャビティ内に溶湯を充填後加圧する鋳造圧力を、50MPa以上70MPa以下としてもよい。
【0040】
前記構成によれば、より適正な出力の鋳造装置を用いて内燃機関用ピストンを製造することができ、製造コストをさらに低減することができる。
【0041】
本発明は、アルミニウム材料を用いて、鋳型のキャビティ内に溶湯を射出するダイカスト法により内燃機関用ピストンを製造する内燃機関用ピストンの製造装置において、
前記キャビティへ溶湯を供給する溶湯供給通路(6)から前記キャビティへの流出口であるゲートの、ゲート面積A(cm2)、ゲート高さh(cm)およびゲート幅w(cm)により、G=A/(h+w)で表されるゲートパラメータGと、
前記ゲート(7)における前記溶湯のゲート速度V(cm/s)と、
前記溶湯の溶湯密度ρ(kg/cm3)と、により、
J=ρ×G×V1.71 で求められるJ値と、
前記キャビティの鋳造圧力と、を制御することにより、
前記内燃機関用ピストンの厚肉部位における欠陥体積率を所定の値とし、
前記アルミニウム材料をダイカストして製造することを特徴とする内燃機関用ピストンの製造装置である。
【0042】
前記構成によれば、J値および鋳造圧力を制御することにより、内燃機関用ピストンの厚肉部位における欠陥体積率を所定の値としているので、溶湯をキャビティ内へ充填加圧した後に二次加圧する作業やキャビティ内の減圧等の作業を行うことなく、鋳巣を低減させて強度の高い内燃機関用ピストンを得ることができ、作業工程を減少させ、それに伴う管理項目を低減し、二次加圧装置や真空装置を不要として、コスト削減を図ることができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、溶湯をキャビティ内へ充填加圧した後に二次加圧する作業や、キャビティ内への溶湯の射出時にキャビティ内の減圧等の作業を行うことを不要として、作業工程を減少させて、それに伴う管理項目を低減させて、生産性を向上させ、真空装置や二次加圧装置を不要として製造コストの低減化を図るとともに、鋳巣を低減させて強度の高いピストンを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の一実施の形態の内燃機関のピストンの製造方法に用いられる内燃機関用ピストンの製造装置を示した模式図である。
図2】本発明の内燃機関ピストンの製造方法および製造装置により製造されるピストンを一部切り欠いて斜め上方から視た斜視図である。
図3図2のピストンを斜め下方から視た斜視図である。
図4】内燃機関用ピストンの製造装置のキャビティの内部の形状を斜め上方から視た斜視図である。
図5図4のキャビティを上下反転させて斜め下方から視た斜視図である。
図6】キャビティの上面図である。
図7】キャビティの下面図である。
図8】ゲートを溶湯の流れに対し直角な方向である正面から視た図である。
図9】DCピストンの各部位およびGDCピストンの温度と片振り疲労強度の関係を示したグラフである。
図10】ピストンの欠陥体積率と所定の温度における疲労強度との関係を示したグラフである。
図11】J値と、初晶シリコンサイズおよびデンドライトセルサイズとの関係を示したグラフである。
図12】J値とピストン内部の欠陥体積率との関係を示したグラフである。
図13】所定の欠陥体積率における鋳造圧力とJ値の関係を示したグラフである
図14】ピストン内部の安全率の分布を示した図である。
図15】欠陥体積率と、疲労強度および必要な安全率の関係を示したグラフである。
図16】鞍乗り型車両、例えば自動二輪車の代表的なピストンにおける鋳造関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明の一実施の形態に係る内燃機関用ピストンの製造方法および内燃機関用ピストンの製造装置について、図1ないし図16に基づいて説明する。
【0046】
図1は、本実施の形態に係る内燃機関用ピストン製造装置(以下、ピストン製造装置1という)の概略図である。図2および図3には、本ピストン製造装置1により製造される一例の内燃機関用ピストン(以下ピストン100という)が示されている。ピストン100は、鞍乗り型車両、例えば自動二輪車に用いられる代表的なピストンである。図4ないし図7には、ピストン100が鋳込まれるキャビティ200が示されている。ピストン100については、トップランド部101を上方向としスカート部102を下方向として説明する。
【0047】
ピストン製造装置1は、ピストン100を鋳込むための鋳型2と、ピストン100を製造するための鋳造素材が溶融された溶湯を供給する給湯機15と、給湯機15から供給された溶湯を鋳型2に射出する射出機10とを備えている。
【0048】
鋳型2は可動金型3および固定金型4からなり、可動金型3と固定金型4によりピストン100が鋳込まれるキャビティ200が構成される。可動金型3は図示されないプレススライド装置等の開閉装置により移動され、固定金型4に対して開閉されるようになっている。可動金型3は図示されない油圧シリンダ等のアクチュエータにより進退され、鋳造後のピストンを可動金型3から抜き出す押しピン18を備えている。
【0049】
鋳型2には、溶湯を射出する射出機10が取り付けられている。射出機10は、射出スリーブ11と該射出スリーブ11内に嵌装され射出スリーブ11内を進退するプランジャ12とを具備している。射出スリーブ11は固定金型4に嵌入して固定されて、射出機10は鋳型2に取り付けられる。
【0050】
鋳型2の可動金型3と固定金型4の合わせ面に、射出スリーブ11とキャビティ200とを連通する溶湯供給通路6、および溶湯の射出時にキャビティ200内のガスおよび余剰溶湯を排出するための排出通路8が設けられている。
【0051】
次に、ピストン製造装置1により製造されるピストン100について、図2および図3に基づいて説明する。ピストン100は略円盤状のトップランド部101を備え、該トップランド部101の周縁から下方に向かって一対のスカート部102が対向するように延伸されている。トップランド部101の下面101bから下方に向かって一対のピンボス部103が設けられている。該ピンボス部103のそれぞれには、ピストンピン(不図示)が装着されるピストンピン孔104が形成されている。図3に示されるように、一対のスカート部102の両側は、それぞれ板状のスカートリブ105で連結されている。スカートリブ105は、ピンボス部103と一体に形成されている。
【0052】
トップランド部101の周面101cには、周方向に複数のリング溝101dが形成されている。トップランド部101の上面101aには、吸気弁(不図示)を避けるように上面101aから窪んだ凹状の吸気弁側バルブリセス106と、排気弁(不図示)を避けるように上面101aから窪んだ凹状の排気弁側バルブリセス107が、上面視で略三日月状に形成されている。トップランド部101の上面101aの中心には、鋳型より外されたピストン100に加工が施されて加工基準孔101eが形成される。トップランド部101の下面101bの加工基準孔101eに対応する位置は、加工基準孔101eにより強度が低下しないように、肉盛部101fが設けられている。ピストン100の周面100aおよびリング溝101dは、鋳型より外されたピストン100に加工が施されて形成される。
【0053】
図3に示されるように、一対のスカート部102の下側の端面102a、および一対のピンボス部103の下側の端面103aのそれぞれには、ピストン100を鋳型2から抜き出すための押しピン18(図1参照)が当接される押しピン座面103bが設けられている。
【0054】
図4はキャビティ200および溶湯供給通路6の内部の形状をトップランド部201側から視た斜視図であり、排出通路8を仮想線で示している。図5はキャビティ200をピンボス部203側の斜め下方から視た斜視図であり、溶湯供給通路6および排出通路8を仮想線で示している。
【0055】
キャビティ200には、ピストン100のトップランド部101、スカート部102、ピンボス部103、スカートリブ105、吸気弁側バルブリセス106および排気弁側バルブリセス107のそれぞれの形状に対応したトップランド部201、スカート部202、ピンボス部203、スカートリブ部205、吸気弁側バルブリセス部206および排気弁側バルブリセス部207が形成されている。さらに、ピンボス部203には、抜きピン(不図示)によりピストンピン穴部204が形成される。本明細書では便宜的に、トップランド部201を上方としスカート部102側を下方として説明するが、ピストン製造装置1における鋳型2のキャビティ200の向きは適宜変更されるものである。
【0056】
図4および図5に示されるように、ピストン製造装置1のキャビティ200に溶湯を送る溶湯供給通路6は、キャビティ200のトップランド部201の周面201cにおいて、キャビティ200と連通している。溶湯供給通路6のキャビティ200側の終端部6aは、キャビティ200と連通するゲート7となっており、溶湯供給通路6を通った溶湯はゲート7を通過してキャビティ200内に送られるようになっている。
【0057】
ゲート7は、図8に示されるように、ゲート幅w(cm)、ゲート高さh(cm)、ゲート面積A(cm2)で表される矩形状に形成されている。本実施の形態では、ゲート幅wは、トップランド部201の周方向における長さであり、ゲート高さhはトップランド部201の高さ方向における長さである。本実施の形態では、ゲート7は、ゲート幅wがゲート高さhよりも長い略矩形状に形成されている。本実施の形態では、ゲートは矩形状に形成されているが、四隅を湾曲した略矩形状にしてもよい。
【0058】
ゲート7のゲート幅w(cm)、ゲート高さh(cm)、ゲート面積A(cm2)の値により、
G=A/(h+w)
と表されるものをゲートパラメータGと定義している。
【0059】
図4および図5で示されるように、ゲート7の長手方向(幅方向)のキャビティ200における位置は、トップランド部201に沿って、トップランド部201の上面部201aに略平行であって、トップランド部201を横断する方向に向けられるように配置されている。
【0060】
また、ゲート7のトップランド部201の周方向における位置は、図6および図7に示されるように、ゲート7の中心C1とトップランド部201の中心C2を結んだ直線L1が、キャビティの一対のピンボス部203のピストンピン穴部204の中心を結んだ直線L2方向に対して、交差する方向に向けられている。さらに、直線L1は、ゲート7にキャビティ200の周方向において隣接する排気弁側バルブリセス部207と、交わらない方向に向けられている。
【0061】
キャビティ200に対して、このように溶湯供給通路6およびゲート7を配置したことで、キャビティ200のトップランド部201におけるゲート7の対向面まで、ゲート7から射出された溶湯が届き易く、ピストン100内の鋳巣の発生が低減される。
【0062】
ゲート7の中心C1とトップランド部201の中心C2を結んだ直線L1は、キャビティ200の一対のピンボス部203のピストンピン穴部204の中心を結んだ直線L2方向に対して、交差する方向に向けられている。
【0063】
このようにゲート7が配設されたことで、両方のピンボス部203に均等に溶湯が流れ込みやすくなり、厚肉部位のピンボス部203の鋳巣を低減することができる。また、ゲート7に隣接する排気弁側バルブリセス部207と直線L1が交わらないことで、ゲート7から射出される溶湯の噴流が、キャビティ200内に突出した排気弁側バルブリセス部207により妨げられることがない。
【0064】
図1図4ないし図7に示されるように、射出機10からゲート7までの溶湯供給通路6は直状に形成されている。さらに溶湯供給通路6は、ゲート7側の終端部6aが括れた形状の括れ部6bに形成されている。括れ部6bは、溶湯供給通路6の溶湯の流れ方向に対して左右方向に括れている左右括れ部6bが形成されるとともに、溶湯の流れ方向に対して上下方向に括れている上下括れ部6bが形成されている。上下括れ部6bの傾斜角は、左右括れ部6bの傾斜角に対して緩やかに傾斜して形成されている。このような括れ部6bをゲート7の直前で設けることにより、ゲート7における溶湯の流速を速くすることができる。括れ部6bが左右に括れていることで、トップランド部201とピンボス部203で構成される厚肉部位に充分に溶湯を充填することができる。
【0065】
次に、前述のピストン製造装置1を用いた、ピストン製造方法について述べる。本実施の形態のピストン製造方法は、キャビティ200内に溶湯を充填加圧した後に二次加圧する工程や、キャビティ200内への溶湯の射出時にキャビティ200内を減圧する工程を含まずに、ゲート7の通過時の溶湯の噴霧状態を表すJ値および鋳造圧力に注目して、組織と欠陥体積率の制御を行い、所望する強度のピストンを得るものである。欠陥体積率とは、鋳造品における所定体積当たりの空孔の占める体積割合をいう。
【0066】
まず、ピストン100の強度を判定するにあたって欠陥体積率を用いる手法について説明する。鍛造によるピストンの強度は、部位によらず均質材であり、重力鋳造法により製造されたピストン(以下GDCピストンという)は略均質材料である。一方、二次加圧等の工程を含まない方法であって従来のダイカスト法は、肉厚に不均一な箇所がある場合、厚肉部位は薄肉部位よりも凝固が遅れるため、ひけ巣や外部のひけが発生することにより、均質な材料となりにくい。
【0067】
そこで、二次加圧等の工程を含まない方法であって従来のダイカスト法により製造されたピストン(以下DCピストンという)の各部位について試験片を採取し、それぞれの所定の温度における高温疲労強度について計測する試験を行った。また、GDCピストンから採取した試験片の高温疲労強度と対比した。
【0068】
DCピストンの試験片採取は、トップランドのチル層、トップランドの天井内部、ピンボス部内部の各部位で行った。DCピストンのトップランドのチル層の試験片は、トップランド表面から厚さ0mm~1mmの領域から採取した。トップランド内部の試験片は、トップランド表面から1mm~2mmの領域から採取した。ピンボス部内部の試験片は、ピンボス部の表面から2mmより内側の領域から採取した。GDCピストンの試験片についてもDCピストンの各部位と同じ部位から採取した。
【0069】
図9に、試験結果を、横軸を温度(℃)とし、縦軸を片振り疲労強度(MPa)として示した。DCピストンは、部位ごとに疲労強度が異なっていることがわかった。DCピストンは、図9グラフ中の温度X℃において、トップランドチル層における疲労強度が最も高く、トップランド内部はトップランドチル層に比較して低い値である。またピンボス内部は、トップランド内部に比較して、かなり疲労強度が低くなっている。図9グラフ中の温度X℃におけるDCピストンのトップランドチル層の疲労強度は、GDCピストンの疲労強度よりも高い値となった。全体的に、疲労強度は、高温になるに従って低下している。図9グラフ中の温度X℃における疲労強度では、DCピストンのチル層では、GDCピストンより疲労強度が高いことがわかった。このように、DCピストンは疲労強度が部位によって異なっているので、疲労強度を判定する物差しが必要である。
【0070】
そこで、疲労強度と欠陥体積率の関係に着目した。DCピストンについて、欠陥体積率と図9グラフ中の温度X℃における疲労強度の関係について調べ、結果を図10のグラフに示した。このグラフでは、これにより、DCピストンの疲労強度は、欠陥体積率と対数的に相関関係があることがわかり、欠陥体積率によって疲労強度の判定を行うことができると検証された。
【0071】
次に鋳造においてゲート7からキャビティ200内へ噴出する溶湯の状態と、欠陥体積率との関係に着目した。一般的に、鋳造においてゲート7からキャビティ200内へ噴出する溶湯の状態は、層流、液滴流、噴流の3つの状態に大別され、溶湯の状態によって得られる製品の品質は変化する。本実施の形態のピストンの製造方法では、ゲート7から噴出する溶湯の状態を、以下のJ値を用いて表し、このJ値を製造条件のパラメータとして使用する。
【0072】
J値は、ゲート7のゲート面積A(cm)/(ゲート高さh(cm)+ゲート幅w(cm))、で表されるゲートパラメータGと、溶湯の噴出するゲート速度V(cm/s)と、溶湯密度ρ(kg/cm)とにより、
J=ρ×G×V1.71 の関係で表されるものである(引用文献:書籍名:PQ 2 & Gating Manual、発行国:米国、発行所:NORTH AMERICAN DIE CASTING ASSOCIATION、発行年月日:2016年6月1日)。
【0073】
前述したように、J値を製造条件のパラメータとして使用しているが、J値が増加すると層流から液滴流となり、経験的にJ値が525以上になると液滴流から噴流となる(引用文献:金内良夫,”ダイカスト鋳造条件選定におけるPQ2線図とJ値の活用”,日立金属技報,Vol.23(2007),p29-p30)。J値を高い値にして溶湯を噴流とし、キャビティ200内に溶湯を微細に噴霧することで、キャビティ200内のガスは溶湯全体に細かく分散されて、欠陥サイズが縮小され、欠陥体積率を低減することができる。
【0074】
J値を変化させて鋳造した際の、それぞれの条件における初晶シリコンサイズおよびデンドライトセルサイズを測定し、図11に、J値を横軸とし、初晶シリコンサイズおよびデンドライトセルサイズ(図11においてはDCSと表す)を横軸にしたものを示した。J値と、初晶シリコンサイズおよびデンドライトセルサイズとには、相関関係があり、J値が上昇すると、初晶シリコンサイズおよびデンドライトセルサイズが低下することが分かった。
【0075】
さらに各種J値によりピストンを製造し、各ピストンのピンボス部上部の厚肉部位において内部の欠陥体積をマイクロCTにより測定して欠陥体積率を算出した。図12に、J値と欠陥体積率との関係を示した。厚肉部位において鋳巣等の内部の欠陥が発生しやすいので、測定個所をピンボス部の厚肉部位とした。
【0076】
高J値にして噴射とすることで表面積が大きく凝固潜熱放出が大きくなるので、凝固速度が速くなり、組織が微細化され金属間化合物の微細ネットワークが形成されて強度が向上する。さらに、高J値にして噴射することで溶湯の冷却速度が速くなり、鋳型と接触している表層部に初晶Siが晶出し難くなるので、図11に示されるように、J値が高くなる程初晶シリコンサイズおよびデンドライトセルサイズが低下し、疲労強度が向上する。高J値における鋳造では、冷却速度が向上する効果があり、組織が微細化して疲労強度が向上することが検証された。
【0077】
次に、J値と鋳造圧力および欠陥体積率の関係について着目した。
様々なJ値と鋳造圧力における組み合わせの条件下において、ダイカスト法によりピストンを鋳造し、それぞれのピストンのボス部内部の欠陥体積率を測定した結果を、図13のグラフに示した。欠陥体積率が1.5%となったJ値と鋳造圧力の組み合わせを丸印で、欠陥体積率が1%、0.5%、0.1%となった組み合わせを、それぞれ三角印、菱形、四角形でプロットしたグラフである。同じ欠陥体積率のプロットから、欠陥体積率、J値および鋳造圧力には相関関係があることがわかり、所定の欠陥体積率を、J値と鋳造圧力との関係式により表すことができると検証できた。
【0078】
ピストンを所望する強度とするためには、ピストンのボス部の内部を所定の欠陥体積率以下とすることを目的として、J値と鋳造圧力の関係式からJ値および鋳造圧力の値の組み合わせを定め、定めたJ値および鋳造圧力の条件下において、アルミニウム材料をダイカストして製造することにより達成できる。
【0079】
次に本発明の内燃機関用ピストンの製造方法について、鞍乗り型車両、例えば自動二輪車の内燃機関に用いられる代表的なピストン100の製造方法を具体例として説明する。
【0080】
本発明の内燃機関用ピストンの製造方法は、J値と鋳造圧力を所定の値に制御し、アルミニウム材料をダイカストすることにより、ピストン100の厚肉部位における欠陥体積率を所定の値とし、所望する強度以上のピストンを製造する内燃機関用ピストンの製造方法である。
【0081】
図示されない溶解炉にて、アルミ材を溶融し、所定温度の溶湯を準備する。アルミ材は、例えば、Si:11~18重量%、Cu:1.0~6.0重量%、Mg:0.5~2.0重量%、Fe:0.1~2.0重量%の少なくとも1種を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる組成を有する鋳造用素材を用いる。このようなアルミ材を用いることで、強度の高い内燃機関用ピストンを得ることができる。
【0082】
図1に示されるように、可動金型3および固定金型4からなる鋳型2を所定温度に加熱する。図示されない油圧プレススライド装置により可動金型3を移動し、可動金型3と固定金型4と合わせてキャビティ200を構成する。準備した溶湯を給湯機15により、射出機10の射出スリーブ11に注入する。
【0083】
射出機10のプランジャ12を前進させて、キャビティ200内に溶湯を、所定の値のJ値において射出し、所定の値の鋳造圧力の状態でダイカストする。
【0084】
所定のJ値および所定の鋳造圧力は、以下のような手法で定める。
ピストン100の必要とされる疲労強度に基づき、疲労強度と欠陥体積率の関係から、目標とする欠陥体積率を決定する。前述した試験により、予めキャビティ200における目標とする欠陥体積率におけるJ値および鋳造圧力の関係式を求めておく。決定した欠陥体積率およびピストン製造装置1のマシン能力と、決定した欠陥体積率におけるJ値および鋳造圧力関係から、適切なJ値および鋳造圧力を定める。
【0085】
J値は前述したように、J=ρ×G×V1.71 の式で表されるので、使用する溶湯の成分が決まれば必然的に溶湯密度ρが定まり、ゲートパラメータGおよびゲート速度Vの値に依存する。
【0086】
キャビティ200内に溶湯を所定の値のJ値において射出し、所定の値の鋳造圧力の状態でダイカストした後、鋳型2を冷却し、キャビティ200内の溶湯が充分冷却されて凝固した段階で、プレススライド装置により可動金型3と固定金型4を分離し、その後押出しピン18を前進させて、可動金型3から製品を取り出す。
【0087】
取り出したピストン100に機械加工を施して最終製品とする。取り出したピストン100のトップランド部101の上面101aの中央に、図2および図3に示されるような加工基準孔101eを穿設する。トップランド部101の下面101bの中央には、加工基準孔11eを設けてもトップランド部101の強度が低下することがないように、加工基準孔11eに対応する位置に肉盛部101fが形成されている。
【0088】
ピストン100のトップランド部101の加工基準孔11eを基準として、トップランド部101の周面101cおよびリング溝101dを切削加工により形成する。さらに、ピンボス部103を切削加工してピストンピン孔104を形成して、ピストン100の最終製品にされる。
【0089】
次に鞍乗り型車両、例えば自動二輪車の代表的なピストン100におけるダイカストの最適な条件について説明する。図14は、安全率の分布を示した図である。色が濃いところは安全率が高く、色が薄くなるに従い安全率が低くなっている。ピストン100のピンボス部103の内部には、安全率が高くなる領域があり、充分に安全率を確保するために、欠陥体積率を減少させてより強い強度が求められる。
【0090】
図15は、横軸を欠陥体積率として示し、縦軸を図9の温度X℃における片振疲労強度および必要な安全率として表したグラフである。これより欠陥体積率が増加すると必要な安全率も大きくなる事から、鞍乗り型車両、例えば自動二輪車の代表的なピストン100では、欠陥体積率を0%より大きく4.5%以下の範囲の場合、欠陥体積率が4.5%より大きいものと比較して、必要な安全率を2.2以上と小さくすることが可能となるので、欠陥体積率を0%より大きく4.5%以下とすると好適である。
さらに、欠陥体積率を0%より大きく1%以下とすることにより、必要な安全率を1.5以上と、より小さくすることが可能となるので、欠陥体積率を0%より大きく1%以下とすると最適である。
【0091】
次に、欠陥体積率が最適な範囲内の欠陥体積率1%以下を目標として、J値の範囲について判断する。図12より、J値が1000以上の値で、欠陥体積率が1%以下となることがわかった。またJ値が4000を超すと欠陥体積率は略横ばいとなることがわかった。
【0092】
J値を4000より高くしても、鋳造装置のマシン性能がより必要になりコストが増大するが、品質の向上は多く望めないので、経済的な効果がでる限界値としてJ値の最大値を4000とした。J値が、1000≦J≦4000の範囲となる条件でキャビティ200に溶湯を射出すると、品質基準を満たすことがわかった。
【0093】
さらに、J値が1500以上になると、欠陥体積率は目標値の略1/3程度の0.7%以下となり、好適には、J値を1500≦J≦4000の範囲の条件として射出を行うとよい。
【0094】
また、J値が2000以上になると、欠陥体積率は目標値の略1/2程度の0.5%以下となり、またJ値が3500から4000の間では、欠陥体積率の向上が少ししか望めないので、最適には、J値を2000≦J≦3500の範囲の条件として射出を行うとよい。
【0095】
以上より、射出機10のプランジャ12を前進させて、キャビティ200内に溶湯を射出する際には、J値が1000~4000の範囲で行い、好適にはJ値が1500以上4000以下の範囲で、最適にはJ値が2000以上~3000以下の範囲になるような条件で射出するとよい。J値は前述したように、J=ρ×G×V1.71の式で表されるので、使用する溶湯の成分が決まれば必然的に溶湯密度ρが定まり、ゲートパラメータGおよびゲート速度Vの値に依存する。
【0096】
次に鞍乗り型車両、例えば自動二輪車の代表的なピストンを製造する代表的なピストン製造装置1における鋳造条件について図16のグラフに示した。欠陥体積率1%以下を目標として、J値と鋳造圧力において、最適な条件内のものを丸印で、最適な条件から外れたものを×印で示した。これによると、鞍乗り型車両、例えば自動二輪車の代表的なピストン100においては、鋳造圧力は好適には45MPa以上80MPa以下の範囲内で、最適には50MPa以上70MPa以下の範囲である。
【0097】
本実施の形態のピストンの製造方法およびピストン製造装置1は、前記したように構成されているので、以下の効果を奏する。
【0098】
本実施の形態のピストン製造方法は、アルミニウム材料を用いて、鋳型2のキャビティ200内に溶湯を射出するダイカスト法によりピストン100を製造するものであって、キャビティ200へ溶湯を供給する溶湯供給通路6からキャビティ200への流出口であるゲート7の、ゲート面積A(cm2)、ゲート高さh(cm)およびゲート幅w(cm)により、G=A/(h+w)で表されるゲートパラメータGと、ゲート7における前記溶湯のゲート速度V(cm/s)と、溶湯の溶湯密度ρ(kg/cm3)と、により、 J=ρ×G×V1.71 で求められるJ値と、キャビティへ200の鋳造圧力と、を制御することにより、ピストン100の厚肉部位であるピンボス部103の内部における欠陥体積率を所定の値とし、アルミニウム材料をダイカストして製造するものである。
【0099】
このようにJ値および鋳造圧力を制御することにより、ピストン100の厚肉部位のピンボス部103の内部における欠陥体積率を所定の値としているので、キャビティ200内に溶湯を充填加圧した後にキャビティ200を二次加圧する作業、あるいはキャビティ200内への溶湯の射出時にキャビティ200内の減圧等の作業を行うことなく、鋳巣を低減させて強度の高いピストン100を得ることができる。さらに、作業工程を減少させ、それに伴う管理項目を低減することが可能となる。また、二次加圧装置や真空装置を不要として製造コストを削減することができる。
【0100】
キャビティ200において、複数のJ値と複数の鋳造圧力を選択して組み合わせ、J値と鋳造圧力の組み合わせごとに欠陥体積率を測定し、所定の欠陥体積率におけるJ値と鋳造圧力の関係式を求め、関係式に基づいて、J値と鋳造圧力を定め、定められたJ値と鋳造圧力により、アルミニウム材料をダイカストしている。よって、使用するキャビティ200ごとに、確実に所望する欠陥体積率以下として、所望する強度を満たすピストン100を得ることができる。
【0101】
また、本実施の形態のピストン製造方法では、アルミニウム材料として、12.5~14.0%のSiと、3.0~4.5%のCuと、1.4~2.0%のMgと、(0.8~1.2)×MgのZnと、残部のAlおよび不可避不純物とからなる組成のアルミニウム材料を用いている。このようなアルミニウム材料を用いても、キャビティ200内に溶湯を充填加圧した後に二次加圧する工程、あるいはキャビティ200内への溶湯の射出時にキャビティ200内の減圧等の作業を行うことなく、鋳巣を低減させて強度の高いピストン100を得ることができる。
【0102】
欠陥体積率は疲労強度と相関関係があるので、欠陥体積率を0%より大きく、4.5%以下とすることにより、ピストン100の疲労強度を向上させるとともに、適切な値にすることができる。
【0103】
さらに、欠陥体積率を0%以上1%以下とすることで、さらに強度の高いピストン100を得ることができる。
【0104】
キャビティ200のゲート7を1箇所のみ設けているので、同じ能力を持った鋳造装置を使用しても、ゲート7における溶湯のゲート速度Vを高めることができるので、J値を高めることが可能となる。
【0105】
溶湯供給通路6を直状とし、溶湯供給通路6のゲート7の側の終端部6aを、括れた形状の括れ部6bとしているので、溶湯の流路断面積がキャビティ200に射出するゲート7の直前において、括れ部6bにより絞られるので、キャビティ200に射出される溶湯のゲート速度Vを高めることができる。
【0106】
括れ部6bは、溶湯の流れ方向に対して左右が括れている左右括れ部6bを備えているので、溶湯がゲート7の左右方向に広がって噴流し、トップランド部201に万遍なく溶湯が充填され、トップランド部201とピンボス部203で構成される厚肉部位に充分に溶湯を充填することができる。
【0107】
括れ部6bは、溶湯の流れ方向に対して上下に括れている上下括れ部6bを備え、上下括れ部6bの傾斜角は、左右括れ部6bの傾斜角に対して緩やかに傾斜されているので、トップランド部201とピンボス部203で構成される厚肉部位に充分に溶湯を充填することができるとともに、トップランド部201のゲート7と対向する箇所にも溶湯を充分に充填することができる。
【0108】
ゲート7の長手方向のキャビティ200における位置を、キャビティ200のトップランド部201に沿って、トップランド部201を横断する方向に向け、ゲート7のトップランド部201の周方向における位置を、ゲート7の中心C1とトップランド部201の中心C2を結んだ直線L1が、キャビティ200の一対のピンボス部203の中心を結んだ直線L2に対して交差する方向に向けられ、直線L1は、ゲート7に隣接する排気弁側バルブリセス部207と交わらない方向に向けられているので、溶湯の噴霧がキャビティ200のトップランド部201のゲート7の対向面まで届き易く、鋳巣を低減し強度の高いピストン100を製造することができる。
【0109】
また、キャビティ200内を減圧してキャビティ200内に溶湯を充填する工程、およびキャビティ200内に溶湯を充填加圧した後に二次加圧する工程が不要であるので、作業工程を減少させ、それに伴う管理項目を低減し、鋳巣を低減させてより強度の高いピストン100を得ることが可能となる。
【0110】
ピストン100は、鞍乗り型車両、例えば自動二輪車の内燃機関に用いられるものであって、J値を1500以上4000以下の範囲とすることにより、作業工程を減少させて、それに伴う管理項目を低減させ、生産性をさらに向上させる。さらに、所定のJ値においてキャビティ200に溶湯を射出することで溶湯を微細に噴霧し、ピストン100の厚肉部位における欠陥を微細化・分散化して抑制することができるので、鋳巣をより低減させて、鞍乗り型車両に適応する、さらに強度の高いピストン100を得ることができる。
【0111】
また、J値を2000以上3500以下の範囲とすることにより、作業工程を減少させて、それに伴う管理項目を低減させ、生産性をより向上させるとともに、鋳巣をより低減させてさらに強度の高いピストン100を得ることができる。
【0112】
ピストン100は、鞍乗り型車両、例えば自動二輪車の内燃機関に用いられるものであって、キャビティ200内に溶湯を充填後加圧する鋳造圧力を、45MPa以上80MPa以下とすることにより、適正な出力の鋳造装置を用いてピストン100を製造することができ、製造コストを低減することができる。
【0113】
キャビティ200内に溶湯を充填後加圧する鋳造圧力を、50MPa以上70MPa以下とすることにより、より適正な出力の鋳造装置を用いてピストン100を製造することができ、製造コストをさらに低減することができる。
【0114】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は前記した実施の形態に限定されるものではなく、その他種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0115】
1…ピストン製造装置、2…鋳型、6…溶湯供給通路、6a…終端部、6b…括れ部、6b…左右括れ部、6b…上下括れ部、7…ゲート、
10…射出機、15…給湯機、
100…ピストン、101…トップランド部、101c…周面、106…吸気弁側バルブリセス、107…排気弁側バルブリセス、
200…キャビティ、201…トップランド部、201c…周面、203…ピンボス部、207…排気弁側バルブリセス部、11…射出スリーブ、12…プランジャ、
C1…中心、C2…中心、G…ゲートパラメータ、w…ゲート幅、h…ゲート高さ、A…ゲート面積、V…ゲート速度、ρ…溶湯密度、J…J値、
L1…直線、L2…直線。
図1
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