(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】光触媒材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 35/02 20060101AFI20230104BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20230104BHJP
B01J 23/652 20060101ALI20230104BHJP
B01J 23/89 20060101ALI20230104BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20230104BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20230104BHJP
C01B 3/04 20060101ALI20230104BHJP
C01B 13/02 20060101ALI20230104BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J37/02 301Z
B01J23/652 M
B01J23/89 M
B01J37/08
B01J37/04 102
C01B3/04 A
C01B13/02 B
(21)【出願番号】P 2019035519
(22)【出願日】2019-02-28
【審査請求日】2021-10-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発」に係る委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513056835
【氏名又は名称】人工光合成化学プロセス技術研究組合
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】徳留 弘優
(72)【発明者】
【氏名】中村 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】奥中 さゆり
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-124393(JP,A)
【文献】特開2016-215159(JP,A)
【文献】特開2000-279905(JP,A)
【文献】国際公開第2014/046305(WO,A1)
【文献】特開2012-011362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01B 3/04
C01B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の基板と、前記基板上に形成された光触媒層とを備えてなる光触媒材であって、
前記光触媒層が、水の光分解反応を触媒する光触媒粒子と、親水性バインダーとを含んでなる多孔質な層であり、かつ、複数の凹部および凸部を含む凹凸形状を有してなり、
前記光触媒層において、前記凸部と前記凹部との高低差が5μm以上100μm以下であり、かつ、前記凸部の厚さが前記凹部の厚さよりも大である
ことを特徴とする、光触媒材。
【請求項2】
前記凹凸形状において、凸部のピッチが10μmを超え3000μm以下である、請求項1に記載の光触媒材。
【請求項3】
ISO 25178に準拠して求められる、前記光触媒層の表面の算術平均高さ(Sa)が、3.0μm以上20μm以下である、請求項1または2に記載の光触媒材。
【請求項4】
前記基板が、複数の凹部および凸部を含む凹凸形状を有してなり、
前記光触媒層における凸部と凹部との高低差が、前記基板における凸部と凹部との高低差より大である、請求項1~3のいずれか一項に記載の光触媒材。
【請求項5】
前記光触媒粒子が、水を光分解して水素を生成する反応を触媒する光触媒粒子と、水を光分解して酸素を生成する反応を触媒する光触媒粒子とを含むものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の光触媒材。
【請求項6】
絶縁性の基板と、前記基板上に形成された光触媒層とを備えてなる光触媒材であって、
前記光触媒層が、水を光分解して水素ガス及び/又は酸素ガスを生成する反応を触媒する光触媒粒子と、親水性バインダーとを含んでなる多孔質な層であり、
前記光触媒層が、複数の凹部および凸部を含む凹凸形状を有してなり、
前記光触媒材が水と接したときに、前記光触媒層が前記凹凸形状を有することに起因して、前記水素ガス、前記酸素ガス、または前記水素ガスと前記酸素ガスとが混合されたものが、直径100μm以下の気泡として、前記光触媒層の前記凹凸形状の表面から放出され
、
前記光触媒層において、前記凸部と前記凹部との高低差が5μm以上100μm以下であり、かつ、前記凸部の厚さが前記凹部の厚さよりも大であることを特徴とする、光触媒材。
【請求項7】
前記凹凸形状において、凸部のピッチが10μmを超え3000μm以下である、請求項6に記載の光触媒材。
【請求項8】
ISO 25178に準拠して求められる、前記光触媒層の表面の算術平均高さ(Sa)が、3.0μm以上20μm以下である、請求項6または7に記載の光触媒材。
【請求項9】
前記基板が、複数の凹部および凸部を含む凹凸形状を有してなり、
前記光触媒層における凸部と凹部との高低差が、前記基板における凸部と凹部との高低差より大である、請求項6~8のいずれか一項に記載の光触媒材。
【請求項10】
ISO 25178に準拠して求められる、前記基板の算術平均高さ(Sa)が、前記光触媒層の表面の算術平均高さよりも小さい、請求項1~
9のいずれか一項に記載の光触媒材。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の光触媒材がフローセル中に備えられてなる、水分解用光触媒モジュール。
【請求項12】
請求項
11に記載の水分解用光触媒モジュールと水素分離装置とを含んでなる、水素製造システム。
【請求項13】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の光触媒材の製造方法であって、
絶縁性の基板上に、水を光分解して水素ガス及び/又は酸素ガスを生成する反応を触媒する光触媒粒子と、親水性バインダーと、分散媒とを含む組成物を適用する工程と、
前記基板上に適用された前記組成物を乾燥および焼成して光触媒層を形成する工程と
を少なくとも含んでなり、
前記光触媒層が、複数の凹部および凸部を含む凹凸形状を有してなり、
前記光触媒層における前記凸部と前記凹部との高低差が、5μm以上100μm以下であり、
前記複数の凸部の各厚さの平均値が、前記複数の凹部の各厚さの平均値よりも大である
ことを特徴とする方法。
【請求項14】
前記基板の算術平均高さ(Sa)が前記光触媒層の表面の算術平均高さよりも小さい、請求項
13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水の光分解反応を触媒する光触媒粒子を含む光触媒層が基板に固定化されてなる光触媒材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光応答型光触媒は光を利用可能な光触媒である。光応答型光触媒の中でも、太陽光に多く含まれる可視光線を利用可能な光触媒である可視光応答型光触媒が広く利用されている。この可視光応答型光触媒は、有機物の光分解や、水の光分解による水素製造への応用に期待されている。中でも、水素の製造を目的とした水分解用光触媒は、再生可能エネルギーを利用した水素製造方法に用いられる光触媒として注目されている。その結果、高い活性が得られる水分解用光触媒への要求が年々高まっている。
【0003】
光触媒を用いた水分解による水素製造技術として、光触媒粒子を基板に固定化した膜(光触媒層)の開発が進められてきている。例えば、特開2012-187520号公報(特許文献1)には、基材上に光触媒層を有する水分解用光触媒固定化物であって、光触媒層が窒化物又は酸窒化物である可視光応答型光半導体と、可視光応答型光半導体に担持された助触媒と、親水性無機材料とを含む、光触媒固定化物が例示されている。特許文献1によれば、親水性無機材料粒子を共存させることによって、光触媒層内に水が浸入し易くなり、光触媒層の内部においても光水分解反応を生じさせることができ、また、親水性表面によって生成ガスが光触媒層に付着し難くなる結果、生成ガスの気相中への拡散が促進されるため、反応効率が向上したとされている。
【0004】
WO2014/046305号公報(特許文献2)には、基材と、基材に固定化されてなる光触媒層とを含んでなる光触媒材であって、光触媒層が、一次粒子径が100nm以下である水素発生用可視光応答型光触媒粒子と、酸素発生用可視光応答型光触媒粒子とを含むものが例示されている。この例では、水素発生用可視光応答型光触媒粒子と酸素発生用可視光応答型光触媒粒子とが互いに接触している。
【0005】
特開2017-124393号公報(特許文献3)には、基材と、基材に固定化されてなる光触媒層とを含んでなる光触媒材であって、光触媒層が、水素発生用可視光応答型の第1の光触媒粒子と、酸素発生用可視光応答型の第2の光触媒粒子と、特定のエネルギー準位を有する導電性粒子とを含むものが例示されている。この例では、光触媒層において、導電性粒子が第1の光触媒粒子と第2の光触媒粒子とに接続されるように配置され、導電性粒子により電気性に接続された第1の光触媒粒子および第2の光触媒粒子は高い光触媒活性を発現することが可能とされている。
【0006】
特開2017-155332号公報(特許文献4)には、基板である第1導電体と、第1導電体上に配置された複数のピラー構造体を含み、かつ透明である第2導電体と、ピラー構造体の表面上に配置された、可視光光触媒を含む光触媒層とを含む光電極が例示されている。この例では、光電極を水分解の電極として利用する場合、光電極の光触媒層側の面がピラー構造体の形状を反映した凹凸形状を有することにより、水分解反応によって発生した気泡(水素又は酸素)が光電極外へ放出しやすいため、水分解反応の効率を高めることが可能とされている。しかしながら、この例では、光触媒層を担持するピラー構造体の凹凸形状を光触媒層に反映することにより、光電極構造中にマクロ的に凹凸形状の光触媒層を形成しているに過ぎない。つまり、この例では、光触媒層自体が凹凸形状を有しているわけではなく、また光触媒層の膜厚は一定である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-187520号公報
【文献】WO2014/046305号公報
【文献】特開2017-124393号公報
【文献】特開2017-155332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上で述べた従来技術において、特許文献4に記載された光電極は、凹凸形状を有する導電体の上に、一定の厚さで光触媒層を形成し、光触媒層の形状を間接的に凹凸形状としたものである。特許文献4では、光触媒層の構造(形状)を工夫することで、光触媒層の光触媒活性、つまり水素発生能の向上が試みられている。しかし、特許文献4の光電極は、対電極と電気的に接続されてリアクタを構成するものである。つまり、特許文献4の光電極は、水素または酸素のいずれかを生成するため、別途水素または酸素を生成可能な対極を必要とする点で、構造が複雑になる。引用文献4にあっては、水素および酸素双方を同一の表面で同時に生成することはそもそも考慮されておらず、また不可能である。
【0009】
一方、特許文献1~3に記載された光触媒材は、基材に固定化された光触媒層の同一表面で水素と酸素とを同時に生成する光触媒システムである。これら特許文献では、光触媒層を構成する光触媒粒子の種類や物性(大きさ、電気化学的特性など)、光触媒粒子とともに光触媒層を形成する他の材料を工夫し、あるいは光触媒層における構成材料の配置を工夫することで、光触媒層の光触媒活性の向上が試みられている。
【0010】
しかし、光触媒層の同一表面で水素と酸素とを同時に生成する光触媒システムにおいては、光触媒が水の分解反応の活性化エネルギーを低下させるため、一旦発生した水素と酸素とが光触媒に接触することによって水が再生成される、いわゆる逆反応も起こりやすくなるという課題がある。この課題を解決するために、特許文献1では、基材上に製膜された水分解用光触媒層に親水性無機材料を含有させて生成ガスの拡散を促進させる技術が開示されているが、本発明者らの行った実験によれば、特許文献1に記載された技術では、水分解性能が期待通りに向上しないことが判明しており、その理由の一つとして、生成した水素ガスおよび/または酸素ガスが光触媒層の表面に滞留しやすいことが考えられる。
【0011】
本発明者らは、今般、光照射下で水を分解して水素および酸素を光触媒層の同一表面で同時に生成する光触媒材において、当該光触媒層自体のミクロ的な表面形状に着眼し、その表面形状を特定の凹凸形状とすることにより、水分解反応によって発生する水素又は酸素ガスを当該特定の凹凸形状の表面から効率的に採取することができるとともに、一旦発生した水素と酸素とが光触媒に接触することによって水が再生成される、いわゆる逆反応を抑制することができ、その結果、水を高効率に光分解することが可能となり、水素発生能を向上させることが可能となることを見出した。本発明は斯かる知見に基づくものである。
【0012】
従って、本発明は、光照射下で水を分解して水素および酸素を光触媒層の同一表面で同時に生成する光触媒材であって、水分解反応によって発生する水素又は酸素を、逆反応を抑制しながら効率的に採取することが可能であり、とりわけ水素発生能が高められた光触媒材の提供をその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そして、本発明による光触媒材は、
絶縁性の基板と、前記基板上に形成された光触媒層とを備えてなり、
前記光触媒層が、水の光分解反応を触媒する光触媒粒子と、親水性バインダーとを含んでなる多孔質な層であり、かつ、複数の凹部および凸部を含む凹凸形状を有してなり、
前記光触媒層において、前記凸部と前記凹部との高低差が5μm以上100μm以下であり、かつ、前記凸部の厚さが前記凹部の厚さよりも大である
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明による光触媒材によれば、水分解反応によって発生する水素又は酸素を、逆反応を抑制しながら効率的に採取することが可能であり、とりわけ水素発生能が高められた光触媒材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】本発明の光触媒材の一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義
本明細書において、「光」とは、電磁波を意味する。「可視光」とは、人間の目で視認可能な波長の光を意味する。好ましくは、波長380nm以上の可視光線を含む光、より好ましくは、波長420nm以上の可視光線を含む光を意味する。また、可視光線を含む光としては、太陽光、集光してエネルギー密度を高めた集光太陽光、あるいはキセノンランプ、ハロゲンランプ、ナトリウムランプ、蛍光灯、発光ダイオード等の人工光源を光源として用いることが可能である。好ましくは、地球上に無尽蔵に降り注いでいる太陽光を光源として用いる。これにより、太陽光線の約60%を占める紫外線(波長420nm以下)および可視光線(波長420~780nm)を利用可能であり、水から水素及び酸素を効率的に取り出すことが可能となる。可視光線より波長の短いものを「紫外線」、長いものを「赤外線」という。
【0017】
本明細書において、「水素発生用可視光応答型光触媒粒子」とは、可視光による水の光分解反応により水素を発生可能な光触媒粒子を意味し、「酸素発生用可視光応答型光触媒粒子」とは、可視光による水の光分解反応により酸素を発生可能な光触媒粒子を意味する。
【0018】
光触媒材
本発明による光触媒材の全体構成について
図1を参照しつつ説明する。光触媒材100は、絶縁性の基板2と、絶縁性の基板2に固定化されてなる光触媒層1とを含む。光触媒層1は、複数の凹部12および凸部11を含む凹凸形状を表面に有する。光触媒層1は、後記のとおり、凸部11と凹部12との高低差D
1が所定範囲にあり、かつ、凸部11の厚さT
11の平均値が凹部12の厚さT
12の平均値よりも大であるとの特徴を有する。
【0019】
本発明による光触媒材は、絶縁性の基板2上に光触媒層1が形成され、光触媒層1の同一表面で水を直接水素と酸素に分解できるため、複雑なシステムを必要とせずに、水素および/または酸素を取り出すことが可能となる。
【0020】
本発明による光触媒材は、光触媒層1の表面が少なくとも上述したような特定の凹凸形状を有するものとしたことにより、水を高効率に光分解可能であり、その結果、水素発生能を向上させることができる。その理由は定かではないが、以下のように予想される。ただし、以下の説明はあくまで仮定であって、本発明がその理論に拘束されることを意図するものではない。光触媒層1の表面が上述したような特定の凹凸形状を有することで、光触媒材が水と接した際、光触媒層の表面における水素ガス及び/又は酸素ガスの気泡の成長を、凹凸形状の傾斜面または垂直面により、抑制することができるものと考えられる。つまり、気泡が成長する前に、水素ガス及び/又は酸素ガスは、光触媒層の表面から速やかに離脱する。より具体的には、凸部表面で生成した水素及び/又は酸素ガスは、その傾斜表面で気泡が成長する際、気泡が上下対称な形状を取ることができず、表面での継続的な成長が難しくなることで、浮力により速やかに離脱することが可能となる。さらに、光触媒層の形状を、凸部の厚さを凹部の厚さよりも大とすることで、光触媒層の表面全体からバラツキなく水素および酸素を効率的に生成することが可能となる。例えば、凹凸表面を有する基板上に、均一な厚さで光触媒層を製膜して、基板の凹凸形状を反映した表面形状を有する光触媒層を形成する場合、凹凸を形成可能な基板の材質が限定されるといった懸念がある。あるいは、凹凸表面を有する基板は、表面への異物付着等により濡れ性が不均一になりやすくなり、形成される光触媒層において、被覆が不十分な部分(被覆不良部)が生じる懸念がある。このような場合、光触媒層の凸部において被覆不良部が発生する傾向が高く、その結果、基板全面に対する光触媒の被覆率が低下する。これに対して、本発明にあっては、光触媒層を、凸部の厚さを凹部の厚さよりも大きい形状とすることで、好適には、光触媒層の凸部の厚さを凹部の厚さよりも大とする形状を、基板の凹凸によらず、凸部と凹部を光触媒のみで形成することで、光触媒層における被覆不良部の発生を低減することが可能となり、結果的に水素および酸素の効率的な生成が可能となる。また、光触媒層を凸部の厚さが凹部の厚さよりも大きい形状とすることで、凹部よりも凸部でのガス生成が促進される。これにより、水素ガス及び/又は酸素ガスは効率的に系外に放出されるため、水分解により一旦発生した水素および酸素が反応して水を生成する逆反応を有効に防止することが可能となる。
【0021】
したがって、本発明による光触媒材は、光触媒層の表面が平滑である場合に比べて、光照射下で高い光触媒活性を発現することができ、高い効率で水を光分解することが可能となり、高い水素発生能を有する。換言すると、本発明による光触媒材は、光触媒層の表面に特定の凹凸形状が付与されているため、光触媒層の表面が平滑である場合に比べて、形状の相違のみにより、すなわち光触媒層を構成する光触媒粒子の種類や物性、光触媒粒子とともに光触媒層を形成する他の材料、光触媒層におけるこれら構成材料の配置、基材の材質や形状、あるいは照射光源波長などの諸条件を問わず、水素発生効率を向上させることが可能となる。
【0022】
光触媒層
凹凸形状
光触媒層1は、例えば
図1に示すように、複数の凹部12および凸部11を含む凹凸形状を有する。本明細書において、「凹凸形状」とは、光触媒層の表面が平滑ではない形状を有することを意味する。例えば、凹凸形状の他、山型、波型、くし型およびピラー型などの非平滑表面形状を広く含む。凹凸形状は、規則的であってもよく、不規則であってもよい。なお、光触媒層の表面形状が、本明細書に記載の特定の凹凸形状、とりわけ後記の形状的特徴を有する凹凸形状である限りにおいて、基板の形状の影響の有無は問わない。すなわち、本発明は、基板の形状の影響を受けずに(例えば、表面が平滑な基板)、当該基板の上に特定の凹凸形状を有する光触媒層が形成されている態様を含む。
【0023】
凸部と凹部との高低差
光触媒層1において、凸部11と凹部12との高低差D1は、5μm以上100μm以下である。この形状的特徴により、光触媒層の表面における水素ガス及び/又は酸素ガスの気泡の成長を抑制し、水素ガス及び/又は酸素ガスを光触媒層の表面から速やかに離脱させることが可能となるとともに、水分解により一旦発生した水素および酸素が反応して再び水を生成する逆反応を防止することが可能となる。凸部11と凹部12との高低差D1は、5μm以上80μm以下であることが好ましい。
【0024】
本発明において、光触媒層における凸部と凹部との高低差D1は、例えば以下のように測定される。
レーザー顕微鏡に所定倍率の光学レンズを装着し、所定の視野にて光触媒層を観察し、光触媒層表面の三次元画像を得る。得られた画像において、任意に選択した5点の凸部の各頂点又は頂上部11S(以下、「山頂点又は山頂部」ということもある)までの高さ(H11S)を測定し、それらの平均値(H11S0)を求める。また、得られた画像において、任意に選択した5点の凹部の各底点又は底部12B(以下、「谷底点又は谷底部」ということもある)までの高さ(H12B)を測定し、それらの平均値(H12B0)を求める。H11S0-H12B0により、所定角の視野での光触媒層における凸部と凹部との高低差を求める。
上記の視野とは異なる視野でさらに幾つかの観察を行い、各視野での光触媒層における凸部と凹部との高低差を求める。異なる視野での光触媒層における凸部と凹部との高低差の平均値を、光触媒層における凸部と凹部との高低差とする。
【0025】
凸部の厚さと凹部の厚さとの関係
光触媒層1において、凸部11の厚さ(T11)は凹部12の厚さ(T12)よりも大である。この形状的特徴により、光触媒層の表面における水素ガス及び/又は酸素ガスの気泡の成長を抑制し、水素ガス及び/又は酸素ガスを光触媒層の表面から速やかに離脱させることが可能となるとともに、水分解により一旦発生した水素および酸素が反応して再び水を生成する逆反応を防止することが可能となる。また、凸部の厚さが凹部の厚さよりも大である、すなわち凹部の厚さが凸部の厚さよりも小であることで、光の照射角度による凸部の影が凹部にできにくく、凹部にも光を効率的に照射することが可能となり、光触媒層の全面を有効に利用することが可能となる。さらに、凸部の厚さが凹部の厚さよりも大きいことで、基板の表面形状(例えば、凹凸)に左右されずに水分解反応を進行させることが可能となる。同時に、凸部の厚さが凹部の厚さよりも大きいことで、基材の凹凸に依存せずに水と光触媒との接触界面が大きくなるため、光触媒層内で生成する水素および酸素ガスが光触媒層の中から表面に拡散し易くなる。その結果、水素および酸素の逆反応を抑制することも可能となる。さらに、水素および酸素ガスが光触媒層の凹凸表面に拡散した際に生成する気泡の形状が、凹凸表面の斜面形状のため上下非対称となることで、気泡の成長が起こる前に浮力により、気泡の水中への離脱を促進することができる。さらに、光触媒層を凸部の厚さが凹部の厚さよりも大きい形状とすることで、光触媒層の表面全体からバラツキなく水素および酸素を効率的に生成することが可能となる。例えば、凹凸表面を有する基板上に、均一な厚さで光触媒層を製膜して、基板の凹凸形状を反映した表面形状を有する光触媒層を形成する場合、凹凸表面を有する基板は、表面への異物付着等により濡れ性が不均一になりやすく、形成される光触媒層において、被覆が不十分な部分(被覆不良部)が生じる懸念がある。このような場合、光触媒層の凸部において被覆不良部が発生する傾向が高く、その結果、基板全面に対する光触媒の被覆率が低下する。これに対して、本発明にあっては、光触媒層を、凸部の厚さが凹部の厚さよりも大きい形状とすることで、好適には、光触媒層の凸部の厚さを凹部の厚さよりも大とする形状を、基板の凹凸によらず、凸部と凹部を光触媒層のみで形成することで、光触媒層における被覆不良部の発生を低減させ、水素および酸素の効率的な生成が可能となるとともに、凹部よりも凸部でのガス生成が促進され、水素ガス及び/又は酸素ガスの効率的な系外への放出により、逆反応を有効に防止することが可能となる。
【0026】
基板の表面を凹凸形状にして、この基材の表面上に、凸部の厚さが凹部の厚さと同等の光触媒層を形成することでも、光触媒層の表面に凹凸を形成することが理論上は可能であるが、本発明においては採用できない。それは、基板の凹凸形状を反映させて光触媒層に凹凸形状を付与しようとする場合、基板の凹凸形状よりも大きな凹凸形状を有する、あるいは、基板の凹凸形状よりも微細な凹凸形状を有する光触媒層を製膜することは、特に大面積の光触媒材を工業的に生産するためには適さないためである。また、基板の凹凸形状を反映させて光触媒層に凹凸形状を付与しようとする場合、光触媒粒子を含む多孔質膜の製膜時のレベリングによる表面平坦化や凹凸のバラツキを生じる懸念がある。これらのことを鑑みて、本発明では、凸部の厚さを凹部の厚さよりも大きくした光触媒層を、好ましくは光触媒層の凹凸形状よりも小さい凹凸形状、より好ましくは実質的には平面を備えた基板の上に、製膜することが望ましい。こうすることで、水素発生能が高い光触媒層を得ることができるとともに、表面における凹凸形状を再現良く製膜することができ、凹凸のバラツキを抑制することも可能となる。
【0027】
本発明において、凸部11の厚さ(T
11)は、光触媒層1が有する複数の凸部11の厚さの平均値である。光触媒層1が有する凸部11各々の厚さは、基板2の表面から山頂点又は山頂部11Sまでの距離の平均値である。また、凹部12の厚さ(T
12)は、光触媒層1が有する複数の凹部12の厚さの平均値である。光触媒層1が有する凹部12各々の厚さは、基板2の表面から谷底点又は谷底部12Bまでの距離の平均値である。
図1では、T
11として、基板2の表面から山頂部11Sまでの最小距離を、T
12として、基板2の表面から谷底点又は谷底部12Bまでの最大距離を例示する。
【0028】
光触媒における凸部および凹部の厚さは、例えば光触媒層(好ましくは光触媒材)の破断面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察により求めることができる。
具体的には、光触媒層を担持させた光触媒材の山頂部と谷底部を含む破断面をSEM観察(観察倍率:500倍)することで、観察箇所5点の山頂部および谷底部それぞれの平均値から求めることができる。
【0029】
本発明において、凸部11の厚さ(T11)は、5μm以上120μm以下であることが好ましい。凹部12の厚さ(T12)は、0.1μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0030】
なお、
図1に示す態様では、基板2の表面は凹凸形状であるが、基板2の表面が平滑である場合、すなわち、基板2が光触媒層1に対して平面とみなせる場合、凸部11の厚さ(T
11)は、凸部の高さの平均値(H
11S0)に等しい。同様に、凹部12の厚さ(T
12)は、凹部の高さの平均値(H
12B0)に等しい。
【0031】
凸部のピッチ
本発明において、光触媒層における凸部のピッチは、10μmを超え3000μm以下であることが好ましい。ピッチが3000μm以下であると、凹部に水素ガス及び/又は酸素ガスの気泡が保持され難くなり、水分解の逆反応を抑制することができる。また、ピッチが10μmより大であると、気泡のサイズ(好ましくは0.1~1mm)に対して、光触媒層の凹凸形状が実質的に平面とみなされる可能性が低くなるため、気泡の成長を抑制することができ、水分解により発生した水素ガス及び/又は酸素ガスを光触媒層の表面から速やかに離脱させることができる。光触媒層における凸部のピッチは、20μm以上2000μm以下であることが好ましい。
【0032】
本発明において、光触媒層における凸部のピッチは、例えば以下のように測定される。
凸部と凹部との高低差の測定方法で得られた、ある視野での三次元画像において、任意に選択した複数の凸部の各頂点又は頂上部の間のピッチの平均値を求める。
上記の視野とは異なる視野でさらに幾つかの観察を行い、各視野での光触媒層における凸部のピッチを求める。異なる視野での光触媒層における凸部のピッチの平均値を、光触媒層における凸部のピッチとする。
【0033】
算術平均高さ(Sa)
本発明において、光触媒層の表面の算術平均高さ(Sa)は、3.0μm以上20μm以下であることが好ましい。算術平均高さ(Sa)がこの範囲にあることにより、光触媒層の表面における水素ガス及び/又は酸素ガスの気泡の成長を抑制し、水素ガス及び/又は酸素ガスを光触媒層の表面から速やかに離脱させることが可能となるとともに、水分解により一旦発生した水素および酸素が反応して再び水を生成する逆反応を防止することが可能となる。光触媒層の表面の算術平均高さ(Sa)は、3μm以上10μm以下であることが、より好ましい。
【0034】
本発明において、光触媒層の表面の算術平均高さ(Sa)は、例えば以下のように測定される。
凸部と凹部との高低差の測定方法で得られた、ある視野での三次元画像を用い、ISO 25178に準拠して、光触媒層の表面の算術平均高さ(Sa)を求める。
上記の視野とは異なる視野でさらに幾つかの観察を行い、各視野での光触媒層の表面の算術平均高さ(Sa)を求める。異なる視野での光触媒層の表面の算術平均高さ(Sa)の平均値を、光触媒層の表面の算術平均高さ(Sa)とする。
【0035】
多孔質構造
光触媒層1は、後記する光触媒粒子と親水性バインダーとを含んでなる多孔質膜である。したがって、光触媒層1は細孔6を有する(
図2参照)。細孔6は、光触媒粒子などの粒子成分の間に配置される。細孔6を介し、光触媒層1の表面だけでなく、その内部に配置される光触媒粒子も、水及び光と接触することが可能となる。また、細孔6を介し、水や、光照射による水の光分解で生じた水素ガス及び酸素ガスが拡散可能とされる。細孔径は1nm以上10μm以下であることが好ましい。
【0036】
細孔径は、細孔分布測定により求めることができる。例えば、光触媒層を基板から剥離した粉末試料の、細孔分布測定装置(例えば、マイクロトラックベル社製“Belsorp mini”)を用いて測定される窒素ガスの吸着等温線から得られる微分細孔容積分布の最強ピーク値として、細孔径を求めることができる。
【0037】
生成ガス
図2は、山型の凹凸形状を有する光触媒層において、凸部の頂点近くの一部を拡大した模式図である。光触媒層は、後記する光触媒粒子3および親水性バインダー4を含む。
図2に示すように、光触媒層の表面が山型の凹凸形状を有することにより、光触媒材を水5と接触させた際、光触媒層の表面における生成ガス、すなわち水素ガス(H
2)及び/又は酸素ガス(O
2)の気泡の成長は、山型形状の傾斜面により、抑制されるものと考えられる。つまり、気泡が成長する前に、水素ガス(H
2)及び/又は酸素ガス(O
2)は、光触媒層の表面から速やかに離脱する。
本発明において、光触媒層の表面から離脱した生成ガスの気泡のサイズは、0.01mm~0.1mmであることが好ましい。気泡のサイズは、例えば以下のように測定される。
光触媒材を水中に浸漬(水深2cm)させ、300Wキセノンランプ(Cermax)を用いて紫外および可視光を光触媒層表面の5cm上方から照射する。光触媒層表面から生成する気泡を、レーザー顕微鏡(OLS-5200、オリンパス製、光学倍率5倍の光学レンズ装着)によって観察し、生成する気泡20個の直径の平均値を気泡サイズとする。
【0038】
光触媒粒子
光触媒層1に含まれる光触媒粒子は、水の光分解反応を触媒可能なものであればよい。水の光分解反応を触媒可能な光触媒粒子である限りにおいて、任意の形状、大きさ、厚み等の物理的特性を有する光触媒粒子を用いることができる。光触媒粒子の形状は、例えば、粒状、板状、または針状であってよい。
【0039】
光触媒粒子の一次粒子径は、10nm以上50μm以下であることが好ましい。このような小さな粒径とすることで、光触媒粒子において、水と接触可能な単位重量当たりの表面積が大きくなる。これにより、水の還元又は酸化反応サイトが増加し、その結果、高効率な水素又は酸素発生が可能となる。
【0040】
光触媒粒子の平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(例えば、SU-8220、日立ハイテク製)を用いて、倍率2000倍、2μm角の視野で二次電子像を観察した際の結晶粒子20個の円形近似による平均値として求めることができる。
【0041】
本発明で用いられる光触媒粒子の具体例を以下に示す。本明細書では、後記のとおり、水分解の作用機序および光触媒粒子の光励起のされ方に応じて、光触媒粒子を、一段階励起により水を水素と酸素に光分解できる光触媒粒子、および二段階励起により水を光分解し水素あるいは酸素を生成できる光触媒粒子に分類分けし、この順で説明する。
【0042】
(一段階励起により水を水素と酸素に光分解できる光触媒粒子)
水素発生用可視光応答型光触媒粒子は、光学的バンドギャップを有する半導体粒子である。光触媒粒子が紫外光あるいは可視光を吸収することで、光触媒粒子におけるバンド間遷移等の電子遷移により、伝導帯あるいはバンドギャップ内に存在する電子アクセプター準位に励起電子を生じ、かつ価電子帯あるいはバンドギャップ内に存在する電子ドナー準位に励起正孔を生じる。一段階励起により水を水素と酸素に光分解できる光触媒粒子とは、この励起電子および励起正孔のそれぞれが反応対象物を還元および酸化することが可能な光触媒材料である。つまり、一段階励起により水を水素と酸素に光分解できる光触媒粒子は、例えば、紫外光あるいは可視光線を照射することで生成する励起電子が、水を還元して水素を、かつ、水を酸化して酸素を生成可能な光触媒材料である。この光触媒粒子の伝導帯あるいはバンドギャップ内に存在する電子アクセプター準位は、例えば、水の還元電位(0V vs.NHE(標準水素電極電位)at pH=0)よりも負な位置にあり、価電子帯あるいはバンドギャップ内に存在する電子ドナー準位は、例えば、水の酸化電位(+1.23V vs.NHE(標準水素電極電位)at pH=0)よりも正な位置にある。一段階励起により水を水素と酸素に光分解できる光触媒粒子の好ましい例としては、紫外応答型光触媒としては、TiO2, SrTiO3(Ga3+、Sc3+、Y3+、Al3+、Mg2+等のドープ体を含む)、NaTaO3(La3+等のドープ体を含む:)、K2Nb6O17等の層状金属酸化物が挙げられ、可視光応答型光触媒としては、Rh3+ドープSrTiO3(Sb5+またはLa3+の共ドープ体を含む)等の金属酸化物、GaN-ZnO固溶体やMg2+ドープLaTaO2N等の金属酸窒化物、金属酸硫化物等が好適に用いられるが、上記のバンド構造を満たし、水を一段階で分解して水素と酸素を生成するものであれば特に限定されない。
【0043】
(二段階励起により水を光分解し水素あるいは酸素を生成できる光触媒粒子)
可視光応答型光触媒粒子
二段階励起により水を光分解し水素あるいは酸素を生成できる光触媒粒子とは、いわゆるZスキームモデルで水を分解できる光触媒粒子をいう。Zスキームモデルでは、例えば可視光の照射により、水素生成用可視光応答型光触媒粒子が生成した励起電子が水を還元して水素を生成し、酸素生成用可視光応答型光触媒粒子が生成した励起正孔が水を酸化して酸素を生成する。二段階励起により水を光分解し水素あるいは酸素を生成できる光触媒粒子として、例えばWO2014/046305号公報に記載のいわゆるZスキーム型光触媒粒子が挙げられる。
【0044】
水素発生用可視光応答型光触媒粒子
水素発生用可視光応答型光触媒粒子は、光学的バンドギャップを有する半導体粒子である。水素発生用可視光応答型光触媒粒子が可視光を吸収することで、水素発生用可視光応答型光触媒粒子におけるバンド間遷移等の電子遷移により、伝導帯あるいはバンドギャップ内に存在する電子アクセプター準位に励起電子を生じ、かつ価電子帯あるいはバンドギャップ内に存在する電子ドナー準位に励起正孔を生じる。水素発生用可視光応答型光触媒粒子とは、この励起電子および励起正孔のそれぞれが反応対象物を還元および酸化することが可能な光触媒材料である。つまり、水素発生用可視光応答型光触媒粒子は、例えば、可視光線を照射することで生成する励起電子が、水を還元して水素を生成可能な光触媒材料である。水素発生用可視光応答型光触媒粒子の伝導帯あるいはバンドギャップ内に存在する電子アクセプター準位は、例えば、水の還元電位(0V vs.NHE(標準水素電極電位)at pH=0)よりも負な位置にある。また、水素発生用可視光応答型光触媒粒子の価電子帯あるいはバンドギャップ内に存在する電子ドナー準位は、例えば、第2の光触媒粒子の伝導帯位置よりも正な位置にある。
【0045】
水素発生用可視光応答型光触媒粒子の好ましい例としては、RhドープSrTiO3(SrTi1-xRhxO3:x=0.002~0.1)、IrドープSrTiO3(SrTi1-xIrxO3:x=0.002~0.1)、CrドープSrTiO3(SrTi1-xCrxO3:x=0.002~0.1)、Cr及びTaドープSrTiO3(SrTi1-x―yCrxTayO3:x=0.002~0.1、y=0.002~0.1)、La及びRhドープSrTiO3(Sr1-xLaxTi1―yRhyO3:x=0.005~0.2、y=0.005~0.2)等の遷移金属あるいは貴金属の少なくとも1種類がドープされたペロブスカイト型SrTiO3、Cu2O、CuO、CaFe2O4、NiO、Bi2O3、BiOX(X=Cl,Br,I)、GaN-ZnO固溶体、LaTiO2N、BaTaO2N、BaNbO2N、TaON、Ta3N5、Ge3N4等の遷移金属あるいは典型金属を含有する酸窒化物あるいは窒化物、CuGaS2、CuInS2、Cu(Ga,In)S2、CuGaSe2、CuInSe2、Cu(Ga,In)Se2、Cu2ZnSnS4(CZTS)、Cu2ZnSn(S,Se)4等のGa、In、Al等の典型金属を含む銅複合硫セレン化物、La5Ti2CuS5O7、La5Ti2AgS5O7、La5Ti2CuSe5O7、La5Ti2AgSe5O7等の酸硫セレン化物からなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0046】
酸素発生用可視光応答型光触媒粒子
酸素発生用可視光応答型光触媒粒子は、光学的バンドギャップを有する半導体粒子である。酸素発生用可視光応答型光触媒粒子が可視光を吸収することで、酸素発生用可視光応答型光触媒粒子におけるバンド間遷移等の電子遷移により、伝導帯に励起電子を生じ、かつ価電子帯に励起正孔が生じる。酸素発生用可視光応答型光触媒粒子とは、この励起電子および励起正孔のそれぞれが反応対象物を還元および酸化することが可能な光触媒材料である。つまり、酸素発生用可視光応答型光触媒粒子は、例えば、可視光線を照射することで生成する励起正孔が、水を酸化して酸素を生成可能な光触媒材料である。酸素発生用可視光応答型光触媒粒子の価電子帯は、例えば、水の酸化電位(+1.23V vs.NHE(標準水素電極電位)at pH=0)よりも正な位置にある。また、酸素発生用可視光応答型光触媒粒子の伝導帯は、例えば水素発生用可視光応答型光触媒粒子の価電子帯位置よりも負な位置にある。
【0047】
酸素発生用可視光応答型光触媒粒子の好ましい例としては、BiVO4、XドープBiVO4(X:Mo,W)、SnNb2O6、WO3、Bi2WO6、Fe2TiO5、Fe2O3、Bi2MoO6、GaN-ZnO固溶体、LaTiO2N、BaTaO2N、BaNbO2N、TaON、Ta3N5、Ge3N4等の遷移金属あるいは典型金属を含有する酸窒化物あるいは窒化物からなる群から選択される一種以上が挙げられる。
【0048】
光触媒層中に含まれる固形分全体に対する光触媒粒子の含有割合は、1wt%以上99wt%以下であることが好ましく、光触媒粒子の種類、形態などに応じて適宜決定すればよい。例えば、一段階励起により水を水素と酸素に光分解できる光触媒粒子の含有割合は50wt%~90wt%であることが好ましく、二段階励起により水を光分解し水素あるいは酸素を生成できる光触媒粒子の含有割合は30wt%~90wt%であることが好ましい。
【0049】
光触媒粒子の助触媒
本発明において、光触媒粒子の表面に助触媒を担持させることができる。これにより、水の還元および酸化反応が促進され、水素および酸素の生成効率が向上する。水素発生用可視光応答型光触媒粒子の助触媒としては、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム等の金属粒子、これら金属粒子の酸化物または水酸化物、これら金属酸化物または水酸化物とCr、Zr、Ta、Ti、Siとの複合体を用いることがでる。助触媒を光触媒粒子1の表面に担持させることにより、水の還元反応における活性化エネルギーを減少させることが可能となるため、速やかな水素の発生が可能となる。酸素発生用可視光応答型光触媒粒子20の助触媒としては、Mn、Fe、Co、Ir、Ru、Ni等の金属、これらの金属を混合させた金属酸化物、金属水酸化物もしくは金属リン酸塩からなる粒子を用いることができる。
【0050】
これら助触媒の平均一次粒子径は10nm未満であることが好ましく、さらに好ましくは5nm以下である。平均一次粒子径を小さくすることにより、水素および酸素発生反応の活性点として効率的に機能させることができる。
【0051】
助触媒の平均一次粒子径は、光触媒粒子の平均一次粒子径の測定方法と同様の方法で求めることができる。すなわち、助触媒の平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(例えば、SU-8220、日立ハイテク製)を用いて、倍率2000倍、2μm角の視野で二次電子像を観察した際の結晶粒子20個の円形近似による平均値として求めることができる。
【0052】
助触媒の濃度は、光触媒に対して、重量当たりの濃度(重量パーセント)として、0.01~5重量%が適している。助触媒の濃度をこの範囲内とすることで、助触媒としての効果が望ましく発揮され、あるいは、光触媒粒子の表面に助触媒が適量担持されているため、助触媒により光触媒の光吸収が阻害されるリスクが無い。
【0053】
親水性バインダー
光触媒層1は親水性バインダー4を含む。親水性バインダー4は、光触媒粒子3を結着して、光触媒層1、ひいては光触媒材100の耐久性を向上させる。さらに、親水性バインダー4は、その親水性により、光触媒層1の内部で生成された水素ガス及び/又は酸素ガスの気泡の光触媒層1表面への移動を助ける。光触媒層1の表面に到達した水素ガス及び/又は酸素ガスの気泡は、上述したとおり、光触媒層1が有する特別な表面構造により、すなわち凹凸形状の傾斜面または垂直面により、気泡が成長する前に表面からスムーズに放出される。このように、本発明の光触媒材にあっては、光触媒層に含まれる親水性バインダーによる作用と、光触媒層の特定の表面形状による作用とが相まって発揮され、高い効率で水を光分解することが可能となり、高い水素発生能を有する。
【0054】
親水性バインダーは、Si、Ti、Zr、Ta、Nb、Fe、Sn等の金属を含む酸化物、水酸化物または複合酸化物であることが好ましい。親水性バインダーは、光触媒層1が基板2に密に固定化された場合において、光触媒層表面の水接触角が20度以下となるような親水性を有することが好ましい。
【0055】
親水性バインダーはいかなる形状であってもよく、例えば、粒状あるいは被膜状であってよい。ここで、親水性バインダーが被膜状であるとは、光触媒粒子表面上に、明確な粒界を有する粒子としてではなく、無定形の連続的な被膜として親水性バインダーが担持されている状態を表す。ただし、光触媒全面を親水性バインダー被膜が覆うと、光触媒活性表面が失われてしまうことから、親水性バインダーに被覆されていない光触媒表面も有することが重要である。光触媒粒子に担持された親水性バインダーが被膜状の場合、その厚さは1nm以上100nm以下であることが好ましい。厚さは、たとえば、被膜表面を透過型電子顕微鏡観察にて観察した際の10点の平均値として求めることができる。親水性バインダーが粒状の場合、その平均一次粒子径は1nm以上10μm以下であることが好ましい。平均一次粒子径は、例えば、粒状物または被膜状物を、走査型電子顕微鏡(例えば、SU-8220、日立ハイテク製)を用いて、倍率20000倍、200nm角の視野で二次電子像を観察した際の結晶粒子10個の円形近似による平均値として求めることができる。
【0056】
親水性バインダーが上述のような厚さ、平均一次粒子径を有することにより、光触媒層において、光触媒粒子に可視光を効果的に照射することが可能となる。また、光触媒層において、例えば、親水性バインダーと光触媒粒子とを良好に接触させることが可能となる。また、光触媒層に適切な細孔を形成することができる。
【0057】
本発明において、光触媒層は、光触媒粒子間における電気的接続点を減らさない程度の量の親水性バインダーを含むことが好ましい。また光触媒層は、光触媒粒子の光吸収を妨げない程度の量の親水性バインダーを含むことが好ましい。また親水性バインダーの含有量は、光触媒層に細孔を形成可能な範囲で適宜設定することが好ましい。光触媒層中に含まれる固形分全体に対する親水性バインダーの含有割合は、1wt%以上99wt%以下であることが好ましい。例えば、親水性バインダーとしてSiO2粒子を用いる場合、その含有割合は10wt%~50wt%であることが好ましい。
【0058】
導電性粒子
本発明において、光触媒層は導電性粒子を含んでいてもよい。導電性粒子は、水の光分解反応が効率的に起こることを可能にするものであればよい。例えば、特開2017-124393号公報に記載されるような、水素発生用可視光応答型光触媒粒子と、酸素発生用可視光応答型光触媒粒子との間に導電性粒子が接続された光触媒粒子にあっては、導電性粒子は、水素発生用可視光応答型光触媒粒子の価電子帯上端の電子エネルギー準位よりも負な位置であり酸素発生用可視光応答型光触媒粒子の伝導帯下端の電子エネルギー準位よりも正な位置にフェルミ準位を有しており、電子および正孔を貯蔵可能な、導電性を有する粒子である。このような導電性粒子を用いることで、電荷再結合反応により、水素発生用可視光応答型光触媒粒子内で生成した光励起正孔および酸素発生用可視光応答型光触媒粒子内で生成した光励起電子を消滅させ、水素発生用可視光応答型光触媒粒子の伝導帯で生成した光励起電子による水の還元反応の効率を高めることができるものと考えられる。その結果、光触媒材による水の光分解効率、水素発生能を向上させることができる。
【0059】
導電性粒子の好ましい材料の例として、金、銀、銅、ニッケル、ロジウム、パラジウム等の金属、カーボン材料、TiN等の窒化物、TiC等の炭化物、スズドープ酸化インジウム(ITO)、金属(B,Al,Ga)ドープ酸化亜鉛、フッ素ドープ酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ、酸化ルテニウム、酸化イリジウム、酸化ロジウム等の導電性の金属酸化物からなる群から選択される1種以上のものが挙げられる。これらの中でも、金、カーボン材料、ITO、および金属(B,Al,Ga)ドープ酸化亜鉛、酸化ルテニウム、酸化イリジウム等の導電性の金属酸化物からなる群から選択される1種以上のものがより好ましい。
【0060】
本発明において、導電性粒子が親水性バインダーを兼用してもよい。つまり、導電性粒子および光触媒粒子の材料がいずれも金属酸化物である場合、光触媒粒子と導電性粒子とは金属酸化物同士であるため、導電性粒子は優れたバインダー効果を得ることができ、導電性粒子と光触媒粒子との接触をより強固なものとすることができる。また、基板の材料としてガラス、アルミナ等の無機物、特に金属酸化物を用い、導電性粒子の材料も金属酸化物である場合、基板と導電性粒子との間で金属-酸素結合が形成される。そのため、導電性粒子と基板との密着性が向上する。その結果、光触媒材全体の機械的強度を向上させることが可能となる。よって、光触媒材が水素製造モジュールに搭載された場合において、光触媒層は、流水による負荷による光触媒粒子の脱離を抑制することができ、長期耐久性に優れた光触媒膜として機能することが可能となる。
【0061】
導電性粒子はいかなる形状であってもよく、例えば、粒状あるいは被膜状であってよい。ここで、導電性粒子が被膜状であるとは、光触媒粒子表面上に、明確な粒界を有する粒子としてではなく、無定形の連続的な被膜として導電性材料が担持されている状態を表す。ただし、光触媒全面を導電性粒子被膜が覆うと、光触媒活性表面が失われてしまうことから、導電性粒子に被覆されていない光触媒表面も有することが重要である。導電性粒子が被膜状の場合、その厚さは1nm以上100nm以下であることが好ましい。厚さは、たとえば、被膜表面を透過型電子顕微鏡観察にて観察した際の10点の平均値として求めることができる。導電性粒子が粒状の場合、その平均一次粒子径は1nm以上10μm以下であることが好ましい。平均一次粒子径は、例えば、粒状物または被膜状物を、走査型電子顕微鏡(例えば、SU-8220、日立ハイテク製)を用いて、倍率20000倍、200nm角の視野で二次電子像を観察した際の結晶粒子10個の円形近似による平均値として求めることができる。
【0062】
光触媒層中に含まれる固形分全体に対する導電性粒子の含有割合は、1wt%以上99wt%以下であることが好ましく、導電性粒子の種類、形態などに応じて適宜決定すればよい。例えば、導電性粒子としてITOを用いる場合、その含有割合は2wt%~80wt%であることが好ましい。
【0063】
中間層
本発明において、光触媒材100は、基板2と光触媒層1との間に中間層をさらに含んでもよい。中間層は、基板2と光触媒層1との間に配置され、基板2及び光触媒層1のそれぞれと接続される。これによって、例えば、基板2と光触媒層1との間の密着性を向上させることができる。中間層は基板と同様に絶縁性である。中間層に用いられる材料としては、基板が樹脂基板である場合、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、リン酸カップリング剤等が挙げられる。
【0064】
基板
本発明による光触媒材に含まれる基板2は、その表面に光触媒層1を固定化し得る絶縁性基板であればよい。このような基板2の具体例としては、硬質の有機基板または無機基板が挙げられる。有機基板には、例えば、プラスチック基板が挙げられる。無機基板には、例えば、アルミナ基板などのセラミックス基板、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラスなどのガラス基板、石英基板が挙げられる。基板2は、電気抵抗率が105Ω・cm以上であるものが好ましい。
【0065】
絶縁性基板であることで、多種多様な部材を安価で用いることができる。さらには、例えば導電性基板で課題となる酸化還元反応あるいは水中での耐久性や酸化劣化の課題も低減できるため、耐久性のある光触媒材を得ることができる。
【0066】
基板2は、その表面に乾燥または焼成によって光触媒層1が固定化され得る形状を有するものであればよい。このような基板2の具体例としては、平滑表面を有する平板体(例えばガラス基板、アルミナ基板等)、あるいは表面多孔性の平板体(例えば陽極酸化アルミナ)、多孔体(例えばポーラスセラミックス)、繊維体(例えばガラスファイバー、炭素繊維)等を用いることができる。基板2の表面は、荒らされた粗面であることが好ましい。粗面であることにより、光触媒層1と基板2との密着性が向上する。粗度は、ISO 25178に準拠して求められる算術平均高さSaが光触媒層表面のSaよりも小さいことが好ましい。例えば、基板2の表面形状は、波打った形状、くし型の形状、繊維状、メッシュ状であってよい。また、基板2の大きさ、厚みは、その表面に光触媒層1が固定化可能である限り特に制限されない。
【0067】
本発明において、基板2は、複数の凹部および凸部を含む凹凸形状を有し、光触媒層1における凸部と凹部との高低差D1が、基板2における凸部と凹部との高低差D2よりも大きいことが好ましい。このような形状的特徴により、光触媒層の表面における水素ガス及び/又は酸素ガスの気泡の成長を抑制し、水素ガス及び/又は酸素ガスを光触媒層の表面から速やかに離脱させることが可能となるとともに、水分解により一旦発生した水素および酸素が反応して再び水を生成する逆反応を防止することが可能となる。基板2における凸部と凹部との高低差D2は、0μmを超え90μm以下であることが好ましい。
【0068】
基板2における凸部と凹部との高低差D2は、先に述べた光触媒層1における凸部と凹部との高低差D1と同様、例えば以下のように測定される。
【0069】
レーザー顕微鏡に所定倍率の光学レンズを装着し、所定の視野にて基板を観察し、基板表面の三次元画像を得る。得られた画像において、任意に選択した複数の凸部の各頂点又は頂上部までの高さを測定し、それらの平均値を求める。また、得られた画像において、任意に選択した複数の凹部の各底点又は底部までの高さを測定し、それらの平均値を求める。複数の凸部の各頂点又は頂上部までの高さの平均値から、複数の凹部の各底点又は底部までの高さの平均値を引いて、所定角の視野での基板における凸部と凹部との高低差を求める。
【0070】
あるいは、走査型電子顕微鏡による観察でも基板2における凸部と凹部との高低差D2の高低差を測定することができる。例えば、光触媒材の破断面の走査型電子顕微鏡(例えば、SU-8220、日立ハイテク製)における二次電子像による断面観察により、倍率500倍の視野で観察した際の膜断面における凸部と凹部の高低差を測定する。
上記の視野とは異なる視野5点の観察を行い、各視野での基板における凸部と凹部との高低差を求める。異なる視野での基板における凸部と凹部との高低差の平均値を、基板における凸部と凹部との高低差とする。
【0071】
光触媒材の製造方法
本発明による光触媒材の製造方法としては、先ず、基板に、光触媒粒子と、親水性バインダーと、分散媒とを含む組成物を適用する。次いで、基板上に適用された前記組成物を乾燥し、組成物に有機物からなる増粘剤、結着剤、または造孔剤を含む場合は、さらに焼成して、光触媒層を形成する。
【0072】
本発明において、光触媒粒子と親水性バインダーを分散媒中で分散させる方法として、光触媒粒子と親水性バインダーのそれぞれの粒子の表面に、水や有機溶媒などの溶媒あるいは分散剤を吸着させる方法を使用することができる。これにより、各粒子が一次粒子に近い形態で、安定に混合された状態を実現することが可能となる。つまり、光触媒粒子同士、あるいは親水性バインダー同士の凝集を抑制することができる。従って、光触媒層においては、例えば、光触媒粒子が親水性バインダーを介して近い距離で存在できる。そのため、水分解反応が促進され、水素の発生効率を高めることができる。分散方法としては、超音波照射、ボールミルおよびビーズミル等の機械分散法を用いることができる。なお、分散工程に際し、親水性バインダーの代わりに、その前駆体、具体的には、Si、Ti、Zr、Ta、Nb、Fe、Sn等の金属を含む酸化物、水酸化物または複合酸化物を形成可能な前駆体を用いてもよい。金属の代わりに、金属の塩を用いてもよい。
【0073】
本発明において、分散媒としては、光触媒粒子と親水性バインダーを分散することが可能な溶媒を用いることができる。本発明の好ましい態様によれば、このような溶媒として、水あるいは有機溶媒を用いることができる。有機溶媒は乾燥し易いため水より好ましく、例えば、α―テルピネオールやブチルカルビトール等を用いることができる。
【0074】
本発明において、組成物には、添加剤として、分散剤、増粘剤、pH調整剤、または造孔剤を使用してもよい。造孔剤は、基材に適用された分散液を乾燥させ、その後焼成する際に、光触媒層から消失するような成分であることが好ましく、具体的には有機物であることが好ましい。これにより、得られる光触媒層を多孔質化することができる。造孔剤として、より好ましくは、ポリビニルブチラール、エチルセルロース、ポリアクリル系樹脂などのポリマーを用いることができる。
【0075】
本発明にあっては、光触媒粒子と親水性バインダーとが分散された分散液を基板に適用する際に、光触媒層の表面に凹凸形状を形成するための作業が行われる。本発明において、分散液を基板へ適用する方法としては、スクリーン印刷法、樹脂型または金型を用いた転写法が好ましく利用される。スクリーン印刷法においては、光触媒層の表面に目的の凹凸形状を形成可能な形状を有するスクリーンメッシュ等を用いて、基板に分散液をスクリーン印刷することにより、光触媒層の表面に目的の凹凸形状を形成する。転写法においては、光触媒層の表面に目的の凹凸形状を形成可能な形状を有する樹脂型または金型を用いて、基板に分散液を転写することにより、光触媒層の表面に目的の凹凸形状を形成する。
【0076】
上記方法で凹凸形状を形成するために、組成物は適当な粘弾特性を有することが好ましく、ペースト状であることがより好ましい。
【0077】
本発明において、基板を前処理してもよい。前処理として、洗剤・研磨剤による洗浄、ブラストや化学処理による粗面化が挙げられる。また、光触媒層を後処理してもよい。後処理として、凹凸形状が形成された光触媒層に対して、エッチングによる多孔質化を行ってもよい。
【0078】
水分解用光触媒モジュール
本発明による水分解用光触媒モジュールは、上述の光触媒材を含む。本発明の好ましい態様によれば、本発明による水分解用光触媒モジュールは、概ね透明な光入射面を有し、モジュール内部に設置した光触媒材に光が入射する構造を有する。光源として、太陽光、LED、キセノンランプ、水銀灯を用いることができる。光入射面は、ガラスや透明樹脂製の窓であってもよい。また、本発明による水分解用光触媒モジュールは、光触媒材が常に水と接触可能なように、水を封入可能な密閉パネル形状を有している。また、本発明のより好ましい態様によれば、本発明による水分解用光触媒モジュールは、水分解反応の進行により減少する水を遂次的に追加供給可能な通水孔(水流入口、水流出口)等の機構をさらに有することが好ましい。例えば、水流出口は、発生した水素ガス及び/又は酸素ガスを分離するための手段に連結する孔として作用してもよい。このような構成の水分解光触媒モジュールとすることで、実用的に利用可能な水素を製造することが可能となる。
【0079】
水素製造システム
本発明による水素製造システムは、前記水分解用光触媒モジュールを含む。本発明の好ましい態様によれば、本発明による水素製造システムは、水の供給装置、水中の不純物をある程度除去するためのろ過装置、水分解光触媒モジュール、水素分離装置、および水素貯蔵装置からなるものである。水素分離装置は、爆発を抑制するため、酸素含有量を低下させる機能を有し、ゼオライト、炭素、またはシリカ等のガス分離膜を備える。このような構成の水素製造システムとすることで、再生可能エネルギーである太陽光と水から水素を実用的に製造可能なシステムを実現することが可能となる。
【実施例】
【0080】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0081】
実施例1
1-1.光触媒粒子の調製
1-1-1 AlドープSrTiO
3
(STOA)の合成
SrCl2(15.8g)、SrTiO3(1.8g)、Al2O3(20.4mg)の混合粉末をメノウ乳鉢に入れ、15分間すり潰し混合した。この粉末をるつぼに移し、電気炉で焼成した(昇温時間115分間、温度1150℃、10 時間焼成)。
焼成後のるつぼを室温まで放冷し、生成物とフラックス(SrCl2)の混合物である残留物を超純水で洗浄することでフラックスを溶解除去した後、乾燥機で乾燥(80℃、終夜乾燥)させることで、STOAを得た。
【0082】
1-1-2 STOA粒子へのRhCrO
x
助触媒の担持
1-1-1で得られたSTOA(和光)をメノウ乳鉢ですり潰してから、蒸発皿に0.3gを入れて蒸留水(0.5ml)を加えて懸濁させた。一方、Na3[RhCl6]・nH2O(9.8mg)、Cr(NO3)6・9H2O(11.5mg)を蒸留水(0.5ml)にそれぞれ溶かし、Rhイオン含有溶液、Crイオン含有溶液を作製した。Rhイオン含有溶液0.1ml、Crイオン含有溶液0.1mlをSTOA懸濁液に加えた。
次に、100℃に加熱したホットプレート上に、上記懸濁液の入った蒸発皿をのせ、溶媒が蒸発するまで分散溶液を撹拌しながら加熱した。得られた粉末を磁性るつぼに移し、電気炉で焼成し、RhCrOx/STOA粒子を得た(昇温時間35分間、温度350℃、1 時間焼成)。
【0083】
1-2.光触媒材の作製
1-2-1 スクリーン印刷用ペースト(組成物)の作製
1-1-2で得られたRhCrOx/STOA粒子5gおよびイソプロピルアルコール分散シリカ粒子(日産化学製、“IPA-ST-UP”)6.7g(固形分1g)および有機ビヒクル(綜研化学製、“SPB-1”、アクリル樹脂+α‐テルピネオール)4gを混合し、イソプロピルアルコールを蒸発留去することで印刷用ペーストを作製した。
【0084】
1-2-2 スクリーン印刷
1-2-1で得られたペーストを、ホウケイ酸ガラス基板(30×30×0.55mm角)に、メッシュスクリーン(#80メッシュ:メッシュ線径80μm、紗厚225μm、)を用いてスクリーン印刷により製膜(製膜面積25mm角)し、100℃で30分乾燥後、350℃で4時間焼成することで、断面が山型の凹凸形状である光触媒層を作製し、実施例1の光触媒材を得た。
【0085】
実施例2
メッシュスクリーンを#325メッシュ:メッシュ線径28μm、紗厚77μm、に変更した以外は実施例1と同様に作製して、実施例2の光触媒材を得た。
【0086】
実施例3
スクリーン印刷の工程を以下の条件としたこと以外は実施例1と同様に作製して実施例3の光触媒材を得た。
1-2-1で得られたペーストを、ホウケイ酸ガラス基板(30×30×0.55mm角)にメッシュスクリーン(#325メッシュ:メッシュ線径28μm、紗厚77μm)を用いてスクリーン印刷により製膜(製膜面積25mm角)し、100℃で30分乾燥させた。この膜上に、ドット型メッシュスクリーン(孔径300μm、厚さ85μm)でドットパターンを製膜した。最後に、350℃で4時間焼成することで、実施例3の光触媒材を作製した。
【0087】
実施例4
ドット型メッシュスクリーンを、孔径1000μm、厚さ85μmのものに変えた以外は実施例3と同様に作製して、実施例4の光触媒材を得た。
【0088】
実施例5
5-1.光触媒粒子の作製
5-1-1 第1の光触媒粒子(3%RhドープSrTiO
3
粒子)の作製
3%RhドープSrTiO3(SrTi0.97Rh0.03O3)粒子を固相法により作製した。具体的には、SrCO3(和光純薬製,99.9%)、TiO2(高純度化学研究所製,99.99%)、およびRh2O3(和光純薬製)を1.05:0.97:0.03のモル比でアルミナ製乳鉢に入れ、メタノールを添加した後、2時間混合した。次いで、得られた混合物をアルミナ製るつぼに入れて、900℃で1時間仮焼きした後、1050℃で10時間本焼成した。焼成後、焼成体を室温まで放冷させた後、解砕して、3%RhドープSrTiO3(SrTi0.97Rh0.03O3)粒子からなる粉末を作製した。
【0089】
SEM観察により3%RhドープSrTiO3粒子(第1の光触媒粒子)の平均一次粒子径を算出した。具体的には、SEM(株式会社日立製作所製、“S-4100”)により、倍率40000倍で観察した際の結晶粒子50個の円形近似による平均値を一次粒子径とした。その結果、3%RhドープSrTiO3粒子の平均一次粒子径は約500nmであった。
3%RhドープSrTiO3粒子のバンド位置は、Wang et al., J.Catal. 305-315, 328 (2015)を参照して以下のとおりとみなした。
価電子帯上端:-6.6eV (vs.真空準位)
伝導帯下端:-4.1eV (vs.真空準位)
なお、3%RhドープSrTiO3粒子における価電子帯上端とは、SrTiO3のバンドギャップ内に生じた、ドープされたRh3+由来のドナー軌道の上端に由来するものであると考えられる。
【0090】
5-1-2 第2の光触媒粒子(CoOx担持BiVO
4
粒子)の作製
CoOxが担持されたBiVO4粒子を液固相法により作製した。具体的には、まず、K2CO3(関東化学製,99.5%)およびV2O5(和光純薬製,99.0%)をK:V=3.03:5 (mol比)になるようにメノウ乳鉢に入れ、エタノール(10mL)を添加した後30分間混合した。次いで、得られた混合物を磁性るつぼに入れて、電気炉にて大気中450℃で5時間焼成した。焼成後、焼成体を室温まで放冷させた後、解砕した。
【0091】
得られた粉末を、100mlの水およびBi(NO3)3・5H2O(和光,99.9%)が入った300mL三角フラスコに入れて(Bi : V=1 :1)、70℃で10時間、攪拌子を用いて1500 rpmで撹拌した。得られた沈殿物を吸引濾過により回収して水洗浄を行った後、乾燥器にて60℃で12時間乾燥させて、BiVO4粉末を得た。
【0092】
得られたBiVO4粉末0.5gを磁性るつぼに入れ、助触媒の原料としてCoOが0.5wt%になるように、Co(NO3)2(和光,99.5%)を磁性るつぼに入れ、純水を少量加えた。超音波でBiVO4粉末を十分に懸濁した後、湯浴で蒸発乾燥させた。最後に、電気炉にて大気中300℃で2時間焼成した。これにより、酸素発生用助触媒としてCoOxが担持されたBiVO4粉末を作製した。
【0093】
SEM観察によりCoOxが担持されたBiVO4粒子(第2の光触媒粒子)の平均一次粒子径を算出した。その結果、平均一次粒子径は約500nmであった。
BiVO4のバンド位置は、Wang et al., J.Catal. 305-315, 328 (2015)を参照して以下のとおりとみなした。
価電子帯上端:-6.8eV(vs.真空準位)
伝導帯下端:-4.6eV(vs.真空準位)
【0094】
5-2.光触媒材の作製
5-2-1 スクリーン印刷用ペースト(組成物)の作製
5-1-1で得られた第1の光触媒粒子と、5-1-2で得られた第2の光触媒粒子とを、1:1の割合で合計量が0.2gとなるように秤量した。これと、2-プロパノール分散ITO粒子スラリー(ITO組成:In1.8Sn0.2O3、ITO一次粒子径:約20nm)0.25g(固形分0.05g)と、有機分散媒0.75gとを混合し、2-プロパノールを蒸発留去することで印刷用ペーストを作製した。なお、有機分散媒としては、α-テルピネオール(関東化学製)と、2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール(和光純薬製)と、ポリアクリル樹脂(SPB-TE1、綜研化学製)とが、この順に重量比で、62.5:12.5:25.0の割合で混合されたものを用いた。
【0095】
5-2-2 スクリーン印刷
5-2-1で得られたペーストを、ホウケイ酸ガラス基板(30×30×0.55mm角)に、メッシュスクリーン(#80メッシュ:メッシュ線径80μm、紗厚225μm、)を用いてスクリーン印刷により製膜(製膜面積25mm角)し、100℃で30分乾燥後、350℃で4時間焼成することで、断面が山形の凹凸形状である光触媒層を作製し、実施例5の光触媒材を得た。
【0096】
実施例6
メッシュスクリーンを#325メッシュ:メッシュ線径28μm、紗厚77μm、に変更した以外は実施例5と同様に作製して、実施例6の光触媒材を得た。
【0097】
実施例7
スクリーン印刷の工程を以下の条件としたこと以外は実施例5と同様に作製して実施例7の光触媒材を得た。
5-2-1で得られたペーストを、ホウケイ酸ガラス基板(30×30×0.55mm角)にメッシュスクリーン(#325メッシュ:メッシュ線径28μm、紗厚77μm)を用いてスクリーン印刷により製膜(製膜面積25mm角)し、100℃で30分乾燥させた。この膜上に、ドット型メッシュスクリーン(孔径300μm、厚さ85μm)でドットパターンを製膜した。最後に、350℃で4時間焼成することで、実施例7の光触媒材を作製した。
【0098】
比較例1
実施例1のスクリーン印刷の工程を、以下の条件としたこと以外は実施例1と同様に作製して比較例1の光触媒材を得た。
ホウケイ酸ガラス基板(30×30×0.55mm角)に、メタルフレーム(30mm×30mm×225μmのシートに25mm角の開口を設けたもの)を置き、開口部に1-2-1で得られたペーストを適量のせ、メタルスキージで余分なペーストを除去した後、メタルフレームを除去した。これにより得られた製膜体を、100℃で30分乾燥後、350℃で4時間焼成することで、表面が平滑な光触媒層を備える比較例1の光触媒材を得た。
【0099】
比較例2
実施例5のスクリーン印刷の工程を、比較例1に記載の条件としたこと以外は実施例5と同様に作製して、表面が平滑な光触媒層を備える比較例2の光触媒材を得た。
【0100】
評価
1.光触媒層における凸部と凹部との高低差の測定
得られた光触媒材において、光触媒層における凸部と凹部との高低差を測定した。具体的には、レーザー顕微鏡(オリンパス製、OLS2000)に倍率10倍の光学レンズを装着して、光触媒層(2.5cm角)における約1.3mm角の視野の観察を行い、光触媒層表面の三次元画像を得た。得られた画像において、任意に選択した5つの凸部の各頂点又は頂上部までの高さ(H11S)を測定し、それらの平均値(H11S0)を求めた。また、得られた画像において、任意に選択した5つの凹部の各底点又は底部までの高さ(H12B)を測定し、それらの平均値(H12B0)を求めた。H11S0-H12B0により、約1.3mm角の視野での光触媒層における凸部と凹部との高低差を求めた。
上記の視野とは異なる視野でさらに4つの観察を行い、各視野での光触媒層における凸部と凹部との高低差を求めた。合計5つの異なる視野での光触媒層における凸部と凹部との高低差の平均値を、光触媒層における凸部と凹部との高低差とした。
【0101】
なお、得られた各光触媒材において、使用したホウケイ酸ガラス基板の表面は平滑である、すなわち、基板が光触媒層に対して平面とみなせるため、評価1.で求められた光触媒層における凸部の高さの平均値(H11S0)を、光触媒層における凸部の厚さの平均値とみなした。同様に、評価1.で求められた光触媒層における凹部の高さの平均値(H12B0)を、光触媒層における凹部の厚さの平均値とみなした。
【0102】
2.光触媒層における凸部のピッチの測定
評価1.で得られた三次元画像において、任意に選択した5つの凸部の各頂点又は頂上部の間のピッチの平均値を求め、約1.3mm角の視野での光触媒層における凸部のピッチとした。
上記の視野とは異なる視野でさらに4つの観察を行い、各視野での光触媒層における凸部のピッチを求めた。合計5つの異なる視野での光触媒層における凸部のピッチの平均値を、光触媒層における凸部のピッチとした。
【0103】
3.光触媒層の表面の算術平均高さ(Sa)の測定
評価1.で得られた三次元画像を用い、ISO 25178に準拠して、約1.3mm角の視野での光触媒層の表面の算術平均高さ(Sa)を求めた。
上記の視野とは異なる視野でさらに4つの観察を行い、各視野での光触媒層の表面の算術平均高さ(Sa)を求めた。合計5つの異なる視野での光触媒層の表面の算術平均高さ(Sa)の平均値を、光触媒層の表面の算術平均高さ(Sa)とした。
【0104】
4.光触媒活性の測定
ホウケイ酸ガラス製上方照射用の窓付きのガラスフラスコに、光触媒材と、超純水100mlを入れて、反応溶液とした。この反応溶液を入れたガラスフラスコを閉鎖循環装置(幕張理化学製)に装着し、反応系内の雰囲気をアルゴン置換した(アルゴン圧:10kPa)。アルミニウム製全反射板を装着した300Wキセノンランプ(Cermax製、PE-300BF)により、紫外および可視光をフラスコのホウケイ酸ガラス上部窓側から照射した。光照射した後5時間の、水が還元されて生成する水素の発生量および水が酸化されて生成する酸素の発生量を、ガスクロマトグラフ(島津製作所製、GC-8A、TCD検出器、MS-5Aカラム)により経時的に調べた。
【0105】
5.気泡の大きさの測定
光触媒材の表面から生成する気泡のサイズを以下の方法で測定した。レーザー顕微鏡(オリンパス製、OLS2000)に倍率10倍の光学レンズを装着して、上記の光触媒活性評価において膜表面から連続的に生成する気泡に焦点を当てた条件で、光触媒層(2.5cm角)における約1.3mm角の視野の観察を行った。間欠撮影した観察写真5点における、膜表面から連続的に生成する気泡のサイズを測定し、観察された気泡サイズの平均値を算出した。
【0106】
結果
評価1~4の結果は、表1に示されるとおりであった。
同一の基材および同一組成の光触媒層を備える、実施例1の光触媒材と比較例1の光触媒材を対比することにより、光触媒層の表面形状を、平滑形状から凹凸形状に変えるだけで、2倍程度の水素発生活性が得られることが確認された。
【0107】
【0108】
実施例1および比較例1について、評価5の気泡の大きさを測定した。結果は、実施例1での気泡サイズは、平均50μmであり、比較例1の気泡サイズは、平均800μmであった。
【符号の説明】
【0109】
100 光触媒材
1 光触媒層
11 凸部
11S 凸部の頂点又は頂上部
12 凹部
12B 凹部の底点又は底部
2 絶縁性の基板
3 光触媒粒子
4 親水性バインダー
5 水
6 細孔
T11 凸部11の厚さ
T12 凹部12の厚さ
D1 光触媒層における凸部と凹部との高低差
D2 基板2における凸部と凹部との高低差