(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】ペプチド融合タンパク質
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20230104BHJP
C07K 17/00 20060101ALI20230104BHJP
C07K 1/22 20060101ALI20230104BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20230104BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20230104BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230104BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20230104BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K17/00
C07K1/22
C12N15/62 Z
C12P21/02 C
C12N15/13
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2020534727
(86)(22)【出願日】2019-08-01
(86)【国際出願番号】 JP2019030115
(87)【国際公開番号】W WO2020027237
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2020-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2018145323
(32)【優先日】2018-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊東 祐二
(72)【発明者】
【氏名】内村 誠一
(72)【発明者】
【氏名】大倉 裕道
【審査官】竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-244285(JP,A)
【文献】国際公開第2014/115229(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/200461(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/043629(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/052073(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/025300(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/081037(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/053353(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/027796(WO,A1)
【文献】特表2011-521653(JP,A)
【文献】特表2015-501299(JP,A)
【文献】J. Pept. Sci.,2017年,23(10),pp.790-797
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの特異的結合能を有するペプチドと緑色蛍光タンパク質(GFP)
若しくはその変異体、又は赤色蛍光タンパク質(DsRed)とを含むペプチド融合タンパク質であって、
前記ペプチドが、直接又はペプチドリンカーを介して、前記GFPの配列番号32記載のアミノ酸配列又は前記GFP変異体の対応するアミノ酸配列における
第172番目のアミノ酸と第173番目のアミノ酸との間に挿入
され、且つ前記GFP又はその変異体のC末端に連結されるか、あるいは、
前記ペプチドが、直接又はペプチドリンカーを介して、前記DsRedの配列番号61記載の
アミノ酸配列における
第168番目のアミノ酸と第169番目のアミノ酸との間に挿入
され、且つ前記DsRedのC末端に連結され
ており、
前記特異的結合能を有するペプチドは、
配列番号18記載のアミノ酸配列から成る、環状構造を有するIgG結合性ペプチドであって、該ペプチドの外側の2つのシステイン残基がジスルフィド結合を介して結合している、前記IgG結合性ペプチド、
配列番号50記載のアミノ酸配列から成るIgA結合性ペプチド、及び
配列番号51記載のアミノ酸配列から成るIgY結合性ペプチド
から成る群より選択される抗体結合性ペプチドであり、且つ、
前記GFP変異体は、Superfolder GFP又はSuperfolder黄色蛍光タンパク質(YFP)である、
前記ペプチド融合タンパク質。
【請求項2】
前記ペプチドリンカーが1以上のアミノ酸配列:GGGGS(配列番号35)を含む、
請求項1記載のペプチド融合タンパク質。
【請求項3】
前記ペプチドリンカーが前記ペプチドのN末端及び/又はC末端に連結されている、
請求項1又は2記載のペプチド融合タンパク質。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載のペプチド融合タンパク質を固定化した固相担体。
【請求項5】
前記ペプチド融合タンパク質と固相の間にスペーサーを有する、
請求項4記載の固相担体。
【請求項6】
請求項4又は5記載の固相担体を含む、
抗体分離用カラム。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項記載のペプチド融合タンパク質をコードする核酸を有する細胞を培養する工程を含む、ペプチド融合タンパク質の製造方法。
【請求項8】
前記細胞が大腸菌である、
請求項7記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばペプチド融合タンパク質、該ペプチド融合タンパク質を含む固相担体、該固相担体を含む標的分子分離用カラム、該固相担体又はカラムを含むキット、及び該固相担体又はカラムを用いる標的分子の精製方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
IgG抗体等の抗体を含むタンパク質は、現在最も注目されているバイオ医薬品の1つである。例えば、近年、IgG抗体を中心とした抗体医薬が、医薬分野に利用されるようになり、工業的、製薬的な利用における重要性がますます高まっている。抗体の精製には、プロテインAカラムが中心的な役割を果たしており、多くの抗体医薬の製造メーカーは、このカラムを中心とした精製システムを導入している。当該プロテインAは、遺伝子組換え法によって大腸菌において大量に生産されている。
【0003】
一方、本発明者等は、これまでに、ジスルフィド結合で環化された特定の配列を含むペプチドリガンド(特許文献1)、又はペプチド中のシステイン残基におけるスルフィド基を、特定の構造を有するリンカーによって架橋したIgG結合ペプチド(特許文献2)によりIgGを精製することができることを報告する。
【0004】
これらペプチドリガンド又はIgG結合ペプチドは、プロテインAに代わる新たなアフィニティーカラムに利用できる一方で、化学合成により製造されるものであり、プロテインAに比べて生産コストが高いという問題を抱えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2013/027796号
【文献】国際公開第2018/092867号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の実情に鑑み、IgG等の抗体を含む標的分子の精製のために用いることができる特異的結合能を有するペプチドを低コストで生産できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、特異的結合能を有するペプチドを大腸菌等の宿主細胞で産生性が高いタンパク質との融合タンパク質として、化学合成に比べて低コストな遺伝子組換え法によって生産できることを見出した。また、当該融合タンパク質は、特異的結合能を有するペプチドを2以上含むことで、アビディティ効果により当該融合タンパク質の標的分子結合能を向上させ、特異的結合能を有するペプチド単独、又は1つの特異的結合能を有するペプチドを含む融合タンパク質と比較して標的分子結合に関する解離速度が遅くなることで高親和性となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下を包含する。
(1)1以上の特異的結合能を有するペプチドと足場タンパク質とを含むペプチド融合タンパク質であって、前記ペプチドが、直接又はペプチドリンカーを介して、前記足場タンパク質のアミノ酸配列中に挿入されているか、並びに/又は前記足場タンパク質のN末端及び/若しくはC末端に連結されている、前記ペプチド融合タンパク質。
(2)前記特異的結合能を有するペプチドが抗体結合性ペプチドである、(1)記載のペプチド融合タンパク質。
(3)前記抗体結合性ペプチドが、IgG結合性ペプチド、IgA結合性ペプチド及びIgY結合性ペプチドから成る群より選択される、(2)記載のペプチド融合タンパク質。
(4)前記IgG結合性ペプチドが環状構造を有するペプチドである、(3)記載のペプチド融合タンパク質。
(5)2以上の前記ペプチドを含む、(1)~(4)のいずれか1記載のペプチド融合タンパク質。
(6)前記足場タンパク質がβバレル構造を有するタンパク質である、(1)~(5)のいずれか1記載のペプチド融合タンパク質。
(7)前記βバレル構造を有するタンパク質が緑色蛍光タンパク質(GFP)、赤色蛍光タンパク質(DsRed)又はそれらの変異体である、(6)記載のペプチド融合タンパク質。
(8)前記GFP変異体がSuperfolder GFP又はSuperfolder黄色蛍光タンパク質(YFP)である、(7)記載のペプチド融合タンパク質。
(9)前記ペプチドリンカーが1以上のアミノ酸配列:GGGGS(配列番号35)を含む、(1)~(8)のいずれか1記載のペプチド融合タンパク質。
(10)前記ペプチドリンカーが前記ペプチドのN末端及び/又はC末端に連結されている、(1)~(9)のいずれか1記載のペプチド融合タンパク質。
(11)(1)~(10)のいずれか1記載のペプチド融合タンパク質を固定化した固相担体。
(12)前記ペプチド融合タンパク質と固相の間にスペーサーを有する、(11)記載の固相担体。
(13)(11)又は(12)記載の固相担体を含む、標的分子分離用カラム。
(14)(1)~(10)のいずれか1記載のペプチド融合タンパク質をコードする核酸を有する細胞を培養する工程を含む、ペプチド融合タンパク質の製造方法。
(15)前記細胞が大腸菌である、(14)記載の方法。
【0009】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2018-145323号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、標的分子精製のために用いることができる特異的結合能を有するペプチドの製造の低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1-1】実施例で作製したIgG結合性ペプチド融合タンパク質のアミノ酸配列及び当該融合タンパク質をコードするDNA配列を示す。
【
図2】実施例1のIgG結合性ペプチド融合タンパク質(sfGFP-C-1Opt1)及び比較例1の足場タンパク質(sfGFP)のIgGへの親和性測定結果を示す。
【
図3】実施例2のIgG結合性ペプチド2価融合タンパク質(sfGFP-N C-2Opt1GSl2、sfGFP-173 C-2Opt1GSl2、sfGFP-173 C-2Opt1GSl3)及び比較例2のペプチド(アミノ酸配列:配列番号18)のIgGへの親和性測定結果を示す。
【
図4】実施例3のIgG結合性ペプチド2価融合タンパク質(sfGFP-173 C-2Opt1GSl2)、及び比較例3のペプチド(アミノ酸配列:配列番号18)の動的結合容量(DBC)測定結果を示す。
【
図5】実施例4における、実施例3で作製したカラムによるγ-グロブリンの吸脱着に関するクロマトグラムを示す。
【
図6】実施例5のIgG結合性ペプチド融合タンパク質及び比較例4の足場タンパク質(sfYFP)のIgGへの親和性測定結果を示す。
【
図7】実施例6のIgA結合性ペプチド融合タンパク質のIgAへの親和性測定結果、及びIgY結合性ペプチド融合タンパク質のIgYへの親和性測定結果を示す。
【
図8】実施例7における、IgA結合性ペプチド融合タンパク質によるIgAの吸脱着、およびIgY結合性ペプチド融合タンパク質によるIgYの吸脱着に関するクロマトグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明に係るペプチド融合タンパク質は、1以上の特異的結合能を有するペプチドと足場タンパク質とを含むものである。本発明に係るペプチド融合タンパク質は、化学合成ではなく、遺伝子組換え法により製造することができ、低コスト化を図ることができる。
【0014】
本発明に係るペプチド融合タンパク質に含まれる特異的結合能を有するペプチドについて、以下に詳細に説明する。
【0015】
本発明における特異的結合能を有するペプチドとは、標的分子に特異的に結合し得るアミノ酸配列を有するペプチドのことをいう。例えば、特定の標的分子として、抗体と特異的に結合する抗体結合性ペプチド(例えば、IgG結合性ペプチド、IgA結合性ペプチド、IgY結合性ペプチド)などが挙げられる。
【0016】
本明細書中で使用する「IgG」又は「IgA」は、哺乳動物、例えばヒト及びチンパンジー等の霊長類、ラット、マウス、及びウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、及びヤギ等の家畜動物、並びにイヌ及びネコ等の愛玩動物のIgG又はIgA、好ましくはヒトのIgG(IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4)又はIgAを指すものとする。本明細書におけるIgGは、さらに好ましくは、ヒトIgG1、IgG2、若しくはIgG4、又はウサギIgGであり、特に好ましくはヒトIgG1、IgG2、又はIgG4である。本明細書中で使用する「IgY」は、ニワトリ由来の抗体である。
【0017】
本発明に係るペプチド融合タンパク質に含まれるIgG結合性ペプチドは、IgGのFcドメインに結合するものである。
【0018】
一態様において、本発明に係るペプチド融合タンパク質に含まれるIgG結合性ペプチドとしては、環状構造を有するペプチド(環状ペプチド)が挙げられ、例えば、下記の式I:
(X1-3)-C-(X2)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-(X1-3) (I)
[式中、
Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はアルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基又はアスパラギン残基であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、且つ
Wはトリプトファン残基である]
によって表される、13~17アミノ酸残基から成るアミノ酸配列を含み、且つ該ペプチドの外側の2つのシステイン残基がジスルフィド結合を介して結合している、ペプチドである。
【0019】
上記式で、N末端又はC末端のX1-3という表記は、システイン(C又はCys)以外の独立的に任意のアミノ酸残基Xが1~3個連続していることを意味し、それを構成するアミノ酸残基は同じか又は異なる残基であるが、好ましくは3個全てが同じ残基でない配列から成る。同様に、X2もシステイン(C又はCys)以外の独立的に任意のアミノ酸残基Xが2個連続していることを意味し、それを構成するアミノ酸残基は同じか又は異なる残基であるが、好ましくは当該2個連続しているアミノ酸残基は同じ残基でない配列から成る。
【0020】
式Iのペプチドのアミノ酸配列においてアミノ酸残基Xをさらに特定した式I'及び式I''で表されるペプチドを以下に示す。
【0021】
すなわち、式I'で表されるペプチドは、
(X1-3)-C-(X1)-Y-H-(Xaa1)-G-N-L-V-W-C-(X1-3) (I')
[式中、
Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Yはチロシン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はアルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基又はアスパラギン残基であり、
Gはグリシン残基であり、
Nはアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、且つ
Wはトリプトファン残基である]
によって表される、13~17アミノ酸残基から成るアミノ酸配列を含む。
【0022】
式I''で表されるペプチドは、
(X1-3)-C-A-(X1)-H-(Xaa1)-G-E-L-V-W-C-(X1-3) (I'')
[式中、
Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Aはアラニン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はアルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基又はアスパラギン残基であり、
Gはグリシン残基であり、
Eはグルタミン酸残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、且つ
Wはトリプトファン残基である]
によって表される、13~17アミノ酸残基から成るアミノ酸配列を含む。
【0023】
また、式Iのペプチドのアミノ酸配列においてアミノ酸残基Xをさらに特定した式IIで表されるペプチドを以下に示す。
【0024】
すなわち、式IIで表されるペプチドは、
(X1-3)-C-(Xaa3)-(Xaa4)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-(X1-3) (II)
[式中、
Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はアルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基又はアスパラギン残基であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、
Wはトリプトファン残基であり、
Xaa3はアラニン残基、セリン残基又はトレオニン残基であり、且つ
Xaa4はチロシン残基又はトリプトファン残基である]
によって表される、13~17アミノ酸残基から成るアミノ酸配列を含む。
【0025】
上記の式I'、式I''及び式IIのペプチドのアミノ酸配列において、17アミノ酸残基とした場合の、N末端から1番目及び2番目並びに16番目及び17番目のアミノ酸残基Xは欠失していてもよく、そのようなペプチドは13アミノ酸長から成る。
【0026】
本明細書で使用する「17アミノ酸残基とした場合の」とは、ペプチドのアミノ酸残基をアミノ酸番号で呼ぶときに、式Iのペプチドについて最長のアミノ酸長である17残基のN末端から順番に1番目から17番目まで番号付けするために便宜的に表現した用語である。
【0027】
また、式Iのペプチドのアミノ酸配列においてアミノ酸残基Xをさらに特定した式IIIで表されるペプチドを以下に示す。
【0028】
すなわち、式IIIで表されるペプチドは、
(X1-3)-C-A-Y-H-(Xaa1)-G-E-L-V-W-C-(X1-3) (III)
[式中、
Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Aはアラニン残基であり、
Yはチロシン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はアルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基又はアスパラギン残基であり、
Gはグリシン残基であり、
Eはグルタミン酸残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、且つ
Wはトリプトファン残基である]
によって表される、13~17アミノ酸残基から成るアミノ酸配列を含む。
【0029】
上記の式IIIのペプチドのアミノ酸配列において、17アミノ酸残基とした場合の、N末端から1番目及び2番目、並びに16番目及び17番目のアミノ酸残基Xは欠失していてもよく、そのようなペプチドは13アミノ酸長からなってよい。
【0030】
さらに、上記の各式のペプチドのアミノ酸配列のシステイン(C)以外のアミノ酸残基、すなわち、17アミノ酸残基とした場合のN末端から1~3、5、6、15~17番目の各アミノ酸残基は、以下のものから選択されることが好ましい。ここで、各大文字のアルファベットは、アミノ酸の一文字表記である:
1番目のアミノ酸残基= S、G、F又は、無し、
2番目のアミノ酸残基= D、G、A、S、P、又は、無し、
3番目のアミノ酸残基= S、D、T、N、E又はR、
15番目のアミノ酸残基= S、T又はD、
16番目のアミノ酸残基= H、G、Y、T、N、D、F、又は、無し、
17番目のアミノ酸残基= Y、F、H、M又は、無し、
5番目のアミノ酸残基= A又はT、
6番目のアミノ酸残基= Y又はW。
【0031】
また、式Iのペプチドのアミノ酸配列においてアミノ酸残基Xをさらに特定した式IVで表されるペプチドを以下に示す。
【0032】
すなわち、式IVで表されるペプチドは、
D-C-(Xaa3)-(Xaa4)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-T (IV)
[式中、
Dはアスパラギン酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はアルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基又はアスパラギン残基であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、
Wはトリプトファン残基であり、
Tはトレオニン残基であり、
Xaa3はアラニン残基又はトレオニン残基であり、且つ、
Xaa4はチロシン残基又はトリプトファン残基である]
によって表される、13アミノ酸残基から成るアミノ酸配列を含む。
【0033】
式Iのペプチドの具体例の幾つかを以下の1)~17)に列挙するが、これらに制限されないことはいうまでもない:
1)DCAYH(Xaa1)GELVWCT(配列番号1)、
2)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号2)、
3)RCAYH(Xaa1)GELVWCS(配列番号3)、
4)GPRCAYH(Xaa1)GELVWCSFH(配列番号4)、
5)SPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号5)、
6)GDDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号6)、
7)GPSCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号7)、
8)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCSFH(配列番号8)、
9)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTHH(配列番号9)、
10)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFY(配列番号10)、
11)SPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFY(配列番号11)、
12)SDDCAYH(Xaa1)GELVWCTFY(配列番号12)、
13)RGNCAYH(Xaa1)GQLVWCTYH(配列番号13)、
14)DCTYH(Xaa1)GNLVWCT(配列番号14)、
15)DCAYH(Xaa1)GNLVWCT(配列番号15)、
16)DCTYH(Xaa1)GELVWCT(配列番号16)、及び
17)DCAWH(Xaa1)GELVWCT(配列番号17)
(式中、Xaa1はアルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基又はアスパラギン残基である)。
【0034】
式Iのペプチドの好ましい具体例として、
1)DCAYH(Xaa1)GELVWCT(配列番号1、但し、Xaa1はR)、
2)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号2、但し、Xaa1はR、L又はK)、及び
4)GPRCAYH(Xaa1)GELVWCSFH(配列番号4、但し、Xaa1はR)、
が挙げられ、特に好ましい例として、GPDCAYHRGELVWCTFH(配列番号18)が挙げられる。
【0035】
また、一態様において、本発明に係るペプチド融合タンパク質に含まれるIgG結合性ペプチドは、広義の一次構造として、下記の式V:
D-C-(Xaa2)-(Xaa3)-(Xaa4)-(Xaa1)-G-(Xaa5)-L-(Xaa6)-W-C-T (V)
[式中、
Dはアスパラギン酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Gはグリシン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Wはトリプトファン残基であり、
Tはトレオニン残基であり、
Xaa1はアルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基又はアスパラギン残基であり、
Xaa2はアラニン残基、セリン残基又はトレオニン残基であり、
Xaa3はトリプトファン残基又はチロシン残基であり、
Xaa4はヒスチジン残基、アルギニン残基、セリン残基又はトレオニン残基であり、
Xaa5はグルタミン酸残基、アスパラギン残基、アルギニン残基、又はアスパラギン酸残基であり、且つ
Xaa6はイソロイシン残基又はバリン残基である]
によって表される、13アミノ酸残基から成るアミノ酸配列を含み、且つ該ペプチドの外側の2つのシステイン残基がジスルフィド結合を介して結合している、ペプチドである。
【0036】
式Vのペプチドの具体例の幾つかを以下の18)~29)に列挙するが、これらに制限されないことはいうまでもない:
18)DCTYT(Xaa1)GNLVWCT(配列番号19)、
19)DCAYT(Xaa1)GNLVWCT(配列番号20)、
20)DCSYT(Xaa1)GNLVWCT(配列番号21)、
21)DCTWT(Xaa1)GNLVWCT(配列番号22)、
22)DCTYH(Xaa1)GNLVWCT(配列番号23)、
23)DCTYR(Xaa1)GNLVWCT(配列番号24)、
24)DCTYS(Xaa1)GNLVWCT(配列番号25)、
25)DCTYT(Xaa1)GNLVWCT(配列番号26)、
26)DCTYT(Xaa1)GELVWCT(配列番号27)、
27)DCTYT(Xaa1)GRLVWCT(配列番号28)、
28)DCTYT(Xaa1)GDLVWCT(配列番号29)、及び
29)DCTYT(Xaa1)GNLIWCT(配列番号30)
(式中、Xaa1はアルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基、又はアスパラギン残基である)。
【0037】
上記の通り、本発明におけるIgG結合性ペプチドにおいて、Xaa1は、アルギニン残基、リシン残基、ロイシン残基又はアスパラギン残基、好ましくはアルギニン残基、リシン残基又はロイシン残基である。
【0038】
本発明におけるIgG結合性ペプチドは、ヒトIgGとの結合親和性が、他のヒト免疫グロブリン(IgA、IgE、IgM)と比較して約10倍以上、好ましくは約50倍以上、より好ましくは約200倍以上高いものであり得る。IgG結合性ペプチドとヒトIgGとの結合に関する解離定数(Kd)は、表面プラズモン共鳴スペクトル解析(例えばBIACOREシステム使用)により決定可能であり、例えば1×10-1M未満、1×10-3M未満、好ましくは1×10-4M未満、より好ましくは1×10-5M未満である。本発明におけるIgG結合性ペプチドは、IgGのFcドメインに結合し得る。
【0039】
本発明におけるIgA結合性ペプチドとしては、例えば配列番号50記載のアミノ酸配列から成るペプチド等のWO 11/148952、WO 13/081037に記載のIgA結合性ペプチドが挙げられる。
【0040】
本発明におけるIgY結合性ペプチドとしては、例えば配列番号51記載のアミノ酸配列から成るペプチド等の日本国特許第6245688号公報に記載のIgY結合性ペプチドが挙げられる。
【0041】
さらに、本発明における特異的結合能を有するペプチドとしては、例えばYu-Ming Fang et al., Journal of Chromatography A, 1571(2018)1-15のTable 1に記載のペプチド(例えば配列番号62~81に記載のアミノ酸配列から成るペプチド)が挙げられる。配列番号62~81に記載のアミノ酸配列から成るペプチドのそれぞれの標的分子は以下の通りである(ペプチドのアミノ酸配列の配列番号:標的分子):
配列番号62:ヒト血清アルブミン(HSA);
配列番号63:IgG;
配列番号64:組織型プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA);
配列番号65:抗GM-CSF Mab;
配列番号66:ヒト前立腺特異抗体(PSA);
配列番号67:ヒートショックオーガナイジングタンパク質(Heat shock organizing protein);
配列番号68:フィブリノーゲン;
配列番号69:IgG;
配列番号70:IgG;
配列番号71:IgG;
配列番号72:α-アミラーゼ;
配列番号73:α-ラクトアルブミン;
配列番号74:ブドウ球菌エンテロトキシンB(SEB);
配列番号75:フォン・ヴィレブランド因子(vWF);
配列番号76:IgG;
配列番号77:IgG;
配列番号78:IgG;
配列番号79:IgG;
配列番号80:マウスIgG;
配列番号81:IgG-Fc(ヒトIgG-Fc)。
【0042】
一方、本発明に係るペプチド融合タンパク質に含まれる足場タンパク質は、特異的結合能を有するペプチドと融合し、遺伝子組換え法による製造に好適なタンパク質であれば特に限定されないが、例えば大腸菌での産生性が高いタンパク質が挙げられる。大腸菌での産生性が高いタンパク質としては、βバレル構造を有するタンパク質が挙げられる。βバレル構造を有するタンパク質は水素結合のネットワークを形成し、構造安定性が高いことから、一般的に大腸菌産生性が高いことが知られている。
【0043】
また、βバレル構造を有するタンパク質としては、βバレル構造を有する蛍光タンパク質が挙げられ、βバレル構造を有する蛍光タンパク質の例としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)、赤色蛍光タンパク質(DsRed)又はそれらの変異体が挙げられる。
【0044】
GFPをコードするcDNAは、例えば配列番号31に記載の塩基配列から成り、またGFPは、例えば配列番号32に記載のアミノ酸配列から成る。GFPの変異体としては、例えば配列番号32に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列から成り、且つGFP同様の蛍光活性を有するタンパク質が挙げられる。具体的なGFPの変異体としては、例えばSuperfolder GFP(sfGFP;例えば、cDNA:配列番号33に記載の塩基配列、アミノ酸配列:配列番号34に記載のアミノ酸配列)、青色蛍光タンパク質(BFP)、シアン色蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、sfBFP、sfCFP、sfYFP(cDNA:配列番号52に記載の塩基配列、アミノ酸配列:配列番号53に記載のアミノ酸配列)が挙げられる(Pedelacq J.D. et al., Nature Biotechnology, 2006年, vol. 24, No. 1, pp. 79-88)。sfGFPは、配列番号32に記載のアミノ酸配列において、以下のアミノ酸置換(「置換前のアミノ酸/アミノ酸位置/置換後のアミノ酸」で示す)を有するアミノ酸配列から成るGFP変異体である:S30R、Y39N、F64L、S65T、F99S、N105T、Y145F、M153T、V163A、I171V、A206V、又はこれらアミノ酸置換に加えてS2R及び/若しくはS72A。BFPは、配列番号32に記載のアミノ酸配列において、以下のアミノ酸置換(「置換前のアミノ酸/アミノ酸位置/置換後のアミノ酸」で示す)を有するアミノ酸配列から成るGFP変異体である:Y66H。CFPは、配列番号32に記載のアミノ酸配列において、以下のアミノ酸置換(「置換前のアミノ酸/アミノ酸位置/置換後のアミノ酸」で示す)を有するアミノ酸配列から成るGFP変異体である:Y66W。YFPは、配列番号32に記載のアミノ酸配列において、以下のアミノ酸置換(「置換前のアミノ酸/アミノ酸位置/置換後のアミノ酸」で示す)を有するアミノ酸配列から成るGFP変異体である:T203Y。sfBFPは、配列番号32に記載のアミノ酸配列において、上述のsfGFP及びBFPのアミノ酸置換を有するアミノ酸配列から成るGFP変異体である。sfCFPは、配列番号32に記載のアミノ酸配列において、上述のsfGFP及びCFPのアミノ酸置換を有するアミノ酸配列から成るGFP変異体である。sfYFPは、配列番号32に記載のアミノ酸配列において、上述のsfGFP及びYFPのアミノ酸置換を有するアミノ酸配列から成るGFP変異体である。
【0045】
また、βバレル構造を有する蛍光タンパク質の例としては、上記の黄色蛍光タンパク質(YFP)の変異体も挙げられ、YFPの変異体としては、例えば上記のYFPのアミノ酸配列に対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列から成り、且つYFP同様の蛍光活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0046】
さらに、βバレル構造を有する蛍光タンパク質の例としては、赤色蛍光タンパク質(DsRed)又はその変異体が挙げられる。DsRedをコードするcDNAは、例えば配列番号60に記載の塩基配列から成り、またDsRedは、例えば配列番号61に記載のアミノ酸配列から成る。DsRedの変異体としては、例えば配列番号61に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列から成り、且つDsRed同様の蛍光活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0047】
本発明に係るペプチド融合タンパク質は、以上に説明した特異的結合能を有するペプチドと足場タンパク質とを融合タンパク質として含む。特に、本発明に係るペプチド融合タンパク質は、同一の又は異なる特異的結合能を有するペプチドを2以上(例えば2~5、好ましくは2~3)含むことで、アビディティ効果により当該融合タンパク質の標的分子結合能を向上させ、特異的結合能を有するペプチド単独、又は1つの特異的結合能を有するペプチドを含む融合タンパク質と比較して標的分子結合に関する解離速度が遅くなり、高親和性となる。また、このように、本発明に係るペプチド融合タンパク質は、特異的結合能を有するペプチドを2以上含むことで標的分子に高親和性となることから、以下で説明する固相担体又は標的分子分離用カラムへの固定化量を低減でき、低コスト化を図ることができる。
【0048】
本発明に係るペプチド融合タンパク質において、特異的結合能を有するペプチドは、直接又はペプチドリンカーを介して、足場タンパク質のアミノ酸配列中に挿入されているか、並びに/又は足場タンパク質のN末端及び/若しくはC末端に連結される。
【0049】
特に、足場タンパク質がGFP又はその変異体である場合には、特異的結合能を有するペプチドは、直接又はペプチドリンカーを介して、GFPの配列番号32記載のアミノ酸配列又はGFP変異体の対応するアミノ酸配列における第1番目のアミノ酸と第2番目のアミノ酸との間、第155番目~第160番目のアミノ酸配列内(特に、第156番目のアミノ酸と第157番目のアミノ酸との間)、及び/若しくは第170番目~第176番目のアミノ酸配列内(特に、第172番目のアミノ酸と第173番目のアミノ酸との間)に挿入されているか、並びに/又はGFP又はその変異体のC末端に連結されることが好ましい。上記アミノ酸の位置番号(残基番号)は、GFPの配列番号32記載のアミノ酸配列におけるアミノ酸の位置番号である。GFPの配列番号32記載のアミノ酸配列における各アミノ酸位置に対応するGFP変異体のアミノ酸配列における各アミノ酸位置は、例えば従来公知の方法によりGFPの配列番号32記載のアミノ酸配列とGFP変異体のアミノ酸配列とのアラインメントによる比較により決定することができる。この点は、以下のYFP又はその変異体及びDsRed又はその変異体についても同様である。
【0050】
また、足場タンパク質がYFP又はその変異体である場合には、GFP又はその変異体同様に、特異的結合能を有するペプチドは、直接又はペプチドリンカーを介して、配列番号32記載のアミノ酸配列においてアミノ酸置換T203Yを有するYFPのアミノ酸配列又はYFP変異体の対応するアミノ酸配列における第1番目のアミノ酸と第2番目のアミノ酸との間、第155番目~第160番目のアミノ酸配列内(特に、第156番目のアミノ酸と第157番目のアミノ酸との間)、及び/若しくは第170番目~第176番目のアミノ酸配列内(特に、第172番目のアミノ酸と第173番目のアミノ酸との間)に挿入されているか、並びに/又はYFP又はその変異体のC末端に連結されることが好ましい。
【0051】
さらに、足場タンパク質がDsRed又はその変異体である場合には、GFPとDsRedとの構造比較から、特異的結合能を有するペプチドは、直接又はペプチドリンカーを介して、DsRedの配列番号61記載のアミノ酸配列又はDsRed変異体の対応するアミノ酸配列における第1番目のアミノ酸と第2番目のアミノ酸との間、第153番目~第158番目のアミノ酸配列内(特に、第154番目のアミノ酸と第155番目のアミノ酸との間)、及び/若しくは第166番目~第172番目のアミノ酸配列内(特に、第168番目のアミノ酸と第169番目のアミノ酸との間)に挿入されているか、並びに/又はDsRed又はその変異体のC末端に連結されることが好ましい。
【0052】
ペプチドリンカーとしては、1以上(例えば2又は3個)のアミノ酸配列:GGGGS(配列番号35)を含むリンカーが挙げられる。ペプチドリンカーは、本発明に係るペプチド融合タンパク質において、特異的結合能を有するペプチドのN末端及び/又はC末端に連結することができる。
【0053】
また、本発明に係るペプチド融合タンパク質は、タグをさらに含んでもよい。タグとしては、例えばヒスチジンタグ(アミノ酸配列:HHHHHH(配列番号37))、FLAG-tag(アミノ酸配列:DYKDDDDK(配列番号38))、Strep-tag(アミノ酸配列:WSHPQFEK(配列番号39))等のタンパク質単離/精製用ペプチドタグが挙げられる。タグは、例えば本発明に係るペプチド融合タンパク質のN末端及び/又はC末端に、直接又はペプチドリンカー(例えば、アミノ酸配列:GGG(配列番号36))を介して連結することができる。
【0054】
本発明に係るペプチド融合タンパク質は、遺伝子組換え法により製造することができる。具体的には、本発明に係るペプチド融合タンパク質をコードする核酸(DNA(例えばcDNA)又はRNA(例えばmRNA))を有する細胞を培養することで、ペプチド融合タンパク質を製造することができる。
【0055】
遺伝子組換え法による製造は、例えば、本発明に係るペプチド融合タンパク質をコードするDNA(遺伝子)を適当な発現ベクター中に挿入し、適当な宿主細胞にベクターを導入し、得られた細胞(形質転換体)を培養し、該細胞内から又は細胞外液から目的のペプチド融合タンパク質を回収することを含む方法によりなされ得る。
【0056】
本発明に係るペプチド融合タンパク質をコードするDNAは、例えば適当なプライマーを用いるPCR法により合成した各構成要素(特異的結合能を有するペプチド、足場タンパク質、ペプチドリンカー、ペプチドタグ)をコードするDNAを常法によりリガーゼで連結することによって得ることができる。また、特異的結合能を有するペプチドが足場タンパク質のアミノ酸配列中に挿入される場合には、例えば、挿入位置の前後の足場タンパク質のN末端断片及びC末端断片をコードする2つのDNA断片を、適当なプライマーを用いるPCR法により合成し、各構成要素(特異的結合能を有するペプチド、ペプチドリンカー、ペプチドタグ等)をコードするDNAと共に常法によりリガーゼで連結することによって、本発明に係るペプチド融合タンパク質をコードするDNAを得ることができる。
【0057】
あるいは、本発明に係るペプチド融合タンパク質をコードするDNAは、常法により化学合成してもよい。
【0058】
ベクターは、限定されないが、例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、ファージミド、及びウイルス等のベクターである。プラスミドベクターとしては、限定するものではないが、大腸菌由来のプラスミド(例えばpET17b、pET22b(+)、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、及び酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YCp50等)等が挙げられる。ファージベクターとしては、限定するものではないが、T7ファージディスプレイベクター(T7Select10-3b、T7Select1-1b、T7Select1-2a、T7Select1-2b、T7Select1-2c等(Novagen))、及びλファージベクター(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP、λZAPII等)が挙げられる。ウイルスベクターとしては、限定するものではないが、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルス、及びセンダイウイルス等の動物ウイルス、並びにバキュロウイルス等の昆虫ウイルス等が挙げられる。コスミドベクターとしては、限定するものではないが、Lorist6、Charomid9-20、及びCharomid9-42等が挙げられる。ファージミドベクターとしては、限定するものではないが、例えばpSKAN、pBluescript、pBK、及びpComb3H等が知られている。
【0059】
ベクターには、目的のDNAが発現可能なように調節配列や、目的DNAを含むベクターを選別するための選択マーカー、目的DNAを挿入するためのマルチクローニングサイト等が含まれ得る。そのような調節配列には、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、S-D配列又はリボソーム結合部位、複製開始点、及びポリAサイト等が含まれる。また、選択マーカーには、例えばアンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、及びジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子等が用いられ得る。
【0060】
ベクターを導入するための宿主細胞としては、例えば大腸菌や枯草菌等の細菌、酵母細胞、昆虫細胞、動物細胞(例えば、哺乳動物細胞)、及び植物細胞等が挙げられるが、本発明においては、本発明に係るペプチド融合タンパク質に含まれる足場タンパク質として大腸菌での産生性が高いタンパク質(例えばGFP、YFP若しくはDsRed又はそれらの変異体)を使用することが好ましいことから、宿主細胞として大腸菌を使用することが好ましい。これらの宿主細胞への形質転換又はトランスフェクションは、例えばリン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、パーテイクル・ガン法、及びPEG法等を含む。
【0061】
形質転換細胞の培養は、宿主細胞の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。例えば、大腸菌や酵母細胞等の微生物の培養液は、宿主微生物が資化し得る炭素源、窒素源、及び無機塩類等を含有する。本発明に係るペプチド融合タンパク質の回収を容易にするために、発現によって生成した当該ペプチド融合タンパク質を細胞外に分泌させることが好ましい。これは、その細胞からのペプチド融合タンパク質の分泌を可能にするペプチド配列をコードするDNAを、当該融合タンパク質をコードするDNAの5'末端側に結合することにより行うことができる。細胞膜に移行した融合ペプチドがシグナルペプチダーゼによって切断されて、目的のペプチド融合タンパク質が培地に分泌放出される。あるいは、細胞内に蓄積されたペプチド融合タンパク質を回収することもできる。この場合、細胞を物理的又は化学的に破壊し、タンパク質精製技術を使用して目的のペプチド融合タンパク質を回収する。
【0062】
また、製造されたペプチド融合タンパク質は、常法により、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、HPLC等のクロマトグラフィー、硫安分画、限外ろ過、及び免疫吸着法等により回収又は精製することができる。上述のように、本発明に係るペプチド融合タンパク質がヒスチジンタグ等の精製用タグを有する場合には、細胞又は培地から当該精製用タグを利用してペプチド融合タンパク質を精製することができる。例えば、ペプチド融合タンパク質がヒスチジンタグを有する場合には、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)によりペプチド融合タンパク質を精製することができる。
【0063】
さらに、本発明は、上述の本発明に係るペプチド融合タンパク質を固定化した固相担体に関する。「固相担体」としては、限定するものではないが、ガラスビーズ、シリカゲル等の無機担体、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、架橋ポリスチレン等の合成高分子や結晶性セルロース、架橋セルロース、架橋アガロース、架橋デキストラン等の多糖類から成る有機担体、さらにはこれらの組み合わせによって得られる有機-有機、有機-無機等の複合担体等が挙げられるが、中でも親水性担体は非特異吸着が比較的少なく、ペプチド融合タンパク質の選択性が良好であるため好ましい。ここでいう親水性担体とは、担体を構成する化合物を平板状にしたときの水との接触角が60度以下の担体を示す。この様な担体としては、セルロース、キトサン、デキストラン等の多糖類、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸グラフト化ポリエチレン、ポリアクリルアミドグラフト化ポリエチレン、ガラス等から成る担体が代表例として挙げられる。
【0064】
固相担体の形態としては、ビーズ状、線維状、粒子条、膜状(中空糸も含む)、ゲル状等いずれも可能であり、任意の形態を選ぶことができる。特定の排除限界分子量を持つ担体作製の容易さからビーズ状が特に好ましく用いられる。ビーズ状の平均粒径は10~2500μmのものが使いやすく、とりわけ、ペプチド融合タンパク質固定化反応のしやすさの点から25μmから800μmの範囲が好ましい。固相担体としては、具体的には例えば、磁性ビーズ、ガラスビーズ、ポリスチレンビーズ、シリカゲルビーズ、及び多糖類ビーズ等が挙げられる。
【0065】
さらに固相担体表面には、ペプチド融合タンパク質の固定化反応に用いうる官能基が存在しているとペプチド融合タンパク質の固定化に好都合である。これらの官能基の代表例としては、水酸基、アミノ基、アルデヒド基、カルボキシル基、チオール基、シラノール基、エポキシ基、スクシンイミド基、N-ヒドロキシスクシンイミド基等、酸無水物基、ヨードアセチル基等が挙げられる。
【0066】
固相担体としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、多孔質セルロースゲルであるGCL2000、GC700、アリルデキストランとメチレンビスアクリルアミドを共有結合で架橋したSephacryl S-1000、アクリレート系の担体であるToyopearl、アガロース系の架橋担体であるSepharoseCL4B、エポキシ基で活性化されたポリメタクリルアミドであるオイパーギットC250L、NHS基で活性化されたセファロース担体を含むNHS活性化プレパックカラム等を例示することができる。ただし、本実施態様においてはこれらの担体、活性化担体のみに限定されるものではない。
【0067】
上述の固相担体はそれぞれ単独で用いてもよいし、任意の2種類以上を混合してもよい。また、固相担体としては、その使用目的及び方法からみて、表面積が大きいことが望ましく、適当な大きさの細孔を多数有する、すなわち、多孔質であることが好ましい。
【0068】
固相担体への本発明に係るペプチド融合タンパク質の固定化は、当業者に周知の方法を用いて行うことができ、例えば物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法等によって行うことができる。固定化は、例えばペプチド融合タンパク質のN末端のアミノ基を、直接又はスペーサーを介して固相担体に共有結合させることによって行うことが好ましい。ペプチド融合タンパク質の立体障害を小さくすることにより分離効率を向上させ、さらに非特異的な結合を抑えるために、親水性スペーサーを介して固定化することがより好ましい。親水性スペーサーは特に限定しないが、例えば、両末端をカルボキシル基、アミノ基、アルデヒド基、エポキシ基等で置換したポリアルキレンオキサイドの誘導体を用いるのが好ましい。
【0069】
固相担体へ導入されるペプチド融合タンパク質及びスペーサーとして用いられる有機化合物の固定化方法及び条件は特に限定されるものではないが、一般にタンパク質やペプチドを担体に固定化する場合に採用される方法を例示する。例えば、担体をアミノ基を含む化合物、N-ヒドロキシスクシンイミジル基を含む化合物、臭化シアン、エピクロロヒドリン、ジグリシジルエーテル、トシルクロライド、トレシルクロライド、ヒドラジン等と反応させて活性化し(担体が元々持っている官能基よりペプチド融合タンパク質が反応しやすい官能基に変え)、ペプチド融合タンパク質と反応、固定化する方法、また、担体とペプチド融合タンパク質が存在する系にカルボジイミドのような縮合試薬、又は、グルタルアルデヒドのように分子中に複数の官能基を持つ試薬を加えて縮合、架橋することによる固定化方法が挙げられるが、固相担体の滅菌時又は利用時にペプチド融合タンパク質が固相担体より容易に脱離しない固定化方法を適用することがより好ましい。
【0070】
本発明に係るペプチド融合タンパク質を含む固相担体は、クロマトグラフィーカラム等に充填して、標的分子を精製又は分離するために用いることができる。
【0071】
また、本発明は、上記のペプチド融合タンパク質を固定化した固相担体を含む、標的分子分離用カラムに関する。
【0072】
標的分子分離用カラムは、標的分子の精製又は分離のための、クロマトグラフィーカラム、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)カラム等のカラムを包含する。カラムのサイズは特に制限されないものとし、分析用、精製用、分取用等の用途、アプライ(搭載)又は注入する量、カラムの長さ又は内径等に応じて変化させることができる。また、カラムの材質は、金属、プラスチック、ガラス等のカラムとして通常使用されるようなものでよい。
【0073】
上記のカラムは、上記の本発明に係る固相担体(乾燥又は湿潤状態のいずれであってもよい)をカラムに密に充填することによって製造できる。
【0074】
さらに、本発明は、上記のペプチド融合タンパク質を固定化した固相担体、又は当該固相担体を含む標的分子分離用カラムを含む、標的分子の精製のためのキットに関する。
【0075】
当該キットは、固相担体又は標的分子分離用カラムに加えて、標的分子の分析手順や精製手順を記載した使用説明書、精製に必要な試薬やバッファー、固相担体の充填用カラムの少なくとも1つを含んでよい。
【0076】
また、本発明は、上記固相担体又は標的分子分離用カラムに標的分子を結合させる工程、及び結合した標的分子を溶出させて標的分子を回収する工程を含む、標的分子の精製方法に関する。
【0077】
結合工程は、当業者に公知の方法により行うことができる。例えば、上記固相担体又は標的分子分離用カラムを適当なバッファーで平衡化し、0℃~室温(好ましくは0℃~約10℃、更に好ましくは約4℃の低温)で標的分子を含有する液をアプライし、固相担体上のペプチド融合タンパク質に標的分子を結合させる。例えば血清中の標的分子を分離する場合には、中性域のpH(例えばpH6.0~7.5)のバッファーを使用してカラムにアプライし、結合工程を行うことができる。
【0078】
溶出工程も、当業者に公知の方法により行うことができる。例えば、酸性域のpH(例えばpH2~4)のバッファー(例えば0.3MのNaClを含有するpH3.5からpH2.5の0.2Mグリシン-HClバッファー又は20 mM クエン酸バッファー)をカラムに流して行ってもよいし、上記のペプチド融合タンパク質を用いて競合溶出により溶出させてもよい。特に、コストの点から酸により溶出を行うことが好ましい。この場合、固相担体又はカラムを、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液、及び水酸化カリウム溶液等のアルカリ性の溶液(例えば、0.1 M 水酸化ナトリウム溶液)で洗浄することにより、固相担体又はカラムを再生し、再度結合工程に用いることができる。溶液のアルカリ性の程度は当業者であれば容易に決定することができる。従って、本発明に係る標的分子の精製方法は、任意に、アルカリ性の溶液により洗浄することにより固相担体又はカラムを再生する工程を含むことができる。
【0079】
標的分子が回収されたか否かは、例えば、電気泳動による分子量の確認、及び任意にその後の抗標的分子抗体を使用するウエスタンブロット法によって判定できる。例えば、電気泳動は、5~20%アクリルアミドグラジエントゲルを用いたSDS-PAGEにより行ってよく、また、ウエスタンブロットは、泳動後のタンパク質をPVDF膜に転写し、スキムミルクでブロッキング後、抗標的分子ヤギ抗体とHRP標識抗ヤギIgGマウス抗体で検出を行うことができる。
【0080】
本発明に係る標的分子の精製方法は、種々の方法で生産された標的分子含有生産物から標的分子を精製する工程において、標的分子に富む画分を得る場合に有用である。それゆえに、アフィニティークロマトグラフィー、HPLC等のカラムクロマトグラフィーにおいて本発明に係る標的分子の精製方法を使用することが好ましい。標的分子の精製に際しては、このようなクロマトグラフィー法に加えて、タンパク質の慣用的な精製技術、例えばゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー等のクロマトグラフィー、硫安分画、限外ろ過等を適宜組み合わせることができる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0082】
なお、
図1は、本実施例で作製したIgG結合性ペプチド融合タンパク質、IgA結合性ペプチド融合タンパク質及びIgY結合性ペプチド融合タンパク質のアミノ酸配列並びに当該融合タンパク質をコードするDNA配列を示す。
【0083】
〔実施例1:IgG結合性ペプチド融合タンパク質の親和性測定〕
配列番号43で表されるアミノ酸配列から成るタンパク質(sfGFP-C-1Opt1)をコードするDNA(配列番号42)をpET17bベクターのNdeI/HindIIIサイトに挿入し、発現プラスミドを構築した。
【0084】
構築した発現プラスミドを用いて、大腸菌株SHuffle T7 Express (New England Biolabs)又はOverExpress C43(DE3)(Lucigen)を形質転換し、LBアガープレート(50 μg/mL アンピシリン)上で培養した。得られたシングルコロニーを、LB培地10 mL(50 μg/mL アンピシリン、0.5%グルコース)、37℃、200 rpm条件で一晩前培養を行った。得られた培養液をOD600=0.1となるように新しいLB培地500 mL(50 μg/mL アンピシリン)に植菌し、37℃、200 rpm条件で本培養を開始した。OD600=0.5-1.5の間で1 mM IPTG(Isopropyl β-D-thiogalactopyranoside、イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド)を添加し、25℃、200 rpm条件で一晩発現誘導を行った。得られた培養液を遠心分離し(20k x g、4℃、5分)、タンパク質発現大腸菌を回収した。
【0085】
回収した菌体はBugBuster(Merck Millipore)で処理することにより溶菌した。遠心分離によって可溶性画分を得た後、HiTrap TALON crude(GE Healthcare)を用いてヒスチジンタグを含む目的タンパク質を精製した。精製したタンパク質溶液の溶媒を保存液(25 mM HEPES、150 mM NaCl、pH 7.4)に置換し、後述する分析実験に用いた。
【0086】
親和性解析は、以下の方法で行った。先ず、BIAcoreT200(GE healthcare)にセットしたCM5センサーチップ上へ、等量混合した0.4 M EDC(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)-carbodiimide、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド))と0.1 M sulfo-NHS(sulfo-N-hydroxysuccinimide、スルホ-N-ヒドロキシスクシンイミド))溶液を10 μl/mlの流速でセンサーチップにインジェクトすることにより、センサーチップを活性化した。その後、pH 5.5(10 mM 酢酸Na)の条件下で、上述の精製したタンパク質(sfGFP-C-1Opt1)をセンサーチップ上に固定化した。測定には、HBS-EP緩衝液(10 mM HEPES、150 mM NaCl、0.005% Tween 20、3 mM EDTA、pH 7.4)を用い、流速50 μl/mlにて、6.25、12.5、25、50、100、200、400 nMのヒトIgGを180秒間インジェクトすることで結合反応をモニターした。解離反応測定の際は、緩衝液のみを600秒間インジェクトした。相互作用パラメータの解析は、BIAevalution T100ソフトウェアを用いて行った。
【0087】
〔比較例1〕
比較例1として、IgG結合ペプチドが融合していない足場タンパク質(Hisタグを有するsfGFP;DNA配列:配列番号40、アミノ酸配列:配列番号41)を実施例1と同様の方法で発現・精製し、親和性の測定を行った。
【0088】
実施例1及び比較例1の結果を
図2に示す。
図2に示すように、足場タンパク質に融合したペプチドはIgG結合機能を有し、IgG精製に用い得ることが明らかとなった。
【0089】
〔実施例2:IgG結合性ペプチド2価融合タンパク質の親和性測定〕
IgG結合ペプチドを2つ含む、それぞれ配列番号45、配列番号47、配列番号49で表されるアミノ酸配列から成るタンパク質(sfGFP-N C-2Opt1GSl2(DNA配列:配列番号44)、sfGFP-173 C-2Opt1GSl2(DNA配列:配列番号46)、sfGFP-173 C-2Opt1GSl3(DNA配列:配列番号48))を実施例1と同様の方法で発現・精製し、親和性の測定を行った。
【0090】
〔比較例2〕
比較例2として、化学合成によって作製されたペプチド(アミノ酸配列:配列番号18)の親和性測定を実施例1と同様の方法で実施した。
【0091】
実施例2及び比較例2の結果を
図3に、相互作用パラメータを表1に示す。
【0092】
【0093】
図3及び表1に示すように、ペプチド2価融合タンパク質は、ペプチドのみ、或いはペプチド1価融合タンパク質に比べて解離速度が遅く、高親和性であることが明らかとなった。
【0094】
〔実施例3:動的結合容量(DBC)測定〕
IgG結合性ペプチド2価融合タンパク質が、ヒト抗体精製アフィニティーリガンドとして利用可能か、実施例2で作製したタンパク質(sfGFP-173 C-2Opt1GSl2)をNHS活性化プレパックカラム(GE Healthcare)に固定化し、吸着性能評価を実施した。タンパク質固定化カラムは以下の方法で作製した。なお、溶液の送液にはシリンジを用いた。
【0095】
1 mL容量のNHS活性化プレパックカラムに、1 mM 塩酸5 mLを送液し、カラム内のイソプロパノール溶液を除去した。次いで、7.3 mgのIgG結合性ペプチド融合タンパク質を含むカップリング溶液(200 mM 炭酸緩衝液、500 mM 塩化ナトリウム, pH 8.3) 1 mLを送液し、室温で1時間固定化した。未反応のNHSエステルはトリスヒドロキシメチルアミノメタンを加えてブロッキングした。最後に、吸着溶液(20mM リン酸緩衝液、150 mM 塩化ナトリウム、pH7.4) 5 mLを送液し、DBC測定に用いた。
【0096】
DBC測定は、液体クロマトグラフィー装置AKTAexplore(GE Healthcare)を用いて行った。作製したカラムを吸着溶液で平衡化した後、吸着溶液に溶解した1 mg/mLヒト血清由来γ-グロブリン(Sigma-Aldrich)を1 mL/minの流速で送液した。DBCは、280 nm吸光度において、非吸着成分を除いた値がサンプル全体の吸光度の10%に到達するまでに送液されたサンプル量から求めた。
【0097】
〔比較例3〕
比較例3として、化学合成によって作製されたペプチド(アミノ酸配列:配列番号18)を実施例3のタンパク質と等モル(0.5 mg)固定化したカラムを作製し、DBC測定を実施した。
【0098】
図4にクロマトグラムを示した。
図4のクロマトグラムより算出したDBCは、実施例3(IgG結合性ペプチド2価融合タンパク質):8.9 mg/mL-column、比較例3(合成ペプチド):6.9 mg/mL-columnであり、ペプチド2価融合タンパク質を固定化したカラムは、合成ペプチド固定化カラムに比べて吸着性能が向上していることが明らかとなった。
【0099】
〔実施例4:γ-グロブリンの吸脱着〕
実施例3で作製したカラムを用い、IgGの吸脱着が可能か検討した。液体クロマトグラフィー装置AKTA pure 25 (GE Healthcare)にカラムをセットし、吸着溶液で平衡化した後、1 mg/mLヒト血清由来γ-グロブリンを1 mL/minの流速で500 μL送液した。5 mLの吸着溶液でカラムを洗浄した後、溶出溶液 (20 mM クエン酸, pH2.5)を通液することにより、吸着成分を溶出した。クロマトグラムを
図5に示した。
【0100】
pHの低下により、吸着したヒト血清由来γ-グロブリンの溶出が確認され、当該ペプチドは、アフィニティーカラムのリガンドとして利用できることが明らかとなった。
【0101】
〔実施例5:IgG結合性ペプチド融合黄色蛍光タンパク質の親和性測定〕
他の足場タンパク質においてもIgG結合性ペプチドが機能するかを検証するため、黄色蛍光タンパク質(sfYFP)にIgG結合性ペプチドが融合した分子(DNA配列:配列番号54、アミノ酸配列:配列番号55)を設計し、実施例1と同様にタンパク質の発現・精製並びに親和性解析を行った。親和性測定装置、解析ソフトウェアはそれぞれBiacore X100、Biacore X100 Evalution Softwareを用いた。
【0102】
〔比較例4〕
比較例4として、IgG結合ペプチドが融合していない黄色蛍光タンパク質(sfYFP、DNA配列:配列番号52、アミノ酸配列:配列番号53)を実施例5と同様の方法で発現・精製し、親和性の測定を行った。実施例5及び比較例4の結果を
図6に示した。
【0103】
図6に示すように、黄色蛍光タンパク質に融合したペプチドはIgG結合機能を有することが明らかとなった。
【0104】
〔実施例6:IgA、IgY結合性ペプチド融合タンパク質の親和性測定〕
他の特異的結合能を有するペプチドにおいても、IgG結合性ペプチドと同様に機能するかを検証するため、緑色蛍光タンパク質(sfGFP)にIgA、IgY結合性ペプチドが融合した分子(それぞれ、DNA配列:配列番号56及びアミノ酸配列:配列番号57、DNA配列:配列番号58及びアミノ酸配列:配列番号59)を設計し、実施例5と同様にタンパク質の発現・精製並びに親和性解析を行った。
【0105】
図7に示すように、緑色蛍光タンパク質に融合したIgA、IgY結合性ペプチドは結合機能を有することが明らかとなり、特異的結合能をもつペプチドは、足場タンパク質に融合した場合においてもその結合機能を保持することが可能であることが示された。
【0106】
〔実施例7:IgA、IgYの吸脱着〕
実施例6で作製した緑色蛍光タンパク質(sfGFP)にIgA、IgY結合性ペプチドが融合した分子10 mgを固定化したカラムを用い、IgA、IgYの吸脱着が可能か検討した。液体クロマトグラフィー装置AKTA pure 25 (GE Healthcare)にカラムをセットし、吸着溶液で平衡化した後、0.2 mg/mLヒト血清由来IgA、もしくはニワトリIgYを1 mL/minの流速で500 μL送液した。5 mLの吸着溶液でカラムを洗浄した後、溶出溶液 (20 mM クエン酸, pH2.5)を通液することにより、吸着成分を溶出した。クロマトグラムを
図8に示した。
【0107】
pHの低下により、吸着したIgA、もしくはIgYの溶出が確認され、当該ペプチドは、アフィニティーカラムのリガンドとして利用できることが明らかとなった。
【0108】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
【配列表】