(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】含フッ素アルコールコンポジット
(51)【国際特許分類】
C08G 79/00 20060101AFI20230104BHJP
C09D 201/06 20060101ALI20230104BHJP
【FI】
C08G79/00
C09D201/06
(21)【出願番号】P 2022503110
(86)(22)【出願日】2020-12-15
(86)【国際出願番号】 JP2020046645
(87)【国際公開番号】W WO2021171745
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2020031493
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【氏名又は名称】吉田 和子
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】木島 哲史
(72)【発明者】
【氏名】赤津 康彦
(72)【発明者】
【氏名】澤田 英夫
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-145251(JP,A)
【文献】特開2017-088845(JP,A)
【文献】特開2009-029882(JP,A)
【文献】特開2001-011119(JP,A)
【文献】特開2003-268309(JP,A)
【文献】特開平05-125083(JP,A)
【文献】国際公開第2015/137345(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G77,79
C09K3/18
C09D201
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
HO(CH
2
)
a
CF(CF
3
)〔OCF
2
CF(CF
3
)〕
b
O(CF
2
)
c
O〔CF(CF
3
)CF
2
O〕
d
CF(CF
3
)(CH
2
)
a
OH
〔III〕
(ここで、aは1~3、b+dは0~50、cは1~6の整数である)で表される含フッ素アルコール、
ポリビニルアルコールおよびジルコニウム化合物の縮合体からなる含フッ素アルコールコンポジット。
【請求項2】
さらに有機けい素化合物を含む請求項1記載の含フッ素アルコールコンポジット。
【請求項3】
ジルコニウム化合物がオキシ塩化ジルコニウムである請求項1または2記載の含フッ素アルコールコンポジット。
【請求項4】
有機けい素化合物がオルトけい酸テトラ低級アルキルである請求項2記載の含フッ素アルコールコンポジット。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかの請求項に記載された各成分を、塩基性触媒または酸性触媒を用いて縮合反応させることを特徴とする縮合体の製造法。
【請求項6】
含フッ素アルコールに対して
ポリビニルアルコールが、0.5~10倍の割合で、またジルコニウム化合物が5倍以下の割合で用いられる請求項
5記載の縮合体の製造法。
【請求項7】
有機けい素化合物が、含フッ素アルコールに対して5倍以下の割合で用いられる請求項
5記載の縮合体の製造法。
【請求項8】
塩基性触媒がアンモニア水溶液である請求項
5記載の縮合体の製造法。
【請求項9】
酸性触媒が無機酸である請求項
5記載の縮合体の製造法。
【請求項10】
請求項1または2記載の含フッ素アルコールコンポジットを有効成分とする表面処理剤。
【請求項11】
親水撥油性を示す請求項
10記載の表面処理剤。
【請求項12】
請求項
10記載の表面処理剤の塗膜を形成させた基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素アルコールコンポジットに関する。さらに詳しくは、親水撥油剤等の表面処理剤の有効成分として用いられる含フッ素アルコールコンポジットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に撥水撥油剤として用いられている表面処理剤で表面処理された基材は、撥水性の基材表面に水蒸気等が付着すると、撥水されて微小の液滴として表面に付着するため、曇った状態となる。
【0003】
例えば、自動車の窓ガラス、カメラレンズ、浴室用の鏡等の表面は、視認性を高めるため、防曇性であることが求められている。防曇性を発現させるためには、曇りの原因である極小水滴を水膜にするために、親水性表面であることが必要である。
【0004】
基材表面に防曇性を付与する方法として、特許文献1では、オキシエチレン基、オキシプロピレン基およびアシル基を有するウレタン樹脂を含む防曇性被膜であって、
この防曇性被膜は含フッ素界面活性剤を含み、
この防曇性被膜における含フッ素界面活性剤の表面厚さが被膜の膜厚に対して0.001~2%であり、
この防曇性被膜の元素分析により被膜表面に観測される全原子の個数に対するフッ素原子の個数の比率が5~30%である
防曇性被膜が記載されている。
【0005】
また、自動車の窓ガラス、カメラレンズ、浴室用の鏡等の表面は、指紋等の油脂汚れによって外観が損なわれ、さらには製品の機能を低下させてしまうため、防汚処理することも併せて望まれている。
【0006】
防汚処理の方法としは、特許文献2に、撥水性、撥油性、防汚性を有し、かつ高い摩擦耐久性を有する層を形成することのできるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物として、一般式〔Ia〕または〔Ib〕
(Rf-PFPE)β-X-(CRa
kRb
lRc
m)α 〔Ia〕
(Rc
mRb
lRa
kC)α-X-PFPE-X-(CRa
kRb
lRc
m)α 〔Ib〕
で表される化合物を用いることが記載されている。
【0007】
しかしながら、このパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物は、撥油性、防汚性を示すものの、同時に撥水性をも示している。
【0008】
また、特許文献3には、基材表面に塗布し、油脂と水垢の付着を防止するための親水性と撥油性とを併せ持つ親水撥油剤として、くり返し単位(2)
A:-O-、-NH-
R
1:メチレン基、エチレン基
R
2:メチレン基、エチレン基、プロピレン基
Rf:C
2~C
8の含フッ素アルキル基
R
3:水素原子、メチル基
n:0~50の整数
*:結合手
を含むフッ素重合体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】WO 2017/033532 A1
【文献】特開2019-183160号公報
【文献】特開2017-105975号公報
【文献】特開2008-038015号公報
【文献】米国特許第3,574,770号公報
【文献】特開平5-147943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、環境中に放出されてもパーフルオロオクタン酸等を生成させず、短鎖の化合物に分解され易いユニットを有する含フッ素アルコールを用い、親水撥油性を示すコンポジットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる本発明の目的は、一般式
HO(CH
2
)
a
CF(CF
3
)〔OCF
2
CF(CF
3
)〕
b
O(CF
2
)
c
O〔CF(CF
3
)CF
2
O〕
d
CF(CF
3
)(CH
2
)
a
OH
〔III〕
(ここで、aは1~3、b+dは0~50、cは1~6の整数である)で表される含フッ素アルコール、ポリビニルアルコールおよびジルコニウム化合物の縮合体からなる含フッ素アルコールコンポジットによって達成される。
【0012】
コンポジットを形成するこの縮合体は、上記各成分を塩基性または酸性触媒を用いた縮合反応によって製造される。反応に際しては、反応系に有機けい素化合物を共存させることもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るコンポジットに用いられる含フッ素アルコールは、環境中に放出されてもパーフルオロオクタン酸等を生成させず、短鎖の化合物に分解され易いユニットを有するばかりではなく、撥油性を有し、一方ポリビニルアルコール等の水酸基含有ポリマーおよびジルコニウム化合物は親水性を有しているので、これらを反応して得られる縮合体からなるコンポジットは、親水撥油性を発現しつつ、ガラス、金属、石材等の無機基材、各種プラスチック、ゴム等の有機基材に対するコーティング剤として有効に使用される。
【0014】
また、このコンポジットは、親水撥油性を示すため防曇性を有する。親水性であれば、液体の表面で濡れ拡がるので液膜ができ、表面は濡れているが、曇らない状態となる。このコンポジットから形成されるコーティング膜は、無色透明なため、基材の外観を何ら損なうことなく、コーティングが可能である。
【0015】
さらには、ジルコニウム化合物の加水分解、縮合反応により、基材との密着性にすぐれ、基材表面の親水撥油性が持続される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
含フッ素アルコールとしては、一般式
HO(CH
2
)
a
CF(CF
3
)〔OCF
2
CF(CF
3
)〕
b
O(CF
2
)
c
O〔CF(CF
3
)CF
2
O〕
d
CF(CF
3
)(CH
2
)
a
OH
〔III〕
a:1~3、好ましくは1
b+d:0~50、好ましくは1~20
b+dの値に関しては、分布を有する混合物であってもよい
c:1~6、好ましくは2~4
で表される化合物等が用いられる。
【0019】
一般式〔III〕で表されるパーフルオロアルキレンエーテルジオールにおいて、a=1の化合物は特許文献4~5に記載されており、次のような一連の工程を経て合成される。
FOCRfCOF → H3COOCRfCOOCH3 → HOCH2RfCH2OH
Rf:-C(CF3)〔OCF2C(CF3)〕bO(CF2)cO〔CF(CF3)CF2O〕dCF(CF3)-
【0020】
これらの含フッ素アルコール、水酸基含有ポリマーおよびジルコニウム化合物は、塩基性または酸性の触媒の存在下で反応させることにより、コンポジットを形成させる。
【0021】
ポリビニルアルコールとしては、ポリ酢酸ビニルをけん化して得られたポリビニルアルコールの各種けん化度のものが好んで用いられる。ポリビニルアルコールは、含フッ素アルコールに対して約0.5~10倍、好ましくは約0.5~5倍の割合で用いられる。これ以下の割合でポリビニルアルコールが用いられると、親水性に欠けるようになる。
【0022】
また、ジルコニウム化合物としては、ジ-n-ブトキシジルコニウムビス(アセチルアセトネート)、ジ-n-ブトキシジルコニウムビス(エチルアセトアセテート)等も用いられるが、好ましくは塩化ジルコニウム、水酸化ジルコニウムまたは反応によってこれらを生成させるオキシ塩化ジルコニウムZrCl2O・8H2Oが用いられる(特許文献6参照)。これらのジルコニウム化合物も、ポリビニルアルコールと同量程度用いられる。
【0023】
さらに、反応系には有機けい素化合物を共存させることもでき、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリメトキシエチルシラン、トリエトキシエチルシラン等の炭素数1~5の低級アルキル基を有するオルトけい酸テトラ低級アルキルやトリエトキシクロロシラン、トリメトキシフェニルシラン、トリエトキシフェニルシラン等を、含フッ素アルコールに対して約5倍以下の割合で用いることもできる。
【0024】
縮合反応は、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類等の溶媒中で下記塩基性または酸性触媒の存在下で行われる。その際、ジルコニウム化合物は、これらの有機溶媒溶液として添加される。
【0025】
これら各成分間の反応は、触媒量の塩基性触媒または酸性触媒、例えばアンモニア水あるいは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の水溶液、または塩酸、硫酸等の存在下で、約0~100℃、好ましくは約10~30℃の温度で約0.5~48時間、好ましくは約1~10時間程度反応させることにより行われる。
【0026】
親水撥油性を有する表面処理剤は、反応混合物をそのままあるいは固形分濃度を有機溶媒で約0.5~5重量%となるように調整した後、基材表面上に浸漬、噴霧、はけ刷り、ロールコートなどの方法によって約30~1,000mg/m2、好ましくは約100~1,000mg/m2の塗布量(目付量)で塗布され、室温または温風で乾燥された後、約100~250℃で約0.1~20時間焼付け処理されて、コーティングされる。
【実施例】
【0027】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0028】
〔塩基性触媒を用いた実施例〕
【0029】
実施例1
容量13mlの反応容器に、含フッ素アルコール
HOCH2CF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕bO(CF2)2O〔CF(CF3)CFO2O〕dCF(CF3)CH2OH
〔OXF9DOH、b+d=7〕
10mg、ポリビニルアルコール(クラレ製品クラレポバールLM10-HD)25mgおよびエタノール4mlを仕込み、そこにオキシ塩化ジルコニウムのエタノール溶液(濃度0.025g/ml)1ml(オキシ塩化ジルコニウムとして25mg)を加え10分間攪拌し、次いで25重量%アンモニア水溶液1mlを攪拌しながら滴下し、室温条件下で5時間攪拌した。
【0030】
得られた反応溶液0.35mlを、ガラス板(マツナミ製品マツナミカバーグラス(18×18mm))上に滴下し、室温条件下で乾燥後、150℃で2時間加熱処理を行った。
静的接触角の測定:
得られたガラス表面に、n-ドデカンまたは水の液滴各2μlを静か
に接触させ、付着した液滴の接触角(単位:°)をθ/2法により、接
触角計(協和界面科学製Drop Master 300)で測定した。水について
は、経時的に接触角を測定した。
塗膜耐久性試験:
処理したガラス板を、イオン交換水に20分間沈めて洗浄を行い
、次いで室温条件下で1日乾燥させ、洗浄後サンプルとした。この
洗浄後サンプルについて、静的接触角の測定を行った。
撥油性、親水性の評価:
撥油性については、静的接触角が40°以上で○、30°以上40°未
満を△と評価
親水性については、静的接触角が30°以下で○、30°より大きい
ものを×と評価
【0031】
この洗浄前および洗浄後のサンプルについて、ガラス板の外観を目視で確認し、無色透明は○、一部に変色または白濁が認められれば△、全面に変色または白濁が認められれば×と評価した。
【0032】
実施例2
実施例1において、含フッ素アルコール OXF9DOHの使用量が30mgに変更された。
【0033】
実施例3
実施例2において、さらにオルトけい酸テトラエチル〔TEOS〕のエタノール溶液(濃度0.05g/ml)1ml(TEOSとして50mg)が用いられ、またエタノール量が5mlに変更された。
【0034】
実施例4
実施例1において、含フッ素アルコールとして
HOCH2CF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕bO(CF2)2O〔CF(CF3)CFO2O〕dCF(CF3)CH2OH
〔OXF3DOH、b+d=1〕
が同量(10mg)用いられた。
【0035】
実施例5
実施例4において、さらにTEOS 50mgが用いられ、またエタノール量が5mlに変更された。
【0036】
実施例6
実施例4において、含フッ素アルコール OXF3DOHの使用量が30mgに変更された。
【0037】
実施例7
実施例6において、さらにTEOS 50mgが用いられ、エタノール量が5mlに変更された。
【0038】
〔酸性触媒を用いた実施例〕
【0039】
実施例8
実施例1において、25重量%アンモニア水溶液の代わりに、同量(1ml)の0.1N塩酸が用いられた。
【0040】
実施例9
実施例8において、さらにTEOS 50mgが用いられ、エタノール量が5mlに変更された。
【0041】
実施例10
実施例8において、含フッ素アルコール OXF9DOHの使用量が30mgに変更された。
【0042】
実施例11
実施例10において、さらにTEOS 50mgが用いられ、エタノール量が5mlに変更された。
【0043】
実施例12
実施例5において、25重量%アンモニア水溶液の代わりに、同量(1ml)の0.1N塩酸が用いられた。
【0044】
実施例13
実施例6において、25重量%アンモニア水溶液の代わりに、同量(1ml)の0.1N塩酸が用いられた。
【0045】
実施例14
実施例7において、25重量%アンモニア水溶液の代わりに、同量(1ml)の0.1N塩酸が用いられた。
【0046】
〔塩基性触媒を用いた比較例〕
【0047】
比較例1
実施例1において、ポリビニルアルコールが用いられなかった。
【0048】
比較例2
実施例1において、ポリビニルアルコールが用いられず、TEOS 50mgが用いられた。
【0049】
比較例3
実施例2において、ポリビニルアルコールが用いられなかった。
【0050】
比較例4
実施例3において、ポリビニルアルコールが用いられなかった。
【0051】
比較例5
実施例4において、、ポリビニルアルコールが用いられなかった。
【0052】
比較例6
実施例5において、ポリビニルアルコールが用いられなかった。
【0053】
比較例7
実施例6において、ポリビニルアルコールが用いられなかった。
【0054】
〔酸性触媒を用いた比較例〕
【0055】
比較例8
実施例8において、ポリビニルアルコールが用いられなかった。
【0056】
比較例9
実施例9において、ポリビニルアルコールが用いられなかった。
【0057】
比較例10
実施例10において、ポリビニルアルコールが用いられなかった。
【0058】
比較例11
実施例11において、ポリビニルアルコールが用いられなかった。
【0059】
比較例12
実施例12において、ポリビニルアルコールおよびTEOSが用いられなかった。
【0060】
比較例13
実施例12において、ポリビニルアルコールが用いられなかった。
【0061】
比較例14
実施例13において、ポリビニルアルコールが用いられなかった。
【0062】
比較例15
実施例14において、ポリビニルアルコールが用いられなかった。
【0063】
以上の各実施例および比較例で得られた結果は、次の表1に示される。
表1
【0064】
実施例15~19
実施例4~7および実施例9で得られたガラス板について、防曇性の評価を次のようにして行った。
ビーカーに熱湯(約90℃)を入れ、その上(3cm上方)に塗布ガラス板をかざし、湯気で曇らなければ○、曇れば×と評価した。
【0065】