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特許7202641プラズマ処理装置およびプラズマ処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置およびプラズマ処理方法
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/46 20060101AFI20230104BHJP
   C23C 16/505 20060101ALI20230104BHJP
   H01L 21/31 20060101ALN20230104BHJP
【FI】
H05H1/46 L
C23C16/505
H01L21/31 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019057760
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020161264
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】303029317
【氏名又は名称】株式会社プラズマイオンアシスト
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 正則
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 泰雄
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2011-0031107(KR,A)
【文献】特開2018-101463(JP,A)
【文献】特開2010-135727(JP,A)
【文献】国際公開第2009/142016(WO,A1)
【文献】特開平09-106899(JP,A)
【文献】特開2018-156864(JP,A)
【文献】特開2013-134835(JP,A)
【文献】特開2019-026867(JP,A)
【文献】特開2004-031566(JP,A)
【文献】特開2015-187951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00-1/54
C23C 16/505
H01L 21/31
H01L 21/302
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板が収容されるプラズマ処理チャンバと、前記プラズマ処理チャンバ内にプラズマを発生させるための誘導結合型アンテナユニットと、前記誘導結合型アンテナユニットに駆動電力を給電する駆動電源と、前記プラズマ処理チャンバ内を真空排気する真空排気手段と、作業ガスを導入するガス導入手段と、を具備するプラズマ処理装置であって、
前記誘導結合型アンテナユニットが、長方形状の誘電体蓋体と、当該蓋体の表面に取り付けられた誘導結合型アンテナ導体とからなり、前記プラズマ処理チャンバの壁面に形成された開口を閉塞するように装着され、
前記誘導結合型アンテナ導体の長手方向の中央部に設けた給電端子が前記駆動電源に接続され、
長手方向の両端部に設けた接地端子がコンデンサを介して接地されていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記誘導結合型アンテナ導体の長手方向の両端部に前記誘導結合型アンテナ導体と接地端子との間に誘電体部材を狭持してなる前記コンデンサが形成されていることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記コンデンサの静電容量が0.1nF乃至30nFであることを特徴とする請求項1又は2記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記誘導結合型アンテナ導体の表面が珪素、珪素化合物、炭素、炭素化合物のいずれか1つを含む無機材料で被覆されていることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記プラズマ処理チャンバの壁面に複数の開口が略平行に形成されるとともに、前記各開口に前記誘導結合型アンテナユニットが装着されていることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記蓋体の内側表面に高周波電流の往路となる前記誘導結合型アンテナ導体が取付けられ、前記蓋体の外側の面に復路となる電極部材が取付けられ、
往路となる前記誘導結合型アンテナ導体と復路となる前記電極部材は長手方向の両端部でそれぞれ電気的に接続されるとともに、前記復路となる電極部材の他方の端部がコンデンサを介して接地され、前記誘導結合型アンテナ導体の長手方向中央部に給電された高周波電流に対する往復回路が構成されていることを特徴とする請求項1からのうちいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記プラズマ処理装置が請求項1からのいずれか一項に記載の少なくとも1つのプラズマ処理チャンバと、当該プラズマ処理チャンバの前後に前記被処理基板を格納するためのロードチャンバとアンロードチャンバとを備え、前記被処理基板を搬送するための搬送手段を備えたカセット・ツー・カセット方式又はロール・ツー・ロール方式によるインライン方式であることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項8】
請求項1からのうちいずれか一項に記載のプラズマ処理装置において、前記給電端子に高周波電力と正のバイアス電圧を重畳して給電することによって、前記誘導結合型アンテナ導体の電位を制御することを特徴とするプラズマ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のプラズマ処理工程を連続して実施できるプラズマ処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、真空容器の壁面に設けられた開口部を気密を保って覆うように取り付けられた板状の高周波アンテナ導体を有し、当該アンテナ導体の長手方向の一方の端部に高周波電力を給電し、他方の端部を直接接地して高周波電流を流し、アンテナ導体の近傍に発生する誘導電磁界によってプラズマを生成し、当該プラズマを用いて被処理基板をプラズマ処理するプラズマ処理装置が開示されている。また、特許文献2には、正副2本のアンテナ導体を併設したプラズマ処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特願2010-512945号公報
【文献】特開2016-149287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プラズマ処理装置による基板材料のプラズマ処理工程には、基板表面のクリーニング工程、イオン注入工程、或いはダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCとも記す)膜の形成工程など複数のプラズマ処理工程がある。これらの工程では放電プラズマのプラズマ電位に対して被処理基板を負電位にしてイオン照射しながらプラズマ処理する必要がある。特許文献1及び2に記載のプラズマ処理装置では、被処理基板にプラズマ電位に対して負の直流電圧、或いは負のパルス電圧を印加することによってイオン照射を行っている。しかし、例えば、ロール・ツー・ロール方式による複数のプラズマ処理工程を有するプラズマ処理装置では基板及び搬送システム全体に負の高電圧を印加する必要があるが、装置の構成が複雑で高価になり実用的でない。
本発明に係る主たる課題は、被処理基板及び搬送システムを接地電位に保ちながらプラズマ処理ができる構成とし、処理条件の異なる複数のプラズマ処理工程を連続して実施できる安価で安全なプラズマ処理装を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、被処理基板が収容されるプラズマ処理チャンバ(以下、単に処理チャンバとも記す)と、前記プラズマ処理チャンバ内にプラズマを発生させるための誘導結合型アンテナユニット(以下、単にアンテナユニットとも記す)と、前記アンテナユニットに駆動電力を給電する駆動電源と、前記処理チャンバ内を真空排気する真空排気手段と、作業ガスを導入するガス導入手段とを具備するプラズマ処理装置であって、前記誘導結合型アンテナユニットが、長方形状の誘電体蓋体と、当該蓋体の表面に取り付けられた誘導結合型アンテナ導体(以下、単にアンテナ導体とも記す)とからなり、前記処理チャンバの壁面に形成された開口を閉塞するように装着し、前記アンテナ導体の長手方向の中央部に設けた給電端子を前記駆動電源に接続し、長手方向の両端部に設けた接地端子をコンデンサを介して接地することを特徴とする
【0006】
このようにアンテナ導体の長さ方向の両端部をコンデンサを介して接地すると高周波電圧に対しては低インピーダンス、直流電圧或いは低周波電圧に対しては高インピーダンスとして作用する。前記コンデンサの静電容量を適切に選べば、高周波電圧に対しては導通状態、低周波電圧に対しては絶縁状態で前記アンテナ導体を電気的にフロートさせることができる。前記給電端子に例えば13.56MHzの高周波電力を印加して高周波放電プラズマを励起するとともに、例えば30kHzの低周波パルス電圧を重畳して印加することができる。前記アンテナ導体に正の低周波パルス電圧を印加することによって前記被処理基板表面にイオン照射することができる。本明細書では周波数300kHz以上の交流電圧を高周波電圧と記載し、300kHz未満の交流電圧又はパルス電圧を低周波電圧と記載する。
【0007】
前記アンテナ導体の長手方向両端部に設ける前記コンデンサは外付けの単体コンデンサであってもよいが、前記アンテナ導体の端部に誘電体部材を狭持して設けられた接地端子との間にコンデンサを構成することができる。前記コンデンサの静電容量は0.1nF(ナノファラッド)以上、30nF以下であることが望ましい。
このような構成であれば、前記アンテナ導体の両端部は高周波電流に対しては実質的に接地され、低周波電流に対してはフロート状態であるため前記アンテナ導体の電位を任意に制御することができる。
【0008】
前記アンテナユニットは、蓋体の素材として例えばマシナブルセラミックス材を使用し、この蓋体にメタライズ法等によって前記アンテナ導体、給電端子及び接地端子を形成して一体化する。
このように一体化したアンテナユニットであれば、処理チャンバ壁面に形成された開口部に容易に脱着ができるため、アンテナユニットのメンテナンス等が容易である。また、アンテナ導体で発生する熱を放散することができる。
【0009】
前記アンテナ導体表面を珪素、珪素化合物、炭素、炭素化合物のいずれか1つを含む無機材料で被覆する。これによってアンテナ導体表面からの金属不純物の飛散を抑制することができる。
【0010】
前記駆動電源が前記給電端子に高周波電圧と低周波電圧、或いは正のパルス電圧等のバイアス電圧を重畳して給電できることを特徴とする。低周波電圧或いは正のパルス電圧を印加することによって、プラズマ電位を接地電位に対して正にすることができ、接地電位にある被処理基板をイオン照射しながらプラズマ処理することができる。
【0011】
前記処理チャンバの壁面に複数の開口部を略平行に形成するとともに、各開口部に前記アンテナユニットを装着できる構成とする。
このような構成であれば、複数のアンテナユニットが、それぞれ別の開口部に取り付けられるので、複数のアンテナユニットを1つの開口部に取り付ける場合に比べて、開口のサイズを小さくすることができる。これにより、各開口を塞ぐ蓋体に必要とされる機械的強度が小さくて済む。アンテナユニットの製造コストを低減することができる。
【0012】
前記蓋体の内側面(処理チャンバの内側面)に形成された前記アンテナ導体(以下、往路アンテナ導体とも記す)と、その外側表面(処理チャンバの外側面)に形成された電極部材(以下、復路アンテナ導体とも記す)を取付け、前記アンテナ導体と前記電極部材を長手方向両端部でそれぞれ電気的に接続するとともに、前記電極部材の他方の端部をコンデンサを介して接地し、前記アンテナ導体の長手方向中央部に給電された高周波電流に対する往復回路を構成する構造とする。
このような構成であれば、アンテナ導体のインダクタンスを低減することができる。従って、長尺のアンテナユニットを構成することができ大面積のプラズマ処理が可能なプラズマ処理装置を実用化することができる。
【0013】
また、前記プラズマ処理装置が請求項1から7のいずれか1項に記載の少なくとも1つのプラズマ処理チャンバと、当該処理チャンバの前後に被処理基板を格納するためのロードチャンバとアンロードチャンバとを連結し、被処理基板を搬送するための搬送手段を備えたカセット・ツー・カセット方式又はロール・ツー・ロール方式によるインライン方式のプラズマ処理装置を構成する。必要に応じて前記処理チャンバを複数連結して複数の処理工程を連続して実施できる構成とする。
【発明の効果】
【0014】
誘導結合型アンテナ導体の長手方向の中央部に給電し、両端部をコンデンサを介して接地することによってプラズマ電位の制御が可能になった。これによって接地電位にある被処理基板に高周波電圧やパルス電圧を印加することなく、高エネルギーイオンを照射しながらプラズマ処理することが可能になった。特に、複数の処理工程を有するロール・ツー・ロール方式プラズマ処理装置においては、処理チャンバ毎に異なったプラズマ処理が可能になる。被処理基板及び搬送システム全体を接地電位にすることにより、プラズマ処理装置の製造コストの低減及び取り扱い上の安全性が著しく向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明に係るプラズマ処理装置の一実施形態を示す概略断面図である。
図2】この発明に係るアンテナユニットの他の実施形態を示す概略図面である。
図3】アンテナユニットの他の実施形態を示す概略図面である。
図4】この発明に係るプラズマ処理装置の他の実施形態を示す概略図面である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明に係るプラズマ処理装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0017】
本実施形態のプラズマ処理装置は、誘導結合型アンテナユニットに高周波電流を流すことで発生する電磁界を用いて放電プラズマを発生させる、いわゆる誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)方式によるものである。
【0018】
具体的にこのプラズマ処理装置100は、図1に示すように、被処理基板12を収容する処理チャンバ11、該処理チャンバ11の内部空間Sにプラズマを発生させるためのアンテナユニット10、アンテナユニット10に高周波電力を給電する高周波電源22と整合器21及び正のパルス電圧を給電するバイアス電源23、図示しない真空排気手段、図示しない作業ガス導入手段などを備えるものである。
【0019】
具体的に説明すると、この処理チャンバ11には、その壁面に開口112が形成されている。ここでは、処理チャンバ11の上壁部111に上方から見て例えば長方形状の開口112が形成されている。この開口112には、アンテナユニット10を構成する蓋体14が着脱可能に設けられており、この蓋体14によって開口112が閉塞され内部空間Sが密閉される。
【0020】
処理チャンバ11内には前記アンテナユニットと、これに対向して被処理基板12が配置されている。被処理基板12は基板ホルダー18に載置され、基板ホルダーを介して接地されている。また、必要に応じて基板温度を制御することができる。処理チャンバ11の内部空間Sは、真空排気手段とガス導入手段によって所定の真空度に保たれる。この処理チャンバ11には、例えばアルゴンと水素との混合ガスを所定の圧力(例えば1Pa)で導入するとともに、整合器21を介して高周波電源22から高周波電力をアンテナ導体13に給電することで放電プラズマが励起される。
【0021】
前記アンテナユニット10は、絶縁板からなる蓋体14と、この蓋体の内側表面に取り付けられたアンテナ導体13とからなり、アンテナ導体13の長手方向の中央部13cに給電端子15を有し、長手方向の両端部13a、13bに接地端子16を有する。当該接地端子はコンデンサ17を介して接地されている
なお、本実施形態のアンテナユニット10は、1本のアンテナ導体13を備えたものであるが、並列に接続された複数本のアンテナ導体を備えたものであってもよい。
【0022】
前記蓋体14はその内側表面に、例えば長さ寸法50cm以上、幅寸法1~10cm程度のアンテナ導体13が取付けられるもので、例えば長さ寸法50cm以上、幅寸法5~20cm程度の平板状の絶縁板ある。また、蓋体14の厚さ寸法は大気圧に耐え得る強度が必要で厚さは1~3cm程度である。但し、この寸法に特定されるものではない。
【0023】
前記蓋体14は、真空シール部材19を狭持して上壁部111に設けられた開口112を覆うように装着されるもので、そのサイズはアンテナ導体13よりも真空シール部分だけ幅方向及び長手方向に長い寸法のものである。この蓋体14はアンテナ導体を固定すると同時に電気的に絶縁状態に保持するもので、アルミナ、マコールやホトベール等のセラミックス材からなるものが望ましい。また、蓋体14としては、例えばピーク樹脂(PEEK)やフッ素系樹脂(PTFE)などの耐熱性を有する有機材料からなるものであってもよい。
【0024】
前記アンテナ導体13は、例えば13.56MHzの高周波電力及び正のバイアス電圧が給電されるものであり、アンテナ導体は抵抗率の小さい金属材料、例えば銅材やアルミニウム合金材等であることが好ましい。
【0025】
アンテナ導体を前記蓋体に取付ける方法としては、蓋体14の内側表面にアンテナ導体を螺子等によって固定することができる。或いは蓋体14の内側表面にメタライズ法によって形成しても良い。具体的には、まずアルミナ等からなる蓋体14に給電端子15用の孔や接地端子16用の孔を孔開け加工をする。その後、前記蓋体のアンテナ導体形成部分及び前記端子用孔の内面を含めてMo-Mnペーストを塗布して焼成することにより金属層を形成する。その上にNiメッキ等により例えば厚さ30~40μm程度のアンテナ導体13を形成する。アルミナ蓋体14と熱膨張係数の近いコバールピンを給電端子15や接地端子16として前記端子用の孔に挿入し、銀ろう等を用いて電極端子をろう付けする。
このような構成であれば、蓋体表面にアンテナ導体13を直接取り付けることができるだけでなく、前記アンテナ導体に発生する熱を前記蓋体に放熱することができる。
【0026】
本実施形態では、アンテナ導体は放電プラズマ中に曝されるためイオンボンバードメントを受けてアンテナ導体金属がスパッタされて飛散し、被処理基板表面を汚染する恐れがある。飛散しても構わない材料でアンテナ導体表面を被覆することが望ましい。プラズマ処理の目的にもよるが炭素系や珪素系の材料が好ましい。具体的には、珪素、炭化珪素、珪素酸化物、窒化珪素、DLC、炭化チタン、炭化ジルコニウム等を挙げることができる。
【0027】
本実施形態のプラズマ処理装置100の特長は、アンテナ導体の長手方向の中央部に例えば13.56MHzの高周波電圧を給電してアンテナ導体の近傍に高密度のICPプラズマを励起するとともに、例えば30kHzの正のパルス電圧、或いは低周波交流電圧を重畳して印加することによってプラズマ電位を接地電位に対して高電位にすることができる。これによって被処理基板表面に形成されたイオンシース電界によって加速された高エネルギーイオンを照射しながらプラズマ処理することができることである。
【0028】
高周波電源22はアンテナ導体の近傍に放電プラズマを励起するもので、一般的に周波数13.56MHzの高周波電力が用いられるが、この周波数に限られるものではない。本明細書で用いている300kHz以上の高周波電圧であることが好ましい。また、バイアス電源23はアンテナ導体近傍に励起した高密度プラズマの電位を制御するためのもので、正のバイアス電圧を給電できる電源である。例えば正のパルス電圧、正の交流電圧、或いは半波整流したバイアス電圧を給電できるものが好ましい。なお、作業ガスの圧力が数Pa以上であればパルス電圧或いは低周波交流電圧のみで放電プラズマを励起することもできる。この場合は高周波電源22及び整合器21は不要である。
【0029】
低周波のバイアス電圧の印加によってプラズマ電位を制御するためには、アンテナ導体の接地端部13a、13bをコンデンサ17を介して接地すればよい。アンテナ導体に十分な高周波電流を流して放電プラズマを励起するとともにアンテナ導体に正のバイアス電圧を印加してプラズマ電位を制御する。前記高周波放電によって励起されたプラズマの密度は前記アンテナ導体近傍が最も高く、アンテナ導体から離れるに従って減衰する。従って、前記アンテナ導体に正のバイアス電圧を印加してプラズマ電位を制御することは極めて有効な制御方法であって、プラズマ電位もバイアス電圧に対応して変調される。接地電位にある被処理基板表面にはバイアス電圧に対応したイオンシースが形成され、このイオンシースで加速されたイオンが基板に入射する。
【0030】
前記アンテナ導体に十分な高周波電流を流し、且つ低周波のパルス電圧が印加できるために好適なコンデンサの静電容量は0.1nF~30nFである。より好適な範囲は0.5nF~15nFである。例えば、静電容量が3nFであれば13.56MHzの高周波電圧に対するインピーダンスは約3Ω、30kHzの低周波電圧に対するインピーダンスは約1800Ωである。従って、高周波電流に対しては導通状態であるが、低周波電流に対しては高インピーダンスとなりアンテナ導体は電気的にフローティング状態に置かれ、パルス電圧の印加によってプラズマ電位を制御することができる。
なお、コンデンサの静電容量については0.1nF未満では高周波電流に対してインピーダンスが大きくなって十分な高周波電流が流せなくなる。一方、静電容量が30nF以上では低周波電流に対するインピーダンスが低く電力損失が大きくなる。
【0031】
前記アンテナユニットの他の実施形態であるアンテナユニット20について図2を用いて説明する。前記コンデンサ17は図1に示すように個別のコンデンサを外付けすることができるが、図2に示すようにアンテナ導体の長手方向の両端部13a、13bに誘電体層25を挟持した積層型コンデンサ17を形成してもよい。アンテナ導体13の表面に誘電体層25を形成し、その表面に接地端子16を形成し、接地線26を介して上壁部111に接地することができる。
【0032】
積層コンデンサの静電容量は電極の面積、誘電体層の誘電率とその厚さによってきまる。誘電体層材料としては誘電率が大きく、耐電圧特性に優れた誘電体、例えばジルコニアセラミックスなどであることが望ましい。例えば、電極面積10cm,誘電率30,厚さ0.3cmであれば約1nFの積層コンデンサが形成できる。
【0033】
更に、アンテナユニットの他の実施形態について図3を参照して説明する。図3に示すアンテナユニット30は、前記蓋体14の内側面に形成された前記アンテナ導体13と、その外側表面に形成された電極部材Zをさらに備えている。
ここでは、説明を分かり易くするため、前記蓋体14の内側面に形成された前記アンテナ導体13を往路アンテナ導体13と記載し、外側面に形成された電極部材Zを復路アンテナ導体Zと記載する。
【0034】
復路アンテナ導体Zは往路アンテナ導体13の長手方向に略対向して設けられ、その両端部Za及びZbが往路アンテナ導体13の両端部13a及び13bとそれぞれ蓋体を貫通する導体Xa,Xbを介して電気的に接続されている。復路アンテナ導体の他端部Zcはコンデンサ17を介して接地されている。
【0035】
かかる構成により、往路アンテナ導体13の長手方向中央部13cに給電された高周波電流は、往路アンテナ導体13の一端部13a及び他端部13bに流れた後、接続端部Za、Zbを経て復路アンテナ導体Zの一端部に流れ込み、復路アンテナ導体Zの他端部Zcに流れる。これにより、往路アンテナ導体13を流れる高周波電流の向きと、復路アンテナ導体Zを流れる高周波電流の流れる向きとが逆になる。つまり、往路アンテナ導体13、接続端部Za、Zb、及び復路アンテナ導体Zは、アンテナ導体13の長手方向中央部13cに給電された高周波電流に対する往復回路を構成している。このような往復回路では往復両アンテナ導体間に相互インダクタンスが発生する。高周波電流に対するアンテナ導体のインピーダンスは、前記相互インダクタンス相当分が相殺されて小さくなる効果がある。従って、同じ高周波電圧に対して大きな高周波電流を流すことができ、長尺のアンテナユニットを実用化することができる。
【0036】
また、平行平板型の往復アンテナ導体のインダクタンスは往復アンテナ導体の長さと間隔に比例し、幅に反比例する。即ち、往復アンテナ導体を接近させればインダクタンスは小さくなり離せば大きくなる。また、アンテナ導体の中央部の幅を大きくし、両端部の幅を小さくすることによって中央部のインダクタンスを小さくし、両端部のインダクタンスを相対的に大きくすることができる。
【0037】
前記往路アンテナ導体及び復路アンテナ導体の長手方向の任意の位置の電極幅を任意に変えることによって前記アンテナユニットの長手方向のインピーダンスを変えることができる。前記アンテナ導体に高周波電流を流した場合、アンテナ導体のインピーダンスの大きい部分で高周波電力の消費が大きく、アンテナ導体近傍の電磁界エネルギーも大きくなる。これによって、処理チャンバ内に励起されるプラズマのアンテナ導体の長手方向のプラズマ密度分布を制御することができろ。
【0038】
本発明に係る前記往復アンテナ導体の場合も長手方向の任意の位置の幅を任意に変えることによって前記アンテナユニット30の長手方向のインピーダンスを変えることができる。アンテナ導体の中央部領域の導体幅を大きくし、両端部領域の導体幅を小さくすることによってアンテナ導体の両端部領域におけるプラズマの拡散によるプラズマ密度の低下を補償することができる。アンテナユニットの長手方向のプラズマ密度を均一にすることができる。
【0039】
本発明による他の実施形態について図4を用いて説明する。図4図1に示すプラズマ処理装置100の原理を用いたロール・ツー・ロール方式によるインライン式プラズマ処理装置200の概念図である。図4は上面から見た断面模式図である。前記プラズマ処理装置100の処理チャンバ11の左右にロードチャンバ31とアンロードチャンバ32を有する構成である。ロードチャンバ31には被処理基板13、例えばキャパシタ用アルミニウム箔が巻き出しロール33に巻かれて格納されていて、搬送ローラ35によって順次プラズマ処理チャンバC1,C2,C3内に搬送され、前記プラズマ処理手段によって処理される。処理された被処理基板12は前記搬送手段によってアンロードチャンバ32内に格納された巻き取りロール34に巻き取られて保管され、定期的に製品として外部に搬出される。
【0040】
図4に示すインライン式プラズマ処理装置200は、3つの処理チャンバC1,C2,C3を有する。例えば、第1の処理チャンバC1で被処理基板の表面をイオン照射によってクリーニングし、第2の処理チャンバC2で例えばDLCなどの薄膜形成を行い、第3の処理チャンバC3で例えば機能性表面処理を行うことができる。言うまでもなく、単独の処理チャンバであってもよい。
【0041】
ロードチャンバ31、各処理チャンバ及びアンロードチャンバ32は図示されない排気手段によって高真空に保持される。また、各処理チャンバには図示されない作業ガス導入手段によって作業ガスが導入され、所定のガス圧力例えば1Paに調整される。
【0042】
このように複数のプラズマ処理プロセスを連続して実施する場合は、図4に示すように複数の処理チャンバを連結すればよく、処理チャンバ毎に異なるプラズマ処理を施すことができる。即ち、前記被処理基板12を接地し、処理チャンバ毎に必要な作業ガスを導入してガス圧力を調整し、処理チャンバ毎に異なる駆動電圧を前記アンテナユニット10に給電することによって複数のプラズマ処理を同時に連続して行うことができる。プラズマ処理工程毎に専用の処理チャンバと処理条件を設定することができるため生産性の向上と製品の品質向上を図ることができる。
【0043】
更に、各処理チャンバはプラズマ処理内容によって処理チャンバのサイズ、アンテナユニットの装着個数、アンテナ導体のサイズ等を任意に設計することができる。
【0044】
本発明によるインライン式プラズマ処理装置200では、被処理基板の各処理チャンバ間の搬送は隔壁板37に設けられた基板搬送用スリット36を通して行うことができる。各処理チャンバは、作業ガス導入手段と真空排気手段を備えているため、隣接するチャンバ間の作業ガスの圧力差は数Pa以下に設定することができる。従って、作業ガスの圧力差が数Pa以下であって、前記基板搬送用スリット36のガスコンダクタンスを十分小さくすることができるため処理チャンバ間の作業ガスの混合は考慮する必要がない。
【0045】
以上、代表的な実施形態について説明したが、本発明はその要旨を変えない限り、上記実施形態により何ら制限されるものではない。
【符号の説明】
【0046】
100 プラズマ処理装置
10 アンテナユニット
11 プラズマ処理チャンバ
111 上壁部
112 開口部
13 アンテナ導体
14 蓋体
17 コンデンサ
20 他のアンテナユニット
200 他のプラズマ処理装置
21 整合器
22 高周波電源
23 バイアス電源
25 誘電体板
30 他のアンテナユニット
33 巻出しロール
34 巻き取りロール
35 搬送ロール
図1
図2
図3
図4