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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】多孔ノズル及び噴霧方法
(51)【国際特許分類】
   B05B 1/14 20060101AFI20230104BHJP
   B05D 1/02 20060101ALI20230104BHJP
   B05D 7/22 20060101ALI20230104BHJP
【FI】
B05B1/14 Z
B05D1/02 Z
B05D7/22 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019076461
(22)【出願日】2019-04-12
(65)【公開番号】P2020171903
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000142023
【氏名又は名称】株式会社共立合金製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】青木 揺平
(72)【発明者】
【氏名】細谷 茂睦
(72)【発明者】
【氏名】荻野 夕介
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-081887(JP,A)
【文献】特開2006-167531(JP,A)
【文献】実開昭60-074751(JP,U)
【文献】実開昭55-053567(JP,U)
【文献】特開2010-221121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 1/00-3/18
7/00-9/08
12/00-12/14
13/00-13/06
B05D 1/00-7/26
B05C 7/00-21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル本体の先端部が閉じられ
ノズル本体の周壁に形成され、流体を噴射するための複数の噴射口と
前記ノズル本体に形成され、これらの噴射口に流体を供給するための流路とを備えた多孔ノズルであって、
前記流路が、前記複数の噴射口に、それぞれ、流体を供給するための複数の供給路で形成され
前記複数の供給路が、ノズル本体の周方向に間隔をおいて、かつ軸方向に延びて形成され、
1つの前記供給路に、1対1の関係で、単一の噴射口が形成されている多孔ノズル。
【請求項2】
ノズル本体の円柱状又は円錐状の周壁に複数の噴射口が形成されている請求項1記載の多孔ノズル。
【請求項3】
複数の噴射口が、ノズル本体の周壁の少なくとも周方向に間隔をおいて形成されている請求項1又は2記載の多孔ノズル。
【請求項4】
複数の噴射口が、ノズル本体の周方向にいくにつれて、ノズル本体の軸方向に周期的に又は規則的に間隔をおいて形成されている請求項1~3のいずれかに記載の多孔ノズル。
【請求項5】
供給路の終端部よりも上流部に噴射口が形成されている請求項1~4のいずれかに記載の多孔ノズル。
【請求項6】
噴射口が、ノズル本体の周方向に延びる細長孔状に形成され、この細長孔状噴射口のうち、ノズル軸方向において互いに対向する両内壁の少なくとも一方の内壁がノズル軸方向に膨らんで湾曲している請求項1~5のいずれかに記載の多孔ノズル。
【請求項7】
供給路の中心軸線と、この供給路に対応する噴射口の中心軸線とが交差部で交差しており、前記噴射口が、前記供給路の終端部よりも上流部に噴射口が形成されており、各供給路において、前記供給路の始端部から前記交差部に至る長さが、前記供給路の交差部から噴射口に至る長さよりも大きく、前記供給路の終端部から前記交差部に至る長さが、各供給路においてほぼ同じである請求項1~6のいずれかに記載の多孔ノズル。
【請求項8】
中実の棒体に、周方向に間隔をおいて棒体の軸方向に延びる複数の供給路が形成され、前記棒体の周壁に、前記供給路に連通して、周方向に延びるスリット状噴射口が形成されている請求項1~7のいずれかに記載の多孔ノズル。
【請求項9】
少なくとも湾曲又は屈曲した内壁を有する部材のうち、前記内壁に流体としての処理剤を噴霧して処理する方法であって、請求項1~8のいずれかに記載の多孔ノズルを用いて流体を前記内壁に噴霧し、前記内壁を処理する方法。
【請求項10】
少なくとも湾曲又は屈曲した内壁を有する部材が中空状内壁を有し、この中空状内壁を処理する請求項9記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を周方向に均一に噴霧又は噴射し、断面中空部材などの内壁などを流体で処理するのに有用な多孔ノズル及び噴霧方法(又は噴射方法)に関する。
【背景技術】
【0002】
噴霧ノズルは、通常、中空筒状のノズル本体と、このノズル本体の先端部に形成された吐出孔とを備えており、ノズル本体に液体を供給することにより、先端部の吐出孔から液体を被処理体に噴霧している。しかし、このような噴霧ノズルは、液体の噴霧域がノズル先端部の吐出孔の形態などにより制限され、広範囲に亘り液体を噴霧することができない。噴霧ノズルとして、周方向に液体を噴霧するノズルも知られている。
【0003】
例えば、特開平5-4057号公報(特許文献1)には、防錆ワックスが供給される供給孔を有するノズル本体にワックス吐出用開口部を形成し、前記ノズル本体の外側に前記開口部を位置させて回転自在に回転筒を装着し、この回転筒に、ワックスの流出圧力により前記回転筒を回転させるためのワックス吐出口を形成した吹き付用回転ノズルが記載されている。この文献には、ノズル本体の内壁に、長手方向に延びる2つのスリット開口部を形成し、このスリット開口部を通じて、ノズル本体の外周面にワックスを流出させるため、回転筒に、軸方向及び周方向に互いに位置をずらして複数のワックス吐出口(丸孔の吐出口と、長軸方向が互いに異なる2つの長孔状の吐出口)を形成し、これらの吐出口から吐出するワックスの吐出圧により回転筒をノズル本体の外周部で回転させることが記載され、回転筒とノズル本体との間をOリングでシールすることも記載されている。
【0004】
特開2017-104777号公報(特許文献2)には、液供給管の先端に取り付けられる給液軸管と、この給液軸管の外周部に回転可能に配置された回転体と、前記給液軸管の先端に固定され、かつ前記回転体を回転自在に支持する軸受材とを備え、前記給液軸管が長さ方向の中央部で通路を閉じて流路の終端を形成し、この終端に近接する通路の周壁に旋回流を発生させる複数の液噴出口を設け、前記回転体の中央部の内周面に前記液噴出口と対向する中央環状溝を設け、前記回転体の両端部を前記給液軸管と前記軸受材とに回転自在に外嵌保持させ、前記中央環状溝の周壁に、長さ方向及び周方向に間隔をおいて噴口を形成した回転式スプレーノズルが記載されている。
【0005】
しかし、これらの回転式ノズルでは、オリフィス部(噴射口)を回転しながら噴霧するため、連結部にクリアランスが必要となる。そのため、液漏れを防止できず、液体を有効に噴霧に利用できないだけでなく、少量噴霧には適していない。一方、液漏れを防止するためには、回転機構と周方向への噴霧機構とが必要となり、構造が複雑化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-4057号公報(請求項1、[0010]、図1図4
【文献】特開2017-104777号公報(特許請求の範囲、図1及び図4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、流体を周方向に噴霧又は噴射するのに有用な多孔ノズル(又は噴霧ノズル)及び噴霧方法(又は処理方法)を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、回転機構を採用することなく、簡単な構造で漏れを確実に防止しつつ、流体を周方向に均一に噴霧又は噴射するのに有用な多孔ノズル(又は噴霧ノズル)及び噴霧方法を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、少量であっても液体を有効に噴霧可能な多孔ノズル及び噴霧方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、回転機構を採用することなく、先端部が閉塞した中空のノズル本体において、円周方向に間隔をおいて、かつ軸方向の位置を異にして多段に複数の噴射口を形成することも検討した。しかし、このようなノズルでも、圧力損失が生じるためか、各噴射口からの液体の流量を均一にできず、液体を周方向に均一に噴霧することができなかった。特に、少量の液体を均一に噴霧できなかった。このような知見に基づいて、さらに検討した結果、円柱状の棒体に、周方向に間隔をおいて、軸方向に延び、かつ終端部が閉じた複数の供給路(又は流入路)を形成し、前記棒体の周壁に、これらの流入路に連通させてスリット状噴射口(又は吐出孔)を周方向に形成すると、前記流入路に導入した流体をスリット状噴射口から噴射又は噴霧でき、断面中空部材などの中空部の内壁を均一に処理できることを見いだし、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の多孔ノズルは、ノズル本体の先端部が閉じられ;ノズル本体の周壁に形成され、流体を噴射するための複数の噴射口(又は噴霧孔、吐出孔)と;前記ノズル本体に形成され、これらの噴射口に流体を供給するための流路とを備えている。そして、前記流路は、前記複数の噴射口に、それぞれ、流体を供給するための複数の供給路で形成されている。すなわち、複数の供給路は、それぞれ複数の噴射口と連通しており、互いに分離し独立して形成されている。このようなノズルでは、前記複数の供給路が、それぞれ、複数の噴射口に連通しているため、各供給路で流体の圧力損失が生じることなく、周壁に形成された複数の噴射口から流体を周方向に噴霧又は噴射できる。
【0012】
複数の噴射口は、ノズル本体の適所、例えば、ノズル本体の円柱状又は円錐状の周壁に形成してもよい。複数の噴射口は、ノズル本体の周壁の少なくとも周方向に間隔をおいて、例えば、周方向に等間隔に形成してもよい。さらに、複数の噴射口は、ノズル本体の周方向にいくにつれて、ノズル本体の軸方向に周期的に又は規則的に間隔をおいて形成してもよい。
【0013】
さらに、噴射口は、供給路の終端部(先端部)よりも上流部(又は上流側)に形成してもよい。すなわち、供給路は、ノズル本体の軸方向に、噴射口よりもノズル先端部側に直線的に延びて形成してもよい。このような形態では、供給路のうち噴射口から終端部に至る流路又は空間を乱流空間として機能させることができ、供給路からの流体を噴射口から均一に噴射又は噴霧できる。
【0014】
さらに、前記噴射口は、長軸が周方向に向いたスリット状の形態、例えば、ノズル本体の周方向に延びる細長孔状に形成され、この細長孔状噴射口のうち、ノズル軸方向において互いに対向する両内壁の少なくとも一方の内壁がノズル軸方向に膨らんで湾曲していてもよい。
【0015】
供給路の中心軸線は、通常、噴射口の中心軸線(前記供給路に対応する噴射口の中心軸線)に対して交差部で交差しており、前記噴射口は、前記のように、供給路の終端部よりも上流部に形成してもよい。さらに、各供給路において、前記供給路の始端部から前記交差部に至る長さは、前記供給路の交差部(供給路の中心軸線と噴射口の中心軸線とが交差する分岐部)から噴射口に至る長さよりも大きく形成してもよく、前記供給路の終端部から前記交差部(前記噴射口の中心軸線)に至る長さ(供給路の底部又は最奥部から噴射口の中心軸線に至る距離;又は噴射口の中心軸線からの供給路の深さ)は、各供給路において、ほぼ一定又は同じであってもよい。
【0016】
より具体的には、多孔ノズルは、中実の棒体の周方向に間隔をおいて棒体の軸方向に延び、かつ終端部が閉塞して形成された複数の供給路と、前記棒体の周壁に、前記供給路に連通して形成され、周方向に延びるスリット状噴射口(噴霧孔又は吐出孔)とを備えていてもよい。
【0017】
本発明の前記多孔ノズルは、種々の部材に流体を噴霧又は噴射して処理するために有用である。例えば、前記多孔ノズルは、少なくとも湾曲又は屈曲した内壁を有する部材のうち、前記内壁に流体としての処理剤を噴霧して処理するのに利用でき、前記処理部材は、部分的に開放されていてもよい中空部を有する部材であってもよい。このような中空状内壁を有する部材であっても、前記多孔ノズルを用いて流体を前記中空状内壁に噴霧し、前記中空状内壁を処理することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、ノズル本体の周壁に形成された複数の噴射口に、複数の供給路から、それぞれ、流体を供給可能であるため、圧力損失を抑制しつつ、流体を周方向に均一に噴射又は噴霧できる。さらに、ノズル本体を形成する棒体の周方向に間隔をおいて軸方向に延びる複数の供給路を形成し、前記棒体の周壁に、それぞれの供給路に至る噴射口を形成すればよいため、回転機構を採用することなく、簡単な構造の多孔ノズルを形成できる。特に、漏れを確実に防止しつつ、流体を周方向に均一に噴霧又は噴射できる。さらには、少量の液体(又は処理剤)であっても有効かつ均一に噴霧できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明のノズル本体の一例を示す概略断面図である。
図2図2は、図1のノズル本体を備えた多孔ノズルを示す概略斜視図である。
図3図3は、本発明のノズル本体の他の例を示し、図3(A)はノズル本体の概略断面図であり、図3(B)は噴射口に沿って周方向に展開した仮想の部分展開図である。
図4図4は、本発明のノズル本体のさらに他の例を示し、噴射口に沿って周方向に展開した仮想の部分展開図である。
図5図5は、比較例1で用いたノズルを示す概略斜視図である。
図6図6は、実施例1での噴霧状態を示す写真である。
図7図7は、比較例1での噴霧状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、必要に応じて、添付図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明のノズル本体の一例を示す概略断面図であり、図2は、図1のノズル本体を備えた多孔ノズルを示す概略斜視図である。
【0022】
多孔ノズルは、周方向に等間隔に形成された複数のスリット状噴射口から流体を均一に噴射又は噴霧するためのノズル本体(又はノズル本体部)1と、このノズル本体の上流端部に形成され、前記噴射口3a~3fに液体を供給するためのアダプター(又はアダプター部、経大部)5とを備えており、ノズル本体(又はノズル本体部)1とアダプター(又はアダプター部)5とは一体化している。この例では、ノズル本体1とアダプター5とが分離して図示されているが、単一の円柱体を切削加工して、ノズル本体1に対応するノズル本体部と、アダプター5に対応するアダプター部とを形成し、ノズル本体部とアダプター部とが一体化したノズルを形成している。
【0023】
前記ノズル本体1は、周方向に等間隔で、円柱体1aの一方の端面から直線的に軸方向に延び、円柱体1aの他方の端面に貫通することなく閉塞して(又は終端部が閉じて)形成された複数の供給路(この例では、6つの供給路又は管状流入路)2a~2fと、これらの供給路に対応して、前記円柱体1aの周壁に周方向に等間隔に形成され、前記供給路と連通したスリット状噴射口(長軸が周方向に向いた6つの噴射口)3a~3fとを備えており、外周方向に噴霧するため、各供給路の中心軸線と、この供給路に対応する噴射口の中心軸線とは直交して交差部(又は分岐部)で交差している。
【0024】
前記複数の供給路(管状流入路)2a~2fは、第1の供給路群2a~2cと第2の供給路群2d~2fとが隣接して形成されており、第1及び第2の供給路群では、それぞれ、供給路(管状流入路)の長さが周方向(又は時計方向)にいくにつれて順次に大きく形成されている。すなわち、第1及び第2の供給路群のうち最も長い流路2c,2fには、最も短い流路2a,2dが隣接している。このような形態で複数の供給路(管状流入路)2a~2fを形成することにより、ノズル本体1を中心として、周方向に液体を均一に噴霧している。
【0025】
複数の噴射口3a~3fの軸方向の位置も、複数の供給路2a~2fの長さに対応して、周方向にいくにつれて順次に軸方向に周期的又は規則的に間隔をおいて形成されている。より具体的には、噴射口3a~3fは、前記供給路2a~2fの終端部よりも上流部に形成されており、前記供給路2a~2fの終端部から前記噴射口3a~3fの中心軸線への長さ(交差部に至る長さ、又は噴射口からの深さ)Dはほぼ同じ又は一定に形成され、供給路2a~2fの終端部(深部)に撹拌空間(乱流空間又は凹部)4a~4fを形成している。また、前記供給路2a~2fの前記交差部(供給路の中心軸線と噴射口の中心軸線との交点)から噴射口3a~3fに至る長さLdもほぼ同じ又は一定に形成されている。さらに、液体を噴射口3a~3fから安定して噴霧するため、各供給路2a~2fにおいて、前記供給路2a~2fの始端部から前記交差部(供給路の中心軸線と噴射口の中心軸線との交点)に至る長さ(又は円柱体1aの一方の端面に位置する始端部から、供給路の中心軸線と噴射口の中心軸線との交点(交差部)に至る長さ)L1~L3は、前記供給路の前記交差部から噴射口に至る長さLdよりも大きく形成されている。
【0026】
なお、周方向にいくにつれて順次に軸方向に間隔をおいて形成された複数の噴射口3a~3fは、ノズル本体1の軸線を中心として放射状の位置関係で位置している。また、複数の噴射口3a~3fは、ノズル本体1の軸線方向から見たとき、互いに隣接するスリット状噴射口3a~3fの両側部は周方向において重複しており、スリット状噴射口3a~3fは、ノズル本体1の周方向に延びる細長孔状に形成され、この細長孔状噴射口のうち、ノズル軸方向において互いに対向する両内壁がノズル軸方向に膨らんで湾曲している。このような形態で形成された複数のスリット状噴射口3a~3fにより、周方向に均一な噴霧分布で液体を噴霧している。
【0027】
このような多孔ノズル(噴霧ノズル)では、アダプター5(ノズル本体1と一体化したアダプター)から液体を供給して各供給路2a~2fに分配でき、各供給路2a~2fでは流体が流路に沿って流動するとともに、供給路2a~2fの最深部の撹拌空間4a~4fで撹拌又は乱流化できる。さらに、複数の噴射口3a~3fが軸方向及び周方向に位置を変えて形成されているため、ノズル本体1を中心として複数の噴射口3a~3fから液体などの流体を周方向に均一に噴霧できる。
【0028】
なお、ノズル本体とアダプターとは一体化できればよく、単一の棒体を加工して、ノズル本体に対応するノズル本体部とアダプターに対応するアダプター部とを形成し、一体化したノズルとしてもよい。また、ノズルは、ノズル本体と、このノズル本体の上流端部に装着可能なアダプターとを備えていてもよく、ノズル本体に対するアダプターの装着形態は、螺合を利用した螺合形態に制限されず、ノズル本体とアダプターとの間はOリングなどの封止部材で封止してもよい。このように、本明細書において、「ノズル本体」及び「アダプター」は、一体化していてもよく、互いに分離していてもよい。そのため、「ノズル本体」及び「アダプター」は、それぞれ、「ノズル本体部」及び「アダプター部」と同義に用いることができる。さらに、アダプター(又はアダプター部)は、流体をノズル本体(又はノズル本体部)に供給又は導入する機能を有するため、アダプター(又はアダプター部)は、流体導入部ということもできる。また、アダプター(又はアダプター部、経大部)にシリンダーやネジ機構などの前進動及び/又は後退動機構を取り付け、ノズル本体を前進動及び/又は後退動可能としてもよい。そのため、アダプター(又はアダプター部、経大部)は操作部ということもできる。
【0029】
ノズル本体(アダプターも含む)は、複数の供給路及び噴射口が形成可能である限り、円柱状に限らず、多角柱状、円錐状、多角錐状、円錐台状、多角錐台状などの形態を有していてもよい。ノズル本体は、棒状体、例えば、円柱体、円錐体、円錐円柱体、特に円柱体の形態を有している場合が多い。複数の噴射口は、円柱状又は円錐円柱状のノズル本体の周壁、通常、ノズル本体の円柱状又は円錐状の周壁に形成されている。なお、ノズル本体の先端部は、閉じられており、供給路(流入路)を通じて、ノズル本体の周壁に形成された噴射口に流体が供給され、噴射口から流体が噴霧又は噴射される。
【0030】
多孔ノズルは、前記ノズル本体に形成され、噴射口に連通して流体を供給可能な流路(流入路)を備えており、この流路は、複数の噴射口(噴霧孔又は吐出孔)に、それぞれ、流体を供給するための複数の供給路(流入路又は導入路)で形成されている。すなわち、複数の供給路(流入路又は導入路)は、互いに分離して、それぞれ、複数の噴射口と連通している。
【0031】
複数の供給路は、ノズル本体(円柱体など)の一方の端面から、周方向に間隔をおいて軸方向に延びて形成すればよく、周方向に等間隔に軸方向に延びて形成する場合が多い。複数の供給路は、ノズル本体(円柱体など)の端面の中心域において周方向に間隔をおいて軸方向に形成してもよく、通常、外周域において周方向に間隔をおいて軸方向に形成する場合が多い。
【0032】
複数の供給路の長さは、ノズル本体の軸方向の噴射口の位置と関連付けて同一又は異なっていてもよく、前記のように、周方向にいくにつれて順次に大きく(又は深く)又は小さく(又は浅く)形成してもよい。好ましい態様では、周方向に均一かつ幅広に流体を噴霧するため、複数の供給路の長さは、周方向にいくにつれて規則的に又は周期的に異なっていてもよく;周方向にいくにつれて長さの異なる複数の供給路(又は流路群)が、周方向に規則的に又は周期的に形成されていてもよい。例えば、噴射口の軸方向の位置と関連付けて、長さの異なる一対の供給路(一対の流路群)を、周方向に順次に隣接させて形成してもよく;周方向にいくにつれて長さの異なる複数の供給路(例えば、順次に長さが大きな複数の供給路)で形成された供給路群を、周方向に順次に隣接させて(すなわち、複数の供給路群で)形成してもよく、このような複数の供給路群は、階段状の軌跡上において、多段状に昇降する形態で形成してもよく;全周に亘り周方向にいくにつれて順次に長さが大きくなる又は小さくなる複数の供給路(例えば、螺旋状の軌跡上に等間隔に形成された複数の供給路)を形成してもよい。通常、ノズル本体の周方向にいくにつれてノズル本体の軸方向の長さの異なる複数の供給路(前記長さの異なる一対の供給路を含む)を、ノズル本体の周方向に周期的に又は規則的に形成する場合が多い。なお、供給路の断面形状は、特に制限されないが、通常、円形状である場合が多い。また、供給路は、必要であれば、ノズル本体の軸方向に対して湾曲又は傾斜して延びていてもよいが、通常、ノズル本体の軸方向に沿って直線的に延びて形成されている。
【0033】
各供給路にはそれぞれ噴射口(噴霧孔、吐出孔又はノズルオリフィス)が形成され、噴射口(噴霧孔、吐出孔又はノズルオリフィス)は、ノズル本体の周壁から外向きに形成され、噴射口の中心軸線と、供給路(前記噴射口に対応する供給路)の中心軸線とは、交差部(又は分岐部)で交差しており、通常、噴射口の中心軸線と供給路の中心軸線とは直交して交差する場合が多い。
【0034】
噴射口の位置は、前記供給路と連通して、流体を周方向に噴霧可能であればよく、軸方向の位置を考慮せずに、周方向の位置だけを考慮すると、複数の噴射口は、例えば、ノズル本体の周方向に間隔をおいて形成してもよく、周方向の噴射口の間隔は、同一又は異なっていてもよく、通常、ノズル本体の周方向に等間隔に形成される。例えば、複数の噴射口の中心軸は、ノズル本体の中心軸を中心として、放射状の位置関係、すなわち、周方向に等間隔な位置に形成してもよい。
【0035】
一方、周方向の位置を考慮せずに、軸方向の位置を考慮すると、噴射口は、例えば、軸方向の位置を同じくして、周方向に間隔をおいて形成してもよく、通常、軸方向の位置を異にして、周方向に間隔をおいて形成する場合が多い。
【0036】
複数の噴射口は、軸方向の位置を変えずに、周方向に間隔をおいて形成してもよいが、周方向に流体をさらに均一に噴霧するためには、周方向及び軸方向の双方の方向に間隔をおいて形成する場合が多い。好ましい形態では、複数の噴射口(オリフィス)は、ノズル本体の軸方向に間隔をおいて多段に、かつ周方向に間隔をおいて(又は等間隔に)形成してもよい。すなわち、複数の噴射口(噴霧孔又はノズルオリフィス)は、ノズル本体の周方向にいくにつれてノズル本体の軸方向の位置を異にして(又は間隔をおいて)形成される。特に、複数の噴射口は、ノズル本体の周方向に等間隔であって、ノズル本体の軸方向に間隔をおいて形成する場合が多い。周方向にいくにつれて、例えば、周方向に隣接する複数の噴射口は、ノズル本体の周方向にいくにつれて、ノズル本体の軸方向に間隔をおいて(軸方向の位置を異にして)、互い違いに(又は周方向の仮想線に対して軸方向に交互に位置する千鳥状の形態で)、若しくは上流方向又は下流方向に順次に昇降する階段状の形態で点在して形成してもよい。
【0037】
具体的には、図3に示されるように、ノズル本体11の複数の供給路は、長さが大きな供給路12aと、長さが小さな供給路12bとが周方向に交互に隣接して軸方向に延びて形成され、これらの供給路12a,12bの終端部から所定の距離Dのノズル本体11の側壁には、スリット状噴射口13a,13bが開口している。これらのスリット状噴射口13a,13bは、噴射口の配置形態を説明するための仮想の展開図である図3(B)に示されるように、円周方向の仮想線を中心として軸方向に交互に位置し、千鳥状の配置形態を示している。すなわち、終端部から一定の距離Dの位置で噴射口13a,13bと連通し、長さの異なる一対の供給路(長さが大きな供給路12a及び長さが小さな供給路12b)が周方向に順次に隣接させて複数の供給路を形成してもよい。
【0038】
仮想の展開図である図4に示す例では、ノズル本体21の複数の供給路は、最も長さが大きな供給路22aと、この最も長さが大きな供給路22aから周方向に離れるにつれて順次に長さが小さくなる(最も長さが大きな供給路22aに向かって順次に長さが大きくなる)複数の供給路22b,22cとを備えており、これらの複数の供給路22a,22b,22cは供給路群を形成しており、この供給路群は、周方向に隣接して、全周に亘る複数の供給路(環状の軌跡上において、周方向に間隔をおいて形成された複数の供給路)を形成している。各供給路に連通する噴射口23a,23b,23cは、前記と同様に、複数の供給路22a,22b,22cの終端部から一定の距離の位置で開口しており、湾曲した山形状又は波形状の軌跡上に周方向に間隔をおいて位置し、昇降する階段状の形態で点在している。すなわち、複数の噴射口23a,23b,23cは、最も長さが大きな供給路22aを中心として、ノズル本体21の周方向にいくにつれて、ノズル本体21の軸方向に間隔をおいて、山形状又は波形状の軌跡上に点在する形態を有している。
【0039】
なお、供給路群の数及び長さは特に制限されず、例えば、供給路群の数は、2~10程度であってもよく、供給路群は、長さの異なる複数の供給路(例えば、長さの大きな第1の供給路と、長さの小さな第3の供給路との2つの供給路;この2つの供給路に加えて、中間的な長さの第2の供給路を備えた3つの供給路などの長さの異なる複数の供給路)を備えていてもよく、長さの異なる複数の供給路を1セットとして周方向に周期的又は規則的に配置してもよい。また、長さの異なる複数の供給路(1セットの供給路)の配置状態は、周方向に流体を均一に噴霧可能であればよく、例えば、周方向に、同じ長さの供給路(例えば、第2の供給路など)を隣接させてもよく;第1の供給路、第2の供給路、第3の供給路の配置のように、順次に長さが異なっていてもよく;第1の供給路と第2の供給路との間に第3の供給路が介在する形態などであってもよい。
【0040】
複数の噴射口の形態は、前記スリット状噴射口に限らず、種々の形態、例えば、断面円形状、楕円形状、矩形状などであってもよい。好ましい噴射口の形態は、ノズル本体の周方向に延びる細長孔状の形態であってもよく、細長孔状噴射口のうち、ノズル軸方向において互いに対向する両内壁の少なくとも一方の内壁はノズル軸方向に膨らんで湾曲していてもよい。
【0041】
さらに、噴射口の深さ(半径方向の長さ)は、前記供給路に通じていればよく、前記供給路の中心軸線などに至る深さであってもよく、前記供給路を横断していてもよい。
【0042】
なお、各供給路には、軸方向に間隔をおいて複数の噴射口を形成してもよいが、複数の噴射口を軸方向に間隔をおいて形成すると、軸方向において流体の圧力降下が生じ、均一に噴霧できない場合がある。そのため、通常、1つの供給路には、1対1の関係で、単一の噴射口を形成する場合が多い。すなわち、供給路と噴射口とは同数に形成されている。
【0043】
前記噴射口は、前記供給路の適所、例えば、終端部(最深部)に連通して形成してもよいが、供給路の終端部(先端部)よりも上流部に形成するのが好ましい。すなわち、供給路を、噴射口よりもノズル先端部側に延びて形成すると、供給路と噴射口との交差部の下流に空間部(又は凹部)を形成でき、この空間部を乱流生成部として機能させることができる。そのため、噴射口から流体を均一に噴霧できる。
【0044】
なお、供給路の終端部と交差部(噴射口入り口)との距離(供給路の終端部から噴射口の中心軸線への長さ(噴射口からの深さ)D)は、各供給路において同一又は異なっていてもよく、前記距離Dの異なる供給路を、周方向に規則的又は周期的に配置してもよく、隣接した形態、ノズル本体の中心軸を中心として対称の形態で配置してもよい。例えば、複数の供給路の長さが同じであっても又は異なっていても、周方向に前記距離(又は深さ)Dが規則的又は周期的に異なっていてもよい。前記距離Dは、各供給路においてほぼ同一である場合が多い。
【0045】
前記供給路の始端部から前記交差部に至る長さL(L1~L3)は、前記供給路の交差部から噴射口に至る長さLdと同等又は小さくてもよいが、前記供給路の交差部から噴射口に至る長さLdよりも大きくすることにより、流体を周方向に安定して噴霧できる。前記供給路の始端部から前記交差部に至る長さLは、供給路の交差部から噴射口に至る長さLdに対して、例えば、2~50倍、好ましくは3~30倍、さらに好ましくは5~20倍程度であってもよい。
【0046】
代表的なノズル本体は、円柱状などの中実の棒体(棒状体)に、周方向に間隔をおいて棒体の軸方向に延び、かつ終端部が閉塞した複数の供給路が形成され、前記棒体の周壁に、前記供給路に連通して、周方向に延びるスリット状噴射口が形成されている。すなわち、円柱状などの中実棒体の一方の端面(例えば、外周域)において、周方向に間隔をおいて軸方向に延びる複数の供給路(例えば、長さの異なる複数の供給路)を穿設し、中実棒体の周壁のうち各供給路に対応する周壁を切除(例えば、V字状にカット)することにより噴射口を形成できる。
【0047】
本発明の多孔ノズル(特に、少なくともノズル本体)は、セラニミック製やプラスチック製などであってもよいが、通常、金属製である場合が多い。
【実施例
【0048】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
図1及び図2に示すノズル(噴射口(オリフィス)数:6、供給路(流路)数:6、各供給路(流路)の内径:1mm、L1=2.5mm,L2=6.5mm,L3=10.5mm,Ld=1.5mm(外周から断面円形の供給路(直径1mmφ)の中心軸線までの距離),D=1.0mm,材質:SUS303)を用いて、水に圧力0.3MPaをかけて噴霧し、各噴射口における流量を実測した。表1にトータル流量(各噴射口における流量の合計)、各噴射口における流量、各噴射口における流量のばらつき(各噴射口の流量/流量の平均値)、および標準偏差を示し、図6に噴霧状態を撮影した写真を示す。なお、ノズルは、単一の円柱体を加工して、ノズル本体1に対応するノズル本体部と、アダプター5に対応するアダプター部とを形成して、一体化したノズルとして作製した。
【0050】
[比較例1]
図5に示すノズル、すなわち、内径2mmの1つの供給路(流路)32をノズル本体31の中心軸に沿って形成し、周方向に間隔をおき(又は対向させて)、かつ軸方向の間隔をおいて多段に噴射口33a~33cを形成する以外は図1及び図2と同様のノズル(噴射口数:6、供給数:1、供給路の内径:2mm、材質:SUS303)を用いた以外は、実施例と同様にして各噴射口における流量を測定した。表1に、トータル流量(各噴射口における流量の合計)、各噴射口における流量、各噴射口における流量のばらつき(各噴射口の流量/流量の平均値)、および標準偏差を示し、図7に噴霧状態を撮影した写真を示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1、図6及び7から明らかなように、実施例1のノズルを用いると、比較例1のノズルに比べて、各噴射口における流量のばらつきを大きく低減でき、ノズルの中心軸線に対して周方向に均一に噴霧できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の多孔ノズルは、ノズル本体の中心軸線に対して周方向に均一に流体を噴射(又は噴霧)できるため、冷却噴霧、流体による処理などの種々の用途に利用でき、流体(処理剤)、例えば、液体(例えば、水、アルコール類などの有機溶剤、防錆ワックスなどの防錆剤、コーティング剤、塗料、洗浄液、エッチング剤などの液体)を噴霧または塗布する用途などに好適に使用できる。特に、少なくとも湾曲又は屈曲した内壁(又は内面)を有し、ノズルが挿入可能(又は進退動可能な)な部材、例えば、中空筒状、中空多角状、袋状、箱状などの中空部を有する部材(例えば、自動車部品などの機械部品など)、断面形状が湾曲又は屈曲した部材(例えば、断面C字状、∪字状、コ字状、く字状などの部分的に開放(例えば、側壁が開放)されている部材に適用でき、このような部材の少なくとも湾曲又は屈曲した内壁又は内面を処理するのに適している。特に、中空状内壁を処理するのに適している。
【0054】
本発明の方法は、少量の流体であっても、液漏れを抑制しつつ均一に噴霧できるため、被処理面に対して膜厚の薄い塗膜を形成することも容易であり、このような用途(例えば、サイドシルやフェンダーなどの自動車部品に対する防錆ワックスの塗布など)に適用してもよい。
【0055】
なお、ノズル本体を移動機構により移動させながら、前記処理剤(流体)を前記内壁(又は内面)に噴霧して処理してもよい。
【符号の説明】
【0056】
1…ノズル本体
2a~2f…供給路
3a~3f…噴射口

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7