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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】ワクチン組成物
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20230104BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20230104BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20230104BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230104BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20230104BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20230104BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230104BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20230104BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
A61K39/00 H
A61K47/64
A61P35/00
A61P35/04
C07K16/18
C07K19/00
C07K14/47
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019539648
(86)(22)【出願日】2018-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2018032276
(87)【国際公開番号】W WO2019045025
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2017166860
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 靖史
(72)【発明者】
【氏名】中神 啓徳
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 英樹
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/087810(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/073052(WO,A1)
【文献】KOYANAGI, Takahiro et al.,Targeting human vasohibin-2 by a neutralizing monoclonal antibody for anti-cancer treatment,Cancer Sci,2017年03月,Vol.108, No.3,p.512-519,Abstract, Introduction
【文献】MIYAZAKI, Yasumasa et al.,A new strategy for the treatment of prostate cancer by targeting vasohibin-2,J Urology,2016年,Vol.195, No.4S,p.e1148,MP90-09の項を参照
【文献】TU, Min et al.,Vasohibin 2 reduces chemosensitivity to gemcitabine in pancreatic cancer cells via jun proto-oncogen dependent transactivation of ribonucleotide reductase regulatory subunit M2,Mol Cancer,2017年03月,Vol.16, No.66,p.1-12,Abstract
【文献】SUN, Jie et al.,Generation and characterization of rabbit polyclonal antibodies against Vasohibin-2 for determinatioo of its intracellular localization,Int J Oncol,2013年,Vol.43,p.255-261,Abstract, Table 1
【文献】LEE, EunSeo,Development of a novel and feasible antibody therapy targeting vasohibin-2,第76回日本癌学会学術総会抄録集,2017年09月28日,p.286,演題番号P-1233
【文献】李殷瑞、ほか2名,Vasohibin-2を分子標的とした次世代抗体療法の開発,日本がん分子標的治療学会学術集会プログラム・抄録集,2018年04月16日,p.69,演題番号W1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
A61K 47/64
A61P 35/00
C07K 16/18
C07K 14/47
C07K 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチド。
【請求項2】
キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチド。
【請求項3】
キャリアタンパク質が、牛血清アルブミン(BSA)、ウサギ血清アルブミン(RSA)、オボアルブミン(OVA)、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)、OSK-1、チログロブリン(TG)、および、免疫グロブリンからなる群から選択される、請求項2記載のペプチド。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のペプチドであって、C末端においてアミド化されている、ペプチド。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項記載のペプチドを含む、Vasohibin-2(VASH2)を発現する癌を治療または予防するためのワクチン組成物
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項記載のペプチドを含む、VASH2を発現する癌の転移を抑制するためのワクチン組成物
【請求項7】
VASH2を発現する癌が、膵臓癌、卵巣癌、胆管癌、食道癌、胃癌、大腸癌、肝臓癌、胆嚢癌、乳癌、口腔癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、腎細胞癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣腫瘍、肺癌、皮膚癌、および脳腫瘍からなる群から選択される、請求項5又は6記載のワクチン組成物
【請求項8】
配列番号4に示されるアミノ酸配列を特異的に認識する、VASH2に対する抗体またはその免疫学的活性断片。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワクチン組成物に関する。詳細には、Vasohibin-2タンパク質由来のペプチドを含む、癌の治療または予防のためのワクチン組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、腫瘍の増殖は血管が新生されず血液供給がない場合は1~2mm3に制限されており、血管形成は、腫瘍の浸潤、増殖、および転移において重大な役割を有していると考えられている。腫瘍血管形成の阻害が、腫瘍進行の抑制に関連していることも示されている。
【0003】
血管形成の抑制を達成するため、多数の研究者が、血管形成の過程の調節において重大な役割を果たしている血管内皮増殖因子(VEGF)およびVEGF受容体(VEGFR)を調査してきた。
【0004】
本発明者らは、VEGFの刺激によって血管内皮細胞で発現誘導される遺伝子群の中から血管新生のnegative feedback調節因子としての機能を果たすと考えられる新規血管新生抑制因子Vasohibin-1(VASH1)とそのホモログVasohibin-2(VASH2)を単離、同定した。VASH1、VASH2は、いずれも細胞内でsmall vasohibin binding protein(SVBP)と結合することで効率良く細胞外に分泌され、作用を発現することが分かっている。
【0005】
VASH1は血管新生のみならずリンパ管新生に対しても広いスペクトラムで抑制活性を有しており、このような活性を持つ内因性因子はVASH1が初めてのものである。特に、血管新生は癌の発育と遠隔転移に、リンパ管新生はリンパ節転移に直結することから、VASH1の癌治療への応用が期待されている。
【0006】
これに対してVASH2は、VASH1と拮抗して血管新生を促進する因子である。血管新生モデルでの観察では、VASH1は主に発芽領域よりも後方の血管内皮細胞に発現して血管新生を終息させるのに対し、VASH2は、主に血管新生が活発な発芽領域に浸潤している骨髄由来CD11b陽性の単核球に発現して、発芽部位の血管新生を促進することが分かっている。
【0007】
しかも、癌組織においては間質に浸潤する単核球のみならず、癌細胞もVASH2を発現し、腫瘍血管新生を介して癌の発育を促進し、さらに癌細胞自身に作用して、上皮間葉転換や薬剤耐性を増強する可能性があることも観察されている。
【0008】
かかる背景から、本発明者らは、抗VASH2抗体を含む、血管新生の抑制を要する疾患の治療用医薬組成物等について報告している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】WO 2014/087810
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、VASH2の生物学的な作用メカニズムに着目し、従来の抗癌剤とは異なるアプローチによって癌を治療または予防する方法の提供をその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、(1)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチドが、VASH2タンパク質に対する抗体産生を誘導し得ること、(2)該ペプチドで免疫した動物モデルにおいて、腫瘍形成が阻害され、血管新生マーカーの発現が減少する傾向にあり、加えて、上皮間葉転換マーカーの発現が抑制されること、(3)該ペプチドを用いた免疫により抗体価が上昇した個体由来の血清が、癌細胞の遊走抑制効果を有すること、ならびに(4)該ペプチドを用いた免疫により抗体価が上昇した個体において、癌細胞の転移が阻止されること等を見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0012】
[1](1)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド;
(2)キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド;
のいずれかまたは両方を含む、Vasohibin-2(VASH2)を発現する癌を治療または予防するためのワクチン組成物。
[2](1)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド;
(2)キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド;
のいずれかまたは両方を含む、VASH2を発現する癌の転移を抑制するためのワクチン組成物。
[3]前記ペプチドが、C末端においてアミド化されている、[1]または[2]のワクチン組成物。
[4]キャリアタンパク質が、牛血清アルブミン(BSA)、ウサギ血清アルブミン(RSA)、オボアルブミン(OVA)、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)、OSK-1、チログロブリン(TG)、および、免疫グロブリンからなる群から選択される、[1]~[3]のいずれかのワクチン組成物。
[5]VASH2を発現する癌が、膵臓癌、卵巣癌、胆管癌、食道癌、胃癌、大腸癌、肝臓癌、胆嚢癌、乳癌、口腔癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、腎細胞癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣腫瘍、肺癌、皮膚癌、および脳腫瘍からなる群から選択される、[1]~[4]のいずれかのワクチン組成物。
[6](1)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド;
(2)キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド;
のいずれかまたは両方を対象に投与することを含む、VASH2を発現する癌を治療または予防するための方法。
[7](1)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド;
(2)キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド;
のいずれかまたは両方を対象に投与することを含む、VASH2を発現する癌の転移を抑制するための方法。
[8]前記ペプチドが、C末端においてアミド化されている、[6]または[7]の方法。
[9]キャリアタンパク質が、牛血清アルブミン(BSA)、ウサギ血清アルブミン(RSA)、オボアルブミン(OVA)、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)、OSK-1、チログロブリン(TG)、および免疫グロブリンからなる群から選択される、[6]~[8]のいずれかの方法。
[10]VASH2を発現する癌が、膵臓癌、卵巣癌、胆管癌、食道癌、胃癌、大腸癌、肝臓癌、胆嚢癌、乳癌、口腔癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、腎細胞癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣腫瘍、肺癌、皮膚癌、および脳腫瘍からなる群から選択される、[5]~[9]のいずれかの方法。
[11]配列番号4に示されるアミノ酸配列を特異的に認識する、VASH2に対する抗体またはその免疫学的活性断片。
[12]配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチド。
[13]Vasohibin-2(VASH2)を発現する癌の治療または予防における使用のための、(1)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド;及び/又は
(2)キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
[14]VASH2を発現する癌の転移の抑制における使用のための、(1)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド;及び/又は
(2)キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
[15]前記ペプチドが、C末端においてアミド化されている、[13]または[14]のペプチド。
[16]キャリアタンパク質が、牛血清アルブミン(BSA)、ウサギ血清アルブミン(RSA)、オボアルブミン(OVA)、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)、OSK-1、チログロブリン(TG)、および、免疫グロブリンからなる群から選択される、[13]~[15]のいずれかのペプチド。
[17]VASH2を発現する癌が、膵臓癌、卵巣癌、胆管癌、食道癌、胃癌、大腸癌、肝臓癌、胆嚢癌、乳癌、口腔癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、腎細胞癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣腫瘍、肺癌、皮膚癌、および脳腫瘍からなる群から選択される、[13]~[16]のいずれかのペプチド。
[18]Vasohibin-2(VASH2)を発現する癌の治療または予防用ワクチン組成物を製造するための、
(1)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド;及び/又は
(2)キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド
の使用。
[19]VASH2を発現する癌の転移抑制用ワクチン組成物を製造するための、
(1)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド;及び/又は
(2)キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド
の使用。
[20]前記ペプチドが、C末端においてアミド化されている、[18]または[19]の使用。
[21]キャリアタンパク質が、牛血清アルブミン(BSA)、ウサギ血清アルブミン(RSA)、オボアルブミン(OVA)、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)、OSK-1、チログロブリン(TG)、および、免疫グロブリンからなる群から選択される、[18]~[20]のいずれかの使用。
[22]VASH2を発現する癌が、膵臓癌、卵巣癌、胆管癌、食道癌、胃癌、大腸癌、肝臓癌、胆嚢癌、乳癌、口腔癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、腎細胞癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣腫瘍、肺癌、皮膚癌、および脳腫瘍からなる群から選択される、[18]~[21]のいずれかの使用。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、本発明のワクチン組成物を、VASH2を発現する癌に罹患している対象に投与することにより、当該対象におけるVASH2を発現する癌を治療することができる。また、本発明によれば、本発明のワクチン組成物を、VASH2を発現する癌を発症する可能性がある対象に投与することにより、当該対象における当該癌の発症を予防することができる。また、本発明によれば、本発明のワクチン組成物を、VASH2を発現する癌を以前に罹患したことがある対象に投与することにより、当該対象における当該癌の再発を予防することができる。加えて、本発明によれば、本発明のワクチン組成物を、VASH2を発現する癌に罹患している対象に投与することにより、当該癌の転移を抑制することができる。また、配列番号4で示されるVASH2の部分アミノ酸配列を認識する抗体を用いることにより、上記効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、ヒトVASH2(配列番号1)およびヒトVASH1(配列番号2)の相同性を示す図である。枠線で囲われた10アミノ酸からなる2種の配列は、VASH2タンパク質を認識する抗体の産生を誘導するために用いたペプチド配列を示す(配列番号4および5)。
図2図2は、ヒトVASH2(配列番号1)およびマウスVASH2(配列番号3)の相同性を示す図である。ヒトVASH2とマウスVASH2は高い相同性を示し、抗体産生を誘導するために用いた2種のペプチド(配列番号4および5)に対応する領域では、両者の配列は共通である。
図3図3は、2種類のペプチドワクチン(MTGペプチドワクチンおよびRRRペプチドワクチン)を用いて免疫されたマウスの血中抗体価の上昇を、ELISAを用いて検証した結果を示す図である。MTGおよびRRRは、いずれも抗原ペプチドに対する濃度依存性の抗体価の有意な上昇を認めた(図3(a)および(c))。一方で、組換えヒトVASH2タンパク質に対しては、MTGペプチドワクチンで免疫したマウスにおいてのみ抗体価の有意な上昇が認められ、RRRペプチドワクチンで免疫したマウスにおいては抗体価の有意な上昇は認められなかった(図3(b)および(d))。
図4図4は、MTGペプチドワクチンまたはRRRペプチドワクチンの投与による腫瘍形成の阻害を示す図である。いずれかのペプチドワクチンを投与したマウスに、ワクチン投与後29日の時点でLewis肺癌細胞またはB16F1メラノーマ細胞を皮下移植した。移植後14日の時点で、形成された腫瘍のサイズを測定した。MTGペプチドワクチンを投与した群においては、いずれの癌細胞に対しても腫瘍形成の顕著な阻害が観察された。
図5図5は、MTGペプチドワクチンの投与による、腫瘍組織の遺伝子発現変化を示す図である。血管新生マーカーであるmCD31では、有意な差は認められないものの、MTGペプチドワクチンを高用量(20μg)で投与した場合に、発現が抑制される傾向が見られた。また、上皮間葉転換マーカーであるmTwist1、mSnailおよびmZeb1の発現は、MTGペプチドワクチンの投与量に依存して、いずれも有意に抑制された。
図6図6は、MTGペプチドワクチンの投与により組換えヒトVASH2タンパク質に対する抗体価が上昇したマウス由来の血清が、ヒトおよびマウス由来の癌細胞の遊走能に与える影響をin vitro wound migration法を用いて検討した結果を示す図である。MTGペプチドワクチンは、マウス由来のLewis肺癌細胞の遊走のみならず、ヒト由来のRH30横紋筋肉腫細胞の遊走に対しても抑制効果を有することが確認された。
図7図7は、MTGペプチドワクチンのin vivoにおける癌細胞の転移抑制効果を検証するための実験スケジュールを示す図である。
図8図8は、アジュバントとしてFreund's Adjuvantを用いた場合における、MTGペプチドワクチンの転移抑制効果を示す図である。
図9図9は、アジュバントとしてAlhydrogel(登録商標)を用いた場合における、MTGペプチドワクチンの転移抑制効果を示す図である。
図10図10は、MTGペプチドワクチンの投与によるin vivoにおける癌細胞の転移抑制効果を検証するための実験スケジュールを示す図である。
図11図11は、MTGペプチドワクチンを用いて免疫されたマウスの血中抗体価の上昇を、ELISAを用いて検証した結果を示す図である。(a)は、抗原ペプチドに対する抗体価を示し、(b)は、組換えヒトVASH2タンパク質に対する抗体価を示す。
図12図12は、MTGペプチドワクチンの転移抑制効果を示す図である。
図13図13は、KPCマウスへのMTGペプチドワクチンの投与による延命効果を検証するための実験スケジュールを示す図である。
図14図14は、MTGペプチドワクチンの投与によるKPCマウスの延命効果を示す図である。(a)は、各マウスの死亡日(Dead)および生存日数(Day)を示す。表中、#157、#183、#184、および#246は雌、その他は雄のマウスである。「Dead」の欄が空欄である場合、マウスが生存していることを示す。生存しているマウスの「Day」に記載される数値は、2018年7月29日現在の生存日数を示し、さらに増加する可能性がある。(b)は、MTGペプチドワクチンまたはKLHを投与されたKPCマウスの生存曲線を示す。
図15図15は、MTGペプチドワクチンの投与によるin vivoにおける癌細胞の腫瘍発育抑制効果を検証するための実験スケジュールを示す図である。
図16図16は、MTGペプチドワクチンを投与されたC57BL/6Jx129SVJマウス(n=2)の、ワクチン投与後28日(day 28)の時点における抗体価(図16(a))およびK5細胞の移植後14~40日の時点における腫瘍サイズ(図16(b))を示す図である。
図17-1】図17-1は、MTGペプチドワクチンを投与されたC57BL/6Jx129SVJマウス(n=11)の、ワクチン投与後28日(day 28)の時点における抗体価を示す図である。
図17-2】図17-2は、MTGペプチドワクチンを投与されたC57BL/6Jx129SVJマウス(n=11)の、K5細胞の移植後7~15日の時点における腫瘍サイズを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
1.ワクチン組成物
本発明は、(1)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド;(2)キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド、のいずれかまたは両方を含む、Vasohibin-2(VASH2)を発現する癌を治療または予防するためのワクチン組成物を提供する。また、本発明は、(1)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド;(2)キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド、のいずれかまたは両方を含む、VASH2を発現する癌の転移を抑制するためのワクチン組成物を提供する。以下、これらを「本発明のワクチン組成物」と称することがある。また、本発明は、本発明のワクチン組成物の有効成分であるペプチド、およびキャリアタンパク質とコンジュゲートしたペプチド複合体を提供する。以下、これらを「本発明のペプチド等」と称することがある。なお、本明細書において、用語「ワクチン組成物」は、特異的免疫反応(特異的抗体の産生)を誘導する抗原を含む生物学的製剤を意味する。本発明において、ワクチンは、修飾されていてもよいペプチドを含み得る。
【0017】
ヒトVASH2は、355アミノ酸からなるタンパク質であり(配列番号1)、その遺伝子は、ヒト染色体の1q32.3にコードされている。VASH2タンパク質においては、既存の機能性モチーフ等は認められておらず、アミノ酸配列に基づいてその機能や3次元構造を類推することは、現時点において困難である。
【0018】
VASH2は、炎症細胞や癌細胞に発現していることが報告されている。VASH2を発現する癌としては、例えば、膵臓癌、卵巣癌、胆管癌、食道癌、胃癌、大腸癌、肝臓癌、胆嚢癌、乳癌、口腔癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、腎細胞癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣腫瘍、肺癌、皮膚癌、および脳腫瘍等が挙げられるが、これらに限定されない。VASH2を発現する癌は、免疫染色またはウェスタンブロット法等の自体公知の方法を用いることにより、当業者であれば容易に特定することができる。理論に拘束されることを望むものではないが、VASH2が高発現している癌細胞は比較的悪性化しやすいとの知見があること、および、本発明のワクチン組成物が抗VASH2抗体を誘導することができることを考慮すると、本発明のワクチンのより好ましい適用対象としては、VASH2を高発現している癌に罹患している対象が挙げられ得る。なお、「VASH2を高発現している」とは、がん間質の単核球におけるVASH2発現量と比較して、0:陰性、1:弱陽性、2:中等度陽性、3:強陽性に半定量化し、1以上を陽性、特に好ましくは3を高発現とする(詳細は、Kim JC et al, Hepatogastroenterology. 2015 Mar-Apr;62(138):251-6を参照)。なお、VASH2を高発現している癌としては、例えば、卵巣癌、肝臓癌、および膵臓癌が挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
本発明のワクチン組成物の投与対象は、任意の哺乳動物であってよいが、VASH2を発現する癌を罹患している哺乳動物またはVASH2を発現する癌を罹患する可能性のある哺乳動物である。VASH2を発現する癌を罹患する可能性のある哺乳動物には、VASH2を発現する癌を罹患したことがある哺乳動物が含まれるがこれに限定されない。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、およびウサギ等の実験動物、イヌおよびネコ等のペット、ウシ、ブタ、ヤギ、ウマおよびヒツジ等の家畜、ならびに、ヒト、サル、オランウータンおよびチンパンジー等が挙げられ、特にヒトが好ましい。投与対象は、癌に対する治療を受けていても、受けていなくてもよい。
【0020】
本発明のワクチン組成物は、経口または非経口的に、対象に投与することができる。経口投与においては、有効成分のペプチドが胃の中で分解され得るため、非経口投与が好ましい。経口投与に好適な製剤としては、液剤、カプセル剤、サシェ剤、錠剤、懸濁液剤、乳剤等が含まれる。非経口投与(例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与等)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量毎に容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容される担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0021】
ワクチン組成物中の有効成分(1)および/または(2)の含有量は、通常、ワクチン組成物全体の約0.1~100重量%、好ましくは約1~99重量%、さらに好ましくは約10~90重量%程度である。なお、(1)および(2)の両方が、ワクチン組成物に含まれる場合、その総和が前述の範囲に含まれていればよい。
【0022】
本発明のワクチン組成物の投与量は、ワクチン組成物中の有効成分の量、有効成分以外の含有物、投与する対象、投与方法、投与形態等によって異なり得るが、通常、成人1人当たり有効成分のペプチドを、一回当たり1μg~1000μgの範囲、好ましくは20μg~100μgの範囲で、通常4週間から12週間に亘って2回から3回投与し、抗体価が低下した場合にはその都度1回追加投与する。適切な投与量や投与方法は、当業者であれば適宜選択することができる。
【0023】
本発明のワクチン組成物を対象へ投与することにより、VASH2に対する特異的免疫応答(特異的抗体産生)が誘導され、該哺乳動物がVASH2に対する中和抗体を獲得し、VASH2の機能が阻害される。結果として、VASH2を発現する癌の予防もしくは治療、またはVASH2を発現する癌細胞の転移抑制が達成される。
【0024】
本発明のワクチン組成物に含まれる、「配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド」は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む、ヒトVASH2タンパク質(すなわち配列番号1)の部分配列であり得る。例えば、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む、配列番号1の部分配列には、配列番号1に示されるアミノ酸配列における1番目から300番目までのアミノ酸配列の一部または全部からなるペプチドであって、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号1に示されるアミノ酸配列における1番目から200番目までのアミノ酸配列の一部または全部からなるペプチドであって、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号1に示されるアミノ酸配列における1番目から100番目までのアミノ酸配列の一部または全部からなるペプチドであって、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号1に示されるアミノ酸配列における1番目から50番目までのアミノ酸配列の一部または全部からなるペプチドであって、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号1に示されるアミノ酸配列における1番目から40番目までのアミノ酸配列の一部または全部からなるペプチドであって、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号1に示されるアミノ酸配列における1番目から30番目までのアミノ酸配列の一部または全部からなるペプチドであって、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号1に示されるアミノ酸配列における1番目から20番目までのアミノ酸配列の一部または全部からなるペプチドであって、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド、および配列番号1に示されるアミノ酸配列における1番目から15番目までのアミノ酸配列の一部または全部からなるペプチドであって、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチドが含まれるが、これらに限定されない。なお、所望の効果を得られる限り、当該部分配列において、1ないし数個(好ましくは1、2、3、4又は5個)のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入または付加されたペプチドであってもよい。当該変異(欠失、置換、挿入または付加)部位は特に限定されず、配列番号4に示されるアミノ酸配列内であってもよいし、該アミノ酸配列のC末端側に位置するVASH2配列内であってもよいが、配列番号4に示されるアミノ酸配列内の変異部位は、1又は2個であることが好ましい。
【0025】
「アミノ酸残基の置換」としては、例えば保存的アミノ酸置換があげられる。保存的アミノ酸置換とは、特定のアミノ酸を、そのアミノ酸の側鎖と同様の性質の側鎖を有するアミノ酸で置換することをいう。具体的には、保存的アミノ酸置換では、特定のアミノ酸は、そのアミノ酸と同じグループに属する他のアミノ酸により置換される。同様の性質の側鎖を有するアミノ酸のグループは、当該分野で公知である。例えば、このようなアミノ酸のグループとしては、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、中性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)があげられる。また、中性側鎖を有するアミノ酸は、さらに、極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、および非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)に分類することもできる。また、他のグループとして、例えば、芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン)、水酸基(アルコール性水酸基、フェノール性水酸基)を含む側鎖を有するアミノ酸(例えば、セリン、トレオニン、チロシン)等もあげることができる。
【0026】
「アミノ酸残基の欠失」としては、例えば、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む、ヒトVASH2タンパク質(すなわち配列番号1)の部分配列の中から、任意のアミノ酸残基を選択して欠失させることがあげられる。
【0027】
「アミノ酸残基の挿入」または「アミノ酸残基の付加」としては、例えば配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む、ヒトVASH2タンパク質(すなわち配列番号1)の部分配列の内部にアミノ酸残基を挿入するか、あるいは、該部分配列のN末端側またはC末端側に、アミノ酸残基を付加させることがあげられる。
【0028】
「アミノ酸残基の付加」の例には、ペプチドの水溶解性を増強するため、アミノ酸配列のN末端側またはC末端側に、塩基性アミノ酸であるアルギニン(Arg)またはリジン(Lys)を1~2残基付加することが含まれる。或いは、キャリアタンパク質とコンジュゲートさせる目的において、アミノ酸配列のN末端側またはC末端側に、例えばシステイン(Cys)を付加してもよい。一態様において、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチドは、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む、配列番号1の部分配列のNまたはC末端に1~2残基のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列からなるペプチドであり得る。或いは、一態様において、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチドは、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチドのNまたはC末端に1~2残基のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列からなるペプチドであり得る。
【0029】
本発明のワクチン組成物に含まれる、「配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド」および「キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド」は、C末端においてアミド化されていてもよい。ここで、「C末端においてアミド化されて」いるとは、具体的には、ペプチドのC末端のカルボキシル基(-COOH)がアミド基(-CO-NR1R2;R1、R2は、それぞれ独立して水素原子又は置換されていてもよいアルキル基、アリール基もしくは複素環基を示す。)に置換されていることを意味する。本発明のペプチドのC末端の修飾基としては、例えばアミド(-CONH2)、メチルアミド(-NHCH3)、エチルアミド(-NHC2H5)、パラニトロアニリド(-pNA)、及びメチルクマリンアミド(-MCA)等が挙げられるが、好ましくは、アミド基である。
従って、一態様において、本発明のワクチン組成物は、(1)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチドであって、該ペプチドが、C末端においてアミド化されている、ペプチド;(2)キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチドであって、該ペプチドが、C末端においてアミド化されている、ペプチド;のいずれかまたは両方を含む、Vasohibin-2(VASH2)を発現する癌を治療または予防するためのワクチン組成物であり得る。また、本発明のワクチン組成物は、(1)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチドであって、該ペプチドが、C末端においてアミド化されている、ペプチド;(2)キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチドであって、該ペプチドが、C末端においてアミド化されている、ペプチド;のいずれかまたは両方を含む、VASH2を発現する癌の転移を抑制するためのワクチン組成物であり得る。
【0030】
好ましい一態様において、本発明のワクチン組成物に含まれるペプチドは、「配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチド」である。すなわち、本発明のワクチン組成物は、(1)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチド;(2)キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチド;のいずれかまたは両方を含む、Vasohibin-2(VASH2)を発現する癌を治療または予防するためのワクチン組成物であり得る。また、本発明のワクチン組成物は、(1)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチド;(2)キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチド;のいずれかまたは両方を含む、VASH2を発現する癌の転移を抑制するためのワクチン組成物であり得る。
【0031】
なお、さらに好ましい一態様において、本発明のワクチン組成物は、(1)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチドであって、該ペプチドが、C末端においてアミド化されている、ペプチド;(2)キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチドであって、該ペプチドが、C末端においてアミド化されている、ペプチド;のいずれかまたは両方を含む、Vasohibin-2(VASH2)を発現する癌を治療または予防するためのワクチン組成物であり得る。また、本発明のワクチン組成物は、(1)配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチドであって、該ペプチドが、C末端においてアミド化されている、ペプチド;(2)キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチドであって、該ペプチドが、C末端においてアミド化されている、ペプチド;のいずれかまたは両方を含む、VASH2を発現する癌の転移を抑制するためのワクチン組成物であり得る。
【0032】
また、本発明のワクチン組成物に含まれる「キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド」とは、上記した「配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド」の免疫原性を高める目的で、これにキャリアタンパク質をコンジュゲートしたペプチド複合体を意味する。好ましい態様において、「キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド」は、キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチドであり得る。より好ましい一態様において、「キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド」は、キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチドであって、ここで、該配列番号4に示されるアミノ酸配列のC末端がアミド化されているペプチドであり得る。
【0033】
キャリアタンパク質は、一般的には、分子量が小さいために免疫原性を有さない分子に結合させて、当該分子に免疫原性を付与する物質であり、当技術分野で公知である。本発明のワクチン組成物に用いられるキャリアタンパク質は、所望の効果を得られる限り特に限定されないが、例えば、牛血清アルブミン(BSA)、ウサギ血清アルブミン(RSA)、オボアルブミン(OVA)、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)、OSK-1(アミノ酸配列ELKLIFLHRLKRLRKRLKRK(配列番号14)を有するペプチド。本明細書に参照により組み入れられる、WO 2016/047763(PCT/JP2015/077139)または米国特許出願番号15/514,310を参照のこと。)、チログロブリン(TG)、および免疫グロブリン等が挙げられる。好ましいキャリアタンパク質としては、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)が挙げられる。
【0034】
配列番号4に示されるペプチドとキャリアタンパク質との複合体の形成においては、抗原性が維持される限り、任意の公知の方法を適用できる。該ペプチドとキャリアタンパク質とをコンジュゲートするために、カルボジイミド法、グルタルアルデヒド法、ジアゾ縮合法、およびMBS(マレイミドベンゾイルオキシコハク酸イミド)法等を使用することができる。好ましくは、グルタルアルデヒド法が用いられる。なお、ペプチドとキャリアタンパク質との複合体の調製に関し、ペプチドとキャリアタンパク質の配合比率は、用いられるペプチド、キャリアタンパク質、または複合体の形成方法により適宜変更され得るが、例えば、グルタルアルデヒド法を用いて、C末端がアミド化された、またはC末端がアミド化されていない配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを、KLHへコンジュゲートさせる場合、ペプチド/KLHの比率は、コンジュゲートの単位質量あたりのペプチドのモル数として、通常10 nmol/mg Conjugate~300 nmol/mg Conjugate、好ましくはから30 nmol/mg Conjugate~200 nmol/mg Conjugate、より好ましくは、50 nmol/mg Conjugate~150 nmol/mg Conjugateである。或いは、配列番号4に示されるペプチドとOSK-1ペプチドとの複合体の形成においては、例えばイプシロン-アミノカプロン酸(ε-Acp)等をスペーサーとして用いて、自体公知の方法によりコンジュゲートさせることができる(WO 2016/047763(PCT/JP2015/077139)または米国特許出願番号15/514,310を参照)。
【0035】
なお、MBS法を用いてペプチド複合体を調製する場合、配列番号4のペプチドに対して、1~2個、好ましくは1個のアミノ酸(例、システイン)を付加してもよい。付加されるアミノ酸の位置は、該ペプチドのN末端またはC末端が好ましい。
【0036】
有効成分として本発明のワクチン組成物に含まれるペプチド(乃ち、本発明のペプチド等)は、好ましくは単離されている。「単離」とは、目的とする成分以外の因子を除去する操作がなされ、天然に存在する状態を脱していることを意味する。本明細書において、「単離された物質X」の純度(評価対象試料の総重量に占める物質Xの重量の百分率)は、通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは99%以上、よりさらに好ましくは99.9%以上である。
【0037】
また、本発明のワクチン組成物は、製薬上許容可能で、且つ活性成分と相溶性であるアジュバントをさらに含有させてもよい。アジュバントは、一般には、宿主の免疫応答を非特異的に増強する物質であり、多数の種々のアジュバントが当技術分野で公知である。アジュバントの例としては以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:完全フロイントアジュバント(Complete Freund's Adjuvant)、不完全フロイントアジュバント(Incomplete Freund's Adjuvant)、水酸化アルミニウム(例、Alhydrogel(登録商標))、リン酸アルミニウム、塩化アルミニウム、N-アセチル-ムラミル-L-トレオニル-D-イソグルタミン(thr-MDP)、N-アセチル-ノルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン(nor-MDP)、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミニル-L-アラニン-2-(1’-2’-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ヒドロキシホスホリルオキシ)-エチルアミン(MTP-PE)、Quill A(登録商標)、リゾレシチン、サポニン誘導体、プルロニックポリオール、モンタニドISA-50(Seppic,Paris,France)、Bayol(登録商標)、Markol(登録商標)、CpGオリゴデオキシヌクレオチド、シクロデキストリン、およびOSK-1。
【0038】
また、本発明のワクチン組成物は、例えば医薬上許容される担体をさらに含んでもよい。
【0039】
医薬上許容される担体としては、例えば、ショ糖、デンプン等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル等の滑剤、クエン酸、メントール等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水等の希釈剤、ベースワックス等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
本発明のワクチン組成物は、癌に有効な公知の予防剤または治療剤と併用することもできる。かかる公知の予防剤または治療剤には、イマチニブ、ゲフィチニブ等のチロシンキナーゼ阻害剤、トラスツヅマブ、ベバシズマブ等の抗体薬、テムシロリムス、エベロリムス等のmTOR阻害剤、ボルテゾミブ等のプロテアソーム阻害剤、オプジーボ、キイトルーダ等のPD-1チェックポイント阻害剤、トラメチニブ等のMEKキナーゼ阻害剤、フルオロウラシル、ゲムシタビン等のピリミジン拮抗剤、メトトレキサート、ペメトレキセド等の葉酸拮抗剤、シクロホスファミド、メルファラン等のアルキル化剤、ドキソルビシン、ピラルビシン等の抗癌性抗生物質、シスプラチン、カルボプラチン等の白金製剤、パクリタキセル、ドセタキセル等の微小管阻害剤、イリノテカン、エトポシド等のトポイソメラーゼ阻害剤、タモキシフェン、フルタミド等のホルモン剤等が挙げられるが、これらに限定されない。かかる公知の予防剤または治療剤は、1種類のみを本発明のワクチン組成物と併用してもよいし、複数の種類を併用してもよい。本明細書中、「併用」とは、本発明のワクチン組成物と、該公知の癌の予防剤または治療剤とを組み合わせて使用することを意味し、その使用形態は特に限定されない。例えば、本発明のワクチン組成物と、該公知の癌の予防剤または治療剤とを共に含有した医薬組成物を調製し、投与してもよく、または、本発明のワクチン組成物と該公知の癌の予防剤または治療剤とを混合することなく別途製剤化し、同時もしくは時間差をあけて、同一もしくは異なる投与経路にて投与してもよい。
【0041】
なお、本明細書における疾患の「治療」には、疾患の治癒のみならず、疾患の寛解および疾患の程度の改善も含まれ得る。
【0042】
また、本明細書における疾患の「予防」には、疾患の発症を防ぐことに加えて、疾患の発症を遅らせることが含まれる。加えて、本明細書における疾患の「予防」には、治療後の該疾患の再発を防ぐこと、または治療後の該疾患の再発を遅らせることも含まれ得る。
【0043】
また、本明細書における「ワクチン組成物」との用語は、「医薬組成物」または「薬剤」とも言い換えることができる。
【0044】
2.VASH2を発現する癌を治療する方法
別態様において、本発明は、(1)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド;(2)キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド、のいずれかまたは両方を対象に投与することを含む、VASH2を発現する癌を治療するための方法を提供する。以下、これを「本発明の治療方法」と称することがある。
【0045】
本発明の治療方法に用いられるペプチド、該ペプチドとキャリアタンパク質とがコンジュゲートしたペプチド複合体等は、本発明のワクチン組成物において説明したものと同様である。
【0046】
本発明の治療方法を適用し得る対象には、VASH2を発現する癌を罹患している対象が含まれる。また、対象は、本発明の治療方法の適用を開始する前に、本発明の治療方法以外の癌の治療を受けていてもよく、または受けていなくてもよい。
【0047】
本発明の治療方法において、有効成分となる本発明のペプチド等は、経口または非経口的に、対象に投与することができる。経口投与においては、有効成分のペプチドが胃の中で分解され得るため、非経口投与が好ましい。非経口投与には、例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与等が含まれるがこれらに限定されない。
【0048】
本発明の治療方法において、治療有効量の本発明のペプチド等が、対象に投与される。治療有効量は、治療する対象、投与経路、投与するペプチドの種類、投与スケジュール等によって異なり得るが、通常、成人1人当たり、有効成分のペプチドを、一回当たり1μg~1000μgの範囲、好ましくは20μg~100μgの範囲で、通常4週間から12週間に亘って2回から3回投与する。対象における抗体価が低下した場合には、その都度1回追加投与してもよい。適切な治療有効量や投与経路等は、当業者であれば適宜選択することができる。
【0049】
一態様において、本発明の治療方法は、自体公知の癌の治療方法と組み合わせて実施することもできる。本発明の治療方法と組み合わせることができる癌の治療方法としては、外科的治療、薬物療法、放射線治療法等が挙げられるが、これらに限定されない。特に、本発明の治療方法は、癌免疫療法(樹状細胞や癌ワクチン)または遺伝子治療と組み合わせて実施することが好ましい場合がある。理論に拘束されることを望むものではないが、VASH2は、腫瘍血管を未熟化し、さらにがん細胞の薬剤耐性を増すことから、VASH2の制御によりがん細胞の薬剤感受性が増し、血管正常化により抗がん剤のdeliveryが改善することと相まって抗がん剤との併用効果が期待されるためである。また、VASH2の制御で腫瘍血管が正常化すると、血流が改善し、低酸素状態が解消して放射線療法の効果が増すことやがん免疫が賦活化されることが期待されるためである。
【0050】
3.VASH2を発現する癌を予防する方法
別態様において、本発明は、(1)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド;(2)キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド、のいずれかまたは両方を対象に投与することを含む、VASH2を発現する癌を予防するための方法を提供する。以下、これを「本発明の予防方法」と称することがある。
【0051】
本発明の予防方法に用いられるペプチド、該ペプチドとキャリアタンパク質とがコンジュゲートした複合体等は、本発明のワクチン組成物において説明したものと同様である。
【0052】
本発明の予防方法を適用し得る対象には、VASH2を発現する癌を罹患する可能性がある対象が含まれる。かかる対象は、例えば、発症前遺伝子診断などの自体公知の方法により特定することができる。
【0053】
本発明の予防方法において、本発明のペプチド等は、経口または非経口的に、対象に投与することができる。非経口投与には、例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与等が含まれるがこれらに限定されない。
【0054】
本発明の予防方法において、予防有効量の本発明のペプチド等が、対象に投与される。予防有効量は、対象の性別や体重、投与経路、投与するペプチドの種類、投与スケジュール等によって異なり得るが、通常、成人1人当たり、有効成分のペプチドを、一回当たり1μg~1000μgの範囲、好ましくは20μg~100μgの範囲で、通常4週間から12週間に亘って2回から3回投与する。対象における抗体価が低下した場合には、その都度1回追加投与してもよい。適切な有効量、投与経路、投与スケジュール等は、対象の抗体価を観察しつつ、適宜決定することができる。
【0055】
一態様において、本発明の予防方法は、遺伝子工学的手法により、有効成分となる本発明のペプチド等を発現・蓄積する食用可能な穀物またはその種子(例、コメ、大豆、小麦等)を作製し、これを日常的に摂取することによって達成されてもよい。
【0056】
本発明の予防方法の別の一態様において、本発明の予防方法は、VASH2を発現する癌を以前に罹患したことがある対象において、当該癌の再発を予防する方法であり得る。換言すれば、本発明の予防方法の好ましい適用対象は、VASH2を発現する癌を罹患したことがある対象であり得る。
【0057】
かかる「VASH2を発現する癌を罹患したことがある対象」には、例えば、外科的手術により癌組織が除去された対象、および、化学療法、放射線療法、および/または免疫療法等により癌組織が消失した対象が含まれるが、これらに限定されない。また、これらの対象のうち、正常な対象と比較して、VASH2を高発現している細胞を有する対象が、本発明の予防方法の好適な適用対象となり得る。なお、「VASH2を高発現している」とは、がん間質の単核球におけるVASH2発現量と比較して、0:陰性、1:弱陽性、2:中等度陽性、3:強陽性に半定量化し、1以上を陽性、特に好ましくは3を高発現とする。なお、VASH2を高発現している癌としては、例えば、卵巣癌、肝臓癌、および膵臓癌が挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
本態様において、本発明のペプチド等は、経口または非経口的に、対象に投与することができる。非経口投与には、例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与等が含まれるがこれらに限定されない。
【0059】
本態様において、予防有効量の本発明のペプチド等が、対象に投与される。予防有効量は、対象の性別や体重、投与経路、投与するペプチドの種類、投与スケジュール等によって異なり得るが、通常、成人1人当たり、有効成分のペプチドを、一回当たり1μg~1000μgの範囲、好ましくは20μg~100μgの範囲で、通常4週間から12週間に亘って2回から3回投与する。対象における抗体価が低下した場合には、その都度1回追加投与してもよい。適切な有効量、投与経路、投与スケジュール等は、対象の抗体価を観察しつつ、適宜決定することができる。
【0060】
4.VASH2を発現する癌の転移抑制方法
さらに、本発明は、(1)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド;(2)キャリアタンパク質がコンジュゲートした、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むペプチド、
のいずれかまたは両方を対象に投与することを含む、VASH2を発現する癌の転移を抑制するための方法を提供する。以下、これを「本発明の転移抑制方法」と称することがある。
【0061】
本発明の転移抑制方法に用いられるペプチド、該ペプチドとキャリアタンパク質とがコンジュゲートしたペプチド複合体等は、本発明のワクチン組成物において説明したものと同様である。
【0062】
本発明の転移抑制方法を適用することにより、VASH2が発現している癌であればその転移を抑制することが可能である。VASH2が発現している癌としては、例えば、膵臓癌、卵巣癌、胆管癌、食道癌、胃癌、大腸癌、肝臓癌、胆嚢癌、乳癌、口腔癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、腎細胞癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣腫瘍、肺癌、皮膚癌、および脳腫瘍等が挙げられるが、これらに限定されない。VASH2を発現する癌は、免疫染色やウェスタンブロット法等の自体公知の方法を用いることにより、当業者であれば容易に特定することができる。理論に拘束されることを望むものではないが、本発明の転移抑制方法においては、抗VASH2抗体の誘導を伴うため、より好ましい適用対象として、VASH2を高発現している癌に罹患している対象が挙げられ得る。なお、「VASH2を高発現している」とは、がん間質の単核球におけるVASH2発現量と比較して、0:陰性、1:弱陽性、2:中等度陽性、3:強陽性に半定量化し、1以上を陽性、特に好ましくは3を高発現とする。なお、VASH2を高発現している癌としては、例えば、卵巣癌、肝臓癌、および膵臓癌が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
本発明の転移抑制方法において、有効成分のペプチドは、経口または非経口的に、対象に投与することができる。非経口投与には、例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与等が含まれるがこれらに限定されない。
【0064】
本発明の転移抑制方法において、転移抑制に有効な量の本発明のペプチド等が、対象に投与される。予防有効量は、対象、投与経路、投与するペプチドの種類、投与スケジュール等によって異なり得るが、通常、成人1人当たり、有効成分のペプチドを、一回当たり1μg~1000μgの範囲、好ましくは20μg~100μgの範囲で、通常4週間から12週間に亘って2回から3回投与する。対象における抗体価が低下した場合には、その都度1回追加投与してもよい。適切な有効量、投与経路、投与スケジュール等は、対象の抗体価を観察しつつ、適宜決定することができる。
【0065】
5.抗体またはその免疫学的活性断片
さらなる別態様において、本発明は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を特異的に認識する、VASH2に対する抗体またはその免疫学的活性断片(以下、「本発明の抗体等」と称することがある)を提供する。本発明の抗体等は、投与される対象において、VASH2の機能を阻害する。これにより、VASH2を発現する癌細胞の増殖および/または遊走を阻害する。その結果、本発明の抗体等は、VASH2を発現する癌の治療もしくは予防、または該癌細胞の転移を抑制することができる。本発明の抗体等を含有する医薬組成物の製造及び使用については、WO 2014/087810を参照することができる。
【0066】
本発明の抗体等は、VASH2タンパク質上の配列番号4に示されるアミノ酸配列を認識し、VASH2の機能を阻害する抗体である限り特に限定されず、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよいが、好ましくはモノクローナル抗体である。また、VASH2を発現する癌の治療もしくは予防、または転移抑制のための医薬としての用途を考慮すると、本発明の抗体等は、キメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体であることが望ましく、ヒト化抗体またはヒト抗体でることがより好ましい。これらの抗体は、上記「本発明のペプチド等」を免疫原として用い、自体公知のポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体の作製法により作製することができる。
【0067】
本発明において、「免疫学的活性断片」とは、所望の活性を有する天然型抗体の一部分の領域を意味する。具体的には、例えば、F(ab’)2、Fab’、Fab、Fc領域を含む抗体断片、Fv(variable fragment of antibody)、一本鎖抗体(sFv)、dsFv(disulphide stabilised Fv)、dAb(single domain antibody)等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの免疫学的活性断片は、天然型抗体を特異的ペプチダーゼ等で処理することにより、あるいは遺伝子工学的手法を用いることにより作製することができる。
【0068】
好ましい一態様において、本発明の抗体および/またはその免疫学的活性断片は単離されている。「単離」とは、目的とする成分以外の因子を除去する操作がなされ、天然に存在する状態を脱していることを意味する。本明細書において、「単離された物質X」の純度(評価対象試料の総重量に占める物質Xの重量の百分率)は、通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは99%以上、よりさらに好ましくは99.9%以上である。
【0069】
本明細書において、本発明の抗体等が、抗原(すなわち、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチドまたは該ペプチドを含むポリペプチド)を「特異的に認識する」とは、抗原抗体反応における、本発明の抗体等の該抗原に対する結合親和性についてのKD値が、1×10-7M以下(好ましくは、1×10-8M以下、より好ましくは1×10-9M以下、最も好ましくは1×10-10M以下)であることを意味する。
【0070】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例
【0071】
[実施例1]ペプチドワクチンの投与による抗VASH2抗体の誘導
8週齢のC57BL/6J雄マウスを日本チャールズリバー(株)より購入した。搬入後は、室温や明暗周期が保たれた環境下で飼育し、餌と水は自由摂取とした。MHC class IIによるヘルパーT細胞の活性化を招来する候補配列として、VASH2配列のうち、VASH1とは共通しないMTGSAADTHR(配列番号4;以下、該アミノ酸配列からなるペプチドを「MTGペプチド」と表記する。)とRRRQASPPRR(配列番号5以下、該アミノ酸配列からなるペプチドを「RRRペプチド」と表記する。)の2つのペプチド配列を選出した(図1)。これらのペプチドについてKLHをキャリアとしたペプチドワクチンを構築した。なお、ペプチドとKLHのコンジュゲートには、グルタルアルデヒド法を用いた。得られた各ペプチドワクチンについて、KLHに導入されたペプチド量を測定したところ、MTGは66~70nmol/mg Conjugateであり、RRRは62~76 nmol/mg Conjugateであった。次に、5μgのKLH(コントロール)および20μgの各KLH-抗原複合体を、生理食塩水でそれぞれ総量50μlとなるように調製し、KLH-混合液とした。これらのKLH-混合液(50μl)に、等量のComplete Freund's Adjuvantを加えた。得られた混合物をマウスに皮下投与することで初回免疫を行なった。該投与から2週間後の時点で、各KLH-混合液(50μl)と、等量のIncomplete Freund's Adjuvantとの混合物を、マウスに皮下投与することにより追加免疫を行なった。さらに該追加免疫から2週間後(合計4週間後)の時点で、免疫されたマウスの血中抗体価の上昇を、ELISAにより検証した。
【0072】
ELISAによる抗体価の測定は次の通り行った。追加免疫から2週間後(合計4週間後)の時点で、免疫されたマウスのFacial Veinから採血、分離した血清をELISAに供した。50mMのcarbonate bufferを用いて、Peptide-conjugated BSAを10μg/mlに、また、組換えVASH2タンパク質を1μg/mlになるようにそれぞれ調製し、これらを1ウェルあたり50μl添加して、4℃で一晩静置した。well中の溶液を除去後、5% skim milkを150μl/wellで添加した。室温で2時間静置後、溶液を除去し、次いで5% skim milkで20~62500倍に希釈した血清サンプルを50μl/well添加し、4℃で一晩静置した。次いで、PBSで洗浄後(200μl/well x 6回)、5%skim milkで1000倍希釈した2次抗体(HRP conjugated anti-Mouse IgG)を50μl/wellで添加した。室温で3時間静置後、PBSで洗浄(200μl/well x 3回)した。その後、Tetramethylbenzidine(TMB)を50μl/wellで添加し、遮光下、室温で静置した。30分後、0.5N H2SO4を50μl/wellで添加することにより反応を停止させ、microplate readerを用いて吸光度(450nm)を測定した。
【0073】
結果を図3に示す。図3に示される通り、MTGペプチドワクチンおよびRRRペプチドワクチンともに、抗原ペプチドに対する抗体価の有意な上昇を認めた(図3(a)および(c))。一方で、組換えヒトVASH2タンパク質に対しては、MTGペプチドワクチンでのみ抗体価の有意な上昇が確認され、RRRペプチドワクチンでは、抗体価の有意な上昇は確認されなかった(図3(b)および(d))。この結果から、RRRペプチドワクチンは抗原ペプチドそのものに結合できる抗体の産生を誘導し得るが、当該抗体はVASH2タンパク質には結合できないと考えられる。一方で、MTGペプチドワクチンにより産生が誘導される抗体は、抗原ペプチドそのもののみならず、VASH2タンパク質にも結合できると考えられるため、以後の実施例においては、MTGペプチドワクチンを用いて各種検証を行った。
【0074】
[実施例2]腫瘍発育抑制効果の検証1
実施例1における、各ペプチドワクチンとIncomplete Freund's Adjuvantの投与から2週間後(初回ペプチドワクチン投与から29日目)に、免疫したマウスに対してマウス由来腫瘍細胞を移植し、皮下移植モデルを作製した。具体的には、RPMI+10% FBSの培地で培養したマウス肺癌細胞(Lewis肺癌細胞(LLC))またはマウスメラノーマ細胞(B16F1)(いずれもC57BL/6Jを遺伝的バックグラウンドとする)を遠心して回収し、無血清培地で細胞懸濁液(1.0x108cells/ml)を調製し、該細胞懸濁液0.1ml(1.0x107cells/animal)を27Gの注射針およびシリンジを用いてマウスの右腋窩皮下に移植することにより、腫瘍細胞の皮下移植モデルを作製した。腫瘍細胞移植後14日の時点での腫瘍サイズを測定することにより、各ペプチドワクチンの腫瘍発育抑制効果を検証した。
【0075】
結果を図4に示す。図4に示される通り、いずれの腫瘍細胞に対しても、MTGペプチドワクチンにより免疫されたマウスにおいて、腫瘍形成の顕著な阻害が観察された。一方、RRRペプチドワクチンは皮下移植モデルにおける腫瘍形成を阻害することができず、MTGペプチドワクチンにより誘導される抗体によるVASH2の機能阻害により、抗腫瘍効果がもたらされることが示された。
【0076】
[実施例3]癌細胞の遊走能に対する効果の検証
実施例2における、腫瘍細胞が移植されたマウスを、該腫瘍細胞の移植後2週間の時点において屠殺し、右腋窩皮下から腫瘍を摘出した。RNeasy Plus Kit(Quiagen社)を用いて、摘出した腫瘍からのトータルRNAの抽出と精製を行なった。得られたトータルRNAを鋳型として用いて、逆転写反応によりcDNAを合成した。得られたcDNAとSYBR green(TAKARA社)との混合液を用いてリアルタイムPCRを行うことにより、cDNAの解析を行なった。なお、リアルタイムPCRに用いたプライマーは、以下の表1の通りである。
【0077】
【表1】
【0078】
結果を図5に示す。血管新生マーカーであるmCD31に関しては、統計的な有意差は認められなかったものの、MTGペプチドワクチンを20μg投与したマウスにおいて、mCD31の発現が抑制された。また、上皮間葉転換マーカーであるmTwist1、mSnail1、およびmZeb1に関しては、MTGペプチドワクチンの容量依存的な発現抑制効果が観察された。
【0079】
[実施例4]各種癌細胞の遊走抑制効果の検証
MTGペプチドワクチンの投与によって組換えヒトVASH2タンパク質に対する抗体価の上昇が確認されたマウス由来の血清を用いて、各種癌細胞の遊走能に与える影響をin vitro wound migration法で検討した。マウス由来Lewis肺癌細胞およびヒト由来RH30横紋筋肉腫細胞を1.0x106cellsずつ6ウェルプレートに添加した。24時間後、形成した細胞単層を創傷し、線状に剥離した。剥離を行なった後、培地を、マウス血清を1%加えた新鮮な0.5% FBS+RPMI培地で置換した。培地置換後24時間の時点および48時間の時点で細胞単層を、IX71倒立型顕微鏡(Olympus社製)を用いて撮像し、ImageJのソフトウェアを用いて各時間帯の細胞遊走距離を解析した。解析は、以下の式で行なった。
細胞遊走距離 (%)={(A-B)/A}*100
A: 初期創傷の幅、B:24時間または48時間後の創傷の幅
【0080】
結果を図6に示す。図6に示される通り、MTGペプチドワクチンの投与によって組換えヒトVASH2タンパク質に対する抗体価の上昇が確認されたマウス由来の血清は、マウス由来のLewis肺癌細胞のみならず、ヒト由来のRH30横紋筋肉腫細胞の遊走に対しても抑制効果を示した。この結果は、マウスとヒトで共通なペプチド配列を用いることで、マウスVASH2とヒトVASH2の両方を阻害する抗体の産生が可能であることを示す。
【0081】
[実施例5]in vivoにおける癌細胞(LLC)の転移抑制効果の検証1
20μgまたは100μgのKLH(コントロール)および20μgまたは100μgの、KLHとコンジュゲートさせた配列番号4に示されるペプチド(MTGペプチドワクチン)を、生理食塩水でそれぞれ総量100μlとなるように調製し、KLH-混合液とした。これらのKLH-混合液(100μl)に、等量のComplete Freund's AdjuvantまたはAlhydrogel(登録商標)(Invitrogen)を加えた。得られた混合物(200μl)を8週齢のC57BL/6J雄マウス(n=5)に皮内(ID)投与することで初回免疫を行なった(0 day)。なお、皮内投与は、200μlを100μlごとに2箇所に投与した。該投与から2週間後の時点(14 days)で、各KLH-混合液(100μl)と、等量のIncomplete Freund's AdjuvantまたはAlhydrogel(登録商標)との混合物を、マウスに皮下投与することにより、追加免疫を行なった。さらに該追加免疫から2週間後(28 days)の時点で、免疫したマウスにマウス肺癌細胞(LLC)の細胞懸濁液0.1 ml(1.0x106cells/animal)を27Gの注射針およびシリンジを用いて尾静脈に注射した。また、この時点において各マウスより血液を採取し、ELISAによりVASH2タンパク質に特異的な抗体の抗体価を測定した。LLCを注射後21日目(49 days)にマウスを屠殺し、肺転移巣の解析を行った(図7)。
【0082】
肺転移巣の解析は具体的には次の通り行った。屠殺したマウスより肺を摘出し、摘出した試料を固定後、脱水処理を行ない、パラフィンブロックを作成した。5μmで薄切し、切片を剥離防止処理スライドガラスに貼付けた。次いで、脱パラフィンを行い、流水で洗浄後、ヘマトキシリン溶液に3分間浸漬後、milliQ水で洗浄した。次いで、1%エオジン溶液に2分間浸漬し、アルコールを用いて脱水を行ない、さらにキシレンで透徹後、封入して観察した。なお、Freund's Adjuvantをアジュバントとし、KLHを100μg投与したマウス#8、Alhydrogel(登録商標)をアジュバントとし、KLHを100μg投与したマウス#7および10、Alhydrogel(登録商標)をアジュバントとし、MTGペプチドワクチンを100μg投与したマウス#17は、LLCを注射後21日目(49 days)の時点までに死亡したため、肺摘出を行なえなかった。
【0083】
結果を図8(Freund's Adjuvantを用いた場合)及び図9(Alhydorgelを用いた場合)に示す。各図に示される通り、アジュバントとしてFreund's Adjuvant、Alhydorgelのいずれを用いた場合であっても、MTGペプチドワクチンは、VASH2に特異的な抗体産生を促し、且つ、癌細胞の転移を抑制した。
【0084】
[実施例6]in vivoにおける癌細胞(K5)の転移抑制効果の検証2
20μgまたは100μgのKLH(コントロール)および20μgまたは100μgのMTGペプチドワクチンを、生理食塩水でそれぞれ総量100μlとなるように調製し、KLH-混合液とした。これらのKLH-混合液(100μl)に、等量のAlhydrogel(登録商標)を加えた。得られた混合物(200μl)を8週齢のC57BL/6J雄マウス(n=5)に皮内(ID)投与することで初回免疫を行なった(0 day)。なお、皮内投与は、200μlを100μlごとに2箇所に投与した。該投与から2週間後の時点(14 days)で、各KLH-混合液(100μl)と、等量のAlhydrogel(登録商標)との混合物を、マウスに皮下投与することにより、追加免疫を行なった。さらに該追加免疫から2週間後(28 days)の時点で、免疫したマウスに、ヒト膵癌に類似した経過をたどるモデルマウスであるKPCマウス(Hamada S, et al. Nrf2 promotes mutant K-ras/p53-driven pancreatic carcinogenesis. Carcinogenesis 38: 661-670, 2017)から、常法により樹立した膵癌細胞株(K5)の細胞懸濁液0.1 ml(1.0x106cells/animal)を27Gの注射針およびシリンジを用いて尾静脈に注射した。また、この時点において各マウスより血液を採取し、ELISAにより抗原ペプチド又は組換えヒトVASH2タンパク質に特異的な抗体の抗体価を測定した。K5を注射後21日目(49 days)にマウスを屠殺し、肺転移巣の解析を行った(図10)。肺転移巣の解析は、実施例5において行った方法と同様の方法で行った。
【0085】
抗体価の結果を図11に、肺転移に係る結果(100μgのKLH又はMTGペプチドワクチンで免疫した場合)を図12に示す。図11に示される通り、MTGペプチドワクチンは、抗原ペプチド及びVASH2組換えタンパク質に特異的な抗体産生を促すことが示された。また図12に示される通り、KLHのみを投与したマウスでは5匹中2匹に肺転移が確認されたのに対し、MTGペプチドワクチンで免疫したマウスは、解析可能であった4個体全てで膵癌細胞K5の肺転移を認めず、MTGペプチドワクチンの転移抑制効果が実証された。
【0086】
[実施例7]KPCマウスを用いたMTGペプチドワクチンの延命効果の検証
膵癌自然発症モデルのKPCマウス(初回免疫時8週齢)に対して、2週間ごとに100μgのMTGペプチドワクチンをAlhydrogel(登録商標)とともに投与し、その生存率を確認した(n=8)。同様のスケジュールで100μgのKLHを投与したKPCマウスをコントロールとした(n=7)(図13)。
【0087】
結果を図14に示す。図14に示される通り、KLHを投与されたコントロール群においては、全て(n=7)のマウスは生後300日に到達する前に死亡した。一方で、MTGペプチドワクチンを投与したマウスでは、少なくとも2匹が生後300日を超えて生存した(MTGペプチドワクチンを投与したマウスのうち、#137、#246、および#256は、2018年7月29日の時点でいずれも生存しているため、表中の「Day」の数値はさらに増加すると予想される。)
【0088】
[実施例8]in vivoにおける癌細胞(K5)の腫瘍発育抑制効果の検証2
実施例6では、K5細胞とは同種異系のC57BL/6Jマウスをレシピエントとして転移抑制効果を試験したが、同種異系の癌細胞移植による影響を排除する目的で、レシピエントとして、KPCマウスと遺伝的バックグラウンドを同じくするC57BL/6Jx129SVJマウスを用い、K5細胞の皮下移植モデルにおけるMTGペプチドワクチンの腫瘍発育抑制効果を試験した。
100μgのKLH(コントロール)または100μgのMTGペプチドワクチンを、生理食塩水でそれぞれ総量100μlとなるように調製し、KLH-混合液とした。これらのKLH-混合液(100μl)に、等量のAlhydrogel(登録商標)を加えた。得られた混合物(200μl)を8週齢のC57BL/6Jx129SVJマウスに皮内(ID)投与することで初回免疫を行なった(0 day)。該投与から2週間後の時点(14 days)で追加免疫を行なった。さらに該追加免疫から2週間後(28 days)の時点で、これらのマウスに対してK5細胞を移植し、皮下移植モデルを作製した。マウスにおいて抗VASH2抗体が誘導されていることを確認するため、0 day、14 day、28 dayの時点で採決し、ELISAにより抗体価を確認した(図15)。また、腫瘍細胞(K5)の移植後14、21、28、35、および40日の時点での腫瘍サイズを測定することにより、MTGペプチドワクチンの発育抑制効果を検証した(実験1;n=2)。さらに、個体数を増やして、腫瘍細胞(K5)の移植後7~15日目までの各日における腫瘍サイズを測定し、MTGペプチドワクチンが統計学的に有意に腫瘍の発育を抑制するか否かを検証した(実験2;n=11)。
【0089】
実験1の結果を図16に、実験2の結果を図17-1及び17-2に示す。図16(a)及び図17-1に示される通り、MTGペプチドワクチンは、抗原ペプチド(MTG)およびVASH2組換えタンパク質の両方に結合する抗体を誘導した。また、図16(b)に示される通り、MTGペプチドワクチンにより免疫されたマウスでは、腫瘍形成の顕著な阻害が観察された。個体数を増やした確認実験(実験2)においても、移植後15日目の時点で、MTGペプチドワクチンで免疫されたマウスでは、KLHを投与されたマウスと比べて有意に腫瘍形成が阻害された(p=0.0002)。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明によれば、VASH2を発現する癌を治療もしくは予防することができる。また、本発明によれば、VASH2を発現する癌の転移を抑制することができる。本発明のペプチドワクチンは、化学合成により製造することができ、かつ患者自身の免疫機構を介して抗VASH2中和抗体の産生を誘導することができるので、抗体医薬に比べて安価で、かつ同様の効果を奏する癌治療または予防剤を提供できる点で、きわめて有利である。
【0091】
本出願は、日本で出願された特願2017-166860(出願日:2017年8月31日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17-1】
図17-2】
【配列表】
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