(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】分析物検出用の微少流体装置
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20230104BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20230104BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20230104BHJP
【FI】
G01N33/53 Y
G01N33/53 D
G01N37/00 101
G01N33/543 597
(21)【出願番号】P 2019554648
(86)(22)【出願日】2018-03-28
(86)【国際出願番号】 EP2018057997
(87)【国際公開番号】W WO2018184957
(87)【国際公開日】2018-10-11
【審査請求日】2021-03-29
(32)【優先日】2017-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】510045575
【氏名又は名称】ダブリン シティー ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】フォスター,ロバート
(72)【発明者】
【氏名】スペイン,エレイン
(72)【発明者】
【氏名】アダムソン,ケリー
(72)【発明者】
【氏名】カーシ,エーディン
(72)【発明者】
【氏名】ボイル,デイビッド
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-232328(JP,A)
【文献】特表2008-539419(JP,A)
【文献】特開2013-220066(JP,A)
【文献】特表2008-534972(JP,A)
【文献】特表2009-520985(JP,A)
【文献】特開2018-009993(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0299138(US,A1)
【文献】特表2005-530127(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0300148(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0192726(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2008-0091955(KR,A)
【文献】特開2008-157923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
G01N 37/00
G01N 33/543
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置内に動作可能に受け入れられる流体中の分析物を検出するための回転可能な微少流体装置(200)であって、
前記微少流体装置は、
流体サンプルが流入する入口と電極チャンバ(206)に連通する出口と、を有するサ
ンプル入口チャンバ(203)を有し、前記電極チャンバ(206)は基準電極出力、対電極出力、及び少なくとも一つの作用電極出力を提供して受け入れた流体サンプル中の前記分析物の存在を示すインピーダンスを提供する電極構造を有し、前記電極チャンバ(206)は洗浄液と電解質溶液をそれぞれ受け取る洗浄液チャンバ(204)と電解質溶液チャンバ(205)とそれぞれ連通しており、
前記装置が一連の角周波数で回転するとき、流体はサンプル入口チャンバ(203)を
流れて電極チャンバ(206)へ流入すること、
前記装置において、
前記電極構造は、基板を有し、
前記基板は、前記電極チャンバ(206)内に配置されたマイクロキャビティのアレイ(500)を形成する1つ又は複数のマイクロキャビティ(503)への入口を画定する第1の表面を有すること、
前記第1の表面が、少なくとも1種の分析物の選択的標的化及び捕捉のための捕捉剤を有し、少なくとも1つの分析物を有する流体を電極チャンバ(206)へ導入し、続いて分析物を捕捉することにより、前記アレイ(500)の前記マイクロキャビティ(503)のうち少なくとも1つのマイクロキャビティ(503)への前記入口を遮断する前記第1の表面によって前記分析物が保持され、
前記電極構造によって提供される前記微少流体装置の応答特性が、前記アレイ(500)
の前記マイクロキャビティ(503)のうちの前記少なくとも1つのマイクロキャビティ(503)への前記入口の遮断により動作可能に変化することにより、前記流体中の前記分析物の存在の指標となる、
微少流体装置。
【請求項2】
前記第1の表面が、分析物の非特異的捕捉を阻害するように選択的に修飾されている、
請求項1に記載の微少流体装置(200)。
【請求項3】
前記分析物が生物細胞であり、病原体、ガン細胞、または他の希少細胞を含む、請求項1または2に記載の微少流体装置(200)。
【請求項4】
前記基板の前記第1の表面が、前記表面上に捕捉剤を固定化することにより修飾され、前記捕捉剤が、抗体、タンパク質、核酸、または合成受容体からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の微少流体装置(200)。
【請求項5】
前記捕捉剤が、前記第1の表面上への湿式化学堆積、低温プラズマ堆積、またはソフトスタンピングにより、前記第1の表面上に固定化され、
前記捕捉剤が、前記1つ又は複数のマイクロキャビティの入口周囲の前記第1の表面上に位置する、請求項4に記載の微少流体装置(200)。
【請求項6】
前記基板内に画定された前記マイクロキャビティの表面が、曲面を画定し、
前記基板内に画定された前記1つ又は複数のマイクロキャビティが、100nm~10μmの範囲の直径または幅を有し、前記1つ又は複数のマイクロキャビティが、前記マイクロキャビティの前記直径の0.05~0.95倍の深さを有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の微少流体装置(200)。
【請求項7】
前記マイクロキャビティは、前記マイクロキャビティ間の間隔が検出対象の前記分析物の前記選択的捕捉のために、横方向に離間し、
前記マイクロキャビティ間の前記離間またはピッチが、前記マイクロキャビティの前記直径または幅の100倍以下である、
請求項6に記載の微少流体装置(200)。
【請求項8】
前記病原体が、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌、および真菌からなる群から選択される、請求項3に記載の微少流体装置。
【請求項9】
前記流体が、液体サンプル、全血サンプル、尿、汗、血漿もしくは他の画分、間質液、脳脊髄液、液化食品サンプルからなる群から選択される、またはスワブ表面から抽出される、請求項1~8のいずれか一項に記載の微少流体装置。
【請求項10】
流体サンプル中の分析物を検出する方法であって、
(i)請求項1~9のいずれか一項に記載の微少流体装置にサンプルを導入する工程と、
(ii)流体流を誘引する工程と、
(iii)分析物を捕捉する工程と、
(iv)前記微少流体装置の応答特性の変化を測定することにより、前記流体中の前記分析物の存在を検出する工程と、を含む、方法。
【請求項11】
前記分析物が、病原体、細胞、小胞、またはエキソソームを含む、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、微少流体装置、特に、分析物の検出のために構成された微少流体装置に関する。ここで、前記分析物とは、流体中の微小物体、例えば特定種類の細胞である。本願は、特に、流体サンプル中の分析物の捕捉および検出のために構成され、それにより、分析物の捕捉が微少流体装置の応答特性の変化により示される、微少流体装置に関する。この装置は、例えば血液培養(細胞分析物)による増幅なしに、標的分析物を低濃度で直接検出する。微小物体が捕捉されると、例えばポリメラーゼ連鎖反応、PCR(核酸分析物)による増幅なしに、分子分析物を低濃度で検出できる。
【背景技術】
【0002】
希少細胞の検出は、血液由来感染、敗血症、および循環腫瘍細胞を介するガンの転移を含む疾患の診断、セラノーシス、および予後診断に重要な意味を有する。
【0003】
例えば、病原体による多くの死は、高感度で迅速なポイントオブケア診断ツールにより予防できる。臨床サンプル中の病原体の存在を検出し、病原体の同一性および特性に関する付加的な情報を提供可能な微少流体装置が非常に望ましい。
【0004】
敗血症から転移性ガンまでの細胞ベースの疾患の早期検出により、最も適切な治療手段、例えば抗生物質または抗新生物薬剤療法、を迅速に開始可能であるが、現在の検出戦略では感度が低すぎて、例えば血液培養により標的分析物の濃度を上昇または増幅する必要がある。
【0005】
2つ目の重要な問題は、サンプル・ツー・アンサー時間であり、現在の技術では、多くの場合、結果を得るのに長期間を要する。例えば、血液由来の病原体の培養には3日間を要し、続けて病原体同定のためのPCRを要する場合がある。血液培養には一定の制限もある。例えば、血液培養は、重篤な敗血症および敗血症性ショックを有する患者のわずか30~40%しか陽性とならない。さらに、感染の初期においては、細菌負荷は低く、すなわち1~10CFU/mlであり、長い培養時間を要する。研究から、成人における臨床的に有意な菌血症は、病原体数が少ないことを特徴とすることが示されている。例えば、グラム陰性菌血症を有する成人の73%においては10CFU/ml、ブドウ球菌性および連鎖球菌性心内膜炎を有する成人患者の半数超においては1~30CFU/mlである。培養しにくいまたは生存しているが培養できないVBNC病原体は、全く増殖せず、偽陰性を導く可能性がある。加えて、血液培養は、採血前に抗生物質で処置された患者からのサンプルの場合には不十分である。
【0006】
診断を速くするいくつかの新たな技術が導入されている。その例としては、自動持続培養システム、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間(MALDITOF)を使用する迅速な病原体特定(例えば、Bruker MALDI Biotyper(商標)+Sepsityper(登録商標))、および抗菌材感受性試験のための自動システム等が挙げられる。しかし、これらの方法は、高コストであり、労働集約的であり、最も重要なことには、集中試験室で実施される。さらに、多くの市販の方法の検出感度は、本質的に不十分である(したがって、分析物の増幅が必要である)。これは、正確性を損ない、特に菌血症の初期において比較的高い偽陰性をもたらす。
【0007】
血液培養物および全血サンプルの両方を使用する細胞アッセイが市販されているが、主に、集中試験室に基づくものである。これらの細胞アッセイは、臨床診療に非常に限られた影響しか与えず、広く採用されていない。それらが採用された場合、従来の培養に基づくアプローチに取って代わるのではなく、補完するために使用される。
【0008】
血液培養陽性サンプルを使用する病原体特定および抗生物質感受性のための市販の方法としては、例えば、SeptiFast(ロッシュ遺伝子検査(Roche Molecular Diagnostics)):特異的PCR(LightCycler(登録商標)2.0)装置を使用して全血から直接細菌および真菌DNA(全部で15種)を検出および同定するためのインビトロ(in vitro)核酸増幅検査、Prove-it sepsis(Mobidiag社,フィンランド):マルチプレックスPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)およびマイクロアレイを使用する血液培養物中の敗血症を引き起こす病原体を検出するためのインビトロ診断、リアルタイムマルチプレックスPCRを使用するFilm Array Blood Culture Identificationパネル(BioFire社/bioMeriux社)、マイクロアレイ60細菌+13真菌においてハイブリダイゼーションを使用するVerigene(登録商標)グラム陰性細菌血液検査(Nanosphere)、ならびにマイクロアレイにおいてハイブリダイゼーションを使用するVerigene(登録商標)グラム陽性細菌血液検査(Nanosphere)がある。
【0009】
しかし、これらの方法には欠点がある。例えば、結果は、早期の抗生物質処置の決定を知らせるのに、十分素早く利用できない。また、例えば、「サンプル・ツー・リザルト(sample to result)」時間は、血液培養のための時間(+24~72時間)、および試験室ベースのアッセイの場合にはサンプル輸送および結果報告のための時間(+約4~8時間)も含む。これらの方法は、一般に、限られた病原体しかカバーしない。これらの方法は、限られた範囲の病原体しか検出できないため、病原体特定のための培養ベース/MALDI法の代わりとはなり得ない。典型的には、最適な抗生物質または生物の抗生物質耐性状態は判断されない。このため、病原体特定および抗生物質感受性の情報は、典型的には、適切な抗生物質療法の最初の選択を知らせるのに利用できないため、経験的に判断された広域スペクトル抗生物質を投与する「安全性第一」戦略が推奨され、その後、適切な単剤療法への迅速な漸減が推奨される。これは、多くの場合、最適な治療コースではない。
【0010】
まとめると、敗血症を示唆する臨床症状を呈する患者における診断およびその後の処置の初期「ゴールデンタイム」内に医師を支援するための迅速な診断検査に対する、かなりの満たされていない医療ニーズが存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
これらおよび他の問題に対処するために、本教示は、流体サンプル中の微小分析物、典型的には、細胞分析物の高効率な捕捉および超高感度検出を可能にする装置および方法を記載する。
【0012】
したがって、本教示は、以下の特許請求の範囲による装置および方法を提供する。
【0013】
本教示に係る装置は、分析物の高効率な捕捉によりおよび少数の分析物の捕捉に関連する信号の増幅により、直接的で高感度な検出、すなわち、サンプル1mlあたりに数個の分析物の検出を可能にする。本明細書に記載された微少流体装置は、標的分析物の濃度を、例えば血液培養により、増加または増幅させる必要がない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
一態様では、本教示は、流体サンプル、例えば血液サンプル、からの標的細胞の捕捉および検出を可能にする、微少流体装置を提供する。
【0015】
特に、本教示は、流体中の分析物を検出するための微少流体装置であって、基板内に画定された1つ又は複数のチャンバへの入口を画定する第1の表面を有する基板を含み、チャンバの表面が基板の第2の表面を画定する、微少流体装置を提供する。第1の表面が、少なくとも1種の分析物の選択的標的化及び捕捉によりチャンバのうちの少なくとも1つのチャンバへの入口が動作可能に遮断され得るように修飾(改変)された(modified)微少流体装置において、微少流体装置の応答特性が、チャンバのうちの少なくとも1つのチャンバへの入口の遮断により動作可能に変化することにより、流体中の分析物の存在の指標となる。
【0016】
チャンバのうちの少なくとも1つのチャンバへの入口の遮断は、チャンバを遮断するまたは塞ぐことにより行われる。遮断または閉塞は、チャンバへの入口を横切って位置する捕捉された分析物により、またはチャンバ内に位置する捕捉された分析物により、行われる。遮断または閉塞は、チャンバ内に少なくとも部分的に位置しまたはチャンバ内に完全に位置することによりチャンバへの入口を遮断する、捕捉された分析物によっても達成できる。チャンバ(キャビティ)の直径および分析物のサイズに応じて、捕捉された分析物は、チャンバ(キャビティ)内を「塞ぎ」またはチャンバの開口部を横切って遮断する。
【0017】
第1の表面は、分析物、例えばサンプル中の妨害物質、の非特異的捕捉を阻害するように選択的に修飾できる。第1の表面の選択的修飾により、堆積した捕捉剤の位置によって捕捉または接着した標的細胞の位置決めが制御される。
【0018】
本教示の好ましい態様に係る装置の検出表面は、基板内に複数のチャンバを含む捕捉表面を含み、基板表面は、分析物のための捕捉剤により機能化され、チャンバの内面は、捕捉された分析物由来の分子マーカーのための捕捉剤により機能化されている。
【0019】
分析物は、例えば、病原体、ガン細胞、または他の希少細胞を含む、生物細胞を含み得る。分析物は、例えば、単一の病原体または病原体のコロニーを含み得る。
【0020】
微少流体装置は、実質的に平面であり得る分析物捕捉基板を含む基板を含み得るか、または基板内に画定された単一もしくは複数のチャンバ(キャビティ)を含み得る。
【0021】
分析物捕捉基板は、基板の第1の上面を画定し、チャンバ(キャビティ)を含み、少なくとも1種の分析物を選択的に捕捉してチャンバのうちの少なくとも1つが遮断され得るように修飾され、微少流体装置の応答特性は、チャンバのうちの少なくとも1つを遮断することにより動作可能に変化することにより、流体中の分析物の存在の指標となる。
【0022】
基板内に画定された1つ又は複数のチャンバは、100nm~10μmの範囲の直径または幅を有し得る。チャンバは、チャンバの直径の0.05~0.95倍の深さを有し得る。異なるサイズのチャンバを、基板の第1の表面の異なる領域に設け得る。チャンバのサイズおよび形状は、標的分析物のサイズおよび形状と合致するように選択できる。
【0023】
好ましい態様では、チャンバ(キャビティ)は、チャンバ間の間隔が検出対象の標的分析物の選択的かつ効率的な捕捉のために最適化されるように、横方向に離間している。チャンバ間の間隔は、干渉物の非特異的結合を阻害してよい。
【0024】
複数のチャンバ入口間のピッチまたは離間は、チャンバ直径の0~100倍でもよい。
【0025】
本教示に係る微少流体装置の一態様では、基板内に画定されたチャンバの表面は、曲面を画定する。
【0026】
前記基板の第1の表面は、前記表面上に捕捉剤を固定化することにより修飾されてもよい。
【0027】
第1の表面は、適切な標的分析物捕捉剤により機能化できる。例えば、標的分析物は、病原体でもよく、第1の表面の領域は、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌、または真菌病原体を捕捉するための抗体により機能化できる。代替的に、これらの抗体は、特定の特異的標的、例えばスタフィロコッカス・アウレウス(Staph. aureus)、に対して選択的であり得る。
【0028】
捕捉抗体または捕捉タンパク質は、各種の技術、例えば第1の表面上への湿式化学堆積、低温プラズマ堆積、またはソフトスタンピング等、により、前記第1の表面上の特定の領域に固定化できる。実質的に平面の分析物捕捉基板の場合、特異的捕捉領域は、堆積された捕捉剤のパターンにより画定できる。
【0029】
捕捉剤(複数可)の濃度は、第1の表面における1つ又は複数のチャンバ(キャビティ)の入口周囲において、より高くてもよい。捕捉剤のこの配置により、チャンバを横切る分析物の部位特異的結合が促進される。捕捉剤の表面被覆率は最適化される。
【0030】
本教示は、検出表面のサイズを調整して、溶液中の分析物濃度が超低濃度(<pM)の場合でも検出表面の同じ割合が分析物により覆われ(S/N(シグナル対ノイズ)比の重要な決定因子)最適化されることを、提供する。
【0031】
捕捉抗体は、市販の抗体または専用に操作された抗体を含み得る。通常、例えばcMyc、HisまたはFLAG等の末端ポリペプチドを有する、小型、非グリコシル化FabおよびscFvフラグメント等の操作された組換え抗体フラグメントが、近年、高い親和性での細菌捕捉に好まれている。
【0032】
捕捉タンパク質は酵母タンパク質を含み得る。当業者であれば、捕捉タンパク質が酵母タンパク質、IgG、IgA、IgM抗体、または抗Candida albicans抗体を含み得ることを、理解できる。近年の真核細胞培養物、例えば酵母Pichia pastorisの培養物から、高マンノースオリゴ糖によるが、完全に処理されたscFvs(一本鎖可変フラグメント)の効率的な産生が示されている。
【0033】
捕捉剤は、アプタマー、すなわち、高い親和性および特異性を有するタンパク質およびペプチドを含む予め選択された標的に結合できる、一本鎖DNAまたはRNA(ssDNAまたはssRNA)分子でもよい。
【0034】
捕捉剤は、ポリマーでもよい。
捕捉剤は、ペプチドでもよい。
捕捉剤は、合成のものでも天然のものでもよい。
【0035】
本教示に係る微少流体装置の応答特性は、分析物の捕捉時に動作可能に変化することにより流体中の標的分析物の存在を示す、電気化学信号または光信号を含む。
【0036】
特に好ましい態様では、電気化学信号は、流体中の細胞濃度、例えば病原体負荷、の指標となる、変化したインピーダンス信号(抵抗およびキャパシタンス)を含む。信号は定量的であるため、サンプル中の細胞濃度の指標となる。
【0037】
特に好ましい態様では、電気化学信号は、流体中の分析物濃度の指標となる、結合分子または遊離分子の酸化または還元に関連する電流の変化を含む。
【0038】
代替的な態様では、光信号は、流体中の分析物濃度の指標となる、結合発光体または遊離発光体の蛍光強度または寿命の変化を含む。
【0039】
さらなる代替的な態様では、光信号は、流体中の分析物濃度の指標となる、結合発光体または遊離発光体のラマン散乱強度の変化を含む。
【0040】
本教示に係る微少流体装置のさらなる態様では、基板上の各チャンバの内面は、捕捉された実体由来の少なくとも1種の分子マーカー、例えば細胞特定のためのDNA、捕捉された細胞の特性のタンパク質/核酸/低分子バイオマーカー等、の検出のために修飾され、それにより、微少流体装置の応答特性が、チャンバのうちの少なくとも1つのチャンバへの放出されたマーカーの結合によって作動可能に変化する。各チャンバの内面は、捕捉剤により機能化できる。捕捉剤は、任意の適切な捕捉剤、例えばDNA捕捉鎖、抗体、または合成捕捉剤、を含み得る。各チャンバの内面は、相補的DNAまたはRNA(標的分析物)とハイブリダイズ/アニーリングし塩基対形成を介して単一の二本鎖分子を形成可能となる、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)「捕捉」鎖の単層により機能化できる。この態様では、微少流体装置の応答特性は、標的分析物の捕捉および後続のマーカー放出時に動作可能に変化することにより、流体中の分析物の存在を示す、電気化学信号または光信号を含む。
【0041】
特に好ましい態様では、電気化学信号は、捕捉された分析物の同一性または特性に対する洞察を提供する、変化したインピーダンス信号(抵抗およびキャパシタンス)を含む。また、変化したシグナルは、流体中の病原体負荷の指標も提供する。
【0042】
特に好ましい態様では、電気化学信号は、捕捉された分析物の同一性または特性に対する洞察を提供する、結合電気活性分子または遊離電気活性分子の還元または酸化に関連する電流の変化を含む。
【0043】
標的分析物から放出されたマーカーがキャビティの機能化された内部に結合するためにかかる時間は、マーカーおよび捕捉剤の性質により決まる。例えば、この時間は、短い核酸(NA)鎖の場合は1分ほどと短く、より長い鎖の場合は60分に長くなる場合がある。また、この時間は、装置の幾何学的形状、特に、キャビティサイズによっても決まる。典型的には、感度は、機能化されたキャビティ表面にマーカーがより長い期間結合するのを可能にすることにより向上する。
【0044】
本明細書に記載された微少流体装置は、約2個/mlの濃度で細胞を検出できる。
【0045】
流体サンプルは、液体サンプル、全血サンプル、血漿もしくは他の画分、間質液、脳脊髄液、尿、または唾液からなる群から選択できる。必要な最少サンプル容量は、典型的には、例えば、血液サンプルの場合(100μL~6mL)、尿の場合(100μL~6mL)、または唾液の場合(<1mL)である。
【0046】
抽出されたサンプル、例えばバッファー溶液中に抽出された創傷スワブ(wound swab)または液化食品サンプル等、も検査できる。
【0047】
通常は、本教示に係る装置は、1時間未満の時間枠内で分析物の検出が可能である。このような時間枠は、抗生物質の迅速な投与または基礎疾患としての敗血症の排除を可能にする臨床環境において、非常に望ましい。本教示に係る装置の利点は、1回の実行で複数のサンプルを検査できる迅速かつ自動化された装置が提供されることである。
【0048】
さらなる態様では、本教示は、流体中の分析物を検出する方法であって、本明細書に記載された微少流体装置の使用を含む、方法を提供する。この方法は、
(i)本教示に記載された微少流体装置にサンプルを導入する工程と、
(ii)流体流を誘引する工程と、
(iii)分析物を捕捉する工程と、
(iv)微少流体装置の応答特性の変化を測定することにより、流体中の分析物の存在を検出する工程と、を含む。
【0049】
分析物は、キャビティアレイの上面に捕捉される。分析物は、(超)微小分析物、例えば細胞、小胞、またはエキソソーム、を含み得る。
【0050】
さらなる態様では、この方法は、さらに、捕捉された実体からのマーカーの放出を測定する工程を含んでもよい。
【0051】
本教示の方法によれば、微少流体装置の応答特性は、流体中の分析物の捕捉時に動作可能に変化する、電気化学応答または光応答を含む。
【0052】
さらなる態様では、本教示は、本明細書に記載された微少流体装置を含む微少流体ディスクを提供する。
【0053】
微少流体装置の1つの具体化には、自動遠心実験装置内においてディスク、LOAD、プラットフォーム上に機能化キャビティアレイを取り付けることが含まれる。LOADは、遠心装置の回転速度を制御して、流体をポンピングし、装置内の液体の移動を操作するという利点を有する。マイクロチャネルの構造および流体流動特性のために、プローブと分析物との間の衝突の確率は、はるかに短い拡散距離により増加する。これにより、分析物と捕捉表面との最大相互作用を確実にするための高度に制御された様式で、電極表面上におけるサンプルの移動が可能となる。したがって、デバイスの幾何学的形状は、拡散が制限されたプロセスを克服し質量輸送速度(mass transport rates)を改善するように、複数の捕捉表面への分析物の輸送を改善し、その結果、分析時間が短縮される。
【0054】
本教示は、流体サンプル中の病原体の捕捉および検出のための機能化キャビティアレイを含む微少流体装置を有する微少流体ディスクを提供する。
【0055】
別の態様では、本教示は、病原体サブタイプの特定を可能にする微少流体装置を提供する。
【0056】
本教示に係る装置は、臨床的意思決定に直接影響を及ぼす、解釈容易な情報を迅速に提供することにより、患者近くでの検査のために設計される。好ましい態様では、この装置により、例えば、患者近くでの敗血症の迅速な検出が可能となる。
【0057】
本明細書に記載された装置は、現行のシステムより、迅速で、安価に、そして確実に分析を実施可能な迅速な検出を実現する。本教示に係る装置の利点は、標的分析物ではなく信号を増幅するので、短い分析時間で健康上の脅威を迅速に評価できることである。
【0058】
本明細書に記載された微少流体装置により、患者の疾患段階および予後の正確な評価が可能となることが理解される。その理由は、広いダイナミックレンジが、アレイ中のキャビティ数を調整することにより得られるからである。
【0059】
本明細書に記載された装置は、公知の集中試験室システムと比較して、製造コストを下げて製造できる。
【0060】
本教示に係るアプローチのこれらおよび他の特徴ならびに利点は、下記の例示的な構成を参照することにより、より良好に理解できる。
【0061】
以下、本願を、添付図面を参照して本出願を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1】金マイクロキャビティ・アレイ・プラットフォームのためのナノスフェアリソグラフィ製造プロセスの例を示す。
【
図2】キャビティアレイ基板の大量生産のためのフォトリソグラフィ製造プロセスの模式図である。
【
図3A】ある範囲の市販のフォトレジスト溶液についての、膜厚(μm)とスピン速度(rpm)との間の関係を示すグラフである。
【
図3B】フォトリソグラフィにより大量生産された金キャビティのSEMおよび共焦点画像を示す。
【
図3C】異なる分析物(例えば、サイズが5~20μmの細胞およびサイズが1~5μmの細菌)を捕捉するためのアレイの微調整を示すために、キャビティ孔径を変化させたフォトリソグラフィにより製造されたキャビティのSEM画像を示す。
【
図4A】フォトレジスト・キャビティ・アレイの上面を修飾するのに使用されるポリジメチルシロキサン(PDMS)スタンプの作製プロセスの模式図であり、PDMSスタンプ(各正方形間の距離が5μmの10×10μmの正方形)を使用してガラス基板上にスタンプしたCy3ラベルBSA(ウシ血清アルブミン)の共焦点画像例を示し、発光画像を、540nmのHeNeレーザー励起により、40×油浸対物レンズ(NA1.4)を使用して記録した。
【
図4B】ABスタンプの再現性を示す、抗体スタンプされた平面電極表面の共焦点画像(上側)および3つの独立したグラム陰性抗体スタンプされた電極のインピーダンススペクトルを示す。
【
図4C】PDMSスタンプを使用してフォトリソグラフィキャビティアレイ基板表面上にスタンプされたCy3ラベルBSAの共焦点画像例を示し、発光画像を、540nmのHeNeレーザー励起により、40×油浸対物レンズ(NA1.4)を使用して記録した。
【
図4D】明確に目視可能なキャビティアレイの細孔と、細孔開口部の周りのCy3ラベルBSA鋳型とを示す共焦点画像を示し、スタンピングの成功が確認できる。
【
図5A】細菌捕捉および検出のための電極が挿入された、本教示の一態様に係るバイナリ応答装置のイメージを示す。
【
図5B】本教示に係る流体中の分析物を検出する方法の工程を示すフローチャートである。
【
図6】
図5Aのバイナリ応答装置上のラベル付き検査サイトを示す。
【
図7A】装置を構成する層を示す、本教示の代替的な態様に係るバイナリ応答装置の構成を示す展開3D図である。
【
図7B】組み立てられた装置の3D表現のための三測図により補足される、
図7Aの装置の概観を示す。
【
図7C】
図7Bに示される装置の3つの同一の検査サイトのうちの1つの2D模式図を示す。
【
図7D】(i)~(x)は、本発明に係る方法のイベントシーケンスを示す模式図であり、(i)は予め装填された状態のチャンバを示し、(ii)は新鮮な全血サンプルおよび試薬の充填を示し、(iii)は検出チャンバへのサンプルの通過および廃棄チャンバへのサンプル流の継続を示し、(iv)は廃棄チャンバへの血液の完全な移動を示し、(v)は角速度の増加により洗浄工程バルブが破裂可能な状態に置かれることを示し、(vi)は装置の7番目の層上のチャネルを介した洗浄チャンバから検出チャンバへの洗浄液の移動を示し、(vii)は廃棄チャンバへの洗浄液の完全な移動を示し、(vii
i)は角速度のさらなる増加が電解質バルブを破裂可能な状態に置くことを示し、(ix)は装置の7番目の層上のチャネルを介した洗浄チャンバから検出チャンバへの電解質溶液の移動を示し、(x)は電解質溶液の検出チャンバへの完全な移動を示す。
【
図8】細菌捕捉および検出のための電極が挿入された多重装置のイメージを示す。
【
図9】細菌捕捉および検出のための電極が挿入された多重装置上のラベル付き検査サイトを示す。
【
図10】細菌捕捉および検出のための電極が挿入された多重装置のイメージを示す。
【
図11A】抗体吸着キャビティアレイ表面での病原体捕捉の模式図である。
【
図11B】単体の病原体および病原体のコロニーを示す、抗体吸着キャビティアレイ表面での病原体捕捉の模式図であり、病原体は、キャビティのサイズに応じて、1つのサンプル中において、キャビティを横切って結合するか、またはマイクロキャビティ(チャンバ)中で結合するか、のいずれかまたはその両方である。
【
図12】グラム陽性修飾アレイ表面でのスタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)病原体の捕捉成功によるインピーダンスの顕著な変化を示すインピーダンススペクトルである。
【
図13】微少流体インキュベーションチャンバ内での10分間のインキュベーション時間および2分間の読み取り時間を使用した、患者全血サンプルから、PDMSスタンプを使用したフォトリソグラフィキャビティアレイ基板表面への、高度に選択的な病原体の捕捉をとらえた共焦点画像を示す。
【
図14】微少流体インキュベーションチャンバ内で10分間のインキュベーション時間および2分間の読み取り時間を使用し、スタフィロコッカス・アウレウス(S. aureus)病原体が、スパイクされた健康な全血サンプルから、PDMSスタンプを使用したフォトリソグラフィキャビティアレイ基板表面上へ捕捉できたことに伴うインピーダンスの顕著な変化を示すインピーダンススペクトル(上側)を示し、ナイキストプロット(上側)およびボードプロット(下側)は両方とも、病原体捕捉による顕著な変化を示す。
【
図15】
図14に提示したものを強調し、抗体修飾キャビティアレイ基板上への病原体の捕捉成功のSEM画像を示し、細胞捕捉は、キャビティ内部を「塞ぎ」またはマイクロキャビティの開口部を横切って遮断している。
【発明を実施するための形態】
【0063】
本教示は、流体サンプル中の分析物、例えば病原体、を迅速に検出するための微少流体装置および方法を提供する。特に、本明細書に記載された微少流体装置によれば、流体サンプル、例えば全血サンプル、中の細菌および真菌病原体の非常に効率的な捕捉および検出が可能となる。
【0064】
分析物の捕捉および検出ならびに有害な非特異的吸着の阻害における本教示に係る装置の効率は、装置のいくつかの特徴の組み合わせ効果により得られる。このような特徴は、標的分析物の属性に合った、基板上に形成されたチャンバまたはキャビティのサイズおよび形状を含む。キャビティの形状およびサイズは、標的分析物の形状およびサイズに合致するように選択できる。チャンバ(キャビティ)の横方向の間隔は、非特異的結合を阻害しつつ分析物の結合を促進するように最適化される。さらに、捕捉剤は、チャンバを横切る分析物の部位特異的結合を促進するために、チャンバの開口部の周りすなわちチャンバへの入口の周りに配置できる。したがって、分析物は固定化されるかまたは「ロックイン」される。捕捉剤の表面被覆率は最適化される。また、表面電荷も、分析物に対する静電引力または干渉の静電反発力を生成するように制御される。
【0065】
チャンバ(キャビティ)の直径および分析物のサイズは、捕捉された分析物がチャンバ(キャビティ)への入口を横切って結合されるかまたはチャンバ(キャビティ)の内側に位置するかに影響を及ぼすことになる。例えば、キャビティの直径が分析物の直径より小さい場合、分析物はキャビティを横切って結合することになる。キャビティのサイズが分析物のサイズより大きい場合、トポグラフィーの影響が支配的となり、それにより、細胞は、例えば、最初は抗体修飾表面に特異的に引き付けられるが、キャビティがより大きな表面積を有するため、キャビティの内側に入る。
【0066】
さらに、本明細書に記載された装置および方法によれば、サンプルを表面に送達する流れプロファイルは、空間および時間において制御される。装置を横切るサンプルの流量は、マイクロチャネルの構造により制御される。ディスク上のインキュベーションチャンバ(複数可)の幾何学的形状は、サンプルと基板の捕捉表面との接触を最大にするように選択される。
【0067】
これらの効果は、予想外の方法で相乗的に組み合わさり、捕捉剤およびナノ構造の相乗効果により、滑らかな表面と比較して、細胞の捕捉の収率が向上する。
【0068】
チャンバおよびキャビティという用語は、本明細書において、基板の第1の表面(捕捉表面)の開口部を指すのに、互換的に使用される。チャンバまたはキャビティは、マイクロキャビティアレイを形成する。
【0069】
第1の実施態様では、微少流体装置は、マイクロキャビティのアレイを含み、交差反応性がほとんどない流体サンプル中のグラム陽性種、グラム陰性種、および真菌種を選択的に検出するのに有利に使用される。本教示に係る装置によれば、流体サンプル中の病原体の検出が可能となる。本教示に係る装置によれば、病原体の種類、例えば病原体がグラム陽性種、グラム陰性種、または真菌種であるか等を、典型的には装置上にサンプルを置いてから回答を提供するまでの約1時間の時間枠内に、決定可能である。したがって、この装置は、ポイントオブケア診断に使用でき、敗血症が疑われる患者を検査するのに特に効率的である。重要な利点は、<10CFU/mlの濃度で病原体を検出できることである。
【0070】
本教示の第1の実施態様に係る微少流体装置は、バイナリ応答装置として本明細書に記載される。この装置の特徴は、捕捉された病原体の存在の有無を示すことにある。
【0071】
本教示のさらなる実施態様において、この装置は、病原体サブタイプを特定し抗生物質耐性を決定するように構成される。
【0072】
本教示に係る装置のマイクロキャビティアレイは、数多くの方法で製造できる。使用できる2つの例示的な製造方法は、電着およびフォトリソグラフィであり、これら2つの技術それぞれの具体例を以下に説明する。
【0073】
1.キャビティアレイ製造:電着(プロトコルA)
この方法は、マイクロまたはナノスフェアリソグラフィ製造プロセスを介した電着により形成される、金、その他の金属、および導電性ポリマー(銀およびコバルトアレイも製造できる)中に、一連の規則正しい球状セグメント金属キャビティアレイを製作することができる。
図1は、金マイクロキャビティ・アレイ・プラットフォームのためのナノスフェアリソグラフィ製造プロセスの模式図である。
【0074】
金基板上のポリスチレンスフェア単層形成
所望の直径サイズ(直径範囲25nm~21μmを入手可能)の市販のポリスチレン(PS)ラテックススフェア(Bangs Laboratory社、USA)の10重量%ストック溶液を、水中での約1重量%溶液に希釈する。50オングストロームのチタン接着層(Platypus Technologies社、USA)上に1000オングストロームの金(Au)を525μmの厚みで被覆した導電性シリコンウエハ上にスフェア100の薄層を堆積させ、室温で一晩蒸発させる。
【0075】
電着
ついで、電着を下記のように行う。電解質液を、窒素で30分間脱気した後、蒸着させる。市販の金メッキ水溶液を使用して、制御された厚みの金膜を電気化学的に堆積させる。電位(V)vsAg/AgCl(飽和KCl)電極を印加する。
図1を参照すると、キャビティ101の厚みは、電気化学的堆積工程において通過する電荷量(C)および印加される電圧(V)により容易に制御される。
【0076】
アレイの選択的修飾
プロトコルAの主な利点の1つは、表面を選択的に修飾(改変)する(modify)能力である。例えば、このようなプロトコルを使用して、アレイ全体を単一の表面活性捕捉剤、例えば細胞捕捉抗体、で修飾するか、または上面およびキャビティ壁内部を異なる種で選択的に修飾するかのいずれかが可能である。テトラヒドロフラン(THF)中に3時間浸漬することによりポリスチレン(PS)スフェアを除去した後、表面全体を化学的に修飾するために、キャビティアレイ全体(上面およびキャビティ壁の両方)を、室温で一晩、所望の捕捉剤の溶液中に浸漬してよい。異なるチオールによって上面およびキャビティ壁を選択的に修飾することは、
図1に示された2段階吸着プロセスにより実現される。まず、アレイを、室温で一晩、1種の界面活性リガンドの溶液に浸漬させる。ついで、上面修飾アレイを、THF中に3時間浸漬させて、PSスフェアを除去し、続けて、室温で一晩、別のチオールに浸漬させる。
【0077】
この方法は、細胞付着プラットフォームの製造に特に適していることが理解できる。つまり、例えば、適切な界面活性リガンドを使用して非特異的結合を遮断するように表面を調整でき、それにより、付着した細胞の位置決めを制御することができる。この方法の代わりに、以下に説明するように、最適化されたマイクロキャビティアレイの大量生産を提供可能である。異なるサイズのキャビティを、各標的病原体サイズ毎に、装置の異なる領域に容易に作製できる。
【0078】
2.キャビティアレイの大量生産:フォトリソグラフィ(プロトコルB)
図2は、キャビティアレイ基板の大量生産のためのフォトリソグラフィ製造プロセスの模式図である。
図2に、直径10ミクロンのフォトリソグラフィで作製されたキャビティアレイの走査型電子顕微鏡写真(SEM)画像例を示す。画像は、5.00kVの加速電圧を使用して記録した。直径は、特注の商業的に製造されたマスクを使用して容易に変えることができる。本教示に係る微少流体装置のために、現在は、直径2ミクロンのアレイが最適化されている。
【0079】
図2に示されるように、この例では金被覆シリコンウエハである基板34は、フォトレジスト32によりパターン化されている。UVフォトリソグラフィは、紫外線を使用して表面を、この場合にはUV感受性フォトレジストを使用して、パターン化することを含む。このレジストを、基板上にスピンコートし(例えば、本教示の装置の場合、基板はシリコンである)、特定のフォトマスクを介して波長365nmのUV光に露光する。つぎに、このレジストを適切な溶媒中で現像して、非架橋レジストを除去する。
【0080】
図2を参照すると、この方法は、UV光36を使用して、表面34をパターン化することを含む。参照符号20で示される工程1では、SU-8 3005等のフォトレジストを基板34の表面上に500rpmでスピンコートする。参照符号22で示される工程2では、マスクを位置合わせし、SU-8 3005を365nmのUV光36に露光する。続けて、参照符号24で示される工程3では、65℃で1分間プリベークし、続けて、95℃で2分間プリベークする。露光された領域は架橋して、溶解性が下がる。参照符号26で示される最終工程は、現像液中で1分間超音波洗浄する工程に関し、それにより、未露光領域は溶解性が増して現像液中で洗い流される。
【0081】
本教示に係る装置の製造方法に使用されるフォトレジストは、A-Gas Electronic Materials社から購入されたSU-8 3005である。当業者であれば、他の適切な市販のフォトレジストが使用可能なことは理解できる。SU-8は、SU-8樹脂を有機溶媒に溶解させ、光開始剤を添加することにより形成されるネガ型レジストである。UV照射に露光されると、光開始剤は分解して酸を形成し、これがレジスト中の架橋を触媒する。この反応は、熱を加えることによりさらに増幅される。この場合、有機溶媒はレジストから蒸発する。したがって、架橋レジストは、現像溶剤への溶解性が低くなる。要するに、UVに露光された領域は現像後に基板上に残り、光から遮断された領域は洗い流され、キャビティアレイの基部にある金基板が露出する。
【0082】
スピンコーティング
被覆するために各種の異なる技術を使用できるが、本発明者らは、スピンコーティングが基板をレジストで被覆するのに最も迅速かつ容易な方法であると、結論付けた。基板を回転真空チャック上に保持し、ある程度のレジストを中央に堆積させる。ついで、ウエハを500rpmで10秒間回転させて、レジストをシリコン上に均一に広げ、ついで、より速いrpmで回転させて特定の膜厚を形成する。
【0083】
2μmの深さのキャビティを形成するために、厚み2μmのフォトレジスト層が必要である。層の厚みは、スピン速度(rpm)、スピン時間、およびフォトレジストの粘度により決定される。
図3Aを参照されたい。レジストの粘度が高いほど、生成され得る膜は厚くなる。したがって、本発明者らは、SU-8 3000シリーズの最も粘度の低いレジストであるSU-8 3005を使用した。2μmの膜厚を形成するために、レジストは5500~6500rpmの範囲でスピンすべきであると、決定した。
【0084】
ソフトベーク
スピンコート後、ソフトベークを行う。ソフトベーク中に、レジスト中の有機溶剤が少量蒸発し、レジスト膜がわずかに固化し、粘度が増す。これは、レジストからの残留物がマスク上に残らずマスクの寿命が長くなるため、マスクが基板と接触する接触リソグラフィの際には特に有益である。
【0085】
ソフトベークは、一般的には、厚み10μm未満の膜について、95℃で3分間行う。温度が高すぎるまたは長すぎるベークでは、レジスト膜にクラックおよび亀裂が生じる場合がある。ソフトベークは、従来のオーブンで行うことができるが、レジスト膜の上面から溶媒が蒸発して「スキン」を形成し、このスキンが、下にある溶媒の蒸発を妨げる場合がある。したがって、より速く、制御が容易で、溶媒の均一な蒸発を促進する真空ホットプレート上でソフトベークを行うことが好ましい。
【0086】
露光および露光後ベーク
ソフトベーク後、ウエハを、照明/位置合わせ装置に移す。この装置は、ウエハをマスク特徴部と高精度に位置合わせするための高倍率カメラを有する。これは、多層リソグラフィ、すなわち、同じウエハ上に異なる高さの特徴部を作成するためにのみ実際に必要であることを理解されたい。本教示に係る装置の場合、キャビティは、単層リソグラフィのみを必要とするため、位置合わせはそれほど重要ではない。ウエハを真空ステージ上に保持し、マスクをその上にボルト止めする。ステージ位置は、X、Y、およびZ方向に調整可能であり、マスクと位置合わせするように回転させることもできる。ついで、ステージをUVランプの下に移動させ、マスクパターンをフォトレジストに転写する。
【0087】
フォトリソグラフィに最適な波長は、用途および使用されるレジストに応じて、深UV(150~300nm)から近UV(350~500nm)までの範囲である。SU-8は、最も一般的には、350~400nmで露光され、365nm(i線)が最適波長である。膜厚が10μm未満の場合、最適露光エネルギーは100~200mJ/cm2である。レジストの接着強度は、使用される基板に応じて変化する。SU-8は、金に対する接着強度が比較的低く、より高い露光線量が必要である。本教示の場合、レジストは、シリコンウエハ上では10秒間、金ウエハ上では20~25秒間露光される。
【0088】
先に言及したように、UV照射により、レジスト中の光開始剤がヘキサフルオロアンチモン酸に分解され、これにより、レジストの露光領域において架橋反応が引き起こされる。これらの反応は室温で起こるが、反応速度は熱により大幅に向上する。一般的な露光後ベーク温度は60~100℃の範囲である。より低い温度でのより長いベークはより有益である。急速な温度ジャンプにより、レジスト中に熱応力およびクラックが生じる可能性があるためである。本発明に係る装置の製造方法の場合には、露光後ベークを、一般的には、65℃で1分間、続けて95℃で2分間行う。架橋が完了すると、露光後ベーク中のレジストに、マスク特徴部の像が現れる。
【0089】
現像
現像とは、所望のトポグラフィーを残すために、未架橋レジストを溶解および除去することである。本教示に係る装置の製造方法では、「湿式」現像を使用する。湿式現像は、現像溶媒中にレジストを浸すことを含む。本明細書で使用される溶媒は、MicroPosit EC溶媒(2-メトキシ-1-メチルエチルアセテート)である。この方法は、架橋レジストと未架橋レジストとの間の分子量の差に依存する。レジストの露光されていない、従って架橋されていない領域は洗い流される。レジスト上に新しい現像液を連続的に供給し、小さなキャビティまたはチャネルからレジストを除去するために、液体を一定に撹拌し続ける。このプロセスは、音波浴の使用によりまたは振動プラットフォーム上に置くことにより、かなり補助される。一般的には、キャビティを、通常、音波浴中で1~3分間現像する。現像後、完成したウエハを、イソプロパノールおよび脱イオン水で洗浄し、窒素で乾燥させる。
【0090】
ハードベーク
最終(および任意)段階は、ハードベークである。これは、レジスト中の残留有機溶剤を除去し、現像中に弱化した可能性のあるレジスト表面をアニールするためである。完全に架橋されたSU-8のガラス転移温度は、200℃の領域にある。したがって、より高い温度でハードベークを行うことができる。本明細書に記載された方法によれば、ウエハは、150℃で10~15分間ハードベークできる。ハードベークは、1回使用の電極キャビティにはそれほど重要ではないが、構造的一体性とウエハの寿命が重要であるキャスティングまたはエンボスに使用されるウエハには、ハードベークが重要である。
【0091】
図3Bを参照すると、得られたアレイでは、キャビティの上面にフォトレジストが、キャビティの基部に金が、示されており、これにより、アレイが電気化学的にアドレス指定可能とされる。
【0092】
3.キャビティアレイ表面の修飾
捕捉抗体または捕捉タンパク質を、第1の平面に、前記平面上にスタンプすることにより、固定化できる。アレイの上面(基板の第1の平面)を、捕捉抗体または捕捉タンパク質でスタンプすることにより修飾できる。例えば、アレイの上面に、グラム陽性抗体、グラム陰性抗体もしくは酵母タンパク質、または病原体サブタイプを選択的に捕捉する抗体をスタンプできる。
【0093】
アレイの上面が、この例では金ではないため、マイクロコンタクトプリンティング(μCP)を利用して、アレイの上面を(抗体吸着により)修飾する。μCPは、マスターポリジメチルシロキサン(PDMS)スタンプ上のレリーフパターンを使用して、コンフォーマルコンタクトを介して基板の表面上にパターンを形成する、ソフトリソグラフィの一形態である。当業者であれば、他の適切なスタンピング材料を使用できることを理解できる。
【0094】
マスターの準備
マスターを、フォトリソグラフィ技術を使用して準備する。マスターはシリコン上に形成する。フォトレジストを表面に塗布し(最初に500rpmで10秒間、ついで、30秒間で1000rpmに速くする)、フォトマスクおよびUV光によりパターン化する。ついで、マスターをベークし(95℃で3分間)、現像し(超音波処理で2分間)、使用前に洗浄する。フォトレジストは非常に安定しており、ウエハマスタを、スタンプのためのトポグラフィックテンプレートとして何度も再使用できる。
【0095】
PDMSスタンプの作製
フォトレジスト・キャビティ・アレイの上面を修飾するのに使用されるPDMSスタンプの製造プロセスの模式図を、
図4Aに示す。製造後、マスターをペトリ皿に入れ、シリコーンエラストマーとシリコーンエラストマー硬化剤との比を10:1にして、PDMSをマスター上に注ぐ。この混合物は、白金錯体製の触媒を含有する短いヒドロシラン架橋剤からなる。注いだ後、PDMSを真空下に1時間置き、ついで70℃で1時間硬化させて、ポリマーを固化させる。ついで、スタンプを剥がし、所望のサイズに切断する。スタンプは、マスターの逆の構造を複製する。スタンプの隆起領域はマスターの窪んだ領域に対応する。
【0096】
表面修飾:抗体スタンピング
所望の抗体(ストック濃度100μg/ml)を、室温で15分間、PDMSスタンプと接触させる。使用に適した抗体は、GTX40307グラム陰性エンドトキシン[308]マウスモノクローナル抗体、GTX36804グラム陽性細菌LTA[3801]マウスモノクローナル抗体、および天然Candida Rugoseコレステロールエステラーゼ精製タンパク質を含む。抗体溶液を除去し、過剰の溶液を窒素流で除去する。ついで、抗体吸着スタンプを、フォトリソグラフィアレイ表面上に配置し、軽く押圧して、表面とスタンプとの間に適切な接触が生じるのを確実にする。スタンプをアレイと共に、室温で15分間インキュベートする。スタンプを表面から剥がすと、抗体はキャビティアレイ基板の上面に吸着される。キャビティアレイの基部において露出した金を、選択されたチオールで修飾してもよい。チオール修飾が必要ない場合、非特異的結合を減少させるために、金をチオール化PEG(ポリエチレングリコール)でブロックする。抗体修飾アレイを、チオール化PEG8-COOHの1mM溶液と共に、室温で一晩インキュベートする。最後に、表面に非特異的接着が残らないように、アレイ全体を、1%のBSA(ウシ血清アルブミン)溶液と共に、室温で1時間インキュベートする。ついで、このアレイを、細菌捕捉および電気化学的検出用のバイナリ応答装置に挿入する。
【0097】
図4Bを参照すると、前記平面上へのスタンピングにより第1の表面に固定化された捕捉抗体の共焦点画像において、微少流体装置内の3つの独立したグラム陰性抗体スタンプ済み平面電極の再現可能なインピーダンススペクトルが示された。
【0098】
また、キャビティアレイの上面も、捕捉抗体または捕捉タンパク質でスタンプすることにより修飾できる。
図4CおよびDに、(フォトリソグラフィにより製造された)キャビティアレイ上に固定化されたグラム陰性抗体を有するスタンプの共焦点画像を示す。
【0099】
本明細書に記載された微少流体装置は、バイナリ応答装置または多重装置として使用できる。バイナリ応答装置は、分析物の存在または他の指標、すなわち、例えば全血サンプル等のサンプル中における「有/無」バイナリ応答を、提供する。本明細書に記載された多重装置は、特定の種類の分析物を検出する能力を備える。多重装置は、病原体の種類(例えば、グラム陽性、グラム陰性、または酵母病原体)の初期診断後に使用できる。これにより、分析物のサブタイプに関するより多くの具体的すなわち詳細な情報が提供される。
【0100】
4.バイナリ応答装置遠心分離プラットフォームプロトコル
全体的なディスク設計
バイナリ応答ディスクの設計を、ソリッドワークス・プレミアム(SolidWorks Premium)2015プログラムを使用して行う。これは、ソリッドモデリングコンピュータ支援設計(CAD)プログラムである。ディスクの3Dモデルを最初に描画する。ディスク特徴部の異なる深さは、モデル構造内の異なる深さにある。全体として、9つの異なるレイヤーをモデル設計から抽出する。各レイヤーは、AutoCADとラベル付けされた別のCADプログラムで開かれなければならない。ここで、ポリラインをそれぞれ、後の段階での製造を容易にするために、連続ラインに変換する。ついで、各レイヤーをDXFファイルとして保存する。
【0101】
一構成では、基板は、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)の1つ又は複数の層から製造できる。複数の層が設けられる場合、PMMAのベース層を、作用金電極を受容し配置するように製造できる。他のPMMA層をこのベース層に結合して、最終的な多層構造を形成できる。
【0102】
5.バイナリ応答装置
図5Aに、細菌捕捉および検出のための電極201が挿入されたバイナリ応答特性装置200の一例のイメージを示す。
【0103】
この例示的な構成におけるバイナリ応答ディスク200は、3つの別個の検査サイト202を含む。この構造は、これらのサイトが完全に同一となり得るようにミラーリングされる。このサイトは、サンプルチャンバ203、洗浄チャンバ204、および電解質チャンバ205を含む。装置の装填を容易にするために、リザーバの頂部に通気孔が配置されている。
【0104】
バイナリ応答装置上のラベル付き検査サイト202を、
図6に示す。インキュベーション/電極チャンバ内の電極構造は、下記のとおりである。
・ITO/金電極(基準)
・グラム陽性(作用電極)
・グラム陰性(作用電極)
・酵母(作用電極)
・対電極
【0105】
全ての状況における配置が次のとおり、(左)基準電極、(中央)作用電極、および(右)対電極であれば、抗体を任意の順序で配置できることを理解されたい。
【0106】
また、他の金属および導電性ポリマーを対電極または基準電極として使用できることも、理解されたい(例は、銀、炭素、およびシリコンを含むが、これらに限定されない)。
【0107】
下記は、本教示に係る微少流体装置を使用して分析物を捕捉し検出する方法の例である。
【0108】
図5A、
図5B、および
図6を参照して、2mlの全血サンプルをサンプ
ルチャンバ203(チャンバA)に装填する。サンプルは、単純なマイクロチャネルを介して、電極チャンバ206(チャンバD)に直接流れる。10Hzのスピン速度を装置に適用して、液体を電極チャンバ内にゆっくりと移す。ここで、単純なサイフォン技術を用いて、規定された期間、インキュベーションチャンバ内にサンプルを収容させる。本教示に係る装置に使用されるインキュベーション時間は、約7~10分間である。本教示のこの態様による装置が4Hzまで減速すると、サンプルは、毛管作用によりサイフォニングを開始する。電極チャンバ206の右側に配置された廃棄チャンバ207(チャンバE)に液体が移動できるように、ディスクの角周波数を増加させる。ついで、ディスクを、30Hzの周波数に設定する。これが、洗浄工程マイクロチャネル内に配置された溶解性フィルム(DF)タブを電極チャンバ206(チャンバD)内へと破裂させることによって、洗浄工程(チャンバB)をトリガし、廃棄チャンバへと直ちに移すことができる。ここで、スピン速度を、10Hzに下げる。洗浄バッファーは、廃棄物チャンバDFタブを破裂させることになる廃棄チャンバ207の第2のセクションに溢れ出す。これにより、下部チャネルの空気圧が低下し、DFタブを破裂可能な状態にする。ついで、装置を30Hzの周波数で回転させ、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)(チャンバC)を電極チャンバ206(チャンバD)内へと導く。そこでPBSはさらなる検査目的のために留まることになる。装置(ディスク)を、スピンスタンド機構から取り外し、ついで、検出のためにポテンシオスタットに取り付ける。この工程は、スピンスタンドに組み込むことができる。
【0109】
図7A~7Dに、本教示に係るバイナリ応答装置200の別の例を示す。参照符号200がこのバイナリ応答装置を指すのに使用されているが、
図5Aの装置とは異なる装置である。特に、例えば、
図5Aに示された装置の洗浄チャンバ204および電解質チャンバ205と比較して、洗浄液チャンバ604および電解質溶液チャンバ605の位置に違いがある。本教示に係る方法の洗浄工程および電解質工程は、スピン速度により制御する。これについては、
図7Dを参照して以下でさらに検討する。
図7Bを参照すると、
図5Aに示された装置と同じ構成要素を示すために、同じ参照符号を使用している。
【0110】
図7A~7Cに示された装置の設計は、ソリッドワークス・プレミアム(SolidWorks Premium)(2015年版)を利用して行う。設計の目的で、モデルを、装置における9つの2Dレイヤーの抽出を容易にするために、3Dアセンブリモードで作成した。個々のレイヤーを、.DXFファイルとして保存し、それぞれを、2次コンピュータ支援設計(CAD)ソフトウェアであるAutoCAD内で変更する。AutoCADは、レイヤーのさらなる設計のためのさらなる設計オプションを提供する。抽出された2D.DXFファイルは一連のポリライン構造から構成される。これらのポリライン構造は、製造を容易にするためにソフトウェア内のPEDITオプションを使用して結合しなければならない。この.DXFファイルを、AutoCAD R12/LT2 DXF(.DXF)ファイルとして再保存する。
【0111】
図7Aに、
図7Bの装置の展開図を示す。各層は、装置の動作のための特定の機能を有する。
【0112】
装置の第1の層231は、装置の下層にサンプルおよび試薬を装填するための入口点として機能する孔のアレイを含む、PMMAから構成される。また、これらの孔は、システム全体にわたる流体の流れを確実にするための通気機構としても使用される。
【0113】
この装置の第2の層232は、特定のリザーバ間の液体の経路指定に必要な一連のマイクロチャネルを含む。また、これらのマイクロチャネルは、流れ制御の手段としても機能する。この場合、チャネルは、空気チャンバおよび加圧チャンバに接続される。マイクロチャネルの高さは、感圧接着剤(PSA)によりもたらされる。
【0114】
この装置の第3の層233は、サンプル、試薬、および廃棄物の貯蔵に必要とされる一連のリザーバを有する2mmのPMMAから構成される。また、この層は、使用される液体の体積に必要とされる深さを装置に与える。
【0115】
第4の層234は、第2のPSA層であり、溶解性フィルム(DF)タブの位置に対する液体の経路指定が行われると当該溶解性フィルム(DF)タブへのアクセスを可能にする、アクセスポイントを含む。また、この層は、DFタブに望まれる破裂周波数の制御を支援するために、空気循環および空気圧縮に必要な空気通路も含む。
【0116】
第5の層235は、層4に対して反転されている。この場合、唯一の違いは、DFタブの配置および固定のためのセクションにある。
【0117】
この装置の第6の層236は、第3のPMMA層であり、サンプル、試薬、および廃棄物の貯蔵のためのリザーバを含む。起動されると、この層は、マイクロチャネルからDFタブを通って、下部チャネルに向かって移動する液体のための通路を形成する。
【0118】
第7の層237は、試薬貯蔵チャンバから検出チャンバ、最後に、廃棄チャンバへの液体の移動のためのマイクロチャネルを含む。
【0119】
この装置の第8の層238は、PSA層であり、電極の機能化された領域のみを露出させ、一方で、装置内のインピーダンス検出に不可欠である対電極および基準電極の上部も露出させる。
【0120】
この装置の第9の層239は、装置の最終セクションであり、3組の5電極構成を含む。これらの機能化された電極は、病原体の捕捉サイトおよびインピーダンス検出のためのサイトの両方として機能する。
【0121】
装置200の一例の概要を
図7Bに示す。
図7Bは、検査サイト202の各個々の構成要素を示す。
図7Bはまた、細菌の捕捉および検出に必要とされる機能化された電極201の位置を示す。
【0122】
この例示的な構成におけるバイナリ応答ディスク200は、3つの別個の検査サイト202を含む。これらの構造は、検査中に同様の応答を示すように三重円形パターンとなっている。装置200には、流体封じ込めのために5つの主リザーバセクションが仕切られている。各サイトは、サンプルチャンバ203、検出チャンバ206、洗浄液チャンバ604、電解質溶液チャンバ605、および廃棄物リザーバ207を含む。
【0123】
図7Cに、バイナリ応答装置200内に含まれる個々の検査サイトの概要を示し、検査サイト202内に存在する機構の自動化に必要な個々の構成要素を示す。この装置の第9の層239上に配置された5つの金電極構成は、下記のとおりである。
・基準電極212
・グラム陽性電極201
・グラム陰性電極201
・真菌/酵母電極201
・対電極213
【0124】
全ての状況における配置が次のとおり、(左)基準電極、(中央)作用電極、および(右)対電極である限り、抗体を任意の順序で配置できることを理解されたい。
【0125】
ベント214は、サンプルおよび試薬の装填を容易にしつつ、装置内の空気の置換を可能にして各流体成分の流れを容易にするよう、各リザーバセクションの上部に配置される。この通気システムにより、サンプルチャンバ203、洗浄液チャンバ604、および電解質溶液チャンバ605へのサンプルの装填が容易となる。
【0126】
図7Aおよび7Cを参照すると、この装置の第3の層233上に配置されるマイクロチャネル208は、サンプルチャンバ203を検出チャンバ206に接続し、一定の幅および深さを有する。この装置の第7の層237上に配置される第2のマイクロチャネル209は、検出チャンバ206を廃棄チャンバ207に接続する。チャネル209は、新鮮な全血サンプルおよびバッファー中のサンプルのために、一定の幅および変化のある深さを有する。
【0127】
DF(溶解性フィルム)タブ210は、それらの対応するリザーバ(またはチャンバ)の下に配置される。これらのタブは、装置200の第5の層235上に配置され、第7の層237上に見られるチャネル211の上方に位置する。チャネル211は、対応するDFタブが作動されると、リザーバ604および605からチャンバ206への液体の完全な移動を可能にする。
【0128】
図7Dは、本教示に係る微少流体装置を使用して分析物を捕捉し検出する動作を示す。
図7Cおよび
図7Dを参照して、全血サンプルを、ベント214を介してサンプルチャンバ203に直接装填する。洗浄液および電解質溶液は、チャンバ604および605それぞれに予め装填されている。
図7D(iii)は、サンプルチャンバ203から検出チャンバ206への全血サンプルの流れを示す。スピン周波数が反時計回りの動きでシステムに印加され、外向きにかかる遠心力により、サンプルがマイクロチャネル208に通される。PMMAサンプルリザーバの疎水性および親水性チャネル208により、検出チャンバ206内への外向きの流れが促進される。検出チャンバに入るサンプルの粘性により、検出電極配置212、201、213上でサンプルが蓄積可能となる。検出チャンバ206内でのサンプルの素早い蓄積と並行して、廃棄チャンバ207内へと移されるサンプルは、1つのゆっくりとした連続的な流れとなる。
【0129】
図7Dに、スピン周波数下での全血サンプルの完全な移動を示す。これが達成されると、
図7D(v)に示されるように、システムの角速度ωが大きくなる。ωの増大により、洗浄液チャンバ604から液体が押し出されて、DF(溶解性フィルム)タブの露出した上部セクションに接続するチャネルに入る。湿潤すると、DFタブは、破裂可能な状態になり、20~30秒で溶解することになる。DFタブの位置決めは破裂周波数の最適化において極めて重要であり、この場合、径方向の位置決め、周囲の空気体積サイズ、およびより短いチャネル長を考慮しなければならない、とされている。
【0130】
洗浄液は、
図7D(vi)に示されるように、一定のスピン周波数で、下部チャネルを介してチャンバ604から検出チャンバ206に移される。この溶液は、検出チャンバ内に見出される電極を洗浄し、捕捉されなかった粒子および残留サンプル成分を除去する。加えられた遠心力は、
図7D(vii)に示されるように、全ての流体を廃棄チャンバ207に完全に移し、廃棄チャンバ内の液体レベルは臨界体積に達し、下部廃棄物チャネル209を遮断する。
【0131】
図7D(viii)は、システムにおける角速度ωの最終増分を示す。より高い周波数により、システム内の第2のDFタブ210がトリガされる。一旦作動すると、電解質溶液は、
図7D(ix)に示されるように、下部チャネル211を介して、検出チャンバ206に直接流入する。
図7D(x)は、サンプル検査の最終段階を示す。ここで、電解質溶液は、最終段階分析のために検出チャンバ内に留まる。電極の外部セクションは、分析物のインピーダンス検出のためのポテンシオスタットに接続される。
【0132】
6.多重装置:タイプA
本明細書において先に記載された装置に対する変形例において、異なる分析物により遮断され得る複数のチャンバを含む検出システムを提供できる。このような配置は、異なる分析物を選択的に標的とするように検出システムの異なる領域を表面処理することにより、実現できる。このようにして、ディスク上の第1の所定の箇所は、第1のセットの分析物により遮断されるが第2のセットによっては遮断されない複数のチャンバを含むことになる。これに対応して、ディスク上の異なる所定の箇所は、第1のセットによってではなく第2のセットの分析物によって、遮断されることになる。このような装置は多重装置300と考えることができ、
図8および
図9に例が示される。
【0133】
これらの例では、装置300は、1つの検査領域301のみから構成される。この装置は、4つの別個の電極インキュベーションチャンバ302からなる。各インキュベーションチャンバ302は、特異的捕捉抗体により機能化される。このような多重装置300は、有利には、例えば上記されたバイナリ応答型装置(グラム陽性、グラム陰性、または酵母判定)からの細菌診断等の、初期診断に続けて使用される。多重装置により提供される識別を使用することにより、グラム陽性病原体含有サンプルまたはグラム陰性病原体含有サンプルのいずれかについての細菌亜種の具体的情報を特定することができる。
【0134】
例えば、2mlの全血サンプルを血液チャンバ303に装填する。血液が装填されると、あるスピン速度がかけられる。血液の分離には6~9分かかり得る。準備が整うと、ディスクの回転速度を上げて、血液分離チャンバのDFタブを濡らし、破裂させる。血漿がチャンバのそれぞれを満たし4つの電極インキュベーションチャンバ302を通るゆっくりと安定した流れが可能となるように、スピン速度を下げる。長いマイクロチャネルが、最終電極チャンバを廃棄チャンバ304に接続している。廃棄チャンバへの血漿の流量は、既知の幅のチャネルを使用して制御する。このチャネルのサイズを大きくすると、サンプルの出口流量が多くなる。インキュベーション時間は7~9分の幅で変動する。DFタブが廃棄チャンバ内に配置されている。一旦破裂すると、下部チャネルの空気圧が解放され、洗浄チャンバのDFタブは、ここで破裂可能な状態になる。スピン速度を上げて、電極チャンバの真上に位置する洗浄バッファーリザーバ305を破裂させる。一連の下部チャネルが、洗浄バッファーリザーバ305を電極チャンバ302に連結している。スピン速度を下げると、洗浄バッファーが、各電極チャンバを通って廃棄チャンバ304に流入する。装置を、スピンスタンド機構から取り外し、ついで、検出のためにポテンシオスタットに取り付ける。
【0135】
図9を参照すると、4つのインキュベーションチャンバ302は、検査目的のために下記のように機能化される。
A:作用電極:選択された抗体
B:作用電極:選択された抗体
C:作用電極:選択された抗体
D:作用電極:選択された抗体
【0136】
全ての状況における配置は、次のとおりである。
(左)基準電極、(中央)作用電極および(右)対電極。
【0137】
7.多重段階2装置:タイプB
この例では、多重装置400は、1つの検査領域のみから構成される。例えば、バイナリ応答装置の判断(グラム陽性、グラム陰性、または酵母)からの細菌診断に続けて、本多重装置により、グラム陽性病原体含有サンプルまたはグラム陰性病原体含有サンプルのいずれかについて細菌亜種を特定することができる。
図10を参照すると、この装置400は、14個の別個の電極インキュベーションチャンバ401を含む。14個のインキュベーションチャンバ401それぞれに、ITO-Au-Au電極配置を含む構成が存在する。各インキュベーションチャンバは、特異的捕捉抗体により機能化される。以下の表1に、単一の装置におけるグラム陽性検出の可能性の例のリストを示す。
【表1】
【0138】
当業者であれば、種々のタイプのグラム陽性、グラム陰性、および真菌病原体の捕捉および検出のために装置を修飾できることを理解できる。このようなグラム陽性病原体の例としては、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcusaureus)、CoNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(Coagulase negative Staphylococci))、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)、ストレプトコッカスspp(Streptococcus spp)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、およびエンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)が挙げられる。このようなグラム陰性病原体の例としては、大腸菌(Escherichia coli)、クレブシエラ(ニューモニエ/オキシトカ)(Klebsiella(pneumoniae/oxytoca))、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、エンテロバクター(クロアカ/アエロゲネス)(Enterobacter(cloacae/aerogenes))、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、アシネトバクター・バウマンニー(Acinetobacter baumannii)、およびステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)が挙げられる。真菌病原体の例としては、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、カンジダ・パラプシローシス(Candida parapsilosis)、カンジダ・クルーセイ(Candida krusei)、カンジダ・グラブラータ(Candida glabrate)、およびアスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)が挙げられる。
【0139】
この例では、5mlの全血サンプルを血液分離チャンバ403に装填する。血液が装填されると、あるスピン速度がかけられる。血液の分離には6~9分かかり得る。準備が整うと、ディスクの回転速度を上げて、血液分離チャンバのDFタブを濡らし、破裂させる。血漿がチャンバのそれぞれを満たし14個の電極インキュベーションチャンバを通るゆっくりと安定した流れが可能となるように、スピン速度を下げる。長いマイクロチャネルが、最終電極チャンバを廃棄チャンバに接続している。廃棄チャンバ404への血漿の流量は、既知の幅のチャネルを使用して制御する。このチャネルのサイズを大きくすると、サンプルの出口流量が多くなる。インキュベーション時間は、7~9分の幅で変動する。溶解性フィルム(DF)タブが廃棄チャンバ内に配置されている。一旦破裂すると、下部チャネルの空気圧が解放され、洗浄チャンバのDFタブは、ここで破裂可能な状態になる。スピン速度を上げて、電極チャンバの真上に位置する洗浄バッファーリザーバ405を破裂させる。一連の下部チャネルが、洗浄バッファーリザーバ405を電極チャンバ401に連結している。スピン速度を下げると、洗浄バッファーが、各電極チャンバ401を通って廃棄チャンバ404に流入する。装置を、スピンスタンド機構から取り外し、ついで、検出のためにポテンシオスタットに取り付ける。
【0140】
8.細菌の電気化学的検出
本教示に係る装置および方法により、捕捉された病原体が電気化学インピーダンスを使用して検出可能であるため、従来公知のアッセイの7~48時間の培養工程が不要になる。
【0141】
本発明者らは、マイクロキャビティアレイを作製し上面およびキャビティ内部を選択的に機能化する技術を開発し、細胞の捕捉を実証し、電極上の少数の細胞(<10個)を検出するためのインピーダンスベースのプロトコルを開発した。
図11Aおよび
図13を参照すると、本教示に係る(大量生産のための)電着またはフォトリソグラフィにより製造されたマイクロキャビティ500のアレイにより、全血から病原体501が効率的に捕捉され、電気化学インピーダンスを使用して15分以内にそれらが検出される。本明細書に記載され
図11Aを参照する例において、病原体501を捕捉するための抗体502が、PDMSスタンプを使用してアレイの表面上に選択的に固定化される。細胞捕捉により、マイクロキャビティへの開口部503が「塞がれ」または遮断され、従来の平面と比較して、インピーダンスの予想外に大きな変化がもたらされる。低い電解質濃度では、二重層の厚みを大きくして、界面電場が単に抗体捕捉層とだけではなく結合細胞とも相互作用できるようにする。
【0142】
図11Bを参照すると、分析物は、単一の病原体504または病原体のコロニー505を含むことができ、それにより、キャビティの直径および分析物のサイズに応じて、捕捉された分析物が、キャビティ503の内側を「塞ぐ」か、またはキャビティの開口部を横切って固定化されることによってキャビティへの開口部を遮断するかのいずれかにより、キャビティへの開口部を「塞ぐ」かまたは遮断する。
【0143】
病原体は、そのサイズが1~3ミクロンの範囲であり得、任意の所定の流体中に単体の細胞(1~3ミクロンのサイズ)およびコロニー(2個以上/凝集細胞、3~10ミクロンのサイズ)として存在できるため、2ミクロンのキャビティが病原体捕捉に最適なサイズであると判断されている。単体の細胞はキャビティ内を「塞ぐ」傾向があり、一方、2ミクロンのキャビティ直径より大きいより大きなコロニー/凝集体は、キャビティを横切ってキャビティを「遮断する」。
【0144】
本教示に係る装置は、希釈リン酸緩衝生理食塩水の存在下で非ファラデーインピーダンスを測定することにより、病原体を検出する。非常に効率的な抗体捕捉層および希釈電解質溶液中でのインピーダンスに基づく検出を使用することにより、二重層の厚みを最大にし、細胞が捕捉された場合に観察されるインピーダンス変化を大きくし、検出限界を下げる。電気化学インピーダンスでは、ナイキストプロットは、虚部(Z’’)および実部(Z’)のインピーダンスからなり、液相抵抗ならびに抗体層または病原体捕捉に関連する抵抗の変化を分離するように適合され得る。
図12を参照されたい。インピーダンス応答を、ファラデーケージ内で0.01Hz~100kHzの周波数範囲により、DPBSの溶液中で測定して細菌を検出する。
図14に、病原体捕捉後のインピーダンスの顕著な変化を実証するナイキストプロット(上側)およびボードプロット(下側)を示す。
【0145】
ここで説明したものは、複数のチャンバが選択的に遮断されて、標的分析物の存在またはその他を示す装置の応答特性を変化させ得る、微少流体ディスクの2つの例である。第1の態様では、応答特性は、特定の標的分析物の存在またはその他の初期概要をユーザに提供するバイナリ応答特性である。第2の態様では、応答特性は、特定の種類の分析物の存在に対して、より直接的に調整できる。このようにして、この装置は、分析物のサブタイプに関するより多くの具体的すなわち詳細な情報を与えることができる。したがって、特定のディスクを、属の種類の決定に用いることができ、さらなるディスクを、属を決定した属のサブタイプの分析に用いることができる。
【0146】
本教示に係る微少流体装置により、分析物の超高感度で、直接的な(例えば血液培養等による標的の増幅なし)検出が可能となる。このアプローチは、意思決定に直接影響を及ぼす解釈容易な情報を迅速に提供することにより、ポイント・オブ・ユースに近い用途にとって魅力的である。
【0147】
本教示に係るバイナリ応答装置を、血液培養サンプル中のグラム陽性、グラム陰性、真菌種、およびそれらの混合物の存在を検出するのに使用した。この装置によりグラム陽性、グラム陰性、または真菌種であると正しく特定された病原体としては、例えば、カプノサイトファーガ・ギンギヴァリス(Capnocytophaga gingivalis)、スタフィロコッカス・エピデルミス(Staphylococcus epidermis)、大腸菌(E.coli)、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)、ストレプトコッカス・ミティス・オラリス(Streptococcus mitis oralis)、エンテロコッカス・フェカリウム(Enterococcus faecalium)、クロストリジウム綱(Clostridia)、グラム陰性エンテロコッカス・フェカーリス(gram negative with Enterococcus faecalis)、パエニバチルス・パブリ(Paenibacillus pabuli)、およびスタフィロコッカス・ヘモリティカス(Staphlococci haemolyticus)がある。本明細書に記載された装置によれば、15分以内に、このような病原体の検出が可能である。
【0148】
この装置は、単一の微少流体サンプル・ツー・アンサー装置内での多数の異なる分析物の多重化された検出が可能である。
【0149】
この装置によれば、標的ではなくシグナルを増幅するため、短い分析時間を通して健康または環境の脅威の迅速な評価が可能である。
【0150】
さらに、記載された微少流体装置により、疾患段階および予後の正確な評価が行われる。検出表面のサイズ(より少ないキャビティ)を調整して、溶液中の分析物濃度が超低濃度(<pM)の場合でさえも検出表面の同じ割合が分析物により覆われるようにすることによって(S/N比の重要な決定因子)、広いダイナミックレンジが得られるからである。
【0151】
この装置は、堅牢で低コストの装置であるという点で有利である。この装置は、低電力、単純なエレクトロニクス、および単純な電気化学または光学変換法を利用する。これらの特徴によれば、血中グルコースモニターに使用されるものと同様の技術を使用して、読み取り機の低コストの製造、維持、および修理が可能となる。
【0152】
この装置のさらなる利点は、試薬が装置内に保持され、それらの放出が適切な時点でトリガされる「サンプル・ツー・アンサー装置」を提供することである。このため、サンプル自体以外に追加の試薬を添加する必要がなく、上記検討されたように、低分析物濃度を検出する際の特別の課題である作業者のエラーや汚染が最小限に抑えられる。
【0153】
本明細書で使用する「含む(compriseまたはcomprising)」という用語は、述べられた特徴、整数値、工程または構成要素の存在を特定するためのものであるが、1つ又は複数の他の特徴、整数値、工程、構成要素、またはそれらの群の存在または追加を排除するものではない。