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特許7202763Nd-Fe-B系永久磁性体表面へのセラミック前駆体溶液吹き付け装置、及びNd-Fe-B系永久磁性体表面へのセラミック層形成方法。
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  • 特許-Nd-Fe-B系永久磁性体表面へのセラミック前駆体溶液吹き付け装置、及びNd-Fe-B系永久磁性体表面へのセラミック層形成方法。 図1
  • 特許-Nd-Fe-B系永久磁性体表面へのセラミック前駆体溶液吹き付け装置、及びNd-Fe-B系永久磁性体表面へのセラミック層形成方法。 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】Nd-Fe-B系永久磁性体表面へのセラミック前駆体溶液吹き付け装置、及びNd-Fe-B系永久磁性体表面へのセラミック層形成方法。
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20230104BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20230104BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230104BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20230104BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20230104BHJP
   B05B 13/02 20060101ALI20230104BHJP
   B05B 14/00 20180101ALI20230104BHJP
【FI】
C23C26/00 C
B05D7/14 P
B05D7/24 302Y
B05D7/24 301E
B05D7/24 303E
B05D7/24 303B
B05D3/00 A
B05D3/02
B05D3/00 B
B05B13/02
B05B14/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021135389
(22)【出願日】2021-08-23
(65)【公開番号】P2022044560
(43)【公開日】2022-03-17
【審査請求日】2021-08-23
(31)【優先権主張番号】202010930693.X
(32)【優先日】2020-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】310005618
【氏名又は名称】煙台東星磁性材料株式有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100139033
【弁理士】
【氏名又は名称】日高 賢治
(72)【発明者】
【氏名】王伝申
(72)【発明者】
【氏名】楊昆昆
(72)【発明者】
【氏名】彭衆傑
(72)【発明者】
【氏名】買道寧
(72)【発明者】
【氏名】丁開鴻
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-122861(JP,A)
【文献】国際公開第2011/108704(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0050222(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 26/00
B05D 7/14
B05D 7/24
B05D 3/02
B05D 3/00
B05B 13/02
B05B 14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nd-Fe-B系永久磁性体の表面にセラミック前駆体溶液を吹き付けるための装置であって、
溶液収容タンク、ポンプ、スプレー装置及び磁性体挟持装置を含み、
前記ポンプは第一管路及び第二管路を介して前記溶液収容タンク及び前記スプレー装置にそれぞれ連結され、
前記スプレー装置は前記磁性体挟持装置の上方に位置し、前記スプレー装置と前記磁性体挟持装置との間には空隙が存在し、
前記磁性体挟持装置は第三管路を介して溶液回収タンクに連結され、前記溶液回収タンクは第五管路を介して前記溶液収容タンクに連結され、
前記スプレー装置は溶液噴射ノズルを含み、前記第二管路によって前記ポンプに連結され、
前記磁性体挟持装置は、支持板、2つの上回収溝板及び2つの下回収溝板を含み、2つの前記下回収溝板は前記支持板の上面に平行に設置され、2つの前記下回収溝板の両端上面に、2つの前記上回収溝板が対称に設置され、平面視において2つの前記上回収溝板と2つの前記下回収溝板とで囲まれる空間によって前記Nd-Fe-B系永久磁性体を収容する収容空間が形成される、
ことを特徴とするNd-Fe-B系永久磁性体表面へのセラミック前駆体溶液吹き付け装置。
【請求項2】
請求項1に記載のNd-Fe-B系永久磁性体表面へのセラミック前駆体溶液吹き付け装置を用いた前記Nd-Fe-B系永久磁性体の表面にセラミック層を形成する方法であって、
(ステップa)重量含有量でポリシラザン又は変性ポリシラザン0~50%、セラミックフィラー0~10%、有機溶剤40~96%、接着剤0~10%を多段階で撹拌・混合して均一なスラリー状のセラミック前駆体溶液を作成し、
(ステップb)Nd-Fe-B系永久磁性体を前記収容空間に設置して挟持固定し、
(ステップc)前記セラミック前駆体溶液を、前記ポンプによって前記スプレー装置へ送り、前記スプレー装置によって前記Nd-Fe-B系永久磁性体の表面に前記セラミック前駆体溶液を噴射し、
(ステップd)噴射が完了した後、表面に前記セラミック前駆体溶液がコーティングされた前記Nd-Fe-B系永久磁性体を熱処理し、前記セラミック前駆体溶液を乾燥硬化させてセラミック層を形成する、
ことを特徴とするNd-Fe-B系永久磁性体表面へのセラミック層形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Nd-Fe-B系磁性体の加工分野に属し、特にNd-Fe-B系永久磁性体の表面にセラミック層を形成するための装置及び形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Nd-Fe-B系永久磁性体は、高性能磁性体として新エネルギー乗用車、空調コンプレッサ、風力発電機、ロボット等の分野において必要不可欠な素材である。Nd-Fe-B系永久磁性体は、ネオジム、鉄、ホウ素及び少量の希土類元素等の金属を、冶金設備によって製造されているが、耐食性、耐熱性、耐摩耗性等の面において課題を有している。
【0003】
Nd-Fe-Bには、活性希土類金属であるネオジムが含まれるため、特に高温多湿の環境での耐食性と耐熱性に劣る。一般的にNd-Fe-Bは、化学的腐食(金属表面と接触する物質との間で直接発生する酸化還元反応)及び電気化学的腐食(金属表面とイオン伝導する媒体(水)との間に発生する電気化学的反応)が発生する。乾燥した環境下では磁性体の酸化に問題はないが、高温多湿の環境下では、各相間で電気化学的な電位が相違し且つギャップが大きいことから、ミクロセル腐食が発生し、結晶間で腐食が生じる。
【0004】
Ndの電極電位は最も負(陽極)であり、主相は陰極であることから、大陰極と小陽極を形成する特徴を有する。Ndは電流密度が大きく、格子状に腐食するため、腐食が加速する。Nd金属は化学的に活性であり、多くの構造上の欠陥が存在する。塩化物イオン等の活性イオンが結晶粒界に付着し、結晶粒界で優先的に腐食が発生する。Nd-Fe-Bの優れた特性の一つとして、材質自体の異方性磁場が高いことが挙げられる。最も重要なのは、その構造に依拠した材料の優れた磁気特性が奏されることであるが、高温や腐食の影響を受けることで、Nd-Fe-B系永久磁性体の耐用年数が大幅に短くなり、使用時の安定性や信頼性が低下してしまう欠点があり、Nd-Fe-B系永久磁性体の耐食性、耐熱性、耐摩耗性は、解決する必要のある課題となっている。
【0005】
中国実用新案CN207391536U、及び中国特許CN109652798Aには、Nd-Fe-B系永久磁性体の表面にプラズマ溶射法でAl-TiO複合セラミック層を形成する技術が開示されているが、プラズマ溶射のキャリアガスは高価であり、溶射材料に対する要求も厳しく、プロセスは複雑であり、制御すべきパラメータが多く、コストも高い。
【0006】
また中国特許CN107931062Aには、静電吹付法により、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、アミン系硬化剤、促進剤及び潤滑剤をNd-Fe-B系永久磁性体に吹付け、防食コート層を形成する技術が開示されている。さらに中国特許CN102397835Aには、エポキシ樹脂、成膜剤、請成膜助剤及びナノセラミックで溶液を生成し、コーティング法で防食コート層を形成する技術が開示されているが、いずれも(1)形成されたセラミックコート層は、セラミック成分を含む有機複合コーティングであること、(2)セラミック層のセラミック化が進行しておらず、有機成分を含むことから、耐熱性に劣ると言う課題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】中国実用新案CN207391536U公報
【文献】中国特許CN109652798A公報
【文献】中国特許CN107931062A公報
【文献】中国特許CN102397835A公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術が有する課題を解決するためになされたNd-Fe-B系永久磁性体表面へのセラミック前駆体溶液吹き付け装置、及びNd-Fe-B系永久磁性体表面のセラミック層形成方法であり、耐食性、耐熱性、耐摩耗性に優れたNd-Fe-B系永久磁性体を製造するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本願の第一発明は、Nd-Fe-B系永久磁性体の表面にセラミック前駆体溶液を吹き付けるための装置であって、
溶液収容タンク、ポンプ、スプレー装置及び磁性体挟持装置を含み、
前記ポンプは第一管路及び第二管路を介して前記溶液収容タンク及び前記スプレー装置にそれぞれ連結され、
前記スプレー装置は前記磁性体挟持装置の上方に位置し、前記スプレー装置と前記磁性体挟持装置との間には空隙が存在し、
前記磁性体挟持装置は第三管路を介して溶液回収タンクに連結され、前記溶液回収タンクは第五管路を介して前記溶液収容タンクに連結され、
前記スプレー装置は溶液噴射ノズルを含み、前記第二管路によって前記ポンプに連結され、
前記磁性体挟持装置は、支持板、2つの上回収溝板及び2つの下回収溝板を含み、2つの前記下回収溝板は前記支持板の上面に平行に設置され、2つの前記下回収溝板の両端上面に、2つの前記上回収溝板が対称に設置され、平面視において2つの前記上回収溝板と2つの前記下回収溝板とで囲まれる空間によって前記Nd-Fe-B系永久磁性体を収容する収容空間が形成される、ことを特徴とする。
【0010】
また一実施形態において、前記溶液噴射ノズルには複数の噴射孔を有し、複数の前記噴射孔はマトリクス型に配置される、ことを特徴とする。
【0011】
また一実施形態において、前記スプレー装置は、前記溶液噴射ノズルの面を除く外方周囲が溶液回収カバーで覆われ、前記溶液回収カバーの上部は前記第二管路を貫通して前記スプレー装置の上方側に固定され、前記溶液回収カバーの下端は前記スプレー装置の下端に固定され、前記溶液回収カバーは第四管路を介して前記溶液回収タンクに連結される、ことを特徴とする。
【0012】
上記目的を達成するため、本願の第二発明は、上記したNd-Fe-B系永久磁性体表面へのセラミック前駆体溶液吹き付け装置を用いた前記Nd-Fe-B系永久磁性体の表面にセラミック層を形成する方法であって、
(ステップa)重量含有量でポリシラザン又は変性ポリシラザン0~50%、セラミックフィラー0~10%、有機溶剤40~96%、接着剤0~10%を多段階で撹拌・混合して均一なスラリー状のセラミック前駆体溶液を作成し、
(ステップb)Nd-Fe-B系永久磁性体を前記収容空間に設置して挟持固定し、
(ステップc)前記セラミック前駆体溶液を、前記ポンプによって前記スプレー装置へ送り、前記スプレー装置によって前記Nd-Fe-B系永久磁性体の表面に前記セラミック前駆体溶液を噴射し、
(ステップd)噴射が完了した後、表面に前記セラミック前駆体溶液がコーティングされた前記Nd-Fe-B系永久磁性体を熱処理し、前記セラミック前駆体溶液を乾燥硬化させてセラミック層を形成する、ことを特徴とする。
【0013】
また一実施形態において、前記スプレー装置の噴射ノズルと前記Nd-Fe-B系永久磁性体との距離は5~50mmである、ことを特徴とする。
【0014】
また一実施形態において、前記Nd-Fe-B系永久磁性体は、前記セラミック前駆体溶液を吹き付ける前に、純水、3重量%~5重量%の硝酸溶液、純水の順で洗浄し、超音波で除灰し、99重量%のアルコールを投入して脱水し、ブロー乾燥後に、50~60℃のオーブンを併用して20分間乾燥させた脱脂処理したものである、ことを特徴とする。
【0015】
また一実施形態において、前記Nd-Fe-B系永久磁性体は、正方形及び異形の磁性体を含む、ことを特徴とする。
【0016】
また一実施形態において、前記セラミックフィラーは、低融点ガラス粉、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化タングステン、炭化ジルコニウム、炭化タングステン、炭化ホウ素、炭化ケイ素、炭化チタン、窒化ケイ素、ホウ化ジルコニウム、ホウ化チタン、希土類酸化物の一つ又は複数を含む、ことを特徴とする。
【0017】
また一実施形態において、前記有機溶剤は、エステル溶剤、エーテル溶剤、脂環式炭化水素溶剤及び脂肪族炭化水素溶剤のいずれかである、ことを特徴とする。
【0018】
また一実施形態において、前記接着剤は、エポキシ樹脂、アクリル酸、有機シリコン、ポリウレタン、アクリル酸及び硬化接着剤の一つ又は複数を混合してなる、ことを特徴とする。
【0019】
また一実施形態において、前記セラミック前駆体溶液を乾燥させる温度は50~400℃、処理時間は0.1~1時間であり、セラミック化させる温度は400~750℃、処理時間は0.5~4時間である、ことを特徴とする。
【0020】
また一実施形態において、前記セラミック層の厚さは、5~35μmである、 ことを特徴とする。
【0021】
また一実施形態において、前記(ステップa)~(ステップd)の工程は、前記Nd-Fe-B系永久磁性体のコーティングが必要な各面に順次実施される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本願発明は、Nd-Fe-B系永久磁性体の表面に、セラミック前駆体溶液、具体的にはセラミック化が可能な高分子材料であるポリシラザン又は変性ポリシラザンとセラミック素材(ガラスセラミック材料等)と組み合わせて混合した溶液をNd-Fe-B系永久磁性体の表面に吹き付け、その後、熱処理することでセラミック層を形成するものであり、吹付手段としてのスプレー装置と溶液回収手段を用いることで、セラミック前駆体溶液の利用率を高め、コストを削減できるとともに、熱処理後のセラミック層はNd-Fe-B系永久磁性体表面に強く結合し、かつ厚さも一定であり、耐食性、耐熱性、耐摩耗性に優れたNd-Fe-B系永久磁性体とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本願発明に係るセラミック前駆体溶液吹き付け装置の構造概要を示す図。
図2】セラミック前駆体溶液が吹き付けられた状態のNd-Fe-B系永久磁性体の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本願発明を実施形態と組み合わせて詳細に説明する。下記実施例は、本発明の解釈のみに用いるものであり、本願発明に係る構成を限定するものではない。
【0025】
図1は、本願発明に係るセラミック前駆体溶液吹き付け装置の構造概要を示す図である。図示するように、セラミック前駆体溶液(以下、単に溶液とも言う)吹き付け装置は、溶液収容タンク1、ポンプ2、スプレー装置5及び磁性体挟持装置Aを含み、ポンプ2は第一管路3-1を介して溶液収容タンク1に、また第二管路3―2を介してスプレー装置5に、それぞれ連結されている。
【0026】
スプレー装置5は、磁性体挟持装置Aの上方に位置し、スプレー装置5と磁性体挟持装置Aとの間には空隙(所定の空間)が成形され、磁性体挟持装置Aは第三管路6を介して溶液回収タンク7に連結され、溶液回収タンク7は第五管路13を介して溶液収容タンク1に連結されている。溶液回収タンク7は、磁性体挟持装置A及びスプレー装置5でNd-Fe-B系永久磁性体8に吹き付けられなかった溶液(漏れ出した溶液を含む)を回収して再利用するものである。
【0027】
スプレー装置5は、溶液を噴射する溶液噴射ノズル5-1を含み、第二管路3-2によってポンプ2に連結している。
【0028】
磁性体挟持装置Aは、セラミック前駆体溶液を吹き付けるNd-Fe-B系永久磁性体8を挟持してセットするものであり、アルミニウム製の支持板11、2つの上回収溝板9及び2つの下回収溝板10を含み、2つの下回収溝板10は支持板11の上面に平行に設置され、2つの下回収溝板10の両端上面に上回収溝板9が対称に設置され、平面視において2つの上回収溝板9と2つの下回収溝板10とで囲まれる空間によってNd-Fe-B系永久磁性体8を収容する収容空間が形成されている。
【0029】
溶液噴射ノズル5-1は複数の噴射孔を有し、複数の噴射孔は、図2に示す磁性体挟持装置AにセットされているNd-Fe-B系永久磁性体8に対して、セラミック前駆体溶液を均一に吹き付けるために、マトリクス型に配置されている。
【0030】
スプレー装置5の溶液噴射ノズル面を除く外方周囲は、逆漏斗形の溶液回収カバー4で覆われており、溶液回収カバー4の上部は第二管路3-2を貫通してスプレー装置5の上部に固定され、溶液回収カバー4の下端はスプレー装置5の下端に固定されている。溶液回収カバー4は第四管路12を介して溶液回収タンク7に接続されており、スプレー装置5から飛び散った溶液を溶液回収カバー4で回収するようにしている。
【0031】
図2は、平面視において、2つの上回収溝板9と2つの下回収溝板10とで囲まれる空間にNd-Fe-B系永久磁性体8をセットし、セラミック前駆体溶液が吹き付けられた状態のNd-Fe-B系永久磁性体8の平面図を示している。
【0032】
上回収溝板9と下回収溝板10は、Nd-Fe-B系永久磁性体8の外方周辺に吹き付けられた溶液を回収する機能を有し、第三管路6を介して溶液回収タンク7に接続されている。
【0033】
セラミック前駆体溶液は、重量含有量でポリシラザン又は変性ポリシラザン0~50%、セラミックフィラー0~10%、有機溶剤40~96%、接着剤0~10%を多段階で撹拌・混合して均一なスラリー状としたものであり、Nd-Fe-B系永久磁性体8の表面に噴霧した後、熱処理することで硬化し、セラミック化させるものである。
【0034】
上記セラミックフィラーは、低融点ガラス粉、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化タングステン、炭化ジルコニウム、炭化タングステン、炭化ホウ素、炭化ケイ素、炭化チタン、窒化ケイ素、ホウ化ジルコニウム、ホウ化チタン、希土類酸化物の一つ又は複数であって良い。
【0035】
上記有機溶剤は、エステル溶剤、エーテル溶剤、脂環式炭化水素溶剤及び脂肪族炭化水素溶剤のいずれかであり、上記接着剤は、エポキシ樹脂、アクリル酸、有機シリコン、ポリウレタン、アクリル酸及び硬化接着剤の一つ又は複数を混合したものである。
【0036】
Nd-Fe-B系永久磁性体8に吹き付けられたセラミック前駆体溶液を乾燥させる温度はその成分によって50~400℃、処理時間は0.1~1時間が好ましく、セラミック化させる温度は400~750℃、処理時間は0.5~4時間であることが好ましい。磁性体の表面に形成されるセラミック層の厚さは、5~35μmであること好ましい。
【0037】
また、セラミック層を形成する前のNd-Fe-B系永久磁性体8は、事前に脱脂処理しておくことが好ましく、脱脂処理は、純水、3重量%~5重量%の硝酸溶液、純水の順で洗浄し、超音波で除灰し、99重量%のアルコールを投入して脱水し、ブロー乾燥後に、50~60℃のオーブンを併用して20分間乾燥させるものであるが、これに限らず他の方法であっても良い。
【0038】
また、スプレー装置5の溶液噴射ノズル5-1とNd-Fe-B系永久磁性体8との距離は、処理するNd-Fe-B系永久磁性体8の数量等によっても異なるが、概ね5~50mm程度であることが好ましい。
【0039】
また、Nd-Fe-B系永久磁性体8のセラミック層によるコーティングが必要な各面に対し、セラミック前駆体溶液の吹き付け、熱処理の各工程を実施し、必要な面にセラミック層がコーティングされた所望のNd-Fe-B系永久磁性体を得ることができる。なお、処理対象となるNd-Fe-B系永久磁性体8の形状は、長方形、正方形に限らず、それ以外の異形の磁性体を含む。
【0040】
以下、本願発明に係るセラミック前駆体溶液吹き付け装置、及びセラミック層形成方法を用いて、Nd-Fe-B系永久磁性体表面にセラミック層を形成した具体例(実施例1~4)について説明する。
【0041】
<実施例1>
表面を脱脂処理後のNd-Fe-B系永久磁性体8を用意し、セラミック前駆体溶液吹き付け装置にセットした。
【0042】
実施例1に係るセラミック前駆体溶液の成分は、重量%でポリシラザン30%、接着剤5%、脂質溶剤60%、フィラー5%(低融点ガラス粉末4.5%及びその他成分0.5%)とした。まず接着剤、脂質溶剤を十分に攪拌して均一化して完全に溶解させた後、ポリシラザンを加えて均一に攪拌し、最後にフィラーを添加して混濁したスラリー状のセラミック前駆体溶液を作成した。
【0043】
上記セラミック前駆体溶液を、スプレー装置5でNd-Fe-B系永久磁性体8の一表面に吹き付け、吹付が完了した磁性体を200℃で乾燥した。次に、その他の面にも同様にセラミック前駆体溶液の吹付作業と乾燥作業を順次行い、全ての面の乾燥が完了した後、オーブンで500℃、2時間熱処理した。得られたセラミック層の厚さは、20μmであった。
【0044】
セラミック層でコーティングされたNd-Fe-B系永久磁性体8に対する試験を行ったところ、710時間の中性塩水噴霧試験でも腐食は見られず、150℃で1時間の高温試験での減磁率は0.006%であり、クロスカット試験での引っかき傷は無く、良好な耐食性、耐熱性、耐摩耗性を示した。
【0045】
<実施例2>
表面を脱脂処理後のNd-Fe-B系永久磁性体8を用意し、セラミック前駆体溶液吹き付け装置にセットした。
【0046】
実施例2に係るセラミック前駆体溶液の成分は、重量%でポリシラザン10%、接着剤10%、脂質溶剤30%、エーテル溶剤40%、セラミック化可能フィラー10%(9%低融点ガラス粉末及び1%のその他フィラー)とした。まず接着剤、脂質溶剤及びエーテル溶剤を十分に攪拌して均一化し、完全に溶解させた後、ポリシラザンを加えて均一に攪拌し、最後にセラミック化可能フィラーを添加して混濁したスラリー状のセラミック前駆体溶液を作成した。
【0047】
上記セラミック前駆体溶液を、スプレー装置5でNd-Fe-B系永久磁性体8の一表面に吹き付け、吹付が完了した磁性体を180℃で乾燥した。次に、その他の面にも同様にセラミック前駆体溶液の吹付作業と乾燥作業を順次行い、全ての面の乾燥が完了した後、オーブンで400℃、2時間熱処理した。得られたセラミック層の厚さは、15μmであった。
【0048】
セラミック層でコーティングされたNd-Fe-B系永久磁性体8に対する試験を行ったところ、690時間の中性塩水噴霧試験でも腐食は見られず、150℃で1時間の高温試験での減磁率は0.008%であり、クロスカット試験での引っかき傷は無く、良好な耐食性、耐熱性、耐摩耗性を示した。
【0049】
<実施例3>
表面を脱脂処理後のNd-Fe-B系永久磁性体8を用意し、セラミック前駆体溶液吹き付け装置にセットした。
【0050】
実施例3に係るセラミック前駆体溶液の成分は、重量%でポリシラザン50%、接着剤5%、脂質溶剤39%、セラミック化可能フィラー6%(5%低融点セラミック粉末及び1%のその他フィラー)とした。まず接着剤及び脂質溶剤を十分に攪拌して均一化し、完全に溶解させた後、ポリシラザンを加えて均一に攪拌し、最後にセラミック化可能フィラーを添加して混濁したスラリー状のセラミック前駆体溶液を作成した。
【0051】
上記セラミック前駆体溶液を、スプレー装置5でNd-Fe-B系永久磁性体8の一表面に吹き付け、吹付が完了した磁性体を250℃で乾燥した。次に、その他の面にも同様にセラミック前駆体溶液の吹付作業と乾燥作業を順次行い、全ての面の乾燥が完了した後、オーブンで500℃、3時間熱処理した。得られたセラミック層の厚さは、35μmであった。
【0052】
セラミック層でコーティングされたNd-Fe-B系永久磁性体8に対する試験を行ったところ、750時間の中性塩水噴霧試験でも腐食は見られず、150℃で1時間の高温試験での減磁率は0.005%であり、クロスカット試験での引っかき傷は無く、良好な耐食性、耐熱性、耐摩耗性を示した。
【0053】
実施例4
表面を脱脂処理後のNd-Fe-B系永久磁性体8を用意し、セラミック前駆体溶液吹き付け装置にセットした。
【0054】
実施例4に係るセラミック前駆体溶液の成分は、ポリシラザン50%、脂質溶剤40%、接着剤5%、セラミック化可能フィラー5%(4.5%低融点ガラス粉末及び1%のその他フィラー)とした。まず接着剤及び脂質溶剤を十分に攪拌して均一化し、完全に溶解させた後、ポリシラザン及びセラミック化可能フィラーを加えて均一に攪拌し、均一な混濁したスラリー状のセラミック前駆体溶液を作成した。
【0055】
上記セラミック前駆体溶液を、スプレー装置5でNd-Fe-B系永久磁性体8の一表面に吹き付け、吹付が完了した磁性体を200℃で乾燥した。次に、その他の面にも同様にセラミック前駆体溶液の吹付作業と乾燥作業を順次行い、全ての面の乾燥が完了した後、オーブンで500℃、2時間熱処理した。得られたセラミック層の厚さは、20μmであった。
【0056】
セラミック層でコーティングされたNd-Fe-B系永久磁性体8に対する試験を行ったところ、650時間の中性塩水噴霧試験でも腐食は見られず、150℃で1時間の高温試験での減磁率は0.004%であり、クロスカット試験での引っかき傷は無く、良好な耐食性、耐熱性、耐摩耗性を示した。
【0057】
以上のとおり、本発明に係るNd-Fe-B系永久磁性体表面へのセラミック前駆体溶液吹き付け装置、及びNd-Fe-B系永久磁性体表面のセラミック層形成方法によれば、セラミック前駆体溶液の利用効率は90%以上と大幅に高まりセラミック前駆体溶液の損失量を減少させ、かつコーティングされたセラミック層の厚さは均一であり、磁性体の耐食性、耐熱性、耐摩耗性を向上させることができる。
【0058】
上記の実施例は、本発明の具体的な実施方法を説明するためにのみ使用されるものであり、本発明を限定するものではない。本発明の内容及びロジックに基づいて行われるいかなる修正、置換等も本発明の保護範囲内に属する。
【符号の説明】
【0059】
1 溶液収容タンク
2 ポンプ
3―1 第一管路
3-2 第二管路
4 溶液回収カバー
5 スプレー装置
5-1 溶液噴射ノズル
6 第三管路
7 溶液回収タンク
8 Nd-Fe-B系永久磁性体
9 上回収溝板
10 下回収溝板
11 支持板
12 第四管路
13 第五管路
図1
図2