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特許7202835制動制御装置、横滑り抑制装置、制動制御方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】制動制御装置、横滑り抑制装置、制動制御方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20230104BHJP
   B60T 8/1755 20060101ALI20230104BHJP
【FI】
B60T7/12 F
B60T8/1755 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018189998
(22)【出願日】2018-10-05
(65)【公開番号】P2020059316
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】波野 淳
【審査官】前原 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-052293(JP,A)
【文献】再公表特許第2012/147187(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12 - 8/1769
B60T 8/32 - 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(1)の各車輪(21~24)に、制動力付与装置(31~34、35、60)により付与する制動力を制御する制動制御装置(51)であって、
走行中の前記車両(1)の車両情報及び車外情報に基づいて前記制動力付与装置(31~34、35、60)により付与する制動力を制御する制御部(51a)を備え、
前記制御部(51a)は、前記車外情報として、前記車両(1)よりも走行方向下流側の道路の領域の直線性を示す指標値を取得し、前記直線性の指標値に応じて、各車輪(21~24)への制動力の付与態様を異ならせ
前記車両情報に基づいて走行中の前記車両(1)の状態についてアンダーステア傾向であると判定した場合に、各車輪(21~24)のうち、前記車両(1)の旋回方向における内側の車輪(21~24)に付与する制動力を旋回方向の外側の車輪(21~24)に付与する制動力よりも強める処理を実行し、且つ、前記処理にて、旋回方向の内側の車輪(21~24)に付与する制動力を旋回方向の外側の車輪(21~24)に付与する制動力よりも強くする範囲内で、前記直線性の度合いが高くなるほど、旋回方向の内側の車輪(21~24)に付与する制動力を弱める、
制動制御装置(51)。
【請求項2】
車両(1)の各車輪(21~24)に、制動力付与装置(31~34、35、60)により付与する制動力を制御する制動制御装置(51)であって、
走行中の前記車両(1)の車両情報及び車外情報に基づいて前記制動力付与装置(31~34、35、60)により付与する制動力を制御する制御部(51a)を備え、
前記制御部(51a)は、前記車外情報として、前記車両(1)よりも走行方向下流側の道路の領域の直線性を示す指標値を取得し、前記直線性の指標値に応じて、各車輪(21~24)への制動力の付与態様を異ならせ
前記車両情報に基づいて走行中の前記車両(1)の状態についてアンダーステア傾向であると判定した場合に、各車輪(21~24)のうち、前記車両(1)の旋回方向における内側の車輪(21~24)に付与する制動力を旋回方向の外側の車輪(21~24)に付与する制動力よりも強める処理を実行し、且つ、前記直線性の度合いが高くなるほど、アンダーステア傾向であると判定してから前記処理を開始するまでの時間を長くする、
制動制御装置(51)。
【請求項3】
前記処理にて、アンダーステア傾向が強くなるほど、前記車両(1)の旋回方向における内側の車輪(21~25)に付与する制動力を強める、請求項又はに記載の制動制御装置(51)。
【請求項4】
車両(1)の各車輪(21~24)に、制動力付与装置(31~34、35、60)により付与する制動力を制御する制動制御装置(51)であって、
走行中の前記車両(1)の車両情報及び車外情報に基づいて前記制動力付与装置(31~34、35、60)により付与する制動力を制御する制御部(51a)を備え、
前記制御部(51a)は、前記車外情報として、前記車両(1)よりも走行方向下流側の道路の領域の直線性を示す指標値を取得し、前記直線性の指標値に応じて、各車輪(21~24)への制動力の付与態様を異ならせ
記車両情報に基づいて走行中の前記車両(1)の状態についてオーバーステア傾向であると判定した場合に、各車輪(21~24)のうち、前記車両(1)の旋回方向における外側の車輪(21~24)に付与する制動力を旋回方向の内側の車輪(21~24)に付与する制動力よりも強める処理を実行し、且つ、前記処理にて、直線性の度合いが高くなるほど、旋回方向の外側の車輪(21~24)に付与する制動力を強める、
制動制御装置(51)。
【請求項5】
車両(1)の各車輪(21~24)に、制動力付与装置(31~34、35、60)により付与する制動力を制御する制動制御装置(51)であって、
走行中の前記車両(1)の車両情報及び車外情報に基づいて前記制動力付与装置(31~34、35、60)により付与する制動力を制御する制御部(51a)を備え、
前記制御部(51a)は、前記車外情報として、前記車両(1)よりも走行方向下流側の道路の領域の直線性を示す指標値を取得し、前記直線性の指標値に応じて、各車輪(21~24)への制動力の付与態様を異ならせ
前記車両情報に基づいて走行中の前記車両(1)の状態についてオーバーステア傾向であると判定した場合に、各車輪(21~24)のうち、前記車両(1)の旋回方向における外側の車輪(21~24)に付与する制動力を旋回方向の内側の車輪(21~24)に付与する制動力よりも強める処理を実行し、且つ、前記直線性の度合いが高くなるほど、オーバーステア傾向であると判定してから前記処理を開始するまでの時間を短くする、
制動制御装置(51)。
【請求項6】
前記処理にて、オーバーステア傾向が強くなるほど、前記車両(1)の旋回方向における外側の車輪(21~24)に付与する制動力を強める、請求項又はに記載の制動制御装置(51)。
【請求項7】
車両(1)の各車輪(21~24)に制動力を付与する制動力付与装置(31~34、35、60)の駆動を制御する制動制御装置(51)を有し、前記制動制御装置(51)によって各車輪(21~24)に付与する制動力を制御して前記車両(1)の横滑りを抑制する横滑り抑制装置(50)であって、前記制動制御装置(51)として、請求項1乃至の何れか一項に記載の制動制御装置(51)を用いる横滑り抑制装置(50)。
【請求項8】
車両(1)の各車輪(21~24)に、制動力付与装置(31~34、35、60)により付与する制動力を制御するためにコンピュータ(51a)によって実行される制動制御方法であって、
前記車両(1)の車両情報を取得するステップと、
道路における前記車両よりも走行方向下流側の領域の直線性の指標値を取得するステップと、
前記車両情報、及び前記直線性の指標値に基づいて各車輪(21~24)に付与する制動力を制御し、且つ前記直線性の指標値に応じて、各車輪(21~24)への制動力の付与態様を異ならせるステップと、を含み、
前記制動力の付与態様を異ならせるステップは、前記車両情報に基づいて走行中の前記車両(1)の状態についてアンダーステア傾向であると判定した場合に、各車輪(21~24)のうち、前記車両(1)の旋回方向における内側の車輪(21~24)に付与する制動力を旋回方向の外側の車輪(21~24)に付与する制動力よりも強める処理を実行し、且つ、前記処理にて、旋回方向の内側の車輪(21~24)に付与する制動力を旋回方向の外側の車輪(21~24)に付与する制動力よりも強くする範囲内で、前記直線性の度合いが高くなるほど、旋回方向の内側の車輪(21~24)に付与する制動力を弱める、
制動制御方法。
【請求項9】
車両(1)の各車輪(21~24)に、制動力付与装置(31~34、35、60)により付与する制動力を制御するためにコンピュータ(51a)によって実行される制動制御方法であって、
前記車両(1)の車両情報を取得するステップと、
道路における前記車両よりも走行方向下流側の領域の直線性の指標値を取得するステップと、
前記車両情報、及び前記直線性の指標値に基づいて各車輪(21~24)に付与する制動力を制御し、且つ前記直線性の指標値に応じて、各車輪(21~24)への制動力の付与態様を異ならせるステップと、を含み、
前記制動力の付与態様を異ならせるステップは、前記車両情報に基づいて走行中の前記車両(1)の状態についてアンダーステア傾向であると判定した場合に、各車輪(21~24)のうち、前記車両(1)の旋回方向における内側の車輪(21~24)に付与する制動力を旋回方向の外側の車輪(21~24)に付与する制動力よりも強める処理を実行し、且つ、前記直線性の度合いが高くなるほど、アンダーステア傾向であると判定してから前記処理を開始するまでの時間を長くする、
制動制御方法。
【請求項10】
前記処理にて、オーバーステア傾向が強くなるほど、前記車両(1)の旋回方向における外側の車輪(21~24)に付与する制動力を強める、請求項8又は9に記載の制動制御方法。
【請求項11】
コンピュータ(51a)に用いられるプログラムであって、
請求項8~10のいずれか一項に記載の制動制御方法の各ステップをコンピュータ(51a)に実行させるプログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動制御装置、横滑り抑制装置、制動制御方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の制動制御装置として、走行中の車両の車両情報を取得した結果と、車外情報を取得した結果とに基づいて、車両の各車輪に制動力を付与する制動力付与装置の駆動を制御するものが知られている。例えば、特許文献1に記載の制動制御装置は、車両情報として、車輪速、操舵角、ヨーレイト、横加速度などを取得する。また、特許文献1に記載の制動制御装置は、車外情報として、これから走行していく道路上における障害物の有無の情報を、車両に搭載されたステレオ画像処理装置から取得する。そして、特許文献1に記載の制動制御装置は、それらの情報に基づいて危険ポテンシャルを算定し、算定結果に基づいて車両の制動力付与装置たるブレーキシステムの駆動を制御する。
【0003】
特許文献1によれば、かかる構成の制動制御装置は、通常運転時のドライバーに円滑性に欠ける走行を感じさせることなく、緊急回避操舵時には良好に緊急回避をアシストすることができるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-71399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この制動制御装置においては、車両の走行に伴って刻々と変化していく走行方向下流側における道路領域の形状のそれぞれに適した内容で各車輪の制動を制御することができないという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、車両(1)の各車輪(21~24)に、制動力付与装置(31~34、35、60)により付与する制動力を制御する制動制御装置(51)であって、 走行中の前記車両(1)の車両情報及び車外情報に基づいて前記制動力付与装置(31~34、35、60)により付与する制動力を制御する制御部(51a)を備え、 前記制御部(51a)は、前記車外情報として、前記車両(1)よりも走行方向下流側の道路の領域の直線性を示す指標値を取得し、前記直線性の指標値に応じて、各車輪(21~24)への制動力の付与態様を異ならせ
前記車両情報に基づいて走行中の前記車両(1)の状態についてアンダーステア傾向であると判定した場合に、各車輪(21~24)のうち、前記車両(1)の旋回方向における内側の車輪(21~24)に付与する制動力を旋回方向の外側の車輪(21~24)に付与する制動力よりも強める処理を実行し、且つ、前記処理にて、旋回方向の内側の車輪(21~24)に付与する制動力を旋回方向の外側の車輪(21~24)に付与する制動力よりも強くする範囲内で、前記直線性の度合いが高くなるほど、旋回方向の内側の車輪(21~24)に付与する制動力を弱める、
制動制御装置(51)が提供される。
また、本発明によれば、車両(1)の各車輪(21~24)に、制動力付与装置(31~34、35、60)により付与する制動力を制御する制動制御装置(51)であって、
走行中の前記車両(1)の車両情報及び車外情報に基づいて前記制動力付与装置(31~34、35、60)により付与する制動力を制御する制御部(51a)を備え、
前記制御部(51a)は、前記車外情報として、前記車両(1)よりも走行方向下流側の道路の領域の直線性を示す指標値を取得し、前記直線性の指標値に応じて、各車輪(21~24)への制動力の付与態様を異ならせ、
前記車両情報に基づいて走行中の前記車両(1)の状態についてアンダーステア傾向であると判定した場合に、各車輪(21~24)のうち、前記車両(1)の旋回方向における内側の車輪(21~24)に付与する制動力を旋回方向の外側の車輪(21~24)に付与する制動力よりも強める処理を実行し、且つ、前記直線性の度合いが高くなるほど、アンダーステア傾向であると判定してから前記処理を開始するまでの時間を長くする、
制動制御装置(51)が提供される。
また、本発明によれば、車両(1)の各車輪(21~24)に、制動力付与装置(31~34、35、60)により付与する制動力を制御する制動制御装置(51)であって、
走行中の前記車両(1)の車両情報及び車外情報に基づいて前記制動力付与装置(31~34、35、60)により付与する制動力を制御する制御部(51a)を備え、
前記制御部(51a)は、前記車外情報として、前記車両(1)よりも走行方向下流側の道路の領域の直線性を示す指標値を取得し、前記直線性の指標値に応じて、各車輪(21~24)への制動力の付与態様を異ならせ、
前記車両情報に基づいて走行中の前記車両(1)の状態についてオーバーステア傾向であると判定した場合に、各車輪(21~24)のうち、前記車両(1)の旋回方向における外側の車輪(21~24)に付与する制動力を旋回方向の内側の車輪(21~24)に付与する制動力よりも強める処理を実行し、且つ、前記処理にて、直線性の度合いが高くなるほど、旋回方向の外側の車輪(21~24)に付与する制動力を強める、
制動制御装置(51)が提供される。
また、本発明によれば、車両(1)の各車輪(21~24)に、制動力付与装置(31~34、35、60)により付与する制動力を制御する制動制御装置(51)であって、
走行中の前記車両(1)の車両情報及び車外情報に基づいて前記制動力付与装置(31~34、35、60)により付与する制動力を制御する制御部(51a)を備え、
前記制御部(51a)は、前記車外情報として、前記車両(1)よりも走行方向下流側の道路の領域の直線性を示す指標値を取得し、前記直線性の指標値に応じて、各車輪(21~24)への制動力の付与態様を異ならせ、
前記車両情報に基づいて走行中の前記車両(1)の状態についてオーバーステア傾向であると判定した場合に、各車輪(21~24)のうち、前記車両(1)の旋回方向における外側の車輪(21~24)に付与する制動力を旋回方向の内側の車輪(21~24)に付与する制動力よりも強める処理を実行し、且つ、前記直線性の度合いが高くなるほど、オーバーステア傾向であると判定してから前記処理を開始するまでの時間を短くする、
制動制御装置(51)が提供される。
【0007】
本発明によれば、車両(1)の各車輪(21~24)に制動力を付与する制動力付与装置(31~34、35、60)の駆動を制御する制動制御装置(51)を有し、前記制動制御装置(51)によって各車輪(21~24)に付与する制動力を制御して前記車両(1)の横滑りを抑制する横滑り抑制装置(50)であって、前記制動制御装置(51)として、請求項1乃至5の何れか一項に記載の制動制御装置(51)を用いる横滑り抑制装置(50)が提供される。
【0008】
本発明によれば、車両(1)の各車輪(21~24)に、制動力付与装置(31~34、35、60)により付与する制動力を制御するためにコンピュータ(51a)によって実行される制動制御方法であって、
前記車両(1)の車両情報を取得するステップと、
道路における前記車両よりも走行方向下流側の領域の直線性の指標値を取得するステップと、
前記車両情報、及び前記直線性の指標値に基づいて各車輪(21~24)に付与する制動力を制御し、且つ前記直線性の指標値に応じて、各車輪(21~24)への制動力の付与態様を異ならせるステップと、を含み、
前記制動力の付与態様を異ならせるステップは、前記車両情報に基づいて走行中の前記車両(1)の状態についてアンダーステア傾向であると判定した場合に、各車輪(21~24)のうち、前記車両(1)の旋回方向における内側の車輪(21~24)に付与する制動力を旋回方向の外側の車輪(21~24)に付与する制動力よりも強める処理を実行し、且つ、前記処理にて、旋回方向の内側の車輪(21~24)に付与する制動力を旋回方向の外側の車輪(21~24)に付与する制動力よりも強くする範囲内で、前記直線性の度合いが高くなるほど、旋回方向の内側の車輪(21~24)に付与する制動力を弱める、
制動制御方法が提供される。
本発明によれば、車両(1)の各車輪(21~24)に、制動力付与装置(31~34、35、60)により付与する制動力を制御するためにコンピュータ(51a)によって実行される制動制御方法であって、
前記車両(1)の車両情報を取得するステップと、
道路における前記車両よりも走行方向下流側の領域の直線性の指標値を取得するステップと、
前記車両情報、及び前記直線性の指標値に基づいて各車輪(21~24)に付与する制動力を制御し、且つ前記直線性の指標値に応じて、各車輪(21~24)への制動力の付与態様を異ならせるステップと、を含み、
前記制動力の付与態様を異ならせるステップは、前記車両情報に基づいて走行中の前記車両(1)の状態についてアンダーステア傾向であると判定した場合に、各車輪(21~24)のうち、前記車両(1)の旋回方向における内側の車輪(21~24)に付与する制動力を旋回方向の外側の車輪(21~24)に付与する制動力よりも強める処理を実行し、且つ、前記直線性の度合いが高くなるほど、アンダーステア傾向であると判定してから前記処理を開始するまでの時間を長くする、
制動制御方法が提供される。
【0009】
本発明によれば、コンピュータ(51a)に用いられるプログラムであって、前記制動制御方法の各ステップをコンピュータ(51a)に実行させるプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、車両の走行に伴って刻々と変化していく走行方向下流側における道路領域の形状のそれぞれに適した内容で各車輪の制動を制御することができるという優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態の横滑り抑制装置が搭載された車両の概略平面透視図である。
図2】液圧ユニットの液圧回路の構成例を示す回路図である。
図3】制動制御装置の電気回路を示すブロック図である。
図4】進行方向の向かって右側に湾曲する右カーブの道路部分を通過するときの車両の挙動を示す平面模式図である。
図5】直線道路を走行している車両における車線変更時の挙動の第1例を示す平面模式図である。
図6】直線道路を走行している車両における車線変更時の挙動の第2例を示す平面模式図である。
図7】直線道路を走行している車両における車線変更時の挙動の第3例を示す平面模式図である。
図8】横滑り抑制装置の制動制御装置によって実施される横滑り抑制制御の処理フローを示すフローチャートである。
図9】第1変形例に係る横滑り抑制装置の制動制御装置によって実施される横滑り抑制制御の処理フローを示すフローチャートである。
図10】第2変形例に係る横滑り抑制装置の制動制御装置によって実施される横滑り抑制制御の処理フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した横滑り抑制装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する構成、動作等は、本発明の実施形態としての一例(代表例)であり、本発明は以下に説明する構成、動作等に限定されない。また、以下では、同一の又は類似する説明を、適宜簡略化又は省略する。また、各図において、同一の又は類似する部材又は部分については、符号を付すことを省略するか、又は、同一の符号を付す。また、細かい構造については、適宜図示を簡略化又は省略する。
【0013】
図1は、実施形態に係る横滑り抑制装置50が搭載された車両1の概略平面透視図である。図1に示されるように、車両1は、4つの車輪(右前輪21、左前輪22、右後輪23、左後輪24)を備える。右前輪21と左前輪22とは、前車軸38によって回転可能に支持される。また、右後輪23と左後輪24とは、後車軸39によって回転可能に支持される。
【0014】
前輪駆動の車両1では、前車軸38に取り付けられた変速機26を通じて、エンジン25から駆動輪である右前輪21及び左前輪22に動力が伝達される。右後輪23及び左後輪24は、車両1の移動に伴って回転する従動輪である。エンジン25と変速機26との間にはクラッチ27が設けられる。クラッチ27は、エンジン25から変速機26への駆動力の伝達を接離する。なお、図1に示される車両1は一例であって、車両1は後輪駆動であってもよいし、4輪駆動であってもよい。
【0015】
右前輪21には、右前液圧ブレーキ31が設けられる。左前輪22には、左前液圧ブレーキ32が設けられる。右後輪23には、右後液圧ブレーキ33が設けられる。左後輪24には、左後液圧ブレーキ34が設けられる。右前液圧ブレーキ31、左前液圧ブレーキ32、右後液圧ブレーキ33、左後液圧ブレーキ34は、ディスクブレーキであってもよいし、ドラムブレーキであってもよい。ディスクブレーキは、ホイールシリンダ内を移動するピストンでブレーキパッドをブレーキディスクに押し当てることで、ブレーキディスクと一体に回転する車輪に制動力を付与する。ドラムブレーキは、ホールシリンダ及びブレーキシューをブレーキドラムの中に有しており、ホイールシリンダ内を移動可能なピストンでブレーキシューをブレーキドラムの内周面に押し当てることで、ブレーキドラムと一体に回転する車輪に制動力を付与する。
【0016】
車両1は、ADAS(Advanced driver-assistance systems)56を備える。ADAS56は、車内のフロントガラス55の近くに、一対のカメラからなるステレオカメラ57を有しており、道路における車両1よりも前方の領域を撮影する。同図に示される車両1では、ステレオカメラ57は、フロントガラス55を通じて車両1よりも前方の道路領域を撮影するので、車両1が前進しているときに、道路における車両1よりも走行方向下流側の領域を撮影する。
【0017】
ADAS56は、前進走行中の車両1において、ステレオカメラ57によって撮影された映像に基づいて、道路の車両1よりも前方の領域、即ち、これから走行する領域、の直線性を示す指標値を算出する。具体的には、ADAS56は、ステレオカメラ57によって撮影された映像の画像から、道路に付されたレーン境界線(連続白線、白破線、黄色破線など)を抽出する。ADAS56は、そのレーン境界線の形状に基づいて、これから走行する道路領域の直線性の指標値として曲率を算出する。なお、ガードレール等に設けられる複数の視線誘導標を画像から抽出し、それら視線誘導標の座標に基づいて、これから走行する道路の曲率を算出してもよい。これから走行する道路の曲率の算出結果は、ADAS56から、後述の制動制御装置51に送られる。なお、指標値は、直線性を示すことができるのであれば、曲率に限られない。
【0018】
<横滑り抑制装置50>
ESC(Electric Stability Control)、 ESP(Electric Stability Program)、VSA(Vehicle Stability Assist)等と呼ばれる横滑り抑制装置50は、制動制御装置51と液圧ユニット60とを備える。制動制御装置51としては、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等を備えるECU(Engine Control Unit)、マイクロコンピュータ等を例示することができる。
【0019】
<液圧ユニット60>
液圧ユニット60は、4つの車輪のそれぞれに設けられた液圧ブレーキのホイールシリンダと配管を介して接続され、それぞれのホイールシリンダへの液圧を個別に付与する。具体的には、液圧ユニット60は、4つのホイールシリンダのそれぞれに連通する配管の流路を電気制御で個別に開閉するための各種の電磁制御弁を備える。液圧ユニット60は、それらの電磁制御弁によって4つのホイールシリンダへの液圧の付与を個別に制御することで、4つの車輪のそれぞれに付与する制動力を個別に制御する。
【0020】
車両1のブレーキペダル35が運転手によって踏み込まれると、踏込量に応じた液圧がマスタシリンダ37から液圧ユニット60に付与される。すると、液圧ユニット60は、マスタシリンダ37から付与された液圧を、4つの車輪のそれぞれに設けられた液圧ブレーキに分配して伝える。この液圧分配がなされると、4つの車輪に制動力が付与される。かかる制動力の付与は、運転手によってブレーキペダル35が踏み込まれたことに応答して行われる。
【0021】
図2は、液圧ユニット60の液圧回路の構成例を示す回路図である。液圧ユニット60の液圧回路は、互いに同様の構成の第1液圧回路61及び第2液圧回路62を有する。第1液圧回路61と、第2液圧回路62とには、マスタシリンダ37からブレーキ液が供給される。
【0022】
液圧ユニット60の液圧回路は、いわゆるX型配管方式の回路である。第1液圧回路61と第2液圧回路62とが何れも、車両の対角の位置にある一つの前輪と一つの後輪とを組としてそれぞれの車輪に設けられた液圧ブレーキのホイールシリンダの液圧を制御する方式が、X型配管方式である。なお、液圧ユニット60の液圧回路の配管方式は、X型配管方式に限られない。
【0023】
第1液圧回路61は、モータ63によって駆動されるポンプ64を備える。また、第1液圧回路61は、アキュムレータ65及びダンパ66を備える。
【0024】
ポンプ64は、モータ63の駆動力によって駆動されてブレーキ液を吐出する。モータ63の駆動は、制動制御装置51によって制御される。なお、第1液圧回路61に設けられるポンプ64の数は1つに限られない。
【0025】
マスタシリンダ37に連通する管路には、第1圧力センサ67が設けられる。第1圧力センサ67は、マスタシリンダ37の内圧を検出する。
【0026】
右前輪21に設けられた右前液圧ブレーキ31は、ホイールシリンダとして右前ホイールシリンダ31aを有する。この右前ホイールシリンダ31aに連通する管路には、右前ホイールシリンダ31aの内圧を検出する第2圧力センサ68が設けられる。
【0027】
なお、第2圧力センサ68は、左後ホイールシリンダ34aに連通する管路に配置され、左後ホイールシリンダ34aの内圧を検出してもよい。左後ホイールシリンダ34aは、左後輪24に設けられた左後液圧ブレーキ34のホイールシリンダである。
【0028】
第1液圧回路61は、複数の電磁制御弁を有する。複数の電磁制御弁には、常閉型でリニア制御可能な回路制御弁69と、常閉型でオンオフ制御される吸入制御弁70とが含まれる。また、複数の電磁制御弁には、常開型でリニア制御可能な右前増圧弁71及び左後増圧弁72と、常閉型でオンオフ制御される右前減圧弁73及び左後減圧弁74とが含まれる。
【0029】
回路制御弁69は、マスタシリンダ37とポンプ64の吐出側とを結ぶ流路75に配置される。回路制御弁69は、リニア制御可能になっており、マスタシリンダ37と、右前増圧弁71及び左後増圧弁72との間の流路面積を連続的に調整する。
【0030】
吸入制御弁70は、マスタシリンダ37とポンプ64の吸入側とを結ぶ流路76に配置される。吸入制御弁70は、マスタシリンダ37とポンプ64の吸入側との間を連通させたり、遮断させたりする。
【0031】
リニア制御可能な右前増圧弁71は、回路制御弁69と右前ホイールシリンダ31aとを結ぶ流路77に配置され、マスタシリンダ37及び回路制御弁69側から右前ホイールシリンダ31a側への作動油の流量を連続的に調整する。
【0032】
リニア制御可能な左後増圧弁72は、回路制御弁69と左後ホイールシリンダ34aとを結ぶ流路78に配置され、マスタシリンダ37及び回路制御弁69側から左後ホイールシリンダ34a側への作動油の流量を連続的に調整する。
【0033】
右前減圧弁73は、ポンプ64の吸入側と右前ホイールシリンダ31aとを結ぶ流路79に配置され、ポンプ64の吸入側と右前ホイールシリンダ31aとの間を連通させたり、遮断させたりする。右前減圧弁73は、開弁状態で右前ホイールシリンダ31aに供給された作動油をアキュムレータ65に供給することによって減圧する。右前減圧弁73の開閉を断続的に繰り返すことで、右前ホイールシリンダ31aからアキュムレータ65に流れる作動油の流量を調節することができる。
【0034】
左後減圧弁74は、ポンプ64の吸入側と左後ホイールシリンダ34aとを結ぶ流路80に配置され、ポンプ64の吸入側と左後ホイールシリンダ34aとの間を連通させたり、遮断させたりする。左後減圧弁74は、開弁状態で左後ホイールシリンダ34aに供給された作動油をアキュムレータ65に供給することによって減圧する。左後減圧弁74の開閉を断続的に繰り返すことで、左後ホイールシリンダ34aからアキュムレータ65に流れる作動油の流量を調節することができる。
【0035】
これらの電磁制御弁の駆動は、制動制御装置51によって制御される。なお、それぞれの電磁制御弁は、常閉型又は常開型の何れであってもよい。
【0036】
第2液圧回路62は、左前ホイールシリンダ32a及び右後ホイールシリンダ33aの液圧を制御する。第2液圧回路62は、液圧の制御対象となるホイールシリンダが第1液圧回路61と異なる点の他は、第1液圧回路61と同様に構成される。第2液圧回路62における左前液圧ブレーキ32の左前ホイールシリンダ32aへの液圧は、第1液圧回路61における右前ホイールシリンダ31aへの液圧と同様に制御される。第2液圧回路62における左後液圧ブレーキ34の左後ホイールシリンダ34aへの液圧は、第1液圧回路61における右後ホイールシリンダ33aへの液圧と同様に制御される。
【0037】
なお、第2液圧回路62のポンプ81、アキュムレータ82、ダンパ83、第1圧力センサ84、第2圧力センサ85は、第1液圧回路61のポンプ64、アキュムレータ65、ダンパ66、第1圧力センサ67、第2圧力センサ68に相当する。また、第2液圧回路62の回路制御弁86、吸入制御弁87、右前増圧弁88、左後増圧弁89、右前減圧弁90は、第1液圧回路61の回路制御弁69、吸入制御弁70、右前増圧弁71、左後増圧弁72、右前減圧弁73に相当する。また、第2液圧回路62の左後減圧弁91、流路92、流路93、流路94は、第1液圧回路61の左後減圧弁74、流路75、流路76、流路77に相当する。また、第2液圧回路62の流路95、流路96、流路97は、第1液圧回路61の流路78、流路79、流路80に相当する。
【0038】
液圧ユニット60は、ブレーキペダル35の踏込量によらずに、制動制御装置51からの指令に応じて、4つの液圧ブレーキのホイールシリンダへの液圧を個別に加減することができる。
【0039】
以下、ホイールシリンダへの液圧を通常時よりも高めて車輪に制動力を付与することを、車輪にブレーキをかけるとも言う。
【0040】
<制動制御装置51>
図3は、制動制御装置51の電気回路を示すブロック図である。制動制御装置51は、CPU、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)によって各種の演算処理を行う制御部51aを有している。また、制動制御装置51は、制御部51aによって情報を読み書きされるRAM51c及び不揮発性メモリ51dと、制御部51aによって情報を読まれるROM51eとを具備する記憶部51bを有している。
【0041】
制動制御装置51は、図1に示される車両1に設けられた各機器から送られてくる各種の検出信号に基づいて、車両1の状態を判定する。前述の各種の検出信号には、車輪速度センサ41、ヨーレイトセンサ43、横加速度センサ44、ハンドルの操舵角センサ45のそれぞれによって得られた検出信号が含まれる。また、前述の各種の検出信号には、アクセルポジションセンサ29によって検出されたアクセルペダル28の踏込量の検出信号が含まれる。また、前述の各種の検出信号には、ブレーキポジションセンサ36によって検出されたブレーキペダル35の踏込量の検出信号が含まれる。また、前述の各種の検出信号には、ADAS56によって算出された、これから走行する道路の形状の曲率が含まれる。
【0042】
制動制御装置51は、記憶部51bに記憶している機械読み取り可能なプログラムを実行する。制動制御装置51は、そのプログラムに従って、記憶部51bに記憶している各種のデータ、、各種の検出信号、及び車両1の状態に基づいて、4つのホイールシリンダへの液圧をそれぞれ個別に制御する。この制御がなされると、4つの車輪のそれぞれに付与される制動力が、ブレーキべダル35の踏込量によらずに調整されて、操舵時の車両1における各車輪の横滑りが抑制される。以下、このようにして車両1の横滑りを抑制する制御を、横滑り抑制制御という。
【0043】
図4は、進行方向の向かって右側に湾曲する右カーブの道路部分を通過するときの車両1の挙動を示す平面模式図である。車両1が、同図に示される道路部分を円滑に通過するためには、同図の一点鎖線で示される軌道に沿って走行するのが理想である。ところが、操舵角と、車速(車輪速)とのバランスによっては、車輪の横滑りが発生して車両1が同図の一点鎖線の軌道から外れることがある。
【0044】
車輪の横滑りの発生傾向を示す指標の一つとして、ヨーレイトの差分△γが知られている。ヨーレイトの差分△γは、規範ヨーレイトγと実測ヨーレイトγとの差分(γ-γ)である。規範ヨーレイトγは、「γ=∫(θ,V)」という式によって求められる。この式におけるθは、操舵角である。また、Vは、車速である。
【0045】
差分ヨーレイト△γの値がゼロよりも大きい場合(△γ>0)には、車両1はオーバーステア傾向の状態になっている。これに対し、差分ヨーレイト△γの値がゼロよりも小さい場合(△γ<0)には、車両1はアンダーステア傾向の状態になっている。
【0046】
オーバーステア傾向は、車両1の後輪が前輪よりも先にスリップ(横滑り)を始めて、図4における矢印αのように、車両1が旋回曲線(図4の一点鎖線で示される曲線)よりも内側に向けて進んでしまう状態である。これに対し、アンダーステア傾向は、車両1の前輪が後輪よりも先にスリップを始めて、図4における矢印βのように、車両1が旋回曲線よりも外側に向けて進んでしまう状態である。
【0047】
図1に示される車両1において、実測ヨーレイトγは、ヨーレイトセンサ(図1の43)によって得られる。また、操舵角θは、操舵角センサ45によって得られる。また、車速Vは、車輪速度センサ41によって検出された車輪速に基づいて算出される。
【0048】
横滑り抑制装置50の制動制御装置51は、横滑り抑制制御において、各種のセンサによって得られた検出値を車両情報として取得し、この取得結果に基づいて、走行中の車両1の状態を判定する。具体的には、制動制御装置51は、車両情報の取得結果に基づいて、走行中の車両1の状態について、オーバーステア傾向であるのか、アンダーステア傾向であるのか、あるいは、何れでもない(ニュートラルステア)のかを判定する。
【0049】
この判定を行うための指標値として、ヨーレイトの差分△γを用いてもよいし、他の指標値を用いてもよい。例えば、スリップ角(∫△γdt)を指標として用いてもよい。以下、ヨーレイトの差分△γを指標値として車両1の状態を判定する態様を例にして説明する。
【0050】
制動制御装置51は、走行中の車両1の状態について、オーバーステア傾向であると判定した場合には、車両1の旋回方向の外側の前輪にブレーキをかけることで、後輪の旋回方向外側に向けての横滑りを抑える。この横滑りが抑えられることで、横滑りが抑えられない場合に比べて、車両1は、より外側に向けて旋回曲線に近づく軌道で走行するようになる。図4に示される例では、左前輪22が、車両1の旋回方向の外側の前輪である。
【0051】
制動制御装置51は、走行中の車両1の状態について、アンダーステア傾向であると判定した場合には、車両1の旋回方向の内側の後輪にブレーキをかけることで、前輪の旋回方向外側に向けての横滑りを抑える。この横滑りが抑えられることで、横滑りが抑えられない場合に比べて、車両1は、より内側に向けて旋回曲線に近づく軌道で走行するようになる。図4に示される例では、右後輪23が、車両1の旋回方向の内側の後輪である。
【0052】
なお、オーバーステア傾向、アンダーステア傾向の何れにおいても、ブレーキをかける車輪の数は1つに限定されない。
【0053】
例えば、旋回方向の外側の前輪にブレーキをかける必要がある場合(オーバーステア傾向)に、旋回方向の外側の前輪に加えて外側の後輪にもブレーキをかけてもよいし、更に加えて、旋回方向の内側の車輪にもブレーキをかけてもよい。但し、旋回方向の外側の前輪に加えて他の車輪にもブレーキをかける場合には、旋回方向の外側の前輪に付与する制動力(ホイールシリンダへの液圧)を、他の車輪に付与する制動力よりも強くすることが望ましい。
【0054】
また、旋回方向の内側の後輪にブレーキをかける必要がある場合(アンダーステア傾向)に、旋回方向の内側の後輪に加えて内側の前輪にもブレーキをかけてもよいし、更に加えて外側の車輪にもブレーキをかけてもよい。但し、旋回方向の内側の後輪に加えて他の車輪にブレーキをかける場合には、旋回方向の内側の後輪に付与する制動力を、他の車輪に付与する制動力よりも強くすることが望ましい。
【0055】
走行中の車両1の状態がオーバーステア傾向である場合、制動制御装置51は、オーバーステア傾向が強くなるほど(例えばゼロよりも小さい差分△γの絶対値が大きくなるほど)、横滑り抑制制御によって車輪に付与する制動力を強くする。また、走行中の車両1の状態がアンダーステア傾向である場合、制動制御装置51は、アンダーステア傾向が強くなるほど(例えば差分△γが大きくなるほど)、横滑り抑制制御によって車輪に付与する制動力を強くする。
【0056】
図5は、直線道路を走行している車両1における車線変更時の挙動の第1例を示す平面模式図である。同図に示される二点鎖線は、車両1が車輪の横滑りを全く引き起こさずに左車線から右車線に車線変更した後、車輪の横滑りを全く引き起こさずに右車線から左車線に車線変更したときの軌道を示す。つまり、同図に示される車両1は、車輪の横滑りを全く引き起こさずに車線変更を2回行って元の左車線に戻っている。同図からわかるように、車線変更するときの車両1における向きの変化量は僅かである。このように車両1が向きを僅かに変化させるだけであるのに、横滑り抑制装置50が横滑り抑制のための制動制御(以下、横滑り抑制制御という)を敏感に実行すると、運転手に違和感(円滑性に欠ける走行感)を与えてしまう。
【0057】
図6は、直線道路を走行している車両1における車線変更時の挙動の第2例を示す平面模式図である。同図に示される二点鎖線は、図5に示される二点鎖線と同じものである。この第2例において、運転手は、車両1の横滑り抑制装置50の作動を停止させている。同図に示される車両1は、アンダーステア傾向に起因して車輪を横滑りさせながら左車線から右車線に車線変更した後、アンダーステア傾向に起因して車輪を横滑りさせながら右車線から左車線に車線変更している。
【0058】
同図に示されるL、Lは何れも、車両1が左車線→右車線→左車線という2回の車線変更をするときの車両1の移動距離を示している。アンダーステア傾向に起因する車輪の横滑りを引き起こす状態で車線変更する車両1の移動距離(L)は、車輪の横滑りを引き起こさない状態で車線変更する車両1の移動距離(L)よりも長くなる。但し、どちらの状態でも車両1の移動軌跡は滑らかである。よって、車両1は、車線変更するときには、アンダーステア傾向に起因する前輪の横滑りをある程度引き起こしても、スピンを引き起こす可能性が低い。にもかかわらず、横滑り抑制装置50が車輪の制動を敏感に行って前輪の横滑りを抑制すると、運転手に違和感を与えてしまう。
【0059】
図7は、直線道路を走行している車両1における車線変更時の挙動の第3例を示す平面模式図である。同図に示される二点鎖線は、図5に示される二点鎖線と同じものである。この第3例では、車両1が、オーバーステア傾向に起因して車輪を横滑りさせながら左車線から右車線に車線変更するときに、激しい横滑りによってスピンしている。このように、車両1がオーバーステア傾向になると、スピンを引き起こし易いことが知られている。特に、直線道路では、運転手は、車両1を高速走行させながら車線変更することが多いことから、オーバーステア傾向になるような操舵をすると、車両1をスピンさせ易い。
【0060】
図8は、横滑り抑制装置50の制動制御装置51によって実施される横滑り抑制制御の処理フローを示すフローチャートである。制動制御装置51は、横滑り抑制制御の処理フローにおいて、まず、ヨーレイトの差分△γを算出した後(S1)、差分△γに基づいて、車両1の状態についてオーバーステア傾向であるか否かを判定する(S2)。
【0061】
車両1の状態がオーバーステア傾向である場合(S2でY)、制動制御装置51は、ADAS56から送られてくる上記曲率の情報に基づいて、これから走行する道路部分の形状(以下、前方路形状という)について直線であるか否かを特定する(S3)。前方路形状が直線である場合(S4でY)、制動制御装置51は、差分△γに応じた値であって、且つ前方路形状が直線でない場合よりも強い値の制動力を、旋回方向の外側の前輪に付与する(S5)。このように制動力が付与されることで、前方路形状が直線でない場合に比べて、後輪の横滑りが強く抑制される。なお、前方路形状が直線でない場合よりも弱い値は、同じ差分△γで比較した場合の値である。
【0062】
一方、車両1の状態がオーバーステア傾向であって且つ前方路形状が直線でない場合(S4でN)、制動制御装置51は、差分△γに応じた値であって、且つ前方路形状が直線である場合よりも弱い値の制動力を、旋回方向の外側の前輪に付与する(S6)。
【0063】
車両1の状態がオーバーステア傾向でない場合(S2でN)、制動制御装置51は、車両1の状態についてアンダーステア傾向であるか否かを判定する(S7)。車両1の状態がアンダーステア傾向である場合(S7でY)、制動制御装置51は、前方路形状について直線であるか否かを特定する(S8)。前方路形状が直線である場合(S9でY)、制動制御装置51は、差分△γに応じた値であって、且つ前方路形状が直線でない場合よりも弱い値の制動力を旋回方向の内側の後輪に付与する(S10)。
【0064】
一方、車両の状態がアンダーステア傾向であって、且つ前方路形状が直線でない場合(S9でN)、制動制御装置51は、差分△γに応じた値であって、且つ前方路形状が直線である場合よりも強い値の制動力を旋回方向の内側の後輪に付与して(S11)、前輪の横滑りを抑制する。
【0065】
<作用>
前方路形状が直線である場合に行われる操舵は、車線変更のための操舵であることが多い。車線変更のための操舵においては、図6を用いて述べたように、車両1がアンダーステア傾向に起因して前輪をある程度横滑りさせても、スピンを引き起こす可能性が低い。にもかかわらず、横滑り抑制装置50が車輪の制動を敏感に行って前輪の横滑りを抑制すると、運転手に違和感を与えてしまう。
【0066】
そこで、車両1の状態がアンダーステア傾向であって、且つ前方路形状が直線である場合、制動制御装置51は、前方路形状が直線でない場合に比べて弱い値の制動力を旋回方向の内側の後輪に付与する(S10)。このようにして制動力が付与されると、車両1の前輪の横滑りがある程度許容される。
【0067】
上述のように、前方路形状が直線である場合の車線変更は、高速走行中に行われることが多く、オーバーステア傾向になるとスピンを引き起こし易い。そこで、車両1の状態がオーバーステア傾向であって、且つ前方路形状が直線である場合、制動制御装置51は、前方路形状が直線でない場合に比べて強い値の制動力を旋回方向の外側の前輪に付与する(S5)。このようにして制動力が付与されると、後輪の横滑りが強く抑制される。
【0068】
<効果>
車両1の状態がアンダーステア傾向であって、且つ前方路形状が直線である場合に、制動制御装置51は、車両1の前輪の横滑りをある程度許容することで、車線変更時に車輪を敏感に制動することによる運転手の違和感を低減することができる。
【0069】
車両1の状態がオーバーステア傾向であって、且つ前方路形状が直線である場合に、制動制御装置51は、車両1の後輪の横滑りを強く抑制することで、直線道路での車線変更時に発生し易い、オーバーステア傾向での車両1のスピンを効果的に抑制することができる。
【0070】
なお、車両1においては、ブレーキペダル35、液圧ブレーキ、液圧ユニット60などが、各車輪に制動力を付与する制動力付与装置を構成している。
【0071】
また、前方路形状の直線性の度合いを示す指標値は、直線であるか否かという2値に限られない。前方路形状の曲率そのものを指標値として、曲率に応じた値の制動力を車輪に付与してもよい。この場合、制動制御装置51は、アンダーステア傾向において、前方路形状の曲率が低くなるほど(直線性の度合いが高くなるほど)、旋回方向の内側の後輪に付与する制動力を弱める。また、制動制御装置51は、オーバーステア傾向において、前方路形状の曲率が低くなるほど、旋回方向の外側の前輪に付与する制動力を強める。
【0072】
車両1の後方を撮影するバックカメラを設け、後退時の車両1において、バックカメラによって道路における車両1よりも走行方向下流側の領域を撮影させるようにしてもよい。この場合、後退時の後方路形状に基づいて、各車輪への制動力の付与態様を異ならせることが可能になる。
【0073】
横滑り抑制制御をコンピュータに実行させるプログラムを、半導体メモリ、磁気ディスク、光ディスク等の機械読み取り可能な記録媒体に記憶させ、CPU(Central Processing Unit)等のコンピュータにその記録媒体からプログラムを読み取らせて実行させることができる。
【0074】
制動制御装置51の一部又は全ては、例えば、マイコン、マイクロプロセッサユニット当で構成されていてもよく、又はファームウェア等の更新可能なもので構成されていてもよく、又はCPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
【0075】
以下、実施形態に係る横滑り抑制装置50の構成の一部を他の構成に変形した各変形例に係る横滑り抑制装置50について説明する。なお、以下に特筆しない限り、各変形例に係る横滑り抑制装置50の構成は、実施形態と同様である。
【0076】
〔第1変形例〕
図9は、第1変形例に係る横滑り抑制装置50の制動制御装置51によって実施される横滑り抑制制御の処理フローを示すフローチャートである。制動抑制装置51は、横滑り抑制制御の処理フローにおいて、まず、ヨーレイトの差分△γを算出した後(S21)、差分△γに基づいて、車両1の状態についてオーバーステア傾向であるか否かを判定する(S22)。
【0077】
車両1の状態がオーバーステア傾向である場合(S22でY)、制動制御装置51は、ADAS56から送られてくる曲率の情報に基づいて、前方路形状ついて直線であるか否かを特定する(S23)。前方路形状が直線である場合(S24でY)、制動制御装置51は、直ちに差分△γに応じた値の制動力を旋回方向の外側の前輪に付与する(S25)。
【0078】
一方、車両1の状態がオーバーステア傾向であって且つ前方路形状が直線でない場合(S24でN)、制動制御装置51は、僅かなタイムラグが経過した後に、差分△γに応じた値の制動力を旋回方向の外側の前輪に付与する(S26)。
【0079】
車両1の状態がオーバーステア傾向でない場合(S22でN)、制動制御装置51は、車両1の状態についてアンダーステア傾向であるか否かを判定する(S27)。車両1の状態がアンダーステア傾向である場合(S27でY)、制動制御装置51は、前方路形状について直線であるか否かを特定する(S28)。前方路形状が直線である場合(S29でY)、制動制御装置51は、ある程度のタイムラグが経過した後に、差分△γに応じた値の制動力を旋回方向の内側の後輪に付与する(S30)。
【0080】
一方、車両の状態がアンダーステア傾向であって、且つ前方路形状が直線でない場合(S29でN)、制動制御装置51は、差分△γに応じた値の制動力を直ちに旋回方向の内側の後輪に付与して(S31)、前輪の横滑りを抑制する。
【0081】
<作用>
【0082】
車両1の状態がアンダーステア傾向であって、且つ前方路形状が直線である場合、制動制御装置51は、ある程度のタイムラグが経過した後に、差分△γに応じた値の制動力を旋回方向の内側の後輪に付与する(S30)。そのタイムラグによって前輪の横滑りを許容する時間が設けられる。つまり、制動制御装置51は、旋回方向の内側の後輪に制動力を付与して前輪の横滑りを抑制するのに先立って、前輪の横滑りを許容する時間を設ける。
【0083】
車両1の状態がオーバーステア傾向であって、且つ前方路形状が直線である場合に、制動制御装置51は、直ちに旋回方向の外側の前輪に制動力を付与して(S25)、後輪の横滑りの抑制を開始する。これに対し、車両1の状態がオーバーステア傾向であって、且つ前方路形状が直線でない場合に、制動制御装置51は、ある程度のタイムラグが経過してから、旋回方向の外側の前輪に制動力を付与する(S26)。つまり、制動制御装置51は、横滑りの抑制に先立って、横滑りを許容する時間を設ける。
【0084】
<効果>
車両1の状態がアンダーステア傾向であって、且つ前方路形状が直線である場合に、制動制御装置51は、前輪の横滑りを許容する時間を設けてから横滑りの抑制を開始することで、車線変更時に車輪を敏感に制動して運転手に違和感を与えてしまうのを防止できる。
【0085】
車両1の状態がオーバーステア傾向であって、且つ前方路形状が直線である場合に、制動制御装置51は、直ちに後輪の横滑りの抑制を開始することで、直線道路での車線変更時に発生し易い車両1のスピンを効果的に抑制することができる。
【0086】
車両1の状態がオーバーステア傾向であって、且つ前方路形状が直線でない場合に、制動制御装置51は、僅かなタイムラグが経過した後に、後輪の横滑りの抑制を開始することで、カーブ走行時に車輪を敏感に制動して運転手に違和感を与えてしまうのを防止できる。
【0087】
なお、前方路形状の直線性の度合いを示す指標値は、直線であるか否かという2値に限られない。前方路形状の曲率そのものを指標値として、曲率に応じた値の制動力を車輪に付与してもよい。この場合、制動制御装置51は、アンダーステア傾向において、前方路形状の曲率が低くなるほど、上記タイムラグを長くする。また、制動制御装置51は、オーバーステア傾向において、前方路形状の曲率が低くなるほど、上記タイムラグを短くする。
【0088】
〔第2変形例〕
図10は、第2変形例に係る横滑り抑制装置50の制動制御装置51によって実施される横滑り抑制制御の処理フローを示すフローチャートである。この処理フローにおいて、S41~S49、S52、S53のステップは、図8の処理フローにおけるS1~S9、S10、S11のステップと内容が同じであるので、説明を省略する。
【0089】
車両1の状態がアンダーステア傾向であって、且つ前方路形状が直線である場合(S49でY)、制動制御装置51は、障害物検出信号の受信の有無を判定する(S50)。この障害物検出信号は、ADAS56から制動制御装置51に発信されるものである。ADAS56は、ステレオカメラ57によって撮影された映像の画像を解析した結果に基づいて、前方路の車両真正面の領域における障害物の有無を判定する。ADAS56は、障害物有りという判定をした場合に、制動制御装置51に障害物検出信号を発信する。
【0090】
制動制御装置51は、障害物信号の受信有りと判定した場合(S50でY)に、旋回方向の内側の前輪及び後輪のそれぞれに、前方路形状が直線でない場合と同じ値の制動力を付与する。このとき、制動制御装置51は、差分△γが所定の閾値を超える場合には、更に、旋回方向の外側の後輪にも、前方路形状が直線でない場合と同じ値の制動力を付与する。
【0091】
<作用>
上述したように、直線路で車線変更中の車両1において、アンダーステア傾向の状態で前輪の横滑りをある程度許容すると、許容しない場合に比べて、車線変更完了までの車両1の移動距離を長くする(図6のL)。単純な車線変更であれば、移動距離を長くしても差し支えない。ところが、直線道路上の障害物を回避するために運転手が操舵を行った場合、できるだけ短い距離で回避位置まで移動することが望ましく、そのためには車速の減速が最も効果的である。
【0092】
そこで、車両1の状態がアンダーステアの傾向であり、前方路形状が直線であり、且つ前方の障害物がある場合(S52)、制動制御装置51は、旋回方向の内側の前輪及び後輪のそれぞれに、前方路形状が直線でない場合と同じ値の制動力を付与する。このとき、制動制御装置51は、差分△γが所定の閾値を超える場合には、更に、旋回方向の外側の後輪にも、前方路形状が直線でない場合と同じ値の制動力を付与する。このような制動力の付与によって車速Vを短時間で減速することで、障害物を良好に回避することができる。
【0093】
以上、本発明の好ましい実施形態及び各変形例について説明したが、本発明は、これらの実施形態及び各変形例に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、自動車などの車両に搭載される横滑り抑制装置などに利用が可能である。
【符号の説明】
【0095】
1・・・車両、21・・・右前輪(車輪)、22・・・左前輪(車輪)、23・・・右後輪(車輪)、24・・・左後輪(車輪)、31・・・右前液圧ブレーキ(制動力付与装置の一部)、32・・・左前液圧ブレーキ(制動力付与装置の一部)、33・・・右後液圧ブレーキ(制動力付与装置の一部)、34・・・左後液圧ブレーキ(制動力付与装置の一部)、35・・・ブレーキペダル(制動力付与装置の一部)、50・・・横滑り抑制装置、51・・・制動制御装置、51a・・・制御部、60・・・液圧ユニット(制動力付与装置の一部)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10