(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】インクジェット印刷方法
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20230104BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20230104BHJP
B41M 5/50 20060101ALI20230104BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230104BHJP
【FI】
B41M5/00 100
C09D11/322
B41M5/00 120
B41M5/50 120
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2018247706
(22)【出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100118131
【氏名又は名称】佐々木 渉
(72)【発明者】
【氏名】西村 晋平
(72)【発明者】
【氏名】光吉 要
(72)【発明者】
【氏名】江川 剛
【審査官】中山 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-094082(JP,A)
【文献】特開2012-052042(JP,A)
【文献】特開2016-017103(JP,A)
【文献】特開2013-226820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00
C09D 11/322
B41M 5/50
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー粒子、顔料及び水を含有する水性インクを、インクジェット方式により印刷ヘッドから印刷媒体に吐出する印刷方法であって、
該印刷ヘッドの温度よりも印刷媒体の温度が高く、
該ポリマー粒子を構成するポリマーが、アルキル基の炭素数が14以上24以下のアクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を含み、その融点が25℃以上100℃以下であ
り、
前記ポリマーの全構成単位中の前記アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位の含有量が、15質量%以上90質量%以下であり、
印刷ヘッドの温度がポリマー粒子を構成するポリマーの融点よりも低く、印刷媒体の温度がポリマー粒子を構成するポリマーの融点よりも高い、インクジェット印刷方法。
【請求項2】
前記アクリル酸アルキルエステルが、少なくともアクリル酸ステアリルを含む、請求項
1に記載のインクジェット印刷方法。
【請求項3】
印刷媒体が非吸液性印刷媒体である、請求項1
又は2に記載のインクジェット印刷方法。
【請求項4】
印刷媒体の温度が35℃以上である、請求項1~
3のいずれかに記載のインクジェット印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷方式は、微細なノズルからインク液滴を直接吐出し、印刷媒体に付着させて、文字や画像が記録された印刷物を得る方式である。この方式は、フルカラー化が容易でかつ安価であり、印刷媒体に対して非接触、という数多くの利点があるため、一般消費者向けの民生用印刷に留まらず、近年は、オフセット印刷やグラビア印刷等の産業印刷分野に応用され始めている。
産業印刷分野へのインクジェット印刷の展開の利点としては、アナログ印刷のように印刷版を必要としないため、少量対応、バリアブル印刷等のオンデマンド印刷へ対応できることにある。
また、産業印刷分野の中でも、包装材料への印刷では印刷媒体として、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)等の非吸液性の樹脂フィルムが用いられることが多い。
【0003】
樹脂フィルムに対するインクの定着性を向上するため、インクにポリマー粒子を配合し、印刷部でポリマーの被膜を形成させる技術が知られている。一方、水性インクにポリマー粒子を配合すると、印刷休止時に印刷ヘッドのノズルにポリマー粒子が凝集し、印刷開始時に吐出安定性が低下する傾向がある。
産業印刷分野では、高速印刷が求められるため、数十から数百のノズルを有するラインヘッド方式のインクジェット印刷が行われる。ラインヘッド方式では、ロール上の被印刷物に1ライン上で印刷物を作成するため、1つのノズルでも吐出不良が発生すると画像品質を低下させることになり、高い吐出安定性が求められる。
【0004】
かかる要望に応えるため、種々の提案がなされている。
例えば特許文献1には、粗大粒子数が少なく、吐出安定性に優れたインクジェット記録用水性顔料分散液の製造方法として、顔料、アニオン性基を有する樹脂、及びアルカリ金属水酸化物を含有する混合物を混練する工程を有し、アニオン性基を有する樹脂が、炭素数8~20のアルキル基の(メタ)アクリル酸エステルと、スチレン系単量体と、α,β-エチレン性不飽和結合とアニオン性基とを有する単量体を含有する組成物を共重合して得られる樹脂である、水性顔料分散液の製造方法が開示されている。そして、その実施例では、水性顔料分散液を用いて顔料濃度が3質量%の水性インクを調製し、インクジェットプリンター(HP社製Photosmart D5360)でA4用紙に印刷したことが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、高速記録においても高質の画像が得られる、インク中間転写工程を有する転写効率の高い画像記録方法として、インクが、色材、結晶性樹脂及び非晶性樹脂の相互侵入網目構造を有する樹脂微粒子を含有し、結晶性樹脂がアルキル鎖の炭素数が12以上である(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体である画像記録方法が開示されている。そして、その実施例ではインクの中間転写体への付与手段として、インクジェット方式が用いられている。また、オクタデシルアクリレート及びテトラエチレングルコールジアクリレートを重合反応させ、エチルメタクリレート及びテトラエチレングルコールジメタクリレートを滴下し、更に重合反応させて得られた樹脂粒子分散体12(第1樹脂の融点56℃、第2樹脂の軟化点65℃)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-219145号公報
【文献】特開2013-226819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
産業印刷分野においては、吐出安定性以外にも、非吸液性の印刷媒体に印刷した際に、画質を向上させるためのインクの濡れ性や、高速印刷に対応するインクの乾燥性の向上が望まれる。
しかしながら、特許文献1の技術は、樹脂フィルム等の非吸液性印刷媒体上での画質向上や乾燥性に対して、十分な効果を有していない。
また特許文献2の技術では、非吸液性印刷媒体に直接印刷した場合のインクの濡れ性や乾燥性については何ら検討されていない。
本発明は、インクジェット方式で吐出安定性に優れ、非吸液性印刷媒体に対して直接印刷しても良好な濡れ性及び乾燥性を有し、高品質の印刷物を得ることができるインクジェット印刷方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ポリマー粒子を構成するポリマーとして、アルキル基の炭素数が14以上24以下のアクリル酸アルキルエステルを構成単位に含み、その融点が25℃以上100℃以下であるポリマーを用い、印刷媒体の温度を高くすることにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、ポリマー粒子、顔料及び水を含有する水性インクを、インクジェット方式により印刷ヘッドから印刷媒体に吐出する印刷方法であって、該印刷ヘッドの温度よりも印刷媒体の温度が高く、該ポリマー粒子を構成するポリマーが、アルキル基の炭素数が14以上24以下のアクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を含み、その融点が25℃以上100℃以下である、インクジェット印刷方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インクジェット方式で吐出安定性に優れ、非吸液性印刷媒体に対して直接高速印刷しても良好な濡れ性及び乾燥性を有し、高品質の印刷物を得ることができるインクジェット印刷方法を提供することができる。
本発明の印刷方法は、インクジェット印刷後、吐出ノズル面を保護することなく放置した後、再度印刷を開始する場合の間欠吐出安定性も優れている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[インクジェット印刷方法]
本発明のインクジェット印刷方法は、ポリマー粒子、顔料及び水を含有する水性インクを、インクジェット方式により印刷ヘッドから印刷媒体に吐出する印刷方法であって、該印刷ヘッドの温度よりも印刷媒体の温度が高く、該ポリマー粒子を構成するポリマーが、アルキル基の炭素数が14以上24以下のアクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を含み、その融点が25℃以上100℃以下である。
なお、「水性」とは、媒体中で、水が最大割合を占めていることを意味する。
「非吸液性」とは、インク吸収能がない、又はインク吸収能が殆どないことを意味する。すなわち、インクの非吸液性、低吸液性を含む概念である。非吸液性は、純水の吸水性で評価することができる。より具体的には、印刷媒体と純水との接触時間100m秒における該印刷媒体の表面積あたりの吸水量が0g/m2以上10g/m2以下であることを意味する。該吸水量は、自動走査吸液計を用いて測定することができる。
「印刷」とは、文字や画像を記録する印刷、印字を含む概念である。
【0011】
本発明のインクジェット印刷方法によれば、インクジェット方式で直接印刷しても吐出安定性に優れ、非吸液性印刷媒体に対して良好な濡れ性及び乾燥性を有し、高品質の印刷物を得ることができるという優れた効果を奏する。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
インクジェット印刷において、印刷ヘッド内の温度は一般に室温程度であるため、本発明で用いられる融点が25℃以上100℃以下であるポリマーは結晶状態であり、該ポリマーの溶融が抑制されている。
一方、非吸液性印刷媒体は表面自由エネルギーが低く、インク液滴が濡れ広がりにくいため、非吸液性印刷媒体を用いる場合は、通常、印刷前後に印刷媒体を加熱する。かかる状態で、インク液滴が吐出され印刷媒体に着弾すると、加熱された印刷媒体により着弾したインク液滴の温度が上昇し、長鎖アルキルを有するポリマーの結晶部、すなわち炭素数が14以上24以下のアクリル酸アルキルエステル由来のポリマーの結晶部が溶融すると考えられる。
長鎖アルキル由来のポリマーの結晶部は疎水性であり、これが溶融することにより、ポリマー粒子を含むエマルションの水和層が縮退し、見かけ上のポリマー粒子径が減少する。この結果、微粒子分散体の粘度式として一般に知られるKrieger-Dougherty式で表されるように、ポリマー粒子径の減少によりポリマー粒子の排除体積が減少し、インク粘度が、非結晶性ポリマーエマルションのみからなる場合に比べて大幅に低下すると考えられる。このようにインク粘度が大幅に低下することにより、加熱された非吸液性印刷媒体上でインクの濡れ性が向上し、吐出安定性を維持しつつ、非吸液性印刷媒体上での乾燥性及び画質が向上すると考えられる。
【0012】
<ポリマー粒子>
本発明においては、ポリマー粒子が水に分散してなるポリマーエマルションを水性インクに配合して使用することが好ましい。
ポリマー粒子を構成するポリマー(以下、「ポリマーa」ともいう)は、アルキル基の炭素数が14以上24以下のアクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を含み、吐出安定性及び印刷画質を向上させる観点から、その融点が25℃以上100℃以下である。
前記ポリマーは、水性インクの保存安定性を向上させる観点から、ビニルモノマー(ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物)の付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。
本発明に係る水性インクは、顔料と、前記ポリマーエマルションと、必要に応じて、有機溶媒、海面活性剤等とを混合することにより得ることができる。
【0013】
ポリマーaとしては、結晶性を発現するための(a-1)アルキル基の炭素数が14以上22以下のアクリル酸アルキルエステル(以下、「(a-1)長鎖アルキルアクリレート」ともいう)と、(a-2)カルボキシ基含有モノマーとを含むモノマー混合物を共重合させてなるビニル系ポリマーが好ましい。このビニル系ポリマーは、(a-1)由来の構成単位と(a-2)由来の構成単位を有する。前記ビニル系ポリマーは、更に(a-3)その他の疎水性モノマー由来の構成単位を含有するものが好ましい。
ビニル系ポリマーは、水溶性であっても水不溶性であってもよいが、吐出安定性及び印刷画質を向上させる観点から、水不溶性ポリマーであることが好ましい。
ここで、「水不溶性ポリマー」とは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃の水100gに飽和するまで溶解させたときに、その溶解量が10g未満であることポリマーをいい、その溶解量は、好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下である。アニオン性ポリマーの場合、その溶解量は、ポリマーのアニオン性基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
【0014】
〔(a-1)長鎖アルキルアクリレート〕
(a-1)長鎖アルキルアクリレートは、ポリマーaの結晶性を発現させる観点から、ビニル系ポリマーのモノマー成分として用いられる。(a-1)長鎖アルキルアクリレートのアルキル基の炭素数は、好ましくは16以上、より好ましくは18以上であり、そして、好ましくは22以下である。前記アルキル基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。
(a-1)長鎖アルキルアクリレートの好適例としては、アクリル酸ミリスチル、アクリル酸セチル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸イコシル、アクリル酸ドコシル、アクリル酸テトラコシル、アクリル酸ヘキサコシル、及びそれらのアクリル酸イソアルキルエステルから選ばれる1種以上が挙げられる。
それらの中でも、アクリル酸セチル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸イコシル、アクリル酸ドコシル、アクリル酸イソセチル、アクリル酸イソステアリル、アクリル酸イソイコシル、及びアクリル酸イソドコシルから選ばれる1種以上が好ましく、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ドコシル、アクリル酸イソステアリル、及びアクリル酸イソドコシルから選ばれる1種以上がより好ましく、少なくともアクリル酸ステアリルを含むことが更に好ましい。
【0015】
〔(a-2)カルボキシ基含有モノマー〕
(a-2)カルボキシ基含有モノマーは、水性インク中における分散安定性を向上させる観点から、ビニル系ポリマーのモノマー成分として用いられる。カルボキシ基含有モノマーとしては、カルボン酸モノマーが好ましい。
カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2-メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられるが、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上が好ましい。
【0016】
〔(a-3)疎水性モノマー〕
(a-3)疎水性モノマーは、水性インク中における分散安定性を向上させる観点から、ビニル系ポリマーのモノマー成分として用いることが好ましい。疎水性モノマーとしては、前記(a-1)長鎖アルキルアクリレート以外の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、芳香族基含有モノマー等が挙げられる。
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、炭素数1~14、好ましくは炭素数6~12のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸イソドデシル等が挙げられる。
なお、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上を意味する。以下における「(メタ)」も同義である。
上記各モノマー成分は、それぞれの各成分を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0017】
(モノマー混合物中又はポリマー中における各成分又は構成単位の含有量)
ポリマーa製造時における、モノマー混合物中における各成分の含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又はポリマー中における各成分由来の構成単位の含有量は、結晶性を発現させる観点から、次のとおりである。
(a-1)長鎖アルキルアクリレートの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。
(a-2)成分を含有する場合、その含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下である。
(a-3)成分を含有する場合、その含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。
【0018】
(ポリマーaの製造)
ポリマーaは、モノマー混合物を塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により共重合させることにより製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒、重合開始剤、重合連鎖移動剤、モノマーの連鎖様式、重合条件は、後述するポリマーbの製造の場合と同様である。
【0019】
(ポリマーaの物性)
ポリマーaの融点は、吐出安定性及び印刷画質を向上させる観点から、25℃以上100℃以下である。前記ポリマーの融点は、好ましくは30℃以上、より好ましくは35℃以上、更に好ましくは40℃以上であり、そして、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下である。
上記の融点とするために、ポリマーaは、アルキル基の炭素数が14以上24以下のアクリル酸アルキルエステルを構成単位として含み、より好ましくはアクリル酸ステアリル、アクリル酸ドコシル、アクリル酸イソステアリル、及びアクリル酸イソドコシルから選ばれる1種以上を含み、更に好ましくはアクリル酸ステアリルを含む。
なお、ポリマーaの融点は、実施例に記載の方法により測定される。
【0020】
ポリマーaの数平均分子量は、上記と同様の観点から、好ましくは1万以上、より好ましくは2万以上、更に好ましくは4万以上であり、そして、好ましくは50万以下、より好ましくは30万以下、更に好ましくは15万以下である。
なお、数平均分子量の測定は、実施例に記載の方法により行うことができる。
【0021】
ポリマーaの酸価は、上記と同様の観点から、好ましくは70mgKOH/g以上、より好ましくは80mgKOH/g以上、更に好ましくは90mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは180mgKOH/g以下、より好ましくは150mgKOH/g以下、更に好ましくは120mgKOH/g以下である。
なお、ポリマーaの酸価は、実施例に記載の方法により測定される。
【0022】
<顔料>
本発明に用いられる顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよく、レーキ顔料、蛍光顔料を用いることもできる。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
無機顔料の具体例としては、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、ベンガラ、酸化クロム等の金属酸化物、真珠光沢顔料等が挙げられる。特に黒色インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
有機顔料の具体例としては、アゾレーキ顔料、不溶性モノアゾ顔料、不溶性ジスアゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料類;フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、ベンツイミダゾロン顔料、スレン顔料等の多環式顔料類等が挙げられる。
色相は特に限定されず、ホワイト、ブラック、グレー等の無彩色顔料;イエロー、マゼンタ、シアン、ブルー、レッド、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
体質顔料としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
前記顔料は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0023】
本発明で用いられる顔料の好適形態としては、自己分散型顔料粒子、及び顔料をポリマー分散剤に含有させた顔料粒子の形態が挙げられるが、インクの吐出安定性、印刷画質を向上させる観点から、顔料をポリマー分散剤に含有させた顔料粒子、即ち顔料を含有するポリマー粒子(以下、「顔料含有ポリマー粒子」ともいう)が好ましい。本明細書において「顔料含有ポリマー粒子」は、ポリマー分散剤が顔料を包含する形態、ポリマー分散剤と顔料からなる粒子の表面に顔料の一部が露出している形態、ポリマー分散剤が顔料の一部に吸着している形態等の粒子を含む。
顔料含有ポリマー粒子は架橋することもできる。この場合、用いられるポリマーが水溶性ポリマーであっても、架橋剤で架橋することにより、水不溶性ポリマーとなる。
【0024】
(ポリマー分散剤)
ポリマー分散剤は、顔料分散能を有するもので、顔料含有ポリマー粒子を構成する一成分として用いられることが好ましい。ポリマー分散剤を構成するポリマー(以下、「ポリマーb」ともいう)は、水溶性ポリマー及び水不溶性ポリマーのいずれでもよいが、水不溶性ポリマーがより好ましい。すなわち、顔料は、顔料を含有する不溶性ポリマー粒子の形態であることが好ましい。
ここで、「水不溶性ポリマー」とは、前記定義のとおりである。
【0025】
ポリマーbは、顔料の分散安定性を向上させる観点から、イオン性基を有するものが好ましい。該イオン性基としては、酸基が好ましく、カルボキシ基がより好ましい。ポリマーbとしては、ビニル系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン等が挙げられるが、ビニル系ポリマーが好ましい。
ビニル系ポリマーは、(b-1)イオン性モノマーと、(b-2)疎水性モノマーとを含むモノマー混合物(以下、「原料モノマー(b)」ともいう)を共重合させてなるポリマーが好ましい。該ポリマーは、(b-1)由来の構成単位と(b-2)由来の構成単位を有する。該ポリマーは、更に(b-3)マクロモノマー由来の構成単位又は(b-4)ノニオン性モノマー由来の構成単位を含むことができる。
【0026】
〔(b-1)イオン性モノマー〕
(b-1)イオン性モノマーは、顔料含有ポリマー粒子の分散安定性を向上させる観点から用いられる。イオン性モノマーとしては、アニオン性モノマー及びカチオン性モノマーが挙げられ、アニオン性モノマーが好ましい。なお、イオン性モノマーには、酸やアミン等の中性ではイオンではないモノマーであっても、酸性やアルカリ性の条件でイオンとなるモノマーを含む。
アニオン性モノマーとしては、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー、リン酸モノマー等が挙げられ、上記と同様の観点から、カルボン酸モノマーが好ましい。
カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等が挙げられるが、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上が好ましく、メタクリル酸がより好ましい。
【0027】
〔(b-2)疎水性モノマー〕
疎水性モノマー(b-2)とは、モノマーを25℃のイオン交換水100gへ飽和するまで溶解させたときに、その溶解量が10g未満であるモノマーをいう。
疎水性モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー等が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、好ましくは炭素数1以上22以下のアルキル基を有するものであり、より好ましくは炭素数6以上18以下のアルキル基を有するものである。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味する。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートから選ばれる1種以上を意味する。以下においても同様である。
【0028】
芳香族基含有モノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6以上22以下の芳香族基を有するビニルモノマーが好ましく、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリル酸エステルがより好ましい。芳香族基含有モノマーの分子量は、500未満が好ましい。
スチレン系モノマーとしてはスチレン、2-メチルスチレン、及びジビニルベンゼンが好ましく、スチレンがより好ましい。また、芳香族基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
(b-2)疎水性モノマーは、好ましくは芳香族基含有モノマーであり、より好ましくはスチレン系モノマー及び芳香族基含有(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる1種以上であり、更に好ましくはスチレン系モノマーであり、より更に好ましくはスチレンである。
【0029】
〔(b-3)マクロモノマー〕
(b-3)マクロモノマーは、片末端に重合性官能基を有する数平均分子量500以上100,000以下の化合物であり、顔料含有ポリマー粒子の分散安定性を向上させる観点から用いることが好ましい。片末端にある重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、メタクリロイルオキシ基がより好ましい。
マクロモノマーの数平均分子量は1,000以上10,000以下が好ましい。なお、数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたGPC法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
マクロモノマーとしては、芳香族基含有マクロモノマー及びシリコーン系マクロモノマーが好ましく、芳香族基含有マクロモノマーがより好ましい。
芳香族基含有マクロモノマーを構成する芳香族基含有モノマーとしては、前記(b-2)疎水性モノマーの欄で記載した芳香族基含有モノマーが挙げられ、スチレン及びベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、スチレンがより好ましい。
スチレン系マクロモノマーの市販品例としては、AS-6(S)、AN-6(S)、HS-6(S)(東亞合成株式会社の商品名)等が挙げられる。
【0030】
〔(b-4)ノニオン性モノマー〕
ポリマーbには、更に(b-4)ノニオン性モノマーを用いることが好ましい。
ノニオン性モノマーとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコール(n=2~30、nはオキシエチレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ。)(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;メトキシポリエチレングリコール(n=1~30)(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;フェノキシ(エチレングリコール/プロピレングリコール共重合)(n=1~30、その中のエチレングリコール:n=1~29)(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上が挙げられ、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートが好ましく、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートがより好ましい。
(b-4)ノニオン性モノマーの市販品例としては、NKエステルM-20G、同40G、同90G、同230G等(以上、新中村化学工業株式会社の商品名)、ブレンマーPE-90、同200、同350等、PME-100、同200、同400等、ブレンマーPP-500、同800、同1000等、50PEP-300、50POEP-800B(以上、日油株式会社の商品名)等が挙げられる。
上記(b-1)~(b-4)成分は、それぞれの各成分を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0031】
(原料モノマー(b)中又はポリマーb中における各成分又は構成単位の含有量)
ポリマーb製造時における原料モノマー(b)中の各成分の含有量又はポリマーb中における各成分に由来する構成単位の含有量は、顔料含有ポリマー粒子の分散安定性を向上させる観点から、次のとおりである。
(b-1)成分の含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは7質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
(b-2)成分の含有量は、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは35質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
(b-3)成分を含有する場合、その含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは7質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
(b-4)成分を含有する場合、その含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
【0032】
(b-2)成分に対する(b-1)成分の質量比[(b-1)/(b-2)]は、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.15以上、更に好ましくは0.2以上であり、そして、好ましくは1.2以下、より好ましくは0.8以下、更に好ましくは0.5以下である。
また、(b-2)成分及び(b-3)成分の合計量に対する(b-1)成分の質量比[(b-1)/〔(b-2)+(b-3)〕]は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上であり、そして、好ましくは1以下、より好ましくは0.60以下、更に好ましくは0.40以下である。
【0033】
(ポリマーbの製造)
ポリマーbは、原料モノマー(b)を塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により共重合させることにより製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に特に制限はないが、炭素数1以上3以下の脂肪族アルコール、炭素数3以上5以下のケトン類、エーテル類、酢酸エチル等のエステル類等の極性有機溶媒が好ましく、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン又はそれらと水との混合溶媒がより好ましく、メチルエチルケトン又はそれと水との混合溶媒が更に好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができる。
重合開始剤としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレロニトリル)等のアゾ化合物や有機過酸化物等が挙げられ、重合連鎖移動剤としては、カルボキシ基含有メルカプタン、アルキルメルカプタン、2-メルカプトエタノール等のヒドロキシ基含有メルカプタン等が挙げられる。
また、重合モノマーの連鎖の様式に制限はなく、ランダム、ブロック、グラフト等のいずれの重合様式でもよい。
【0034】
好ましい重合条件は、使用する重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるが、通常、重合温度は、好ましくは30℃以上、より好ましくは50℃以上であり、そして、好ましくは95℃以下、より好ましくは80℃以下である。重合時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上であり、そして、好ましくは20時間以下、より好ましくは10時間以下である。また、重合雰囲気は、好ましくは窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気である。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去して精製することができる。
ポリマー溶液の固形分濃度は、顔料含有ポリマー粒子の水分散体の生産性を向上させる観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下である。
【0035】
(ポリマーbの物性)
ポリマーbの重量平均分子量は、顔料含有ポリマー粒子の分散安定性を向上させる観点、及びインクの間欠吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは5000以上、より好ましくは1万以上、更に好ましくは2万以上、より更に好ましくは3万以上であり、そして、好ましくは50万以下、より好ましくは30万以下、更に好ましくは15万以下である。
なお、重量平均分子量の測定は、実施例に記載の方法により行うことができる。
ポリマーbの酸価は、顔料含有ポリマー粒子の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは80mgKOH/g以上、より好ましくは90mgKOH/g以上、更に好ましくは100mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは350mgKOH/g以下、より好ましくは300mgKOH/g以下、更に好ましくは250mgKOH/g以下である。
なお、ポリマーbの酸価は、実施例に記載の方法により測定される。
【0036】
〔顔料含有ポリマー粒子の製造〕
顔料含有ポリマー粒子は、水分散体として下記の工程I及び工程IIを有する方法により、効率的に製造することができる。
工程I:ポリマーb、有機溶媒、顔料、及び水を含有する混合物(以下、「顔料混合物」ともいう)を分散処理して、顔料含有ポリマー粒子の分散体を得る工程
工程II:工程Iで得られた分散体から前記有機溶媒を除去して、顔料含有ポリマー粒子の水分散体(以下、「顔料水分散体」ともいう)を得る工程
【0037】
(工程I)
工程Iでは、まず、ポリマーbを有機溶媒に溶解させ、次に顔料、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を、得られた有機溶媒溶液に加えて混合し、水中油型の分散体を得る方法が好ましい。ポリマーbの有機溶媒溶液に加える順序に制限はないが、水、中和剤、顔料の順に加えることが好ましい。
ポリマーbを溶解させる有機溶媒に制限はなく、脂肪族アルコール、ケトン、エーテル、エステル等が挙げられるが、顔料への濡れ性、ポリマーbの溶解性及び顔料への吸着性を向上させる観点から、炭素数4以上8以下のケトンが好ましく、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンがより好ましく、メチルエチルケトンが更に好ましい。
ポリマーbを溶液重合法で合成した場合には、重合で用いた溶媒をそのまま用いてもよい。
【0038】
(中和)
ポリマーbが酸基を有する場合、該酸基の少なくとも一部は、中和剤を用いて中和されていることが好ましい。これにより、中和後に発現する電荷反発力が大きくなり、水性インクにおける顔料粒子の凝集を抑制し、顔料の分散安定性を向上できると考えられる。
中和する場合は、pHが7以上11以下になるようにすることが好ましい。
中和剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、各種アミン等の塩基が挙げられるが、好ましくは水酸化ナトリウム及びアンモニアである。
また、ポリマーbを予め中和しておいてもよい。
中和剤の使用当量は、分散安定性を向上させる観点から、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは30モル%以上であり、また、好ましくは150モル%以下、より好ましくは120モル%以下、更に好ましくは100モル%以下である。ここで中和剤の使用当量は、中和前のポリマーb’を「ポリマーb’」とする場合、次式によって求めることができる。
中和剤の使用当量(モル%)=〔{中和剤の添加質量(g)/中和剤の当量}/[{ポリマb-1’の酸価(mgKOH/g)×ポリマー(B)の質量(g)}/(56×1,000)]〕×100
【0039】
(顔料混合物中の各成分の含有量)
工程Iにおける顔料混合物中の各成分の含有量は、顔料水分散体の分散安定性及びインクの吐出安定性を向上させ、印刷画質を向上させる観点から、以下のとおりである。
顔料の顔料混合物中の含有量は、好ましくは8質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは12質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
ポリマーbの顔料混合物中の含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは4質量%以上であり、そして、好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
有機溶媒の顔料混合物中の含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは12質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。
水の顔料混合物中の含有量は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは65質量%以下である。
ポリマーbに対する顔料の顔料混合物中の質量比〔顔料/ポリマーb〕は、上記と同様の観点から、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上、更に好ましくは1.5以上であり、そして、好ましくは7以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下である。
【0040】
(顔料混合物の分散処理)
工程Iにおける分散処理は、剪断応力による本分散だけで顔料粒子を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、均一な顔料水分散体を得る観点から、顔料混合物を予備分散した後、さらに本分散することが好ましい。
予備分散に用いる分散機としては、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができる。
本分散に用いる剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。これらの中でも、顔料を小粒子径化する観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
高圧ホモジナイザーを用いて分散処理を行う場合、処理圧力やパス回数の制御により、顔料を所望の粒径になるように制御することができ、後述する顔料水散体の平均粒径も調整することができる。
処理圧力は、生産性及び経済性の観点から、好ましくは60MPa以上、より好ましくは100MPa以上、更に好ましくは150MPa以上であり、そして、好ましくは300MPa以下、より好ましくは250MPa以下である。
また、パス回数は、顔料の小粒子径化及び分散安定性の観点から、好ましくは3パス以上、より好ましくは7パス以上であり、そして、好ましくは30パス以下、より好ましくは20パス以下である。
【0041】
(工程II)
工程IIは、工程Iで得られた分散体から有機溶媒を除去して、顔料含有ポリマー粒子の水分散体(顔料水分散体)を得る工程である。有機溶媒の除去は、公知の方法で行うことができる。得られた顔料水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残留していてもよい。残留有機溶媒の量は、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下である。
工程IIで得られた顔料水分散体に多官能エポキシ化合物等の架橋剤を添加し、顔料含有ポリマー粒子を架橋させて、顔料含有架橋ポリマー粒子を含む顔料水分散体を得て、これを顔料水分散体として用いることもできる。
【0042】
顔料水分散体の固形分濃度は、顔料水分散体の分散安定性を向上させる観点及びインクの製造を容易にする観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。固形分濃度は、実施例に記載の方法により測定される。
顔料水分散体中の顔料の含有量は、分散安定性を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
顔料水分散体中の顔料含有ポリマー粒子を構成するポリマーbに対する顔料の質量比[顔料/ポリマーb]は、好ましくは1以上、より好ましくは1.5以上であり、そして、好ましくは8以下、より好ましくは4以下である。
【0043】
顔料水分散体中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、保存安定性を向上させる観点から、好ましくは40nm以上、より好ましくは60nm以上、より更に好ましくは80nm以上であり、そして、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下、更に好ましくは120nm以下である。
平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0044】
<有機溶媒>
本発明に係る水性インクは、吐出安定性、印刷画質を向上させる観点から、沸点100℃以上260℃以下の有機溶媒を含有することが好ましい。有機溶媒は、25℃の水100mlに溶解させたときに、その溶解量が10ml以上である水溶性有機溶媒が好ましい。
有機溶媒の沸点は、上記と同様の観点から、好ましくは110℃以上、より好ましくは120℃以上であり、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは245℃以下である。かかる有機溶媒としては、多価アルコール、グリコールエーテルの他、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン等の含窒素複素環化合物、アルカノールアミン等が挙げられるが、多価アルコール及びグリコールエーテルから選ばれる1種以上が好ましく、多価アルコールがより好ましい。
【0045】
多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール等の1,2-アルカンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、ペトリオール等が挙げられる。
これらの中では、上記と同様の観点から、炭素数2以上6以下のアルカンジオールが好ましく、エチレングリコール(沸点197℃)、プロピレングリコール(沸点188℃)、1,2-ヘキサンジオール(沸点223℃)、及びジエチレングリコール(沸点245℃)から選ばれる1種以上がより好ましい。
【0046】
グリコールエーテルとしては、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、アルキレングリコールジアルキルエーテル等が挙げられるが、上記と同様の観点から、炭素数5以上10以下のグリコールエーテルが好ましく、炭素数5以上10以下のアルキレングリコールモノアルキルエーテルがより好ましい。
アルキレングリコールモノアルキルエーテルの具体例としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
これらの中では、炭素数5以上8以下のアルキレングリコールモノアルキルエーテルが好ましく、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(沸点142℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点194℃)、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(沸点207℃)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(沸点220℃)、及びジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点188℃)から選ばれる1種以上がより好ましい。
【0047】
本発明に係る水性インクにおいては、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の他の有機溶媒を含有してもよい。使用し得る沸点が100℃未満の水溶性有機溶媒としては、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール等の一価アルコールが挙げられる。沸点が260℃を超える水溶性有機溶媒としては、トリエチレングリコール(沸点285℃)、トリプロピレングリコール(沸点273℃)、グリセリン(沸点290℃)、ポリプロピレングリコール(沸点260℃超)等が挙げられる。
【0048】
本発明に係る水性インクは、吐出安定性、印刷画質を向上させる観点から、更に界面活性剤を含有することが好ましい。
界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤が好ましく、アセチレングリコール系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤から選ばれる1種以上がより好ましく、アセチレングリコール系界面活性剤が更に好ましい。
【0049】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、2,4-ジメチル-5-ヘキシン-3-オール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール等のアセチレン系ジオール、及びそれらのエチレンオキシド付加物が挙げられる。
前記エチレンオキシド付加物のエチレンオキシ基(EO)の平均付加モル数の和(n)は、好ましくは1以上、より好ましくは1.5以上であり、そして、好ましくは20以下、より好ましくは10以下である。
アセチレングリコール系界面活性剤の市販品例としては、日信化学工業株式会社製の「サーフィノール」シリーズ、「オルフィン」シリーズ、川研ファインケミカル株式会社製の「アセチレノール」シリーズ等が挙げられる。これらの中でも、サーフィノール104PG50(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのプロピレングリコール溶液、有効分50%)、サーフィノール420(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのEO付加物、n:1.3)、サーフィノール440(EO平均付加モル数:3.5)、サーフィノール465(EO平均付加モル数:10)、オルフィンE1010、アセチレノールE100、アセチレノールE200、アセチレノールE40、アセチレノールE60、アセチレノールE81、アセチレノールE100等が好ましい。
【0050】
シリコーン系界面活性剤としては、ジメチルポリシロキサン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン等が挙げられるが、上記と同様の観点から、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤が好ましい。
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤は、シリコーンオイルの側鎖及び/又は末端の炭化水素基を、ポリエーテル基で置換された構造を有するものである。該ポリエーテル基としては、ポリエチレンオキシ基、ポリプロピレンオキシ基、エチレンオキシ基(EO)とプロピレンオキシ基(PO)がブロック状又はランダムに付加したポリアルキレンオキシ基が好適であり、シリコーン主鎖にポリエーテル基がグラフトした化合物、シリコーンとポリエーテル基がブロック状に結合した化合物等を用いることができる。
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤の具体例としては、信越化学工業株式会社製のKFシリーズ;KF-353、KF-355A、KF-642等、日信化学工業株式会社製のシルフェイスSAG005、株式会社NUC製のFZ-2191、ビックケミー・ジャパン株式会社製のBYK-348等が挙げられる。
【0051】
[水性インクの製造]
本発明に係る水性インクは、ポリマー粒子が水に分散してなるポリマーエマルション、前記工程IIで得られた顔料含有ポリマー粒子の水分散体、及び必要に応じて、更に有機溶媒、界面活性剤を混合することにより製造することができる。各成分の混合方法に特に制限はない。
水性インクには、更に必要に応じて、インクに通常用いられる保湿剤、湿潤剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等の添加剤を添加することができる。
【0052】
本発明に係る水性インク中の各成分の含有量、インク物性は、インクジェット方式で直接高速印刷しても吐出安定性に優れ、非吸液性印刷媒体に対して良好な濡れ性及び乾燥性を発揮させ、高品質の印刷物を得る観点から、以下のとおりである。
(ポリマーエマルションの含有量)
水性インク中の前記ポリマーエマルションの含有量は、ポリマーエマルションの安定性を向上させる観点、及び上記の観点から、インク中、固形分として、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上であり、間欠吐出安定性を向上する観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは6質量%以下である。
【0053】
(顔料の含有量)
水性インク中の顔料の含有量は、水性インクの印刷濃度を向上させる観点、及び上記の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは2.5質量%以上であり、そして、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましく6質量%以下である。
水性インク中の顔料含有ポリマー粒子の含有量は、上記と同様の観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは7質量%以上であり、そして、好ましくは15質量%以下、より好ましくは13質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0054】
(有機溶媒の含有量)
水性インク中の有機溶媒の含有量は、上記の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは18質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
有機溶媒全量中の沸点100℃以上260℃以下の水溶性有機溶媒の含有量は、好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。
【0055】
(界面活性剤の含有量)
水性インク中の界面活性剤、好ましくはアセチレングリコール系界面活性剤の含有量は、上記の観点から、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
(水の含有量)
水性インク中の水の含有量は、上記の観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは85質量%以下、より好ましくは75質量%以下、更に好ましくは65質量%以下である。
【0056】
(水性インクの物性)
水性インク中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、顔料水分散体中の顔料含有ポリマー粒子の平均粒径とほぼ同一であり、上記の観点から、好ましくは40nm以上、より好ましくは60nm以上、より更に好ましくは80nm以上であり、そして、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下、更に好ましくは120nm以下である。
顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
水性インクの32℃の粘度は、上記の観点から、好ましくは2mPa・s以上、より好ましくは3mPa・s以上、更に好ましくは4mPa・s以上であり、そして、好ましくは12mPa・s以下、より好ましくは9mPa・s以下、更に好ましくは7mPa・s以下である。
水性インクのpHは、インクの保存安定性を向上させる観点から、好ましくは7以上、より好ましくは7.2以上、更に好ましくは7.5以上である。そして、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、pHは、好ましくは11以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは9.5以下である。
【0057】
[インクジェット印刷方法]
本発明のインクジェット印刷方法は、中間転写型インクジェットのように中間転写体に印刷する方式でなく、インクジェット印刷ヘッドの吐出ノズルから印刷媒体に本発明に係る水性インクを直接吐出する印刷方法である。
インクジェット印刷装置としては、サーマル式及びピエゾ式のいずれも使用できるが、ピエゾ式のインクジェット印刷装置がより好ましい。印刷ヘッドとしては、印刷媒体の幅程度の長尺のラインヘッド方式が好ましい。ラインヘッド方式の印刷ヘッドは固定されており、印刷媒体を搬送方向に移動させ、印刷媒体の移動に連動して印刷ヘッドのノズル開口からインク液滴を吐出させることにより、画像等を高速印刷することができる。
【0058】
印刷媒体は特に制限されないが、非吸液性印刷媒体が好ましく、コート紙、アート紙、合成紙、加工紙等の紙;ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等からなる樹脂フィルム等が挙げられ、ロール形態の樹脂フィルムが好ましい。
樹脂フィルムとしては、印刷物を製造した後の打ち抜き加工等の後加工適性の観点から、ポリエステルフィルム及びポリプロピレンフィルムが好ましい。これらの樹脂フィルムは、二軸延伸、一軸延伸又は無延伸のフィルムであってもよく、印刷適性を向上させる観点から、コロナ放電処理、プラズマ放電処理等の表面処理を行ったものでもよい。
【0059】
印刷ヘッドの温度は、印刷ヘッド内のヒーターで制御が可能であり、印刷時の吐出ヘッド内、好ましくはラインヘッド内の温度は、ポリマー結晶部の融解を抑制し、吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは25℃以上、より好ましくは30℃以上であり、そして、好ましくは40℃以下、より好ましくは35℃以下である。
印刷媒体の温度は、乾燥性を高め、高品質の印刷物を得る観点から、好ましくは35℃以上、より好ましくは40℃以上、更に好ましくは45℃以上であり、そして、好ましくは95℃以下、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは85℃以下である。
印刷に際しては、吐出安定性、印刷画質を向上させる観点から、印刷ヘッドの温度よりも印刷媒体の温度を、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは15℃以上、より更に好ましくは20℃以上高くする。
【0060】
また、印刷ヘッドの温度がポリマー粒子を構成するポリマーの融点よりも、好ましくは3℃以上低く、より好ましくは5℃以上低く、更に好ましくは8℃以上低く、印刷媒体の温度がポリマー粒子を構成するポリマーの融点よりも、好ましくは2℃以上高く、より好ましくは4℃以上高く、更に好ましくは6℃以上高いように設定することが好ましい。
ポリマー融点は、示差走査熱量計を用いて、実施例に記載の方法により測定することができる。
印刷媒体を加熱する方法としては、赤外線を照射する方法、オーブン等で加熱した雰囲気に曝す方法、加熱した金属等の物体と接触させる方法等の公知の方法が挙げられる。
【0061】
インク吐出がピエゾ方式の場合、印刷ヘッドの印加電圧は、高速印刷の効率性等の観点から、好ましくは5V以上、より好ましくは10V以上、更に好ましくは15V以上であり、そして、好ましくは40V以下、より好ましくは35V以下、更に好ましくは30V以下である。
駆動周波数は、高速印刷の効率性等の観点から、好ましくは1kHz以上、より好ましくは5kHz以上、更に好ましくは10kHz以上であり、そして、好ましくは60kHz以下、より好ましくは50kHz以下、更に好ましくは40kHz以下である。
インクの吐出液滴量は、インク液滴の着弾位置の精度を維持する観点、及び印刷画質を向上させる観点から、1滴あたり好ましくは30pL以下であり、より好ましくは20pL以下、更に好ましくは10pL以下、より更に好ましくは8pL以下であり、そして、好ましくは0.5pL以上、より好ましくは1pL以上、更に好ましくは1.5pL以上、より更に好ましくは2pL以上である。
印刷ヘッドの解像度は、好ましくは200dpi以上、より好ましくは300dpi以上であり、そして、好ましくは1200dpi以下、より好ましくは1000dpi以下、更に好ましくは800dpi以下が好ましい。
インクの印刷媒体上の付着量は、印刷画質の向上及び印刷速度の観点から、固形分として、好ましくは0.1g/m2以上、より好ましくは0.2g/m2以上であり、そして、好ましくは10g/m2以下、より好ましくは5g/m2以下、更に好ましくは3g/m2以下である。
本発明においては、インクジェット印刷した後、乾燥し又は乾燥せずに、更に、本発明の水性インクをインクジェット印刷することができる。
【実施例】
【0062】
以下の製造例、調製例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。
【0063】
(1)ポリマーの数平均分子量及び重量平均分子量の測定
N,N-ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲル浸透クロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC-8320GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSKgel SuperAWM-H、TSKgel SuperAW3000、TSKgel guardcolum Super AW-H)、流速:0.5mL/min〕により、標準物質として分子量既知の単分散ポリスチレンキット〔PStQuick B(F-550、F-80、F-10、F-1、B-1000)、PStQuick C(F-288、F-40、F-4、A-5000、A-500)、東ソー株式会社製〕を用いて測定した。
測定サンプルは、ガラスバイアル中にポリマー0.1gを前記溶離液10mLと混合し、25℃で10時間、マグネチックスターラーで撹拌し、シリンジフィルター(DISMIC-13HP、PTFE、0.2μm、アドバンテック株式会社製)で濾過したものを用いた。
【0064】
(2)ポリマーの酸価の測定
電位差自動滴定装置(京都電子工業株式会社製、電動ビューレット、型番:APB-610)に樹脂をトルエンとアセトン(2+1)を混合した滴定溶剤に溶かし、電位差滴定法により0.1N水酸化カリウム/エタノール溶液で滴定し、滴定曲線上の変曲点を終点とした。水酸化カリウム溶液の終点までの滴定量から酸価を算出した。
【0065】
(3)ポリマーの融点の測定
ポリマーの融点は、JIS K0064に準拠して行った。具体的には、示差走査熱量計(Q20、ティー・エイ・インスルメント社製)を用いて、試料を200℃まで加熱し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した。次に試料を昇温速度10℃/分で昇温し、200℃まで熱量を測定した。
観測された融解熱ピークのうち、ピーク面積が最大のピークの温度を融解の最大ピーク温度として、該ピーク温度を融点とした。上記温度範囲で融解熱ピークが観察されないポリマーは、融点を有さないと判断した。
【0066】
(4)ポリマー溶液、顔料水分散体の固形分濃度の測定
赤外線水分計「FD-230」(株式会社ケツト科学研究所製)を用いて、測定試料5gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分/変動幅0.05%)の条件にて乾燥させた後、測定試料の水分(%)を測定し、下記式により固形分濃度を算出した。
固形分濃度(%)=100-測定試料の水分(%)
【0067】
(5)顔料含有ポリマー粒子の平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム「ELS-8000」(大塚電子株式会社製)を用いてキュムラント解析を行い、平均粒径を測定した。測定する粒子の濃度が5×10-3重量%(固形分濃度換算)になるよう水で希釈した分散液を用いた。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力し、得られたキュムラント平均粒径をポリマー粒子の平均粒径とした。
【0068】
<ポリマーエマルションの製造>
製造例1
アクリル酸ステアリル(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)126部、アクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)25部、メタクリル酸メチル(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)43部を混合し、モノマー混合液を調製した。反応容器内に、メチルエチルケトン(MEK)9部及び前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、滴下ロートに、モノマー混合液の残りの90%、MEK85部、及びアゾ系ラジカル重合開始剤(富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:V-501、4,4’-アゾビス(4-シアノバレロニトリル)2部の混合液を入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の前記モノマー混合液を攪拌しながら80℃まで昇温し、滴下ロート中の混合液を3時間かけて滴下した。滴下終了から80℃で2時間経過後、前記重合開始剤0.3部をMEK5部に溶解した溶液を加え、更に80で2時間、85℃で2時間熟成させ、長鎖アルキルを有するポリマー溶液(ポリマーの数平均分子量:85,000)を得た。
得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られた水不溶性ポリマー30部をメチルエチルケトン120部に加え70℃の湯浴内で溶かし、その中に中和剤として5N水酸化ナトリウム水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)4部を加え撹拌しながらイオン交換水271部を滴下しポリマー粒子の水分散液を得た。得られた水分散液を、減圧下60℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去し、遠心分離し、液層部分をフィルター(ザルトリウス社製、商品名:ミニザルトシリンジフィルター、孔径:5μm、材質:酢酸セルロース)で濾過して粗大粒子を除き、ポリマー粒子が水に分散してなるポリマーエマルション(1)を得た。結果を表1に示す。
【0069】
製造例2~5、比較製造例1~2
製造例1において、表1に示すようにモノマーの種類、量を変えた以外は、製造例1と同様にしてポリマーエマルション(2)~(5)、(11)~(12)を得た。結果を表1に示す。
【0070】
比較製造例3
アクリル酸(和光純薬工業株式会社製、試薬)39部、スチレン(富士フイルム和光純薬株式会社製)151部、α-メチルスチレン(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)10部を混合し、モノマー混合液を調製した。反応容器内に、MEK20部、2-メルカプトエタノール(重合連鎖移動剤)0.3部、及び前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、滴下ロートに、モノマー混合液の残りの90%、前記重合連鎖移動剤0.27部、MEK60部及びアゾ系ラジカル重合開始剤〔富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:V-65、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)〕2.2部の混合液を入れ、以降は製造例1と同様にして、ポリマー溶液(ポリマーの数平均分子量:16,000)を得た。
得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られた水不溶性ポリマー30部をMEK 120部に加えて溶かし、その中に中和剤として5N水酸化ナトリウム水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)10部を加え、以降は製造例1と同様にして、ポリマーエマルション(13)を得た。結果を表1に示す。
【0071】
【0072】
<顔料含有ポリマー粒子の水分散体の調製>
調製例1
(1)水不溶性ポリマーの合成
メタクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)14部、スチレン(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)46部、スチレンマクロモノマー「AS-6S」(東亞合成株式会社製、数平均分子量6,000、固形分50%)30部、ポリプロピレングリコールメタクリレート「ブレンマーPP-1000」(日油株式会社)25部、MEK25部を混合し、モノマー混合液140部を調製した。
反応容器内に、MEK18部及び連鎖移動剤である2-メルカプトエタノール0.03部、及び前記モノマー混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、モノマー混合液の残りの90%と前記連鎖移動剤0.27部、MEK42部及び重合開始剤「V-65」(富士フイルム和光純薬株式会社製)3部を混合した混合液を滴下ロートに入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了から75℃で2時間経過後、前記重合開始剤3部をMEK5部に溶解した溶液を加え、更に75℃で2時間、80℃で2時間熟成させ、水不溶性ポリマー(重量平均分子量:60,000、酸価:75mgKOH/g)の溶液を得た。水不溶性ポリマー溶液の固形分濃度は60%であった。
【0073】
(2)顔料含有ポリマー粒子の水分散体Aの調製
前記(1)で得られた水不溶性ポリマー溶液を減圧乾燥させて得られた水不溶性ポリマー37部をMEK148部に溶かし、その中に中和剤として5N水酸化ナトリウム水溶液12.5部と25%アンモニア水2部、及びイオン交換水372部を加え、更にシアン顔料(C.I.ピグメント・ブルー15:3、DIC株式会社製、商品名:TGR-SD)100部を加え、顔料混合液を得た。中和度は100モル%であった。
顔料混合液をディスパー(淺田鉄工株式会社製、商品名:ウルトラディスパー)を用いて7,000rpm、20℃の条件下で1時間混合した。得られた水分散液をマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名:高圧ホモジナイザーM-140K)を用いて、180MPaの圧力で15パス分散処理した。
得られた顔料含有ポリマー粒子の水分散液を、減圧下60℃でMEKを除去し、更に一部の水を除去し、遠心分離し、液層部分をミニザルトシリンジフィルター(孔径:5μm)で濾過して粗大粒子を除き、顔料含有ポリマー粒子の水分散体Aを得た。固形分濃度は20%であり、顔料含有ポリマー粒子の平均粒径は100nmであった。
【0074】
〔水性インクの製造と評価〕
実施例1(水性インク1の製造)
調製例1で得られた顔料含有ポリマー粒子の水分散体A〔固形分濃度:20%、顔料14.6%、ポリマー5.4%〕24部、プロピレングリコール35部、アセチレングリコール系界面活性剤(製品名;サーフィノール465、Air Products & Chemicals社製、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエチレンオキシド10モル付加物)1.5部、製造例1で得たポリマーエマルション(1)(固形分濃度:20%)20部、及び全量を100部となるようにイオン交換水を添加、混合した。得られた混合液をミニザルトシリンジフィルター(孔径:1.2μm)で濾過して、水性インク1(平均粒径は100nm)を得た。
得られた水性インクの濡れ性、乾燥性、間欠吐出安定性の評価、及び印刷画像の目視評価を下記の方法で行った。結果を表2に示す。
【0075】
実施例2~5、比較例1~3(水性インク2~5、11~13の製造)
実施例1において、ポリマーエマルション(1)をポリマーエマルション(2)~(5)、(11)~(13)に変えた以外は、実施例1と同様の操作を行って、水性インク2~5、11~13を得た。
得られた水性インクの濡れ性、乾燥性、間欠吐出安定性の評価、及び印刷画像の目視評価を下記の方法で行った。結果を表2に示す。
【0076】
<インクの濡れ性の評価>
ポータブル接触角計(協和界面科学株式会社製、商品名:PCB-1)を用いて、25℃及び60℃のホットプレート上で、樹脂フィルム(東レ株式会社製のPETフィルム、商品名:ルミラー75T60)上に、水性インクを2μL滴下し、1000msec後のインクの動的接触角(°)を測定し、下記式より接触角減少値(°)を算出し、インクの濡れ性を評価した。
(評価基準)
接触角減少値(°)=60℃におけるインクの動的接触角-25℃におけるインクの動的接触角
接触角減少値が負に大きいほど、印刷・乾燥時の樹脂フィルム上でのインク濡れ性が優れていると判断される。濡れ性の優れるインクほど、印刷時のインク滴が樹脂フィルム上で濡れ広がるため、基材上でのインク滴の埋まりが向上し画質が良好になる。
【0077】
<インクの乾燥性の評価>
水性インク0.1gをプラスチックカップ(Corning社製)上に量り採り、温度60℃、湿度30%RHに設定した恒温恒湿器(楠本化成株式会社製、商品名:ETAC HYFLEX)中に2時間静置し、2時間後の質量を測定し、インクの質量変化から、下記式よりインクの質量減少率(%)を算出し、インクの乾燥性を評価した。
(評価基準)
質量減少率(%)=〔(初期のインク質量-2時間乾燥後のインク質量)/(初期のインク質量)〕×100
インクの質量減少率が大きいほど、印刷・乾燥時のインクの乾燥性が優れていると判断される。
【0078】
<インクの間欠吐出安定性の評価>
(1)インクジェット印刷
温度32℃の環境で、印刷ヘッド(京セラ株式会社製、「KJ4B-HD06MHG-STDV」、ピエゾ式)を装備したインクジェット印刷評価装置(株式会社トライテック製)に実施例及び比較例で得られた水性インクを充填した。
印刷ヘッド電圧26V、駆動周波数30kHz、吐出液滴量7pL、印刷ヘッド温度32℃、印刷ヘッド解像度600dpiに設定した。
60℃に加熱した樹脂フィルム(東レ株式会社製、ポリエチレンテレフタレート、商品名:ルミラーT60#75、耐熱規格:105℃)上にDuty100%のベタ画像を印刷した。
(2)インクの間欠吐出安定性の評価
ベタ画像印刷後10分間、ノズル面を保護することなく放置し、全てのノズル(2656個)から吐出したかどうか判別できる印刷チェックパターンを紙面上に印字した際のノズル欠け(正常に吐出していないノズル)数をカウントし、以下の評価基準により吐出性を評価した。
ノズル欠け数が少ないほど間欠吐出安定性が良好である。
(評価基準)
A:ノズル欠けなし
B:ノズル欠け1~5
C:ノズル欠け6以上
【0079】
<印刷画像の目視評価>
得られたベタ印刷画像を目視で観察し、以下の評価基準により評価した。
(評価基準)
A:印刷部全面がインクで被覆されている。
B:印刷部にわずかでもインクで被覆されていない部分が存在する。
【0080】
【0081】
表2から、本発明に係るポリマー粒子を用いた実施例1~5の水性インクは、間欠吐出安定性が優れていることが分かる。これは、実施例1~5で使用したポリマーの融点が44~56℃であり、印刷ヘッド温度32℃では該ポリマーが結晶状態となっており、吐出性に悪影響を与えないためであると考えられる。
また、実施例1~5と比較例1~3を対比すると、実施例1~5で得られた印刷物は優れた画像を示した。比較例1~3で得られた印刷物は、樹脂フィルム上でのインク滴の埋まりが悪く、実施例1~5に比べて劣る画像となった。これはインクの濡れ性評価の結果と一致しており、60℃に加熱した樹脂フィルム上では、実施例で使用したポリマーは疎水性側鎖の結晶が融解した非晶質状態となっており、ポリマー粒子を含むエマルションの水和層が縮退し、実施例のインク粘度が比較例のインク粘度に比べ大幅に低下したため濡れ性が向上したためであると考えられる。
また、実施例1~5の水性インクは乾燥性も優れており、非吸液性印刷媒体に対しても高品質の印刷物を得ることができる。濡れ性の差は、評価に用いる基材の種類によっては、大きな差になると考えられる。