(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】粒子計数器
(51)【国際特許分類】
G01N 15/02 20060101AFI20230104BHJP
G01N 21/05 20060101ALI20230104BHJP
【FI】
G01N15/02 A
G01N21/05
(21)【出願番号】P 2019009879
(22)【出願日】2019-01-24
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000115636
【氏名又は名称】リオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120592
【氏名又は名称】山崎 崇裕
(74)【代理人】
【識別番号】100192223
【氏名又は名称】加久田 典子
(72)【発明者】
【氏名】松田 朋信
(72)【発明者】
【氏名】水上 敬
(72)【発明者】
【氏名】阪上 大輔
(72)【発明者】
【氏名】篠▲崎▼ 大将
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-243632(JP,A)
【文献】特開平05-240769(JP,A)
【文献】特開平07-218417(JP,A)
【文献】実開昭53-100289(JP,U)
【文献】国際公開第2004/029589(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/00 - 15/14
G01N 21/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置本体に設置された流路内を流れる試料流体に含まれる粒子を前記流路内に照射した照射光を用いて計数する粒子計数装置であって、
前記照射光を出射する光源と、
前記照射光を光軸上の所定位置に照射する照射光学系と、
前記流路を内部に有し前記装置本体に対する位置が固定の透明体で構成され、外部から入射した前記照射光が前記流路内で前記所定位置に照射されることで前記粒子の検出領域が形成される区間を第1方向に複数配列した状態で複数の前記流路の配列を形成するマルチフローセルと、
前記検出領域を通過する前記粒子から生じる放出光を前記第1方向と直交する第2方向を光軸として受光する受光光学系と、
前記流路内に入射する前記照射光の光軸及び前記受光光学系が受光する前記放出光の光軸を複数の前記流路の配列に沿って前記第1方向に移動させる光軸移動手段と、
前記受光光学系により受光される放出光の強度に基づいて、前記粒子を粒径毎に計数する計数手段と
を備えた粒子計数装置。
【請求項2】
請求項1に記載の粒子計数装置において、
前記受光光学系の焦点を前記第2方向に調整する焦点調整手段
をさらに備えた粒子計数装置。
【請求項3】
請求項2に記載の粒子計数装置において、
前記焦点調整手段は、
前記受光光学系を支持するステージを前記第2方向に移動させることにより前記焦点を前記第2方向に調整するアクチュエータを含み、
前記光軸移動手段は、
前記照射光学系とともに前記アクチュエータを支持したステージを前記第1方向に移動させることにより前記各光軸を前記第1方向に移動させる別のアクチュエータを含むことを特徴とする粒子計数装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の粒子計数装置において、
前記マルチフローセルの内部に形成された複数の前記流路に関し、少なくとも、個々の前記流路の位置に対応して前記光軸移動手段により移動される前記第1方向における前記各光軸の位置を予め記憶する記憶手段をさらに備え、
前記光軸移動手段は、
前記検出領域が形成されることとなる前記流路に対応して前記記憶手段に予め記憶された前記各光軸の位置まで前記各光軸を移動させることを特徴とする粒子計数装置。
【請求項5】
請求項2又は3を引用する請求項4に記載の粒子計数装置において、
前記記憶手段は、
前記各光軸の位置に加え、個々の前記流路の位置に対応して前記焦点調整手段により調整される前記第2方向における前記焦点の位置を予め記憶し、
前記焦点調整手段は、
前記検出領域が形成されることとなる前記流路に対応して前記記憶手段に予め記憶された前記焦点の位置に前記焦点を調整することを特徴とする粒子計数装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の粒子計数装置において、
前記マルチフローセルは、
個々に前記流路を内部に有した透明体のフローセルを複数配列して構成されたものであり、個々の前記フローセルが前記マルチフローセル全体でみた前記第1方向及び第2方向の位置の基準となる部位に密着した状態で固定されることを特徴とする粒子計数装置。
【請求項7】
請求項6に記載の粒子計数装置において、
前記フローセルは、
略直方体形状であり、前記試料流体が流し込まれる流入口及び前記試料流体が排出される排出口が同一の面に形成されていることを特徴とする粒子計数装置。
【請求項8】
請求項7に記載の粒子計数装置において、
前記フローセルは、
前記流入口から前記第2方向に延びる第1流路と、前記排出口から前記第2方向に延びる第2流路と、前記第1方向及び前記第2方向のいずれとも直交する第3方向に延びて前記第1流路及び前記第2流路に接続する第3流路とで一路に形成された流路を有することを特徴とする粒子計数装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の粒子計数装置において、
前記放出光は、
散乱光又は蛍光であることを特徴とする粒子計数装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料流体に含まれる粒子の個数を計数する粒子計数器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の試料液体を連続的に測定するために複数個のフローセルを備えた測定装置が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。この測定装置においては、照射光学系及び受光光学系が所定の位置に固定される一方、水平方向に配列された複数個のフローセルが全体として移動可能に設けられており、測定対象とするフローセルが照射光学系の光路上にくるように複数個のフローセル全体を水平方向に移動させて位置決めをした上で、試料液体の測定が行われる。また、試料液体の出入口は各フローセルの上下に設けられており、試料液体はフローセルの下部から流入されて上部から排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の先行技術では、フローセルの移動に伴って各フローセルに接続された配管も動かされることとなる。そのため、測定を続けるうちに配管とフローセルとの接続部が緩んできたり、或いは配管の屈曲した部位に負荷が蓄積されて亀裂が生じたりし易く、これらに起因して試料液体が漏出する虞がある。また、試料液体が下から上へ流される構造であり、試料液体を流入させる配管及び排出させる配管がそれぞれ各フローセルの下部と上部に接続されるため配管の取り回しに多くのスペースを必要とすることから、装置が大型化することはどうしても避けられない。
【0005】
そこで本発明は、粒子計数装置において試料流体の漏出を防止する技術、また、そのような粒子計数装置を小型化する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の粒子計数装置を提供する。なお、以下の括弧書中の文言はあくまで例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0007】
すなわち、本発明の粒子計数装置は、装置本体に設置された流路内を流れる試料流体に含まれる粒子を流路内に照射した照射光を用いて計数する粒子計数装置であって、照射光を出射する光源と、照射光を光軸上の所定位置に照射する照射光学系と、照射光が所定位置に照射されることで粒子の検出領域が形成される流路が内部に複数配列されたマルチフローセルと、検出領域を通過する粒子から生じる放出光を受光する受光光学系と、流路内に入射する照射光の光軸及び受光光学系が受光する放出光の各光軸を複数の流路の配列に沿って移動させる光軸移動手段と、受光光学系により受光される放出光の強度に基づいて粒子を粒径毎に計数する計数手段とを備える。
【0008】
マルチフローセルは、流路を内部に有し装置本体に対する位置が固定の透明体で構成されており、マルチフローセルの内部に複数配列された流路の装置本体に対する位置は一定である。また、マルチフローセルは、粒子の検出領域が形成される区間を第1方向(例えば、粒子計数装置の幅方向)に複数配列した状態で複数の流路の配列を形成する。受光光学系は、粒子から生じる放出光を第1方向と直交する第2方向(例えば、計数装置の奥行方向)を光軸として受光する。そして、光軸移動手段は、流路内に入射する照射光の光軸及び受光光学系が受光する放出光の光軸を第1方向に移動させる。
【0009】
この態様の粒子計数装置においては、マルチフローセルが有する複数の流路の中で、検出領域を形成する流路(照射光の集光先とする流路)を切り替えることにより、別の検出を行うことができるが、流路を切り替える際には、流路内に入射する照射光の光軸及び受光光学系が受光する放出光の光軸が第1方向に移動するのに対し、マルチフローセルは移動しない。したがって、この態様の粒子計数装置は、マルチフローセルに接続された配管を動かすものではないため、配管の動きに起因する緩みや亀裂等が生じ難くなり、試料流体の漏出を防止することができる。
【0010】
好ましくは、粒子計数装置は、受光光学系の焦点を第2方向に調整する焦点調整手段をさらに備える。
【0011】
この態様の粒子計数装置においては、検出領域を形成する流路の切り替えに伴って受光光学系の焦点が第2方向に調整され、焦点の位置が第2方向に移動するが、マルチフローセルはやはり移動しない。したがって、この態様の粒子計数装置も、マルチフローセルに接続された配管を動かすものではないため、配管の動きに起因して生じうる試料流体の漏出を防止することができる。
【0012】
より好ましくは、粒子計数装置において、焦点調整手段は、受光光学系を支持するステージを第2方向に移動させることにより焦点を第2方向に調整するアクチュエータを含む。また、光軸移動手段は、アクチュエータを支持したステージを照射光学系とともに第1方向に移動させることにより各光軸を第1方向に移動させる別のアクチュエータを含む。
【0013】
この態様の粒子計数装置においては、焦点調整手段及び光軸移動手段がそれぞれアクチュエータを有しており、焦点調整手段は、自己が有するアクチュエータを用いて受光光学系を第2方向に移動させる一方、光軸移動手段は、自己が有するアクチュエータを用いて照射光学系と焦点調整手段が有するアクチュエータとをまとめて第1方向に移動させる。したがって、この態様の粒子計数装置は、調整し得る要素(流路内に入射する照射光の光軸、受光光学系が受光する放出光の光軸、受光光学系の焦点)に関わる各構成(照射光学系、受光光学系)を個別に第1方向又は第2方向へ移動させることなく、同一方向への移動は複数の構成をまとめて行うため、流路の切り替えに伴う光軸の移動及び焦点の調整を効率よく行うことができる。
【0014】
さらに好ましくは、粒子計数装置は、マルチフローセルの内部に形成された複数の流路に関し、少なくとも、個々の流路の位置に対応して光軸移動手段により移動される第1方向における各光軸の位置を予め記憶する記憶手段をさらに備え、光軸移動手段は、検出領域が形成されることとなる流路に対応して記憶手段に予め記憶された各光軸の位置まで各光軸を移動させる。また、その粒子計数装置において、記憶手段は、各光軸の位置に加え、個々の流路の位置に対応して焦点調整手段により調整される第2方向における焦点の位置を予め記憶し、焦点調整手段は、検出領域が形成されることとなる流路に対応して記憶手段に予め記憶された焦点の位置に焦点を調整する。
【0015】
この態様の粒子計数装置においては、製造段階において、各流路の位置に対応した第1方向における各光軸の位置(例えば、幅方向における座標、X座標)と第2方向における焦点の位置(例えば、奥行方向における座標、Y座標)とが精密に調整されており、調整結果を踏まえて決定された各流路に対応する2つの方向における位置(各流路に対応するX座標及びY座標)が記憶手段に予め記憶されている。したがって、この態様の粒子計数装置は、流路の切り替えに伴いその流路に対応して予め記憶されている位置に応じた距離だけ自動的に移動させることで、流路内に入射する照射光の光軸及び受光光学系が受光する放出光の光軸と受光光学系の焦点とをその流路に最適な位置に移動させることができ、これにより粒子の検出及び計数を高精度に行うことが可能となる。
【0016】
また好ましくは、粒子計数装置において、マルチフローセルは、個々に流路を内部に有した透明体のフローセルを複数配列して構成されたものであり、個々のフローセルがマルチフローセル全体でみた第1方向及び第2方向の位置の基準となる部位に密着した状態で固定される。
【0017】
この態様の粒子計数装置によれば、マルチフローセルの内部における各フローセルの位置が意図した正しい位置にしっかりと固定されるため、各フローセルの位置がずれることに起因する粒子の検出及び計数の精度の低下を未然に防ぐことが可能となる。
【0018】
一層好ましくは、粒子計数装置において、フローセルは、略直方体形状であり、試料流体が流し込まれる流入口及び前記試料流体が排出される排出口が同一の面に形成されている。そして、フローセルは、流入口から第2方向に延びる第1流路と、排出口から第2方向に延びる第2流路と、第1方向及び第2方向のいずれとも直交する第3方向に延びて第1流路及び第2流路に接続する第3流路とで一路に形成された流路を有する。
【0019】
試料流体の流入口及び排出口が異なる面に形成されたフローセル(例えば、流路が略一直線状に形成されたフローセル)を複数配列してマルチフローセルを構成した場合には、配管用の空間を各面に対応して確保しなければならず、粒子計数装置の大型化は避けられない。これに対し、上記態様の粒子計数装置においては、試料流体の流入口及び排出口がフローセルの同一の面に形成されているため、マルチフローセルにおいては、その内部に有するフローセルに接続された配管がマルチフローセルの同一の面に整列する。したがって、この態様の粒子計数装置によれば、配管用に確保する空間は1面分だけで済み、粒子計数装置を小型化することができる。
【0020】
また、試料流体の流入口及び排出口が異なる面に形成されたフローセルを複数配列してマルチフローセルを構成した場合には、配管が異なる面に接続されるため、配管が延び出る方向によっては、フローセルから抜け出る照射光に配管が干渉したり、配管が他の構成部品に接触して撓ることで配管の内壁等から微細な粒子が発生したりし、これらがノイズ源となって検出精度を低下させる虞がある。これに対し、上記態様の粒子計数装置によれば、配管の照射光又は他の構成部品への干渉は生じ難いため、配管に起因するノイズの発生を防止することができ、粒子の検出及び計数を精度よく行うことができる。
【0021】
さらに好ましくは、粒子計数装置において、放出光は、散乱光又は蛍光である。
この態様の粒子計数装置によれば、散乱光又は蛍光のうち、試料流体に含まれる粒子の性質に応じてより受光し易い光を受光対象として選択することができ、粒子の検出及び計数の精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように本発明によれば、粒子計数装置において試料流体の漏出を防止することができるとともに、粒子計数装置を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】一実施形態における粒子計数器を簡略的に表す斜視図である。
【
図2】一実施形態における粒子計数器を表す正面図及び側面図である。
【
図3】一実施形態におけるフローセルを表す斜視図である。
【
図4】一実施形態におけるフローセルを表す垂直断面図(
図3中のIV-IV切断線に沿う断面図)である。
【
図5】一実施形態におけるフローセルを表す垂直断面図(
図3中のV-V切断線に沿う断面図)である。
【
図6】一実施形態におけるフローセルユニットの分解斜視図である。
【
図7】一実施形態における加圧ブッシュを表す斜視図である。
【
図8】各フローセルの固定態様を段階的に説明する図である。
【
図9】一実施形態におけるフローセルユニットの斜視図である。
【
図10】一実施形態における粒子計数器の構成を示す機能ブロック図である。
【
図11】他の実施形態における粒子計数器を簡略的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、添付の図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は好ましい例示であり、本発明はこの例示に限定されるものではない。
【0025】
〔粒子計数器の構成〕
図1は、一実施形態における粒子計数器1を簡略的に表す斜視図である。発明の理解を容易とするために、
図1においては一部の構成部品の図示を省略している。なお、粒子計数器1は粒子計数装置の一態様であり、計数器であるか計数装置であるかは呼称の違いに過ぎない。
【0026】
粒子計数器1を構成する光源20、ミラー30、照明用レンズ40、複数のフローセル10、受光ユニット50等の各構成部品は、図示しない治具等によりセンサベース2に対して直接的又は間接的に支持されている。センサベース2の底面には複数の脚部3が設けられており、脚部3は振動を吸収可能な防振ゴム等の弾性部材で形成されている。これにより、周囲で生じた振動の各構成部品への伝達を遮断している。また、粒子計数器1は、図示を省略した筐体に収容されている。したがって、センサベース2や図示しない筐体等は構造上、粒子計数器1における本体部分(計数器本体、装置本体)となる。
【0027】
粒子計数器1の設置状態又は使用状態において、センサベース2の長手方向を計数器本体の幅方向とし、これに直交する方向を前後(奥行き)方向とした場合、複数のフローセル10は、幅方向に配列されている。各フローセル10は、試料流体の入口及び出口をその正面側に有しており、各入口及び各出口にはそれぞれ配管が接続されている。
図1では図示を省略したが、各フローセル10は、フローセルホルダの内部に固定されており、これらが一体としてフローセルユニット(マルチフローセル)を構成する。フローセルホルダは、フローセルベースに取り付けられており、間接的にセンサベース2によって支持されている。
【0028】
なお、本実施形態においては、10個のフローセル10が幅方向に配列されているが、フローセル10の個数はこれに限定されない。フローセルユニットの内部構造については、別の図面を参照しながら詳しく後述する。また、以降の説明においては、複数のフローセル10が配列される方向(計数器本体の幅方向)を「X方向」と称し、X方向に延びる軸を「X軸」と称することとする。
【0029】
光源20は、センサベース2に固定されており、所定の波長の照射光La(例えば、レーザ光)を平行とみなすことができる範囲の広がり角でX方向に出射する。センサベース2は光源20のヒートシンクを兼ねており、光源20から発せられる熱を効率よく放熱させている。ミラー30は、光源20から出射された照射光Laをフローセル10内の検出領域に向けて反射する。また、反射した照射光Laの光路上には照明用レンズ40が設けられており、照射光Laは照明用レンズ40を通過する。これにより、照射光Laを集光させ(絞り込み)、エネルギ密度を高めた状態でフローセル10の検出領域に集光することができる。
【0030】
フローセル10の背後には、受光ユニット50が設けられている。受光ユニット50は、複数の受光用レンズ、受光素子、増幅器、A/D変換器等を備えている。複数の受光用レンズは、背景ノイズの受光を防止するために円筒形状の受光筒52に収容されている。照射光Laが入射するフローセル10において試料流体に含まれる粒子が検出領域を通過すると粒子から散乱光が生じるが、この散乱光は複数の受光用レンズにより集光され、受光素子(例えば、フォトダイオード)により受光されて電気信号に変換されたのち、最終的に散乱光の強度に応じた大きさの出力信号に変換されて図示されていない制御ユニットに送られ、出力信号で表す散乱光の強度に基づき粒径ごとに粒子の計数が行われる。粒子に蛍光物質が含まれている場合には、照射光の波長の設定により、粒子から蛍光が生じる。受光用レンズに波長を選択するための光学フィルタを追加することで、粒子から放出される蛍光を受光し、散乱光の場合と同様に計数することができる。
【0031】
なお、制御ユニットの構成については、別の図面を参照しながら後述する。また、以降の説明においては、受光用レンズの中心軸(以下、「受光軸」と称する。)を「Y軸」と称し、Y軸が延びる方向(計数器本体の前後方向)を「Y方向」と称することとする。鉛直方向を「Z方向」とした場合、X方向、Y方向、Z方向は、いずれも相互に直交する。
【0032】
ところで、粒子計数器1は、いくつかの構成部品をX方向に移動させるためのX軸ステージ60及びY方向に移動させるためのY軸ステージ70を備えている。このうち、X軸ステージ60は、X方向に延びるX軸アクチュエータ62のスライダ上に設けられており、Y軸ステージ70は、Y方向に延びるY軸アクチュエータ72のスライダ上に設けられている。また、Y軸アクチュエータ72のスライダは、X軸ステージ60上に設けられている。
【0033】
X軸アクチュエータ62及びY軸アクチュエータ72は、例えばリニアアクチュエータであり、内蔵のモータを駆動源として自身のスライダ上に設けられたステージをそのリニアガイドに沿ってスライドさせる。X軸アクチュエータ62は、センサベース2に固定されており、X軸モータを駆動源としてX軸ステージ60をX方向にスライドさせる。Y軸アクチュエータ72は、X軸ステージ60に固定されており、Y軸モータを駆動源としてY軸ステージ70をY方向にスライドさせる。X軸ステージ60がX方向にスライドすると、これに伴ってX軸ステージ60に支持されている部品全体がX方向に移動する。また、Y軸ステージ70がY方向にスライドすると、これに伴ってY軸ステージ70に支持されている部品全体がY方向に移動する。なお、これらの移動はセンサベース2をはじめとした計数器本体を固定した状態で行われる。
【0034】
上述した粒子計数器1の構成部品のうち、ミラー30及び照明用レンズ40は鉛直ブラケット65及びホルダ66を介してX軸ステージ60の前端に固定されており、Y軸ステージ70はY軸アクチュエータ72のスライダを介してX軸ステージ60に間接的に支持されている。また、受光ユニット50はY軸ステージ70に固定されている。したがって、X軸ステージ60のスライドに伴い、ミラー30、照明用レンズ40、受光ユニット50がX方向に移動し、Y軸ステージ70のスライドに伴い受光ユニット50がY方向に移動することとなる。
【0035】
なお、X軸アクチュエータ62及びY軸アクチュエータ72がそれぞれ駆動源とするX軸モータ及びY軸モータは、必ずしも内蔵される必要はなく、X軸アクチュエータ62及びY軸アクチュエータ72の外部に設けられてもよい。この場合に、Y軸モータはX軸ステージ60に支持されなくてもよい。
【0036】
続いて、
図2を参照しながら、X方向及びY方向への移動態様を具体的に説明する。
【0037】
図2中(A):一実施形態における粒子計数器1を表す正面図である。複数のフローセル10がフローセルホルダに収容されて一体化したフローセルユニット80は、フローセルベース5を介してセンサベース2に固定されている。図示された状態では、光源20から出射された照射光Laが、ミラー30に反射されて照明用レンズ40を通過し、正面側からみて一番右側のフローセル10の検出領域に絞り込まれている。
【0038】
ミラー30及び照明用レンズ40は、フローセル10の背後に位置する受光ユニット50の受光軸上に照射光Laを絞り込み、検出領域の中心を受光軸上に合わせる上で最適な位置に固定されている。また、各フローセル10に対応する受光軸(受光ユニット50)のX方向の位置に対応するX軸ステージ60の位置(以下、「X座標」と称する。)は、製造段階での調整結果に基づいて決定されており、制御ユニットに予め記憶されている。
【0039】
制御ユニットにおいて計数対象のチャネルが選択されると、X軸アクチュエータ62に内蔵されたX軸モータが駆動され、X軸ステージ60が計数対象のチャネルのフローセル10に対応するX座標までスライドする。そして、X軸ステージ60のスライドに伴い、X軸ステージ60により間接的に支持されたミラー30、照明用レンズ40、受光ユニット50がX方向に移動する。なお、図中に灰染色して示した部分は、X方向に移動可能な構成部品を示している。また、図中の二点鎖線は、正面側からみて左から3番目のフローセル10に対応するX座標までX軸ステージ60がスライドした場合における構成部品の位置を示している。
【0040】
図2中(B):一実施形態における粒子計数器1を表す側面図である。フローセルベース5を介してセンサベース2に固定されたフローセルユニット80からは、各フローセル10に接続された配管8が、筐体4の正面側に設けられた配管用窓から筐体4の外側に延びている。図示された状態では、受光筒52(受光ユニット50)が実線で示された位置に存在する。したがって、受光筒52とフローセルユニット80との間のY方向における距離は一定である。しかしながら、各フローセル10には製造段階におけるミクロン(μm)オーダでの加工誤差により若干の個体差が生じており、受光筒52と各フローセル10の検出領域との間のY方向における距離は一定ではない。
【0041】
そこで、受光ユニット50を各フローセル10に対応したY方向の位置に移動させてY方向の距離を補正し、受光筒52に収容された複数の受光用レンズの焦点の位置を高精度に調整する必要がある。このような調整を行うことにより、ナノ(nm)オーダの微細な粒子から生じる散乱光を受光素子に対して精密に集光することが可能となる。各フローセル10に対応する受光ユニット50のY方向の位置に対応するY軸ステージ70の位置(以下、「Y座標」と称する。)もまた、製造段階での調整結果に基づいて決定されており、制御ユニットに予め記憶されている。
【0042】
制御ユニットにおいて計数対象のチャネルが指定されると、先ず、上述したようにX軸ステージ60が計数対象のチャネルのフローセル10に対応するX座標までスライドし、これに伴いミラー30、照明用レンズ40、受光ユニット50がX方向に移動する。その上で、Y軸アクチュエータ72に内蔵されたY軸モータが駆動され、今度はY軸ステージ70が計数対象のチャネルのフローセル10に対応するY座標までスライドし、これに伴い受光ユニット50がY方向に移動する。なお、図中に灰染色して示した部分は、Y方向に移動可能な構成部品を示している。また、図中の2点鎖線は、実線で示された位置よりも背面側にY軸ステージ70がスライドした場合における構成部品の位置を示している。
【0043】
このように、粒子計数器1のユーザは、計数対象のチャネルを選択するだけで、そのチャネルのフローセル10に対応する座標までX軸ステージ60及びY軸ステージ70をスライドさせて最適な位置にミラー30、照明用レンズ40、受光ユニット50を移動させることができ、これにより選択されたチャネルに応じて照射光学系の光軸、受光光学系の光軸及び焦点の位置を高精度に調整することができる。
【0044】
〔フローセルの構造〕
図3は、一実施形態におけるフローセル10を側面側からみた斜視図である。
【0045】
フローセル10は、石英やサファイア等の透明な材料で略直方体形状に形成されており、その内部に略コの字型の流路を有している。具体的には、フローセル10は、正面下部に形成された流入口11からY方向に延びる第1流路13と、正面上部に形成された排出口12からY方向に延びる第3流路15と、第1流路13及び第3流路15の各端部に通じて(いわゆる「連通」して)Z方向に延びる第2流路14とを有している。また、第1流路13の延長線上の位置に当たる第2流路14の背面側には、凹形状に形成された凹面部18が設けられており、さらに同延長線上の位置に当たるフローセル10の背面には、凸状に形成された集光レンズ19が設けられている。
【0046】
試料流体は、流入口11から第1流路13に流し込まれ、第2流路14及び第3流路15を経て排出口12から外部へ排出される。また、照射光Laは、フローセル10の底面をなす入射面16からフローセル10に入射し、フローセル10の上面をなす透過面17から外部に抜ける。フローセルの外部に抜けた照射光Laは、図示されていないトラップにより透過面17の上方で吸収される。
【0047】
図4は、一実施形態におけるフローセル10を正面側からみた垂直断面図(
図3中のIV-IV切断線に沿う断面図)である。
【0048】
第1流路13は、矩形の断面を有しており、その中心に照射光Laが入射して(集光されて)検出領域Aが形成される。照射光Laは、正面側からみるとZ方向に対し傾いた状態で、より具体的には、検出領域Aを通過しつつ第3流路15には干渉しない所定の角度をなして、入射面16からフローセル10に入射する。そして、照射光Laは、第1流路13に入射して検出領域Aを通過した後、第3流路15から逸れた位置を通過して透過面17から外部に抜ける。
【0049】
ここで、第1流路13の断面を矩形としたのは、その内部に形成される検出領域Aを照射光Laが通過する前後において、第1流路13の壁面と試料流体との界面にて生じ得るノイズ(余計な光の散乱や反射)をできる限り防止すべく、照射光Laが通過することとなる第1流路13の上下を区画する2つの壁面にナノオーダで鏡面加工した平面を採用したためである。したがって、第1流路13は、少なくとも照射光Laが通過する部位の壁面が平面で形成されていればよい。また、ここでは第3流路15の断面形状が円形とされているが、第3流路15の断面形状はこれに限定されない。各流路13,14,15の断面積についても、状況に応じて適宜設定することが可能である。
【0050】
図5は、一実施形態におけるフローセル10を側面側からみた垂直断面図(
図3中のV-V切断線に沿う断面図)である。
【0051】
照射光Laは、側面側からみるとZ方向に対し平行する状態で入射面16からフローセル10に入射して第1流路13に検出領域Aを形成する。検出領域Aの中心は、フローセルの背後に位置する受光ユニット50の受光軸上に存在している。また、凹面部18及び集光レンズ19は、その中心軸を受光ユニット50の受光軸と一致させた状態で配置されている。ここで、凹面部18は、試料流体の屈折率とフローセルの屈折率の違いにより、光が内壁面で屈折することを抑制するためのものである。このような配置により、集光レンズ19及びその後方に位置する受光ユニット50が備える複数の受光用レンズに、一体としてその集光能力を発揮させることができる。
【0052】
試料流体に含まれる粒子Pが検出領域Aを通過すると、粒子Pと照射光Laとの作用により粒子Pから散乱光が生じる。この側方散乱光Lsが、凹面部18を経て集光レンズ19及び受光ユニット50内の複数の受光用レンズによって集光される(図中の破線は散乱の範囲を示し、集光後は示していない。)。なお、集光レンズ19の集光角を最大限に利用するために、第2流路14の内壁は、集光レンズ19に入射する光の妨げにならない位置に設定されている。
【0053】
第1流路13を通過した照射光Laは、第2流路14からも第3流路15からも逸れた位置を通過して透過面17からフローセル10の外部に抜ける。このように、フローセル10の内部に形成された3つの流路13,14,15のうち、照射光Laが通過するのは第1流路13のみであり、第2流路14及び第3流路15には一切干渉することはない。照射光Laの光路をこのような位置に設定することにより、照射光Laが第2流路14又は第3流路15に干渉することによるノイズの発生を防止することができる。これにより、試料流体に含まれるナノ(nm)オーダの微細な粒子から生じるプロパーな散乱光のみの検出が容易となり、粒子の検出及び計数精度を向上させることができる。
【0054】
〔フローセルユニットの内部構造〕
図6は、一実施形態におけるフローセルユニット80を背面側からみた分解斜視図である。フローセルユニット80は、複数のフローセル10をフローセルホルダ6の内部に固定して一体化させたマルチフローセルであり、フローセルホルダ6、フローセル10、加圧ブッシュ86、背板89等で構成される。
【0055】
フローセルホルダ6の内部には、フローセル10の個数に対応する収容室81が形成されている(いずれも一部にのみ符号を付している。)。複数のフローセル10は、画一的に区画されたこれらの収容室81に個別に収容された状態で、加圧ブッシュ86により収容室81の内壁に向けて押し込まれている。さらに、この状態のフローセルホルダ6の背面が背板89で覆われる。背板89には、フローセル10の背面に設けられた集光レンズ19を逃がす(干渉を避けて露出させる)ための孔89aや締結用の孔89b,89c等が穿孔されている。背板89は、ネジ等の締結部材でフローセルホルダ6に締結されている。
【0056】
なお、図示を省略したが、フローセルホルダ6の上部には、各収容室81の上方に当たる位置に各フローセル10を透過した照射光を逃がすための開口が穿孔されており、また、開口の上方には逃がされた照射光を吸収するトラップが設けられている。トラップは、フローセルホルダ6の上部全体にわたって設けられてもよいし、1つのフローセル用のトラップが上部に設けられ、検出対象とするチャネルの変更に応じてそのトラップが受光系の光軸とともにX方向に移動されてもよい。
【0057】
続いて、
図7を参照しながら、加圧ブッシュ86の形状及び役割を説明する。
【0058】
図7中(A):一実施形態の加圧ブッシュ86を表す斜視図である。
加圧ブッシュ86は、略四角柱状に形成された下部分86a及び下部分86aをなす1つの角の延長上に連続して略三角柱状に形成された上部分86bからなる。このうち、上部分86bは、下部分86aの角の延長上に稜が連なり、この稜に対向する位置に対向面87を有している。また、下部分86aには、加圧ブッシュ86全体をフローセルホルダ6に締結する締結部材を通すための締結孔88が前後方向に貫通して穿孔されている。なお、加圧ブッシュ86は、樹脂等の弾性を有する材料(例えば、テフロン(登録商標))で形成されている。
【0059】
図7中(B):フローセルホルダ6の一部を拡大してフローセル10及び加圧ブッシュ86が収容された状態を表す斜視図である。ここでは発明の理解を容易とするために、フローセルホルダ6の上枠(収容室81の上壁をなす部位)の図示を省略している。
【0060】
フローセルホルダ6の内部には、収容室81の他に、加圧ブッシュ86を載置するための載置台85が形成されている。収容室81の幅(X方向の寸法)は、フローセル10のスムーズな出し入れを可能とするために、フローセル10の幅より僅かに余裕をもたせた大きさに設定されている。また、載置台85の上方には、収容室81の内壁に対し外向きに角度をなして接続する対向壁84が形成されており、加圧ブッシュ86は対向面87を対向壁84に密着させた状態で載置台85に載置される。
【0061】
収容室81に収容されたフローセル10は、その一方の側面全体が第1基準面82に対向するのに対し、フローセル10の他方の側面では、その一部が加圧ブッシュ86の側面に対向する。載置台85に載置された加圧ブッシュ86は、フローセル10を他方の側面からX方向に押圧して第1基準面82に密着させる。ここで、第1基準面82とは、フローセルホルダ6の内部における各フローセル10のX方向における位置を決定する上で基準とされる面のことである。加圧ブッシュ86がフローセル10を押圧して第1基準面82に密着させることにより、フローセル10は予め決定された正確なX方向の位置に固定される。なお、フローセルホルダ6の内部における各フローセル10のY方向における位置は、フローセルホルダ6の背面の一部をなす第2基準面83を基準として決定される。
【0062】
図8は、フローセルホルダ6に対する各フローセル10の固定態様を、フローセルユニット80の組み立ての段階を追って説明する図である。
図8においても、フローセルホルダ6の上枠(収容室81の上壁をなす部位)の図示を省略している。
【0063】
図8中(A):フローセル10が収容室81に収容された段階を表している。この段階では、フローセル10を第1基準面82に密着させる要素がないため、フローセル10と第1基準面82との間には僅かな隙間が存在しうる(存在しないこともある。)。
【0064】
図8中(B):加圧ブッシュ86が載置台85に載置された段階を表している。この段階では、加圧ブッシュ86の対向面87が対向壁84に密着するのに伴い、フローセル10が加圧ブッシュ86によりX方向に押圧されて第1基準面82に密着する。これにより、フローセル10と第1基準面82との間から隙間が排除される。このとき、加圧ブッシュ86は、第2基準面83の位置よりも背面側に僅かに飛び出している。この飛び出しは、この後で締結される背板89の押し込み代として機能する。
【0065】
図8中(C):背板89がフローセルホルダ6に締結された段階を表している。この段階では、
図8中(B)の段階で背面側に僅かに飛び出していた加圧ブッシュ86を背板89がY方向に押し込んで第2基準面83に密着する。このとき、加圧ブッシュ86が対向壁84に押し付けられて対向壁84に押し返されることにより、加圧ブッシュ86にはフローセル10をX方向に押し込む力が生じる。これにより、フローセル10を第1基準面82に対して一層しっかりと密着させることができる。
【0066】
なお、図示を省略したが、正面側においては、フローセル10に対し試料流体の漏出を防止する構造を有した継手を介して配管8が接続される。この継手は、フローセル10がフローセルホルダ6に収容された状態でY方向に押し込まれる。このとき、フローセル10はY方向に押し込まれてその背面が背板89に密着し、フローセル10のY方向における位置が第2基準面83に合わされる。したがって、フローセル10は、Y方向においても予め決定された正確な位置に固定される。
【0067】
以上のような構造とすることにより、フローセルホルダ6(フローセルユニット80)の内部における各フローセル10のX方向及びY方向の位置決めを正確に行って、各フローセル10を所望の位置にしっかりと固定させることができる。
【0068】
図9は、フローセルユニット80の斜視図である。このうち、
図9中(A)は、フローセルユニット80を単体として背面側からみた斜視図であり、
図9中(B)は、フローセルユニット80がフローセルベース5に取り付けられた状態を正面側からみた斜視図である。
【0069】
フローセルユニット80の背面側においては、フローセルホルダ6に締結された背板89に穿孔された孔89aから、内部に収容されているフローセル10の背面に設けられた集光レンズ19を視認することができる。また、フローセルユニット80の正面側においては、内部に収容されたフローセル10に継手を介して接続された配管8が上下2段に整列した状態で延び出ている。配管8は、例えばPFA樹脂で形成された可塑性を有するチューブである。配管8は、粒子計数器1の他の構成部品に干渉することなく筐体4の正面に設けられた配管用窓から筐体4の外側に引き出される。そして、筐体4の外側において、下段に整列した配管8は試料流体の供給源の送出口と接続され、上段に整列した配管8は試料流体の排出先となる排出口に接続される。
【0070】
本実施形態のフローセル10においては、上述したように流路が縦型に略コの字型状に形成され、試料流体の流入口及び排出口がいずれも正面の上下方向に整列して設けられているため、各フローセル10に2本ずつ接続された配管8は全て、フローセルユニット80の正面側に整列することとなる。また、フローセルユニット80は、フローセルベース5を介してセンサベース2に固定されているため、計数対象のチャネルが変更されても配管8が動くことはなく、何らかの外的要因が加わらない限りほぼ一定の位置に留まる。したがって、配管8が動いたり撓ったりすることに起因する緩みや亀裂等の配管8に関わる不具合が生じ難いため、試料流体を漏出させる心配がない。
【0071】
ここで、本実施形態との比較のために、流路が略一直線状や略L字型の形状に形成されたフローセルを複数配列する場合を検討してみる。これらのフローセルにおいては、試料流体の流入口及び排出口が異なる2つの面に設けられるため、これら2つの各面に対向する位置に配管用の空間を確保しなければならず、必然的に装置全体が大型化してしまう。また、配管が延び出る方向によっては、フローセルから抜け出る照射光に配管が干渉したり、或いは延び出た配管が他の構成部品に接触して動いたり撓ったりして配管の内壁等からは微細な粒子が発生することで光学的又は電気的なノイズが発生する虞があり、こうしたノイズは粒子の検出精度を低下させる。
【0072】
これに対し、本実施形態においては、全ての配管8が正面側に整列するため、配管用に確保する空間は1面(正面側)分だけで済む。したがって、装置全体をコンパクトにまとめることができる。また、フローセル10に対しては照射光Laが底面(入射面16)から入射して上面(透過面17)から抜けるため、配管8が照射光Laに干渉することはないし、フローセルユニット80の正面側に整列した全ての配管8はそのまま正面側に延びて筐体4の外部に出されるため、粒子計数器1の他の構成部品に干渉することもない。したがって、配管8に起因するノイズの発生を防止して、粒子を精度よく検出することができる。
【0073】
〔粒子計数器の機能〕
図10は、一実施形態における粒子計数器1の構成を示す機能ブロック図である。
【0074】
粒子計数器1は、粒子の検出に用いられる上述した各構成部品の他に、粒子の検出及び計数を制御する制御ユニット90を備えている。制御ユニット90は、例えば、操作入力部91、記憶部92、位置調整部93、検出管理部94、計数部95、データ出力部96を有している。
【0075】
操作入力部91は、ユーザに対して操作画面を提供するとともに、操作画面を介してユーザによりなされる操作を受け付ける。ユーザは、操作画面において、計数対象のチャネルの選択、検出の開始及び終了、計数結果の保存等を指示する操作を行うことができる。操作入力部91は、受け付けた操作の内容に応じた指示を他の機能部93,94,96に対して行う他に、他の機能部93,94,96からの入力の内容に応じて操作画面の切り替え等を行う。
【0076】
記憶部92は、いわゆる記憶領域であり、粒子の検出や計数に関わる情報を記憶する。記憶部92には、各チャネルのフローセル10に対応するX座標及びY座標が予め記憶されている。
【0077】
位置調整部93は、操作入力部91により特定のチャネルが指定されると、先ずそのチャネルのフローセル10に対応するX座標及びY座標を記憶部92から読み出す。そして、X軸アクチュエータ62を作動させてX軸モータ64を駆動しX軸ステージ60をX座標までスライドさせ、さらにY軸アクチュエータ72を作動させてY軸モータ74を駆動しY軸ステージ70をY座標までスライドさせる。X軸モータ64及びY軸モータ74を駆動し終えると(X軸ステージ60、Y軸ステージ70の位置の調整が完了すると)、検出の開始が可能な状態となる。位置調整部93は、検出の開始が可能となったことを操作入力部91に伝える。
【0078】
検出管理部94は、操作入力部91により特定のチャネルに対する検出開始の指示がなされると、光源20及び受光ユニット50を作動状態に切り替える。また、検出管理部94は、操作入力部91により特定のチャネルに対する検出終了の指示がなされると、光源20及び受光ユニット50を非作動状態に切り替える。光源20及び受光ユニット50が非作動状態に切り替わると、計数対象のチャネルを変更可能な状態となる。検出管理部94は、チャネル変更が可能となったことを操作入力部91に伝える。
【0079】
なお、光源20の作動状態の切り替えは、検出の開始及び終了の度に行わずに粒子計数器1が起動している間は作動状態のままとしてもよい。また、検出の開始及び終了は、操作入力部91(ユーザによる操作)を介することなく行う構成としてもよい。例えば、位置調整部93によるステージ60,70の位置の調整が完了したことを契機として自動的に検出を開始させ、検出が開始されてから所定時間の経過後に自動的に検出を終了させてもよい。
【0080】
検出管理部94により光源20及び受光ユニット50が作動されると、光源20により出射された照射光Laは、ミラー30で反射したのち照明用レンズ40を通過して、絞り込まれた状態でフローセル10に入射して試料流体の流路内に検出領域Aを形成する。試料流体に含まれる粒子Pが検出領域Aを通過すると、粒子Pから散乱光が生じ、この側方散乱光Lsが受光用レンズ53により集光されて受光素子54に入射し受光される。受光素子54により受光された側方散乱光Lsはその強度に応じた電気信号に変換され、増幅器55により所定のゲインで増幅された後に、A/D変換器56によりデジタル信号に変換される。そして、受光ユニット50は、最終的に得られたデジタル信号を計数部に出力する。
【0081】
計数部95は、受光ユニット50により出力されたデジタル信号の大きさ、すなわち散乱光の強度に基づいて検出された粒子の粒径を判断し、粒径ごとに粒子を計数する。計数部95は、計数した結果をデータ出力部96に出力する。
【0082】
データ出力部96は、計数部95により出力された計数結果に基づいてデータを出力する。データの出力は、結果表示画面への表示により行ってもよいし、プリンタへの出力やネットワークを介した他のデバイスへの送信により行ってもよい。検出の終了に伴い計数結果の最終データが整うと、最終データの保存が可能な状態となる。データ出力部96は、最終データの保存が可能になったことを操作入力部91に伝える。
【0083】
なお、制御ユニット90は、粒子計数器1の内部に一体的に設けられてもよいし、粒子計数器1の外部に別体として設けられてケーブルやネットワーク等で接続する態様で利用してもよい。
【0084】
〔その他の実施形態における粒子計数器の構成〕
図11は、他の実施形態における粒子計数器101を簡略的に示す斜視図である。発明の理解を容易とするために、
図1においては一部の構成部品の図示を省略している。
【0085】
粒子計数器101においては、照射光Laの光源としてファイバレーザが用いられており、この光源120は筐体4の外部に配置されている(図示されていない)。光源120から延び出た光ファイバの先端にはヘッド122が設けられており、このヘッド122がホルダ166に固定されている。したがって、ヘッド122は、選択されたチャネルに応じてX軸ステージ60に連動してX方向に移動する。照射光Laは、ヘッド122からフローセル10の流路に向けて出射される。上述した実施形態とは異なり、光源から出射された照射光Laをフローセル10の流路に向けて反射させる必要が無いため、本実施形態においてはミラーは設けられていない。また、ファイバレーザは用いる場合は、光源を筐体4の外部に配置することができるため、放熱対策が不要となる。このような光源を用いることによって、粒子計数器101をさらに小型化することが可能となる。
【0086】
〔本発明の優位性〕
以上のように、上述した実施形態によれば、以下のような効果が得られる。
【0087】
(1)フローセルユニット80はフローセルベース5を介してセンサベース2に固定されており、計数対象のチャネルが変更されて照射光学系や受光光学系が移動してもフローセル10は動かないため、フローセル10に接続された配管8に緩みや亀裂等の不具合が生じにくい。したがって、上述した実施形態によれば、試料流体の漏出を防止することができる。
【0088】
(2)フローセル10の流路が略コの字型に形成されていることにより、複数のフローセル10に接続される全ての配管8が1つの面に整列するため、配管8を配置するために確保する空間が1面分だけで済む。したがって、上述した実施形態によれば、粒子計数器1を小型化することができる。
【0089】
(3)粒子計数器1のユーザは、計数対象のチャネルを選択するだけで、そのチャネルに対応する最適な位置にミラー30、照明用レンズ40、受光ユニット50を移動させることができる。したがって、選択されたチャネルに応じて照射光学系の光軸、受光光学系の光軸及び焦点の位置を高精度に調整することができる。
【0090】
(4)フローセルユニット80の内部構造により、収容される各フローセル10のX方向及びY方向の位置決めを正確に行って、各フローセル10を正確な位置にしっかりと固定させることができる。
【0091】
(5)照射光Laは、第1流路13のみを通過しつつ第2流路14及び第3流路15には当たらない角度でフローセル10に入射されるため、ノイズの発生を防止することができ、粒子から生じる散乱光の検出が容易になる。
【0092】
上記(3)~(5)の効果はいずれも、試料流体に含まれるナノオーダの微細な粒子の高精度な検出に資するものである。したがって、上述した実施形態によれば、粒子の検出及び計数精度を向上させることができる。
【0093】
本発明は、上述した実施形態に制約されることなく、種々に変形して実施することが可能である。
【0094】
上述した実施形態においては、略コの字型の流路が内部に1つ形成されたフローセル10が一方向に複数配列されることでマルチフローセルが構成されているが、これに代えて、略コの字型の流路が一方向に複数配列された状態で形成された一体型のフローセル(内部に略コの字型の流路が複数形成された1つのフローセル)をマルチフローセルとしてもよい。
【0095】
上述した実施形態においては、受光ユニット50がX軸ステージ60及びY軸ステージ70のスライドに伴いX方向及びY方向に移動可能に設けられているが、これに代えて、フローセルユニット80の背後にX軸ステージ60及びY軸ステージ70のスライドに伴いX方向及びY方向に移動可能なミラーを別途設け、受光ユニット50を移動させない(X軸ステージ60が受光ユニット50を支持しない)構成として、試料流体に含まれる粒子から生じる光をミラーを介して受光ユニット50に入射させてもよい。このような構成とすることにより、別途設けられたミラーを計数対象のチャネルに応じてX方向及びY方向に移動させるとともに、ミラーを介して受光ユニット50に入射することとなる粒子からの光の焦点をその光軸に沿って高精度に調整することができる。
【0096】
上述した実施形態においては、受光素子54としてフォトダイオードが用いられているが、これに代えて他分割受光素子を用いてもよい。他分割受光素子を用いることにより、SN比をさらに向上させて粒子の検出及び計数を一層高精度に行うことができる。
【0097】
上述した実施形態においては、フローセル10に接続された配管8が筐体4の外側に延び出るのに十分な長さを有し、筐体4に設けられた配管用窓から外側に出された先で試料流体の流入口及び排出口に繋がれるが、配管8の接続態様はこれに限定されない。例えば、配管8を配管用窓に固定させ、ここで試料流体の流入口及び排出口に繋がれる態様としてもよい。
【0098】
上述した実施形態においては、光源20の作動状態を制御ユニット90(検出管理部94)が切り替えているが、これに代えて、光源20の出射口を塞いで照射光を遮断するシャッタを別途設けシャッタの開閉(遮光の有無)を制御ユニット90により切り替える構成としてもよい。
【0099】
その他、粒子計数器1の各構成部品の例として挙げた材料や数値等はあくまで例示であり、本発明の実施に際して適宜に変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0100】
1 粒子計数器
2 センサベース
5 フローセルベース
6 フローセルホルダ
10 フローセル
20 光源
30 ミラー
40 照明用レンズ
50 受光ユニット
60 X軸ステージ
70 Y軸ステージ
80 フローセルユニット(マルチフローセル)
86 加圧ブッシュ
90 制御ユニット