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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】繊維強化材料、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 15/24 20060101AFI20230104BHJP
   A61L 15/26 20060101ALI20230104BHJP
   A61L 15/18 20060101ALI20230104BHJP
   A61L 15/42 20060101ALI20230104BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20230104BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20230104BHJP
   A61L 27/02 20060101ALI20230104BHJP
   A61L 27/44 20060101ALI20230104BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20230104BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20230104BHJP
   A61L 29/02 20060101ALI20230104BHJP
   A61L 29/04 20060101ALI20230104BHJP
   A61L 29/06 20060101ALI20230104BHJP
   A61L 29/12 20060101ALI20230104BHJP
   A61L 29/14 20060101ALI20230104BHJP
   A61L 31/02 20060101ALI20230104BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20230104BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20230104BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20230104BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20230104BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20230104BHJP
【FI】
A61L15/24 100
A61L15/26 100
A61L15/18 100
A61L15/42 100
A61L27/16
A61L27/18
A61L27/02
A61L27/44
A61L27/50
A61L27/50 300
A61L27/52
A61L29/02
A61L29/04 100
A61L29/06
A61L29/12 100
A61L29/14 300
A61L31/02
A61L31/04 110
A61L31/06
A61L31/10
A61L31/12 100
A61L31/14 300
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019013538
(22)【出願日】2019-01-29
(65)【公開番号】P2020120825
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】中田 善知
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-177879(JP,A)
【文献】特開2017-179328(JP,A)
【文献】特開平01-242068(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168933(WO,A1)
【文献】特表2018-529489(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-15/64
A61L 27/00-27/60
A61L 29/00-29/18
A61L 31/00-31/18
C08L 101/00-101/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材と、重合体及び水を含むハイドロゲルとが一体化された繊維強化材料であって、含水率が87%以上であり、
前記重合体が水溶性の単量体に由来する構造単位(X)を含み、
前記構造単位(X)が、エチレン性不飽和基と二個以上の水酸基とを有する単量体(A)に由来する構造単位、及びエチレン性不飽和基とラクタム環を有する単量体(B)に由来する構造単位の少なくとも一方を含み、
前記単量体(A)が下記式(II)で表される化合物を含み、
【化1】

(式(II)中、R は、水素原子またはメチル基、R は、炭素数1~4のアルキレン基を示す。)
前記単量体(B)がN-ビニルピロリドン、N-ビニル-5-メチルピロリドン、N-ビニルピペリドン、N-ビニル-ε-カプロラクタム、及び1-(2-プロペニル)-2-ピペリドンからなる群から選択される少なくとも一種を含み、
前記構造単位(X)が、前記単量体(B)に由来する構造単位を含む場合、前記重合体は架橋剤により化学架橋した構造を有し、
前記架橋剤は、多官能(メタ)アクリル酸アミド及び多官能(メタ)アクリル酸エステルの少なくとも一方を含む、繊維強化材料。
【請求項2】
繊維基材と、重合体を含む樹脂組成物とが一体化された繊維強化材料であって、25℃における飽和含水率が87%以上であり、
前記重合体が水溶性の単量体に由来する構造単位(X)を含み、
前記構造単位(X)が、エチレン性不飽和基と二個以上の水酸基とを有する単量体(A)に由来する構造単位、及びエチレン性不飽和基とラクタム環を有する単量体(B)に由来する構造単位の少なくとも一方を含み、
前記単量体(A)が下記式(II)で表される化合物を含み、
【化2】

(式(II)中、R は、水素原子またはメチル基、R は、炭素数1~4のアルキレン基を示す。)
前記単量体(B)がN-ビニルピロリドン、N-ビニル-5-メチルピロリドン、N-ビニルピペリドン、N-ビニル-ε-カプロラクタム、及び1-(2-プロペニル)-2-ピペリドンからなる群から選択される少なくとも一種を含み、
前記構造単位(X)が、前記単量体(B)に由来する構造単位を含む場合、前記重合体は架橋剤により化学架橋した構造を有し、
前記架橋剤は、多官能(メタ)アクリル酸アミド及び多官能(メタ)アクリル酸エステルの少なくとも一方を含む、繊維強化材料。
【請求項3】
含水率が、飽和含水率の90%以上である、請求項2に記載の繊維強化材料。
【請求項4】
前記重合体の25℃における飽和含水率が95%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の繊維強化材料。
【請求項5】
前記構造単位(X)が、前記単量体(A)に由来する構造単位を含み、前記重合体は、架橋剤により架橋されたものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の繊維強化材料。
【請求項6】
前記重合体は、架橋剤に由来する構造単位(Y)を含み、
前記重合体における前記構造単位(Y)の含有量が、前記構造単位(X)100質量部に対して、1質量部以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の繊維強化材料。
【請求項7】
前記繊維基材が、綿、絹、セルロース繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、炭素繊維、ガラス繊維からなる群から選択される1種以上の繊維を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の繊維強化材料。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の繊維強化材料を含む、医療用具。
【請求項9】
人工関節、又はカテーテルである、請求項8に記載の医療用具。
【請求項10】
繊維基材と、重合体及び水を含むハイドロゲルとが一体化された繊維強化材料の製造方法であって、
単量体組成物の水溶液を繊維基材に含侵させた繊維強化材料前駆体に、加熱又は光照射を行って、前記単量体組成物を重合する工程を備え、
前記繊維強化材料の含水率が87%以上であり、
前記重合体が水溶性の単量体に由来する構造単位(X)を含み、
前記構造単位(X)が、エチレン性不飽和基と二個以上の水酸基とを有する単量体(A)に由来する構造単位、及びエチレン性不飽和基とラクタム環を有する単量体(B)に由来する構造単位の少なくとも一方を含み、
前記単量体(A)が下記式(II)で表される化合物を含み、
【化3】

(式(II)中、R は、水素原子またはメチル基、R は、炭素数1~4のアルキレン基を示す。)
前記単量体(B)がN-ビニルピロリドン、N-ビニル-5-メチルピロリドン、N-ビニルピペリドン、N-ビニル-ε-カプロラクタム、及び1-(2-プロペニル)-2-ピペリドンからなる群から選択される少なくとも一種を含み、
前記構造単位(X)が、前記単量体(B)に由来する構造単位を含む場合、前記重合体は架橋剤により化学架橋した構造を有し、
前記架橋剤は、多官能(メタ)アクリル酸アミド及び多官能(メタ)アクリル酸エステルの少なくとも一方を含む、製造方法。
【請求項11】
前記単量体組成物は、水溶性の単量体(X)と、架橋剤とを含み、
前記単量体組成物における前記架橋剤の含有量が、前記単量体(X)100質量部に対して、1質量部以下である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
繊維基材と、重合体及び水を含むハイドロゲルとが一体化された繊維強化材料の製造方法であって、
繊維基材と重合体を含む樹脂組成物とが一体化され、且つ含水率が87%未満である低含水量繊維強化材料に水を吸収させることによりその含水率を87%以上とする工程を備え、
前記重合体が水溶性の単量体に由来する構造単位(X)を含み、
前記構造単位(X)が、エチレン性不飽和基と二個以上の水酸基とを有する単量体(A)に由来する構造単位、及びエチレン性不飽和基とラクタム環を有する単量体(B)に由来する構造単位の少なくとも一方を含み、
前記単量体(A)が下記式(II)で表される化合物を含み、
【化4】

(式(II)中、R は、水素原子またはメチル基、R は、炭素数1~4のアルキレン基を示す。)
前記単量体(B)がN-ビニルピロリドン、N-ビニル-5-メチルピロリドン、N-ビニルピペリドン、N-ビニル-ε-カプロラクタム、及び1-(2-プロペニル)-2-ピペリドンからなる群から選択される少なくとも一種を含み、
前記構造単位(X)が、前記単量体(B)に由来する構造単位を含む場合、前記重合体は架橋剤により化学架橋した構造を有し、
前記架橋剤は、多官能(メタ)アクリル酸アミド及び多官能(メタ)アクリル酸エステルの少なくとも一方を含む、製造方法。
【請求項13】
前記繊維強化材料を50℃以上の温水に浸漬して不純物を除去する工程を更に備える、請求項10~12のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化材料、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体による拒絶反応がない材料、いわゆる生体適合性材料が知られている。生体適合性材料は、このような特性を活かして、人工血管、人工関節等、生体内に埋め込む埋め込み型医療用具として使用されている。生体適合性材料としては、特許文献1及び2に記載される両性高分子電解質、又はポリビニルアルコールのハイドロゲルを使用した繊維強化材料が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2017-531737号公報
【文献】米国特許第6855743号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に架橋密度の低いハイドロゲルは、水に対して非常に高い膨潤率を有する。そのようなハイドロゲルは自重を支えられず、自立できないほどに強度が低下するため、疎水性の単量体を共重合することにより重合体の膨潤率を下げ、生体適合性を維持したまま強度を付与することが行われている。
【0005】
しかしながら、本発明者が鋭意研究したところによれば、自重を支えられず、自立できないほどに強度が低下したハイドロゲルであっても、繊維基材に含浸すると形態を保持することができるだけでなく、従来のハイドロゲル材料にはない潤滑性を得られることが判明し、本発明に至った。
【0006】
本発明は、発明者が新規に発見した上記の知見に基づくものであり、潤滑性に優れる繊維強化材料、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の繊維強化材料は、繊維基材と、重合体及び水を含むハイドロゲルとが一体化された繊維強化材料であって、含水率が87%以上である。
【0008】
また、本発明の繊維強化材料は、繊維基材と、重合体を含む樹脂組成物とが一体化された繊維強化材料であって、25℃における飽和含水率が87%以上であってよい。
【0009】
上記繊維強化材料の含水率が、飽和含水率の90%以上であると好ましい。
【0010】
上記重合体の25℃における飽和含水率が95%以上であると好ましい。
【0011】
上記重合体は、架橋剤により架橋されたものであると好ましい。
【0012】
上記重合体は、水溶性の単量体に由来する構造単位(X)と、架橋剤に由来する構造単位(Y)とを含み、重合体における構造単位(Y)の含有量が、構造単位(X)100質量部に対して、1質量部以下であると好ましい。
【0013】
構造単位(X)が、エチレン性不飽和基と二個以上の水酸基とを有する単量体に由来する構造単位(A)を含むと好ましい。
【0014】
構造単位(X)が、エチレン性不飽和基とラクタム環を有する単量体(B)に由来する構造単位を含むと好ましい。
【0015】
繊維基材が、綿、絹、セルロース繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、炭素繊維、ガラス繊維からなる群から選択される1種以上の繊維を含むと好ましい。
【0016】
本発明の医療用具は、上記繊維強化材料を含む。
【0017】
上記医療用具は、人工関節、又はカテーテルであると好ましい。
【0018】
本発明の繊維強化材料の製造方法は、重合体及び水を含むハイドロゲルとが一体化された繊維強化材料の製造方法であって、単量体組成物の水溶液を繊維基材に含侵させた繊維強化材料前駆体に、加熱又は光照射を行って、単量体組成物を重合する工程を備え、
繊維強化材料の含水率が87%以上である。
【0019】
上記単量体組成物は、水溶性の単量体(X)と、架橋剤とを含み、単量体組成物における架橋剤の含有量が、単量体(X)100質量部に対して、1質量部以下であると好ましい。
【0020】
また、繊維強化材料の製造方法は、繊維基材と重合体を含む樹脂組成物とが一体化され、且つ含水率が87%未満である低含水量繊維強化材料に水を吸収させることによりその含水率を87%以上とする工程を備えるものであってよい。
【0021】
本発明の製造方法は、繊維強化材料を50℃以上の温水に浸漬して不純物を除去する工程を更に備えると好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、潤滑性に優れる繊維強化材料、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本実施形態の繊維強化材料は、繊維基材と、重合体及び水を含むハイドロゲルとが一体化されたものであり、含水率が87%以上である。繊維強化材料の含水率は、88%以上であると好ましく、89%以上であるとより好ましく、90%以上であると更に好ましく、91%以上であるとより更に好ましく、92%以上であると特に好ましい。また、繊維強化材料の含水率としては、99.9%以下であってよく、99%以下であってよい。なお、「一体化」とは、繊維強化材料を破壊せずにハイドロゲル(又は後述の樹脂組成物)と繊維基材とを分離することができないことを言う。
【0024】
なお、繊維強化材料の含水率は、以下の式により定義される。
(含水率[%])={(繊維強化材料の含水質量[g])-(繊維強化材料の乾燥質量[g])}/(繊維強化材料の含水質量[g])
繊維強化材料の含水質量は、水分を含んだ状態での繊維強化材料の質量である。繊維強化材料の乾燥質量は、水分を含んでいない状態の繊維強化材料の質量である。乾燥質量は、例えば、2g以下の繊維強化材料(形状は問わない)を熱風乾燥機で乾燥して水分を除去した質量として求める。より具体的には、熱風乾燥機中で、120℃で1時間静置して乾燥し、デシケーター中で放冷後、直ちに測定するなどして測定することができる。
【0025】
ハイドロゲルは、水及び重合体を含む。ハイドロゲルにおける水及び重合体の合計量は、ハイドロゲルの総量に対して、90質量%以上であってよく、95質量%以上であってよく、98質量%以上であってよい。
【0026】
ハイドロゲルは上記重合体及び水以外の成分を含んでいても構わない。重合体及び水以外の成分としては、例えば酸化防止剤、安定剤、着色剤、香料、増粘剤、消泡剤、界面活性剤、防腐剤、抗菌剤、防かび剤などを含んでも構わない。また、ハイドロゲルは更に潤滑性を付与するためにヒアルロン酸、グルコサミン、コンドロイチンなどのムコ多糖を含んでもよい。
【0027】
また、本実施形態の繊維強化材料は、繊維基材と、重合体を含む樹脂組成物とが一体化された繊維強化材料であって、25℃における飽和含水率が87%以上である。繊維強化材料の25℃における飽和含水率は、88%以上であると好ましく、89%以上であるとより好ましく、90%以上であると更に好ましく、91%以上であるとより更に好ましく、92%以上であると特に好ましい。また、繊維強化材料の飽和含水率としては、99.9%以下であってよく、99%以下であってよい。
【0028】
繊維強化材料の飽和含水率は、以下の式により定義される。
(飽和含水率[%])={(飽和含水状態の繊維強化材料の含水質量[g])-(繊維強化材料の乾燥質量[g])}/(飽和含水状態の繊維強化材料の含水質量[g])
飽和含水状態の繊維強化材料の含水質量は例えば以下のとおり測定することができる。まず、繊維強化材料を、厚さ1.0mm、長さ40mm、及び幅10mmの短冊状に切り出した試験片を用意する。次に、試験片を5時間以上、イオン交換水に浸漬して飽和含水状態とする。そして、飽和含水状態の試験片の質量を測定し、「含水質量」とする。なお、上記短冊状の繊維強化材料に代えて、2g以下の試料(形状は問わない)を代わりに用いることもできる。
その後、試験片を例えば熱風乾燥機で乾燥して水分を除去する。より具体的には、熱風乾燥機中で、120℃で1時間静置して乾燥し、デシケーター中で放冷後、直ちに質量を測定し、「乾燥質量」とすることができる。
なお、飽和含水率は、上述の繊維強化材料を飽和含水状態とする工程を25℃で行った、25℃における飽和含水率であってもよい。また、上述の繊維強化材料を飽和含水状態とする工程を保管、輸送、店頭における陳列等、繊維強化材料が置かれている環境における雰囲気温度に等しい温度(例えば、5~40℃等)で行った、雰囲気温度における飽和含水率であってもよい。本明細書では、特に飽和含水率の温度を指定していない場合は、雰囲気温度における飽和含水率を意味するものとする。
【0029】
本実施形態の繊維強化材料の含水率は、飽和含水率の90%以上であると好ましく、95%以上であるとより好ましく、98%以上であると更に好ましい。
【0030】
樹脂組成物は、重合体と任意に水とを含む。樹脂組成物における水及び重合体の合計量は、樹脂組成物の総量に対して、90質量%以上であってよく、95質量%以上であってよく、98質量%以上であってよい。
【0031】
本実施形態の繊維強化材料は、含水率が87%未満の低含水繊維強化材料であってよい。後述のとおり、低含水繊維強化材料に吸水させることにより、含水率が87%以上の繊維強化材料を製造することができる。低含水繊維強化材料の含水率は、80%以下であってよく、10~70%であってよく、20~60%であってよい。
【0032】
繊維強化材料の樹脂組成物、又はハイドロゲルに含まれる重合体は、特に限定されず、製造される繊維強化材料の25℃における飽和含水率が87%以上となるように選択される。
【0033】
重合体の飽和含水率は、以下の式により定義される。
(飽和含水率[%])={(飽和含水状態の重合体の含水質量[g])-(重合体の乾燥質量[g])}/(飽和含水状態の重合体の含水質量[g])
飽和含水状態の重合体の含水質量は以下のとおり測定する。まず、重合体を厚さ1.0mm、長さ40mm、及び幅10mmの短冊状に切り出した試験片を用意する。次に、試験片を5時間以上、室温(25℃)でイオン交換水に浸漬して飽和含水状態とする。そして、飽和含水状態の試験片の質量を測定し、「含水質量」とする。なお、上記短冊状の試験片に代えて、2g以下の試料(形状は問わない)を代わりに用いることもできる。
その後、試験片を例えば熱風乾燥機で乾燥して水分を除去する。より具体的には、熱風乾燥機中で、120℃で1時間静置して乾燥し、デシケーター中で放冷後、直ちに質量を測定し、「乾燥質量」とする。なお、重合体の飽和含水率は、水を含むゲルを上記試験片として測定してもよい。
なお、繊維強化材料の場合と同様に、25℃における重合体の飽和含水率は、25℃で飽和含水状態とした場合の飽和含水率である。
【0034】
重合体の飽和含水率は、95%以上であると好ましく、96%以上であるとより好ましく、97%以上であると更に好ましく、98%以上であることがより更に好ましく、99%以上であることが特に好ましい。
【0035】
重合体は水溶性ポリマーが物理的又は化学的に架橋されたものが挙げられる。水溶性ポリマーとしては、例えばポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリ(メタ)アクリル酸及びその塩、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルアセトアミド、ポリエチレンイミン、及びそれらの構造単位を主成分とする共重合体などが挙げられる。また、水溶性ポリマーとしては、後述の単量体(X)に由来する構造単位を有する重合体であってもよく、具体的にはポリビニルピロリドン等であってよい。水溶性ポリマーとは、ここでは25℃において、1Lの水に100g以上、安定に溶解できるポリマーを言う。
【0036】
水溶性ポリマーの架橋の方法は特に限定されず、物理的に水溶性ポリマーを架橋させる方法としては、当該水溶性ポリマーの水溶液の温度を適当に調整することで微結晶を生成させる方法、疎水成分間の疎水的相互作用を利用する方法、粘土、微粒子、塩等の無機成分を添加して静電的な相互作用を利用する方法などにより架橋することができる。化学的に架橋する方法としては、特に限定されず、エネルギー線を照射する方法、ラジカル発生剤を添加する方法、水溶性ポリマーが有する水酸基、カルボキシル基、アミノ基等の官能基同士を反応させる方法、水溶性ポリマーが有する官能基と反応する架橋剤を用いて化学結合を生成させる方法などが挙げられる。また、水溶性ポリマーの単量体を重合する際に、予め多官能アクリレート等の架橋剤を単量体に添加して共重合することで架橋することもできる。
【0037】
重合体は、水溶性の単量体に由来する構造単位(X)を有すると好ましい。ここで、「水溶性」とは、室温での水に対する溶解度が10g/L以上であるものを言う。構造単位(X)を有するホモポリマーの溶解度は、20g/L以上であることがより好ましく、50g/L以上であることがより好ましく、100g/L以上であることが更に好ましい。なお、本開示において、「単量体(X)に由来する構造単位」とは、典型的には単量体(X)が重合して形成される構造単位と同一の構造単位を表す。つまり、「単量体(X)に由来する構造単位」とは、単量体(X)が実際に重合して形成される構造単位に限定されず、それらと同一の構造であれば、単量体(X)を重合する以外の方法で形成される構造単位も、単量体(X)に由来する構造単位に含まれる。例えば、単量体(X)がエチレン性不飽和基を有する単量体である場合、当該エチレン性不飽和基がラジカル付加重合して形成された構造単位であってもよいが、他の反応により形成された構造単位が上記ラジカル付加重合して形成された構造単位と同一の構造を有するならばそのような構造単位も単量体(X)に由来する構造単位に含まれる。具体的には、単量体(X)が後述する式(II)で表される化合物に由来する構造単位であれば、-CH-C(-R)(-C(=O)-O-R-C(OH)CHOH)-、で表すことができる。
【0038】
上記構造単位(X)を与える単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸アンモニウム、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、2-メタクロイルオキシエチルホスホリルコリン、ビニルスルホネート、(メタ)アリルスルホネート、2-(メタ)アクリロキシエチルスルホネート、3-(メタ)アクリロキシプロピルスルホネート、3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピルスルホネート、3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピルスルホフェニルエーテル、3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシスルホベンゾエート、4-(メタ)アクリロキシブチルスルホネート、(メタ)アクリルアミドメチルスルホン酸、(メタ)アクリルアミドエチルスルホン酸、2-メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、などの不飽和スルホン酸類、並びにそれらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩及び有機アミン塩;メチル(メタ)アクリルアミドのように不飽和モノカルボン酸類と炭素数1~22個のアミンとのアミド類;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミドなどの不飽和アミド類;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸メチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、ビニルピリジンなどの不飽和アミン類を挙げることができる。
【0039】
上記構造単位(X)の好ましい例としては、エチレン性不飽和基と二個以上の水酸基とを有する単量体(A)に由来する構造単位、エチレン性不飽和基とラクタム環を有する単量体(B)に由来する構造単位が挙げられる。重合体は、これらの構造単位の1種又は2種以上を有していてよい。
【0040】
単量体(A)としては、エチレン性不飽和基と二個以上の水酸基とを有するものであれば、特に制限はないが、例えば、下記式(I)で表される化合物であると好ましい。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0041】
【化1】

(式(I)中、Rは、水素原子またはメチル基、Rは、2個以上の水酸基を有する有機基を示す。)
【0042】
式(I)において、Rは、2個以上の水酸基を有する有機基である。それらのなかでは、親水性(水濡れ性)および耐水性を向上させる観点から、-COOR基、-OCOR基、-OR基、-CONHR基、-CHOR基、-CHOCOR基、-CONHR基、-CON(R基または-NHCOR基(Rは、2個以上の水酸基を有する有機基を示す)であることが好ましい。これらの単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0043】
は、2個以上の水酸基を有する有機基であり、親水性(水濡れ性)および耐水性を向上させる観点から、好ましくは2個以上の水酸基を有する炭素数1~30の有機基であり、より好ましくは2個以上の水酸基を有する炭素数1~20の有機基である。この有機基としては、例えば、炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数4~20のポリオキシアルキレン基、炭素数7~20のアラルキル基などが挙げられる。なお、1分子中にRが2個以上含まれる場合には、各Rはそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。また、Rには、例えば、フッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子、窒素原子、水酸基以外の官能基などが含まれていてもよい。
【0044】
単量体(A)としては、例えば、3個以上の水酸基を有する多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル、糖類と(メタ)アクリル酸とのエステル、アミノ基を有する糖類と(メタ)アクリル酸とのエステルなどが挙げられる。これらのエステルは、エステル化反応のみならず、エステル交換反応や(メタ)アクリル酸グリシジルエステルの開環反応によって調製されたものであってもよい。
【0045】
3個以上の水酸基を有する多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ペンタエリスリトール、1,2,6-ヘキサントリオール、2-ヒドロキシメチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオールなどが挙げられる。糖類としては、例えば、グルコース、マンノース、ガラクトース、グロース、フルクトース、D-リボースなどの単糖類、当該単糖類から誘導されるグルコシド、ガラクトシド、フルクトシドなどをはじめ、これらの二量体、三量体などが挙げられる。アミノ基を有する糖類としては、例えば、D-グルコサミンなどが挙げられる。
【0046】
単量体(A)としては、下記式(II)で表される化合物であると好ましい。
【化2】

(式(II)中、Rは、水素原子またはメチル基、Rは、炭素数1~4のアルキレン基を示す)で表わされる(メタ)アクリル酸エステルがより好ましく、親水性(水濡れ性)をより一層向上させる観点から、グリセリンモノ(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
【0047】
単量体(A)の分子量としては500以下であると好ましい。
【0048】
また、単量体(A)としては、下記式(IA)又は(IB)のものであってもよい。
【0049】
【化3】

(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。Rは、-CH-、-CO-又は直接結合を表す。nは、0~20以下の数を表し、Rが-CO-の場合、nは0ではない。nは、2~15であることが好ましく、3~10であることがより好ましい。)
【化4】

(式中、Rは、-CH-、-CO-又は直接結合を表す。mは、0~20の数を表し、2~15であることが好ましく、3~10であることがより好ましい。)
【0050】
重合体が、単量体(A)に由来する構造単位を含む場合、単量体(A)に由来する構造単位の含有量としては、重合体の総量に基づいて、40質量%以上含有すると好ましく、60質量%以上含有するとより好ましく、80質量%以上含有すると更に好ましい。重合体における、単量体(A)に由来する構造単位の含有量としては、特に制限はなく、98質量%以下であってよく、95質量%以下であってもよい。
【0051】
上記単量体(B)としては、分子内にエチレン性不飽和基とラクタム環を有するものであれば特に制限はないが、下記式(III)で表される化合物であると好ましい。式(III)で表される化合物は、1種又は2種以上を用いることができる。
【化5】

(式中、R、R、及びRは、それぞれ、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基であり、pは、0~4の整数であり、qは、2~6の整数であり、ラクタム環の炭素原子に結合する一つ以上の水素原子が、置換基により置換されていてもよい。当該置換基は、炭素数1~10の置換又は未置換のアルキル基であってよい。)
【0052】
上記R、R、及びRにおけるアルキル基の炭素数としては、1~6が好ましく、より好ましくは1~4である。上記アルキル基として好ましくはメチル基、エチル基であり、特に好ましくはメチル基である。上記R、R、及びRにおける置換基としては、特に制限されないが、カルボキシル基、スルホン酸基及びこれらのエステル又は塩;アミノ基、水酸基等が挙げられる。R、R、及びRにおけるアルキル基が有する置換基の個数は、R、R、及びRとしては0~2個であることが好ましく、1個であることがより好ましい。水素原子であることが好ましい。
【0053】
式(III)において、ラクタム環の炭素原子に結合する一つ以上の水素原子が炭素数1~10の置換又は未置換のアルキル基により置換されていてもよい。言い換えれば、式(III)において、ラクタム環の炭素原子には、一つ以上の置換基が結合していてもよく、当該置換基は、炭素数1~10の置換又は未置換のアルキル基であってよい。ラクタム環の炭素原子に結合する置換基の個数は、0~2個であることが好ましく、1個であることがより好ましい。ラクタム環が置換基として有するアルキル基の炭素数は、1~6が好ましく、より好ましくは1~4である。より具体的には、当該アルキル基としては、メチル基が好ましい。アルキル基が置換基を有する場合、当該置換基としては、特に制限されないが、カルボキシル基、スルホン酸基及びこれらのエステル又は塩;アミノ基、水酸基等が挙げられる。アルキル基に結合する置換基の個数は、0~2個であることが好ましく、1個であることがより好ましい。ラクタム環は未置換であってよい。
【0054】
pは、0~2の整数であることが好ましく、より好ましくは0~1の整数であり、最も好ましくは0である。qは、2~5であることが好ましく、3~5であることがより好ましい。
【0055】
上記式(III)で表される化合物としては、N-ビニルピロリドン、N-ビニル-5-メチルピロリドン、N-ビニルピペリドン、N-ビニル-ε-カプロラクタム、1-(2-プロペニル)-2-ピペリドンが挙げられる。
【0056】
重合体が、単量体(B)に由来する構造単位を含む場合、単量体(B)に由来する構造単位の含有量としては、重合体の総量に基づいて、40質量%以上含有すると好ましく、60質量%以上含有するとより好ましく、80質量%以上含有すると更に好ましい。また、重合体における、単量体(B)に由来する構造単位の含有量としては、特に制限はなく、98質量%以下であってよく、95質量%以下であってもよい。
【0057】
重合体は、上記単量体(A)及び(B)のいずれでもない単量体(C)に由来する構造単位を含んでいてもよい。単量体(C)としては、エチレン性不飽和基に炭素数4以上の有機基が結合した構造を有する単量体が挙げられる。そのような単量体としては、式(IC)で表される(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
【0058】
【化6】

(式(IC)中、R11は、水素原子又はメチル基を表す。R12は、炭素が連続して4個以上結合した炭素鎖を有する有機基を表す。)で表される構造単位が好ましい。
【0059】
12としては、好ましくは、炭素数4~15の有機基であり、より好ましくは、4~10の有機基である。より具体的には、R12の有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基のいずれか、これらの基の一部がカルボキシル基、カルボキシル塩、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミノ基、アルコキシ基等の置換基で置換された構造の基等が挙げられる。
【0060】
式(IC)で表される(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸、n-ブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸s-アミル、(メタ)アクリル酸t-アミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸β-メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸β-エチルグリシジル、(メタ)アクリル酸(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル、(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル等が挙げられる。
【0061】
上記エチレン性不飽和基に炭素数4以上の有機基が結合した構造を有する単量体のうち、式(IC)の(メタ)アクリル酸エステル以外のものとしては、ブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、ジエチレングリコールビニルエーテル、トリエチレングリコールビニルエーテル等のビニルエーテル類、N-ビニルモルホリン、N-ビニルカルバゾール等のN-ビニル類(ラクタム環を有するものを除く)、N-フェニルマレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-ナフチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-イソプロプルマレイミド、N-エチルマレイミド等のN置換マレイミド類等が挙げられる。
【0062】
また、単量体(C)としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、及び(メタ)アクリル酸イソプロピルのいずれかの(メタ)アクリル酸アルキルエステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等;エチレン、プロピレン、ブテン、イソプレン等のオレフィン類;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニル化合物;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチルマレイミド、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル等を使用することもできる。
【0063】
単量体(C)に由来する構造単位の含有量としては、重合体の総量に対して、50質量%以下であると好ましく、30質量%以下であると好ましく、10質量%以下であると好ましい。
【0064】
上記重合体は、架橋剤により化学架橋した構造を有していてよい。架橋剤としては、分子内に分子内にエチレン性不飽和基を二つ以上有する化合物が挙げられ、多官能(メタ)アクリル酸アミド、多官能(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。言い換えれば、多官能(メタ)アクリル酸アミド、多官能(メタ)アクリル酸エステル等の分子内に分子内にエチレン性不飽和基を二つ以上有する化合物に由来する構造単位を有する。架橋剤としては、1種又は2種以上を使用できる。
【0065】
多官能(メタ)アクリル酸エステルとしては、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、デンドリマーアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、及びトリメチロールプロパントリメタクリレート等が挙げられる。
【0066】
多官能(メタ)アクリル酸アミドとしては、N,N’-メチレンビスアクリルアミド等が挙げられる。
【0067】
上記重合体における架橋剤に由来する構造単位(Y)の含有量は、上記構造単位(X)100質量部に対して、1質量部以下であると好ましく、0.8質量部であるとより好ましい。また、上記重合体における架橋剤に由来する構造単位(Y)の含有量は、上記構造単位(X)100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましい。架橋剤に由来する構造単位(Y)の含有量が構造単位(X)100質量部に対して、1質量部以下であると架橋密度が高くなりすぎず、0.01質量部以上であるとハイドロゲルの形状を保持するのに十分である傾向がある。
【0068】
上記重合体は、架橋体であることが好ましいが、架橋していない重合体を好ましくは上記重合体中3質量部未満、より好ましくは1質量未満含んでいてもよい。架橋していない重合体を含む場合、その重量平均分子量が1,000~10,000,000であることが好ましい。重量平均分子量がこのような範囲であると、耐久性や機械強度に優れた材料となり好ましい。重量平均分子量は、より好ましくは、5,000~2,000,000であり、更に好ましくは、10,000~500,000である。
【0069】
上記重合体は、分子量が5000以下の成分の割合が重合体全体の5.0質量%以下であることが好ましい。分子量5000以下の成分の割合が重合体全体の5.0質量%以下であると、長期の使用によっても血液中への低分子量成分の溶出を抑制することができ、生体組織との親和性がより良好となる。分子量5000以下の成分の割合は、より好ましくは、重合体全体の1.0質量%以下であり、更に好ましくは、重合体全体の0.5質量%以下である。
重合体の重量平均分子量、及び、分子量5000以下の成分の割合は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、測定することができる。
【0070】
上記繊維基材に含まれる繊維としては、合成繊維及び天然繊維が挙げられ、天然繊維には、天然繊維を化学修飾または化学変性した繊維、物理的に加工した繊維等も含まれる。より具体的には、綿、絹、毛糸、セルロース繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を使用することができる。繊維基材は、ポリオレフィン繊維等の疎水性繊維を含んでいてもよく、その含有量としては、繊維基材の総量に対して20質量%以下が好ましく、10質量%以下であってもよく、実質的に0質量%であってもよい。
【0071】
繊維基材は、布帛、編み物又は不織布であってよい。繊維基材は、ニット生地、メリヤス生地であってもよい。繊維基材は、2次元又は3次元の網目構造を有するものであってよい。
【0072】
繊維強化材料の形状は、特に制限されず、用途に合わせて、シート状、チューブ状などの形状とすることができる。
【0073】
本実施形態の含水率が87%以上である繊維強化材料の製造方法は限定されないが、単量体組成物の水溶液を繊維基材に含浸させた繊維強化材料前駆体に、加熱又は光照射を行って、単量体組成物を重合する工程(重合工程)を備える方法は好ましい実施形態である。なお、繊維強化材料前駆体を形成する方法としては、含浸に限定されず、水溶液の状態の単量体組成物を繊維基材に吹き付ける方法も挙げられる。
【0074】
単量体組成物は、構造単位(X)を誘導する単量体(X)、重合開始剤、上記架橋剤を含んでいてもよい。単量体組成物における単量体(X)の含有量及び組成は、重合体に含まれる各単量体に由来する構造単位の含有量が所望の含有量となるように配合する。
【0075】
本実施形態の製造方法では、まず、単量体組成物の水溶液を繊維基材に含浸させて繊維強化材料前駆体を作製する。これにより、上記重合行程において、繊維強化材料前駆体が水を含んだ状態で重合反応を行うことができる。単量体組成物に対する水の量は、単量体組成物100質量部に対して、200~800質量部であってよく、250~500質量部であってよい。
【0076】
単量体組成物における架橋剤の含有量は、単量体(X)100質量部に対して、1質量部以下であると好ましく、0.8質量部以下であると好ましい。また、単量体組成物における架橋剤の含有量は、上記単量体(X)100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましい。
【0077】
重合開始剤は、熱又は光によりラジカルを生成し、ラジカル重合反応を開始できるものである。重合開始剤としては、特に限定されないが、過酸化水素;過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2-アゾビス(2-メチルプロピオナミジン)ジヒドロクロリド等のアゾ系化合物;過酸化ベンゾイル、過酢酸、ジ-t-ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物等が好適である。これらの重合開始剤は、単独で使用されてもよく、2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0078】
単量体組成物における開始剤の含有量は、特に限定されないが、単量体(X)100質量部に対して0.1~10質量部であると好ましく、0.5~3質量部であるとより好ましい。
【0079】
重合行程における温度は、80℃以下であると好ましく、40℃~70℃であるとより好ましい。重合反応は、常圧(1atm)、加圧、減圧のいずれの条件下で行ってもよい。
【0080】
また、本実施形態の含水率が87%以上である繊維強化材料の製造方法は、上記低含水量繊維強化材料に水を吸収させることによりその含水率を95%以上とする工程を備えるものであってもよい。低含水量繊維強化材料は、例えば、上記重合工程において、繊維強化材料前駆体における水分量を少なくする、又は水を含まない状態で重合するなどの方法により製造できる。
【0081】
本実施形態の製造方法は、得られた繊維強化材料を50℃以上の温水に浸漬して不純物を除去する行程をさらに備えると好ましい。温水の温度としては、60℃以上であるとより好ましく、70℃以上であると更に好ましい。
本実施形態の繊維強化材料は優れた潤滑性と、独特の感触を有するため、種々の用途に用いることができる。玩具、運搬用具、介護用具、スポーツ用具、トレーニング用具として好適に用いることができる。また、シート状、管状、その他所望の形状に賦形して使用することができる。
【0082】
本実施形態の繊維強化材料は、生体適合性を有するため、医療用具の材料として好適に用いることができる。特に、本実施形態の繊維強化材料は、潤滑性に優れるため、摺動摩擦が生じやすい人工関節等として好適に使用できる。本実施形態の繊維強化材料は、血液と接触しても血栓を生じにくい抗血栓性材料として好適に使用することができ、各種医療用具の生体成分又は生体組織と接触する部分を構成する材料としても好適に使用することができる。更に、本実施形態の繊維強化材料は、細胞培養基材としても好適に使用することができる。
【0083】
本実施形態の繊維強化材料を医療用具として使用する場合、具体的には、人工血管や人工臓器等の人工生体組織用、創傷治癒用、創傷保護用、火傷治癒用、火傷保護用や、血液フィルター、各種カテーテル、若しくは各種ステント等;生体組織と接触する用具用の部材として、また、細胞培養基材、血液透析装置用の部材、血液若しくは組織検査用器具の部材等;生体由来成分(細胞や血液等)と接触する用具用の部材として適用することができる。また、本実施形態の繊維強化材料は、組織形成足場材、又は癒着防止材にも使用することができる。すなわち、本実施形態の医療用具には、生体組織と接触する用具、生体由来成分(細胞や血液等)と接触する用具等が含まれる。
【実施例
【0084】
[繊維強化ゲルシートの作製法]
<実施例1~2及び比較例1~2>
ポリプロピレン板上に、0.4mm厚のテフロンシートで作製したコの字型のスペーサーを置いた。コの字型のスペーサーに囲まれた領域の内側に繊維基材としてガーゼを敷いた。表1の組成の単量体組成物の水溶液を繊維基材に注ぎ、繊維基材を水溶液で浸した。上からもう一枚のポリプロピレン板を被せ、2枚のポリプロピレン板でスペーサーを挟んだ状態で締め付け具により固定した。この状態で、スペーサーを介して2枚のポリプロピレン板で注型枠ができ、枠内が繊維基材と単量体水溶液とで満たされた状態となった。注型枠をバイブレーターで振動させて単量体水溶液を脱泡した後、60℃の熱風乾燥機中に1時間静置し、単量体水溶液をゲル化させた。その後、注型枠の締め付け具を外し、繊維強化材料(繊維強化ゲルシート)を取出した。約60℃のイオン交換水が入った容器中に繊維強化ゲルシートを浸漬し、緩やかに撹拌しながら5時間、60℃に保ち、不純物を抽出除去した。更に室温でイオン交換水に浸漬して繊維強化ゲルシートに十分吸水させた。これにより、実施例1~2及び比較例1~2繊維強化ゲルシートを得た。
【0085】
<評価方法>
[ハイドロゲルの含水率]
繊維基材を使用しなかったこと以外、実施例1~2及び比較例1~2と同様の方法でゲルシートをそれぞれ作製した。ゲルシートを25℃で、5時間以上、イオン交換水に浸漬して飽和含水状態としたハイドロゲルシートを得た。イオン交換水からハイドロゲルシートを取り出した後速やかに質量を測定し、「含水質量」とした。その後、ハイドロゲルシートを120℃の熱風乾燥機中で1時間静置して乾燥し、デシケーター中で放冷後、直ちに質量を測定し、「乾燥質量」とした。そして、以下の式より「含水率」を求めた。
(含水率[%])={(含水質量[g])-(乾燥質量[g])}/(含水質量[g])
【0086】
[繊維強化ゲルシートの含水率]
実施例1~2及び比較例1~2の繊維強化ゲルシートを10mm×40mmの短冊状に切り出し、試験片とした。試験片の含水率をハイドロゲルの含水率と同様に「含水質量」を求めた。なお、試験片の厚みは約1mmであった。
【0087】
[摺動抵抗]
動摩擦測定機(トリニティラボ社製、商品名:TL201Tt)を用いて、ステンレス鋼(SUS)の平板接触子を用いて、荷重400g、速度1000mm/sec、10往復、往復距離10mmの条件で、実施例及び比較例の各繊維強化ゲルシートの摺動抵抗値を測定した。なお、摺動抵抗の測定は、市販のシアノアクリレート系接着剤で、繊維強化ゲルシートの縁部をポリスチレン製シャーレに固定し、繊維強化ゲルシートの上面が浸るところまでシャーレにイオン交換水を添加した状態で、飽和含水状態を保ったまま行った。結果を表1に示す。
【0088】
[自立性]
実施例1~2及び比較例1~2の各繊維強化ゲルシートのハイドロゲルと同組成のハイドロゲルをそれぞれ用意し、飽和含水状態とした。飽和含水状態のハイドロゲルについて、シート状にならなかった場合をA、シート状になった場合をBとした。
なお、シート状にならなかった場合とは、イオン交換水に浸漬して飽和膨潤状態とした際、又はイオン交換水から引き上げる際に、バラバラになって崩れる、又は不定形な塊状となってしまい、シートの状態を維持できなかった場合をいう。
【0089】
[感触]
飽和含水状態の繊維強化ゲルシートの表面を指で擦り、感覚を官能評価した。ウナギのように滑る状態を「ヌルヌル」とし、潤滑性はあってもウナギのようではない場合は「スベスベ」、潤滑性がない場合を「すべらない」とした。
【0090】
なお、以下に、参考値としてテフロンの摺動抵抗を示す。
テフロンの摺動抵抗:0.40N
テフロン表面にシリコンオイルを塗った場合の摺動抵抗:0.19N
【0091】
【表1】
【0092】
なお、表1で使用される略号は、以下のとおりである。
GLMA:グリセリンモノアクリレート
NVP:N-ビニルピロリドン
HEMA:メタクリル酸2-ヒドロキシエチル
MBAAm:N,N’-メチレンビスアクリルアミド(架橋剤)
V-50:2,2-アゾビス(2-メチルプロピオナミジン)ジヒドロクロリド(重合開始剤、富士フィルム和光純薬株式会社製、商品名)
ガーゼ:株式会社ヨコイ製(綿製、2プライ)
【0093】
実施例1及び2のハイドロゲルは、シート状に成膜できなかったが、繊維基材と一体化することにより、自立性を保つことができ、繊維強化ゲルシートとすることができた。実施例1及び2の繊維強化ゲルシートは、摺動抵抗が低く、比較例1及び2よりも繊維強化ゲルシート潤滑性に優れる。また、実施例1及び2の繊維強化ゲルシートは、摩耗防止材として頻繁に使用されるテフロンよりも摺動抵抗が1桁小さかった。