(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】ダイ装置および治具
(51)【国際特許分類】
B29C 48/325 20190101AFI20230104BHJP
B29C 48/10 20190101ALI20230104BHJP
B29C 48/32 20190101ALI20230104BHJP
B29C 48/265 20190101ALI20230104BHJP
B29C 48/27 20190101ALI20230104BHJP
B29L 23/00 20060101ALN20230104BHJP
【FI】
B29C48/325
B29C48/10
B29C48/32
B29C48/265
B29C48/27
B29L23:00
(21)【出願番号】P 2019067427
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】303050355
【氏名又は名称】住友重機械モダン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】塩田 隆宏
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-050971(JP,A)
【文献】特開2018-171898(JP,A)
【文献】特開2007-326290(JP,A)
【文献】実開昭59-029219(JP,U)
【文献】特開平09-225995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00 - 48/96
B29C 55/00 - 55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフレーション成形用のダイ装置であって、
チューブ状に樹脂を押し出すダイと、
前記ダイのリップ周辺に固定される、リップ幅を調節するためのダイリップ駆動機構と、
前記ダイに固定され、前記ダイの径方向において前記ダイリップ駆動機構よりも突出する軸部と、を備え
、
前記軸部を回転することで前記ダイが反転されることを特徴とするダイ装置。
【請求項2】
前記軸部は、前記ダイに固定される第1軸部と、前記第1軸部と実質的に同軸に前記ダイに固定される第2軸部と、を含み、
前記第1軸部および前記第2軸部は、前記ダイの径方向において前記ダイリップ駆動機構よりも突出することを特徴とする請求項1に記載のダイ装置。
【請求項3】
前記軸部を前記ダイに固定するための固定部を含み、
前記固定部は、前記ダイの外周面に固定されることを特徴とする請求項1または2に記載のダイ装置。
【請求項4】
前記固定部は、前記ダイの吐出口が形成された面とは反対側の面にも固定されることを特徴とする請求項3に記載のダイ装置。
【請求項5】
前記固定部は、前記ダイの外周面を環囲する円筒部を含み、
前記円筒部に、前記軸部が取り付けられていることを特徴とする請求項3または4に記載のダイ装置。
【請求項6】
前記第1軸部、前記第2軸部にはそれぞれ、前記ダイ側の端部に、前記ダイの外周面に形成された凹部と係合するブロックが設けられていることを特徴とする請求項2に記載のダイ装置。
【請求項7】
前記軸部は、中心軸の延長線が、ダイの重心、ダイと固定部とを1つの物体とみなしたときの当該物体の重心、またはそれらの近傍、を通るように前記ダイに固定されることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のダイ装置。
【請求項8】
前記軸部は、両端が、ダイの径方向においてダイリップ駆動機構よりも突出することを特徴とする請求項1に記載のダイ装置。
【請求項9】
リップ幅を調節するためのダイリップ駆動機構が固定されたダイのメンテナンスに用いる治具であって、
前記ダイに固定され、前記ダイの径方向において前記ダイリップ駆動機構よりも突出する軸部
であって、当該軸部を回転することで前記ダイが反転される軸部を備えることを特徴とする治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイ装置および治具に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融樹脂をダイからチューブ状に押し出し、その内側に空気を吹き込んで膨らませ、薄いフィルムを成形するインフレーション成形装置が知られている。インフレーション成形装置には、溶融樹脂を上向きに押し出す上向式と、下向きに押し出す下向式とがある。特許文献1のように、溶融樹脂を水冷する場合は、主に下向式が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
下向式のインフレーション成形装置では、ダイの吐出口(リップ)が下を向いているため、そのままでは清掃などのメンテナンスを行いにくい。このため、チェーン等の吊り具をダイに固定し、ダイを吊り具で吊り上げて反転させ、吐出口を上を向かせてからメンテナンスを行う。
【0005】
ところで、最近では、ダイのリップ周辺に固定される、リップ幅を調節してフィルムの厚みを制御するためのダイリップ駆動機構の開発が進められている。ダイリップ駆動機構はダイの径方向に張り出しているため、単純に吊り具をダイに固定しただけでは吊り具とダイリップ駆動機構とが干渉し、ダイを反転させることができない。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、ダイリップ駆動機構が固定された、下向式のインフレーション成形装置のダイを反転させることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のダイ装置は、インフレーション成形用のダイ装置であって、チューブ状に樹脂を押し出すダイと、ダイのリップ周辺に固定される、リップ幅を調節するためのダイリップ駆動機構と、ダイに固定され、ダイの径方向においてダイリップ駆動機構よりも突出する軸部と、を備える。
【0008】
本発明の別の態様は、治具である。この治具は、リップ幅を調節するためのダイリップ駆動機構が固定されたダイのメンテナンスに用いる治具であって、ダイに固定され、ダイの径方向においてダイリップ駆動機構よりも突出する軸部を備える。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ダイリップ駆動機構が固定された、下向式のインフレーション成形装置のダイを反転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】インフレーション成形装置の概略構成を示す図である。
【
図4】
図2の外周部材の上部とそれに取り付けられたダイリップ駆動機構を示す斜視図である。
【
図5】
図2の外周部材の上部とそれに取り付けられたダイリップ駆動機構を示す側面図である。
【
図6】
図2のダイリップ駆動機構を示す斜視図である。
【
図7】
図2のダイリップ駆動機構を示す斜視図である。
【
図8】
図8(A)、(B)は、ダイリップ駆動機構の動作を説明するための説明図である。
【
図13】第1の実施の形態の変形例に係るダイ装置の斜視図である。
【
図14】第2の実施の形態に係るダイ装置を示す平面図である。
【
図15】第2の実施の形態に係るダイ装置を示す断面図である。
【
図16】第3の実施の形態に係るダイ装置を示す平面図である。
【
図17】第3の実施の形態に係るダイ装置を示す断面図である。
【
図18】第4の実施の形態に係るダイ装置2を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0013】
図1は、第1の実施の形態に係るインフレーション成形装置1の概略構成を示す図である。インフレーション成形装置1は、ダイ装置2と、第1冷却装置4と、第2冷却装置5と、第一対の安定板6と、ピンチロール7と、制御装置8と、を備える。インフレーション成形装置1は、ダイ装置2から下向きに樹脂が押し出されるいわゆる下向式のインフレーション成形装置である。
【0014】
ダイ装置2には、不図示の押出機から溶融樹脂が供給される。供給された溶融樹脂は、ダイ装置2に形成されたリング状の吐出口18aから押し出される。その際、吐出口18aよりも内側に形成されたエア噴出口(不図示)から、押し出された樹脂の内側にエアが噴出され、チューブ状に膨らんだ薄肉の樹脂フィルム(以下、「バブル」とも呼ぶ)が成形される。
【0015】
第1冷却装置4は、ダイ装置2の下方に配置される。第1冷却装置4は、バブルに冷却風を吹き付けてバブルを冷却する。
【0016】
第2冷却装置5は、第1冷却装置4の下方に配置される。第2冷却装置5は、バブルに冷却水を直接接触させてバブルを冷却する。
【0017】
一対の安定板6は、第2冷却装置5の下方に配置され、バブルを一対のピンチロール7の間に案内する。一対のピンチロール7は、安定板6の下方に配置される。一対のピンチロール7は、案内されたバブルを引っ張り下げながら扁平に折りたたむ。折りたたまれたフィルムは、巻取機(不図示)によって巻き取られる。
【0018】
制御装置8は、インフレーション成形装置1を統合的に制御する装置である。例えば制御装置8は、ダイ装置2を制御して、バブルの厚みを調節する。
【0019】
図2、3はそれぞれ、ダイとその周辺を示す断面図、下面図である。ダイ装置2は、ダイ9と、複数のダイリップ駆動機構16と、を備える。ダイ9は、ダイ本体10と、リップ部11と、を含む。ダイ本体10は、略円柱状の部材である。ダイ本体10には、溶融樹脂が流れる流路10aが形成されている。リップ部11は、内周部材12と、外周部材14と、を含む。内周部材12は、ダイ本体10よりも小径の略円柱状の部材であり、ダイ本体10の下方に配置される。外周部材14は、環状の部材であり、内周部材12を環囲する。内周部材12と外周部材14との間には、リング状に上下方向に延びるスリット18が形成される。ダイ本体10の流路10aとスリット18とは連通している。流路10aおよびスリット18を溶融樹脂が下側に向かって流れ、スリット18の吐出口(すなわち下端開口)18aから溶融樹脂が押し出され、吐出口18aの幅に応じた厚みのバブルが形成される。
【0020】
ダイ本体10の外周には、複数のヒータ19が装着される。また、外周部材14の外周にもヒータ19が装着される。ダイ本体10および外周部材14は、ヒータ19によって所要の温度に加熱される。これにより、ダイ9の内部を流れる溶融樹脂を適度な温度および溶融状態に保つことができる。
【0021】
複数のダイリップ駆動機構16は、外周部材14の上端側を囲むように周方向にほぼ隙間なく配置される。ダイリップ駆動機構16は特に、片持ち状に外周部材14に取り付けられる。複数のダイリップ駆動機構16はそれぞれ、外周部材14に径方向内向きの押圧荷重または径方向外向きの引張荷重を付与できる。したがって、複数のダイリップ駆動機構16を調節することによって、吐出口18aの幅(すなわちリップ幅)を周方向で部分的に調整でき、バブルの厚みを周方向で部分的に制御できる。バブルに厚みのばらつきが生じている場合、例えば、肉厚が薄い部分に対応する(例えば肉厚が薄い部分の上方に位置する)ダイリップ駆動機構16から外周部材14に引張荷重を付与し、肉厚が薄い部分に対応する(すなわち上方の)リップ幅を大きくする。これにより、バブルの厚みのばらつきが小さくなる。
【0022】
図4、5は、外周部材14の上部とそれに取り付けられたダイリップ駆動機構16を示す斜視図および側面図である。
図4、5では、ダイリップ駆動機構16を1つだけ示し、残りのダイリップ駆動機構16の表示を省略している。
図6、7は、ダイリップ駆動機構16を示す斜視図である。
図7では、一対の支持部材30の一方を取り外した状態を示す。
【0023】
外周部材14の上部は、上端に形成された小径部25と、小径部25の下方に小径部25よりも大径に形成された中径部26と、中径部26の下方に中径部26よりも大径に形成された大径部27と、を有する。小径部25は、フレキシブルリップ部22を有する。フレキシブルリップ部22は、周方向に沿って設けられた凹状の切り欠き部20より上側の小径部25の部分をいう。フレキシブルリップ部22は、切り欠き部20を境に弾性変形する。フレキシブルリップ部22は、円筒状の本体部28と、本体部28から径方向外側に張り出す環状の張出環囲部29と、を含む。
【0024】
ダイリップ駆動機構16は、外周部材14に取り付けられる一対の支持部材30と、一対の支持部材30に固定される回動軸32と、回動軸32を支点として回動可能に支持されるレバー34と、レバー34による回転力を受けて軸線方向に作動する作動ロッド36と、作動ロッド36とフレキシブルリップ部22とを軸線方向に連結する連結部材38と、作動ロッドを軸線方向に摺動可能に支持する軸受部材40と、レバー34に回転力を付与するアクチュエータ24と、を含む。
【0025】
一対の支持部材30は、平板状に形成され、互いに平行となるよう外周部材14にねじ留めされる。一対の支持部材30の間には、レバー34を介在させるためのスペースが設けられる。軸受部材40は、長方体状に形成され、支持部材30の径方向内側にて外周部材14にねじ留めされる。軸受部材40には、径方向に貫通する挿通孔42が形成されている。挿通孔42の内周面がいわゆる滑り軸受(無給油タイプの軸受)を構成し、作動ロッド36を摺動可能に支持する。
【0026】
回動軸32は、その軸が水平方向を向き、かつ、径方向に略直交するよう一対の支持部材30に固定される。
【0027】
作動ロッド36は、段付円柱状に形成され、その中間部が軸受部材40の挿通孔42に挿通される。作動ロッド36の軸方向外側には、縮径部44が設けられている。縮径部44は、後述するようにレバー34との連結部として機能する。作動ロッド36の軸方向内側には、凹状の係合部46が設けられている。係合部46は、後述するように連結部材38との接続部として機能する。フレキシブルリップ部22の張出環囲部29の外周面(以下、「受圧面23」と呼ぶ)は、作動ロッド36の先端面と対向する。
【0028】
連結部材38は、縦断面視で二股形状に形成される。具体的には、連結部材38には、軸方向において外周部材14と対向する面に、下側に突出する係合部48,50が設けられている。係合部48は、作動ロッド36の係合部46と概ね相補形状をなす。また、フレキシブルリップ部22の張出環囲部29には、軸方向下向きに凹んだ環状の係合溝52が形成されている。係合部50は、この係合溝52と概ね相補形状をなす。
【0029】
係合部48が係合部46に、係合部50が係合溝52に係合するよう作動ロッド36と連結部材38とがねじ留めされる。係合部48と係合部46との互いの対向面はテーパ面とされている。これにより、ねじ54を締結するにつれて作動ロッド36の先端面がフレキシブルリップ部22の受圧面23に押しつけられ、作動ロッド36とフレキシブルリップ部22とがしっかりと固定される。連結部材38の係合部50と、作動ロッド36の先端部とによりフレキシブルリップ部22の一部が挟まれる。これにより、作動ロッド36がその軸線方向にフレキシブルリップ部22と接続される。
【0030】
レバー34は、径方向に延びる長尺板状の本体60を有し、その一端部が回動軸32に回動可能に支持されている。レバー34は、非作動の状態において本体60と作動ロッド36とがほぼ平行となるように設けられている。また、本体60の一端部からその本体60の軸線と直角方向に延出するように二股形状の連結部62が設けられている。すなわち、連結部62は一対の連結片64からなり、それらの間隔が作動ロッド36の縮径部44の外径よりやや大きく、それらの幅が縮径部44の長さよりもやや小さく構成されている。このような構成により、連結部62が縮径部44に嵌合する態様でレバー34と作動ロッド36とが連結される。
【0031】
なお、レバー34の回転力が作動ロッド36に直接付与される構成であれば、本実施形態に限定されない。例えば、連結部62が本体60の軸線から直角方向に延出しない構成としてもよい。本体60の軸線と連結部62の延出方向とが鋭角をなしてもよいし、あるいは鈍角をなしてもよい。また、レバー34が非作動の状態において本体60と作動ロッド36とが平行とならないようにしてもよい。
【0032】
アクチュエータ24は、本実施の形態では空圧駆動式であり、圧縮空気の給排により作動する二組のベローズ70,72およびベローズ71,73と、第1ベース75と、第1ベース75の軸方向下側に配置される第2ベース76と、4本の連結棒77と、を含む。第1ベース75と第2ベース76は、軸方向に離間して配置され、4本の連結棒77により連結される。レバー34と第1ベース75との間にベローズ70,72が配置され、レバー34と第2ベースとの間にベローズ71,73が配置されている。すなわち、レバー34の力点となる端部は、ベローズ70,72とベローズ71,73との間に挟まれるように支持される。ベローズ70,72またはベローズ71,73の一方に圧縮空気が供給されることにより、レバー34が図中時計回りまたは反時計回りに回転駆動される。
【0033】
図5では、圧縮空気の供給によりベローズ70,72に圧力が付与されベローズ70,72が伸長すると、レバー34が図中反時計回りに回動し、その回転力が作動ロッド36の軸線方向左側(すなわち径方向外側)への力に変換される。その結果、フレキシブルリップ部22に対して引っ張り荷重が付与され、対応する(すなわちそのダイリップ駆動機構16の径方向内側の)スリット18の吐出口18aの部分の間隙が増大する方向に変化する。一方、圧縮空気の供給によりベローズ71,73に圧力が付与されベローズ71,73が伸長すると、レバー34が図中時計回りに回動し、その回転力が作動ロッド36の軸線方向右側(すなわち径方向内側)への力に変換される。その結果、フレキシブルリップ部22に対して押圧荷重が付与され、対応するスリット18の部分の間隙が減少する方向に変化する。
【0034】
このような空圧駆動を実現するために、第1ベース75に形成された供給路75aや第2ベース76に供給された供給路76aを介して、図示しない圧力調整装置から圧縮空気が供給される。圧力調整装置は、制御装置8からの制御指令に基づいて、ベローズ70~73内の圧力を制御する。
【0035】
図8は、ダイリップ駆動機構16の動作を説明するための説明図である。
図8(A)はダイリップ駆動機構16の中立状態(ベローズ70~73がともに非作動の状態)を示し、
図8(B)はダイリップ駆動機構16の拡開作動状態(ベローズ70,72のみが作動した状態)を示す。
【0036】
ダイリップ駆動機構16によれば、レバー34の回転力が作用点Pにおいて作動ロッド36に直接付与される。すなわち、レバー34の回転力が作動ロッド36の軸線方向の力としてフレキシブルリップ部22に付与される。その際、作動ロッド36が外周部材14により安定に支持されるため、その軸線方向の力がフレキシブルリップ部22へ効率良く伝達される。その結果、内周部材12と外周部材14との間の間隙調整のための駆動力を効率的に作用させることが可能となる。
【0037】
本実施の形態では、
図8(A)に示すように、レバー34と作動ロッド36との接続点(レバー34の作用点P)と、回動軸32(レバー34の支点)とを結ぶ直線L1が、作動ロッド36の軸線L2と直交するように構成される。これにより、回動軸32を中心として作用点Pを通る仮想円Cの接線方向と、作動ロッド36の軸線方向とが一致する。
【0038】
このため、
図8(B)に示すように、レバー34の回転力の作用点Pにおける方向と、作動ロッド36の軸線方向とが一致する。その結果、レバー34の回転力がそのまま作動ロッド36の軸線方向の駆動力となり、力の伝達効率を最大限に高めることができる。すなわち、フレキシブルリップ部22を拡開作動させる際のアクチュエータ24の駆動力を極めて効率的に作用させることが可能となる(図中太線矢印参照)。
【0039】
図示を省略するが、ダイリップ駆動機構16の狭小作動状態(ベローズ71,73のみが作動した状態)においても、
図8(B)における力の向きが逆になるだけで、レバー34の回転力の作用点Pにおける方向と、作動ロッド36の軸線方向とが一致する。その結果、拡開作動時と同様にレバー34の回転力がそのまま作動ロッド36の軸線方向の駆動力となり、力の伝達効率を最大限に高めることができる。すなわち、ダイリップ駆動機構16によれば、スリット18の吐出口18aの間隔調整のための駆動力を効率的に作用させることが可能となる。
【0040】
なお、レバー34の回転力が作動ロッド36に直接付与される構成であれば、本実施形態に限定されない。例えば、連結部62の延出方向(回動軸32と作用点Pとを結ぶ方向)と作動ロッド36の軸線方向とが鋭角又は鈍角をなす結果、レバー34の回転力の作用点Pにおける方向(便宜上「回転力作用方向」ともいう)と、作動ロッド36の軸線方向(便宜上「軸線力作用方向」ともいう)とが一致しない構成としてもよい。その場合、本体60と作動ロッド36とが平行である一方、本体60の軸線と連結部62の延出方向とが鋭角又は鈍角をなすものでもよい。あるいは、本体60の軸線と連結部62の延出方向とが直角をなす一方、本体60と作動ロッド36とが平行でないものでもよい。あるいは、本体60の軸線と連結部62の延出方向とが鋭角又は鈍角をなし、且つ本体60と作動ロッド36とが平行でないものでもよい。また、本体60として少なくとも一部に屈曲部又は湾曲部を有するもの(軸線を必ずしも特定できない構成)を採用してもよい。
【0041】
以上がインフレーション成形装置1の基本構成である。続いてダイ装置2についてさらに詳細に説明する。
【0042】
図9、10は、ダイ装置2を示す斜視図、平面図である。
図9ではダイリップ駆動機構16およびヒータ19の表示を省略している。ダイ装置2は、ダイメンテナンス用の治具110をさらに備える。
図11は、治具110の斜視図である。
【0043】
治具110は、第1軸部121と、第2軸部122と、第1軸部121および第2軸部122をダイ9に固定するための固定部130と、を含む。
【0044】
固定部130は、ダイ9の外周面9aに固定される第1固定部131と、ダイ9の吐出口18aが形成された面とは反対側の面9b(以下、「底面9b」とも呼ぶ)に固定される少なくとも1つ(図示の例では6つ)の第2固定部132と、を含む。第1固定部131は、本実施の形態では、ダイ本体10の外径と実質的に同一の内径を有する円筒状に形成されている。
【0045】
第2固定部132は、逆L字形状を有する。詳しくは、第2固定部132は、一端側が第1固定部131に固定され、第1固定部131の中心軸と平行に延びる軸方向延在部134と、軸方向延在部134から径方向内側に延在する径方向延在部136と、を含む。
【0046】
第1固定部131は、ネジによりダイ9の外周面9aに固定され、少なくとも1つの第2固定部132は、ネジによりダイ9の底面9bに固定される。ダイ9の外周面に形成されたネジ穴(不図示)と第1固定部131に形成された挿通穴131aとは、径方向延在部136がダイ9の底面に載置されたときに、それらの高さ位置(ダイ9の軸方向における位置)が一致するように形成されている。したがって、径方向延在部136がダイ9の底面9bに載置されるように治具をダイ9に載せ、ダイ9の外周面9aに形成されたネジ穴と第1固定部131に形成された対応する挿通穴131aとが向き合うように治具110をダイ9の中心軸A周りに回転させれば、ダイ9と治具110とを容易に位置合わせできる。
【0047】
第1軸部121および第2軸部122は、棒状の部材である。第1軸部121および第2軸部122の長手方向に垂直な断面は、本実施の形態では円形状であるが、これに限定されず、矩形状またはその他の形状であってもよい。第1軸部121および第2軸部122は、互いに同軸に、第1固定部131に固定されている。したがって、固定部130がダイ9に固定されることにより、第1軸部121および第2軸部122は、互いに同軸に、ダイ9に対して固定されることになる。
【0048】
第1軸部121および第2軸部122は、好ましくは、固定部130がダイ9に固定された状態において、平面視において第1軸部121および第2軸部122の中心軸の延長線がダイ9の中心軸Aまたはその近傍を通るように、つまりダイ9の径方向に延びるように、第1固定部131に固定される。言い換えると、第1軸部121および第2軸部122は、好ましくは、固定部130がダイ9に固定された状態において、平面視において第1軸部121および第2軸部122の中心軸の延長線が円環状である第1固定部131の中心またはその近傍を通るように、第1固定部131に固定される。
【0049】
第1軸部121および第2軸部122は、さらに好ましくは、固定部130がダイ9に固定された状態において、それらの中心軸の延長線が、ダイ9の重心、ダイ9とダイ9に固定された固定部130とを1つの物体とみなしたときの当該物体の重心、またはそれらの近傍、を通るように第1固定部131に取り付けられる。
【0050】
第1軸部121および第2軸部122は、治具110がダイ9に固定された状態において、ダイ9の径方向においてダイリップ駆動機構16よりも外側に突出する。詳しくは、第1軸部121および第2軸部122は、平面視において、複数のダイリップ駆動機構16の外接円(
図10で一点鎖線で示した円)よりも径方向外側に突出する。以下、ダイ9の径方向においてダイリップ駆動機構16よりも外側に突出する第1軸部121の部分を第1突出部121aと呼び、ダイリップ駆動機構16よりも外側に突出する第2軸部122の部分を第2突出部122aと呼ぶ。
【0051】
図12は、ダイ反転装置100を示す概略構成図である。ダイ反転装置100は、第1支柱111および第2支柱112と、回転駆動装置114と、を備える。
【0052】
第1支柱111および第2支柱112は、ダイ装置2を指示する。具体的には、第1支柱111は第1軸部121を回転可能に支持し、第2支柱112は第2軸部122を回転可能に支持する。つまり、第1支柱111および第2支柱112は、治具110を介してダイ9を支持する。より具体的には、第1支柱111は第1軸部121の第1突出部121aを支持し、第2支柱112は第2軸部122の第2突出部122aを支持する(
図12参照)。
【0053】
回転駆動装置114は、例えばモータを含んで構成され、ユーザの指示に基づいて、第1軸部121を1/2回転させる。これにより、治具110ひいてはダイ装置2を回転させて、ダイ9の吐出口18aが形成された面9eが上を向くようにダイ9の上下を反転させることができる。この際、ダイリップ駆動機構16よりも径方向外側に突出した第1突出部121aおよび第2突出部122aが支持されるため、ダイ反転装置100の構成部品等がダイリップ駆動機構16に干渉するのを避けることができる。
【0054】
続いて、ダイ9のメンテナンス時の流れを説明する。ユーザは、ダイ9からヒータ19を取り外し、架台に支持されているダイ9に治具110を取り付け、クレーン等でダイ9ごと治具110を吊って移動させ、
図4に示すように治具110ひいてはダイ9を支柱111,112に支持させる。続いてユーザは、回転駆動装置114を駆動して第1軸部121を1/2回転させ、治具110ひいてはダイ9を反転させる。そしてユーザは、ヘラやスクレーパーなどの用具で、ダイ9の吐出口18aが形成された面に固着した樹脂を刮ぎ落としてダイ9を綺麗にする。
【0055】
以上説明した本実施の形態によれば、治具110は、ダイリップ駆動機構16よりも径方向外側に突出する軸部121,122を備えるため、ダイ反転装置100の構成部品等をダイリップ駆動機構16に干渉させることなくダイ9を反転させることが可能となる。
【0056】
また本実施の形態によれば、治具110は、ダイ9の外周面9aおよび底面9bに固定されるため、外周面9aにだけ、または底面9bにだけ固定される場合に比べて、より強固に治具110をダイ9固定することができ、安全性が向上する。
【0057】
以上、本発明の一側面について、第1の実施の形態をもとに説明した。続いて第1の実施の形態に関連する変形例を説明する。
【0058】
第1の実施の形態の第1の変形例
実施の形態では、固定部130が第1固定部131と第2固定部132を含む場合について説明したが、これには限られず、固定部130は、外周面9aに固定される第1固定部131のみを含んでも、つまり底面9bに固定される第2固定部132を含まなくてもよい。
【0059】
第1の実施の形態の第2の変形例
図13は、第1の実施の形態の変形例に係るダイ装置2を示す斜視図である。
図13は、
図9に対応する。本変形例では、複数の第2固定部132は一体になっている。具体的には、複数の第2固定部132の径方向延在部136が中心まで延びて一体になっている。本変形例によれば、実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0060】
(第2の実施の形態)
図14、
図15はそれぞれ、第2の実施の形態に係るダイ装置2を示す平面図、断面図である。
図15は、ダイ9の中心軸Aを含む面で切断した断面図である。
図14、15ではヒータ19の表示を省略している。第1の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0061】
固定部130は、第1軸部121の一端に設けられる第1ブロック141と、第2軸部122の一端に設けられる第2ブロック142と、を含む。軸部121,122の長手方向に垂直な第1ブロック141および第2ブロック142の断面は、本実施の形態では矩形状であるが、これに限定されず、他の多角形状またはその他の形状であってもよい。
【0062】
ダイ9の外周面9aには、第1ブロック141、第2ブロック142のそれぞれに対応する第1凹部9c、第2凹部9dが形成されている。第1ブロック141は、第1凹部9cに挿入され、ネジによって第1凹部9cの底面(第1軸部121の長手方向において第1ブロックと対向する面)9caに締結される。第1凹部9cの底面9caと、底面9caに当接する第1ブロック141の対向面141aは、好ましくは平坦に形成される。同様に、第2ブロック142は、第2凹部9dに挿入され、ネジによって第2凹部9dの底面(第2軸部122の長手方向において第2ブロックと対向する面)9daに締結される。第2凹部9dの底面9daと、底面9daに当接する第2ブロック142の対向面142aは、好ましくは平坦に形成される。
【0063】
以上説明した本実施の形態によれば、治具110は、ダイリップ駆動機構16よりも径方向外側に突出する軸部121,122を備えるため、ダイ反転装置100の構成部品等をダイリップ駆動機構16に干渉させることなくダイ9を反転させることが可能となる。
【0064】
また本実施の形態によれば、治具110が比較的コンパクトであるため、具体的には第1軸部121と第2軸部122とは別体であり、互いに重ねて保管できるため、保管場所のスペースが狭くて済む。
【0065】
また本実施の形態によれば、凹部9c,9dの底面9ca,9daと、底面9ca,9daに当接するブロック141,142の対向面141a,142aは、好ましくは平坦に形成されるため、ネジにより両者を比較的強固に固定することができる。
【0066】
以上、本発明の一側面について、第2の実施の形態をもとに説明した。
【0067】
(第3の実施の形態)
図16、
図17は、第3の実施の形態に係るダイ装置2を示す平面図、断面図である。
図17は、ダイ9の中心軸Aを含む面で切断した断面図である。第1の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0068】
固定部130は、円環状に形成され、例えばその中心がダイ9の中心軸Aと一致するように、ダイ9の底面9bに固定される。固定部130が円環状であるため、ダイ9の底面9bに、不図示の各種部材を取り付けることができる。第1軸部121および第2軸部122は、互いに同軸に、固定部130に固定されている。
【0069】
本実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。加えて、本実施の形態によれば、治具110はダイ9の外周面9aに固定されないため、メンテナンス時にヒータ19を取り外さなくて済む。また、治具110を常に(例えば成形時も)ダイ9に固定しておくこともできる。
【0070】
以上、本発明の一側面について、第3の実施の形態をもとに説明した。
【0071】
(第4の実施の形態)
図18は、第4の実施の形態に係るダイ装置2を示す断面図である。第1の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0072】
治具110は、1本の軸部120と、固定部130とを備える。固定部130は、円板状に形成される。なお、固定部130の形状は特に限定されない。固定部130はネジ等によってダイ9の底面9bに固定される。軸部120は固定部130に固定される。つまり、軸部120は、固定部130を介してダイ9の底面9bに固定される。軸部120は、その両端が、ダイ9の径方向においてダイリップ駆動機構16よりも外側に突出する。
【0073】
以上説明した本実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。本実施の形態によれば、治具110はダイ9の外周面9aに固定されないため、メンテナンス時にヒータ19を取り外さなくて済む。
【0074】
以上、本発明の一側面について、第4の実施の形態をもとに説明した。
【0075】
続いて各実施の形態に共通の変形例を説明する。
【0076】
ダイリップ駆動機構16の構成は、実施の形態のそれには限定されない。ダイリップ駆動機構16は例えば、ヒータを内蔵し、ヒータの加熱によって軸方向に膨張するヒートボルトを有して構成されてもよい。ヒートボルトの膨張量は、ヒータに対する通電量により制御される。ヒートボルトが膨張すると、その先端が受圧面23を押しつけ、これによりリップ幅が調節される。この場合、軸部は、ダイ9の径方向において、ヒートボルトを有するダイリップ駆動機構16よりも外側に突出する。
【0077】
第1、第2の実施形態では、治具110が第1軸部121および第2軸部122の二本の軸部を備える場合について説明したが、これには限定されず、治具110はどちらか一方の軸部のみを備えていてもよい。また、第3の実施の形態では、治具110の軸部120の両端がダイリップ駆動機構16よりも径方向外側に突出する場合について説明したが、これには限定されず、どちらか一方の端部のみがダイリップ駆動機構16よりも外側に突出していてもよい。これらの場合、軸部が片持ち支持され、片持ち支持された軸部を1/2回転することでダイ9の上下が反転される。
【0078】
実施の形態では、軸部を回転駆動装置を用いて回転することによってダイ9を反転させる場合について説明したが、これには限定されない。例えばチェーン等の吊り具をダイ9、ダイ9の吐出口18aが形成された面に固定し、当該吊り具を引っ張り上げることによって軸部121,122を中心にダイ9を反転させてもよい。
【0079】
上述した実施の形態および変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施の形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0080】
1 インフレーション成形装置、 3 ダイリップ駆動機構、 100 ダイ反転装置、 110 治具、 121 第1軸部、 121a 第1突出部、 122 第2軸部、 122a 第2突出部。