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特許7203014工学操作されたヌクレアーゼを使用した遺伝子発現の調節
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-28
(45)【発行日】2023-01-12
(54)【発明の名称】工学操作されたヌクレアーゼを使用した遺伝子発現の調節
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/52 20060101AFI20230104BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20230104BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230104BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20230104BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20230104BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230104BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20230104BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20230104BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20230104BHJP
【FI】
C12N15/52 Z ZNA
C12N9/16 Z
C12N5/10
C12N15/09 100
A61K38/46
A61K48/00
A61P7/00
A61K35/28
A61K35/545
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019510787
(86)(22)【出願日】2017-08-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 US2017048397
(87)【国際公開番号】W WO2018039440
(87)【国際公開日】2018-03-01
【審査請求日】2020-07-27
(31)【優先権主張番号】62/378,978
(32)【優先日】2016-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/443,981
(32)【優先日】2017-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/545,778
(32)【優先日】2017-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508241200
【氏名又は名称】サンガモ セラピューティクス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー・シー・ミラー
(72)【発明者】
【氏名】エドワード・ジェイ・レバー
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】Blood,2015年,Vol. 126 (23), 204
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
C12N 9/00 - 9/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左側および右側ZFNを含むジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)であって、前記左側ZFNは、配列番号29に示されるアミノ酸配列を含み、前記右側ZFNは、配列番号31に示されるアミノ酸配列を含む、上記ジンクフィンガーヌクレアーゼ。
【請求項2】
請求項1に記載のジンクフィンガーヌクレアーゼを1つ以上コードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記ポリヌクレオチドがmRNAである、請求項2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
配列番号28及び/または配列番号30を含む、請求項3に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項1に記載のジンクフィンガーヌクレアーゼまたは請求項2~4のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含む細胞。
【請求項6】
前記細胞が幹細胞または前駆体細胞である、請求項5に記載の細胞。
【請求項7】
前記細胞がヒト細胞である、請求項6に記載の細胞。
【請求項8】
前記細胞のゲノムが前記ジンクフィンガーヌクレアーゼによって改変されている、請求項5~7のいずれかに記載の細胞。
【請求項9】
前記ゲノム改変が、挿入、欠失、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項8に記載の細胞。
【請求項10】
前記ゲノム改変がBCL11Aエンハンサー配列の+58領域内に存在する、請求項8または9に記載の細胞。
【請求項11】
請求項5~10のいずれかに記載の細胞から増殖されたか、前記細胞の子孫であるか、または前記細胞から分化した細胞であって、請求項1に記載のジンクフィンガーヌクレアーゼ、または請求項2~4のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含む前記細胞
【請求項12】
前記細胞が、前記ゲノム改変を有しない細胞と比較して増大したガンマグロビン及び/またはベータグロビンの発現を呈する、請求項5~11のいずれかに記載の細胞。
【請求項13】
請求項1に記載のジンクフィンガーヌクレアーゼ、請求項2~4のいずれかに記載のポリヌクレオチド、または請求項5~12のいずれかに記載の細胞を含む、医薬組成物。
【請求項14】
細胞の内在性BCL11Aエンハンサー配列を改変するインビトロの方法であって、前記内在性BCL11Aエンハンサー配列が改変されるように、請求項1に記載のジンクフィンガーヌクレアーゼまたは請求項2~4のいずれかに記載のポリヌクレオチドを前記細胞に投与することを含み、場合によって、
(i)前記方法は、外来性配列が前記内在性BCL11Aエンハンサー配列に挿入されるように、前記外来性配列を前記細胞に導入することをさらに含むか;または
(ii)前記改変が欠失を含む、前記方法。
【請求項15】
対象のグロビン産生を増大させるために使用するための、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記対象が異常ヘモグロビン症を有する、請求項13または15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記異常ヘモグロビン症がベータサラセミアまたは鎌状赤血球症である、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
内在性BCL11Aエンハンサー配列内にゲノム改変を含む遺伝子改変細胞を産生するインビトロの方法であって、
a)請求項2~4のいずれかに記載のポリヌクレオチドに細胞を接触させるステップと、
b)前記ポリヌクレオチドからの融合タンパク質の発現を促す条件に前記細胞を供するステップと、
c)前記遺伝子改変細胞を産生するのに十分に発現した前記融合タンパク質で前記内在性BCL11Aエンハンサー配列を改変するステップと
を含み、
場合により、前記方法は、少なくとも1つのサイトカインで前記細胞を刺激することをさらに含む、前記方法。
【請求項19】
請求項1に記載のジンクフィンガーヌクレアーゼ、請求項2~4のいずれかに記載のポリヌクレオチド、及び/または請求項5~12のいずれかに記載の細胞を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年8月24日に出願された米国仮出願第62/378,978号、2017年1月9日に出願された米国仮出願第62/443,981号、及び2017年8月15日に出願された米国仮出願第62/545,778号に基づく利益を主張するものであり、これらの開示内容は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
本開示は、ゲノム工学、特に造血細胞のゲノムの標的改変の分野におけるものである。
【背景技術】
【0003】
ヒトゲノムは20,000~25,000個の遺伝子を含むが転写調節因子は2000個未満であることがゲノムシーケンシングの取り組みにより明らかになったことを考慮すると、遺伝子発現をその種々の経時的、発生的、及び組織特異的な発現の全てにおいて制御するためには、いくつかの因子が相互作用しなければならないことが明らかである。遺伝子の発現は、DNAエレメントと相互作用する一般的な転写調節因子と特異的な転写調節因子との高度に複雑な混合物によって制御される。これらのDNAエレメントは、コアプロモーター及びそれに関連する転写因子結合部位などの局所的なDNAエレメントと、エンハンサー、サイレンサー、インスレーター、及び遺伝子座制御領域(LCR)などの遠位エレメントとの両方を含む(Matson et al.(2006)Ann Rev Genome Hum Genet 7:29-50を参照されたい)。
【0004】
エンハンサーエレメントは、SV40ウイルスゲノムにおいて最初に特定され、その後、ヒト免疫グロブリン重鎖遺伝子座で見つかった。現在では多くの遺伝子の発現において調節的な役割を果たすことが知られているエンハンサーは、主に経時的及び空間的な遺伝子発現パターンに影響すると思われる。またエンハンサーは、標的の遺伝子のコアプロモーターから遠く離れたところで発現を調節するように機能することができ、プロモーターに対する任意の特定の配列の向きに依存しないことも分かっている。エンハンサーは、コアプロモーター領域の数百キロベース上流または下流に位置する場合があり、ここでエンハンサーは、イントロン配列内またはさらには遺伝子の3’末端を超えたところに位置する場合もある。
【0005】
ゲノムDNAの標的切断に関する種々の方法及び組成物が記述されている。このような標的切断事象を使用すると、例えば、標的突然変異誘発を誘導したり、細胞DNA配列の標的欠失を誘導したり、所定の染色体座における標的組換えを容易にしたりすることができる。例えば、米国特許第9,255,250号、同第9,200,266号、同第9,045,763号、同第9,005,973号、同第9,150,847号、同第8,956,828号、同第8,945,868号、同第8,703,489号、同第8,586,526号、同第6,534,261号、同第6,599,692号、同第6,503,717号、同第6,689,558号、同第7,067,317号、同第7,262,054号、同第7,888,121号、同第7,972,854号、同第7,914,796号、同第7,951,925号、同第8,110,379号、同第8,409,861号、米国特許公開第2003/0232410号、同第2005/0208489号、同第2005/0026157号、同第2005/0064474号、同第2006/0063231号、同第2008/0159996号、同第2010/00218264号、同第2012/0017290号、同第2011/0265198号、同第2013/0137104号、同第2013/0122591号、同第2013/0177983号、同第2013/0196373号、同第2015/0056705号、及び同第2015/0335708号を参照されたい。これらの開示内容は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0006】
これらの方法は、非相同末端結合(NHEJ)、相同組換えによらないドナーの末端キャプチャ、または修復鋳型を使用した修復(相同組換え修復(homology directed repair)すなわちHDR)といったエラーの多いプロセスによる切断の修復が、遺伝子のノックアウトまたは目的の配列の挿入(標的組み込み)をもたらし得るように、標的DNA配列において二本鎖切断(DSB)またはニックを誘導する工学操作された切断系の使用を含むことが多い。例えば、米国特許第9,045,763号、同第9,200,266号、同第9,005,973号、及び同第8,703,489号を参照されたい。これらの技術は、ゲノム領域の特異的欠失または特異的な点突然変異もしくは局所的変化の導入(別称、遺伝子補正)を含め、ドナーオリゴヌクレオチドの使用によりゲノム配列に部位特異的変化を導入するために使用することもできる。切断は、工学操作されたジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)といった特異的なヌクレアーゼの使用によって、または、特定の切断を導くための工学操作されたcrRNA/tracr RNA(「シングルガイドRNA」)を用いたCRISPR/Cas系を使用することによっても生じ得る。さらに、標的を定めたヌクレアーゼがアルゴノート系(例えば、「TtAgo」として知られるT.thermophilus由来のもの(Swarts et al.(2014)Nature 507(7491):258-261)を参照されたい)に基づいて開発されており、これらはゲノム編集及び遺伝子療法に使用される可能性も有し得る。
【0007】
赤血球(Red blood cell、RBC)すなわち赤血球(erythrocyte)は、血液の主要な細胞構成成分であり、ヒトの細胞の四分の一を占める。成熟RBCは核及び多くの他の細胞小器官を欠いており、ヘモグロビンが豊富である。ヘモグロビンは、肺から組織へ酸素を運搬し、また組織から二酸化炭素を運び出し肺に戻して除去するように機能する金属タンパク質である。このタンパク質は、RBCの乾燥重量のおよそ97%を構成し、血液の酸素運搬能力を約70倍増大させる。ヘモグロビンは、2本のアルファ(α)様グロビン鎖及び2本のベータ(β)様グロビン鎖、ならびに4つのヘム基を含むヘテロ四量体である。成体においてこのα2β2四量体は、ヘモグロビンA(HbA)または成体ヘモグロビンと呼ばれる。一般的には、アルファグロビン鎖及びベータグロビン鎖はおよそ1:1の比で合成され、この比は、ヘモグロビン及びRBCの安定化という観点から非常に重要であると思われる。発育中の胎児では、異なる形態のヘモグロビンである胎児ヘモグロビン(HbF)が産生され、これはヘモグロビンAよりも高い酸素結合親和性を有するため、酸素が母親の血流を介して胎児の身体に送達され得る。胎児グロビンをコードする遺伝子には2種類あり、これらは配列が極めて類似しており、ベータグロビン遺伝子座における配置の順序に基づいてHBG1(別称Gガンマ)及びHBG2(Aガンマ)と呼ばれる。成体ヘモグロビンのように、胎児ヘモグロビンタンパク質は2本のαグロビン鎖を含むが、成体βグロビン鎖の代わりに2本の胎児ガンマ(γ)グロビン鎖を有する(すなわち、胎児ヘモグロビンはα2γ2である)。妊娠およそ30週目の胎児においてガンマグロビンの合成が低下し始め、一方でベータグロビンの産生が増大する。生後およそ10か月までには、新生児のヘモグロビンはほぼ全てがα2β2であるが、一部のHbF(総ヘモグロビンのおよそ1~3%)は成人期まで持続する。ガンマグロビンからベータグロビンへの産生の切り替えの調節はかなり複雑であり、主にガンマグロビン転写の下方調節と同時にベータグロビン転写の上方調節を伴う。
【0008】
ヘモグロビン鎖をコードする配列の遺伝的欠陥は、鎌状赤血球貧血ならびにアルファサラセミア及びベータサラセミアを含む異常ヘモグロビン症として知られる疾患群の一因となり得る。異常ヘモグロビン症患者の大多数において、ガンマグロビンをコードする遺伝子は依然として存在するが、上述のように分娩前後に生じる正常な遺伝子の抑制のため、発現は比較的低い。
【0009】
米国では5000人中1人が鎌状赤血球症(SCD)を有すると推定され、そのほとんどがサハラ以南のアフリカ系の人々である(Roseff(2009)Immunohematology 25(2):67)。鎌状赤血球突然変異のヘテロ接合保因者には、マラリアに対する防御に起因する利益があると思われるため、この形質は時間と共に正の選択を受けてきた可能性がある。したがって、サハラ以南のアフリカでは人口の最大28%が鎌状赤血球の形質を有すると推定されている(Elguero et al.(2015)PNAS USA 112(22):7051)。鎌状赤血球症は、βグロビン遺伝子においてアミノ酸6番のバリンがグルタミン酸に置換された結果起こる突然変異(DNAレベルではGAGからGTGへの突然変異)によって引き起こされ、ここで結果として生じるヘモグロビンは、「ヘモグロビンS」または「HbS」と呼ばれる。低酸素条件下では、デオキシ型のHbSにおけるコンホメーション変化により、タンパク質のEヘリックスとFヘリックスとの間に疎水性パッチが露出する。ヘモグロビンのベータ鎖の6位における疎水性のバリン残基は、疎水性パッチと会合することができ、HbS分子を凝集させ、繊維状の沈殿物を形成させる。これらの凝集物は次に、RBCの異常または「鎌状化」を引き起こし、細胞の柔軟性の喪失をもたらす。鎌状化しているRBCは毛細血管床に入り込むことができなくなり、鎌状赤血球患者の血管閉塞性発作をもたらし得る。加えて、鎌状化したRBCは正常なRBCよりも脆弱であり、溶血傾向があり、最終的には患者の貧血を引き起こす。
【0010】
鎌状赤血球患者の処置及び管理は、抗生物質処置、疼痛管理、及び急性発症時の輸注を伴う生涯にわたる課題である。1つの手法はヒドロキシ尿素の使用であり、ヒドロキシ尿素は、部分的にはガンマグロビンの産生を増大することによりその効果を発揮する。しかしながら、慢性的なヒドロキシ尿素療法の長期の副作用は依然として未知であり、処置は、低い患者コンプライアンスにつながる望まれない副作用をもたらし、患者毎に異なる効力を有する(Brandow and Panepinto(2011)Am J Hematol 86(9):804-806)。鎌状赤血球処置の効力が増大したにもかかわらず、患者の平均余命は未だ50代半ばから後期でしかなく、疾患に関連する病的状態は患者の生活の質に深刻な影響を及ぼす。
【0011】
サラセミアもまたヘモグロビンに関する疾患であり、一般的にはグロビン鎖の発現低下を伴う。これは、遺伝子の調節領域における突然変異を通じて、または機能性グロビンタンパク質の発現低下もしくはレベル低下をもたらすグロビンコード配列における突然変異から生じ得る。アルファグロビン遺伝子座の突然変異によって生じるアルファサラセミアは、主に西アフリカ及び南アジア系の人々と関連付けられており、マラリアに対する抵抗性を与える可能性がある。ベータグロビン遺伝子座の突然変異によって生じるベータサラセミアは、主に地中海系、一般的にはギリシャならびにトルコ及びイタリアの沿岸地域の人々と関連付けられている。軽症型サラセミアでは、βグロビン対立遺伝子のうちの1つしか突然変異を保有しない。個体は小球性貧血を患うことになり、検出は通常、正常未満の平均血球体積(<80fL)を要する。軽症型サラセミアを患う対象の対立遺伝子は、β+/βまたはβ0/βである(ここで「β+」は、いくらかの量のβ鎖の形成を可能にする対立遺伝子を指し、「β」は、野生型βグロビン対立遺伝子を指し、「β0」は、ベータグロビン発現の完全欠損に関連するβグロビン突然変異を指す)。サラセミアの媒介者である対象は通常の生活を送ることができる場合が多いが、貧血の重症度に応じて時折、とりわけ病気または妊娠時に輸注を必要とすることがある。これらの患者の対立遺伝子は、β+/β+またはβo/β+であり得る。重症型サラセミアは、両方の対立遺伝子がサラセミア突然変異を有するときに起こる。これは、重度に小球性かつ低色素性の貧血である。処置しなければ貧血、脾腫、及び重度の骨変形を引き起こし、進行すると20歳前に死に至る。処置は、定期的な輸血、脾腫の場合は脾摘出術、及び輸注が原因の鉄過剰のキレート化からなる。重度サラセミア罹患者の処置には、適切なドナーが特定可能であれば骨髄移植も使用されるが、この手技は相当なリスクを有し得る。
【0012】
SCDとベータサラセミアとの両方の処置のために提唱されている1つの手法は、異常な成体ヘモグロビンをHbFで機能的に置き換えることを目的としてガンマグロビンの発現を増大させることである。上述のように、ヒドロキシ尿素を用いたSCD患者の処置は、ガンマグロビン発現の増大に対するその効果をひとつの理由として成功すると考えられている。ガンマグロビン発現に影響することが発見された最初の化合物群は、細胞傷害性薬物であった。薬理学的な操作によってガンマグロビンをデノボ合成させる能力は、実験動物に5-アザシチジンを使用して初めて示された(DeSimone(1982)Proc Nat’l Acad Sci USA 79(14):4428-31)。後続研究により、βサラセミア患者及び鎌状赤血球症患者のHbFを増大させる5-アザシチジンの能力が確認された(Ley,et al.,(1982)N.Engl.J.Medicine,307:1469-1475、及びLey,et al.,(1983)Blood 62:370-380)。加えて、短鎖脂肪酸(例えば酪酸及び誘導体)は、実験系においてHbFを増大させることが示されている(Constantoulakis et al.,(1988)Blood 72(6):1961-1967)。また、ヒト集団の一部には、高量のHbFが成人期まで持続する「遺伝性高胎児ヘモグロビン症」(HPFH)として知られる状態を有する集団がある(HPFHヘテロ接合体の10~40%)(Thein et al.(2009)Hum.Mol.Genet 18(R2):R216-R223を参照されたい)。これは稀な状態であるが、関連するベータグロビン異常が一切ない場合は、個体のヘモグロビンの100%がHbFであっても有意な臨床症状を伴うことはない。ベータサラセミアを有する個体が同時にHPFHも有する場合、HbFの発現は疾患の重症度を軽減し得る(Potoka and Gladwin(2015)Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol.308(4):L314-L324)。さらに、鎌状赤血球症の自然経過の重症度は患者毎に大きく異なり得、このばらつきは、ひとつには、疾患がより軽度な一部の個体は、より高レベルのHbFを発現するという事実に起因し得る。
【0013】
HbFの発現を増大させる1つの手法には、産物がガンマグロビン発現の調節に関与する遺伝子の特定が含まれる。そのような遺伝子の1つは、リンパ球の発生におけるその役割のために最初に特定されたBCL11Aである。BCL11Aは、ガンマグロビン発現の発生段階特異的な調節に関与すると考えられているジンクフィンガータンパク質をコードする。BCL11Aは成体の赤血球系前駆体細胞において発現し、その発現の下方調節は、ガンマグロビン発現の増大をもたらす。加えて、BCL11A mRNAのスプライシングは発生段階的に調節される。胚細胞では、BCL11A-S及びBCL11A-XSとして知られるBCL11Aのより短いmRNA変異体が主に発現するのに対し、成体細胞では、より長いBCL11A-L及びBCL11A-XLのmRNA変異体が主に発現する。Sankaran et al.(2008)Science 322 p.1839を参照されたい。BCL11Aタンパク質は、ベータグロビン遺伝子座と相互作用して、そのコンホメーション、ひいてはその発現を様々な発生段階で変化させると思われる。BCL11A遺伝子を標的とする阻害性RNAの使用が提唱されているが(例えば、米国特許公開第2011/0182867号を参照されたい)、この技術にはいくつかの潜在的な欠点がある。すなわち、完全なノックダウンが達成されない可能性があること、そのようなRNAの送達が問題になる可能性があること、そしてこうしたRNAが継続的に存在しなければならないことから、生涯にわたり複数の処置が必要になることである。
【0014】
BCL11Aエンハンサー配列を標的にすることにより、HbFを増大させる機構が提供される。例えば、米国特許公開第2015/0132269号及びPCT公開第WO 2016/183298号を参照されたい。ゲノムワイド関連解析により、高いHbFレベルに関連するBCL11A遺伝子座における一組の遺伝的差異が特定された。こうした差異は、系統が限定された段階特異的なエンハンサー領域として機能するBCL11Aの非コード領域に見られる小ヌクレオチド多型(small nucleotide polymorphism、SNP)の集まりである。さらなる調査により、このBCL11Aエンハンサーは、赤血球系細胞におけるBCL11A発現のためには必要であるが、B細胞におけるその発現のためには必要とされないことが明らかになった(Bauer et al.(2013)Science 343:253-257を参照されたい)。このエンハンサー領域はBCL11A遺伝子のイントロン2内に見られ、イントロン2では3つのDNAseI高感受性領域(調節能に関連するクロマチンの状態を示すことが多い)が特定された。これら3つの領域は、BCL11Aの転写開始部位からのキロベース単位の距離に従って「+62」、「+58」、及び「+55」と識別された。これらのエンハンサー領域は、約350(+55)、550(+58)、及び350(+62)のヌクレオチド長である(Bauer 2013,ibid)。
【0015】
ヒトの治療処置に使用するためのヌクレアーゼを開発する際は、ヌクレアーゼが最上の安全性特性を有することが必須である。具体的に述べると、ヌクレアーゼは、オフターゲット切断のレベルが非常に低くなければならない。使用者が指定した標的以外の場所にかなりの数の二本鎖切断があると、オフターゲット遺伝子の抑制が起こり、稀な事例では染色体転座が発生する場合がある(Hoban and Bauer(2016)Blood,127(21):2525-2535及びTsang et al.(2017)Nature Methods,in pressを参照されたい)。工学操作されたヌクレアーゼとゲノムDNAとの非特異的な相互作用を排除することにより、特異性の向上が達成され得る(米国仮特許出願第62/378,978号及び同第62/443,981号を参照されたい)。
【0016】
よって、例えば鎌状赤血球症及びベータサラセミアなどの異常ヘモグロビン症を処置するためにBCL11A遺伝子発現を変化させるための、高度に特異的なさらなる方法及び組成物が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0017】
本発明は、遺伝子療法及びゲノム工学において使用するための高度に特異的な組成物及び方法を記述する。具体的に述べると、記述する方法及び組成物は、例えば、1つ以上のさらなる遺伝子の調節因子として機能する遺伝子であるBCL11A遺伝子を(例えば、その発現を完全または部分的に消失させることにより)不活性化させることに関する。特に、本発明は、BCL11A遺伝子のエンハンサー機能に干渉して特定の細胞系統(例えば、赤血球系)におけるその活性を減少またはノックアウトするための方法及び組成物を記述する。さらに、本発明は、BCL11Aエンハンサー機能に干渉するための方法及び組成物を提供し、ここでエンハンサー配列は、BCL11A遺伝子のコード配列内に位置せず、提供される試薬は、高度に特異的な活性を呈する。こうした状況下で結果として生じるBCL11A遺伝子の下方調節は、ガンマグロビンの発現増大をもたらし、オフターゲット切断事象数が低減する。
【0018】
一部の態様では、本発明は、DNA標的サブサイトを認識する認識ヘリックス領域を各フィンガーが含む4つ、5つ、または6つのフィンガーを含むジンクフィンガータンパク質(ZFP)を含む、天然に存在しないジンクフィンガータンパク質を含み、ここで認識ヘリックス領域は、表1の一行に示される順序の配列を含む。各ジンクフィンガーにおける7アミノ酸の認識ヘリックス領域には、ジンクフィンガー骨格(亜鉛配位残基を含めおよそ30残基)内で-1から+6の番号が付けられている。ある特定の実施形態では、本明細書に記述されるジンクフィンガータンパク質の構成成分ジンクフィンガーのうちの1つ、2つ、または3つ以上は、-5位、-14位、または-5位と-14位の両方(認識ヘリックス領域に使用される-1から+6の番号付けから続く番号付け)におけるアミノ酸への突然変異を含むがこれらに限定されない、認識ヘリックス領域外の1つ以上の残基への突然変異をさらに含む。例えば、米国仮特許出願第62/378,978号及び同第62/443,981号に記述されているQm4及びQm14の突然変異を参照されたい。ジンクフィンガータンパク質の構成成分ジンクフィンガーは、例えば米国特許第8,772,453号に記述されているような任意のリンカーによって連結されていてよい。ある特定の実施形態では、ZFPは、次のように呼称されるタンパク質:63014(配列番号1に示される標的部位に結合する)及び65722(配列番号2に示される標的部位に結合する)に対して、表1に示される認識ヘリックスを含む。
【0019】
ある特定の実施形態では、本明細書に記述されるジンクフィンガータンパク質は、機能的ドメイン(例えば、転写活性化ドメイン、転写抑制ドメイン、切断ドメイン(ジンクフィンガーヌクレアーゼを形成するため)など)に融合している。切断ドメイン及びジンクフィンガータンパク質を作動的に連結するには、米国特許第9,394,531号及び同第9,567,609号に記述されているリンカーを含むがこれらに限定されない任意のリンカーを使用してよい。さらに、FokI切断ドメインが使用される場合、触媒ドメインにおけるさらなる突然変異、二量体化ドメインにおけるさらなる突然変異、リン酸接触残基へのさらなる突然変異(二量体化ドメインまたは触媒ドメイン内ではない)、ならびに触媒ドメインの突然変異、二量体化ドメインの突然変異、及びリン酸接触残基への突然変異のうち任意のものの組み合わせが存在し得、これには、限定されるものではないが、二量体化ドメインへのELDまたはKKR突然変異、FokIドメインの残基525への突然変異(KからS)、及び二量体化ドメインへのELDまたはKKR突然変異とFokIドメインの残基525への突然変異(KからS)との組み合わせが含まれる(番号付けは野生型に対するものである)。米国特許第7,888,121号、同第7,914,796号、同第8,034,598号、同第8,623,618号、及び米国特許公開第2011/0201055号、ならびに米国仮特許出願第62/378,978号及び同第62/443,981号を参照されたい。
【0020】
ある特定の実施形態では、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を二量体化対として使用して、このZFN対の標的部位の一方もしくは両方、またはその付近を切断することができ、例えば、表1の「左側パートナー」(例えば、63014)は、表1の「右側パートナー」(例えば、65722)と二量体を形成して、BCL11Aエンハンサー配列を切断することができる。ある特定の実施形態では、ZFN対は、次のアミノ酸配列、63014:
【化1】
を含み、ここでリンカー配列は、当技術分野で公知の任意のリンカー配列、例えば米国特許第9,394,531号及び同第9,567,609号に記述されているものであり得る。ある特定の実施形態では、63014のリンカーは、L7c5リンカー(LRGSISRARPLNPHP(配列番号5))を含むかまたはそれからなり、65722に使用されるリンカーは、L0リンカー(LRGSQLVKS(配列番号6)、米国特許第9,567,609号参照)を含むかまたはそれからなる。上記に示した配列のリンカーのC末端側にあるFokI切断ドメイン配列は、ジンクフィンガータンパク質に作動的に連結した代替的なFokIドメインも含み得る。ある特定の実施形態では、FokI切断ドメインは、触媒ドメイン、二量体化ドメイン、リン酸接触残基への代替的または付加的な突然変異、ならびに、触媒ドメイン、二量体化ドメイン、及びリン酸接触残基のうちの任意のものへの突然変異の組み合わせを含み得る。
【0021】
別の態様では、本発明は、ゲノム工学を目的とした、ヒト幹細胞または前駆体細胞(HSC/PC)への少なくとも1つのヌクレアーゼ(例えば、BCL11Aエンハンサー配列に結合するヌクレアーゼ)の送達を含む。ある特定の実施形態では、ヌクレアーゼは、標的サブサイトを認識する認識ヘリックス領域を各フィンガーが含む4つ、5つ、または6つのフィンガーを含むジンクフィンガータンパク質(ZFP)を含み、ここで認識ヘリックス領域は、表1の一行に示される順序の配列を含む。他の実施形態では、ZFNヌクレアーゼは、63014/65722と呼称されるヌクレアーゼ対を含む。本明細書に記述されるヌクレアーゼ(複数可)は、リンカー、例えば、LRGSISRARPLNPHP(配列番号5)または(LRGSQLVKS(配列番号6))を含むがこれらに限定されない、9,567,609に示されるリンカーを(例えば、DNA結合ドメインと切断ドメインとの間に)さらに含み得る。
【0022】
一部の実施形態では、ヌクレアーゼはペプチドとして送達されるが、他の実施形態では、少なくとも1つのヌクレアーゼをコードする核酸として送達される。一部の実施形態では、2つ以上のヌクレアーゼが使用される。一部の好ましい実施形態では、ヌクレアーゼをコードする核酸はmRNAであり、一部の事例では、mRNAは保護されている。一部の態様では、mRNAは化学的に改変されていてもよい(例えば、Kormann et al.(2011)Nature Biotechnology 29(2):154-157を参照されたい)。他の態様では、mRNAは、ARCA capを含み得る(米国特許第7,074,596号及び同第8,153,773号を参照されたい)。さらなる実施形態では、mRNAは、未改変のヌクレオチドと改変されたヌクレオチドとの混合物を含み得る(米国特許公開第2012/0195936号を参照されたい)。好ましい一実施形態では、ヌクレアーゼ(複数可)をコードする核酸は、電気穿孔によってHSC/PCに送達される。一部の実施形態では、ヌクレアーゼは、転写因子の結合部位またはその付近を切断する。一部の態様では、転写因子はGATA-1である。
【0023】
他の態様では、本発明は、内在性BCL11Aエンハンサー配列が、本明細書に記述される(例えば、表1に示される)ヌクレアーゼにより、例えば細胞の野生型配列と比較して遺伝的に改変されている、細胞または細胞株を含む。BCL11Aエンハンサーに対する遺伝子改変は、グロビン(ベータ及びガンマ)遺伝子発現の改変をもたらす。本明細書に記述されるヌクレアーゼで改変された細胞または細胞株は、構造、機能、及び構造と機能両方の組み合わせにおいて野生型と区別可能である。遺伝子改変細胞または細胞株は、改変に対してヘテロ接合性であってもホモ接合性であってもよい。改変は、挿入(例えば、導入遺伝子挿入)、欠失、及び挿入と欠失の組み合わせを含み得る。このような挿入、欠失、及び挿入と欠失の組み合わせは、一般に「インデル」と呼ばれる。一部の好ましい実施形態では、インデルは、転写因子結合部位の破壊をもたらす。ある特定の実施形態では、改変は、ヌクレアーゼ(複数可)の結合部位(複数可)、切断部位(複数可)、及び結合部位と切断部位の組み合わせにおけるものか、またはその付近、例えば、切断部位(複数可)から1~300個以内(またはこの間の任意の値)の塩基対、より好ましくは、表1に示される結合部位(複数可)、切断部位(複数可)、及び結合部位と切断部位の組み合わせの片側から1~100個以内(またはこの間の任意の値)の塩基対、さらにより好ましくは、結合部位(複数可)、切断部位(複数可)、及び結合部位と切断部位の組み合わせの片側で1~50個以内(またはこの間の任意の値)の塩基対だけ、上流もしくは下流にある。ある特定の実施形態では、BCL11Aエンハンサー配列の遺伝子改変は、表1に示される配列(標的部位)の中及び/または間にある。改変は、切断部位における1つ以上のヌクレオチドに対する改変も含み得る。改変は、結合部位における1つ以上のヌクレオチドに対する改変も含み得る。改変は、切断部位における、そして結合部位のうちの1つ以上における、1つ以上のヌクレオチドに対する改変をさらに含み得る。ある特定の実施形態では、ヌクレアーゼ標的部位(複数可)のうちの1つ以上は、改変されていない。他の実施形態では、ヌクレアーゼ(複数可)の標的部位のうち少なくとも1つは改変されている。ある特定の実施形態では、改変は、BCL11Aエンハンサーの「+58」領域またはその付近、例えば、配列番号1及び配列番号2のうちのいずれかに示されるヌクレアーゼ結合部位またはその付近にある。例えば幹細胞(CD34+造血幹細胞などの造血幹細胞)または赤血球(RBC)前駆体細胞など、任意の細胞または細胞株が、本明細書に記述されるヌクレアーゼによって改変され得る。
【0024】
本明細書に記述されるヌクレアーゼによる改変後に得られる細胞または細胞株、例えば、本明細書に記述されるヌクレアーゼで改変された細胞または細胞株の子孫である細胞または細胞株も記述される。本明細書に記述される改変幹細胞の子孫である部分的または完全に分化した細胞も提供される(例えば、RBCまたはRBC前駆体細胞)。ヌクレアーゼで改変された細胞の子孫である細胞は、増殖、分化、及び増殖と分化両方の組み合わせをインビトロ(培養下)で行ってもよいし、または、例えばヌクレアーゼで改変された幹細胞をエクスビボ投与した後に生きている対象において分化させてもよい。本明細書に開示される遺伝子改変細胞または細胞株のいずれも、ガンマグロビンの発現増大を示し得る。本明細書に記述される遺伝子改変細胞を含む医薬組成物などの組成物も提供される。
【0025】
他の態様では、本発明は、ドナー核酸を標的細胞に送達し、ドナーが細胞に組み込まれた遺伝子改変細胞を用意することを含む。ドナーは、表1のヌクレアーゼ(複数可)をコードする核酸の前、後、またはそれと共に送達されてもよい。ドナー核酸は、細胞のゲノム、例えば、内在性遺伝子座に組み込まれる外来性配列(導入遺伝子)を含み得る。一部の実施形態では、ドナーは、標的切断部位と相同性の領域が隣接する全長遺伝子またはその断片を含み得る。一部の実施形態では、ドナーは相同領域を欠いており、相同性非依存性機構(すなわち、NHEJ)によって標的遺伝子座に組み込まれる。ドナーは、任意の核酸配列、例えば、ヌクレアーゼ誘導性二本鎖切断の相同組換え修復のための基質として使用されると、内在性染色体座(例えば、BCL11Aエンハンサー領域)にドナー特異的欠失を発生させるか、または代替的に(またはこれに加えて)内在性遺伝子座の新規対立遺伝子型(例えば、転写因子結合部位を除去する点突然変異)を作り出す核酸を含み得る。一部の態様では、ドナー核酸はオリゴヌクレオチドであり、組み込みは、遺伝子補正事象または標的欠失をもたらす。
【0026】
他の態様では、ヌクレアーゼ、ドナー、及びヌクレアーゼとドナー両方の組み合わせは、ウイルスによる遺伝子移入法、ウイルスによらない遺伝子移入法、及びウイルスによる遺伝子移入法とウイルスによらない遺伝子移入法の組み合わせによって送達される。好ましい実施形態では、ドナーは、アデノ随伴ウイルス(AAV)を介して細胞に送達される。一部の事例では、AAVは、カプシド血清型と比較して異種血清型のLTRを含む。
【0027】
一部の態様では、エンハンサーのDNAseI高感受性領域内の領域(例えば、BCL11Aエンハンサーの+58領域)を含む欠失は、表1に示される1つ以上のヌクレアーゼを使用して行われる。これらの欠失は、約1ヌクレオチド~約551ヌクレオチドを含む場合がある。よって、欠失は、1、5、10、15、20、25、30、40、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、またはこの間の任意の値のヌクレオチドを含むことができる。一部の実施形態では、欠失は、1つ以上の転写因子結合領域を含む。一部の好ましい実施形態では、欠失は、GATA-1結合部位、または他の因子と組み合わせたGATA-1の結合部位を含む。
【0028】
一部の実施形態では、表1のDNA結合ドメインは、機能的ドメインに融合している。一部の態様は、DNA結合ドメインと、遺伝子の発現を調節することができるドメインとの融合を含む。一部の実施形態では、融合タンパク質は、調整因子が遺伝子発現を抑制する遺伝子発現調整ドメインに融合した表1のDNA結合ドメインを含む。
【0029】
一部の実施形態では、HSC/PC細胞を、本発明のヌクレアーゼ、DNA結合タンパク質、及びヌクレアーゼとDNA結合タンパク質の組み合わせ(すなわち、表1に示されるZFP)に接触させる。一部の実施形態では、ヌクレアーゼ、DNA結合タンパク質、及びヌクレアーゼとDNA結合タンパク質の組み合わせは、核酸として送達され、他の実施形態では、タンパク質として送達される。一部の実施形態では、核酸は、ヌクレアーゼ、DNA結合タンパク質、及びヌクレアーゼとDNA結合タンパク質の組み合わせをコードするmRNAであり、さらなる実施形態では、mRNAは保護されていてもよい。一部の実施形態では、mRNAは、化学的に改変されていてもよく、ARCA cap、未改変のヌクレオチドと改変されたヌクレオチドとの混合物、及び、ARCA capと、未改変のヌクレオチドと改変されたヌクレオチドとの混合物との組み合わせを含み得る。部分的または完全に分化した細胞を含む、これらの細胞の子孫である細胞または細胞株も提供される。
【0030】
一部の態様では、対象からのHSC/PCのアフェレーシス、または採取した骨髄からの精製の後、HSC/PCを、本発明のヌクレアーゼ、DNA結合タンパク質、及びヌクレアーゼとDNA結合タンパク質の組み合わせにエクスビボで接触させる。一部の実施形態では、本明細書に記述されるヌクレアーゼは、BCL11Aエンハンサー領域内に改変を引き起こし、例えば、野生型細胞から構造、機能、及び構造と機能の組み合わせが異なる遺伝子改変細胞、他の改変(例えば、ヌクレアーゼ改変)細胞、ならびに野生型と他の改変細胞との組み合わせをもたらす。さらなる実施形態では、BCL11Aエンハンサー領域改変を含むHSC/PCは、対象に再導入される。一部の事例では、BCL11Aエンハンサー領域改変を含むHSC/PCは、導入前に拡大される。他の態様では、遺伝子改変HSC/PCは骨髄移植で対象に与えられ、HSC/PCはインビボで生着し、分化し、成熟する。一部の実施形態では、HSC/PCは、G-CSF誘導性動員、プレリキサホル誘導性動員、及びG-CSF誘導性動員とプレリキサホル誘導性動員の組み合わせの後に対象から単離され、他の実施形態では、この細胞は、ヒト骨髄またはヒト臍帯から単離される。一部の態様では、対象は、改変されたHSC/PCを含むグラフトの導入前に軽度の骨髄破壊手技を処置され、他の態様では、対象は、強力な骨髄破壊的移植前治療レジメンで処置される。一部の実施形態では、本発明の方法及び組成物は、異常ヘモグロビン症を処置または防止するために使用される。一部の態様では、異常ヘモグロビン症はサラセミアである。一部の態様では、異常ヘモグロビン症はベータサラセミアであり、他の態様では、異常ヘモグロビン症は鎌状赤血球症である。
【0031】
一部の実施形態では、HSC/PCをドナー分子にさらに接触させる。一部の実施形態では、ドナー分子は、ウイルスベクターによって送達される。ドナー分子は、プロモーターありまたはなしの、機能的ポリペプチド(例えば、cDNAまたはその断片)をコードする1つ以上の配列を含み得る。ドナー分子が不活性化のために使用される場合、2Aペプチド、SA部位、IRESなどをコードする配列を含むがこれらに限定されない、さらなる配列(コード配列または非コード配列)が含まれてもよい。
【0032】
一態様において、本発明の方法及び組成物は、HSC/PCをインビボで接触させるための方法を含む。ヌクレアーゼ、DNA結合タンパク質、またはヌクレアーゼとDNA結合タンパク質の組み合わせは、当技術分野で公知の方法によってインサイチュでHSC/PCに送達される。一部の実施形態では、本発明のヌクレアーゼ及び/またはDNA結合タンパク質は、それを必要とする対象に投与されるウイルス粒子を含み、他の実施形態では、ヌクレアーゼ、DNA結合タンパク質、またはヌクレアーゼとDNA結合タンパク質の組み合わせは、ナノ粒子(例えばリポソーム)を含む。一部の実施形態では、ウイルス粒子、ナノ粒子、またはウイルス粒子とナノ粒子の組み合わせは、HSC/PCが存在する臓器(例えば骨髄)に送達される。
【0033】
別の態様では、相同性非依存性機構を介して細胞のゲノムにドナー核酸を組み込む方法が本明細書に記述される。本方法は、細胞のゲノム内に二本鎖切断(DSB)を作り出すことと、DSBの部位にドナー核酸が組み込まれるように、本明細書に記述されるヌクレアーゼを使用してドナー分子を切断することとを含む。ある特定の実施形態では、ドナー核酸は、相同性に依存しない方法(例えば、NHEJ)によって組み込まれる。上述のように、インビボ切断すると、DSBの場所に標的を定めて細胞のゲノムにドナー配列を組み込むことができる。ドナー配列は、DSBを作り出すために使用されるヌクレアーゼのうちの1つ以上と同じ標的部位のうちの1つ以上を含み得る。よって、ドナー配列は、組み込みが所望される内在性遺伝子を切断するために使用されるものと同じヌクレアーゼのうちの1つ以上によって切断してもよい。ある特定の実施形態では、ドナー配列は、DSBを誘導するために使用されるヌクレアーゼとは異なるヌクレアーゼ標的部位を含む。標的細胞のゲノム内のDSBは、任意の機構によって作り出してよい。ある特定の実施形態では、DSBは、1つ以上のジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、目的の領域内の配列に結合するように工学操作されたジンクフィンガー結合ドメインを含む融合タンパク質、及び切断ドメインまたは切断ハーフドメインによって作り出される。
【0034】
一態様において、ドナーは、目的の遺伝子に結合するか、その発現を調整するか、または結合と発現調整の両方を行う、目的の調節タンパク質(例えばZFP TF、TALE TF、またはCRISPR/Cas TF)をコードし得る。一実施形態では、調節タンパク質は、DNA配列に結合し、他の調節因子の結合を防止する。別の実施形態では、調節タンパク質の結合は、標的DNAの発現を調整(すなわち、誘導または抑制)し得る。
【0035】
一部の実施形態では、トランスジェニックHSC/PC細胞、トランスジェニック動物、またはトランスジェニックHSC/PC細胞とトランスジェニック動物の組み合わせは、ヒト遺伝子をコードする導入遺伝子を含む。一部の事例では、トランスジェニック動物は、内在性遺伝子座におけるノックアウト、及び内在性遺伝子のそれに対応するヒト遺伝子との置き換えを含み、これにより、ヒトタンパク質を単離して研究することができるインビボ系の開発が可能になる。このようなトランスジェニックモデルは、小分子もしくは大きな生体分子、または目的のヒトタンパク質と相互作用するかもしくはそれを改変し得る他の実体を特定するためのスクリーニング目的で使用され得る。一部の態様では、本明細書に記述される方法のうちのいずれかによって得られた幹細胞(例えば、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、造血幹細胞など)または動物の胚内の選択された遺伝子座(例えば、セーフハーバー)に導入遺伝子を組み込み、その後この胚を移植することにより、生きた動物が産まれる。その後、この動物を性成熟するまで飼育し、子孫を産生させ、ここで子孫の少なくとも一部は、編集された内在性遺伝子配列または組み込まれた導入遺伝子を含む。
【0036】
別の態様では、細胞における遺伝子発現(例えば、BCL11A、グロビン遺伝子、及びBCL11Aとグロビン遺伝子の組み合わせ)を変化させる方法であって、本明細書に記述される(表1に示される)1つ以上のヌクレアーゼを、1つ以上のタンパク質が発現し、遺伝子の発現が変化するような条件下で細胞に導入することを含む、方法が、本明細書で提供される。ある特定の実施形態では、グロビン遺伝子(例えば、ガンマグロビンまたはベータグロビン)の発現が変化(例えば、増大)する。本明細書に記述される方法のうちのいずれかは、ドナー配列(例えば、外来性または内在性プロモーターの制御下にある導入遺伝子またはその断片)を細胞のゲノムに組み込むこと、例えば、BCL11A遺伝子におけるヌクレアーゼ切断部位またはその付近にドナーを組み込むことをさらに含み得る。細胞へのドナー配列の導入は、ウイルスベクターの使用による導入、オリゴヌクレオチドとしての導入、プラスミドによる導入、及びウイルスベクターの使用による導入、オリゴヌクレオチドとしての導入、またはプラスミドによる導入から選択される1つ以上の方法の組み合わせによって行われる。遺伝子発現を変化させ得る細胞は、例えば、赤血球(RBC)前駆体細胞、造血幹細胞(例えば、CD34+細胞)、及びRBC前駆体細胞と造血幹細胞の組み合わせであり得る。
【0037】
他の実施形態では、内在性BCL11Aエンハンサー配列内にゲノム改変(BCL11Aエンハンサー配列のヌクレオチド配列への改変)を含む遺伝子改変細胞を産生する方法であって、a)4つ、5つ、または6つのジンクフィンガードメインを含むジンクフィンガーヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド(例えばDNAまたはmRNA)に細胞を接触させるステップであって、ジンクフィンガードメインの各々は表1の一行に示される順序の認識ヘリックス領域を含む、ステップと、b)ポリヌクレオチドからのジンクフィンガータンパク質の発現を促す条件に細胞を供するステップと、c)遺伝子改変細胞を産生するのに十分に発現したジンクフィンガータンパク質で内在性BCL11Aエンハンサー配列を改変するステップとを含む、方法が、本明細書に提供される。ある特定の実施形態では、少なくとも1つのサイトカインで(例えば、ステップ(a)の前に)細胞を刺激する。ポリヌクレオチドは、トランスフェクション、非ウイルスベクターの使用、ウイルスベクターの使用、化学的手段、または電場への曝露(例えば、電気穿孔)を含むがこれらに限定されない任意の好適な方法を使用して、細胞に接触させてよい。
【0038】
本明細書に記述される方法によって産生された細胞の子孫である細胞を含む、本明細書に記述されるゲノム改変のうちの1つまたは組み合わせを含む細胞も提供される。
【0039】
グロビン遺伝子発現の増大を必要とする患者を処置する方法であって、患者に医薬調製物を投与することを含み、医薬調製物が、患者のグロビン遺伝子発現を増大させるのに十分な量で、本明細書に記述される遺伝子改変細胞、タンパク質、ポリヌクレオチド、ならびに遺伝子改変細胞、タンパク質、及びポリヌクレオチドから選択される1つ以上の組み合わせを含む、方法も提供される。ある特定の実施形態では、患者は、サラセミアまたは鎌状赤血球症を有することが知られているか、これらを有することが疑われるか、またはこれらを発症するリスクがある。
【0040】
本発明の核酸、タンパク質、遺伝子改変細胞、ならびに核酸、タンパク質、及び遺伝子改変細胞から選択される1つ以上の組み合わせを含む、キットも提供される。本キットは、ヌクレアーゼをコードする核酸(例えば、好適な発現ベクターに含まれた遺伝子をコードするRNA分子、またはZFN、TALEN、もしくはCRISPR/Cas系)、ヌクレアーゼタンパク質のアリコート、ドナー分子、幹細胞の自己再生(「幹細胞性」)の好適な改変因子、細胞、緩衝液、指示書(例えば、本発明の方法を行うためのもの)などを含んでよく、これらのキット構成要素の種々の組み合わせも含まれる。本発明は、ヌクレアーゼによって行われる(例えば、表1の一行に示される)少なくとも1つのゲノム改変を含む遺伝子改変細胞(例えば、造血(CD34+)幹細胞またはRBC前駆体細胞などの幹細胞)であって、ゲノム改変が内在性BCL11Aエンハンサー配列内にあり、さらに、ゲノム改変が、挿入、欠失、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、配列番号1及び配列番号2のうちのいずれか、またはその付近、またはそれらの間にある改変を含む、細胞を含むが、これに限定されない。ある特定の実施形態では、この細胞は、本明細書に記述される幹細胞の子孫である、遺伝子改変分化細胞(例えば、造血幹細胞またはRBC前駆体細胞の子孫であるRBC)である。
【0041】
ヌクレアーゼは、少なくとも1つのジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)(例えば、表1に示されるもの)、少なくとも1つのTALEN、及び少なくとも1つのZFNと少なくとも1つのTALENの組み合わせを含んでもよい。ヌクレアーゼ(複数可)は、タンパク質形態で、ヌクレアーゼ(複数可)をコードするポリヌクレオチドとして、またはタンパク質形態とヌクレアーゼ(複数可)をコードするポリヌクレオチドの組み合わせとして細胞に導入されてもよい。ある特定の実施形態では、ゲノム改変は、導入遺伝子をコードするドナーポリヌクレオチドの組み込みを含む挿入を含む。本明細書に記述される遺伝子改変細胞のうちの1つ以上を含む医薬組成物も提供される。
【0042】
認識ヘリックス領域を含む4つ、5つ、または6つのジンクフィンガードメインを含むジンクフィンガータンパク質を含むDNA結合タンパク質であって、ジンクフィンガータンパク質が、表1の一行に示される順序の認識ヘリックス領域を含む、DNA結合タンパク質も提供される。表1に示される標的部位の塩基対の一部分(例えば、少なくとも4つ、5つ、または6つ以上)を含む配列に結合する複数のリピートを含むTALEタンパク質も提供される。本明細書に記述されるジンクフィンガータンパク質またはTALEタンパク質と、野生型または工学操作された切断ドメインもしくは切断ハーフドメインとを含む融合タンパク質も提供され、本明細書に記述されるタンパク質(ZFP、TALE、ZFN、TALEN)をコードするポリヌクレオチドも提供される。本明細書に記述される1つ以上のポリヌクレオチド、タンパク質、及びポリヌクレオチドとタンパク質の組み合わせを含む細胞(例えば、造血(CD34+)幹細胞などの単離幹細胞)も提供される。本明細書に記述される1つ以上のタンパク質、ポリヌクレオチド、細胞、またはこれらの組み合わせを含むキットも提供される。
【0043】
また、細胞(例えば、RBC前駆体細胞、造血幹細胞、及びRBC前駆体細胞と造血幹細胞の組み合わせ)におけるグロビン遺伝子発現を変化させる方法であって、本明細書に記述される1つ以上のヌクレアーゼをコードする1つ以上のポリヌクレオチドを、1つ以上のタンパク質が発現し、グロビン遺伝子(例えば、ガンマグロビン、ベータグロビン、及びガンマグロビンとベータグロビンの組み合わせ)の発現が変化(例えば、増大)するような条件下で細胞に導入することを含む、方法も記述される。ある特定の実施形態では、本方法は、細胞のゲノムに、例えばウイルスベクターを使用して、オリゴヌクレオチドとして、またはプラスミドにより、ドナー配列を組み込むことをさらに含む。ドナー配列は、内在性または外来性プロモーターの制御下の導入遺伝子を含み得る。
【0044】
内在性BCL11Aエンハンサー配列内(例えば、表1に示される標的部位に)ゲノム改変を含む遺伝子改変細胞を産生する方法であって、(a)4つ、5つ、または6つのジンクフィンガードメインを含むジンクフィンガーヌクレアーゼを含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドに細胞を接触させるステップであって、ジンクフィンガードメインの各々は表1の一行に示される順序の認識ヘリックス領域を含む、ステップと、(b)ポリヌクレオチドからの融合タンパク質の発現を促す条件に細胞を供するステップと、(c)遺伝子改変細胞を産生するのに十分に発現した融合タンパク質で内在性BCL11Aエンハンサー配列を改変するステップとを含む、方法も提供される。ある特定の実施形態では、本方法は、少なくとも1つのサイトカインで細胞を刺激することをさらに含む。ポリヌクレオチド(複数可)は、例えば、非ウイルス送達系、ウイルス送達系、送達ビヒクル、ならびに非ウイルス送達系、ウイルス送達系、及び送達ビヒクルから選択される組み合わせを使用して細胞内に送達してもよく、細胞を電場に供すること、または細胞膜破壊を送達機構として用いること(いわゆる「スクイーズ技術」、例えばSharei et al.(2015)PLOS ONE doi:10.1371/journal/pone.0118803を参照されたい)を含み得る。
【0045】
グロビン遺伝子発現の増大を必要とする患者(例えば、サラセミア(例えば、βサラセミア)もしくは鎌状赤血球症などの異常ヘモグロビン症を有することが知られているか、これらを有することが疑われるか、またはこれらを発症するリスクがある患者)を処置する方法であって、患者のグロビン遺伝子発現を増大させるのに十分な量で、本明細書に記述される医薬組成物(例えば、タンパク質、ポリヌクレオチド、細胞、またはタンパク質、ポリヌクレオチド、及び細胞から選択される組み合わせ)を患者に投与することを含む、方法も提供される。
【0046】
本開示全体を考慮すれば、当業者には、これら及び他の態様が容易に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1図1A及び1Bは、オリゴヌクレオチド二重鎖組み込み部位アッセイの要旨を示す概略図である。図1には、補助的なオリゴヌクレオチド二重鎖DNAの存在下のZFNで細胞が処置され、結果として生じる切断事象の画分にこれがキャプチャされる、アッセイの第1ステップが示される。図1Bには、細胞を7日間培養し、ゲノムDNAを単離し、組み込まれたオリゴヌクレオチド二重鎖にプライマーを使用するアダプター媒介性PCRによってドナー組み込み部位に隣接するゲノムのセグメントを増幅する、後続のステップが示される。その後アンプリコンのシーケンシングを行うと、候補切断部位が明らかになる。
図2-1】図2は、51857/51949の原型または親のZFN対を使用したオリゴヌクレオチド二重鎖組み込み部位アッセイによって特定された、455個の潜在的なオフターゲット遺伝子座の場所を示す。上位63個の遺伝子座は灰色で強調されており、これらをインデルの追跡解析において解析した。各遺伝子座は、可能性が最も高い切断の場所を示す染色体及び塩基の番号、ならびにその遺伝子座において検出された組み込み体の数の表示によって識別されている。
図2-2】図2-1の続き。
図2-3】図2-2の続き。
図2-4】図2-3の続き。
図3-1】図3A~3Cは、ジンクフィンガーの足場内にある例示的なリン酸接触残基を示す。図3Aは、DNA分子とのジンクフィンガーの相互作用を示し、野生型アルギニン側鎖の場所、及びそれがDNA分子のリン酸骨格とどのように相互作用するかを示す。図3B(配列番号7~17)は、このアルギニンが各ジンクフィンガーの一次配列においてどこに位置しているか(太い矢印によって示された「R」残基の縦列)を示す例示的なZFN配列を示し、また、対応するリン酸の接触を排除するためにZFP骨格においてグルタミンと置換されたアルギニン(個別に四角で囲まれた「R」残基)も強調する。これらの配列は、認識ヘリックス領域(残基-1から+3、+5及び+6は四角に囲まれ、陰影が付いている)ならびにC末端のジンクフィンガードメインと切断ドメイン(切断ドメインは図示せず)との間のリンカーの一部分も示す。さらに図3Cは、特異性最適化中にセリンに置換され得る、FokI切断ドメインに存在するリジン側鎖に接触する別の潜在的な骨格の空間的な場所を示す。
図3-2】図3-1の続き。
図4図4は、原型の51857/51949対または最適化された63014/65722対のいずれかでCD34細胞を処置したことによる、試験した種々の遺伝子座における改変レベルを比較するグラフである。下部に沿って、すなわちx軸上には、潜在的な切断標的として特定された遺伝子座が示され、縦軸すなわちy軸には、各部位に対するインデルの割合が示されている。y軸は対数スケールで示されていることに留意されたい。濃灰色のバーは、51857/51949対によって切断された遺伝子座及び検出された切断の量を示し、一方で薄灰色のバーは、最適化された対によって切断された遺伝子座であり、測定されたほぼ全ての切断が、標的とされるBCL11a標的配列にある。
図5図5A及び5Bは、BCL11A特異的ZFNでの処置及び赤血球系分化後のhCD34+細胞において作られたグロビンmRNAの相対比を示すグラフである。2名の健常なヒトドナー(PB-MR-003またはPB-MR-004)に由来するCD34+細胞をZFN対で処置したかまたは処置せず、その後αグロビン、βグロビン、及びγグロビンの発現を解析した。ZFN処置後に見られるγグロビンmRNAの量を判定する最良の方法は、発現の変化をγグロビンのβグロビンに対する比(図5A)、またはγグロビンのαグロビンmRNAに対する比(図5B)のいずれかとして表すことである。
図6図6は、処置されたCD34+細胞において産生されるγグロビンタンパク質の相対量を示すグラフである。上記のように、健常なヒトドナーに由来する2つのCD34+細胞ロットを使用した(PB-MR-003及びPB-MR-004)。この実験では、両方のドナーロットのHSPCの赤血球系後代において、BCL11Aエンハンサーが63014/65722によって破壊されると、胎児グロビンタンパク質の百分率が約15%~20%のレベルまでおよそ3~4倍上昇したことが観察された。
図7図7は、上述の63014/65722処置ドナーロット(「+ZFN」)を生着させたマウスにおける相対的なヒトキメリズムを示すグラフである。ヒトキメリズムは、FACSを使用したhCD45マーカーをその表面に有する細胞の検出によって測定した。移植後第8週または第12週のいずれかに収集した末梢血中のヒトhCD45+細胞の百分率が示されている。このデータは、トランスフェクトしていない対照(「(-)」)及びZFNトランスフェクトHSPC(「+ZFN」)の生着後で比較可能なヒトキメリズムにより、この研究における良好な生着レベルを示した。白丸及び三角形は個々の動物を表す。
図8図8は、ヒト細胞が細胞表面上のhCD45の存在によって特定された生着後のマウスの骨髄において検出されたキメリズムの百分率を示す。試料は生着後第12週に解析した。
図9-1】図9A~9Dは、系統特異的な細胞表面マーカーを認識する抗体を用いた、第12週に得た生着後マウスの骨髄細胞のFACS解析によって試験した、種々の造血細胞系統の再構築を示すグラフである。このデータは、注射後第12週の骨髄におけるヒト造血性系統を解析したもの全てに関し、BCL11A特異的ZFN mRNAで処置したCD34+細胞後代(「‘14/’22」)と、トランスフェクトしていない細胞のそれ(「(-)」)との間で比較可能な提示を示した。両ドナー(「003」及び「004」)に由来する細胞について、リンパ系、骨髄系、赤血球系、及びHSPC(それぞれ図9A~9D)からのデータが示されている。このデータは、注射後第12週の骨髄におけるヒト造血性系統を解析したもの全てに関し、Bcl11A ZFN mRNAで処置したCD34+細胞後代と、トランスフェクトしていない細胞のそれとの間で比較可能な提示を示した。
図9-2】図9-1の続き。
図9-3】図9-2の続き。
図9-4】図9-3の続き。
図10図10は、生着後マウスの末梢血から単離したDNA中のBCL11A標的における遺伝子改変のレベルをディープシーケンシングによってアッセイしたものを示すグラフである。データは、インプット細胞(ZFNトランスフェクションの2日後、(「+」))について、そして生着の8週間後または12週間後の血液細胞について示されており、遺伝子改変の良好な保持が実証された。トランスフェクトしていない細胞は、「処置」のラインに「(-)」によって表されている。
図11図11は、ZFN処置細胞(「+」)の生着後の骨髄細胞試料に関する、BCL11A標的における遺伝子改変の量を示すグラフである。無処置の細胞は、処置のラインに「(-)」によって表されている。BCL11A依存性系統(CD19マーカーを発現するB細胞;CD45及び高レベルのCD38を発現する未分化の前駆細胞)及びBCL11A非依存性(骨髄系)系統の両方で比較可能な改変が観察された。インプット遺伝子改変レベルはPB-MR-004ドナー試料中よりもPB-MR-003ドナー試料中で高かったが、PB-MR-004由来細胞は、マウスにおいてPB-MR-003由来細胞よりも高い改変レベル、すなわち改変のより良好な保持を一貫して示した。
図12図12は、14日間のインビトロ分化後の第12週の骨髄細胞に由来する赤血球系細胞における遺伝子改変の量を示すグラフである。このデータは、上述の2名の異なるドナーを最初に生着させたマウスから得たものであり、ZFN処置(「+ZFN」)により媒介されるBCL11A改変が赤血球系分化中に著しく変化しないことを実証した。ZFNで処置しなかった細胞は「(-)ZFN」によって示されている。
図13図13A及び13Bは、γグロビンコードmRNAの相対量を示すグラフであり、γグロビンmRNAの濃度は、γグロビン/βグロビンmRNAの比(図9A)またはγグロビン/αグロビンmRNAの比(図9B)のいずれかとして示されている。トランスフェクトしていない試料(「(-)ZFN」)及びZFN処置試料(「+ZFN」)の両方において、γグロビン対βグロビンまたはγグロビン対αグロビンのmRNA比は、同じ群の個々のマウスの赤血球系後代同士の間で大きく異なった。しかしながら、このばらつき、及び2名の異なるヒトドナーの使用により導入されたばらつきにもかかわらず、63014/65722処置試料の平均は、それぞれに対応するトランスフェクトしていない試料と比較すると、γグロビンmRNAレベルの約1.5~2倍の上昇を示す。
図14図14は、生着後マウスの骨髄由来細胞におけるγグロビンタンパク質の量の差(γグロビン/αグロビンまたはγグロビン/全β様タンパク質のいずれかの比として表される)を示すグラフであり、ここで骨髄細胞は、インビトロ分化プロトコールに従うものであった。タンパク質レベルは分化の16日目に測定した。ガンマ(γ)グロビン(Aガンマ及びGガンマのピークの和)対アルファ(α)グロビンの比、ならびにガンマグロビン(Aガンマ及びGガンマのピークの和)対ベータ様グロビンの比(Aガンマ、Gガンマ、ベータ及びデルタの各グロビンのピークの和)を判定した。PB-MR-003由来試料の不十分な赤血球系分化と一致して、このドナーに由来するトランスフェクトしていない細胞中のガンマグロビンレベルは非常に高く(約30%)、したがってZFN処置(「+ZFN」)は、無処置の細胞(「(-)ZFN」)と比較して、ガンマグロビンレベルの1.2倍の上昇しかもたらさなかった。PB-MR-004はトランスフェクションなしでより典型的なレベル(約9%)を示し、マウス継代の12週間後にガンマグロビンタンパク質レベルの約2倍の上昇を呈した。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本明細書では、BCL11A、ガンマグロビン、及びBLC11Aとガンマグロビンの組み合わせの発現の調整のため、かつ、異常ヘモグロビン症の処置、防止、または処置及び防止のための、ゲノム工学のための組成物及び方法が開示される。特に、表1の一行に示される認識ヘリックス領域を有するZFPを含むヌクレアーゼを用いて標的を定めることにより、HSC/PCにおけるBCL11Aのエンハンサーの破壊が効率的に達成され、後の赤血球生成中の相対的なガンマグロビン発現の変化がもたらされる。こうしたBCL11A及びガンマグロビンの発現の調整は、ベータグロビン発現が不十分であるか、または突然変異型のベータグロビンが発現するような、異常ヘモグロビン症(例えば、ベータサラセミア、鎌状赤血球症)の処置に特に有用である。本発明の方法及び組成物を使用すれば、赤血球前駆体細胞におけるガンマグロビンの発現を変化させることにより、異常なベータグロビンによって引き起こされる合併症及び疾患関連の続発症を克服することができる。
【0049】
総則
本明細書に開示される方法の実施ならびに組成物の調製及び使用は、特記なき限り、当業者の技能範囲内である、分子生物学、生化学、クロマチン構造及び解析、計算化学、細胞培養、組換えDNA、ならびに関連分野における従来技術を用いる。これらの技術は文献で十分に説明されている。例えば、Sambrook et al.MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL,Second edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989 and Third edition,2001、Ausubel et al.,CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,John Wiley&Sons,New York,1987 and periodic updates、the series METHODS IN ENZYMOLOGY,Academic Press,San Diego、Wolffe,CHROMATIN STRUCTURE AND FUNCTION,Third edition,Academic Press,San Diego,1998、METHODS IN ENZYMOLOGY,Vol.304,“Chromatin”(P.M.Wassarman and A.P.Wolffe,eds.),Academic Press,San Diego,1999、及びMETHODS IN MOLECULAR BIOLOGY,Vol.119,“Chromatin Protocols”(P.B.Becker,ed.)Humana Press,Totowa,1999を参照されたい。
【0050】
定義
「核酸」、「ポリヌクレオチド」、及び「オリゴヌクレオチド」という用語は互換的に使用され、直鎖状または環状のコンホメーション、かつ一本鎖または二本鎖のいずれかの形態の、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマーを指す。本開示において、これらの用語は、ポリマーの長さに関して限定的と解釈されてはならない。これらの用語は、天然ヌクレオチドの公知の類似体のほか、塩基、糖、リン酸部分(例えば、ホスホロチオエート骨格)、ならびに塩基、糖、及びリン酸部分から選択される組み合わせが改変されているヌクレオチドも包含し得る。概して、特定のヌクレオチドの類似体は、同じ塩基対合特異性を有する。すなわち、Aの類似体はTと塩基対を形成する。
【0051】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを指すよう互換的に使用される。この用語は、1つ以上のアミノ酸が対応する天然に存在するアミノ酸の化学的類似体または改変された誘導体であるアミノ酸ポリマーにも適用される。
【0052】
「結合」とは、高分子間(例えば、タンパク質と核酸との間)の配列特異的な非共有結合性の相互作用を指す。相互作用が全体として配列特異的である限り、結合相互作用の全ての構成成分が配列特異的である(例えば、DNA骨格内のリン酸残基に接触する)必要はない。このような相互作用は概して、10-6-1以下の解離定数(K)を特徴とする。「親和性」とは結合の強度を指し、結合親和性の増大はKの低下と相関する。
【0053】
「結合タンパク質」は、別の分子に結合することができるタンパク質である。結合タンパク質は、例えば、DNA分子に結合しても(DNA結合タンパク質)、RNA分子に結合しても(RNA結合タンパク質)、タンパク質分子に結合してもよく(タンパク質結合タンパク質)、またはDNA分子、RNA分子、もしくはタンパク質から選択される分子の組み合わせに結合してもよい。タンパク質結合タンパク質の場合、それ自体に結合してもよく(ホモ二量体、ホモ三量体などを形成する)、異なるタンパク質(単数または複数)の1つ以上の分子に結合してもよく、または、それ自体と、異なるタンパク質(単数または複数)の1つ以上の分子との両方に結合してもよい。結合タンパク質は、2種以上の結合活性を有し得る。例えば、ジンクフィンガータンパク質は、DNA結合活性、RNA結合活性、及びタンパク質結合活性を有する。
【0054】
「ジンクフィンガーDNA結合タンパク質」(または結合ドメイン)は、タンパク質、またはより大きなタンパク質内のドメインで、亜鉛イオンの配位によって構造が安定化している結合ドメイン内のアミノ酸配列の領域である1つ以上のジンクフィンガーによって配列特異的にDNAに結合するものである。ジンクフィンガーDNA結合タンパク質という用語は、ジンクフィンガータンパク質またはZFPと略されることが多い。
【0055】
「TALE DNA結合ドメイン」または「TALE」は、1つ以上のTALEリピートドメイン/単位を含むポリペプチドである。リピートドメインは、TALEがその同族標的DNA配列に結合することに関与する。単一の「リピート単位」(別称「リピート」)は、一般的には33~35アミノ酸長であり、天然に存在するTALEタンパク質内の他のTALEリピート配列と少なくともいくらかの配列相同性を呈する。
【0056】
ジンクフィンガー及びTALE結合ドメインは、例えば、天然に存在するジンクフィンガーまたはTALEタンパク質の認識ヘリックス領域を工学操作する(1つ以上のアミノ酸を変化させる)ことによって、所定のヌクレオチド配列に結合するように「工学操作」することができる。したがって、工学操作されたDNA結合タンパク質(ジンクフィンガーまたはTALE)は、天然に存在しないタンパク質である。DNA結合タンパク質を工学操作するための方法の非限定的な例は、デザイン及び選択である。デザインされたDNA結合タンパク質は、天然に存在しないタンパク質で、そのデザイン/組成が主に合理的基準からもたらされるものである。デザインのための合理的基準は、既存のZFP及び/またはTALEデザインならびに結合データの情報を保管するデータベースで情報を処理するための置換規則及びコンピュータアルゴリズムの適用を含む。例えば、米国特許第6,140,081号、同第6,453,242号、同第6,534,261号、及び同第8,585,526号を参照されたい。また、PCT公開第WO98/53058号、同第WO98/53059号、同第WO98/53060号、同第WO02/016536号、及び同第WO03/016496号も参照されたい。
【0057】
「選択された」ジンクフィンガータンパク質またはTALEは、天然に存在しないタンパク質で、その産生が主にファージディスプレイ、相互作用トラップ、またはハイブリッド選択などの経験的プロセスからもたらされるものである。例えば、米国特許第5,789,538号、同第5,925,523号、同第6,007,988号、同第6,013,453号、同第6,200,759号、同第8,586,526号、PCT公開第WO95/19431号、同第WO96/06166号、同第WO98/53057号、同第WO98/54311号、同第WO00/27878号、同第WO01/60970号、同第WO01/88197号、同第WO02/099084号を参照されたい。
【0058】
「TtAgo」は、遺伝子サイレンシングに関与していると考えられている原核生物のアルゴノートタンパク質である。TtAgoは、細菌Thermus thermophilus由来である。例えば、Swarts et al.ibid、G.Sheng et al.(2013)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.111,652を参照されたい。「TtAgo系」は、例えば、TtAgo酵素による切断のためのガイドDNAを含む、必要とされる全ての構成成分である。
【0059】
「組換え」は、非相同末端結合(NHEJ)によるドナーのキャプチャ及び相同組換えを含むがこれらに限定されない、2つのポリヌクレオチド間の遺伝情報の交換のプロセスを指す。本開示において、「相同組換え(HR)」とは、例えば、相同組換え修復機構による細胞内の二本鎖切断の修復中に起こる、そのような交換の特殊形態を指す。このプロセスは、ヌクレオチド配列相同性を必要とし、「標的」分子(すなわち、二本鎖切断を受けたもの)の修復の鋳型とするために「ドナー」分子を使用し、また、ドナーから標的への遺伝情報の伝達をもたらすことから、「非交差型遺伝子変換」または「ショートトラクト遺伝子変換」などとして知られている。いずれかの特定の理論に束縛されることを望むものではないが、このような伝達は、切断された標的とドナーとの間に形成されるヘテロ二重鎖DNAのミスマッチ補正、ドナーを使用して遺伝情報を再合成し、これを標的の一部とする「合成依存性鎖アニーリング」、これらの関連プロセスまたはこれらの組み合わせを含み得る。このような特殊なHRは、多くの場合、ドナーポリヌクレオチドの配列の一部または全てが標的ポリヌクレオチドに組み込まれるような、標的分子の配列の変化をもたらす。
【0060】
本開示の方法において、本明細書に記述される1つ以上の標的ヌクレアーゼは、標的配列(例えば、細胞クロマチン)内の所定の部位に二本鎖切断(DSB)を作り出す。DSBは、相同組換え修復、または相同組換えによらない修復機構によってインデルをもたらし得る。欠失は、任意の数の塩基対を含んでよい。同様に、挿入は、例えば、任意選択で、切断の領域内のヌクレオチド配列との相同性を有する、「ドナー」ポリヌクレオチドの組み込みを含む、任意の数の塩基対を含み得る。ドナー配列は物理的に組み込まれてよい。または代替的には、ドナーポリヌクレオチドが相同組換えによる切断の修復のための鋳型として使用され、ドナーにあるようなヌクレオチド配列の全てまたは一部が細胞クロマチンに導入される。したがって、細胞クロマチン内の第1の配列は、変化させてもよく、ある特定の実施形態では、ドナーポリヌクレオチド内に存在する配列に変換してもよい。よって、「置き換える」または「置き換え」という用語の使用は、1つのヌクレオチド配列を別のもので置き換えること(すなわち、情報という意味での配列の置き換え)を表すものと理解することができ、1つのポリヌクレオチドを別のもので物理的または化学的に置き換えることが必ずしも必要であるとは限らない。
【0061】
本明細書に記述される方法のうちのいずれかにおいて、細胞内のさらなる標的部位のさらなる二本鎖切断のために、さらなるジンクフィンガータンパク質またはTALENの対を使用してよい。
【0062】
本明細書に記述される方法のうちのいずれも、任意のサイズのドナーの挿入、または目的の遺伝子(複数可)の発現を妨害するドナー配列の標的組み込みによる細胞内の1つ以上の標的配列の部分的もしくは完全な不活性化のために使用することができる。遺伝子が部分的または完全に不活性化した細胞株も提供される。
【0063】
本明細書に記述される方法のうちのいずれかにおいて、外来性ヌクレオチド配列(「ドナー配列」または「導入遺伝子」)に、目的の領域内のゲノム配列と相同であるが同一ではない配列を含めることにより、相同組換えを促して、目的の領域内の非同一配列を挿入することができる。よって、ある特定の実施形態では、ドナー配列のうち目的の領域内の配列と相同である部分は、置き換えられるゲノム配列と約80~99%(またはこの間の任意の整数)の配列同一性を呈する。他の実施形態では、例えば、100個超の連続した塩基対のうち、ドナーとゲノム配列との間で1つのヌクレオチドしか異ならない場合、ドナーとゲノム配列との間の相同性は99%より高い。ある特定の場合では、ドナー配列の非相同性部分は、新しい配列が目的の領域に導入されるように、目的の領域内に存在しない配列を含み得る。こうした事例において、非相同配列には、概して、目的の領域内の配列と相同または同一である、50~1,000塩基対(またはこの間の任意の整数値)または1,000を超える任意の数の塩基対の配列が隣接している。他の実施形態では、ドナー配列は第1の配列と非相同であり、非相同組換え機構によってゲノムに挿入される。
【0064】
「切断」とは、DNA分子の共有結合骨格の破断を指す。切断は、ホスホジエステル結合の酵素的または化学的な加水分解を含むがこれらに限定されない、様々な方法によって開始することができる。一本鎖切断及び二本鎖切断の両方が可能であり、二本鎖切断は、2つの異なる一本鎖切断事象の結果として生じる場合がある。DNA切断は、平滑末端または付着末端のいずれかの産生をもたらし得る。ある特定の実施形態では、標的を定めた二本鎖DNA切断のために、融合ポリペプチドが使用される。
【0065】
「切断ハーフドメイン」とは、ポリペプチド配列で、第2のポリペプチド(同一であっても異なっていてもよい)と併せて、切断活性(好ましくは二本鎖切断活性)を有する複合体を形成するものである。「第1及び第2の切断ハーフドメイン」、「+及び-の切断ハーフドメイン」、及び「右側及び左側の切断ハーフドメイン」という用語は、二量体化する切断ハーフドメインの対を指すよう互換的に使用される。
【0066】
「工学操作された切断ハーフドメイン」とは、別の切断ハーフドメイン(例えば、別の工学操作された切断ハーフドメイン)と偏性ヘテロ二量体を形成するように改変されている切断ハーフドメインである。参照により全体が本明細書に援用される、米国特許第7,888,121号、同第7,914,796号、同第8,034,598号、同第8,623,618号、及び米国特許公開第2011/0201055号も参照されたい。
【0067】
「配列」という用語は、DNAまたはRNAであってもよく、直鎖状、環状、または分枝状であってもよく、一本鎖または二本鎖のいずれであってもよい、任意の長さのヌクレオチド配列を指す。「ドナー配列」という用語は、ゲノムに挿入されるヌクレオチド配列を指す。ドナー配列は、任意の長さ、例えば2~100,000,000ヌクレオチド長(またはこの間もしくはこの上の任意の整数値)、好ましくは約100~100,000ヌクレオチド長(またはこの間の任意の整数)、より好ましくは約2000~20,000ヌクレオチド長(またはこの間の任意の値)、さらにより好ましくは約5~15kb(またはこの間の任意の値)であり得る。
【0068】
「クロマチン」は、細胞ゲノムを含む核タンパク質構造である。細胞クロマチンは、核酸、一次DNA、ならびにヒストン及び非ヒストン染色体タンパク質を含むタンパク質を含む。真核細胞クロマチンの大部分は、ヌクレオソームの形態で存在し、ここでヌクレオソームコアは、ヒストンH2A、H2B、H3、及びH4のうちの各々2つを含む八量体と会合したおよそ150塩基対のDNAを含み、リンカーDNA(生物によって異なる長さのもの)が、ヌクレオソームコア間に延びる。ヒストンH1の1分子は概してリンカーDNAと会合している。本開示において、「クロマチン」という用語には、原核生物及び真核生物両方の、あらゆる種類の細胞核タンパク質が包含されるものとする。細胞クロマチンには、染色体クロマチンとエピソームクロマチンとの両方が含まれる。
【0069】
「染色体」とは、細胞ゲノムの全てまたは一部分を含むクロマチン複合体である。細胞のゲノムはその核型によって特徴付けられることが多く、核型とは、細胞のゲノムを含む全ての染色体の集まりである。細胞のゲノムは1つ以上の染色体を含み得る。
【0070】
「エピソーム」とは、複製する核酸、核タンパク質複合体、または細胞の染色体核型の一部ではない核酸を含む他の構造体である。エピソームの例は、プラスミド及びある特定のウイルスゲノムを含む。
【0071】
「接近可能領域」とは、核酸内に存在する標的部位に、その標的部位を認識する外来性分子が結合し得る、細胞クロマチン内の部位である。いずれかの特定の理論に束縛されることを望むものではないが、接近可能領域は、ヌクレオソーム構造にパッケージングされないものと考えられている。接近可能領域の明確な構造は、多くの場合、化学プローブ及び酵素プローブ、例えばヌクレアーゼに対するその感受性により検出することができる。
【0072】
「標的部位」または「標的配列」は、十分な結合条件が存在する場合に結合分子が結合する核酸の一部分を定義する核酸配列である。
【0073】
「外来性」分子とは、細胞内に通常は存在しないが、1つ以上の遺伝学的方法、生化学的方法、または他の方法によって細胞に導入され得る分子である。「細胞内の通常の存在」は、細胞の特定の発生段階及び環境条件に関して決定される。よって、例えば、筋肉の胚発生中にしか存在しない分子は、成体の筋細胞に対しては外来性分子である。同様に、熱ショックにより誘導された分子は、熱ショックを受けていない細胞に対しては外来性分子である。外来性分子は、例えば、機能不全の内在性分子の正常機能バージョン、または正常に機能する内在性分子の機能不全バージョンを含み得る。
【0074】
外来性分子はとりわけ、コンビナトリアルケミストリープロセスによって作製されるような小分子、または、タンパク質、核酸、炭水化物、脂質、糖タンパク質、リポタンパク質、多糖、上記分子のあらゆる改変された誘導体、もしくは上記分子のうちの1つ以上を含むあらゆる複合体などの高分子であり得る。核酸は、DNA及びRNAを含み、一本鎖であっても二本鎖であってもよく、直鎖状、分枝状、または環状であってもよく、任意の長さであってよい。核酸は、二重鎖を形成することができる核酸、ならびに三重鎖形成核酸を含む。例えば、米国特許第5,176,996号及び同第5,422,251号を参照されたい。タンパク質としては、DNA結合タンパク質、転写因子、クロマチン再構築因子、メチル化DNA結合タンパク質、ポリメラーゼ、メチラーゼ、デメチラーゼ、アセチラーゼ、デアセチラーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、インテグラーゼ、リコンビナーゼ、リガーゼ、トポイソメラーゼ、ジャイレース、及びヘリカーゼが挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
外来性分子は、内在性分子と同種の分子、例えば、外来性タンパク質または核酸であり得る。例えば、外来性核酸は、細胞に導入された感染ウイルスゲノム、プラスミド、もしくはエピソーム、または細胞内に通常は存在しない染色体を含み得る。外来性分子を細胞に導入するための方法は当業者に公知であり、限定されるものではないが、脂質媒介性移入(すなわち、中性及びカチオン性の脂質を含むリポソーム)、電気穿孔、直接注射、細胞融合、微粒子銃、リン酸カルシウム共沈、DEAE-デキストラン媒介性移入、及びウイルスベクター媒介性移入を含む。外来性分子はまた、内在性分子と同種であるが細胞が由来する種とは異なる種に由来する分子であってもよい。例えば、元々はマウスまたはハムスター由来の細胞株にヒト核酸配列を導入してもよい。
【0076】
対照的に、「内在性」分子とは、特定の環境条件下で特定の発生段階における特定の細胞に通常存在する分子である。例えば、内在性核酸は、染色体、ミトコンドリア、葉緑体もしくは他の細胞小器官のゲノム、または天然に存在するエピソーム核酸を含み得る。さらなる内在性分子は、タンパク質、例えば転写因子及び酵素を含み得る。
【0077】
本明細書で使用する場合、「外来性核酸の産物」という用語には、ポリヌクレオチドと、ポリペプチド産物、例えば転写産物(RNAなどのポリヌクレオチド)及び翻訳産物(ポリペプチド)との両方が含まれる。
【0078】
「融合」分子とは、2つ以上のサブユニット分子が、好ましくは共有結合で連結した分子である。サブユニット分子は、化学的に同じ種類の分子であっても、化学的に異なる種類の分子であってもよい。第1の種類の融合分子の例としては、融合タンパク質(例えば、ZFPまたはTALEのDNA結合ドメインと1つ以上の活性化ドメインとの融合物)、及び融合核酸(例えば、上述の融合タンパク質をコードする核酸)が挙げられるが、これらに限定されない。第2の種類の融合分子の例としては、三重鎖形成核酸とポリペプチドとの融合物、及び副溝バインダーと核酸との融合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
細胞における融合タンパク質の発現は、融合タンパク質が細胞に送達された結果、または融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドが細胞に送達された結果生じる場合があり、ここでポリヌクレオチドが転写され、この転写物が翻訳されて融合タンパク質が作製される。トランススプライシング、ポリペプチドの切断、及びポリペプチドのライゲーションもまた、細胞におけるタンパク質の発現に関与し得る。ポリヌクレオチド及びポリペプチドを細胞に送達するための方法は、本開示の他所に提示する。
【0080】
本開示における「遺伝子」には、遺伝子産物(以下参照)をコードするDNA領域のほか、遺伝子産物の産生を調節する全てのDNA領域が含まれ、このような調節配列がコード配列、転写配列、及びコード配列と転写配列の組み合わせに隣接しているか否かを問わない。したがって、遺伝子は、プロモーター配列、ターミネーター、翻訳調節配列、例えばリボソーム結合部位及び配列内リボソーム進入部位、エンハンサー、サイレンサー、インスレーター、境界エレメント、複製起点、マトリックス付着部位、及び遺伝子座制御領域を含むが、必ずしもこれらに限定されるとは限らない。
【0081】
「遺伝子発現」は、遺伝子に含まれる情報が遺伝子産物に変換されることを指す。遺伝子産物は、遺伝子の直接転写産物(例えば、mRNA、tRNA、rRNA、アンチセンスRNA、マイクロRNA、リボザイム、構造RNA、または任意の他の種類のRNA)、またはmRNAの翻訳により産生されるタンパク質であり得る。遺伝子産物は、キャッピング、ポリアデニル化、メチル化、及び編集などのプロセスによって改変されたRNA、ならびに、例えばメチル化、アセチル化、リン酸化、ユビキチン化、ADPリボシル化、ミリスチル化、及びグリコシル化によって改変されたタンパク質も含む。
【0082】
遺伝子発現の「調整」は、遺伝子の活性の変化を指す。発現の調整は、遺伝子活性化及び遺伝子抑制を含み得るが、これらに限定されない。ゲノム編集(例えば、切断、変化、不活性化、ランダム突然変異)を使用して、発現を調整することができる。遺伝子の不活性化とは、本明細書に記述されるZFP、TALE、またはCRISPR/Cas系を含まない細胞と比較した遺伝子発現の低減の全てを指す。よって、遺伝子の不活性化は部分的なものでも完全なものでもよい。
【0083】
「保護された」mRNAとは、mRNAの安定性または翻訳を増大させるようにmRNAを何らかのかたちで変化させたものである。保護の例としては、シチジン残基及びウリジン残基の25%を上限に、2-チオウリジン(s2U)及び5-メチルシチジン(m5C)を用いて置き換えることが挙げられる。結果として生じるmRNAは、その対応する非改変型と比較して低い免疫原性及び高い安定性を呈する。(Kariko et al.(2012),Molecular Therapy,Vol.16,No.11,pages 1833-1844を参照されたい)。他の変化としては、いわゆるARCAキャップの付加が挙げられ、これはインビトロで産生されたmRNAの翻訳可能性を増大させる(米国特許第7,074,596号を参照されたい)。
【0084】
「目的の領域」とは、細胞クロマチンのうち、外来性分子に結合することが望ましい任意の領域、例えば、遺伝子、または遺伝子内にあるか遺伝子に隣接した非コード配列である。結合は、標的DNA切断、標的組換え、及び標的DNA切断と標的組換えの組み合わせの目的のためのものであり得る。目的の領域は、例えば、染色体、エピソーム、細胞小器官のゲノム(例えば、ミトコンドリア、葉緑体)、または感染ウイルスゲノムに存在し得る。目的の領域は、遺伝子のコード領域内、例えばリーダー配列、トレーラー配列、もしくはイントロンなどの転写された非コード領域内、またはコード領域の上流もしくは下流のいずれかの非転写領域内にある場合がある。目的の領域は、単一のヌクレオチド対ほど小さくてもよく、最大2,000ヌクレオチド対の長さであってもよく、または任意の整数値のヌクレオチド対であってもよい。
【0085】
「真核」細胞としては、真菌細胞(例えば酵母)、植物細胞、動物細胞、哺乳動物細胞、及びヒト細胞(例えば、T細胞)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
「作動可能な連結」及び「作動可能に連結した」(または「作動的に連結した」)という用語は、2つ以上の構成成分(例えば配列エレメント)の並置に関連して互換的に使用され、ここでこれらの構成成分は、両構成成分が正常に機能し、かつ構成成分のうちの少なくとも1つが、他の構成成分のうちの少なくとも1つに対して発揮される機能を媒介し得るという可能性を許容するように配置されている。実例として、プロモーターなどの転写調節配列は、転写調節配列が1つ以上の転写調節因子の存在または非存在に応じてコード配列の転写レベルを制御する場合、コード配列に作動可能に連結している。転写調節配列は、概して、コード配列とシスで作動可能に連結しているが、コード配列に直接隣接している必要はない。例えば、エンハンサーは、コード配列と連続していないが、コード配列に作動可能に連結した転写調節配列である。
【0087】
融合ポリペプチドに関する「作動可能に連結した」という用語は、構成成分の各々が、作動可能に連結していない場合に果たす機能と同じ機能を、他の構成成分との連結において果たすという事実を指す場合がある。例えば、ZFP、TALE、またはCasのDNA結合ドメインが活性化ドメインに融合している融合ポリペプチドに関しては、この融合ポリペプチドにおいて、ZFP、TALE、またはCasのDNA結合ドメイン部分が、その標的部位、その結合部位、及びその標的部位と結合部位の組み合わせに結合することができる一方で、活性化ドメインが遺伝子発現を上方調節することができる場合、ZFP、TALE、またはCasのDNA結合ドメイン及び活性化ドメインは、作動可能な連結状態にある。ZFP、TALE、またはCasのDNA結合ドメインが切断ドメインに融合している融合ポリペプチドの場合は、この融合ポリペプチドにおいて、ZFP、TALE、またはCasのDNA結合ドメイン部分が、その標的部位、その結合部位、及びその標的部位とその結合部位の組み合わせに結合することができる一方で、切断ドメインが標的部位の近傍にあるDNAを切断することができる場合、ZFP、TALE、またはCasのDNA結合ドメイン及び切断ドメインは、作動可能な連結状態にある。
【0088】
タンパク質、ポリペプチド、または核酸の「機能的断片」とは、全長のタンパク質、ポリペプチド、または核酸と配列が同一でないものの、全長のタンパク質、ポリペプチド、または核酸と同じ機能を保持する、タンパク質、ポリペプチド、または核酸である。機能的断片は、対応する天然の分子よりも多い、少ない、または同じ数の残基を有していてよく、1つ以上のアミノ酸またはヌクレオチド置換を含んでいてよく、また、対応する天然の分子よりも多い、少ない、または同じ数の残基を含み、かつ1つ以上のアミノ酸またはヌクレオチド置換を含んだ組み合わせであってもよい。核酸の機能(例えば、コード機能、別の核酸とハイブリダイズする能力)を決定するための方法は、当技術分野で周知である。同様に、タンパク質の機能を決定するための方法も周知である。例えば、ポリペプチドのDNA結合機能は、例えば、フィルター結合、電気泳動移動度シフト、または免疫沈降アッセイによって決定することができる。DNA切断は、ゲル電気泳動によってアッセイすることができる。上記Ausubelらを参照されたい。タンパク質が別のタンパク質と相互作用する能力は、例えば、免疫共沈降、ツーハイブリッドアッセイ、または遺伝学的及び化学的の両方の補完によって決定することができる。
【0089】
「ベクター」は、遺伝子配列を標的細胞に移入することができる。一般的には、「ベクター構築物」、「発現ベクター」、及び「遺伝子移入ベクター」は、目的の遺伝子の発現を指向することができ、遺伝子配列を標的細胞に移入することができる、任意の核酸構築物を意味する。よって、この用語には、クローニング、及び発現ビヒクル、ならびに組み込みベクターが含まれる。
【0090】
「対象」及び「患者」という用語は互換的に使用され、ヒト患者及び非ヒト霊長類などの哺乳動物、ならびにブタ、ウシ、ウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス、及び他の動物などの実験動物を指す。したがって、本明細書で使用される「対象」または「患者」という用語は、本発明の幹細胞が投与され得る任意の哺乳動物患者または対象を意味する。本発明の対象には、例えば神経毒を含む1つ以上の化学的毒素に曝露されたものが含まれる。
【0091】
「幹細胞性」とは、任意の細胞が幹細胞のように機能する相対的な能力、すなわち、全能性、多能性、もしくは寡能性の程度、及び幅広い、または限定されない自己複製といった、特定の幹細胞どれもが有し得る能力を指す。
【0092】
ヌクレアーゼ
本明細書では、導入遺伝子を運搬するドナー分子のインビボ切断に有用な組成物、特にヌクレアーゼ、及び標的を定めたかたちで導入遺伝子がゲノムに組み込まれるような細胞ゲノムの切断のためのヌクレアーゼが記述される。ある特定の実施形態では、ヌクレアーゼのうちの1つ以上は天然に存在する。他の実施形態では、ヌクレアーゼのうちの1つ以上は天然に存在しない。すなわち、DNA結合ドメイン、切断ドメイン、及びDNA結合ドメインと切断ドメインの組み合わせにおいて工学操作されている。例えば、天然に存在するヌクレアーゼのDNA結合ドメインは、選択された標的部位に結合するように変化させてもよい(例えば、同族の結合部位とは異なる部位に結合するように工学操作されたメガヌクレアーゼ)。他の実施形態では、ヌクレアーゼは、異種のDNA結合ドメイン及び切断ドメインを含む(例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ;TALエフェクタードメインDNA結合タンパク質;異種切断ドメインと合わさったメガヌクレアーゼDNA結合ドメイン)。
【0093】
A. DNA結合ドメイン
ある特定の実施形態では、インビボ切断、細胞ゲノムの標的切断、及びインビボ切断と細胞ゲノムの標的切断の組み合わせのために使用されるヌクレアーゼのうちの1つ以上のDNA結合ドメインは、ジンクフィンガータンパク質を含む。単一のジンクフィンガータンパク質は、複数のジンクフィンガードメイン(例えば、3つ、4つ、5つ、または6つ以上のジンクフィンガードメイン)から構成されている。各ジンクフィンガードメインは約30アミノ酸長であり、ベータターン(2つの亜鉛配位残基を含む)及びアルファヘリックス(2つの不変の亜鉛配位残基を含む)を含み、これらは、標的配列に対するタンパク質への結合を可能にする特定のコンホメーションに保たれている。ベータターンに2つのシステイン(Cys)亜鉛配位残基を有し、アルファヘリックスに2つのヒスチジン(His)亜鉛配位残基を有する、正準型(Canonical)(C2H2)ジンクフィンガードメインを使用してもよいし、非正準型(CH3)を使用してもよい。例えば、米国特許第9,234,187号を参照されたい。ベータターンの亜鉛配位残基とアルファヘリックスの亜鉛配位残基との間には、7アミノ酸の認識ヘリックスが含まれる。ジンクフィンガードメイン内の認識ヘリックス領域には-1から+6の番号が付けられており、この認識領域の外にある(そして亜鉛配位残基を除いた)アミノ酸は、骨格残基と呼ばれる。
【0094】
好ましくは、ジンクフィンガータンパク質は、認識ヘリックスが最適な標的部位に結合するように工学操作されているという意味で、天然に存在しない。例えば、Beerli et al.(2002)Nature Biotechnol.20:135-141、Pabo et al.(2001)Ann.Rev.Biochem.70:313-340、Isalan et al.(2001)Nature Biotechnol.19:656-660、Segal et al.(2001)Curr.Opin.Biotechnol.12:632-637、Choo et al.(2000)Curr.Opin.Struct.Biol.10:411-416、米国特許第6,453,242号、同第6,534,261号、同第6,599,692号、同第6,503,717号、同第6,689,558号、同第7,030,215号、同第6,794,136号、同第7,067,317号、同第7,262,054号、同第7,070,934号、同第7,361,635号、同第7,253,273号、及び米国特許公開第2005/0064474号、同第2007/0218528号、同第2005/0267061号を参照されたい。これらは全て、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0095】
工学操作されたジンクフィンガー結合ドメインは、天然に存在するジンクフィンガータンパク質と比較すると、新規の結合特異性を有し得る。工学操作方法としては、合理的デザイン及び種々の種類の選択が挙げられるが、これらに限定されない。合理的デザインには、例えば、トリプレット(またはクアドルプレット)ヌクレオチド配列及び個々のジンクフィンガーのアミノ酸配列を含むデータベースで、各トリプレットまたはクアドルプレットのヌクレオチド配列が、特定のトリプレットまたはクアドルプレットの配列に結合するジンクフィンガーの1つ以上のアミノ酸配列と関連付けられているものを使用することが含まれる。例えば、参照により全体が本明細書に援用される、共有の米国特許第6,453,242号及び同第6,534,261号を参照されたい。
【0096】
さらに、ある特定の実施形態では、ZFPのDNA結合ドメインは、1つ以上の構成成分ジンクフィンガードメインの骨格に対する1つ以上の改変をさらに含む。標的DNA配列に対するZFPの特異性は、ジンクフィンガードメインと特定のDNA塩基との間、特に、認識ヘリックス領域と標的部位との間の配列特異的な接触に依存する(一般的に、各認識ヘリックスは3ヌクレオチドの標的サブサイトに結合する)。加えて、ジンクフィンガードメインは、DNA骨格のリン酸との非特異的相互作用に関与するアミノ酸残基も含む。Elrod-Ericksonら((1996)Structure 4:1171)は、ジンクフィンガータンパク質とその同族のDNA標的との共結晶を通して、DNA骨格のリン酸と水素結合を形成することで相互作用することができる特定のアミノ酸が存在することを実証した。周知のZif268骨格を用いるジンクフィンガータンパク質は、一般的には、そのβシートの第2の鎖のアミノ末端残基としてアルギニンを有し、これはまた、第2の不変システインのカルボキシル末端から第2位である。この位置は、αヘリックスの始点に先行する5番目の残基(そして-1から+6の番号が付いた認識ヘリックスに対して-5位)であるため、各ジンクフィンガードメイン内で(-5)と呼ぶことができる。この位置のアルギニンは、その側鎖であるグアニジウム基と荷電水素結合を形成することにより、DNA骨格上のリン酸と相互作用することができる。また、Zif268骨格のジンクフィンガータンパク質は、第1の不変システインのアミノ末端から4残基目の位置にリジンを有する頻度が高い。この位置は、亜鉛配位システイン残基間に2つの残基を有するジンクフィンガーのαヘリックスの始点に先行する14番目の残基(そして-1から+6の番号が付いた認識ヘリックス領域に対して-14位)であるため、各フィンガー内で(-14)と呼ぶことができる。リジンは、その側鎖であるアミノ基と水媒介性の荷電水素結合を形成することにより、DNA骨格上のリン酸と相互作用することができる。リン酸基はDNA骨格全体に見られるため、ジンクフィンガーとDNA分子との間のこの種類の相互作用は、一般に配列特異的ではないとみなされる(J.Miller,Massachusetts Institute of Technology Ph.D.Thesis,2002)。
【0097】
近年の研究では、一部のヌクレアーゼにおいて非特異的にリン酸に接触する側鎖が、これらのヌクレアーゼの非特異性のある程度の要因でもあり得ると仮定された(Kleinstiver et al.(2016)Nature 529(7587):490-5、Guilinger et al.(2014)Nat Meth:429-435)。研究者らは、これらのヌクレアーゼが「過剰なDNA結合エネルギー」を有し得ること、つまり、ヌクレアーゼがそのDNA標的に対して、標的部位に実質的に結合してこれを切断するのに必要な親和性よりも高い親和性を有し得ることを提唱した。よって、TALEのDNA結合ドメイン(Guilinger,ibid)またはCas9のDNA結合ドメイン(Kleinstiver,ibid)内のカチオン電荷を減少させてこれらのヌクレアーゼのDNA結合エネルギーを低下させる試みが行われ、その結果インビトロの切断特異性が増大した。しかしながら、さらなる研究(Sternberg et al.(2015)Nature 527(7576):110-113)では、KleinstiverによるCas9 DNA結合ドメインの研究において突然変異したカチオン性アミノ酸の一部に関して、Cas9ヌクレアーゼドメインの適切なフォールディング及び活性化の役割も示唆されている。このように、Cas9の活性におけるこれらのアミノ酸の正確な役割は分かっていない。
【0098】
したがって、本発明の方法及び組成物は、DNA骨格上のリン酸と非特異的に相互作用することができるZFPのDNA結合ドメイン(「ZFP骨格」)内のアミノ酸への突然変異を含むが、これらは、DNA認識ヘリックス内の変化を含まない。よって、本発明は、ヌクレオチドの標的特異性に必要とされないZFP骨格内のカチオン性アミノ酸残基の突然変異を含む。一部の実施形態では、ZFP骨格におけるこうした突然変異は、カチオン性のアミノ酸残基から中性またはアニオン性のアミノ酸残基への突然変異を含む。一部の実施形態では、ZFP骨格におけるこうした突然変異は、極性のアミノ酸残基から中性または非極性のアミノ酸残基への突然変異を含む。好ましい実施形態では、突然変異は、DNA結合ヘリックスに対して(-5)位、(-9)位、(-14)位で作られるもの、ならびに(-5)位、(-9)位、及び(-14)位で作られた突然変異から選択される突然変異の組み合わせである。一部の実施形態では、ジンクフィンガーは、(-5)、(-9)、(-14)における1つ以上の突然変異、ならびに(-5)、(-9)、及び(-14)における突然変異から選択される突然変異の組み合わせを含み得る。さらなる実施形態では、マルチフィンガージンクフィンガータンパク質中の1つ以上のジンクフィンガー(複数可)は、(-5)、(-9)、(-14)、ならびに(-5)、(-9)、及び(-14)から選択される組み合わせにおける突然変異を含み得る。一部の実施形態では、(-5)、(-9)、(-14)、ならびに(-5)、(-9)、及び(-14)から選択される組み合わせにおけるアミノ酸(例えば、アルギニン(R)またはリジン(K))は、アラニン(A)、ロイシン(L)、Ser(S)、Asp(D)、Glu(E)、Tyr(Y)、及び/またはグルタミン(Q)に突然変異する。
【0099】
本明細書に記述されるこれらの融合ポリペプチドのいずれかにおいて、ZFPパートナーは、(-5)位、(-9)位、(-14)位における突然変異、ならびに(-5)、(-9)、及び(-14)における突然変異から選択される突然変異の組み合わせをジンクフィンガーDNA結合ドメインにさらに含んでもよい。一部の実施形態では、-5位のArg(R)が、Tyr(Y)、Asp(D)、Glu(E)、Leu(L)、Gln(Q)、またはAla(A)に変化する。他の実施形態では、(-9)位のArg(R)が、Ser(S)、Asp(D)、またはGlu(E)で置き換えられる。さらなる実施形態では、(-14)位のArg(R)が、Ser(S)またはGln(Q)で置き換えられる。他の実施形態では、融合ポリペプチドは、(-5)位、(-9)位、(-14)位のアミノ酸、ならびに(-5)、(-9)、及び(-14)における突然変異から選択される突然変異の組み合わせが、上に列記したアミノ酸のいずれかに任意の組み合わせで変化している、ジンクフィンガーDNA結合ドメインにおける突然変異を含み得る。
【0100】
例示的な選択方法は、ファージディスプレイ及びツーハイブリッド系を含め、米国特許第5,789,538号、同第5,925,523号、同第6,007,988号、同第6,013,453号、同第6,410,248号、同第6,140,466号、同第6,200,759号、及び同第6,242,568号、ならびにWO98/37186、WO98/53057、WO00/27878、WO01/88197、及びGB2,338,237に開示されている。加えて、ジンクフィンガー結合ドメインに対する結合特異性の向上は、例えば、共有のWO02/077227に記述されている。
【0101】
標的部位の選択、融合タンパク質(及びそれをコードするポリヌクレオチド)のデザイン及び構築のためのZFPならびに方法は当業者に公知であり、米国特許第6,140,081号、同第5,789,538号、同第6,453,242号、同第6,534,261号、同第5,925,523号、同第6,007,988号、同第6,013,453号、同第6,200,759号、PCT公開第WO95/19431号、同第WO96/06166号、同第WO98/53057号、同第WO98/54311号、同第WO00/27878号、同第WO01/60970号、同第WO01/88197号、同第WO02/099084号、同第WO98/53058号、同第WO98/53059号、同第WO98/53060号、同第WO02/016536号、及び同第WO03/016496号に詳細に記述されている。
【0102】
DNA結合ドメイン(例えば、ジンクフィンガー)の構成成分のうちの1つ以上の間、1つ以上のDNA結合ドメイン同士の間、DNA結合ドメインと機能的ドメイン(例えば、ヌクレアーゼ)との間、ならびに1つ以上のDNA結合ドメイン同士の間、及びDNA結合ドメインと機能的ドメインとの間には、ほぼ全てのリンカー(スペーサー)が使用され得る。好適なリンカー配列の非限定的な例は、米国特許第8,772,453号、同第7,888,121号、同第6,479,626号、同第6,903,185号、及び同第7,153,949号、ならびに米国特許公開第2009/0305419号、同第2015/0064789号、及び同第2015/0132269号を含む。よって、本明細書に記述されるタンパク質は、本明細書に記述される組成物の個々のDNA結合構成成分同士の間、DNA結合ドメインと機能的ドメインとの間、または1つ以上のDNA結合ドメイン同士の間、及びDNA結合ドメインと機能的ドメインとの間の、好適なリンカーの任意の組み合わせを含み得る。
【0103】
B.切断ドメイン
本明細書に記述されるDNA結合ドメインに任意の好適な切断ドメインを作動可能に連結させてヌクレアーゼを形成することができる。切断ドメインは、例えばジンクフィンガーDNA結合ドメイン及びヌクレアーゼの切断ドメインのように、DNA結合ドメインに対して異種であり得る。異種切断ドメインは、任意のエンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼから得ることができる。切断ドメインが由来し得る例示的なエンドヌクレアーゼとしては、制限エンドヌクレアーゼ及びホーミングエンドヌクレアーゼが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、2002-2003 Catalogue,New England Biolabs,Beverly,MA、及びBelfort et al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3379-3388を参照されたい。DNAを切断する酵素は他にも知られている(例えば、S1ヌクレアーゼ、マングビーンヌクレアーゼ、膵臓DNase I、小球菌ヌクレアーゼ、酵母HOエンドヌクレアーゼ;Linn et al.(eds.)Nucleases,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1993も参照されたい)。これらの酵素(またはそれらの機能的断片)のうちの1つ以上を切断ドメイン及び切断ハーフドメインの源として使用してもよい。
【0104】
同様に、切断ハーフドメインは、切断活性のために二量体化を必要とする、上記の任意のヌクレアーゼまたはその一部分に由来し得る。概して、融合タンパク質が切断ハーフドメインを含む場合、2つの融合タンパク質が切断に必要である。代替的には、2つの切断ハーフドメインを含む単一のタンパク質を使用してもよい。2つの切断ハーフドメインが同じエンドヌクレアーゼ(またはその機能的断片)に由来してもよいし、各切断ハーフドメインが異なるエンドヌクレアーゼ(またはその機能的断片)に由来してもよい。加えて、2つの融合タンパク質の標的部位は、好ましくは、2つの融合タンパク質がそれぞれの標的部位に結合することにより、切断ハーフドメインが互いに対して空間的に位置付けられ、この位置付けにより、切断ハーフドメインが、例えば二量体化することによって機能的な切断ドメインを形成できるように、互いに対して配置される。よって、ある特定の実施形態では、これらの標的部位の近端は、5~8ヌクレオチドまたは15~18ヌクレオチドだけ離れている。しかしながら、任意の整数のヌクレオチドまたはヌクレオチド対が、2つの標的部位間に介在していてもよい(例えば、2~50ヌクレオチド対またはそれ以上)。概して、切断部位は標的部位間に存在する。
【0105】
制限エンドヌクレアーゼ(制限酵素)は多くの種に存在し、DNAに配列特異的に(認識部位において)結合し、結合部位またはその付近でDNAを切断することができる。ある特定の制限酵素(例えば、IIS型)は、認識部位から除去された部位でDNAを切断し、分離可能な結合ドメイン及び切断ドメインを有する。例えば、IIS型酵素Fok Iは、一方の鎖ではその認識部位から9ヌクレオチドの位置で、他方の鎖ではその認識部位から13ヌクレオチドの位置で、DNAの二本鎖切断を触媒する。例えば、米国特許第5,356,802号、同第5,436,150号、及び同第5,487,994号、ならびにLi et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:4275-4279、Li et al.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2764-2768、Kim et al.(1994a)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:883-887、Kim et al.(1994b)J.Biol.Chem.269:31,978-31,982を参照されたい。よって、一実施形態では、融合タンパク質は、少なくとも1つのIIS型制限酵素の切断ドメイン(または切断ハーフドメイン)と、工学操作されていてもされていなくてもよい1つ以上のジンクフィンガー結合ドメインとを含む。
【0106】
配列選択的(人工)ヌクレアーゼによる最適な切断特異性のためには、オンターゲットの結合及び活性が飽和しないように条件を整えることが望ましい。飽和条件下では、定義によれば、完全なオンターゲット活性を達成するのに必要なものに対して過剰なヌクレアーゼが使用される。この過剰はオンターゲットの利益を提供しないが、それにもかかわらず、オフターゲット部位における切断の増大をもたらし得る。単量体ヌクレアーゼの場合、飽和条件は、単純な用量応答研究を行って滴定曲線上の飽和プラトーを特定し回避することにより、容易に回避することができる。しかしながら、ZFN、TALEN、またはdCas-Fokなどの二量体ヌクレアーゼの場合、個々の単量体の結合親和性が似ていなければ、飽和条件の特定及び回避はより複雑であり得る。そのような場合、単純な1:1のヌクレアーゼ比を使用した用量応答研究では、結合がより弱い単量体の飽和点しか明らかにならない。このような状況では、例えば単量体の親和性が10倍異なる場合、1:1滴定研究で特定された飽和点において、高親和性の単量体は、必要な濃度よりも10倍高い濃度で存在することになる。すると、結果として生じる過剰な高親和性の単量体は、意図される標的における切断を有益に増大させることなくオフターゲット活性の増大をもたらす場合があり、あらゆるヌクレアーゼ対の特異性の全体的な減少につながる可能性がある。
【0107】
切断ドメインが結合ドメインから分離可能である例示的なIIS型制限酵素はFokIである。この特定の酵素は、二量体として活性がある。Bitinaite et al.(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:10,570-10,575。したがって、本開示において、本開示の融合タンパク質において使用されるFok I酵素の部分は、切断ハーフドメインとみなされる。よって、標的を定めた二本鎖切断、ジンクフィンガー・Fok I融合物を使用した細胞配列の標的を定めた置き換え、及び、標的を定めた二本鎖切断と、ジンクフィンガー・Fok I融合物を使用した細胞配列の標的を定めた置き換えとの組み合わせにおいて、FokI切断ハーフドメインを各々含む2つの融合タンパク質を使用して、触媒活性のある切断ドメインを再構築することができる。代替的には、ジンクフィンガー結合ドメイン及び2つのFok I切断ハーフドメインを含む単一のポリペプチド分子を使用してもよい。ジンクフィンガー・Fok I融合物を使用して標的を切断したり、標的の配列を変化させたりするためのパラメータは、本開示の他所に提供する。
【0108】
切断ドメインまたは切断ハーフドメインは、タンパク質のうち、切断活性を保持する任意の部分、または多量体化(例えば、二量体化)して機能的な切断ドメインを形成する能力を保持する任意の部分であり得る。
【0109】
例示的なIIS型制限酵素は、全体が本明細書に援用される米国特許第7,888,121号に記述されている。さらなる制限酵素は、分離可能な結合ドメイン及び切断ドメインも含み、これらも本開示によって想定される。例えば、Roberts et al.(2003)Nucleic Acids Res.31:418-420を参照されたい。
【0110】
ある特定の実施形態では、切断ドメインには、例えば、米国特許第7,914,796号、同第8,034,598号、及び同第8,623,618号に記述されている、ホモ二量体化を最小限に抑えるかまたは防止する、1つ以上の工学操作された切断ハーフドメイン(別称、二量体化ドメイン突然変異体)が含まれる。これらの特許は全て、その開示内容の全体が参照により本明細書に援用される。FokIの446位、447位、479位、483位、484位、486位、487位、490位、491位、496位、498位、499位、500位、531位、534位、537位、及び538位におけるアミノ酸残基は全て、FokI切断ハーフドメインの二量体化に影響する標的であり、この番号付けは、以下に示す、
野生型FokI切断ハーフドメイン(配列番号18)
QLVKSELEEKKSELRHKLKYVPHEYIELIEIARNSTQDRILEMKVMEFFMKVYGYRGKHLGGSRKPDGAIYTVGSPIDYGVIVDTKAYSGGYNLPIGQADEMQRYVEENQTRNKHINPNEWWKVYPSSVTEFKFLFVSGHFKGNYKAQLTRLNHITNCNGAVLSVEELLIGGEMIKAGTLTLEEVRRKFNNGEINF
の配列を有する、1FOK.pdb及び2FOK.pdbの結晶構造に関するものである(Wah et al.(1997)Nature 388:97-100を参照されたい)。
【0111】
偏性ヘテロ二量体を形成するFokIの例示的な工学操作された切断ハーフドメインとしては、第1の切断ハーフドメインがFokIの490位及び538位におけるアミノ酸残基の突然変異を含み、第2の切断ハーフドメインがアミノ酸残基486及び499の突然変異を含む対が挙げられる。
【0112】
よって、一実施形態では、490の突然変異はGlu(E)をLys(K)で置き換え、538の突然変異はIle(I)をLys(K)で置き換え、486の突然変異はGln(Q)をGlu(E)で置き換え、499位の突然変異はIle(I)をLys(K)で置き換える。具体的に述べると、本明細書に記述される工学操作された切断ハーフドメインは、1つの切断ハーフドメインにおいて490位(E→K)及び538位(I→K)を突然変異させて、「E490K:I538K」と呼称される工学操作された切断ハーフドメインを産生し、別の切断ハーフドメインにおいて486位(Q→E)及び499位(I→L)を突然変異させて、「Q486E:I499L」と呼称される工学操作された切断ハーフドメインを産生することによって調製した。本明細書に記述される工学操作された切断ハーフドメインは、ZFNホモ二量体による異常な切断が最小限に抑えられているかまたは消失している、偏性ヘテロ二量体突然変異体である。例えば、米国特許公開第2008/0131962号を参照されたい。この開示内容は、参照によりその全体があらゆる目的のために本明細書に援用される。ある特定の実施形態では、工学操作された切断ハーフドメインは、486位、499位、及び496位(番号付けは野生型FokIに対するものである)の突然変異、例えば、486位の野生型Gln(Q)残基をGlu(E)残基で置き換える突然変異、499位の野生型Ile(I)残基をLeu(L)残基で置き換える突然変異、及び496位の野生型Asn(N)残基をAsp(D)またはGlu(E)残基で置き換える突然変異を含む(それぞれ、別称「ELD」ドメイン及び「ELE」ドメイン)。他の実施形態では、工学操作された切断ハーフドメインは、490位、538位、及び537位(番号付けは野生型FokIに対するものである)の突然変異、例えば、490位の野生型Glu(E)残基をLys(K)残基で置き換える突然変異、538位の野生型Ile(I)残基をLys(K)残基で置き換える突然変異、及び537位の野生型His(H)残基をLys(K)残基またはArg(R)残基で置き換える突然変異を含む(それぞれ、別称「KKK」ドメイン及び「KKR」ドメイン)。他の実施形態では、工学操作された切断ハーフドメインは、490位及び537位(番号付けは野生型FokIに対するものである)の突然変異、例えば、490位の野生型Glu(
E)残基をLys(K)残基で置き換える突然変異、及び537位の野生型His(H)残基をLys(K)残基またはArg(R)残基で置き換える突然変異を含む(それぞれ、別称「KIK」ドメイン及び「KIR」ドメイン)。例えば、米国特許第7,914,796号、同第8,034,598号、及び同第8,623,618号を参照されたい。他の実施形態では、工学操作された切断ハーフドメインは、「Sharkey」、「Sharkey」突然変異、及び「Sharkey」と「Sharkey」突然変異の組み合わせを含む(Guo et al.(2010)J.Mol.Biol.400(1):96-107を参照されたい)。
【0113】
よって、FokI由来の切断ハーフドメインは、上述の二量体化ドメインにおける突然変異、触媒ドメインにおける突然変異、リン酸接触残基などの他のアミノ酸残基における突然変異、ならびに二量体化ドメインにおける突然変異、触媒ドメインにおける突然変異、及びリン酸接触残基などの他のアミノ酸残基における突然変異から選択される突然変異の任意の組み合わせを含む、配列番号18に示されるアミノ酸残基のうちの1つ以上における突然変異を含み得る。突然変異は、置換(野生型アミノ酸残基から異なる残基への置換)、挿入(1つ以上のアミノ酸残基の挿入)、欠失(1つ以上のアミノ酸残基の欠失)、ならびに置換、挿入、及び欠失から選択される突然変異の任意の組み合わせを含む。ある特定の実施形態では、残基414~426、443~450、467~488、501~502、521~531のうちの1つ以上(番号付けは配列番号18に対するものである)、及びこのような残基の任意の組み合わせが突然変異する。これは、Miller et al.((2007)Nat Biotechnol 25:778-784)に記述されているZFNがその標的部位に結合した分子モデルにおけるDNA骨格の近くにこれらの残基が位置しているためである。ある特定の実施形態では、416位、422位、447位、448位、及び525位における1つ以上の残基が突然変異する。ある特定の実施形態では、突然変異は、野生型残基の、異なる残基、例えばセリン(S)残基との置換を含む。ある特定の実施形態では、本明細書に記述されるヌクレアーゼのFokI切断ドメインは、ELD二量体化ドメイン突然変異、KKR二量体化ドメイン突然変異、K525S突然変異、ならびにELD二量体化ドメイン突然変異またはKKR二量体化ドメイン突然変異及びK525S突然変異から選択される任意の組み合わせを含む。
【0114】
本明細書に記述される工学操作された切断ドメインは、任意の好適な方法を使用して、例えば、米国特許第7,888,121号、同第7,914,796号、同第8,034,598号、及び同第8,623,618号に記述されている野生型切断ハーフドメイン(Fok I)の部位指向性突然変異誘発によって調製することができる。さらに、本明細書に記述される切断ドメインは、米国特許第9,394,531号及び同第9,567,609号に記述されているリンカーを含むがこれに限定されない任意の好適なリンカーを使用して、DNA結合ドメイン(例えば、ZFP)に融合してよい。
【0115】
代替的には、いわゆる「開裂酵素(split-enzyme)」技術(例えば、米国特許公開第2009/0068164号を参照されたい)を使用して、核酸標的部位においてヌクレアーゼをインビボでアセンブルしてもよい。このような開裂酵素の構成成分は、別々の発現構築物で発現してもよいし、または、例えば自己切断性の2AペプチドもしくはIRES配列によって個々の構成成分が分離された1つのオープンリーディングフレームにおいて連結してもよい。構成成分は、個々のジンクフィンガー結合ドメインであっても、メガヌクレアーゼ核酸結合ドメインのドメインであってもよい。
【0116】
ヌクレアーゼは、例えばWO2009/042163及び20090068164に記述されている酵母ベースの染色体系において、使用前に活性についてスクリーニングしてよい。ヌクレアーゼの発現は、構成的プロモーター、または誘導性プロモーター、例えば、ラフィノース、ガラクトース、及びラフィノースとガラクトースの組み合わせの存在下で活性化(抑制解除)し、グルコースの存在下で抑制されるガラクトキナーゼプロモーターの制御下にあり得る。
【0117】
本明細書に記述されるヌクレアーゼ(複数可)は、標的部位において、1つ以上の二本鎖切断、1つ以上の一本鎖切断、及び1つ以上の二本鎖切断と1つ以上の一本鎖切断の組み合わせを行うことができる。ある特定の実施形態では、ヌクレアーゼは、触媒活性のない切断ドメイン(例えば、FokI、Casタンパク質、及びFokIとCasタンパク質の組み合わせ)を含む。例えば、米国特許第9,200,266号、同第8,703,489号、及びGuillinger et al.(2014)Nature Biotech.32(6):577-582を参照されたい。触媒活性のない切断ドメインは、触媒活性のあるドメインと組み合わせると、ニッカーゼとして作用して一本鎖切断を行う場合がある。したがって、特定の領域に二本鎖切断を行うために、2つのニッカーゼを組み合わせて使用してもよい。当技術分野では、例えば、McCaffery et al.(2016)Nucleic Acids Res.44(2):e11.doi:10.1093/nar/gkv878.Epub 2015 Oct 19において、さらなるニッカーゼも公知である。
【0118】
標的部位
上に詳細に記述したように、最適な任意の配列に結合するようにDNAドメインを工学操作することができる。工学操作されたDNA結合ドメインは、天然に存在するDNA結合ドメインと比較すると、新規の結合特異性を有し得る。ある特定の実施形態では、DNA結合ドメインは、表1に示されるBCL11Aエンハンサー配列におけるDNAseI高感受性部位(例えば、+58)内の配列に結合するDNA結合ドメインを含め、BCL11Aエンハンサー配列内の配列、例えば、BCL11Aのエクソン2とエクソン3との間にある標的部位(一般的には、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、またはさらに多くの塩基対)に結合する。工学操作方法としては、合理的デザイン及び種々の種類の選択が挙げられるが、これらに限定されない。合理的デザインには、例えば、トリプレット(またはクアドルプレット)ヌクレオチド配列及び個々のジンクフィンガーのアミノ酸配列を含むデータベースで、各トリプレットまたはクアドルプレットのヌクレオチド配列が、特定のトリプレットまたはクアドルプレットの配列に結合するジンクフィンガーの1つ以上のアミノ酸配列と関連付けられているものを使用することが含まれる。例えば、参照により全体が本明細書に援用される、共有の米国特許第6,453,242号及び同第6,534,261号を参照されたい。TALエフェクタードメインの合理的デザインを行うこともできる。例えば、米国特許公開第2011/0301073号を参照されたい。
【0119】
DNA結合ドメインに適用可能なDNA結合ドメインに適用可能な例示的な選択方法は、ファージディスプレイ及びツーハイブリッド系を含め、米国特許第5,789,538号、同第5,925,523号、同第6,007,988号、同第6,013,453号、同第6,410,248号、同第6,140,466号、同第6,200,759号、及び同第6,242,568号、ならびにPCT公開第WO98/37186号、同第WO98/53057号、同第WO00/27878号、同第WO01/88197号、及び英国特許第GB2,338,237号に開示されている。加えて、ジンクフィンガー結合ドメインに対する結合特異性の向上は、例えば、共有のWO02/077227に記述されている。
【0120】
標的部位の選択、融合タンパク質(及びそれをコードするポリヌクレオチド)のデザイン及び構築のためのヌクレアーゼならびに方法は当業者に公知であり、参照により全体が本明細書に援用される米国特許公開第2005/0064474号及び同第2006/0188987号に詳細に記述されている。
【0121】
加えて、これら及び他の参考文献に開示されているように、DNA結合ドメイン(例えば、マルチフィンガージンクフィンガータンパク質)ならびにDNA結合ドメイン(複数可)及び機能的ドメイン(複数可)の融合物は、例えば5以上のアミノ酸のリンカーを含む任意の好適なリンカー配列を使用して、ひとつに連結することができる。米国特許第8,772,453号、同第7,888,121号(例えば、「ZC」リンカー)、同第6,479,626号、同第6,903,185号、及び同第7,153,949号、米国公開第2009/0305419号及び同第2015/0064789号。本明細書に記述されるタンパク質は、タンパク質の個々のDNA結合ドメイン同士の間に、好適なリンカーの任意の組み合わせを含み得る。米国特許第8,586,526号も参照されたい。
【0122】
ドナー
ある特定の実施形態では、本開示は、本明細書に記述されるBCL11Aエンハンサー領域結合分子を使用した、細胞のゲノムへの外来性配列のヌクレアーゼ媒介性標的組み込みに関する。上記のように、外来性配列(別名「ドナー配列」または「ドナー」または「導入遺伝子」)の挿入は、例えば、指定領域の欠失のため、突然変異体遺伝子の補正のため、指定領域の欠失及び突然変異体遺伝子の補正の組み合わせのため、または野生型遺伝子の発現増大のためである。ドナー配列は、それが配置されるゲノム配列と同一でないのが一般的であることは、容易に明らかになるであろう。ドナー配列は、目的の場所における効率的なHDRが可能になるように2つの相同性領域が隣接した非相同配列を含む場合もあれば、NHEJなどの相同組換えによらない修復機構によって組み込まれる場合もある。さらに、ドナー配列は、細胞クロマチン内の目的の領域と相同でない配列を含むベクター分子を含み得る。ドナー分子は、細胞クロマチンと相同性の非連続的な領域をいくつか含み、かつ、例えば本明細書に記述されるヌクレアーゼのうちの1つによって誘導されたDSBの修復のための基質として使用したとき、BCL11Aエンハンサー領域(またはその断片)の欠失をもたらす場合がある。さらに、目的の領域に通常は存在しない配列の標的挿入では、この配列はドナー核酸分子内に存在し、目的の領域内の配列と相同性の領域が隣接していてよい。
【0123】
挿入されるポリヌクレオチドは、「外来性」ポリヌクレオチド、「ドナー」ポリヌクレオチドもしくは分子、または「導入遺伝子」と呼ばれる場合もある。ドナーポリヌクレオチドは、DNAであってもRNAであってもよく、一本鎖であっても二本鎖であってもよく、直鎖型または環状型で細胞に導入することができる。例えば、米国特許出願公開第2010/0047805号及び同第2011/0207221号を参照されたい。ドナー配列(複数可)は、好ましくは、DNA MC内に含まれ、これは、環状型または直鎖型で細胞に導入してよい。直鎖型で導入する場合、当業者に公知の方法によってドナー配列の末端を(例えば、エキソヌクレアーゼ分解から)保護してよい。例えば、1つ以上のジデオキシヌクレオチド残基を直鎖状分子の3’末端に付加し、任意選択で、自己相補的なオリゴヌクレオチドを一方または両方の末端にライゲーションする。例えば、Chang et al.(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.USA84:4959-4963、Nehls et al.(1996)Science 272:886-889を参照されたい。外来性ポリヌクレオチドを分解から保護するためのさらなる方法としては、例えば、ホスホロチオエート、ホスホロアミド酸、及びO-メチルリボースまたはデオキシリボース残基といった、末端アミノ基(複数可)の付加及び改変されたヌクレオチド間結合の使用が挙げられるが、これらに限定されない。二本鎖型で導入される場合、ドナーは、1つ以上のヌクレアーゼ標的部位、例えば、細胞のゲノムに組み込もうとする導入遺伝子に隣接するヌクレアーゼ標的部位を含み得る。例えば、米国特許公開第2013/0326645号を参照されたい。
【0124】
ポリヌクレオチドは、例えば、複製起点、プロモーター、及び抗生物質抵抗性をコードする遺伝子などのさらなる配列を有するベクター分子の一部として、細胞に導入することができる。さらに、ドナーポリヌクレオチドは、ネイキッド核酸として導入しても、リポソームもしくはポロクサマーなどの薬剤と複合した核酸として導入してもよいし、またはウイルス(例えば、アデノウイルス、AAV、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、及びインテグラーゼ欠損レンチウイルス(IDLV))によって送達してもよい。
【0125】
ある特定の実施形態では、二本鎖ドナーは、長さ1kb超、例えば2~200kb、2~10kb(またはこの間の任意の値)の配列(例えばコード配列、別称、導入遺伝子)を含む。二本鎖ドナーは、例えば、少なくとも1つのヌクレアーゼ標的部位も含む。ある特定の実施形態では、ドナーは、例えば一対のZFNまたはTALENに対する、少なくとも2つの標的部位を含む。一般的にヌクレアーゼ標的部位は、導入遺伝子の切断のため、導入遺伝子配列の外、例えば、導入遺伝子配列に対して5’側及び/または3’側にある。ヌクレアーゼ切断部位(複数可)は、任意のヌクレアーゼ(複数可)に関するものであってよい。ある特定の実施形態では、二本鎖ドナーに含まれるヌクレアーゼ標的部位(複数可)は、内在性標的を切断するために使用されたものと同じヌクレアーゼ(複数可)に関するものであり、この標的に、切断されたドナーが相同性非依存性の方法によって組み込まれる。
【0126】
ドナーは、その発現が、組み込み部位における内在性プロモーター、すなわち、ドナーが挿入される内在性遺伝子(例えば、グロビン、AAVS1など)の発現を駆動するプロモーターによって駆動されるように挿入されるのが一般的である。しかしながら、ドナーが、プロモーター、エンハンサー、及びプロモーターとエンハンサー両方の組み合わせ、例えば、構成的プロモーターまたは誘導性もしくは組織特異的プロモーターを含み得ることは明らかであろう。
【0127】
ドナー分子は、内在性遺伝子の全てもしくは一部が発現するか、または一切発現しないように、内在性遺伝子に挿入してよい。他の実施形態では、導入遺伝子(例えば、グロビンコード配列ありまたはなし)は、任意の内在性遺伝子座、例えばセーフハーバー遺伝子座に組み込まれる。例えば、米国特許公開第2008/0299580号、同第2008/0159996号、及び同第2010/00218264号を参照されたい。
【0128】
さらに、発現に必要ではないが、外来性配列は、転写調節配列または翻訳調節配列、例えば、プロモーター、エンハンサー、インスレーター、配列内リボソーム進入部位、2Aペプチドをコードする配列、ポリアデニル化シグナル、及びこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0129】
本明細書に記述されるドナー配列が有する導入遺伝子は、PCRなどの当技術分野で公知の標準的技術を使用して、プラスミド、細胞、または他の源から単離することができる。使用されるドナーは、環状超コイル状、緩んだ環状、直鎖状などを含む、様々な種類のトポロジーを含み得る。代替的には、標準的なオリゴヌクレオチド合成技術を使用してドナーを化学合成してもよい。加えて、ドナーは、メチル化されていても、メチル化を欠いていてもよい。ドナーは、細菌または酵母の人工染色体(BACまたはYAC)の形態であり得る。
【0130】
本明細書に記述される二本鎖ドナーポリヌクレオチドは、1つ以上の非天然塩基、1つ以上の骨格、及び1つ以上の非天然塩基と1つ以上の骨格の組み合わせを含み得る。特に、本明細書に記述される方法を使用して、メチル化シトシンを有するドナー分子の挿入を行うと、目的の領域において転写静止状態を達成することができる。
【0131】
外来性(ドナー)ポリヌクレオチドは、任意の目的の配列(外来性配列)を含み得る。例示的な外来性配列としては、任意のポリペプチドコード配列(例えば、cDNA)、プロモーター配列、エンハンサー配列、エピトープタグ、マーカー遺伝子、切断酵素認識部位、及び種々の種類の発現構築物が挙げられるが、これらに限定されない。マーカー遺伝子としては、抗生物質抵抗性(例えば、アンピシリン抵抗性、カナマイシン抵抗性、ネオマイシン抵抗性、G418抵抗性、ピューロマイシン抵抗性、ハイグロマイシン抵抗性、ブラストサイジン抵抗性)を媒介するタンパク質をコードする配列、有色または蛍光性もしくは発光性のタンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質、高感度緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ)をコードする配列、ならびに向上した細胞増殖を媒介するタンパク質、向上した遺伝子増幅を媒介するタンパク質(例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ)、及び向上した細胞増殖と遺伝子増幅の組み合わせを媒介するタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。エピトープタグは、例えば、FLAG、His、Myc、タンデムアフィニティー精製(TAP)、HA、ビオチン化可能ペプチド、または任意の検出可能なアミノ酸配列の1つ以上のコピーを含む。
【0132】
好ましい一実施形態では、外来性配列(導入遺伝子)には、限定されるものではないが、抗体、抗原、酵素、受容体(細胞表面または核)、ホルモン、リンホカイン、サイトカイン、レポーターポリペプチド、増殖因子、及び上記のいずれかの機能的断片を含む、細胞における発現が所望される任意のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが含まれる。コード配列は、例えば、cDNAであり得る。
【0133】
例えば、外来性配列は、遺伝性疾患を有する対象において欠損しているかまたは非機能性であるポリペプチドをコードする配列を含み得る。遺伝性疾患は、次の遺伝性疾患:軟骨無形成症、色覚異常、酸性マルターゼ欠損症、アデノシンデアミナーゼ欠損症(OMIM番号102700)、副腎白質ジストロフィー、Aicardi症候群、アルファ1アンチトリプシン欠損症、アルファサラセミア、アンドロゲン非感受性症候群、Apert症候群、不整脈原性右室心筋症、異形成、毛細血管拡張性運動失調症、Barth症候群、ベータサラセミア、青色ゴム乳首様母斑症候群、カナバン病、慢性肉芽腫症(CGD)、ネコ鳴き症候群、嚢胞性線維症、ダーカム病、外胚葉異形成症、ファンコニ貧血、進行性骨化性線維異形成症、脆弱X症候群、ガラクトース血症、Gaucher病、全身性ガングリオシドーシス(例えば、GM1)、ヘモクロマトーシス、ベータグロビンの第6コドンにおけるヘモグロビンC突然変異(HbC)、血友病、Huntington病、Hurler症候群、低ホスファターゼ症、Klinefleter症候群、Krabbe病、Langer-Giedion症候群、白血球粘着不全症(LAD、OMIM番号116920)、白質ジストロフィー、QT延長症候群、Marfan症候群、Moebius症候群、ムコ多糖症(MPS)、爪膝蓋骨症候群、腎性尿崩症、神経線維腫症、Neimann-Pick病、骨形成不全症、ポルフィリン症、Prader-Willi症候群、早老症、Proteus症候群、網膜芽細胞腫、Rett症候群、Rubinstein-Taybi症候群、Sanfilippo症候群、重症複合免疫不全症(SCID)、Shwachman症候群、鎌状赤血球症(鎌状赤血球貧血)、Smith-Magenis症候群、スティックラー症候群、Tay-Sachs病、血小板減少橈骨欠損(TAR)症候群、Treacher Collins症候群、トリソミー、結節性硬化症、Turner症候群、尿素サイクル異常症、von Hippel-Landau病、Waardenburg症候群、Williams症候群、Wilson病、Wiskott-Aldrich症候群、X連鎖リンパ球増殖症候群(XLP、OMIM番号308240)を含むが、このいずれにも限定されない。
【0134】
標的組み込みにより処置され得るさらなる例示的な疾患としては、後天性免疫不全、リソソーム蓄積症(例えば、Gaucher病、GM1、Fabry病及びTay-Sachs病)、ムコ多糖症(例えばHunter病、Hurler病)、異常ヘモグロビン症(例えば、鎌状赤血球症、HbC、αサラセミア、βサラセミア)、及び血友病が挙げられる。
【0135】
ある特定の実施形態では、外来性配列は、標的組み込みを受けた細胞の選択を可能にするマーカー遺伝子(上述)、及びさらなる機能性をコードする連結された配列を含み得る。マーカー遺伝子の非限定的な例としては、GFP、薬物選択マーカー(複数可)などが挙げられる。
【0136】
挿入され得るさらなる遺伝子配列は、例えば、突然変異した配列に置き換わる野生型遺伝子を含み得る。例えば、野生型の第IX因子遺伝子配列を、遺伝子の内在性コピーが突然変異している幹細胞のゲノムに挿入してよい。野生型コピーは、内在性遺伝子座に挿入してもよいし、または代替的にはセーフハーバー遺伝子座を標的としてもよい。
【0137】
このような発現カセットの構築は、本明細書の教示に従えば、分子生物学の技術分野で周知の方法論を用いる(例えば、AusubelまたはManiatisを参照されたい)。発現カセットを使用してトランスジェニック動物を作製する前に、発現カセットを好適な細胞株(例えば、初代細胞、形質転換細胞、または不死化細胞株)に導入することにより、選択された制御エレメントに関連するストレス誘導因子に対する発現カセットの応答性を試験することができる。
【0138】
さらに、発現に必要ではないが、外来性配列は、転写調節配列または翻訳調節配列、例えば、プロモーター、エンハンサー、インスレーター、配列内リボソーム進入部位、2Aペプチドをコードする配列、ポリアデニル化シグナル、及び2Aポリペプチドとポリアデニル化シグナルの組み合わせを含んでもよい。さらに、目的の遺伝子の制御エレメントをレポーター遺伝子に作動的に連結して、キメラ遺伝子を作り出すことができる(例えば、レポーター発現カセット)。
【0139】
非コード核酸配列の標的挿入も達成され得る。アンチセンスRNA、RNAi、shRNA、及びマイクロRNA(miRNA)をコードする配列を標的挿入に使用することもできる。
【0140】
さらなる実施形態において、ドナー核酸は、さらなるヌクレアーゼデザインのための特異的な標的部位である非コード配列を含み得る。その後、原型のドナー分子が別の目的のドナー分子の挿入によって切断及び改変されるように、さらなるヌクレアーゼが細胞で発現してもよい。このようにして、特定の目的の遺伝子座またはセーフハーバー遺伝子座における形質スタッキングを可能にする、ドナー分子の反復組み込みが発生し得る。
【0141】
送達
本明細書(表1)に記述されるヌクレアーゼ、これらのヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、ドナーポリヌクレオチド、ならびに本明細書に記述されるタンパク質、ポリヌクレオチド、及びタンパク質とポリヌクレオチドの組み合わせを含む組成物は、任意の好適な手段によって任意の細胞型にインビボまたはエクスビボで送達され得る。
【0142】
好適な細胞としては、真核(例えば、動物)細胞及び原核細胞、ならびに真核細胞株及び原核細胞株が挙げられる。このような細胞から作製される、このような細胞または細胞株の非限定的な例としては、COS、CHO(例えば、CHO-S、CHO-K1、CHO-DG44、CHO-DUXB11、CHO-DUKX、CHOK1SV)、VERO、MDCK、WI38、V79、B14AF28-G3、BHK、HaK、NS0、SP2/0-Ag14、HeLa、HEK293(例えば、HEK293-F、HEK293-H、HEK293-T)、及びperC6細胞、ならびにSpodopterafugiperda(Sf)などの昆虫細胞、またはSaccharomyces、Pichia及びSchizosaccharomycesなどの真菌細胞が挙げられる。ある特定の実施形態では、細胞株は、CHO、MDCK、またはHEK293細胞株である。好適な細胞としては、例として、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、及び間葉系幹細胞などの幹細胞も挙げられる。
【0143】
本明細書に記述されるヌクレアーゼを送達する方法は、例えば、米国特許第6,453,242号、同第6,503,717号、同第6,534,261号、同第6,599,692号、同第6,607,882号、同第6,689,558号、同第6,824,978号、同第6,933,113号、同第6,979,539号、同第7,013,219号、及び同第7,163,824号に記述されている。これらの特許は全て、その開示内容の全体が参照により本明細書に援用される。
【0144】
本明細書に記述されるヌクレアーゼ、ドナー構築物、及びヌクレアーゼとドナー構築物の組み合わせは、本明細書に記述されるZFN(複数可)のうちの1つ以上をコードする配列を含むベクターを使用して送達してもよい。プラスミドベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、及びアデノ随伴ウイルスベクターなどを含むがこれらに限定されない、任意のベクター系を使用してよい。参照により全体が本明細書に援用される、米国特許第6,534,261号、同第6,607,882号、同第6,824,978号、同第6,933,113号、同第6,979,539号、同第7,013,219号、及び同第7,163,824号も参照されたい。さらに、これらのベクターのうちもいずれも、処置に必要な配列のうちの1つ以上を含み得ることは明らかであろう。よって、1つ以上のヌクレアーゼ及びドナー構築物を細胞に導入するとき、ヌクレアーゼ、ドナーポリヌクレオチド、及びヌクレアーゼとドナーポリヌクレオチドの組み合わせは、同じベクターに搭載しても、異なるベクター(DNA MC(複数可))に搭載してもよい。複数のベクターが使用される場合、各ベクターは、1つまたは複数のヌクレアーゼ、1つ以上のドナー構築物、及び1つ以上のヌクレアーゼと1つ以上のドナー構築物の組み合わせをコードする配列を含み得る。ヌクレアーゼ、ドナー構築物、及びヌクレアーゼとドナー構築物の組み合わせをコードする核酸を細胞(例えば、哺乳動物細胞)及び標的組織に導入するには、従来のウイルスベースの遺伝子移入方法を使用しても、非ウイルスベースの遺伝子移入方法を使用してもよい。非ウイルスベクター送達系は、DNAプラスミドまたはRNAプラスミド、DNA MC、ネイキッド核酸、及びリポソームまたはポロクサマーなどの送達ビヒクルと複合した核酸を含む。好適な非ウイルスベクターとしては、InCellArt(France)から市販されているベクターを含む、ナノタクシー(nanotaxis)ベクターが挙げられる。ウイルスベクター送達系は、細胞に送達された後のエピソームゲノムまたは組み込まれたゲノムのいずれかを有する、DNAウイルス及びRNAウイルスを含む。工学操作されたDNA結合タンパク質及びこれらの結合タンパク質を含む融合タンパク質のインビボ送達の概説については、例えば、Rebar(2004)Expert Opinion Invest.Drugs 13(7):829-839、Rossi et al.(2007)Nature Biotech.25(12):1444-1454、ならびに一般的な遺伝子送達に関する参考文献、例えばAnderson,Science 256:808-813(1992)、Nabel&Felgner,TIBTECH 11:211-217(1993)、Mitani&Caskey,TIBTECH 11:162-166(1993)、Dillon,TIBTECH 11:167-175(1993)、Miller,Nature 357:455-460(1992)、Van Brunt,Biotechnology 6(10):1149-1154(1988)、Vigne,Restorative Neurology and Neuroscience 8:35-36(1995)、Kremer&Perricaudet,British Medical Bulletin 51(1):31-44(1995)、Haddada et al.,in Current Topics in Microbiology and Immunology Doerfler and Bohm(eds.)(1995)、及びYu et al.,Gene Therapy 1:13-26(1994)を参照されたい。
【0145】
核酸の非ウイルス送達の方法としては、電気穿孔、リポフェクション、微量注入、遺伝子銃、ビロソーム、リポソーム、イムノリポソーム、ポリカチオンまたは脂質:核酸コンジュゲート、ネイキッドDNA、人工ビリオン、膜変形、及びDNA取り込みの薬剤による向上が挙げられる。例えばSonitron 2000システム(Rich-Mar)を使用したソノポレーションも核酸の送達に使用することができる。
【0146】
さらなる例示的な核酸送達系は、Amaxa Biosystems(Cologne,Germany)、Maxcyte,Inc.(Rockville,Maryland)、BTX Molecular Delivery Systems(Holliston,MA)、及びCopernicus Therapeutics Inc.によって提供されているものを含む(例えばUS6008336を参照されたい)。リポフェクションは例えば、米国特許第5,049,386号、同第4,946,787号、及び同第4,897,355号に記述されており、リポフェクション試薬は市販されている(例えば、Transfectam(商標)及びLipofectin(商標))。ポリヌクレオチドの効率的な受容体認識リポフェクションに好適なカチオン性脂質及び中性脂質としては、Felgner、WO91/17424、WO91/16024のものが挙げられる。
【0147】
免疫脂質複合体などの標的を定めたリポソームを含む、脂質:核酸複合体の調製は、当業者に周知である(例えば、Crystal,Science 270:404-410(1995)、Blaese et al.,Cancer Gene Ther.2:291-297(1995)、Behr et al.,Bioconjugate Chem.5:382-389(1994)、Remy et al.,Bioconjugate Chem.5:647-654(1994)、Gao et al.,Gene Therapy 2:710-722(1995)、Ahmad et al.,Cancer Res.52:4817-4820(1992)、米国特許第4,186,183号、同第4,217,344号、同第4,235,871号、同第4,261,975号、同第4,485,054号、同第4,501,728号、同第4,774,085号、同第4,837,028号、及び同第4,946,787号を参照されたい)。他の脂質:核酸複合体としては、新規のカチオン性脂質を含むもの、新規のPEG化脂質を含むもの、及び新規のカチオン性脂質と新規のPEG化脂質の組み合わせを含むものが挙げられる(例えば、米国仮特許出願第62/432,042号及び同第62/458,373号を参照されたい)。
【0148】
さらなる送達方法としては、送達しようとする核酸のEnGeneIC送達ビヒクル(EDV)へのパッケージングの使用が挙げられる。これらのEDVは、抗体の一方のアームが標的組織に対する特異性を有し、他方がEDVに対する特異性を有する二重特異性抗体を使用して、標的組織に特異的に送達される。この抗体はEDVを標的細胞表面に運び、その後EDVはエンドサイトーシスによって細胞に運ばれる。細胞内に入ると、内容物が放出される(MacDiarmid et al.(2009)Nature Biotechnology 27(7):643を参照されたい)。
【0149】
工学操作されたZFP、TALE、及びCRISPR/Cas系をコードする核酸の、RNAまたはDNAウイルスベースの送達系の使用は、体内の特定の細胞にウイルスの標的を定め、ウイルスペイロードを核に輸送するための高度に進化したプロセスを利用する。ウイルスベクターは、患者に直接投与されてもよいし(インビボ)、またはインビトロで細胞を処置するために使用され、この改変された細胞が患者に投与されてもよい(エクスビボ)。ZFPの従来のウイルスベースの送達系としては、遺伝子移入のためのレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニア、及び単純ヘルペスウイルスの各ベクターが挙げられるが、これらに限定されない。レトロウイルス、レンチウイルス、及びアデノ随伴ウイルスによる遺伝子移入方法を用いると宿主ゲノムへの組み込みが可能であり、多くの場合、挿入された導入遺伝子の長期発現がもたらされる。さらに、多くの異なる細胞型及び標的組織において高い形質導入効率が観察されている。
【0150】
レトロウイルスのトロピズムは、外来エンベロープタンパク質を組み込み、標的細胞の潜在的な標的集団を拡大することによって変化させることができる。レンチウイルスベクターは、非分裂細胞に形質導入または感染することができ、一般的に高いウイルス力価をもたらすレトロウイルスベクターである。レトロウイルス遺伝子移入系の選択は、標的組織に依存する。レトロウイルスベクターは、最大6~10kbの外来配列のパッケージング能力を有するシス作用性の末端反復配列(long terminal repeat)を含む。ベクターの複製及びパッケージングには最小限のシス作用性LTRで十分であり、その後これらのベクターを使用して治療遺伝子を標的細胞に組み込むことにより、持続的な導入遺伝子発現がもたらされる。広く使用されているレトロウイルスベクターとしては、マウス白血病ウイルス(MuLV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、及びこれらの組み合わせに基づくものが挙げられる(例えば、Buchscher et al.,J.Virol.66:2731-2739(1992)、Johann et al.,J.Virol.66:1635-1640(1992)、Sommerfelt et al.,Virol.176:58-59(1990)、Wilson et al.,J.Virol.63:2374-2378(1989)、Miller et al.,J.Virol.65:2220-2224(1991)、PCT/US94/05700を参照されたい)。
【0151】
一過性の発現が好ましい用途では、アデノウイルスベースの系を使用することができる。アデノウイルスベースのベクターは、多くの細胞型で非常に高い形質導入効率が可能であり、細胞分裂を必要としない。このようなベクターを用いて、高い力価及び高レベルの発現が得られている。このベクターは、比較的単純な系で大量に産生することができる。アデノ随伴ウイルス(「AAV」)ベクターは、例えば、核酸及びペプチドのインビトロ産生において標的核酸を細胞に形質導入するため、また、インビボ及びエクスビボの遺伝子療法手技のためにも使用される(例えば、West et al.,Virology 160:38-47(1987)、米国特許第4,797,368号、WO93/24641、Kotin,Human Gene Therapy 5:793-801(1994)、Muzyczka,J.Clin.Invest.94:1351(1994)を参照されたい)。組換えAAVベクターの構築は、米国特許第5,173,414号、Tratschin et al.,Mol.Cell.Biol.5:3251-3260(1985)、Tratschin,et al.,Mol.Cell.Biol.4:2072-2081(1984)、Hermonat&Muzyczka,PNAS 81:6466-6470(1984)、及びSamulski et al.,J.Virol.63:03822-3828(1989)を含め、いくつかの公開文献に記述されている。
【0152】
臨床治験における遺伝子移入では、少なくとも6つのウイルスベクター手法が現在利用可能であり、これらは、形質導入剤を作製するためにヘルパー細胞株に挿入された遺伝子によって欠陥ベクターを補完することを含む手法を利用する。
【0153】
pLASN及びMFG-Sは、臨床治験に使用されているレトロウイルスベクターの例である(Dunbar et al.,Blood 85:3048-305(1995)、Kohn et al.,Nat.Med.1:1017-102(1995)、Malech et al.,PNAS 94:22 12133-12138(1997))。PA317/pLASNは、遺伝子療法治験で最初に使用された治療用ベクターである(Blaese et al.,Science 270:475-480(1995))。MFG-Sでパッケージングされたベクターでは50%以上の形質導入効率が観察されている(Ellem et al.,Immunol Immunother.44(1):10-20(1997)、Dranoff et al.,Hum.Gene Ther.1:111-2(1997)。
【0154】
組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)は、欠陥があり非病原性のパルボウイルスアデノ随伴2型ウイルスに基づく、期待される代替的な遺伝子送達系である。全てのベクターは、導入遺伝子発現カセットに隣接するAAVの145bpの逆位末端リピートのみを保持するプラスミドに由来する。形質導入細胞のゲノムへの組み込みに起因する効率的な遺伝子移入及び安定な導入遺伝子送達が、このベクター系の主要な特徴である(Wagner et al.,Lancet 351:9117 1702-3(1998)、Kearns et al.,Gene Ther.9:748-55(1996))。AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9及びAAVrh.10を含む他のAAV血清型、ならびに任意の新規のAAV血清型を本発明に従って使用することもできる。
【0155】
複製欠損性組換えアデノウイルスベクター(Ad)は、高い力価で産生され、いくつかの異なる細胞型に容易に感染することができる。ほとんどのアデノウイルスベクターは、導入遺伝子がAdのE1a、E1b、またはE3遺伝子に置き換わるように工学操作され、その後この複製欠損性ベクターは、欠失した遺伝子機能をトランスで供給するヒト293細胞内で増殖させる。Adベクターは、肝臓、腎臓、及び筋肉に見られるものといった非分裂性の分化細胞を含め、複数の組織型にインビボで形質導入することができる。従来のAdベクターは、高い運搬能を有する。臨床治験におけるAdベクターの使用の一例は、筋肉内注射を用いる抗腫瘍免疫のためのポリヌクレオチド療法を含んだ(Sterman et al.,Hum.Gene Ther.7:1083-9(1998))。臨床治験における遺伝子移入のためのアデノウイルスベクターの使用のさらなる例は、Rosenecker et al.,Infection 24:1 5-10(1996)、Sterman et al.,Hum.Gene Ther.9:7 1083-1089(1998)、Welsh et al.,Hum.Gene Ther.2:205-18(1995)、Alvarez et al.,Hum.Gene Ther.5:597-613(1997)、Topf et al.,Gene Ther.5:507-513(1998)、Sterman et al.,Hum.Gene Ther.7:1083-1089(1998)を含む。
【0156】
パッケージング細胞は、宿主細胞に感染可能なウイルス粒子を形成するために使用される。このような細胞としては、AAV及びアデノウイルスをパッケージングするために使用され得るHEK293細胞及びSf9細胞、ならびにレトロウイルスをパッケージングするψ2細胞またはPA317細胞が挙げられる。遺伝子療法に使用されるウイルスベクターは通常、核酸ベクターをウイルス粒子にパッケージングするプロデューサー細胞株によって作製される。これらのベクターは一般的に、パッケージング及びその後の宿主への組み込み(該当する場合)に必要な最小限のウイルス配列を含み、他のウイルス配列は、発現しようとするタンパク質をコードする発現カセットによって置き換えられる。欠けているウイルス機能は、パッケージング細胞株によってトランスで供給される。例えば、遺伝子療法に使用されるAAVベクターは、一般的に、宿主ゲノムへのパッケージング及び組み込みに必要とされるAAVゲノムの逆位末端リピート(ITR)配列のみを有する。ウイルスDNAは細胞株にパッケージングされ、この細胞株は、他のAAV遺伝子、すなわちrep及びcapをコードするがITR配列を欠いているヘルパープラスミドを含む。この細胞株はまた、ヘルパーとしてのアデノウイルスに感染している。ヘルパーウイルスは、AAVベクターの複製、及びヘルパープラスミドからのAAV遺伝子の発現を促進する。ヘルパープラスミドは、ITR配列を欠いているため、有意な量ではパッケージングされない。アデノウイルスの混入は、例えば、AAVよりもアデノウイルスの感受性のほうが高い、熱処置によって低減することができる。一部の実施形態では、AAVは、バキュロウイルス発現系を使用して産生される(例えば、米国特許第6,723,551号及び同第7,271,002号を参照されたい)。
【0157】
293系またはバキュロウイルス系からのAAV粒子の精製は、一般的に、ウイルスを産生する細胞を増殖した後、細胞上清からウイルス粒子を収集するか、または細胞を溶解して粗溶解物からウイルスを収集することを含む。その後、イオン交換クロマトグラフィ(例えば、米国特許第7,419,817号及び同第6,989,264号を参照されたい)、イオン交換クロマトグラフィ及びCsCl密度遠心分離(例えばPCT公開第WO2011094198A10号)、免疫親和性クロマトグラフィ(例えばWO2016128408)、またはAVB Sepharose(例えばGE Healthcare Life Sciences)を使用した精製を含む、当技術分野で公知の方法によってAAVを精製する。
【0158】
多くの遺伝子療法用途において、遺伝子療法ベクターが特定の組織型に対して高い特異度で送達されることが望ましい。したがってウイルスベクターは、ウイルスの外表面上のウイルスコートタンパク質との融合タンパク質としてリガンドを発現することにより、所与の細胞型に対する特異性を有するように改変することができる。リガンドは、目的の細胞型に存在することが知られる受容体に対する親和性を有するように選択される。例えば、Han et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:9747-9751(1995)では、Moloneyマウス白血病ウイルスが、gp70に融合したヒトヘレグリンを発現するように改変され得ること、そしてこの組換えウイルスが、ヒト上皮増殖因子受容体を発現するある特定のヒト乳がん細胞に感染することが報告された。この原理は、標的細胞が受容体を発現し、ウイルスが、細胞表面受容体に対するリガンドを含む融合タンパク質を発現する、他のウイルス-標的細胞対に拡大適用することができる。例えば、繊維状ファージを工学操作して、事実上全ての選択された細胞受容体に対して特異的結合親和性を有する抗体断片(例えば、FABまたはFv)を提示させることができる。上の記述は主にウイルスベクターに適用されるが、同じ原理を非ウイルスベクターに適用してもよい。このようなベクターは、特定の標的細胞による取り込みを優先する特異的取り込み配列を含むように工学操作することができる。
【0159】
遺伝子療法ベクターは、後述のように、一般的には全身投与(例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、または頭蓋内の注入)または局所適用により、個々の患者に投与することによって、インビボ送達することができる。代替的には、個々の患者から外植された細胞(例えば、リンパ球、骨髄吸引液、組織生検)またはユニバーサルドナーの造血幹細胞などの細胞にベクターをエクスビボで送達し、その後、通常はベクターを組み込んだ細胞の選択後に、患者に細胞を再移植してもよい。
【0160】
ヌクレアーゼ、ドナー構築物、及びヌクレアーゼとドナー構築物の組み合わせを含むベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、リポソームなど)は、インビボでの細胞の形質導入のために生物に直接投与することもできる。代替的には、ネイキッドDNAを投与してもよい。投与は、注射、注入、局所適用、及び電気穿孔を含むがこれらに限定されない、分子を導入して最終的には血液または組織細胞に接触させるために通常使用される経路のいずれかによる。このような核酸を投与する好適な方法は当業者にとって利用可能かつ周知であり、特定の組成物を投与するためには2つ以上の経路を使用してよいが、特定の1つの経路が別の経路よりも即時的かつ効果的な反応をもたらし得ることが多い。
【0161】
本明細書に記述されるポリヌクレオチド(例えば、ヌクレアーゼをコードするもの、二本鎖ドナー、及びヌクレアーゼをコードするものと二本鎖ドナーの組み合わせ)の導入に好適なベクターとしては、非組み込み型レンチウイルスベクター(IDLV)が挙げられる。例えば、Ory et al.(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:11382-11388、Dull et al.(1998)J.Virol.72:8463-8471、Zuffery et al.(1998)J.Virol.72:9873-9880、Follenzi et al.(2000)Nature Genetics 25:217-222、米国特許公開第2009/0117617号を参照されたい。
【0162】
薬学的に許容される担体は、部分的には、投与される特定の組成物によって、また、組成物を投与するために使用される特定の方法によって決定される。したがって、後述のように、利用可能な医薬組成物の好適な製剤は幅広く存在する(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,17th ed.,1989を参照されたい)。
【0163】
ヌクレアーゼコード配列及びドナー構築物が同じ系を使用して送達されても異なる系を使用して送達されてもよいことは明らかであろう。例えば、ヌクレアーゼ及びドナーは、同じDNA MCによって運搬されてよい。代替的には、ドナーポリヌクレオチドがMCによって運搬されてよい一方で、1つ以上のヌクレアーゼは標準的なプラスミドまたはAAVベクターによって運搬されてよい。さらに、異なるベクターを同じ経路によって投与しても、異なる経路(筋肉内注射、尾静脈注射、他の静脈内注射、腹腔内投与、または筋肉内注射)によって投与してもよい。ベクターは、同時に送達しても、任意の順番で送達してもよい。
【0164】
よって、本開示は、疾患のインビボまたはエクスビボ処置、及び治療用タンパク質をコードする導入遺伝子の挿入に適した条件を含む。組成物は、血清または標的の臓器もしくは細胞における治療用ポリペプチドの所望の濃度を得るのに効果的な量でヒト患者に投与される。投与は、ポリヌクレオチドを所望の標的細胞に送達する任意の手段によるものであり得る。例えば、インビボ及びエクスビボ両方の方法が想定される。門脈への静脈内注射は好ましい投与方法である。他のインビボの投与モードとしては、例えば、肝葉または胆管葉への直接注射及び肝臓遠位への静脈内注射が挙げられ、これには、肝動脈を通したもの、肝実質への直接注射、肝動脈を介した注射、及び胆樹を通した逆行性注射が含まれる。エクスビボの投与モードは、切除した肝実質細胞または肝臓の他の細胞の形質導入をインビトロで行ってから、形質導入後の切除した肝実質細胞をヒト患者の門脈の脈管構造、肝実質、または胆樹に注入し戻すことを含む。例えば、Grossman et al.,(1994)Nature Genetics,6:335-341を参照されたい。
【0165】
投与されるヌクレアーゼ(複数可)及びドナーの有効量は、患者毎に、また目的の治療用ポリペプチドによって異なる。したがって、有効量は、組成物を投与する医師によって決定されるのが最もよく、適切な投与量は、当業者によって容易に決定され得る。組み込み及び発現に十分な時間(一般的には例えば4~15日間)をおいた後、治療用ポリペプチドの血清または他の組織中レベルを解析し、投与前の初期レベルと比較することにより、投与される量が低すぎるか、適正範囲内であるか、または高すぎるかが判定される。初回投与及び後続投与の好適なレジメンも様々であるが、初回投与後に必要に応じて後続投与を行うのが典型的である。後続投与は、毎日から毎年や数年毎へと多岐にわたる様々な間隔で投与され得る。当業者であれば、送達ベクターの免疫抑制による形質導入の阻害または遮断を回避するために適切な免疫抑制技術が推奨され得ることを察知するであろう。例えば、Vilquin et al.,(1995)Human Gene Ther.,6:1391-1401を参照されたい。
【0166】
エクスビボ及びインビボの両方で投与される製剤は、液状懸濁液または乳化液を含む。活性成分は、多くの場合、薬学的に許容され活性成分と適合する賦形剤と混合される。好適な賦形剤としては、例えば、水、食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、及びこれらの組み合わせが挙げられる。加えて、組成物は、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝剤、安定剤、または医薬組成物の有効性を向上させる他の試薬など、微量の補助物質を含み得る。
【0167】
細胞
本明細書には、本明細書(表1)に記述されるヌクレアーゼによって内在性BCL11Aエンハンサー配列が改変された細胞及び細胞株も記述される。この改変は例えば、細胞の野生型配列と比較したものであり得る。これらの細胞または細胞株は、改変に対してヘテロ接合性であってもホモ接合性であってもよい。BCL11A配列への改変は、インデルを含み得る。
【0168】
改変は、好ましくは、ヌクレアーゼ(複数可)の結合部位(複数可)、切断部位(複数可)、及び結合部位(複数可)と切断部位(複数可)の組み合わせにおけるものか、またはその付近、例えば、切断部位(複数可)から1~300個以内(またはこの間の任意の値)の塩基対、より好ましくは、結合部位(複数可)、切断部位(複数可)、または結合部位(複数可)及び切断部位(複数可)の片側から1~100個以内(またはこの間の任意の値)の塩基対、さらにより好ましくは、結合部位(複数可)、切断部位(複数可)、または結合部位(複数可)及び切断部位(複数可)の片側から1~50個以内(またはこの間の任意の値)の塩基対だけ、上流もしくは下流にある。ある特定の実施形態では、改変は、BCL11Aエンハンサーの「+58」領域またはその付近、例えば、表1の第1の縦列のいずれかに示されるヌクレアーゼ結合部位またはその付近にある。
【0169】
任意の細胞または細胞株、例えば幹細胞、例えば胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、及び間葉系幹細胞が改変され得る。本明細書に記述される細胞の他の非限定的な例としては、T細胞(例えば、CD4+、CD3+、CD8+など)、樹状細胞、B細胞が挙げられる。部分的または完全に分化した細胞を含む、幹細胞の子孫(例えば、RBCまたはRBC前駆体細胞)も提供される。改変されたBCL11A配列を含む他の細胞株の非限定的な例としては、COS、CHO(例えば、CHO-S、CHO-K1、CHO-DG44、CHO-DUXB11、CHO-DUKX、CHOK1SV)、VERO、MDCK、WI38、V79、B14AF28-G3、BHK、HaK、NS0、SP2/0-Ag14、HeLa、HEK293(例えば、HEK293-F、HEK293-H、HEK293-T)、及びperC6細胞、ならびにSpodopterafugiperda(Sf)などの昆虫細胞、またはSaccharomyces、Pichia及びSchizosaccharomycesなどの真菌細胞が挙げられる。
【0170】
本明細書に記述される細胞は、例えばエクスビボ療法により、障害を処置または防止するのに有用である。ヌクレアーゼ改変細胞は、標準的な技術を使用して拡大し、患者に再導入することができる。例えば、Tebas et al.(2014)New Eng J Med 370(10):901を参照されたい。幹細胞の場合、対象に注入した後、これらの前駆体の、機能的な導入遺伝子を発現する細胞へのインビボでの分化も起こる。本明細書に記述される細胞を含む医薬組成物も提供される。加えて、これらの細胞は、患者への投与前に凍結保存してもよい。
【0171】
本明細書に開示される改変細胞または細胞株のいずれも、ガンマグロビンの発現増大を示し得る。本明細書に記述される遺伝子改変細胞を含む医薬組成物などの組成物も提供される。
【0172】
用途
本明細書に開示される方法及び組成物は、タンパク質の発現を改変するためのもの、または鎌状赤血球症もしくはサラセミアなどの遺伝性疾患において発現するタンパク質をコードする異常な遺伝子配列を補正するためのものである。よって、本方法及び組成物は、このような遺伝性疾患を処置または防止する。例えば幹細胞のゲノム編集を使用すると、異常な遺伝子を補正したり、野生型遺伝子を挿入したり、または内在性遺伝子の発現を変化させたりすることができる。非限定的な例として、例えば少なくとも1つのグロビン(例えば、αグロビン、γグロビン、βグロビン、及びこれらの組み合わせ)をコードする野生型遺伝子を細胞に挿入して(例えば、本明細書に記述される1つ以上のヌクレアーゼを使用して内在性BCL11Aエンハンサー配列に挿入して)、細胞内で欠損または欠如しているグロビンタンパク質を提供することにより、遺伝性疾患、例えば、不完全なグロビン発現により引き起こされる異常ヘモグロビン症を処置することができる。代替的に、または加えて、適切なドナーの投与ありまたはなしのゲノム編集は、不完全な内在性遺伝子の補正、例えば、αヘモグロビンまたはβヘモグロビンの点突然変異の補正により、遺伝子の発現を回復させたり、遺伝性疾患、例えば鎌状赤血球症を処置したり、任意の直接的もしくは間接的なグロビン調節遺伝子のノックアウトまたは変化(過剰発現または抑制)(例えば、γグロビン調節遺伝子BCL11AまたはBCL11A調節因子KLF1の不活性化)を行ったりすることができる。具体的に述べると、本発明の方法及び組成物は、異常ヘモグロビン症の処置または防止に役立つ。
【0173】
本発明のヌクレアーゼは、赤血球生成中のBCL11Aの発現、ひいてはガンマグロビン発現の下方調節に必要であることが知られる、BCL11Aエンハンサー領域を標的とする。このエンハンサー領域の改変は、ガンマグロビン発現が増大した赤血球をもたらし得、よって鎌状赤血球症またはベータサラセミアの処置または防止に役立ち得る。
【0174】
以下の実施例は、ヌクレアーゼがジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を含む、本開示の例示的な実施形態に関する。これは例示のみを目的とするものであり、他のヌクレアーゼ、例えば、TtAgo系及びCRISPR/Cas系、工学操作されたDNA結合ドメインを有するホーミングエンドヌクレアーゼ(メガヌクレアーゼ)、ホーミングエンドヌクレアーゼ(メガヌクレアーゼ)DNA結合ドメインの天然に存在するものまたは工学操作されたものの融合物(工学操作されたDNA結合ドメインを有するホーミングエンドヌクレアーゼ(メガヌクレアーゼ)の組み合わせ、及びホーミングエンドヌクレアーゼ(メガヌクレアーゼ)DNA結合ドメインの天然に存在するものまたは工学操作されたものの融合物を含む)、ならびに異種切断ドメイン、メガヌクレアーゼとTALEタンパク質の融合物(異種切断ドメインの組み合わせ、及びメガヌクレアーゼとTALEタンパク質の融合物を含む)を使用してよいことは察知されよう。
【実施例
【0175】
実施例1:ジンクフィンガーヌクレアーゼのアセンブリ
ZFNをヒトBCL11A遺伝子に対してアセンブルし、後述のトランスフェクト細胞から単離したDNAのディープシーケンシング解析によって活性を試験した。記述したように、エンハンサー領域の+58領域に対して特異的なZFNを作った。ZFN対の51857/51949については以前に記述されている(WO2016/183298を参照されたい)。
【0176】
実施例2:オフターゲット解析
ZFN対によるオフターゲット切断を解析するため、2段階の無作為な特異性解析を行った。第1段階(図1)では、Tsai et al.((2015),Nat Biotechnol 33(2):187-197.doi:10.1038/nbt.3117)により記述されたものと同様の手順を使用したオリゴヌクレオチド二重鎖組み込み部位アッセイにより、各ZFNについて候補オフターゲット部位を特定した。
【0177】
オリゴヌクレオチド二重鎖組み込み部位アッセイは、ヌクレアーゼと二重鎖DNAの短いセグメントとを標的細胞に共導入すると、NHEJ DNA修復経路によるゲノム切断事象の画分の修復中に二重鎖の組み込みが起こる(Orlando et al.,(2010),Nucleic Acids Res,38(15)e152.doi:10.1093/nar/gkq512、Gabriel et al.,(2011),Nat Biotechnol.2011 Aug 7;29(9):816-23.doi:10.1038/nbt.1948、Tsai et al.,ibid)という観察に基づいている。組み込まれると、二重鎖は、切断事象の恒久的なタグとなる。その後、せん断されたゲノムDNAにオリゴヌクレオチドアダプターをライゲーションしてから、25サイクルのネステッドPCRを2ラウンド行い、結果として生じるドナーとゲノムの接合部のディープシーケンシングを行うことにより、組み込み部位を特定する。このアッセイにより、ゲノム内の全ての潜在的な組み込み部位の評価が可能になる。
【0178】
組み込み部位アッセイは、ドナーの送達、ZFNの発現、及びドナーの組み込みを最大にするため、K562細胞において行った。さらに、K562細胞は急速に分裂するため(倍加時間およそ24時間)、細胞標的を切断するZFNの能力にK562細胞が課すエピジェネティックな制限は最小限であると予想される。Amaxaシャトル及びZFNの最大のオンターゲット活性のために最適化された設定を使用して、0.47μgのオリゴヌクレオチド二重鎖ドナー及び400ngの各ZFNコードmRNAを電気穿孔により細胞(2×10)に導入した。オリゴ及びmRNAの各組み合わせにつき4つの複製試料を調製した。トランスフェクション後7日目に、各試料でゲノムDNAを単離し(Qiagen DNeasy Blood and Tissue Kit)、400ng(133000個のハプロイドゲノム)を図1に概説した増幅プロトコールのインプットとして使用した。その後、試料を本質的に記述されているとおりに(Tsai et al.ibid)処理した。最終産物をプールし、数量化し、ペアエンドの150bpリード及び8bp/16bpデュアルインデックスリードを用い、MiSeq Instrument(Illumina)のv2 300サイクルシーケンシングキットを使用したシーケンシングを行って、アンプリコンの各末端の試料バーコードを検出した。
【0179】
候補オフターゲット部位のリストを作製するため、シーケンシングデータを正しいプライミング配列についてフィルタリングし、続いてアダプター配列のトリミング及びゲノムへのマッピングを行った。次に、接合部の座標をマッピングし、二重鎖-ゲノム接合部、ならびにDNAせん断により生じた切断の位置を使用して、明確な組み込み事象を特定した。その後、組み込み事象を処理して、ゲノムに近接した組み込みのクラスターを特定した(互いから100bp以内に最低4つの明確な組み込み事象。全複製物で合計した)。hg38アセンブリにおいてマッピング不可能であったコンティグ(すなわち、hg38のchrUn)に存在するクラスターは、さらなる解析から除外した。反復した遺伝子座にマッピングするクラスター(クラスター内の全ての配列でゲノムに対する3つ以上のヒットの中央値)は増幅アーティファクトであることが過去の経験から示されているため、これらも除外した。残りのクラスターは、それらが(合計4つのうち)少なくとも2つの複製ZFN処置試料に由来し、かつ対照に対してZFN処置試料中で≧5倍過剰の組み込み事象を呈した場合、候補ZFN切断部位としてスコアリングした。ZFN処置試料中の独特の組み込みの総数によって候補切断部位をランク付けした。ZFN対の51857/51949について、この解析によって特定された候補遺伝子座を図2に提供する。これは組み込み体の計数によってランク付けしてある。
【0180】
実施例3:ZFNの最適化
オフターゲット切断を減少させるため、非特異的なリン酸の接触を選択的に除去してオフターゲット切断の大域的な抑制をもたらすヌクレアーゼ最適化のための方策(Guilinger et al.(2014)Nat Methods.11(4):429-35.doi:10.1038/nmeth.2845、Kleinstiver et al.(2016)Nature 529(7587):490-5.doi:10.1038/nature16526、Slaymaker et al.(2016)Science)351(6268):84-8.doi:10.1126/science.aad5227)を採用した(米国仮出願第62/443,981号及び同第62/378,978号を参照されたい)。DNAのリン酸骨格と相互作用するジンクフィンガーフレームワーク内の主要な位置(Pavletich and Pabo,(1991)Science 252(5007):809-17、Elrod-Erickson et al.(1996)Structure 4(10):1171-80)(図3A~3B)、ならびに同じくリン酸と接触することが予測される右側ZFNのFokIドメイン内の単一の位置(図3C)においてアミノ酸置換を行った。
【0181】
特異性は、2つの分離したmRNAから各ZFNを独立して発現させることによってさらに改善した。これにより、送達比の最適化が可能になる。これらの取り組みにより、原型のZFN対との関連性が高く、DNAリン酸骨格との相互作用のエネルギーを減少させるが配列特異的な塩基の認識への影響は最小限または皆無である置換によって異なる、最適化されたZFN対が得られた。これと一貫して、原型の51857/51949対については、組み込み部位アッセイにより、ZFN切断の潜在的な標的となる455個の遺伝子座が得られた。最適化された対に関しては、この解析によるさらなる検査対象となるZFN切断の潜在的な標的として大幅に少ない数の遺伝子座が特定された(合計72個)。両方の対において、BCL11Aエンハンサー内の意図される標的がトップランクの遺伝子座であった。さらに、最適化された対のBCL11Aエンハンサーにおいて大幅に高い割合の組み込み事象が認められ、その高い特異性と一貫性があった。
【0182】
重要な点として、配列データ処理のパイプラインを定義するにあたり、候補オフターゲット遺伝子座をフィルタリングして除外するのではなく、それらを可能な限り多く含めるよう、主要なパラメータを慎重すぎるほど保守的に選択したことを注記する。これを行ったのは、偽陽性となるほど大幅に大きな数を許容することと引き換えにしても、最適化されたZFNの本物の切断部位を表し得るあらゆる遺伝子座が特定され、インデルの追跡研究において試験されることを確実にするためである。解析の第1段階では、各ZFN対で大きな候補遺伝子座のセットが得られ、このうち大部分が(特に最適化されたZFNに関しては)真のオフターゲット切断部位を表さず、むしろインデルの追跡研究において切断に対して陰性であることを証明するバックグラウンド事象を表すことが予想された。
【0183】
解析の第2段階では、組み込み部位アッセイによって特定された候補オフターゲット遺伝子座を、ZFNで処置したCD34+HSPCにおける改変の証拠(例えば、インデルの存在)についてスクリーニングした。
【0184】
特に、RNAトランスフェクションのための臨床スケール及び臨床条件(原型のZFN対では120μg/mLのmRNA、及び最適化された対では100μg/mLのmRNA)を使用して、動員された末梢血に由来するヒトCD34+HSPCを原型のZFN対及び最適化されたZFN対で処置した。ゲノムDNAをトランスフェクション2日後に単離した後、候補オフターゲット遺伝子座のPCR増幅及びディープシーケンシングを行って、インデルのレベルを数量化した。このステップで、原型のZFN対及び最適化されたZFN対の両方に関し、同じ137個の候補オフターゲット遺伝子座のセットを、原型のZFNを用いた先行研究において他の方法によって特定されたより少ない数の候補オフターゲット部位と併せてスクリーニングした。
【0185】
結果は、最適化されたZFNが原型の対よりも著しく特異的であることを示した。これは、ZFN切断の証拠に関するスコアが正であった遺伝子座の数(最適化された対で3に対して原型の対で52)からはもちろん、最適化された対では大幅に低かった観察されたインデルのレベルからも明らかである。図4は、この研究でZFN切断の証拠を呈した全ての遺伝子座におけるインデル値のプロットを示す(y軸の対数スケールに留意されたい)。このような遺伝子座の全てにおけるオフターゲットインデルの凝集は、オフターゲット活性の300分の1への低減を示す(原型の対の凝集したオフターゲットインデルが46.5%であるのに対して、最適化された対のオフターゲットインデルは0.15%)。このオフターゲット活性の低減は、意図される標的部位における活性の損失なしに達成された(最適化されたZFNの81.9%に対して原型の対のインデルは72.5%)。これらの研究において、原型の対(または親の対)は51857/51949であり、最適化されたZFN対は63014/65722であった(以下参照)。
【0186】
ヌクレアーゼのデザインを以下の表1に示す。
【表1】
【0187】
表1は、各ZFNに関する特性評価情報を示す。左から始めて、SBS番号(例えば51857)が表示されており、SBS番号の下にはZFNが結合するDNA標的が表示さ
れている。次に、フィンガー1~6または1~5のアミノ酸認識ヘリックスデザインが示されている(表1の細分された縦列2)。また、表1の適切なヘリックスデザインの下には、米国仮特許出願第62/378,978号及び同第62/443,981号に記述されているような、示されたフィンガーのZFP骨格配列に対して作られた突然変異が示されている。表1で使用される表記において、「Qm5」は、示されたフィンガーの-5位(-1から+6の番号が付いたヘリックスに対する)において、この位置のアルギニンがグルタミン(Q)で置き換えられていることを意味し、「Qm14」は、-14位に通常存在するアルギニン(R)がグルタミン(Q)で置き換えられていることを意味する。「なし」は、認識ヘリックス領域外に変化がないことを示す。よって、例えば、SBS番号63014はフィンガー1、3、及び5にQm5突然変異を含むが、フィンガー2、4、及び6はジンクフィンガー骨格(例えば、認識ヘリックス領域外のジンクフィンガー配列)への突然変異を有しない。
【0188】
最後に、表1の最右列は、DNA結合ドメインをFokI切断ドメインに連結するために使用されたリンカーを示し(例えば、この縦列の一番上のラインには、例えば米国特許第9,567,609号に記述されている「L7c5」(LRGSISRARPLNPHP(配列番号5)が表示されている)、リンカーの呼称の下の四角内には、FokIリン酸接触突然変異及び二量体化突然変異の部位が示されている。詳細に述べると、Fok突然変異体の四角の一番上のラインには、二量体化ドメインに見られる突然変異の種類(例えばELDまたはKKR。これらは例えば米国特許第8,962,281号に記述されている)が示されている。二量体化突然変異体の呼称の下には、非特異的なリン酸接触を除去するために作られたFokIドメイン内に存在する突然変異がある場合は、それが下に示されている(例えば、米国仮特許出願第62/378,978号及び同第62/443,981号に記述されているように、アミノ酸525位または416位のセリン残基が、それぞれ、リジンまたはアルギニンのいずれかに置換されている、K525SまたはR416S)。よって、例えば、SBS番号63014において、リンカーはL7c5リンカーであり、FokI切断ドメインはELD二量体化突然変異体を含み、リン酸接触突然変異を含まない。さらに、SBS番号65722については、リンカーはL0リンカー(LRGSQLVKS(配列番号6)、別称「標準的」リンカー、米国特許第9,567,609号参照)であり、FokI切断ドメインは、KKRの二量体化突然変異及びK525SのFokIリン酸接触突然変異を含む。
【0189】
全てのZFNを機能性(以下の実施例4に記述するように、インデルについてアッセイすることにより決定される切断活性)について試験したところ、活性があることが分かった。
【0190】
さらに、どのZFNデザインに最も高い特異性があったかを判定するために、ZFN処置したCD34+HSPCにおいて、原型のZFN対によるオフターゲット切断が既知である部位のインデル解析を行った。これを達成するために、臨床条件及びmRNA濃度(原型のZFN対では120μg/mL、及び最適化された対では100μg/mL)を使用して、動員された末梢血に由来するヒトCD34+HSPCを原型のZFN対及び最適化されたZFN対で処置した。これらの細胞及び未処置対照からゲノムDNAをトランスフェクション2日後に単離した後、各候補遺伝子座のPCR増幅及びディープシーケンシングを行って、インデルのレベルを数量化した。
【0191】
Illumina MiSeqで300サイクルカートリッジを使用したペアエンドディープシーケンシングにより、各遺伝子座における改変レベルを判定した。対になった配列をマージし、全塩基にわたり≧15のクオリティスコアでフィルタリングしたSeqPrepによってアダプタートリミングを行い、その後ヒトゲノムにマッピングした(hg38アセンブリ)。誤った遺伝子座にマッピングされた配列は切り捨てた。野生型アンプリコンよりも>70bpまたは>70%短い配列は、プライマー二量体産物を最小限に抑えるために除外した。標的アンプリコンと各MiSeqリードとのNeedleman-Wunschアライメント(Needleman and Wunsch,(1970),J Mol Biol 48(3):443-53))を行って、インデルをマッピングした。アライメントした配列におけるインデルは、本当の事象を実際より少なく計数することを避けるために長さ1bpのインデルも許容したことを除いては、Gabriel et al.2011(ibid)に記述されているように定義した。なお、遺伝子座の一部は、増幅しもシーケンシングされもしなかったか、または、高いバックグラウンド(対照試料において>1%の改変)もしくは不十分なシーケンシング深度(<10000リード)を理由に解析から棄却した。この解析の結果及び「親」の51857/51949のZFN対との比較を以下の表2に提供する。
【表2】
【0192】
実施例4:ヒトCD34+細胞におけるZFNの活性
インビトロ試験では、CD34+細胞内でヌクレアーゼを試験した。ZFNはmRNAとして供給し、このmRNAは次のようにインビトロで作った:ZFNをコードする遺伝子を含むプラスミドを直線化し、mMessage mMachine(登録商標)T7 Ultra Kit(Ambion/Applied Biosystems)を使用したインビトロmRNA転写のために使用する。その後、RNeasy(登録商標)ミニキット(Qiagen)を使用してこのmRNAを精製した。
【0193】
動員された末梢血からCD34+細胞を単離し、ペニシリン、ストレプトマイシン、及びグルタミンならびにStemSpan CC110を補充したX-VIVO 10培地中で維持し、37℃及び5%CO2でインキュベートした。単離または解凍の48時間後に細胞のトランスフェクションを行った。少量のアリコートをPBS(Corning)中でトリパンブルー溶液0.4%(w/v)と1:1で混合し、TC20 Automated Cell Counter(Bio-Rad)で細胞数を決定した。
【0194】
大規模なトランスフェクションでは、MaxCyte Electroporation Buffer(Maxcyte)で細胞を洗浄し、1mLあたり3~5e7細胞で100μLの電気穿孔緩衝液中に再懸濁した。典型的に、60μg/mL~120μg/mLのmRNA濃度を使用して候補ZFNセットをスクリーニングした。その後、増殖培地中1mLあたり3e6細胞で、30℃で18時間にわたって細胞を増殖させてから、37℃でさらに24時間かけて1mLあたり1e6細胞に希釈する。切断活性の決定のために、トランスフェクション2~3日後にゲノムDNAを単離し、BCL11Aエンハンサー遺伝子座における遺伝子改変のレベルをMiSeqシーケンサー(Illumina)でのディープシーケンシングによって測定した。
【0195】
表1のZFN対をCD34+細胞において試験した。活性の結果を以下の表3に示す。
【表3】
【0196】
赤血球系分化前のCD34+細胞におけるヌクレアーゼ活性を解析することに加えて、編集された細胞もインビトロで赤血球系細胞に分化させた。従ったプロトコールは、Giarratana et al.,((2011)Blood 120(15):2945-53)に基づくものであった。簡潔に述べると、以下のプロトコールに従った。
【0197】
0日目~7日目:4×10個のCD34+細胞を、分化培地(EDM)(イスコフ改変ダルベッコ培地[IMDM]、330μg/mLのトランスフェリン、10μg/mLのヒトインスリン、2U/mLのヘパリンナトリウム、5%のヒトAB+血漿)中2×104/mLの密度で、10-6Mのヒドロコルチゾン、100ng/mLの幹細胞因子(SCF)、5ng/mLのIL3、及び3IU/mLのエリスロポエチン(EPO)の存在下で培養した。
【0198】
4日目:SCF、IL-3、EPO、及びヒドロコルチゾンを含む新鮮なEDM中に細胞を再懸濁した。
【0199】
7日目~11日目:SCF及びEPOを補充した新鮮なEDM 1mLあたり細胞1.5×10個の密度で細胞を再懸濁した。
【0200】
11日目~21日目:11日目に、EPOを補充した新鮮なEDM中1×10/mLで細胞を再播種した。その後14日目に、この同じ培地中に5×10/mLで細胞を再播種した。増殖はこの14日目~18日目の期間中に定常に達し、このとき細胞生存率が21日目の培養終了まで低下し始めた。
【0201】
Nexcelom Bioscience Cellometer K2を使用して、蛍光チャネル1(AO)を700ミリ秒に設定し、蛍光チャネル2(PI)を5000ミリ秒に設定したAOPI Erythroid Assayモードを用い、アクリジンオレンジ陽性及びヨウ化プロピジウム排除(AOPI)を測定することにより、播種時及び分化過程における細胞数を計測した。
【0202】
以下のプロトコールを使用して、除核細胞の百分率を分化21日目に判定した。除核率は、トランスフェクトしなかった対照と、ZFNトランスフェクト試料との間で比較可能であり、これらの2つの群による百分率は59~63%であった。
1.細胞計数
2.100,000細胞、450xg、5分、室温でスピンダウン。
3.50μLのPBS-BSA+1μLのGlyA-FITC(DAKO)に再懸濁。
4.冷蔵庫で15分間染色。
5.1mLのPBS-BSAを添加、ボルテックス、スピンダウン。
6.250μLのPBS-BSA-NucRed(1mLあたり2滴のNucRed)中に再懸濁。
7.NucRed用APCチャネルを使用してFACS Cantoで獲得。
8.有核の赤血球系細胞はGlyA陽性NucRed陰性/低画分に入り、赤芽球は二重GlyA-NucRed陽性画分に入る。
【0203】
a)電気穿孔の48時間後、b)細胞解凍日のインビトロ分化が開始されたとき、及びc)インビトロの赤血球系分化の14日目に採取されたDNA試料において、BCL11A遺伝子改変をMiSeqディープシーケンシングによって測定した。分化は21日間にわたって行ったが、14日時点は、DNA回収の損失をもたらす赤血球系細胞の大部分の除核前であるため、これをDNA解析のために選択した。観察されたBCL11Aエンハンサーにおける改変の百分率をトランスフェクション条件の詳細と共に表4に列記する。
【表4】
【0204】
これらのデータは、最適化された対63014及び65722のmRNAをCD34+細胞にトランスフェクトすると、BCL11Aエンハンサー標的部位において非常に効率的な遺伝子改変が生じること(>75%の対立遺伝子の改変)、また、この改変が細胞の冷凍及び解凍後ならびに赤血球系分化後に非常に良好に維持されること(改変の>90%の保持)を示す。
【0205】
ZFN対63014/65722をさらなる解析のために選択した。これらのZFNのアミノ酸配列を以下に示す。これらは各々、核局在化シグナル(NLS、Kalderon et al.(1984)Cell 39(3 Pt 2):499-509)、及びオンターゲットZFN活性を向上させる親水性ペプチド(Hopp et al.(1988)Nat Biotechnol 6:1204-10)を含み、これらはいずれもN末端コード配列に融合している。よって、ZFNのmRNA及びアミノ酸配列は次のとおりである。
【0206】
63014のmRNA(1725nt)
【化2】
【0207】
63014のアミノ酸配列(認識ヘリックス領域には下線が引かれ、リンカーは大文字のイタリック体で示され、フィンガー1、3、及び5の骨格残基に対する突然変異は二重線で示され、二量体化ドメイン突然変異(ELD)は太字及びイタリック体で示され、親水性ペプチドは小文字で示され、核局在化シグナル(NLS)は小文字のイタリック体で示されている):
【化3】
【0208】
65722のmRNA(1680ヌクレオチド):
【化4】
【0209】
65722のアミノ酸配列(認識ヘリックス領域には下線が引かれ、リンカーは大文字のイタリック体で示され、親水性ペプチドは小文字であり、ヌクレアーゼ局在化シグナルは小文字のイタリック体であり、フィンガー1、2、及び4の骨格残基に対する突然変異は二重線で示され、二量体化ドメイン突然変異(ELD)は太字及びイタリック体で示され、FokIリン酸接触突然変異(複数可)は波線で示されている):
【化5】
【0210】
実施例5:赤血球系後代におけるグロビンレベルの鑑定
上記の表4に示した2つの細胞調製物について、分化の14日目(除核及び赤血球系の成熟化の過程において全体的なmRNAレベルが劇的に低下する前)に単離した細胞mRNAにおけるαグロビン、βグロビン、及びγグロビンのmRNAのレベルを、RT-qPCRにより判定した。γグロビンmRNA値は、同じ試料から得たβグロビンmRNAに対して(図5A)、またはαグロビンmRNA値に対して(図5B)、正規化して示してある(1として定義されるトランスフェクションなしのRT-PCR標準における比に基づく任意単位を使用している)。
【0211】
BCL11A赤血球系エンハンサーのZFN媒介性改変が胎児ヘモグロビンをタンパク質レベルで上昇させるかを判定するために、赤血球系分化のエンドポイントである21日目に単離したタンパク質試料の逆相HPLCを使用した。ガンマグロビン(Aガンマ及びGガンマのピークの和)対アルファグロビンの比、ならびにガンマグロビン(Aガンマ及びGガンマのピークの和)対ベータ様グロビンの比(Aガンマ、Gガンマ、ベータ及びデルタの各グロビンのピークの和)を判定した。これらを図6に示す。
【0212】
この実験では、HSPCの赤血球系後代において、BCL11Aエンハンサーが63014/65722によって破壊されると、胎児グロビンタンパク質の百分率が約15%~20%のレベルまでおよそ3~4倍上昇したことが観察された。
【0213】
実施例6:編集された細胞のNSGマウスにおける生着
編集されたヒトCD34+細胞を次いでNSGマウスに注射し、生着を鑑定した。移植後第8週、及び第12週、第16週及び第20週時点で収集した末梢血、ならびに第12週及び第20週時点で収集した骨髄において、蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)を使用し、ヒトキメリズムの程度(すなわち、ヒトCD45+細胞の百分率)を測定した。加えて、ZFN改変細胞の生着のレベルを試験するため、ZFN標的遺伝子座の直接ハイスループットシーケンシングにより、BCL11Aエンハンサー遺伝子座における遺伝子破壊のレベルを評価し、インプット材料中で測定された標的遺伝子改変のレベルと比較した。
【0214】
2名の健常なドナー(PB-MR-003及びPB-MR-004と呼ぶ)由来のHSPCをG-SCF及びプレリキサホルで動員し、Yannaki et al.((2012)Mol Ther 20(1):230-8.doi:10.1038/mt.2011)に記述されているように精製した。Fresenius-Kabi Lovoデバイスを使用して白血球アフェレーシス産物の血小板を枯渇させてから、Miltenyi Biotech CliniMACS Plus機器を使用してCD34+細胞を濃縮した。その後、精製された細胞をトランスフェクションのために培養物に播種した。
【0215】
CD34+細胞精製の2日後、Maxcyte機器を使用し、親のZFN対である63014/65722をコードする、120μg/mLの単一のmRNAか、または最適化されたZFN対である80μg/mLの63014及び20μg/mLの65722をコードする、最適化された量の2つの別個のmRNAのいずれかの存在下で、これらの細胞を電気穿孔した。トランスフェクションの前に、細胞のアリコートをトランスフェクトしない対照として取っておいた。PB-MR-003からは9500万個の細胞をトランスフェクトし、PB-MR-004からは1億2000万個の細胞をトランスフェクトした。
【0216】
電気穿孔後、一過性の一晩培養を30℃で行ってから、細胞を37℃でさらに24時間培養した。電気穿孔の2日後、DNA解析のための細胞アリコートを取り、残りの細胞を採取し、凍結保存し、液体窒素中に保管した。
【0217】
コンディショニング:照射の1~2日前にマウスを10mg/kg/日のバイトリル水で処置し、移植の16~24時間前に300RADを致死量以下で照射した。移植は尾静脈注射によって行った(以下参照)。その後、マウスに新鮮なバイトリル水を与えた。バイトリル水を1週間後に交換し、移植後14日目にバイトリル水の追加を中止した。
【0218】
移植:移植日に、X-Vivo 10/1%PSG+3サイトカインカクテル(組換えヒト幹細胞因子(SCF)、組換えヒトトロンボポエチン(TPO)、及び組換えヒトFlt-3リガンド(Flt-3L))を37℃で予熱し、新鮮なPBS/0.1% BSAを室温で調製する(滅菌/濾過する)。凍結保存した細胞を37℃で解凍し、ペレット化し、予熱したX-Vivo培地に再懸濁し、再度ペレット化し、PBS/0.1% BSAに再懸濁し、計数した。もう一度ペレット化した後、細胞ペレットをマウス1匹あたり550μLのPBS/0.1%BSA(細胞数に基づいて2×10^6細胞/mL)に再懸濁した。その後、細胞を室温でマウスの尾静脈に25ゲージ針で注射した。研究群を以下の表5に示す。
【表5】
【0219】
動物の全体的な健康を毎日観察し、初めの2週間は毎日体重を量り、その後は隔週で体重を量った。移植後第8週、第12週、第16週、及び第20週に顎下静脈から末梢血を収集したか(100μL)、または、殺処分した動物では移植後第12週及び第20週に心穿刺によって採血した(1mL)。各群の動物の半分(1群あたり5匹のマウス)を移植後第12週に安楽死させ、骨髄及び末端血液を解析のために収集した。各群の残りの動物(1群あたり5匹のマウス)は移植後第20週に殺処分した。
【0220】
採血、細胞採取、及び処理:末梢血を顎下静脈または心穿刺によってEDTA管に収集し、500xgで5分間遠心分離して血漿を除去した。リン酸緩衝食塩水(PBS)ウシ血清アルブミン(BSA)による洗浄及び遠心分離の後、10倍容量の溶血緩衝液をペレットに添加し、この混合物を37℃で15分間インキュベートし、再び遠心分離及び洗浄した。ペレット化した画分を1mLのPBS BSA中で再構築し、アリコートを取って1,000xgで5分間遠心分離し、結果として得られたペレットをジェノタイピングのために保存した。上清画分をFACS解析に利用した。
【0221】
ウシ胎仔血清(FCS)を含むイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)に骨髄、大腿骨、脛骨、及び骨盤骨を収集し、全骨髄をPBS BSA溶液に流し入れ、70μmのナイロンストレーナーを使用して濾過した。PBS BSAで容量を10mLに補整し、アリコートを細胞計数(Cellometer)に使用した。
【0222】
MiSeqディープシーケンシングを使用してZFN活性を解析した。簡潔に述べると、トランスフェクトしていない対照CD34+HSPCまたはエンハンサーを標的とするZFN mRNAをトランスフェクトしたCD34+HSPCのいずれかを注射したマウスのゲノムDNAを、注射後第8週及び第12週に得た血液試料または第12週の骨髄から単離した。目的の領域(BCL11A遺伝子座内のZFN結合部位を含むもの)をPCR増幅し、改変のレベルをIlluminaプラットフォーム(MiSeq)でのペアエンドディープシーケンシングによって判定した。
【0223】
Illumina MiSeqシーケンシングプラットフォームと適合するライブラリを作製するために、連続的PCRにおいて2セットの融合プライマーを使用して、アダプター、バーコード、及びフローセルバインダー(短いDNA配列)を標的特異的なアンプリコンに結合させた。マウスの血液及び骨髄試料中のヒトBCL11Aエンハンサー改変のMiSeqによる評価では、これらの試料中の標的DNAの量が低かったため、プロトコールを補整する必要があった。
【0224】
MiSeqアダプターPCRには、次のプライマー、
PRJIYLFN-f2:
ACA CGA CGC TCT TCC GAT CTN NNN AGT CCT CTT CTA CCC CAC CCA(配列番号32)及び
PRJIYLFN-r4:
GAC GTG TGC TCT TCC GAT CTC TAC TCT TAG ACA TAA CAC ACC AGG G(配列番号33)を使用した。
【0225】
解析のために、DNeasyによってマウス骨髄試料からDNAを単離し、各PCR反応でおよそ100ngのDNAを使用した。Tissue XSによってマウス血液試料からDNAを単離し、15μLの単離されたDNAのうち10μLを各反応で使用した。各MiSeq PCR反応には、DNAの他に、HotStar Taqミックス25μL(Qiagen)、上記のBCL11Aエンハンサープライマー各0.5μL(100nMの濃度で)、及び水を加えて、全反応物容量50μLとした。典型的なMiSeq PCR条件は、95℃で変性15分間、94℃で30秒、62℃で30秒、及び72℃で40秒を30サイクル、その後72℃で伸長10分間であった。MiSeq PCRの後、PCR産物を水で1:50~1:200に希釈したか、または出発細胞数が非常に低い試料では未希釈のままにした。バーコードPCRは、上述のように希釈したMiSeq PCR産物1μL、HotStar Taqミックス25μL、フォワードバーコードプライマー1μL、リバースバーコードプライマー1μL(いずれも10nMの濃度で)、及び水を用い、全反応物容量50μLで行った。バーコードPCR条件は、95℃で変性15分間、94℃で30秒、60℃で30秒、及び72℃で30秒を18サイクル、その後72℃で伸長10分間であった。バーコードPCR産物をプールし、Illumina MiSeqシーケンサーでシーケンシングした。結果は上記の表5に示してある。
【0226】
キメリズムのFACS解析及び細胞系統の決定。ヒトキメリズムの程度を鑑定するため、末梢血(生着後第8週、第12週、第16週、及び第20週)及び骨髄(生着後第12週及び第20週)における細胞の画分を、それぞれ、hCD45-APC Cy7(Biolegend)及びhCD45-BV510(BD Biosciences)の各抗体で染色し、FACS解析を行った。加えて、以下の表6に記載の特異的な抗体で骨髄細胞を染色することにより、造血性系統の解析を行った。
【表6】
【0227】
加えて、HSPC集団の精製及びソーティングを行うため、磁気細胞分離(MACS)を用いる濃縮/枯渇方策を使用した。骨髄細胞をまずCD19-ビオチン、CD3-ビオチン、B220-ビオチン、TER119-ビオチン、及びm-ckit-ビオチン(BD Biosciences)で染色してから、抗ビオチンビーズ(Miltenyi Biotec)と共にインキュベートした。MACSの磁場に置かれたLSカラム(Miltenyi Biotec)を使用し、陽性の画分及び枯渇した画分を分離した。分離後、陽性の画分はストレプトアビジン-APC、CD3-FITC、CD19-PE、CD45-BV510(BD Biosciences)で染色し、枯渇した画分はCD34-FITC(BD Biosciences)、Gly-A-PE(DAKO)、CD19-APC(BD)、Lin-APC(Biolegend)、ストレプトアビジン-APC、CD45-BV510、CD33-PE-CF594(BD)及びCD38-PECy-7(Biolegend)で染色した。
【0228】
トランスフェクトしていないHSPC及び63014/65722トランスフェクトHSPCを、上述の標準的手順を使用してNSGマウスに生着させた。FACSを使用してhCD45陽性細胞の割合を測定することにより、これらのマウスにおける生着後のヒトキメリズムの程度を鑑定した。
【0229】
図7は、移植後第8週及び第12週に収集した末梢血中のヒトCD45+細胞の百分率を示し、図8は、第12週に採取した骨髄中の百分率を示す。示されているように、この研究における生着レベルは、トランスフェクトしていない対照及び63014/65722トランスフェクトHSPCの生着後で比較可能なヒトキメリズムであった。複数の群に分配した60匹中3匹のマウスしかCD45+細胞を有せず、生着の失敗が示された。
【0230】
標準的手順を使用し、系統特異的な細胞表面マーカーを認識する抗体を用いた、第12週に得た骨髄細胞のFACS解析により、種々の造血細胞系統の再構築を試験した。図9に示されているように、注射後第12週の骨髄におけるヒト造血性系統を解析したもの全てに関し、BCL11A特異的ZFNコードmRNAで処置したCD34+細胞後代と、トランスフェクトしていない細胞のそれとの間で比較可能な提示が観察された。生着後第12週に殺処分したマウスの骨髄を単離し、示された系統マーカーを認識する抗体を使用したFACSにより、種々の造血系統の分布を解析した。全ての数字は、示された系統マーカーに対して陽性に染色する細胞の、ヒトCD45陽性細胞の百分率に対する比として示されている。ただし、図9Cの赤血球系マーカーCd71+(Ter119)を発現する細胞は例外とし、これは、赤血球系細胞がCD45陽性ではないことから、集団全体における陽性染色細胞の百分率として示されている。
【0231】
上述のMiSeqシーケンシングプラットフォームを使用したZFN標的領域のディープシーケンシングにより、BCL11A赤血球系エンハンサーにおける遺伝子改変のレベル(挿入及び欠失[インデル]を有する対立遺伝子の%)を鑑定した。図10には、第8週及び第12週の血液試料に関するデータが示され、図11には、第12週の骨髄試料、及び63014/65722処置細胞の第12週の骨髄細胞試料に由来するソーティングした系統に関するデータが示されている。比較のため、トランスフェクションの2日後に測定したインデルの百分率(表5に列記したとおり)も図10及び11のグラフに示してある。
【0232】
加えて、BCL11A赤血球系エンハンサーにおける遺伝子改変の良好な保持が、種々の時点及び種々の系統において、両方の63014/65722処置HSPCドナーセットで見られた。BCL11A依存性(B細胞、「CD19」;未分化前駆細胞、「CD38H」)及びBCL11A非依存性(骨髄系「CD33」)の両系統で比較可能な改変が観察された。インプット遺伝子改変レベルはPB-MR-004ドナー試料中よりもPB-MR-003ドナー試料中で高かったが、PB-MR-004由来細胞は、マウスにおいてPB-MR-003由来細胞よりも高い改変レベル、すなわち改変のより良好な保持を一貫して示す。
【0233】
全体として、マウスで観察されたBCL11A赤血球系エンハンサーにおける遺伝子改変の保持は、様々な遺伝子標的を標的とするいくつかのZFNを使用した過去のマウス実験で観察されたものと一貫性があった。
【0234】
さらに、ヒト赤血球系前駆細胞はマウスにおいて分化できないため、これらの細胞で起こったBCL11Aを標的とする遺伝子改変の量を判定するために、骨髄細胞をマウスから取り出し、インビトロで分化させた。これらの実験では、生着後第12週に殺処分したマウスから骨髄由来のヒト細胞を取り出し、上述のようにインビトロで分化させた。BCL11A標的遺伝子改変は、分化の14日目に細胞から単離したDNAのハイスループットMiseqシーケンシングにより測定した。
【0235】
赤血球系分化の14日目の改変レベルを示す改変データ(インデル)を図12に提示する。インビトロ分化の14日目におけるインデルの百分率は、1匹のマウスから単離された細胞から作製した培養物毎に著しく異なり、これらの条件下で得られるオリゴ細胞の拡大の性質を反映している。このデータは、63014/65722 ZFNにより媒介されるBCL11Aエンハンサー改変が赤血球系分化中に著しく変化しなかったことを示す。血液及び骨髄試料で観察されたのと同様に、PB-MR-004由来細胞の赤血球系後代試料は、PB-MR-003由来細胞の赤血球系後代よりも高い改変の平均レベルを示した。
【0236】
インビトロの赤血球系分化の14日目に細胞から単離したRNAのRT-PCR解析により、種々のグロビンmRNAの相対的なレベルを判定した。このデータを図13Aに示す。ここで、γグロビン対βグロビンmRNA及びγグロビン対αグロビンmRNAの相対的な比(図13B)は、各群で5つの赤血球系培養物について平均したものである。トランスフェクトしていない試料及び63014/65722処置試料の両方において、γグロビン対βグロビンまたはγグロビン対αグロビンのmRNA比は、同じ群の個々のマウスの赤血球系後代同士の間で大きく異なる。ドナーPB-MR-004由来の培養物は、ドナーPB-MR-003由来のものと比べて低い平均γグロビン比を示し、PB-MR-004由来試料でより良好な成熟化が観察されたことと一致している。しかしながら、このばらつきにもかかわらず、ZFN処置試料の平均は、それぞれに対応するトランスフェクトしていない試料と比較すると、γグロビンmRNAレベルの約1.5~2倍の上昇を示す。
【0237】
グロビンタンパク質レベルをHPLC解析によって鑑定した。図14は、分化の16日目に採取した試料のグロビンタンパク質の解析を示す。ガンマグロビン(Aガンマ及びGガンマのピークの和)対アルファグロビンの比、ならびにガンマグロビン(Aガンマ及びGガンマのピークの和)対ベータ様グロビンの比(Aガンマ、Gガンマ、ベータ及びデルタの各グロビンのピークの和)を判定した。各群の平均が各バーの上に示されている。PB-MR-003由来試料の不十分な赤血球系分化と一致して、このドナーに由来するトランスフェクトしていない細胞中のガンマグロビンレベルは非常に高く(約30%)、したがってZFN処置は、ガンマグロビンレベルの1.2倍の上昇しかもたらさなかった。PB-MR-004はトランスフェクションなしでより典型的なレベル(約9%)を示し、マウス継代の12週間後にガンマグロビンタンパク質レベルの約2倍の上昇を呈した。
【0238】
>8.6%のγグロビンを自然に有する患者は、γグロビンレベルが<8.6%の患者と比較して有利であると考えられている(Platt et al.(1994)N Engl J Med,330:1639-44)。実際、編集された細胞の生着によって非鎌状赤血球RBCのキメラの10~20%の百分率が達成されれば、臨床的改善につながり得る(Chang et al.(2017)Mol Ther Methods Clin Dev 4:137-148.doi 10.1016/j.omtm.2016.12.009)。よって、インビトロでの赤血球系分化プロセスを経る必要があるにもかかわらず、このキメラ細胞の百分率、及び検出されているγ-グロビンタンパク質のレベルは、治療効力を示している。
【0239】
本明細書で言及される特許、特許出願、及び公開文献は全て、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0240】
明確に理解できるように実例及び例により多少詳細に開示を行ったが、本開示の趣旨または範囲を逸脱することなく種々の変更及び改変が実施され得ることが当業者には明らかであろう。したがって、前出の記述及び例は限定的なものと解釈されるべきではない。
図1
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6
図7
図8
図9-1】
図9-2】
図9-3】
図9-4】
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
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